(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033696
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】ウエイトローラ
(51)【国際特許分類】
F16H 9/18 20060101AFI20240306BHJP
C08L 77/00 20060101ALI20240306BHJP
C08L 77/10 20060101ALI20240306BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
F16H9/18 A
C08L77/00
C08L77/10
C08L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137448
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 奎佑
【テーマコード(参考)】
3J050
4J002
【Fターム(参考)】
3J050AA02
3J050BA03
3J050BB08
3J050CA02
3J050DA03
4J002BD15Y
4J002CL00W
4J002CL06X
4J002FA04X
4J002GM00
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】 設定と異なるエンジン回転数域でのウエイトローラの移動を回避し、意図しないウエイトローラの移動による変速特性の変化を抑制することができるウエイトローラを提供する。
【解決手段】 円筒状の重量調整部材と、前記重量調整部材の外周面上に設けられた、樹脂組成物からなる被覆部材とを備えた円筒状のウエイトローラであって、前記樹脂組成物は、28℃での押込み弾性率が3000N/mm
2以下である、ウエイトローラ。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の重量調整部材と、前記重量調整部材の外周面上に設けられた、樹脂組成物からなる被覆部材とを備えた円筒状のウエイトローラであって、
前記樹脂組成物は、28℃での押込み弾性率が3000N/mm2以下である、ウエイトローラ。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、ポリアミドと、アラミド繊維と、ポリテトラフルオロエチレンとを含有する、請求項1に記載のウエイトローラ。
【請求項3】
前記ポリアミドは、変性ポリアミド6Tである、請求項2に記載のウエイトローラ。
【請求項4】
前記変性ポリアミド6Tは、テレフタル酸と、ヘキサメチレンジアミンと、11-アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムとの重縮合体である、請求項3に記載のウエイトローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエイトローラに関する。
【背景技術】
【0002】
2輪スクータ等には、エンジンの回転数に応じて変速が自動的に行われる無段変速装置が用いられている。無段変速装置は、固定プレートと可動プレートとを有するプーリと、当該プーリに巻き掛けられたVベルトと、可動プレートの背面側に、回転軸に固定された状態で取り付けられたガイドプレートと、ガイドプレートと可動プレートとの隙間に、プーリの径方向に移動可能に配置された円筒状のウエイトローラとを備えている。
【0003】
ガイドプレートと可動プレートとの隙間は、プーリの径方向外側に向かうにつれて狭くなっており、エンジンの回転数が増加してウエイトローラに加わる遠心力が大きくなると、ウエイトローラがプーリの径方向外側に移動する。この移動に伴って可動プレートの背面がウエイトローラに押され、可動プレートと固定プレートとで形成されるV字状の溝の幅が狭くなる。これによって、Vベルトのプーリへの巻き掛け半径は大きくなり、無段階変速が行われる。
【0004】
上記ウエイトローラとしては、円筒状のウェイトと、そのウェイトの外周面に被覆された樹脂製のカラーとを備えたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記無段変速装置では、ウエイトローラの表面に砂ぼこりや樹脂摩耗粉などのダストが付着すると、ウエイトローラの外周面とプーリとの間に隙間ができ、ウエイトローラの表面のプーリに対する摩擦係数が低下してしまうことがある。
この場合、本来であればウエイトローラが移動しないエンジン回転数域で、ウエイトローラが移動することがある。意図しないタイミングでのウエイトローラの移動は、変速特性の変化を生じる。例えば、設定よりも低い回転数でクラッチがつながってしまうことがある。
【0007】
本発明は、設定よりも低いエンジン回転数域でのウエイトローラの移動を回避し、意図しないタイミングでのウエイトローラの移動による変速特性の変化を抑制できるウエイトローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のウエイトローラは、円筒状の重量調整部材と、上記重量調整部材の外周面上に設けられた、樹脂組成物からなる被覆部材とを備えた円筒状のウエイトローラであって、
上記樹脂組成物は、28℃での押込み弾性率が3000N/mm2以下である。
【0009】
上記ウエイトローラは、被覆部材を構成する樹脂組成物の押込み弾性率が3000N/mm2以下に抑えられている。そのため、ウエイトローラの表面に砂ぼこりや樹脂摩耗粉などのダストが付着しても、ウエイトローラの表面とプーリの表面との間に隙間ができにくく、ウエイトローラの表面のプーリに対する摩擦係数が低下しにくい。そのため、上記ウエイトローラを用いた無段変速装置では、ウエイトローラの表面にダストが付着した場合に起こる、本来であればウエイトローラが移動しないエンジン回転数域でウエイトローラが移動してしまうことを回避することができる。
【0010】
(2)上記(1)のウエイトローラにおいて、上記樹脂組成物は、ポリアミドと、アラミド繊維と、ポリテトラフルオロエチレンとを含有する、ことが好ましい。
上記樹脂組成物は、耐摩耗性が良好で、摩擦係数が変動しにくく、相手材(プーリやガイドプレート)を傷付けにくい点でウエイトローラの被覆部材を構成する材料として好適である。
【0011】
(3)上記(2)のウエイトローラにおいて、上記ポリアミドは、変性ポリアミド6T(変性ナイロン6Tともいう)が好ましい。
この場合、ウエイトローラは、耐熱性及び寸法安定性が良好である。
【0012】
(4)上記(3)のウエイトローラにおいて、上記変性ポリアミド6Tは、テレフタル酸と、ヘキサメチレンジアミンと、11-アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムとの重縮合体が好ましい。
この場合、上記樹脂組成物は、吸水性が低いため寸法安定性が更に良好で、吸水による強度低下も発生しにくい。また、上記樹脂組成物は、ウエイトローラの被覆部材に求められる要求特性を確保しつつ、押込み弾性率を低く抑えるのにも適している。
【発明の効果】
【0013】
本発明のウエイトローラによれば、当該ウエイトローラを組み込んだ無段変速装置において、設定よりも低いエンジン回転数域でのウエイトローラの移動を回避し、意図しないウエイトローラの移動による変速特性の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】ウエイトローラを用いた無段変速装置の一部を示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るウエイトローラの斜視図である。
【
図3】
図1のウエイトローラのA-A線断面図である。
【
図4】
図1のウエイトローラを構成する重量調整部材のみを示す断面図である。
【
図5】
図1のウエイトローラを構成する被覆部材のみを示す断面図である。
【
図6】実施例、比較例で測定した押込み弾性率の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態に係るウエイトローラについて、図面を参照しながら説明する。
上記ウエイトローラは、無段変速装置に組み込んで使用する。そこで、上記ウエイトローラが組み込まれた無段変速装置の一例を先に説明し、その後、本発明の実施形態に係るウエイトローラについて説明する。
【0016】
<無段変速装置>
図1は、本発明の実施形態に係るウエイトローラ11を用いた無段変速装置の一部を示す断面図である。
この無段変速装置50は、回転軸61を軸として回転するプーリ55と、プーリ55のV字状溝に巻き掛けられたVベルト59と、ウエイトローラ11と、ガイドプレート57とを備えている。プーリ55は、回転軸61に固定された固定プレート51と、回転軸61の軸方向に移動自在となっている可動プレート53とで構成される。
【0017】
略円盤状のガイドプレート57は、可動プレート53の背面側に、ウエイトローラ11を挟持できる隙間を空けて回転軸61に固定されている。可動プレート53とガイドプレート57との間の隙間は、プーリ55の径方向外側に向かうにつれて狭くなっている。
無段変速装置50を構成するプーリ55の材質は、例えば、ADC12等のアルミニウム合金である。また、ガイドプレート57の材質は、例えば、浸炭窒化処理されたSPC等の鋼である。
【0018】
この無段変速装置50において、回転軸61に連結されたエンジンの回転数が増加すると、ウエイトローラ11がプーリ55の径方向外側に移動する。すると、ウエイトローラ11に押された可動プレート53は、プーリ55の溝幅が狭くなる方向に移動する。その結果、Vベルト59の巻き掛け半径は大きくなり、無段階変速が行われる。
【0019】
無段変速装置50では、ウエイトローラ11が遠心力に応じて、プーリ55及びガイドプレート57のそれぞれと接触しながら移動する。
そのため、通常、ウエイトローラ11のスムーズな移動を担保する観点から、ウエイトローラ11の外周面のプーリ55及びガイドプレート57に対する摩擦係数は小さいことが好ましいと考えられている。
【0020】
<ウエイトローラ>
図2は、本発明の実施形態に係るウエイトローラ11の斜視図である。
図3は、
図1のウエイトローラのA-A線断面図である。
図2に示すように、ウエイトローラ11は、円筒状の重量調整部材13と、重量調整部材13の外周面13a上に設けられた樹脂組成物からなる被覆部材12とを備え、全体として円筒形状を有している。被覆部材12は、鍔部12a、12bを有しており、重量調整部材13の外周面13aだけでなく、重量調整部材13の端面13b、13cの一部も覆っている。鍔部12a、12bを設けることにより、例えば重量調整部材13の被覆部材12からの脱落を防ぐことができる。
【0021】
被覆部材12は、重量調整部材13の外周面を覆う部分の厚さが、端部を除いてほぼ均一になっており、当該厚さは、例えば1.5mm以上2.5mm以下である。被覆部材12の厚さを小さくしすぎると、ヒートショックにより破断やクラックが生じやすくなり、被覆部材12の厚さを大きくしすぎると、製造コストが上昇してしまう。
【0022】
被覆部材12を構成する樹脂組成物は、28℃での押込み弾性率が3000N/mm2以下である。
上記樹脂組成物の押込み弾性率を3000N/mm2以下とすることにより、ウエイトローラを組み込んだ無段変速装置50において、ウエイトローラの表面にダストが存在した場合に起こり得る、本来であればウエイトローラが移動しないエンジン回転数域でウエイトローラが移動してしまうことを回避することができる。この理由は以下のように考えられる。
ウエイトローラ11の外周面にダストが付着し、ウエイトローラ11とプーリ55との間にダストが介在した状態で、ウエイトローラ11がプーリ55に接触すると、ウエイトローラ11の外周面(被覆部材)のプーリ55に対する最大静止摩擦係数が、ウエイトローラ11とプーリ55との間にダストが介在しない場合に比べて低くなることがある。そして、ウエイトローラ11の外周面のプーリ55に対する最大静止摩擦係数が低くなると、エンジン回転数が低い領域(低回転領域)でウエイトローラ11が移動してしまい、ウエイトローラ11を備えた無段変速装置50において、予期しない変速が生じることがある。
また、ウエイトローラ11とガイドプレート57との間にダストが介在した状態で、ウエイトローラ11がガイドレール57に接触する場合も同様に、ウエイトローラ11の外周面のガイドプレート57に対する最大静止摩擦係数が低くなることがあり、その結果、上述した低回転領域での予期しない変速が生じることがある。
即ち、ウエイトローラ11の外周面にダストが付着した場合には、設定よりも低いエンジン回転数域でのウエイトローラ11の移動が発生し、無段変速装置の変速特性が変化してしまうことがある。
【0023】
一方、被覆部材12を構成する樹脂組成物は、押込み弾性率が3000N/mm2以下であると、被覆部材12の表面にダストが付着した状態で被覆部材12がプーリ55やガイドプレート57に接触した際に、ダストが被覆部材12内に沈み込む。その結果、ウエイトローラ11の外周面のプーリ55やガイドプレート57に対する最大静止摩擦係数の低下を回避することができる。そのため、押込み弾性率が3000N/mm2以下の樹脂組成物からなる被覆部材を備えたウエイトローラが組み込まれた無段変速装置は、設定よりも低いエンジン回転数域での意図しないウエイトローラの移動による変速特性の変化が発生しにくい。
【0024】
上記押込み弾性率は、2900N/mm2以下が好ましい。
上記押込み弾性率は、1200N/mm2以上が好ましい。上記押込み弾性率が1200N/mm2未満では、ウエイトローラに掛かる荷重によって、被覆部材が塑性変形したり、さらには被覆部材が破損したりすることがある。
【0025】
上記押込み弾性率は、ISO14577-1に準拠して測定する。
ここで、測定機としては、ナノインデンターを使用し、測定環境温度は28℃とする。また、試験片としては、ウエイトローラの被覆部材から切り出された、縦5mm×横5mm×厚さ1mmの試験片を使用する。
【0026】
被覆部材12を構成する樹脂組成物としては、例えば、ポリアミドをベース樹脂とし、有機繊維及び潤滑剤を含有する樹脂組成物が挙げられる。
ここで、ポリアミドをベース樹脂とするとは、樹脂組成物の構成材料中、ポリアミドの含有量が最も高いことを意味する。
上記ポリアミドの樹脂組成物全体に対する含有量は、66質量%以上が好ましい。
【0027】
ポリアミドは、耐摩耗性、耐熱性、自己摺動性が良好であるとともに、有機繊維との親和性が高い点で、ベース樹脂として好ましい。
上記ポリアミドとしては、例えば、縮合重合タイプであるポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、開環重合タイプであるポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12等が挙げられる。上記ポリアミドはこれらの共重合体であってもよい。また、複数種のポリアミドをブレンドしたものをベース樹脂としてもよい。
【0028】
上記ポリアミドとしては、変性ポリアミド6Tが好ましい。
変性ポリアミド6Tは、融点がポリアミド46等よりも高いため耐熱性も良好である。更に、変性ポリアミド6Tは、吸水性が低く、寸法安定性に優れる。
上記変性ポリアミド6Tとしては、テレフタル酸と、ヘキサメチレンジアミンと、11-アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムとの重縮合体が好ましい。このような構成の変性ポリアミド6Tは、吸水性が低いため寸法安定性が非常に優れている。また、吸水による強度の低下が小さい。更に、ウエイトローラの要求特性を確保しつつ、上記押込み弾性率を低く抑えるのにも適している。
上記変性ポリアミド6Tは、融点が300℃以上330℃以下のものが好ましい。
【0029】
被覆部材12を構成する樹脂組成物において、上記有機繊維の樹脂組成物全体に対する含有量は、例えば、1質量%以上12質量%以下が好ましい。有機繊維の含有量を1質量%以上12質量%以下とすることで、被覆部材12におけるクラックや割れの発生を抑えることができる。
【0030】
上記有機繊維としては、例えば、引張弾性率が7Gpa以上110Gpa以下程度の繊維が用いられる。上記有機繊維としては、例えば、芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維)、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサザール)繊維等が挙げられる。
これらの有機繊維は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
上記有機繊維(例えばアラミド繊維)の引張弾性率は、JIS L 1017(2002)に準拠した方法で測定される。
【0031】
上記有機繊維は、耐熱性が高く、強度に優れる観点から、アラミド繊維が好ましい。
上記アラミド繊維は、パラ系アラミド繊維であってもよいし、メタ系アラミド繊維であってもよい。
上記パラ系アラミド繊維の材料としては、例えば、コポリパラフェニレン-3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミドや、ポリパラフェニレンテレフタラミド(PPTA)が挙げられる。上記メタ系アラミド繊維の材料としては、例えば、ポリメタフェニレンイソフタラミド(MPIA)が挙げられる。
上述のアラミド繊維の材料としては、物性が優れているという観点から、コポリパラフェニレン-3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミドが好ましい。
【0032】
被覆部材12中の有機繊維の径や長さは特に限定されないが、上記有機繊維の径は、例えば10μm以上16μm以下が好ましい。また、上記有機繊維の長さは、例えば1mm以上3.5mm以下が好ましい。
【0033】
被覆部材12を構成する樹脂組成物において、上記潤滑剤の樹脂組成物全体に対する含有量は、例えば10質量%以上20質量%以下が好ましい。潤滑剤の含有量を10質量%以上20質量%以下とすることで、動摩擦係数を低減しつつ、曲げ強度や引張強度を維持することができる。
【0034】
上記潤滑剤としては、例えば、液状タイプの潤滑剤、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系潤滑剤や、黒鉛、二硫化モリブデン、窒化ホウ素などの固形タイプの潤滑剤等が挙げられる。
これらの潤滑剤は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
上記潤滑剤としては、PTFEが好ましい。良好な耐摩耗性を確保するのに適している。
【0035】
上記樹脂組成物は、ベース樹脂、有機繊維、及び潤滑剤以外に、ウエイトローラの機能を損ねない範囲で他の成分を含有していてもよい。
上記他の成分としては、無機繊維や、樹脂組成物に配合されうる各種添加剤等が挙げられる。
上記無機繊維としては、例えば、カーボン繊維、ガラス繊維、バサルト繊維等が挙げられる。これらの無機繊維は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
重量調整部材13は、被覆部材12よりも比重の大きい材料で構成されていればよく、例えば快削鋼(SUM22、23)や冷間圧造用炭素鋼線(SWCH)などの金属等で構成されていてもよい。重量調整部材13の内径及び外径は任意に調整されればよい。
【0037】
次に、ウエイトローラ11の製造方法を説明する。
上記ウエイトローラ11は、樹脂組成物からなる円筒状の被覆部材12の一方側(
図3中、左側)から、重量調整部材13を圧入することにより、重量調整部材13の外周面が被覆樹脂12で被覆されたウエイトローラ11を製造することができる(以下、この製造方法を圧入製法ともいう)。
【0038】
図4は、ウエイトローラ11を構成する重量調整部材13のみを示す断面図である。
図5は、ウエイトローラ11を構成する被覆部材12のみを示す断面図である。
ウエイトローラ11を圧入製法で製造するためには、重量調整部材13と被覆部材とが下記の寸法関係を有していることが好ましい。
【0039】
即ち、被覆部材12の一方側(
図5中、左側)の鍔部12aの内周径D2、円筒状に形成した被覆部材の内周径をD3、重量調整部材13の外周径をD0とした場合に、
・D0とD2との差(D0-D2)が、D0の0.015倍以上0.035倍以下であり、
・D3とD0との差(D3-D0)が、0mm以上0.3mm以下である、
ことが好ましい。
【0040】
この場合、被覆部材12を破損することなく、被覆部材12に重量調整部材13を圧入することができる。また、重量調整部材13の圧入後に、被覆部材12側に重量調整部材13側から無理な応力が作用することがない。加えて、重量調整部材13と被覆部材12とが使用中に遊離することがなく、重量調整部材13が被覆部材12の鍔部12aから飛び出すこともない。そのため、長時間にわたって安定した状態で重量調整部材13と被覆部材12とを一体化しておくことができる。
【0041】
ウエイトローラ11の製造方法は、インサート成形法等の上述した圧入製法以外の方法であってもよい。
【0042】
本発明の実施形態に係るウエイトローラは、上述したウエイトローラ11に限定されるわけではなく、各部材の形状、構成、配置、構成材料、サイズ、製造条件等は、本発明の権利範囲内で適宜変更可能である。
本発明の権利範囲は、上述した実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更を含む。
【実施例0043】
以下、実施例によって本発明の実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明の実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(樹脂組成物の準備)
被覆部材を作製するため樹脂組成物として、樹脂組成物A及び樹脂組成物Bを準備した。
【0045】
<樹脂組成物A>
変性ポリアミド6T(テレフタル酸とヘキサメチレンジアミンと11-アミノウンデカン酸との重縮合体、比重1.15g/cm3、融点315℃)と、アラミド繊維(パラ型、繊維径12μm、繊維長さ1mm)と、PTFE(平均粒径9μm、融点330℃)とを所定の配合量で混合して調製した。
樹脂組成物Aは、アラミド繊維の含有量を樹脂組成物全体に対して7質量%とし、PTFEの含有量を樹脂組成物全体に対して15質量%とした。
【0046】
<樹脂組成物B>
DSM社製のCK2020SBHを樹脂組成物Bとした。
【0047】
(実施例1)
樹脂組成物Aを金型で成型して被覆部材を作製した後、重量調整部材を被覆部材に圧入してウエイトローラを作製した。
ウエイトローラの寸法は、外径D1を20mmとし、高さLを12mmとした。
被覆部材の厚さ(重量調整部材の外周面を覆う部分の厚さ)は1.5mmとした。
重量調整部材の構成材料は、快削鋼(SUM22)とした。
【0048】
(比較例1)
樹脂組成物Aに代えて樹脂組成物Bを使用した以外は、実施例1と同様にしてウエイトローラを作製した。
【0049】
(評価)
<押込み弾性率の測定>
実施例1及び比較例1のウエイトローラの被覆部材から、縦5mm×横5mm×厚さ1mmの試験片Aを切り出した。得られた試験片Aを乾燥させ、その後、試験片Aの押し込み弾性率を測定した。
試験片Aの乾燥は、80℃、減圧下、12時間の条件で、真空オーブンを用いて行った。
押込み弾性率は、ISO14577-1に準拠した方法で測定した。
ここで、測定機としてはナノインデンダー(エリオニクス社製)を使用し、測定端子としてはバーコビッチ型圧子を使用した。測定環境温度は28℃とした。試験パラメータは、試験荷重50mN、分割数500、ステップ間隔20msec、保持時間5000msec、サンプリング数200に設定した。
1個の試験片で3箇所測定を行い、その平均値を測定結果とした。
結果を
図6に示した。
【0050】
<被覆部材の物性評価>
樹脂組成物A、Bを用いて、所定の形状の試験片Bを射出成形で作製し、この試験片Bの最大静止摩擦係数を測定した。
また、最大静止摩擦係数としては、材質の異なる2種類の相手材に対する最大静止摩擦係数をスズキ式摩擦摩耗試験で測定した。
3個の試験片で測定を行い、その平均値を測定結果とした。
結果を表1に示した。
【0051】
(1)ADC12に対する最大静止摩擦係数の測定
図7は、スズキ式摩擦摩耗試験を説明するための図である。
図7に示すように、試験片62をADC12からなる円板状の相手材60に接触させ、300Nの荷重を掛けた状態で、0.2mm/sの速度で回転摺動させて、最大静止摩擦係数を測定した。
【0052】
このときの測定条件は以下の通りである。
試験片B:JIS K 7218(1986)に規定される摩耗試験のA法で使用される円筒状の試験片(
図7中、試験片62参照)。
試験片Bの寸法は、外径Φ25.6mm、内径Φ20mm、高さ15mmである。
相手材:表面粗さRzが5~10μmで、直径40mm、厚さ3mmのADC12製の円板(
図7中、相手材60参照)。
相手材の表面粗さRzは、JIS B 0601(2001)の最大高さ(基準長さ0.8mm、評価長さ4mm)である。
試験機:スズキ式摩擦摩耗試験機(オリエンテック社製、EFM-III-E)
試験温度:雰囲気温度25℃
【0053】
さらに、相手材との接触面にダストが付着した試験片B′を使用した以外は、上記の方法と同様にしてADC12に対する最大静止摩擦係数を測定した。
ダストが付着した試験片B′は、ドライ状態の関東ロームJIS7種を試験片Bにおける相手材との接触面に指で薄く塗布して、準備した。このとき、塗布量は0.1~0.4mg/cm2とした。
【0054】
(3-2)SPCに対する最大静止摩擦係数の測定
相手材として下記の相手材を使用した以外は、上述した(3-1)と同様にして、ダストの付着していない試験片B、及びダストが付着した試験片B′の最大静止摩擦係数を測定した。
相手材:表面粗さRz(JIS B 0601(2001)の最大高さ、基準長さ0.8mm、評価長さ4mm)が3~6μmで、直径40mm、厚さ3mmの浸炭窒化処理されたSPC製の円板。
【0055】
【0056】
表1に結果を示した通り、樹脂組成物Aは、ダストが付着した場合、ADC12に対する最大静止摩擦係数もSPCに対する最大静止摩擦係数も増大する。ここで、最大静止摩擦係数が増大する理由は、ダストが樹脂組成物Aの表面に埋没しやすく、埋没したダストは、相手材(ADC12、又はSPC)に引っ掛かり易くなるためと推測している。なお、エンジン回転数が上昇することでウエイトローラに発生する遠心力は、摩擦による摺動抵抗力よりも十分に大きいため、表1に示した程度の最大静止摩擦係数の増大であれば、ウエイトローラとしての使用上の問題はない。
一方、樹脂組成物Bは、ダストが付着した場合、ADC12に対する最大静止摩擦係数は増大するものの、SPCに対する最大静止摩擦係数は減少する。
既に説明した通り、ウエイトローラにおいて、外周面を構成する被覆部材の最大静止摩擦係数がダストの付着によって低くなると、設計よりも早いタイミングでのウエイトローラの移動が起こるようになる。
【0057】
そのため、樹脂組成物Aを被覆部材に用いた実施例1のウエイトローラは、設計よりも早いタイミングでのウエイトローラの移動が起こりにくいのに対して、樹脂組成物Bを被覆部材に用いた比較例1のウエイトローラは、設計よりも早いタイミングでのウエイトローラの移動が起こり易い。
これらのことから、所定の押込み弾性率を有する被覆部材を備えた本発明の実施形態に係るウエイトローラを使用すれば、無段変速装置において、設定よりも低いエンジン回転数域でウエイトローラが移動し、意図しないウエイトローラの移動による変速特性の変化が生じることを抑制できることが明らかである。