(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033709
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】重合体、ハイドロゲル、医療用素材及び創傷被覆材料
(51)【国際特許分類】
C08F 220/28 20060101AFI20240306BHJP
C08F 246/00 20060101ALI20240306BHJP
C08F 220/38 20060101ALI20240306BHJP
C08F 220/36 20060101ALI20240306BHJP
C08F 220/60 20060101ALI20240306BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20240306BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C08F220/28
C08F246/00
C08F220/38
C08F220/36
C08F220/60
A61L15/24 100
A61L15/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137471
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000162076
【氏名又は名称】共栄社化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】高松 嘉則
(72)【発明者】
【氏名】内木場 尊信
【テーマコード(参考)】
4C081
4J100
【Fターム(参考)】
4C081AA01
4C081AA12
4C081AA14
4C081CA081
4C081DA12
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100AL09R
4J100AM21Q
4J100AM21R
4J100BA03R
4J100BA18Q
4J100BA32Q
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4J100BA64Q
4J100BC60P
4J100CA23
4J100DA37
4J100EA03
4J100FA03
4J100FA18
4J100GB01
4J100GC35
4J100JA51
(57)【要約】
【課題】創傷被覆材料、薬物送達担体等の医療用素材として使用できる新規な重合体を得る。
【解決手段】グリセリンカーボネート(メタ)アクリレートに由来する構造(A)、スルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基からなる群より選択される少なくとも1の官能基(B-1)及び(メタ)アクリロイル基及び/又はN-(メタ)アクリロイルアミド基(B-2)を有する化合物に由来する構造(B)並びに重合性不飽和基を有する水溶性モノマー(C)を必須の構成単位とすることを特徴とする重合体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンカーボネート(メタ)アクリレートに由来する構造(A)、
スルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基からなる群より選択される少なくとも1の官能基(B-1)及び(メタ)アクリロイル基及び/又はN-(メタ)アクリロイルアミド基(B-2)
を有する化合物に由来する構造(B)並びに
重合性不飽和基を有する水溶性モノマーに由来する構造(C)
を必須の構成単位とすることを特徴とする重合体。
【請求項2】
構造(B)は、スルホプロピルベタイン(メタ)アクリレートに由来する構造である請求項1記載の重合体。
【請求項3】
構造(C)は、40℃におけるモノマーの水への溶解度が1g/L以上であるモノマーに由来する構造である請求項1又は2記載の重合体。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の重合体を有することを特徴とするハイドロゲル。
【請求項5】
請求項4に記載のハイドロゲルを有することを特徴とする医療用素材。
【請求項6】
請求項4に記載のハイドロゲルを有することを特徴とする創傷被覆材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体、ハイドロゲル、医療用素材及び創傷被覆材料に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマテリアルとは,一般に医療やバイオテクノロジー分野に用いられる材料の総称であり,生体の構成要素である生体物質,細胞,組織などと接触させ,診断や治療あるいは生体の損傷部の補助や置換を行うために用いられる材料や、酵素等の生体物質を検査での使用において使用しやすいように固定するための担体、生体物質に対して蛍光を付与するための蛍光物質など、多岐にわたるものが公知であり、種々の目的で使用されている。さらに、これらの物質においては、生化学分野における研究開発において使用することもある。
【0003】
このような用途において、有機合成によって得られた素材は多く存在する。このようなバイオマテリアルは、通常の樹脂等とは異なり、物理的性質や化学的性質のみではなく、生体との相互作用や生体適合性等の生物学的な性質が要求されている。したがって、一般的な樹脂分野とは異なる分子設計が必要となる。
【0004】
例えば、治療用薬剤の体内への送達は、経口投与、注射、貼付などの投与方法により行うことが一般的である。しかし、投与方法によっては、治療対象部位以外の部位に薬剤が接触することにより副作用が発生するという問題、治療対象部位へ到達する以前に薬剤の濃度が減少することにより、薬効を十分に発揮できないという問題などがある。
【0005】
薬剤を治療対象部位へ限定的に送達する方法として、ドラッグデリバリーシステム(DDS)がある。DDSとは、体内の薬物分布を、量的、空間的又は時間的にコントロールすることにより、治療対象部位における薬効を向上させ、治療効果を高める方法である。DDSの具体的な方法として、薬剤を包含した担持体を、経口により、或いは皮膚や粘膜からの吸収により、治療対象部位へ送達する方法がある。この方法を採用する場合、安全性や取扱い性の観点から、担持体としてハイドロゲルが選択されることがある。
【0006】
上記のDDSに使用されるものも含め、医療分野で使用されるハイドロゲルとして、これまでに種々のハイドロゲルが提案されている(特許文献1~4)。
また、細胞付着抑制の性能を有するスルホベタイン基を有するポリマーが、生体適合性に優れるものとして、コンタクトレンズや人工血管等の医療器具等に使用することが提案されている(特許文献5)。更には、スルホベタインメタクリル酸に由来する構造単位を有する重合体を含むハイドロゲルも提案されている(非特許文献1)。
【0007】
また、検査用の素材においては、タンパク質、ペプチド、アミノ酸等と結合する官能基を有する化合物がしばしば使用されている。バイオマテリアルをこれらの生活性化合物と結合させることで、検査・研究等の種々の目的で使用される。このような結合を生じさせる官能基として具体的には、エポキシ基を有する化合物等が使用されることが多いが、カーボナート基を有する重合体に酵素を固定化することも検討されている(非特許文献2,3)。
【0008】
一方、グリセリンカーボネート(メタ)アクリレートは、樹脂原料として開発され、検討されている(特許文献6、7)。しかし上述したような医療用素材としては検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2017-43661号公報
【特許文献2】特許第4358331号公報
【特許文献3】特許第6510497号公報
【特許文献4】特許第6944263号公報
【特許文献5】特許第6353923号
【特許文献6】特開2015-229770号公報
【特許文献7】特開2017-044928号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Langmuir 2019,35,1146-1155
【非特許文献2】Ecotoxlcology and Enviromental Safety 170(2019) 453-460
【非特許文献3】Polym. Chem.,2019,10, 3571-3584
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記に鑑み、医療用素材として使用できる新規な重合体を得ることを目的とするものである。
また、本発明は、医療用素材として使用できる新規なハイドロゲルを得ることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、グリセリンカーボネート(メタ)アクリレートに由来する構造(A)、
スルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基からなる群より選択される少なくとも1の官能基(B-1)及び(メタ)アクリロイル基及び/又はN-(メタ)アクリロイルアミド基(B-2)
を有する化合物に由来する構造(B)並びに
重合性不飽和基を有する水溶性モノマーに由来する構造(C)
を必須の構成単位とすることを特徴とする重合体である。
【0013】
上記構造(B)は、スルホプロピルベタイン(メタ)アクリレートに由来する構造であることが好ましい。
上記構造(C)は、40℃におけるモノマーの水への溶解度が1g/L以上であるモノマーに由来する構造であることが好ましい。
【0014】
本発明は、上記重合体を有することを特徴とするハイドロゲルでもある。
また、本発明は、上記ハイドロゲルを有することを特徴とする医療用素材でもある。
また、本発明は、上記ハイドロゲルを有することを特徴とする創傷被覆材料でもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、医療用素材として使用できる新規な重合体を得ることができる。
また、本発明により、医療用素材として使用できる新規なハイドロゲルを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の重合体は、グリセリンカーボネート(メタ)アクリレートに由来する構造(A)、スルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基からなる群より選択される少なくとも1の官能基(B-1)、及び、(メタ)アクリロイル基及び/又はN-(メタ)アクリロイルアミド基(B-2)を有する化合物(b)に由来する構造(B)並びに重合性不飽和基を有する水溶性モノマーに由来する構造(C)
を必須の構成単位とするものである。
【0017】
グリセリンカーボネート(メタ)アクリレートは、塗料やパターン形成用組成物等の用途における検討が行われているが、医療用素材や生化学実験用素材等のバイオマテリアルとしての検討は行われていない。一方、非特許文献1,2にも開示されているように、環状カーボネート基は、タンパク質、ペプチド、アミノ酸中のアミノ基との反応を生じる。そして、酵素・抗体のアミノ基とカーボネート基との反応性は、対エポキシ基よりも高く、高い固定化量を得ることができる。さらに、生理活性物質を固定化した場合、固定化された生理活性物質の活性を高く維持することができる。この点で、バイオマテリアルとして優れた性能を有する。
【0018】
また、環状カーボネート基を有する重合体を使用する場合、生体適合性を有する素材を使用することが望まれる。このため、本発明者らは、生体適合性を向上させることができる成分である、スルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基からなる群より選択される少なくとも1の官能基及び(メタ)アクリロイル基を有する化合物(b)に由来する構造単位も必須単位とするものである。
更に、水溶性のモノマー由来の構造単位も必須単位とすることで、容易にハイドロゲルとすることができるようになり、幅広い用途において使用することができる、医療用素材及び生化学実験用素材等を得ることができる。
【0019】
上記グリセリンカーボネート(メタ)アクリレートは、下記一般式(1)で表される化学構造を有するものである。
【0020】
【化1】
(式中、R
1は、水素原子又はメチル基を表す)
【0021】
当該化合物は、従来は、塗料組成物やパターン形成に使用される樹脂の変性等の分野で使用が検討されている化合物であり、医療分野や生化学実験等における使用については検討がなされていない。
本発明者らは、このような化合物に由来する構造を一部に有する重合体が医療分野等において好適に使用できることを見出すことによって、本発明を完成した。
【0022】
上記一般式(1)で表される化合物は、容易にその他の単量体との重合反応を行うことができるため、配合を調整することで、使用目的に応じて樹脂物性を調整することが容易である。このため、上述した医療用素材や生化学実験用素材等の構成単位として好適に使用することができる。
【0023】
グリセリンカーボネート(メタ)アクリレートは、公知の化合物であり、公知の製造方法に従って製造することができる。また市販のものを使用することもできる。
【0024】
本発明の重合体は、グリセリンカーボネート(メタ)アクリレート由来の構造(A)を全体の1~65重量%の割合で含有するものであることが好ましい。上記割合で含有することによって、上述した目的を好適に達成できる点で特に好ましい。
上記下限は、10重量%であることがより好ましく、20重量%であることが更に好ましい。
【0025】
本発明の重合体は、更に、スルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基からなる群より選択される少なくとも1の官能基(B-1)、及び、(メタ)アクリロイル基及び/又はN-(メタ)アクリロイルアミド基(B-2)を有する化合物(b)に由来する構造(B)を有するものである。
このような構造を有することによって、樹脂とタンパク質との間での物理的吸着を抑制することができる点で好ましい。
【0026】
このような構造は以下の一般式で表すことができる。
【化2】
(式中、R
0は、水素又はCH
3基である。
R
1,R
2基中に、以下で詳述するスルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基からなる群から選択される少なくとも1の構造を有する。)
【0027】
上記スルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基は、それぞれ、スルホン酸基、カルボン酸基及びリン酸基及び4級アミノ基の両方を有する官能基である。これらのなかでも、スルホベタイン基であることが最も好ましい。さらに、スルホベタイン基としては、スルホアルキルベタイン(メタ)アクリレートであることが好ましい。
【0028】
スルホアルキルベタイン(メタ)アクリレートは、下記一般式(2)で表されるスルホアルキルベタイン構造
【0029】
【化3】
(式中、R
aは、炭素数2~5のアルキレン基を表す。
NR
3は、同一または相違する、水素、アルキル基、エステル基、アミド基であり、R基のうち少なくとも1は(メタ)アクリル酸エステル基及び/又は(メタ)アクリルアミド基を有するものである)
【0030】
及び(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリルアミドに由来する構造の両方を分子中に有する化合物又はその分子内塩である。このような化合物として具体的には、下記一般式(3)又は(4)で表される化合物等を挙げることができる。
【0031】
【化4】
(式中、R
aは、炭素数2~5のアルキル基を表す。
R
bは、炭素数2~9のアルキレン基を表す。
R
cは、水素又はメチル基を表す
R
dは、それぞれ同一または異なってもよい炭素数1~2のアルキル基を表す。)
【0032】
【化5】
(式中、R
aは、炭素数2~5のアルキル基を表す。
R
bは、炭素数2~9のアルキレン基を表す。
R
cは、水素又はメチル基を表す
R
dは、それぞれ同一または異なってもよい炭素数1~2のアルキル基を表す。)
R
eは、水素又は炭素数1~9のアルキル基を表す。
【0033】
更に好ましくは下記一般式(5)で表される化合物を挙げることができる。
【0034】
【化6】
(式中、R
cは、水素又はメチル基を表す)
【0035】
上記構造(B)の含有量は、重合体全量に対して1~30重量%であることが好ましい。このような範囲で配合することで、良好な生体適合性を得ることができる。上記下限は、5重量%であることがより好ましく、10重量%であることが更に好ましい。
【0036】
本発明の重合体は、更に、重合性不飽和基を有する水溶性モノマーに由来する構造(C)を有するものである。このような構造を有することによって、容易にハイドロゲルを形成することができる重合体が得られる点で好ましい。
なお、上記重合性不飽和基を有する水溶性モノマーは、スルホベタイン基、カルボベタイン基及びホスホベタイン基からなる群より選択される少なくとも1の官能基(B-1)、及び、(メタ)アクリロイル基及び/又はN-(メタ)アクリロイルアミド基(B-2)を有する化合物(b)を除くものである。
【0037】
上記水溶性モノマーは、一般的に、水溶性とされているモノマーであればよい。
本明細書において、水溶性モノマーとは、具体的には、40℃におけるモノマーの水への溶解度が1g/L以上であるモノマーを指し、水不溶性モノマーとは40℃におけるモノマーの水への溶解度が1g/L未満のモノマーを指す。
【0038】
重合性不飽和基を有する水溶性モノマーとしては、例えば、水酸基含有モノマー、ポリアルキレングリコール基含有モノマー、(メタ)アクリルアミド系モノマー等が挙げられる。以下、各々について説明する。
【0039】
(1-1)水酸基含有モノマー
水酸基含有モノマーとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。
2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、3-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4-ヒドロキシブチルビニルエーテル、3-ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピルビニルエーテル、5-ヒドロキシペンチルビニルエーテルもしくは6-ヒドロキシヘキシルビニルエーテルのような、種々の水酸基含有ビニルエーテル類;またはこれら上掲の各種のビニルエーテルと、ε-カプロラクトンとの付加反応生成物;
2-ヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、4-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、3-ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピル(メタ)アリルエーテル、5-ヒドロキシペンチル(メタ)アリルエーテルもしくは6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アリルエーテルのような、種々の水酸基含有アリルエーテル;またはこれら上掲の各種のアリルエーテルと、ε-カプロラクトンとの付加反応生成物;
あるいは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートもしくはポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートのような、種々の水酸基含有(メタ)アクリレート類;またはこれら上掲の各種の(メタ)アクリレートと、ε-カプロラクトンの付加反応主成分などである。
【0040】
上述した水溶性モノマーの中でも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが、ハイドロゲルを構成する他成分との相溶性などの点で好ましい。
【0041】
(1-2)ポリアルキレングリコール基含有モノマー
ポリアルキレングリコール基含有モノマーのモノマー単位におけるポリアルキレングリコール基は、好ましくは3~120個、より好ましくは9~90個のアルキレングリコール基の繰り返しからなるポリアルキレングリコール基である。
上記アルキレングリコール基は、好ましくは炭素数2又は3のアルキレングリコール基であり、より好ましくはエチレングリコール基である。上記ポリアルキレングリコール基は、末端に-CH3又は-OHを有することが好ましい。
【0042】
また、ポリアルキレングリコール基含有モノマーとしては、好ましくはビニル系モノマーが挙げられる。該ビニル系モノマーの例としては、アクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩などが挙げられる。
【0043】
このようなポリアルキレングリコール基含有モノマーとして、具体的には、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレートなどの、比較的ポリアルキレングリコール鎖が少ない方が、ハイドロゲルの強度などの点で好ましい。
【0044】
(1-3)(メタ)アクリルアミド系モノマー
(メタ)アクリルアミド系モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド、
N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキル(メタ)アクリルアミド;
N-イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド等のN-アルキル(メタ)アクリルアミド;
N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド等のN-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリルアミド;
N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-イソブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ペントキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘプトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-オクトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN-アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミド;
ジアセトンアクリルアミド;ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のアミノ基含有のカチオン性アクリルアミド系化合物;4-アクリロイルモルフォリン、tert-ブチルアクリルアミドスルホン酸等のスルホン酸基含有アニオン性単官能単量体又はその塩;及びこれらの誘導体等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
上述した(メタ)アクリルアミド系モノマーの中でも、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミドが、ハイドロゲルを構成する他成分との相溶性の点で好ましい。
【0046】
上記構造(C)の含有量は、重合体全量に対して15~85重量%であることが好ましい。このような範囲で配合することで、良好な生体適合性を得ることができる。上限としては、75重量%が好ましく、65重量%が更に好ましい。また、下限としては20重量%が好ましい。
【0047】
また、本発明の重合体は、各種多官能アクリレート化合物を使用するものであってもよい。以下で詳述するように、本発明の重合体は、ハイドロゲルとすることができる。このようなハイドロゲルは、使用条件下において、構造を維持する事が求められることから、架橋構造を有する重合体であることが好ましい。このような観点から、公知の各種多官能アクリレート化合物を使用することができる。具体例を以下に示すが、使用する多官能モノマーの種類によって、含水率、強度等に差があるため、用途によって使い分けることが好ましい。
【0048】
官能基数2の(メタ)アクリレートの例は、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ジメチロールートリシクロデカンジ(メタ)アクリレート(DCP-A)、ビスフェノールAのEO付加物ジアクリレート(共栄社化学社製;ライトアクリレートBP-4EA、BP-10EA)ビスフェノールAのPO付加物ジアクリレート(共栄社化学社製;BP-4PA、BP-10PA等)を含む。なかでも、ビスフェノールAのPO付加物ジアクリレート(共栄社化学社製;BP-4PA)、ジメチロールートリシクロデカンジ(メタ)アクリレート(DCP-A)等を好ましく用いることができる。
【0049】
官能基数3の(メタ)アクリレートの例は、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート等を含む。なかでも、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート等を好ましく用いることができる。
【0050】
官能基数4の(メタ)アクリレートの例は、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールプロピレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラアリロキシエタン等を含む。なかでも、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート等を好ましく用いることができる。
【0051】
官能基数4以上の(メタ)アクリレートの例は、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエチレンオキサイド変性テトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのカプロラクトン変性物のヘキサ(メタ)アクリレートなど多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0052】
また、アクリルアミド系架橋性モノマーとして、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0053】
本発明の重合体は、更にその他の単量体に基づく構成単位を共重合成分として含有するものであってもよい。このようなその他の単量体は、本発明の用途において好ましい機能性を有するものであってもよいし、特段の機能性を有さないものであってもよい。
【0054】
上記共重合成分としては、例えば、テトラフェニルエチレン系メタクリレート等を挙げることができる。
上記テトラフェニルエチレン系メタクリレートは、テトラフェニルエチレン骨格及びアクリル基を有する化合物である。テトラフェニルエチレン基は、凝集誘起蛍光特性(AIE)を有する骨格である。医療や生化学の分野においては、蛍光物質を使用することによる検査や分析等が広く一般的に行われている。したがって、このような医療用素材において、テトラフェニルエチレン基を有する重合体とし、これを使用することで、蛍光付与を行うことができる。
【0055】
このような単量体としては特に限定されず、診断薬用蛍光粒子を構成する凝集発光性材料としては特に限定はないが、例えば、ケトイミンホウ素錯体誘導体、ジイミンホウ素錯体誘導体、テトラフェニルエチレン誘導体、アミノマレイミド誘導体、アミノベンゾピロキサンテン誘導体、トリフェニルアミン誘導体、ヘキサフェニルベンゼン誘導体、ヘキサフェニルシロール誘導体等が挙げられる。
【0056】
本発明の重合体は、更に、不飽和基を有するその他の単量体を共重合成分として有するものであってもよい。このようなその他の単量体としては、特に限定されず、例えば、以下のものを例示することができる。
【0057】
(その他の単量体の例)
スチレン、クロルスチレン、α-メチルスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルナフタレン、ジビニルナフタレン、(メタ)アクリル酸α-ナフチル、(メタ)アクリル酸β-ナフチルなどの重合性不飽和芳香族類;(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などの重合性不飽和カルボン酸類;スチレンスルホン酸ソーダなどの重合性不飽和スルホン酸もしくはその塩;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸-n-ブチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニルなどの重合性カルボン酸エステル類;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクロレイン、ブタジエン、イソプレン、酢酸ビニル、ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、臭化ビニルなどの不飽和カルボン酸アミド類、重合性不飽和ニトリル類、ハロゲン化ビニル類、共役ジエン類等。
【0058】
本発明の重合体は、製造方法を特に限定するものではなく、乳化重合、溶液重合、懸濁重合、塊状重合等の公知の一般的な方法によって行うことができる。重合の際に使用することができる重合開始剤、乳化剤等も特に限定されるものではなく、公知の任意のものを使用することができる。
【0059】
本発明の重合体は、溶媒溶解性重合体であり、容易にハイドロゲルを得ることができるものである。
本発明は、上述した重合体を有するハイドロゲルでもある。
ハイドロゲルを得る工程は、例えば、重合終了後、室温に冷却し、得られた重合体を成形型から剥離し、必要に応じて切削、研磨した後に、水和膨潤させてハイドロゲルとする。使用する液体(膨潤液)としては、例えば、水、生理食塩水、等張性緩衝液などが挙げられる。膨潤液を60~100℃に加温し、一定時間浸漬させ膨潤状態とする。また、膨潤処理時に重合体に含まれる未重合モノマーを除去することが好ましい。
【0060】
本発明のハイドロゲルは、上記重合体からなるものであってよく、または、上記重合体と他の成分とを含む組成物であってもよい。
【0061】
本発明のハイドロゲル中の重合体と水との比率(重量比)は、適宜設定すればよく、例えば、重合体:水=25:75~80:20であることが好ましい。より好ましくは、重合体:水=35:65~70:30である。このような比率であれば、ハイドロゲルの強度や機能を問題なく維持できる。
【0062】
本発明のハイドロゲルの具体的な使用方法は特に限定されるものではなく、創傷被覆材料、薬物送達担体、バイオセンサー等として好適に用いることができる。
本発明は、上述したハイドロゲルを有する医療用素材でもある。また、本発明は、上述したハイドロゲルを有する創傷被覆材料でもある。
【0063】
本発明のハイドロゲルは、形状を加工することによって、種々の用途に使用することが可能である。具体的には、曲率を持たせることでコンタクトレンズなどの眼用レンズとすることができる。さらに、シート状とすれば、創傷被覆材、湿布剤として利用することが可能である。
【0064】
また、本発明のハイドロゲルは、固定化生理活性物質を固定化するための基材として使用することもできる。また、生化学実験分野において使用することができるものである。
さらに、これらの素材を研究開発用に使用するものであってもよい。
【0065】
上記固定化生理活性物質としては、固定化酵素、固定化抗原、固定化抗体等を挙げることができる。このように各種生理活性物質を本発明の重合体に固定化することで、酵素反応、抗原抗体反応等を固定相上で行うことができ、各種反応や、生化学的反応を行った後の混合物の分離等を行うことができる。固定化する化合物は、タンパク質、ペプチド、アミノ酸等を挙げることができる。
【0066】
上記のような用途で使用するにあたって、本発明のハイドロゲルは、薬剤(各種生理活性物質・薬効成分など)、薬剤結合部位含有モノマー等の第三成分を含有するようにしてもよい。第三成分の含有量は、目的に応じて適宜設定すればよく、例えば、ハイドロゲル中、5~25重量%であることが好ましい。
【実施例0067】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0068】
(合成例)
(グリセリンカーボネートメタクリレートの合成)
冷却管・撹拌機・温度計・滴下ロートを備えた500mLの四ツ口フラスコに、グリセリンカーボネート(Glycerol 1,2-Carbonate:東京化成工業(株)93g、トルエン65g、トリエチルアミン 11.1gを仕込み30℃にて撹拌した。滴下ロートを用いて無水メタクリル酸120gを発熱に注意しながら1時間掛けて滴下した。滴下完了後、80℃まで昇温し6時間反応させ合成を完了させた。反応終了後、中和・水洗を実施し目的化合物であるグリセリンカーボネートメタクリレートを淡黄色透明液体で得た。収量は112.5g(収率78.2%)であった。得られた淡黄色透明液体は、1H-NMR (DMSO-d6, 400 MHz): δ (ppm) = 6.04 (s, 1 H); 5.73 (s,1 H); 5.09 (m, 1 H); 4.59 (t, 1 H), 4.38 (t, 1 H); 4.29-4.35 (m,2 H), 1.88 (s, 3 H)であった。この結果は目的構造を支持するものであった。
【0069】
(N,N-ジメチル-N-(2-メタクリロオキシエチル)-N-(3-スルホプロピル)アンモニウムベタイン(以下:スルホプロピルベタイン(SPB)と略す)の合成)
合成操作は以下の手順に従って実施した。
冷却管・撹拌機・温度計・滴下ロートを備えた1Lの四ツ口フラスコに、ライトエステルDM(ジメチルアミノエチルメタクリレート) 120g、アセトン260gを仕込み室温にて撹拌した。次いでアセトン132gに1,3-プロパンスルトン93.2gを混合し、滴下ロートを用いて2時間滴下し反応した。滴下終了後、さらに室温にて3時間撹拌し合成を完了させた。反応液を氷水にて冷却・静置し、冷却後の反応液を吸引ろ過により析出した沈殿物を回収し、さらに多量のアセトンにて洗浄を行い、白色固体を得た。乾燥後の重量は190g(収率89%)であった。得られた白色固体は、1H-NMR (D2O,400MHz)δ:6.13(s,1H)、5.76(s,1H)、4.83-4.66(t,2H)、3.86-3.84(t,2H)、3.65-3.59(m,2H)、3.24(s,6H)、3.05-2.98(t,2H)、2.33-2.12(m,2H)、1.96(2,3H)であった。これは、目的構造を支持する結果であった。
【0070】
(ベンジルジメチル(2-メタクリロイルオキシエチル)アンモニウムブロミド:DMBBの合成)
合成操作は以下の手順に従って実施した。
冷却管・撹拌機・温度計・滴下ロートを備えた1Lの四ツ口フラスコに、ライトエステルDM(ジメチルアミノエチルメタクリレート)14.5g、アセトン80gを仕込み室温にて撹拌した。次いでアセトン20gにベンジルブロマイド15gを混合し、滴下ロートを用いて2時間滴下し反応した。滴下終了後、さらに室温にて3時間撹拌し合成を完了させた。反応液を氷水にて冷却・静置し、冷却後の反応液を吸引ろ過により析出した沈殿物を回収し、さらに多量のアセトンにて洗浄を行い、白色固体を得た。乾燥後の重量は27.5g(収率91%)であった。得られた白色固体は、1H-NMR(400MHz、D2O)δ:7.84(5H,s)、6.13(1H,s)、5.76(1H,s)、4.83-4.66(2H,t)、3.86-3.84(2H,t)、3.65-3.59(2H,m)、3.24(6H,s)、3.05-2.98(2H,t)、2.33-2.12(2H,m)、1.96(3H,s)であった。これは、目的構造を支持する結果であった。
7.84 (s, 5H, Ar), 6.42 (s, 1H, COCH3=CHaH), 6.04 (s, 1H, OCOCH3=CHbH), 4.96 (t, 2H, J = 4.4 Hz, N+CH2), 4.87 (s, 2H, ArCH2), 4.05 (t, 2H, J = 4.4 Hz, CO2CH2), 3.4 (s, 6H, NMe2), 2.20 (s, 3H, OCOCH3)
【0071】
(ハイドロゲルの作成)
各種ハイドロゲルの作製は下記の手順によって実施した。
【0072】
・参考例1 HEMA/9EG
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA) 5gと、PEG#400ジメタクリレート(9EG)0.2gを含む混合物に、モノマーの総重量に対し5,000ppm(外部)のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、撹拌混合してモノマー混合液を得た。得られたモノマー混合液を成形型に入れ、60~90℃の範囲で8時間かけて昇温させて共重合反応に供することにより、重合体を得た。得られた重合体を室温に戻し、成形型より取出した後、50重量%エタノール溶液に浸漬させ、未反応物を除去した。この操作を2回繰り返した後、室温で純水に6時間以上浸漬させることにより、水和膨潤したハイドロゲルを得た。
上記で使用した、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)は、40℃で任意に混和させることができ、溶解度は1g/L以上であった。
【0073】
・参考例2 HEMA/SPB/9EG
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)5gと、スルホプロピルベタイン(SPB)0.54g、 PEG#400ジメタクリレート(9EG)0.2gとを含む混合物に、モノマー総重量に対し5,00ppm(外部)のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、撹拌混合してモノマー混合液を得た。得られたモノマー混合液を成形型に入れ、60~90℃の範囲で8時間かけて昇温させて共重合反応に供することにより、重合体を得た。得られた重合体を室温に戻し、成形型より取出した後、50重量%エタノール溶液に浸漬させ、未反応物を除去した。この操作を2回繰り返した後、室温で純水に6時間以上浸漬させることにより、水和膨潤したハイドロゲルを得た。
【0074】
・参考例3、4の調製
SPBの量を表1に示した量に変えたことを除いては、参考例1・2と同様にして水和膨潤したハイドロゲルを得た。得られたハイドロゲルを、参考例3・4とした。
【0075】
・参考例5 HEMA/DMBB/9-EG
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)5gと、DMBB 0.6g、PEG#400ジメタクリレート(9EG)0.2gを含む混合物に、モノマーの総重量に対し5,000ppm(外部)のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、撹拌混合してモノマー混合液を得た。得られたモノマー混合液を成形型に入れ、60~90℃の範囲で8時間かけて昇温させて共重合反応に供することにより、重合体を得た。得られた重合体を室温に戻し、成形型より取出した後、50重量%エタノール溶液に浸漬させ、未反応物を除去した。この操作を2回繰り返した後、室温で純水に6時間以上浸漬させることにより、水和膨潤したハイドロゲルを得た。
【0076】
・参考例6 HEMA/DMBB/SPB/9-EG
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)8gと、DMBB 1g、SPB 0.86g、PEG#400ジメタクリレート(9EG)0.36gを含む混合物に、モノマーの総重量に対し5,000ppm(外部)のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、撹拌混合してモノマー混合液を得た。得られたモノマー混合液を成形型に入れ、60~90℃の範囲で8時間かけて昇温させて共重合反応に供することにより、重合体を得た。得られた重合体を室温に戻し、成形型より取出した後、50重量%エタノール溶液に浸漬させ、未反応物を除去した。この操作を2回繰り返した後、室温で純水に6時間以上浸漬させることにより、水和膨潤したハイドロゲルを得た。
【0077】
・実施例1 HEMA/SPB/GC-MA/9-EG
2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)5gと、SPB0.54g、GC-MA0.4g、PEG#400ジメタクリレート(9EG)0.12gを含む混合物に、モノマーの総重量に対し5,000ppm(外部)のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を加え、撹拌混合してモノマー混合液を得た。得られたモノマー混合液を成形型に入れ、60~90℃の範囲で8時間かけて昇温させて共重合反応に供することにより、重合体を得た。得られた重合体を室温に戻し、成形型より取出した後、50重量%エタノール溶液に浸漬させ、未反応物を除去した。この操作を2回繰り返した後、室温で純水に6時間以上浸漬させることにより、水和膨潤したハイドロゲルを得た。
【0078】
・実施例2、3、参考例7の調製
GC-MA、SPBの量を表3に示した量に変えた以外は実施例1と同様の操作を実施し、それぞれ実施例2、3、参考例7のハイドロゲルを得た。
【0079】
得られた各組成のハイドロゲルを下記に示す方法にて各種機能評価を実施した。
【0080】
(ハイドロゲルの評価)
(1)含水率
含水率の測定は、水和膨潤操作後に、余分な水分を拭き取った後、含水状態のデバイスの質量(W1)を測定した。その後、60℃の乾燥機にて24時間乾燥させた後のデバイスの重量(W2)を測定し、各々の重量から下式に従い、含水率を算出した。
含水率(重量%)=[(W1-W2)/W1]×100
下記表1にそれぞれのハイドロゲル組成と算出した含水率を示した。
【0081】
【0082】
表1の結果のように、SPB配合量によって含水率をある程度コントロールすることが出来ることが示唆された。機能性ハイドロゲルを作製するうえで、重要な成分の1つであると考えられる。
【0083】
(2)薬剤徐放性
参考例5、6の様なカチオン成分を含有するハイドロゲルの機能性評価として、アニオン薬剤の取込、徐放性を下記の方法にて確認した。
【0084】
・アニオン性薬剤の取込と薬剤徐放性の確認
1.表2に示す配合にて、得られたハイドロゲルを0.5 wt.% SDS水溶液(ドデシル硫酸ナトリウム水溶液:アニオン薬剤モデル化合物として)に、室温で2時間浸漬させた。
2.浸漬後、ハイドロゲルを取出し表面に付着した薬剤をイオン交換水にて洗浄した。
3.洗浄後の薬剤取込済みハイドロゲルをイオン交換水中に再度浸漬させ、経時でイオン交換水中に徐放されるアニオン薬剤を定性的に観測した。徐放されるアニオン薬剤の定性には、メチレンブルーを指示薬として使用する結合硫酸法の原理を用いた。(JIS K 3362:2008 家庭用合成洗剤試験方法)
それぞれのハイドロゲルを用いてアニオン薬剤の取込と徐放性の結果を表2に示した。
アニオン薬剤の取込と補足性の評価基準は、下記の通りとした。
【0085】
(薬剤取込)
○・・・薬剤取込を確認
×・・・薬剤取込が確認されず
(薬剤捕捉性)
○・・・薬剤の徐放性を確認
×・・・薬剤徐放性が確認されず
【0086】
【0087】
表2の結果より、アニオン性薬剤の取込については上記組成のハイドロゲル全てにおいて認められたが、薬剤徐放性(放出)においては、大きく違いが認められた。特に、官能基の導入されていない参考例1の組成では、薬剤取込はするものの薬剤保持能が著しく低い結果となった。また、カチオン成分の導入を施した参考例5・6では、薬剤取込はするが薬剤の系外への徐放性が殆ど見られないと言う結果となった。これは、ハイドロゲル中に導入したカチオン成分とアニオン薬剤との結合が強固であり、徐放性を阻害しているものと推察する。参考例2のSPB配合のハイドロゲルにおいては、薬剤取込後の薬剤が緩やかに放出されており、薬剤の長期的な維持(即ち薬効成分の保持・効果の持続)が期待できる結果となった。これは、SPB分子の双生イオン構造に起因するものと考える。
【0088】
(3)カチオン性薬剤保持能評価
実施例1~3のハイドロゲルには、酵素に代表されるようなタンパク質(生理活性物質)を選択的に捕捉する事が可能なGC-MAを導入しており、参考例によって示唆されたSPBの効果と相乗的な効果を期待し、表3の実施例組成及び参考例中の各ハイドロゲルについて下記評価を実施した。
【0089】
1.表3に示す配合にて、得られたハイドロゲルをフェネチルアミン0.15g:アミノ基含有化合物・タンパク質等のモデル化合物として使用)を100mlの混合溶液(組成:MeOH/イオン交換水=10/90(v/v))に、室温で24時間浸漬させた。
2.浸漬後、ハイドロゲルを取出し表面に付着した薬剤をMeOH/イオン交換水=10/90(v/v)にて洗浄した。
3.洗浄後の薬剤取込済みハイドロゲルをMeOH/イオン交換水=10/90(v/v)中に再度浸漬させ、経時で徐放されるフェネチルアミンをHPLCによって分析した。
(HPLC分析条件)
HPLCはLC-20AB(島津製作所)を用いた。分析条件は下記に示す通り。
カラム :5C18-AR-II(ナカライテスク(製))
カラムサイズ :4.6 mm I.D.×250 mm
溶離液 :メタノール/20mMリン酸緩衝液(pH2.5)=10/90(v/v)
流 速 :1.0 ml/min.
温 度 :30℃
検出器 :PDA(UV 254nm)
【0090】
それぞれのハイドロゲルを用いてカチオン薬剤の取込と捕捉性の結果を表3に示した。
カチオン薬剤の取込と補足性の評価基準は、下記の通りとした。
【0091】
(薬剤取込)
○・・・薬剤取込を確認
×・・・薬剤取込が確認できず
(薬剤捕捉性)
○・・・薬剤の系外放出が確認されず、薬剤捕捉性が十分ある
△・・・薬剤の系外放出が僅かに認められ、薬剤の捕捉性としては十分とは言えない
×・・・薬剤の系外放出が確認され、薬剤の捕捉性が不十分
【0092】
【0093】
表3の結果より、カチオン性薬剤の取込については上記組成のハイドロゲル全てにおいて認められたが、薬剤捕捉性においては、大きく違いが認められた。特に、官能基の導入されていない参考例1・2の組成では、薬剤取込はするものの共有結合等を介して捕捉していないことから、カチオン成分の流出が見られた。また、GC-MAを配合した参考例7では、カチオン薬剤の取込、捕捉は見られたが、その捕捉量は少ない結果となった。これは、ハイドロゲルの含水率とも関係があると推察している。実施例1~3のSPB・GC-Mの両成分を配合したハイドロゲルにおいては、薬剤取込及び薬剤の捕捉性が顕著であり、薬剤の長期的な維持(即ち薬効成分の保持・効果の持続)が期待できる結果となった。これは、GC-MAのカチオン薬剤との結合とさらにはSPB分子の双生イオン構造に起因するものと考える。