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  • 特開-レジオネラ属菌の検査方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033564
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】レジオネラ属菌の検査方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20240306BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
C12Q1/04
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137211
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000101042
【氏名又は名称】アクアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001922
【氏名又は名称】弁理士法人日峯国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩章
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 智幸
(72)【発明者】
【氏名】田口 真鈴
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QR41
4B063QR68
4B063QR69
4B065AA01X
4B065AC10
4B065BA21
4B065BB12
4B065BB37
4B065BC03
4B065CA46
(57)【要約】
【課題】レジオネラ属菌以外の微生物、特に抗酸菌の影響を受けにくく、より正確なレジオネラ属菌の検出が可能なレジオネラ属菌の検査方法を提供する。
【解決手段】レジオネラ属菌を、培地を用いた培養法によって検出するレジオネラ属菌の検査方法であって、前記レジオネラ属菌の選択剤としてエタンブトール又はその塩を用いることを特徴とするレジオネラ属菌の検査方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中のレジオネラ属菌を、培地を用いた培養法によって検出するレジオネラ属菌の検査方法であって、
前記レジオネラ属菌の選択剤としてエタンブトール又はその塩を用い、前記培地における前記エタンブトールの濃度が、0.02μmol/mL以上100μmol/mL以下であることを特徴とするレジオネラ属菌の検査方法。
【請求項2】
前記エタンブトール又はその塩を前記培地に添加して用いること
を特徴とする請求項1に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
【請求項3】
前記エタンブトール又はその塩を添加した酸性緩衝液と、前記検体を混合した後に、処理後の検体を前記培地に接種、培養すること
を特徴とする請求項1に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
【請求項4】
前記レジオネラ属菌を前記培地で培養する工程において、
前記培地における前記エタンブトールの濃度が、0.2μmol/mL以上40μmol/mL以下であること
を特徴とする請求項1、請求項2、又は請求項3のいずれか一項に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
【請求項5】
前記検体と、酸性緩衝液又は前記エタンブトール又はその塩を添加した酸性緩衝液を混合する酸処理工程を有し、
前記酸処理工程後の検体のpHが1.8以上2.6以下であること
を特徴とする請求項1、請求項2、又は請求項3のいずれか一項に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
【請求項6】
前記酸処理工程後の検体を前記培地に接種、培養する工程において
前記培地における前記エタンブトールの濃度が、0.2μmol/mL以上40μmol/mL以下であること
を特徴とする請求項5に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養法等による培養を行うレジオネラ属菌の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レジオネラ属菌は好気性のグラム陰性桿菌で、本来、自然界の土壌や淡水に生息する環境細菌であるが、冷却塔冷却水やプール水、温浴施設循環水等の人工水系においても高い確率で生息することが明らかとなっている。レジオネラ属菌は、レジオネラ属菌に汚染された水系のエアロゾルを介して人へ気道感染し、レジオネラ肺炎等のレジオネラ症を引き起こすことで知られており、日本国内では1981年にレジオネラ症患者が初めて報告されて以降、その患者報告数は年々増加傾向にある。レジオネラ症が人から人へ感染する例は報告されていないことから、人工水系の適切な衛生管理が重要視されており、例えば浴場設備の浴槽水では、厚生労働省による「公衆浴場における水質基準等に関する指針」において、レジオネラ属菌は不検出(10CFU/100mL(ミリリットル)未満)であることと定められている。レジオネラ症を防止するためには、感染源となり得る水系におけるレジオネラ属菌の生息状況を正確に把握することが重要であり、レジオネラ属菌の検査には高い精度が求められている。
【0003】
これらの人工水系からレジオネラ属菌を検出する方法にはさまざまな方法があるが、そのなかでも培養法はレジオネラ属菌検出の標準的な方法として知られている。わが国におけるレジオネラ属菌検査は「レジオネラ症防止指針」(非特許文献1)に記載された検査方法に準拠して行われている。本検査方法は、試料水をレジオネラ属菌の選択培地(GVP、MWY、GVPC、WYO等)に塗布して、培養後生育してきたコロニーを目視で計数する方法である。ここで上記「レジオネラ症防止指針」(非特許文献1)に記載された冷却遠心濃縮法を用いた平板培養法のフローの大略について図1に示す。
【0004】
しかしながら、上記選択培地を使用した場合でも、共存する微生物の影響を除ききれないことがある。これらレジオネラ属菌以外の微生物(夾雑微生物)は一般にレジオネラ属菌よりも選択培地上でのコロニー形成及びその拡大が早いため、生育したレジオネラ属菌のコロニーを計数する妨げとなり、さらに、近接するレジオネラ属菌のコロニーの生育を妨げる等の障害をもたらすことから、レジオネラ属菌に対して障害を引き起こさず、かつ、夾雑微生物に対して有効な前処理、及び、選択培地を用いて、それらの繁殖を抑制する方法が検討されてきた。
【0005】
上記前処理方法の一つとして、酸処理が挙げられる。図1に示したような検査対象水あるいは検査対象水の冷却遠心沈渣に滅菌水を加えたものに対してHCl・KCl緩衝液を混合し、夾雑する細菌類の発育を抑制する方法が広く用いられている。
【0006】
また、特許文献1にはHCl・KCl緩衝液の代わりに、より高い緩衝能を持つ酸性リン酸緩衝液を混合する酸処理を行う方法が記載されている。
【0007】
さらに、夾雑微生物による汚染が激しい検体には、前処理を強化して夾雑微生物の影響を抑制する場合がある。例えば、上記酸処理と熱処理を併用する方法があり、50℃で20分間程度処理した検体に対して上記酸処理を行う方法等が一般的に行われている。(非特許文献2)
【0008】
上記選択培地としては、レジオネラ属菌を培養可能な培地であるBCYEα培地にレジオネラ属菌に対する選択性を付与するために、抗菌剤であるグリシン、バンコマイシン、及び、ポリミキシンBに加え、抗真菌剤であるアニソマイシンを添加したMWY培地、又は、BCYEα培地に抗菌剤であるグリシン、バンコマイシン、及び、ポリミキシンBに加え、抗真菌剤であるシクロヘキシミドを添加したGVPCα培地、あるいは、BCYEα培地に抗菌剤であるグリシン、バンコマイシン、及び、ポリミキシンBに加え、抗真菌剤であるアンホテリシンBを添加したWYOα培地等が、夾雑微生物の影響をある程度排除できる選択培地として知られている。
【0009】
さらに、特許文献2にはGVP培地にシクロヘキシミド、アンホテリシンB、及び、チアベンダゾールを添加したCATα培地を用いたレジオネラ属菌の検査方法が記載されている。
【0010】
しかしながら、ここまで夾雑微生物に対して対策を取った検査手法であっても、対策の効果は充分ではなく、上記の前処理や選択培地に添加された抗菌剤、及び、抗真菌剤に耐性を有する微生物が存在し得る。これらの微生物の発育による、レジオネラ属菌が計測できない、あるいは、計数精度が低下する等の問題は依然として残っているため、レジオネラ属菌の生育を阻害しない、かつ、従来の前処理に耐性を持つ夾雑微生物にも有効な発育抑制手法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005-237275号公報
【特許文献2】特開2006-280219号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】中原俊隆編、「レジオネラ症防止指針」、第4版、公益財団法人日本建築衛生管理教育センター、2017年、p.32~38
【非特許文献2】春日修ほか、環境水由来レジオネラ属菌の分離方法に関する検討、感染症学雑誌、1999年、73、p.25~34
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
レジオネラ属菌の培養検査における夾雑微生物が抗酸菌である場合、これまで改良してきた酸性緩衝液、選択培地、及び、前処理方法による発育抑制効果が得られにくいということが判った。かかる状況において、本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、レジオネラ属菌以外の微生物、特に抗酸菌の影響を受けにくく、より正確なレジオネラ属菌の検出が可能なレジオネラ属菌の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、レジオネラ属菌の培養検査において、エタンブトール又はその塩を用いることで抗酸菌の発育を完全に抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は検体中のレジオネラ属菌を培地による培養法によって検出するレジオネラ属菌の検査方法であって、レジオネラ属菌の選択剤としてエタンブトール又はその塩を用いることを特徴とする。選択剤とは、レジオネラ属菌以外の微生物の発育を抑制するために用いられる薬剤のことであり、抗菌剤、抗真菌剤、抗生物質等がこれに含まれる。
【0016】
本発明は、より具体的には、
(1)
検体中のレジオネラ属菌を、培地を用いた培養法によって検出するレジオネラ属菌の検査方法であって、
前記レジオネラ属菌の選択剤としてエタンブトール又はその塩を用い、前記培地における前記エタンブトールの濃度が、0.02μmol/mL以上100μmol/mL以下であることを特徴とするレジオネラ属菌の検査方法。
(2)
前記エタンブトール又はその塩を前記培地に添加して用いること
を特徴とする(1)に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
(3)
前記エタンブトール又はその塩を添加した酸性緩衝液と、前記検体を混合した後に、処理後の検体を前記培地に接種、培養すること
を特徴とする(1)に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
(4)
前記レジオネラ属菌を前記培地で培養する工程において、
前記培地における前記エタンブトールの濃度が、0.2μmol/mL以上40μmol/mL以下であること
を特徴とする(1)、(2)、又は(3)のいずれか一項に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
(5)
前記検体と、酸性緩衝液又は前記エタンブトール又はその塩を添加した酸性緩衝液を混合する酸処理工程を有し、
前記酸処理工程後の検体のpHが1.8以上2.6以下であること
を特徴とする(1)、(2)、又は(3)のいずれか一項に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
(6)
前記酸処理工程後の検体を前記培地に接種、培養する工程において
前記培地における前記エタンブトールの濃度が、0.2μmol/mL以上40μmol/mL以下であること
を特徴とする(5)に記載のレジオネラ属菌の検査方法。
とした。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、レジオネラ属菌以外の微生物、特に抗酸菌の影響を受けにくく、より正確なレジオネラ属菌の検査が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】「レジオネラ症防止指針」に記載された冷却遠心濃縮法を用いた平板培養法のフローチャート(抜粋)である。
図2】エタンブトール又はその塩添加酸性リン酸緩衝液を培養前処理に用いる場合のレジオネラ属菌の検査手順例である。
図3】エタンブトール又はその塩添加培地でレジオネラ属菌を培養する場合のレジオネラ属菌の検査手順例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、検体とは、検査対象水、及び検査操作の過程で得られる中間工程のサンプルを指し、液体状のサンプルであっても、あるいは、ろ過残渣のようなサンプルであっても良い。
【0020】
本発明のレジオネラ属菌の検査方法において、エタンブトール又はその塩はレジオネラ属菌の培養時に、培地中ないし培地上の少なくともいずれかに存在していることが重要である。したがって、エタンブトール又はその塩を添加する場所は、特に限定されることは無く、例えば培地に添加しても良く、又は、検体培養前に、検体、あるいは、検体と混合する前処理剤等に添加しても良い。
【0021】
本発明において、エタンブトール又はその塩を培地に添加する場合、通常は培地におけるエタンブトールの濃度は、0.02μmol/mL以上100μmol/mL以下で用いられるが、0.03μmol/mL以上50μmol/mL以下であることが好ましく、0.2μmol/mL以上40μmol/mL以下であることが特に好ましい。濃度が0.02μmol/mLより低いと、レジオネラ属菌以外の微生物、特に抗酸菌の影響を充分に排除する効果が低い。培地におけるエタンブトールの濃度の上限値は、レジオネラ属菌の生菌測定に影響を与えない範囲で適宜決定することができ、50μmol/mL以下が好適である。培地におけるエタンブトールの濃度が0.2μmol/mL以上40μmol/mL以下が抗酸菌の影響を排除して、レジオネラ属菌の生菌数を正確に測定する上で特に好ましい範囲である。本発明において、培地におけるエタンブトールの濃度とは、レジオネラ属菌の培養時に培地中、及び/又は、培地上に存在するエタンブトール又はその塩の総物質量を、培地単位体積当たりの物質量に平均化して表したものである。
【0022】
エタンブトール又はその塩添加培地は、自家調製しても良いが、例えば、エタンブトール又はその塩を水に溶解したエタンブトール又はその塩水溶液を既製の培地に塗布して浸み込ませる、あるいは、エタンブトール又はその塩を水に溶解したエタンブトール又はその塩水溶液を既製の培地に混合することで調製しても良く、培地の調製方法は限定されるものでは無い。またエタンブトール又はその塩添加培地の調製においては、エタンブトール又はその塩水溶液の代わりにエタンブトール又はその塩分散液を用いても良いが、培地中のエタンブトール又はその塩を均一に分散させるために手間がかかることから、エタンブトール又はその塩水溶液を用いる方が好ましい。さらに、エタンブトール又はその塩水溶液の培地への塗布量や混合量は、レジオネラ属菌の培養検査に影響を与えない範囲で調整することが可能である。したがって、培地におけるエタンブトールの濃度は、エタンブトール又はその塩水溶液あるいは分散液の濃度、及びエタンブトール又はその塩水溶液あるいは分散液の培地への塗布量や添加量を変更することで適宜調節することができる。
【0023】
本発明において、エタンブトール又はその塩が検査の過程で加熱される場合が考えられる。加熱の目的や対象は、特に限定されることは無いが、一般的に培地の滅菌を目的とした培地のオートクレーブ滅菌(121℃)や、検体中のレジオネラ属菌以外の微生物の発育を抑制することを目的とした検体の熱処理(50℃)等が行われる。このとき、加熱される培地中又は培地上、あるいは加熱される検体中にエタンブトール又はその塩が存在していても、少なくとも121℃で20分間の熱処理を行っても抗酸菌に対する発育抑制効果は失われない。後述の実施例にて、エタンブトール又はその塩添加培地を用いたエタンブトールの熱安定性試験の結果を示す。
【0024】
また、本発明のレジオネラ属菌の検査方法において、検体の前処理として酸処理を実施する場合は、酸性緩衝液にエタンブトール又はその塩を添加しても、培地へエタンブトール又はその塩を添加した場合と同等の抗酸菌に対する発育抑制効果が得られる。この場合も本発明に含まれる。
【0025】
検体の酸処理を実施する際に、酸性緩衝液にエタンブトール又はその塩を添加する場合、検体を培地に接種したときの培地におけるエタンブトールの濃度はエタンブトール又はその塩を培地に添加する場合と同様の濃度範囲となるように、酸性緩衝液へのエタンブトール又はその塩の添加量を適宜決定することができる。すなわち、通常は培地におけるエタンブトールの濃度は、0.02μmol/mL以上100μmol/mL以下で用いられるが、好ましくは培地におけるエタンブトールの濃度を0.03μmol/mL以上50μmol/mL以下、特に好ましくは0.2μmol/mL以上40μmol/mL以下として、抗酸菌の発育を抑制することを目的とするものであるため、酸性緩衝液中のエタンブトール又はその塩の添加量は限定されるものではない。例えば、培地におけるエタンブトールの濃度を0.02μmol/mL以上100μmol/mL以下とする場合に、酸性緩衝液中のエタンブトール又はその塩の添加量にかかわらず本発明に含まれる。
【0026】
また、本発明のレジオネラ属菌の検査方法において、検体の酸処理はレジオネラ属菌以外の微生物の発育を抑制するための処理であり、検体のpHを2.2付近まで低下させることを目的とする。実施例において本発明者は、酸性リン酸緩衝液を酸処理に用いたが、上記目的を達成できるものであれば酸性緩衝液は特に限定されるものでは無く、一般的にはHCl-KCl緩衝液や酸性リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等が用いられる。酸性緩衝液の濃度及びpHは、検体の水質や検体と混合する酸性緩衝液の量等に応じて、レジオネラ属菌の生菌測定に影響を与えない範囲で適宜決定することができる。酸処理において、検体のpHは1.4以上3以下とすることが好ましい。pHが3より高いと、レジオネラ属菌以外の微生物の影響を充分に排除しにくくなり、pH1.4より低いとレジオネラ属菌の発育への影響が大きくなるためである。さらに好ましくは検体のpHを1.8以上2.6以下とする。その範囲のpHであれば、明確にレジオネラ属菌以外の微生物の発育を抑制し、かつ、レジオネラ属菌の生菌測定に影響を及ぼさない。
【0027】
例えば、酸処理に酸性リン酸緩衝液を用いる場合、酸性リン酸緩衝液はリン酸にアルカリ剤を添加して目的のpHとすることにより得ることができるが、一般的には、目的の濃度のリン酸水溶液と、同濃度の第一リン酸塩水溶液との混合比を調整することで、容易に所定の濃度、所定のpHの緩衝液を得ることができる。ここで、第一リン酸塩としては、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸二水素一アンモニウム等を使用することができるが、これに限定されるものでは無い。
【0028】
上記酸性リン酸緩衝液の濃度は、緩衝液中のリン酸イオンがすべて解離すると仮定した場合のリン酸濃度(本発明では、この濃度を「酸性リン酸緩衝液の濃度」とする)として、0.02mоl/L以上であることが好ましい。緩衝液の濃度が0.02mоl/L未満だと、充分なpH緩衝能を得られない場合がある。ここで、pHの下限値、濃度の上限値は、レジオネラ属菌の生菌測定に影響を与えない範囲で適宜決定することができるが、pH1.8以上2.6以下、濃度0.1mоl/L以上0.5mоl/L以下の酸性リン酸緩衝液を用いるのが、レジオネラ属菌以外の微生物の影響を排除して、レジオネラ属菌の生菌数を正確に測定する上で最も好ましい範囲である。上記酸性リン酸緩衝液のpHと濃度は、検体と等量の酸性リン酸緩衝液を混合する場合の条件であり、検体のpHを2.2付近まで低下させることができれば、混合する酸性リン酸緩衝液は必ずしも検体と等量である必要は無い。例えば、容量の増加が望ましくない場合などでは、より濃度の高い酸性緩衝液を調製して少量添加することで、検査対象水ないし検査対象水から調製した検体をpH1.8以上2.6以下、酸性リン酸緩衝液の濃度を0.05mоl/L以上0.25mоl/L以下とするようにしても良い。
【0029】
上記のように調製したエタンブトール又はその塩添加酸性リン酸緩衝液は、25℃、非遮光条件下で保管しても、少なくとも3ヵ月は劣化なく保存することが可能であるが、調製から2ヵ月以内に使用することが望ましい。また、エタンブトール又はその塩添加酸性リン酸緩衝液は調製が容易であるため、前処理として酸処理を実施する場合にはエタンブトール又はその塩添加酸性リン酸緩衝液を用いる方がより効率的な検査が可能となり、好ましい。
【0030】
本発明におけるレジオネラ属菌の検査手順は、特に限定されるものでは無いが、一部の例として、エタンブトール又はその塩添加酸性リン酸緩衝液で前処理する場合、及び、エタンブトール又はその塩添加培地で培養する場合の検査手順の大略をそれぞれ図2図3に示す。
【実施例0031】
<実施例1><比較例1、2>
本発明におけるレジオネラ属菌の選択剤として重要なのは、抗酸菌に対する発育抑制能力が高く、かつ、レジオネラ属菌の発育に対する悪影響が無いことである。そこで、エタンブトール二塩酸塩(略号:EB、以下同じ)、イソニアジド(略号:INH)、エチオナミド(略号:ETH)の3種の抗結核薬を選んで、培地上での抗酸菌の発育抑制効果について検討を行った。
【0032】
BCYEα培地にエタンブトール二塩酸塩の添加量が培地単位体積当たり1000μg/mL、100μg/mL、10μg/mL(培地におけるエタンブトールの濃度は、それぞれ3.6μmol/mL、0.36μmol/mL、0.036μmol/mL)となるようにエタンブトール二塩酸塩を添加し、エタンブトール二塩酸塩添加培地を調製した。上記エタンブトール二塩酸塩の添加は、エタンブトール二塩酸塩を滅菌水に溶解させエタンブトール二塩酸塩水溶液とした後、培地の容量に対して1%の容量のエタンブトール二塩酸塩水溶液を培地に混合することで行った。前記エタンブトール二塩酸塩添加培地上にレジオネラ属菌(L.pneumophila ATCC33152株)及び抗酸菌の分離株4株(Mycobacterium mucogenicum、M.fortuitum、M.goodii、Mycobacterium sp.)を画線し、36℃で5日間培養した。また、イソニアジドとエチオナミドについてもエタンブトール二塩酸塩と同じ条件で培養を行い、抗酸菌の発育抑制効果を比較した。結果を表1に示す。(表1中、“++”は良好に発育したことを、“+”は“++”より弱く発育したことを、“±”は“+”より更に弱くうっすらと発育したことを、“-”は発育が見られなかったことをそれぞれ示す。)
【0033】
【表1】
【0034】
表1より、エタンブトール二塩酸塩の添加量10μg/mL(培地におけるエタンブトールの濃度0.036μmol/mL)以上で抗酸菌(Mycobacterium mucogenicum、M.fortuitum、M.goodii、Mycobacterium sp.)に対して明確な発育抑制効果が見られ、添加量100μg/mL(培地におけるエタンブトールの濃度0.36μmol/mL)以上で強い発育抑制効果を示した一方、レジオネラ属菌(L.pneumophila ATCC33152株)に対しては発育抑制効果を示さなかった。イソニアジド及びエチオナミドの活性は、体内での代謝を受けて発現するため、培地上では抗酸菌(Mycobacterium mucogenicum、M.fortuitum、M.goodii、Mycobacterium sp.)に対して活性を示さなかったと考えられる。この結果から、エタンブトールは抗酸菌(Mycobacterium mucogenicum、M.fortuitum、M.goodii、Mycobacterium sp.)の発育抑制に極めて有効であり、レジオネラ属菌(L.pneumophila ATCC33152株)の生育に影響を与えずに、抗酸菌(Mycobacterium mucogenicum、M.fortuitum、M.goodii、Mycobacterium sp.)の発育を完全に抑制できることが判った。
【0035】
<実施例2><比較例3>
本発明におけるエタンブトール又はその塩は、レジオネラ属菌の発育に影響を与えない濃度範囲で用いるのが好ましい。そこで、エタンブトール又はその塩によるレジオネラ属菌の発育への影響について検討を行った。BCYEα培地にエタンブトール二塩酸塩の添加量が培地単位体積当たり1000μg/mL、100μg/mL、10μg/mL(培地におけるエタンブトールの濃度は、それぞれ3.6μmol/mL、0.36μmol/mL、0.036μmol/mL)となるようにエタンブトール二塩酸塩添加培地を調製した。上記エタンブトール二塩酸塩添加培地は、エタンブトール二塩酸塩を滅菌水に溶解しエタンブトール二塩酸塩水溶液とした後、培地の容量に対して1%の容量のエタンブトール二塩酸塩水溶液を混合することで調製した。また、BCYEα培地にエタンブトール二塩酸塩の添加量が培地単位体積当たり60000μg/mL、10000μg/mL(培地におけるエタンブトールの濃度はそれぞれ、216μmol/mL、36μmol/mL)となるように、培地の容量に対して10%の容量のエタンブトール二塩酸塩水溶液を混合して培地を調製した。前記エタンブトール二塩酸塩添加培地上にレジオネラ属菌の分離株5株(L.pneumophila ATCC33152株、L.anisa ATCC35292株、L.gormanii ATCC33297株、L.micdadei ATCC33218株、L.longbeachae ATCC33462株)を画線し、36℃で6日間培養した結果を表2に示す。(表2中、“++”は良好に発育したことを、“-”は発育が見られなかったことをそれぞれ示す。)
【0036】
【表2】
【0037】
表2より、エタンブトール二塩酸塩の添加量が10000μg/mL以下(培地におけるエタンブトールの濃度は36μmol/mL以下)の条件においては、レジオネラ属菌(L.pneumophila ATCC33152株、L.anisa ATCC35292株、L.gormanii ATCC33297株、L.micdadei ATCC33218株、L.longbeachae ATCC33462株)の発育に影響を与えなかった。一方、エタンブトール二塩酸塩の添加量が60000μg/mL(培地におけるエタンブトールの濃度は216μmol/mL)の条件においては、レジオネラ属菌(L.pneumophila ATCC33152株、L.anisa ATCC35292株、L.gormanii ATCC33297株、L.micdadei ATCC33218株、L.longbeachae ATCC33462株)の発育にも影響が見られた。したがってこの結果から、培地におけるエタンブトールの濃度が36μmol/mL以下であれば、レジオネラ属菌の発育に影響を全く及ぼさないことが明らかとなった。また抗酸菌に対しては、実施例2、比較例3で実施した全ての濃度条件において発育抑制効果が得られた。エタンブトール二塩酸塩の水への溶解はおよそ600mg/mLで飽和となる。培地へエタンブトール又はその塩を添加するときは、これを超える濃度でエタンブトール又はその塩を滅菌水へ分散させたエタンブトール又はその塩分散液を用いても良く、あるいは、エタンブトール又はその塩を直接培地へ添加して攪拌して用いても良いが、いずれの方法においてもエタンブトール又はその塩の濃度が均一な培地の調製に手間がかかるため、好ましくは、エタンブトール又はその塩を滅菌水などに完全に溶解させたエタンブトール又はその塩水溶液を培地へ添加すると良い。この場合、エタンブトール又はその塩水溶液の濃度および培地への混合量を適宜変更することで、培地におけるエタンブトールの濃度を変えることができる。
【0038】
<実施例3><比較例4>
0.2mоl/L酸性リン酸緩衝液(pH2.2)に、エタンブトール二塩酸塩を30mg/mL(0.11mmol/mL)になるように添加し、エタンブトール二塩酸塩添加酸性リン酸緩衝液(pH2.2)を調製した。また、抗酸菌による汚染が激しい検体として、レジオネラ属菌(L.pneumophila ATCC33152株)及び抗酸菌の分離株4株(M.mucogenicum、M.fortuitum、M.goodii、Mycobacterium sp.)をそれぞれ滅菌水に懸濁させ、菌数が10CFU/mL程度(L.pneumophilaは10CFU/mL程度)の菌液を調製し、各抗酸菌の懸濁液とレジオネラ属菌の懸濁液を等量混合し、抗酸菌-レジオネラ属菌混合液を調製した。各混合液に、エタンブトール二塩酸塩添加酸性リン酸緩衝液(略号:EB-PB、以下同じ)を等量加え、室温で10分間放置した後、GVPCα培地に200μLずつ接種した(このときの培地におけるエタンブトールの濃度は0.57μmol/mL)。これらを36℃で6日間培養し、抗酸菌とレジオネラ属菌の発育状況を観察した。比較対象として、エタンブトール二塩酸塩を添加していない以外は上記と同条件、すなわち酸性リン酸緩衝液(pH2.2)(略号:PB、以下同じ)で前処理してGVPCα培地に接種する従来法による検査も併せて実施した。検査結果を表3に示す。(表3中、“+++”は培地全面に発育したことを、“-”は発育が見られなかったことを、“検出不能”は抗酸菌の発育によりレジオネラ属菌のコロニーが計数不能であったことをそれぞれ示す。また、レジオネラ属菌の評価における数値は、培地1枚あたりのレジオネラ属菌のコロニー検出数(CFU/plate)を示す。)
【0039】
【表3】
【0040】
表3より酸性リン酸緩衝液で処理する従来法では、全ての検体において抗酸菌(M.mucogenicum、M.fortuitum、M.goodii、Mycobacterium sp.)が培地一面に発育し、レジオネラ属菌(L.pneumophila ATCC33152株)を検出することができなかった。一方、エタンブトール二塩酸塩添加酸性リン酸緩衝液で処理したところ、全ての検体において抗酸菌(M.mucogenicum、M.fortuitum、M.goodii、Mycobacterium sp.)の発育は完全に抑制され、レジオネラ属菌(L.pneumophila ATCC33152株)のコロニーを容易に検出することができた。この結果から、あらかじめエタンブトール又はその塩を添加した培地を調製しなくても、エタンブトール又はその塩添加酸性リン酸緩衝液を用いて検体を処理することで、エタンブトール又はその塩添加培地を使用時と同等の発育抑制効果が得られることが明らかとなった。検体の酸処理に代えて約50℃の熱処理を用いる場合は、実施例3でのエタンブトール又はその塩添加酸性緩衝液は、エタンブトール又はその塩を滅菌水等に溶解させたエタンブトール又はその塩水溶液に代えても良く、この場合も同様に抗酸菌(M.mucogenicum、M.fortuitum、M.goodii、Mycobacterium sp.)に対する発育抑制効果が得られた。また、培地はGVPCα培地に限らず、公知であるいずれのレジオネラ属菌用培地においても、エタンブトール又はその塩による抗酸菌の発育抑制効果が同様に得られた。
【0041】
<実施例4><比較例5>
日本全国から集めた浴槽水のレジオネラ属菌検査試料のうち、抗酸菌による汚染が見られた試料57検体について、0.2mоl/L酸性リン酸緩衝液(pH2.2)を用いた酸処理を行ってレジオネラ属菌の生菌数の検査を行った(比較例5)。レジオネラ属菌の検査は、図1に示す、「レジオネラ症防止指針」P.36図2.5.2記載の方法に準じて、ただし、酸処理の時間は10分間、培地はGVPCα培地、培養は36℃で6日間とした。
【0042】
その結果、23検体が夾雑微生物(レジオネラ属菌以外の微生物)の増殖が激しく、レジオネラ属菌の陽性、あるいは陰性を判定することができなかった。
【0043】
また、同じ試料57検体について、0.2mоl/L酸性リン酸緩衝液-30mg/L(0.11mmol/mL)エタンブトール二塩酸塩混合液(pH2.2)を用いた前処理法を用いてレジオネラ属菌の生菌数の検査を行った。検査方法としては0.2mоl/L酸性リン酸緩衝液(pH2.2)にエタンブトール二塩酸塩を加えた以外は比較例5と同様の条件で行った(実施例4)。結果を表4に示す。(表4中、“+++”は培地のほぼ全面に発育したことを、“++”は培地の半分程度に発育が見られたことを、“+”は“++”より弱い発育が見られたことを、“-”は発育が見られなかったことを、“検出不能”は夾雑微生物の発育によりレジオネラ属菌のコロニーが計数不能であったことをそれぞれ示す。また、レジオネラ属菌の評価における数値は、培地1枚あたりのレジオネラ属菌のコロニー検出数(CFU/plate)を示す。)
【0044】
【表4】
【0045】
その結果、全ての抗酸菌による影響を排除することができ、レジオネラ属菌の検出が容易となった。同じ検体について、50℃の熱処理後、及び、50℃の熱処理と0.2mоl/L酸性リン酸緩衝液(pH2.2)による酸処理を組み合わせた前処理後にエタンブトール又はその塩添加培地で培養した場合も、抗酸菌の発育が完全に抑制された。
【0046】
<比較例6、7>
比較例5で抗酸菌の影響によりレジオネラ属菌の存在が不明であった検体のうち、無作為に選択した16検体について、前処理を強化した従来法を用いて再検査を行った。50℃で30分間放置する熱処理の後、等量の0.2mоl/L酸性リン酸緩衝液(pH2.2)と混合し、25℃で10分間放置する酸処理を行った検体(略号:HT-PB)を、GVPCα培地(比較例6)及びCATα培地(比較例7)にそれぞれ200μLずつ接種し、これらを36℃で6日間培養し、抗酸菌の発育状況を観察した。特に熱処理後に酸処理を行った検体をCATα培地に接種する比較例7の検査法は、従来法の中で最も夾雑微生物の発育抑制効果が高い検査法である。比較例6及び比較例7の結果を、比較例5及び実施例4の結果(表4のデータを抜粋)と共に、表5に示す。(表5中、“+++”は培地のほぼ全面に発育したことを、“++”は培地の半分程度に発育が見られたことを、“+”は“++”より弱く発育が見られたことを、“-”は発育が見られなかったことを、“検出不能”は夾雑微生物の発育によりレジオネラ属菌のコロニーが計数不能であったことをそれぞれ示す。)
【0047】
また同時に、各条件でのレジオネラ属菌のコロニー数を計数した。比較例6及び比較例7の結果を、比較例5及び実施例4の結果(表4のデータを抜粋)と共に、表6に示す。(表6中、“検出不能”は抗酸菌の発育によりレジオネラ属菌のコロニーが計数不能であったことを示す。また、レジオネラ属菌の評価における数値は、培地1枚あたりのレジオネラ属菌のコロニー検出数(CFU/plate)を示す。)
【0048】
【表5】
【0049】
【表6】
【0050】
表5及び表6より、比較例7の熱処理と酸処理、及びCATα培地を用いた検査法でも、抗酸菌の発育は完全には抑制できず、レジオネラ属菌の判別に苦労を要した。一方、エタンブトール二塩酸塩添加酸性リン酸緩衝液により検体を処理した後にGVPCα培地に接種することで、抗酸菌の発育が完全に抑制され、容易にレジオネラ属菌の判別ができた。浴槽水のレジオネラ属菌検査において抗酸菌はしばしば検出不能の原因となる。検出不能にならないまでも抗酸菌がGVPCα培地に発育し、レジオネラ属菌のコロニーを判別しにくくなる場合は多く、エタンブトール又はその塩をレジオネラ属菌の選択剤として用いることは極めて有効であると考えられる。
【0051】
<実施例5、6>
レジオネラ属菌の培養検査において、培地はあらかじめ滅菌処理がされたものが広く用いられている。滅菌処理の方法として、これに限定されることは無いが、例えば、オートクレーブを用いて121℃で約20分間の熱処理をするオートクレーブ滅菌等が一般的に行われている。培地にレジオネラ属菌の選択剤を添加する場合、選択剤の熱安定性によっては加熱処理により抗酸菌に対する発育抑制の効力が失われてしまう可能性がある。そこで、オートクレーブにより熱処理したエタンブトール二塩酸塩水溶液について、抗酸菌に対する発育抑制活性を調査した。
【0052】
エタンブトール二塩酸塩を、濃度が0.1mg/mL(0.36μmоl/mL)となるように滅菌水に溶解したエタンブトール二塩酸塩水溶液を調製した。上記エタンブトール二塩酸塩水溶液を2つの容器に分け、そのうち片方を、オートクレーブを用いて121℃で20分間の熱処理をした。検体は、滅菌した生理食塩水に釣菌したM.goodiiを懸濁させ、10cells/mLとなるように調製した。シャーレに上記検体を0.2mL接種した後、標準寒天培地9.8mLを注いで混釈して冷やし固めた。実施例5では、121℃の熱処理をしたエタンブトール二塩酸塩水溶液(略号:熱処理有)を、実施例6では、熱処理をしていないエタンブトール二塩酸塩水溶液(略号:熱処理無)をそれぞれペーパーディスクに染み込ませて培地上に置き、36℃で6日間培養したときの抗酸菌(M.goodii)の発育状況を観察した。結果を表7に示す。(表7中、“+”は阻止円(抗酸菌の発育が抑制された領域)が存在したことを示す。また、数値は阻止円の直径(mm)を示す。)
【0053】
【表7】
【0054】
表7より、121℃で20分間の熱処理をしたエタンブトール二塩酸塩水溶液(実施例5)と熱処理をしていないエタンブトール二塩酸塩水溶液(実施例6)のいずれにおいても阻止円が確認された。加熱によりエタンブトール又はその塩が熱分解した場合、阻止円は極端に小さくなるか、まったく観察されなくなると予測されたが、それぞれの阻止円は充分に大きく、直径はほぼ同等であるため、エタンブトール又はその塩はオートクレーブによる121℃の熱処理によって分解されず、抗酸菌(M.goodii)に対する発育抑制活性は失活しないことが判った。したがって、培地にエタンブトール又はその塩を添加するタイミングは特に限定されず、培地の調製時にあらかじめエタンブトール又はその塩を添加しても、同様に抗酸菌に対する発育抑制効果が得られることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明であるレジオネラ属菌の検査方法は、レジオネラ属菌以外の微生物、特に抗酸菌の影響を受けにくく、レジオネラ属菌の正確な検出が可能で、特に冷却塔水や温泉水、循環風呂水、循環温水等、レジオネラ属菌の検査が求められる分野で好適に用いることができる。
図1
図2
図3