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特開2024-33524クロムめっき層の製造方法及びめっき装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033524
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】クロムめっき層の製造方法及びめっき装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 17/12 20060101AFI20240306BHJP
   C25D 3/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C25D17/12 B
C25D3/04
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137147
(22)【出願日】2022-08-30
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年9月1日 https://www.sciencedirect.com/journal/diamond-and-related-materialsにて公開 令和4年1月19日 https://www.kamiyariken.co.jp/quality/にて公開 令和4年2月24日 一般社団法人表面技術協会第145回講演大会にて公開
(71)【出願人】
【識別番号】503143057
【氏名又は名称】神谷理研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304023318
【氏名又は名称】国立大学法人静岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小玉 大雄
(72)【発明者】
【氏名】前田 康久
(72)【発明者】
【氏名】下村 勝
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AA11
4K023BA02
(57)【要約】
【課題】鉛又は鉛合金電極を使用せず、鉛又は鉛合金と同程度の酸化効率を有するアノード電極を用いたクロムめっき層の製造方法及びクロムめっきに用いる、鉛又は鉛合金電極を使用しないめっき装置を提供する。
【解決手段】六価クロムイオン及び硫酸を含む電解液が貯留されためっき槽と、電解液に少なくとも一部が接触する導電性ダイヤモンドを含むアノード及び被めっき物であるカソードと、アノード及びカソードを連結する外部電源と、を備えためっき装置を用い、導電性ダイヤモンドを含むアノードを用いて電解液に電圧を印加し、電解液中に含まれる六価クロムイオンを電解によって還元し、カソード上にクロムめっき層を形成する工程を含む、クロムめっき層の製造方法及びめっき装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
六価クロムイオン及び硫酸を含む電解液が貯留されためっき槽と、
前記電解液に少なくとも一部が接触する導電性ダイヤモンドを含むアノードと、
被めっき物であるカソードと、
前記アノード及び前記カソードを連結する外部電源と、
を備えためっき装置を用い、
前記外部電源により電解液に電圧を印加し、電解液中に含まれる六価クロムイオンを電解によって還元し、前記カソード上にクロムめっき層を形成する工程を含む、クロムめっき層の製造方法。
【請求項2】
前記アノードにおける導電性ダイヤモンドは、1.0atom%~2.0atom%のホウ素をドープした導電性ダイヤモンドである、請求項1に記載のクロムめっき層の製造方法。
【請求項3】
前記電解液に含まれる六価クロムイオンが、三酸化クロムをイオン原料とするクロム酸イオン、二クロム酸イオン、及び三クロム酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1又は請求項2に記載のクロムめっき層の製造方法。
【請求項4】
前記電解液における三酸化クロムの含有量が200g/L~300g/Lであり、前記電解液における硫酸の含有量が2.0g/L~3.0g/Lである、請求項3に記載のクロムめっき層の製造方法。
【請求項5】
めっき槽、前記めっき槽中に貯留された電解液、前記電解液に少なくとも一部が接触する導電性ダイヤモンドを含むアノード、及び、被めっき物であるカソードを備える、めっき装置。
【請求項6】
前記アノードに電圧を印加するための外部電源、電解液の温度を調整する装置、及び、電解液をろ過するフィルターをさらに備える、請求項5に記載のめっき装置。
【請求項7】
前記アノードにおける導電性ダイヤモンドは、1.0atom%~2.0atom%のホウ素をドープした導電性ダイヤモンドである請求項5に記載のめっき装置。
【請求項8】
前記電解液が、三酸化クロムをイオン原料とするクロム酸イオン、二クロム酸イオン、及び三クロム酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の六価クロムイオンを含む、請求項5に記載のめっき装置。
【請求項9】
前記電解液における三酸化クロムの含有量が200g/L~300g/Lであり、前記電解液における硫酸の含有量が2.0g/L~3.0g/Lである、請求項5に記載のめっき装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、クロムめっき層の製造方法及びめっき装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クロムめっきは、耐摩耗性、耐食性及び外観に優れた金属皮膜を工業製品の表面に電析させる方法として利用されてきた。クロムめっき工程においては、カソード上で六価クロムイオンが還元され、三価クロムイオンを経て金属クロムが電析する。しかし、一部の三価クロムイオンは金属クロムに還元されずにカソード上から電解液中へ離脱し、電解液中の三価クロムイオンの濃度が上昇する。そして三価クロムイオンの濃度の上昇はクロムめっきの被覆力低下の原因となる。
そのため、電解液中の三価クロムイオンをアノード酸化によって六価クロムイオンに戻し、三価クロムイオンの濃度の上昇を抑制することが必要である。三価クロムイオンから六価クロムイオンへの酸化還元電位は、水の酸素発生電位よりも高いため、三価クロムイオンのアノード酸化には酸素過電圧の高いアノードが必要である。従来、アノード酸化の効率向上を目的として、アノード電極には、酸素過電圧の高い鉛電極あるいは鉛合金電極が使用されてきた。
【0003】
しかし、鉛は、鉛合金中に含まれる鉛も含めて、電解液に含まれるクロム酸イオンと反応してアノード電極が経時劣化する問題、前記反応により不溶性のクロム酸鉛を生成して、めっき槽の底部に堆積する等の問題があった。
例えば、鉛又は鉛合金を用いたアノード電極の経時劣化を抑制する方法として、クロム源、特定構造のアルキルスルホン酸、ビスマス、砒素又はアンチモニ-イオン源を添加した電解液を用いることで、鉛又は鉛合金電極の重量減を抑制する技術が開示されている(特許文献1参照)。
また、電圧を低く抑えたまま最大電流密度を増大させること、陽極電流密度を均一化すること、陽極の湾曲を抑制することを課題として、中空円筒形状の鉛合金を用意し、銅芯を鉛合金の中空部に挿入して圧接させたアノード構造のクロムめっき用陽極が提案されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4786378号明細書
【特許文献2】特開2001-158999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2は、いずれも、鉛又は鉛合金をアノード電極に用いることが前提の技術を開示しており、例えば、特許文献1では、鉛を用いた電極の経時劣化は抑制されるが、劣化そのものを抑止できるわけではなく、めっき槽の底に堆積するクロム酸鉛の除去が必要である点は改善されておらず、また、除去されたクロム酸鉛は鉛含有廃棄物となるため、その処理に高額な費用が発生する。さらに、クロム酸鉛を除去する過程で作業者が鉛と接触する可能性があり、作業環境上の観点からも改良が望まれている。
鉛を用いず、環境負荷の低い白金をアノード電極として用いることも検討されてはいるが、酸化効率が低いために、鉛の代替品として用いることは困難であった。
【0006】
本発明の一態様は、鉛又は鉛合金電極を使用せず、鉛又は鉛合金と同程度の酸化効率を有するアノード電極を用いたクロムめっき層の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の別の態様は、金属クロムめっきに用いる、鉛又は鉛合金電極を使用しないめっき装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題の解決手段は、以下の実施形態を包含する。
【0008】
[1]
六価クロムイオン及び硫酸を含む電解液が貯留されためっき槽と、前記電解液に少なくとも一部が接触する導電性ダイヤモンドを含むアノードと、被めっき物であるカソードと、前記アノード及び前記カソードを連結する外部電源と、を備えためっき装置を用い、前記外部電源により電解液に電圧を印加し、電解液中に含まれる六価クロムイオンを電解によって還元し、前記カソード上にクロムめっき層を形成する工程を含む、クロムめっき層の製造方法。
[2]
前記アノードにおける導電性ダイヤモンドは、1.0atom%~2.0atom%のホウ素をドープした導電性ダイヤモンドである、[1]に記載のクロムめっき層の製造方法。
[3]
前記電解液に含まれる六価クロムイオンが、三酸化クロムをイオン原料とするクロム酸イオン、二クロム酸イオン、及び三クロム酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、[1]又は[2]に記載のクロムめっき層の製造方法。
[4]
前記電解液における三酸化クロムの含有量が200g/L~300g/Lであり、前記電解液における硫酸の含有量が2.0g/L~3.0g/Lである、[3]に記載のクロムめっき層の製造方法。
[5]
めっき槽、前記めっき槽中に貯留された電解液、前記電解液に少なくとも一部が接触する導電性ダイヤモンドを含むアノード、及び、被めっき物であるカソードを備える、めっき装置。
[6]
前記アノードに電圧を印加するための外部電源、電解液の温度を調整する装置、及び、電解液をろ過するフィルターをさらに備える、[5]に記載のめっき装置。
[7]
前記アノードにおける導電性ダイヤモンドは、1.0atom%~2.0atom%のホウ素をドープした導電性ダイヤモンドである、[5]又は[6]に記載のめっき装置。
[8]
前記電解液が、三酸化クロムをイオン原料とするクロム酸イオン、二クロム酸イオン、及び三クロム酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の六価クロムを含む、[5]~[7]のいずれか1つに記載のめっき装置。
[9]
前記電解液における三酸化クロムの含有量が200g/L~300g/Lであり、前記電解液における硫酸の含有量が2.0g/L~3.0g/Lである[5]~[8]のいずれか1つに記載のめっき装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、鉛又は鉛合金電極を使用せず、鉛又は鉛合金と同程度の酸化効率を有するアノード電極を用いたクロムめっき層の製造方法が提供される。
また、本発明の別の態様によれば、金属クロムめっきに用いる、鉛又は鉛合金電極を使用しないめっき装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示のめっき装置の一例を示す概略図である。
図2】めっき装置におけるアノードの種類を変えて電解液中で電解を行った場合の電解液中の三価クロムイオンの濃度変化を示すグラフである。
図3】イオン交換膜を用いてアノード電解液とカソード電解液を分離した状態で、各種アノードを用いて電解液中で電解を行った場合のアノード電解液中の三価クロムイオンの濃度変化を示すグラフである。
図4図4(A)は、アノードとして導電性ダイヤモンド電極を用いた実施例1に適用しためっき装置を用いた場合に、カソード上に電析されたクロムめっき層表面を撮影したデジタルマイクロスコープ画像を示し、図4(B)は、アノードとして鉛合金電極を用いた対照例1に適用しためっき装置を用いた場合に、カソード上に電析されたクロムめっき層表面を撮影したデジタルマイクロスコープ画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示のめっき装置を用いて、本開示のクロムめっき層の製造方法の実施形態について、図面を用いて説明する。
なお、本開示は、以下に示す実施形態に制限されず、本開示の主旨を逸脱しない種々の変形例を包含する。
【0012】
<クロムめっき層の製造方法>
本開示のクロムめっき層の製造方法(以下、「本開示の方法」と称することがある)は、六価クロムイオン及び硫酸を含む電解液が貯留されためっき槽と、前記電解液に少なくとも一部が接触する導電性ダイヤモンドを含むアノードと、被めっき物であるカソードと、前記アノード及び前記カソードを連結する外部電源と、を備えためっき装置を用い、前記外部電源により電解液に電圧を印加し、電解液中に含まれる六価クロムイオンを電解によって還元し、前記カソード上にクロムめっき層を形成する工程を含む。
【0013】
本開示の方法の作用は明確ではないが、導電性ダイヤモンドを含む電極が高い酸素過電圧を有し、化学的に安定であることにより、導電性ダイヤモンドを含む電極をアノードに用いてクロムめっき層を形成することにより、鉛又は鉛合金電極を用いなくても、電解液中の三価クロムイオンが導電性ダイヤモンドを含むアノード上で六価クロムイオンに酸化される。その結果、電解液中の三価クロムイオンの濃度の上昇が抑制され、カソード表面に形成されるクロムめっき層による被覆力の低下を抑制することができると推定される。
また、 本発明によれば、導電性ダイヤモンド電極をアノードとして用いることにより、電解液中の三価クロムイオンの濃度の上昇を抑制することができる。また、クロム酸鉛のような鉛含有廃棄物の発生をなくすことができる。さらに、作業者と鉛との接触をなくすことにより、作業環境を改善することができる。また本発明によれば、クロム酸鉛を除去する必要のないクロムめっき装置が提供される。
【0014】
本開示の方法において用いられる電解液は、六価クロムイオンを含む。
電解液に含まれる六価クロムイオンは、クロム酸イオン、二クロム酸イオン、及び三クロム酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。クロム酸イオン、二クロム酸イオン、及び三クロム酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種のイオンの原料として三酸化クロムを使用することができる。
電解液が、イオン原料である三酸化クロムを含むことで、電解液中で、三酸化クロムが溶解してイオンが生成され、電解液は、三酸化クロム由来のクロム酸イオン、二クロム酸イオン、及び三クロム酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むこととなる。
【0015】
より早いめっき速度が得られるという観点から、本開示の方法に用いられる電解液における三酸化クロムの含有量は高い方が適しており、例えば、200g/L~300g/Lであることが好ましい。また、めっき触媒として機能する硫酸の添加が電解液には重要であり、触媒として機能しやすいという観点からは、電解液における硫酸の添加量は、三価クロムの全量に対し、1質量%程度、即ち、2.0g/L~3.0g/Lであることが好ましい。
電解液における三酸化クロムの含有量は230g/L~270g/Lであることがより好ましい。
なお、上記電解液における三酸化クロムの含有量は仕込み量であり、電解液中では、三酸化クロムは六価クロムイオンの形態をとる。
なお、電解液中における三価クロムの含有量は、イオンクロマトグラフ、紫外可視分光光度計を用いる紫外・可視吸光度分析(Ultraviolet-Visible Absorption Spectroscopy:UV-Vis吸光度分析)などにより測定することができる。
電解液における硫酸の含有量は2.3g/L~2.7g/Lであることがより好ましい。
なお、上記電解液における硫酸の含有量は仕込み量であり、電解液中での硫酸は、水素イオンと硫酸イオンとに解離している。
【0016】
本開示の方法に用いられる電解液は、六価クロムイオン及び硫酸に加えて、さらに、所望により公知の添加剤を含むことができる。
添加剤としては、フルオロアルキルスルホン酸を加えることができる。フルオロアルキルスルホン酸としては、例えば、フルオロメタンスルホン酸が挙げられる。電解液が、さらに、フルオロアルキルスルホン酸を含むことで、クロムめっきの電流効率がより向上するため好ましい。ここで、電流効率とは、アノードとカソード間に供給した電流のうち、クロムの電析に消費された電流の比率を意味する。
なお、電解液の添加剤として公知のメタンスルホン酸の如きフッ素化されていないアルキルスルホン酸は、後述の導電性ダイヤモンドを含むアノード上で酸化分解されるため、電解液の添加剤としては不適である。
【0017】
本開示の方法におけるアノードは、導電性ダイヤモンドを含むアノード電極を用いる。導電性ダイヤモンドを含むアノード電極は、導電性基板、前記導電性基板の面上に位置する導電性ダイヤモンド薄膜から構成される。
本開示の方法において用いられる導電性ダイヤモンドを含むアノード電極は、硬度が高く、酸素過電圧が高く、電解による消耗が小さく、化学的に安定性に優れている。
導電性基板上に導電性ダイヤモンド薄膜を形成する方法には特に制限はないが、蒸着法等の気相法を適用することができる。導電性ダイヤモンドの形成方法については、以下に詳述する。
【0018】
導電性ダイヤモンドを含むアノード電極は、リード線と電気接点を持つ。リード線は、導電性ダイヤモンド薄膜及び導電性基板の少なくともいずれかに電気接点を持ち、導電性ダイヤモンド薄膜及び導電性基板の双方に電気接点を持っていてもよい。
【0019】
アノード電極におけるダイヤモンド薄膜に導電性を与える方法として、ホウ素をドーピングする方法が挙げられる。
具体的には、例えば、炭素源となる原料ガスに、ジボラン、トリメトキシボラン等のホウ素化合物を添加して、気相法により薄膜を形成することにより、ホウ素がドープされた導電性ダイヤモンド薄膜が得られる。
導電性ダイヤモンドにおけるホウ素のドープ量は、ダイヤモンドを構成する炭素原子数に対し、0.10atom%~2.0atom%とすることができ、好ましくは1.0atom%~2.0atom%である。
即ち、導電性ダイヤモンドは、1.0atom%~2.0atom%のホウ素をドープした導電性ダイヤモンドであることが好ましい。
導電性ダイヤモンドが1.0atom%~2.0atom%のドープ量のホウ素ドープダイヤモンドであることで、導電性ダイヤモンドは、高い酸素過電圧と導電性とを示し、有利な特性を持つ。
なお、ここで「atom%」は、「原子数%」と同義であり、ホウ素原子のドープ量は、ダイヤモンドを構成する原子数を基準とする値である。
【0020】
アノードに導電性ダイヤモンド薄膜を形成する方法としては、化学気相蒸着法(CVD)、例えば熱フィラメント化学気相蒸着法(HFCVD)を挙げることができる。
ホウ素ドープダイヤモンドを作製する場合、例えば、チタン等の導電性基板を成膜装置内に固定し、担持ガスとして水素、炭素源としてメタン、そしてホウ素源としてジボランを含む成膜用原料ガスを成膜装置内に供給し、フィラメントの熱により原料ガスを分解すると、sp3構造が保たれたまま炭素が堆積し、さらにホウ素が入り込むことにより、ホウ素ドープダイヤモンドが得られる。
CVD以外の導電性ダイヤモンド薄膜の成膜方法としては、イオンプレーティング法等の物理蒸着法を用いることができる。
導電性ダイヤモンド薄膜の厚みは、導電性基板が電解液と接触することなく被覆することができれば特に制限はないが、耐久性等を考慮すれば、5μm~20μmであることが好ましい。めっき効率の観点からは、導電性ダイヤモンド薄膜の厚みは薄くても問題はなく、耐久性の観点からは厚みがある方が好ましいため、上記範囲であれば、めっき効率と耐久性の双方が実用上問題のないレベルとなる。
導電性ダイヤモンド薄膜の厚みは、電子顕微鏡による断面観察で確認することができる。
【0021】
導電性ダイヤモンドを含むアノード電極に用いる導電性基板としては、導電性を有する材料からなる公知の導電性基板を適宜、選択して使用することができる。
導電性基板としては、例えば、p型シリコン等の半導体基板、チタン、ニオブ等の金属基板等を挙げることができる。なかでも、めっき処理における基板の腐食がより抑制されるという観点からは、チタン、及びニオブが好ましい。
【0022】
本開示の方法に用いられる導電性ダイヤモンドを含むアノード電極のサイズ及び形状には特に制限はなく、被めっき物の特性、目的とするクロムめっき層の膜厚等を考慮して適宜選択することができる。一般的には、使用性の観点から、1cm~100cmの面積、2mmの厚みの長方形の板とすることができる。これは一例であり、導電性ダイヤモンドを含むアノード電極のサイズは、めっき装置の大きさに応じて決定することができる。
【0023】
導電性ダイヤモンドを含むアノードにおける導電性ダイヤモンド薄膜の全部又は一部を電解液に浸漬させて、アノードに電圧を印加して使用する。
ただし、導電性ダイヤモンドを含むアノード電極と、電極に接合されるリード線との接点部分を電解液に浸漬させて使用することは、接点部分の腐食の虞があるため、避けるべきである。
【0024】
本開示の方法におけるカソードとしては、被めっき物を用いる。被めっき物は導電性を有する材料であれば制限はない。
被めっき物の材質は、導電性を有すること以外、特に限定されない。被めっき物の材質としては、例えば、鉄鋼、ニッケル等が挙げられる。鋼に含まれる炭素、その他金属の種類と含有量とは、目的に応じて選択される。また、鉄自体も被めっき物として使用することができる。
被めっき物は、電気接点を有する治具に固定した状態でめっき装置に固定される。電気接点を有する治具の材質としては、導電性に優れた銅、アルミニウム等が挙げられる。
【0025】
カソードとしての被めっき物の大きさ、及び形状は特に限定されないが、被めっき物の表面積は、導電性ダイヤモンドを含むアノード電極の表面積の1/2以下であることが、被めっき物上における三価クロムイオン生成の抑制という観点から好ましい。
これは、被めっき物の表面積が小さいほどカソード上における三価クロムイオンの生成量が減少するためである。
【0026】
本開示の方法により、被めっき物にクロムめっき層を作製する場合、被めっき物の材質に応じた適切な前処理を、予め被めっき物に対して行うことが好ましい。
例えば、被めっき物として鉄鋼を用いる場合には、鉄鋼に対し、アルカリ脱脂、アルカリ電解脱脂、酸活性処理等の前処理を適用することができる。例えば、脱脂処理により被めっき物表面から油脂等の不純物を除去することで、めっき層の形成性がより良好となる。
【0027】
本開示の方法では、クロムめっき層の製造は、外部電源によりアノード及びカソードの両電極間に印加される電圧及び電流密度の少なくともいずれかを制御して行ってもよい。電流は、直流あるいはパルス電流を使用することができる。
【0028】
本開示の方法において、クロムめっき層の製造時におけるカソードの電流密度は、10A/dm~30A/dmとすることができ、25A/dm~30A/dmとすることが好ましい。
【0029】
本開示の方法において、クロムめっき層の製造時におけるアノード、及び被めっき物であるカソードの両電極間の電圧は、0.1V~15Vとすることができる。なお、アノード及びカソードの両電極間の電圧は、電流密度、被めっき物の表面積、電解液の組成等を考慮して適宜決定することができる。
【0030】
本開示の方法において、アノードに電圧を印加するために、外部電源を用いることができる。外部電源は電圧及び電流を制御する機能を備える電源を用いる。外部電源は、例えば、電解中の電流をある一定の値に維持するためのガルバノスタット機能を有することが好ましい。
また、外部電源は必要な電圧及び電流を供給できるだけの出力が必要である。外部電源としては、公知の電源を用いることができ、例えば、シリコン整流器等が挙げられる。
【0031】
本開示の方法においては、六価クロムイオン及び硫酸を含む電解液が貯留されためっき槽において、電解液に少なくとも一部が接触する導電性ダイヤモンドを含むアノードと、電解液に浸漬された被めっき物であるカソードとを用い、前記外部電源により前記アノードを用いて電解液に電圧を印加し、電解液中に含まれる六価クロムを電解によって還元し、被めっき物であるカソード上にクロムめっき層を形成する。
【0032】
本開示の方法に用いられる導電性ダイヤモンドを含むアノードは、酸素過電圧が高く、化学的に安定性に優れているため、鉛又は鉛合金電極を用いなくても、電解液中の三価クロムの濃度の上昇が抑制され、カソード表面に形成されるクロムめっき層による被覆力の低下を抑制することができる。さらに、クロムめっき層の製造後においても、電解液中に所望されないクロム酸鉛等の鉛含有廃棄物が生成されることはなく、作業環境上も好ましい方法であり、その応用範囲は広い。
【0033】
本開示の方法に適用するめっき装置としては、以下に示す本開示のめっき装置が好ましい。
【0034】
<めっき装置>
本開示のめっき装置は、めっき槽、前記めっき槽中に貯留された電解液、前記貯留された電解液に少なくとも一部が接触する導電性ダイヤモンドを含むアノード、及び、被めっき物であるカソードを備える。
本開示のめっき装置は、前記アノードに電圧を印加するための外部電源、電解液の温度を調整する装置、及び、電解液をろ過するフィルターをさらに備えることが好ましい。
【0035】
本開示のめっき装置に用いられるアノード、カソード、電解液、及び外部電源は、既述の本開示の方法で挙げたものと同様で有り、好ましい例も同じである。
具体的には、めっき装置における前記アノードが含む導電性ダイヤモンドが、1.0atom%~2.0atom%のホウ素をドープした導電性ダイヤモンドであることが好ましい。
めっき装置のめっき浴中に貯留される電解液は、三酸化クロムをイオン原料とするクロム酸イオン、二クロム酸イオン、及び三クロム酸イオンからなる群より選ばれる少なくとも1種の六価クロムイオンを含むことが好ましく、前記電解液における三酸化クロムの含有量が200g/L~300g/Lであり、前記電解液における硫酸の含有量が2.0g/L~3.0g/Lであることが好ましい。
【0036】
本開示のめっき装置は、アノードに電圧を印加するための外部電源を備えることが好ましい。外部電源としては、電圧及び電流を制御する機能を備える電源を用いる。外部電源は、例えば、電解中の電流をある一定の値に維持するためのガルバノスタット機能を有することが好ましい。
外部電源は必要な電圧及び電流を供給できるだけの出力が必要である。外部電源としては、公知の電源を用いることができ、例えば、シリコン整流器等が挙げられる。
【0037】
本開示のめっき装置は、めっき槽中に貯留された電解液の温度を調整するための温度センサー及びヒーターを備えることが好ましい。
温度センサーは、電解液の温度を正確に測定することができれば特に制限はない。温度センサーとしては、電解液中にセンサー部分を浸漬して使用できる装置を用いることができる。本開示のめっき装置に用い得る温度センサーとしては、例えば、ペルフルオロアルコキシアルカン(PFA)で被覆した白金抵抗体等が挙げられる。
温度センサーで測定した電解液の温度に応じて、温度センサーと連動したヒーターが作動し、めっき槽中における電解液の温度を、めっきに適する温度に維持することができる。電解液の温度を好適な範囲に維持することにより、めっき層の形成効率がより向上する。
電解液の温度は45℃~55℃とすることができる。
本開示のめっき装置に用い得るヒーターには特に制限はなく、公知のヒーターを適宜使用することができる。ヒーターとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)で被覆した電気ヒーター等が挙げられる。
なかでも、ヒーターの電解液に接触する部分は、安定性の観点から、PTFE等のフッ素樹脂、チタン、タンタル、石英等で構成されることが好ましい。
【0038】
本開示のめっき装置は、電解液をろ過するためのポンプとフィルターを備えることができる。連続的にカソード表面にクロムめっき層の形成を行う場合、電解液をポンプで回収し、フィルターを介して固形物を除去した後、めっき槽に供給することで、カソードにおけるクロムめっき層の製造効率がより向上する。
ポンプの流量は、めっき装置におけるめっき槽の大きさに応じて適宜決定することができる。
【0039】
本開示のめっき装置を、めっき装置の一例を示す図1を参照して説明する。
図1に示すめっき装置10は、アノード12、カソード14、めっき槽18、めっき槽18に貯留された電解液20、外部電源16、温度センサー22、ヒーター24、めっき槽に貯留された電解液を循環させるポンプ26、及び電解液から固形物を除去するフィルター28を備える。
アノード12として、導電性ダイヤモンドを含む電極を用いる。カソード14として被めっき物を用いる。
めっき槽18内の電解液20は撹拌することが好ましい。めっき槽18に貯留された電解液20を、ポンプ26を用いて循環させることで、めっき槽内の電解液を撹拌することができる。また、所望により、めっき槽に電解液を撹拌する撹拌装置を別途備えてもよい。
【0040】
本開示のめっき槽を用いたクロムめっき層の製造は、以下の手順で行うことができる。
(1)めっき槽に電解液を入れる。
電解液を撹拌しながら、ヒーターを用いて電解液を一定の温度に加温する。電解液の温度を温度センサーにて測定しながら、ヒーターを用いて電解液の温度を一定の範囲に維持することが好ましい。
(2)導電性ダイヤモンドを含む電極をアノードとしてめっき槽に設置し、アノードをめっき槽に貯留された電解液と接触させる。
(3)好ましくは、予め前処理された被めっき物をカソードとしてめっき槽に固定する。
(4)その後、直ちにアノードに外部電源から電圧を印加し、被めっき物であるカソードにめっきを行い、クロムめっき層を形成する。
【実施例0041】
以下、実施例を用いて本開示の方法及びめっき装置を具体的に説明する。ただし、実施例は、本開示は一態様を示すにすぎず、本開示は以下に示す実施例によって制限されるものではない。
【0042】
[実施例1]
(導電性ダイヤモンドを含むアノードの製造)
導電性ダイヤモンドを含むアノード電極を、熱フィラメントCVD法により、導電性基板上に導電性ダイヤモンドを成膜することにより作製した。
導電性基板は、表面積が50cm、厚みが0.2mmのチタン板(株式会社ニラコ)を用いた。
導電性ダイヤモンドを成膜は、原料ガスの流量比を、メタン:水素:ホウ素原料ガス=3:200:0.01とし、CVD装置を用いて実施した。その後、導電性基板上に導電性ダイヤモンド薄膜が形成されたことを確認した。
導電性基板上に形成された導電性ダイヤモンド薄膜のホウ素のドープ量を、二次イオン質量分析装置(CAMECA、IMS-7f)で測定したところ、17,000ppm(1.7atom%)であった。
電子顕微鏡を用いて導電性ダイヤモンド薄膜の断面を観察し、導電性ダイヤモンド薄膜の厚みを測定したところ、約5μmであった。
【0043】
作製した導電性ダイヤモンド薄膜を有するアノード電極を、テフロン(登録商標)テープを用いてマスキングし、表面積を15cmとした。また、金ワイヤーを用いて導電性ダイヤモンド薄膜を有するアノード電極と電気接点を取った。
作製した導電性ダイヤモンド電極は、表面を清浄化するために、使用前に0.1M硫酸水溶液中において、100mAの定電流条件にて15分間電解酸化を行った。
【0044】
(クロムめっき層の製造)
導電性ダイヤモンドを含むアノード電極を図1に示すめっき装置のめっき槽に固定した。
表面積5cmの鉄板をカソードとしてめっき槽に固定した。
電解液としては、溶媒としての水に三酸化クロム250g/L及び硫酸2.5g/Lを含む電解液を調製した。得られた電解液200mlをめっき槽に注入した。めっき槽を、温度センサーとヒーターとを備える恒温槽として、電解液の温度を50℃に保持し、マグネットスターラーを用いて電解液の撹拌を継続した。
カソードにおける電流密度が30A/dmとなるように、外部電源を用いてカソードに定電流を供給し電解を行った。
カソードである鉄板は6時間ごとに新しいものに取り換え、後述の評価1を実施するため、定電流の供給を50時間継続した。
【0045】
[対照例1]
対照例として、実施例1で用いた導電性ダイヤモンドを含むアノード電極に換えて、鉛合金電極(Pb:Sn重量比=95:5、山本鍍金試験機)を用いた以外は、実施例1と同様にして、クロムめっき層の製造を行った。
【0046】
上記実施例1及び対照例において、それぞれの電解液及び形成されたクロムめっき層について、以下の評価を行った。
【0047】
(評価1:電解液中の三価クロムイオン濃度測定:三価クロムイオン濃度上昇の抑制効果)
電解液中の三価クロムイオンの濃度を測定するために、一定時間ごとに電解液を採取した。採取して電解液を5倍に希釈し、希釈液の590nmの吸光度をUV-Vis吸光光度計(日立製作所、U-2000)を用いて測定した。
結果を図2に示す。図2は、めっき装置における電解液中で電解を行った場合の電解液中の三価クロムイオンの濃度変化を示すグラフである。
その結果、図2に示す如き三価クロムイオンの濃度の経時変化が得られた。導電性ダイヤモンドを含むアノード電極を使用した実施例1では、三価クロムイオンの濃度は0.93g/L~1.42g/Lの範囲に保たれ、めっき処理の経時に伴う三価クロムイオンの濃度の上昇が抑制されたことがわかる。
対照例1である鉛合金電極を用いた場合にも同様な傾向が見られた。公知のアノード電極である鉛合金電極を用いた場合も、20時間ほど評価を続けた結果、三価クロムイオン濃度の上昇が抑制されることが確認された。
【0048】
金属クロムめっきに関するこれまでの知見によれば、三価クロムの濃度が7g/L以上になるとクロムめっきの被覆力、即ち、クロムめっき層の形成性が低下することが知られている。実施例1で用いた導電性ダイヤモンドを含むアノード電極は、50時間に及んで三価クロムの濃度を適切なレベルに保持し、従来、クロムめっきに使用されてきた鉛合金電極と同様な特性を示すことが確認された。
【0049】
(評価2:電極による三価クロムイオンの電解酸化)
実施例1において用いた導電性ダイヤモンドを含むアノード電極において、評価の目的で、マスキングによる電極の表面積を30cmとした。実施例1と同様に、表面を清浄化するために、硫酸水溶液中において電解酸化を行った。
【0050】
実施例1における導電性ダイヤモンドを含むアノード電極、及び対照例1における鉛合金電極をそれぞれアノードとして、評価1に用いたものと同じめっき槽に固定した。カソードとして、表面積10cmの白金電極(株式会社ニラコ)をめっき槽に固定した。
めっき槽において、陽イオン交換膜(AGC、セレミオンAMV)を用いてアノードとカソードを分離し、アノード側に150mlの電解液、カソード側に50mlの電解液を注入した。
電解液として、三酸化クロム250g/L、硫酸2.5g/L、及び硫酸クロム(III)10mmol/Lを含む電解液を用いた。
マグネットスターラーを用いて電解液を撹拌しながら、カソードの電流密度が5A/dmとなるようにカソードに定電流を供給し、6時間に亘り電解を継続的に行った。
【0051】
電解液中の三価クロムイオンの濃度を測定するために、一定時間ごとに電解液を採取した。採取した電解液を5倍に希釈した希釈液を被検体とし、590nmの吸光度を、UV-Vis吸光光度計(日立製作所、U-2000)を用いて測定した。
結果を図3に示す。図3は、イオン交換膜を用いてアノード電解液とカソード電解液を分離した状態で、各種アノードを用いて電解液中で電解を行った場合のアノード電解液中の三価クロムの濃度変化を示すグラフである。
【0052】
図3に示すように、実施例1で用いた導電性ダイヤモンドを含むアノード電極の場合、アノード電解液中の三価クロムイオンの濃度が経時的に変化した。導電性ダイヤモンドを含むアノード電極を使用した場合、アノード電解液中の三価クロムイオンの濃度は経時的に減少し、アノード電極上で三価クロムイオンが六価クロムイオンに酸化されたことが示唆される。
対照例1で用いた鉛合金電極の場合も、実施例1における場合と同様に三価クロムイオンの濃度が減少した。このことから、鉛合金電極を用いた場合においても、アノード電極上で三価クロムイオンが六価クロムイオンに酸化されたことが示唆される。
【0053】
実施例1における導電性ダイヤモンドを含むアノード電極、及び対照例1における鉛合金電極は、いずれも、酸素過電圧が高いため、水の電解と並行して三価クロムイオンの酸化が進行したと考えられる。
【0054】
導電性ダイヤモンドを含むアノード電極を使用した場合の、電解開始後1時間における三価クロムイオンの酸化反応に対する電流効率は9.58%であった。また、鉛合金電極を使用した場合の、電解開始後1時間における三価クロムイオンの酸化反応に対する電流効率は8.31%であった。この場合の電流効率とは供給した電流に含まれる全電荷量に対して三価クロムイオンの酸化に消費された電荷量の割合である。以上の結果から、導電性ダイヤモンドを含むアノード電極は、三価クロムイオンの酸化反応に対して、従来公知の鉛合金電極と同様に高い活性を示すことが確認された。
【0055】
(評価3:得られたクロムめっき層の特性)
実施例1の実験を行った後に、カソード上に得られたクロムめっき層の物性評価を行った。元素分析は、蛍光X線膜厚計(BOWMAN、BA-100)、硬度測定は、ヴィッカース硬度計(Future-Tech、FM-300e)、形態観察はデジタルマイクロスコープ(キーエンス、VHX-2000)を用いて行った。
実施例1では、得られたクロムめっき層の蛍光X線分析の結果から、明瞭なクロムのKα線のピークが確認され、クロムめっき層が、純度の高いクロム層であることが示された。
また、実施例1で得られたクロムめっき層の硬度は、Hv983であり、高い硬度を示した。
対照例1で得られたクロムめっき層の硬度は、Hv991であり、高い硬度を示した。
これらの結果より、導電性ダイヤモンドを含むアノード電極を用いて得られたクロムめっき層の硬度は、鉛合金電極を用いて得たクロムめっき層の硬度と同等であり、いずれも実用上問題のない硬度を示すことがわかった。
【0056】
図4(A)は、実施例1で得たクロムめっき層のマイクロスコープ画像であり、図4(B)は、対照例1で得たクロムめっき層のマイクロスコープ画像である。
どちらの画像にも明瞭なクラックが確認された。マイクロスコープ画像におけるめっき層表面のクラックは、クロムめっき層に特有の形態である。
以上の物性の評価結果から、導電性ダイヤモンド電極を用いた場合に得られたクロムめっき層の特性は、鉛合金電極を用いた場合に得られたクロムめっき層と同様の優れた特性を示すことが確認された。
【0057】
[比較例1]
鉛電極又は鉛合金電極の代替品として、公知の白金電極をアノード電極として用いた。即ち、導電性ダイヤモンドを含むアノード電極に換えて、アノード電極として白金電極(白金板、株式会社ニラコ)を用いた以外は、実施例1と同様にしてカソードにおける電流密度が30A/dmとなるように、外部電源を用いてカソードに連続的に定電流を供給し電解を行った。
実施例1と同様にして、評価1及び評価2を実施した。
【0058】
(評価1)
比較例1において、実施例1と同様にして電解液中の三価クロムイオンの濃度測定を行った。結果を図2に併記した。
図2に明らかなように、比較例1において白金電極をアノード電極として用いた場合には、経時的に三価クロムイオンの濃度が上昇し、三価クロムイオンの濃度の抑制効果は認められず、18時間ほどで、三価クロムイオンの濃度が、クロムめっき層の形成性が低下するとされる7g/L以上となったため、評価を終了した。
(評価2)
比較例1において、実施例1と同様にして、イオン交換膜を用いてアノード電解液とカソード電解液を分離した状態で、電解液中で電解を行った場合のアノード電解液中の三価クロムイオンの濃度変化を測定した。結果を図3に示す。
図3に明らかなように、比較例1において白金電極を用いた場合には、アノード電解液中の三価クロムイオンの濃度は変化せず、三価クロムイオンの酸化反応は認められなかった。白金電極は酸素過電圧が低いため、供給した電流のほとんどが水の電解による酸素発生に消費され、三価クロムイオンが酸化されなかったためと考えられる。
【0059】
[比較例2]
鉛電極又は鉛合金電極の代替品として、公知の酸化イリジウムをアノード電極として用いた。即ち、導電性ダイヤモンドを含むアノード電極に換えて、アノード電極として酸化イリジウム電極(チタン基板上に20g/mの酸化イリジウムを析出させた電極、株式会社JCU)を用いた以外は、実施例1と同様にしてカソードにおける電流密度が30A/dmとなるように、外部電源を用いてカソードに連続的に定電流を供給し電解を行った。
実施例1と同様にして、評価1及び評価2を実施した。
【0060】
(評価1)
比較例2において、実施例1と同様にして電解液中の三価クロムイオンの濃度の測定を行った。結果を図2に併記した。
図2に明らかなように、比較例2において酸化イリジウムをアノード電極として用いた場合には、経時的に三価クロムイオンの濃度が上昇し、三価クロムイオンの濃度の抑制効果は認められなかったため、評価を18時間ほどで終了した。
(評価2)
比較例2において、実施例1と同様にして、イオン交換膜を用いてアノード電解液とカソード電解液を分離した状態で、電解液中で電解を行った場合のアノード電解液中の三価クロムイオンの濃度変化を測定した。結果を図3に示す。
図3に明らかなように、比較例1において酸化イリジウム電極を用いた場合には、アノード電解液中の三価クロムイオンの濃度は変化せず、三価クロムイオンの酸化反応は認められなかった。これは、酸化イリジウム電極の酸素過電圧が低いため、供給した電流のほとんどが水の電解による酸素発生に消費され、三価クロムイオンが酸化されなかったためと考えられる。
従って、比較例1及び比較例2によっては、電解液中の三価クロムイオンの濃度は適切な範囲に維持されなかった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示のクロムめっき層の製造方法及び本開示のめっき装置によれば、鉛電極あるいは鉛合金電極を使用せずに良好なクロムめっき層の製造が可能となる。また、鉛又は鉛合金を用いないため、作業環境上も好ましいクロムめっき層の製造が可能となるという利点をも有する。
【符号の説明】
【0062】
10 めっき装置
12 アノード(導電性ダイヤモンドを含むアノード電極)
14 カソード(被めっき物)
16 外部電源
18 めっき槽
20 電解液
22 温度センサー
24 ヒーター
26 ポンプ
28 フィルター
図1
図2
図3
図4