(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033530
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】立方晶窒化硼素焼結体
(51)【国際特許分類】
C22C 29/16 20060101AFI20240306BHJP
C22C 1/051 20230101ALI20240306BHJP
C04B 35/5831 20060101ALI20240306BHJP
B23B 27/20 20060101ALN20240306BHJP
B23B 27/14 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C22C29/16 A
C22C1/05 M
C04B35/5831
B23B27/20
B23B27/14 B
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137154
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 貴英
【テーマコード(参考)】
3C046
4K018
【Fターム(参考)】
3C046FF35
3C046FF39
3C046FF41
3C046FF42
3C046FF50
3C046FF52
3C046HH06
4K018AB02
4K018AB03
4K018AC01
4K018AD14
4K018BA04
4K018BA08
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC13
4K018EA15
4K018KA15
(57)【要約】
【課題】優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することで、工具寿命を延長することができる立方晶窒化硼素焼結体を提供する。
【解決手段】立方晶窒化硼素と結合相とを含み、立方晶窒化硼素の含有割合は、焼結体の総量に対して85体積%以上95体積%以下であり、結合相の含有割合は、焼結体の総量に対して5体積%以上15体積%以下であり、結合相は、Co3W3C、W2Co21B6、及びAl化合物を含み、立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をIA、Co3W3Cの(400)面のX線回折ピーク強度をIB、W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度をIC、WCの(001)面のX線回折ピーク強度をIDとしたとき、IB/IAが0.02以上0.15以下であり、IC/IAが0.02以上1.00以下であり、IC≧IDである、立方晶窒化硼素焼結体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素の含有割合は、前記焼結体の総量に対して85体積%以上95体積%以下であり、
前記結合相の含有割合は、前記焼結体の総量に対して5体積%以上15体積%以下であり、
前記結合相は、Co3W3C、W2Co21B6、及びAl化合物を含み、
前記立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をIA、前記Co3W3Cの(400)面のX線回折ピーク強度をIB、前記W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度をIC、WCの(001)面のX線回折ピーク強度をIDとしたとき、
IB/IAが0.02以上0.15以下であり、
IC/IAが0.02以上1.00以下であり、
IC≧IDである、立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項2】
ID/IAが0.00以上0.20以下である、請求項1に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項3】
IC/IBが0.2以上15.0以下である、請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項4】
前記W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度ICの半価幅が0.25以上0.60以下である、請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【請求項5】
前記立方晶窒化硼素の平均粒径が0.5μm以上4.0μm以下である、請求項1又は2に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立方晶窒化硼素焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化硼素(以下「cBN」ともいう。)は、ダイヤモンドに次ぐ高い硬度と優れた熱伝導性を持つ。また、立方晶窒化硼素は、ダイヤモンドに比べて鉄との親和性が低いという特徴を持つ。そのため、立方晶窒化硼素と、金属やセラミックスの結合相とからなる立方晶窒化硼素焼結体は、切削工具や耐摩耗工具などに用いられている。
【0003】
焼結金属は成形性が高く、複雑な形状を有していることが多いため、工具によって加工した場合に、熱衝撃によって工具に欠損が生じやすい。また、焼結金属は硬質粒子を含むことがあるため、工具が摩耗しやすい。そのため、焼結金属の加工には立方晶窒化硼素が用いられることが多く、特に、立方晶窒化硼素含有率の高い立方晶窒化硼素焼結体について多くの検討がなされている。
【0004】
例えば、特許文献1には、85体積%以上100体積%未満の立方晶窒化硼素粒子と、残部の結合材と、を備える立方晶窒化硼素焼結体であって、上記結合材は、WC、CoおよびAl化合物を含み、上記結合材は、W2Co21B6を含み、上記立方晶窒化硼素粒子の(111)面のX線回折強度をIA、上記WCの(100)面のX線回折強度をIB、上記W2Co21B6の(420)面のX線回折強度をICと表したとき、上記IAに対する上記ICの比IC/IAが0を超えて0.10未満であり、上記IBに対する上記ICの比IC/IBが0を超えて0.40未満である、立方晶窒化硼素焼結体について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年は、切削加工においてさらに高能率化が求められているため、高速化、高送り化、及び深切り込み化が一層顕著になっている。このような傾向に伴い、焼結金属の高速加工においても、耐摩耗性及び耐欠損性に優れ、長い工具寿命を有することのできる立方晶窒化硼素焼結体が求められている。
【0007】
このような背景において、特許文献1に記載の立方晶窒化硼素焼結体は、Co3W3Cを十分に含まず、さらに、W2Co21B6の(420)面のX線回折強度がWCの(100)面のX線回折強度よりもはるかに小さいことから、WCの含有割合が高く、立方晶窒化硼素焼結体の結合力を弱くする傾向にあるため、耐欠損性が低下しやすい。
【0008】
本発明は、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することによって、工具寿命を延長することができる立方晶窒化硼素焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、工具寿命の延長について研究を重ねたところ、立方晶窒化硼素焼結体を特定の構成にすると、その耐摩耗性及び耐欠損性を向上させることが可能となり、その結果、工具寿命を延長することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の要旨は、以下の通りである。
[1]
立方晶窒化硼素と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、
前記立方晶窒化硼素の含有割合は、前記焼結体の総量に対して85体積%以上95体積%以下であり、
前記結合相の含有割合は、前記焼結体の総量に対して5体積%以上15体積%以下であり、
前記結合相は、Co3W3C、W2Co21B6、及びAl化合物を含み、
前記立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をIA、前記Co3W3Cの(400)面のX線回折ピーク強度をIB、前記W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度をIC、WCの(001)面のX線回折ピーク強度をIDとしたとき、
IB/IAが0.02以上0.15以下であり、
IC/IAが0.02以上1.00以下であり、
IC≧IDである、立方晶窒化硼素焼結体。
[2]
ID/IAが0.00以上0.20以下である、[1]に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[3]
IC/IBが0.2以上15.0以下である、[1]又は[2]に記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[4]
ICの半価幅が0.25以上0.60以下である、[1]から[3]のいずれかに記載の立方晶窒化硼素焼結体。
[5]
前記立方晶窒化硼素の平均粒径が0.5μm以上4.0μm以下である、[1]から[4]のいずれかに記載の立方晶窒化硼素焼結体。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた耐摩耗性及び耐欠損性を有することによって、工具寿命を延長することができる立方晶窒化硼素焼結体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明は下記本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0013】
[立方晶窒化硼素焼結体]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素(以下、「cBN」ともいう。)と結合相とを含む立方晶窒化硼素焼結体であって、立方晶窒化硼素の含有割合は、焼結体の総量に対して85体積%以上95体積%以下であり、結合相の含有割合は、焼結体の総量に対して5体積%以上15体積%以下であり、結合相は、Co3W3C、W2Co21B6、及びAl化合物を含み、立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をIA、Co3W3Cの(400)面のX線回折ピーク強度をIB、W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度をIC、WCの(001)面のX線回折ピーク強度をIDとしたとき、IB/IAが0.02以上0.15以下であり、IC/IAが0.02以上1.00以下であり、IC≧IDである。
【0014】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、上記の構成とすることにより、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させることが可能となり、その結果、工具寿命を延長することができる。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体が、工具の耐摩耗性及び耐欠損性を向上させ、工具寿命の長いものとする要因は、詳細には明らかではないが、本発明者はその要因を下記のように考えている。ただし、要因はこれに限定されない。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有割合が85体積%以上であることにより、結合相の割合が相対的に少なくなるため、硬さが向上し、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有割合が95体積%以下であることにより、立方晶窒化硼素粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。さらに、切削加工において、被加工物の加工面の表面粗さが小さくなり、加工後の外観も良好となる傾向にある。
また、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、結合相の含有割合が、5体積%以上であることにより、cBN粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。一方、立方晶窒化硼素焼結体は、結合相の含有割合が15体積%以下であることにより、相対的にcBNの含有割合を多くし、硬さが向上した結果、耐摩耗性に優れる。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、上記IB/IAが0.02以上であることにより、cBN焼結体の結合力が向上し、耐欠損性に優れる。一方、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、IB/IAが0.15以下であることにより、cBN焼結体の硬度低下が抑制され、耐摩耗性に優れる。また、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、上記IC/IAが0.02以上であることにより、立方晶窒化硼素焼結体がW2Co21B6を適度に含むことで、切削加工時の亀裂がcBNに伝搬することを抑制し、耐チッピング性に優れる。一方、立方晶窒化硼素焼結体においてIC/IAが1.00以下であることにより結合相の靭性が向上し、耐欠損性に優れる。さらに、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、IC≧IDであることにより、cBN焼結体の結合力が向上し、耐欠損性に優れる。
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、上述の効果が相俟った結果、耐摩耗性及び耐欠損性を向上させ、工具寿命を延長することができる。
【0015】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、cBNと結合相とを含む。cBNの含有割合は、焼結体の総量に対して85体積%以上95体積%以下である。結合相の含有割合は、焼結体の総量に対して5体積%15体積%以下である。なお、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、cBNと結合相との合計の含有割合は100体積%となる。
【0016】
[立方晶窒化硼素(cBN)]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素の含有割合が85体積%以上であることにより、結合相の割合が相対的に少なくなるため、硬さが向上し、耐摩耗性に優れる。一方、本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の含有割合が95体積%以下であることにより、立方晶窒化硼素粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。さらに、切削加工において、被加工物の加工面の表面粗さが小さくなり、加工後の外観も良好となる傾向にある。同様の観点から、立方晶窒化硼素の含有割合は、85体積%以上92体積%以下であることが好ましく、85体積%以上90体積%以下であることがより好ましい。
【0017】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素(cBN)の平均粒径は、0.5μm以上4.0μm以下であることが好ましい。立方晶窒化硼素焼結体は、cBNの平均粒径が0.5μm以上であることにより、cBN粒子の脱落を抑制することができ、また、cBNの平均粒径が4.0μm以下であることにより、機械的強度が向上し、耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、cBNの平均粒径は、0.5μm以上3.2μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上2.4μm以下であることがより更に好ましい。
【0018】
本実施形態において、cBNの平均粒径は、例えば、以下のようにして求めることができる。
立方晶窒化硼素焼結体の断面組織をSEMによって撮影する。撮影した組織写真を解析することでcBN粒子の面積を求め、この面積と等しい面積の円の直径をcBNの粒径として求める。
複数のcBN粒子の粒径の平均値を、cBNの平均粒径として求める。cBNの平均粒径は、立方晶窒化硼素焼結体の断面組織の画像から、市販の画像解析ソフトを用いて求めることができる。より具体的には、後述の実施例に記載の方法により求めることができる。
【0019】
[結合相]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、結合相の含有割合が5体積%以上であることにより、cBN粒子の脱落を抑制することができ、耐摩耗性に優れる。一方、立方晶窒化硼素焼結体は、結合相の含有割合が15体積%以下であることにより、相対的にcBNの含有割合を多くし、硬さが向上した結果、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、結合相の含有割合は、8体積%以上15体積%以下であることが好ましく、10体積%以上15体積%以下であることがより好ましい。
【0020】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、結合相において、Co3W3C、W2Co21B6、及びAl化合物を含み、立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をIA、Co3W3Cの(400)面のX線回折ピーク強度をIB、W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度をIC、WCの(001)面のX線回折ピーク強度をIDとしたとき、IB/IAが0.02以上0.15以下であり、IC/IAが0.02以上1.00以下であり、IC≧IDである。
【0021】
本実施形態の結合相に含まれ得る化合物として、Co3W3C、W2Co21B6、及びAl化合物以外は、特に限定されないが、例えば、Wを含む化合物として、WC、CoWB、W2C、WB等が挙げられる。また、Al化合物(Al元素を有する化合物)としては、例えば、CoAl、AlN、AlB2、及びAl2O3、並びにこれらの複合化合物等が挙げられる。
さらに、Cr化合物(Cr元素を有する化合物)としては、例えば、CrN、Cr2N、Cr3C2、Cr7C3、Cr23C6、Cr2O3、及びCrB2、並びにこれらの複合化合物等が挙げられる。本実施形態において、結合相にCr化合物を含むと好ましく、同様にCrNを含むとより好ましい。Cr化合物を含むことで、焼結中に生じるW2Co21B6の粒成長が抑制される傾向にある。
上記以外の本実施形態の結合相に含まれ得る化合物としては、例えば、TiN、TiC、Ti(C,N)、TiB2、Co、Co5.47N、CoN等が挙げられる。
【0022】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をIA、Co3W3Cの(400)面のX線回折ピーク強度をIBとしたとき、IB/IAが0.02以上0.15以下である。IB/IAが0.02以上であることにより、cBN焼結体の結合力が向上し、耐欠損性に優れる。また、IB/IAが0.15以下であることにより、cBN焼結体の硬度低下が抑制され、耐摩耗性に優れる。同様の観点から、IB/IAは0.04以上0.14以下であることが好ましく、0.05以上0.13以下であることがより好ましい。
【0023】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をIA、W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度をICとしたとき、IC/IAが0.02以上1.00以下である。IC/IAが0.02以上であることにより、立方晶窒化硼素焼結体がW2Co21B6を適度に含むことで、切削加工時の亀裂がcBNに伝搬することを抑制し、耐チッピング性に優れる。また、IC/IAが1.00以下であることにより結合相の靭性が向上し、耐欠損性に優れる。同様の観点から、IC/IAが0.02以上0.88以下であることが好ましく、0.06以上0.73以下であることがより好ましい。
【0024】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度をIC、WCの(001)面のX線回折ピーク強度をIDとしたとき、IC≧IDの関係を満たす。IC≧IDであることにより、cBN焼結体の結合力が向上し、耐欠損性に優れる。同様の観点から、ID/ICが0.00以上1.00以下であることが好ましく、0.00以上0.60以下であることが更に好ましく、0.00以上0.42以下であるとより更に好ましい。
【0025】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、WCの(001)面のX線回折ピーク強度をID、立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をIAとしたとき、ID/IAが0.00以上0.20以下であることが好ましい。ID/IAが0.20以下であることにより、立方晶窒化硼素焼結体の結合力が向上し、耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、ID/IAは0.00以上0.16以下であることがより好ましく、0.00以上0.08以下であることが更に好ましく、0.00であるとより更に好ましい。
【0026】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、Co3W3Cの(400)面のX線回折ピーク強度をIB、W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度をICとしたとき、IC/IBが0.2以上15.0以下であることが好ましい。IC/IBが0.2以上であることにより、立方晶窒化硼素焼結体が、W2Co21B6を所定量以上含むこととなり、切削加工時の亀裂が立方晶窒化硼素に伝搬することを抑制し、耐チッピング性及び耐欠損性に優れる傾向にある。また、IC/IBが15.0以下であると、立方晶窒化硼素焼結体の結合力、及び/又は結合相の靭性が向上し、耐欠損性に優れる傾向にある。同様の観点から、IC/IBは0.6以上13.5以下であることがより好ましく、0.6以上12.0以下であることが更に好ましい。
【0027】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、結合相に含まれるAlの含有割合は、焼結体に含まれる全ての元素の合計100質量%に対して、0.3質量%以上5質量%以下であってもよい。Alの含有割合が0.3質量%以上であると、Al元素がcBN粒子表面の酸素原子と反応することにより、cBN粒子の脱落が抑制される傾向にある。また、Alの含有割合が5.0質量%以下であると、Al窒化物及びAl硼化物の形成を抑制し、耐摩耗性に優れる傾向にある。同様の観点から、結合相に含まれるAlの含有割合は、焼結体に含まれる全ての元素の合計100質量%に対して、0.4質量%以上2.1質量%以下であることが好ましく、0.6質量%以上1.6質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、結合相にはCo3W3C、W2Co21B6、及びAl化合物を構成する元素以外の元素を含んでいてもよい。具体例としては、特に限定されないが、例えば、Cr、Ti、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Mn、Fe、Ni、N等が挙げられ、Cr、Ti、Zr、Nb、Mo、Ta、Mn、Ni、Nが好ましく、Cr、Ti、Zr、Mo、Ta、Ni、Nがより好ましい。
これらの元素は、例えば、ボールミル用のシリンダーやボール、充填に用いる高融点金属カプセルなどに由来し、不可避的に含まれていてもよく、意図的に添加してもよい。また、上記その他の元素の含有割合は、特に限定されないが、例えば、焼結体に含まれる全ての元素の合計100質量%に対して0質量%以上10質量%以下であってもよい。
【0029】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)は、走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から、市販の画像解析ソフトで解析して求めることができる。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体を、その表面に対して直交する方向に鏡面研磨する。次に、SEMを用いて、鏡面研磨して現れた立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面の反射電子像を観察する。この際、SEMを用いて、立方晶窒化硼素の粒子が100個以上400個以下含まれるように選択した倍率で拡大した立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面を反射電子像にて観察する。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いることにより、黒色領域を立方晶窒化硼素と、灰色領域及び白色領域を結合相と特定することができる。その後、SEMを用いて立方晶窒化硼素の上記断面の組織写真を撮影する。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真から立方晶窒化硼素及び結合相の占有面積をそれぞれ求め、その占有面積から含有割合(体積%)を求める。
【0030】
また、本実施形態において、結合相における各元素の含有割合(質量%)は、上述の立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)を求めるために走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真と同じ観察視野において、エネルギー分散型X線分析装置(EDS)を使用することで求めることができる。より具体的には、上記の拡大した鏡面研磨面の観察視野全体においてEDS分析を行い、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる全ての元素の合計100質量%としたときの、各元素の含有割合(質量%)を算出する。
【0031】
ここで、立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面は、立方晶窒化硼素焼結体の表面又は任意の断面を鏡面研磨して得られた立方晶窒化硼素焼結体の断面である。立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面を得る方法としては、例えばダイヤモンドペーストを用いて研磨する方法を挙げることができる。
【0032】
結合相の組成は、市販のX線回折装置を用いて同定することもできる。例えば、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「RINT TTRIII」)を用いて、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定をすると、結合相の組成を同定することができる。ここで、測定条件としては、例えば、後述する実施例に記載の条件であると好ましい。また、2θの測定範囲を広くして分析すると、より多くのピークを検出できる傾向にあり、焼結体に含まれる材料の特定を一層確実にさせることができる。このような観点から、例えば、2θ=20~140°の範囲で測定するとよい。
なお、本実施形態において、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合、並びに結合相の組成は、後述の実施例に記載の方法により測定することもできる。具体的には、結合相の組成は、X線解析装置による測定の結果と、EDSを用いた元素マッピング結果とを解析することにより特定することができる。
【0033】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度ICの半価幅が0.25以上0.60以下であることが好ましい。ICの半価幅が0.25以上であることにより、結合相の靭性が向上し、耐欠損性に優れる傾向にある。また、ICの半価幅が0.60以下であると、切削加工時の亀裂が立方晶窒化硼素に伝搬することを抑制し、耐チッピング性及び耐欠損性が向上する傾向にある。同様の観点から、ICの半価幅は0.28以上0.60以下であることがより好ましく、0.32以上0.48以下であることが更に好ましい。
【0034】
[立方晶窒化硼素焼結体の作製方法]
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、例えば、以下の方法により製造することができる。
原料粉末として、cBN粉末、WC粉末、Co粉末、Al粉末、及びCr粉末を準備する。ここで、原料のcBN粉末の平均粒径を適宜調整することにより、得られる立方晶窒化硼素焼結体におけるcBNの平均粒径を上記特定の範囲に制御することができる。また、各原料粉末の割合を適宜調整することにより、得られる立方晶窒化硼素焼結体におけるcBN及び結合相の含有割合を上記特定の範囲に制御することができる。次に、準備した原料粉末を、超硬合金製ボールと溶媒とパラフィンとともにボールミル用シリンダーに入れて混合する。ボールミルで混合した原料粉末を、Ta製の高融点金属カプセル内に充填し、粉末の表面に吸着している水分及びその他の付着成分を除去するため、カプセルを開放したまま真空熱処理を行う。
次に、カプセルを密封し、カプセルに充填されている原料粉末を高圧で焼結させる。カプセル内に充填を行う際には、その底面に超硬合金からなる基材を入れてもよい。高圧焼結の条件は、例えば、圧力:7.7~8.5GPa、昇温速度:20~30℃/秒、温度:1800~1900℃、焼結時間:30~45分である。
【0035】
本実施形態に用いる結合相において、上述のIB/IAを大きくする方法としては、特に限定されないが、例えば、立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、焼結時の温度を高くする方法、焼結時の昇温速度を大きくする方法、cBNの含有割合を少なくする方法、結合相の材料においてCo粉末の配合割合を多くする方法、結合相の材料においてAl粉末の配合割合を少なくする方法等が挙げられる。
【0036】
本実施形態に用いる結合相において、上述のIC/IAを大きくする方法としては、特に限定されないが、例えば、立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、焼結時の圧力を低くする方法、cBNの含有割合を少なくする方法、cBNの平均粒径を小さくする方法、結合相の材料においてCo粉末の配合割合を大きくする方法等が挙げられる。
【0037】
本実施形態に用いる結合相において、上述のID/IAを小さくする方法としては、特に限定されないが、例えば、立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、焼結時の温度を高くする方法、cBNの含有割合を少なくする方法、結合相の材料としてWC粉末の配合割合を少なくする方法等が挙げられる。
【0038】
本実施形態に用いる結合相において、上述のIC≧IDを満たす、あるいはID/ICを小さくする方法としては、特に限定されないが、例えば、立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、焼結時の温度を高くする方法、焼結時の昇温速度を大きくする方法、cBNの含有割合を多くする方法、結合相の材料としてWC粉末の配合割合を少なくする方法等が挙げられる。
【0039】
本実施形態に用いる結合相において、上述のIC/IBを大きくする方法としては、特に限定されないが、例えば、立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、焼結時の温度を低くする方法、焼結時の昇温速度を小さくする方法、焼結時の圧力を低くする方法、結合相の材料においてAl粉末の配合割合を少なくする方法等が挙げられる。
【0040】
本実施形態に用いる結合相において、上述したICの半価幅を大きくする方法としては、特に限定されないが、例えば、立方晶窒化硼素焼結体の製造工程において、cBNの含有割合を多くする方法、立方晶窒化硼素焼結体がCr化合物を含むようにする方法等が挙げられる。また、結合相に含まれるW2Co21B6の平均粒径が小さくなると、ICの半価幅は大きくなる傾向にある。
【0041】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体は、その表面に被覆層を備えた被覆立方晶窒化硼素焼結体として用いてもよい。立方晶窒化硼素焼結体の表面に被覆層が形成されることによって、耐摩耗性がさらに向上する。被覆層は、特に限定されないが、例えば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Al及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、C、N、O及びBからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含んでいてもよい。また、被覆層は、単層構造、又は、2層以上を含む積層構造を有してもよい。被覆層がこのような構造を有する場合、本実施形態の被覆立方晶窒化硼素焼結体は、耐摩耗性が一層向上する傾向にある。
【0042】
被覆層を形成する化合物の例として、特に限定されないが、例えば、TiN、TiC、TiCN、TiAlN、TiSiN、及び、AlCrNなどを挙げることができる。中でも、TiCN、TiAlN、及び、AlCrNが好ましい。被覆層は、組成が異なる複数の層を積層した構造を有してもよい。
【0043】
被覆層を構成する各層の厚さ及び被覆層全体の厚さは、被覆立方晶窒化硼素焼結体の断面組織から光学顕微鏡、SEM、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて測定することができる。なお、被覆立方晶窒化硼素焼結体における各層の平均厚さ及び被覆層全体の平均厚さは、金属蒸発源に対向する面の刃先から当該面の中心部に向かって50μmの位置の近傍において、3箇所以上の断面から、各層の厚さ及び被覆層全体の厚さを測定して、その平均値を計算することで求めることができる。
【0044】
また、被覆層を構成する各層の組成は、被覆立方晶窒化硼素焼結体の断面組織から、EDSや波長分散型X線分析装置(WDS)などを用いて測定することができる。
【0045】
被覆層の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、化学蒸着法や、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、スパッタ法及びイオンミキシング法などの物理蒸着法が挙げられる。その中でも、アークイオンプレーティング法は、被覆層と立方晶窒化硼素焼結体との密着性に一層優れるので、好ましい。
【0046】
本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体又は被覆立方晶窒化硼素焼結体は、耐摩耗性及び耐欠損性に優れるため、切削工具や耐摩耗工具として使用されると好ましく、その中でも切削工具として使用されると好ましい。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体又は被覆立方晶窒化硼素焼結体は、焼結金属用切削工具や鋳鉄用切削工具として使用されるとさらに好ましい。本実施形態の立方晶窒化硼素焼結体又は被覆立方晶窒化硼素焼結体を切削工具や耐摩耗工具として用いた場合、従来よりも工具寿命を延長することができる。
【実施例0047】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
[原料粉末の調製]
WC粉末、Co粉末、Al粉末、及びCr粉末を、表1に示す割合(質量%)で混合し、異なる8種の結合相材料A~Iを調製した。WC粉末、Co粉末、Al粉末、及びCr粉末の平均粒径は、それぞれ順に、2.0μm、1.5μm、1.8μm、2.8μmであった。原料粉末の平均粒径は、米国材料試験協会(ASTM)規格B330に記載のフィッシャー法(Fisher Sub-Sizer、FSSS)により測定した。なお、表1において「-」は、記載されている欄に対応する原料を含んでいないことを示す。
また、上記結合相材料とともに立方晶窒化硼素(cBN)粉末を、表2に示す割合(体積%)で混合した。
【0049】
【0050】
【0051】
[混合工程]
原料粉末を、ヘキサン溶媒と、パラフィンと、超硬合金製ボールとともにボールミル用のシリンダーに入れてさらに混合した。
【0052】
[充填工程及び乾燥工程]
混合した原料粉末を、Ta製の高融点金属の円盤状カプセル内に充填した。充填された原料粉末の表面に吸着している水分及び有機成分を除去するため、カプセルを開放したまま真空熱処理を行い、粉末の表面に吸着している水分及びその他の付着成分を除去した後、カプセルを密封した。
【0053】
[高圧焼結]
その後、カプセルに充填されている原料粉末を高圧で焼結させた。高圧焼結の条件を、表3に示す。
【0054】
【0055】
[測定・分析]
高圧焼結によって得られた立方晶窒化硼素焼結体について、立方晶窒化硼素及び結合相の含有割合(体積%)を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真から、市販の画像解析ソフトで解析して求めた。より具体的には、立方晶窒化硼素焼結体を、その表面に対して直行する方向に鏡面研磨した。次に、SEMを用いて、鏡面研磨して現れた立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面の反射電子像を観察した。この際、SEMを用いて、立方晶窒化硼素の粒子が100個以上400個以下含まれるように選択した倍率で拡大した立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面を反射電子像にて観察した。SEMに付属しているエネルギー分散型X線分析装置(EDS)を用いることにより、黒色領域を立方晶窒化硼素と、灰色領域及び白色領域を結合相と特定した。その後、SEMを用いて立方晶窒化硼素の上記鏡面研磨面の組織写真を撮影した。市販の画像解析ソフトを用い、得られた組織写真から立方晶窒化硼素及び結合相の占有面積をそれぞれ求め、その占有面積から含有割合(体積%)を求めた。
ここで、立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面は、立方晶窒化硼素焼結体の表面又は任意の断面を鏡面研磨して得られた立方晶窒化硼素焼結体の断面であった。立方晶窒化硼素焼結体の鏡面研磨面(以下、「断面」ともいう。)を得る方法は、ダイヤモンドペーストを用いて研磨する方法とした。
【0056】
また、上記SEMで撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真の画像解析により、cBN粒子の面積を求め、この面積と等しい面積の円の直径をcBNの粒径とした。次いで、下記式の関係を満たす値をcBNの平均粒径とした。
(D50以下の粒径を有するcBN粒子が占める面積)/(全てのcBN粒子が占める面積)=0.5
【0057】
さらに、結合相の組成は、株式会社リガク製のX線回折装置(製品名「RINT TTRIII」)を用いて同定した。具体的には、Cu-Kα線を用いた2θ/θ集中光学系のX線回折測定を、下記条件で測定して得られた結果と、EDSを用いた元素マッピング結果とを解析することにより結合相の組成を同定した。
<測定条件>
・出力:50kV、250mA
・入射側ソーラースリット:5°
・発散縦スリット:1/2°
・発散縦制限スリット:10mm
・散乱スリット:2/3°
・受光側ソーラースリット:5°
・受光スリット:0.15mm
・BENTモノクロメータ
・受光モノクロスリット:0.8mm
・サンプリング幅:0.02°
・スキャンスピード:1°/min
・2θ測定範囲:30~90°
【0058】
具体的には、上述の方法のX線回折測定により、得られた立方晶窒化硼素焼結体が以下の材料を含むことを特定した。
・Co3W3C(比較品1~3、7及び8を除く)
・W2Co21B6
・WC(発明品2、9、14~16、比較品4~6及び8を除く)
また、Al元素を有する化合物については、X線回折測定において明瞭なピークが得られなかったため、EDSを用いた元素マッピングにより同定した。また、Cr元素を有する化合物については、CrNを除き、X線回折測定において明瞭なピークは得られず、EDSを用いた元素マッピングにより同定した。その結果として、得られた立方晶窒化硼素焼結体が全てAl元素を有する化合物(表において、単にAl化合物と記す。)を含むことが分かった。また、発明品8、9、13、及び比較品12においては複数のCr化合物からなると推定されるCr化合物を含み、並びに、発明品15及び16においてはCrNを含むことがわかった。さらに、結合相材料F~Iを用いて作製した試料は、ICの半価幅が大きくなる傾向にあった。要因は特に限定されないが、結合相がCr化合物を含むことにより、焼結時に生じるW2Co21B6の粒成長が抑制されたことが起因していると推察される。
【0059】
さらに、結合相における各元素の含有割合(質量%)は、上述のcBN及び結合相の含有割合(体積%)を求めるためにSEMで撮影した立方晶窒化硼素焼結体の組織写真と同じ観察視野において、EDSを使用することで求めた。具体的には、上記の拡大した鏡面研磨面の観察視野全体においてEDS分析を行い、立方晶窒化硼素焼結体に含まれる全ての元素の合計100質量%としたときの、Alの含有割合(質量%)を算出した。
上記で得られた測定結果を合わせて表4に示す。
【0060】
上記X線回折測定と同時に得られた立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度(IA)、Co3W3Cの(400)面のX線回折ピーク強度(IB)、W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度(IC)、及びWCの(001)面のX線回折ピーク強度(ID)から、IB/IA、IC/IA、ID/IA、IC/IB、及びICの半価幅を各々算出し、IC≧IDに該当するか否かを判断した。各結晶面のX線回折ピークは、それぞれ以下のPDF(Powder Diffraction File)カードNo.の情報を元に特定し、以下の範囲にピークトップを有していた。上記で得られた値を、まとめて表5に示す。
・cBNの(111)面:PDFカードNo.73-0887
範囲:42.7°以上43.9°以下
・Co3W3Cの(400)面:PDFカードNo.06-0639
範囲:31.9°以上32.7°以下
・W2Co21B6の(420)面:PDFカードNo.19-0372
範囲:37.7°以上38.7°以下
・WCの(001)面:PDFカードNo.65-4539
範囲:31.2°以上31.8°以下
【0061】
【0062】
【0063】
[切削工具の作製]
得られた立方晶窒化硼素焼結体を、ワイヤ放電加工機を用いてISO規格CNGA120408で定められたインサート形状の工具形状に合わせて切り出した。切り出した立方晶窒化硼素焼結体を、超硬合金からなる台金にろう付けにより接合した。ろう付けした工具にホーニング加工を施して、切削工具を得た。
【0064】
[切削試験]
得られた切削工具を用いて、下記の条件で切削試験を行った。
・被削材:焼結金属
(材質:旧JIS規格・SMF4040、硬さ:HRB80)
・被削材形状:ギア形状、φ45mm(歯高8mm)×30mm
・切削速度:200m/min
・送り:0.15mm/rev
・切り込み深さ:0.20mm
・クーラント:なし(乾式切削加工)
・評価項目:加工時間が10分の時の損傷形態をSEMまたは光学顕微鏡で観察した。この時、加工を継続できる程度の微小な欠損が生じていた場合は、「正常摩耗」および「欠損」と区別するため、その損傷形態を「チッピング」とした。加工時間が10分に達せず寿命に至った場合も、参考としてその損傷形態を記載する。また、工具の逃げ面摩耗幅が0.15mmを超えるまで、または欠損に至るまでの加工時間を工具寿命とした。測定結果を表6に示す。
【0065】
【0066】
表6に示された結果より、立方晶窒化硼素焼結体が、立方晶窒化硼素と結合相とを含み、立方晶窒化硼素の含有割合は、焼結体の総量に対して85体積%以上95体積%以下であり、結合相の含有割合は、焼結体の総量に対して5体積%以上15体積%以下であり、結合相は、Co3W3C、W2Co21B6、及びAl化合物を含み、立方晶窒化硼素の(111)面のX線回折ピーク強度をIA、Co3W3Cの(400)面のX線回折ピーク強度をIB、W2Co21B6の(420)面のX線回折ピーク強度をIC、WCの(001)面のX線回折ピーク強度をIDとしたとき、IB/IAが0.02以上0.15以下であり、IC/IAが0.02以上1.00以下であり、IC≧IDである発明品の方が、そうでない比較品より優れた切削性能を有し、長い工具寿命を有することがわかった。