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特開2024-33565チタン箔の溶接方法及び溶接部材の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033565
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】チタン箔の溶接方法及び溶接部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 3/00 20060101AFI20240306BHJP
   B21B 1/40 20060101ALI20240306BHJP
   C25D 3/66 20060101ALI20240306BHJP
   C25D 1/04 20060101ALI20240306BHJP
   C25C 3/28 20060101ALI20240306BHJP
   B23K 26/323 20140101ALI20240306BHJP
   B23K 26/32 20140101ALI20240306BHJP
【FI】
B21B3/00 K
B21B1/40
C25D3/66
C25D1/04
C25C3/28
B23K26/323
B23K26/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137213
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】金子 拓実
(72)【発明者】
【氏名】藤井 秀樹
【テーマコード(参考)】
4E002
4E168
4K058
【Fターム(参考)】
4E002AA08
4E002AD13
4E002BB09
4E002BC05
4E002BD05
4E002BD09
4E002BD10
4E168BA87
4E168BA89
4E168DA28
4E168FB03
4K058BA10
4K058CB03
4K058EB13
4K058EB20
(57)【要約】
【課題】電析チタン箔を圧延及び焼鈍したチタン箔を溶接に適用可能にし、該溶接により得られた溶接部の溶接不良を抑制することができるチタン箔の溶接方法を提供する。
【解決手段】チタン箔の溶接方法であって、チタン箔が、溶融塩電解で電析させて得られた電析チタン箔に対し、冷間圧延及び焼鈍を施すことで製造されたものであり、前記チタン箔の両表面の表面粗さRaが、0.5μm以下であり、チタン箔と、他の部材とをファイバーレーザー溶接により溶接する溶接工程を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン箔の溶接方法であって、
前記チタン箔が、溶融塩電解で電析させて得られた電析チタン箔に対し、冷間圧延及び焼鈍を施すことで製造されたものであり、前記チタン箔の両表面の表面粗さRaが、0.5μm以下であり、
前記チタン箔と、他の部材とをファイバーレーザー溶接により溶接する溶接工程を含む、チタン箔の溶接方法。
【請求項2】
前記チタン箔の破断伸びが、10%以下である、請求項1に記載のチタン箔の溶接方法。
【請求項3】
前記チタン箔のマイクロビッカース硬さが、90Hv以下である、請求項1に記載のチタン箔の溶接方法。
【請求項4】
前記チタン箔の厚さが、0.04mm以上かつ0.15mm以下である、請求項1に記載のチタン箔の溶接方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のチタン箔の溶接方法を用いる、溶接部材の製造方法。
【請求項6】
前記溶接工程前に、溶融塩電解により電極に金属チタンを電析させることで電析チタン箔を得る電析工程と、該電析チタン箔を圧延することにより圧延チタン箔を得る冷間圧延工程と、該圧延チタン箔を焼鈍することにより、前記チタン箔を得る焼鈍工程とを更に含む、請求項5に記載の溶接部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン箔の溶接方法及び溶接部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接は金属を溶かしてつなげる加工法であって、各種部材、例えば、機械部品、自動車及び構造物等の製造時に非常に広範囲に使われている。金属の中でもチタンは、耐腐食性が比較的高い金属の1つとして知られている。したがって、チタン箔を用いて溶接された溶接部材については、高機能であることに基づく付加価値が期待されうる。
【0003】
チタン箔を製造する方法については、溶解原料であるスポンジチタンを溶解してインゴットを鋳造し、そのインゴットを圧延することで得られた箔状の圧延品を焼鈍する方法が知られている(以下、「鋳造圧延法」とも称する。)。鋳造圧延法は、大きな圧下率である圧延による被圧延材への十分な歪導入と、その後の焼鈍によるチタン箔の結晶粒径の微細化とを実現することが可能である。そのようにして製造したチタン箔を用いて溶接を行うことに関し、例えば、特許文献1には、ファイバーレーザー溶接機により、厚み0.5mmで純チタンからなる被溶接部材を用いて溶接したことが記載されている。
【0004】
ところで、鋳造圧延法では、この方法に用いるスポンジチタンを準備するため、チタン鉱石を出発原料とし、四塩化チタンを製造する塩化や金属マグネシウムによる還元の工程を行う他、スポンジチタン塊の破砕や還元で副生される塩化マグネシウムの電気分解の工程も行われ、多数の工程が必要になる。多数の工程を要する鋳造圧延法は、生産コストが比較的嵩む傾向にある。
【0005】
このような事情を考慮し、比較的工程数が少なく且つ安価でチタン箔を製造するため、溶融塩電解にて溶融塩浴中の陰極上にチタンを析出させ、電析チタン箔を得る電析法が提案されている(特許文献2~5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-183427号公報
【特許文献2】国際公開第2020/044841号
【特許文献3】特開2021-031723号公報
【特許文献4】特開2021-134398号公報
【特許文献5】国際公開第2018/159774号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電析法で実施した場合、溶融塩電解で陰極上の電析チタン箔は、比較的薄く形成されることが多い。当該電析チタン箔がすでに薄箔であるので、圧延後焼鈍による結晶粒の微細化を考慮したとき、電析チタン箔は歪を導入する余地が少ない。電析チタン箔を圧延及び焼鈍して製造したチタン箔は鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔に対して、塑性加工性が劣る傾向にある。しかしながら、電析チタン箔は、鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔と比べ、製造コスト面で優位である。また、電析チタン箔は、柔らかく弾性変形性に優れる。先に述べた塑性加工性に劣る電析チタン箔を用いて塑性加工で要望する立体形状を実現できれば用途拡大が期待できる。そこで、本発明者は、電析チタン箔を、鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔程度にまで塑性加工性を向上させるのではなく、溶接により様々な形状を実現することが可能であるかを検討するに至った。
上記観点から、本発明者は、コストを抑えて作製可能な電析チタン箔を用い、レーザー溶接による溶接部材の製造を試みた。しかしながら、この場合、溶接で形成された溶接部の内部に溶接不良が確認された。該溶接不良は、溶接部に所定の大きさの空洞が複数形成されていることがある。かかる空洞が存在すると、溶接部の強度が低下する等の不具合が考えられる。
【0008】
そこで、本発明は一実施形態において、電析チタン箔を圧延及び焼鈍したチタン箔を溶接に適用可能にし、該溶接により得られた溶接部の溶接不良を抑制することができるチタン箔の溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討したところ、溶融塩電解で電析させて得られた電析チタン箔に対し、冷間圧延及び焼鈍を施すことで製造されたチタン箔であり、前記チタン箔の両表面の表面粗さRaが、0.5μm以下であり、前記チタン箔と、他の部材とをファイバーレーザー溶接により溶接する溶接工程を含むことにより、電析チタン箔を圧延及び焼鈍したチタン箔を溶接に適用可能にし、該溶接により得られた溶接部の溶接不良を抑制することができることを見出し、以下によって例示される発明を創作した。
【0010】
[1]
チタン箔の溶接方法であって、
前記チタン箔が、溶融塩電解で電析させて得られた電析チタン箔に対し、冷間圧延及び焼鈍を施すことで製造されたものであり、前記チタン箔の両表面の表面粗さRaが、0.5μm以下であり、
前記チタン箔と、他の部材とをファイバーレーザー溶接により溶接する溶接工程を含む、チタン箔の溶接方法。
[2]
前記チタン箔の破断伸びが、10%以下である、[1]に記載のチタン箔の溶接方法。
[3]
前記チタン箔のマイクロビッカース硬さが、90Hv以下である、[1]又は[2]に記載のチタン箔の溶接方法。
[4]
前記チタン箔の厚さが、0.04mm以上かつ0.15mm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のチタン箔の溶接方法。
[5]
[1]~[4]のいずれかに記載のチタン箔の溶接方法を用いる、溶接部材の製造方法。
[6]
前記溶接工程前に、溶融塩電解により電極に金属チタンを電析させることで電析チタン箔を得る電析工程と、該電析チタン箔を圧延することにより圧延チタン箔を得る冷間圧延工程と、該圧延チタン箔を焼鈍することにより、前記チタン箔を得る焼鈍工程とを更に含む、[5]に記載の溶接部材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一実施形態によれば、電析チタン箔を圧延及び焼鈍したチタン箔を溶接に適用可能にし、該溶接により得られた溶接部の溶接不良を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例における電析チタン箔の製造に用いる電解装置を説明するための概略図である。
図2】実施例1で得られた溶接部材の厚さ方向における断面写真である。
図3】実施例2で得られた溶接部材の厚さ方向における断面写真である。
図4】比較例1で得られた溶接部材の厚さ方向における断面写真である。
図5】比較例2で得られた溶接部材の厚さ方向における断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は以下に説明する各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除して発明を形成してもよい。なお、図面では、発明に含まれる実施形態等の理解を助けるため概略として示す部材もあり、図示された大きさや位置関係等については必ずしも正確でない場合がある。
【0014】
[1.チタン箔の溶接方法]
本発明に係るチタン箔の溶接方法は、一の部材であるチタン箔と、他の部材とをファイバーレーザー溶接により溶接する溶接工程を含む。溶接工程で用いられるチタン箔は、溶融塩電解で電析させて得られた(すなわち、電析法により得られた)電析チタン箔に対し、冷間圧延及び焼鈍を施すことで製造されたものとする。このチタン箔の両表面の表面粗さRaが、0.5μm以下である。
【0015】
先述したように、電析チタン箔をそのまま、ファイバーレーザー溶接による溶接部材の製造に用いた場合、溶接部材の溶接部に溶接不良が発生しやすくなる傾向がある。その原因を探究するため、本発明者は電析チタン箔の両表面の表面粗さを確認したところ、電析チタン箔の陰極に接していた表面と溶融塩浴に接していた表面との間には、ファイバーレーザー溶接において無視できない表面粗さRa(算術平均粗さ)の差があると考えるに至った。
【0016】
ファイバーレーザー溶接では、レーザー光を照射する材料の表面粗さRaが大きい場合、レーザー光が反射し、材料への吸収率が低くなることで、溶接時の溶け込み量にばらつきが生じ、溶接不良が発生すると推測される。なお、その溶け込み量のばらつきを解消するためにレーザー光の照射出力を過度に高くすると溶接部の溶接不良は解消されうるものの、薄物であるチタン箔が溶け落ちたり変形したりするおそれがある。即ち、溶接の母材となるチタン箔の両表面が平滑であることは、薄物であるチタン箔の厚みが安定していることをも意味し、これによりファイバーレーザー溶接での溶接不良の発生を抑制できると思われる。
【0017】
本発明者は鋭意検討した結果、電析チタン箔に対して冷間圧延及び焼鈍を施して、両表面の表面粗さRaが0.5μm以下であるチタン箔を製造し、それを溶接工程に用いることで、溶接部材の溶接部の溶接不良が抑制されることを見出した。これにより、電析チタン箔を溶接に使用することが可能になる。さらには、当該溶接により溶接部材は様々な形状を実現できる。
以下、好適な態様についてそれぞれ説明する。
【0018】
<溶融塩電解>
溶融塩電解では、電極にチタンを電析させることで電析チタン箔を得る。
溶融塩電解としては公知の方法を採用することが可能であり、例えば上記特許文献2~5に記載されている方法を採用すればよい。また、これらの公開公報に記載の内容(電析チタン箔の製造条件)を適宜変更して採用することもできる。
なお、溶融塩電解において、定電流で通電させてもよく、通電中に停止期間を設けるパルス電流でもよい。通電中に停止期間を設けた場合、電流パターンは適宜選択すればよい。
溶融塩電解の後、電極からチタンを分離して電析チタン箔を得る方法は特に限定されない。例えばペンチ等の工具を用いて電極からチタンを剥離すること等が可能である。
【0019】
なお、溶融塩電解で得られる電析チタン箔は、その溶融塩電解で不純物含有量が低減されてチタンが精製されるので、不純物含有量が少ないことが知られる。但し、電析チタン箔は、電極から剥離した時、一方の表面(溶融塩浴と接していた表面)は、反対側の他方の表面(陰極と接していた表面)とは異なり、表面粗さRaが比較的大きい傾向がある。先述したように、溶接時にレーザー光の反射を抑制するため、電析チタン箔の両表面(溶融塩浴と接していた表面及び陰極と接していた表面)を平滑にすることが求められる。また、溶接の母材となるチタン箔の両表面が平滑であることは、薄物であるチタン箔の厚みが安定していることを意味する。このため、電析チタン箔に冷間圧延等を行って、両表面が平滑化されたチタン箔を製造し、このチタン箔を溶接工程に用いる。
【0020】
電析チタン箔の厚さは、例えば0.1mm以上かつ0.3mm以下である。当該厚さが0.1mm未満であると、強度の低下に伴い、電極から電析チタン箔を剥がす際にピンホールの発生又は該電析チタン箔の破断等の不具合が生じるおそれがある。他方、当該厚さが0.3mmを超えるような電析チタン箔の製造は電力コストの観点から不利となることがある。
なお、電析チタン箔の厚さの測定方法の一例を以下に説明する。
まず、デジタルシックネスゲージ(厚さ測定器)を用いて、圧延方向において(冷間圧延直前の電析チタン箔の場合、圧延方向に相当する方向)長さ10mmを任意に3箇所選択する。その3箇所から長さ10mm内で任意に10点測定し、計30点で測定する。そして、それらの平均値を算出する。当該平均値を電析チタン箔の厚さとする。
【0021】
<冷間圧延>
主に電析チタン箔の表面(溶融塩浴と接する側の表面)を平滑にするため、電析チタン箔を、例えばロール圧延機を使用して冷間圧延する。それにより圧延チタン箔が得られる。冷間圧延は、不活性雰囲気下や真空雰囲気下で行うこともできる。但し、冷間圧延は熱間圧延と異なり、電析チタン箔が高温とならないので、その表面へのスケール(酸化被膜)の極端な成長を考慮する必要はない。このため、大気雰囲気下で冷間圧延を実施してもよい。大気雰囲気下での冷間圧延はコストの観点、設備操業上の観点から有利である。なお、本明細書において、「冷間圧延」とは、被圧延材である電析チタン箔の温度が200℃以下で圧延することを意味する。冷間圧延の実施における電析チタン箔の温度は150℃以下でもよく、100℃以下でもよい。
なお、圧延チタン箔の両表面の表面粗さRaについては、圧延機の圧延ロールの表面粗さRaやロール径等により適宜調整可能である。
【0022】
(ワークロール間の距離)
一実施形態では、電析チタン箔の特に一方の表面(溶融塩浴と接していた表面)を十分平滑にするという観点から、対をなすワークロール同士が接触している状態で冷間圧延を開始してもよく、対をなすワークロールを例えばわずかに離して冷間圧延を開始してもよい。すなわち、ワークロール間の距離については適宜調整すればよい。
【0023】
また、冷間圧延時の電析チタン箔の表面の向きに関する配置については、特に限定するものではない。例えば、電析チタン箔の一方の表面(溶融塩浴と接していた表面)が、上方を向くように電析チタン箔を冷間圧延してもよく、下方を向くように電析チタン箔を冷間圧延してもよく、対をなすワークロール間に通板する回数等に鑑みて電析チタン箔の一方の表面(溶融塩浴と接していた表面)の向きを適宜変更してもよい。
【0024】
(通過回数)
一実施形態においては、電析チタン箔の一方の表面(溶融塩浴と接する側の表面)をより確実に平滑にするという観点から、電析チタン箔を複数回繰り返し圧延することが好ましい。また、対をなすワークロールを有するロール圧延機を使用する場合は、ワークロール間を複数回通過させることが好ましい。なお、対をなすワークロール間を通過させる回数については、電析チタン箔の厚さや製造するチタン箔の目標厚さ等を考慮して適宜調整可能であるが、例えば3回以上かつ30回以下であり、また例えば5回以上かつ20回以下である。
【0025】
(合計圧下率)
一実施形態においては、好適な表面粗さを得つつ好適な厚さの圧延チタン箔を得るため、冷間圧延による合計圧下率が、10%以上かつ100%未満であることが好ましい。合計圧下率は、例えば20%以上かつ70%以下、例えば30%以上かつ60%以下であってもよい。当該合計圧下率は、下記式(1)により算出することができ、通過回数が全て終了した後に求めればよい。
total={(t0-tf)/t0}×100(%)・・・式(1)
total:合計圧下率
0:冷間圧延直前の厚さ
f:冷間圧延直後の厚さ
なお、厚さの測定方法については、先述した電析チタン箔の厚さの測定方法を採用可能である。
【0026】
(洗浄)
なお、冷間圧延後であって後述の焼鈍前に、冷間圧延後の圧延チタン箔の表面に付着する油分(圧延油)を除去するために、洗浄を実施することがある。
洗浄については圧延チタン箔を洗浄液に浸漬等すればよく、該洗浄液としては、例えば、脱イオン水、蒸留水、有機溶剤、酸及びアルカリから選ばれる1つ以上を用いることができる。
【0027】
<焼鈍>
焼鈍条件の一例としては、真空条件下で、焼鈍温度を600℃以上かつ800℃以下、焼鈍時間を10分以上かつ60分以下とする。焼鈍の実施により、圧延により導入された歪が適切に除去され、さらには再結晶が生じることもあり、結果として成形性に優れたチタン箔が得られることが多い。ただし、電析工程後に行う冷間圧延にて被圧延材に導入される歪は鋳造圧延法に比して少ない傾向にあるので、溶接を利用して所望する形状に成形することが好ましい。
【0028】
<溶接工程>
溶接工程では、チタン箔と、他の部材とをファイバーレーザー溶接により溶接する。溶接の一例としては、チタン箔の端部と他の部材の端部を近づけて突き合わせ、それらの端部にレーザー光を照射して端部同士を接合する(例えば突き合わせ溶接)。これにより、端部同士で互いに接合されたチタン箔及び他の部材を有する溶接部材が得られる。溶接部材のチタン箔と該他の部材との境界には溶接部が形成される。溶接部は結晶粒径が、チタン箔の結晶粒径よりも微細になる場合がある。微細な結晶粒径の溶接部は例えば引張強度がチタン箔より高い。
【0029】
(ファイバーレーザー溶接)
ファイバーレーザー溶接はそのレーザー径を適切に小さく調整でき、これにより入熱部位を制御しやすく、チタン箔と他の部材との形状を維持したまま溶接部を形成することができる。ファイバーレーザー溶接では、チタン箔と他の部材とを溶接するまでの間、酸化被膜の形成や大気成分の混入を抑制する観点から、アルゴン等のシールドガスを溶接部に供給することが好ましい。また、融点が異なる異種金属の溶接にも適用可能である。
【0030】
(チタン箔)
チタン箔の両表面の表面粗さRa(算術平均粗さ)は、0.5μm以下であり、好ましくは0.4μm以下であり、より好ましくは0.3μm以下である。チタン箔の両表面は平滑であることが好ましいため、表面粗さRaの下限側は特に限定されない。
なお、表面粗さRaについては、JIS B0601-2001に準拠して測定可能である。このとき、前記チタン箔の幅方向(表面において長手方向(圧延方向)に垂直な方向)における中央部であって、その長手方向に等間隔で計10点の表面粗さRaを測定し、平均値を算出する。
【0031】
チタン箔の破断伸びは、例えば10%以下である。当該チタン箔は電析法で得られた電析チタン箔を用いて製造されたものであり、鋳造圧延法で得られるチタン箔と比べ、破断伸びが低い傾向にある。
以下に破断伸びの測定方法を述べる。
長手方向がチタン箔の圧延方向(複数回の圧延を実施する場合は最終パスの圧延方向)となるように、上面視がダンベル形状のサンプルを採取する。引張試験機にサンプルをセットして、下記指定した条件(サンプル形状)以外はJIS Z2241-2011に準拠して、引張試験速度を0.5mm/分で行うことで、室温(25℃)での破断伸びを測定する。
このとき、サンプルの大きさについては、平行部幅が10mm、平行部長さが17mm、掴み部幅が20mm、R部の曲率半径が13.5mmとする。
【0032】
また、電析法に基づいて製造したチタン箔は柔らかく、チタン箔のマイクロビッカース硬さは、90Hv以下である。なお、上記チタン箔のマイクロビッカース硬さの下限側は特段限定されない。当該チタン箔は電析法で得られた電析チタン箔を用いて製造されたものであり、鋳造圧延法で得られるチタン箔と比べ、マイクロビッカース硬さが低い傾向にある。
以下にマイクロビッカース硬さの測定方法を述べる。
JIS Z2244-2009に準拠して、ビッカース硬さ試験機を用いて測定する。ビッカース硬さ試験は、ダイヤモンド圧子(四角錐型)を用い、温度25℃、荷重0.1kgf、負荷時間15秒として行う。
【0033】
また、チタン箔の厚さは、例えば0.04mm以上かつ0.20mm以下、また0.04mm以上かつ0.15mm以下である。
なお、チタン箔の厚さの測定方法については、先述した電析チタン箔の厚さの測定方法を採用可能である。
【0034】
(他の部材)
他の部材の材質は特に限定されるものではないが、例えばチタン又はチタン合金である。また、他の部材の形状は限定されるものではないが、例えば箔や様々な形状を有する部材等が挙げられる。
また、他の部材の表面粗さRa(算術平均粗さ)が、先述したチタン箔と同等であることが好ましい。すなわち、その表面粗さRaが例えば0.5μm以下である。なお、表面粗さRaについては、JIS B0601-2001に準拠して測定可能である。
【0035】
[2.溶接部材の製造方法]
本発明に係る溶接部材の製造方法は、先述したチタン箔の溶接方法を用いる。即ち、当該製造方法は、先述したチタン箔の溶接方法の溶接工程を含む。
【0036】
溶接部材の製造方法は、一実施形態において、溶接工程前に、溶融塩電解により電極に金属チタンを電析させることで電析チタン箔を得る電析工程と、該電析チタン箔を圧延することにより圧延チタン箔を得る冷間圧延工程と、該圧延チタン箔を焼鈍することにより、チタン箔を得る焼鈍工程とを更に含む。なお、電析工程、冷間圧延工程及び焼鈍工程は、先述した溶融塩電解、冷間圧延及び焼鈍にそれぞれ相当し、それらの内容がそれぞれ重複するので説明を割愛する。
【実施例0037】
本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明する。以下の実施例及び比較例の記載は、あくまで本発明の技術的内容の理解を容易とするための試験的な具体例であり、本発明の技術的範囲はこれらの具体例によって制限されるものではない。
【0038】
[各被溶部材の準備]
実施例1~2及び比較例1~2で用いられる被溶接部材として、表1に示す「電析チタン箔」と、該「電析チタン箔を冷間圧延及び焼鈍して製造したチタン箔」とを以下の方法で準備した。また、表1に示す「鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔」については、市販品である純チタン製のチタン箔(規格:JIS H 4600 1種)を準備した。
【0039】
<電析チタン箔>
電析チタン箔を製造するため、図1に示す電解装置100を設置した。電解装置100の電解槽110の浴部分の寸法形状は、470mmΦ×500mm深さとした。なお、図1は装置構成の概略を示すものであり、その縮尺は必ずしも正確ではない。また、各電極が円筒状であることを示すため、各電極の上面部分は斜視にて図示した。
【0040】
次に、電解装置100の電解槽110内に溶融塩(MgCl2:NaCl:KCl=2:1:1(質量比換算))を投入して、溶融塩の温度を700℃に昇温した。その後、浴中に約7モル%の低級塩化チタン(TiCl2及びTiCl3)を供給して溶融塩浴Bfを得た。この溶融塩浴Bfを得た後、溶融塩浴Bfの温度を500℃に制御した。
【0041】
次に、溶融塩電解に用いる電極120として、金属チタン製の陽極121と金属モリブデン製の陰極122をそれぞれ準備した。チタン板を使用し、その内径(直径)が約160mmの円筒状の陽極121とした。一方、モリブデン板を外径(直径)100mm×高さ250mmの円筒形の陰極122とした。電解装置100の電解槽110内にて、円筒状の陽極121の内側に円筒状の陰極122を位置させるとともに、陽極121及び陰極122の高さ方向が溶融塩浴Bfの深さ方向とほぼ平行になるように、陽極121及び陰極122を配置した。当該陰極122の陽極121側の表面が、平滑であることを確認した。なお、陽極121及び陰極122の全周に渡り電極間距離は一定とした。すなわち、陽極121の中心軸と陰極122の中心軸は同じ位置にある。
【0042】
電源130を介して陽極121及び陰極122にパルス電流を供給して、溶融塩浴Bf中にて溶融塩電解を行った。下記条件に基づき陰極122の陽極121側の表面全体に亘って金属チタンを析出させた。
<溶融塩電解条件>
溶融塩浴の温度:500℃
通電時電流密度:0.1A/cm2
通電期間:1.5秒
通電停止期間:7.5秒
電解時間:330分
【0043】
通電終了後、金属チタンが析出した陰極122を溶融塩浴Bfから引き揚げて酸洗し、さらに水洗することで、溶融塩を除去した。更に、金属チタンが析出した陰極122を乾燥した。そして、作業者がペンチで陰極122から金属チタンを剥離したことで、電析チタン箔を得た。
【0044】
次に、電析チタン箔の外周部を切断することで、幅220mm×長さ310mmの電析チタン箔を得た。そして、該電析チタン箔を更に切断することで、2枚の幅100mm×長さ300mmの圧延用電析チタン箔を得た。なお、上記方法と同様に行うことで、評価用と被溶接部材用として、電析チタン箔及び圧延用電析チタン箔を更に複数得た。
先述した方法により、デジタルシックネスゲージ(厚さ測定器)を用いて、電析チタン箔の厚さを計30点測定し、それらの平均値を算出した。その結果、算出された当該チタン箔の厚さは0.15mmであった。
【0045】
<電析法に基づくチタン箔>
次に、圧延用電析チタン箔を冷間圧延した。冷間圧延では対をなすワークロールを有する2段圧延機を使用した。大気雰囲気下で、室温にて電析チタン箔を2段圧延機の対をなすワークロール間を通過させた。冷間圧延では、圧延方向を同じ方向として、電析チタン箔が対をなすワークロール間を通過した回数を20回で実施した。
先述した方法により、デジタルシックネスゲージ(厚さ測定器)を用いて、冷間圧延における通過回数全て終了後の圧延チタン箔の厚さを計30点測定し、それらの平均値を算出した。その結果、算出された当該圧延チタン箔の厚さは0.10mmであった。したがって、上記式(1)に基づき、合計圧下率は、33%と算出された。
【0046】
冷間圧延後の圧延チタン箔を、その表面に付着した油分を除去するため、脱イオン水で洗浄した。その後、真空条件下で700℃、20分で焼鈍を実施して、チタン箔を得た。
そして、目視ではチタン箔の表面において圧延に由来する疵や割れ等が確認されなかった。
【0047】
<各被溶接部材の評価>
(厚さ)
先述した方法により、デジタルシックネスゲージ(厚さ測定器)を用いて、表1に示す各被溶接部材の厚さを計30点測定し、それらの平均値を算出した。その結果を表1に示す。
【0048】
(表面粗さ)
表1に示す各被溶接部材の表面の表面粗さRaについては、JIS B0601-2001に準拠して測定した。
各被溶接部材の表面については、接触式の表面粗さ計(SJ-210、株式会社ミツトヨ製)を用い、先述した方法により測定し、平均値を算出した。その結果を表1に示す。
電析チタン箔においては、「下面」が陰極の電解面に接触していた側の表面を意味し、「上面」が溶融塩浴に接触していた側の表面を意味する。
なお、表1において、「電析チタン箔」の下面、「電析チタン箔を冷間圧延及び焼鈍して製造したチタン箔」の上面及び下面並びに「鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔」の上面及び下面の表面粗さRaがいずれも0.2μm以下であったので、平均値として「≦0.2」μmと示している。
【0049】
(破断伸び)
表1に示す各被溶接部材について、先述した方法により、サンプルを採取し、下記指定した条件(サンプル形状)以外はJIS Z2241-2011に準拠して、室温(25℃)で、破断伸びをそれぞれ測定した。なお、圧延を実施した場合は圧延方向が引張方向となるように、サンプルを上面視でダンベル形状に採取した。サンプルの大きさについては、平行部幅が10mm、平行部長さが17mm、掴み部幅が20mm、R部の曲率半径が13.5mmとした。次に、引張試験機にサンプルをセットして、引張試験速度を0.5mm/分で行った。その結果を表1に示す。
【0050】
(マイクロビッカース硬さ)
表1に示す各被溶接部材について、先述した方法により、JIS Z2244-2009に準拠して、マイクロビッカース硬さを測定した。その結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
[溶接部材の製造]
(実施例1~2及び比較例1~2)
溶接工程では、表2に示す各被溶接部材をそれぞれ用意して、該被溶接部材の長手方向の端部同士を突き合わせファイバーレーザー溶接により溶接した。また、電析チタン箔を冷間圧延及び焼鈍して製造したチタン箔及び鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔については、長手方向が圧延方向となるように配置した。これにより、溶接部を有する溶接部材が得られた。
【0053】
<溶接部の評価>
実施例1~2及び比較例1~2で得られた溶接部材について、下記評価をそれぞれ実施した。
【0054】
(溶接部の確認)
溶接不良の有無を確認するため、溶接部の内部に空洞が存在するかを超音波探傷により確認した。その結果、比較例1~2は溶接不良ありと判断し、当該箇所を厚み方向に切断して当該断面を電子顕微鏡で観察した。他方、実施例1~2は溶接不良なしと判断し、適宜の箇所において厚み方向に切断して当該断面を電子顕微鏡で観察した。得られた写真(図2~5)について、溶接不良は溶接部の空洞(黒色部)として確認された。
【0055】
(結晶粒径)
実施例1においては、溶接部材の溶接部の断面と、一の部材としてのチタン箔の断面とを確認した結果、溶接部材の溶接部の結晶粒径は、チタン箔の結晶粒径より微細であった。なお、その結果を表2に示す。
【0056】
(引張試験機による破断した部材の確認)
実施例1においては、溶接部材の長手方向がサンプルの長手方向となるように、該サンプルをダンベル形状に採取した。なお、溶接部がサンプルの中央に位置するようにした。該サンプルの大きさについては、平行部幅が10mm、平行部長さが17mm、掴み部幅が20mm、R部の曲率半径が13.5mmとした。次に、引張試験機にサンプルをセットして、上記指定した条件(サンプル形状)以外はJIS Z2241-2011に準拠して、引張試験速度を0.5mm/分で行うことで、室温(25℃)での破断した部材を確認した。なお、表2に引張試験により破断した部材の評価結果を示す。
【0057】
【表2】
【0058】
(実施例による考察)
実施例1~2においては、一の部材として電析法で得られた電析チタン箔を圧延及び焼鈍して製造したチタン箔の両表面の表面粗さRaが0.5μm以下であったので、該チタン箔と他の部材とをファイバーレーザー溶接により溶接して得られた溶接部材の溶接部に溶接不良が確認されなかった。
また、実施例1においては、溶接部の結晶粒径が一の部材であるチタン箔の結晶粒径より微細であったことを確認した。さらに、引張試験により、一の部材であるチタン箔が破断したことを確認した。この理由としては、当該溶接部の結晶粒径の微細化により、溶接部の強度が向上したものと推察される。
また、表1によれば、電析法で得られた電析チタン箔を圧延及び焼鈍して製造したチタン箔は、鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔に比べ、破断伸び及びマイクロビッカース硬さが低かったことが確認されている。しかしながら、実施例1においては、上記チタン箔を用いて得られた溶接部材の溶接部に溶接不良が確認されなかったので、被溶接部材として十分に使用可能であると推察される。また、上記チタン箔は鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔とは異なる機械特性を有しているので、上記チタン箔を使用して従来では得られなかった溶接部材を製造できる。また、上記チタン箔は、鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔に対して破断伸びが低く塑性加工性に劣る傾向にあると考えられるが、ファイバーレーザー溶接の適用により上記チタン箔を含む様々な形状の溶接部材を製造可能である。また、上記チタン箔は鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔より製造工程が少なく安価で製造可能であるので、コストの観点から、鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔の適用分野に好適に利用可能であると考えられる。
また、実施例2においては、電析法で得られた電析チタン箔を冷間圧延及び焼鈍して製造したチタン箔と、鋳造圧延法に基づき製造したチタン箔とをファイバーレーザー溶接により溶接して溶接部材が得られており、この溶接部材の溶接部に溶接不良が確認されていない。このことから、上記チタン箔と、製造条件が全く異なるチタン箔との溶接も実現できるものと推察される。
【0059】
一方、比較例1~2においては、電析法で得られた電析チタン箔の表面(溶融塩電解時に、溶融塩浴に接していた面)の表面粗さRaが0.5μmを超えていたので、該電析チタン箔と他の部材とをファイバーレーザー溶接して得た溶接部材の溶接部に溶接不良が確認された。
【符号の説明】
【0060】
100 電解装置
110 電解槽
120 電極
121 陽極
122 陰極
130 電源
Bf 溶融塩浴
図1
図2
図3
図4
図5