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特開2024-33680油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペン
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033680
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペン
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/18 20060101AFI20240306BHJP
   B43K 7/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C09D11/18
B43K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137417
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】三宅 充人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 武
(72)【発明者】
【氏名】益田 博考
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350HA08
2C350NA10
4J039AB08
4J039AE02
4J039BA10
4J039BA19
4J039BA20
4J039BC07
4J039BC12
4J039BC20
4J039BC75
4J039BE22
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、紙面への筆跡密着性と滑り性を向上して、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性が良好であり、書き味、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を向上する油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペンを得ることである。
【解決手段】着色剤、テルペンフェノール樹脂、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体を含んでなることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、テルペンフェノール樹脂、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体を含んでなることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項2】
前記テルペンフェノール樹脂の重量平均分子量が、200以上1200以下であることを特徴とする請求項1に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項3】
前記グリセリンのアルキレンオキシド誘導体の重量平均分子量が、300以上5,000以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項4】
前記グリセリンのアルキレンオキシド誘導体のアルキレンオキサイド平均付加モル数が、1以上30以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項5】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を有する界面活性剤、フッ素系界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項6】
前記油性ボールペン用インキ組成物に、ロジン系樹脂を含んでなることを特徴とする請求項1または2に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
【請求項7】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に請求項1または2に記載の油性ボールペン用インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
油性ボールペンは筆記時にボールとチップ本体との間の筆記抵抗によって、ボールペンの書き味に影響を及ぼしやすく、特に、ボールペンは他の種類の筆記具と異なり、先端にステンレス鋼などからなる金属チップと、該金属チップのボール受け座に抱持される超鋼などの金属からなる転写ボールと、からなるボールペンチップをインキ収容筒に装着した構成を有するが、筆記時にボールの回転によって、筆跡に線とびカスレ、点ムラなどの発生や、書き味が劣ったり、チップ先端のインキ残りによる泣きボテという欠点があった。
【0003】
こうした問題を解決するため、ボールとチップ本体との筆記抵抗を抑制するために、潤滑性向上を目的として、様々な潤滑剤などを用いた油性ボールペン用インキ組成物が多数提案されている。
【0004】
このような添加剤を用いた油性ボールペン用インキ組成物としては、アルキルβ-D-グルコシドを用いたものとしては、特開平5-331403号公報「油性ボールペンインキ」、平均分子量が200~4000000であるポリエチレングリコールを用いたものとしては、特開平7-196971号公報「油性ボールペン用インキ組成物」、N-アシルアミノ酸、N-アシルメチルタウリン酸、N-アシルメチルアラニンを用いたものとしては、特開2007-176995号公報「油性ボールペン用インキ」、デカマカデミアナッツ油脂肪酸デカグリセリルと、アルキル基の炭素数が16以上であり常温で固体のポリオキシエチレンアルキルエーテルとを少なくとも含有するものとしては、特開2008-88264号公報「ボールペン用油性インキ組成物」等に開示されている。(特許文献1~4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】「特開平5-331403号公報」
【特許文献2】「特開平7-196971号公報」
【特許文献3】「特開2007-176995号公報」
【特許文献4】「特開2008-88264号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~4のような各種添加剤を用いた場合、ある程度、ボールとチップ本体との間の筆記抵抗をある程度低減することはできるが、書き味を満足できるものではなく、さらに筆跡に線とび・カスレなどの筆記性は改善できず、改良の余地があった。
【0007】
本発明の目的は、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性が良好であり、書き味、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を向上することが可能である油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペンを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために
「1. 着色剤、テルペンフェノール樹脂、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体を含んでなることを特徴とする油性ボールペン用インキ組成物。
2. 前記テルペンフェノール樹脂の重量平均分子量が、200以上1200以下であることを特徴とする第1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
3.前記グリセリンのアルキレンオキシド誘導体の重量平均分子量が、300以上5,000以下であることを特徴とする第1項または第2項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
4.前記グリセリンのアルキレンオキシド誘導体のアルキレンオキサイド平均付加モル数が、1以上30以下であることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
5.前記油性ボールペン用インキ組成物に、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を有する界面活性剤、フッ素系界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種を含んでなることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
6.前記油性ボールペン用インキ組成物に、ロジン系樹脂を含んでなることを特徴とする第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物。
7.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に第1項ないし第6項のいずれか1項に記載の油性ボールペン用インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、紙面への筆跡密着性と滑り性を向上して、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性が良好であり、書き味、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を向上する油性ボールペン用インキ組成物およびそれを用いた油性ボールペンを得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有量とは、油性ボールペン用インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0011】
本発明の特徴は、油性ボールペン用インキ組成物に、着色剤、テルペンフェノール樹脂、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体を含んでなることを特徴とする。
【0012】
油性ボールペン用インキ組成物に、テルペンフェノール樹脂、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体を含んでなることで、紙面への筆跡密着性と滑り性を向上して、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好とし、さらに書き味、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を向上することが可能であることが解った。
【0013】
(テルペンフェノール樹脂)
本発明で用いられるテルペンフェノール樹脂としては、たとえば、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ターピノーレン等のテルペン類を、フェノール類の存在する反応系内で重合する方法等により製造されるものを使用できる。なお、フェノール類としては、フェノール、ビスフェノールA、またはクレゾール、キシレノール、p-t-ブチルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール等のアルキルフェノール類があげられる。
【0014】
テルペンフェノール樹脂については、強固な筆跡膜を形成することで、紙面への筆跡密着性を向上して、良好な筆跡とし、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好とする。さらに、テルペンフェノール樹脂が有する芳香環骨格を有することで、ボールとボール座間において、クッション効果によって、滑り性を向上することで、ボールとボール座間の抵抗を抑制して、書き味、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を向上することが可能である。後述するグリセリンのアルキレンオキシド誘導体を併用することで、相互作用が働き、より滑り性を向上することができ、書き味、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を向上することが可能となる。
【0015】
テルペンフェノール樹脂の重量平均分子量については、より強固な筆跡膜を形成することで、紙面への筆跡密着性(筆記性)を向上して、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好とし、より滑り性を向上しやすく、さらにインキ中での溶解安定性を良好とし、本発明の効果を得られやすくすることを考慮すれば、重量平均分子量が200以上1200以下であることが好ましく、より紙面へ筆跡密着性、筆跡に線とび・カスレ抑制や、インキ中での溶解安定性を考慮すれば、300以上1000以下であることが好ましく、400以上800以下が好ましい。さらに、重量平均分子量が大きすぎると、経時安定性に影響が出やすく、さらに油性ボールペン用インキ組成物の粘度が高くなりやすく、インキ追従性による筆跡に影響が出やすく、筆跡に線とび・カスレの影響しやすいためである。
なお、テルペンフェノール樹脂の重量平均分子量は、GPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法)により測定する。
【0016】
テルペンフェノール樹脂の軟化点については、粘弾性を保つことで、より強固な筆跡膜を形成することで、紙面への筆跡密着性(筆記性)を向上して、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好とし、より滑り性を向上しやすく、さらにインキ中での溶解安定性を良好とし、本発明の効果を得られやすくすることを考慮すれば、70℃以上150℃以下であることが好ましい。上記軟化点は、より粘弾性を保つことで、紙面への筆跡密着性、筆跡に線とび・カスレ抑制を考慮すれば、80℃以上130℃以下であることが好ましく、より考慮すれば、90℃以上110℃以下であることが好ましく。ここで、前記樹脂の軟化点はJIS K2207に準じて測定した値である。
【0017】
テルペンフェノール樹脂については、一般にフェノール部位の多寡により、水酸基価がコントロールされる。より紙面への筆跡密着性(筆記性)を向上して、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好とし、より滑り性を向上しやすく、さらにインキ中での溶解安定性を良好とし、本発明の効果を得られやすくすることを考慮すれば、テルペンフェノール樹脂の水酸基価が200mgKOH/g以下が好ましい。より考慮すれば、上記水酸基価は、30mgKOH/g以上200mgKOH/g以下が好ましく、50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下が好ましく、50mgKOH/g以上200mgKOH/g以下が好ましく、50mgKOH/g以上100mgKOH/g以下が好ましい。なお、水酸基価とは、樹脂1gをアセチル化するとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数であり、JIS K 0070に規定する電位差滴定法に基づいて測定された値として定義される。
【0018】
テルペンフェノール樹脂の含有量は、油性ボールペン用インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、紙面への筆跡密着性や、滑り性を得るには十分な効果が得られにくい。また、油性ボールペン用インキ組成物全量に対する樹脂の含有量が20質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすく、インキ粘度が高くなりすぎて、インキ消費量の低下や、書き味、書き出し性能に影響しやすい。このため、油性ボールペン用インキ組成物全量に対する樹脂の含有量は、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、より考慮すれば、1質量%以上15質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0019】
(グリセリンのアルキレンオキシド誘導体)
本発明では、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体については、滑り性を向上しやすいため、筆記先端部と被筆記面との間の潤滑性(ボールとチップ本体との間の潤滑性)を保ち、筆記先端部の筆記抵抗を抑制して、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗の抑制と、書き味を向上することができ、筆跡に線とび・カスレを良好とすることができる。本発明のように、テルペンフェノール樹脂と併用することで、相互作用が働き、より紙面への筆跡密着性を向上して、より滑り性を向上することで、ボール座の摩耗の抑制と、書き味を向上することができ、筆跡に線とび・カスレを良好とすることができる。
さらに、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体は、一般的に揮発性が低いため、筆記先端部を大気中に放置した場合でも、筆記先端部の書き出し性能を向上するとともに、油性ボールペン用インキ組成物のインキ増粘を極力抑制することで、インキ追従性を向上することができる。特に、テルペンフェノール樹脂は、筆記先端部に強固なインキ膜を形成しやすく、筆記先端部の書き出し性能に影響を及ぼしやすいため、効果的に用いることができる。さらに、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体自体でも粘性を示すため、インキ粘度を調整する際にも、テルペンフェノール樹脂の含有量を少なくすることも可能となり、インキ膜も強固になりにくくなり、筆記先端部の書き出し性能を良好とすることができるため、テルペンフェノール樹脂と併用することが好ましい。
グリセリンのアルキレンオキシド誘導体としては、ポリオキシアルキレングリセリルエ-テル、ポリオキシアルキレンアルキルグルコシド、ポリオキシプロピレンアルキルエ-テル等が挙げられるが、より滑り性を向上することで、ボール座の摩耗の抑制と、書き味、筆跡に線とび・カスレを良好とすることを考慮すれば、ポリオキシアルキレングリセリルエ-テルが好ましい。
【0020】
また、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルは、グリセリンやポリグリセリンに酸化アルキレンを付加重合して得られるもので、ポリオキシアルキレングリセリルエーテル、ポリオキシアルキレンジグリセリルエーテル、ポリオキシアルキレントリグリセリルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
また、本発明のように顔料を用いる場合、一般的には経時的に顔料の凝集によりインキ粘度が増加し、インキ追従性が低下しやすいが、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体の構造内の極性基が顔料表面に吸着し、インキ中で顔料を安定に分散するため、顔料の凝集によるインキ粘度の増加を抑制することで、インキ追従性を向上して、良好な筆跡とすることができる。そのため、顔料分散安定性、インキ追従性を考慮すれば、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルを用いることが好ましく、その中でも、より考慮すれば、ポリオキシアルキレンジグリセリルエーテルを用いることが好ましい。
【0022】
また、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルには、ポリオキシエチレングリセリルエーテル、ポリオキシプロピレングリセリルエーテルなどが包含される。このうち、ポリオキシプロピレングリセリルエーテルはプロピレン基を有することで、親油性に優れ、油性ボールペン用インキ組成物の吸湿を抑制することで、経時安定性を良好とすることで、本発明の効果を得られやすい。このため、ポリオキシプロピレングリセリルエーテルを用いることが好ましい。
【0023】
ポリオキシアルキレングリセリルエーテルは、より滑り性を向上することで、ボール座の摩耗の抑制と、書き味、筆跡に線とび・カスレを良好とすること、顔料分散安定性、経時安定性を良好とすることで、本発明の効果を得られやすいことを考慮すれば、アルキレンオキサイド付加モル数の平均値(アルキレンオキサイド平均付加モル数)が1以上50以下であることが好ましく、より考慮すれば、アルキレンオキサイド平均付加モル数が1以上30以下であることが好ましく、より滑り性、経時安定性を向上することを考慮すれば、アルキレンオキサイド平均付加モル数が1以上20以下であることが好ましく、5以上20以下であることがより好ましい。
【0024】
特に、より滑り性を向上することで、ボール座の摩耗の抑制と、書き味、筆跡に線とび・カスレを良好とすることを考慮すれば、プロピレンオキサイド平均付加モル数が1~30であることが好ましく、1以上20以下であることがより好ましく、5以上20以下であることがさらに好ましく、1以上12以下であることがより好ましく、5~12であることが特に好ましい。また、本発明の効果を発揮しやすいことを考慮すれば、ポリオキシアルキレングリセリルエーテルの構造としては、下記式(1)または(2)で表される構造であることが好ましい。
【化1】

式中、m、n、o、p、w、x、y、およびzはそれぞれ独立にアルキレンオキサイド付加数を示す数である。
ここで、m+n+o+pはプロピレンオキサイド平均付加モル数、w+x+y+zはエチレンオキサイド平均付加モル数である。
【0025】
これらのうち、式(1)で表されるポリオキシアルキレングリセリルエーテルは経時安定性の改良効果が大きいので、本発明の効果が得られやすく、好ましい。
【0026】
また、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体の重量平均分子量については、5000以下であることが好ましい、これは、重量平均分子量が大きすぎると、経時安定性に影響が出やすく、さらに油性ボールペン用インキ組成物の粘度が高くなりやすく、インキ追従性による筆跡に影響が出やすいためである。より経時安定性、インキ追従性を考慮すれば、重量平均分子量は3000以下であることが好ましく、さらに重量平均分子量は1500以下であることが好ましく、1200以下であることが好ましい。また、より滑り性を向上して、良好な筆跡とすることを考慮すれば、900以下であることが好ましい。一方、重量平均分子量が小さすぎると、滑り性、顔料分散性に影響が出やすいため、重量平均分子量は300以上であることが好ましく、より考慮すれば、重量平均分子量は500以上であることが好ましい。
重量平均分子量は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いてポリスチレン換算で得られた値である。
【0027】
また、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体の含有量は、油性ボールペン用インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、滑り性、インキ追従性の効果が得られないおそれがあり、40質量%を越えると、経時安定性に影響するおそれがあるため、油性ボールペン用インキ組成物全量に対し、0.1質量%以上40質量%以下が好ましく、3質量%以上30質量%以下がより好ましい。さらに、ボール座の摩耗抑制と、経時安定性のバランスを考慮すれば、5質量%以上25質量%以下が好ましく、8質量%以上25質量%以下であることが最も好ましい。
【0028】
(着色剤)
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。染料、顔料を併用しても良い。
染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、有機酸と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。染料としては、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体との相性による経時安定性を考慮して、造塩染料を用いることが好ましく、さらに造塩結合が安定していることで経時安定性を保てることを考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料との塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料を用いることが好ましい。
【0029】
染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C-RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0030】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
【0031】
着色剤としては、顔料を用いることが好ましい、これは、顔料を用いることで、ボールペンの場合は、ボールとチップ本体の隙間に顔料粒子が入り込むことで、ベアリングのような作用が働きやすく、金属接触を抑制することで、より滑り性を向上することで、ボール座の摩耗の抑制と、書き味を向上することができ、筆跡に線とび・カスレを良好とするとする効果が得られやすいため、顔料を用いることが好ましい。さらに、顔料は、耐水性、耐光性に優れるために、公用文書として、好適に用いることができるため好ましい。
また、油性ボールペン用インキ組成物は、高荷重筆記にも耐えることができるため、複写用紙などにも好適に用いることができ、公用文書でも好適に用いることができるため好ましい。
【0032】
顔料については、平均粒子径は、1nm以上500nm以下とすることが好ましい。より好ましくは、30nm以上350nm以下であり、さらに好ましくは、50nm以上300nm以下である。これは、上記範囲とすることで、より滑り性を向上することで、ボール座の摩耗の抑制と、書き味を向上することができ、筆跡に線とび・カスレを良好とするとする効果が得られやすい。
ここで、平均粒子径は、レーザー回折法、具体的には、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いて、標準試料や他の測定方法を用いてキャリブレーションした数値を基に測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により求めることができる。
尚、前記顔料は、油性ボールペン用インキ組成物中での顔料の分散状態で前記した作用効果を奏するため、分散状態の粒子径を求めることが好ましい。
【0033】
さらに、油性ボールペン用インキ組成物中の着色剤の含有量に対する顔料の含有量は高いことが好ましい。具体的には着色剤の含有量に対する顔料の含有量を10質量%以上とすることで、耐水性、耐光性、および滑り性を必要なレベルまで改良できるが、さらに耐水性、耐光性、および滑り性の観点において、筆跡変化が発生しにくくするようにするには、50質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることが好ましく、90質量%とすることがより好ましく、100質量%とすることが特に好ましい。
【0034】
一般的に顔料を含んだ油性ボールペン用インキ組成物は、筆記先端部が乾燥したときの書き出し性能、インキ追従性が不十分になる傾向があるが、本発明による油性ボールペン用インキ組成物はポリオキシアルキレングリセリルエーテルを含むことで、顔料の含有比率が高い場合でも、書き出し性能やインキ追従性が良好に保たれ、良好な筆跡となる。
【0035】
着色剤の含有量は、油性ボールペン用インキ組成物全量に対し、5~30質量%が好ましい。これは、5質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30質量%を越えると、インキ中での安定性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、7~25質量%が好ましく、さらに考慮すれば、10~20質量%である。
【0036】
(有機溶剤)
本発明では、有機溶剤を含んでなることが好ましく、具体的に、有機溶剤については、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤、などの有機溶剤が例示できる。
【0037】
これらの有機溶剤の中でも、芳香族アルコ-ルは、芳香環を有することで潤滑性を改良し、またポリオキシアルキレングリセリルエーテルと相溶性が高く、溶液の安定性も改良されるため、芳香族アルコ-ル溶剤を用いることが好ましい。
【0038】
(界面活性剤)
本発明の油性ボールペン用インキ組成物は、界面活性剤を含んでなることが好ましい。油性ボールペン用インキ組成物が界面活性剤を含むことで、滑り性の向上、および、チップ先端部を大気中に放置した状態で該チップ先端部が乾燥したときの書き出し性能、書き味の向上を図ることができる。
【0039】
界面活性剤としては、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を有する界面活性剤、フッ素系界面活性剤、脂肪酸、脂肪酸エステルから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0040】
界面活性剤の中でも、より滑り性を向上して、良好な筆跡とすること、書き出し性能、書き味を向上することを考慮すれば、リン酸エステル系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を用いることが好ましい。さらに、リン酸エステル系界面活性剤は、より滑り性を向上しやすい効果が得られるため、好ましい。
【0041】
リン酸エステル系界面活性剤としては、具体的には、アルコキシエチル基(C2n+1OCHCHO)またはアルコキシ基(C2m+1O)を有するリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸トリエステル、アルキルリン酸エステル、アルキルエーテルリン酸エステル或いはその誘導体等が挙げられる。
【0042】
リン酸エステル系界面活性剤については、具体的には、phoslexシリーズ(SC有機化学(株)製)、JPシリーズ(城北化学工業(株)製)、プラーサーフシリーズ(第一工業(株)製)、フォスファノールシリーズ(東邦化学工業(株)製)、NIKKOLシリーズ(日光ケミカルズ(株)製)などが挙げることができる。
【0043】
リン酸エステル系界面活性剤の中でも、より滑り性を向上して、良好な筆跡とすること、書き出し性能、書き味を向上することを考慮すれば、アルコキシエチル基(C2n+1O-CO)またはアルコキシ基(C2m+1O)を有するリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸モノエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル又はポリオキシエチレンアルキルアリールエーテルのリン酸ジエステルの中から選択されることが好ましい。
【0044】
さらに、リン酸エステル系界面活性剤の中でも、より滑り性を向上することで、ボール座の摩耗の抑制と、書き味、筆跡に線とび・カスレを良好とすることを考慮すれば、アルコキシエチル基(C2n+1O-CO)またはアルコキシ基(C2m+1O)を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、より考慮すれば、アルコキシル基(C2m+1O)を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましい。
【0045】
前記リン酸エステル系界面活性剤については、アルコキシエチル基(C2n+1O-CO)またはアルコキシ基(C2m+1O)の末端アルキル基の炭素鎖(n,m)については、1以上20以下とすることが好ましい。さらに、アルコキシエチル基(C2n+1O-CO)またはアルコキシ基(C2m+1O)の末端アルキル基の炭素鎖(n,m)が適度の長さを有すると、より滑り性を良好に保ちやすいため、前記末端アルキル基の炭素鎖(n,m)は、1以上20以下であることが好ましく、より考慮すれば、前記炭素鎖(n,m)は、1以上12以下であることが好ましく、前記炭素鎖(n,m)は、2以上12以下、3以上8以下、3以上6以下であることが好ましい。
【0046】
さらに、リン酸エステル系界面活性剤の中でも、より滑り性を向上することで、ボール座の摩耗の抑制と、書き味、筆跡に線とび・カスレを良好とすること、書き出し性能、書き味を向上することを考慮すれば、アルキル基を有するリン酸エステル系界面活性剤を用いることが好ましく、特に、アルキル基に含まれる炭素数が8以上18以下であることが好ましく、10以上18以下であることがより好ましく、12以上18以下であることがさらに好ましい。これは、アルキル基の炭素数が過度に少ないと、滑り性が不足しやすい傾向があり、炭素数が過度に多いと、経時安定性に影響が出やすい傾向があるためである。
上記したアルコキシエチル基(C2n+1O-CO)またはアルコキシ基(C2m+1O)を有するリン酸エステル系界面活性剤と、アルキル基を有するリン酸エステル系界面活性剤を併用する相互作用によって、より滑り性を向上しやすいため、本発明の効果が得られやすいため効果的であり、好ましい。
【0047】
また、リン酸エステル系界面活性剤を用いる場合は、酸価は、160(mgKOH/g)以下とすることが好ましく、120(mgKOH/g)以下とすることがより好ましく、100以下とすることがさらに好ましい、これは、リン酸エステル系界面活性剤による滑り性の向上を発揮しやすくするためである。さらに油性ボールペン用インキ組成物中での安定性や、潤滑性を考慮すれば、酸価は30(mgKOH/g)以上160(mgKOH/g)以下が好ましく、40(mgKOH/g)以上120(mgKOH/g)以下が好ましく、40(mgKOH/g)以上100(mgKOH/g)以下がより好ましい。
上記したアルコキシエチル基(C2n+1O-CO)またはアルコキシ基(C2m+1O)を有するリン酸エステル系界面活性剤と、特定の酸価を有するリン酸エステル系界面活性剤を併用する相互作用によって、より滑り性を向上しやすいため、本発明の効果が得られやすいため効果的であり、好ましい。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0048】
界面活性剤の含有量は、油性ボールペン用インキ組成物全量に対し、0.1質量%以上5.0質量%以下がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の、より滑り性を向上することで、ボール座の摩耗の抑制と、書き味、筆跡に線とび・カスレを良好とすること、書き出し性能が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすいためである。これらをより考慮すれば、油性ボールペン用インキ組成物全量に対する界面活性剤の含有量は、0.3質量%以上4.0質量%以下が好ましく、より考慮すれば、0.5質量%以上3.0質量%以下が好ましい。
【0049】
本発明による油性ボールペン用インキ組成物が界面活性剤を含む場合、界面活性剤、特に上記のようなグリセリンのアルキレンオキシド誘導体に対する、配合比(グリセリンのアルキレンオキシド誘導体/界面活性剤)が、質量基準で1倍以上30倍以下とすることが好ましく、1倍以上25倍以下とすることがより好ましく、1倍以上20倍以下とすることがより好ましく、1倍以上15倍以下がより好ましく、2倍以上15倍以下とすることがより好ましく、3倍以上15倍以下とすることが好ましく、5倍以上15倍以下とすることが最も好ましい。これは、上記範囲だと、滑り性と、書き味、インキ経時をバランスよく向上することが可能である。
【0050】
(有機アミン)
本発明による油性ボールペン用インキ組成物は、インキ組成物に含まれる成分の安定性を改良するために、有機アミンを含んでなることが好ましい。オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のエチレンオキシドを有するアミンや、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミンが挙げられ、その中でも、エチレンオキシドを有するアミン、ジメチルアルキルアミンが好ましい。そして、滑り性、経時安定性を良好とし、本発明の効果を得られやすくすることを考慮すれば、エチレンオキシドを有するアミンが好ましい。
【0051】
さらに、前記有機アミンの全アミン価は、前記界面活性剤、顔料やその他の成分との安定性を考慮すれば、100(mgKOH/g)以上300(mgKOH/g)以下とすることが好ましい。これは、300(mgKOH/g)を超えると、反応性が強すぎて、上記成分と反応し易いため、経時安定性が劣りやすい傾向があるためである。また、全アミン価が、100(mgKOH/g)未満であると、油性ボールペン用インキ組成物中での界面活性剤の安定性が低下する傾向があり、滑り性が低下する傾向がある。上記成分との安定性や滑り性の観点から、150(mgKOH/g)以上300(mgKOH/g)以下の範囲であることがより好ましい。また、安定性の観点から、180(mgKOH/g)以上300(mgKOH/g)以下であることが好ましく、230(mgKOH/g)以上270(mgKOH/g)以下であることがより好ましい。
なお、本発明において全アミン価は、1級、2級、3級アミンの総量を示すもので、試料1gを中和するのに要する塩酸に当量の水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0052】
また、有機アミンと油性ボールペン用インキ組成物中の他成分との反応性については、1級アミンが最も強く、次いで2級アミン、3級アミンと反応性が小さくなるので、経時安定性を考慮して、2級アミンまたは3級アミンを用いることが好ましい。これらは、単独または2種以上混合して使用してもよい。
【0053】
また、インキ粘度を調整しつつ、紙面への筆跡密着性を向上して、良好な筆跡とし、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好にするには、ロジン系樹脂を含んでなることが好ましい。ロジン系樹脂としては、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステルなどが挙げられるが、より筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好にすることを考慮すれば、ロジンエステル、水添ロジンエステルを用いることが、好ましい。さらに、テルペンフェノール樹脂の含有量を少なくすることも可能となるため、インキ膜も強固になりにくいため、筆記先端部の書き出し性能を良好としやすいため、テルペンフェノール樹脂と併用して用いることが好ましい。
【0054】
ロジン系樹脂の軟化点については、より紙面への筆跡密着性(筆記性)を向上して、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好としやすいことを考慮すれば、50℃以上150℃以下であることが好ましく、より考慮すれば、60℃以上130℃以下であることが好ましく、65℃以上115℃以下であることが好ましい。ここで、前記樹脂の軟化点はJIS K2207に準じて測定した値である。
【0055】
ロジン系樹脂の含有量は、油性ボールペン用インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、紙面への筆跡密着性(筆記性)を得るには十分な効果が得られにくい。また、油性ボールペン用インキ組成物全量に対する樹脂の含有量が20質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすく、インキ粘度が高くなりすぎて、インキ消費量の低下や、書き味、書き出し性能に影響しやすい。このため、油性ボールペン用インキ組成物全量に対する樹脂の総含有量は、0.1質量%以上20質量%以下が好ましく、より考慮すれば、1質量%以上15質量%以下が好ましく、5質量%以上12質量%以下が好ましい。
【0056】
(樹脂)
本発明の油性ボールペン用インキ組成物は、テルペンフェノール樹脂、ロジン系樹脂以外の樹脂として、紙面への筆跡密着性、筆記先端部のインキ漏れ抑制を向上するために、その他の樹脂を含んでなることが好ましい。その他の樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、アミド樹脂、ロジン樹脂、テルペンフェノール樹脂、アルキルフェノール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、スチレン-マレイン酸樹脂、エチレン-マレイン酸樹脂、スチレン-アクリル樹脂、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、セルロース樹脂、石油樹脂、クマロン-インデン樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリメタクリル酸エステル、ケトン-ホルムアルデヒド樹脂、α-及びβ-ピネン・フェノール重縮合樹脂などが挙げられる。これらは単独又は2種以上用いても良い。
【0057】
これらの樹脂の中でも、より紙面への筆跡密着性(筆記性)を向上して、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好とし、滑り性、筆記先端部のインキ漏れ抑制を考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。より滑り性、筆記先端部のインキ漏れ抑制を考慮すれば、油性ボールペン用インキ組成物に含まれる樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂がより好ましく、より考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂がより好ましい。
【0058】
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、より紙面への筆跡密着性(筆記性)を向上して、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性を良好とし、滑り性、筆記先端部のインキ漏れ抑制を考慮すれば、平均重合度は100以上2,000が好ましく、より考慮すれば、平均重合度は、100以上1,500以下が好ましく、200以上1,000以下がより好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
【0059】
また、ポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、水酸基量25mol%未満のポリビニルブチラール樹脂では、アルキレングリコールアルキルエーテル溶剤への溶解性が十分でなく、本発明の効果が得られにくく、より考慮すれば、水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂が、好ましく、さらに、滑り性を向上や、書き味を向上しやすいため、好ましい。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30mol%以上40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30mol%以上36mol%以下が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0060】
樹脂の含有量は、油性ボールペン用インキ組成物全量に対し、3質量%より少ないと、紙面への筆跡密着性や、滑り性、インキ漏れ抑制の効果を得るには十分な効果が得られにくい。また、油性ボールペン用インキ組成物全量に対する樹脂の総含有量が40質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすく、インキ粘度が高くなりすぎて、インキ消費量の低下や、書き味、書き出し性能に影響しやすい。このため、油性ボールペン用インキ組成物全量に対する樹脂の総含有量は、3質量%以上40質量%以下が好ましく、より考慮すれば、5質量%以上30質量%以下が好ましく、10質量%以上25質量%以下が好ましい。
【0061】
また、その他として、本発明の油性ボールペン用インキ組成物は、染料、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、消泡剤、水、擬塑性付与剤などを適宜含んでいても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0062】
本発明の油性ボールペン用インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度が15000mPa・sを超えると、筆記時のボール回転抵抗が大きくなり、書き味が重くなりやすく、さらに書き出し性能、インキ追従性能に影響が生じやすく、良好な筆跡とするためには、20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度は、15000mPa・s以下であることが好ましい。より書き出し性能、インキ追従性能を向上して、良好な筆跡とするためには、10000mPa・s以下が好ましく、より考慮すれば、8000mPa・s以下であることが好ましく、さらに6000mPa・s以下であることが好ましい。また、20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度が10mPa・s未満の場合には、筆跡に滲みやインキ漏れの影響が出やすいため、20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度が10mPa・s以上であることが好ましく、より考慮すれば、インキ粘度が100mPa・s以上であることが好ましく、さらにインキ粘度が5mPa・s以上であることが好ましい。
【0063】
(油性ボールペン)
また、油性ボールペンの100mあたりのインキ消費量は、20mg以上100以下mgであることが好ましい。これは、上記範囲であると、濃い筆跡、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性が良好であり、書き味を良好とすることができるためであり、より考慮すれば、20mg以上80以下mg、30mg以上70以下mgであることが好ましい。
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度70°、筆記荷重200gの条件にて、筆記速度4m/minの速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。
【0064】
また、本発明で用いる油性ボールペンチップのボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1nm以上12nm以下とすること好ましい。これはボール表面に十分にインキが載ることで、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性が良好であり、書き味、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を良好とするためであり、より考慮すれば、前記算術平均粗さ(Ra)が1nm以上10nm以下であることが好ましく、より好ましくは、2nm以上8nm以下である。なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
【0065】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
【0066】
また、ボ-ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられるが、ボール座の摩耗、経時安定性を考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
【0067】
また、本発明に用いるボールペンチップのボールの縦軸方向の移動量が、3μm以上30μm以下とするのが好ましい。これは、筆跡に線とび・カスレがなく、筆記性が良好であり、書き味、高筆圧下(筆記荷重300~500gf)におけるボール座の摩耗抑制を良好とするためであり、より考慮すれば、10μm以上25μm以下とするのが好ましく、12μm以上25μmとするのが好ましい。
【0068】
前記インキ収容筒にインキを直接収容する場合、インキの後端にはインキ逆流防止体を充填することもできる。
前記インキ逆流防止体組成物は不揮発性液体又は難揮発性液体からなる。
具体的には、ワセリン、スピンドル油、ヒマシ油、オリーブ油、精製鉱油、流動パラフィン、ポリブテン、α-オレフィン、α-オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、アミノ変性シリコーンオイル、ポリエーテル変性シリコーンオイル、脂肪酸変性シリコーンオイル等があげられ、一種又は二種以上を併用することもできる。
【0069】
前記不揮発性液体及び/又は難揮発性液体は、増粘剤を添加して好適な粘度まで増粘させることが好ましく、前記増粘剤としては表面を疎水処理したシリカ、表面をメチル化処理した微粒子シリカ、珪酸アルミニウム、膨潤性雲母、疎水処理を施したベントナイトやモンモリロナイトなどの粘土系増粘剤、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛等の脂肪酸金属石鹸、トリベンジリデンソルビトール、脂肪酸アマイド、アマイド変性ポリエチレンワックス、水添ひまし油、脂肪酸デキストリン等のデキストリン系化合物、セルロース系化合物等を挙げることができる。
更に、前記液状のインキ逆流防止体と、固体のインキ逆流防止体を併用することもできる。
【0070】
実施例1
実施例1の油性ボールペン用インキ組成物は、ディスパー攪拌機を用いて、60℃にて、着色剤、有機溶剤、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体、リン酸エステル系界面活性剤、有機アミン、樹脂を採取し、攪拌して溶解させた後、室温冷却して油性ボールペン用インキ組成物を得た。
具体的な配合量は下記の通りである。
【0071】
顔料分散体(カーボンブラック、平均粒子径150nm、顔料20%含有、ポリビニルブチラール20%含有) 40.0質量%
アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 21.0質量%
ポリオキシアルキレングリセリルエーテル(式(1)、ポリオキシプロピレンジグリセリルエーテル) 20.0質量%
リン酸エステル系界面活性剤(アルキル基に含まれる炭素数18、酸価85(mgKOH/g)) 2.0質量%
有機アミン(ポリオキシエチレンアルキルアミン) 2.0質量%
テルペンフェノール樹脂((重量平均分子量550、軟化点100℃、水酸基価60(mgKOH/g)) 5.0質量%
ロジン系樹脂(ロジンエステル(軟化点100~110℃))10.0質量%
ポリビニルピロリドン 0.5質量%
【0072】
実施例2~21
表1に示すように、インキ成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順で実施例2~21の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
【0073】
比較例1~2
表に示すように、インキ成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1~2の油性ボールペン用インキ組成物を得た。表に測定、評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【表3】
【0074】
試験および評価
実施例1~21および比較例1~2で作製した油性ボールペン用インキ組成物(0.27g)を、インキ収容筒(ポリプロピレン)に、ボール径がφ0.7mmのボールを回転自在に抱持したボールペン用チップ(チップ内にボールを直接チップ先端縁の内壁に押圧したコイルスプリングを有する、ボールの軸方向の移動量:8μm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra):5nm)を装着した油性ボールペン用レフィルに充填し、油性ボールペンを作製した。筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
【0075】
筆記性能試験(線とび・カスレ):荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて、100m筆記試験後の筆跡を観察した。
◎・・・筆跡に線とび・カスレがないもの
○・・・筆跡に線とび・カスレが若干あるもの
△・・・筆跡に線とび・カスレがあるが、実用上問題ないレベルのもの
×・・・筆跡に線とび・カスレが多いもの
【0076】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
◎・・・非常に滑らかなもの
○・・・滑らかであるもの
△・・・実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの
×・・・重いもの
【0077】
耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験):荷重400gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
◎・・・ボール座の摩耗が5μm未満のもの
○・・・ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満であるもの
△・・・ボール座の摩耗が10μm以上、20μm未満であるが、筆記可能であるもの
×・・・ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうのもの
【0078】
書き出し性能試験:手書き筆記した後、チップ先端部を出したまま20℃、65%RHの環境下に24時間放置し、その後、走行試験で下記筆記条件にて筆記し、書き出しにおける筆跡カスレの長さを測定した。
<筆記条件>筆記荷重200gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
◎・・・筆跡カスレの長さが、5mm未満であるもの
○・・・筆跡カスレの長さが、5mm以上、10mm未満であるもの
△・・・筆跡カスレの長さが、10mm以上、20mm未満であるもの
×・・・筆跡カスレの長さが、20mm以上であるもの
【0079】
実施例1~21では、筆記性能試験(線とび・カスレ)、書き味、耐摩耗試験、書き出し性能試験ともに良好な性能が得られた。さらに、着色剤として顔料を用いているが、顔料分散性が良く、安定していた。
なお、油性ボールペン用インキ組成物について、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して、実施例1、2、3のインキ粘度を測定したところ、20℃の環境下、剪断速度5sec-1(回転数2.5rpm)における実施例1:インキ粘度=3000mPa・s、実施例9:インキ粘度=5000mPa・sであった。
【0080】
比較例1では、テルペンフェノール樹脂を用いなかったため、筆記性能試験(線とび・カスレ)では、十分な効果が得られなかった。
【0081】
比較例2では、グリセリンのアルキレンオキシド誘導体を用いなかったため、筆記性能試験(線とび・カスレ)、耐摩耗試験では、十分な効果が得られなかった。
【0082】
また、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具(出没式ボールペン)を用いた場合では、筆跡に線とび・カスレの影響が出やすいため、本発明のような油性ボールペン用インキ組成物を用いると効果的である。
【0083】
また、インキ漏れ抑制や、書き出し性能を向上するためには、ボールペンチップ先端に回転自在に抱持したボールを、コイルスプリングにより直接又は押圧体を介してチップ先端縁の内壁に押圧して、筆記時の押圧力によりチップ先端縁の内壁とボールに間隙を与えインキを流出させる弁機構を具備し、チップ先端の微少な間隙も非使用時に閉鎖することが好ましい。
【0084】
また、本実施例では、便宜上、軸筒内に、筆記具用インキ組成物を直に収容した油性ボールペン用レフィルを収容した油性ボールペンを例示しているが、本発明の筆記具は、軸筒をインキ収容筒とし、軸筒内に、筆記具用インキ組成物を直に収容した直詰め式のボールペン、マーキングペン、サインペンとした筆記具であってもよい。
また、本実施例では便宜上、線材を切削によって形成したボールペンチップを例示しているが、パイプ材を押圧加工によって形成するボールペンチップであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、筆記具として利用でき、さらに詳細としては、キャップ式、出没式等の筆記具としてボールペンとして広く利用することができる。