(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033562
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】リチウム回収方法およびリチウム回収装置
(51)【国際特許分類】
C22B 26/12 20060101AFI20240306BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20240306BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240306BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20240306BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20240306BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C22B26/12
C22B3/44 101A
C22B1/02
C22B3/04
C22B3/22
C22B7/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137208
(22)【出願日】2022-08-30
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-14
(71)【出願人】
【識別番号】599049794
【氏名又は名称】株式会社 イージーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】近藤 治郎
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 貴仁
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA34
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA04
4K001CA16
4K001DB07
4K001DB16
4K001DB23
4K001HA09
4K001HA12
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン電池の焙焼破砕物から、効率的かつ簡便にリチウムを回収する方法および装置を提供する。
【解決手段】本発明の一態様に係るリチウム回収方法は、リチウムイオン電池焙焼破砕物と水系溶媒とを接触させ、前記水系溶媒によりリチウムを抽出する、抽出工程、前記抽出工程により得られたリチウム含有抽出液を固液分離する固液分離工程、および前記固液分離工程により得られた、リチウム溶液の一部または全部を、前記抽出工程の水系溶媒として利用する循環工程を含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン電池焙焼破砕物と水系溶媒とを接触させ、前記水系溶媒によりリチウムを抽出する、抽出工程、
前記抽出工程により得られたリチウム含有抽出液を固液分離する固液分離工程、および
前記固液分離工程により得られた、リチウム溶液の一部または全部を、前記抽出工程の水系溶媒として利用する循環工程を含む、リチウム回収方法。
【請求項2】
前記抽出工程において、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物に前記水系溶媒を散布すること、または、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物を前記水系溶媒に懸濁させることにより、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記抽出工程は、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物を磁選して、磁性物と非磁性物とに分離する磁選を行いながら行う請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記抽出工程は、磁気コンベア上を移動する前記リチウムイオン電池焙焼破砕物に、前記水系溶媒を散布して、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させることにより、リチウムを抽出する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記抽出工程は、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物を前記水系溶媒に懸濁させて、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させることにより、リチウムを抽出するとともに、磁気コンベア上に、リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とからなる懸濁物を供給する、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記磁選により分離された磁性物の一部または全部を、前記磁選の被磁選物として使用させる、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記固液分離工程により得られたリチウム溶液のpHを7.5~11.5の範囲に調整するpH調整工程を含む、請求項1に記載のリチウム回収方法。
【請求項8】
リチウムイオン電池焙焼破砕物を磁選して、磁性物と非磁性物とに分離する磁気コンベアと、
前記磁気コンベア上に存在する前記リチウムイオン電池焙焼破砕物に水系溶媒を供給する水系溶媒供給部、または、前記磁気コンベア上にリチウムイオン電池焙焼破砕物と水系溶媒とからなる懸濁物を供給する懸濁物供給部と、
前記水系溶媒供給部より供給される水性溶媒、または前記懸濁物供給部より供給される懸濁物中の水性溶媒、により抽出されたリチウムを含有するリチウム含有抽出液を固液分離する固液分離部と、
前記固液分離部により分離されたリチウム溶液を貯蔵するタンクと、
前記タンク内のリチウム溶液の一部または全部を、前記水系溶媒として使用するために、前記水系溶媒供給部、または前記懸濁物供給部に循環させる循環部と、を具備する、リチウム回収装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム回収方法およびリチウム回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の処理部材から抽出したリチウムイオン抽出液からリチウムを効率的に回収する方法として、リチウム選択透過膜を使用する方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術は、リチウム選択透過膜、電極等を備えた大掛かりな回収装置が必要であった。
【0005】
本発明の一態様は、リチウムイオン電池の焙焼破砕物から、効率的かつ簡便にリチウムを回収する方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、以下の構成を有するものである。
[1]リチウムイオン電池焙焼破砕物と水系溶媒とを接触させ、前記水系溶媒によりリチウムを抽出する、抽出工程、
前記抽出工程により得られたリチウム含有抽出液を固液分離する固液分離工程、および
前記固液分離工程により得られた、リチウム溶液の一部または全部を、前記抽出工程の水系溶媒として利用する循環工程を含む、リチウム回収方法。
[2]前記抽出工程において、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物に前記水系溶媒を散布すること、または、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物を前記水系溶媒に懸濁させることにより、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させる、[1]に記載の方法。
[3]前記抽出工程は、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物を磁選して、磁性物と非磁性物とに分離する磁選を行いながら行う[1]または[2]に記載の方法。
[4]前記抽出工程は、磁気コンベア上を移動する前記リチウムイオン電池焙焼破砕物に、前記水系溶媒を散布して、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させることにより、リチウムを抽出する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[5]前記抽出工程は、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物を前記水系溶媒に懸濁させて、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させることにより、リチウムを抽出するとともに、磁気コンベア上に、リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とからなる懸濁物を供給する、[1]~[3]のいずれか1つに記載の方法。
[6]前記磁選により分離された磁性物の一部または全部を、前記磁選の被磁選物として使用させる、[3]に記載の方法。
[7]前記固液分離工程により得られたリチウム溶液のpHを7.5~11.5の範囲に調整するpH調整工程を含む、[1]に記載のリチウム回収方法。
[8]リチウムイオン電池焙焼破砕物を磁選して、磁性物と非磁性物とに分離する磁気コンベアと、
前記磁気コンベア上に存在する前記リチウムイオン電池焙焼破砕物に水系溶媒を供給する水系溶媒供給部、または、前記磁気コンベア上にリチウムイオン電池焙焼破砕物と水系溶媒とからなる懸濁物を供給する懸濁物供給部と、
前記水系溶媒供給部より供給される水性溶媒、または前記懸濁物供給部より供給される懸濁物中の水性溶媒、により抽出されたリチウムを含有するリチウム含有抽出液を固液分離する固液分離部と、
前記固液分離部により分離されたリチウム溶液を貯蔵するタンクと、
前記タンク内のリチウム溶液の一部または全部を、前記水系溶媒として使用するために、前記水系溶媒供給部、または前記懸濁物供給部に循環させる循環部と、を具備する、リチウム回収装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン電池の焙焼破砕物から、効率的かつ簡便にリチウムを回収する方法および装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る処理フローの例を示す。
【
図2】本発明の一実施形態に係るリチウム回収装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は下記の実施形態に限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組合せた実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書において、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0010】
〔1.リチウム回収方法〕
本発明の一実施形態に係るリチウム回収方法は、
図1に示すように、リチウムイオン電池焙焼破砕物と水系溶媒とを接触させ、前記水系溶媒によりリチウムを抽出する、抽出工程、前記抽出工程により得られたリチウム含有抽出液を固液分離する固液分離工程、および前記固液分離工程により得られた、リチウム溶液の一部または全部を、前記抽出工程の水系溶媒として利用する循環工程を含む。各工程について、下記に説明する。
【0011】
〔1-1.抽出工程〕
前記抽出工程では、リチウムイオン電池焙焼破砕物と水系溶媒とを接触させ、前記水系溶媒によりリチウムを抽出することによって、リチウム含有抽出液を得る。
【0012】
本願明細書におけるリチウムイオン電池焙焼破砕物(以下、単に「焙焼破砕物」とも称する)とは、リチウムイオン電池を焙焼および破砕して得られる物を指す。焙焼破砕物には少なくともリチウム(Li)およびカーボン(C)が含まれ、その他にはマンガン(Mn)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、ナトリウム(Na)、リン(P)、硫黄(S)、ケイ素(Si)等が種々の割合で含まれ得る。前記焙焼に用いる雰囲気としては、特に限定されるものではなく、大気雰囲気、不活性ガス雰囲気、および還元雰囲気等であり得る。中でも前記焙焼に用いる雰囲気は還元雰囲気であることがより好ましい。前記焙焼に用いる雰囲気が還元雰囲気であれば、Mn、Co、Ni、Al、Cr、Fe、Cu、C等が、得られる焙焼破砕物に、酸化物ではなく単体として含まれる傾向があるため好ましい。これらが単体として含まれることにより、磁気分離、及び酸による溶解等を容易に行うことができる。前記還元雰囲気とは、例えば、窒素またはアルゴン等の不活性雰囲気中に一酸化炭素、水素、硫化水素、二酸化硫黄などを含む雰囲気を意味する。なお、密閉した電池パッケージ内に含まれる有機電解液が還元剤として機能するため、リチウムイオン電池を粉砕せずに焙焼することによって、還元雰囲気下を実現してもよい。
【0013】
前記焙焼の温度は、焙焼されるリチウムイオン電池の量、材質、状態等によって適宜決定されるが、例えば450℃~600℃であり、好ましくは500℃~550℃であり得る。また、焙焼時間も、焙焼されるリチウムイオン電池の量、材質、状態等によって適宜決定されるが、例えば4時間~6時間であり、好ましくは4.5時間~5.5時間であり得る。
【0014】
前記焙焼破砕物は、リチウムイオン電池を焙焼後、焙焼物を粉砕して得られるものであればよい。焙焼破砕物の形態は、特に限定されないが、定形又は不定形の粒子状や、粉末状であり得る。抽出工程におけるリチウムの抽出効率の観点からは、粉末状が好ましい。なお、焙焼粉砕物に塊状物が含まれる場合は、塊状物を除去することが好ましい。また、焙焼物を粉砕後、篩わけを行ってもよい。
【0015】
前記焙焼破砕物に含まれるリチウムは、焙焼破砕物中に、その少なくとも一部が水に溶解または水と反応して溶解する形態で存在していればよく、より多くの部分が水に溶解または水と反応して溶解する形態で存在していることがより好ましい。ここで、より多くの部分とは、例えば、焙焼破砕物中に含まれるリチウム原子としてのリチウムの好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上である。前記水に溶解する形態としては、特に限定されるものではないが、例えば、酸化リチウム、金属リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、塩化リチウム等を挙げることができる。焙焼破砕物中のリチウムの含有量としては、特に限定されないが、リチウム原子として、焙焼破砕物の重量に対して、好ましくは0.5重量%~10重量%であり、より好ましくは2重量%~3重量%である。
【0016】
前記焙焼破砕物に含まれるカーボンは、焙焼破砕物中にどのような形で存在していてもよい。したがって、カーボンは、単体として存在してもよいし、カーボン化合物として他の元素と結合した状態で存在してもよいが、分離の容易さの観点より、単体として存在することがより好ましい。焙焼破砕物中のカーボンの含有量としては、特に限定されないが、カーボン原子として、焙焼破砕物の重量に対して、好ましくは10重量%~50重量%であり、より好ましくは15重量%~30重量%である。
【0017】
前記焙焼破砕物に含まれる、リチウムおよびカーボン以外の上記の成分も、焙焼破砕物中にどのような形で存在していてもよい。したがって、リチウムおよびカーボン以外の上記の成分は、単体として存在してもよいし、化合物として他の元素と結合した状態で存在してもよいが、分離の容易さの観点より、単体として存在することがより好ましい。焙焼破砕物中のリチウムおよびカーボン以外の成分の含有量としては、特に限定されないが、原子として、焙焼破砕物の重量に対して、好ましくは40重量%~80重量%であり、より好ましくは50重量%~80重量%である。
【0018】
前記水系溶媒としては、リチウムを溶解できる水溶液であれば特に限定されないが、水であることが好ましい。水としては、例えば、水道水、工業用水、蒸留水、精製水、純水、超純水、またはイオン交換水等が挙げられる。循環工程から循環されるリチウム溶液を水系溶媒の一部または全部として使用する場合、前記水系溶媒はリチウムを含んでいてもよい。
【0019】
前記焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させる方法は特に限定されないが、例えば、焙焼破砕物に水系溶媒を散布する方法が挙げられる。また、焙焼破砕物と水系溶媒とを接触させる他の方法としては、焙焼破砕物を水系溶媒に懸濁させる方法が挙げられる。
【0020】
前記焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させることにより、焙焼破砕物中のリチウムが水系溶媒の水に溶解または水と反応して、例えば水酸化リチウムとなり、水系溶媒に浸出する。一方で、水系溶媒のpHを後述する好ましい値とした場合、焙焼破砕物に含まれるリチウム以外の金属は水系溶媒にほとんど溶解せず、浸出しない。
【0021】
本発明の一実施形態において、前記抽出工程は、前記焙焼破砕物を磁選して、磁性物と非磁性物とに分離する磁選を行いながら行うことができる。磁選を行いながら抽出工程を行うことにより、前記焙焼破砕物より、磁性物である金属を分離すると同時に、リチウムおよび非磁性物であるカーボンが含まれるリチウム含有抽出液を効率よく得ることができる。また、カーボンの除去を簡便に行うことができるという利点がある。さらには、通常乾燥状態で行う磁選において問題となる粉塵の問題を解決する防塵対策としての利点もある。
【0022】
焙焼破砕物を磁選する方法は特に限定されるものではないが、例えば、磁気コンベアを用いて行うことができる。磁気コンベアを用いて磁選を行いながら抽出工程を行う方法としては、例えば、磁気コンベア上を移動する前記焙焼破砕物に、前記水系溶媒を散布して、前記焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させることにより、リチウムを抽出する方法を挙げることができる。かかる方法によれば、散布により、カーボン等の非磁性物を洗い流すとともに、前記焙焼破砕物からリチウムを浸出させることができる。散布された前記水系溶媒は、磁気コンベア上を移動する前記焙焼破砕物から抽出されたリチウムと、カーボン等の非磁性物を含んだ状態で、例えば、磁気コンベアの幅方向の端部に磁気コンベアに沿って設けられた溝に流れて回収される。
【0023】
あるいは、磁気コンベアを用いて磁選を行いながら抽出工程を行う他の方法としては、例えば、磁気コンベア上に、前記焙焼破砕物と前記水系溶媒とからなる懸濁物を供給する方法を挙げることができる。当該方法においては、リチウムの抽出は、前記焙焼破砕物を前記水系溶媒に懸濁させて、前記焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させることにより行われる。かかる方法によれば、懸濁物中の水系溶媒、およびカーボン等の非磁性物が流れ出すとともに、焙焼破砕物からリチウムを抽出することができる。前記懸濁物中の前記水系溶媒は、前記焙焼破砕物から抽出されたリチウムと、カーボン等の非磁性物を含んだ状態で、例えば、磁気コンベアの幅方向の端部に磁気コンベアに沿って設けられた溝に流れて回収される。
【0024】
使用する磁気コンベアの構成は、リチウムおよび非磁性物であるカーボンが含まれるリチウム含有抽出液を回収できるようになっていれば特に限定されない。リチウム含有抽出液を回収できる構成としては、例えば、磁気コンベアの幅方向の片方または両方の端部に磁気コンベアに沿って設けられた溝を有する構成を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、どのような構成であってもよい。磁気コンベアは、幅方向に傾斜を有する磁気コンベアであることも好ましい。前述の傾斜を有する磁気コンベアを用いることにより、液体を傾斜に沿って下方に速く流すことができるため、リチウムおよび非磁性物であるカーボンが含まれるリチウム含有抽出液を容易に回収することができる。あるいは、磁気コンベアは、長手方向に傾斜を有する磁気コンベアであってもよく、幅方向と長手方向の両方に傾斜を有する磁気コンベアであってもよい。
【0025】
磁選により分離された磁性物には、抽出されなかったリチウムが含まれている場合がある。そのため、磁選によって分離された磁性物の一部または全部を、磁選の被磁選物として使用してもよい。これにより、より多くのリチウムを含有したリチウム含有抽出液を得ることができる。
【0026】
磁気コンベアを用いて磁選を行いながら抽出工程を行う例では、磁気コンベア上を移動する前記焙焼破砕物に含まれる磁性物は、磁気コンベアに磁着した状態で、磁気コンベア上を引き続き移動する。当該磁性物は、磁気コンベアの終端付近で、スクレーパー等によって回収される。回収された磁性物は、抽出されなかったリチウムをさらに抽出するために、磁気コンベア上に戻し、再度磁選に供し得る。
【0027】
〔1-2.固液分離工程〕
前記固液分離工程では、前記抽出工程により得られたリチウム含有抽出液を固液分離する。固液分離により、リチウム含有抽出液を、リチウム溶液と、主成分がカーボンである固体物質とに分離することができる。固液分離の方法は時に限定されないが、例えば、ろ過や遠心分離などが例示される。分離されたリチウム溶液は、例えば、捕集器に捕集され、その後、貯蔵するためのタンクに移してもよい。ここで、ろ過により固液分離を行う場合、公知のろ材(ろ紙、メンブレンフィルタ、繊維フィルターなど)を用いることができる。また、公知のフレキシブルコンテナバッグをろ材として流用してもよい。フレキシブルコンテナバッグを前記固液分離工程に用いた場合、主成分がカーボンである前記固体物質がろ過されずにフレキシブルコンテナバッグ内に捕集される。このため、フレキシブルコンテナバッグを前記固液分離工程に用いることにより、得られた捕集物をフレキシブルコンテナバックごと速やかに搬送することができる。
【0028】
固液分離工程により得られたリチウム溶液の、pHを、適宜調整してもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係るリチウム回収方法は、pH調整工程を含んでいてもよい。ここで、リチウム溶液のpHの上限は、11.5以下であることが好ましく、10.5以下であることがより好ましい。またリチウム溶液のpHの下限は7.5以上であることが好ましく、7.7以上であることがより好ましい。リチウム溶液のpHは、10であることが最も好ましい。リチウム溶液のpHが上記の範囲であれば、後に説明する循環工程を介してリチウム溶液を再度抽出工程に供する場合に、効率よくリチウムを抽出することができる。
【0029】
ただし、pH調整は、本発明の目的を達成するために支障がない限り、リチウム回収方法のどの段階で行ってもよい。例えば、抽出工程において水系溶媒のpHを調整してもよい。他の段階において水系溶媒のpHを調整する場合も、好ましいpHの範囲は上記と同じである。
【0030】
リチウム溶液のpHの調整は、pH調整剤を添加することにより行われ得る。pH調整剤としては、特に限定されないが、アルカリ性のpH調整剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、アンモニア、炭酸アンモニウム、トリエタノールアミン類等を使用することができる。またリチウム溶液のpHを調整するために使用される酸性のpH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、クエン酸、酢酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルコン酸、フィチン酸、エチドロン酸、エデト酸、ヒドロキシエタンホスホン酸、ペンテト酸、メタリン酸、乳酸、酒石酸、イミノジ酢酸等を使用することができる。
【0031】
また、固液分離工程により得られたリチウム溶液の温度を調節してもよい。すなわち、本発明の一実施形態に係るリチウム回収方法は、温度調節工程を含んでいてもよい。温度調整工程は、特に限定されるものではないが、公知の加熱装置や冷却装置を用いて行うことができ、加熱装置および冷却装置は水冷式であっても空冷式であってもよい。リチウム溶液の温度は、40℃~60℃であることが好ましく、45℃~55℃であることがより好ましい。リチウム溶液の温度が前記の範囲であれば、後に説明する循環工程を介してリチウム溶液を再度抽出工程に供した場合に、抽出されるリチウムの濃度が高くなり、効率よくリチウムを回収することができる。
【0032】
ただし、温度調節は、本発明の目的を達成するために支障がない限り、リチウム回収方法のどの段階で行ってもよい。例えば、抽出工程において水系溶媒の温度を調節してもよい。他の段階において水系溶媒の温度を調節する場合も、好ましい温度の範囲は上記と同じである。
【0033】
さらに、固液分離工程により得られたリチウム溶液に補給水を添加することにより、リチウム溶液の濃度を調整してもよい。補給水としては、特に限定されないが、例えば、水道水、工業用水、蒸留水、精製水、純水、超純水、またはイオン交換水等を使用することができる。
【0034】
〔1-3.循環工程〕
前記循環工程では、前記固液分離工程により得られた、リチウム溶液を抽出工程の水系溶媒として利用するために、前記リチウム溶液の一部または全部を循環する。後の抽出工程において、焙焼破砕物に水系溶媒を散布することにより焙焼破砕物と水系溶媒とを接触させる場合は、リチウム溶液を水系溶媒供給部に循環させることができる。また後の抽出工程において、焙焼破砕物を水系溶媒に懸濁させることにより焙焼破砕物と水系溶媒とを接触させる場合は、リチウム溶液を懸濁物供給部に循環させることができる。前記循環工程によって、回収されるリチウム溶液中のリチウム濃度を高めることができる。
【0035】
<2.リチウム回収装置>
本発明の一実施形態に係るリチウム回収装置を、
図2を用いて説明する。前記リチウム回収装置(1)は、焙焼破砕物を磁選して、磁性物(18)と非磁性物(14)とに分離する磁気コンベア(6)を具備する。前記磁気コンベアは、磁石(4)を備えたコンベア(5)であり、磁気コンベア(6)上を、リチウムイオン電池焙焼破砕物、またはリチウムイオン電池焙焼破砕物と水系溶媒とからなる懸濁物(12)が移動する間に、磁選が行われるようになっている。磁気コンベア(6)には、リチウム含有抽出液(15)を捕集する捕集器(7)が備えられている。前記捕集器(7)は、リチウム含有抽出液(15)を回収することができ、かつリチウム含有抽出液(15)を後に説明する固液分離部(8)に送り込むことができれば、どのような構成であってもよい。かかる構成としては、例えば上述した、磁気コンベアの幅方向の端部に磁気コンベアに沿って設けられた溝を挙げることができる。なお、
図2の例では、磁気コンベア(6)はコンベア(5)のベルト上に磁石(4)が備えられているが、磁気コンベア(6)の構成は、磁性物を磁着した状態で搬送できる構成であれば、磁石(4)がベルトの下側に備えられていてもよい。また、市販の磁気コンベアを使用してもよい。さらに、
図2の例では、磁気コンベア(6)は地面に水平に設置されているが、上述したように、傾斜を有していてもよい。
【0036】
前記抽出工程において、焙焼破砕物に水系溶媒(13)を散布することにより両者を接触させる場合、前記リチウム回収装置(1)は磁気コンベア(6)上に存在する焙焼破砕物に水系溶媒を供給する水系溶媒供給部(3)を備えている。前記水系溶媒供給部(3)は、水系溶媒(13)を散布可能な部材を備えている。上記散布可能な部材は、水系溶媒を噴霧できる噴霧器、スプレー、シャワーヘッド、回転式シャワー、マイクロシャワー等であり得るが、これらに限定されるものではない。
図2の例には示されていないが、水系溶媒供給部(3)は、散布する水系溶媒(13)の量を調整するための、散布量調整装置を備えていてもよい。
【0037】
前記抽出工程において、焙焼破砕物を水系溶媒に懸濁させることにより両者を接触させる場合には、前記リチウム回収装置(1)は前記磁気コンベア上に焙焼破砕物と水系溶媒とからなる懸濁物を供給する懸濁物供給部(2)を備えている。前記懸濁物供給部(2)は、磁気コンベア(6)上に焙焼破砕物と水系溶媒とからなる懸濁物を供給することができる構成になっている。前記懸濁物供給部は、当該供給部内で焙焼破砕物と水系溶媒とを懸濁できるような構成であってもよい。
【0038】
さらに、前記リチウム回収装置(1)は、水系溶媒供給部(3)より供給される水性溶媒、または懸濁物供給部(2)より供給される懸濁物中の水性溶媒、により抽出されたリチウムを含有するリチウム含有抽出液を固液分離する固液分離部(8)を備えている。前記固液分離部(8)の下流側には、固液分離によって得られたリチウム溶液(17)を捕集するためのろ液捕集器(9)が備えられている。前記ろ過捕集器(9)は、固液分離によって得られたリチウム溶液(17)を捕集し、捕集物を排出する。
図2の例では、前記固液分離部(8)の下流側に、ろ液捕集器(9)が備えられているが、ろ液捕集器(9)が備えられておらず、固液分離部(8)にて分離されたリチウム溶液(17)が、直接後述するタンク(10)に回収されるようになっていてもよい。
【0039】
さらに、前記リチウム回収装置(1)は、前記ろ過捕集器(9)の下流側に、固液分離部(8)により分離されたリチウム溶液を貯蔵するタンク(10)を備えている。
【0040】
タンク(10)には、図示しないpH調整部が備えられていてもよい。前記pH調整部は、タンク(10)以外、例えば、水系溶媒供給部(3)、懸濁物供給部(2)、後述する循環部(11)等に備えられていてもよい。前記pH調整部は、pH測定器およびpH調整剤導入部を少なくとも備えていればよい。pH調整剤については、〔1-2.固液分離工程〕において説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0041】
さらに、タンク(10)には、図示しない温度調節部が備えられていてもよい。前記温度調節部は、タンク(10)以外、例えば、水系溶媒供給部(3)、懸濁物供給部(2)、後述する循環部(11)等に備えられていてもよい。前記温度調整部は、温度計等の温度測定部;および冷却装置、加熱装置、熱交換器等の装置を少なくとも備えていればよい。
【0042】
そしてさらに、前記リチウム回収装置(1)は、前記タンク(10)内のリチウム溶液の一部または全部を、水系溶媒として使用するために、水系溶媒供給部(3)、または懸濁物供給部(2)に循環させる循環部(11)を備えている。循環部(11)は、リチウム溶液を循環させるための送液管および循環ポンプ等を含んでいてもよく、これら送液管および循環ポンプとしては、周知の送液管および循環ポンプ等を使用することができる。また、循環部(11)は、リチウム濃縮液排出部(19)を備えており、リチウムが濃縮された液を回収できるようになっている。
【0043】
本発明によれば、使用済みのリチウムイオン電池からリチウムを回収しリサイクルすることができるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標12(つくる責任つかう責任)の達成に寄与する可能性がある。
【実施例0044】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
本発明の一実施形態に係るリチウム回収方法を次のように再現した。
【0046】
〔実施例1〕
磁石上に焙焼破砕物2gを散布し、霧吹きを用いて純水200mLを吹きかけた。次いで、流出水および粒子を回収し、ろ紙(東洋濾紙株式会社製、定性濾紙1号)を用いてろ過した。得られたろ液のうち50mLを採取し、pH、リチウム濃度、およびリチウム含有量の測定を行った。
【0047】
〔実施例2〕
実施例1においてpHおよびリチウム濃度の測定に使用しなかったろ液に、全量が200mLとなるように純水を追加し、霧吹きに充填した。その後、磁石上の実施例1で使用した焙焼破砕物を取り除き、新たに焙焼破砕物2gを散布した。霧吹きに充填した溶液200mLを磁石上の焙焼破砕物に吹きかけ、流出水および粒子を回収し、ろ紙を用いてろ過した。実施例1と同様に、得られたろ液のうち50mLを採取し、pH、リチウム濃度、およびリチウム含有量の測定を行った。また、実施例1の値を基に、リチウム濃度の理論値を算出した。
【0048】
〔実施例3〕
実施例2においてpHおよびリチウム濃度の測定に使用しなかったろ液に、全量が200mLとなるように純水を追加し、霧吹きに充填した。その後、磁石上の実施例2で使用した焙焼破砕物を取り除き、新たに焙焼破砕物2gを散布した。霧吹きに充填した溶液200mLを磁石上の焙焼破砕物に吹きかけ、流出水および粒子を回収し、ろ紙を用いてろ過した。実施例1および2と同様に、得られたろ液のうち50mLを採取し、pH、リチウム濃度、およびリチウム含有量の測定を行った。また、実施例1の値を基に、リチウム濃度の理論値を算出した。
【0049】
【0050】
表1から、リチウム濃度は実施例1と比較して実施例2で高く、実施例2と比較して実施例3で高いことが確認できた。さらに、リチウム含有量についても、実施例1と比較して実施例2で多く、実施例2と比較して実施例3で多いことが確認できた。すなわち、本発明の一実施形態に係る抽出工程、固液分離工程、および循環工程の一連の工程を繰り返すことにより、得られるリチウム溶液のリチウム濃度およびリチウム含有量が増加し、リチウムが濃縮されることが明らかになった。
【0051】
続いて、リチウム抽出における、リチウム溶液の好ましいpHを以下の方法で検討した。
【0052】
〔実施例4〕
焙焼破砕物2gを500mLのガラス製ビーカーに入れ、純水200mLを前記ビーカーに添加した。得られた溶液にpH調整剤として塩酸を添加し、pH4の溶液を得た。次いで、スクリュー翼3cm、300rpmの条件で溶液を30分間攪拌した。撹拌の間、溶液に適宜塩酸を添加することにより、pH4±0.3を維持した。攪拌後の溶液をろ紙を用いてろ過し、得られたろ液に含まれる金属の含有量を測定した。
【0053】
〔実施例5~7〕
溶液をpH6、8、および10に調整および維持したこと以外は、実施例4と同様の方法で溶液を調製および攪拌し、攪拌後の溶液をろ過し、ろ液に含まれる金属の含有量を測定した。すなわち、実施例5~7の溶液は、攪拌後のpHがそれぞれpH6±0.3、8±0.3、および10±0.3であった。
【0054】
〔実施例8〕
pH調整剤として水酸化ナトリウムを使用し、溶液をpH11に調整したこと以外は、実施例4と同様の方法で溶液を調製および攪拌し、攪拌後の溶液をろ過し、ろ液に含まれる金属の含有量を測定した。すなわち、実施例8の溶液は、攪拌後のpHがpH11±0.3であった。
【0055】
〔実施例9〕
pH調整剤を添加しなかったこと以外は実施例4と同様の方法で、溶液を調製および攪拌し、攪拌後の溶液をろ過し、ろ液に含まれる金属の含有量を測定した。pHは、溶液調製時および攪拌中一定して10.9であった。
【0056】
【0057】
表2に示すように、実施例4~6より、pH8±0.3では溶液中に少量のマンガンが混在することが確認され、pH6±0.3以下ではより多くのマンガンが混在することが確認された。また、実施例5、8、および9より、pH6±0.3およびpH11付近では溶液中に少量のアルミニウムが混在することが確認され、pH4±0.3ではより多くのアルミニウムが混在することが確認された。一方で、pH10±0.3では溶液中にリチウム以外の金属が浸出しないことが確認された。
【0058】
さらに、リチウム浸出における、好ましい温度を以下の方法で検討した。
【0059】
〔実施例10〕
焙焼破砕物2gを、純水200mLを入れた500mLのガラスビーカーに入れた。次いで、スクリュー翼3cm、300rpm、および室温(23℃)の条件で、30分間攪拌を行った。攪拌後直ちに、溶液をろ紙を用いてろ過し、ろ液を得た。得られたろ液のpH、リチウム濃度、およびアルミニウム濃度の測定を行った。
【0060】
〔実施例11〕
ホットバスに水を張り、純水200mLを入れた500mLガラスビーカーを浸漬させた。次いで、ビーカー中の純水の温度が50℃になるまで昇温させた。昇温後、焙焼破砕物をビーカー内に添加し、スクリュー翼3cmおよび300rpmの条件で、ビーカー中の純水の温度を50℃に保ったまま30分間攪拌を行った。攪拌後直ちに、溶液をろ紙を用いてろ過し、ろ液を得た。得られたろ液のpH、リチウム濃度、およびアルミニウム濃度の測定を行った。測定で得られた値について、昇温による蒸発によって損失した純水の量を考慮し、容量補正を行って濃度の算出を行った。
【0061】
〔実施例12〕
ビーカー中の純水の温度を80℃になるまで昇温させたこと以外は、実施例11と同様の方法でろ液を得、得られたろ液のpH、リチウム濃度、およびアルミニウム濃度の測定および算出を行った。
【0062】
【0063】
表3から、実施例11は、実施例10および実施例12と比較してリチウム濃度が高いことが確認できた。すなわち、リチウムは50℃付近で浸出することにより、効率よく回収できることが明らかになった。
本発明によれば、リチウムイオン電池の焙焼破砕物から、効率的かつ簡便にリチウムを回収することができるので、リチウムイオン電池からリチウムを回収する方法として好適である。
前記抽出工程において、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物に前記水系溶媒を散布すること、または、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物を前記水系溶媒に懸濁させることにより、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させる、請求項1に記載の方法。
前記抽出工程は、磁気コンベア上を移動する前記リチウムイオン電池焙焼破砕物に、前記水系溶媒を散布して、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させることにより、リチウムを抽出する、請求項1に記載の方法。
前記抽出工程は、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物を前記水系溶媒に懸濁させて、前記リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とを接触させることにより、リチウムを抽出するとともに、磁気コンベア上に、リチウムイオン電池焙焼破砕物と前記水系溶媒とからなる懸濁物を供給する、請求項1に記載の方法。