(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033686
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
C04B 28/04 20060101AFI20240306BHJP
C04B 24/22 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C04B28/04
C04B24/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137425
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】島田 恒平
(72)【発明者】
【氏名】谷所 美明
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PB25
(57)【要約】
【課題】調製から例えば4~24時間後の強度発現性に優れる水硬性組成物、及び水硬性組成物の硬化体の製造方法を提供する。
【解決手段】(A)ビーライトを21.0質量%以上32.0質量%以下含み、エーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)が、0.37以上0.73以下である、ポルトランドセメント(以下、(A)成分という)、(B)水(以下、(B)成分という)、及び(C)ナフタレン系分散剤を含有する、水硬性組成物であって、前記水硬性組成物中、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との質量比(B)/(A)が、0.15以上0.30以下である、水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビーライトを21.0質量%以上32.0質量%以下含み、エーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)が、0.37以上0.73以下である、ポルトランドセメント(以下、(A)成分という)、(B)水(以下、(B)成分という)、及び(C)ナフタレンスルホン酸系分散剤(以下、(C)成分という)を含有する、水硬性組成物であって、前記水硬性組成物中、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との質量比(B)/(A)が、0.15以上0.30以下である、水硬性組成物。
【請求項2】
(C)成分を、(A)成分に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下含有する、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
さらに、(D)骨材を含有する、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
遠心成形コンクリート用である、請求項1~3の何れか1項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
次の工程を含む水硬性組成物の硬化体の製造方法。
工程1:(A)ビーライトを21.0質量%以上32.0質量%以下含み、エーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)が、0.37以上0.73以下である、ポルトランドセメント(以下、(A)成分という)、(B)水(以下、(B)成分という)、及び(C)ナフタレンスルホン酸系分散剤を、(A)成分の混合量と(B)成分の混合量との質量比(B)/(A)が、0.15以上0.30以下で混合して、水硬性組成物を調製する工程。
工程2:工程1で得られた水硬性組成物を型枠に充填する工程。
工程3:工程2で型枠に充填した水硬性組成物を、遠心力をかけて型締めする工程。
工程4:工程3で型締めした水硬性組成物を型枠中で凝結させる工程。
【請求項6】
さらに、下記工程5を含む、請求項5に記載の水硬性組成物の硬化体の製造方法。
工程5:工程4で凝結した水硬性組成物を型枠中で蒸気養生する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、及び水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、商習慣の変化に伴い、eコマース市場が活況を呈している。eコマースに不可欠なインフラとして物流倉庫が挙げられ、斯様な構造物を地盤に固定し自然災害から守るのが、コンクリート製の支持杭(パイル)である。
コンクリートパイルは、水、セメントに代表される水硬性粉体、骨材、および減水剤を添加して調整した未硬化のコンクリートに遠心力を加えて円筒形に成型する、遠心成形という手法によって製造され、分散剤としては、円筒形にきれいに成形できる性質に優れる、ナフタレンスルホン酸系分散剤が主として使用されている。
【0003】
一方で、国土強靭化の要請を受けて、コンクリートパイル1本当たりの支持力を高めた高支持力杭、つまり、高強度のコンクリートパイルに対する需要が高まっている。コンクリートの強度は、水と水硬性粉体の重量比である、水/水硬性粉体(W/P)によって決まり、W/Pが低い程、コンクリート(水硬性組成物)硬化体の強度が高くなる。非特許文献1では、水結合材比が20%程度の領域でナフタレンスルホン酸系分散剤を用いている。
しかしながら、ナフタレンスルホン酸系分散剤には、特に高強度の硬化体を得るために、水/水硬性粉体(W/P)を低減すると、必要添加量が顕著に増加し、系中の余剰の分散剤がセメント粒子に断続的に吸着することで、未硬化の水硬性組成物の硬化遅延を引き起こす。
【0004】
斯様なナフタレンスルホン酸系分散剤の添加量増加は、非特許文献2に記載の如く、ポルトランドセメントに代表される水硬性粉体の硬化反応である水和反応のごく初期(接水直後~1時間後)における、セメント水和反応生成物への吸着・埋没(失活)が原因であると考えられており、一般的には、水和反応速度が比較的遅いセメント鉱物種である、ビーライト含有量の高い低熱ポルトランドセメントの使用により解消されることが知られている。
【0005】
特許文献1には、鋼桁に不必要な応力を与えずにプレストレスが有効に導入され、且つ硬化コンクリートと鋼桁とが強く結合した、コンクリート-鋼桁複合構造物及びその製造方法が開示されている。
特許文献2には、材齢初期に大きな膨張量が得られ、膨張量が長期にわたり安定し、膨張による強度低下やひび割れが無く、高ケミカルプレストレスと高強度を安定的に維持することが可能となる高膨張で高強度のセメント組成物、コンクリート、及びそれを用いたコンクリート硬化体の製法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-30163号公報
【特許文献2】特開2007-238439号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本建築学会構造系論文集、第606号、29-34頁、一般財団法人 日本建築学会、2006年8月発行
【非特許文献2】セメント・コンクリート論文集、第68巻1号、75-81頁、一般社団法人 セメント協会、2015年3月発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、低熱ポルトランドセメントを使用すると、水和反応が過度に遅延し、初期材齢の強度発現性、ひいてはコンクリートの生産性が低下するという課題がある。
【0009】
本発明は、調製から例えば4~24時間後の強度発現性に優れる水硬性組成物、及び水硬性組成物の硬化体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、(A)ビーライトを21.0質量%以上32.0質量%以下含み、エーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)が、0.37以上0.73以下である、ポルトランドセメント(以下、(A)成分という)、(B)水(以下、(B)成分という)、及び(C)ナフタレンスルホン酸系分散剤(以下、(C)成分という)を含有する、水硬性組成物であって、前記水硬性組成物中、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との質量比(B)/(A)が、0.15以上0.30以下である、水硬性組成物に関する。
【0011】
また本発明は、次の工程を含む水硬性組成物の硬化体の製造方法に関する。
工程1:(A)ビーライトを21.0質量%以上32.0質量%以下含み、エーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)が、0.37以上0.73以下である、ポルトランドセメント(以下、(A)成分という)、(B)水(以下、(B)成分という)、及び(C)ナフタレンスルホン酸系分散剤を、(A)成分の混合量と(B)成分の混合量との質量比(B)/(A)が、0.15以上0.30以下で混合して、水硬性組成物を調製する工程。
工程2:工程1で得られた水硬性組成物を型枠に充填する工程。
工程3:工程2で型枠に充填した水硬性組成物を、遠心力をかけて型締めする工程。
工程4:工程3で型締めした水硬性組成物を型枠中で凝結させる工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、調製から例えば4~24時間後の強度発現性に優れる水硬性組成物、及び水硬性組成物の硬化体の製造方法が提供される。
【0013】
近年、持続的な社会実現のためにSDGsが提唱されている。本発明は、調製から例えば4~24時間後の強度発現性に優れることから、蒸気養生による熱量が少なくて済み、これによるCO2排出量を低減でき、コンクリートの生産性向上により、例えば、SDGsのNo.7、9、11、12、13などに貢献する技術となり得ると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、本発明の水硬性組成物が、調製から例えば4~24時間後の強度発現性に優れることを見出した。このような効果が発現する理由は必ずしも定かではないが、以下のように推測される。
前述の通り、ナフタレンスルホン酸系分散剤はポリカルボン酸系分散剤に比べ、セメント水和反応におけるごく初期(接水直後~1時間後)の、水和反応を促進することが知られている。この水和反応による生成物は系中のカルシウムイオンを取り込みながら成長するため、系中のカルシウムイオン濃度を低下させる。この水和反応による生成物は、系中において、コンクリートの初期材齢の強度発現に関わり、同じくカルシウムイオンを取り込みながら成長するエーライトと競合するため、結果的に水和遅延を引き起こし、強度発現性が損なわれると考えられる。
本発明では、(A)成分であるポルトランドセメント中のビーライト含有量、及びエーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)を特定の範囲に調整することにより、ナフタレンスルホン酸系分散剤を含有する水硬性組成物において、ごく初期の水和反応を適度に抑制しながら、見かけの水/エーライト比を低下させ、カルシウムイオンの溶出を促進するとともに、エーライト間でのカルシウムイオンや水和反応場の競合を抑制することにより、エーライトの水和反応を促したことにより、強度発現性が向上したものと考察される。
【0015】
[水硬性組成物]
本発明の水硬性組成物は、(A)成分として、ビーライトを21.0質量%以上32.0質量%以下含み、エーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)が、0.37以上0.73以下である、ポルトランドセメントを含有する。
(A)成分のポルトランドセメントは、ビーライト(2CaO・SiO2)を、(A)成分中、強度発現性の観点から、21.0質量%以上、好ましくは21.5質量%以上、そして、32.0質量%以下、好ましくは31.0質量%以下、より好ましくは30.0質量%以下、更に好ましくは29.0質量%以下含有する。
【0016】
(A)成分のポルトランドセメントは、エーライト(3CaO・SiO2)を、(A)成分中、強度発現性の観点から、好ましくは44.5質量%以上、より好ましくは45.0質量%以上、更に好ましくは45.5質量%以上、より更に好ましくは46.5質量%以上、より更に好ましくは47.5質量%以上、そして、好ましくは54.5質量%以下、より好ましくは54.0質量%以下、更に好ましくは53.5質量%以下含有する。
【0017】
(A)成分のポルトランドセメント中、エーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)は、強度発現性の観点から、0.37以上、好ましくは0.38以上、より好ましくは0.39以上、そして、0.73以下、好ましくは0.68以下、より好ましくは0.63以下、更に好ましくは0.60以下である。
【0018】
ポルトランドセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、混合セメント、及びエコセメントから選ばれる1種以上が挙げられる。
これらのポルトランドセメントを混合して、ビーライト及びエーライトの含有量を調整することにより、本発明の(A)成分である、ビーライトを21.0質量%以上32.0質量%以下含み、エーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)が、0.37以上0.73以下である、ポルトランドセメントを製造することができる。
【0019】
本発明の水硬性組成物は、(A)成分以外に、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどのポソラン作用及び/又は潜在水硬性を有する粉体や、非水硬性の石灰石微粉末等が含まれていてもよい。
本発明の水硬性組成物は、(A)成分に、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカヒューム等とが混合された高炉セメントやフライアッシュセメント、シリカヒュームセメントを用いてもよい。
【0020】
本発明の水硬性組成物は、(B)成分として、水を含有する。
本発明の水硬性組成物中、(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との質量比(B)/(A)は、強度発現性の観点から、0.15以上、好ましくは0.18以上、より好ましくは0.21以上、そして、0.30以下、好ましくは0.28以下、より好ましくは0.26以下である。
【0021】
本発明の水硬性組成物は、(C)成分として、ナフタレンスルホン酸系分散剤を含有する。
ナフタレンスルホン酸系分散剤としては、好ましくはナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩が挙げられる。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとの縮合物又はその塩である。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は、性能を損なわない限り、単量体として、例えばメチルナフタレン、エチルナフタレン、ブチルナフタレン、ヒドロキシナフタレン、ナフタレンカルボン酸、アントラセン、フェノール、クレゾール、クレオソート油、タール、メラミン、尿素、スルファニル酸及び/又はこれらの誘導体などのような、ナフタレンスルホン酸と共縮合可能な芳香族化合物と共縮合させても良い。
【0022】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、例えば、マイテイ150、デモール N、デモール RN、デモール MS、デモールSN-B、デモール SS-L(いずれも花王株式会社製)、セルフロー 120、ラベリン FD-40、ラベリン FM-45(いずれも第一工業株式会社製)などのような市販品を用いることができる。
【0023】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩は、強度発現性の観点から、重量平均分子量が、好ましくは1,000以上、より好ましくは3,000以上、更に好ましくは4,000以上、より更に好ましくは5,000以上、そして、好ましくは200,000以下、より好ましくは100,000以下、更に好ましくは80,000以下、より更に好ましくは50,000以下、より更に好ましくは30,000以下である。ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物は酸の状態あるいは中和物であってもよい。
【0024】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の分子量は下記条件にてゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
[GPC条件]
カラム:G4000SWXL+G2000SWXL(東ソー)
溶離液:30mM CH3COONa/CH3CN=6/4
流量:0.7ml/min
検出:UV280nm
サンプルサイズ:0.2mg/ml
標準物質:西尾工業(株)製 ポリスチレンスルホン酸ソーダ換算(単分散ポリスチレンスルホン酸ナトリウム:分子量、206、1,800、4,000、8,000、18,000、35,000、88,000、780,000)
検出器:東ソー株式会社 UV-8020
【0025】
ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物又はその塩の製造方法は、例えば、ナフタレンスルホン酸とホルムアルデヒドとを縮合反応により縮合物を得る方法が挙げられる。前記縮合物の中和を行ってもよい。また、中和で副生する水不溶解物を除去してもよい。具体的には、ナフタレンスルホン酸を得るために、ナフタレン1モルに対して、硫酸1.2~1.4モルを用い、150~165℃で2~5時間反応させてスルホン化物を得る。次いで、該スルホン化物1モルに対して、ホルムアルデヒドとして0.93~0.99モルとなるようにホルマリンを85~105℃で、3~6時間かけて滴下し、滴下後95~105℃で縮合反応を行う。さらに、得られる縮合物の水溶液は酸性度が高いので貯槽等の金属腐食を抑制する観点から、得られた縮合物に、水と中和剤を加え、80~95℃で中和工程を行うことができる。中和剤は、ナフタレンスルホン酸と未反応硫酸に対してそれぞれ1.0~1.1モル倍添加することが好ましい。また、中和により生じる水不溶解物を除去することができ、その方法として好ましくは濾過による分離が挙げられる。これらの工程によって、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物水溶性塩の水溶液が得られる。この水溶液は、そのままナフタレンスルホン酸系分散剤の水溶液として使用することができる。更に必要に応じて該水溶液を乾燥、粉末化して粉末状のナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物の塩を得ることができ、これを粉末状のナフタレンスルホン酸系分散剤として使用することができる。乾燥、粉末化は、噴霧乾燥、ドラム乾燥、凍結乾燥等により行うことができる。
【0026】
本発明の水硬性組成物は、(C)成分を、(A)成分に対して、強度発現性の観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、そして、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、更に好ましくは3.0質量%以下、より更に好ましくは2.0質量%以下含有する。
【0027】
本発明の水硬性組成物は、(D)成分として、骨材を含有する。骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。細骨材として、JISA0203-2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JIS A 0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用しても良く、単一の種類のものを使用しても良い。
【0028】
水硬性組成物がコンクリートの場合、粗骨材の使用量は、水硬性組成物の強度の発現とセメント等の水硬性粉体の使用量を低減し、型枠等への充填性を向上する観点から、嵩容積が、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは80%以下である。嵩容積は、コンクリート1m3中の粗骨材の容積(空隙を含む)の割合である。
また、水硬性組成物がコンクリートの場合、細骨材の使用量は、型枠等への充填性を向上する観点から、好ましくは500kg/m3以上、より好ましくは600kg/m3以上、更に好ましくは700kg/m3以上であり、そして、好ましくは1000kg/m3以下、より好ましくは900kg/m3以下である。
【0029】
本発明の水硬性組成物は、更にその他の成分を含有することもできる。例えば、AE剤、遅延剤、起泡剤、増粘剤、発泡剤、防水剤、流動化剤、消泡剤、収縮低減剤等(但し、(A)成分~(D)成分を除く)が挙げられる。
【0030】
本発明の水硬性組成物は、コンクリート、モルタルであってよい。本発明の水硬性組成物は、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、軽量又は質量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の何れの分野においても有用である。本発明の水硬性組成物は、調製後4~24時間程度で強度を発現し、早期に型枠から脱型が可能になる観点から、コンクリート製品用、好ましくは、遠心成形用として好適に用いることができる。
【0031】
本発明の水硬性組成物は、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を、(A)成分の混合量と(B)成分の混合量との質量比(B)/(A)が、0.15以上0.30以下で混合することで製造できる。すなわち、本発明により、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を、(A)成分の混合量と(B)成分の混合量との質量比(B)/(A)が、0.15以上0.30以下で混合する水硬性組成物の製造方法が提供される。
本発明の水硬性組成物の製造方法は、更に(D)成分を混合することができる。
本発明の水硬性組成物の製造方法には、本発明の水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。例えば、各成分の具体例及び好ましい態様も本発明の水硬性組成物と同じである。また、本発明の水硬性組成物における各成分の含有量、及び各質量比は、各成分の含有量を混合量に置き換えて本発明の水硬性組成物の製造方法に適用することができる。
【0032】
〔水硬性組成物の硬化体の製造方法〕
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、次の工程を含む。本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法には、本発明の水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
工程1:(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を、(A)成分の混合量と(B)成分の混合量との質量比(B)/(A)が、0.15以上0.30以下で混合して、水硬性組成物を調製する工程。
工程2:工程1で得られた水硬性組成物を型枠に充填する工程。
工程3:工程2で型枠に充填した水硬性組成物を、遠心力をかけて型締めする工程。
工程4:工程3で型締めした水硬性組成物を型枠中で凝結させる工程。
【0033】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法は、次の工程5、更に工程6、更に工程7を含むことができる。
工程5:工程4で凝結した水硬性組成物を型枠中で蒸気養生する工程。
工程6:工程5の後、水硬性組成物を冷却して、型枠から脱型する工程。
工程7:工程6で得られた水硬性組成物の硬化体を常温常圧で養生する工程。
【0034】
工程1により、本発明の水硬性組成物を調製することができる。
工程1では、更に(D)成分を混合することができる。
工程1では、本発明の水硬性組成物で述べた事項を適宜適用することができる。例えば、各成分の具体例及び好ましい態様も本発明の水硬性組成物と同じである。また、本発明の水硬性組成物における各成分の含有量、及び各質量比は、各成分の含有量を混合量に置き換えて本発明の水硬性組成物の調製方法に適用することができる
【0035】
工程2で、工程1で得られた水硬性組成物を型枠に充填する方法は、混練後の水硬性組成物を混練手段から排出し、手作業にて型枠へ投入してならす方法が挙げられる。
【0036】
工程3では、型枠に充填した水硬性組成物を遠心力をかけて型締めするが、このとき少なくとも1回は遠心力を変えることが好ましい。工程3では、水硬性組成物を、段階的に変化する遠心力をかけて型締めすることができる。
【0037】
工程3では、型枠に充填した水硬性組成物を、0.5G以上の遠心力で型締めすることが好ましい。遠心成形の遠心力は、好ましくは0.5G以上、そして、30G以下、より好ましくは25G以下である。エネルギーコスト低減面と成形性の面から、少なくとも1分以上、遠心力を15G以上、そして、30G以下、更に25G以下の範囲(高遠心力ともいう)に保持することが好ましい。
【0038】
遠心力での締め固めは、例えば0.5G以上30G以下の遠心力で、好ましくは5分以上、より好ましくは7分以上、更に好ましくは9分以上、そして、好ましくは40分以下行なう。成形体を平滑に締め固める観点から、高遠心力、例えば20G以上の遠心力の保持による締め固めは、好ましくは1分以上、より好ましくは3分以上、更に好ましくは5分以上、そして、好ましくは15分以下行なう。
【0039】
遠心力での締め固めは、段階に分けて行うことができ、成形性の観点から、段階的に遠心力Gを大きくする方法が好ましい。以下に示すような段階条件で所望の遠心力となるまで行うことができる。例えば、五段階の場合、(1)一段階目である初速が0.5G以上2G未満の遠心力で0分間超15分間以下、(2)二段階目である二速が2G以上5G未満の遠心力で0分間超15分間以下、(3)三段階目である三速が5G以上10G未満の遠心力で0分間超15分間以下、(4)四段階目である四速が10G以上20G未満の遠心力で0分間超15分間以下、(5)五段階目である五速が20G以上30G以下の遠心力で0分間超15分間以下、行うことが好ましい。
【0040】
工程4では、工程3で得られた水硬性組成物を凝結させる。具体的には、混練後3~4時間の気中養生を行うこととする。
【0041】
工程5では、工程4で得られた型枠に入った硬化したコンクリートを蒸気養生する。養生条件としては、室温(20℃)に1~4時間放置する前養生を行った後、60℃以上85℃以下で蒸気養生を行なうことが好ましい。また、工程5と工程6は一連の温度制御のもとに連続して行うことができる。
具体的な養生条件として、工程5として、1時間当たり10℃以上30℃以下の昇温速度で型枠の周囲温度を60℃以上85℃以下に昇温し、昇温した温度を2時間以上8時間以下保持し、次いで、工程6として、1時間当たり5℃以上20℃以下の降温速度で室温、例えば20℃まで冷却し、成形体を脱型する。
好ましい条件の一例を挙げれば、室温、例えば20℃に3時間放置し、昇温速度20℃/時間、80℃で6時間保持し(工程5)、次いで、10℃/時間で室温まで冷却して、20時間以上30時間以下の後に成形体を脱型する(工程6)方法が挙げられる。
また、更に180℃のオートクレーブ養生を行なう事も可能である。
【0042】
工程7では、工程6で得られた水硬性組成物の硬化体を常温常圧で養生する。具体的には、20℃、大気圧下で保存する。
【0043】
本発明の水硬性組成物の硬化体の製造方法としては、水硬性組成物の調製を開始してから工程6で脱型するまでの時間が8時間以上30時間以下である、水硬性組成物の硬化体の製造方法が挙げられる。ここで、水硬性組成物の調製の開始とは、水硬性粉体と水とが最初に接触した時点である。
【0044】
本発明の製造方法により得られる水硬性組成物の硬化体は、遠心成形コンクリート製品として使用でき、具体的には、パイル、ポール、ヒューム管等が挙げられる。
【実施例0045】
実施例、比較例で使用した材料を以下に示す。
<(A)成分又は(A’)成分>
JIS R 5201記載のホバート式ミキサーに普通ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、ビーライト含有量18.0質量%、エーライト含有量56.0質量%、比重3.16)と低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント株式会社製、ビーライト含有量55質量%、エーライト含有量27.0質量%、比重3.22)を、表1記載のポルトランドセメントの総量1質量部に対する質量部となるように投入し、140rpmで1分間混合して、(A)成分又は(A’)成分((A)成分の比較成分)のポルトランドセメントを調製した。併せて表1中に、調製した各ポルトランドセメントについて、配合した各ポルトランドセメントの配合質量部から下記式に基づいて算出されるポルトランドセメント中のビーライト含有量(質量%)、及びエーライト含有量(質量%)を示す。また調製した各ポルトランドセメント中のエーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)を表1に示す。
※ビーライト含有量(質量%)
=普通ポルトランドセメントの配合質量部
×0.18(普通ポルトランドセメントのビーライト含有量)
+低熱ポルトランドセメントの配合質量部
×0.55(低熱ポルトランドセメントのビーライト含有量)
※エーライト含有量(質量%)
=普通ポルトランドセメントの配合質量部
×0.56(普通ポルトランドセメントのビーライト含有量)
+低熱ポルトランドセメントの配合質量部
×0.27(低熱ポルトランドセメントのビーライト含有量)
【0046】
【0047】
<(B)成分>
・水:上水道水(和歌山市上水、比重1.00)
<(C)成分>
・ナフタレンスルホン酸系分散剤:マイテイ 150(花王株式会社製、比重1.20)
<(C’)成分((C)成分の比較成分>
・ポリカルボン酸系分散剤:メタクリル酸/メトキシポリエチレングリコール(25)モノメタクリレート=75/25モル%共重合体のナトリウム塩、重量平均分子量=40,000
<(D)成分>
・細骨材:山砂(京都市城陽産、粗粒率2.73、表乾比重2.58)
【0048】
水硬性組成物スラリーの調製
調製した(A)成分又は(A’)成分、及び(D)成分を、表2に記載の水硬性組成物スラリーの総量1質量部に対する質量部となるように投入し、140rpmで15秒間混合した。次いで、(B)成分を、表2記載の水硬性組成物スラリーの総量1質量部に対する質量部となるように、また(C)成分又は(C’)成分を、表2記載の(A)成分の配合質量部に対する配合量(質量%)となるように投入し、更に140rpmで3分間混合することにより、水硬性組成物スラリーを得た。尚、ナフタレンスルホン酸系分散剤の含有量は、固形分量として記載している。また表2に、水硬性組成物スラリー中の(A)成分の含有量と(B)成分の含有量との質量比(B)/(A)を示す。
【0049】
(2)水硬性組成物スラリーの強度発現性の評価
(1)の通り調製した水硬性組成物スラリーを、HDPE製の20mlクローズド型アンプルに20g計量して充填し、等温熱量測定装置 TAM Air(TA Instruments-Waters LLC製)を用いて、接水から第二水和発熱ピークに到達するまでの時間(分)を記録し、これを強度発現性の指標とした。この時間が短い程、水和初期材齢の強度発現性に優れると評価される。結果を表2に示す。
【0050】
【0051】
表2中、実施例1~4は比較例2~6に比して、接水から第二水和発熱ピークに到達するまでの時間が短く、すなわち優れた強度発現性を示した。これは、ポルトランドセメント中のビーライト含有量、及びエーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)を特定の範囲に調整することにより、ナフタレンスルホン酸系分散剤を含有する系におけるごく初期の水和反応を適度に抑制しながら、見かけの水/エーライト比を低下させ、カルシウムイオンの溶出を促進するとともに、エーライト間でのカルシウムイオンや水和反応場の競合を抑制することにより、エーライトの水和反応を促したためであると考察される。また、ポリカルボン酸系分散剤を使用した比較例1および比較例7においては、ポルトランドセメント中のビーライト含有量、及びエーライトの含有量とビーライトの含有量との質量比(ビーライト/エーライト)の調整による強度発現性の向上は確認できなかった。これは、ポリカルボン酸系分散剤が、ナフタレンスルホン酸系分散剤に比して高いカルシウムイオンキレート能を示し、エーライトの水和反応そのものを遅延させたためであると考察される。