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特開2024-33707可塑性グラウト材のフロー値を決定するシステム及び決定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033707
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】可塑性グラウト材のフロー値を決定するシステム及び決定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
E02D3/12 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137467
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】弁理士法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】阿部 智彦
【テーマコード(参考)】
2D040
【Fターム(参考)】
2D040AA01
2D040AB01
2D040GA01
(57)【要約】
【課題】可塑性グラウト材の注入時において注入されている可塑性グラウト材のフロー値を実用に適する程度の精度で決定することが出来るシステムと方法を提供。
【解決手段】本発明のシステム(100)は、フロー値が異なる複数種類の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック(10A)と、前記複数種類のグラウト材のフロー値を降伏応力の関数或いは特性として決定する降伏応力-フロー値関数決定ブロック(10B)と、フロー値(F)を決定するべき可塑性グラウト材及び前記複数種類のグラウト材のせん断速度演算ブロック(10C)、せん断応力演算ブロック(10D)と、前記フロー値を決定するべきグラウト材の降伏応力決定ブロック(10E)と、当該降伏応力と前記関数或いは特性を用いて、前記フロー値を決定するべきグラウト材のフロー値を決定するフロー値決定ブロック(10F)を有する。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロー値が異なる複数種類の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性及び降伏応力を決定する機能を有するせん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロックと、
前記複数種類の可塑性グラウト材のフロー値を前記決定された降伏応力の平方根の逆数の関数或いは特性として決定する機能を有する降伏応力-フロー値関数決定ブロックと、
フロー値を決定するべき可塑性グラウト材及びフロー値が異なる複数種類の可塑性グラウト材の流量から当該可塑性グラウト材のせん断速度を演算する機能を有するせん断速度演算ブロックと、
フロー値を決定するべき可塑性グラウト材及びフロー値が異なる複数種類の可塑性グラウト材の圧力損失から当該可塑性グラウト材のせん断応力を演算する機能を有するせん断応力演算ブロックと、
前記せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロックで決定した前記せん断速度-せん断応力特性を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力を決定する機能を有する降伏応力決定ブロックと、
前記降伏応力決定ブロックで決定された前記降伏応力と、前記降伏応力-フロー値関数決定ブロックで決定された前記関数或いは特性を用いて、前記フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値を決定する機能を有するフロー値決定ブロックを有することを特徴とする可塑性グラウト材のフロー値を決定するシステム。
【請求項2】
二液混合タイプの可塑性グラウト材を注入する注入工法の施工システムであって、当該可塑性グラウト材は2種類の材料を含み、一方の材料が多いとフロー値が大きくなり、他方の材料が多いとフロー値が小さくなり、
供給系統を含み、各々の系統には材料圧送用ポンプと流量計が介装されており、
基材供給系統と可塑材供給系統の合流箇所或いはその下流側には混合装置と圧力センサが介装されており、当該圧力センサは2箇所の異なる位置に配置されており、
制御装置を有し、当該制御装置は、
基材供給系統に介装された流量計及び可塑材供給系統に介装された流量計の計測結果から可塑性グラウト材の流量及び流速を演算する機能と、
2箇所の異なる位置の圧力センサの計測結果から圧力損失を演算する機能と、
フロー値が異なる複数種類の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性を決定する機能と、
前記複数種類の可塑性グラウト材の降伏応力を決定し、前記複数種類の可塑性グラウト材のフロー値を前記決定された降伏応力の平方根の逆数の関数或いは特性を決定する機能と、
フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の流量及び圧力損失から当該可塑性グラウト材のせん断速度及びせん断応力を演算する機能と、
決定した前記せん断速度-せん断応力特性を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力を決定する機能と、
決定された前記降伏応力と、決定された前記関数或いは特性を用いて、前記フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値を決定する機能と、
決定したフロー値と施工条件に適合するフロー値の範囲とを比較し、決定したフロー値が前記フロー値の範囲よりも小さい場合には基材の流量を増加し、決定したフロー値が前記フロー値の範囲よりも大きい場合には可塑材の流量を増加し、決定したフロー値が前記フロー値の範囲内である場合には基材の流量及び可塑材の流量を維持する機能を有することを特徴とする注入工法の施工システム。
【請求項3】
フロー値が異なる複数種類の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性を決定するせん断速度-せん断応力特性決定工程と、
前記複数種類の可塑性グラウト材の降伏応力を決定し、前記複数種類の可塑性グラウト材のフロー値を前記決定された降伏応力の平方根の逆数の関数或いは特性として決定する降伏応力-フロー値関数決定工程と、
フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の流量及び圧力損失から当該可塑性グラウト材のせん断速度及びせん断応力を演算するせん断速度及びせん断応力演算工程と、
前記せん断速度-せん断応力特性決定工程で決定した前記せん断速度-せん断応力特性を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力を決定する降伏応力決定工程と、
前記降伏応力決定工程で決定された前記降伏応力と、前記降伏応力-フロー値関数決定ブロックで決定された前記関数或いは特性を用いて、前記フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値を決定するフロー値決定工程を有することを特徴とする可塑性グラウト材のフロー値を決定する方法。
【請求項4】
二液混合タイプの可塑性グラウト材を注入する注入工法であって、当該可塑性グラウト材は2種類の材料を含み、一方の材料が多いとフロー値が大きくなり、他方の材料が多いとフロー値が小さくなり、
基材供給系統と可塑材供給系統を含み、各々の系統には材料圧送用ポンプと流量計が介装されており、基材供給系統と可塑材供給系統の合流箇所或いはその下流側には混合装置と圧力センサが介装されており、当該圧力センサは2箇所の異なる位置に配置されており、
注入以前の段階で、フロー値が異なる複数種類の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性を決定し、前記複数種類の可塑性グラウト材の降伏応力を決定し、前記複数種類の可塑性グラウト材のフロー値を前記決定された降伏応力の平方根の逆数の関数或いは特性として決定する工程と、
可塑性グラウト材の注入時において、基材供給系統に介装された流量計及び可塑材供給系統に介装された流量計の計測結果から可塑性グラウト材の流量及び流速を演算する工程と、
2箇所の異なる位置の圧力センサの計測結果から圧力損失を演算する工程と、
フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の流量及び圧力損失から当該可塑性グラウト材のせん断速度及びせん断応力を演算する工程と、
決定した前記せん断速度-せん断応力特性を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力を決定する工程と、
決定された前記降伏応力と、決定された前記関数或いは特性を用いて、前記フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値を決定する工程と、
決定したフロー値と施工条件に適合するフロー値の範囲とを比較し、決定したフロー値が前記フロー値の範囲よりも小さい場合には基材の流量を増加し、決定したフロー値が前記フロー値の範囲よりも大きい場合には可塑材の流量を増加し、決定したフロー値が前記フロー値の範囲内である場合には基材の流量及び可塑材の流量を維持する工程を有することを特徴とする注入工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば地盤や構造物の空隙、目地、ひび割れ、または地盤と構造物の間に生じた隙間等に注入する空洞充填用の注入材料である可塑性グラウト材に関し、可塑性グラウト材のフロー値を決定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
「可塑性」なる文言は、せん断力が加わると流動性を発現し、せん断力が加わらなければ流動性を発現しない性質を意味している。その様な可塑性を有するグラウト材は、例えば、図17で断面を示すようなトンネルの背面空洞注入等では大変に都合が良い。可塑性グラウト材を圧送するにあたっては、その直前にポンプ等でせん断力を与えて流動性を高めれば、容易に充填予定箇所まで圧送することができる。そして、所定箇所に充填した後は、せん断力が付与されないので流動性は低下して、充填された領域に滞留し続けて硬化するからである。
図17において、トンネル断面では、ライニングとして、トンネルの左右側壁における部分円弧状の左右側壁コンクリート1と、左右側壁コンクリート1を橋渡しするアーチコンクリート2とが存在する。このようなライニングの背面(地山側:図17では上側)には何らかの原因により空洞3が生じる場合が存在する。そのような空洞が存在すると、地山からの応力が均等に伝わらず、トンネル本体における有害な変形を惹起する恐れがある。アーチコンクリート2の背面(地山側:図17では上側)に空洞3が生じて、トンネル本体における強度低下を惹起するのを防止するため、アーチコンクリート2の背面の空洞3にグラウト材を充填して空洞3を充填する工事である「背面空洞注入工事」が行われる。係る工事において、トンネル内壁の天井部(図17では上方の領域)で、トンネルの中心線Lcから0.1m離れた位置から地山側に向かって注入口H2を掘削し、中心線Lcから左右に2.5m離れた位置から地山側に向かって注入口H1、H3を各々掘削している。そして、注入口H1~H3に可塑性を有するグラウト材を注入している。図17ではグラウト材が注入された状態を領域R1~R3で仮想している。
【0003】
可塑性グラウト材は、トンネルの覆行背面、地下空洞、捨石間隙等の直接見ることが出来ない空隙、空洞に充填されることが多い。可塑性グラウト材が注入される空隙、空洞の大きさは施工箇所毎に異なり、空隙、空洞の大きさに応じたフロー値を有する(流動性を有する)可塑性グラウト材を注入すれば、効果的な充填をすることが出来る。
しかし、可塑性グラウト材料の注入は単一の配合で行われるのが一般的であり、注入開始後に注入圧力等の状況に応じてフロー値が異なる配合に切り替えることは行われていない。
仮に可塑性グラウト材の注入中にフロー値が異なる配合に切り替えたとしても、配合を切り替えた後のフロー値は、従来技術においては、注入している可塑性グラウト材をサンプリングしてフロー試験を行って決定する必要があり、切り替えた後のフロー値を決定するのに多大な労力が必要であった。
【0004】
その他の従来技術として、生コンクリートのスランプ値を連続して測定する技術が提案されている(特許文献1参照)。係る従来技術(特許文献1)では、スランプ値は生コンクリートの流れにおける圧力損失の一次関数として計算されている。
しかし、可塑性グラウト材は、スランプ値(高さの変化)ではなくフロー値(広がりの変化)で評価を行うことから、単純な一次関数として計算することはできず、係る従来技術(特許文献1)を適用して、実用に適する程度の精度で、可塑性グラウト材のフロー値を圧力損失から求めることは不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-21828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、可塑性グラウト材の注入時において注入されている可塑性グラウト材のフロー値を実用に適する程度の精度で決定することが出来るシステムと方法を提供することを目的としている。
ここで、本願発明におけるフロー値は、例えば円筒状をしており且つ底の無い容器(フローコーン)にグラウト材を詰めて、そのフローコーンを引き上げた際に、当該フローコーンに詰められた前記グラウト材の広がりを2方向で計測し、その計測値を平均した数値である。前記フローコーンのサイズ、形状については、特に限定条件は無い。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は種々の研究、実験の結果、可塑性グラウト材料のフロー値(F)は降伏応力(τy)の「-1/2乗」に比例することに着目した。ここで、可塑性グラウト材料の降伏応力(τy)は、それ以下のせん断応力(τ)では流動を起こさず、それを超えるせん断応力(τ)に対しては可塑性グラウト材料が一定せん断速度(γ)で定常流動を行う数値である。
【0008】
係る知見に基づき、本発明の可塑性グラウト材のフロー値(F)を決定するシステム(100)は、フロー値(F)が異なる複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)及び降伏応力(τy)を決定する機能を有するせん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック(10A)と、
前記複数種類の可塑性グラウト材のフロー値(F)を前記決定された降伏応力(τy)の平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2:aは可塑性グラウト材毎に異なる定数)或いは特性(降伏応力とフロー値の特性)として決定する機能を有する降伏応力-フロー値関数決定ブロック(10B)と、
フロー値(F)を決定するべき可塑性グラウト材及びフロー値(F)が異なる複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材の流量(Q)から当該可塑性グラウト材のせん断速度(γ)を演算する機能を有するせん断速度演算ブロック(10C)と、
フロー値(F)を決定するべき可塑性グラウト材及びフロー値(F)が異なる複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材の圧力損失(ΔP)から当該可塑性グラウト材のせん断応力(τ)を演算する機能を有するせん断応力演算ブロック(10D)と、
前記せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック(10A)で決定した前記せん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を利用してフロー値(F)を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力(τR)を決定する機能を有する降伏応力決定ブロック(10E)と、
前記降伏応力決定ブロック(10E)で決定された前記降伏応力(τR)と、前記降伏応力-フロー値関数決定ブロック(10B)で決定された前記関数(例えば、F=a/(τy)1/2)或いは特性を用いて、前記フロー値(FR)を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値(FR)を決定する機能を有するフロー値決定ブロック(10F)を有することを特徴としている。
【0009】
また上述した知見に基づく本発明の可塑性グラウト材のフロー値(F)を決定する方法は、
フロー値(F)が異なる複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を決定するせん断速度-せん断応力特性決定工程と、
前記複数種類の可塑性グラウト材の降伏応力(τy)を決定し、前記複数種類の可塑性グラウト材のフロー値(F)を前記決定された降伏応力(τy)の平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2:aは可塑性グラウト材毎に異なる定数)或いは特性(降伏応力とフロー値の特性)として決定する降伏応力-フロー値関数決定工程と、
フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の流量(Q)及び圧力損失(ΔP)から当該可塑性グラウト材のせん断速度(γ)及びせん断応力(τ)を演算するせん断速度及びせん断応力演算工程と、
前記せん断速度-せん断応力特性決定工程で決定した前記せん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力(τR)を決定する降伏応力決定工程と、
前記降伏応力決定工程で決定された前記降伏応力(τR)と、前記降伏応力-フロー値関数決定ブロックで決定された前記関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性を用いて、前記フロー値(FR)を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値(FR)を決定するフロー値決定工程を有することを特徴としている。
【0010】
そして本発明の注入工法を施工する施工システム(101)は、
二液混合タイプの可塑性グラウト材を注入するシステム(101)であって、当該可塑性グラウト材は2種類の材料(例えば、基材であるA液と可塑材であるB液)を含み、一方の材料(例えばA液)が多いとフロー値(F)が大きくなり、他方の材料(例えばB液)が多いとフロー値(F)が小さくなり、
基材供給系統(40)と可塑材供給系統(50)を含み、各々の系統(40、50)には材料圧送用ポンプ(42、52:例えばグラウトポンプ)と流量計(43、53)が介装されており、
基材供給系統(40)と可塑材供給系統(50)の合流箇所或いはその下流側には混合装置(61:例えば、合流箇所に介装されたスタティックミキサ)と圧力センサ(62A、62B)が介装されており、当該圧力センサ(62A、62B)は2箇所の異なる位置に配置されており、
制御装置(11)を有し、当該制御装置(11)は、
基材供給系統(40)に介装された流量計(43)及び可塑材供給系統(50)に介装された流量計(53)の計測結果から可塑性グラウト材の流量(Q)及び流速(V)を演算する機能と、
2箇所の異なる位置の圧力センサ(62A、62B)の計測結果から圧力損失(ΔP)を演算する機能と、
フロー値が異なる複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を決定する機能と、
前記複数種類の可塑性グラウト材の降伏応力(τy)を決定し、前記複数種類の可塑性グラウト材のフロー値(F)を前記決定された降伏応力(τy)の平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2:aは可塑性グラウト材毎に異なる定数)或いは特性(降伏応力とフロー値の特性)を決定する機能と、
フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の流量(Q)及び圧力損失(ΔP)から当該可塑性グラウト材のせん断速度(γ)及びせん断応力(τ)を演算する機能と、
決定した前記せん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力(τR)を決定する機能と、
決定された前記降伏応力(τR)と、決定された前記関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性を用いて、前記フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値(FR)を決定する機能と、
決定したフロー値(FR)と施工条件に適合するフロー値の範囲とを比較し、決定したフロー値(FR)が前記フロー値の範囲よりも小さい場合には基材(A液)の流量を増加し、決定したフロー値(FR)が前記フロー値の範囲よりも大きい場合には可塑材(B液)の流量を増加し、決定したフロー値(FR)が前記フロー値の範囲内である場合には基材(A液)の流量及び可塑材(B液)の流量を維持する機能を有することを特徴としている。
【0011】
係る本発明の注入工法は、
二液混合タイプの可塑性グラウト材を注入する注入工法であって、当該可塑性グラウト材は基材(A液)と可塑材(B液)を含み、基材(A液)が多いとフロー値(F)が大きくなり、可塑材(B液)が多いとフロー値(F)が小さくなり、
基材供給系統(40)と可塑材供給系統(50)を含み、各々の系統(40、50)には材料圧送用ポンプ(42、52:例えばグラウトポンプ)と流量計(43、53)が介装されており、基材供給系統(40)と可塑材供給系統(50)の合流箇所或いはその下流側には混合装置(61:例えば、合流箇所に介装されたスタティックミキサ)と圧力センサ(62A、62B)が介装されており、当該圧力センサ(62A、62B)は2箇所の異なる位置に配置されており、
注入以前の段階で、フロー値が異なる複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を決定し、前記複数種類の可塑性グラウト材の降伏応力(τy)を決定し、前記複数種類の可塑性グラウト材のフロー値(F)を前記決定された降伏応力(τy)の平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2)aは可塑性グラウト材毎に異なる定数)或いは特性(降伏応力とフロー値の特性)として決定する工程と、
可塑性グラウト材の注入時において、基材供給系統(40)に介装された流量計(43)及び可塑材供給系統(50)に介装された流量計(53)の計測結果から可塑性グラウト材の流量(Q)及び流速(V)を演算する工程と、
2箇所の異なる位置の圧力センサ(62A、62B)の計測結果から圧力損失(ΔP)を演算する工程と、
フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の流量(Q)及び圧力損失(ΔP)から当該可塑性グラウト材のせん断速度(γ)及びせん断応力(τ)を演算する工程と、
決定した前記せん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力(τR)を決定する工程と、
決定された前記降伏応力(τR)と、決定された前記関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性を用いて、前記フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値(FR)を決定する工程と、
決定したフロー値(FR)と施工条件に適合するフロー値の範囲とを比較し、決定したフロー値(FR)が前記フロー値の範囲よりも小さい場合には基材(A液)の流量を増加し、決定したフロー値(FR)が前記フロー値の範囲よりも大きい場合には可塑材(B液)の流量を増加し、決定したフロー値(FR)が前記フロー値の範囲内である場合には基材(A液)の流量及び可塑材(B液)の流量を維持する工程を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
上述の構成を具備する本発明によれば、フロー値が異なる複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を決定し、
前記複数種類の可塑性グラウト材の降伏応力(τy)を決定し、前記複数種類の可塑性グラウト材のフロー値(F)を前記決定された降伏応力(τy)の平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性を決定し、
可塑性グラウト材の注入時には、基材供給系統(40)に介装された流量計(43)及び可塑材供給系統(50)に介装された流量計(53)の計測結果から可塑性グラウト材の流量(Q)及び流速(V)を演算し、
2箇所の異なる位置の圧力センサ(62A、62B)の計測結果から圧力損失(ΔP)を演算し、
フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の流量(Q)及び圧力損失(ΔP)から当該可塑性グラウト材のせん断速度(γ)及びせん断応力(τ)を演算し、
決定した前記せん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力(τR)を決定し、
決定された前記降伏応力(τR)と、決定された前記関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性を用いて、前記フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値(FR)を決定しているので、
注入工法で用いられる可塑性グラウトについて施工している際に、注入されている可塑性グラウト材のフロー値を実用に適する程度の高い精度で決定することが出来る。
そして、例えば注入工法を施工しつつ、注入されているグラウト材のフロー値を実用に適する程度の高い精度で決定することが出来るので、
決定したフロー値(FR)と施工条件に適合するフロー値の範囲とを比較し、決定したフロー値(FR)が前記フロー値の範囲よりも小さい場合には基材(A液)の流量を増加し、決定したフロー値(FR)が前記フロー値の範囲よりも大きい場合には可塑材(B液)の流量を増加し、決定したフロー値(FR)が前記フロー値の範囲内である場合には基材(A液)の流量及び可塑材(B液)の流量を維持することが出来て、
注入されている可塑性グラウト材のフロー値を施工条件に適合するフロー値の範囲内に調整することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】円管内を流れるグラウト材における力の釣り合いを示す説明図である。
図2】各種流体におけるγ-τ特性を説明する特性図である。
図3】ビンガム流体におけるγ-τ特性を説明する特性図である。
図4】ニュートン流体における流速分布を示す説明図である。
図5】ビンガム流体における流速分布を示す説明図である。
図6】フロー値が既知のグラウト材において、3種類の流速と、各々における圧力損失から求めた図3と同様なγ-τ特性図である。
図7】フロー値が異なる3種類のグラウト材のγ-τ特性を示す特性図である。
図8図7で示す3種類の特性から求めた降伏応力で作成した降伏応力τy-フロー値F特性を示す特性図である。
図9図7の特性図から、グラウト材の流速と圧力損失の計測値から降伏応力τRを決定する態様を説明する説明図である。
図10図9により決定された降伏応力τRから、流速と圧力損失を計測したグラウト材のフロー値FRを決定する態様を説明する説明図である。
図11】本発明の第1実施形態に係る可塑性グラウト材のフロー値を決定するシステムの機能ブロック図である。
図12】本発明の第1実施形態に係る可塑性グラウト材のフロー値を決定する方法の概要を示すフローチャートである。
図13図12におけるステップSAの詳細を示すフローチャートである。
図14図12におけるステップSBの詳細を示すフローチャートである。
図15】本発明の第2実施形態に係る注入工事を実施するためのシステムを示すブロック図である。
図16】本発明の第2実施形態に係る注入工事におけるフロー値調整の手順を示すフローチャートである。
図17】裏込め工事を行うトンネルの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
最初に図1図10を参照して、可塑性グラウト材のフロー値を決定する機序について説明する。ここで、図1図5を参照して、主として可塑性グラウト材の特性について説明する。そして図6図10を参照して、可塑性グラウト材におけるγ-τ特性、降伏応力τy、フロー値Fを決定する態様について説明する。
図1において、直径Dの円管内を矢印Fの方向に流れるグラウト材の所定の区間(長さL)における力のつり合いは以下の数式で表すことが出来る。
・(πD/4)=P・(πD/4)+τ・πDL
ここで、P、Pは所定区間(長さL)の下流端及び上流端の圧力、τはせん断応力を示す。圧力損失(圧力変動)ΔPは ΔP=P-P なので、上式は、
ΔP・(πD/4)=τ・πDL
となり、この式から次の式(1)を求めることが出来る。
τ=(ΔPD/4L) ・・・ (1)
【0015】
円管内を流れる流体の圧力損失ΔPは下式で表すことが出来る(ダルシー・ワイスバッハの式)。
ΔP=F・(L/D)・(ρV/2)
ここで、ρは流体の密度、Fは摩擦損失係数である。流れが層流であると想定すると、レイノルズ数Reを使って、摩擦損失係数Fは F=64/Re と表すことが出来るので、上式は、次のように変形できる。
ΔP=(64/Re)・(L/D)・(ρV/2)
レイノルズ数Reは流速Vを用いて、 Re=(DVρ/μ) と表すことができるので、レイノルズ数Re、見かけ粘度μ=(τ/γ)を上式に代入すると、上式は、次のように表すことが出来る。
ΔP=(32LV/D)・(τ/γ)
この式に式(1)を代入することにより、せん断速度γを表す次式(2)を求めることが出来る。
γ=(8V/D) ・・・ (2)
【0016】
図2には、各種流体におけるせん断速度γとせん断応力τとの特性が示されている。上述の式(1)、(2)を求める際には、ニュートン流体におけるレイノルズ数Reと見かけ粘度μを用いているが、可塑性グラウト材はビンガム流体と考えられ、実際はニュートン流体と異なる。図2では、ビンガム流体、ニュートン流体のγ-τ特性の他に、擬塑性流体、ダイラタント流体のγ-τ特性を示している。
図4にはニュートン流体における円管内の流速分布、図5にはビンガム流体における円管内の流速分布を示す。図4図5において、流れの方向を矢印Fで示す。図4のニュートン流体の流速分布が放物線流であるのに対し、図5のビンガム流体においては円管内で栓流と呼ばれる流速分布が生じる。
詳細な説明は省略するが、ビンガム流体において円管内の流速、圧力損失等からせん断速度の値を厳密に求めるためには、繰り返し計算を含む複雑な計算を必要とする。
図示の実施形態では、圧力損失と流速の値から可塑性グラウト材のフロー値を求めることを目的としており、可塑性グラウト材の降伏応力τyの真値を求めることが目的ではない。また、ニュートン流体におけるレイノルズ数Reと見かけ粘度μを用いてせん断応力τ、せん断速度γを求めたとしても、実施形態の手法によって算出されるフロー値に差異を生じない。そのため、図示の実施形態では、簡易に算出出来る方法として、ニュートン流体におけるレイノルズ数Reと見かけ粘度μを用いてビンガム流体である可塑性グラウト材のせん断応力、せん断速度を求めて、計算している。
【0017】
ビンガム流体である可塑性グラウト材おけるγ-τの特性図である図3において、単位せん断速度γの増加によるせん断応力τの増加分が、塑性粘度ηBである。また、せん断速度γが0(ゼロ)の時のせん断応力τが、降伏応力τyである。
可塑性グラウト材料の降伏応力τyは、それ以下のせん断応力τでは可塑性グラウト材料は流動を起こさず、それを超えるせん断応力τに対しては可塑性グラウト材料が一定せん断速度γで定常流動を行う数値である。
【0018】
次に、図6図10を参照して、フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値を決定する手順を説明する。
フロー値Fを決定するべき可塑性グラウト材であって、相互にフロー値の異なる複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材について、せん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を決定し(図6図7)、当該複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材の各々における降伏応力τyを決定する(図7)。
次に、当該複数種類(例えば3種類)の可塑性グラウト材のフロー値Fを、決定された降伏応力τyの平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2)(aは定数)或いは特性として決定する(図8)。当該関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性については、後述する。
そして、フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の流量(流速)及び圧力損失から当該可塑性グラウト材のせん断速度及びせん断応力を演算し、前記せん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性:図7)を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力τRを決定する(図9)。そして、降伏応力τRとフロー値の関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性を用いて、決定された降伏応力τRから、フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値FRを決定する(図10)。
図6図10を参照して、以下で詳細に説明する。
【0019】
可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性図(γ-τ特性図)である図6で示されている様なせん断速度-せん断応力特性図(γ-τ特性図)を求めるに際して、圧送配管径D、圧力損失を測定する区間長Lを決定し(例えばD=40mm、L=2m:図1参照)、流速Vを変化させて(V1、V2、V3:すなわち流量Qを変化させて)、それぞれの場合の圧力損失ΔP(ΔP1、ΔP2、ΔP3)を演算する。
図1を参照して説明した様に、せん断応力τ、せん断速度γは、上述した式(1)、(2)で表すことが出来るので、式(2)により、流速V(V1、V2、V3)からせん断速度γを求めることが出来る。そして、式(1)により、圧力損失ΔP(ΔP1、ΔP2、ΔP3)からせん断応力τを求めることが出来る。
図6において、流速VをV1、V2、V3に変化させて得られた3つのプロット(γ1、τ1)、(γ2、τ2)、(γ3、τ3)より、或るフロー値F(例えば、F=100mm)の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性線(γ-τ特性線)を決定することが出来る。係るγ-τ特性線から、当該可塑性グラウト材の特性
τ=τy+ηB(ηBは塑性粘度) と、τ軸切片である降伏応力τyを求めることが出来る。
【0020】
図7では、複数種類の可塑性グラウト材として、例えばフロー値F=100mm、フロー値F=120mm、フロー値F=140mmの可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を決定して、3種類の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を併せて表示している。
フロー値F=100mm、120mm、140mmの3種類の可塑性グラウト材のγ-τ特性から、当該3種類の可塑性グラウト材のそれぞれの降伏応力τ100、τ120、τ140を求めることが出来る。ここで、3種類の可塑性グラウト材のそれぞれの降伏応力を「τy」と総称する場合がある。
【0021】
図8は、3種類の可塑性グラウト材のフロー値Fと降伏応力τyの関係を示しており、フロー値Fは降伏応力τyの平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性としてあらわされる。ここで、符号「a」は可塑性グラウト材毎に異なる定数である。
図8において、縦軸を可塑性グラウト材のフロー値F、横軸を可塑性グラウト材の降伏応力τyである。そして、上述した3種類の可塑性グラウト材のフロー値F=100mm、フロー値F=120mm、フロー値F=140mmと、それぞれの降伏応力τ100、τ120、τ140により、図8に3つのプロットを表示して、降伏応力τy-フロー値F特性曲線(F=a/(τy)1/2)を決定している。
ここで、降伏応力τy-フロー値F特性曲線が、F=a/(τy)1/2)と表現出来る関数であり或いは特性を示していることは、図8の3つのプロットより、市販のソフトウェア(例えば、マイクロソフト社販売の商品名「Excel」)により演算して求めることが出来る。或いは、フロー値Fから降伏応力τyを推定する際に、降伏応力τyがフロー値Fの2乗に反比例するとしているので、フロー値Fは、降伏応力τyの平方根に反比例するとして、最小二乗法によって、フロー値Fと降伏応力τyの関係を求めることが出来る。
そして フロー値F=a/(τy)1/2 として、定数aを決定する。
【0022】
図7に示すフロー値F=100mm、120mm、140mmの3種類の可塑性グラウト材のせん断速度-せん断応力特性図(γ-τ特性図)と、図8に示す降伏応力τy-フロー値F特性曲線(F=a/(τy)1/2)を用いて、フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力τRを求め(図9)、フロー値FRを決定する(図10)。その詳細を、図9図10を参照して以下で説明する。
図9において、区間長L、圧送配管径Dは図1を参照して説明したデータである。例えば注入工法の施工に際して、フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材の流速V、圧力損失ΔPを計測し、上述の式(1)、(2)を用いてせん断速度、せん断応力を演算する。
図9の例では、上記式(1)、(2)で求めた(フロー値を決定するべき)可塑性グラウト材のせん断速度γ0、せん断応力τ0のプロット(γ0、τ0)は、フロー値F=120mmの可塑性グラウト材のγ-τ特性線と、フロー値F=140mmのγ-τ特性線の間の領域に位置している。
フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材のγ-τ特性線Rは、フロー値F=120mmの可塑性グラウト材のγ-τ特性線とフロー値F=140mmのγ-τ特性線のτ軸(縦軸)方向距離を比例配分して決定することが出来る。フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材のγ-τ特性線Rが求まれば、特性線Rのτ軸切片である降伏応力τRが求まる。
【0023】
ここで、図9における特性線R(フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材のγ-τ特性線)が、図7における3本のγ-τ特性線の間の領域となる様に、3種類の可塑性グラウト材のフロー値を決定することが好ましい。
図9における特性線Rが図7における3本のγ-τ特性線の間の領域から外れた場合(図7における3本のγ-τ特性線よりも上方或いは下方の領域となった場合)には、特性線Rは、その直近のγ-τ特性線(図7における3本のγ-τ特性線の内、最も特性線Rに近いγ-τ特性線)と平行に延在するものとして、降伏応力τRを決定する。
【0024】
図10では、図9で決定された(フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材の)降伏応力τRから、フロー値FR(例えば、注入工法施工中の可塑性グラウト材のフロー値)を求めることが出来る。その際に、図8で示す様な可塑性グラウト材のフロー値Fと降伏応力τyの関係を表す特性図が用いられる。
或いは、可塑性グラウト材の決定されるべきフロー値FRは、可塑性グラウト材のフロー値Fと降伏応力τyの関係を示す関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性から演算することも出来る。
【0025】
次に、図11図14を参照して、本発明の第1実施形態について説明する。
図11図14の第1実施形態は、可塑性グラウト材のフロー値を決定するシステムと方法に関する。
図11において、第1実施形態に係る可塑性グラウト材のフロー値を決定するシステムは全体が符号100で示されており、制御装置10、入力装置20、表示装置30(ディスプレイ)を有している。
制御装置10は、せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aと、降伏応力-フロー値関数決定ブロック10Bと、せん断速度演算ブロック10Cと、せん断応力演算ブロック10Dと、降伏応力決定ブロック10Eと、フロー値決定ブロック10Fと、流速決定ブロック10Gと、データベース10H(記憶装置)を有する。
【0026】
入力装置20には図1で示す圧送配管に関するデータ(配管径D、区間長L、図1)と、図示しない計測装置(流量計、圧力計)から取得した流量Q及び圧力損失ΔPの計測値(演算値)が入力されて、当該データや計測値が制御装置10に出力される。
流速決定ブロック10Gは、入力装置20から信号伝達ラインSL1を介して流量Qの計測値が入力され、流量Qの計測値と配管径Dから流速Vを演算する。流速決定ブロック10Gで演算された流速Vは、信号伝達ラインSL2を介してせん断速度演算ブロック10Cに送信されると共に、信号伝達ラインSL3を介してせん断応力演算ブロック10Dに送信される。
【0027】
せん断速度演算ブロック10Cは、入力装置20から信号伝達ラインSL1、SL2を介して圧送配管に関するデータ(配管径D、区間長L:図1)が入力され、流速決定ブロック10Gから流速Vが入力され、上記式(2)により、可塑性グラウト材のせん断速度γを演算する機能を有する
また、せん断速度演算ブロック10Cは、入力装置20から信号伝達ラインSL1、SL2を介して圧送配管に関するデータ(配管径D、区間長L)と、フロー値が既知で異なる3種類の可塑性グラウト材の流速Vとが入力され、当該フロー値が異なる3種類の可塑性グラウト材のせん断速度γをそれぞれ演算する機能を有する。
せん断速度演算ブロック10Cで演算された(フロー値を決定するべき)可塑性グラウト材のせん断速度γは、信号伝達ラインSL4を介して降伏応力決定ブロック10Eに送信される。また、せん断速度演算ブロック10Cで演算したフロー値Fが既知の3種類の可塑性グラウト材のせん断速度γは、信号伝達ラインSL5を介してせん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aに送信される。
【0028】
せん断応力演算ブロック10Dは、入力装置20から信号伝達ラインSL1、SL3を介して圧送配管に関するデータ(配管径D、区間長L)と、(フロー値を決定するべき)可塑性グラウト材の圧力損失ΔPが入力され、上記式(1)により、(フロー値を決定するべき)可塑性グラウト材のせん断応力τを演算する機能を有する。
また、せん断応力演算ブロック10Dは、入力装置20から信号伝達ラインSL1、SL3を介して圧送配管に関するデータ(配管径D、区間長L)が入力され、フロー値が既知で異なる複数種類(3種類)の可塑性グラウト材の圧力損失ΔPが入力され、上記式(1)により、フロー値が既知の3種類の可塑性グラウト材のせん断応力τをそれぞれ演算する機能を有する。
せん断応力演算ブロック10Dで演算した(フロー値を決定するべき)可塑性グラウト材のせん断応力τは、信号伝達ラインSL6を介して降伏応力決定ブロック10Eに送信され、せん断速度応力ブロック10Dで演算したフロー値Fが既知の3種類の可塑性グラウト材のせん断応力τは、信号伝達ラインSL7を介してせん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aに送信される。
【0029】
図11において、せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aは、せん断速度演算ブロック10Cからフロー値Fが既知で異なる3種類の可塑性グラウト材のせん断速度γを取得すると共に、せん断応力演算ブロック10Dから前記3種類のフロー値が既知の可塑性グラウト材のせん断応力τを取得する。
そして、せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aは、取得したせん断速度γとせん断応力τに基づき、フロー値Fが異なる複数種類(3種類)の可塑性グラウト材のγ-τ特性(3種類のそれぞれの特性)を決定する機能を有する。
せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aによるγ-τ特性の決定は、図6図7で説明した態様で実行される。
また、せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aは、前記決定したγ-τ特性に基づき、前記フロー値が既知の3種類の可塑性グラウト材における各々の降伏応力τyを決定する機能を有する。決定された降伏応力τyは、図7におけるτ100、τ120、τ140に対応し、図7を参照して説明した態様で行なわれる。
せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aで決定したγ-τ特性及び降伏応力τyは、信号伝達ラインSL8を介して降伏応力-フロー値関数決定ブロック10Bに送信されると共に、信号伝達ラインSL9を介してデータベース10Hに送信される。
【0030】
降伏応力-フロー値関数決定ブロック10Bは、せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aから取得したフロー値が既知の3種類の可塑性グラウト材のそれぞれのγ-τ特性及び降伏応力τy(τy=τ100、τ120、τ140)に基づいて、3種類の前記グラウト材のフロー値Fを、決定された降伏応力τyの平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2)として決定し、或いは当該関数に相当する特性を決定する。ここで、降伏応力-フロー値関数決定ブロック10Bは関数のみならず、特性を決定する機能を有することが可能であることを付記する。
降伏応力-フロー値関数決定ブロック10Bで決定した関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性は、信号伝達ラインSL10を介してデータベース10Hに送信される。
【0031】
降伏応力決定ブロック10Eは、せん断速度演算ブロック10Cからせん断速度γを取得し、せん断応力演算ブロック10Dからせん断応力τを取得し、さらに、データベース10Hから信号伝達ラインSL11を介して3種類のフロー値が既知の可塑性グラウト材のγ-τ特性を取得する。ここで、降伏応力決定ブロック10Eは、フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材のせん断速度γ、せん断応力τを取得する。
そして、降伏応力決定ブロック10Eは、取得したγ-τ特性に基づき、フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力τRを決定する機能を有する。降伏応力τRの決定は、図9で説明した態様で実行される。
降伏応力決定ブロック10Eで決定した降伏応力τR(フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力τR)は、信号伝達ラインSL12を介してフロー値決定ブロック10Fに送信される。
【0032】
フロー値決定ブロック10Fは、降伏応力決定ブロック10Eから降伏応力τRを取得すると共に、データベース10Hから信号伝達ラインSL13を介して、可塑性グラウト材のフロー値Fの関数或いは特性を取得し、取得した可塑性グラウト材の降伏応力τRとフロー値の関数或いは特性により、フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材のフロー値FRを決定する。フロー値決定ブロック10Fによるフロー値FRの決定は、図10で説明した態様で行なわれる。
フロー値決定ブロック10Fで決定したフロー値FRは、信号伝達ラインSL14を介して表示装置30(ディスプレイ)に送信される。表示装置30(ディスプレイ)では、決定したフロー値FRを表示すると共に、必要に応じて、信号伝達ラインSL15を介して入力装置20に送信することにより、施工管理者の管理手段に保存する。
【0033】
データベース10Hは、せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aで決定したフロー値Fが既知の3種類の可塑性グラウト材におけるγ-τ特性及び降伏応力τyを取得して保存すると共に、降伏応力-フロー値関数決定ブロック10Bで決定した可塑性グラウト材の降伏応力τyとフロー値Fの関数或いは特性を取得し、保存する機能を有する。
データベース10Hに保存された3種類の可塑性グラウト材のγ-τ特性は、フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力τRを決定する際に、降伏応力決定ブロック10Eにより用いられる。
また、データベース10Hに保存された可塑性グラウト材の降伏応力τRとフロー値Fの関数或いは特性は、フロー値Fを決定するべき可塑性グラウト材のフロー値FRを決定する際に、フロー値決定ブロック10Fにより用いられる。
【0034】
図12は、第1実施形態に係るシステム100における可塑性グラウト材のフロー値を決定する手順の概略を示し、図13及び図14では、図12のステップSA、ステップSBをより詳細に示している。
図12において、ステップSAでは、フロー値が既知で異なる3種類の可塑性グラウト材のそれぞれのγ-τ特性及び降伏応力τyを決定する(せん断速度-せん断応力特性決定工程、降伏応力決定工程)。
さらに、ステップSAでは、3種類の可塑性グラウト材のフロー値Fを、前記決定された降伏応力τyの平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2)として決定し、或いは、当該関数に対応する特性(降伏応力とフロー値の特性)として決定する(降伏応力-フロー値関数決定工程)。ステップSAでは関数ではなく、特性が決定される場合があることを付記する。
ステップSBでは、フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材の流量Q及び圧力損失ΔPから、当該可塑性グラウト材のせん断速度γ及びせん断応力τを決定し(せん断速度及びせん断応力演算工程)、前記せん断速度-せん断応力特性(γ-τ特性)を利用してフロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力τRを決定し(降伏応力決定工程)、さらに、前記降伏応力τRと、ステップSAで決定した降伏応力τyの平方根の逆数によるフロー値Fの関数或いは特性により、前記フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値FRを決定する(フロー値決定工程)。
【0035】
図12のステップSAの詳細を示す図13において、ステップS11では、フロー値が既知で且つそれぞれ異なる3種類の可塑性グラウト材を、管径D、区間長Lの圧送配管の所定区間において、流量Q或いは流速Vを変化させて、圧力損失ΔPを計測(演算)する。そしてステップS12に進む。
ステップS12では、ステップS11による流速V(V1、V2、V3)と圧力損失ΔP(ΔP1、ΔP2、ΔP3)の計測値(演算値)を用いて、図1で説明した式(1)、(2)により、せん断応力τ(τ1、τ2、τ3)及びせん断速度γ(γ1、γ2、γ3)を演算し、せん断速度-せん断応力特性線(γ-τ線図)上にプロットする。当該プロットは、可塑性グラウト材毎に例えば3箇所ずつ行い、線形近似してγ-τ特性線を決定する(図6図7参照)。γ-τ特性線は3種類の可塑性グラウト材毎に合計3本決定して、γ-τ特性図を決定する(図7参照)。
さらに、ステップS12では、3種類の可塑性グラウト材の3本の特性線により、3種類の可塑性グラウト材毎に降伏応力τy(τy=τ100、τ120、τ140)及び塑性粘度ηB(ηB=η100、η120、η140)を決定する(図7参照)。
ステップS12は、せん断速度演算ブロック10C、せん断応力演算ブロック10D、せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック10Aで実行される。
【0036】
次のステップS13では、ステップS12で決定した3種類の可塑性グラウト材の降伏応力τy(τy=τ100、τ120、τ140)及びフロー値F(F=100mm、120mm、140mm)に基づき、最小二乗法により、フロー値Fを降伏応力τyの平方根の逆数で表す関数(F=a/(τy)1/2)、或いは、当該関数に対応する降伏応力τyとフロー値Fの特性を決定する(図8参照)。ステップS13では、関数ではなく、降伏応力τyとフロー値Fの特性が決定される場合があることを付記する。
ステップS13は、降伏応力-フロー値関数決定ブロック10Bで実行される。
【0037】
図12のステップSBの詳細を示す図14において、ステップS21では、圧送配管の管径D、区間長Lを入力し、当該圧送配管において、フロー値FR決定するべき可塑性グラウト材の流量Q(流速V)及び圧力損失ΔPを計測、演算する。そしてステップS22に進む。
ステップS22では、圧送配管の管径D、区間長L、流量Q(流速V)、圧力損失ΔPにより、可塑性グラウト材のせん断速度γ及びせん断応力τを演算する。
ステップS22は、せん断速度演算ブロック10C及びせん断応力演算ブロック10Dで行なわれる。そしてステップS23に進む。
【0038】
ステップS23では、ステップS22で演算されたせん断速度γ(γ0)、せん断応力τ(τ0)を、ステップS12(図13)で決定した3種類の可塑性グラウト材(フロー値F=100mm、120mm、140mm)のγ-τ特性を示す図にプロットすることにより、フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の特性線R及び降伏応力τRを決定する(図9参照)。
ステップS23は、降伏応力決定ブロック10Eで実行される。
次のステップS24では、ステップS23で決定された降伏応力τRを、ステップS13(図13)で決定したフロー値Fを降伏応力τyの平方根の逆数で表す関数(F=a/(τy)1/2)により演算し、或いは、関数に対応する特性にプロットすることにより、フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材のフロー値FRを決定する(図10参照)。
ステップS24の制御は、フロー値決定ブロック10Fで実行される。
【0039】
次に、図15図16を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
図15図16の第2実施形態は、第1実施形態におけるフロー値決定の技術を注入工法の施工に適用したものであり、可塑性グラウト材を注入しながら、そのフロー値をリアルタイムで調整することが出来るシステム及び方法に関する。
図15において、第2実施形態に係る注入工法施工システムは、全体を符号101で示す。注入工法施工システム101は、二液混合タイプの可塑性グラウト材を注入するシステムである。可塑性グラウト材は基材(A液)と可塑材(B液)を含むタイプであり、基材(A液)が多いとフロー値Fが大きくなり、可塑材(B液)が多いとフロー値Fが小さくなる。
注入工法施工システム101は、基材供給系統40と可塑材供給系統50を含む。基材供給系統40には、ミキシングプラント41、基材側グラウトポンプ42(材料圧送用ポンプ)、基材側流量計43が介装されている。可塑材供給系統50には、高速ミキサ51、可塑材側グラウトポンプ52(材料圧送用ポンプ)、可塑材側流量計53が介装されている。
基材供給系統40と可塑材供給系統50の合流箇所或いはその下流側には、混合装置であるスタティックミキサ61と圧力センサ62が介装されており、圧力センサ62は鋼管63の両端に配置された第1の圧力センサ62A、第2の圧力センサ62Bを含む。鋼管63は図1の圧送配管に相当し、区間長Lを隔てて圧力センサ62A、62Bが配置されている。
【0040】
図15において、注入工法施工システム101は、制御装置11、入力装置20を有する。
制御装置11は、流量・流速及び圧力損失演算ブロック11A(Q、V、ΔP演算ブロック)と、せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック11B(γ-τ特性及びτy決定ブロック)と、降伏応力-フロー値関数決定ブロック11C(F=F(τy)決定ブロック)と、せん断速度・せん断応力演算ブロック11D(γ、τ演算ブロック)と、降伏応力決定ブロック11E(τR決定ブロック)と、フロー値決定ブロック11Fと、判断ブロック11Gと、制御信号発生ブロック11Hと、データベース11I(記憶装置)を有する。
第1実施形態と同様に、入力装置20には圧送配管(図1参照)に関するデータ(配管径D、区間長L)、計測装置(流量計43、53、圧力計62A、62B)から取得した可塑性グラウト材の流量Q、流速V及び圧力損失ΔPが入力される。
【0041】
流量・流速及び圧力損失演算ブロック11A(Q、V、ΔP演算ブロック)は、基材側流量計43から信号伝達ラインSL21を介して基材供給系統40における流量を取得し、可塑材側流量計53から信号伝達ラインSL22を介して可塑材供給系統50における流量を取得する。また、第1の圧力センサ62Aから信号伝達ラインSL23を介して計測した圧力を取得し、第2の圧力センサ62Bから信号伝達ラインSL24を介して計測した圧力を取得する。
Q、V、ΔP演算ブロック11Aは、基材側流量計43及び可塑材側流量計53の計測結果から可塑性グラウト材の流量Q(基材側流量計43、可塑材側流量計53の計測値の合算値:流量)及び流速Vを演算し、第1及び第2の圧力センサ62A、62Bの計測結果から圧力損失ΔPを演算する。
Q、V、ΔP演算ブロック11Aで演算された流量Q、流速V、圧力損失ΔPは、信号伝達ラインSL25を介してせん断速度・せん断応力演算ブロック11D(γ、τ演算ブロック)に送信される。
【0042】
せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック11B(γ-τ特性及びτy決定ブロック)は、フロー値Fが既知で且つ異なる3種類の可塑性グラウト材の流量Q、流速V、圧力損失ΔP、圧送配管に関するデータ(配管径D、区間長L)から、上記式(1)、(2)により、グラウト材のせん断速度γ及びせん断応力τを演算し、フロー値の異なるグラウト材毎にγ-τ特性を決定し(図6図7参照)、3種類の可塑性グラウト材のそれぞれの降伏応力τy(図7参照:τ100、τ120、τ140)を決定する。
γ-τ特性及びτy決定ブロック11Bで決定したγ-τ特性及び降伏応力τyは、信号伝達ラインSL27を介して降伏応力-フロー値関数決定ブロック11C(F=F(τy)決定ブロック)に送信される。そしてγ-τ特性は、信号伝達ラインSL28を介してデータベース11Iに送信される。
【0043】
降伏応力-フロー値関数決定ブロック11C(F=F(τy)決定ブロック)は、3種類の可塑性グラウト材のそれぞれのフロー値と降伏応力τy(τy=τ100、τ120、τ140)に基づいて、フロー値FRを降伏応力τyの平方根の逆数の関数(F=a/(τy)1/2)として決定し、或いは、それに対応する降伏応力τyとフロー値FRとの特性として決定する。ここでブロック11Cは、関数ではなく、特性を決定する場合があることを付記する。
F=F(τy)決定ブロック11Cで決定した関数 F=a/(τy)1/2 或いは降伏応力τyとフロー値FRとの特性は、信号伝達ラインSL29を介してデータベース11Iに送信される。
【0044】
γ、τ演算ブロック11Dは、Q、V、ΔP演算ブロック11Aから取得した流量Q、流速V、圧力損失ΔPから、上記式(1)、(2)により可塑性グラウト材のせん断速度γ及びせん断応力τを演算、決定する。
明確には示されていないが、せん断速度・せん断応力を演算する際に必要な圧送配管のデータ(配管径D、区間長L)は、予めγ、τ演算ブロック11Dに記憶させておいても良く、或いはデータベース11Iに保存した当該データ(配管径D、区間長L)をγ、τ演算ブロック11Dが用いても良い。
γ、τ演算ブロック11Dで演算されたせん断速度γ及びせん断応力τは、信号伝達ラインSL30を介して降伏応力決定ブロック11E(τR決定ブロック)に送信される。
【0045】
降伏応力決定ブロック11E(τR決定ブロック)は、γ、τ演算ブロック11Dから取得したせん断速度γ及びせん断応力τと、データベース11Iから取得したフロー値が既知の3種類の可塑性グラウト材の各々のγ-τ特性に基づき、降伏応力τRを決定する機能を有する(図9参照)。
τR決定ブロック11Eで決定された降伏応力τRは、信号伝達ラインSL32を介してフロー値決定ブロック11Fに送信される。
【0046】
フロー値決定ブロック11Fは、τR決定ブロック11Eから取得した降伏応力τRと、データベース11Iから信号伝達ラインSL33を介して取得した降伏応力とフロー値の関数(F=a/(τy)1/2)或いは特性に基づき、フロー値FRを決定するべき可塑性グラウト材のフロー値FRを決定する(図10参照)。
フロー値決定ブロック11Fで決定したフロー値FRは、信号伝達ラインSL34を介して判断ブロック11Gに送信される。
明確には図示されないが、フロー値決定ブロック11Fで決定したフロー値FRは、図示しない表示手段で表示することも出来、また、入力装置20に送信して施工管理者の管理手段に保存することも出来る。
【0047】
図15において、判断ブロック11Gは、フロー値決定ブロック11Fで決定したフロー値FRと、施工条件に適合するフロー値の範囲とを比較し、決定したフロー値FRが前記フロー値の範囲より小さい場合には基材(A液)の流量を増加し(A液の流量を増加する)、決定したフロー値FRが前記フロー値の範囲より大きい場合には可塑材(B液)の流量を増加し(B液の流量を増加する)、決定したフロー値FRが前記フロー値の範囲内である場合には基材(A液)の流量及び可塑材(B液)の流量を維持する機能を有する。
ここで、「当該可塑性グラウト材における施工条件に適合するフロー値の範囲」に関するデータは、予め判断ブロック11Gに記憶させておいても良く、或いはデータベース11Iに保存して判断ブロック11Gで用いることも出来る。
判断ブロック11Gによる前記判断結果(「基材(A液)の流量を増加する」、「可塑材(B液)の流量を増加する」、「基材(A液)及び可塑材(B液)の流量を維持する」の何れか)は、信号伝達ラインSL35を介して制御信号発生ブロック11Hに送信される。
【0048】
制御信号発生ブロック11Hは、判断ブロック11Gの判断結果に基づいて、信号伝達ラインSL36を介して基材供給系統40のグラウトポンプ42(材料圧送用ポンプ)に、及び/又は、信号伝達ラインSL37を介して可塑材供給系統50のグラウトポンプ52(材料圧送用ポンプ)に必要な制御信号を送信する機能を有する。
制御信号発生ブロック11Hからの制御信号を受信した基材側グラウトポンプ42、可塑材側グラウトポンプ52は、それぞれ基材(A液)、可塑材(B液)の流量を調整(増加、減少、維持)する。その結果、可塑性グラウト材のフロー値FRを、施工条件に適合するフロー値の範囲内の数値に保持出来る。
【0049】
図16のフローチャートは、第2実施形態におけるフロー値調整の手順を示している。
図16においては図示されていないが、可塑性グラウト材の注入以前の段階で、図13で示すのと同様な手順で、フロー値Fが既知で且つ異なる3種類の可塑性グラウト材のそれぞれのγ-τ特性を決定し(せん断速度-せん断応力特性決定工程)、降伏応力τyを決定する(3種類の可塑性グラウト材の降伏応力τyを決定する工程)。当該制御は、γ-τ特性及びτy決定ブロック11Bで行なわれる。
同様に、可塑性グラウト材の注入以前の段階で、図13で示すのと同様な手順で、フロー値が既知の3種類の可塑性グラウト材の降伏応力とフロー値Fの関数或いは特性を決定する(降伏応力-フロー値関数決定工程)。当該制御は、F=F(τy)決定ブロック11Cで行なわれる。
【0050】
図16のステップS31では、圧送配管の管径D、区間長Lを入力装置20(図15参照)に入力する。
ステップS32では、基材供給系統40に介装された流量計43(図15参照)の計測結果及び可塑材供給系統50に介装された流量計53(図15参照)の計測結果により、可塑性グラウト材の流量Q及び流速Vを演算する(フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の流量Q及び流速Vを演算する工程)。
ステップS33では、第1及び第2の圧力センサ62A、62B(図15参照)の計測結果から圧力損失ΔPを演算する(フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の圧力損失ΔPを演算する工程)。
ステップS32、ステップS33の制御はQ、V、ΔP演算ブロック11Aで実行される。
ここで、ステップS31~ステップS33は、どのような順番でも実行することが可能であり、或いは複数のステップを同時に実行することも可能である。
【0051】
ステップS34では、圧送配管の管径D、区間長L、流量Q(流速V)、圧力損失ΔPから、上記式(1)、(2)により、せん断速度γ及びせん断応力τを演算する(フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のせん断速度γ及びせん断応力τを演算する工程)。ステップS34の制御は、γ、τ演算ブロック11Dで実行される。
次のステップS35では、ステップS34で演算されたフロー値を決定するべき可塑性グラウト材のせん断速度γ(γ=γ0)、せん断応力τ(τ=τ0)を、可塑性グラウト材の注入以前の段階で決定した3種類の可塑性グラウト材(フロー値F=100mm、120mm、140mm)のγ-τ特性図にプロットして、フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の特性線R及び降伏応力τRを決定する(フロー値を決定するべき可塑性グラウト材の降伏応力τRを決定する工程:図9参照)。
ステップS35の制御は、τR決定ブロック11Eで行なわれる。そしてステップS36に進む。
【0052】
ステップS36では、ステップS35で決定された降伏応力τRを用いて、可塑性グラウト材の注入以前の段階で決定した降伏応力τyとフロー値Fの関数(フロー値Fを降伏応力τyの平方根の逆数で表す関数:F=a/(τy)1/2)により、フロー値FRを決定する(フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値を決定する工程、図10参照)。或いは、当該関数に対応する特性を用いて、フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値FRを決定する。
ステップS36の制御は、フロー値決定ブロック11Fで実行される。そしてステップS37に進む。
【0053】
ステップS37では、ステップS36で決定されたフロー値FRが施工条件に適合するフロー値の範囲内(設定範囲内)であるか否か判断する。
ステップS37の判断の結果、フロー値を決定するべき可塑性グラウト材のフロー値FRが施工条件に適合するフロー値の範囲内(FRは設定範囲内)の場合はステップS38に進み、当該フロー値FRが設定範囲より小さい場合(FR<設定範囲)はステップS39に進み、当該フロー値FRが設定範囲より大きい場合(設定範囲<FR)はステップS40に進む。
ステップS37の制御は、判断ブロック11Gで実行される。
【0054】
ステップS38(FRは設定範囲内)では、基材(A液)の流量及び可塑材(B液)の流量を維持する。
ステップS39(FR<設定範囲)では、基材(A液)の流量を増加する(A液の流量を増加する)。
ステップS40(設定範囲<FR)では、可塑材(B液)の流量を増加する(B液の流量を増加する)。
ステップ38~ステップS40の制御は、制御信号発生ブロック11Hが、基材供給系統40のグラウトポンプ42、グラウトポンプ52により行なわれる。
【0055】
ステップS41では、可塑性グラウト材の注入工法の施工を終了するか否かを判断する。ステップS41の判断結果が「終了する」の場合(ステップS41が「YeS」)には図16の制御を終了する。
一方、ステップS41の判断結果が「終了しない(継続する)」の場合(ステップS41が「No」)、ステップS31(或いはステップ32、ステップS33)に戻る。
【0056】
図15図16に示す第2実施形態においても、可塑性グラウト材のフロー値を実用に適する程度の高い精度で決定することが出来る。そして、決定したフロー値FRと設定範囲とを比較し、決定したフロー値FRが設定範囲よりも小さい場合には基材(A液)の流量を増加し、決定したフロー値FRが設定範囲よりも大きい場合には可塑材(B液)の流量を増加し、決定したフロー値FRが設定範囲内である場合には基材(A液)の流量及び可塑材(B液)の流量を維持することにより、常に可塑性グラウト材のフロー値を適正な数値に保持することが出来る。
第2実施形態におけるその他の構成、作用効果は、図11図14に示す第1実施形態と同様である。
【0057】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、図示の実施形態では3種類のフロー値が既知のグラウト材を用いているが、4種類以上のグラウト材を用いることも可能である
【符号の説明】
【0058】
10、11・・・制御装置
10A・・・せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック
10B・・・降伏応力-フロー値関数決定ブロック
10C・・・せん断速度演算ブロック
10D・・・せん断応力演算ブロック
10E・・・降伏応力決定ブロック
10F・・・フロー値決定ブロック
10G・・・流速決定ブロック
10H・・・データベース(記憶装置)
11A・・・流量・流速及び圧力損失演算ブロック
11B・・・せん断速度-せん断応力特性及び降伏応力決定ブロック
11C・・・降伏応力-フロー値関数決定ブロック
11D・・・せん断速度・せん断応力演算ブロック
11E・・・降伏応力決定ブロック
11F・・・フロー値決定ブロック
11G・・・判断ブロック
11H・・・制御信号発生ブロック
11I・・・データベース(記憶装置)
40・・・基材供給系統
50・・・可塑材供給系統
42、52・・・材料圧送用ポンプ(グラウトポンプ)
43、53・・・流量計
61・・・混合装置(スタティックミキサ)
62A、62B・・・圧力センサ
100・・・可塑性グラウト材のフロー値を決定するシステム
101・・・注入工法施工システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17