(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003372
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/16 20060101AFI20240105BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
B60C11/16 Z
B60C11/16 A
B60C11/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102467
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】芝井 孝志
(72)【発明者】
【氏名】坂田 俊
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BB01
3D131BB11
3D131BC07
3D131BC31
3D131EC16V
3D131EC16X
3D131EC16Z
3D131ED03U
3D131ED03V
3D131ED03X
(57)【要約】
【課題】路面損傷性を悪化させることなく、耐ピン抜け性を改善することを可能にしたタイヤを提供する。
【解決手段】トレッド部1にスタッドピン20が挿入される孔13を備えたタイヤにおいて、孔13の周囲にトレッド部1のプロファイルラインLと一致して環状に連なる平坦部14が存在し、平坦部14の周囲に孔13の中心Oからの距離が4mm~8mmとなる環状領域Aを規定したとき、該環状領域A内に平坦部14よりも隆起した凸部15と平坦部14よりも窪んだ凹部16とが混在している。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部にスタッドピンが挿入される孔を備えたタイヤにおいて、前記孔の周囲に前記トレッド部のプロファイルラインと一致して環状に連なる平坦部が存在し、前記平坦部の周囲に前記孔の中心からの距離が4mm~8mmとなる環状領域を規定したとき、該環状領域内に前記平坦部よりも隆起した凸部と前記平坦部よりも窪んだ凹部とが混在していることを特徴とするタイヤ。
【請求項2】
前記凹部が前記孔を中心とする同心円上に配置され、該凹部は前記同心円の周方向の一部において間欠した形状を有することを特徴とする請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
前記凹部は前記孔の中心を通ってタイヤ周方向に対して平行となる周方向線と重ならない位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記凹部は前記孔の中心を通ってタイヤ周方向に対して直交する幅方向線と重ならない位置に配置されていることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記環状領域内に前記孔の中心からの距離が4mm~6mmとなる内側環状領域と前記孔の中心からの距離が6mm~8mmとなる外側環状領域とを規定したとき、前記内側環状領域に含まれる前記凹部の面積が前記外側環状領域に含まれる前記凹部の面積よりも大きいことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記凹部が前記孔を中心とする複数の同心円上にそれぞれ配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記複数の同心円上にある前記凹部が前記同心円の径方向に互いに重なるように配置されていることを特徴とする請求項6に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記複数の同心円上にある前記凹部が前記同心円の径方向に互いに重ならないように配置されていることを特徴とする請求項6に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記孔に挿入されたスタッドピンのボディ部が前記トレッド部の平面視において長手方向を有し、前記環状領域内に前記孔の中心からの距離が4mm~6mmとなる内側環状領域と前記孔の中心からの距離が6mm~8mmとなる外側環状領域とを規定したとき、前記凹部は前記内側環状領域内では前記孔の中心を通って前記ボディ部の長手方向に対して平行となる仮想線と重ならない位置に配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項10】
前記凹部の深さHyが前記スタッドピンの高さHsに対して0.05Hs≦Hy≦0.25Hsの関係を満足し、前記凸部の高さHxが前記凹部の深さHyに対して0.10Hy≦Hx≦0.80Hyの関係を満足することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部にスタッドピンが挿入される孔を備えたタイヤに関し、更に詳しくは、路面損傷性を悪化させることなく、耐ピン抜け性を改善することを可能にしたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドタイヤは、トレッド部にスタッドピンが挿入される多数の孔を備えており、各孔にスタッドピンが挿入された状態で使用される(例えば、特許文献1~4参照)。
【0003】
このように構成されるスタッドタイヤは、氷上での走行性能が最も優れたカテゴリーに属し、その高い氷上性能は言うまでもなくスタッドピンによってもたらされる。一方、法規によって規制されている路面損傷性の改善のため、スタッドピンは年々小型化され、従来よりも耐ピン抜け性が悪化することが懸念されている。耐ピン抜け性は製品寿命に関わることであり、昨今のスタッドタイヤの最重要課題の1つと言える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5406921号公報
【特許文献2】特許第6099668号公報
【特許文献3】特許第6565574号公報
【特許文献4】特許第4488099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、路面損傷性を悪化させることなく、耐ピン抜け性を改善することを可能にしたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明のタイヤは、トレッド部にスタッドピンが挿入される孔を備えたタイヤにおいて、前記孔の周囲に前記トレッド部のプロファイルラインと一致して環状に連なる平坦部が存在し、前記平坦部の周囲に前記孔の中心からの距離が4mm~8mmとなる環状領域を規定したとき、該環状領域内に前記平坦部よりも隆起した凸部と前記平坦部よりも窪んだ凹部とが混在していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、トレッド部にスタッドピンが挿入される孔を備えたタイヤにおいて、孔の周囲にトレッド部のプロファイルラインと一致して環状に連なる平坦部が存在するので、スタッドピンを安定して保持することができる。その上で、平坦部の周囲に孔の中心からの距離が4mm~8mmとなる環状領域を規定したとき、その環状領域内に平坦部よりも隆起した凸部と平坦部よりも窪んだ凹部とが混在しているので、スタッドピンが倒れ込んだ際に、その倒れ込み方向に掛かる力を凹部の存在に基づいて分散し、スタッドピンの脱落を防止することができる。その際、凹部の存在により剛性が極端に落ちるとスタッドピンが倒れ込み易くなって耐ピン抜け性が悪化する恐れがあるが、環状領域内に凹部と共に凸部が存在することで剛性を補填することができる。そのため、環状領域内に凸部と凹部の両方が存在することで耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。また、上述のようにスタッドピンが倒れ込んだ際の力を分散させる構造は、乾燥路面走行時にスタッドピンが路面を攻撃する力を弱めるので、路面損傷性を改善する効果も奏する。そのため、本発明によれば、路面損傷性を悪化させることなく、耐ピン抜け性を改善することができる。
【0008】
本発明において、凹部は孔を中心とする同心円上に配置され、該凹部は同心円の周方向の一部において間欠した形状を有することが好ましい。凹部が孔を中心とする同心円の周方向に連続していると剛性不足によりスタッドピンが倒れ込み易くなり、耐ピン抜け性の観点で不利となるが、凹部が同心円の周方向の一部において間欠した形状を有することにより、スタッドピン周りの剛性を確保し、スタッドピンの脱落を防止することができる。
【0009】
凹部は孔の中心を通ってタイヤ周方向に対して平行となる周方向線と重ならない位置に配置されていることが好ましい。これにより、急加速走行及び急減速走行の際に、スタッドピンの過度の倒れ込みが抑制され、スタッドピンの脱落を効果的に防止することができる。
【0010】
凹部は孔の中心を通ってタイヤ周方向に対して直交する幅方向線と重ならない位置に配置されていることが好ましい。これにより、急旋回走行の際に、スタッドピンの過度の倒れ込みが抑制され、スタッドピンの脱落を効果的に防止することができる。
【0011】
環状領域内に孔の中心からの距離が4mm~6mmとなる内側環状領域と孔の中心からの距離が6mm~8mmとなる外側環状領域とを規定したとき、内側環状領域に含まれる凹部の面積が外側環状領域に含まれる凹部の面積よりも大きいことが好ましい。これにより、スタッドピンに強い力が働いた際に生じる力を効果的に分散するため、耐ピン抜け性の改善効果を高めることができる。
【0012】
凹部は孔を中心とする複数の同心円上にそれぞれ配置されていることが好ましい。これにより、スタッドピンが倒れ込んだ際に、その倒れ込み方向に掛かる力を効果的に分散し、スタッドピンの脱落を防止することができる。この場合、複数の同心円上にある凹部は同心円の径方向に互いに重なるように配置されていると良い。これにより、スタッドピンが倒れ込んだ際に、その倒れ込み方向に掛かる力を効果的に分散し、スタッドピンの脱落を防止することができる一方で、路面損傷性の改善効果が大きくなる。或いは、複数の同心円上にある凹部は同心円の径方向に互いに重ならないように配置されていると良い。これにより、スタッドピンが倒れ込んだ際に、その倒れ込み方向に掛かる力を効果的に分散すると共に、スタッドピンの過度な倒れ込みが起きないように剛性を確保することができるので、耐ピン抜け性の改善効果が大きくなる。
【0013】
孔に挿入されたスタッドピンのボディ部がトレッド部の平面視において長手方向を有する場合、環状領域内に孔の中心からの距離が4mm~6mmとなる内側環状領域と孔の中心からの距離が6mm~8mmとなる外側環状領域とを規定したとき、凹部は内側環状領域内では孔の中心を通ってボディ部の長手方向に対して平行となる仮想線と重ならない位置に配置されていることが好ましい。スタッドピンのボディ部と凹部のとの距離が近過ぎると剛性不足により耐ピン抜け性が悪化する恐れがあるが、内側環状領域内では孔の中心を通ってボディ部の長手方向に対して平行となる仮想線と重ならない位置に凹部を配置することにより、耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。
【0014】
凹部の深さHyはスタッドピンの高さHsに対して0.05Hs≦Hy≦0.25Hsの関係を満足し、凸部の高さHxは凹部の深さHyに対して0.10Hy≦Hx≦0.80Hyの関係を満足することが好ましい。これにより、耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。
【0015】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましいが、非空気式タイヤであっても良い。空気入りタイヤの場合、その内部には空気、窒素等の不活性ガス又はその他の気体を充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示す子午線断面図である。
【
図2】
図1の空気入りタイヤのトレッド部におけるスタッドピン設置部分を示す断面図である。
【
図3】
図1の空気入りタイヤのトレッド部におけるスタッドピン設置部分を示す平面図である。
【
図7】
図4のスタッドピンがトレッド部の孔に挿入された状態を示す断面図である。
【
図8】(a)~(c)はそれぞれスタッドピン設置部分の変形例を示す平面図である。
【
図9】(a)~(d)はそれぞれスタッドピン設置部分の他の変形例を示す平面図である。
【
図10】スタッドピン設置部分の更に他の変形例を示す平面図である。
【
図11】(a)~(e)はそれぞれスタッドピン設置部分の更に他の変形例を示す平面図である。
【
図12】スタッドピン設置部分の更に他の変形例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示し、
図2及び
図3はそのトレッド部におけるスタッドピン設置部分を示し、
図4~
図6はスタッドピンの一例を示し、
図7はスタッドピンがトレッド部の孔に挿入された状態を示すものである。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0019】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0020】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0021】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。また、トレッド部1に形成されるトレッドパターンも特に限定されるものではない。
【0022】
上記空気入りタイヤにおいて、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる周方向溝11が形成されており、これら周方向溝11により複数の陸部12が区画されている。これら陸部12は、例えば、タイヤ幅方向に延びる不図示の横溝によって多数のブロックに区画されている。トレッド部1の陸部12には、スタッドピン20が挿入される複数の孔13が形成されている。スタッドピン20は、
図4~
図6に示すように、柱状のボディ部21と、ボディ部21の先端側に配設されたチップ部22と、ボディ部21の基端側に配設されたフランジ部23とから構成されている。チップ部22はボディ部21よりも硬度が高い材料から構成されている。フランジ部23はボディ部21よりも外径が大きくなっている。スタッドピン20は、ボディ部21及びフランジ部23が孔13内に挿入される一方でチップ部21がトレッド部1のプロファイルラインLから突き出すようにトレッド部1に配設される(
図7参照)。孔13の内径はスタッドピン20のボディ部21の外径よりも若干小さくなっているため、孔13に挿入されたスタッドピン20はトレッド部1に対して強固に保持される。
【0023】
このようにトレッド部1にスタッドピン20が挿入される孔13を備えたタイヤにおいて、
図2及び
図3に示すように、孔13の周囲にはトレッド部1のプロファイルラインLと一致する高さを有していて環状に連なる平坦部14が存在する。トレッド部1のプロファイルラインLとは、タイヤ子午線断面においてトレッド部1の輪郭を形成する円弧である。
図2及び
図3において、孔13の周囲にはデザイン上の理由でプロファイルラインLよりも僅かに浅くなった部分が存在するが、この部分は必ずしも必要ではない。
【0024】
図3において、孔13の中心Oからの距離X1が4mmとなる仮想円C1と、孔13の中心Oからの距離X2が6mmとなる仮想円C2と、孔13の中心Oからの距離X3が8mmとなる仮想円C3が描写されている。ここで、平坦部14の周囲に孔13の中心Oからの距離が4mm~8mmとなる環状領域Aを規定する。環状領域Aは、仮想円C1と仮想円C3により挟まれた領域である。環状領域Aは、孔13の中心Oからの距離が4mm~6mmとなる内側環状領域Aiと孔13の中心Oからの距離が6mm~8mmとなる外側環状領域Aoとから構成されている。このとき、環状領域A内には、平坦部14よりもタイヤ径方向外側に向かって隆起した複数の凸部15と平坦部14よりもタイヤ径方向内側に向かって窪んだ複数の凹部16とが形成され、これら凸部15と凹部16とが環状領域A内に混在している。
図3及びそれ以降の図面においては、理解を容易にするために、凹部16に斜線が付与されている。
【0025】
上述のようにトレッド部1にスタッドピン20が挿入される孔13を備えたタイヤにおいて、孔13の周囲にトレッド部1のプロファイルラインLと一致して環状に連なる平坦部14が存在しているので、
図7に示すように、スタッドピン20がトレッド部1の孔13に挿入された状態において、スタッドピン20を安定して保持することができる。しかも、平坦部14の周囲に孔13の中心Oからの距離が4mm~8mmとなる環状領域Aを規定したとき、その環状領域A内に平坦部14よりも隆起した凸部15と平坦部14よりも窪んだ凹部16とが混在しているので、スタッドピン20が倒れ込んだ際に、その倒れ込み方向に掛かる力を凹部16の存在に基づいて分散し、スタッドピン20の脱落を防止することができる。その際、凹部16の存在により剛性が極端に落ちるとスタッドピン20が倒れ込み易くなって耐ピン抜け性が悪化する恐れがあるが、環状領域A内に凹部16と共に凸部15が存在することで剛性を補填することができる。そのため、環状領域A内に凸部15と凹部16の両方が存在することで耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。また、上述のようにスタッドピン20が倒れ込んだ際の力を分散させる構造は、乾燥路面走行時にスタッドピン20が路面を攻撃する力を弱めるので、路面損傷性を改善する効果も奏する。これにより、路面損傷性を悪化させることなく、耐ピン抜け性を改善することができる。
【0026】
凹部16による緩衝効果を最適化するために、孔13の中心Oから放射方向に測定される凹部16の最大幅は0.5mm以上2mm未満であると良い。また、耐ピン抜け性を最適化するために、環状領域Aに占める凹部16の面積比率は10%~50%であり、環状領域Aに占める凸部15の面積比率は10%~90%であり、環状領域Aに占める凸部15及び凹部16の面積比率は90%未満であることが好ましい。
【0027】
上記空気入りタイヤにおいて、
図3に示すように、凹部16は孔13を中心とする同心円P1上に配置され、該凹部16は同心円P1の周方向の一部において間欠した形状を有している。
図3において、同心円P1には複数の凸部15と複数の凹部16が間隔をおいて交互に配置されている。また、孔13を中心として同心円P1の外側に設定された同心円P2上には複数の凸部15が間隔をおいて配置されている。凹部16が孔13を中心とする同心円P1の周方向に連続していると剛性不足によりスタッドピン20が倒れ込み易くなり、耐ピン抜け性の観点で不利となる。しかしながら、凹部16が同心円P1の周方向の一部において間欠した形状を有することにより、スタッドピン20の周りの剛性を確保し、スタッドピン20の脱落を防止することができる。
【0028】
図8(a)~(c)はそれぞれスタッドピン設置部分の変形例を示すものである。
図8(a)において、凸部15は同心円P2上に配置されていて該同心円P2の周方向に連続した形状を有し、凹部16は同心円P1上に配置されていて該同心円P1の周方向に連続した形状を有している。
図8(b)において、凸部15は同心円P2上に配置されていて該同心円P2の周方向に連続した形状を有し、凹部16は同心円P1上に配置されていて該同心円P1の周方向の一部において間欠した形状を有している。
図8(c)において、凸部15は同心円P2上に配置されていて該同心円P2の周方向に連続した形状を有し、凹部16は同心円P1上に配置されていて平面視で円形の形状を有している。このように凸部15及び凹部16の形状や配置は要求される性能やデザインに応じて変更することが可能である。
【0029】
図9(a)~(d)はそれぞれスタッドピン設置部分の他の変形例を示すものである。前述した
図1の実施形態では、凸部15及び凹部16が同心円P1,P2上において対称的に配置されている。これに対して、
図9(a)~(c)においては、凸部15及び凹部16が同心円P1上において非対称的に配置されている。また、
図9(d)においは、凸部15の一部が直線状になっている。
【0030】
図10はスタッドピン設置部分の更に他の変形例を示すものである。
図10において、凹部16は孔13の中心Oを通ってタイヤ周方向に対して平行となる周方向線Lcと重ならない位置に配置されている。この場合、急加速走行及び急減速走行の際、スタッドピン20の過度の倒れ込みが抑制され、スタッドピン20の脱落を効果的に防止することができる。
【0031】
また、
図10において、凹部16は孔13の中心Oを通ってタイヤ周方向に対して直交する幅方向線Lwと重ならない位置に配置されている。この場合、急旋回走行の際、スタッドピン20の過度の倒れ込みが抑制され、スタッドピン20の脱落を効果的に防止することができる。
【0032】
図3において、環状領域A内に孔13の中心Oからの距離が4mm~6mmとなる内側環状領域Aiと孔13の中心Oからの距離が6mm~8mmとなる外側環状領域Aoとを規定する。内側環状領域Aiは、仮想円C1と仮想円C2により挟まれた領域であり、外側環状領域Aoは、仮想円C2と仮想円C3により挟まれた領域である。このとき、内側環状領域Aiに含まれる凹部16の面積は外側環状領域Aoに含まれる凹部16の面積よりも大きく設定されていると良い。このように凹部16が内側環状領域Aiにおいて相対的に多く配置されることにより、スタッドピン20に強い力が働いた際に生じる力を効果的に分散するため、耐ピン抜け性の改善効果を高めることができる。
【0033】
図11(a)~(e)はそれぞれスタッドピン設置部分の更に他の変形例を示すものである。
図11(a)~(e)では、凹部16は孔13を中心とする複数の同心円P1~P3のうちの2つの上に配置されている。即ち、
図11(a)では、同心円P1,P2に沿って連続する凹部16が同心円P1,P2上に配置され、同心円P3に沿って連続する凸部15が同心円P3上に配置されており、同心円P1,P2上に配置された凹部16,16の相互間の部分はプロファイルラインLの高さになっている。
図11(b)では、同心円P1,P3に沿って連続する凹部16が同心円P1,P3上に配置され、同心円P2に沿って連続する凸部15が同心円P2上に配置されている。
図11(c),(d)では、同心円P1,P2の周方向の一部に間欠した形状を有する凹部16が同心円P1,P2上に配置され、同心円P3に沿って連続する凸部15が同心円P3上に配置されている。
図11(e)では、同心円P1,P2の周方向の一部に間欠した形状を有する凸部15及び凹部16が同心円P1,P2上においてそれぞれ交互に配置され、同心円P3に沿って連続する凸部15が同心円P3上に配置されている。このように凹部16が孔13を中心とする複数の同心円P1~P3上に配置されることにより、スタッドピン20が倒れ込んだ際に、その倒れ込み方向に掛かる力を効果的に分散し、スタッドピン20の脱落を防止することができる。
【0034】
特に、
図11(a),(b)に示すように、複数の同心円P1~P3上にある凹部16が同心円P1~P3の径方向に互いに重なるように配置されている場合、スタッドピン20が倒れ込んだ際に、その倒れ込み方向に掛かる力を効果的に分散し、スタッドピン20の脱落を防止することができる一方で、路面損傷性の改善効果が大きくなる。また、
図11(c)~(e)に示すように、複数の同心円P1~P3上にある凹部16が同心円P1~P3の径方向に互いに重ならないように配置されている場合、スタッドピン20が倒れ込んだ際に、その倒れ込み方向に掛かる力を効果的に分散すると共に、スタッドピン20の過度な倒れ込みが起きないように剛性を確保することができるので、耐ピン抜け性の改善効果が大きくなる。
【0035】
図12はスタッドピン設置部分の更に他の変形例を示すものである。
図5に示すように、スタッドピン20のボディ部21は、トレッド部1の平面視(即ち、スタッドピン20の平面視)において、第1方向の寸法D1と第1方向と直交する第2方向の寸法D2とを有し、寸法D1が寸法D2よりも大きくなっており、第1方向が長手方向Tとなっている。このようにスタッドピン20のボディ部21がトレッド部1の平面視において長手方向Tを有する場合、
図12に示すように、環状領域A内に孔13の中心Oからの距離が4mm~6mmとなる内側環状領域Aiと孔13の中心Oからの距離が6mm~8mmとなる外側環状領域Aoとを規定したとき、凹部16は内側環状領域Ai内では孔13の中心Oを通ってボディ部21の長手方向Tに対して平行となる仮想線Txと重ならない位置に配置されていると良い。つまり、スタッドピン20のボディ部21と凹部16のとの距離が近過ぎると剛性不足により耐ピン抜け性が悪化する恐れがあるが、内側環状領域Ai内では孔13の中心Oを通ってボディ部21の長手方向Tに対して平行となる仮想線Txと重ならない位置に凹部16を配置することにより、耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。
【0036】
上記空気入りタイヤにおいて、凹部16の深さHy(
図2参照)はスタッドピン20の高さHs(
図6参照)に対して0.05Hs≦Hy≦0.25Hsの関係を満足し、凸部15の高さHx(
図2参照)は凹部16の深さHyに対して0.10Hy≦Hx≦0.80Hyの関係を満足すると良い。これにより、耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。凹部16の深さHy及び凸部15の高さHxが上記範囲から外れると、耐ピン抜け性の改善効果が低下する。例えば、スタッドピン20の高さHsを9mm~10mmである場合、凹部16の深さHyを0.5mm~2.0mmの範囲とし、凸部15の高さHxを0.2mm~1.0mmの範囲とすることができる。
【実施例0037】
タイヤサイズが205/55R16であり、トレッド部にスタッドピンが挿入される孔を備えた空気入りタイヤにおいて、孔の周囲に形成された平坦部の有無、環状領域における凹部の有無、環状領域における凸部の有無、凹部の間欠の有無、孔の中心を通る周方向線と重なる凹部の有無、孔の中心を通る幅方向線と重なる凹部の有無、内側環状領域に含まれる凹部の面積、外側環状領域に含まれる凹部の面積、環状領域に占める凹部の面積比率、環状領域に占める凸部の面積比率、同心円の径方向に重なる凹部の並び数、内側環状領域において孔の中心を通ってスタッドピンのボディ部の長手方向に対して平行となる仮想線と重なる凹部の有無を表1及び表2のように設定した従来例、比較例1~4及び実施例1~9の空気入りタイヤを製作した。スタッドピンはボディ部の長手方向がタイヤ幅方向に配向するように孔内に挿入されている。
【0038】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、耐ピン抜け性、路面損傷性を評価し、その結果を表1及び表2に併せて示した。
【0039】
耐ピン抜け性:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて排気量1.4Lの前輪駆動車に装着し、空気圧として車両指定空気圧を付与し、アスファルト路面からなる屋外テストコースにおいて所定の市街地走行モードで20000km走行後、ピン抜け本数を計測した。評価結果は、計測値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど耐ピン抜け性が優れていることを意味する。
【0040】
路面損傷性:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて排気量1.4Lの前輪駆動車に装着し、空気圧を250kPaとし、路面に設置された花崗岩からなるプレート上を速度100km/hで200回走行した後、試験前後のプレートの重量差に基づいて路面摩耗量を計測した。評価結果は、計測値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど路面摩耗量が少なく路面損傷性が優れていることを意味する。
【0041】
【0042】
【0043】
この表1及び表2から判るように、実施例1~9タイヤは、従来例との対比において、路面損傷性及び耐ピン抜け性が共に改善されていた。一方、比較例1,2のタイヤでは、環状領域に凹部が存在するものの、環状領域に凸部が存在しないため、剛性不足により耐ピン抜け性が悪化していた。比較例3のタイヤでは、環状領域に凸部が存在するものの、環状領域に凹部が存在しないため、耐ピン抜け性の改善効果が得られなかった。比較例4のタイヤでは、孔の周りに平坦部が存在しないため、耐ピン抜け性が悪化していた。
【0044】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] トレッド部にスタッドピンが挿入される孔を備えたタイヤにおいて、前記孔の周囲に前記トレッド部のプロファイルラインと一致して環状に連なる平坦部が存在し、前記平坦部の周囲に前記孔の中心からの距離が4mm~8mmとなる環状領域を規定したとき、該環状領域内に前記平坦部よりも隆起した凸部と前記平坦部よりも窪んだ凹部とが混在していることを特徴とするタイヤ。
発明[2] 前記凹部が前記孔を中心とする同心円上に配置され、該凹部は前記同心円の周方向の一部において間欠した形状を有することを特徴とする発明[1]に記載のタイヤ。
発明[3] 前記凹部は前記孔の中心を通ってタイヤ周方向に対して平行となる周方向線と重ならない位置に配置されていることを特徴とする発明[2]に記載のタイヤ。
発明[4] 前記凹部は前記孔の中心を通ってタイヤ周方向に対して直交する幅方向線と重ならない位置に配置されていることを特徴とする発明[2]に記載のタイヤ。
発明[5] 前記環状領域内に前記孔の中心からの距離が4mm~6mmとなる内側環状領域と前記孔の中心からの距離が6mm~8mmとなる外側環状領域とを規定したとき、前記内側環状領域に含まれる前記凹部の面積が前記外側環状領域に含まれる前記凹部の面積よりも大きいことを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤ。
発明[6] 前記凹部が前記孔を中心とする複数の同心円上にそれぞれ配置されていることを特徴とする発明[1]~[5]のいずれかに記載のタイヤ。
発明[7] 前記複数の同心円上にある前記凹部が前記同心円の径方向に互いに重なるように配置されていることを特徴とする発明[6]に記載のタイヤ。
発明[8] 前記複数の同心円上にある前記凹部が前記同心円の径方向に互いに重ならないように配置されていることを特徴とする発明[6]に記載のタイヤ。
発明[9] 前記孔に挿入されたスタッドピンのボディ部が前記トレッド部の平面視において長手方向を有し、前記環状領域内に前記孔の中心からの距離が4mm~6mmとなる内側環状領域と前記孔の中心からの距離が6mm~8mmとなる外側環状領域とを規定したとき、前記凹部は前記内側環状領域内では前記孔の中心を通って前記ボディ部の長手方向に対して平行となる仮想線と重ならない位置に配置されていることを特徴とする発明[1]~[8]のいずれかに記載のタイヤ。
発明[10] 前記凹部の深さHyが前記スタッドピンの高さHsに対して0.05Hs≦Hy≦0.25Hsの関係を満足し、前記凸部の高さHxが前記凹部の深さHyに対して0.10Hy≦Hx≦0.80Hyの関係を満足することを特徴とする発明[1]~[9]のいずれかに記載のタイヤ。