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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033468
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20240306BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20240306BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20240306BHJP
   C08K 5/1525 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L33/14
C08L51/04
C08K5/1525
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137055
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】396001175
【氏名又は名称】住化ポリカーボネート株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】河田 彰
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB062
4J002BB072
4J002BG072
4J002BN123
4J002BN143
4J002BN173
4J002BN223
4J002CD192
4J002CG001
4J002CG011
4J002EL056
4J002FD010
4J002FD070
4J002FD090
4J002FD170
4J002GL00
4J002GL01
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】平滑な金型を使用しても、耐衝撃性を損なうことなく、艶消し性と耐傷付き性の両方に優れる成形品を作製できるポリカーボネート樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリカーボネート樹脂(A)60~99.5質量%と、オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂(B)0.5~40質量%からなる樹脂組成物100質量部に対して、アクリル系コアシェルエラストマー(C)を0.1~20質量部、およびアルキルケテンダイマー(D)を0.03~4質量部含有することを特徴とする、艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)60~99.5質量%と、オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂(B)0.5~40質量%からなる樹脂組成物100質量部に対して、アクリル系コアシェルエラストマー(C)を0.1~20質量部、および、下記一般式:
【化1】
(一般式において、Rは炭素数14~16のアルキル基であり、2つのRは同一でも異なっていても良い。)
で表されるアルキルケテンダイマー(D)を0.03~4質量部含有することを特徴とする、艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項2】
共重合体樹脂(B)が、エチレングリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレングリシジル(メタ)アクリレート-ビニルアセテート共重合体、または、エチレングリシジル(メタ)アクリレート-メチルアクリレート共重合体である、請求項1に記載の艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項3】
共重合体樹脂(B)100質量%中、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有割合が4質量%以下、メチルアクリレートに由来する構成単位の含有割合が28質量%以下である請求項1に記載の艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
アクリル系コアシェルエラストマー(C)が、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、または、メチルメタアクリレート-ブタジエン共重合体である、請求項1に記載の艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物を含む、艶消し成形品。
【請求項6】
JIS Z 8741に準拠して、測定角60°で測定したグロスが50%以下で、ISO 179-2に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が30kJ/m以上である、請求項5記載の艶消し成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し性に優れたポリカーボネート樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂(PC)は、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れており、電気/電子、光学、建材、医療、食品、車両などの各分野において幅広く使用されている。一方、表面が鏡面の場合は光線の透過率は高くなるが、光源から正反射の方向位置では反射光が強くなりグレアを生じる場合がある。例えば、屋外用の建材などでは反射光が眩しくなり過ぎて、実用上の障害をもたらす場合があった。
【0003】
近年、自動車分野、家具、家電分野などで、高級感を出すために艶消し状の外観に対する需要が高まってきている。また、意匠面だけでなく、例えば自動車内装部品では計器周辺の成形品表面に光沢があると、反射光により計器が見えにくくなり、運転の妨げとなる懸念があるため、安全面からも艶消し状の外観が求められている。
【0004】
艶消し状の外観を得る方法として、エンボスロールによって表面に凹凸を形成させる方法や、射出成形用金型の内面に微細な凹凸を設ける方法が提案されている。しかし、鏡面成形品の成形に切り替える際に、ロールや金型の交換といった設備面の対応が必要となることから、全体としての生産効率が悪化するといった問題があった。塗装を施すことにより艶消し状の外観を得る方法も知られている。しかし、塗装の際に埃などが吸着しやすく、またコストが高くなるという問題があった。
【0005】
特許文献1には、樹脂自体を改質する技術として、熱可塑性樹脂に微粒子を分散させる方法が提案されている。しかし、艶消し性は得られるものの、機械的強度が低下するという問題があった。
【0006】
特許文献2には、樹脂に微粒子を分散した材料を表面層とし、これを基材と一体成形する方法が提案されている。しかし、追加の設備、例えば、押出成形であれば多層押出設備、射出成形であれば2色成形機や2色金型が必要となり、コストの上昇につながるという問題があった。また、近年は、艶消し性と共に、傷付きやすいPC樹脂表面の傷付き防止性をバランス良く奏する材料への期待も高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭63-137911号公報
【特許文献2】特開平3-58840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、平滑な金型を使用しても、耐衝撃性を損なうことなく、艶消し性と耐傷付き性の両方に優れる成形品を作製できるポリカーボネート樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリカーボネート樹脂に、オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂、アクリル系コアシェルエラストマー、および、特定のアルキルケテンダイマーを添加することで、耐衝撃性を損なうことなく、艶消し性と耐傷付き性の両方に優れた成形品を作製できるポリカーボネート樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明(1)は、ポリカーボネート樹脂(A)60~99.5質量%と、オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂(B)0.5~40質量%からなる樹脂組成物100質量部に対して、アクリル系コアシェルエラストマー(C)を0.1~20質量部、および下記一般式
【化1】
(一般式において、Rは炭素数14~16のアルキル基であり、2つのRは同一でも異なっていても良い。)
で表されるアルキルケテンダイマー(D)を0.03~4質量部含有することを特徴とする、艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0011】
本発明(2)は、共重合体樹脂(B)が、エチレングリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレングリシジル(メタ)アクリレート-ビニルアセテート共重合体、または、エチレングリシジル(メタ)アクリレート-メチルアクリレート共重合体である、本発明(1)に記載の艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0012】
本発明(3)は、共重合体樹脂(B)100質量%中、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有割合が4質量%以下、メチルアクリレートに由来する構成単位の含有割合が28質量%以下である、本発明(1)または(2)に記載の艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0013】
本発明(4)は、アクリル系コアシェルエラストマー(C)が、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体、または、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体である本発明(1)~(3)のいずれかに記載の艶消し性ポリカーボネート樹脂組成物である。
【0014】
また、本発明(5)は、本発明(1)~(4)のいずれかに記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む、艶消し成形品に関する。
【0015】
本発明(6)は、JIS Z 8741に準拠して、測定角60°で測定したグロスが50%以下で、ISO 179-2に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が30kJ/m以上である、本発明(5)に記載の艶消し成形品である。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物を用いると、耐衝撃性を損なうことなく、艶消し状の外観を有し、耐傷付き性に優れる成形品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート樹脂(A)60~99.5質量%と、オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂(B)0.5~40質量%からなる樹脂組成物100質量部に対して、アクリル系コアシェルエラストマー(C)を0.1~20質量部、および、下記一般式
【化2】
(一般式において、Rは炭素数14~16のアルキル基であり、2つのRは同一でも異なっていても良い。)
で表されるアルキルケテンダイマー(D)を0.03~4質量部含有することを特徴とする。オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂(B)、アクリル系コアシェルエラストマー(C)、および、特定のアルキルケテンダイマー(D)を併用することで、ポリカーボネート樹脂本来の強度を損なわずに、艶消し外観を得、耐傷付き性を兼備できる。
【0018】
<(A)ポリカーボネート樹脂>
ポリカーボネート樹脂(A)とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体である。代表的なものとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。ポリカーボネート樹脂(A)は、単独または2種類以上混合して使用される。
【0019】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3、5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類などが挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルなどを混合して使用してもよい。
【0020】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしては、フロログルシン(1,3,5-トリヒドロキシベンゼン)、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプテン、2,4,6-ジメチル-2,4,6-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ヘプタン、1,3,5-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-ベンゾール、1,1,1-トリ-(4-ヒドロキシフェニル)-エタンおよび2,2-ビス-[4,4-(4,4’-ジヒドロキシジフェニル)-シクロヘキシル]-プロパンなどが挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。
【0021】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常10000~100000であるが、好ましくは15000~35000、さらに好ましくは17000~28000である。粘度平均分子量は、ポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒などを必要に応じて使用し、調整することができる。なお、本明細書において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定される。
【0022】
<(B)オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂>
オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂(単に共重合体樹脂(B)とも記載する)としては、オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂であれば特に限定されない。共重合体樹脂(B)は、単独または2種類以上混合して使用される。
【0023】
なお、本明細書において、オレフィンに由来する構成単位とは、モノマーとしてオレフィンが使用されて形成される構成単位を意味する。他の構成単位についても特に断らない限り同様である。また、本明細書において、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位とは、モノマーとしてエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルが使用されて形成される構成単位を意味し、(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位であって、エポキシ基を含有する構造であれば特に制限されない。
【0024】
オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、2-ブテン、シクロブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、4-メチル-1-ブテン、シクロペンテン、1-ヘキセン、シクロヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセンなどが挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。なかでもエチレンが好ましい。
【0025】
エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。なかでも、グリシジルメタクリレートが好ましい。
なお、本明細書において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸とメタクリル酸の一方又は両方を意味し、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの一方又は両方を意味する。
【0026】
エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルの炭素数は、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは8以下であり、好ましくは6以上である。これにより、ポリカーボネート樹脂(A)とアクリル系コアシェルエラストマー(C)との相溶化剤としての機能がより一層発揮され、高い相溶化効果が得られる傾向がある。
【0027】
共重合体樹脂(B)100質量%中、オレフィンに由来する構成単位の含有割合は、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは85質量%以上であり、好ましくは99質量%以下、より好ましくは97質量%以下、更に好ましくは93質量%以下、特に好ましくは90質量%以下である。上記範囲内であると、高い艶消し効果が得られる傾向がある。
【0028】
共重合体樹脂(B)100質量%中、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の含有割合は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、更に好ましくは7質量%以上、特に好ましくは10質量%以上であり、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。上記範囲内であると、高い艶消し効果が得られる傾向がある。
【0029】
共重合体樹脂(B)は、オレフィンに由来する構成単位、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位以外の構成単位を有してもよい。該構成単位としては、例えば、エポキシ基を有さない(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位、酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレンなどのビニル化合物に由来する構成単位などが挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。
【0030】
共重合体樹脂(B)100質量%中、オレフィンに由来する構成単位およびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位の合計含有割合は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。上記範囲内であると、高い艶消し効果が得られる傾向がある。
【0031】
共重合体樹脂(B)100質量%中、酢酸ビニルに由来する構成単位の含有割合は、好ましくは4質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、特に好ましくは0質量%である。上記範囲内であると、高い艶消し効果が得られる傾向がある。
【0032】
共重合体樹脂(B)100質量%中、メチルアクリレートに由来する構成単位の含有割合は、好ましくは28質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは2質量%以下、より最も好ましくは1質量%以下、更に最も好ましくは0質量%である。上記範囲内であると、高い艶消し効果が得られる傾向がある。
【0033】
なお、本明細書において、共重合体中の各構成単位の含有割合は、NMRにより測定される値である。
【0034】
共重合体樹脂(B)としては、オレフィンおよびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂(B)は、特に限定されないが、エチレングリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレングリシジル(メタ)アクリレート-ビニルアセテート共重合体、エチレングリシジル(メタ)アクリレート-メチルアクリレート共重合体などが挙げられる。具体的な製品としては、住友化学株式会社製「Bondfast-E」(エチレングリシジル(メタ)アクリレート共重合体)、「Bondfast-2C」(エチレングリシジル(メタ)アクリレート共重合体)、「Bondfast-2B」(エチレングリシジル(メタ)アクリレート-ビニルアセテート共重合体)、「Bondfast-7B」(エチレングリシジル(メタ)アクリレート-ビニルアセテート共重合体)、「Bondfast-7L」(エチレングリシジル(メタ)アクリレート-メチルアクリレート共重合体)、「Bondfast-7M」(エチレングリシジル(メタ)アクリレート-メチルアクリレート共重合体)や、日油社製「モディパーA4400」(エチレングリシジル(メタ)アクリレート-スチレン-アクリロニトリル共重合体)などが挙げられる。なかでも、エチレングリシジルメタクリレート共重合体が好ましい。
【0035】
共重合体樹脂(B)は市販品を用いてもよく、オレフィンおよびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合して合成してもよい。重合方法は、例えば、公知の乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合により行うことができ、これらの重合方法を組み合わせた方法でもよい。
【0036】
ポリカーボネート樹脂(A)および共重合体樹脂(B)の配合割合は、ポリカーボネート樹脂(A)60~99.5質量部と共重合体樹脂(B)0.5~40質量部であるが、ポリカーボネート樹脂(A)80~99.5質量部と共重合体樹脂(B)0.5~20質量部が好ましく、ポリカーボネート樹脂(A)92~98質量部と共重合体樹脂(B)2~8質量部がより好ましい。共重合体樹脂(B)の配合割合が0.5質量部未満では艶消し効果が充分に得られず、また40質量部を超えると、外観が悪くなることがある。
【0037】
<(C)アクリル系コアシェルエラストマー>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、さらにアクリル系コアシェルエラストマー(C)を含有する。アクリル系コアシェルエラストマー(C)は、単独または2種類以上混合して使用される。アクリル系コアシェルエラストマー(C)とは、アクリル酸エステルおよび/またはメタクリル酸エステルを必須成分とし、更に所望によってはスチレンなどの芳香族ビニル、ブタジエンなどの不飽和炭化水素、その他共重合可能な単量体から構成される重合体である。そのモルフォロジーは問わないが、ハードセグメントが連続層でソフトセグメントが分散層、あるいはその逆の層からなるコア・シェル型であっても良い。
【0038】
アクリル系コアシェルエラストマー(C)としては、ゴム成分により形成されたコア層、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成されたシェル層を有することが好ましく、ゴム成分により形成されたコア層、該コア層の周囲に(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成されたシェル層を有することが好ましい。
【0039】
ゴム成分としては、例えば、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムなどのポリブタジエン含有ゴムや、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴムや、ポリイソプレンゴム、ポリアルキルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、ブチルゴム、フッ素ゴムなどが挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。なかでも、ポリブタジエン含有ゴムが好ましく、ポリブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムがより好ましい。
【0040】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、tーブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート等の直鎖脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類、あるいはシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式脂肪族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等の芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル類などが挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。なかでも、メチルメタクリレートがより好ましい。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステルの炭素数は、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下であり、好ましくは4以上である。これにより、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0042】
シェル層は、(メタ)アクリル酸エステルと共に芳香族ビニルを重合して形成されることも好ましい。芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-エチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-イソプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン、2,4-ジクロロスチレン、2-クロロ-4-メチルスチレン、2,6-ジクロロ-4-メチルスチレンなどが挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。なかでも、スチレンが好ましい。
【0043】
アクリル系コアシェルエラストマー(C)100質量%中、ゴム成分の含有割合は、好ましくは8質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは40質量%以上であり、好ましくは80質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0044】
アクリル系コアシェルエラストマー(C)100質量%中、(メタ)アクリル酸エステル由来成分の含有割合は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、好ましくは92質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
【0045】
本明細書において、アクリル系コアシェルエラストマー中の各成分の含有割合は、NMRにより測定される値である。
【0046】
アクリル系コアシェルエラストマー(C)の具体例としては、例えば、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体などが挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。なかでも、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)が好ましく、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)がより好ましい。
【0047】
MBS(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体)の市販品としては、例えば、ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製「パラロイドEXL2603」、「パラロイドEXL2678」、「パラロイドEXL2314」、三菱ケミカル株式会社製「E-870A」、「E-860A」や、株式会社カネカ製「カネエースM722」、「カネエースM732」などのコア-シェル型グラフト共重合体が挙げられる。
【0048】
アクリル系コアシェルエラストマー(C)は市販品を用いてもよく、(メタ)アクリル酸エステルを重合、例えば、ゴム成分に(メタ)アクリル酸エステルをグラフト重合して合成してもよい。重合方法は、例えば、公知の乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合により行うことができ、これらの重合方法を組み合わせた方法でもよい。
【0049】
アクリル系コアシェルエラストマー(C)の含有量は、ポリカーボネート樹脂(A)と共重合体樹脂(B)の合計100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましく、0.1~10質量部がより好ましく、2~8質量部がさらに好ましい。添加量が0.1質量部未満では艶消し効果が充分に得られず、また20質量部を超えると、熱安定性が悪くなるので好ましくない。
【0050】
本発明にて使用される特定のアルキルケテンダイマー(D)は、下記一般式で示されるアルキルケテンダイマーである。
【0051】
【化3】
【0052】
一般式において、Rは炭素数14~16のアルキル基であり、2つのRは同一でも異なっていても良い。
【0053】
本発明にて使用される特定のアルキルケテンダイマー(D)の配合量は、ポリカーボネート樹脂(A)と共重合体樹脂(B)の合計100質量部に対して、0.03~4質量部である。0.03質量部未満では耐傷付き性に劣り、4質量部を越えると成形品にシルバーなどの外観不良が発生する。配合量は、0.1~1.2質量部が好ましく、0.2~0.8質量部がより好ましい。
【0054】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、必要に応じて、公知の各種添加剤、ポリマーなどを添加することができる。例えば、長期間、光に暴露された際の樹脂成形品の変色を抑制するためにヒンダードアミン系の耐光安定剤を、鮮やかな色調を得るためにベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤を添加してもよい。さらに、これらを併用して添加してもよい。
【0055】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物には、上記以外の公知の添加剤、例えばフェノール系またはリン系熱安定剤[2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2-(1-メチルシクロヘキシル)-4,6-ジメチルフェノール、4,4′-チオビス-(6-t-ブチル-3-メチルフェノール)、2,2-メチレンビス-(4-エチル-6-t-メチルフェノール)、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)フォスファイト、4,4′-ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス-(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)など]、滑剤[パラフィンワックス、n-ブチルステアレート、合成蜜蝋、天然蜜蝋、グリセリンモノエステル、モンタン酸ワックス、ポリエチレンワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレートなど]、着色剤[例えば酸化チタン、カーボンブラック、染料]、充填剤[炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ガラス繊維、ガラス球、ガラスフレーク、カーボン繊維、タルク、マイカ、各種ウィスカー類など]、流動性改良剤、展着剤[エポキシ化大豆油、流動パラフィンなど]を必要に応じて添加することができる。
【0056】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物の製造方法は特に制限はない。例えば、ポリカーボネート樹脂(A)、共重合体樹脂(B)、アクリル系コアシェルエラストマー(C)、アルキルケテンダイマー(D)を計量し、タンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサーなどにより一括混合した後、混合物を通常の単軸押出機または二軸押出機を用いて溶融混練し、ペレット化させる方法、あるいは、個々の成分を一部または全てを別々に計量し、複数の供給装置から押出機内へ投入し、溶融混合する方法、さらには、アクリル系コアシェルエラストマー(C)、アルキルケテンダイマー(D)とポリカーボネート樹脂(A)および/または共重合体樹脂(B)とを高濃度に配合し、一旦溶融混合してペレット化してマスターバッチとした後、当該マスターバッチとポリカーボネート樹脂(A)および/または共重合体樹脂(B)を所望の比率により混合することもできる。そして、これらの成分を溶融混合する際の、押出機へ投入する位置、押出温度、スクリュー回転数、供給量など、状況に応じて任意の条件が選択され、ペレット化することができる。
【0057】
ポリカーボネート樹脂組成物から成形品を製造する方法にも特に制限はなく、例えば、前記マスターバッチとポリカーボネート樹脂(A)および/または共重合体樹脂(B)を、所望の比率により乾式混合後、射出成形装置やシート押出機装置に直接投入して成形品とする方法を挙げることができる。
【0058】
また、本発明の艶消し成形品は、前記ポリカーボネート樹脂組成物から得られることを特徴とする。該成形品は、高い艶消し性を有している。
【0059】
さらに、本発明の艶消し成形品は、JIS Z 8741に準拠して、測定角60°で測定したグロスが50%以下で、ISO 179-2に準拠して測定したノッチ付きシャルピー衝撃強度が30kJ/m以上であることを特徴とする。グロス値は、30%以下が好ましく、シャルピー衝撃強度は、40kJ/m以上が好ましい。
【0060】
<用途>
本発明のポリカーボネート樹脂組成物から得られた成形品は、鏡面反射によりその機能を損なう部材や、意匠性として艶消しを要求される電気・電子製品の筐体、ゲーム・アミューズメント関連機器の外装、パーテーションなどの建築分野、家具の内外装に好適に用いることができる。また、安全性の面から艶消し性を要求される車内内装部材、例えば自動車のダッシュボード、ドアミラー、自動運転用計測器の筐体やカメラカバーにも好適に用いることができる。
【実施例0061】
以下に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、実施例中の「%」、「部」はそれぞれ質量基準に基づく。
【0062】
使用した原材料は以下のとおりである。
(A)ポリカーボネート樹脂:ビスフェノールAとホスゲンから合成されたポリカーボネート樹脂(住化ポリカーボネート(株)製SDポリカ200-20、粘度平均分子量18800)
(B)エチレングリシジルメタクリレート共重合体:住友化学(株)製 Bondfast E(エチレングリシジルメタクリレート共重合体、エチレンに由来する構成単位の含有割合:88質量%、グリシジルメタクリレートに由来する構成単位の含有割合:12質量%)
(C)アクリル系コアシェルエラストマー:ローム・アンド・ハース・ジャパン(株)製EXL-2678(メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(コア:ポリブタジエン、シェル:スチレンおよびメチルメタクリレート)、ブタジエン成分(ゴム成分)の含有割合:50質量%)
(D)アルキルケテンダイマー:下記式においてRが炭素数14~16のアルキル基であるもの
【化4】
(平原永恒化工有限公司製AKD1840、以下、「AKD」と略記)
【0063】
実施例1~2および比較例1~3
表1に示す配合比率にて、タンブラーで乾湿混合後、二軸押出機((株)日本製鋼所製、TEX30α)を用いて、溶融温度280℃にて溶融混練し、実施例1~2および比較例1~3の各々のポリカーボネート樹脂組成物のペレットを得た。
【0064】
各実施例および比較例で作製した樹脂組成物のグロス、衝撃強度、耐傷付き性、外観を、以下の方法で評価した。評価結果を表1に示す。
【0065】
<グロス>
樹脂組成物のペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S2000i100B)を用い、成形温度300℃、金型温度80℃で、平板試験片(80mm×50mm×2mmの厚み)を作製した。得られた試験片を用い、JIS Z 8741に準拠して、測定角60°におけるグロスを測定した。50%以下を合格とした。
【0066】
<耐傷付き性>
樹脂組成物のペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S2000i100B)を用い、成形温度300℃、金型温度80℃で、平板試験片(90mm×150mm×2mmの厚み)を作製した。その後、トライボギア(新東化学(株)製、TYPE40)を用いて、試験条件を荷重:500g、移動速度:500mm/min、往復回数:20回として、白布綿(カナキン3号)を試験片の表面に擦り合わせた。試験後の試験片の表面を目視で確認し、以下の基準で評価した。
×:傷がはっきりと見える
〇:傷が見えにくくなっている
【0067】
<衝撃強度>
樹脂組成物のペレットを120℃で4時間以上乾燥した後、射出成形機(ファナック(株)製、ROBOSHOT S2000i100B)を用い、成形温度280℃、金型温度80℃で、ISO試験法に準じた試験片を作製した。得られた試験片を用いてISO 179-2に準拠して、ノッチ付きシャルピー衝撃強度を測定した。ノッチ付きシャルピー衝撃強度が30kJ/m以上を合格とした。
【0068】
<外観>
上記成形品の外観を目視で確認し、層間剥離、シルバー、ジェッティング、フローマークなどの外観不良がある場合を×、外観不良がない場合を○とした。
【0069】
【表1】
【0070】
表1から、ポリカーボネート樹脂(A)にオレフィンおよびエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルに由来する構成単位を含む共重合体樹脂(B)、アクリル系コアシェルエラストマー(C)、およびアルキルケテンダイマー(D)を特定量配合すると、実施例1および2に示されるように、グロス値が低く、衝撃強度が高く、しかも傷付き性に優れる成形品が得られることが分かる。