(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033677
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】スラリー組成物、導電性組成物および成形体ならびにそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240306BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20240306BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240306BHJP
C08K 5/42 20060101ALI20240306BHJP
C08J 3/05 20060101ALI20240306BHJP
C08J 3/215 20060101ALI20240306BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K7/06
C08K5/09
C08K5/42
C08J3/05 CES
C08J3/215 CEZ
C08K3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137412
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】591061769
【氏名又は名称】ムネカタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(72)【発明者】
【氏名】山本 琢也
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
【Fターム(参考)】
4F070AA13
4F070AA15
4F070AA47
4F070AA57
4F070AC04
4F070AC12
4F070AC50
4F070AD02
4F070AE06
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4F070CA03
4F070CB02
4F070CB15
4F070FA05
4F070FB06
4F070FB07
4F070FC03
4F070FC05
4J002AA01X
4J002AA02X
4J002AA03W
4J002CE00W
4J002CM01W
4J002DA016
4J002EF007
4J002EV237
4J002FA046
4J002FD116
4J002GQ02
4J002HA06
(57)【要約】
【課題】導電性に優れ、かつ、強度が高い成形体を得ることができる導電性組成物の提供。
【解決手段】カーボン繊維と、π共役系高分子と、前記π共役系高分子と反応して導電性を発現させる、有機酸基を有するドーパントと、樹脂Aと、水と、を配合してなる、前記水の配合比率が30~60質量%である、スラリー組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボン繊維と、
π共役系高分子と、
前記π共役系高分子と反応して導電性を発現させる、有機酸基を有するドーパントと、
樹脂Aと、
水と、
を配合してなる、前記水の配合比率が30~60質量%である、スラリー組成物。
【請求項2】
カーボン繊維と、
π共役系高分子とそれと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパントとの反応生成物と、
樹脂Xと、
を含む、導電性組成物。
【請求項3】
前記カーボン繊維と前記樹脂Xとの質量比が1:1~1000である、請求項2に記載の導電性組成物。
【請求項4】
カーボン繊維と、
π共役系高分子とそれと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパントとの反応生成物と、
樹脂Xと、
を含む、成形体。
【請求項5】
前記カーボン繊維と前記樹脂Xとの質量比が1:1~1000である、請求項4に記載の成形体。
【請求項6】
カーボン繊維と、
π共役系高分子と、
前記π共役系高分子と反応して導電性を発現させる、有機酸基を有するドーパントと、
粒状の樹脂Aと、
水と、
を配合してなる混成物を撹拌し、請求項1に記載のスラリー組成物を得る撹拌工程と、
前記スラリー組成物と樹脂Bとを混合する混合工程と、
を備え、請求項2または3に記載の導電性組成物が得られる、導電性組成物の製造方法。
【請求項7】
前記撹拌工程において、前記混成物を自転公転撹拌して前記スラリー組成物を得る、請求項6に記載の導電性組成物の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程が、
前記スラリー組成物を造粒し、前記樹脂Bと造粒された前記スラリー組成物とを混合する工程である、請求項6または7に記載の導電性組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項2または3に記載の導電性組成物を成形して、請求項4に記載の成形体を得る成形工程を備える、成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラリー組成物、導電性組成物および成形体ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性を備える組成物が提案されている。
例えば特許文献1には、ポリオレフィン樹脂(a)と、カーボンナノ構造体(b)と、熱可塑性エラストマー(c)とを配合してなる導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物であって、ポリオレフィン樹脂(a)、カーボンナノ構造体(b)および熱可塑性エラストマー(c)の合計に対して、ポリオレフィン樹脂(a)が43~89質量%であり、カーボンナノ構造体(b)が1~7質量%であり、熱可塑性エラストマー(c)が10~50質量%であることを特徴とする導電性部品用ポリオレフィン系樹脂組成物が記載されている。そして、このような組成物は流動性にも優れ、優れた導電性を有しつつ、かつ、さらに優れた機械強度、特に、引張強度および耐衝撃強度に優れた導電性部品を提供することが可能であると記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、平均粒子径が1μm以上700μm以下である樹脂粒子と、繊維状炭素ナノ構造体と、分散媒とを混合して混合液を得る混合工程と、前記混合液を、湿式メディアレス分散機を使用し、混合液にかかる圧力(ゲージ圧)が5MPa以下の条件下で分散処理してスラリーを得る分散工程と、を含む、スラリーの製造方法が記載されている。そして、このようなスラリーの製造方法によれば、繊維状炭素ナノ構造体が良好に分散したスラリーを容易に製造することができると記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、樹脂成形体を製造する為の原料である樹脂材料粒子において、前記樹脂材料粒子の表面からその内側に向かって導電性ナノ材料を分散状に混合した分散混合層が前記樹脂材料粒子の全表面又は一部表面に少なくとも形成され、前記分散混合層においては前記樹脂材料中に前記導電性ナノ材料が分散混合され、前記分散混合層の全体が導電層を形成することを特徴とする複合樹脂材料粒子が記載されている。そして、このような複合樹脂材料粒子によれば、導電性ナノ材料が分散混合層に強固に埋め込まれて導電性を有する分散混合層を形成するので、導電性ナノ材料が強固に複合樹脂材料粒子の表面から内部に固定され、剥離することがないと記載されている。
【0005】
さらに、特許文献4には、(A)導電性繊維状フィラー、(B)導電性樹脂、および(C)カルボン酸、スルホン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、およびそれらの酸の塩よりなる基の群から選ばれた少なくとも一種類の基を含有する有機高分子樹脂である非導電性マトリックスからなる組成物であって、該組成物の組成が特定の含有率であることを特徴とする導電性樹脂組成物が記載されている。そして、このような導電性樹脂組成物は導電性および透明性の優れた樹脂組成物であり、この導電性組成物を非導電性成形物の表面に薄膜として積層することにより、表面抵抗値が低く、かつ透明性あるいは表面光沢の高い成形体を提供できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-076641号公報
【特許文献2】国際公開番号2018/066458号公報
【特許文献3】特開2010-189621号公報
【特許文献4】特開2004-210843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
導電性に優れ、かつ強度が高い成形体を得ることができる導電性組成物が求められている。
【0008】
本発明は、所定の成分を含み、それらの相乗効果によって、導電性に優れ、かつ強度が高い成形体を得ることができる導電性組成物を提供する。また、その導電性組成物を得るために用いるスラリー組成物を提供する。また、その導電性組成物から得られる成形体を提供する。さらに、それらスラリー組成物、導電性組成物および成形体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は鋭意検討し、上記課題を解決する方法を見出し、本発明を完成させた。
本発明は次の(1)~(9)である。
(1)カーボン繊維と、
π共役系高分子と、
前記π共役系高分子と反応して導電性を発現させる、有機酸基を有するドーパントと、
樹脂Aと、
水と、
を配合してなる、前記水の配合比率が30~60質量%である、スラリー組成物。
(2)カーボン繊維と、
π共役系高分子とそれと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパントとの反応生成物と、
樹脂Xと、
を含む、導電性組成物。
(3)前記カーボン繊維と前記樹脂Xとの質量比が1:1~1000である、上記(2)に記載の導電性組成物。
(4)カーボン繊維と、
π共役系高分子とそれと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパントとの反応生成物と、
樹脂Xと、
を含む、成形体。
(5)前記カーボン繊維と前記樹脂Xとの質量比が1:1~1000である、上記(4)に記載の成形体。
(6)カーボン繊維と、
π共役系高分子と、
前記π共役系高分子と反応して導電性を発現させる、有機酸基を有するドーパントと、
粒状の樹脂Aと、
水と、
を配合してなる混成物を撹拌し、上記(1)に記載のスラリー組成物を得る撹拌工程と、
前記スラリー組成物と樹脂Bとを混合する混合工程と、
を備え、上記(2)または(3)に記載の導電性組成物が得られる、導電性組成物の製造方法。
(7)前記撹拌工程において、前記混成物を自転公転撹拌して前記スラリー組成物を得る、上記(6)に記載の導電性組成物の製造方法。
(8)前記混合工程が、
前記スラリー組成物を造粒し、前記樹脂Bと造粒された前記スラリー組成物とを混合する工程である、上記(6)または(7)に記載の導電性組成物の製造方法。
(9)上記(2)または(3)に記載の導電性組成物を成形して、上記(4)に記載の成形体を得る成形工程を備える、成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所定の成分を含み、それらの相乗効果によって、導電性に優れ、かつ強度が高い成形体を得ることができる導電性組成物を提供することができる。また、その導電性組成物を得るために用いるスラリー組成物を提供することができる。また、その導電性組成物から得られる成形体を提供することができる。さらに、それらスラリー組成物、導電性組成物および成形体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1のスラリー(1)を乾燥させた後、走査型電子顕微鏡を用いて30,000倍で観察して得た電子顕微鏡写真(SEM像)である。
【
図2】実施例1のテストピース(1)について光学顕微鏡を用いて5,000倍で観察して得た写真である。
【
図3】比較例1のスラリー(1)を乾燥させた後、走査型電子顕微鏡を用いて5,000倍で観察して得た電子顕微鏡写真(SEM像)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明のスラリー組成物]
本発明のスラリー組成物について説明する。
本発明のスラリー組成物は、カーボン繊維と、π共役系高分子と、前記π共役系高分子と反応して導電性を発現させる、有機酸基を有するドーパントと、樹脂Aと、水と、を配合してなる、前記水の配合比率が30~60質量%である、スラリー組成物である。
【0013】
<カーボン繊維>
本発明のスラリー組成物が含むカーボン繊維は、カーボンを主成分とする繊維状のものを意味する。
【0014】
カーボン繊維として、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維、カーボンナノファイバーが挙げられる。
【0015】
ここで単層カーボンナノチューブとは、カーボンを主成分とし、パイプ状であり、断面直径(外径)が0.5~5nm、好ましくは1~4nmであって、長さが1~30μm、好ましくは3~8μmの繊維状のものである。
単層カーボンナノチューブのアスペクト比(長さ/断面直径)は500~5000であることが好ましく、2000~3000であることがより好ましい。
【0016】
また、多層カーボンナノチューブとは、カーボンを主成分とし、パイプ状であり、断面直径(外径)が6~100nm、好ましくは8~30nmであって、長さが1~30μm、好ましくは3~15μmの繊維状のものである。
多層カーボンナノチューブのアスペクト比(長さ/断面直径)は50~350であることが好ましく、100~200であることがより好ましい。
【0017】
また、気相法炭素繊維とは、気相法で合成された繊維状黒鉛というものである。
気相法炭素繊維は断面直径(外径)が50~500nmであることが好ましく、100~200nmであることがより好ましい。また、長さは1~30μmであることが好ましく、3~10μmであることがより好ましい。
気相法炭素繊維のアスペクト比(長さ/断面直径)は10~100であることが好ましく、20~60であることがより好ましい。
【0018】
また、カーボンナノファイバーとは、カーボンを主成分とし、断面直径(外径)が100~1000nm、好ましくは300~700nmであって、長さが1~50μm、好ましくは5~15μmの繊維状のものである。
カーボンナノファイバーのアスペクト比(長さ/断面直径)は5~100であることが好ましく、5~30であることがより好ましい。
【0019】
本発明のスラリー組成物は、上記のようなカーボン繊維を配合してなる。カーボン繊維の全配合物に占める配合比率は、0.5~35質量%とすることが好ましく、1~20質量%とすることがより好ましく、2~10質量%とすることがさらに好ましい。
カーボン繊維の配合率がこのような範囲である本発明のスラリー組成物は、造粒性に優れる。
【0020】
<π共役系高分子>
本発明のスラリー組成物が含むπ共役系高分子は、後述する、π共役系高分子と反応して導電性を発現させる、有機酸基を有するドーパントをドーピングすることで導電性を備える物質を発現するものである。
【0021】
本発明のスラリー組成物が含むπ共役系高分子として、具体的には、ポリチオフェン、ポリセレノフェン、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリチオフェンビニレン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリ3,4-エチレンジオキシチオフェン、ポリ3-メトキシチオフェン、ポリ3,4-ジメトキシチオフェン、ポリ3-ヘキシルチオフェン、ポリ3-メチルピロール、ポリ3-メチルチオフェン、ポリo-トルイジン、ポリo-アニシジン、ポリo-エチルアニリン、ポリsec-ブチルアニリン等が挙げられる。
【0022】
本発明のスラリー組成物が含むπ共役系高分子は、非自己ドープ型である。
非自己ドープ型であるπ共役系高分子は、例えば、イオン性基(スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、またはこれらの塩である基のような陰イオン基等)を実質的に有さないπ共役系高分子であることが好ましい。ここで、イオン性基を実質的に有さないπ共役系高分子とは、π共役系高分子中において、イオン性基を有する繰り返し単位の含有率が、全繰り返し単位の数に対して0~10モル%(好ましくは0~5モル%、より好ましくは0~1モル%、さらに好ましくは0モル%以上0.1モル%未満)であるπ共役系高分子を意図する。
【0023】
π共役系高分子の数平均分子量は10000~300000であることが好ましい。この数平均分子量は、ドープ成分を脱離させた後にπ共役系高分子骨格が可溶となる溶剤を用いてGPCで測定した値であり、ドープ脱離行程(アルカリ処理や電気的分解等)の時点でのπ共役系高分子の分解等も包括された参考値である。
【0024】
本発明のスラリー組成物は、上記のようなπ共役系高分子を配合してなる。π共役系高分子の全配合物に占める配合比率は、1~35質量%とすることが好ましく、4~20質量%とすることがより好ましく、7~11質量%とすることがさらに好ましい。
π共役系高分子の配合率がこのような範囲である本発明のスラリー組成物は、造粒性に優れる。
【0025】
<ドーパント>
本発明のスラリー組成物が含むドーパントは、前記π共役系高分子と反応して導電性を発現させるものであって、有機酸基を有するものである。
本発明のスラリー組成物が含む、前記π共役系高分子と反応して導電性を発現させる、有機酸基を有するドーパントを、以下では「ドーパントY」ともいう。
【0026】
ドーパントYは低分子(例えば分子量1500以下の分子)であっても高分子(例えば分子量1500超の分子)であってもよく、低分子であることが好ましい。
【0027】
ドーパントYとして、有機カルボン酸が挙げられる。有機カルボン酸としては、脂肪族、芳香族、環状脂肪族等にカルボキシ基を一つまたは二つ以上を含むものを使用できる。例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、マレイン酸、フマル酸、マロン酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、コハク酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ニトロ酢酸、トリフェニル酢酸等が挙げられる。
【0028】
また、ドーパントYとして、有機スルホン酸が挙げられる。具体的には、アルキル置換有機スルホン酸イオン類(メタンスルホン酸およびドデシルスルホン酸等)、環状スルホン酸イオン類(カンファースルホン酸イオン等)、アルキル置換または無置換のベンゼンモノまたはジスルホン酸イオン類(ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸およびベンゼンジスルホン酸等)、スルホン酸基を1~4個有するナフタレンスルホン酸のアルキル置換イオン類または無置換イオン類(2-ナフタレンスルホン酸および1,7-ナフタレンジスルホン酸等)、アントラセンスルホン酸イオン、アントラキノンスルホン酸イオン、アルキル置換または無置換のビフェニルスルホン酸イオン類(アルキルビフェニルスルホン酸およびビフェニルジスルホン酸等)、置換または無置換の芳香族高分子スルホン酸イオン類(ポリスチレンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合体等)、スルホこはく酸エステル類(ポリオキシエチレンアルキルスルホこはく酸およびジ-2-エチルヘキシルスルホこはく酸等)等、が挙げられる。
【0029】
本発明のスラリー組成物は、上記のようなドーパントYを配合してなる。ドーパントYの全配合物に占める配合比率は、3~40質量%とすることが好ましく、8~25質量%とすることがより好ましく、2~18質量%とすることがさらに好ましい。
ドーパントYの配合率がこのような範囲である本発明のスラリー組成物は、造粒性に優れる。
【0030】
ドーパントYと前述のπ共役系高分子とは、イオン結合することが好ましい。例えばドーパントYがドデシルベンゼンスルホン酸であり、π共役系高分子がポリアニリンである場合、これらはイオン結合するものと考えられる。
ドーパントYとπ共役系高分子とが反応すると、それらの反応生成物が発生する。その反応生成物は導電性を備える。
【0031】
ドーパントYおよびπ共役系高分子の反応基の数から、これらが過不足なく反応する量を算出し、その量に基づいて、これらの配合率の比を決定することが好ましい。
例えばドーパントYがドデシルベンゼンスルホン酸であり、π共役系高分子がポリアニリンである場合、ドーパントYとπ共役系高分子との配合率の質量比は、5:2~5:4とすることが好ましく、5:2.5~5:3.5とすることがより好ましく、5:3とすることがさらに好ましい。
ただし、ドーパントYとπ共役系高分子とは、本発明のスラリー組成物内において、各々の全てが反応しているわけではなく、一部が反応した平衡状態(または平衡状態に至る途中の状態)になっていると考えられる。
つまり、本発明のスラリー組成物は、ドーパントYとπ共役系高分子との反応生成物の他、単独のドーパントYおよび/または単独のπ共役系高分子を含むと考えられる。
【0032】
<樹脂A>
本発明のスラリー組成物が含む樹脂Aは、熱硬化性樹脂(硬化前の粒子状のフェノール樹脂等)であってよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
樹脂Aは、π共役系高分子、およびドーパントYとπ共役系高分子とが反応してなる反応生成物には該当しない樹脂である。
【0033】
樹脂Aは、イオン性基(スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、またはこれらの塩である基のような陰イオン基等)を実質的に有さないことも好ましい。ここで、イオン性基を実質的に有さない樹脂Aとは、樹脂A中において、イオン性基の含有率が、全繰り返し単位の数に対して0~5モル%(好ましくは0~0.5モル%、より好ましくは0モル%以上0.1モル%未満、さらに好ましくは0モル%以上0.05モル%未満)である樹脂Aを意図する。
【0034】
樹脂Aとして用いることができる熱可塑性樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル-スチレン樹脂(AS樹脂)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、グラスファイバー強化ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、環状ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、セルロースエステル等のセルロース誘導体やこれらの共重合体等が挙げられる。
【0035】
樹脂Aとして、2種類以上の熱可塑性樹脂を含んでもよい。
【0036】
樹脂Aは、前述のπ共役系高分子の熱分解温度よりも低い融点を備えるものであることが好ましい。
例えばπ共役系高分子がポリアニリンである場合、ポリアニリンの熱分解温度は250℃程度であるため、樹脂Aは融点が250℃以下のものであることが好ましい。
なお、ここでいう熱分解温度はJIS K7120によって決定される温度をいう。
【0037】
樹脂Aは粒状であることが好ましい。また、その粒の大きさ(粒径)は1~1000μmであることが好ましく、5~800μmであることがより好ましい。
その粒の平均粒径は、5~800μmであることが好ましく、5~700μmであることがより好ましい。
ここで樹脂Aの平均粒径は、レーザー回折・散乱式粒子径測定で求められる体積基準の累積粒度分布におけるD50の値を意味するものとする。
【0038】
本発明のスラリー組成物は、上記のような樹脂Aを配合してなる。樹脂Aの全配合物に占める配合比率は、5~55質量%とすることが好ましく、15~40質量%とすることがより好ましく、20~35質量%とすることがさらに好ましい。
樹脂Aの配合率がこのような範囲である本発明のスラリー組成物は、造粒性に優れる。
【0039】
<水>
本発明のスラリー組成物は水を含む。
本発明のスラリー組成物における水の全配合物に占める配合比率は30~60質量%であり、32~55質量%であることが好ましく、34~50質量%であることがさらに好ましい。
水の配合率がこのような範囲である本発明のスラリー組成物は、造粒性に優れる。
【0040】
<その他>
本発明のスラリー組成物は、上記のように、カーボン繊維と、π共役系高分子と、ドーパントYと、樹脂Aと、水と、を配合してなる。
本発明のスラリー組成物は、その他の成分として有機溶媒、イオン性液体等を含んでもよい。
【0041】
本発明のスラリー組成物は、その他の成分として、ポリフェノールを含むことが好ましい。この場合、特にカーボン繊維がより再凝集し難くなる傾向があり、その結果、本発明のスラリー組成物の分散性がより高くなる傾向がある。
【0042】
本発明のスラリー組成物における、有機溶媒、イオン性液体、および、ポリフェノールの含有率は、スラリー組成物の全質量に対して、それぞれ独立に、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、それぞれ独立に0質量%以上である。
本発明のスラリー組成物におけるその他の成分の合計の含有率はスラリー組成物の全質量に対して、5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
本発明のスラリー組成物は、有機溶媒、イオン性液体を含まないことも好ましい。
【0043】
このような本発明のスラリー組成物は、各成分が十分に分散しており、分散性が高い。この要因は必ずしも明らかではないが、ドーパントYとπ共役系高分子との反応生成物の一部または全部が水に溶け、それがカーボン繊維を被覆するためにカーボン繊維が再凝集し難くなったためと、本発明者は推定している。また、単独のドーパントYもカーボン繊維の分散材として作用し、カーボン繊維の分散および再凝集の防止に寄与しているとも推定している。
【0044】
[本発明の導電性組成物]
本発明の導電性組成物について説明する。
本発明の導電性組成物は、カーボン繊維と、π共役系高分子とそれと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパントとの反応生成物と、樹脂Xと、を含む、導電性組成物である。
【0045】
<カーボン繊維>
本発明の導電性組成物は、前述の本発明のスラリー組成物が含むカーボン繊維と同じカーボン繊維を含む。
【0046】
本発明の導電性組成物におけるカーボン繊維の含有率は、例えば0.1~37質量%であり、0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.15~4.0質量%であることがより好ましく、0.2~3.0質量%であることがさらに好ましい。
カーボン繊維の含有率がこのような範囲である本発明の導電性組成物から、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い成形体を得ることができる。
【0047】
なお、カーボン繊維の含有率は直接灰化法(JIS K7250)で測定して得た値を意味するものとする。
【0048】
<π共役系高分子とそれと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパントとの反応生成物>
本発明の導電性組成物は、π共役系高分子と、それと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパント(ドーパントY)と、の反応生成物を含む。このような反応生成物を、以下では「反応生成物Z」ともいう。
ここでπ共役系高分子およびドーパントYの各々は、前述の本発明のスラリー組成物が含むπ共役系高分子およびドーパントYと同じものであってよい。
【0049】
π共役系高分子とドーパントYとは化学結合する。例えばドーパントYがドデシルベンゼンスルホン酸であり、π共役系高分子がポリアニリンである場合、これらはイオン結合すると考えられる。
ただし、本発明の導電性組成物内において、π共役系高分子とドーパントYとは、全てが反応しているわけではなく、一部が反応した平衡状態(または平衡状態に至る途中の状態)になっていると考えられる。
したがって、本発明の導電性組成物は、反応生成物Zの他、単独のドーパントYおよび/または単独のπ共役系高分子を含むと考えられる。
【0050】
本発明の導電性組成物における反応生成物Zの含有率は、例えば0.4~30質量%であり、0.5~16.0質量%であることが好ましく、1.0~12.0質量%であることがより好ましく、2.0~9.0質量%であることがさらに好ましい。
反応生成物Zの含有率がこのような範囲である本発明の導電性組成物から、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い成形体を得ることができる。
【0051】
なお、反応生成物Zの含有率は、本発明の導電性組成物から反応生成物Zを除く他の成分を分離し、各成分の含有量を求める事で得ることが出来る。
反応生成物Zの含有率 =(本発明の導電性組成物-他の成分)/本発明の導電性組成物
【0052】
本発明の導電性組成物におけるπ共役系高分子の含有率は、例えば15質量%以下であり、10質量%以下であることが好ましく、6質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
π共役系高分子の含有率がこのような範囲である本発明の導電性組成物から、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い成形体を得ることができる。
【0053】
なお、π共役系高分子の含有率は、本発明の導電性組成物を粉砕した後、ソックスレー抽出法で測定して得た値を意味するものとする。ここでソックスレー抽出法において用いる溶媒は樹脂Xを溶解しないものであることが好ましい。樹脂Xが当該溶媒に溶解するものである場合、再結晶法によって予め樹脂Xを除去する。
具体的には、π共役系高分子がポリアニリンの場合、N-メチルピロリドンを溶媒とし、ソックスレー抽出法を用いることでπ共役系高分子を抽出し、公知の乾燥法を用いて溶媒を除去した後、質量を測定することにより、含有率を求める事ができる。
また、導電性組成物にドーパントYが含まれる場合は、ソックスレー抽出法を実施する前に、粉砕された導電性組成物からドーパントYを除去する処理を実施する。導電性組成物からドーパントYを除去する処理としては、例えば、水やアルコール等を溶媒とし、ソックスレー抽出法を用いることで導電性組成物からドーパントYを抽出して除去する方法が挙げられる。
【0054】
本発明の導電性組成物におけるドーパントYの含有率は、例えば20質量%以下であり、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
ドーパントYの含有率がこのような範囲である本発明の導電性組成物から、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い成形体を得ることができる。
【0055】
なお、ドーパントYの含有率は、ソックスレー抽出法で測定して得た値を意味するものとする。
具体的には、水やアルコール等を溶媒とし、ソックスレー抽出法を用いることでドーパントYを抽出し、公知の乾燥法を用いて水を除去した後、質量を測定することにより、含有率を求める事ができる。
【0056】
本発明の導電性組成物における、反応生成物Z、ドーパントY(単独のドーパントY)、π共役系高分子(単独のπ共役系高分子)の合計含有率は、の含有率は、例えば0.4~30質量%であり、0.5~16.0質量%であることが好ましく、1.0~12.0質量%であることがより好ましく、2.0~9.0質量%であることがさらに好ましい。反応生成物Zの含有率がこのような範囲である本発明の導電性組成物から、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い成形体を得ることができる。
【0057】
<樹脂X>
本発明の導電性組成物は樹脂Xを含む。
樹脂Xは、反応生成物Zおよびπ共役系高分子には該当しない樹脂である。
樹脂Xは、熱硬化性樹脂(硬化前の粒子状のフェノール樹脂等)であってよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
樹脂Xは、前述の本発明のスラリー組成物が含む樹脂Aと同じ熱可塑性樹脂であってよい。
【0058】
樹脂Xとして、2種類以上の熱可塑性樹脂を含んでもよい。
ただし、樹脂Xは単一種類の熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0059】
本発明の導電性組成物における樹脂Xの含有率は、例えば35~99.5質量%であり、60~99質量%であることが好ましく、70~97質量%であることがより好ましく、80~95質量%であることがさらに好ましい。
樹脂Xの含有率がこのような範囲である本発明の導電性組成物から、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い成形体を得ることができる。
【0060】
なお、樹脂Xの含有率は溶解再沈殿法で測定して得た値を意味するものとする。
具体的には、本発明の導電性組成物に含まれる樹脂Xに対して良溶媒になりうる溶媒を直接混合し、不溶部をフィルターを用いてろ取した溶液を回収した後、溶液と樹脂Xに対して貧溶媒になりうる溶媒を直接混合することにより、樹脂Xが析出する。析出した樹脂Xをフィルターを用いて、ろ取した後、公知の乾燥方法を用いて乾燥後、質量を測定することで樹脂Xの含有率を得ることができる。
【0061】
前述のカーボン繊維と樹脂Xとの質量比は1:1~1000であることが好ましく、1:5~750であることがより好ましく、1:30~500であることがさらに好ましく、1:50~400であることが特に好ましい。
この場合、導電性に優れ、かつ、強度が高い成形体を得ることができる本発明の導電性組成物を得ることができる。
【0062】
<溶媒>
本発明の導電性組成物は、水や有機溶媒などの溶媒を含んでもよいが、その含有率が1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
【0063】
なお、溶媒の含有率は乾燥減量(化学製品の減量及び残分試験方法 JIS K0067)にて測定して得た値を意味するものとする。
【0064】
<その他>
本発明の導電性組成物は、上記のように、カーボン繊維と、反応生成物Zと、樹脂Xと、を含む。
本発明の導電性組成物はその他の成分を含んでもよく、その他の成分としては、例えば、本発明のスラリー組成物が含み得るその他の成分(イオン性液体、または、ポリフェノール等)と同一のものを含んでもよい。
本発明の導電性組成物における、イオン性液体、および、ポリフェノールの含有率は、導電性組成物の全質量に対して、それぞれ独立に、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、それぞれ独立に0質量%以上である。
その他の成分の合計の含有率は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
このようなその他の成分の含有率は該当物質を溶解する溶媒で抽出、分離することで求める。
【0065】
[本発明の成形体]
本発明の成形体について説明する。
本発明の成形体は、カーボン繊維と、π共役系高分子とそれと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパントとの反応生成物と、樹脂Xと、を含む、成形体である。
【0066】
本発明の成形体は、本発明の導電性組成物を例えば型に入れ、加熱等することで得ることができる。
【0067】
<カーボン繊維>
本発明の成形体は、前述の本発明のスラリー組成物および本発明の導電性組成物が含むカーボン繊維と同じカーボン繊維を含む。
【0068】
本発明の成形体におけるカーボン繊維の含有率は、例えば0.1~37質量%であり、0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.15~4.0質量%であることがより好ましく、0.2~3.0質量%であることがさらに好ましい。
カーボン繊維の含有率がこのような範囲である本発明の成形体はより導電性に優れ、かつ、より強度が高い。
【0069】
なお、カーボン繊維の含有率は直接灰化法(JIS K7250)で測定して得た値を意味するものとする。
【0070】
<π共役系高分子とそれと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパントとの反応生成物>
本発明の成形体は、π共役系高分子と、それと反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパント(ドーパントY)と、の反応生成物(反応生成物Z)を含む。
ここでπ共役系高分子およびドーパントYの各々は、前述の本発明のスラリー組成物が含むπ共役系高分子およびドーパントYと同じものであってよい。
【0071】
π共役系高分子とドーパントYとは化学結合する。例えばドーパントYがドデシルベンゼンスルホン酸であり、π共役系高分子がポリアニリンである場合、これらはイオン結合すると考えられる。
ただし、本発明の成形体内において、π共役系高分子とドーパントYとは、全てが反応しているわけではなく、一部が反応した平衡状態(または平衡状態に至る途中の状態)になっていると考えられる。
したがって、本発明の成形体は、反応生成物Zの他、単独のドーパントYおよび/または単独のπ共役系高分子を含むと考えられる。
【0072】
本発明の成形体における反応生成物Zの含有率は、例えば0.4~30質量%であり、0.5~16.0質量%であることが好ましく、1.0~12.0質量%であることがより好ましく、2.0~9.0質量%であることがさらに好ましい。
反応生成物Zの含有率がこのような範囲である本発明の成形体は、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い。
【0073】
なお、反応生成物Zの含有率は、本発明の成形体から反応生成物Zを除く他の成分を分離し、各成分の含有量を求める事で得ることが出来る。
反応生成物Zの含有率=(本発明の成形体-他の成分)/本発明の成形体
【0074】
本発明の成形体におけるπ共役系高分子の含有率は、例えば15質量%以下であり、10質量%以下であってもよく、6質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.2質量%以下であることが特に好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
π共役系高分子の含有率がこのような範囲である本発明の成形体は、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い。
【0075】
なお、π共役系高分子の含有率は、本発明の成形体を粉砕した後、ソックスレー抽出法で測定して得た値を意味するものとする。ここでソックスレー抽出法において用いる溶媒は樹脂Xを溶解しないものであることが好ましい。樹脂Xが当該溶媒に溶解するものである場合、再結晶法によって予め樹脂Xを除去する。
具体的には、π共役系高分子がポリアニリンの場合、N-メチルピロリドンを溶媒とし、ソックスレー抽出法を用いることでπ共役系高分子を抽出し、公知の乾燥法を用いて溶媒を除去した後、質量を測定することにより、含有率を求める事ができる。
また、成形体にドーパントYが含まれる場合は、ソックスレー抽出法を実施する前に、粉砕された成形体からドーパントYを除去する処理を実施する。成形体からドーパントYを除去する処理としては、例えば、水やアルコール等を溶媒とし、ソックスレー抽出法を用いることで成形体からドーパントYを抽出して除去する方法が挙げられる。
【0076】
本発明の成形体におけるドーパントYの含有率は、例えば20質量%以下であり、15質量%以下であってもよく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがよりに好ましく、1.0質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.2質量%以下であることが特に好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
ドーパントYの含有率がこのような範囲である本発明の成形体は、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い。
【0077】
なお、ドーパントYの含有率はソックスレー抽出法で測定して得た値を意味するものとする。
具体的には、水やアルコール等を溶媒とし、ソックスレー抽出法を用いることでドーパントYを抽出し、公知の乾燥法を用いて水を除去した後、質量を測定することにより、含有率を求める事ができる。
【0078】
本発明の成形体における、反応生成物Z、ドーパントY(単独のドーパントY)、π共役系高分子(単独のπ共役系高分子)の合計含有率は、の含有率は、例えば0.4~30質量%であり、0.5~16.0質量%であることが好ましく、1.0~12.0質量%であることがより好ましく、2.0~9.0質量%であることがさらに好ましい。反応生成物Zの含有率がこのような範囲である本発明の成形体は、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い。
【0079】
<樹脂X>
本発明の成形体は樹脂Xを含む。
樹脂Xは、反応生成物Zおよびπ共役系高分子には該当しない樹脂である。
樹脂Xは、熱硬化性樹脂(硬化前の粒子状のフェノール樹脂等)であってよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
樹脂Xは、前述の本発明のスラリー組成物が含む樹脂Aと同じ熱可塑性樹脂であってよい。
【0080】
樹脂Xとして、2種類以上の熱可塑性樹脂を含んでもよい。
ただし、樹脂Xは単一種類の熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0081】
本発明の成形体における樹脂Xの含有率は、例えば35~99.5質量%であり、60~99質量%であることが好ましく、70~97質量%であることがより好ましく、80~95質量%であることがさらに好ましい。
樹脂Xの含有率がこのような範囲である本発明の成形体は、より導電性に優れ、かつ、より強度が高い。
【0082】
なお、樹脂Xの含有率は溶解再沈殿法で測定して得た値を意味するものとする。
具体的には、本発明の成形体に含まれる樹脂Xに対して良溶媒になりうる溶媒を直接混合し、不溶部をフィルターを用いてろ取した溶液を回収した後、溶液と樹脂Xに対して貧溶媒になりうる溶媒を直接混合することにより、樹脂Xが析出する。析出した樹脂Xをフィルターを用いて、ろ取した後、公知の乾燥方法を用いて乾燥後、質量を測定することで樹脂Xの含有率を得ることができる。
【0083】
前述のカーボン繊維と樹脂Xとの質量比は1:1~1000であることが好ましく、1:5~750であることがより好ましく、1:30~500であることがよりさらに好ましく、1:50~400であることが特に好ましい。
この場合、本発明の成形体は、より導電性に優れ、かつ、強度が高い。
【0084】
<溶媒>
本発明の成形体は、水や有機溶媒などの溶媒を含んでもよいが、その含有率が1質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
【0085】
なお、溶媒の含有率は乾燥減量(化学製品の減量及び残分試験方法 JIS K0067)にて測定して得た値を意味するものとする。
【0086】
<その他>
本発明の成形体は、上記のように、カーボン繊維と、反応生成物Zと、樹脂Xと、を含む。
本発明の成形体はその他の成分を含んでもよく、その他の成分として、例えば、本発明のスラリー組成物が含み得るその他の成分(イオン性液体、または、ポリフェノール等)と同一のものを含んでもよい。
本発明の成形体における、イオン性液体、および、ポリフェノールの含有率は、導電性組成物の全質量に対して、それぞれ独立に、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、それぞれ独立に0質量%以上である。
その他の成分の合計の含有率は10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。上記含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
【0087】
[本発明の導電性組成物の製造方法]
本発明の導電性組成物の製造方法について説明する。
本発明の導電性組成物の製造方法は、カーボン繊維と、π共役系高分子と、前記π共役系高分子と反応して導電性を発現させる、有機酸基を有するドーパントと、粒状の樹脂Aと、水と、を配合してなる混成物を撹拌し、本発明のスラリー組成物を得る撹拌工程と、前記スラリー組成物と樹脂Bとを混合する混合工程と、を備え、本発明の導電性組成物が得られる、導電性組成物の製造方法である。
【0088】
<撹拌工程>
本発明の導電性組成物の製造方法が備える撹拌工程について説明する。
本発明の導電性組成物は、前述の本発明のスラリー組成物が含むカーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントYおよび樹脂Aと同じものを用意し、これらを水と共に攪拌容器(攪拌装置に付属のものであることが好ましい。以下同様の方法で攪拌することが好ましい)へ装入する。
各成分の配合比率は、本発明のスラリー組成物における各成分の配合比率と同じとすることが好ましい。
そして、撹拌して、本発明のスラリー組成物を得る。
ここで撹拌は、自転公転撹拌であることが好ましい。
【0089】
自転公転撹拌は、材料を入れた容器を傾け、高速で自転と公転(太陽の周りを惑星が回るような動き、惑星運動、遊星運動)をさせることで発生した遠心力による材料対流とせん断応力で混合する方式の撹拌である。
自転公転攪拌機としては、従来公知のものを用いることができる。自転公転攪拌機は、自転公転式ミキサー、遊星式撹拌機、または撹拌脱泡機と呼ばれる場合もある。
【0090】
このような自転公転撹拌によると、材料の発熱を抑制しつつ、短時間で各成分の分散性を高めることができることを、本発明者は見出した。例えばホモジナイザー(超音波ホモジナイザーや高圧ホモジナイザー等)を用いた撹拌、ボールミルを用いた撹拌、メディアレスのホモミキサーを用いた撹拌、ディスパーを用いた撹拌などに供すると、発熱によって材料が変質したり、負荷が高いために材料が損傷したり、乾燥後に再凝集が発生したりすることを、本発明者は見出した。
【0091】
<混合工程>
本発明の導電性組成物の製造方法が備える混合工程について説明する。
混合工程では、攪拌工程によって得られた本発明のスラリー組成物と、樹脂Bとを混合し、本発明の導電性組成物を得る。
【0092】
例えば、スラリー組成物を乾燥させ、粉状とした後、樹脂Bと共に2軸混練機へ装入し、十分に混合することで本発明の導電性組成物を得ることができる。
【0093】
混合工程では、撹拌工程によって得られた本発明のスラリー組成物を造粒し、造粒物を得た後、その造粒物と樹脂Bとを混合することが好ましい。
粉状の材料ではなく、造粒物を樹脂Bと混合するので作業性に優れる。また、工場等の汚染を抑制することができる。
【0094】
例えば、本発明のスラリー組成物を押出造粒機に装入し、適切な条件で押出すことで、造粒物(円柱状顆粒等)を得ることができる。ここで、押出造粒機に装入する前の本発明のスラリー組成物における水分含有率を30~60質量%に調整することが好ましい。
【0095】
また、例えば本発明のスラリー組成物を乾燥させて粉状とした後、水分含有率が15~35質量%となるように水を加え、その後、押出造粒機に装入して適切な条件で押出すことで、造粒物(円柱状顆粒等)を得てもよい。
【0096】
造粒物を得るために押出造粒機を用いた押出造粒法を適用することが好ましい。その他、撹拌造粒法、流動層造粒法、転動造粒法等を適用することができる。
【0097】
スラリー組成物を樹脂Bと混合する前に乾燥させることが好ましい。スラリー組成物から造粒体を得た場合も、造粒物を樹脂Bと混合する前に乾燥させることが好ましい。
スラリー組成物を乾燥させ、スラリー組成物の水分含有率を0.5質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以下とすることがより好ましく、0.1質量%以下とすることがさらに好ましい。上記水分含有率の下限に制限はなく、例えば、0質量%以上である。
【0098】
スラリー組成物(およびそれから得た造粒物)を乾燥させる方法は特に限定されない。例えば、熱風乾燥機、流動層乾燥機等、造粒物に熱風をあてて乾燥することができる。その他、公知の一般的な乾燥方法によって造粒物を乾燥することができる。
【0099】
樹脂Bは、熱硬化性樹脂(硬化前の粒子状のフェノール樹脂等)であってよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
樹脂Bは、前述の本発明のスラリー組成物が含む樹脂Aと同一種類の熱可塑性樹脂とすることが好ましい。
【0100】
樹脂Bとして、2種類以上の熱可塑性樹脂を含んでもよい。
【0101】
樹脂Bと前述の樹脂Aとの混合物が、前述の樹脂Xとなる。
【0102】
造粒物と樹脂Bとを混合する方法は特に限定されない。例えば従来公知の2軸混練機や、ニーダー混練機、オープンロール式混練機を用いて、造粒物と樹脂Bとを混合することができる。
混合する際の温度は、樹脂A、樹脂B、反応生成物Z、およびπ共役系高分子の種類にもよるが、例えば、樹脂Aおよび/または樹脂Bの融点を超え、かつ、反応生成物Zおよび/またはπ共役系高分子の熱分解温度未満の温度が好ましい。
具体的な混合温度としては、例えば、100~240℃が好ましく、120~220℃がより好ましい。
【0103】
このような本発明の導電性組成物の製造方法によって、導電性に優れ、かつ、強度が高い成形体を得ることができる本発明の導電性組成物を得ることができる。
【0104】
上記においては、導電組成物の製造方法の好適な一形態について説明した。他方で、本発明の導電性組成物は、例えば、本発明のスラリー組成物(およびそれから得た造粒物)を乾燥させたものであってもよい。スラリー組成物(およびその造粒物)の製造方法ならびにスラリー組成物(およびそれから得た造粒物)を乾燥させる方法については上述のとおりである。
また、スラリー組成物(好ましくはその乾燥物)に対して樹脂Bを添加することなく、加熱混合したものを導電性組成物としてもよい。加熱混合に使用する装置としては、例えば従来公知の2軸混練機や、ニーダー混練機、オープンロール式混練機が挙げられる。加熱混合する際の混合温度は、樹脂A、反応生成物Z、およびπ共役系高分子の種類にもよるが、例えば、樹脂Aの融点を超え、かつ、反応生成物Zおよび/またはπ共役系高分子の熱分解温度未満の温度が好ましい。
具体的な加熱混合する際の混合温度としては、例えば、100~240℃が好ましく、120~220℃がより好ましい。
【0105】
<本発明の成形体の製造方法>
本発明の成形体の製造方法について説明する。
本発明の成形体の製造方法は、本発明の導電性組成物を成形して、本発明の成形体を得る成形工程を備える成形体の製造方法である。
【0106】
本発明の成形体の製造方法は、例えば、本発明の導電性組成物の製造方法における撹拌工程および混合工程に続き、成形工程を備える方法であってよい。
【0107】
成形工程では、樹脂Xが熱硬化性の場合、本発明の導電性組成物を例えば型に入れ、加熱圧縮することで本発明の成形体を得ることできる。
【0108】
本発明の導電性組成物が含む樹脂Xが熱可塑性の場合、射出成型、押出成形、ブロー成形などの成型方法で成形体を得ることができる。
【実施例0109】
本発明について実施例を挙げて説明する。本発明は以下に説明する実施例の態様に限定されない。
【0110】
<実施例1>
(撹拌工程)
カーボン繊維、π共役系高分子、π共役系高分子と反応して導電性を発現させる有機酸基を有するドーパント(ドーパントY)、および樹脂Aとして、以下を用意した。
【0111】
・カーボン繊維:単層カーボンナノチューブ(OCSiAl社製、Tuball93)、断面直径2nm、アスペクト比2500
・π共役系高分子:ポリアニリン(レグルス社製、PANI-PA)、粒径1~20μm
・ドーパントY:ドデシルベンゼンスルホン酸(ソフト型)(東京化成社製、D0989)
・樹脂A:粒状のポリプロピレン(粒径5~20μm)
【0112】
次に、カーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aを水と共に攪拌容器へ装入し、自転公転撹拌を行った。
ここでカーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は1:3:5:10(質量比)とした。また、これらの合計質量と水との質量比を19:15となるように水を配合した。この場合、水の配合率は44.1質量%となる。
また、自転公転攪拌は自転公転攪拌機(AR-100、あわとり練太郎、シンキー社製)を用い、公転速度2000rpmで20分撹拌した。
【0113】
その結果、静止時の形状維持性を有するスラリー組成物を得ることができた。ここで得られたスラリー組成物を「スラリー(1)」とする。
なお、ここで得られたスラリー組成物は、本発明のスラリー組成物に相当する。
【0114】
スラリー(1)について熱風乾燥機で乾燥させた後、走査型電子顕微鏡を用いて30,000倍で観察した。得られた電子顕微鏡写真(SEM像)を
図1に示す。
図1からカーボン繊維が良好に分散しており、分散性が高いと言える。
【0115】
(混合工程)
次に、スラリー(1)を押出造粒機(ダルトン社製、バスケットリューザー BR-200)へ装入し、スラリー材料に適合する条件で処理することで、造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた。すなわち、ここでスラリー(1)は造粒性が高いことが確認された。
その後、造粒物に熱風をあてて、絶乾となるまで乾燥させた。乾燥後の造粒物は形状を保っていた。
ここで得られた造粒物を、「造粒物(1)」とする。
【0116】
(混合工程)
樹脂Bとして、ポリプロピレン樹脂を用意した。
そして、造粒物(1)と樹脂Bとの質量比が5:95となるように2軸混練機へ装入し、樹脂Bに適合する条件で溶融混錬して混合物を得た。ここで溶融混錬の際の温度は190℃であった。
ここで得られた混合物は、本発明の導電性組成物に相当する。
【0117】
(成形工程)
その後、得られた混合物について熱プレス成型機(東洋精機製作所社製、MP-2F)を用いて熱プレス成形を施し、50mm×50mm、厚さ1mmの成形体を得た。
ここで得られた成形体を「テストピース(1)」とする。
また、ここで得られた成形体は、本発明の成形体に相当する。
【0118】
そして、テストピース(1)について、日東精工アナリテック社製、低抵抗率計(ロレスタ-GX MCP-T700)を用いて4探針法による抵抗測定(JIS K7194に基づく)を行った。その結果、テストピース(1)の抵抗率は1000Ω・mであった。
【0119】
テストピース(1)について光学顕微鏡を用いて5,000倍で観察した。得られた電子顕微鏡写真を
図2に示す。
図2からカーボン繊維および、反応生成物Zが凝集せずに分散していることを確認した。
【0120】
また、テストピース(1)について引張弾性率(MPa)(JIS K7161に基づく)、引張強度(MPa)(JIS K7161に基づく)、引張伸び(%)(JIS K7161に基づく)、曲げ弾性率(MPa)(JIS K7171に基づく)、曲げ強さ(MPa)(JIS K7171に基づく)、アイゾット衝撃値(KJ/m2)(JIS K7160に基づく)を測定した。
結果を表1に示す。
なお、表1には、樹脂Bとして用いたポリプロピレンのみを用いて、同じ方法によって作成した得た同一形状の成形体(この成形体を「テストピース(0)」とする)について、同じ測定を行って得た測定結果についても示す。
【0121】
【0122】
表1に示すように、テストピース(0)に対して、テストピース(1)は引張弾性率(MPa)、引張強度(MPa)、曲げ弾性率(MPa)、曲げ強さ(MPa)、アイゾット衝撃値(KJ/m2)が高くなった。
【0123】
<実施例2>
実施例1では、混合工程において造粒物(1)と樹脂Bとの質量比が5:95となるように混合したが、実施例2では10:90となるように2軸混練機へ装入し、混合して混合物を得た。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、同様のテストピース(テストピース(2))を得て、同様の試験に供した。
その結果、テストピース(2)の抵抗率は15Ω・mであった。
また、テストピース(2)は、実施例1のテストピース(1)の場合と同様、テストピース(0)に対して引張弾性率(MPa)、引張強度(MPa)、曲げ弾性率(MPa)、曲げ強さ(MPa)、アイゾット衝撃値(KJ/m2)が高くなった。
【0124】
<実施例3>
実施例1では、混合工程において造粒物(1)と樹脂Bとの質量比が5:95となるように混合したが、実施例3では20:80となるように2軸混練機へ装入し、混合して混合物を得た。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、同様のテストピース(テストピース(3))を得て、同様の試験に供した。
その結果、テストピース(3)の抵抗率は0.2Ω・mであった。
また、テストピース(3)は、実施例1のテストピース(1)の場合と同様、テストピース(0)に対して引張弾性率(MPa)、引張強度(MPa)、曲げ弾性率(MPa)、曲げ強さ(MPa)、アイゾット衝撃値(KJ/m2)が高くなった。
【0125】
<実施例4>
実施例3では樹脂Aとして、粒状のポリプロピレン(粒径5~20μm)を用いたが、実施例4では樹脂Aとして、粒径が100~1000μm、平均粒子径が600μmの粒状のポリプロピレンを用いた。
そして、それ以外は実施例3と同様の操作を行い、同様のテストピース(テストピース(4))を得て、同様の試験に供した。
その結果、テストピース(4)の抵抗率は0.2Ω・mであった。
また、テストピース(4)は、実施例1のテストピース(1)の場合と同様、テストピース(0)に対して引張弾性率(MPa)、引張強度(MPa)、曲げ弾性率(MPa)、曲げ強さ(MPa)、アイゾット衝撃値(KJ/m2)が高くなった。
【0126】
<実施例5>
実施例3では樹脂Aとして、粒状のポリプロピレン(粒径5~20μm)を用いたが、実施例5では樹脂Aとして、粒径が100~1000μm、平均粒子径が500μmの粒状のポリエチレンを用いた。また、実施例3では樹脂Bとしてポリプロピレンを用いたが、実施例5では樹脂Bとしてポリエチレンを用いた。なお、造粒物と樹脂Bとを2軸混錬機にて溶融混錬する際の温度は120℃であった。
そして、それ以外は実施例3と同様の操作を行い、同様のテストピース(テストピース(5))を得て、同様の試験に供した。
その結果、テストピース(5)の抵抗率は0.1Ω・mであった。
また、テストピース(5)は、実施例1のテストピース(1)の場合と同様、テストピース(0)に対して引張弾性率(MPa)、引張強度(MPa)、曲げ弾性率(MPa)、曲げ強さ(MPa)、アイゾット衝撃値(KJ/m2)が高くなった。
【0127】
<実施例6>
実施例3では樹脂Aとして粒状のポリプロピレン(粒径5~20μm)を用いが、実施例5では樹脂Aとして粒径が100~1000μm、平均粒子径が650μmの粒状のポリ乳酸(ユニチカ社製、TE-2000)を用いた。
また、実施例3では樹脂Bとして、ポリプロピレンを用いたが、実施例6では樹脂Bとして、ポリ乳酸(ユニチカ社製、TE-2000)を用いた。なお、造粒物と樹脂Bとを2軸混錬機にて溶融混錬する際の温度は120℃であった。
そして、それ以外は実施例3と同様の操作を行い、同様のテストピース(テストピース(6))を得て、同様の試験に供した。
その結果、テストピース(6)の抵抗率は0.07Ω・mであった。
また、テストピース(6)は、実施例1のテストピース(1)の場合と同様、テストピース(0)に対して引張弾性率(MPa)、引張強度(MPa)、曲げ弾性率(MPa)、曲げ強さ(MPa)、アイゾット衝撃値(KJ/m2)が高くなった。
【0128】
<実施例7>
実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は1:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を19:15となるように水を配合(水の配合率は44.1質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行ったが、実施例7ではこれらの合計質量と水との質量比を19:20となるように水を配合(水の配合率は51.3質量%)したものを攪拌容器へ装入して、同様の自転公転撹拌を行った。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、スラリー(7)を得た。
【0129】
その結果、得られたスラリー(7)は実施例1において得られたスラリー(1)とは異なり、静止時に形状維持性を有していなかった。ただし、分散性については実施例1の場合と同様に高かった。
【0130】
その後、得られたスラリー(7)について実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したが、形状を保った造粒物(円柱状顆粒)を得ることができなかった。すなわち、スラリー(1)と比較すると、スラリー(7)の造粒性は低いことが確認された。
【0131】
そこで、スラリー(7)に熱風をあてて絶乾となるまで乾燥させた後、25質量%の水分含有率となるように水を加えて混錬し、その後、実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したところ、造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた。
【0132】
<実施例8>
実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維として単層カーボンナノチューブを用いたが、実施例8ではこれに代わり気相法炭素繊維(昭和電工社製、VGCF-H)を用いた。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、スラリー(8)を得た。
【0133】
その結果、得られたスラリー(8)は実施例1において得られたスラリー(1)とは異なり、静止時に形状維持性を有していなかった。ただし、分散性については実施例1の場合と同様に高かった。
【0134】
その後、得られたスラリー(8)について実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したが、形状を保った造粒物(円柱状顆粒)を得ることができなかった。すなわち、スラリー(1)と比較すると、スラリー(8)の造粒性は低いことが確認された。
【0135】
そこで、スラリー(8)に熱風をあてて絶乾となるまで乾燥させた後、25質量%の水分含有率となるように水を加えて混錬し、その後、実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したところ、造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた。
【0136】
<実施例9>
実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維として単層カーボンナノチューブを用いたが、実施例9ではこれに代わり気相法炭素繊維(昭和電工社製、VGCF-H)を用いた。
また、実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は1:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を19:15となるように水を配合(水の配合率は44.1質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行ったが、実施例9ではカーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は2:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を20:15となるように水を配合(水の配合率は42.9質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行った。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、スラリー(9)を得た。
【0137】
スラリー(9)は、実施例1にて得られたスラリー(1)と同様、静止時に形状維持性を有し、かつ、各成分が十分に分散した分散性が高いスラリー組成物であった。
【0138】
その後、得られたスラリー(9)について実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したところ、造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた。すなわち、ここでスラリー(9)は造粒性が高いことが確認された。
【0139】
<実施例10>
実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維として単層カーボンナノチューブを用いたが、実施例10ではこれに代わり気相法炭素繊維(昭和電工社製、VGCF-H)を用いた。
また、実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は1:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を19:15となるように水を配合(水の配合率は44.1質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行ったが、実施例10ではカーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は2:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を20:20となるように水を配合(水の配合率は50.0質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行った。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、スラリー(10)を得た。
【0140】
その結果、得られたスラリー(10)は実施例1において得られたスラリー(1)とは異なり、静止時に形状維持性を有していなかった。ただし、分散性については実施例1の場合と同様に高かった。
【0141】
その後、得られたスラリー(10)について実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したが、形状を保った造粒物(円柱状顆粒)を得ることができなかった。すなわち、スラリー(1)と比較すると、スラリー(10)の造粒性は低いことが確認された。
【0142】
そこで、スラリー(10)に熱風をあてて絶乾となるまで乾燥させた後、25質量%の水分含有率となるように水を加えて混錬し、その後、実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したところ、造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた。
【0143】
<実施例11>
実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維として単層カーボンナノチューブを用いたが、実施例11ではこれに代わりカーボンナノファイバー(アルメディオ社製、導電用カーボンナノファイバー)を用いた。
また、実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は1:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を19:15となるように水を配合(水の配合率は44.1質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行ったが、実施例11ではカーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は1:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を19:10となるように水を配合(水の配合率は34.5質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行った。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、スラリー(11)を得た。
【0144】
スラリー(11)は、実施例1にて得られたスラリー(1)と同様、静止時に形状維持性を有し、かつ、各成分が十分に分散した分散性が高いスラリー組成物であった。
【0145】
その後、得られたスラリー(11)について実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したが、形状を保った造粒物(円柱状顆粒)を得ることができなかった。すなわち、スラリー(1)と比較すると、スラリー(11)の造粒性は低いことが確認された。
【0146】
そこで、スラリー(11)に熱風をあてて絶乾となるまで乾燥させた後、25質量%の水分含有率となるように水を加えて混錬し、その後、実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したところ、造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた。
【0147】
<実施例12>
実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維として単層カーボンナノチューブを用いたが、実施例12ではこれに代わりカーボンナノファイバー(アルメディオ社製、導電用カーボンナノファイバー)を用いた。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、スラリー(12)を得た。
【0148】
その結果、得られたスラリー(12)は実施例1において得られたスラリー(1)とは異なり、静止時に形状維持性を有していなかった。ただし、分散性については実施例1の場合と同様に高かった。
【0149】
その後、得られたスラリー(12)について実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したが、形状を保った造粒物(円柱状顆粒)を得ることができなかった。すなわち、スラリー(1)と比較すると、スラリー(12)の造粒性は低いことが確認された。
【0150】
そこで、スラリー(12)に熱風をあてて絶乾となるまで乾燥させた後、25質量%の水分含有率となるように水を加えて混錬し、その後、実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したところ、造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた。
【0151】
<実施例13>
実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維として単層カーボンナノチューブを用いたが、実施例13ではこれに代わりカーボンナノファイバー(アルメディオ社製、導電用カーボンナノファイバー)を用いた。
また、実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は1:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を19:15となるように水を配合(水の配合率は44.1質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行ったが、実施例13ではカーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は2:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を20:15となるように水を配合(水の配合率は42.9質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行った。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、スラリー(13)を得た。
【0152】
その結果、得られたスラリー(13)は実施例1において得られたスラリー(1)とは異なり、静止時に形状維持性を有していなかった。ただし、分散性については実施例1の場合と同様に高かった。
【0153】
その後、得られたスラリー(13)について実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したが、形状を保った造粒物(円柱状顆粒)を得ることができなかった。すなわち、スラリー(1)と比較すると、スラリー(13)の造粒性は低いことが確認された。
【0154】
そこで、スラリー(13)に熱風をあてて絶乾となるまで乾燥させた後、25質量%の水分含有率となるように水を加えて混錬し、その後、実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したところ、造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた。
【0155】
<実施例14>
実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維として単層カーボンナノチューブを用いたが、実施例14ではこれに代わりカーボンナノファイバー(アルメディオ社製、導電用カーボンナノファイバー)を用いた。
また、実施例1では、撹拌工程において、カーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は1:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を19:15となるように水を配合(水の配合率は44.1質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行ったが、実施例14ではカーボン繊維、π共役系高分子、ドーパントY、および樹脂Aの配合比は3:3:5:10(質量比)とし、これらの合計質量と水との質量比を21:15となるように水を配合(水の配合率は41.7質量%)したものを攪拌容器へ装入して、自転公転撹拌を行った。
そして、それ以外は実施例1と同様の操作を行い、スラリー(14)を得た。
【0156】
スラリー(14)は、実施例1にて得られたスラリー(1)と同様、静止時に形状維持性を有し、かつ、各成分が十分に分散した分散性が高いスラリー組成物であった。
【0157】
その後、得られたスラリー(14)について実施例1の場合と同じ押出造粒機を用い、同様の処理条件および処理方法で処理したところ、造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた。すなわち、ここでスラリー(14)は造粒性が高いことが確認された。
【0158】
<比較例1>
実施例1では、撹拌工程においてポリアニリンを用いたが、比較例1ではこれを用いなかった。
そして、それ以外は実施例(1)と同様の操作を行い、同様のテストピースを得て、同様の試験に供した。
比較例1で作製したテストピースは、いずれの実施例で作製したテストピースよりも電気伝導性が劣っており、かつ、強度(引張弾性率、引張強度、曲げ弾性率、曲げ強さ、アイゾット衝撃値の各測定結果)も低いことが確認された。
【0159】
得られたスラリーについて熱風乾燥機で乾燥させた後、走査型電子顕微鏡を用いて5,000倍で観察した。得られた電子顕微鏡写真(SEM像)を
図3に示す。
図3からカーボン繊維が凝集しており、分散性は低いと言える。
【0160】
上記の実施例および比較例について、組成等を表2にまとめた。
なお、得られたスラリーが、静止時に形状維持性を有している場合、表2の「スラリー性状」の欄において「〇」と示し、静止時に形状維持性を有していなかった場合、同欄において「×」と示した。
また、得られたスラリーの分散性が高い場合(各成分が十分に分散している場合)、表2の「分散性」の欄において「〇」と示した。また、分散性が低い場合、同欄において「×」と示した。
また、造粒工程において押出造粒機を用いて形状が保たれた造粒物(円柱状顆粒)を得ることができた場合、造粒性が高いものとして、表2の「造粒性」の欄において「〇」と示し、その造粒物(円柱状顆粒)が得られなかった場合、相対的に造粒性は高くないものとして、同欄において「△」と示した。また、造粒するために造粒助剤、例えば、ベントナイト等を加える必要があった場合、同欄において「×」と示した。
【0161】