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特開2024-33550鋼材、電磁鉄心、電磁接触器、鋼材の製造方法及び電磁鉄心の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033550
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】鋼材、電磁鉄心、電磁接触器、鋼材の製造方法及び電磁鉄心の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/26 20060101AFI20240306BHJP
   C21D 1/09 20060101ALI20240306BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240306BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20240306BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20240306BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240306BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20240306BHJP
   H01H 50/16 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C23C8/26
C21D1/09 A
C21D9/00 S
C21D1/06 A
C21D6/00 C
C22C38/00 303U
C22C38/04
H01H50/16 Y
H01H50/16 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137187
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】508296738
【氏名又は名称】富士電機機器制御株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】野田 蒼平
(72)【発明者】
【氏名】中島 悠也
【テーマコード(参考)】
4K028
4K042
【Fターム(参考)】
4K028AA02
4K028AB01
4K028AC07
4K028AC08
4K042AA25
4K042BA03
4K042CA15
4K042DA01
4K042DA06
4K042DB04
4K042DC02
4K042DC03
4K042DC04
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】高い硬度を有する鋼材を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、表面に窒化層が設けられた鋼材であって、前記窒化層は、前記表面から順に設けられた、窒素濃化層と、窒素拡散層とを含み、前記窒素濃化層における窒素濃度は、3at%以上30at%以下であり、前記窒素拡散層における窒素濃度は、0.2at%以上3at%未満であり、前記表面から深さ15μmまでにおける組織は、前記表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に窒化層が設けられた鋼材であって、
前記窒化層は、前記表面から順に設けられた、窒素濃化層と、窒素拡散層とを含み、
前記窒素濃化層における窒素濃度は、3at%以上30at%以下であり、前記窒素拡散層における窒素濃度は、0.2at%以上3at%未満であり、
前記表面から深さ15μmまでにおける組織は、前記表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む鋼材。
【請求項2】
前記窒素濃化層における組織は、前記表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む請求項1に記載の鋼材。
【請求項3】
前記窒素濃化層及び前記窒素拡散層は、それぞれ1μm以上の厚さを有する請求項2に記載の鋼材。
【請求項4】
前記窒素濃化層は、最大15μmの厚さを有する請求項3に記載の鋼材。
【請求項5】
前記窒素拡散層は、最大45μmの厚さを有する請求項4に記載の鋼材。
【請求項6】
前記窒素濃化層の硬さは、420Hv以上であり、前記窒素拡散層の硬さは、250Hv以上420Hv未満である請求項5に記載の鋼材。
【請求項7】
板状である請求項1から6のいずれか一項に記載の鋼材。
【請求項8】
磁性を有する請求項7に記載の鋼材。
【請求項9】
請求項8に記載の鋼材が複数積層されてなる電磁鉄心。
【請求項10】
請求項9に記載の電磁鉄心を有する電磁接触器。
【請求項11】
前記電磁鉄心は、固定鉄心と、前記固定鉄心と対向して可動自在に配設された可動鉄心とを含み、
前記固定鉄心及び前記可動鉄心は、前記固定鉄心と前記可動鉄心とが接触したときに接触する接触面を有し、
前記鋼材の前記表面は、前記接触面を構成する請求項10に記載の電磁接触器。
【請求項12】
前記固定鉄心及び前記可動鉄心は、平面視形状がE字状となるように設けられた、3つの凸部を有し、
前記3つの凸部は、両側部に位置するサイド凸部と、中央に位置する中央凸部とを含み、
前記サイド凸部は、前記接触面を含み、
前記固定鉄心と前記可動鉄心とが接触したとき、前記中央凸部同士は、接触しない請求項11に記載の電磁接触器。
【請求項13】
NHガス雰囲気下において、鋼材の母材の表面に、特定の照射範囲でレーザー光を照射することにより、前記母材の表面温度が1000℃~1400℃となる状態で3秒~9秒間、前記母材を加熱し、前記鋼材の表面から深さ15μmまでにおいて、前記鋼材の表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む組織を形成する鋼材の製造方法。
【請求項14】
前記母材は、電磁鋼板であり、
前記電磁鋼板の表面に、前記レーザー光を照射する前に、前記電磁鋼板の前記表面における絶縁被膜を取り除き、素地を露出させる請求項13に記載の鋼材の製造方法。
【請求項15】
電磁鋼板を複数積層した積層体からなる電磁鉄心の製造方法であって、
前記積層体の表面における絶縁被膜を取り除き、素地を露出させた後、NHガス雰囲気下において、前記積層体の前記素地に、特定の照射範囲でレーザー光を照射することにより、前記積層体の表面温度が1000℃~1400℃となる状態で3秒~9秒間、前記積層体を加熱し、前記電磁鉄心の表面から深さ15μmまでにおいて、前記電磁鉄心の表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む組織を形成する電磁鉄心の製造方法。
【請求項16】
前記積層体は、平面視形状がE字状となるように設けられた、3つの凸部を有し、
前記3つの凸部は、両側部に位置するサイド凸部と、中央に位置する中央凸部とを含み、
前記サイド凸部の表面に、前記レーザー光を照射し、前記中央凸部の表面には、前記レーザー光を照射しない請求項15に記載の電磁鉄心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材、電磁鉄心、電磁接触器、鋼材の製造方法及び電磁鉄心の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の機械部品や金型類等において、鋼材が広く用いられており、耐摩耗性を向上させる目的で、その表面に窒素を侵入させることにより、表面硬度を向上させる方法が適用されている。具体的には、ガス窒化処理、塩浴窒化処理、イオン窒化処理、プラズマ窒化処理等が挙げられる。
【0003】
特に、電磁接触器の電磁鉄心に用いられる鋼材は、高い耐摩耗性が求められている。電磁接触器の電磁鉄心は、互いに対向して一対設けられており、開閉動作によって電磁鉄心同士が衝突することから、衝突により接触する接触面が摩耗する。そして、電磁鉄心の接触面の摩耗が進むと、電磁接触器は、電気接点の接触状態が変化し、開閉不良となる。
【0004】
例えば、特許文献1には、電磁鉄心の接触面の耐摩耗性を向上させるため、塩浴窒化処理法により、接触面の硬化処理を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-226118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の電磁鉄心では、窒化層の構造や組織については検討されておらず、電磁鉄心等の高い耐摩耗性が求められる鋼材としては、硬度が不足している可能性がある。
【0007】
上記の点に鑑みて、本発明の一態様は、高い硬度を有する鋼材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、表面に窒化層が設けられた鋼材であって、前記窒化層は、前記表面から順に設けられた、窒素濃化層と、窒素拡散層とを含み、前記窒素濃化層における窒素濃度は、3at%以上30at%以下であり、前記窒素拡散層における窒素濃度は、0.2at%以上3at%未満であり、前記表面から深さ15μmまでにおける組織は、前記表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、高い硬度を有する鋼材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態による鋼材の断面の模式図である。
図2】一実施形態による電磁鉄心の斜視図である。
図3】一実施形態による電磁接触器の断面図である。
図4】一実施形態による電磁鉄心の製造方法を説明するための模式図である。
図5】実施例の電磁鉄心の表面からの深さと、窒素濃度及び硬さとの関係を示すグラフである。
図6】実施例の電磁鉄心の断面を示すSEM観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。本明細書において数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0012】
<鋼材>
図1は、一実施形態による鋼材1の断面の模式図である。図1に示すように、鋼材1の表面には、窒化層3が設けられている。換言すると、鋼材1の表面は、窒化処理面である。窒化層3は、表面から順に設けられた、窒素濃化層31と、窒素拡散層32とを含む。
【0013】
鋼材1の母材2は、特に限定されないが、例えば、炭素濃度が0質量%~0.7質量%の鋼材を用いることができる。母材2は、板状であってよく、電磁鋼板であってよい。
【0014】
鋼材1の表面から深さ15μmまでにおける組織は、表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む。これにより、鋼材1は、高い硬度を有し、優れた耐摩耗性を発揮することができる。特に、鋼材1が電磁接触器の電磁鉄心に用いられ、鋼材1同士が繰り返し衝突する場合においても、優れた耐摩耗性を発揮することができる。なお、深さとは、鋼材1の表面と垂直な方向の距離を意味する。
【0015】
ここで、マルテンサイトの面積率は、次のように算出することができる。鋼材1の表面に垂直な断面の表面から深さ15μmまでにおいて、走査電子顕微鏡(SEM)で700倍の倍率にて15μm×200μmの方形領域を観察し、撮影した組織写真を画像解析することにより、マルテンサイトの面積率を算出する。マルテンサイトは、SEM画像において、他の部分より薄い灰色を呈する部分である。
【0016】
窒素濃化層31は、鋼材1の最表面に形成され、窒化処理により、母材2に窒素が拡散浸透して窒素が濃化された層である。窒素濃化層31は、Fe2~3N又はFeNを含んでいてよい。窒素濃化層31における窒素濃度は、3at%以上30at%以下である。鋼材1は、窒素濃度が3at%以上30at%以下である窒素濃化層31を有することにより、高い硬度を有し、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0017】
窒素濃化層31は、1μm以上の厚さを有することが好ましい。これにより、鋼材1は、より高い硬度を有することができる。窒素濃化層31は、最大15μmの厚さを有することが好ましい。これにより、鋼材1は、硬度が高くなりすぎて、脆性破壊することを抑制することができる。
【0018】
窒素濃化層31における組織は、表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含んでいることが好ましい。これにより、鋼材1は、より高い硬度を有し、より優れた耐摩耗性を発揮することができる。特に、鋼材1が電磁接触器の電磁鉄心に用いられ、鋼材1同士が繰り返し衝突する場合においても、より優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0019】
窒素濃化層31の硬さは、420Hv以上であることが好ましい。これにより、鋼材1は、さらに優れた耐摩耗性を発揮することができる。また、窒素濃化層31の硬さは、420Hv以上1000Hv以下であることがより好ましい。これにより、鋼材1は、硬度が高くなりすぎて、脆性破壊することを抑制しつつ、さらに優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0020】
なお、本明細書において、硬さとは、マイクロビッカース硬さを意味し、JIS Z2244に準拠して、マイクロビッカース試験機を用いて測定することができる。また、窒素濃化層31の硬さとは、表面からの深さが、窒素濃化層31の厚さの2/3となる位置の硬さを示す。
【0021】
窒素拡散層32は、窒素濃化層31の母材2側に形成され、窒化処理により、母材2に窒素が拡散浸透して窒素が拡散された層であり、且つ窒素濃化層31よりも窒素濃度が低い層である。窒素拡散層32は、γ-FeN0.095を含んでいてよい。窒素拡散層32における窒素濃度は、0.2at%以上3at%未満である。鋼材1は、窒素濃度が0.2at%以上3at%未満である窒素拡散層32を有することにより、高い硬度を有し、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0022】
窒素拡散層32は、1μm以上の厚さを有することが好ましい。これにより、鋼材1は、より高い硬度を有することができる。窒素拡散層32は、最大45μmの厚さを有することが好ましい。これにより、鋼材1は、硬度が高くなりすぎて、脆性破壊することを抑制することができる。
【0023】
窒素拡散層32の硬さは、250Hv以上420Hv未満であることが好ましい。即ち、窒素拡散層32の硬さは、窒素濃化層31の硬さよりも軟らかい。窒素拡散層32の硬さが250Hv以上420Hv未満であることにより、鋼材1は、より一層優れた耐摩耗性を発揮することができると共に、硬度が高くなりすぎて、脆性破壊することをより抑制することができる。ここで、窒素拡散層32の硬さとは、窒素拡散層32の窒素濃化層31側の面からの深さが、窒素拡散層32の厚さの2/3となる位置の硬さを示す。
【0024】
窒素濃化層31の硬さは、420Hv以上であり、窒素拡散層32の硬さは、250Hv以上420Hv未満であることが好ましい。これにより、鋼材1は、より一層優れた耐摩耗性を発揮することができると共に、硬度が高くなりすぎて、脆性破壊することを抑制することができる。
【0025】
鋼材1は、板状であってよい。これにより、鋼材1が所望の枚数積層された、所望の厚みの鋼製品を得ることができる。鋼材1が板状である場合、鋼材1の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.5mm~20mmとすることができる。
【0026】
鋼材1が板状である場合、鋼材1の端面に、窒化層3が設けられていてよい。換言すると、鋼材1の端面は、窒化処理面である。窒化層3は、端面から順に設けられた、窒素濃化層31と、窒素拡散層32とを含んでいてよい。
【0027】
鋼材1は、磁性を有していてよい。鋼材1は、磁性を有することにより、鋼材1からなる電磁鉄心又は電磁鋼板を提供することができる。
【0028】
<電磁鉄心>
図2は、一実施形態による電磁鉄心10の斜視図である。本実施形態の電磁鉄心10は、図2に示すように、板状であり、且つ磁性を有する鋼材1が、板厚の方向に複数積層されてなる。複数の鋼材1は、ピン5により固定されている。鋼材1は、平面視形状がE字状となるように設けられた、3つの凸部を有していてよい。電磁鉄心10は、固定鉄心として使用されてもよいし、固定鉄心と対向して可動自在に配設された可動鉄心として使用されてもよい。
【0029】
電磁鉄心10は、平面視形状がE字状となるように設けられた、3つの凸部4a、4b、4cを有していてよい。両側部に位置するサイド凸部4a、4bの高さは、同一であり、中央に位置する中央凸部4cの高さよりも高い。ここで、高さとは、電磁鉄心10の底面6からの高さを意味する。これにより、電磁鉄心10が、固定鉄心及び可動鉄心である場合、互いの3つの凸部4a、4b、4cを対向して接触させたとき、サイド凸部4a、4b同士は接触するが、中央凸部4c同士は接触しないため、互いの中央凸部4cの間に間隙を形成する。換言すると、電磁鉄心10が、固定鉄心及び可動鉄心である場合、サイド凸部4a、4bは、固定鉄心と可動鉄心とが接触したときに接触する接触面7a、7bを含み、中央凸部4cは、固定鉄心と可動鉄心とが接触したときに接触しない非接触面7cを含む。
【0030】
サイド凸部4a、4bの高さと中央凸部4cの高さの差は、特に限定されないが、例えば、0mm超え0.1mm以下とすることができる。
【0031】
鋼材1の表面は、電磁鉄心10の接触面7a、7bを構成する。即ち、電磁鉄心10の接触面7a、7bには、窒化層3が設けられている。窒化層3は、接触面7a、7bから順に設けられた、窒素濃化層31と、窒素拡散層32とを含む。また、接触面7a、7bから深さ15μmまでにおける組織は、接触面7a、7bに垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む。よって、電磁鉄心10の接触面7a、7bは、高い硬度を有し、電磁鉄心10同士が繰り返し衝突する場合においても、優れた耐摩耗性を発揮することができる。なお、電磁鉄心10の非接触面7cには、窒化層3は設けられなくてよい。
【0032】
<電磁接触器>
図3は、一実施形態による電磁接触器100の断面図である。本実施形態の電磁接触器100は、本実施形態の電磁鉄心10を有する。
【0033】
電磁接触器100は、さらに、上部ケース21aと下部ケース21bとからなる2分割構造を有する本体ケース21と、上部ケース21aに固定配置された固定接触子22と、固定接触子22に接離自在に配設された可動接触子23とを有していてよい。
【0034】
下部ケース21bには、可動接触子23を駆動する電磁鉄心10が配設されている。電磁鉄心10は、固定鉄心10Aと、固定鉄心10Aと対向して可動自在に配設された可動鉄心10Bとを含んでいてよい。固定鉄心10A及び可動鉄心10Bの構成は、上述の電磁鉄心10と同様である。
【0035】
固定鉄心10Aの後述する中央凸部15cには、コイルホルダ27に巻装された単相交流が供給される電磁コイル28が固定されている。また、コイルホルダ27の上面と可動鉄心10Bの後述する中央凸部14cの付け根との間に、可動鉄心10Bを固定鉄心10Aから離れる方向に付勢する復帰スプリング29が配設されている。
【0036】
可動鉄心10Bの上端には、接触子ホルダ41が連結されている。この接触子ホルダ41は、その上端側に配置された可動接触子23と接続され、上部ケース21a内に設けられた挿通孔に固定されている。可動接触子23は、接触スプリング43によって、固定接触子22に対して所定の接触圧を得るように下方に押圧されて保持されている。
【0037】
固定鉄心10Aは、固定鉄心10Aと可動鉄心10Bとが接触したときに接触する接触面18a、18bを有する。固定鉄心10Aを構成する鋼材1の表面は、接触面18a、18bを構成する。可動鉄心10Bは、固定鉄心10Aと可動鉄心10Bとが接触したときに接触する接触面17a、17bを有する。可動鉄心10Bを構成する鋼材1の表面は、接触面17a、17bを構成する。即ち、固定鉄心10Aの接触面18a、18b及び可動鉄心10Bの接触面17a、17bには、それぞれ窒化層3が設けられている。窒化層3は、それぞれの接触面17a、17b、18a、18bから順に設けられた、窒素濃化層31と、窒素拡散層32とを含む。また、接触面17a、17b、18a、18bから深さ15μmまでにおける組織は、接触面17a、17b、18a、18bに垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む。よって、固定鉄心10Aの接触面18a、18b及び可動鉄心10Bの接触面17a、17bは、高い硬度を有し、固定鉄心10Aと可動鉄心10Bが繰り返し衝突する場合においても、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0038】
固定鉄心10Aは、平面視形状がE字状となるように設けられた、3つの凸部15a、15b、15cを有していてよい。3つの凸部は、両側部に位置するサイド凸部15a、15bと、中央に位置する中央凸部15cとを含む。サイド凸部15a、15bは、接触面18a、18bを含んでいてよい。即ち、サイド凸部15a、15bの接触面18a、18bには、それぞれ窒化層3が設けられている。この場合、中央凸部15cには、窒化層3が設けられていない。
【0039】
固定鉄心10Aは、サイド凸部15a、15bの接触面18a、18bより下方に、シェーディングコイル30を有していてもよい。シェーディングコイル30は、単相交流電磁石において交番磁束の変化による電磁吸引力の変動、騒音及び振動を抑制する。
【0040】
可動鉄心10Bも、固定鉄心10Aと同様に、平面視形状がE字状となるように設けられた、3つの凸部14a、14b、14cを有していてよい。3つの凸部は、両側部に位置するサイド凸部14a、14bと、中央に位置する中央凸部14cとを含む。サイド凸部14a、14bは、接触面17a、17bを含んでいてよい。即ち、サイド凸部14a、14bの接触面17a、17bには、それぞれ窒化層3が設けられている。この場合、中央凸部14cには、窒化層3が設けられていない。
【0041】
固定鉄心10Aと可動鉄心10Bとが接触したとき、固定鉄心10Aのサイド凸部15a、15bと、可動鉄心10Bのサイド凸部14a、14bとは、接触するが、中央凸部14c、15c同士(固定鉄心10Aの中央凸部14cと可動鉄心10Bの中央凸部15c)は、接触しない。換言すると、固定鉄心10Aの中央凸部15cは、固定鉄心10Aと可動鉄心10Bとが接触したときに接触しない非接触面18cを含み、可動鉄心10Bの中央凸部14cは、固定鉄心10Aと可動鉄心10Bとが接触したときに接触しない非接触面17cを含む。即ち、固定鉄心10Aの非接触面及び可動鉄心10Bの非接触面には、窒化層3が設けられていない。
【0042】
固定鉄心10Aと可動鉄心10Bとが接触したとき、固定鉄心10A及び可動鉄心10Bの中央凸部14c、15c同士が接触しないことにより、中央凸部14c、15cの間に間隙を形成する。間隙は、固定鉄心10Aと可動鉄心10Bの間に働く磁力を適切な大きさに調整する役割を担っている。通常の電磁接触器では、固定鉄心及び可動鉄心の接触面の摩耗に伴い間隙が減少すると、固定鉄心と可動鉄心の間に働く磁力が適正値より大きくなり、開閉不良を生じる場合がある。本実施形態の電磁接触器100は、固定鉄心10Aのサイド凸部15a、15bの接触面18a、18b、及び可動鉄心10Bのサイド凸部14a、14bの接触面17a、17bに窒化層3が設けられているため、それぞれの接触面17a、17b、18a、18bが高い硬度を有し、優れた耐摩耗性を発揮することができる。よって、電磁接触器100は、固定鉄心10A及び可動鉄心10Bの中央凸部14c、15cの間の間隙を維持することができ、寿命を向上させることができる。
【0043】
また、固定鉄心10A及び可動鉄心10Bのうち、接触面17a、17b、18a、18bのみに窒化層3が設けられ、耐摩耗性が必要でない非接触面17c、18cには窒化層3が設けられていないため、固定鉄心10A及び可動鉄心10B(電磁鉄心10)、並びに電磁接触器100の製造コストを低減させることができる。
【0044】
可動接触子23は、細長い扁平板状の導電部23aと、導電部23aの左右両端側の下面にそれぞれ形成された可動接点部23b、23cとを有する。また、導電部23aの左右方向の中央部上面に、磁性材料で構成されたアーマチュア42が、接着等の固着手段によって固定されている。アーマチュア42の上面と挿通孔の下面との間に接触スプリング43が配置され、接触スプリング43によって可動接触子23が下方に押圧されている。
【0045】
固定接触子22は、可動接触子23の可動接点部23b、23cと対向する、一対の固定接点部22a、22bと、可動接触子23の導電部23aと平行に配置された細長い扁平板状の一対の導電部22c、22dとを有する。導電部22c及び22dの外側端部には、外部接続端子44a及び44bが連結されている。そして、上部ケース21a内の導電部22c及び22d間の固定部45には、アーマチュア42と対向する、磁性材料で構成されたヨーク46が固定されている。
【0046】
次に、電磁接触器の動作について説明する。電磁コイル28が非通電状態である状態では、固定鉄心10A及び可動鉄心10B間に電磁吸引力が生じることはなく、図3に示すように、復帰スプリング29によって、可動鉄心10Bが固定鉄心10Aから上方に離れる方向に付勢される。この状態では、可動接触子23の可動接点部23b、23cが固定接触子22の固定接点部22a、22bから上方に離間しており、接点が開成状態となっている。
【0047】
この接点の開成状態から、電磁コイル28に単相交流を供給すると、固定鉄心10Aと可動鉄心10Bとの間で吸引力が発生し、可動鉄心10Bが復帰スプリング29に抗して下方に吸引される。これにより、接触子ホルダ41に支持されている可動接触子23が下降して、可動接点部23b、23cが固定接触子22の固定接点部22a、22bに接触スプリング43の接触圧で接触し、接点が閉成状態となる。
【0048】
接点が閉成状態となると、例えば、直流電源(図示せず)に接続された固定接触子22の外部接続端子44aから入力される電流が導電部22c及び固定接点部22aを通じて可動接触子23の可動接点部23bに供給される。可動接点部23bに供給された電流は、導電部23a、可動接点部23cを通じて固定接触子22の導電部22dにおける固定接点部22bに供給される。固定接点部22bに供給された電流は、導電部22dを通じて外部接続端子44bを通じて外部の負荷に供給され、通電路が形成される。
【0049】
なお、電磁接触器100において、固定鉄心10A及び可動鉄心10B以外の部材は、上述の構成に限らず、他の構成であってもよい。
【0050】
<鋼材の製造方法>
本実施形態の鋼材1の製造方法について説明する。本実施形態の鋼材1の製造方法では、NHガス雰囲気下において、鋼材1の母材2の表面に、特定の照射範囲でレーザー光を照射することにより、母材2の表面温度が1000℃~1400℃となる状態で3秒~9秒間、母材2を加熱し、鋼材1の表面から深さ15μmまでにおいて、鋼材1の表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む組織を形成する。この製造方法により、鋼材1は、高い硬度を有し、優れた耐摩耗性を発揮することができる。特に、鋼材1が電磁接触器の電磁鉄心に用いられ、鋼材1同士が繰り返し衝突する場合においても、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0051】
また、特定の照射範囲でレーザー光を照射することにより、母材2の表面のうち、窒化処理を行う特定の範囲、即ち、耐摩耗性が必要な特定の範囲のみに、上述のマルテンサイトを含む組織を形成することができるため、鋼材1の製造コストを低減させることができる。
【0052】
さらに、本実施形態の鋼材1の製造方法では、所定の条件でレーザー光を照射することで、窒化処理を行い、上述のマルテンサイトを含む組織を形成することができるため、簡便に製造することができる。
【0053】
鋼材1が板状である場合、板状の母材2の端面に、特定の照射範囲でレーザー光を照射することにより、母材2の表面温度が1000℃~1400℃となる状態で3秒~9秒間、母材2を加熱してもよい。
【0054】
本実施形態の鋼材1の製造方法では、母材2が、電磁鋼板であってよく、この場合、電磁鋼板の表面に、レーザー光を照射する前に、電磁鋼板の表面における絶縁被膜を取り除き、素地を露出させることが好ましい。これにより、窒化の阻害要因となる絶縁被膜を取り除いた状態で、電磁鋼板の素地にレーザー光を照射し、窒化処理を行うことができるため、母材2が電磁鋼板である場合においても、鋼材1は、高い硬度を有し、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0055】
<電磁鉄心の製造方法>
電磁鋼板を複数積層した積層体からなる本実施形態の電磁鉄心10の製造方法について説明する。図4は、一実施形態による電磁鉄心10の製造方法を説明するための模式図である。母材2としての、電磁鋼板の積層体20を、例えば、真空チャンバ51内のステージ54に設置し、真空引きした後、NHガスで置換する。真空チャンバ51の上面には、レーザー透過用のサファイアガラス52と、サファイアガラス52を固定するフランジ53が設けられていてよい。真空チャンバ51の上方には、半導体レーザー55が固定されている。
【0056】
本実施形態の電磁鉄心10の製造方法では、積層体20の表面における絶縁被膜を取り除き、素地を露出させた後、NHガス雰囲気下において、積層体20の素地に、特定の照射範囲でレーザー光を照射することにより、積層体20の表面温度が1000℃~1400℃となる状態で3秒~9秒間、積層体20を加熱し、電磁鉄心10の表面から深さ15μmまでにおいて、電磁鉄心10の表面に垂直な断面の15μm×200μmの方形領域に対する面積率が90%以上のマルテンサイトを含む組織を形成する。この製造方法により、電磁鉄心10は、高い硬度を有し、優れた耐摩耗性を発揮することができる。特に、電磁鉄心10が電磁接触器に用いられ、電磁鉄心10同士が繰り返し衝突する場合においても、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0057】
また、特定の照射範囲でレーザー光を照射することにより、積層体20の表面のうち、窒化処理を行う特定の範囲、即ち、耐摩耗性が必要な特定の範囲のみに、上述のマルテンサイトを含む組織を形成することができるため、電磁鉄心10の製造コストを低減させることができる。
【0058】
本実施形態の電磁鉄心10の製造方法では、図4に示すように、積層体20が、平面視形状がE字状となるように設けられた、3つの凸部2a、2b、2cを有し、3つの凸部2a、2b、2cは、両側部に位置するサイド凸部2a、2bと、中央に位置する中央凸部2cとを含む場合、サイド凸部2a、2bの表面S1、S2に、レーザー光を照射し、中央凸部2cの表面S3には、レーザー光を照射しないことが好ましい。この製造方法により、積層体20の表面のうち、電磁鉄心10の接触面7a、7b(図2参照)となる、サイド凸部2a、2bの表面S1、S2のみに、レーザー光を照射し窒化処理を行い、上述のマルテンサイトを含む組織を形成することができる。よって、電磁鉄心10の接触面7a、7bは、高い硬度を有し、電磁鉄心10が電磁接触器に用いられ、電磁鉄心10同士が繰り返し衝突する場合においても、優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0059】
レーザーの照射範囲は、サイド凸部2aの表面S1、及びサイド凸部2bの表面S2の面積と同じであることが好ましい。これにより、サイド凸部2a、2bの表面S1、S2のみに、レーザー光を照射し窒化処理を行い、上述のマルテンサイトを含む組織を形成することができるため、電磁鉄心10の接触面7a、7bは、全面に亘って高い硬度を有し、電磁鉄心10が電磁接触器に用いられ、電磁鉄心10同士が繰り返し衝突する場合においても、より優れた耐摩耗性を発揮することができる。
【0060】
また、照射されたレーザー光の全てを、電磁鉄心10の接触面7a、7bとなる、サイド凸部2a、2bの表面S1、S2の窒化処理に使用することができるため、接触面7a、7bと非接触面7cを有する電磁鉄心10を低コストで製造することができる。
【実施例0061】
次に、本発明の実施例について説明する。本発明は、以下で説明する実施例に限定されるものではない。
【0062】
まず、複数積層された電磁鋼板の積層体(窒化処理前の電磁鉄心)の表面の絶縁被膜を取り除き素地を露出させた。そして、電磁鋼板の積層体を真空チャンバ内のステージに設置し、真空ポンプで真空引きした後、窒化ガス(NHガス)を1.2L/minの流量で真空チャンバ内に流し、真空チャンバ内の雰囲気を窒化ガスに置換させた。その後、半導体レーザー(波長:940nm~987nm)を用いて、照射範囲を電磁鉄心の接触面の面積と同じ8mm×15mmとし、出力2500Wで積層体の素地表面にレーザー光を照射することにより、積層体の表面温度が1300℃程度となる状態で6秒間、積層体を加熱し、窒化処理した電磁鉄心を得た。
【0063】
得られた電磁鉄心の表面からの深さ(表面と垂直な方向)に対する窒素濃度を、グロー放電発光分析法(GD-OES)により測定した。図5に、実施例の電磁鉄心の表面からの深さと、窒素濃度との関係を示すグラフを示す。図5に示すように、窒素濃度が3at%以上30at%以下である領域を窒素濃化層とし、窒素濃度が、0.2at%以上3at%未満である領域を窒素拡散層としたとき、15μmの厚さを有する窒素濃化層が形成され、窒素濃化層の下に45μmの厚さを有する窒素拡散層が形成されていることを確認した。
【0064】
また、得られた電磁鉄心の窒素濃化層及び窒素拡散層を、X線回折法(XRD)により分析したところ、窒素濃化層において、Fe2~3N、及びFeNの形成が確認され、窒素拡散層において、γ-FeN0.095の形成が確認された。
【0065】
得られた電磁鉄心の表面に垂直な断面を、走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。図6に、実施例の電磁鉄心の断面を示すSEM観察像を示す。図6に示すように、深さ15μmまでにおいて、マルテンサイトの組織が確認できた。700倍の倍率にて15μm×200μmの方形領域を観察し、撮影した組織写真を画像解析することにより、マルテンサイトの面積率を算出したところ、90%であった。
【0066】
得られた電磁鉄心の表面からの深さに対するマイクロビッカース硬さを、マイクロビッカース試験機を用いて、荷重20g、負荷時間8秒の条件で測定した。図5に、実施例の電磁鉄心の表面からの深さと、硬さとの関係を示すグラフを示す。図5に示す硬さは、実測値である。窒素濃化層について、表面からの深さが、窒素濃化層の厚さの2/3(10μm)となる位置の硬さを測定した結果、420Hvであった。また、窒素拡散層について、窒素拡散層の窒素濃化層側の面からの深さが、窒素拡散層の厚さの2/3(30μm)となる位置の硬さを測定した結果、280Hvであった。
【0067】
本実施形態の鋼材1は、電磁鉄心及び電磁接触器の他、摺動部を有する機構部品等に適用することができる。
【0068】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更などを行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0069】
1 鋼材
2 母材
3 窒化層
31 窒素濃化層
32 窒素拡散層
2a、2b、4a、4b、14a、14b、15a、15b サイド凸部
2c、4c、14c、15c 中央凸部
5 ピン
6 底面
7a、7b、17a、17b、18a、18b 接触面
7c、17c、18c 非接触面
10 電磁鉄心
10A 固定鉄心
10B 可動鉄心
20 積層体
51 真空チャンバ
52 サファイアガラス
53 フランジ
54 ステージ
55 半導体レーザー
S1、S2、S3 表面
100 電磁接触器
図1
図2
図3
図4
図5
図6