IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アクトインテリア株式会社の特許一覧 ▶ 青島拜倫湾科技有限公司の特許一覧

特開2024-33553ポリエチレン繊維の製造方法及び冷感生地の製造方法
<>
  • 特開-ポリエチレン繊維の製造方法及び冷感生地の製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033553
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ポリエチレン繊維の製造方法及び冷感生地の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/46 20060101AFI20240306BHJP
   D01F 1/10 20060101ALI20240306BHJP
   D01F 6/04 20060101ALI20240306BHJP
   D01D 5/08 20060101ALI20240306BHJP
   D04B 1/14 20060101ALI20240306BHJP
   D04B 1/16 20060101ALI20240306BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20240306BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20240306BHJP
   D03D 15/20 20210101ALI20240306BHJP
   D03D 15/283 20210101ALI20240306BHJP
   D03D 15/208 20210101ALI20240306BHJP
【FI】
D01F6/46 A
D01F1/10
D01F6/04 Z
D01D5/08 Z
D04B1/14
D04B1/16
D04B21/00 B
D04B21/16
D03D15/20 100
D03D15/283
D03D15/208
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137192
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】503247791
【氏名又は名称】アクトインテリア株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519381458
【氏名又は名称】青島拜倫湾科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒川 康之
(72)【発明者】
【氏名】孫 石林
【テーマコード(参考)】
4L002
4L035
4L045
4L048
【Fターム(参考)】
4L002AA02
4L002AA05
4L002AA06
4L002AA07
4L002AA08
4L002AB01
4L002AB02
4L002AC00
4L002BA00
4L002CA00
4L002EA00
4L002FA01
4L035AA05
4L035BB31
4L035BB60
4L035BB89
4L035BB91
4L035EE20
4L035JJ12
4L035KK04
4L035KK05
4L035MA01
4L045AA05
4L045BA03
4L045BA51
4L045CA01
4L045CA05
4L045CB13
4L045DA21
4L045DA41
4L045DA48
4L045DB07
4L045DC03
4L048AA08
4L048AA13
4L048AA15
4L048AA16
4L048AA20
4L048AA24
4L048AA46
4L048AA56
4L048AB01
4L048AB06
4L048AC00
4L048CA00
4L048DA01
(57)【要約】
【課題】相転移物質が封入されたマイクロカプセルのポリエチレン中の分散性を高めることが可能な相転移物質が封入されたマイクロカプセルを含むポリエチレン繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】ポリエチレン繊維の製造方法は、粒状のポリエチレン及び、相転移物質が封入されたマイクロカプセルを含む原料を混合する原料混合工程と、前記原料混合工程において混合された前記原料を押し出し機で溶融混合して樹脂混合物を生成する溶融混合工程と、前記混合物を固化させることなく溶融状態で紡糸機に導入して紡糸する紡糸工程と、前記紡糸された糸を延伸する延伸工程とを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状のポリエチレン及び、相転移物質が封入されたマイクロカプセルを含む原料を混合する原料混合工程と、
前記原料混合工程において混合された前記原料を押し出し機で溶融混合して樹脂混合物を生成する溶融混合工程と、
前記混合物を固化させることなく溶融状態で紡糸機に導入して紡糸する紡糸工程と、
前記紡糸された糸を延伸する延伸工程と、
を含むことを特徴とするポリエチレン繊維の製造方法。
【請求項2】
前記溶融混合工程は、前記押し出し機の温度が160~270℃、かつ押し出し圧力が100~130MPaの条件下で行われ、
前記紡糸工程は、前記紡糸機の圧力が130~170MPaの条件下で行われることを特徴とするポリエチレン繊維の製造方法。
【請求項3】
前記原料混合工程において、前記原料は、前記粒状のポリエチレン及び前記マイクロカプセルの合計量に対して、前記マイクロカプセルの含有量が5~50質量%含む請求項1又は2記載のポリエチレン繊維の製造方法。
【請求項4】
前記延伸工程が行われる前に、
前記紡糸工程を経た前記糸に対して、15~40℃であり、かつ湿度が60~90%の冷却風を当てる冷却工程と、
前記冷却工程を経たポリエチレン繊維に対して、前記ポリエチレン繊維の0.5~3.5質量%の油脂を塗布する油脂塗布工程と、
が行われる請求項1乃至3のいずれかに記載のポリエチレン繊維の製造方法。
【請求項5】
前記延伸工程は、第1の延伸が行われる第1延伸ローラ及び、第2延伸ローラ並びに、第2の延伸が行われる前記第2延伸ローラ及び、第3延伸ローラを備えた延伸装置で行われ、
前記第1延伸ローラの温度を50~80℃とし、600~1000m/分の速度で回転させ、
前記第2延伸ローラの温度を50~80℃とし、1800~2500m/分の速度で回転させ、
前記第3延伸ローラの温度を60~130℃とし、1800~3600m/分の速度で回転させる請求項1乃至4のいずれかに記載のポリエチレン繊維の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のポリエチレン繊維の製造方法により得られるポリエチレン繊維及び、ナイロン、ポリエステル、コットン、レーヨン、アクリルから選ばれた少なくとも1種の繊維を用いて、生地を製造することを特徴とする冷感生地の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相転移物質が封入されたマイクロカプセルを含むポリエチレン繊維の製造方法及び冷感生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
相転移物質は、例えば、固体状態から液体状態へ相転移する際に吸熱反応が生じるものである。このような相転移物質の吸熱作用を利用して、接触冷感を高めることが行われている。
【0003】
例えば、相転移物質を含有するマイクロカプセルを分散用高分子材料と混合して第一ブレンドを形成し、この第一ブレンドを加工して高分子複合体を形成することが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-163886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1では、温度調節材料(相転移物質を含有するマイクロカプセル)を溶融した高分子材料と混合しているが、温度調節材料と高分子材料との相溶性が低いため、温度調節材料が高分子材料中に一様に分散されない問題がある。
このように、当該高分子中において温度調節材料が偏在すると応力集中の要因となる。このため、温度調節材料の含有量の増加に伴って、当該高分子材料の強度が低下する問題がある。
【0006】
また、特許文献1では、温度調節材料を分散用高分子材料と混合して第一ブレンドを形成し、第一ブレンドを母材高分子材料と混合して、ペレット、繊維、フレーク、シート、フィルム、ロッドなどの様々な形状に形づくった第二ブレンド(高分子複合体のペレット)を形成し、この第二ブレンドを溶融紡糸して繊維を作るようにしている。しかしながら、上記のように、溶融した樹脂に温度調節材料を混合し、得られたペレットを再び溶融して紡糸するという工程を経ると、温度調節材料であるマイクロカプセルが破壊されやすくなり、相転移物質が流出しやすいという問題がある。
【0007】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、相転移物質が封入されたマイクロカプセルのポリエチレン中の分散性を高めると共に、相転移物質を含有するマイクロカプセルの破壊が抑制されるようにした、相転移物質が封入されたマイクロカプセルを含むポリエチレン繊維の製造方法及び冷感生地の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のポリエチレン繊維の製造方法は、粒状のポリエチレン及び、相転移物質が封入されたマイクロカプセルを含む原料を混合する原料混合工程と、前記原料混合工程において混合された前記原料を押し出し機で溶融混合して樹脂混合物を生成する溶融混合工程と、前記混合物を固化させることなく溶融状態で紡糸機に導入して紡糸する紡糸工程と、前記紡糸された糸を延伸する延伸工程と、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のポリエチレン繊維の製造方法によれば、粒状のポリエチレンと、相転移物質が封入されたマイクロカプセルとを、ポリエチレンを溶融させる前に混合し、その混合物を押し出し機に供給して溶融させるようにしたので、ポリエチレン中にマイクロカプセルを均一に分散させることができる。また、押し出し機で溶融混合された混合物を固化させることなく、そのまま紡糸機に導入して紡糸するようにしたので、相転移物質が封入されたマイクロカプセルの破壊を抑制することができる。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、前記溶融混合工程は、前記押し出し機の温度が160~270℃、かつ押し出し圧力が100~130MPaの条件下で行われ、前記紡糸工程は、前記紡糸機の圧力が150~170MPaの条件下で行われる。
【0011】
上記態様によれば、溶融混合工程が、押し出し機の温度が160~270℃、かつ押し出し圧力が100~130MPaの条件下で行われることにより、ポリエチレン繊維中におけるマイクロカプセルの分散性をより高めることができる。また、紡糸工程が、紡糸機の圧力が130~170MPaの条件下で行われることにより、マイクロカプセルを含有するポチエチレン繊維を効率よく製造できる。紡糸された糸を延伸する延伸工程が行われることにより、マイクロカプセルを含有するポチエチレン繊維に、十分な強度を付与することができる。
【0012】
本発明のポリエチレン繊維の製造方法において、前記原料混合工程は、前記粒状のポリエチレンと前記マイクロカプセルとの合計量に対して、前記マイクロカプセルの含有量が2~50質量%となるように行われることが好ましい。
【0013】
このような態様によれば、冷感作用を十分に付与しつつ、ポリエチレン繊維の強度を維持し、製造安定性を損なわないようにすることができる。
【0014】
本発明のポリエチレン繊維の製造方法において、前記延伸工程が行われる前に、前記紡糸工程を経た前記糸に対して、15~40℃であり、かつ湿度が60~90%の冷却風を当てる冷却工程と、前記冷却工程を経たポリエチレン繊維に対して、0.5~3.5%の油脂を塗布する油脂塗布工程と、が行われることが好ましい。
【0015】
このような態様によれば、冷却風を当ててポリエチレン繊維の固化を促進し、油脂を塗布することにより、互いに隣接する繊維どうしの付着を抑制し、その状態で延伸工程を行うことにより、延伸効果を高めることができる。
【0016】
本発明のポリエチレン繊維の製造方法において、前記延伸工程は、第1の延伸が行われる第1延伸ローラ及び、第2延伸ローラ並びに、第2の延伸が行われる前記第2延伸ローラ及び、第3延伸ローラを備えた延伸装置で行われ、前記第1延伸ローラの温度を50~80℃とし、600~1000m/分の速度で回転させ、前記第2延伸ローラの温度を50~80℃とし、1800~2500m/分の速度で回転させ、前記第3延伸ローラの温度を60~130℃とし、1800~3600m/分の速度で回転させることが好ましい。
【0017】
このような態様によれば、マイクロカプセルを含有するポリエチレン繊維の強度を、破断したりすることなく高めることができる。
【0018】
上記ポリエチレン繊維によれば、ポリエチレン繊維の強度を維持しつつ、相転移物質が封入されたマイクロカプセルにより吸熱効果を発揮することができる。
【0019】
本発明の冷感生地の製造方法は、上記のポリエチレン繊維及び、ナイロン、ポリエステル、コットン、レーヨン、アクリルから選ばれた少なくとも1種の繊維を用いて、生地を製造することを特徴とする。
【0020】
本発明の冷感生地によれば、手触り等を良好に維持しつつ、接触冷感の効果を高めることが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた冷感性能を有しつつ、高い通気性を有する冷感マットを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るポリエチレン繊維の製造工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る冷感マットの一実施形態について説明する。
【0024】
図1に示すように、本発明のポリエチレン繊維の製造方法は、粒状のポリエチレン及び、相転移物質が封入されたマイクロカプセルを含む原料を混合する原料混合工程(ステップS01)と、原料混合工程において混合された原料を押し出し機で溶融混合して樹脂混合物を生成する溶融混合工程(ステップS02)と、混合物を固化させることなく溶融状態で紡糸機に導入して紡糸する紡糸工程(ステップS03)と、前記紡糸された糸を延伸する延伸工程(ステップS06)と、を含む。
【0025】
本実施形態においては、図1に示されるように、紡糸工程(ステップS03)が行われた後に、冷却工程(ステップS04)を経た後に、油脂塗布工程(ステップS05)が行われる。延伸工程(ステップS06)は、油脂塗布工程(ステップS05)の後に行われる。
【0026】
原料混合工程の原料に用いられる粒状のポリエチレンは、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセン触媒直鎖状短鎖分岐ポリエチレン(LLDPE)のいずれであってもよい。
【0027】
原料に用いられるポリエチレンの融点は、100~145℃であるとよく、105~138℃であることが好ましく、115~135℃であることがより好ましい。
【0028】
原料に用いられる相転移物質としては、例えば、n-ヘプタデカン、n-オクタデカン、ノナデカン、n-エイコサンなどのアルカンの混合物などからなり、融点が好ましくは10~39℃、より好ましくは25~32℃であるものが用いられる。相転移物質は、固体から液体に相変化する際に熱を吸収する。したがって、相変化物質の周囲は、当該吸熱作用の影響を受ける。
【0029】
相転移物質は、例えば、固体又は、エマルジョンの形態でマイクロカプセルに封入されたものが用いられる。マイクロカプセルの壁材としては、例えば、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂などが用いられるが、相転移物質の染み出し抑制効果が高く、ホルムアルデヒドなどの発生のおそれがない、ポリメタクリル酸メチル樹脂などのアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0030】
尚、相転移物質が封入されたマイクロカプセルは、含水率が30ppm以下とするとよい。
【0031】
相転移物質の相転移エンタルピーは、50~300KJ/Kgとするとよく、70~250KJ/Kgとすることが好ましく、100~200KJ/Kgとすることがさらに好ましい。
【0032】
原料混合工程は、粒状のポリエチレン及びマイクロカプセルを計量装置で精密に分量を計測し、かつこれらを固体の状態で混合するとよい。混合は、粒状のポリエチレン及びマイクロカプセルの両者の分散状態が均一になるように、十分に行うとよい。
【0033】
溶融混合工程は、押し出し機(図示せず)を用いて行われる。押し出し機は、例えば、スクリュー押し出し機を用いることができる。溶融混合工程において、当該押し出し機の温度が160~270℃、かつ押し出し圧力が100~130MPaの条件に設定されて行われる。
【0034】
尚、ポリエチレンとマイクロカプセルとの混合は、押し出し機にこれらが投入される前に行われるとよい。
【0035】
押し出し機の温度は、180~250℃であることがより好ましく、190~240℃であることがさらに好ましい。押し出し機の温度が160℃を下回ると溶融したポリエチレンの粘度が高くなり、混合が困難となる傾向がある。また、270℃を超えると、ポリエチレンの劣化が促進される傾向がある。
【0036】
押し出し機の押し出し圧力は、105~125MPaであることが好ましく、110~120MPaであることがより好ましい。押し出し機の押し出し圧力が100MPaを下回ると、マイクロカプセルとポリエチレンとの混合が適切に行われない恐れがある。また、押し出し機の押し出し圧力が130MPaを超えると、マイクロカプセルが破損する恐れがある。
【0037】
溶融混合工程は、ポリエチレン繊維中のマイクロカプセルの含有量が2~50質量%となる配合割合で行われるとよく、5~40質量%となる配合割合で行われることが好ましく、10~30質量%となる配合割合で行われることがより好ましい。
【0038】
紡糸工程は、溶融混合された溶融状態の混合物を固化させることなく連続して紡糸機に導入することにより行われる。すなわち、圧力を加えて紡糸機のノズルから混合物を吐出することにより行われる。紡糸温度は、例えば、210~260℃とするとよく、ノズルの穴数は12~192とするとよい。
【0039】
紡糸工程は、紡糸機の圧力を130~170MPaとするとよく、140~165MPaとすることが好ましく、150~160MPaとすることがさらに好ましい。紡糸機の圧力が130MPaを下回ると、マイクロカプセルの分布が不均一となる傾向がある。紡糸機の圧力が170MPaを超えると、マイクロカプセルが破裂する恐れがある。
【0040】
冷却工程は、紡糸工程を経た糸に対して、15~40℃であり、かつ湿度が60~90%の冷却風を当てることにより行われる。冷却風の温度が15℃を下回ると、内部と外部の冷却が不均一となる傾向がある。また、冷却風の温度が40℃を超えると、冷却効率が悪化する傾向がある。また、冷却風の湿度が60%を下回ると、繊維の太さが不均一となる傾向がある。冷却風の湿度が90%を超えると、設備を傷つけるとなる傾向がある。
【0041】
油脂塗布工程は、複数本のポリエチレンの糸を同時に加工する場合におこなれるとよい。油脂塗布工程は、冷却工程を経たポリエチレン繊維に対して、当該ポリエチレン繊維の重量の0.5~3.5質量%の油脂を塗布することにより行われる。油脂の塗布量が0.5%を下回ると、静電気(クーロン力)によって隣接する繊維同士が引き寄せられる傾向がある。油脂の塗布量が3.5%を超えると、製造後のポリエチレン繊維がべたつく傾向がある。
【0042】
油脂塗布工程で用いられる油脂は、常温で液体のものであることが好ましく、例えば、低粘度鉱物油を用いることができる。例えば、白油飽和シクロアルカンとアルカン混合物などを用いることができる。
【0043】
延伸工程は、糸が延伸される回数は限定されないが、2回以上行われるとよい。延伸工程は、糸に張力をかけることが可能な複数の延伸ローラを備えた延伸装置を用いることができる。延伸ローラは、糸が延伸される回数に応じて適宜設けることができる。
【0044】
本実施形態においては、延伸工程において糸が延伸される回数を2回行う例を説明する。また、本実施形態においては、1回目の延伸を第1の延伸とし、2回目の延伸を第2の延伸として説明する。
【0045】
例えば、本実施形態においては、延伸工程は、第1の延伸が行われる第1延伸ローラ及び、第2延伸ローラ並びに、第2の延伸が行われる前記第2延伸ローラ及び、第3延伸ローラを備えた延伸装置で行うことができる。
【0046】
このとき、第1延伸ローラの温度を50~80℃とし、600~1000m/分の速度で回転させ、第2延伸ローラの温度を50~80℃とし、1800~2500m/分の速度で回転させ、第3延伸ローラの温度を60~130℃とし、1800~3600m/分の速度で回転させるとよい。
【0047】
このように延伸工程を行うことで、ポリエチレンの分子配向性を高めることができ、結果として、ポリエチレン繊維の強度を高めることが可能となる。
【0048】
これらの工程を経て製造された相転移物質が封入されたマイクロカプセルを含むポリエチレン繊維は、融点が105~138℃、引張強度が1.2~4.5cN/dtex、引張破断伸度が20~250%、示差走査熱量測定によって15℃以上45℃未満の温度範囲内に観測される融解エンタルピーが2~60J/g、太さが20~1000dである。
【0049】
また、これらの工程を経て製造された相転移物質が封入されたマイクロカプセルを含むポリエチレン繊維は、冷感生地として用いることができる。冷感生地は、マイクロカプセルを含むポリエチレン繊維のみで構成してもよいし、当該ポリエチレンと、ナイロン、ポリエステル、コットン、レーヨン、アクリルから選ばれた少なくとも1種の繊維と、で構成してもよい。ポリエチレン繊維と共に用いる繊維は、熱伝導性が高い繊維を用いるとよく、例えば、ナイロン長繊維、レーヨン長繊維を用いるとよい。
【0050】
以上のように、本発明のポリエチレン繊維の製造方法によれば、溶融混合工程が、押し出し機の温度が160~270℃、かつ押し出し圧力が100~130MPaの条件下で行われることにより、ポリエチレン繊維中におけるマイクロカプセルの分散性を高めることができる。また、紡糸工程が、紡糸機の圧力が150~170MPaの条件下で行われることにより、マイクロカプセルを含有するポチエチレン繊維を効率よく製造できる。紡糸された糸を延伸する延伸工程が行われることにより、マイクロカプセルを含有するポチエチレン繊維に、十分な強度を付与することができる。
【実施例0051】
(冷感持続試験)
相転移物質を含有するポリエチレン繊維を用いて作成した編地を実施例1として作成し、相転移物質を含有しないポリエチレン繊維を用いて作成した編地を比較例1として作成し、両者の冷感持続効果を試験した。
【0052】
(実施例1の作成)
実施例1の編地を以下の態様で作成した。
(溶融混合工程)
粒状のポリエチレン(融点:130℃)及び、含水率15ppmの相転移材料(パラフィン名:ノルマルオクタデカン)を封入したマイクロカプセルを用意した。
【0053】
粒状のポリエチレンと、マイクロカプセルとを、ポリエチレンとマイクロカプセルとの合計量に対してマイクロカプセルが5質量%となるように、重量計量混合機を用いて均一に混合し、この混合物をスクリュー押し出し機に供給して、溶融混合させて押し出した。なお、スクリュー押し出し機の圧力を110MPaとして混合物を作成した。
【0054】
(紡糸工程)
スクリュー押し出し機から押し出されたポリエチレンとマイクロカプセルとの溶融混合物を、ポンプにより融液の体積を制御しつつ紡糸機に導入して紡糸を行った。紡糸機の紡糸温度は242℃とし、ノズルの穴数は36穴とした。また、紡糸機の圧力を160MPaとした。
【0055】
(冷却工程)
紡糸工程を経た各々の糸は、温度が20℃、湿度が80%の冷却風が当てられ冷却される。
【0056】
(油脂塗布工程)
冷却工程を経た各々の糸に対して油脂を塗布した。使用した油脂は、低粘度鉱物油であった。油脂の塗布量は、紡糸重量(ポリエチレン繊維)の質量2.0%とした。
【0057】
(延伸工程)
糸に張力をかけることが可能な第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、第3延伸ローラを備えた延伸装置を用いて行った。第1延伸ローラは、回転速度を800m/分とし、温度を60℃とした。第2延伸ローラは、回転速度を2320m/分とし、温度を70℃とした。第3延伸ローラは、回転速度を3200m/分とし、温度を75℃とした。最後に、回転速度は3165m/分の全自動巻きで糸巻きを行った。
【0058】
(物性)
上記の工程で得たポリエチレン繊維は、太さ200Dであり、折り割れ強度は2.0 cN/dtexで、破断伸張率は90%で、エンタルピーは10J/gであった。また、当該ポリエチレン繊維を用いて目付が200gsmの編地を作成した。
【0059】
(比較例1の作成)
実施例1の作成方法において、相転移物質を含有するマイクロカプセルのみを除き、同様の設定にて比較例1のポリエチレン繊維を作成した。当該ポリエチレン繊維は、実施例1のポリエチレン繊維と太さが同じで、潜熱値が0であり、折れ割れ強度、折れ割れ伸び率は実施例1のポリエチレン繊維と近似していた。当該比較例1のポリエチレン繊維を用いて目付が200gsmの編地を作成した。
【0060】
(冷感持続試験)
45度に傾斜した試料台に資料片(10×7cm)を並べて取り付け、その15cm前に90℃の熱板を平行にセットする。サーモグラフィーにより、1分後、2分後、4分後、6分後、8分後、10分後の試料の表面温度を測定した。
【0061】
尚、試験環境は、以下のものとした。
室温:20℃±2℃
湿度:65±4%RH
測定面:表面
使用機器:遠赤外線45度パラレル再放射測定装置、サーモグラフィー装置
【0062】
測定から1分後の両試料の表面温度を測定した結果を下記表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示されるように、実施例1の編地は、温度の最大値、最小値、平均値の全てにおいて、比較例1よりも低いことが分かった。以上により、実施例1の編地の方が比較例1の編地よりも、実験開始直後における冷感が優れていることが分かった。
【0065】
測定から10分後の両試料の表面温度を測定した結果を下記表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示されるように、実施例1の編地は、温度の最大値、最小値、平均値の全てにおいて、比較例1よりも低いことが分かった。以上により、実施例1の編地は、比較例1の編地よりも、冷感の持続性も長いことが分かった。
【実施例0068】
(接触冷感試験)
相転移物質を含有するポリエチレン繊維を用いて作成した織地を実施例2として作成し、相転移物質を含有しないポリエチレン繊維を用いて作成した織地を比較例2として作成し、両者の冷感持続効果を試験した。
【0069】
実施例2の織地を以下の態様で作成した。
(溶融混合工程)
粒状のポリエチレン(融点:132℃)及び、含水率20ppmの相転移材料(パラフィン名:ノルマルオクタデカン)を封入したマイクロカプセルを用意した。
【0070】
粒状のポリエチレンをスクリュー押し出し機で溶融させた。溶融させたスクリュー押し出し機中のポリエチレンに相転移材料が封入されたマイクロカプセルを添加した。マイクロカプセルは、全量の20%を添加した。スクリュー押し出し機の圧力を120MPaとして混合物を作成した。
【0071】
(紡糸工程)
ポリエチレンとマイクロカプセルとの液状の混合物を、ポンプにより融液の体積を制御しつつ紡糸機で紡糸を行った。紡糸機の紡糸温度は242℃とし、ノズルの穴数は96穴とした。また、紡糸機の圧力を150MPaとした。
【0072】
(冷却工程)
紡糸工程を経た各々の糸は、温度が18℃、湿度が75%の冷却風が当てられ冷却される。
【0073】
(油脂塗布工程)
冷却工程を経た各々の糸に対して油脂を塗布した。使用した油脂は、低粘度鉱物油であった。油脂の塗布量は、紡糸重量(ポリエチレン繊維)の1.8質量%とした。
【0074】
(延伸工程)
糸に張力をかけることが可能な第1延伸ローラ、第2延伸ローラ、第3延伸ローラを備えた延伸装置を用いて行った。第1延伸ローラは、回転速度を700m/分とし、温度を65℃とした。第2延伸ローラは、回転速度を1900m/分とし、温度を75℃とした。第3延伸ローラは、回転速度を2600m/分とし、温度を80℃とした。最後に、回転速度は2570 m/分の全自動巻きで糸巻きを行った。
【0075】
(物性)
上記の工程で得たポリエチレン繊維は、太さ300Dであり、引張強度は2.5 cN/dtexで、破断伸張率は140%で、エンタルピーは20J/gであった。また、当該ポリエチレン繊維を用いて目付が230gsmの織地を作成した。
【0076】
(比較例2の作成)
実施例2の作成方法において、相転移物質を含有するマイクロカプセルのみを除き、同様の設定にて比較例1のポリエチレン繊維を作成した。当該比較例2のポリエチレン繊維を用いて目付が230gsmの編地を作成した。
【0077】
実施例2及び比較例2の編地について、JIS L 1927:2020の規格に基づいて接触冷感値(QMAX)をそれぞれ測定した。その結果、実施例2の編地の接触冷感値(QMAX)は、0.401であった。これに対して、比較例2の編地の接触冷感値(QMAX)は、0.369であった。以上のように、接触冷感値は実施例2が比較例2よりも高いことが分かった。
図1