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特開2024-33623プラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033623
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】プラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置
(51)【国際特許分類】
   G21C 17/00 20060101AFI20240306BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240306BHJP
   G06Q 10/20 20230101ALI20240306BHJP
【FI】
G21C17/00 110
G05B23/02 Z
G06Q10/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137308
(22)【出願日】2022-08-30
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】樫又 恒一
(72)【発明者】
【氏名】河野 尚幸
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】小部 強
【テーマコード(参考)】
2G075
3C223
5L049
【Fターム(参考)】
2G075AA01
2G075BA03
2G075CA02
2G075FB09
3C223AA03
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223EB02
3C223FF05
3C223FF52
3C223FF53
3C223GG01
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】プラント機能に係るパラメータの監視を行い、パラメータ情報を基にプラント機能及び性能の適切な維持又は管理による3要素の整合性維持するプラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置を提供する。
【解決手段】本発明のプラント機能管理支援方法は、プラント要求機能を監視する監視パラメータを抽出するとともに、プラントの機能又は性能における維持又は管理を判定する監視パラメータの設計要求閾値を抽出するステップと、監視パラメータの値を取得するステップと、取得した監視パラメータ値と設計要求閾値とを対比するステップと、を含み、プラントの機能又は性能における維持又は管理を行うようにした。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント要求機能を監視する監視パラメータを抽出するとともに、プラントの機能及び性能における維持又は管理を判定する前記監視パラメータの設計要求閾値を抽出するステップと、
前記監視パラメータの値を取得するステップと、
取得した監視パラメータ値と前記設計要求閾値とを対比するステップと、
を含み、プラントの機能及び性能における維持又は管理を行うことを特徴とするプラント機能管理支援方法。
【請求項2】
請求項1に記載のプラント機能管理支援方法において、
監視パラメータの時間当たりの変化量が許容変化量を超えた際に、監視パラメータの通常と異なる変化を検知したと判定する
ことを特徴とするプラント機能管理支援方法。
【請求項3】
プラント要求機能を監視する監視パラメータを抽出するとともに、プラントの機能及び性能における維持又は管理を判定する前記監視パラメータの設計要求閾値を抽出するステップと、
前記監視パラメータの値を取得するステップと、
取得した監視パラメータ値に基づいて監視パラメータの経年変化を予測し、監視パラメータの予測値が前記設計要求閾値に達する時刻を求め、前記時刻からアクションリードタイムを減じた時刻における監視パラメータの経年変化の予測値をアクション閾値とするステップと、
取得した監視パラメータ値と前記アクション閾値とを対比するステップと、
を含み、取得した監視パラメータ値が前記アクション閾値に達した際に、プラントの保全又は是正措置を実施することを特徴とするプラント機能管理支援方法。
【請求項4】
請求項3に記載のプラント機能管理支援方法において、
前記アクションリードタイムは、プラントの保全又は是正措置のための資材調達、作業リソース確保、実作業時間、又は作業制約条件の情報である
ことを特徴とするプラント機能管理支援方法。
【請求項5】
請求項3に記載のプラント機能管理支援方法において、
前記取得した監視パラメータ値が幅を持つ場合に、上限側又は下限側のピーク値に基づいて監視パラメータの経年変化を予測する
ことを特徴とするプラント機能管理支援方法。
【請求項6】
請求項3に記載のプラント機能管理支援方法において、
取得した監視パラメータ値に基づいて監視パラメータの経年変化を予測し、監視パラメータの予測値が前記設計要求閾値に達する時刻を求め、前記時刻がプラントの運転期間であった際に、当該運転期間の直前の停止期間の開始時刻からアクションリードタイムを減じた時刻における監視パラメータの経年変化の予測値をアクション閾値とするステップ
を含み、前記停止期間に、プラントの保全又は是正措置を実施する
ことを特徴とするプラント機能管理支援方法。
【請求項7】
請求項3に記載のプラント機能管理支援方法において、
アクション閾値の更新により再設定されたアクション閾値が、更新する前のアクション閾値に対応する時刻より過去の時刻の値であると判定した際に、監視パラメータの通常と異なる変化を検知したと判定する
ことを特徴とするプラント機能管理支援方法。
【請求項8】
プラント要求機能を監視する監視パラメータを抽出するとともに、プラントの機能及び性能における維持又は管理を判定する前記監視パラメータの設計要求閾値を抽出するプラント機能管理部と、
前記監視パラメータを取得するパラメータ監視部と、
取得した前記監視パラメータと前記設計要求閾値とを対比するパラメータ判定部と、
を備えることを特徴とするプラント機能管理支援装置。
【請求項9】
請求項8に記載のプラント機能管理支援装置において、さらに、
取得した監視パラメータ値に基づいて監視パラメータの経年変化を予測し、監視パラメータの予測値が前記設計要求閾値に達する時刻を求め、前記時刻からアクションリードタイムを減じた時刻における監視パラメータの経年変化の予測値をアクション閾値とするアクション閾値更新部を備え、
前記パラメータ判定部は、取得した監視パラメータ値と前記アクション閾値とを対比し、取得した監視パラメータ値が前記アクション閾値に達した際に、プラントの保全又は是正措置を実施する
ことを特徴とするプラント機能管理支援装置。
【請求項10】
請求項9に記載のプラント機能管理支援装置において、
前記アクション閾値更新部は、
取得した監視パラメータ値に基づいて監視パラメータの経年変化を予測し、監視パラメータの予測値が前記設計要求閾値に達する時刻を求め、前記時刻がプラントの運転期間であった際に、当該運転期間の直前の停止期間の開始時刻からアクションリードタイムを減じた時刻における監視パラメータの経年変化の予測値をアクション閾値とし、
前記停止期間に、プラントの保全又は是正措置を実施する
ことを特徴とするプラント機能管理支援装置。
【請求項11】
請求項8に記載のプラント機能管理支援装置において、
監視パラメータの時間当たりの変化量が許容変化量を超えた際に、監視パラメータの通常と異なる変化を検知したと判定するか、又は、アクション閾値の更新により再設定されたアクション閾値が、更新する前のアクション閾値に対応する時刻より過去の時刻の値であると判定した際に、監視パラメータの通常と異なる変化を検知したと判定するパラメータ変化影響判定部を備える
ことを特徴とするプラント機能管理支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子力プラントのプラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、原子力発電は、再生可能エネルギー導入拡大により生産性の競争力が求められている。加えて、電力供給ひっ迫により計画的かつ継続的に安定供給可能なベースロード電源としても期待される。このため、発電設備の計画外停止要因を排除するため、信頼性の高い設備の管理技術がますます必要となっている。
【0003】
例えば、特許文献1には、発電プラントの運転パラメータを抽出する運転パラメータ抽出部と、運転パラメータ抽出部が抽出した発電プラントの運転パラメータの情報を送信する情報送信指令部と、を備えるようにして、原子力プラントを含む発電プラントの運転管理に関する情報を適切に共有することを可能にする発電プラントの運転管理支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-169964号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
原子力発電所では、設計要件、設計構成情報、物理構成の3要素の整合性維持又は管理を行う、Configuration Management(CM)という取り組みが、事業者の管理において求められている。この3要素について、原子力発電所では運転開始以降、開始時の性能を維持するような保守的な保全を行うことで、この3要素の整合性が保たれてきた。
従来、原子力発電所における設備は、要求される設備の性能や劣化状態に対し、大きな裕度を持って保全が行われていたが、今後より経済性、安定性を高めた保全と施設管理が求められる。
【0006】
より信頼性と経済性を高め設備を維持又は管理していくためには、設備又は機器に求められる性能を監視し、性能低下に対し、3要素を保ちつつ適切なタイミングで効果的な保全活動を行う必要がある。
【0007】
本発明の目的は、プラント機能に係るパラメータの監視を行い、パラメータ情報を基にプラント機能及び性能の適切な維持又は管理による3要素の整合性を維持するプラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため、本発明のプラント機能管理支援方法は、プラント要求機能を監視する監視パラメータを抽出するとともに、プラントの機能及び性能における維持又は管理を判定する前記監視パラメータの設計要求閾値を抽出するステップと、前記監視パラメータの値を取得するステップと、取得した監視パラメータ値と前記設計要求閾値とを対比するステップと、を含み、プラントの機能及び性能における維持又は管理を行うようにした。
【0009】
また、本発明のプラント機能管理支援装置は、プラント要求機能を監視する監視パラメータを抽出するとともに、プラントの機能又は性能における維持又は管理を判定する前記監視パラメータの設計要求閾値を抽出するプラント機能管理部と、前記監視パラメータを取得するパラメータ監視部と、取得した前記監視パラメータと前記設計要求閾値とを対比するパラメータ判定部と、を備えるようにした。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パラメータ情報を基にプラント機能及び性能の適切な維持又は管理による3要素の整合性維持するプラント機能管理方法及びプラント機能管理装置を提供することができる。
また、パラメータの監視を利用して設備又は機器の性能低下予測と保全又は是正措置を実施するためのリードタイム情報を組み合わせることで、ユーザへの保全アクション実施の適切なタイミングを提供できる。
さらに、予測データを監視パラメータ実測値により更新することでより精度を高め、継続的な3要素の維持又は管理の支援を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態の原子力プラントのプラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置におけるCMの設計要件、設計構成情報、物理構成の3要素を説明する図である。
図2】実施形態のプラント機能管理支援装置の構成を示す図である。
図3】3要素整合の確認動作を説明するフロー図である。
図4】保全計画を策定する場合の実施形態のプラント機能管理支援装置の構成を示す図である。
図5】監視パラメータに対するアクション閾値の決定処理を説明するフロー図である。
図6A】監視パラメータの経年変化の予測曲線が、直線や単純な曲線の場合のアクション閾値の決定方法を説明する図である。
図6B】監視パラメータの測定値は幅を持つ場合で、監視パラメータの測定値の上限側のピーク値に基づいて、監視パラメータの経年変化の予測曲線を求め、アクション閾値を求める方法を説明する図である。
図7】TR-107434の制御棒駆動機構(CRD)の炉心反応度と出力の制御機能における機能又は性能の監視項目を示す図である。
図8】ポンプの経年変化によるポンプ流量の減少を示す図である。
図9】ポンプの流量と吐出圧力の関係を示すポンプ性能曲線の一例を示す図である。
図10】アクションリードタイムの見積もり例を示す図である。
図11】運転スケジュールを考慮してアクション閾値を設定する例を示す図である。
図12】アクション閾値を利用したプラント機能要求の継続維持又は管理を行うフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
まず、実施形態の原子力プラントのプラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置におけるCMの設計要件、設計構成情報、物理構成の3要素について、図1により説明する。
【0013】
実施形態の原子力プラントのプラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置では、図1に示すように、プラントの設計、建設、製造における設計要求(設計要求閾値)と要求される機能情報(プラント要求機能)をCMの設計要件として、設計要求データベース(以下、設計要求DB50と記す)に記憶する。
【0014】
プラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置は、設計要求DB50に基づいて、要求データに対応する監視パラメータの情報が紐付けられ、また、定性的な機能情報から対応する監視パラメータ情報と閾値情報に定量化する。
【0015】
そして、設計要求閾値の根拠情報と、設計要求機能と監視パラメータの関係、対象コンポーネント情報とをCMの設計構成情報として、設計情報データベース(以下、設計情報DB60と記す)に記憶する。
【0016】
プラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置では、設計要求機能と監視パラメータの関連性、運転限界値となる閾値及びその根拠情報、また監視パラメータに対応するコンポーネント情報が、設計情報DB60から抽出される。また、設計要求機能定量化のための閾値情報が、設計情報DB60から抽出される。
【0017】
さらに、監視パラメータ(パラメータの記録と最新値)をCMの物理構成として、監視パラメータデータベース33(以下、監視パラメータDB33と記す)を記憶する。
詳しくは、監視パラメータDB33は、取得した監視パラメータのデータを記憶し、また、類似するパラメータの過去データや試験データを記憶する。
【0018】
実施形態の原子力プラントのプラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置では、原子力プラントの保全において、設計要求DB50と設計情報DB60と監視パラメータDB33の3要素の整合性維持又は管理を行う。
【0019】
つまり、設計要求DB50はCMの設計要件に相当するものであり、設計情報DB60はCMの設計構成情報に相当するものであり、監視パラメータDB33はCMの物理構成に相当するものであり、設計要求DB50と設計情報DB60と監視パラメータDB33の3要素の整合性維持又は管理を行うようにしているので、実施形態の原子力プラントのプラント機能管理支援方法及びプラント機能管理支援装置は、CMという取り組みに沿うものになっている。
【0020】
図2は、本実施形態のプラント機能管理支援装置の構成を示す図である。
本実施形態のプラント機能管理支援装置は、プラント要求機能に対する整合性情報の管理を行うプラント機能管理部10と、監視パラメータがパラメータに設定される各種閾値の範囲に収まっているかを判定するパラメータ判定部20と、パラメータ情報の取得と監視パラメータに関連する情報の記録を行うパラメータ監視部30と、当該装置の操作情報を入力する入力部70と、他の機器とデータ授受を行う通信部80と、ユーザへの警告とアクション情報を通知する出力部90と、を備える。
【0021】
詳しくは、プラント機能管理部10は、詳細を後述する、プラント要求機能抽出部11と、プラント要求機能関連情報抽出部12と、監視パラメータ抽出部13と、設計要求閾値抽出部14と、要求判定部15と、から構成する。
【0022】
また、パラメータ判定部20は、詳細を後述する、閾値判定部21と、パラメータ変化影響判定部22と、から構成する。
パラメータ監視部30は、詳細を後述する、監視情報入力部31と、入力情報記録部32と、監視パラメータDB33と、から構成する。
【0023】
図2では、本実施形態のプラント機能管理支援装置が、通信部80を介して、他の管理装置と共有する設計要求DB50と設計情報DB60に接続する構成を示しているが、プラント機能管理支援装置が、設計要求DB50と設計情報DB60とを備えるように構成してもよい。
【0024】
具体的には、本実施形態のプラント機能管理支援装置は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(hard disk drive)等の記憶装置、ディスプレイを備えるコンピュータ(情報処理装置)により構成する。
【0025】
そして、図2に示すように、HDDにより上述した各種の情報を記憶する監視パラメータDB33を形成し、HDDに記憶されたプログラムをCPUが実行することにより、プラント機能管理部10とパラメータ判定部20とパラメータ監視部30として機能する。出力部90は、ディスプレイである。
【0026】
つぎに、図3のフロー図により、本実施形態のプラント機能管理支援装置による3要素の整合の確認動作を説明する。
【0027】
図3のフローにより、CMに要求される性能の達成のための設計要求閾値と監視パラメータの測定値(監視パラメータの値)を、プラント機能管理支援装置により整理(可視化)し、3要素の整合を確認する。
【0028】
図3では、フロー中に関連付けした情報や値が関連情報とし、相互に参照が可能な状態として保存される。また、図3では、設計要求における運転限界値や経済的指標の要素機能の閾値により決められ、要素機能に関連付けられた監視パラメータと対比する閾値を「設計要求閾値」とする。
【0029】
ステップS31で、プラント機能管理部10のプラント要求機能抽出部11が、設計要求DB50からプラント要求機能を抽出する。
【0030】
ステップS32で、プラント要求機能関連情報抽出部12が、ステップS31で抽出した要求機能の要素機能及び設計根拠情報を設計情報DB60から抽出し、要求機能の関連情報とし管理する。ここで、要素機能とは要求機能の達成のために必要な機器の性能、状態、劣化情報などである。設計の観点では機能設計から機器設計へ与える制約条件となる情報も含まれる。
【0031】
ステップS33で、監視パラメータ抽出部13が、要素機能に関連する既存の監視パラメータ及び設計根拠情報を設計情報DB60から抽出し、要素機能の関連情報とし管理する。
【0032】
ステップS34で、設計要求閾値抽出部14が、プラント要求機能を達成するために必要な要素機能の必要最低限となる性能値を閾値として設計情報DB60から抽出し、監視パラメータに関連付ける。また、設計要求閾値抽出部14が、要素機能の閾値の根拠となる情報を関連情報として設計情報DB60から抽出する。
【0033】
上記のステップS31からステップS34により、図1の設計要求DB50と設計情報DB60における、プラント要求性能と監視パラメータの関係及び関連情報整理される。
【0034】
ステップS35で、パラメータ判定部20の閾値判定部21は、パラメータ監視部30で取得した監視パラメータの最新値が要素機能と関連づけられた監視パラメータの閾値を超えていないことを確認する。そして、要求判定部15が、プラント要求機能に関連付けられた要素機能の全てにおいて、閾値を超えていないことを確認する。
以上により、図1の設計要求DB50と設計情報DB60と監視パラメータDB33の整合性を確認できる。
【0035】
つぎに、本実施形態のプラント機能管理支援装置が、プラント運転中の設備又は機器に求められる性能を監視し、CMの3要素(設計要求DB50と設計情報DB60と監視パラメータDB33)の整合性を維持するように、プラントの保全計画を策定する場合を説明する。
【0036】
例えば、計画外のプラント停止さらには長期間停止を防止するため、監視パラメータの変化予測と保全アクションのリードタイム情報を活用し、3要素の整合を継続的に維持していくことを支援する。なお、アクションリードタイムとは、設備又は機器の機能回復のためのアクション実施に必要な検討、調達、作業等の時間を意味するものとする。
【0037】
図4は、保全計画を策定する場合における本実施形態のプラント機能管理支援装置の構成を示す図である。
【0038】
本実施形態のプラント機能管理支援装置は、図2で説明したプラント機能管理支援装置に、保全計画を策定するアクション閾値更新部40を付加して構成する。本実施形態のプラント機能管理支援装置の他の構成は、図2と同様のため、ここでは説明を省略する。
【0039】
アクション閾値更新部40は、詳細を後述する、予測情報抽出部41と、予測実行部42と、保全又は是正措置の情報抽出部43と、アクションリードタイム見積部44と、アクション閾値決定部45と、から構成する。
【0040】
アクション閾値更新部40は、この構成により、監視パラメータの予測値からプラント要求機能の閾値に達する時刻を予測するとともに、保全アクションの抽出とそのリードタイムを抽出する。そして、上記の時刻情報(予測した時刻)とリードタイム情報(抽出したリードタイム)から、閾値判定部21における、監視パラメータの新たな閾値(アクション閾値)を設定する。言い換えれば、アクション閾値更新部40は、性能低下予測と保全又は是正措置の実施のためのリードタイム情報を組み合わせ、アクションの実施トリガーとなる閾値(アクション閾値)を設定する。
【0041】
本実施形態のプラント機能管理支援装置は、これを保全アクションの閾値とし、監視パラメータがこの閾値に達したことを検知した場合に、ユーザに警告とアクション情報を通知するか、又は調達等の保全工程を起動する。
これにより、プラント機能管理支援装置は、設備又は機器が要求機能を喪失する前に保全関連アクション(計画、調達、実作業等)を開始し、アクションを完了することを可能とする。
【0042】
つぎに、図5により、アクション閾値更新部40における保全又は是正措置のアクション実施のための監視パラメータに対するアクション閾値の決定処理を説明する。
【0043】
ステップS51で、アクション閾値更新部40(図4参照)は、アクション閾値の設定を行う監視パラメータを選択する。
【0044】
ステップS52で、アクション閾値更新部40の予測情報抽出部41(図4参照)は、ステップS51で選択した監視パラメータに関する設計要求閾値を、設計要求DB50及び設計情報DB60から抽出する。さらに、監視パラメータDB33の過去データや試験データを含み、監視パラメータの経年変化の予測に必要なシミュレーション情報等の予測情報を取得する。取得した予測情報は、監視パラメータDB33に記憶する。
【0045】
ステップS53で、予測実行部42(図4参照)は、ステップS52で取得した予測情報に基づいて、シミュレーション等により監視パラメータの経年変化の予測を行う。この際の、予測方法についてはパラメータの種類やデータにより既知の技術から適当な手法を選択し行う。
【0046】
ステップS52とステップS53に並行して、ステップS54で、保全又は是正措置の情報抽出部43(図4参照)は、設計情報DB60からステップS51で選択した監視パラメータに関連するコンポーネント情報を抽出する。また、不図示の保全又は是正措置データベースから対象のコンポーネントの保全又は是正措置の情報を抽出する。
【0047】
保全又は是正措置の情報とは、対象のコンポーネントの機能又は性能の低下や劣化に対する点検又は修理を行うために必要な情報である。例えば、作業情報、必要な資材、作業リソース情報、作業制約情報等である。
【0048】
ステップS55で、アクションリードタイム見積部44が、ステップS52で抽出した保全又は是正措置の情報に基づいて保全又は是正措置のアクションリードタイムを見積もる。例えば、資材調達、作業リソース確保、実作業時間、作業制約条件等の情報に基づいて、保全のアクションリードタイムを見積もる。また必要であれば、パラメータ変化原因の検討期間もアクションリードタイムに含めて見積もる。
【0049】
ステップS56で、アクション閾値決定部45が、ステップS53の監視パラメータの経年変化の予測結果とステップS55のアクションリードタイムの見積もり結果からアクション閾値を決定する。
【0050】
詳しくは、アクション閾値決定部45は、監視パラメータの経年変化の予測値が監視パラメータに設定される設計要求閾値に達する時刻を基準とし、アクションリードタイム分を減算した時刻に対応する監視パラメータの経年変化の予測値を、アクション閾値とする。この時、設計要求閾値は、監視パラメータの管理目的に応じて設定しなおすことが可能である。
【0051】
ステップS57で、アクション閾値決定部45が、ステップS56で決定したアクション閾値を監視パラメータDB33へ格納する。
【0052】
ここで、ステップS56のアクション閾値の決定方法を、図6A図6Bにより詳細に説明する。
図6Aは、監視パラメータの測定値から求められる経年変化の予測曲線が、直線や単純な曲線の場合を示している。
【0053】
図6Aでは、ステップS56で説明したように、まず、監視パラメータの経年変化の予測曲線が監視パラメータの設計要求閾値に達する時刻を求め、この時刻からアクションリードタイム分を減じた時刻を、アクションを開始する時刻として求める。そして、監視パラメータの経年変化の予測曲線における、アクションを開始する時刻に対応する監視パラメータの予測値をアクション閾値とする。
【0054】
図6Aでは説明を単純化するため、監視パラメータの経年変化の予測曲線が単純減少する場合について説明したが、監視パラメータの特性に制限はなく、また、パラメータは様々な要因から変化しうるため、図6Bに示すように、監視パラメータの測定値は幅を持つことが考えられる。この場合には、監視パラメータの設計要求閾値は上限値と下限値を設定して管理し、アクション閾値もこれに応じて設定する。
【0055】
図6Bは、監視パラメータの測定値の上限側のピーク値に基づいて、監視パラメータの経年変化の予測曲線を求め、アクション閾値を求める場合を示している。詳しくは、監視パラメータの経年変化の予測曲線が監視パラメータの上限の設計要求閾値に達する時刻を求め、この時刻からアクションリードタイム分を減じた時刻を、アクションを開始する時刻として求める。そして、監視パラメータの経年変化の予測曲線における、アクションを開始する時刻に対応する監視パラメータの予測値をアクション閾値とする。
【0056】
監視パラメータの測定値の上限側のピーク値に替えて、監視パラメータの測定値の下限側のピーク値に基づいて、監視パラメータの経年変化の予測曲線を求め、アクション閾値を求めてもよい。
【0057】
以下、より具体的なアクション閾値の設定例を説明する。
図7は、米国のEPRI(Electric Power Research Institute:電力研究所)が発行する「TR-107434 System Monitoring by System Engineers 37 System Monitoring Plans」に記載されている制御棒駆動機構(CRD)の炉心反応度と出力の制御機能における機能又は性能の監視項目を示している。以下、これを対象にアクション閾値の設定を行う例を説明する。
【0058】
図7に示す制御棒駆動機構(CRD)の炉心反応度と出力の制御機能においては、監視パラメータとして、ポンプの流量、CRD軸受け温度、ポンプ回転部又はギアボックス又はモーターの振動数、CRDポンプの吐出圧力が選択されている。以下に、ポンプの流量におけるアクション閾値の設定方法を説明する。
【0059】
図8に、ポンプが運転時の経年変化により性能が低下し、ポンプ流量が減少していく場合を示している。ポンプ流量の通常運転範囲は40-42GPMである。監視パラメータとするポンプ流量の変化量の予測曲線(経年変化の予測曲線)は、測定値からの予測、ポンプ試験の結果、過去データ等から得ることができる。
【0060】
図9は、ポンプの流量と吐出圧力の関係を示すポンプ性能曲線の一例を示す図である。ポンプの運転限界値と設計値と測定値とは、3要素の整合を満たす関係にあり、ポンプの吐出圧力を監視パラメータとして、経年変化の予測曲線を求めることができる。
【0061】
つぎに、保全又は是正措置のアクションに対し開始から終了(機能回復)までにかかる時間をアクションリードタイムとして時間の見積りを行う。ポンプ流量の低下によるアクションとしては、ポンプの検査、接続の確認、バルブの劣化検証、修理が挙げられる。
【0062】
ここでは、図10に示すように、ポンプの点検又は修理作業をアクションとして、アクションリードタイムを見積もる。詳しくは、アクションの各作業の検討や計画を行う時間、資材調達に掛かる時間、実作業時間、作業実施の制約条件(作業許可までに掛かる時間)等を抽出し、整理する。他作業と並行して実施することが可能な項目がある場合は最短時間合計とする。作業の実施に直接寄与する検討又は計画、資材又は役務の調達、実作業、制約条件に掛かる時間はアクションの実施に対し原則不変である。制約条件は作業の経済性向上など効果的なタイミングでアクションを行うことが求められる場合に設定される条件である。
【0063】
図8に戻り、監視パラメータ(ポンプ流量)の経年変化の予測曲線に基づいて、ポンプ流量が設計要求値を下回るタイミングを基準にアクションリードタイムを考慮しアクション閾値を設定する。そして、ポンプ流量の測定値が、アクション閾値に達した際に、保全又は是正措置のアクションを実施する。
【0064】
ここで、保全又は是正措置のアクションの実施制約条件として、プラントの計画停止期間に実作業を行うこと、すなわちプラントの運転スケジュールを考慮して、アクション閾値を設定する場合を、図11により説明する。
【0065】
図11は、同値の設計要求閾値が設定されている2つの管理対象の監視パラメータの時間変化を、ひとつのグラフに示した図である。2つの管理対象の経年変化の予測曲線が設計要求閾値に達する時間は、運転スケジュールにおいて、プラント運転中のタイミングとなる。対象の保全又は是正措置によるプラントの運転停止を抑止するように、保全又は是正措置のアクションの実施制約条件が設定されている場合には、2つの管理対象の経年変化の予測曲線が設計要求閾値に達する時間を含むプラントの運転期間の直前の停止期間で、対象の保全又は是正措置の作業を実施する。
【0066】
そして、プラントの停止期間の開始タイミングからアクションリードタイム分を減算した時刻を求め、この時刻に対応するそれぞれの監視パラメータの経年変化の予測値を、アクション閾値とする。図11では、保全又は是正措置の計画と部材調達に6ヶ月を要するものとして、アクションリードタイムを6ヶ月としている。
上記の処理は、アクション閾値更新部40で実施する。
【0067】
また、図11では、対象の監視パラメータにおける経年変化の予測曲線の変化特性が異なるために、異なるアクション閾値を設定する。
以上により、アクションリードタイムとその他制約条件により監視している設備のアクション閾値を適切に設定することができる。
【0068】
アクション閾値は、上記のように、監視パラメータの設計要求閾値と監視間隔、保全アクションのリードタイミングによって決まるため、設計要求や運転要求、保全方法等の変更により、値を変更する必要がある。
【0069】
このため、本実施形態のプラント機能管理支援装置は、図12に示すフローを繰り返して、アクション閾値を利用したプラント機能要求の継続維持又は管理を行う。
【0070】
ステップS121で、プラント機能管理支援装置は、監視パラメータデータや新たな試験データ等を継続して取得してアクション閾値の継続更新を行う。
【0071】
ステップS122で、プラント機能管理支援装置は、パラメータ判定部20により、監視パラメータがアクション閾値に達しているか否かを判定し、達している場合には(S122のYes)、ステップS123に進む。達していない場合には(S122のNo)、処理を終了する。
【0072】
ステップS123で、プラント機能管理支援装置は、ユーザへの警告と保全又は是正措置の実施に必要なリソース、作業内容、制約条件等のアクション情報を出力、又は、保全工程を開始する。
【0073】
ステップS124で、プラント機能管理支援装置は、実施した保全又は是正措置のアクションの内容及び結果を保全又は是正措置データベースへ記録する。
【0074】
ステップS125で、プラント機能管理支援装置は、監視パラメータに問題がないことを確認する。
本実施形態のプラント機能管理支援装置は、ステップS121からステップS125を繰り返して、アクション閾値を利用したプラント機能要求の継続維持又は管理を行う。
【0075】
上記では、プラント機能管理支援装置は、監視パラメータがアクション閾値に達した際に、保全又は是正措置の実施に係るアクションを行うことを説明したが、プラント性能の急激な変化や機器の故障や故障の予兆がある場合には、ある期間のパラメータ変化量が明らかに増加している(パラメータの変化傾きの急激な変化)等の監視パラメータの異常変化が起きることがある。
【0076】
このため、本実施形態のプラント機能管理支援装置は、監視パラメータの通常と異なる変化を検知するパラメータ変化影響判定部22(図2参照)を設け、監視パラメータの通常と異なる変化を検知した際に、警報を出力する。
【0077】
詳しくは、パラメータ変化影響判定部22は、アクション閾値の更新により再設定されたアクション閾値が、経年変化の予測曲線において、更新する前のアクション閾値に対応する時刻より過去の時刻の値であると判定した際に、監視パラメータの通常と異なる変化を検知したと判定する。
【0078】
パラメータ変化影響判定部22は、また、監視パラメータの時間当たりの変化量(変化の傾き)が許容変化量を超えた際に、監視パラメータの通常と異なる変化を検知したと判定するとともに、判定の許容変化量を、検知を行う監視パラメータの監視目的や必要性に応じ、許容変化量を設定できるようにしてもよい。
【0079】
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明で分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0080】
10 プラント機能管理部
20 パラメータ判定部
30 パラメータ監視部
33 監視パラメータDB
50 設計要求DB
60 設計情報DB
70 入力部
80 通信部
90 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12