(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033681
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】装飾部材、その製造方法および装飾品
(51)【国際特許分類】
C23C 14/06 20060101AFI20240306BHJP
C23C 14/16 20060101ALI20240306BHJP
A44C 5/00 20060101ALI20240306BHJP
A44C 27/00 20060101ALI20240306BHJP
B32B 33/00 20060101ALI20240306BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20240306BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C23C14/06 N
C23C14/16 C
A44C5/00 E
A44C27/00
B32B33/00
B32B15/04 Z
B32B9/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137419
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 利磨
(72)【発明者】
【氏名】塚原 由紀子
【テーマコード(参考)】
3B114
4F100
4K029
【Fターム(参考)】
3B114JA00
4F100AA12B
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4K029AA02
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4K029CA06
4K029DC04
4K029DC09
4K029DC34
4K029DC35
4K029EA01
(57)【要約】
【課題】耐摩耗性に優れており、長期間使用しても貴金属由来の色感が保たれる装飾部材を提供すること。
【解決手段】装飾部材は、基材と、基材上に形成された装飾被膜とを含む装飾部材であって、前記装飾被膜は、基材側から下地層、調整層および仕上げ層が積層されてなり、前記下地層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、前記仕上げ層は、Au合金を含み、前記調整層は、前記基材側から少なくとも第1調整層および第2調整層が積層された積層構造を有し、前記第1調整層は、Au合金を含み、前記第2調整層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、前記第1調整層の厚さは、0.005μm以上0.016μm以下であり、前記第2調整層の厚さは、0.039μm以上0.065μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材上に形成された装飾被膜とを含む装飾部材であって、
前記装飾被膜は、基材側から下地層、調整層および仕上げ層が積層されてなり、
前記下地層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、
前記仕上げ層は、Au合金を含み、
前記調整層は、前記基材側から少なくとも第1調整層および第2調整層が積層された積層構造を有し、前記第1調整層は、Au合金を含み、前記第2調整層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、
前記第1調整層の厚さは、0.005μm以上0.016μm以下であり、前記第2調整層の厚さは、0.039μm以上0.065μm以下である、
装飾部材。
【請求項2】
前記調整層は、前記基材側から前記第1調整層および前記第2調整層に加え、第3調整層および第4調整層が積層された積層構造を有し、前記第3調整層は、Au合金を含み、前記第4調整層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、
前記第3調整層および前記第4調整層の厚さは、それぞれ0.005μm以上0.016μm以下である、
請求項1に記載の装飾部材。
【請求項3】
前記装飾部材は、L*a*b*表色系において、L*が75以上100以下、a*が0以上20以下、b*が5以上25以下であり、あるいは、L*C*h表色系で表すと、L*が75以上100以下、C*が5以上32以下、hが14°以上90°以下である、
請求項1または2に記載の装飾部材。
【請求項4】
前記下地層および前記第2調整層それぞれにおいて、前記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で22質量%以上66質量%以下、Tiを20質量%以上50質量%以下、窒素を7質量%以上19質量%以下、炭素を4質量%以上15質量%以下の量で含む、
請求項1に記載の装飾部材。
【請求項5】
前記下地層、前記第2調整層および前記第4調整層それぞれにおいて、前記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で22質量%以上66質量%以下、Tiを20質量%以上50質量%以下、窒素を7質量%以上19質量%以下、炭素を4質量%以上15質量%以下の量で含む、
請求項2に記載の装飾部材。
【請求項6】
前記仕上げ層および前記第1調整層それぞれにおいて、前記Au合金は、Au、CuおよびPdを含む合金であり、Au、PdおよびCuの合計を100質量%としたときに、Auを62.0質量%以上94.5質量%以下、Pdを0.5質量%以上17.0質量%以下、Cuを5.0質量%以上21.0質量%以下の量で含む、
請求項1に記載の装飾部材。
【請求項7】
前記仕上げ層、前記第1調整層および前記第3調整層それぞれにおいて、前記Au合金は、Au、PdおよびCuを含む合金であり、Au、PdおよびCuの合計を100質量%としたときに、Auを62.0質量%以上94.5質量%以下、Pdを0.5質量%以上17.0質量%以下、Cuを5.0質量%以上21.0質量%以下の量で含む、
請求項2に記載の装飾部材。
【請求項8】
前記下地層は、L*a*b*表色系において、L*が67.03以上71.27以下、a*が5.45以上7.39以下、b*が12.57以上16.83以下であり、あるいは、L*C*h表色系で表すと、L*が67.03以上71.27以下、C*が13.70以上18.38以下、hが59.55°以上72.06°以下である、
請求項1または2に記載の装飾部材。
【請求項9】
基材と、基材上に形成された装飾被膜とを含む装飾部材の製造方法であって、
前記装飾被膜は、基材側から下地層、調整層および仕上げ層が積層されてなり、
前記調整層は、前記基材側から少なくとも第1調整層および第2調整層が積層された積層構造を有し、
前記基材に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含む前記下地層を積層する下地層積層工程と、
前記下地層積層工程で積層した前記下地層上に、Au合金を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である前記第1調整層を積層し、前記第1調整層上に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、厚さが0.039μm以上0.065μm以下である前記第2調整層を積層する調整層積層工程と、
前記調整層積層工程で積層した前記第2調整層上に、Au合金を含む前記仕上げ層を積層する仕上げ層積層工程とを含む、
装飾部材の製造方法。
【請求項10】
前記調整層は、前記基材側から前記第1調整層および前記第2調整層に加え、第3調整層および第4調整層が積層された積層構造を有し、
前記調整層積層工程は、下地層積層工程で積層した前記下地層上に、Au合金を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である前記第1調整層を積層し、前記第1調整層上に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、厚さが0.039μm以上0.065μm以下である前記第2調整層を積層し、さらに、前記第2調整層上に、Au合金を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である前記第3調整層を積層し、前記第3調整層上に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である前記第4調整層を積層する工程であり、
前記仕上げ層積層工程は、前記調整層積層工程で積層した前記第4調整層上に、Au合金を含む前記仕上げ層を積層する工程である、
請求項9に記載の装飾部材の製造方法。
【請求項11】
請求項1または2に記載の装飾部材を含む装飾品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装飾部材、その製造方法および装飾品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、基材と、基材上に形成された装飾被膜とからなる装飾部材において、装飾被膜として、基材側から下地層、調整層および仕上げ層が積層されている構成が記載されている。ここで、下地層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物からなる窒炭化物層であり、仕上げ層は、Au合金層である。また、調整層は、Au合金層と、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物からなる窒炭化物層とが交互に積層された積層構造を有する。さらに、このAu合金層および窒炭化物層の厚さは、それぞれ0.005μm以上0.016μm以下であることが好ましいと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されている装飾部材は、耐摩耗性に改善の余地があり、長期間使用すると、貴金属由来の色感が失われる問題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、耐摩耗性に優れており、長期間使用しても貴金属由来の色感が保たれる装飾部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の装飾部材は、基材と、基材上に形成された装飾被膜とを含む装飾部材であって、上記装飾被膜は、基材側から下地層、調整層および仕上げ層が積層されてなり、上記下地層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、上記仕上げ層は、Au合金を含み、上記調整層は、上記基材側から少なくとも第1調整層および第2調整層が積層された積層構造を有し、上記第1調整層は、Au合金を含み、上記第2調整層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、上記第1調整層の厚さは、0.005μm以上0.016μm以下であり、上記第2調整層の厚さは、0.039μm以上0.065μm以下である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の装飾部材は、耐摩耗性に優れており、長期間使用しても貴金属由来の色感が保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態1の装飾部材を説明するための図である。
【
図2】
図2は、実施形態2の装飾部材を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換または変更を行うことができる。
【0010】
<実施形態の装飾部材>
実施形態の装飾部材は、基材と、基材上に形成された装飾被膜とを含む。装飾被膜は、基材側から下地層、調整層および仕上げ層が積層されてなる。調整層は、基材側から少なくとも第1調整層および第2調整層が積層された積層構造を有する。以下では、実施形態の装飾部材についてより具体的に説明する。
【0011】
[実施形態1]
図1は、実施形態1の装飾部材を説明するための図である。すなわち、
図1は、装飾部材1の断面模式図である。実施形態1の装飾部材は、基材10と、基材10上に形成された装飾被膜20とを含む。装飾被膜20は、基材10側から下地層22、調整層24および仕上げ層26が積層されてなる。
【0012】
〔基材〕
基材10は、たとえば金属、セラミックスまたはプラスチックから形成される。金属(合金を含む)として、具体的にはステンレス鋼、チタン、チタン合金、銅、銅合金、タングステンまたは硬質化処理したステンレス鋼、チタン、チタン合金などが挙げられる。これらの金属は、単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、基材10の形状については特に限定されない。
【0013】
〔下地層〕
下地層22は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含む。上記特定の金属を含む窒炭化物によれば、Au合金に近い金色を示す下地層22が形成できる。また、Nbおよび/またはTaとTiとを組み合わせると、下地層22の膜硬度が大きくなるため、装飾部材1の耐傷性、耐摩耗性が向上する。このように基材10よりも十分に硬い下地層22があると傷に強くなり、調整層24および仕上げ層26が剥がれにくくなる。さらに、Nbおよび/またはTaとTiとを組み合わせることにより、装飾部材1の耐食性も向上する。
【0014】
上記金属の窒炭化物においては、Nbを単独で使用しても、Taを単独で使用しても、NbおよびTaを組み合わせて使用してもよい。Taは、Nbよりも原子量が大きいため、Taを用いると膜硬度が増加し、装飾部材1の耐傷性、耐摩耗性を向上させ得る。
【0015】
下地層22において、上記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で22質量%以上66質量%以下、Tiを20質量%以上50質量%以下、窒素を7質量%以上19質量%以下、炭素を4質量%以上15質量%以下の量で含むことが好ましい。また、下地層22において、上記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で40質量%以上44質量%以下、Tiを37質量%以上40質量%以下、窒素を9質量%以上18質量%以下、炭素を5質量%以上7質量%以下の量で含むことがより好ましい。色調および膜硬度の観点から金属元素および非金属元素の量が上記範囲にあることが好ましい。
【0016】
下地層22の厚さは、色調および膜硬度の観点から、好ましくは0.05μm以上3μm以下、より好ましくは0.05μm以上2μm以下であることが望ましい。また、下地層22の厚さが0.065μmより厚い場合、基材10の色の影響を抑制できる。
【0017】
下地層22の膜硬度は、耐傷性、耐摩耗性の観点から、HV1000以上であることが好ましい。たとえば、上記金属の窒炭化物を構成する金属元素および非金属元素の量や膜厚を適宜変更すると、膜硬度を上記範囲に調整できる。なお、下地層22の膜硬度は、基材10上に設けた下地層22について測定した値である。
【0018】
下地層22は、L*a*b*表色系において、L*が67.03以上71.27以下、a*が5.45以上7.39以下、b*が12.57以上16.83以下であることが好ましく、あるいは、L*C*h表色系で表すと、L*が67.03以上71.27以下、C*が13.70以上18.38以下、hが59.55°以上72.06°以下であることが好ましい。L*、a*、b*またはL*、C*、hが上記範囲にあると、Au合金に近い金色が実現でき、調整層24および仕上げ層26を設けることでより好ましい金色となる。また、装飾部材1を長期間使用して摩耗が生じた場合も、変色感を軽減できる。たとえば、上記金属の窒炭化物を構成する金属元素および非金属元素の量や膜厚を適宜変更すると、L*、a*、b*またはL*、C*、hを上記範囲に調整できる。なお、下地層22のL*、a*、b*は、基材10上に設けた下地層22について測定した値である。また、C*、hの色調範囲は、測定したa*、b*の値から得られたa*、b*の範囲を数学的に変換して求められる色調範囲である。
【0019】
〔調整層〕
調整層24は、基材10側から第1調整層241および第2調整層242が積層された積層構造を有し、第1調整層241は、Au合金を含み、第2調整層242は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含む。上記積層構造によれば、Au合金に近い金色を示す調整層24が形成できる。なお、調整層24において、下地層22に接する層は第1調整層241であり、仕上げ層26に接する層は第2調整層242である。
【0020】
第1調整層241において、Au合金としては、Au-Ni合金、Au-Pt合金、Au-Cu合金が挙げられる。Au-Cu合金の中でも、金色の色味の観点から、さらにPd、Pt、Rhなどの銀色を示す金属を混ぜ合わせた合金が好適に用いられる。
【0021】
第1調整層241において、上記Au、PdおよびCuを含む合金を用いる場合は、Au、PdおよびCuの合計を100質量%としたときに、Auを62.0質量%以上94.5質量%以下、Pdを0.5質量%以上17.0質量%以下、Cuを5.0質量%以上21.0質量%以下の量で含むことが好ましい。金属元素の量が上記範囲にあると、より好ましい金色を呈する。
【0022】
第2調整層242において、上記特定の金属を含む窒炭化物によれば、Au合金に近い金色を示す第2調整層242が形成できる。また、Nbおよび/またはTaとTiとを組み合わせると、第2調整層242の膜硬度が大きくなるため、装飾部材1の耐傷性、耐摩耗性が向上する。さらに、Nbおよび/またはTaとTiとを組み合わせることにより、装飾部材1の耐食性も向上する。
【0023】
上記金属の窒炭化物においては、Nbを単独で使用しても、Taを単独で使用しても、NbおよびTaを組み合わせて使用してもよい。Taは、Nbよりも原子量が大きいため、Taを用いると膜硬度が増加し、装飾部材1の耐傷性、耐摩耗性を向上させ得る。また、Nbを単独で用いることは色調の明るさと材料費の点で好ましい。
【0024】
第2調整層242において、上記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で22質量%以上66質量%以下、Tiを20質量%以上50質量%以下、窒素を7質量%以上19質量%以下、炭素を4質量%以上15質量%以下の量で含むことが好ましい。また、第2調整層242において、上記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で40質量%以上44質量%以下、Tiを37質量%以上40質量%以下、窒素を9質量%以上18質量%以下、炭素を5質量%以上7質量%以下の量で含むことがより好ましい。色調および膜硬度の観点から金属元素および非金属元素の量が上記範囲にあることが好ましい。
【0025】
第1調整層241の厚さは、0.005μm以上0.016μm以下であり、第2調整層242の厚さは、0.039μm以上0.065μm以下である。第1調整層241および第2調整層242の厚さを上記範囲としているため、装飾部材1は、耐摩耗性に優れており、長期間使用しても貴金属由来の色感が保たれる。これについて、下記に詳しく説明する。
【0026】
装飾部材1は、使用に伴って、仕上げ層26が摩耗し、第2調整層242が露出した摩耗部が出現し得る。しかし、第2調整層242の厚さが0.039μm以上であるため、装飾部材1を長期間使用しても、第2調整層242は摩耗され難く、ここで摩耗を食い止められる。また、第2調整層242の厚さは0.065μm以下であるため、上記摩耗部では、第1調整層241の反射を反映でき、第1調整層241の貴金属由来の色味が透けて感じられる。このため、第2調整層242が露出した摩耗部は目立たず、摩耗部における色調や色感の変化を小さく抑えられる。すなわち、長期間使用しても、装飾部材1は、貴金属由来の色感が保たれ、審美性が低下し難い。
【0027】
〔仕上げ層〕
仕上げ層26は、Au合金を含む。上記Au合金によれば、金色の仕上げ層26が形成できる。Au合金としては、Au-Ni合金、Au-Pt合金、Au-Cu合金が挙げられる。Au-Cu合金の中でも、金色の色味の観点から、さらにPd、Pt、Rhなどの銀色を示す金属を混ぜ合わせた合金が好適に用いられる。
【0028】
仕上げ層26において、上記Au、PdおよびCuを含む合金を用いる場合は、Au、PdおよびCuの合計を100質量%としたときに、Auを62.0質量%以上94.5質量%以下、Pdを0.5質量%以上17.0質量%以下、Cuを5.0質量%以上21.0質量%以下の量で含むことが好ましい。金属元素の量が上記範囲にあると、より好ましい金色を呈する。
【0029】
仕上げ層26の厚さは、0.024μm以上0.150μm以下であることが好ましく、0.024μm以上0.102μm以下であることがより好ましい。仕上げ層26が好ましい金色を呈するためには、仕上げ層26の厚さは0.024μm以上であることが好ましい。一方、仕上げ層26は、硬度が低く傷が発生しやすく、また摩耗を起こしやすい。したがって、耐傷性を考慮した場合、仕上げ層26の膜厚は薄い方がよい。また、0.1μmを大きく超える膜を形成しても色調の変化は小さく、さらに製造上のコストも高くなる。よって、仕上げ層26の厚さは0.150μm以下であることが好ましく、0.102μm以下であることがより好ましい。
【0030】
仕上げ層26の膜硬度は、通常HV100以上400以下程度であり、好ましくはHV150以上400以下程度である。たとえば、Au合金を構成する金属元素の量を適宜変更すると、膜硬度を上記範囲に調整できる。なお、仕上げ層26の膜硬度は、基材10上に直接設けた仕上げ層26について測定した値である。
【0031】
実施形態1の装飾部材は、金色を有しているが、具体的には、L*a*b*表色系において、L*が75以上100以下、a*が0以上20以下、b*が5以上25以下であり、あるいは、L*C*h表色系で表すと、L*が75以上100以下、C*が5以上32以下、hが14°以上90°以下であることが好ましい。L*、a*、b*またはL*、C*、hが上記範囲にあると、装飾部材は好ましい金色を呈する。なお、C*、hの色調範囲は、上述のように、測定したa*、b*の値から得られたa*、b*の範囲を数学的に変換して求められる色調範囲である。
【0032】
[実施形態2]
図2は、実施形態2の装飾部材を説明するための図である。すなわち、
図2は、装飾部材2の断面模式図である。実施形態2の装飾部材は、基材10と、基材10上に形成された装飾被膜20とを含む。装飾被膜20は、基材10側から下地層22、調整層24および仕上げ層26が積層されてなる。装飾部材2において、基材10、下地層22および仕上げ層26については、実施形態1のものと同様であるため、説明を省略する。
【0033】
調整層24は、基材10側から第1調整層241および第2調整層242に加え、第3調整層243および第4調整層244が積層された積層構造を有し、第1調整層241および第3調整層243は、Au合金を含み、第2調整層242および第4調整層244は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含む。上記積層構造によれば、Au合金に近い金色を示す調整層24が形成できる。なお、調整層24において、下地層22に接する層は第1調整層241であり、仕上げ層26に接する層は第4調整層244である。
【0034】
第1調整層241および第3調整層243において、Au合金としては、Au-Ni合金、Au-Pt合金、Au-Cu合金が挙げられる。Au-Cu合金の中でも、金色の色味の観点から、さらにPd、Pt、Rhなどの銀色を示す金属を混ぜ合わせた合金が好適に用いられる。
【0035】
第1調整層241および第3調整層243それぞれにおいて、上記Au、PdおよびCuを含む合金を用いる場合は、Au、PdおよびCuの合計を100質量%としたときに、Auを62.0質量%以上94.5質量%以下、Pdを0.5質量%以上17.0質量%以下、Cuを5.0質量%以上21.0質量%以下の量で含むことが好ましい。金属元素の量が上記範囲にあると、より好ましい金色を呈する。
【0036】
第2調整層242および第4調整層244において、上記特定の金属を含む窒炭化物によれば、Au合金に近い金色を示す第2調整層242および第4調整層244が形成できる。また、Nbおよび/またはTaとTiとを組み合わせると、第2調整層242および第4調整層244の膜硬度が大きくなるため、装飾部材2の耐傷性、耐摩耗性が向上する。さらに、Nbおよび/またはTaとTiとを組み合わせることにより、装飾部材2の耐食性も向上する。
【0037】
上記金属の窒炭化物においては、Nbを単独で使用しても、Taを単独で使用しても、NbおよびTaを組み合わせて使用してもよい。Taは、Nbよりも原子量が大きいため、Taを用いると膜硬度が増加し、装飾部材2の耐傷性、耐摩耗性を向上させ得る。また、Nbを単独で用いることは色調の明るさと材料費の点で好ましい。
【0038】
第2調整層242および第4調整層244それぞれにおいて、上記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で22質量%以上66質量%以下、Tiを20質量%以上50質量%以下、窒素を7質量%以上19質量%以下、炭素を4質量%以上15質量%以下の量で含むことが好ましい。また、第2調整層242および第4調整層244それぞれにおいて、上記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で40質量%以上44質量%以下、Tiを37質量%以上40質量%以下、窒素を9質量%以上18質量%以下、炭素を5質量%以上7質量%以下の量で含むことがより好ましい。色調および膜硬度の観点から金属元素および非金属元素の量が上記範囲にあることが好ましい。
【0039】
第1調整層241の厚さは、0.005μm以上0.016μm以下であり、第2調整層242の厚さは、0.039μm以上0.065μm以下である。また、第3調整層243および第4調整層244の厚さは、それぞれ0.005μm以上0.016μm以下である。第1調整層241、第2調整層242、第3調整層243および第4調整層244の厚さを上記範囲としているため、装飾部材2は、耐摩耗性に優れており、長期間使用しても貴金属由来の色感が保たれる。これについて、下記に詳しく説明する。
【0040】
装飾部材2は、短期間の使用では、仕上げ層26が摩耗し、第4調整層244が露出した浅い摩耗部が出現し得る。この浅い摩耗部では、第4調整層244の厚さが薄いため、第3調整層243の反射をより反映でき、第3調整層243の貴金属由来の色味がより透けて感じられる。このため、第4調整層244が露出した浅い摩耗部はより目立ち難く、浅い摩耗部における色調や色感の変化をより小さく抑えられる。装飾部材2は、短期間の使用では、貴金属由来の色感がより保たれ、審美性がより低下し難い。
さらに装飾部材2の使用を続けると、厚さが薄い第4調整層244および第3調整層243が摩耗し、第2調整層242が露出した深い摩耗部となり得る。第2調整層242の厚さは0.039μm以上であるため、装飾部材2を長期間使用しても、第2調整層242は摩耗され難く、ここで摩耗を食い止められる。また、第2調整層242の厚さは0.065μm以下であるため、上記深い摩耗部でも、第1調整層241の反射を反映でき、第1調整層241の貴金属由来の色味が透けて感じられる。このため、第2調整層242が露出した深い摩耗部は目立たず、深い摩耗部における色調や色感の変化を小さく抑えられる。すなわち、長期間使用しても、装飾部材2は、貴金属由来の色感が保たれ、審美性が低下し難い。
このように、装飾部材2は、第3調整層243および第4調整層244を設けたことにより、装飾部材1よりも、短期間の使用の際に、貴金属由来の色感をより保つことができ、審美性の低下をより抑えられる利点がある。
【0041】
実施形態2の装飾部材は、金色を有しているが、具体的には、L*a*b*表色系において、L*が75以上100以下、a*が0以上20以下、b*が5以上25以下であり、あるいは、L*C*h表色系で表すと、L*が75以上100以下、C*が5以上32以下、hが14°以上90°以下であることが好ましい。L*、a*、b*またはL*、C*、hが上記範囲にあると、装飾部材は好ましい金色を呈する。なお、C*、hの色調範囲は、上述のように、測定したa*、b*の値から得られたa*、b*の範囲を数学的に変換して求められる色調範囲である。
【0042】
[その他の実施形態]
実施形態1、2の装飾部材に対して、基材10と下地層22との間に、さらに他の層が設けられている装飾部材であってもよい。
【0043】
たとえば、このようなその他の実施形態の装飾部材では、基材側から密着層、硬化傾斜層、硬化層、下地傾斜層、下地層、調整層および仕上げ層がこの順で積層されている。なお、その他の実施形態の装飾部材において、基材、下地層、調整層および仕上げ層は、実施形態1、2で説明したものと同様である。
【0044】
〔密着層〕
金属層からなる密着層は基材との密着性に優れるため、密着層を設けると装飾部材の耐傷性を向上できる。
【0045】
具体的には、密着層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属からなるTi合金層であることが好ましい。
【0046】
密着層において、密着性を向上させる観点から、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとの合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種が合計で25質量%以上75質量%以下、Tiが25質量%以上75質量%以下の量で含まれることが好ましい。
【0047】
また、密着層は、酸素を含んでいてもよいTiからなるTi層であることも好ましい。密着層としてTi層を設けると、ステンレス鋼に対しても高い密着性が得られるため、高い耐傷性を確保できる。Ti層は、ステンレス鋼に限らずSK材、真鍮等の基材との相性もよく、これら基材とも高い密着性を示す。
【0048】
密着層の厚さは、密着性の観点から、0.02μm以上0.5μm以下であることが好ましい。密着層を0.5μmよりも厚くしても密着性に差はなく、また製造コストも高くなることから密着層の厚さは上記範囲が好ましい。
【0049】
密着層として、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属からなるTi合金層と、酸素を含んでいてもよいTiからなるTi層とを積層して用いてもよい。この場合は、それぞれの層が上記範囲の厚さを有していることが好ましい。
【0050】
密着層の膜硬度は、HV200以上1000以下であることが好ましい。膜の硬度と膜の応力(基材から離れようとする力)は比例関係にあることから密着層の膜硬度はできるだけ低い方が望ましい。たとえば、構成元素の量や膜厚を適宜変更すると、膜硬度を上記範囲に調整できる。
【0051】
〔硬化傾斜層〕
硬化傾斜層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒化物からなる窒化物層であり、硬化傾斜層中の窒素量は、装飾被膜の厚さ方向に基材から離れるにつれて変化している。窒素量の変化の仕方は、膜応力緩和、膜硬度維持の観点から、装飾被膜の厚さ方向に基材から離れるにつれて、硬化傾斜層の上の層である硬化層に含まれる窒素量以下の範囲で増加していることが好ましい。
【0052】
硬化傾斜層を設けると、密着層と硬化層との膜応力差が劇的に緩和されるため、装飾部材全体の密着性が向上し、その結果耐傷性が向上する。また、応力差が緩和されることにより、クラックの発生が抑制される。さらに、長期間の使用における層間剥離等の不具合も劇的に改善できる。このような構造にすると、硬化層の膜厚をより大きくすることが可能になる。たとえば硬化層を2.5μmまで増加させ、装飾被膜全体の厚さを3.0μmとしても、膜剥離やクラックは発生し難い。また、装飾部材全体の複合硬度が上昇するため、耐傷性も飛躍的に向上する。なお、装飾部材全体の複合硬度は、Au合金からなる仕上げ層の硬度が律速となるため、硬化層の厚さを大きくして装飾被膜全体の厚さを大きくしても、耐傷性は頭打ちとなる。このため、装飾被膜全体の厚さは3.0μm以下であることが好ましい。
【0053】
硬化傾斜層の厚さは、膜応力差を緩和する観点から、0.04μm以上0.6μm以下であることが好ましい。
【0054】
〔硬化層〕
硬化層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒化物からなる窒化物層である。硬化層を設けると、装飾部材全体の硬度(複合硬度)が上昇し耐傷性向上に寄与する。
【0055】
上記窒化物においては、Nbを単独で使用しても、Taを単独で使用しても、NbおよびTaを組み合わせて使用してもよい。Taは、Nbよりも原子量が大きいため、Taを用いると膜硬度が増加し、装飾部材の耐傷性、耐磨耗性を向上させ得る。
【0056】
硬化層において、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種が合計で22質量%以上66質量%以下、Tiが20質量%以上55質量%以下、窒素が8質量%以上35質量%以下の量で含まれることが好ましい。膜硬度の観点から金属元素および非金属元素の量が上記範囲にあることが好ましい。
【0057】
硬化層の厚さは、膜硬度、耐磨耗性の観点から、0.5μm以上3μm以下であることが好ましい。
【0058】
硬化層の膜硬度は、耐傷性、耐摩耗性の観点から、HV1500以上3000以下であることが好ましい。たとえば、窒化物を構成する金属元素および非金属元素の量や膜厚を適宜変更すると、膜硬度を上記範囲に調整できる。
【0059】
〔下地傾斜層〕
下地傾斜層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物からなる窒炭化物層であり、窒炭化物中の窒素量、炭素量が、装飾被膜の厚さ方向に基材から離れるにつれて変化している。窒素量、炭素量の変化の仕方は、直線的または曲線的のように連続的であってもよく、また階段状のように不連続的、間欠的であってもよい。窒素量、炭素量の変化の仕方は、膜応力緩和、膜硬度維持の観点から、装飾被膜の厚さ方向に基材から離れるにつれて、下地傾斜層の上の層である下地層に含まれる窒素量、炭素量以下の範囲で増加していることが好ましい。
【0060】
下地傾斜層を設けると、硬化層と下地層との間の応力差が緩和され、装飾部材全体の密着性が向上し、その結果耐傷性が向上する。このような構造にすると、装飾部材全体の複合硬度が上昇し、耐傷性も向上できる。
【0061】
下地傾斜層の厚さは、膜応力差を緩和する観点から、0.02μm以上0.5μm以下であることが好ましい。
【0062】
さらに、その他の実施形態の装飾部材は、上述した密着層、硬化傾斜層、硬化層および下地傾斜層の内、少なくとも1層を設けない装飾部材であってもよい。より具体的には、以下の積層構成を有する実施形態が挙げられる。
基材/密着層/硬化層/下地傾斜層/下地層/調整層/仕上げ層
基材/密着層/硬化傾斜層/硬化層/下地層/調整層/仕上げ層
基材/密着層/硬化層/下地層/調整層/仕上げ層
基材/密着層/下地層/調整層/仕上げ層
基材/硬化層/下地傾斜層/下地層/調整層/仕上げ層
基材/硬化層/下地層/調整層/仕上げ層
【0063】
なお、その他の実施形態の装飾部材において、密着層を1層積層しても2層以上積層してもよい。硬化傾斜層、硬化層および下地傾斜層についても同様である。また、基材と下地層との層の間に、本発明の効果を損なわない範囲でその他の層が形成されていてもよい。
【0064】
上述したその他の実施形態の装飾部材は、いずれも、上記特定の調整層を有するため、耐摩耗性に優れており、長期間使用しても貴金属由来の色感が保たれる。
【0065】
また、その他の実施形態の装飾部材は、いずれも金色を有しているが、具体的には、L*a*b*表色系において、L*が75以上100以下、a*が0以上20以下、b*が5以上25以下であり、あるいは、L*C*h表色系で表すと、L*が75以上100以下、C*が5以上32以下、hが14°以上90°以下であることが好ましい。L*、a*、b*またはL*、C*、hが上記範囲にあると、装飾部材はより好ましい金色を呈する。なお、C*、hの色調範囲は、上述のように、測定したa*、b*の値から得られたa*、b*の範囲を数学的に変換して求められる色調範囲である。
【0066】
なお、上述した各層中の元素の量、上述した各層の厚さ、各層の色調および装飾部材全体の色調は、実施例において説明する方法により求められる。
【0067】
<実施形態の装飾部材の製造方法>
実施形態の装飾部材の製造方法は、基材と、基材上に形成された装飾被膜とを含む装飾部材の製造方法である。装飾被膜は、基材側から下地層、調整層および仕上げ層が積層されてなる。調整層は、基材側から少なくとも第1調整層および第2調整層が積層された積層構造を有する。以下では、実施形態の装飾部材の製造方法についてより具体的に説明する。
【0068】
[実施形態1]
実施形態1の装飾部材の製造方法によれば、上述した実施形態1の装飾部材が得られる。すなわち、基材10と、基材10上に形成された装飾被膜20とを含む装飾部材1の製造方法である。装飾被膜20は、基材10側から下地層22、調整層24および仕上げ層26が積層されてなる。ここで、調整層24は、基材10側から第1調整層241および第2調整層242が積層された積層構造を有する。
【0069】
まず、下地層積層工程では、基材10に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含む下地層22を積層する。
【0070】
下地層積層工程では、反応性スパッタリング法が好適に用いられる。なお、反応性スパッタリング法とは、不活性ガスとともに反応ガスを導入し、ターゲット構成原子と反応ガスを構成する非金属元素との反応化合物被膜を基材上に形成させる方法である。下地層積層工程では、ターゲット(原料金属)は、好ましくはNbおよび/またはTaとTiとを組み合わせた合金、より具体的には上記金属の合金の焼結体を用いる。上記焼結体において、金属の種類およびその割合は、所望の下地層が得られるように適宜選択することができる。用いる反応ガスとしては、メタンガス、アセチレンガス等の炭素原子含有ガス、窒素ガス、アンモニア等の窒素原子含有ガスが挙げられる。不活性ガスとしては、Arガス、Krガス、Xeガスが挙げられる。印加電圧、ターゲット構成原子の種類およびその割合、反応ガスの選択および量等を適宜変更することで、反応化合物中の金属元素および非金属元素の量などが調整できる。
【0071】
次に、調整層積層工程では、下地層積層工程で積層した下地層22上に、Au合金を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である第1調整層241を積層し、第1調整層241上に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、厚さが0.039μm以上0.065μm以下である第2調整層242を積層する。
【0072】
第1調整層241の積層では、スパッタリング法が好適に用いられる。なお、スパッタリング法は、真空に排気されたチャンバー内に不活性ガスを導入しながら、基材と被膜の構成原子からなるターゲット間に直流または交流の高電圧を印加し、イオン化したArをターゲットに衝突させて、はじき飛ばされたターゲット物質を基材に形成させる方法である。第1調整層241の積層では、ターゲット(原料金属)は、Au合金、好ましくはAu、PdおよびCuを組み合わせた合金、より具体的には上記金属の合金の焼結体を用いる。上記焼結体において、金属の種類およびその割合は、所望の仕上げ層が得られるように適宜選択することができる。用いる不活性ガスとしては、Arガス、Krガス、Xeガスが挙げられる。印加電圧、ターゲット構成原子の割合等を適宜変更することで、Au合金中の金属元素の量などが調整できる。また、成膜時間を適宜変更することで、第1調整層241の厚さを上記範囲に調整できる。
【0073】
第2調整層242の積層は、下地層積層工程と同様に行うことができる。また、成膜時間を適宜変更することで、第2調整層242の厚さを上記範囲に調整できる。
【0074】
次に、仕上げ層積層工程では、調整層積層工程で積層した第2調整層242上に、Au合金を含む仕上げ層26を積層する。仕上げ層積層工程は、第1調整層241の積層と同様に行うことができる。
【0075】
[実施形態2]
実施形態2の装飾部材の製造方法によれば、上述した実施形態2の装飾部材が得られる。すなわち、基材10と、基材10上に形成された装飾被膜20とを含む装飾部材2の製造方法である。装飾被膜20は、基材10側から下地層22、調整層24および仕上げ層26が積層されてなる。ここで、調整層24は、基材10側から第1調整層241および第2調整層242に加え、第3調整層243および第4調整層244が積層された積層構造を有する。下地層積層工程および仕上げ層積層工程については、実施形態1のものと同様であるため、説明を省略する。
【0076】
調整層積層工程は、下地層積層工程で積層した下地層22上に、Au合金を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である第1調整層241を積層し、第1調整層241上に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、厚さが0.039μm以上0.065μm以下である第2調整層242を積層する。さらに、第2調整層242上に、Au合金を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である第3調整層243を積層し、第3調整層243上に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である第4調整層244を積層する。
【0077】
第1調整層241の積層および第2調整層242の積層は、実施形態1の第1調整層241の積層および第2調整層242の積層と同様に行うことができる。
【0078】
続いて、第3調整層243の積層は、第1調整層241の積層と同様に行うことができる。第4調整層244の積層は、第2調整層242の積層と同様に行うことができる。ただし、成膜時間を適宜変更することで、第2調整層242の厚さを上記範囲に調整する。
【0079】
なお、仕上げ層積層工程は、調整層積層工程で積層した第4調整層244上に、Au合金を含む仕上げ層26を積層する。
【0080】
[その他の実施形態]
その他の実施形態の製造方法によれば、上述したその他の実施形態の装飾部材が得られる。すなわち、基材10と下地層22との間に、さらに上述した他の層が設けられている装飾部材の製造方法である。
【0081】
たとえば、その他の実施形態の製造方法では、密着層積層工程、硬化傾斜層積層工程、硬化層積層工程、下地傾斜層積層工程、下地層積層工程、調整層積層工程および仕上げ層積層工程がこの順で行われる。その他の実施形態の製造方法において、下地層積層工程、調整層積層工程および仕上げ層積層工程は、実施形態1、2で説明したものと同様である。密着層積層工程、硬化傾斜層積層工程、硬化層積層工程および下地傾斜層積層工程は、反応性スパッタリング法等のスパッタリング法、イオンプレーティング法、アーク式イオンプレーティング法などの乾式メッキ法により適宜行うことができる。
【0082】
さらに、その他の実施形態の製造方法では、上述した密着層、硬化傾斜層、硬化層および下地傾斜層の内、少なくとも1層を設けない装飾部材を製造するため、密着層積層工程、硬化傾斜層積層工程、硬化層積層工程および下地傾斜層積層工程の内、少なくともいずれかを適宜省略することができる。
【0083】
<実施形態の装飾品>
実施形態の装飾品は、上述した装飾部材を含む。実施形態の装飾品としては、具体的には、メガネフレーム等の部材を含む眼鏡;ネックレス、イアリング、ピアス、指輪、ペンダント、ブローチ、ブレスレット等のアクセサリー;時計ケース、時計バンド、ベゼル、りゅうず、中留等の部材を含む時計;スポーツ用品などが挙げられる。これら装飾品は、一部が上記装飾部材で構成されていても、全部が上記装飾部材で構成されていてもよく、上記装飾部材を用いて公知の方法で製造できる。
【0084】
時計は、光発電時計、熱発電時計、電波受信型自己修正時計、機械式時計、一般の電子式時計のいずれであってもよい。特に腕時計はシャツとの擦れや、机、壁などに衝突することにより傷が入りやすい装飾品の一例である。上述した装飾部材を用いて時計を製造しているため、耐摩耗性に優れており、長期間使用しても色調や外観を非常にきれいな状態で維持できる。
【0085】
以上より、本発明は以下に関する。
〔1〕 基材と、基材上に形成された装飾被膜とを含む装飾部材であって、上記装飾被膜は、基材側から下地層、調整層および仕上げ層が積層されてなり、上記下地層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、上記仕上げ層は、Au合金を含み、上記調整層は、上記基材側から少なくとも第1調整層および第2調整層が積層された積層構造を有し、上記第1調整層は、Au合金を含み、上記第2調整層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、上記第1調整層の厚さは、0.005μm以上0.016μm以下であり、上記第2調整層の厚さは、0.039μm以上0.065μm以下である、装飾部材。
上記装飾部材は、耐摩耗性に優れており、長期間使用しても貴金属由来の色感が保たれる。
〔2〕 上記調整層は、上記基材側から上記第1調整層および上記第2調整層に加え、第3調整層および第4調整層が積層された積層構造を有し、上記第3調整層は、Au合金を含み、上記第4調整層は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、上記第3調整層および上記第4調整層の厚さは、それぞれ0.005μm以上0.016μm以下である、請求項1に記載の装飾部材。
上記装飾部材は、第3調整層および第4調整層を設けたことにより、短期間の使用の際に、貴金属由来の色感をより保つことができ、審美性の低下をより抑えられる利点がある。
〔3〕 上記装飾部材は、L*a*b*表色系において、L*が75以上100以下、a*が0以上20以下、b*が5以上25以下であり、あるいは、L*C*h表色系で表すとL*が75以上100以下、C*が5以上32以下、hが14°以上90°以下である、〔1〕または〔2〕に記載の装飾部材。
L*、a*、b*またはL*、C*、hが上記範囲にあると、装飾部材は好ましい金色を呈する。
〔4〕 上記下地層および上記第2調整層それぞれにおいて、上記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で22質量%以上66質量%以下、Tiを20質量%以上50質量%以下、窒素を7質量%以上19質量%以下、炭素を4質量%以上15質量%以下の量で含む、〔1〕に記載の装飾部材。
〔5〕 上記下地層、上記第2調整層および上記第4調整層それぞれにおいて、上記金属の窒炭化物は、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種ならびにTiからなる金属と、窒素と、炭素との合計を100質量%としたときに、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種を合計で22質量%以上66質量%以下、Tiを20質量%以上50質量%以下、窒素を7質量%以上19質量%以下、炭素を4質量%以上15質量%以下の量で含む、〔2〕に記載の装飾部材。
色調の観点から金属元素および非金属元素の量が上記範囲にあることが好ましい。
〔6〕 上記仕上げ層および上記第1調整層それぞれにおいて、上記Au合金は、Au、CuおよびPdを含む合金であり、Au、PdおよびCuの合計を100質量%としたときに、Auを62.0質量%以上94.5質量%以下、Pdを0.5質量%以上17.0質量%以下、Cuを5.0質量%以上21.0質量%以下の量で含む、〔1〕に記載の装飾部材。
〔7〕 上記仕上げ層、上記第1調整層および上記第3調整層それぞれにおいて、上記Au合金は、Au、PdおよびCuを含む合金であり、Au、PdおよびCuの合計を100質量%としたときに、Auを62.0質量%以上94.5質量%以下、Pdを0.5質量%以上17.0質量%以下、Cuを5.0質量%以上21.0質量%以下の量で含む、〔2〕に記載の装飾部材。
金属元素の量が上記範囲にあると、より好ましい金色を呈する。
〔8〕 上記下地層は、L*a*b*表色系において、L*が67.03以上71.27以下、a*が5.45以上7.39以下、b*が12.57以上16.83以下であり、あるいは、L*C*h表色系で表すと、L*が67.03以上71.27以下、C*が13.70以上18.38以下、hが59.55°以上72.06°以下である、〔1〕または〔2〕に記載の装飾部材。
L*、a*、b*またはL*、C*、hが上記範囲にあると、Au合金に近い金色が実現でき、調整層24および仕上げ層26を設けることでより好ましい金色となる。
〔9〕 基材と、基材上に形成された装飾被膜とを含む装飾部材の製造方法であって、上記装飾被膜は、基材側から下地層、調整層および仕上げ層が積層されてなり、上記調整層は、上記基材側から少なくとも第1調整層および第2調整層が積層された積層構造を有し、上記基材に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含む上記下地層を積層する下地層積層工程と、上記下地層積層工程で積層した上記下地層上に、Au合金を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である上記第1調整層を積層し、上記第1調整層上に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、厚さが0.039μm以上0.065μm以下である上記第2調整層を積層する調整層積層工程と、上記調整層積層工程で積層した上記第2調整層上に、Au合金を含む上記仕上げ層を積層する仕上げ層積層工程とを含む、装飾部材の製造方法。
上記製造方法により、耐摩耗性に優れており、長期間使用しても貴金属由来の色感が保たれる装飾部材が得られる。
〔10〕 上記調整層は、上記基材側から上記第1調整層および上記第2調整層に加え、第3調整層および第4調整層が積層された積層構造を有し、上記調整層積層工程は、下地層積層工程で積層した上記下地層上に、Au合金を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である上記第1調整層を積層し、上記第1調整層上に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、厚さが0.039μm以上0.065μm以下である上記第2調整層を積層し、さらに、上記第2調整層上に、Au合金を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である上記第3調整層を積層し、上記第3調整層上に、NbおよびTaより選ばれる少なくとも1種とTiとを含む金属の窒炭化物を含み、厚さが0.005μm以上0.016μm以下である上記第4調整層を積層する工程であり、上記仕上げ層積層工程は、上記調整層積層工程で積層した上記第4調整層上に、Au合金を含む上記仕上げ層を積層する工程である、〔9〕に記載の装飾部材の製造方法。
上記製造方法により、短期間の使用の際に、貴金属由来の色感をより保つことができ、審美性の低下をより抑えられる装飾部材が得られる。
〔11〕 〔1〕または〔2〕に記載の装飾部材を含む装飾品。
上記装飾品は、耐摩耗性に優れており、長期間使用しても色調や外観を非常にきれいな状態で維持できる。
【0086】
[実施例]
以下実施例に基づいて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0087】
[評価方法]
(色調)
色調は、KONICA MINOLTA製のCM-2600dおよびCM-700d(JIS Z 8722条件C、ISO7724/1、CIE No.15、ASTM E 1164に準拠)を用い測定した。具体的には、光源D65、SCI方式により、L*a*b*表色系のL*、a*、b*を測定した。より具体的には、測定光源にCIE標準光源D65を用い、視野角は10°、正反射光処理はSCI方式に設定したうえで、L*a*b*表色系のL*、a*、b*を測定した。
【0088】
(組成比)
膜の組成比は、JEOL製のJCM-6000PLUSを用い、エネルギー分散X線分光法(EDS)により測定した。具体的には、Nb,Ti,C,Nは加速電圧15kV、Au,Cu,Pdは加速電圧5kVで測定した。
【0089】
(膜厚)
膜厚は、ZEISS製のGemini300を用い、走査型電子顕微鏡(SEM)によって基板に対して垂直方向の膜断面を観測し、各層の膜厚を測定した。
断面加工はクロスセクションポリッシャー(CP)、および集積イオンビーム加工装置(FIB)によって行った。
【0090】
[実験例1]下地層の好ましい色調範囲
下地層の好ましい色調範囲の決定に関して、まず、下地層のみを単層で成膜したサンプル(実験例1-1)と基準色となる仕上げ層まで成膜したサンプル(実験例1-2)とを作製した。
実験例1-1のサンプルは、下記のように作製した。スパッタリングターゲットは、Ti50質量%Nb50質量%の合金組成の焼結体を使用した。基材10には、SUS316L材を使用した。アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、基材10上にNbTiCNからなる下地層を0.15μm形成した。さらに、下記表1、表2に示すように、窒素ガスまたはメタンガスの量を変更した場合についても、同様に下地層を形成したサンプルを作製した。
また、実験例1-2のサンプルは、下記のように作製した。スパッタリングターゲットは、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%の焼結体を使用した。基材10には、SUS316L材を使用した。アルゴンガス180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、実験例1-1のサンプルの下地層上に、仕上げ層を0.1μm形成した。
次に、実験例1-1のサンプルの表面色調と実験例1-2のサンプルの表面色調とを目視で比較し、色が比較的近いものを○、色が異なるものを△、色が大きく異なるものを×で評価した。
その後、下地層(実験例1-1のサンプル)および仕上げ層(実験例1-2のサンプル)それぞれのL*、a*、b*を測定した。実験例1-2のサンプルの色はL*=84.46、a*=9.95、b*=16.14であった。次いで、実験例1-1のサンプルおよび実験例1-2のサンプルについて、どのくらい色調が離れているかをΔL*、Δa*、Δb*で評価し、目視による判定結果の数値的な裏付けを行った。ここで、ΔL*とは、基準色のL*と比較対象のL*の差であり、Δa*、Δb*も同様である。ΔL*が大きいほど明度に差があることを示し、Δa*、Δb*が大きいほど色相、彩度に差があることを表す。
ところで、色差を評価する一般的な値としてΔE*abがあるが、前記のような貴金属色と非貴金属色の色差を評価する場合は、L*の差がa*、b*の差に比べて大きくなってしまい、ΔE*abの値がL*の差に大きく依存してしまうため、下地層の色相、彩度を正しく評価できない。そのため、本明細書では下地層の好ましい色調範囲を調べる場合に限り、ΔE*abではなく、ΔL*、Δa*、Δb*で評価を行った。
目視による結果とΔL*、Δa*、Δb*による結果とを踏まえ、最終的な下地層の好ましいL*a*b*色調範囲を決定した。なお、下地層の好ましい色調範囲をL*C*h表色系で表す場合のC*、hの値については、実測値であるa*、b*を基に決定した色調範囲から求めた計算値として得られる。
下地層の色調範囲を調べた結果を表1、表2に示す。表1は下地層の炭化量の増加に伴う下地層の色調範囲を調べた結果であり、表2は下地層の窒化量の増加に伴う下地層の色調範囲を調べた結果である。なお、表1、表2のL*、a*、b*はCM-700dで測定した値である。
【0091】
【0092】
【0093】
表1、表2の色判定の結果から、下地層の好ましい色調範囲は、L*a*b*表色系において、L*が67.03以上71.27以下、a*が5.45以上7.39以下、b*が12.57以上16.83以下と決定し、L*C*h表色系で表すと、67.03以上71.27以下、C*が13.70以上18.38以下、hが59.55°以上72.06°以下となった。
【0094】
調整層(具体的には、第2調整層および第4調整層)についても、色の観点から下地層と同じように上記ガス条件で成膜することが好ましいといえる。すなわち、調整層についても、厚く製膜した際に、下地層と同様の色調範囲を示すように、上記ガス条件で成膜することが好ましいといえる。また、調整層はその薄さゆえに下地が必ず反映される、いわば色付きの半透明シートのようになっている。そのため、調整層単体の色評価はできないが、調整層形成時のガス条件を下地層と大きく変えてしまうと、摩耗時に違いがわかるくらいの色の差が生じる可能性がある。したがって、調整層は下地層と同じ条件で形成するのが好ましいといえる。
【0095】
[実験例2]仕上げ層の好ましい色調範囲
仕上げ層の色調範囲の決定に関して、まず、仕上げ層の膜厚が異なる種々のサンプルを作製した。
実験例2のサンプルは、下記のように作製した。
スパッタリングターゲットは、Ti50質量%Nb50質量%の合金組成の焼結体、およびAu83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%の焼結体を使用した。
実験例2の膜構造は、
図2に示した。
基材10には、SUS316L材を使用した。
まず、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、基材10上にNbTiCNからなる下地層22を0.15μm形成した。
次に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、下地層22上にAuCuPdからなる第1調整層241を0.01μm形成した。
次に、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第1調整層241上にNbTiCNからなる第2調整層242を0.039μm以上0.065μm以下の範囲で形成した。
次に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第2調整層242上にAuCuPdからなる第3調整層243を0.01μm形成した。
次に、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第3調整層243上にNbTiCNからなる第4調整層244を0.015μm形成した。
最後に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第4調整層244上にAuCuPdからなる仕上げ層26を0.015μm形成した。
さらに、下記表3に示すように、仕上げ層26の膜厚を変更した場合についても、同様に下地層、調整層および仕上げ層を形成したサンプルを作製した。
実験例2のサンプルの表面色調を測定した。結果を表3に示す。なお、表3のL
*、a
*、b
*はCM-2600dで測定した値である。
【0096】
【0097】
なお、仕上げ層膜厚が0.024μmより小さいと、仕上げ層が好ましい金色を呈さない傾向があると考えられる。また、仕上げ層膜厚を0.1μmよりさらに厚くしても、色調の変化は小さいと考えられる。よって表3の結果から、仕上げ層の最も好ましい色調範囲は、L*a*b*表色系において、L*が82.33以上100以下、a*が9.70以上12.16以下、b*が14.82以上19.36以下と決定し、L*C*h表色系で表すと、L*が82.33以上100以下、C*が17.71以上22.86以下、hが50.63°以上63.39°以下となった。
【0098】
[実施例1]
実施例1の製造は反応性スパッタリング法により行った。
スパッタリングターゲットは、Ti50質量%Nb50質量%の合金組成の焼結体、およびAu83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%の焼結体を使用した。
実施例1の膜構造は、
図1に示した。
基材10には、SUS316L材を使用した。
まず、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、基材10上にNbTiCNからなる下地層22を厚さ0.15μmで形成した。
次に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、下地層22上にAuCuPdからなる第1調整層241を厚さ0.01μmで形成した。
次に、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第1調整層241上にNbTiCNからなる第2調整層242を厚さ0.039μmで形成した。
最後に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第2調整層242上にAuCuPdからなる仕上げ層26を厚さ0.03μmで形成した。
さらに、下記表4に示すように、第2調整層242を0.042μmの厚さ、0.065μmの厚さに変更した場合についても、同様に実施例1のサンプルを作製した。
【0099】
[実施例2]
実施例2の製造は反応性スパッタリング法により行った。
スパッタリングターゲットは、Ti50質量%Nb50質量%の合金組成の焼結体、およびAu83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%の焼結体を使用した。
実施例2の膜構造は、
図2に示した。
基材10には、SUS316L材を使用した。
まず、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、基材10上にNbTiCNからなる下地層22を厚さ0.15μmで形成した。
次に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、下地層22上にAuCuPdからなる第1調整層241を厚さ0.01μmで形成した。
次に、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第1調整層241上にNbTiCNからなる第2調整層242を厚さ0.039μm以上0.065μm以下の範囲で形成した。
次に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第2調整層242上にAuCuPdからなる第3調整層243を厚さ0.01μmで形成した。
次に、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第3調整層243上にNbTiCNからなる第4調整層244を厚さ0.01μmで形成した。
最後に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第2調整層242上にAuCuPdからなる仕上げ層26を0.03μmで形成した。
【0100】
[比較例1]
比較例1の製造は反応性スパッタリング法により行った。
スパッタリングターゲットは、Ti50質量%Nb50質量%の合金組成の焼結体、およびAu83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%の焼結体を使用した。
比較例1の膜構造は、
図1に示した。
基材10には、SUS316L材を使用した。
まず、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、基材10上にNbTiCNからなる下地層22を厚さ0.15μmで形成した。
次に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、下地層22上にAuCuPdからなる第1調整層241を厚さ0.01μmで形成した。
次に、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第1調整層241上にNbTiCNからなる第2調整層242を厚さ0.039μm未満で形成した。具体的には、0.013μmの厚さで形成した。
最後に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第2調整層242上にAuCuPdからなる仕上げ層26を0.03μmで形成した。
さらに、下記表4に示すように、第2調整層242を0.027μmの厚さ、0.036μmの厚さに変更した場合についても、同様に比較例1のサンプルを作製した。
【0101】
[比較例2]
比較例2の製造は反応性スパッタリング法により行った。
スパッタリングターゲットは、Ti50質量%Nb50質量%の合金組成の焼結体、およびAu83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%の焼結体を使用した。
比較例2の膜構造は、
図1に示した。
基材10には、SUS316L材を使用した。
まず、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、基材10上にNbTiCNからなる下地層22を厚さ0.15μmで形成した。
次に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、下地層22上にAuCuPdからなる第1調整層241を厚さ0.01μmで形成した。
次に、アルゴンガス95mL/min、窒素ガス51.9mL/min、メタンガス50mL/minの雰囲気下で、Ti50質量%Nb50質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第1調整層241上にNbTiCNからなる第2調整層242を0.065μmより厚くなるように形成した。具体的には、0.074μmの厚さで形成した。
最後に、アルゴンガスを180mL/minの雰囲気下で、Au83.7質量%Cu15.6質量%Pd0.7質量%のスパッタリングターゲットを用いて、第2調整層242上にAuCuPdからなる仕上げ層26を0.03μmで形成した。
さらに、下記表4に示すように、第2調整層242を0.081μmの厚さに変更した場合についても、同様に比較例1のサンプルを作製した。
【0102】
[第2調整層膜厚の検討]
第2調整層の膜厚範囲に関して、長期使用に伴う耐摩耗性と、長期使用に伴う貴金属由来の色感の2つの観点に基づいて評価を行い、長期使用に伴う耐摩耗性を有し、かつ長期使用しても貴金属由来の色感を感じることができる膜厚範囲を調べた。
以下、長期使用に伴う耐摩耗性の評価と、長期使用に伴う貴金属由来の色感評価について詳しく説明する。
【0103】
(長期使用に伴う耐摩耗性)
実施例1、比較例1、比較例2で作製した板状のサンプルに関して、まず、サンプル表面の一部を摩耗させるため、サンプル表面をリューターで布バフ研磨した。具体的には、1つのサンプルにつき、6000rpm、100g荷重、加工時間60秒の条件(軽い摩耗試験)、および30000rpm、100g荷重、加工時間120秒の条件(厳しい摩耗試験)の2つの条件で、サンプル表面の異なる位置を研磨した。
なお、軽い摩耗試験によると、仕上げ層のみを摩滅させることができ、短期使用に伴う摩耗を再現することができる。
また、厳しい耐摩耗試験によると、仕上げ層だけでなく、それ以下の層についても膜厚が薄い層は摩滅させることができるため、実際に長期使用した場合の摩耗を再現することができる。
長期使用に伴う耐摩耗性を評価するため、軽い摩耗試験後のサンプル表面と、厳しい摩耗試験後のサンプル表面について、前記色調測定方法によって、L*、a*、b*を測定し、当該色調間のΔE*abを調べた。
ここで、ΔE*abとは、L*、a*、b*を軸とした3次元直交座標系における2点間の距離を表し、ΔE*abの値が大きいほど、基準となる色調に対して比較対象となる色調が異なることを表す。
第2調整層が薄い場合、厳しい摩耗試験で摩耗させると、仕上げ層、第2調整層および第1調整層が摩耗してしまい、結果として、当該表面色調と軽い摩耗試験で摩耗させたサンプル表面との色差ΔE*abが比較的大きくなる。
逆に、第2調整層が厚い場合、厳しい摩耗試験で摩耗させても、軽い摩耗試験で摩耗したサンプル表面の色調とほぼ変わらないため、ΔE*abの値は小さくなる。すなわち、第2調整層が摩耗に耐えているといえる。
第2調整層の膜厚が異なる種々のサンプルを作製し、ΔE*abの値が小さくなる第2調整層の膜厚を調べ、当該膜厚よりも厚い場合は長期使用に伴う耐摩耗性を有すると判断した。
また、ダブルチェックの意味合いで、前記元素量測定方法によって、厳しい摩耗試験で摩耗させたサンプル表面について、第1調整層の構成元素であるAu,Cu,Pdを測定し、その結果も踏まえて、第2調整層の膜厚が異なる種々のサンプルが、長期使用に伴う摩耗に耐えうるかを判断した。すなわち、第1調整層の構成元素であるAu,Cu,Pdが十分測定できなければ、第1調整層の直上の第2調整層も摩滅したと判断した(なお、第2調整層が薄すぎると、厳しい摩耗試験では、第2調整層と共に第1調整層も摩耗してなくなり、第1調整層を構成するAu等が検出できなくなると考えられる。一方、第2調整層がある程度以上の厚さであると、厳しい摩耗試験でも、第2調整層および第1調整層は摩耗せず残っており、第1調整層を構成するAu等が検出できると考えられる。)。
【0104】
(長期使用に伴う貴金属由来の色感)
まず、前記加工条件により、30000rpm、100g荷重、加工時間120秒の条件(厳しい摩耗試験)で摩耗させたサンプルのうち、長期使用に伴う耐摩耗性を有すると判断したサンプルについて、前記色調測定方法によって測定された当該サンプルの摩耗面(第2調整層表面)の色調と、比較対象として、長期使用に伴う耐摩耗性を有さない、下地層が確実に露出したサンプルの摩耗面(下地層表面と、下地層表面に存在した第一調整層由来の貴金属元素の残滓)の色調との色差ΔE*abを計算し、長期使用に伴う貴金属由来の色感を有するかどうかを評価した。なお、比較対象のサンプルは、具体的には、比較例1において第2調整層242を0.027μmの厚さで形成したサンプルである。
すなわち、第2調整層の膜厚が異なる種々のサンプルを作製し、ΔE*abの値が0に収束する第2調整層の膜厚を調べ、ΔE*abの値が0よりも十分大きい場合は、第1調整層(貴金属)由来の色が第2調整層越しに透けて見えていると判断した。
ここで、当該色調の比較対象として、下地層のみを成膜したサンプル表面色調ではなく、厳しい摩耗試験によって確実に下地層が露出したサンプルにおける研磨部分の表面色調を選んだ理由としては、厳しい摩耗試験によって露出した面は、どのサンプルにおいても、その直上にあった貴金属層由来の貴金属元素の残滓が存在し、単純な下地層とはやや異なる色調を呈するため、単純な下地層を比較対象として選んでしまうと、第2調整層をいくら厚くしてもΔE*abの値が0に収束せず、ΔE*abによる正しい判定ができなくなるためである。
次に、実際に目視で貴金属由来の色感を識別できたサンプルについては○、ほぼ識別できないサンプルは△、識別できないサンプルは×で評価した。
最終的に、前記ΔE*abの値と前記目視評価の結果を踏まえ、貴金属由来の色感を識別できるサンプルについては○、ほぼ識別できないサンプルは△、識別できないサンプルは×で評価した(表4、総合判定)。
表4に、第2調整層の膜厚範囲に関して、長期使用に伴う耐摩耗性と、長期使用に伴う貴金属由来の色感の2つの観点に基づいて検討を行った結果を示す。なお、表中の加工条件(0)、(1)、(2)は、(0):未加工、(1):6000rpm、100g荷重、加工時間60秒の条件(軽い摩耗試験)、(2):30000rpm、100g荷重、加工時間120秒の条件(厳しい摩耗試験)を示す。なお、表4のL*、a*、b*はCM-700dで測定した値である。
【0105】
【0106】
表4より、長期使用に伴う耐摩耗性を有し、かつ長期使用しても貴金属由来の色感を感じることができる膜厚範囲は0.039μm以上0.065μm(実施例1のサンプル)と決定した。
結果として、前記膜厚範囲で装飾部材を形成すると、長期使用に伴う摩耗による変色感を感じにくい装飾部材を得ることができる。
【0107】
[より好ましい膜構造の検討]
より好ましい膜構造に関して、実施例1、実施例2で作製したサンプルを基に、短期使用に伴う摩耗による変色感と、長期使用に伴う摩耗による変色感の2つの観点で評価を行い、長期使用に伴う摩耗による変色感を感じにくいだけでなく、短期使用に伴う摩耗による変色感も感じにくい膜構造を検討した。
【0108】
(短期使用に伴う摩耗による変色感)
実施例1、実施例2で作製したサンプルに関して、まず、サンプル表面の一部を6000rpm、100g荷重、加工時間60秒の条件(軽い摩耗試験)で研磨した。
続いて、サンプルの摩耗させた面と未加工面のL*、a*、b*を前記色調測定方法によって測定し、未加工面に対して摩耗させた面がどのくらい色が異なるかをΔE*abによって数値化し、短期使用による摩耗による変色感を評価した。
【0109】
(長期使用に伴う摩耗による変色感)
まず、サンプル表面の一部を摩耗させるため、サンプル表面をリューターで布バフ研磨した。具体的には、30000rpm、100g荷重、加工時間120秒の条件(厳しい摩耗試験)で研磨した。
続いて、サンプルの摩耗させた面と未加工面のL
*、a
*、b
*を前記色調測定方法によって測定し、未加工面に対して摩耗させた面がどのくらい色が異なるかをΔE
*abによって数値化し、長期使用による摩耗による変色感を評価した。
表5に、長期使用に伴う摩耗による変色感と、短期使用に伴う摩耗による変色感とを評価した結果を示す。なお、表中の加工条件(0)、(1)、(2)は、(0):未加工、(1):6000rpm、100g荷重、加工時間60秒の条件(軽い摩耗試験)、(2):30000rpm、100g荷重、加工時間120秒の条件(厳しい摩耗試験)を示す。なお、表5のL
*、a
*、b
*はCM-2600dで測定した値である。
【表5】
【0110】
表5の結果から、長期使用に伴う摩耗による変色感に関しては、実施例1、実施例2ともに同等レベルであるが、短期使用に伴う摩耗による変色感に関しては、実施例1に比べて実施例2の方がより変色感を感じにくいことがわかる。
よって、より好ましい膜構造は実施例2の膜構造であると決定した。
【符号の説明】
【0111】
1 装飾部材、2 装飾部材、10 基材、20 装飾被膜、22 下地層、24 調整層、241 第1調整層、242 第2調整層、243 第3調整層、244 第4調整層、26 仕上げ層