(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033685
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137424
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】503227553
【氏名又は名称】イーグルブルグマンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
【テーマコード(参考)】
3J041
【Fターム(参考)】
3J041AA01
3J041BA02
3J041BA20
3J041BD01
3J041DA10
3J041DA20
(57)【要約】
【課題】弾性部材の弾性押圧力を密封環に対して安定して付与することができる制振部材を備えるメカニカルシールを提供する。
【解決手段】静止側要素Qまたは回転側要素Rに固定される一対の密封環5,60と、密封環60を密封環5に向かって付勢する付勢手段80と、密封環60側に設けられる制振部材10と、を備えるメカニカルシール1であって、制振部材10は、回転側要素Rに片持ち支持される複数の爪状片11と、爪状片11における先端12と密封環60を保持する保持部材8との径方向間に配置される弾性部材15と、を有している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静止側要素または回転側要素に固定される一対の密封環と、前記一対の密封環の一方を他方に向かって付勢する付勢手段と、前記一方の密封環側に設けられる制振部材と、を備えるメカニカルシールであって、
前記制振部材は、前記静止側要素または前記回転側要素に片持ち支持される複数の爪状片と、前記爪状片における先端と前記一方の密封環または当該密封環を保持する保持部材との径方向間に配置される弾性部材と、を有しているメカニカルシール。
【請求項2】
前記制振部材は、支持基端をそれぞれ有する複数の前記爪状片を備えている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記爪状片は、前記弾性部材を装着篏合する溝を有する請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記弾性部材は、前記溝よりも外方が断面曲面状である請求項3に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記弾性部材は、無端環状である請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項6】
前記爪状片は、前記一方の密封環または前記保持部材に沿うように弧状に形成されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項7】
前記一方の密封環は、前記回転側要素に固定されている請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項8】
前記制振部材は、前記一方の密封環とは反対側で前記付勢手段の付勢を受けるととともに回転軸に固定される固定部材に支持されている請求項7に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を軸封するメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルシールは、流体機器のハウジングと該ハウジングを貫通するように配置される回転軸との間に装着して使用されるものである。詳しくは、メカニカルシールは、ハウジング側に取付けられる静止密封環の摺動面と、回転軸側に取付けられ回転する回転密封環の摺動面とを、付勢手段の付勢力を利用して周方向に摺接させることで、被密封流体の漏れを防ぐ機能を有している。
【0003】
このようなメカニカルシールには、片持ち保持された状態にある静止密封環および回転密封環の一方が他方に対して径方向に滑ることで生じる、いわゆる鳴きを防止するために、制振部材を備えているものも知られている。
【0004】
例えば、特許文献1に示されるような制振部材を備えるメカニカルシールは、ハウジングに固定されている静止密封環と、付勢手段を介して回転軸に固定されている回転密封環と、回転軸に固定されている制振部材と、を備えている。付勢手段の一端は、回転軸に固定されている固定部材に当接されている。付勢手段の他端は、回転密封環に外嵌されている保持部材に保持されている。制振部材は、制振体と、Oリングから構成されている。制振体は、回転軸に外挿される環状の底を有する有底円筒状に形成されている。Oリングは、制振体における回転密封環側の端部内径側に形成されている環状溝内に配置されている。
【0005】
これにより、片持ち保持されている回転密封環が歳差や径方向に相対移動しようとするとOリングが弾性変形する。これにより、制振部材は回転密封環の過度な移動を抑制して、回転密封環の軸心を略同じ位置に保持し続けることができる。そのため、制振部材は、メカニカルシール使用時の鳴きを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012-26509号(第5,6頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような特許文献1のメカニカルシールにおいては、制振部材における制振体が回転密封環を囲繞するように構成されている。そのため、既存のメカニカルシールに対して後付けすることができる。
【0008】
しかしながら、制振部材における制振体は、周方向に亘って回転密封環側を囲繞する構成である。そのため、制振部材を回転密封環側に外嵌させるにあたって、Oリングは制振体とリテーナとに挟圧されることとなる。これにより、Oリングの一部が周方向の捻じれた状態や軸方向のせん断力を受けた状態となって、Oリングに大きな残留応力が生じる虞がある。さらに、制振体が回転密封環側を囲繞していることから組み立て時にOリングを視認しにくいばかりでなく、Oリングの位置調整が困難であった。これらにより、回転密封環側に付与される弾性部材の弾性押圧力の圧力分布が不均一になりやすいという問題があった。
【0009】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、弾性部材の弾性押圧力を密封環に対して安定して付与することができる制振部材を備えるメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明のメカニカルシールは、
静止側要素または回転側要素に固定される一対の密封環と、前記一対の密封環の一方を他方に向かって付勢する付勢手段と、前記一方の密封環側に設けられる制振部材と、を備えるメカニカルシールであって、
前記制振部材は、前記静止側要素または前記回転側要素に片持ち支持される複数の爪状片と、前記爪状片における先端と前記一方の密封環または当該密封環を保持する保持部材との径方向間に配置される弾性部材と、を有している。
これによれば、各爪状片は片持ち支持されており、その先端が径方向への移動が許容されている。そのため、制振部材は弾性部材を所期の形状で組み付け位置に配置しやすくなっている。これにより、制振部材は弾性部材の弾性押圧力を一方の密封環に対して安定して付与することができる。さらに、制振部材は各爪状片間の隙間を通じて効率よく放熱することができる。
【0011】
前記制振部材は、支持基端をそれぞれ有する複数の前記爪状片を備えていてもよい。
これによれば、各爪状片の支持基端は周方向に離間配置されて支持されていることから、制振部材は弾性部材を所期の形状としやすい。
【0012】
前記爪状片は、前記弾性部材を装着篏合する溝を有してもよい。
これによれば、より安定して弾性部材を保持することができる。
【0013】
前記弾性部材は、前記溝よりも外方が断面曲面状であってもよい。
これによれば、弾性部材は、外方の当接面のすべり性がよくなっている。そのため、一方の密封環を他方の密封環に対して円滑に追従させることができる。
【0014】
前記弾性部材は、無端環状であってもよい。
これによれば、一方の密封環を制振するにあたり、制振部材は弾性部材の周方向の張力を利用することができる。これにより、制振部材は弾性部材の弾性押圧力を一方の密封環に対して一層安定して付与することができる。さらに、制振部材は各爪状片間の隙間に露出する弾性部材を放熱しやすくなっている。
【0015】
前記爪状片は、前記一方の密封環または前記保持部材に沿うように弧状に形成されていてもよい。
これによれば、一方の密封環または保持部材より受ける径方向の力に対する爪状片の強度を高めることができる。これにより、制振部材は弾性部材の弾性押圧力を一方の密封環に対して一層安定して付与することができる。
【0016】
前記一方の密封環は、前記回転側要素に固定されていてもよい。
これによれば、制振部材は回転することで周囲の流体との熱交換が促され、より高い冷却効果が得られる。
【0017】
前記制振部材は、前記一方の密封環とは反対側で前記付勢手段の付勢を受けるととともに回転軸に固定される固定部材に支持されていてもよい。
これによれば、制振部材は固定部材に支持されていることから、回転軸から爪状片までの径方向離間距離が短くかつ制振部材の軸方向寸法を短くできる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る実施例1のメカニカルシールを示す断面図である。
【
図2】実施例1のメカニカルシールを軸方向から見た図である。
【
図3】実施例1の制振部材における爪状片の斜視図である。
【
図4】実施例1のメカニカルシールの要部を拡大して示す図である。
【
図5】本発明に係る実施例2のメカニカルシールを軸方向から見た図である。
【
図6】実施例2の制振部材における制振体の一部を示す斜視図である。
【
図7】本発明に係る実施例3のメカニカルシールを軸方向から見た図である。
【
図8】弾性部材の別の形態例を拡大して示す断面図である。
【
図9】弾性部材のさらに別の形態例を拡大して示す断面図である。
【
図10】弾性部材の別の配置例を拡大して示す断面図である。
【
図11】弾性部材のさらに別の配置例を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係るメカニカルシールを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0020】
実施例1に係るメカニカルシールにつき、
図1から
図4を参照して説明する。以下、
図1の紙面左側を左側、紙面右側を右側として説明する。
【0021】
図1に示されるように、本実施例のメカニカルシール1は、ポンプ、攪拌機等の軸封分野で用いられるものである。メカニカルシール1は、ハウジング2と、回転軸3との間をシールするために取り付けられている。
【0022】
メカニカルシール1は、ハウジング2に固定される静止側要素Qと、回転軸3に固定される回転側要素Rと、制振部材10と、から主に構成されている。
【0023】
静止側要素Qは、ケース4と、静止密封環5と、を備えている。回転側要素Rは、回転密封環60を有するベローズ6と、固定部材としてのクランプ7と、保持部材としてのリテーナ8と、付勢手段としてのコイルスプリング80と、セットリング9と、を備えている。制振部材10は、回転側要素Rに設けられている。
【0024】
静止密封環5は、ハウジング2に固定されたケース4との間に非回転状態かつ軸方向への移動が規制された状態で配置されている。
【0025】
ベローズ6は、略円筒状に形成されている。ベローズ6は、右側から順に、回転密封環60と、ベローズ部61と、基端部62と、を備えている。
【0026】
回転密封環60は静止密封環5と相対摺動されるものである。静止密封環5および回転密封環60は低摩擦部材であるセラミックス成形品である。
【0027】
なお、静止密封環5および回転密封環60は、セラミックス同士に限られず、SiC(硬質材料)同士またはSiC(硬質材料)とカーボン(軟質材料)の組み合わせで形成されていてもよい。また、摺動材料はメカニカルシール用摺動材料として使用されているものであれば適用可能である。SiCとしては、ボロン、アルミニウム、カーボン等を焼結助剤とした焼結体をはじめ、成分、組成の異なる2種類以上の相からなる材料、例えば、黒鉛粒子の分散したSiC、SiCとSiからなる反応焼結SiC、SiC-TiC、SiC-TiN等があり、カーボンとしては、炭素質と黒鉛質の混合したカーボンをはじめ、樹脂成形カーボン、焼結カーボン等が利用できる。また、上記摺動材料以外では、金属材料、樹脂材料、表面改質材料(コーティング材料)、複合材料等も適用可能である。
【0028】
ベローズ部61は、蛇腹状に形成され、軸方向に伸縮可能に構成されている。基端部62は円筒状に構成されている。基端部62の内径は回転軸3の外径と略同一寸法である。ベローズ部61および基端部62は、金属成形品または樹脂成形品であり、ベローズ部61は回転密封環60に接着・固定されている。
【0029】
なお、ベローズ部61は接着に限られず、溶着、焼き嵌め等、周知の固定方法で固定されていてもよい。また、ベローズ部61と回転密封環60は同一材料の一体成形品であってもよく、ベローズ6の構成は適宜変更されてもよい。
【0030】
図2に示されるように、クランプ7は、一対の分割クランプ片70と、2つのボルト71から構成されている。分割クランプ片70は半円弧状に形成されている。なお、
図2では、分割クランプ片70を明確に図示するべくセットリング9に網掛けをしている。
【0031】
クランプ7は、ベローズ6における基端部62(
図1参照)に外嵌させた一対の分割クランプ片70同士を2つのボルト71にて締結することにより、基端部62を回転軸3に圧着させて密封状に固定している。なお、詳細な図示は略すが、この分割クランプ片70同士の締結より、クランプ7はセットリング9に相対移動が規制された状態で固定される。
【0032】
また、クランプ7における外周面7aには、内径側に凹設され、外径側に向かって開放されている雌ネジ穴7bが略4等配されている。
【0033】
図1に戻って、クランプ7には、回転側要素Rを構成する環状のアダプタ72が固定されている。なお、アダプタ72は周方向に分割された複数の片から構成されていることが好ましい。また、クランプ7には回止ピン(図示略)が固定されている。
【0034】
リテーナ8は、内径側段付き円筒状に形成されている。また、リテーナ8における外周面8aは、クランプ7における外周面7aと略同心円状に設けられている。
【0035】
リテーナ8における右端部内径側は、回転密封環60を内嵌可能に拡径されている。また、リテーナ8と回転密封環60は回り止め手段によって相対回転が規制されている。本実施例では、リテーナ8の右端部に形成され、径方向に貫通し、かつ軸方向右側に開放される切欠き部に、回転密封環60に固定され外径側に突出する回止ピンにおける頭部が挿嵌されることで構成されている。なお、回り止め手段の構成は適宜変更されてもよい。
【0036】
リテーナ8における左端面には、軸方向に凹設され左側に向かって開放されている複数の凹部が形成されている。コイルスプリング80は、その一端が複数のうちの一部の凹部に挿入され、リテーナ8とアダプタ72との間で軸方向に圧縮された状態で配置されている。
【0037】
また、クランプ7とリテーナ8は回り止め手段によって相対回転が規制されている。本実施例では、クランプ7に固定された回止ピン(図示略)の一端がリテーナ8における他の凹部に挿通されて構成されている。なお、回り止め手段の構成は適宜変更されてもよい。
【0038】
これらにより、リテーナ8が軸方向に移動することを許容しつつ、回転軸3の回転に応じてクランプ7と共にリテーナ8が共回りする。加えて、コイルスプリング80の付勢力を受けている回転密封環60は静止密封環5との適度な密接状態が保たれている。
【0039】
セットリング9は円筒状に形成されている。セットリング9は、径方向に貫通する雌ネジ孔に螺入されているセットスクリュ90が回転軸3に圧接されることで回転軸3に固定されている。セットリング9はクランプ7が回転軸3に対して軸方向かつ回転方向に移動することを規制している。
【0040】
図2に示されるように、制振部材10は、4つの爪状片11と、弾性部材としての一つのOリング15と、から主に構成されている。
【0041】
図2に示されるように、爪状片11は、金属成形品の剛体であり、クランプ7における外周面7aに沿って円弧状に湾曲する板状に形成されている。また、
図3に示されるように、爪状片11は軸方向に延出されている矩形状を成している。なお、爪状片11は、弾性変形しにくい剛体であればよく、樹脂成形品であってもよい。
【0042】
図3,
図4に示されるように、爪状片11は、右側から順に、先端12、中央部13、終端14を有している。終端14は爪状片11が片持ち支持される支持基端となっている。
【0043】
先端12における内径側には、その内周面12aより外径側に凹設され、内径側に向かって開放されている断面矩形かつ周方向に沿って延びる円弧状の溝12bが形成されている。また、溝12bは、先端12を周方向に亘って貫通している。
【0044】
終端14における周方向中央には、径方向に貫通する貫通孔14bが形成されている。また、終端14における外径側には、貫通孔14bに位置合わせされたザグリ14cが形成されている。
【0045】
また、終端14における左端には、内径側に庇状に突出するフランジ14dが形成されている。
【0046】
図2を参照して、Oリング15は、長手方向の端部15a,15b同士が接合されて環状を成している。なお、Oリングは、2か所以上で端部同士を接合されていてもよく、適宜変更されてもよい。
【0047】
次に、制振部材10を回転側要素Rに組み付ける方法について説明する。まず、
図2を参照して、無端環状のOリングを切断して紐状とし、軸方向所定の位置でリテーナ8に巻き付け、端部15a,15b同士を係合・接合させ無端環状のOリング15とする。このように、Oリング15はリテーナ8への外嵌が容易であるとともに、メカニカルシール1に後付けすることができる。
【0048】
次いで、
図4に示されるように、爪状片11における終端14をクランプ7に固定する。詳しくは、まずは終端14における貫通孔14bとクランプ7における雌ネジ穴7b(
図2参照)との位置を合わせる。このとき、終端14におけるフランジ14dをクランプ7に係止させることにより、軸方向の位置合わせをすることができる。
【0049】
続けて、ワッシャ16を介在させた状態でボルト17を雌ネジ穴7bに螺入させる。ボルト17の螺入を進める途中、必要であれば先端12における溝12bにOリング15が内嵌されるようにOリング15の位置を調整する。
【0050】
そして、ボルト17を締め上げて終端14とクランプ7とを締結する。このとき、クランプ7に係止されているフランジ14dにより、爪状片11が移動することが規制されている。そのため、ボルト17の螺入操作が容易である。また、Oリング15は組み付け前に断面円形であったものが、径方向に押圧力を受け内径側および外径側が直線をなす略スタジアム形となっている。
【0051】
また、終端14における内周面14aはクランプ7における外周面7aに沿って形成されている。これにより、終端14における内周面14aはクランプ7における外周面7aに面当接されている。そのため、クランプ7に対する組付け強度が高い。
【0052】
他の爪状片11についても、上述した手順にてクランプ7に固定する。また、各爪状片11は別体であるため、各爪状片11における先端12の溝12bとOリング15との位置を個別に調整することができるとともに、メカニカルシール1に後付けできる。
【0053】
さらに、Oリング15と各爪状片11を個別に装着することができる。そのため、各爪状片11のクランプ7への締結固定時に、爪状片11からOリング15に対して略径方向に力が加わるのみであるから、Oリング15には捩じれや軸方向のせん断力が略作用せず、締結固定後のOリング15を所期の形状としやすい。
【0054】
このことから、特許文献1のように組付けにあたって制振体とリテーナとに挟圧されながら所定の位置に弾性部材が配置される構成と比較して、制振部材10は、Oリング15に摩耗や捻じれ等の負荷が及ぶことを抑止することができる。
【0055】
以上のように、各爪状片11における先端12とリテーナ8との径方向間にOリング15を配置して、制振部材10を回転側要素Rに組み付けることができる。なお、制振部材10を回転側要素Rに組付ける手順については適宜変更されてもよい。
【0056】
例えば、先に爪状片11をクランプ7に支持固定した後、爪状片11における溝12bにOリング15を挿入配置してもよい。この場合には、爪状片11をクランプ7に仮固定した状態でOリング15を配置し、ボルト17を増し締めして爪状片11をクランプ7に本固定することが好ましい。
【0057】
以上説明したように、本実施例の制振部材10は、各爪状片11がクランプ7に片持ち支持されている。そのため、爪状片11における先端12は径方向への移動が許容されている。これにより、爪状片11をクランプ7に本固定した後であっても、Oリング15の捻じれた状態や軸方向のせん断力を受けた状態を解除して、組み付け位置で所期の形状とすることができる。このことから、制振部材10は、Oリング15の弾性押圧力を回転密封環60に対して安定して付与することができる。
【0058】
これにより、制振部材10は、片持ち保持されている回転密封環60の歳差や径方向への相対移動に応じて、適切にOリング15が弾性変形されることとなる。このことから、制振部材10は回転密封環60の過度な移動を抑制して、回転密封環60の軸心を略同じ位置に保持し続けることができる。すなわち、制振部材10は、メカニカルシール1使用時の鳴きを安定して抑制することができる。
【0059】
さらに、制振部材10は、静止密封環5と回転密封環60との相対摺動により生じた熱を、各爪状片11間の隙間S1(
図2参照)を通じて効率よく放熱することができる。
【0060】
また、制振部材10は各爪状片11間に隙間S1(
図2参照)が形成されている。隙間S1を利用して、Oリング15の装着状態を視認しつつOリング15や爪状片11にアクセスして、各爪状片11における先端12に対するOリング15の位置を適宜に調整し、Oリング15の圧着度合いを調整することができる。
【0061】
また、4つの爪状片11それぞれの終端14は、周方向に離間配置されてクランプ7に固定されている。これにより、制振部材10は、爪状片11毎にOリング15に対して略径方向に加える力を調整することができる。そのため、制振部材10はOリング15を所期の形状としやすい。
【0062】
さらに、各爪状片11は互いに別部材であるため、クランプ7に簡便に固定することができる。本実施例のように、一対の分割クランプ片70によってベローズ6における基端部62を締め付ける構成では、クランプ7の外形寸法に差が生じやすいことから、後述するように環状の終端114を有する制振体118と比較して、クランプ7に固定しやすくなっている。
【0063】
また、無端環状であるOリング15は、回転密封環60を制振するにあたり、その周方向の張力を利用することができる。これにより、Oリング15の弾性押圧力を回転密封環60に対して一層安定して付与することができる。
【0064】
加えて、各爪状片11間の隙間S1(
図2参照)に露出するOリング15の一部を直接把持する等して、各爪状片11における先端12に対するOリング15の位置調整を行うことができる。そのため、治具等を用いた調整を省略または簡略にすることが可能であり、位置調整が簡便となる。
【0065】
さらに、Oリング15の一部は、各爪状片11間の隙間S1(
図2参照)に露出する。そのため、Oリング15を冷却しやすくなっている。これにより、制振部材10は、高温による劣化・融解等がOリング15に生じることを好適に防止することができる。
【0066】
また、矩形状に形成されている爪状片11は、終端14から先端12にかけて周方向略一定の幅を有している。これにより、Oリング15から爪状片11における先端12に径方向の力が作用する際に、爪状片11は捩じられにくく、その力を周方向に分散して受けることができる。
【0067】
さらに、クランプ7に固定されている終端14を基点として爪状片11における先端12は、径方向への移動が許容されている。これにより、後述する制振体118における爪状片111(
図6参照)と比較して、許容される移動量を確保しやすくなっている。
【0068】
また、爪状片11における先端12の内周面12aは、終端14における内周面14aよりも僅かに外径側に位置するように形成されている。そのため、メカニカルシール1の自然状態において、先端12における内周面12aとリテーナ8における外周面8aとの間には隙間S2(
図4参照)が形成される。このように、Oリング15の弾性変形代を確保することにより、爪状片11はOリング15の弾性押圧力を回転密封環60に対して安定して付与することができる。なお、隙間S2が形成されるのであれば、リテーナの外径がクランプの外径よりも小寸であってもよく、その構成は適宜変更されてもよい。
【0069】
また、各爪状片11間の隙間S1(
図2参照)や、爪状片11における先端12とリテーナ8との隙間S2(
図4参照)を通じて、Oリング15における溝12bに内嵌されている部分に、回転軸3における軸方向両側からアクセスすることができる。そのため、各爪状片11における先端12に対するOリング15の位置調整の精度を高めることができる。
【0070】
また、溝12bに装着嵌合されているOリング15は、溝12bよりも外方かつリテーナ8側に断面曲面状に膨出している。これにより、Oリング15は、リテーナ8に当接する当接面のすべり性がよくなっている。そのため、回転密封環60を静止密封環5に対して円滑に追従させることができる。
【0071】
また、爪状片11は、リテーナ8における外周面8aに沿うように弧状に形成されている。そのため、回転密封環60やOリング15より受ける径方向の力に対する爪状片11の強度を高めることができる。これにより、Oリング15の弾性押圧力を回転密封環60に対して一層安定して付与することができる。
【0072】
また、爪状片11における中央部13の内周面13aは、先端12および終端14それぞれの内周面12a,14aよりも外径側に位置するように形成されている。加えて、中央部13は、クランプ7とリテーナ8との隙間よりも外径側に位置している。これにより、クランプ7とリテーナ8それぞれの軸心が相対的に傾動するような場合であっても、中央部13に接触しにくくなっている。そのため、Oリング15の弾性押圧力を回転密封環60に対して安定して付与し続けることができる。
【0073】
また、爪状片11の周方向寸法は、爪状片11間の隙間S1(
図2参照)における周方向寸法、すなわち隣り合う爪状片11,11間の離間寸法の2倍以下となっている。これにより、各爪状片11は、それぞれの先端12が径方向へ移動することが好適に許容されている。
【0074】
さらに、制振部材10は、Oリング15に対する視認性向上やOリング15の位置調整に必要な作業スペースが得られるばかりでなく、各爪状片11間の広い隙間S1に露出するOリング15を冷却する効率を高めることができる。
【0075】
また、回転側要素Rに固定されている制振部材10は、回転することで周囲の流体との熱交換が促される。そのため、制振部材10はより高い冷却効果が得られるようになっている。
【0076】
また、制振部材10は、クランプ7に支持されている。そのため、クランプ7に固定されている爪状片11は、回転軸3に固定されてクランプ7よりも外径側を通過して回転密封環60側に延びる構成と比較して、回転軸3から各爪状片11までの径方向離間距離が短くかつ制振部材10の軸方向寸法を短くすることができる。
【0077】
これにより、制振部材10は、片持ち支持される爪状片11に対して回転により作用する遠心力が軽減されるばかりでなく、回転密封環60より径方向に作用する力のモーメントアームを短くすることができる。
【0078】
さらに、クランプ7に固定されている爪状片11はセットリング9とは別体であるため、回転軸3への自身の固定とベローズ6の回転軸3への固定機能を兼ねる構成と比較して、確実にベローズ6における基端部62が軸方向かつ回転方向へ移動するのを規制しつつ、Oリング15の圧着度合いの調整を簡便に行うことができる。
【0079】
また、Oリング15は、爪状片11間の隙間S1(
図2参照)に位置している部分は断面丸状であり、爪状片11に押圧されている部分は断面略スタジアム状であり、これら断面形状が交互に配置されている。そのため、Oリング15が各爪状片11に対して周方向に移動しようとしても、隙間S1に位置する部分が爪状片11における溝12bに係止されやすくなっている。このことから、特許文献1のようにOリングが略全周に亘って径方向に押圧されて略同一の断面形状になっている構成と比較して、本実施例のOリング15は周方向へ移動しにくくなっている。
【0080】
なお、爪状片11は、クランプ7にワッシャ16を介在させたボルト17締めにより固定されている構成として説明したが、これに限られず、クランプ7に溶着や接着により固定されていてもよく、固定手段については適宜変更されてもよい。
【0081】
また、Oリングは、係合可能な端部15a,15bを有していなくてもよい。このような構成であっても、回転軸3における端部に外挿して、所定の位置まで移動させてリテーナ8に外嵌させることができる。その後の手順については、上述したものと同様である。
制振部材110を回転側要素Rに組付けるにあたっては、まず各爪状片111における先端12の溝12b内にOリング115を内嵌する。次いで、回転軸3の端より制振部材110を外挿し、回転密封環60側に移動させ、終端114をクランプ7に外嵌させる。
このとき、各爪状片111は終端114に片持ち支持されており、その周方向寸法が終端114の周方向寸法よりも短いため、爪状片111における終端114側を基点としたその先端12の径方向への移動が許容されている。これにより、Oリング115は捻じれた状態や軸方向のせん断力を受けた状態となりにくくなっている。そのため、Oリング115は組み付け位置で所期の形状で配置されやすくなっている。
また、仮にOリング115の一部が周方向の捻じれた状態や軸方向のせん断力を受けた状態となったとしても、各爪状片111間の隙間S11を利用して、捻じれを戻すこと、爪状片111における先端12に対するOリング115の位置を適宜に調整してせん断力を解消することができる。
そして、環状のフランジ114dをクランプ7に係止させて軸方向の位置決めを行った後、ワッシャ16、ボルト17を用いて制振部材110をクランプ7に締結することで回転側要素Rに組付けることができる。
なお、制振体118は、環状の終端114と、4等配されている爪状片111が一体に形成されているが、一つの爪状片111または複数の爪状片111を有し、爪状片111よりも周方向寸法が長い円弧状の終端が周方向に複数配置されて構成されていてもよく、その構成は適宜変更されてもよい。このような構成であれば、各終端は周方向に離間していてもよい。