(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033607
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】焼き菓子の製造方法及び焼菓子のひび割れ抑制方法
(51)【国際特許分類】
A21D 15/00 20060101AFI20240306BHJP
A21D 13/80 20170101ALI20240306BHJP
【FI】
A21D15/00
A21D13/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137278
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】000165284
【氏名又は名称】月島食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】白沢 清
【テーマコード(参考)】
4B032
【Fターム(参考)】
4B032DB21
4B032DG02
4B032DK01
4B032DK12
4B032DK45
4B032DK48
4B032DK49
4B032DL01
4B032DP12
4B032DP29
4B032DP37
4B032DP40
4B032DP59
4B032DP71
(57)【要約】
【課題】焼成菓子の食感を大きく損なうことがなく、比較的低コストで実施可能であり、効果的に焼き菓子のひび割れを抑制・防止することが可能な焼き菓子の製造方法を提供する。
【解決手段】 生地を焼成して得られる焼き菓子の製造方法であって、焼成後かつ包装前に製品表面に製品の総質量に対して0.15~1.40質量%の水分を付与することを特徴とする焼き菓子の製造方法とした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生地を焼成して得られる焼き菓子の製造方法であって、
前記生地の焼成後かつ前記生地を焼成して得られる製品の密封包装前に、前記製品表面に、前記製品の総質量に対して0.15~1.40質量%の水分を付与することを特徴とする焼き菓子の製造方法。
【請求項2】
前記水分の付与が水の噴霧又は水蒸気の付与により行われる請求項1に記載の焼き菓子の製造方法。
【請求項3】
前記水分の付与は、前記生地の焼成後の放冷工程で、前記製品表面温度が45℃以下に低下した後に行われる請求項1に記載の焼き菓子の製造方法。
【請求項4】
前記焼き菓子の焼成後の製品の最大厚さが4.5mm~15mmである請求項1に記載の焼き菓子の製造方法。
【請求項5】
前記放冷工程が湿度70%以下の環境下で行われる請求項3に記載の焼菓子の製造方法。
【請求項6】
前記焼き菓子は、クッキー、サブレ、ビスケットから選ばれた1種である請求項1~5のいずれか1項に記載の焼き菓子の製造方法。
【請求項7】
生地を焼成して得られる焼き菓子のひび割れ抑制方法であって、
前記生地の焼成後、前記生地を焼成して得られる製品表面に水分を付与することを特徴とする焼き菓子のひび割れ抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クッキー、サブレ、ビスケット等の焼き菓子の製造方法及び焼菓子のひび割れ抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クッキー、サブレ、ビスケット等の焼き菓子は、生地を焼成した後、製品温度が一定温度以下に低下するまで放冷した後包装し、出荷される。このように出荷のために梱包されて時間が経過した製品は、ひび割れ(チェッキング)が生じる現象が従来から知られている。このひび割れは時間が経過してから生じるため、包装時の検査で検出することが困難である。
また、焼き菓子の多くは表面に皺様の凹凸を有するものが多く、たとえひび割れが生じていても、目視により発見することが困難な場合が多い。そして、ひび割れが生じた製品に配送時などに振動や軽いショックが加わり続けると、小さなひび割れが拡がり、ついには割れてしまって、商品価値を著しく低下させる要因となる。
【0003】
ひび割れの原因として、焼き菓子の中心部と外周部の水分差が影響していると考えられている。すなわち、焼成後中心部より外周部に水分移行する過程で、製品に収縮する力が働き、ひび割れが生じると考えられている。特に焼き上がり10数mm前後の厚い製品は、中心部と外周部の水分差が大きいためにひび割れ(チェッキング)し易い。
【0004】
これに対処するため、焼成温度を下げ、より長い時間焼き込むことで製品の水分値を下げて、ひび割れを防止する試みもなされている。しかし、前記手法では生産効率が低下し、食感も変化してしまうという弊害が生じる。
【0005】
下記特許文献1には、しっとりとした食感であると共に、良好な風味を有し、食べるときにショートブレッドの細かい破片が飛び散りにくく、しかも保存性の高いショートブレッドの製造法を提供することを目的として、焼成して得られたショートブレッドを冷却した後、アルコール水を添加し、直ちに密封包装することにより、苦みや臭みがなく、しっとりとしたショートブレッドの最終製品を得る手法が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献2には焼成チョコレートからなる焼成菓子であって、これまでにない新しい食感を呈する、焼成菓子の製造方法及び焼成菓子を提供することを目的として、焼成チョコレートにアルコール又はアルコール含有水溶液を添加して密封包装することにより焼成菓子を得る手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11-313602号公報
【特許文献2】特開2016-208913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献1は、しっとりとした食感や、良好な風味および食べるときにショートブレッドの細かい破片が飛び散りにくく、しかも保存性の高いショートブレッドの提供を目的とするもので、ひび割れが生じることを防止することを目的とするものではない。
【0009】
このため、焼成後に添加しているのは濃度10~30重量%のアルコール水であり、しかも添加量は6.0~10.0重量%と、本発明に適用した場合、食感に悪影響を与えかねない量である。
【0010】
特許文献2は、焼成チョコレートからなる焼成菓子であって、これまでにない新しい食感を呈する、焼成菓子の製造方法及び焼成菓子を提供することを目的としており、サブレなどの焼き菓子のひび割れを防止するものではない。
【0011】
また、この文献ではアルコール又はアルコール含有水を添加することで、長期保存が可能となり、焼成菓子の全体が良好な食感になると記載されていて、アルコール又はアルコール含有水添加の作用・効果が異なる。
【0012】
上記いずれの文献にもひび割れ防止に関する記載も示唆もなく、サブレのような焼き菓子に水を添加する構成も示されていない。
【0013】
従って、本発明の目的は、焼成菓子の食感を大きく損なうことがなく、比較的低コストで実施可能であり、効果的に焼き菓子のひび割れを抑制・防止することが可能な焼き菓子の製造方法および焼き菓子のひび割れ抑制方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究した結果、ひび割れが生じるメカニズムとして、焼成後の製品中心部の水分が製品の表面、裏面を含めた外周部に徐々に移行し、製品の厚みで異なるが製品厚10mm前後のものでは一週間程度で水分が均衡状態に近い数値となる。そして、中心部から外周部に水分移行する過程で収縮する力が働き、個包装され静置状態に置かれた製品がひび割れることがわかった。
【0015】
また、ひび割れ(チェッキング)が12月、1月、2月と春先の3月の気温が低く、湿度が下がる気候時に頻繁に起こることに注目し検討を行った。
【0016】
クッキー、サブレ、ビスケット等の焼き菓子は、冬場は乾燥してひび割れが生じやすいが、夏場は空気中に水蒸気が多く含まれるために放冷の段階で吸湿する可能性が高く、ひび割れが起きにくいと考えられる。
【0017】
そして、中心部と外周部の水分値差が大きい程ひび割れが生じ易く、この水分差を均衡状態にする時間経過が長く掛かることでひび割れのリスクが高くなることが分かった。
【0018】
すなわち上記目的は以下の本発明の構成により達成される。
(1)生地を焼成して得られる焼き菓子の製造方法であって、前記生地の焼成後かつ前記生地を焼成して得られる製品の密封包装前に、前記製品表面に、前記製品の総質量に対して0.15~1.40質量%の水分を付与することを特徴とする焼き菓子の製造方法。
(2)前記水分の付与が水の噴霧又は水蒸気の付与により行われる上記(1)に記載の焼き菓子の製造方法。
(3)前記水分の付与は、前記生地の焼成後の放冷工程で、前記製品表面温度が45℃以下に低下した後に行われる上記(1)に記載の焼き菓子の製造方法。
(4)前記焼き菓子の焼成後の製品の最大厚さが4.5mm~15mmである上記(1)に記載の焼き菓子の製造方法。
(5)前記放冷工程が湿度70%以下の環境下で行われる上記(3)に記載の焼菓子の製造方法
(6)前記焼き菓子は、クッキー、サブレ、ビスケットから選ばれた1種である上記(1)~(5)のいずれかに記載の焼き菓子の製造方法。
(7)生地を焼成して得られる焼き菓子のひび割れ抑制方法であって、
前記生地の焼成後、前記生地を焼成して得られる製品表面に水分を付与することを特徴とする焼き菓子のひび割れ抑制方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、焼き菓子の食感を大きく損なうことがなく、比較的低コストで実施可能であり、効果的に焼き菓子のひび割れを抑制・防止することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明について更に詳細に説明する。
なお、数値範囲の「~」は、断りがなければ、以上から以下を表し、両端の数値をいずれも含む。また、数値範囲を段階的に示したときは、上限値および下限値を適宜組み合わせることができ、それにより得られた数値範囲も開示したものとする。
【0021】
本発明の焼き菓子の製造方法は、生地を焼成して得られる焼き菓子の製造方法であって、前記生地の焼成後かつ包装前に、前記生地を焼成して得られる製品表面に、製品の総質量に対して0.15~1.40質量%の水分を付与するものである。
このように、焼成後の製品表面に所定量の水分を付与することで、効果的にチェッキングと称するひび割れを抑制・防止することができる。
【0022】
製品表面に付与(以下、添加ともいう)する水(H2O)としては特に限定されるものではないが、食品である製品に添加されるため、食品添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)に適合したものであることが好ましい。なお、本願発明の効果に影響を与えない範囲で、水には殺菌効果のある物質や、保存料、果汁等を含有させてもよい。これらの副成分の含有量は水全量に対して好ましくは5質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下にするとよい。
【0023】
水の添加量としては、焼成後の添加直前の製品総質量に対し0.15~1.40質量%、好ましくは0.15~1.20質量%、より好ましくは0.53~1.20質量%、さらに好ましくは0.53~1.00質量%、最も好ましくは、0.60~1.00質量%添加するとよい。水の添加量が上記範囲より少ないとチェッキング抑制効果が減少し、多すぎると食感が悪化するという弊害が生じてくる。
【0024】
水を付与する手段としては、塗布または水蒸気下に晒して付与するとよい。塗布法の中でも噴霧法が好ましく、噴霧の手段としては、高速ないし加圧気流による液の微粒化(ネブライザー、アトマイザー、二流体ノズルなど)、超音波霧化、エレクトロスプレー、振動オリフィス型分散装置などがあり、それぞれ液滴の大きさや発生量に違いがあるが、実用的には、加圧気流による液の微粒化、超音波霧化が好ましく用いられる。
【0025】
水の添加時期としては、生地の焼成後であって、生地を焼成して得られる製品の包装前である。また、好ましくは製品の表面温度が所定の温度まで低下してから付与するとよく、具体的には60℃以下が好ましく、さらには45℃以下、特には40℃以下が好ましい。
【0026】
焼成後の製品の冷却手段としては、室温下で放冷するのが一般的であるが、必要に応じて温度管理可能な恒温槽、加熱冷却装置、冷蔵庫、扇風機、送風機などを用いて所定の温度下に調整して冷却してもよいし、経過時間に従って一定の割合で冷却温度を下げるように管理した雰囲気下で冷却してもよい。
【0027】
放冷時の環境湿度としては、70%以下が好ましく、さらには38%~70%が好ましく、特に40~70%がよい。湿度が低すぎると水の添加効果が薄れ、高すぎると製品が吸湿して食感が悪化してくる。
特に冬季環境の平均湿度55%以下については水の付与効果が大きい。また、湿度70%以上、更には平均湿度80%を超える環境では、サブレの放冷が15~20分を過ぎると空気中の水分を吸収し、チェッキング現象が抑制されることがあるが、吸収し過ぎると食感については悪化する場合もある。このため、湿度の高い季節では乾燥剤等を一緒に個包装することがある。
【0028】
製品は水を付与された後、密封包装される。水の付与から包装までの時間は、外部環境の影響を排除するためなるべく短くするとよい。具体的には、0.1時間以内、好ましくは0.05時間以内、より好ましくは直ちに包装するとよい。
【0029】
包装に使用される材料としては、この種の焼き菓子に通常使用されている包材を使用すればよく、例えば樹脂材料としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、PS(ポリスチレン)、PET(ポリエチレンテレフタラート)などが挙げられ、これらを1種または2種以上積層したラミネートフィルムを用いてもよい。また、紙や、金属箔などに、上記樹脂フィルムを積層したラミネートフィルムを用いてもよく、紙などに防湿性のコーティングを施したシートで包装してもよい。
【0030】
本発明により製造される焼き菓子としては、例えば、ビスケット、クッキー、クラッカー、乾パン、プレッツェル、カットパン、ウェハース、サブレ、ラングドシャ、マカロン等の一般的な焼き菓子が挙げられる。特に、ひび割れの問題が発生しやすい、水分含有量が0.5~5.0質量%、より好ましくは1.5~5.0質量%の焼菓子に好適である。焼成後の焼き菓子の水分含有量は、例えば、マイクロ波乾燥式水分計により測定することができる。測定はサンプル全体を粉砕し速やかに行うとよい。
【0031】
焼き菓子の原料となる澱粉質原料としては、通常製菓に用いられる澱粉質原料であればよく、例えば、薄力粉、中力粉、強力粉等の小麦粉、大麦粉、米粉、大豆粉、白玉粉などの穀粉等であってよく、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、とうもろこし澱粉、タピオカ澱粉などの澱粉素材等であってよく、その種類や由来に特に制限はない。また、澱粉質原料は、物理的・化学的あるいは酵素的処理を加えることによって天然澱粉の特性を改良した、加工澱粉等であってよく、より具体的には、例えば、リン酸架橋澱粉、酸化澱粉、酢酸澱粉等であってよい。これらの穀粉や澱粉素材は、それぞれの複数種類を併用してよく、穀粉と澱粉素材とを併用してよく、あるいは焼き菓子の原料として単独で使用してよく、特に制限はない。
【0032】
焼き菓子の生地には、上記澱粉質原料以外の原料を含んでいてもよい。そして、通常取り得る配合や調製方法にて、その生地を調製すればよい。また、必要に応じて、通常では小麦粉を使用するところを、上記小麦粉以外の澱粉質原料によりその一部又は全部を置換して、その生地を調製するようにしてもよい。澱粉質原料以外の原料としては、例えば下記のようなものが挙げられる。
【0033】
生地に含有しうる粉体原料としては、大豆粉、小麦フスマ、アーモンドプードル、全粒玄米粉、エンドウ豆粉、黄色エンドウ豆粉、ひよこ豆粉、トウモロコシ繊維等が挙げられる。
【0034】
油脂原料としては、例えばマーガリン、ショートニング、バター、ファットスプレッド、サラダ油、白絞油、ラード、ヘッド、鶏油等が挙げられる。
【0035】
膨化剤としては、例えば重曹、ベーキングパウダー、イーストパウダー、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、焼ミョウバン、フマル酸、ピロリン酸二水素カルシウム、L-酒石酸水素カリウム、リン酸二水素カルシウム等が挙げられる。
【0036】
上記以外にも、焼き菓子の副原料として、例えば、グラニュー糖、上白糖、粉糖、和三盆、黒糖、三温糖等の砂糖、ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、デキストリン、フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖、糖アルコール等の糖類、牛乳、クリーム、カゼイン、ホエー、脱脂粉乳、全脂粉乳等の乳や乳製品、全卵、卵黄、卵白、殺菌卵、乾燥全卵等の卵類、食塩、醤油、アミノ酸、グルタミン酸ナトリウム等の調味料、リキュール類、酒類、味醂類、クロレラ粉末、海老粉末、果汁、チョコレート、ココア、コーヒー、抹茶等の風味原料、青のり、種々のフレーバー、等を更に含有させてもよい。
【0037】
本発明が適用される焼き菓子の製造方法の他の工程は、当業者に公知の方法で、適宜実施することができる。
【0038】
例えば原料を混合して生地を調製し、その生地を必要に応じて成形した後、焼成することにより得ることができる。生地は、例えば、ロータリーモルダーで一定の厚さに成形する方法や、デポジッターやワイヤーカットにより分注する方法、また、必要に応じて、ロールで展延するか、押出し成型する方法等により成形することができる。
【0039】
成形された生地は、焼成することにより本発明の製品である焼き菓子を得ることができる。焼成の方法としては、焼き菓子の製造のための既存の設備を使用すればよく、特に制限はない。例えば、ハードビスケットやクラッカーの場合には、上火と下火とを独立に調節可能なトンネル型オーブンや、あるいは所望の場合には、オーブン内に水蒸気を充満させることが容易な、所定のオーブン庫内を備えるオーブンなどを使用して、焼成を行うようにしてもよい。なおスチームオーブンを使用しての焼成のみでは、焼菓子の品温が高いために水分の付着が少ないので、チェッキングを防止させるのは難しく、あくまで焼成後かつ前記生地を焼成して得られる製品の密封包装前の水分の付与が必要である。焼成条件としては、150~300℃、5~25分などであればよい。
【0040】
本発明方法により製造される焼き菓子の形状としては、棒形状、直方体形状、板形状、球形状、不定形状など、種々の形状にすることができる。その大きさは、厚さが4.5~15mm、幅が10~200mm、長さが20~210mmとなるようにするとよい。なお前記数値はそれぞれの部位の最大となる部分の数値である。
【実施例0041】
次に実施例を示して本発明をより具体的に説明する。
【0042】
[実施例1]
〈配合〉
下記表1に記載の材料を、表1に記載の配合で、下記〈生地の製造〉に示した手順に従い撹拌・混合した。前記操作には関東混合機(株)製の10コートミキサーを使用した。このとき、膨張剤として炭酸水素ナトリウムを使用して、生地厚を7mmとして厚く焼き上げチェッキングする可能性を高めた。
【0043】
【0044】
〈生地の製造〉
(1)まず、添加順序1に示す材料であるバター、グラニュー糖をミキサーボールに投入して撹拌した。撹拌は低速で30秒、その後高速にて3~4分行った。このときの比重は0.80前後であった。また、ミキサーボールの底、側面に付着した物をかき落とし、混合物全体が均一になるようにした。
(2)次に、添加順序2に示す材料として炭酸水素ナトリウム、全卵(正味)を混合し、2回に分けてミキサーボールに加えた。撹拌は低速15秒、中高速1~2分にて行い、このときの比重は0.80前後であった。
(3)次いで、添加順序3に示す材料である薄力粉をふるってミキサーボールに加え低速で30秒間混合した。
(4)その後、混合された生地を5~10℃で4~24時間リタードした。
(5)次に、リタードした生地を軽く揉み、ブロック状にして生地厚を7mmに伸ばし型抜きした、このときの生地重量は33g前後であった。
(6)この型抜きした生地を6取り天板上に所定枚数並べた。
【0045】
〈焼成〉
次に、天板上に配置された生地を以下の条件で焼成した。
焼成装置として三幸機械(株)製 商品名:雅を用い、2枚天板で上火205℃(レベル6)、下火190℃(レベル3)にて、焼成時間は14分とした。
焼成後、製品を天板の上に載置したまま、室温下で約20分間放冷し、表面温度を測定し、各製品総重量に対する表1に示す水分添加量(質量%)になるまでサブレへの噴霧と重量測定とを繰り返し、個別に密封包装した。また、焼成後の焼き菓子自体の水分含有量は、マイクロ波乾燥式水分計により測定した。測定はサンプル全体を粉砕し速やかに行った。密封包装したサンプルは、各サンプルについてチェッキング試験用として15枚、官能試験用として15枚用意した。
【0046】
包装後の製品に対して以下の手法にてチェッキングの有無を調べた。チェッキングの有無は、各サンプルを包装当日から14日経過後まで毎日包材上から肉眼で観察し、15枚中1枚でもひび割れが有れば×、0枚なら○とした。
また、添加した水分の食感に与える影響を調べるため官能試験を行った。官能試験は、包装後1日経過時点の製品について以下の4段階評価で試食評価した。非常にさくさくした食感:◎、さくさくした食感:○、違和感あり:△、湿気ている:×。これらの結果を、保管時の温度と湿度とともに表2に示す。
なお表面温度は水を噴霧する直前の温度、湿度は放冷時の湿度を測定した。
【0047】
【表2】
表2から明らかなように、水分添加量が少ないサンプル1およびサンプル2は、チェッキングが生じている。一方、水分添加量が多くなったサンプル6~8は官能テストの結果が悪化し、食感が低下していることが分かる。
【0048】
[実施例2]
放冷時の環境湿度を変えた以外は実施例1と同様にして表3に示す各サンプルを製造し、実施例1と同様にチェッキング、官能試験を行った。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
表3から明らかなように、水分添加量が少ないサンプル11~13は、チェッキングが生じている。一方、水分添加量が多くなったサンプル17~18は官能テストの結果が悪化し、食感が低下していることが分かる。
【0050】
[実施例3]
生地の厚みを変えた以外は実施例1と同様にして表4に示す各サンプルを製造した。その際、焼成した各サンプルに約1質量%程度の水分を付与し、実施例1と同様にチェッキング、官能試験を行った。結果を表4に示す。
【0051】
【表4】
表4から明らかなように、生地の厚みを厚くしたサンプル21は官能試験の結果が低下している。これは、製品の厚みが増加したことで、同等の水分添加量でも、水分量が増加したためと考えられる。
【0052】
[実施例4]
放冷時の環境湿度を変えた以外は実施例3と同様にして表5に示す各サンプルを製造し、実施例1と同様にチェッキング、官能試験を行った。結果を表5に示す。
【0053】
【表5】
表5から明らかなように、生地の厚みを厚くしたサンプル31は、官能試験の結果が低下している。これは、製品の厚みが増したことで水分量が増加したためと考えられる。
【0054】
[実施例5]
実施例1と同様にして表6に示す各サンプルを製造した。その際、焼成した各サンプルに水を付与するまでの時間を表6に示すように変化させた。なお、表6の放冷1は焼成後水を付与するまでの時間、放冷2は水を付与した後、包装を行うまでの時間である。その後、実施例1と同様にチェッキング、官能試験を行った。結果を表6に示す。
【0055】
【表6】
表6から明らかなように、放冷時間が少なく表面温度が高い状態で水を付与したサンプル41~43はチェッキングが発生してしまい、製品の表面温度が高い状態で水を付与してもチェッキング防止効果が損なわれていることがわかる。
【0056】
[実施例6]
放冷時の環境湿度を変えた以外は実施例5と同様にして表7に示す各サンプルを製造し、実施例1と同様にチェッキング、官能試験を行った。結果を表7に示す。
【0057】
【表7】
表7から明らかなように、放冷時間が少なく表面温度が高い状態で水を付与したサンプル51~53はチェッキングが発生してしまい、製品の表面温度が高い状態で水を付与してもチェッキング防止効果が損なわれていることがわかる。