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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033469
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】半導体装置及び接合方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/52 20060101AFI20240306BHJP
   H01L 21/60 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
H01L21/52 B
H01L21/60 311Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137056
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099634
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 安雄
(72)【発明者】
【氏名】巽 宏平
(72)【発明者】
【氏名】小柴 佳子
【テーマコード(参考)】
5F044
5F047
【Fターム(参考)】
5F044KK01
5F044KK18
5F044LL00
5F044QQ03
5F044QQ06
5F047AA11
5F047BA12
5F047BA16
(57)【要約】
【課題】半導体素子の表面電極又は裏面電極に対して直接又は間接的にFe-Ni合金金属層を積層することで熱膨張差に起因する半導体素子の不良を防止すると共に、電気抵抗を低く抑えた半導体装置を提供することを目的とする。
【解決手段】半導体チップ2の表面電極及び/又は裏面電極に対して直接又は間接的にFe-Ni合金金属層5が被着され、当該Fe-Ni合金金属層5を介して半導体チップと導電体4とが接続されているものである。必要に応じてFe-Ni合金金属層5のNi重量%は36%以上45%以下の範囲で、Fe-Ni合金金属層5の厚さを2μm以上、20μm以下とする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の表面電極及び/又は裏面電極に対して直接又は間接的にFe-Ni合金金属層が被着され、当該Fe-Ni合金金属層を介して前記半導体素子と導電体とが接続されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において、
前記Fe-Ni合金金属層のNi重量%が30%以上45%以下の範囲にあることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の半導体装置において、
前記Fe-Ni合金金属層の厚さが1μm以上、5mm以下であることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の半導体装置において、
前記Fe-Ni合金金属層がめっきで形成されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記半導体素子の表面電極又は裏面電極である電極面と、前記導電体とが接合面で点状又は線状に接触又は近接し、当該接触又は近接している箇所から外側方向に向かって前記接合面における前記電極面と前記導電体との距離が次第に増大しており、前記電極面と前記導電体と間がFe-Ni合金金属で充填されてFe-Ni合金金属層が形成されることを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項4に記載の半導体装置において、
前記Fe-Ni合金金属層が、Fe-Niめっき金属を熱処理して形成されており、前記導電体と前記Fe-Niめっき金属との界面に拡散層が形成されているか、又は前記Fe-Niめっき金属の一部が再結晶していることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の半導体装置において、
前記Fe-Ni合金金属層が、ナノサイズの金属粒子とFe-Ni合金粒子との粉体を焼結して形成されることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体装置において、
前記粉体にマイクロサイズのAl粒子が含まれることを特徴とする半導体装置。
【請求項9】
半導体素子の表面電極又は裏面電極である電極面と、導電体とが接合面で点状又は線状に接触又は近接させ、当該接触又は近接している箇所から外側方向に向かって前記接合面における前記電極面と前記導電体との距離が次第に増大する隙間にFe-Niめっき金属を充填してめっき接合し、その後当該箇所を熱処理することを特徴とする接合方法。
【請求項10】
ナノサイズの金属粒子とFe-Ni合金粒子とを含む粉体で形成され、半導体素子の表面電極及び/又は裏面電極に対して直接又は間接的に被着されるFe-Ni合金金属層として形成される接合材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Fe-Ni合金金属層により被接合対象の熱膨張差を抑制する半導体装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子の実装は基板への固定と電極端子の導電接続と、それらの絶縁保護が基本となる。半導体は、回路に流れる電流により発熱し熱膨張する。一方半導体に接続される金属や絶縁樹脂の熱膨張率は一般に一桁ほど大きい。例えばSi材料の熱膨張係数(CTE)は、2.6ppm/K程度に対して、配線材料や基板の導電材料として広く用いられる銅の熱膨張率は、16.5ppm/K程度である。Si半導体と導電配線材料である銅が接続された場合、その熱膨張差によるひずみ量は温度と接続の長さに比例して大きくなる。このひずみ量による半導体素子への応力や接続材料への応力は、温度サイクルによる熱疲労が原因で生じる半導体デバイスの損傷を与える原因となっており、現在種々の対策が講じられてきているが抜本的な解決に至らないのが現状である。特に大電流が流れるパワーデバイスにおいては、この熱応力に対しての課題が大きい。
【0003】
このような課題に関して、基板材料を熱膨張率がSi半導体に近いセラミックス基板とし、当該セラミックス基板に銅配線が形成されているものが使用されてきた。例えばロジックデバイスであるCPU素子において、初期にはセラミックスパッケージが多用されていたが、コスト高が大きな課題となっていた。現在は有機材料の基板を用いて、封止樹脂やアンダーフィル剤により、熱膨張差のひずみ量を抑制するなどの対策が取られているが、耐熱温度が限定されてしまう。したがって、高出力のパワーデバイスにおいては、現在でもSiやSiC半導体の熱膨張率に近い値を有するアルミナや窒化ケイ素基板が多用されている。
【0004】
近年実用化の進展が著しいSiC半導体デバイスなどの化合物半導体においては、素子自体もSi半導体に比較して高温での動作を可能とし、また高出力密度が可能であることから、熱膨張差を抑制して高温で動作が可能な実装技術が望まれている。
【0005】
熱膨張率が低く、且つ半導体の熱膨張率に近い材料としてFe-Ni合金金属(例えば、Niが42重量%の42アロイ等)が知られており、電子部品のリードやリードフレームなどに利用されることがある。リードフレームは一般的に、導電性が優れた銅で形成される場合が多く、またSi半導体チップやSiC半導体チップと接続する際には半田や樹脂成分を含むペーストなどで接続される場合が多い。そのため、温度サイクルによるSi半導体やSiC半導体と、配線である銅との熱膨張差に起因する熱応力により、半田接続の場合には半田が塑性変形し、その繰り返しにより疲労破壊することが問題となる。また、ペーストによる接続の場合にはペースト材料や界面での剥離が問題となるケースがある。そこで、上述したように、リードフレーム自体をSi半導体やSiC半導体の熱膨張率に近い42アロイで形成することで上記のような問題に対処してきたが、Fe-Ni合金金属は導電率や熱伝導率が銅と比較して低いことや、材料費の観点から限定的な使用に留まっている。
【0006】
Fe-Ni合金金属を利用した技術として、例えば特許文献2ないし4に示す技術が開示されている。特許文献2に示す技術は、銅の第2接続リードに熱膨張率が(1~6)×10-6/Kの鉄ニッケル合金の第1接続リードを溶接などで接続し、第1接続リードの先端を電極パッドにはんだで固着することで、電極パッドに加わる熱応力を小さくし、電極パッドと第1接続リードの熱膨張差で発生する熱応力を小さくすることで、はんだや電極パッド下のシリコンにクラックが生じることを防止でき、また、第1接続リードの長さを第1接続リードと第2接続リードを合わせた長さの40%未満とすることで、電気抵抗を低く維持し接続導体の低コスト化を図ることができるものである。
【0007】
特許文献3に示す技術は、鉄-ニッケル合金からなる基底素材と、基底素材上にメッキされ、結晶粒径が1ミクロン以下のメッキ層と、を備える半導体リードフレームであり、これにより、鉄-ニッケル合金(alloy42)からなる基底素材上に錫でメッキするときに、結晶粒径を最小化させてウィスカの成長を抑制できるものである。
【0008】
特許文献4に示す技術は、低膨張部材は鉄系材からなる板部材を有しており、板部材の上部及び下部の表層部分には鉄ニッケル層がそれぞれ形成されており、ここで、板部材は大きい熱膨張係数を有するが、板部材の上部及び下部の表層部分に形成された鉄ニッケル層が小さい熱膨張係数を有するため、低膨張部材全体の熱膨張係数を小さく抑えることができ、また、板部材は高い熱伝導率を有しており、鉄ニッケル層はこの板部材に対して薄く形成されているので、低膨張部材はその厚み方向に高い熱伝導率を有しているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2015/053356号
【特許文献2】特開2012-38983号公報
【特許文献3】特開2006-108666号公報
【特許文献4】特開2004-103700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1及び2に示す技術は、半導体と導電体との熱膨張差による不良対策としては十分ではなく、特に特許文献2に示す技術は、Fe-Ni合金金属を用いたリードで応力を緩和するものであるため、第1接続リードの長さを第1接続リードと第2接続リードを合わせた長さの40%未満にしたとしても、導電率や熱伝導率が銅と比較して低いことやコストに関して十分に対応できる技術ではないという課題を有する。
【0011】
また、特許文献3及び4について、これらの技術を用いた場合であっても上記のような問題を解決できるものではない。
【0012】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、半導体素子の表面電極又は裏面電極に対して直接又は間接的にFe-Ni合金金属層を積層することで熱膨張差に起因する半導体素子の不良を防止すると共に、電気抵抗を低く抑えた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る半導体装置は、半導体素子の表面電極又は裏面電極に対して直接又は間接的にFe-Ni合金金属層が被着され、当該Fe-Ni合金金属層を介して前記半導体素子と導電体とが接続されているものである。
【0014】
このように、本発明に係る半導体装置においては、半導体素子の表面電極又は裏面電極に対して直接又は間接的にFe-Ni合金金属層が被着され、当該Fe-Ni合金金属層を介して半導体素子と導電体とが接続されているため、半導体素子と導電体との熱膨張差により生じる応力が緩和され、半導体素子の損傷を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】Fe-Ni合金の線熱膨張係数の組成依存性を示す図である。
図2】半導体装置においてリードフレームを用いた場合の構造を示す図である。
図3】ワイヤーボンディングにおける半導体チップの接合部分を示す図である。
図4】第1の実施形態に係る半導体装置においてフリップチップ接続を行う場合の構造を示す図である。
図5】第1の実施形態に係る半導体装置においてCuピラーを有する場合のフリップチップ接続の構造を示す図である。
図6】第1の実施形態に係る半導体装置のパワーデバイスとしての構造を示す図である。
図7】第1の実施形態に係る半導体装置においてリードフレームタイプのパワーデバイス構造の一例を示す図である。
図8】第1の実施形態に係る半導体装置においてCuクリップを用いた場合のパワーデバイス構造の一例を示す図である。
図9】第1の実施形態に係る半導体装置におけるNMPB構造の一例を示す図である。
図10】第1の実施形態に係る半導体装置におけるFe-Ni合金金属層のめっき処理後の加熱温度に応じた線膨張係数の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を説明する。また、本実施形態の全体を通して同じ要素には同じ符号を付けている。
【0017】
(本発明の第1の実施形態)
本実施形態に係る半導体装置について、図1ないし図9を用いて説明する。本実施形態に係る半導体装置は、半導体チップの表面電極又は裏面電極に対して直接又は間接的にFe-Ni合金金属層を積層し、当該Fe-Ni合金金属層を介して半導体チップと導電体とを接続する接続構造を有するものである。なお、以下の各実施形態において、Fe-Ni合金金属層はFe-Ni合金を少なくとも含む金属層であり、Fe-Ni以外の金属が含まれるものであってもよい。
【0018】
Fe-Ni合金金属の熱膨張率は、Si半導体やSiC半導体に近い数ppmに制御することが可能である。図1は、Fe-Ni合金の線熱膨張係数の組成依存性を示す図である。横軸がNiの組成を示し、縦軸が熱膨張係数を示している。グラフに示すように、Ni組成が36%で最も熱膨張係数が小さく、従来リードフレーム材料として用いられたものはNi組成が42%である。本実施形態に係る半導体装置においては、図1のグラフからNi重量%濃度が30%~45%の範囲で導電体の熱膨張率の抑制に効果が期待できる。
【0019】
以下、本実施形態に係る半導体装置の構造について具体的に説明する。図2は、半導体装置においてリードフレームを用いた場合の構造を示す図である。図2(A)はリードフレームを用いた場合の一般的な半導体実装構造を示す図であり、図2(B)は本実施形態においてリードフレームを用いた場合の半導体素子と導電体との接合構造を示す第1の図、図2(C)は本実施形態においてリードフレームを用いた場合の半導体素子と導電体との接合構造を示す第2の図、図2(D)は本実施形態においてリードフレームを用いた場合の半導体素子と導電体との接合構造を示す第3の図である。
【0020】
図2においては、Si半導体やSiC半導体(以下、半導体チップ2という)がリードフレーム3のダイパッド(アイランド)3aにダイボンディングされている。半導体チップ2とリードフレーム3のリード3bとはワイヤー8で接続され、樹脂6で封止される。一般的には、半導体チップ2は半田7や樹脂成分を含むペーストなどでダイパッド3aにダイボンディングされることが多く、リードフレーム3は導電性に優れた銅の場合が多い。この場合、上述したように、温度サイクルによる半導体チップ2(SiやSiC)とリードフレーム3(Cu)との熱膨張差に起因する熱応力により半田7が塑性変形し、その繰り返しにより疲労破壊してしまったり、ペースト材料やその界面で剥離してしまうといった問題が生じる。そのため、仮にリードフレーム3自体を半導体の熱膨張率に近いFe-42%Ni材料とした場合、導電率や熱伝導率の問題に加えて材料費の問題もあり、限定的な使用に止まってしまっている。
【0021】
半導体チップ2と導電体4(図2においてはダイパッド3aに相当)である銅との接合における問題は、半導体チップ2と導電体4との界面の問題である。そのため、本実施形態に係る半導体装置1においては、図2(B)に示すように、銅であるダイパッド3aの表面に熱膨張率を抑制したFe-Ni合金金属層5を被着しておくことが有用となる。すなわち、ダイパッド3aにFe-Ni合金金属層5が被着して積層され、半田7を介して半導体チップ2のTi/Ni/Au膜2aが接続する。このように、半導体チップ2の熱膨張率に近いFe-Ni合金組成の層(Fe-Ni合金金属層5)をダイパッド3aに形成しておくことで、銅の熱膨張による半田7への応力負荷を低減することが可能となる。
【0022】
図2(C)は、半導体チップ2の裏面(下面側)に比較的強度が高く且つ熱膨張率がSi半導体やSiC半導体に近いFe-Ni合金金属層5を被着した場合の構造を示している。ここでは、半導体チップ2のTi/Ni/Au膜2a表面にFe-Ni合金金属層5を被着して積層し、半田7を介して導電体4に接合している。
【0023】
図2(D)は、半導体チップ2の裏面(下面側)にFe-Ni合金金属層5を被着しており、当該Fe-Ni合金金属層5を接合材として形成した場合の構造を示している。ここでは、半導体チップ2のTi/Ni/Au膜2a表面にナノサイズのNi粒子をバインダーとしてFe-Ni合金金属層5で半導体チップ2と導電体4とを接合している。
【0024】
なお、図2(B)~図2(D)において、Fe-Ni合金金属層5のNi重量%濃度は、30%~45%程度の範囲で効果を期待することができ、厚さについては2μm以上で効果があり、5μm以上であることが好ましい。
【0025】
また、図2(B)、(C)のような半田7による接合に対して、近年これに代わる高温動作に対応した接合技術の開発が進んできた。ダイボンディング材料の接着性、強度が高いものとして、例えばAg焼結材やNi焼結材、又はニッケルマイクロメッキ接合などの場合には、接続材料内の破断や界面の剥離が生じることがない一方で、半導体チップ2への応力が高まり、半導体チップ2内のクラックなどによる電流リークなどの不良が見られる場合がある。このような場合の対策として、本実施形態においては、図2(D)に示すように、Fe-Ni合金金属層5をナノサイズのNi粒子を焼結材として混合することで、半導体チップ2への応力を緩和した強固な接合が可能となる。このとき、さらにマイクロサイズのAl粒子が含まれるFe-Ni合金金属層5を形成するようにしてもよい。Al粒子が含まれることでAlによる熱膨張差による熱応力を緩和することが可能となる(例えば、特開2020-35983号公報を参照)。
【0026】
Fe-Ni合金金属層5を形成するときにナノサイズのNi粒子やマイクロサイズのAl粒子が含まれる場合は、Fe-Ni合金金属層5の主成分をFe-Ni合金粒子とするが、混合する組成比に応じて図1に示す線膨張係数との複合則により混合体の線膨張係数が変わる。すなわち、Ni粒子の混合分はNi:100%の熱膨張率となり、Al粒子の混合分はAl:100%の熱膨張率となるため、Fe-Ni熱膨張率とそれらの体積比で線膨張係数が決まる。そのため、Fe-Ni合金金属層5の線膨張係数がSiやSiC半導体の熱膨張率に近い値となるように組成比を調整することが望ましい。なお、ナノサイズのNi粒子は、10nm~200nmのサイズであることが望ましい。また、ナノサイズの粒子はNi以外にも同様のサイズ、体積比率となるナノサイズのAg粒子やCu粒子を用いてもよい。さらに、ナノサイズのNi粒子の焼結材としての効果は体積比率で15%以上であることが望ましいが、熱膨張率の影響を考慮すると60%以下の範囲であることが望ましい。
【0027】
さらにまた、Fe-Ni合金金属層5の被着については、クラッド、物理蒸着、めっき、溶射、焼結等の手法を用いることが可能である。図2(B)に示すように、Fe-Ni合金金属層5を導電体4に被着する場合には、上記いずれの手法を用いてもよい。図2(C)に示すように半導体チップ2の裏面側に被着する場合は、物理蒸着又はめっきが用いられる。図2(D)の場合はナノサイズのNiを焼結することで被着及び接合がなされる。
【0028】
特に、めっきによりFe-Ni合金金属層5の被着を行う場合には、図1に示したようなFe-Niの熱膨張係数を実現するために、組成の最適化及び原子の再配列が必要となることがある。具体的には、所望の組成のFe-Ni合金金属層5をめっきで形成するためには、めっき処理後に200℃~350℃程度の熱処理が行われることが望ましい。めっき処理後に上記のような熱処理を行うことでFe-Ni合金金属層5と導電体4との界面において拡散層(例えば、界面において0.01μm=10nm程度以上、相互の金属が拡散している層)が形成され、強固な接合を実現することが可能となる。また、めっき処理後に熱処理を行うことでFe-Ni合金金属層の一部が再結晶し、強固な接合が実現可能である。すなわち、めっき処理後の結晶は結晶成長方向により異方性が見られるが、熱処理により新たに結晶方位が異なる結晶粒が発生することで、Fe-Ni合金金属層5と導電体4とが極めて強固に接合される。
【0029】
なお、図2(C)に示すように半導体チップ2の裏面側にFe-Ni合金金属層5を被着する場合は、ウエハをダイシングする前にめっきにより被着することが望ましい。すなわち、ウエハの単位でめっき処理を行いその後にダイシングをすることで、非常に効率的に裏面側にFe-Ni合金金属層5が形成された半導体チップ2を生成することが可能となる。
【0030】
図2において半導体チップ2の表面(上面側)については、表面電極とリード3bとの接続のために電極金属にワイヤーボンディングされるが、ワイヤー8とリード3bとの間はワイヤー8がフレキシブルであるため応力が掛からない。一方で、小領域ではあるが、ワイヤー8の材料の熱膨張率と半導体チップ2の熱膨張率の違いから、ワイヤーボンディング部分において半導体チップ2に熱応力によるダメージが生じる場合がある。
【0031】
ワイヤー8の材料は、一般的にはアルミニウム、金、銅などである。ボールボンディングの場合は一旦ワイヤー8材料が溶融していることや、比較的小面積であることから熱応力が問題になるケースは少ない。しかしながら、パワーデバイスの場合はウエッジボンディングされるため、ワイヤー8の径が50μmφから500μmφ程度と太く、加工硬化されることから、熱サイクル中にはワイヤー8の材料の塑性変形が進まず、半導体チップ2側に応力が掛かることとなる。図3は、ワイヤーボンディングにおける半導体チップの接合部分を示す図である。図3(A)は、Al電極2b上に従来のウエッジボンディング接合を行った場合を示し、図3(B)は、本実施形態においてAl/Fe-Ni/Au電極上にウエッジボンディング接合を行った場合を示す図である。上述したように、従来の図3(A)の場合は、熱サイクル中にワイヤー8材料の塑性変形が進まず、半導体チップ2側に応力が掛かることとなる。これに対して、本実施形態においては、図3(B)に示すように、半導体チップ2のAl電極2b表面に熱膨張率がワイヤー8の材料よりも低いFe-Ni合金金属層5を被着しておくことで、上記のような問題を解決することが可能となっている。
【0032】
なお、このときFe-Ni合金金属層5における組成は、上記と同様に、Ni重量%濃度が30%~45%程度の範囲、厚さは2μm以上、好ましくは5μm以上で20μm以下とする。また、Fe-Ni合金金属層5は、物理蒸着又はめっきにより被着することが可能である。通常、電極材料は1~4μm程度のアルミニウムが一般的であるが、Fe-Ni合金金属を直接被着できない場合には、Zn置換処理(ジンケート)やNiめっきなどの下処理を行うようにしてもよい。さらに、図3(B)に示すようにFe-Ni合金金属層5の層上にはめっき層2c(例えば、Au、Ag、Al等)を被着することでFe-Ni合金金属層5の酸化防止を行うことが望ましい。
【0033】
次に、フリップチップ構造の場合について説明する。図4は、本実施形態に係る半導体装置においてフリップチップ接続を行う場合の構造を示す図である。図4は、半導体実装におけるフリップチップ構造を示しており、基板9の基板電極4a(例えばCu電極)に対して半導体チップ2の回路面が対向して接続されるものである。基板電極4aと半導体チップ2とは、半田ボール(半田7)を介して接続され、半田7を溶融することで接合される。従来、基板9は、半導体チップ2との熱膨張差を軽減するためにセラミックス基板が用いられてきたが、現在は熱膨張率が大きい有機基板が主流になっているという現状である。半導体チップ2と基板9との間に絶縁樹脂であるアンダーフィルで固定し、熱膨張差による変形を抑制することで実用化されているが、半導体チップ2のサイズが大きいものや高出力の場合には、熱膨張差による変形を無視できなくなってしまう。
【0034】
そのため、図4に示すような構造とすることで、熱膨張差による変形を抑えることが可能となる。図4(A)の場合は、半導体チップ2の接続面にFe-Ni合金金属層5が被着され、半田7を介して導電体4(基板9の基板電極4a)に接続されている。一方、図4(B)の場合は、導電体4(基板9の基板電極4a)の表面にFe-Ni合金金属層5が被着され、半田7を介して半導体チップ2の接続面に接続されている。いずれにおいても、半導体チップ2の上方には放熱のためのヒートシンク21が配設されている。図4において、半導体チップ2と基板電極4aとの間にFe-Ni合金金属層5が形成されているため、熱膨張差に起因する応力を緩和することが可能となっている。特に、図4に示すような構造は、パワーデバイスのような電極面積が大きい場合にその効果が絶大となる。なお、図4(A)に示す構造の場合は、物理蒸着又はめっきによりFe-Ni合金金属層5が形成され、図4(B)に示す構造の場合は、クラッド、物理蒸着、めっき、溶射、焼結等の手法を用いることが可能である。
【0035】
また、図5は、本実施形態に係る半導体装置においてCuピラーを有する場合のフリップチップ接続の構造を示す図である。図5において、半導体チップ2電極側に導電体4であるCuピラー10が形成されており、基板電極4aに半田7で接続されている。半導体チップ2とCuピラー10との間にはFe-Ni合金金属層5が形成されており、こうすることでCuピラー10と半導体チップ2との熱膨張差が緩和され、上記と同様に熱膨張差に起因する応力を緩和することが可能となっている。なお、図5におけるFe-Ni合金金属層5は、物理蒸着又はめっきにより形成される。
【0036】
次に、パワーデバイス実装の構造について説明する。図6は、本実施形態に係る半導体装置のパワーデバイスとしての構造を示す図である。パワーデバイスの実装においては、高出力であることに加えて放熱構造が重要である。図6に示す絶縁基板61としては熱膨張率が比較的小さいセラミックスが使用されることが多いが、大電流を流す銅配線(配線62や放熱基板63)と半導体チップ2との熱膨張差が問題になる場合がある。そのため、図6に示すように半導体チップ2の裏面側にFe-Ni合金金属層5を被着する。こうすることで、これまで同様に、熱膨張差に起因する応力を緩和することが可能となる。
【0037】
なお、図6に示すように、図3において説明したようなワイヤーボンディングにおける半導体チップ2の接合部分にもFe-Ni合金金属層5を被着することが望ましい。また、図6におけるFe-Ni合金金属層5は、物理蒸着又はめっきにより形成される。
【0038】
図7は、リード接続タイプのパワーデバイス構造の一例を示す図である。図7に示す構造はリード3bを用いたものであり、半導体チップ2の表面側に放熱性が期待できるリード3bを直接接合する構造となっている。半導体チップ2の表面及び裏面には銅配線(リード3bや放熱基板63)との間にFe-Ni合金金属層5が形成され、それぞれが半田7を介して接合される。また、図8は、両面放熱型のパワーデバイス構造の一例を示す図である。これらの構造の場合、半導体チップ2の表面の電極と銅配線(配線62等)とが直接接合されるため熱膨張率の差が問題となる。
【0039】
図7及び図8に示すように、半導体チップ2と銅配線との間にFe-Ni合金金属層5を挿入することで半導体チップ2への応力を緩和することができる。特に図8に示すような両面放熱型の実装構造の場合は、半導体チップ2の表面電極及び裏面電極にFe-Ni合金金属層5を形成することが望ましい。なお、図7及び図8におけるFe-Ni合金金属層5は、物理蒸着又はめっきにより形成される。
【0040】
次に、発明者らが開発したニッケルマイクロメッキ接合(Nickel Micro Plating Bonding: NMPB)の構造について説明する。パワーデバイスの場合、図6ないし図8で示したように、半田7による接続であったり、高耐熱デバイスに対してはAg焼結材料などが用いられる場合が多いが、半田7の場合は融点が低いという問題があり、Ag焼結材料の場合はAgマイグレーションやコスト高といった問題がある。そこで、発明者らは半導体チップ2とリード3bや基板9(銅基板)との接続をエッジを介してNiでめっき接続するニッケルマイクロメッキ接合技術を開発した(例えば、特許文献1、国際公開第2017/154893等を参照)。この技術は、テーパ状に加工されたリード3aのエッジ部分で点状又は線状に半導体チップ2とリード3aとが接触又は近接し、接触又は近接している当該箇所から外側方向に向かって半導体チップ2とリード3aとの距離が次第に増大しており、その間隙にNiのめっき液を充填した状態でめっき処理を行うことで、半導体チップ2とリード3aとを接続するものである。Niめっきによる接合は非常に強固であり、熱応力で破断することはないものの、半導体チップ2への熱応力により半導体チップ2側でリークが発生する場合がある。
【0041】
図9は、本実施形態に係る半導体装置におけるNMPB構造の一例を示す図であり、図9(A)はめっき接合をNiで行う場合の構造を示し、図9(B)はめっき接合をFe-Ni合金金属で行う場合の構造を示している。図9(A)の場合は、半導体チップ2がリード3bに接続する接続面にFe-Ni合金金属層5を形成し、当該Fe-Ni合金金属層5とリード3bのエッジが接触した状態でNiめっき91で接合することで形成される。なお、この場合、Niめっき91をNiではなくFe-Ni合金でめっき形成するようにしてもよい。ここでのFe-Ni合金金属層5は、物理蒸着又はめっきにより形成される。図9(B)の場合は、半導体チップ2の電極とリード3bのエッジとが接触した状態でFe-Ni合金でめっきを行うことでFe-Ni合金金属層5が形成され、半導体チップ2とリード3bとがエッジを介して接合される。いずれの構造においてもFe-Ni合金金属層5が半導体チップ2と銅電極との間に形成されることで、熱膨張差に起因する半導体チップ2への応力を緩和することができる。
【0042】
なお、図9において、上述したように、Niめっき又はFe-Ni合金めっきを行う場合に組成の最適化及び原子の再配列を行うために、めっき処理後に200℃~350℃程度の熱処理が行われることが望ましい。これにより、めっき金属と導電体4との界面において拡散層が形成され、強固な接合を実現することが可能となる。また、めっき処理後に熱処理を行うことでFe-Ni合金金属層の一部が再結晶し、強固な接合が実現可能である。
【0043】
めっき金属と導電体4との界面において拡散層や再結晶により強固な接合が可能になるが、これに加えて、対向するめっきの成長面がぶつかり合う界面(図9に示す界面92)においても同様の現象が生じることで、めっきによる接合をより強固なものにできる。
【0044】
ここで、Fe-Ni合金金属層5のめっき形成後における熱処理の影響について、発明者らが行った結果を図10に示す。ここでは、めっき時の電流密度を2A/dm2又は4A/dm2とし、Fe-Ni合金金属層5の組成がFe-(33~44)Ni(wt%)となるめっき処理を行い、その後に0℃(未熱処理)、220℃、250℃、300℃、350℃、400℃、450℃で熱処理を行った。各温度で熱処理したFe-Ni合金金属層5に対して50℃~250℃の温度変化における線膨張整数を測定した。
【0045】
図10の測定結果に示す通り、熱処理する温度に応じて線膨張係数が変化していることがわかる。すなわち、半導体装置1の使用環境や用途に応じてめっき処理後の熱処理により線膨張整数を調整することが可能となる。具体的には、半導体装置1が使用される温度以上の温度に加熱処理しておくことで、少なくとも線膨張係数が温度に応じて大きく変化することが防止され、一定の線膨張整数で使用することができる。
【0046】
このように、本実施形態に係る半導体装置においては、半導体チップ2の表面電極又は裏面電極に対して直接又は間接的にFe-Ni合金金属層5が被着され、当該Fe-Ni合金金属層5を介して半導体チップと導電体とが接続されているため、半導体チップ2と導電体との熱膨張差により生じる応力が緩和され、半導体チップ2の損傷を防止することができる。
【0047】
また、Fe-Ni合金金属層のNi重量%を30%以上45%以下の範囲にすること、及び/又は、Fe-Ni合金金属層の厚さが2μm以上、20μm以下とすることで、熱膨張係数を出来るだけ小さくしつつ、応力を最小限に抑えて半導体チップ2の損傷を防止することができる。
【0048】
さらに、Fe-Ni合金金属層5をめっきで形成することで、半導体チップ2に直接形成することが可能になると共に、スパッタなどに比べて厚みを持たせることができるため、熱膨張に十分耐え得る程度に厚く形成することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 半導体装置
2 半導体チップ
2a Ti/Ni/Au膜
2b Al電極
2c めっき層
3 リードフレーム
3a ダイパッド
3b リード
4 導電体
4a 基板電極
5 Fe-Ni合金金属層
6 樹脂
7 半田
8 ワイヤー
9 基板
10 Cuピラー
21 ヒートシンク
61 絶縁基板
62 銅配線
63 放熱基板
91 Niめっき
92 界面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10