(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003369
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】樹脂シート、吸音材、及び車載インシュレータ
(51)【国際特許分類】
G10K 11/162 20060101AFI20240105BHJP
G10K 11/16 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G10K11/162
G10K11/16 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102461
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌平
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061AA11
5D061BB31
5D061DD11
(57)【要約】
【課題】薄膜であっても低周波数吸音性に優れた樹脂シートを提供することを課題とする。
【解決手段】フラジール形通気性試験で測定される樹脂シート1mmあたりの通気度が1cm3/cm2・s以上であり、動的粘弾性測定で得られる溶融熱プレス前後の損失係数tanδ(tanδi:溶融熱プレス前に測定したtanδ、tanδf:溶融熱プレス後に測定したtanδ)の値が、tanδi-tanδf≧0.02を満たす、樹脂シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラジール形通気性試験で測定される樹脂シート1mmあたりの通気度が1cm3/cm2・s以上であり、以下条件で行う動的粘弾性測定で得られる溶融熱プレス前後の損失係数tanδ(tanδi:溶融熱プレス前に測定したtanδ、tanδf:溶融熱プレス後に測定したtanδ)の値が、tanδi-tanδf≧0.02を満たす樹脂シート。
(動的粘弾性測定条件)
引張モード、駆動周波数10Hz、25℃。
(溶融熱プレス条件)
樹脂シートを粉末状になるまで粉砕細断した後、荷重2.16kg下メルトフローレートが5g/10minとなる温度、圧力40kgf/cm2で熱プレスする。
【請求項2】
無機粒子を0.1質量%以上30質量%以下含有し、前記無機粒子の以下の方法で算出される孔壁局在化比率が10%以上である請求項1に記載の樹脂シート。
(孔壁局在化比率算出方法)
三次元TEM(透過型電子顕微鏡)画像の二次元断面を解析し、空気相と樹脂相の境界から50nm以内の距離に存在する無機成分が全体に占める面積比率を算出する。
【請求項3】
無機粒子の動的光散乱測定で測定される一次粒子径d(μm)と、以下の方法で測定される樹脂シートの孔の特性サイズλ(μm)がd≦λ/20を満たす請求項2に記載の樹脂シート。
(孔の特性サイズの測定方法)
樹脂シートを三次元TEM観察した後に三次元解析を行い、特性サイズを算出する。具体的には、三次元TEM観察にて一辺が200μmの立方体の三次元画像を取得し、次に三次元画像の中からランダムに選定した200μm角サイズの20パターンの二次元断面画像を抽出する。各二次元断面画像中で独立した島相として認識される全ての成分の円相当径をそれぞれ計算し、その平均値(数平均)でもって特性サイズλ(μm)とする。
【請求項4】
tanδi-tanδf≧0.05を満たす請求項1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項5】
前記tanδfが0.05超過である請求項1~3のいずれかにに記載の樹脂シート。
【請求項6】
厚みが0.1mm以上2.5mm以下かつ、500Hzでの垂直入射吸音率が2%以上である請求項1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項7】
少なくとも二種類の樹脂成分を混合し、少なくともに二種類の成分がそれぞれ三次元的に連続相を形成した混合物を作製した後、三次元的に連続相を形成した成分のうち少なくとも一種を除去するという工程によって得られる、請求項1~3のいずれかに記載の樹脂シート。
【請求項8】
少なくとも二種類の樹脂成分及び無機粒子を混合し、少なくともに二種類の成分がそれぞれ三次元的に連続相を形成した混合物を作製した後、三次元的に連続相を形成した成分のうち少なくとも一種を除去するという工程によって得られる、請求項7に記載の樹脂シート。
【請求項9】
請求項1~3のいずれかに記載の樹脂シートを用いてなる吸音材。
【請求項10】
請求項1~3のいずれかに記載の樹脂シートを用いてなる車載インシュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜であっても低周波数吸音性に優れた樹脂シート、吸音材、及び車載インシュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は電動化や自動運転化が進むにつれ、単なる移動手段ではなく快適に過ごすための居室空間と捉える動きが強まっており、室内空間の静粛性のニーズがますます高まっている。特に、自動車の足周り近傍で発生する周波数50Hz~2000Hz範囲の騒音はロードノイズと呼ばれ、自動車の定常走行時における最大の騒音源の一つとなっている。ロードノイズの他にも、100Hz~3000Hzのエアコンプレッサ音、500Hz~3000Hzの雨音といった人間の可聴周波数の範囲の中で低周波数の領域に位置する騒音は、従来の吸音材や遮音材において対策が難しい領域であるために低減が強く望まれている。なお、本発明において「低周波数」という言葉を使用する場合、特に断りがなければ周波数50Hz~3000Hzの領域内に含まれる音をさすものとする。
【0003】
低周波数領域の騒音対策として、特許文献1では微細な繊維径の糸からなる不織布の内部を通過する間に音響エネルギーが繊維の振動などによって熱エネルギーに変換されて消滅する吸音材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、シート状材料の吸音性能は厚みの増加に伴って吸音率が高まり、さらに入射する音の周波数が高いほど吸音率は高まる傾向がある。特許文献1に記載の吸音材は結局のところ厚みを厚くすることにより低周波吸音特性を発現させており、厚みが薄い場合であっても低周波吸音特性に優れた吸音材を得ることは困難を極めるものであった。
【0006】
そこで本発明は、薄膜であっても低周波数吸音性に優れた樹脂シート、吸音材、及び車載インシュレータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために本発明の好ましい一態様は以下の構成をとる。
(1)フラジール形通気性試験で測定される樹脂シート1mmあたりの通気度が1cm3/cm2・s以上であり、以下条件で行う動的粘弾性測定で得られる溶融熱プレス前後の損失係数tanδ(tanδi:溶融熱プレス前に測定したtanδ、tanδf:溶融熱プレス後に測定したtanδ)の値が、tanδi-tanδf≧0.02を満たす樹脂シート。
(動的粘弾性測定条件)
測定モード:引張モード
駆動周波数:10Hz
測定温度:25℃。
(溶融熱プレス条件)
樹脂シートを粉末状になるまで粉砕細断した後、荷重2.16kg下メルトフローレートが5g/10minとなる温度、圧力40kgf/cm2で熱プレスする。
(2)無機粒子を0.1質量%以上30質量%以下含有し、前記無機粒子の以下の方法で算出される孔壁局在化比率が10%以上である(1)に記載の樹脂シート。
(孔壁局在化比率算出方法)
三次元TEM(透過型電子顕微鏡)画像の二次元断面を解析し、空気相と樹脂相の境界から50nm以内の距離に存在する無機成分が全体に占める面積比率を算出する。
(3)無機粒子の動的光散乱測定で測定される一次粒子径d(μm)と、以下の方法で測定される樹脂シートの孔の特性サイズλ(μm)がd≦λ/20を満たす(2)に記載の樹脂シート。
(孔の特性サイズの測定方法)
樹脂シートを三次元TEM観察した後に三次元解析を行い、特性サイズを算出する。具体的には、三次元TEM観察にて一辺が200μmの立方体の三次元画像を取得し、次に三次元画像の中からランダムに選定した200μm角サイズの20パターンの二次元断面画像を抽出する。各二次元断面画像中で独立した島相として認識される全ての成分の円相当径をそれぞれ計算し、その平均値(数平均)でもって特性サイズλ(μm)とする。
(4)tanδi-tanδf≧0.05を満たす(1)~(3)のいずれかに記載の樹脂シート。
(5)前記tanδfが0.05超過である(1)~(4)のいずれかにに記載の樹脂シート。
(6)厚みが0.1mm以上2.5mm以下かつ、500Hzでの垂直入射吸音率が2%以上である(1)~(5)のいずれかに記載の樹脂シート。
(7)少なくとも二種類の樹脂成分を混合し、少なくともに二種類の成分がそれぞれ三次元的に連続相を形成した混合物を作製した後、三次元的に連続相を形成した成分のうち少なくとも一種を除去するという工程によって得られる、(1)~(6)のいずれかに記載の樹脂シート。
(8)少なくとも二種類の樹脂成分及び無機粒子を混合し、少なくともに二種類の成分がそれぞれ三次元的に連続相を形成した混合物を作製した後、三次元的に連続相を形成した成分のうち少なくとも一種を除去するという工程によって得られる、(7)に記載の樹脂シート。
(9)(1)~(8)のいずれかに記載の樹脂シートを用いてなる吸音材。
(10)(1)~(8)のいずれかに記載の樹脂シートを用いてなる車載インシュレータ。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薄膜であっても低周波数吸音性に優れた樹脂シートを得ることができ、当該樹脂シートは特に吸音材としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明における樹脂シートの一例を拡大しつつ立方体で切り取って斜視したイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の樹脂シートについて具体的に説明する。
【0011】
本発明の樹脂シートは、フラジール形通気性試験で測定される樹脂シート1mmあたりの通気度が1cm3/cm2・s以上であることが好ましい。
【0012】
(フラジール形通気性試験方法)
フラジール・パーミヤメータを用いてASTM D737(2018年)に準拠して測定する。通気度は試料の実厚み(mm)で割り返し、樹脂シート1mmあたりの通気度(cm3/cm2・s)を求める。測定面積は100cm2。設定圧力250Pa、測定環境25℃、50%RHで測定する。
【0013】
樹脂シート1mmあたりの通気度が1cm3/cm2・s以上であることにより、音が樹脂シートを通り抜ける際、樹脂シート自体を振動させていくことによる影響よりも、樹脂シートを通り抜ける空気の振動を介していく影響を大きくすることができる。樹脂シートを通り抜ける空気の振動を介して、音が樹脂シートを通り抜ける間に減衰させることにより吸音する効果を発揮することができる。通気度の上限は特に限定されないが、通気度が低いほど、音が通過する際の音圧が高まることで吸音材として用いる場合の吸音率が高まる傾向にある。樹脂シート1mmあたりの通気度はより好ましくは1cm3/cm2・s以上300cm3/cm2・s以下であり、さらに好ましくは1cm3/cm2・s以上150cm3/cm2・s以下である。樹脂シートであって1mmあたりの通気度が1cm3/cm2・s未満となる場合としては、例えば無数の孔が樹脂の内部で独立孔として存在する場合などが挙げられる。
【0014】
本発明の樹脂シートは、以下条件で行う動的粘弾性測定で得られる溶融熱プレス前後の損失係数tanδ(tanδi:溶融熱プレス前に測定したtanδ、tanδf:溶融熱プレス後に測定したtanδ)の値が、tanδi-tanδf≧0.02を満たすことが好ましい。
(動的粘弾性測定条件)
引張モード、駆動周波数10Hz、25℃。
(溶融熱プレス条件)
樹脂シートを粉末状になるまで粉砕細断した後、荷重2.16kg下メルトフローレートが5g/10minとなる温度、圧力40kgf/cm2で熱プレスする。
【0015】
溶融熱プレス後に測定したtanδであるtanδfは、溶融熱プレスして通気しない状態にしたもの、つまり空隙などの影響を排した樹脂シートの素材の特性を反映する。一方、溶融熱プレス前に測定したtanδであるtanδiは空隙などの樹脂シートの構造の影響を加味した樹脂シート自体の特性を反映する。tanδは粘性の寄与を弾性の寄与で割ったものを表現するので、tanδi-tanδfが大きいということは、樹脂シートが、樹脂シートの素材と比べて、粘性の寄与が特に大きいことを表す。
【0016】
樹脂シートを通り抜ける空気の振動を介して音が樹脂シートを通り抜ける際、樹脂シートを空気が通り抜けつつ、樹脂シートを振動させていくので、粘性の寄与により振動が熱に変わり、結果として音を吸収することにつながると考えている。
【0017】
樹脂シート1mmあたりの通気度が1cm3/cm2・s以上かつ、tanδi-tanδf≧0.02であることにより、樹脂シートを通り抜ける空気の振動を介して音が樹脂シートを通り抜ける際に、樹脂シートの構造の影響も併せて吸音されるため、特に吸音されにくい低周波数の音も、効率よく吸音することができると考えている。具体的には、樹脂シートを通り抜ける空気が樹脂シートの構造により粘性摩擦を生じて熱エネルギーに変換されることが起きていると考えられる。
【0018】
tanδi-tanδf≧0.02とするための達成手段としては、例えば、特定の溶媒に対する溶解性が大きく異なる少なくとも二種類の樹脂成分を溶融混練法によって混合し、各成分がそれぞれ三次元的に連続相を形成したジャイロイド型の混合物を作製した後、一部の成分を溶媒で溶出して除去するという連通孔の形成過程の中で、溶融混練の段階で特定の粒子径を有する無機粒子を共存させたり、混練手順や混練時間を好ましい範囲へ調整したりして無機粒子の樹脂中での存在位置を制御する方法が挙げられる。より具体的には、混合した二種類の樹脂成分の界面近傍へと無機粒子が局在化した状態とすることを好ましく挙げることができる。このようにすることで、無機粒子が孔や空隙の壁面に局在化した構造を有する樹脂シートとすることができ、それにより、孔構造起因の振動ひずみの吸収に加えて、壁面に局在化した無機粒子が振動することによる振動ひずみの吸収が生じるので、tanδiの値が大きくなり、tanδi-tanδf≧0.02とすることができると考える。
【0019】
ジャイロイド構造を形成させることで、孔の曲路率、すなわちシートの表裏の連通点の最短距離に対してどれだけ樹脂シート内部で経路が迂回しているかの度合いを大きくすることができる。曲路率の大きい孔構造は振動ひずみに対する屈曲点周辺の変形の余地が大きいために、振動ひずみをより吸収して熱に変える、すなわち、tanδのうちの粘性項の寄与が高まることとなると考える。そのため、ジャイロイド構造を形成させることでtanδiの値が大きくなり、tanδi-tanδf≧0.02とすることができると考える。
【0020】
なお、ジャイロイド構造ではなく、例えば不織布のような構造によって連通孔を形成させた積層シートの場合、繊維の面内配向に起因して弾性の寄与が大きくなったり、形成される孔構造の曲路率が小さくなったりするためにtanδ
iが小さくなる傾向があり、tanδ
i-tanδ
f≧0.02を達成することは困難である場合があることから、前記樹脂シートはジャイロイド構造を有することが好ましい。なお、ジャイロイド構造を有する樹脂シートとして、本発明の樹脂シートは樹脂シートの空気相と樹脂相が、それぞれ三次元的に連続相を形成していることが好ましい。このような態様の樹脂シートの一例を拡大しつつ立方体で切り取って斜視したイメージを
図1に示す。
【0021】
上記同様の観点から、より好ましくはtanδi-tanδf≧0.05であり、さらに好ましくはtanδi-tanδf≧0.07である。tanδi-tanδfの上限は特に限定されるものではないが吸音材として賦形加工されて使用される場合の吸音性能の耐久性を高くする観点から0.50未満であることが好ましい。
【0022】
本発明の樹脂シートは、前記tanδfが0.05超過であることが好ましい。tanδfが大きくなることで、シートに入射した音波のうち、樹脂骨格を伝播しながら減衰する固体伝播音の減衰が大きくなる傾向があり、吸音材として用いる場合により低周波数域の音を吸収したり、吸音率を高めたり、振動を抑制したりすることができる。そのメカニズムとして次のように推測している。まず、tanδfは溶融熱プレス後に測定されることから、測定サンプルは実質的に通気性を有さない、言い換えれば通気のための連通孔を有さない状態であると考えられる。連通孔を持たない樹脂シートが音を伝達する仕組みとして、樹脂骨格自体が振動して固体内部で音を伝える固体伝播があり、樹脂シートへ入射した音は固体が振動する振動エネルギーに変換されることで消費される。その際、樹脂シートを構成する樹脂の骨格が吸音したい音の周波数領域においてより粘性的なふるまいをする場合、すなわち、入力された振動がより高い粘性抵抗をうける場合には、音が入射した面から反対面へと伝播する間により大きなエネルギーが消費され、より減衰するため、結果として吸音材による吸音効果が高まることとなる。また、低周波数域の音は高周波数域の音に比べてより固体伝播型の音の伝達が起きやすいために、低周波数域の音に対しては本発明の樹脂シートによる吸音効果がより高く発現したものと推定している。
【0023】
同様の観点から、より好ましくはtanδfが0.06以上であり、さらに好ましくは0.08以上であり、とくに好ましくはtanδfが0.10以上である。tanδfの上限は、吸音材として使用される場合の長期耐久性や耐熱性の観点から1.00未満であることが好ましい。tanδfの値を上記範囲とするための達成手段としては樹脂シートの主成分を後述する熱可塑性エラストマー樹脂とする方法などが挙げられる。ここで主成分とは、樹脂シートを構成する樹脂成分のうち50質量%以上を占める成分をいう。
【0024】
本発明の樹脂シートは、厚みが0.1mm以上2.5mm以下であり、かつ周波数500Hzでの垂直入射吸音率が2%以上であることが好ましい。上記を満たすことで、従来の吸音材では設置が困難であったわずかな間隙に貼合したり、挟み込んだりして設置された場合であっても吸音機能を発揮させることができる。より好ましくは周波数500Hzでの垂直入射吸音率が4%以上であり、さらに好ましくは6%以上である。厚みが0.1mm以上2.5mm以下であり、かつ周波数500Hzでの垂直入射吸音率を上記範囲とするための達成手段としては、上記連通孔を有する樹脂シートを得る方法と同様の方法を好ましく挙げることができる。なかでも各成分がそれぞれ三次元的に連続相を形成したジャイロイド型の混合物を作製した後、厚みが0.1~2.5mmとなるように特定の低せん断下で成形を行った後、一部の成分を溶媒で溶出して除去する方法などをより好ましく挙げることができる。
【0025】
本発明の樹脂シートは、無機粒子を0.1~30質量%含むことが好ましい。無機粒子の含有量を前記範囲とすることで、吸音性をより高めることができるだけでなく、固体伝播で生じる振動を抑制する制振の効果を高めることができる。無機粒子の含有量が30質量%を超えると骨格が剛直となり吸音性が低下する場合がある。無機粒子の含有量はより好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは3~10質量%である。
【0026】
無機粒子は、例えば、金、銀、銅、白金、パラジウム、レニウム、バナジウム、オスミウム、コバルト、鉄、亜鉛、ルテニウム、プラセオジウム、クロム、ニッケル、アルミニウム、スズ、チタン、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、インジウム、イットリウム、ランタニウム、ケイ素などの金属、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セシウム、酸化アンチモン、酸化スズ、インジウム・スズ酸化物、酸化イットリウム、酸化ランタニウム、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ケイ素などの金属酸化物、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化アルミニウム、氷晶石などの金属フッ化物、リン酸カルシウムなどの金属リン酸塩、炭酸カルシウムなどの炭酸塩、硫酸バリウム、硫酸マグネシウムなどの硫酸塩、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化炭素などの窒化物、ワラストナイト、セピオライト、ゾノトライト、アルミノシリケートなどのケイ酸塩、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウムなどのチタン酸塩、シルセスキノキサン粒子などが挙げられ、さらにそれらの複合体や水和物であってもよい。また、カーボンナノチューブやカーボンブラック、グラフェン、ダイヤモンドライクカーボン等の炭素系粒子も、本発明における無機粒子の一部として含むものとする。また、これら無機粒子は複数を組み合わせて用いても構わない。
【0027】
上記の無機粒子は、樹脂との親和性を高めて分散性を高めたり、後述する無機粒子の孔壁局在化比率を調整したりするために、シランカップリング剤による表面修飾、金属蒸着、ポリマーのグラフト化、プラズマ処理、などといった表面処理によって表面改質したものを用いることが好ましい。中でも、長鎖アルキル系シランカップリング剤などのような疎水性のシランカップリング剤によって表面処理し、表面の疎水性を高める処理を行うことが特に好ましい。
【0028】
上記の無機粒子の一次粒子径は、0.01μm以上3.0μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.05μm以上1μm以下である。一次粒子径が0.01μmに満たないと、溶融混練の際に粒子が凝集して無機粒子に由来する吸音性向上の効果が得られない場合がある。また、一次粒子径が3.0μmを超えると無機粒子による孔の安定化効果が失われ、無機粒子に由来する吸音性向上の効果が得られなかったり、薄膜に成形した際の強度が低下したりする場合がある。吸音効果の観点から、無機粒子の一次粒子径は0.02μm以上1.0μm以下であることがより好ましく、0.05μm以上0.25μm以下がさらに好ましい。無機粒子の一次粒子径dの測定方法は後述する。
【0029】
本発明の樹脂シートが無機粒子を含有する場合、後述する方法で測定される無機粒子の一次粒子径dと、以下方法で測定される樹脂シートの孔の特性サイズλがd≦λ/20を満たすことが好ましい。孔の特性サイズλと一次粒子径dの関係を上記範囲とすることで、樹脂シートの強度を損なうことなく無機粒子による吸音や制振の効果を高めることができる。同様の観点からより好ましくはd≦λ/50である。
【0030】
また、低周波数の音の吸音性の観点から、d≧λ/280であることが好ましく、d≧λ/90であることがより好ましい。
【0031】
(孔の特性サイズの測定方法)
樹脂シートを三次元TEM観察した後に三次元解析を行い、特性サイズを算出する。具体的には、三次元TEM観察にて一辺が200μmの立方体の三次元画像を取得し、次に三次元画像の中からランダムに選定した200μm角サイズの20パターンの二次元断面画像を抽出する。各二次元断面画像中で独立した島相として認識される全ての成分の円相当径をそれぞれ計算し、その平均値(数平均)でもって特性サイズ(μm)とする。
【0032】
本発明の樹脂シートの孔の特性サイズλは、1μm以上200μm以下であることが吸音材として使用する場合の低周波数吸音性を高めるために好ましい。より好ましくは2μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは2μm以上80μm以下であり、とくに好ましくは2μm以上45μm未満である。
【0033】
本発明の樹脂シートが無機粒子を含有する場合、後述する方法で測定される無機粒子の孔壁局在化比率が10%以上であることが好ましい。孔壁局在化比率を10%以上とすることで、孔壁の表面積が増大し、孔壁と音波の粘性摩擦による吸音効果を高めることができる。
【0034】
従来の吸音材のように樹脂シート内部に孔や空隙が存在するのみであっても、孔や空隙の近傍での粘性摩擦による一定のエネルギー消費は発現する。しかしながら、樹脂シートを構成する樹脂骨格の内部が比較的均一な構造になっている場合においては、振動エネルギーが固体中を伝播していく際の減衰の程度には改善の余地がある。音は密度が異なる媒体の界面、すなわち音の伝播速度が変化する変化点において特に減衰するため、密度差の大きい界面を多く形成することは吸音性能を高める上で有効である。
【0035】
無機粒子が孔や空隙の壁面に局在化した構造を有する樹脂シートとすることによって、樹脂シートの孔壁近傍では密度の異なる複数の層、すなわち音の伝播速度が異なる複数の層が積層された局所構造が得られるため、それぞれの積層界面でのエネルギー交換によるエネルギー消費が大きくなり、吸音率が高まると考える。また、低周波数域の音は高周波数域の音に比べてより固体伝播型の音の伝達が起きやすいため、低周波数域の音に対しては本発明の樹脂シートによる吸音効果がより高く発現すると考えている。
【0036】
上記観点から孔壁局在化比率はより好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは30%以上である。孔壁局在化比率の上限としては、無機粒子が使用中に孔壁から脱落するのを防ぐ観点から90%以下が好ましい。無機粒子の孔壁局在化比率を上記範囲とするための達成手段としては、前述した溶融混練法にて樹脂シートを作製する際に無機粒子を共存させ、さらに樹脂成分と無機粒子の混練手順を樹脂のSP値を考慮して決定する方法などが挙げられる。具体的には、溶融混練法で混合する樹脂成分のうち、最もSP値が低い成分と無機粒子とを最初に混合した後、残りの樹脂成分を後から添加して混合する方法が好ましい。ここでSP値とはHildebrandらが提唱した溶解性パラメータ(“The Solubility of Nonelectrolytes”,[3rd,ed.] Reinhold,NY 1959)の理論を基に算出されたものであり、各樹脂が固有の値を有する。本発明においては、文献(Journal of Applied Chemistry、3巻、p71~80、1953)に記載のあるSmallによって提案された方法により樹脂のSP値を算出する。
【0037】
本発明の樹脂シートは吸音材として好適に用いることができる。吸音材は車の遮音や吸音に用いられる車載インシュレータや、電子機器の発生音を抑制する電子機器用、建築材料に用いられる建材用などが挙げられる。中でも、薄膜であっても低周波数吸音性に優れるという本発明の樹脂シートの効果が発揮されやすいことから、自動車の電動化や自動運転化が進むにつれ、室内空間の静粛性のニーズ、特に静粛化が難しい低周波数の静粛化ニーズ、がますます高まっている車載インシュレータに用いることがより好ましい。特にフェンダーライナーやフロアアンダーカバー、エンジンアンダーカバーといった車体の足回り付近の部材の吸音材や、インナータイヤの吸音材などとして好適に用いることができる。
【0038】
本発明の樹脂シートを吸音材として用いる場合、機器や構造体などの隙間へ挿入して用いることができる。その際、厚みの薄いシート状で作製したものをそのまま挿入して用いてもよいし、シートの少なくとも一方の面に異なる素材を貼合してから挿入してもよい。貼合する場合には樹脂シートの孔が接着剤などによって埋没しないように接着剤の粘性や塗布量を調整することが好ましく、より好ましくは樹脂シートの表面にコロナ処理やプラズマ処理といった表面処理を施した後に熱をかけながら他素材と接合させる接着剤レスの接合法が、樹脂シートの吸音特性を損なうことなく接着できるために特に好ましい。
【0039】
本発明の樹脂シートは、熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性樹脂を含むことで、吸音材として使用する場合に樹脂骨格を伝播しながら減衰する固体伝播音の減衰を大きくすることができる。熱可塑性樹脂としては、例えばポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリアリーレンオキシド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂、芳香族ポリエーテルケトン樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂などが挙げられ、さらにこれらの共重合体や変性体であってもよい。
【0040】
本発明の樹脂シートは、熱可塑性樹脂の中でも特に熱可塑性エラストマー樹脂を含むことが好ましい。熱可塑性エラストマー樹脂とは、融点以上に加熱すると熱可塑性を示す一方、常温ではゴム弾性の性質を示す樹脂である。具体的には、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマーなどが挙げられる。熱可塑性エラストマー樹脂を含むことで、吸音材として使用する場合に樹脂骨格を伝播しながら減衰する固体伝播音の減衰を大きくすることができる。熱可塑性エラストマー樹脂として、25℃、1Hzでのせん断貯蔵弾性率G’(25)が10MPa以下の樹脂を用いることがより好ましい。
【0041】
本発明の樹脂シートは、上記した観点から少なくとも二種類の樹脂成分を混合し、少なくともに二種類の成分がそれぞれ三次元的に連続相を形成した混合物を作製した後、三次元的に連続相を形成した成分のうち少なくとも一種を除去するという工程によって得られるものであることが好ましい。前記混合物において特定の溶媒に対する溶解性が大きく異なる二種類の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。このようにすることで、連続相を形成した混合物を作製した後、一部の成分を溶媒で溶出して除去し、規則的な連通孔を形成することができる。また、前記の二種類の熱可塑性樹脂は互いに非相溶な樹脂の組み合わせであることが好ましい。二種類の熱可塑性樹脂が互いに相溶なものである場合、いずれか一方の成分を溶媒で抽出除去して連通孔を形成することができなかったり、得られる孔サイズが過度に微小なものとなって吸音性が発現しなかったりする場合がある。
【0042】
本発明の樹脂シートは、前記溶解性が大きく異なる二種類の熱可塑性樹脂の中でも水溶性の熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。水溶性の熱可塑性樹脂を含むことで、一部の成分を溶媒で溶出して除去する工程を簡便かつ環境に優しいものとできる。水溶性の熱可塑性樹脂としては、ポリビニルアルコール樹脂や、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂、ポリアクリルアミド、およびカルボキシメチルセルロースより選ばれる1種以上の樹脂が好ましい。
【0043】
本発明の樹脂シートは、前記工程について、少なくとも二種類の樹脂成分を混合する際に無機粒子も混合していることが好ましい。これにより無機粒子が孔や空隙の壁面に局在化した構造を有する樹脂シートとすることが容易にできる。
【0044】
次に本発明の樹脂シートの好ましい製造方法を説明する。
【0045】
本発明の樹脂シートの製造方法は、少なくとも二種類の樹脂成分を混合し、少なくともに二種類の成分がそれぞれ三次元的に連続相を形成した混合物を作製した後、三次元的に連続相を形成した成分のうち少なくとも一種を除去するという工程を有することが好ましく、前記工程について、少なくとも二種類の樹脂成分を混合する際に無機粒子も混合していることがより好ましい。また、前記の少なくとも二種類の樹脂成分を混合する際に、溶融混練法によって混合することがジャイロイド構造の形成を効率よく行えるため好ましい。また、前記の三次元的に連続相を形成した成分のうち少なくとも一種を除去する際には一部の成分を溶媒で除去することが、除去すべき成分を効率的かつ十分に除去できるため好ましい。
【0046】
以下、本発明の樹脂シートの製造方法の好ましい一態様について具体例を用いて説明する。
【0047】
二種類の熱可塑性樹脂(以下樹脂A、樹脂B)と、無機粒子を原料として用意し、それぞれ必要に応じて熱風中や真空下で乾燥する。ここで、樹脂Aと樹脂BのSP値を比較すると樹脂BのSP値の方が樹脂AのSP値よりも高く、樹脂Aは水に不溶、樹脂Bは水に可溶なものである場合を例にとって説明する。
【0048】
樹脂Aと樹脂Bの混合比率は、体積比で3:7~7:3の範囲であることが連通孔を形成するために好ましく、より好ましくは体積比で4:6~6:4の範囲である。無機粒子の添加量は、原料全体に対する体積分率として2体積%以上であることが連通孔の形状を安定化させる観点から好ましく、より好ましくは4体積%以上である。
【0049】
次に、上記の原料を溶融混練法にて混練する。溶融混練は、バッチ式の混練機や連続式の二軸混練押出機を用いて実施されるが、量産性の観点からは連続式の二軸混練押出機がより好ましい。二軸混練押出機を用いる場合、サイドフィード機能を有するものや、タンデム型のものが後述する多段階の混練を実施するために好ましい。また、溶融混練過程での樹脂の熱劣化を抑制する観点からベント機能を有するものが好ましい。
【0050】
溶融混練は、樹脂Aと樹脂Bの両方が加熱流動する温度にて実施され、多段階にて実施されることが好ましい。具体的には、まず樹脂Aと無機粒子とが混練機へ投入されて混合される段階(1段目)の後に、樹脂Bが投入されてさらに混合される段階(2段目)を経て樹脂組成物を得ることが好ましい。
【0051】
上記の1段目にかかる時間T1は1分以上であることが好ましく、より好ましくは2分以上である。一方、2段目にかかる時間T2はT2<T1を満たすことが好ましく、より好ましくはT2<T1/2、さらに好ましくはT2<T1/3である。T1やT2は、溶融混練がバッチ式混練である場合には混練時間を、連続式の二軸混練押出機を用いる場合には各原料を供給した後の該当する混練ゾーンを樹脂が通過するのに必要な最短時間をそれぞれ意味する。
【0052】
次に溶融混練されて得た樹脂組成物は、混練機から取り出されて冷却される。その際の冷却速度は、50℃/分以上の速度であることが好ましく、より好ましくは40℃/分以上である。冷却方法としては原料がすべて水に不溶なものである場合には水槽を用いた水冷が好ましいが、一部原料に水溶性のものを用いる場合にはベルトコンベア搬送による空冷や、金属等の冷却体へ押し当てることによる放熱冷却などが好ましい。
【0053】
このようにして得られた樹脂組成物は、再び溶融させてスリット状の口金から吐出させ、シート状に成形する。その際、押出に使用する押出機は単軸押出機であることが好ましく、押出機内部で樹脂組成物に加わる最大せん断速度が、前記の溶融混練で加わった最大せん断速度の1/2以下であることが連通孔の形状を安定化させる観点から好ましい。より好ましくは1/3以下である。
【0054】
また、シート状に連続吐出されたものをキャスティングドラムなどを用いて連続的に引き取る際のドロー比は10以下であることが連通孔を形成するために好ましく、より好ましくは5以下である。
【0055】
シートの厚みは0.1~2.5mmとすることが、従来の吸音材では設置が困難であったわずかな間隙に貼合したり、挟み込んだりして設置できるために好ましい。
【0056】
次に、このようにして得られたシート状の成形体を水に浸漬させて樹脂Bを溶解させて抽出除去する。浸漬は水の中に静置する方法でもよいが、浸漬する水を適宜新しい水へ交換しながら浸漬したり、水流をシート面に当てる方法で浸漬したりすることも抽出除去にかかる時間を短くできるために好ましい。樹脂Bを抽出除去するのに必要な抽出時間は連通孔のサイズによって変化するが、樹脂Bがポリビニルアルコール系樹脂である場合には樹脂Bに由来する水の泡立ちが見られなくなる程度まで浸漬することが好ましい。
【0057】
次に樹脂Bを抽出除去したシート状の成形体を十分に乾燥させることで、目的とする樹脂シートが得られる。
【実施例0058】
以下、本発明の樹脂シートについて実施例を用いてより詳細に説明するが、本発明の樹脂シートはこれらの例に限定されない。
【0059】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
特性値の評価方法ならびに効果の評価方法は次の通りである。
【0060】
A.通気度
フラジール・パーミヤメータ(東洋精機製作所製、FP2)を用いてASTM D737(2018年)に準拠して通気度を測定した。通気度は試料の実厚み(mm)で割り返し、樹脂シート1mmあたりの通気度(cm3/cm2・s)を求めた。測定面積は100cm2。設定圧力250Pa、測定環境25℃、50%RHで測定した。
【0061】
B.損失係数tanδ
シート面内の任意の方向を起点として30°ずつ同じ方向に面内回転させながら150°回転するまでの合計6つの方向についてそれぞれ幅5mm、長さ50mmの短冊を切り出した。次にJIS-K7244-4(1999年)に従って動的粘弾性測定装置(セイコーインスツルメンツ製、DMS6100)を用いて動的粘弾性測定を行った。測定は引張モード、駆動周波数10Hz、チャック間距離10mm、昇温速度2℃/分にて、0℃から150℃の温度範囲で測定し、損失係数tanδの温度分散から25℃におけるtanδの値を読み取った。測定は切り出した6つの短冊それぞれについて実施し、得られた6つのtanδの値の平均値をもって該サンプルの溶融熱プレス前の損失係数tanδiとした。
【0062】
溶融熱プレス後の損失係数tanδfは、上記試料を細かい粉末状になるまで粉砕細断した後、試料が溶融して加熱流動し始める温度、より具体的にはJIS-K7210-1(2014年)で規定される荷重2.16kg下メルトフローレートが5g/10minとなる温度にて40kgf/cm2の圧力を加えてエア抜きしながら熱プレスして厚み1mmのシート状となるよう再成型した。得られたシートについて上記と同じ手順で動的粘弾性測定を実施し、得られたtanδの値をtanδfとした。
【0063】
C.厚み
先端が平坦で直径4mmのダイヤルゲージ厚み計(ミツトヨ製、No.2109-10)を用いて測定した。なお、測定は場所を変えて10回実施し、その平均値でもって該サンプルの厚みとした。
【0064】
D.垂直入射吸音率
垂直入射吸音率測定システムWinZacMTX(日本音響エンジニアリング製)を用いて、JIS-A1405-2(2007年)に準拠した方法にて測定した。試料サイズはφ39.5mmとし、厚みは1mmとなるよう重ねたり削ったりして調整した。測定温度は25℃、雰囲気湿度は50%RH、大気圧1013hPa、音響管はNOE標準管(φ40mm)、用いた試験方法は2チャンネル反射法(2つのマイクを使用)であり、音の周波数は500Hzである。
【0065】
E.無機粒子含有量
熱重量分析装置(TAインスツルメンツ製、TGA550)にて測定した。試料量は5~10mgとし、窒素雰囲気下、室温~700℃(20℃/min)の条件で加熱してデータを採取した後に100~600℃の範囲について始点と終点の質量比から残渣の質量分率を算出し、得られた値を無機粒子含有量(質量%)とした。
【0066】
F.無機粒子の一次粒子径
上記の熱重量分析で得た残渣について動的光散乱測定(NanoPlus HD、Micromeritics製)を用いて粒子径を測定した。溶媒には純水を用い、測定前に超音波処理によって分散させたのちに測定した。なお、一次粒子径は、流体力学的平均直径を指す。
【0067】
G.樹脂シートの孔の特性サイズ
樹脂シートを三次元TEM観察した後に三次元解析を行い、特性サイズを算出した。具体的には、三次元TEM観察にて一辺が200μmの立方体の三次元画像を取得し、次に三次元画像の中からランダムに選定した200μm角サイズの20パターンの二次元断面画像を抽出した。各二次元断面画像中で独立した島相として認識される全ての成分の円相当径をそれぞれ計算し、その平均値(数平均)でもって特性サイズ(μm)とした。
【0068】
H.無機粒子の孔壁局在化比率
樹脂シートを三次元TEM観察して一辺が200μmの立方体の三次元TEM画像を得たのち、三次元画像の中からランダムに選定した200μm角サイズの20パターンの二次元断面画像を抽出した。次に各二次元断面画像中で画像解析ソフトを用いて、空気相と樹脂相の境界にあたる部分を判別した。そして、境界から50nm以内の距離の中に接している無機成分の断面積を算出しSv、二次元断面画像の全体で観察される無機成分の総断面積数をSaとした場合に、下記式1により無機粒子の孔壁局在化比率(%)を算出した。
Sv/Sa×100 ・・・式1
なお、孔壁局在化比率は20パターンの二次元断面画像それぞれについて算出したのち、それらの平均値でもって該試料の無機粒子の孔壁局在化比率(%)とした。また、無機成分の存在位置が判別しにくい場合には、各二次元断面画像についてEDX測定を行い樹脂成分と無機成分とを識別した。
【0069】
I.低周波吸音性
健康な10代~40代の男女15人を年代や性別が偏らないように集めて被験者とした。被験者には事前に70デシベルの騒音を聞かせた後に次に60デシベルの騒音を聞かせ、これらの差と同等レベルの差があったと感じた場合には「騒音レベルが低減した」と回答、それ以外の場合は全て「騒音レベルが低減したと感じなかった」に割り当て、回答は二択で回答するよう教育した。
日産自動車製の電気自動車LEAFと、高速道路走行や降雨下の走行を再現可能なシャシダイナモメータ試験室を用意し、時速80kmの高速道路走行を想定して走行試験を実施し、後部座席中央に着座した被験者がタイヤのから届くロードノイズの騒音レベルを確認した(試験1)。次に、車を停車させた状態にてエアコンプレッサを出力が最大となる条件で稼働させ、後部座席中央に着座した被験者が車室内に届いたエアコンプレッサの駆動音の騒音レベルを確認した(試験2)。次に時速80kmで時間30mm/時間の降雨を想定した環境で走行させ、後部座席中央に着座した被験者がルーフから届く雨音の騒音レベルを確認した(試験3)。続いて、窓ガラス以外の車室内の内壁、すなわちフロアマット下やドア内側、ルーフに厚み1mmとなるよう重ねたり削ったりして調整したシート状の試料を面内に敷き詰めるように設置し、前記と同じ条件にて試験1~3をそれぞれ実施した。低周波吸音性は、試料の設置有無で被験者が体感した騒音レベルの差の総意によって以下の基準で評価した。総意とは、被験者15人のうち、過半数を超える意見をさす。
A:試料の設置により、試験1~3の全ての試験において騒音レベルが低減した。
B:試料の設置により、試験1~3のうち2つの試験において騒音レベルが低減した。
C:試料の設置により、試験1~3のうち1つの試験において騒音レベルが低減した。
D:試料の設置有無で試験1~3のいずれにおいても騒音レベルが低減しなかった。
【0070】
J.制振性
JIS-G0602(1993年)に準拠した片持ちはりの曲げ振動に対する振動減衰特性測定試験を行った。具体的には長さ200mm、幅16mm、厚さ1.6mmの短冊状の一般構造用炭素鋼S45Cをベース材として用意し、端部40mmを固定して初期変位15mmの自由振動を与えた際の振動の様子をFFTアナライザを用いて解析した。次にベース材へ厚さ1mmとなるよう重ねたり削ったりして調整した試料を厚み50μmの粘着層(日榮新化株式会社製NeoFix50)を介して貼合した後に同様の試験を実施し、試料の貼合有無での振動波形の変化によって以下の基準で評価した。貼合は、粘着層と試料をそれぞれ炭素鋼と同じサイズで切り出した後、炭素鋼/粘着層/試料の順でちょうど重なるように貼合した。
A:試料貼合後の振動減衰の半減期が貼合前と比べて0.3倍未満であった。
B:試料貼合後の振動減衰の半減期が貼合前と比べて0.3倍以上、0.5倍以下であった。
C:試料貼合後の振動減衰の半減期が貼合前と比べて0.5倍よりも大きかった。
【0071】
K.強度
JIS-P8115(2001年)に準拠した方法にて、耐折強さ試験を行った。幅15mmの短冊状の試料を用意し、MIT耐折試験機(マイズ試験機製)を使用して、荷重:9.8N、速度:175回/min、曲率半径(R):0.38mm、間隙:0.25mm、折り曲げ角:左右へ135°の条件で測定した。得られた値を用いて以下の通り判定した。
A:破断するまでの折り曲げ回数が500回以上。
B:破断するまでの折り曲げ回数が100回以上、500回未満。
C:破断するまでの折り曲げ回数が100回未満。
【0072】
[樹脂シートに用いた樹脂および粒子]
樹脂1:ポリエステル系エラストマー(東レ・デュポン製、“ハイトレル”(登録商標)G3548LN、融点154℃、SP値23(MPa)1/2)
樹脂2:ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール製、“JMR”(登録商標)-10M、融点156℃、SP値26(MPa)1/2)
樹脂3:固有粘度0.65のポリエチレンテレフタート、融点254℃、SP値22(MPa)1/2)
樹脂4:ポリエステル系エラストマー(東レ・デュポン製、“ハイトレル”(登録商標)7247、融点216℃、SP値23(MPa)1/2)
樹脂5:固有粘度0.65のポリフェニレンサルファイド、融点280℃、SP値21(MPa)1/2)
粒子1:シリカ粒子(日本触媒製、“シーホスター”(登録商標)KE-P10、平均粒子径0.15μm)
粒子2:シリカ粒子(日本触媒製、“シーホスター”(登録商標)KE-P30、平均粒子径0.30μm)
粒子3:シリカ粒子(富士シリシア化学製、“サイロホービック”(登録商標)200、平均粒子径3.9μm)
粒子4:5gの粒子1を、5mmolのオクタデシルトリメトキシシランを溶解させた100mLのトルエン中に入れて懸濁させた後、トリエチルアミン5mmolを添加した。この懸濁液を10分間攪拌した後、遠心分離し、真空中室温で3時間乾燥させて、粒子表面を長鎖アルキル基で修飾したシリカ粒子として粒子4を得た。
【0073】
【0074】
【0075】
(実施例1)
最大せん断速度が400/sとなるようにスクリューアレンジを設定したベント孔付きの二軸押出機の元フィーダーへ樹脂1と粒子1を表1に記載の比率で添加して溶融させ、溶融後の練り時間が表1に記載の1段目混練時間(3分)に達する位置に設けたサイドフィード孔から樹脂2を途中添加し、継続して表1に記載の2段目混練時間(1.8分)にて溶融混練を行った。混練された後の樹脂組成物は押出機からガット形状に吐出され、冷却速度が60℃/分となるように金属製のベルトコンベア上にて搬送されて冷却された後、チップカッターにてペレット状に加工した。
【0076】
得られたペレットは真空乾燥機で十分に乾燥させたのち、最大せん断速度が100/sとなるようにスクリューが設計された単軸押出機へと投入して溶融させ、スリット口金から吐出させてシート状に成形した。溶融シートはキャスティングドラムを用いてドロー比が3になるように引き取りつつ冷却し、厚み1mmのシートを得た。
【0077】
次に得られたシートを水に浸漬させて樹脂2を抽出除去し、十分に乾燥させることで、厚み1mmの樹脂シートを得た。得られた樹脂シートはジャイロイド構造の連通孔を有するものであった。得られた樹脂シートの評価結果を表2に示す。
【0078】
(実施例2~13、比較例1、2)
組成、混練手順、シート化条件を表1のとおりとした以外は実施例1と同様に樹脂シートを得た。得られた樹脂シートはジャイロイド構造の連通孔を有するものであった。評価結果を表2に示す。なお、実施例8においては、水の代わりにヘキサフルオロ-2-イソプロパノールに浸漬させて樹脂3を抽出除去した。実施例10においては、ドロー比を変えたことによって厚み0.38mmの樹脂シートが得られた。
【0079】
(比較例3)
熱融着性の繊維径3μm、繊維長5mmの芯鞘複合繊維(芯成分:融点250℃のポリエチレンテレフタレート、鞘成分:テレフタル酸60mol%、イソフタル酸40mol%、エチレングリコール85mol%、ジエチレングリコール15mol%の割合で共重合した融点110℃のポリエステル)の短繊維が67質量%、繊維径0.5μm、繊維長5mmのポリエチレンテレフタレート短繊維(融点250℃)が33質量%となるように離解機によって水と均一に混合分散した分散水を調製した。ついで、円網抄紙機(川之江造機社製)を用いて抄紙を行い、110℃の熱カレンダーロー ルに接触させて、乾燥・熱処理を施すことにより樹脂シートを得た。得られた樹脂シートは連通孔を有するものの連通孔はジャイロイド構造となっておらず、目付が200g/m2、厚みが1mmであった。評価結果を表2に示す。
【0080】
(比較例4)
熱融着性の繊維径3μm、繊維長5mmの芯鞘複合繊維(芯成分:融点250℃のポリエチレンテレフタレート、鞘成分:テレフタル酸60mol%、イソフタル酸40mol%、エチレングリコール85mol%、ジエチレングリコール15mol%の割合で共重合した融点110℃のポリエステル)の短繊維が67質量%、繊維径0.5μm、繊維長5mmの無機粒子含有ポリエチレンテレフタレート短繊維(樹脂3が85質量%と粒子1が15質量%の比率で予め溶融混練した後に紡糸)が33質量%となるように離解機によって水と均一に混合分散した分散水を調製した。ついで、円網抄紙機(川之江造機社製)を用いて抄紙を行い、110℃の熱カレンダーロー ルに接触させて、乾燥・熱処理を施すことにより樹脂シートを得た。得られた樹脂シートは連通孔を有するものの連通孔はジャイロイド構造となっておらず、目付が220g/m2、厚みが1mmであった。評価結果を表2に示す。