(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033740
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20240306BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20240306BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240306BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240306BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6886 Z
C12M1/34 Z
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137524
(22)【出願日】2022-08-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年5月7日 第9回婦人科がんバイオマーカー研究会学術集会
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年9月28日 第80回 日本癌学会学術総会オンライン抄録 https://conference-apps-online.net/web/jca2021/abstract.html?sid=132
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年9月12日 第30回日本婦人科がん検診学会総会・学術講演会 https://www.kuba.co.jp/jacdd_jagcs_2021/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年10月1日 第80回 日本癌学会学術総会 http://www.congre.co.jp/jca2021/jp/weblive/
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年1月6日 https://www.researchgate.net
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年9月11日 第30回日本婦人科がん検診学会総会・学術講演会プログラム・抄録集
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年4月 第9回婦人科がんバイオマーカー研究会学術集会プログラム・抄録集
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100183656
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100224786
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 卓之
(74)【代理人】
【識別番号】100225015
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 彩夏
(72)【発明者】
【氏名】藤井 多久磨
(72)【発明者】
【氏名】岩田 彩
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029FA09
4B029FA12
4B063QA01
4B063QQ03
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4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QR72
4B063QS25
(57)【要約】
【課題】より精度の高い子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査方法を提供する。さらには、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変のリスクを簡単に予測できる方法を提供する。
【解決手段】子宮頸腟部または腟由来の粘液から、子宮頸がんに関与する少なくとも5種のmiRNAを検出することによる。本発明によれば、より正確かつ簡単に子宮頸がんの検査方法を提供することができ、さらには扁平上皮がんのみではなく、腺がんも検査可能である。さらには前がん状態から検査可能である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者から採取した子宮頸腟部または腟由来の粘液から、子宮頸がんに関与するmiRNAを少なくとも5種を検出する工程を含むことを特徴とする、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査方法。
【請求項2】
子宮頸がんに関与する少なくとも5種のmiRNAが、miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、 miR-20b-5p、およびmiR-155-5pである、請求項1に記載の検査方法。
【請求項3】
さらに、以下の(1)~(3)を含む、請求項1に記載の検査方法:
(1)検出されたmiRNAの各発現レベルのポイントを決定する工程;
(2)前記ポイントを合計して合計ポイントを決定する工程;
(3)前記合計ポイントを、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率の目盛り列上の値と対応付ける工程。
【請求項4】
予測確率がカットオフ値よりも高い場合に、被検者が子宮頸がんに罹患しているまたは子宮頸がんの前がん病変を有すると判定する工程をさらに含む、請求項3に記載の検査方法。
【請求項5】
(1)検出されたmiRNAの各発現レベルのポイントを決定する工程および/または(3)前記合計ポイントを、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率の目盛り列上の値と対応付ける工程が、ノモグラムを使用して行われる、請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
被検者から採取した子宮頸腟部または腟由来の粘液から、子宮頸がんに関与するmiRNAを少なくとも5種を検出する工程を含むことを特徴とする、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査を補助する方法。
【請求項7】
以下の(a)~(d)を含む、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査のためのノモグラム:
(a)miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、およびmiR-155-5pの各発現レベルの目盛り列;
(b)(a)に対応するポイントの目盛り列;
(c)(b)の各ポイントを合計したポイントの目盛り列;および
(d)子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確立の目盛り列。
【請求項8】
miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、およびmiR-155-5pを検出可能な物質を含む、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変検査用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査方法に関する。さらに、本発明は、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査のためのノモグラムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本の子宮頸がんの罹患数は、年間約8,000~10,000人であり微増傾向にある。また子宮頸がんの罹患率は生殖年齢と関係している。子宮頸がんの死亡数は約3,000人であり、子宮頸がんの死亡率は年齢とともに高い傾向にある。世界では、乳がんについで2番目に多いがんである。
【0003】
子宮頸がんのスクリーニングは、細胞診またはヒトパピローマウイルス(HPV)の遺伝子検査が行われている。子宮頸がんの細胞診は、子宮頸腟部の細胞を独特のヘラやブラシを用いて子宮頸腟部を擦過することにより行われるが、感度が低いのが問題である。子宮頸がんの発がん因子の1つとしてHPV持続感染が挙げられる。しかしながら、HPV感染の多くは一過性であるため、HPV遺伝子検査の特異度は低い。このため、子宮頸がんの検査方法として、精度の高い検査方法の開発が望まれている。
【0004】
現在、対策型子宮頸がん検診プログラムにおいて国が定めたプロセス指標では、精検受診率の目標値は90%、許容率は70%である。精検受診率は地域格差があり、低いところでは60%以下である。このため、子宮頸がんのリスクを具体的な数値で示されるものがあれば、受診率の向上が期待できる。
【0005】
本発明者らの一部は、子宮頸がんおよびその前がん病変を有する患者において、高発現しているマイクロRNA(miRNA)があることを見出した(特許文献1および非特許文献1)。特許文献1には子宮頸がん検査方法について開示されているが、より精度が高くかつ簡便に子宮頸がんを検査する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Scientific Reports,(2018) 8:7070 DOI:10.1038/s41598-018-25310-1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
子宮頸がんの既存の検査である細胞診は感度が低く、HPV遺伝子検査は特異度が低いといった問題があるため、より精度の高い検査が望まれている。従って、本発明はより精度の高い子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査方法を提供することを課題とする。さらには、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変のリスクを簡単に予測できる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、子宮頸腟部または腟由来の粘液から、子宮頸がんに関与するmiRNAを少なくとも5種を検出することで、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変を有することについての検査が可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.被検者から採取した子宮頸腟部または腟由来の粘液から、子宮頸がんに関与するmiRNAを少なくとも5種を検出する工程を含むことを特徴とする、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査方法。
2.子宮頸がんに関与する少なくとも5種のmiRNAが、miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、およびmiR-155-5pである、前項1に記載の検査方法。
3.さらに、以下の(1)~(3)を含む、前項1に記載の検査方法:
(1)検出されたmiRNAの各発現レベルのポイントを決定する工程;
(2)前記ポイントを合計して合計ポイントを決定する工程;
(3)前記合計ポイントを、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率の目盛り列上の値と対応付ける工程。
4.予測確率がカットオフ値よりも高い場合に、被検者が子宮頸がんに罹患しているまたは子宮頸がんの前がん病変を有すると判定する工程をさらに含む、前項3に記載の検査方法。
5.(1)検出されたmiRNAの各発現レベルのポイントを決定する工程および/または(3)前記合計ポイントを、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率の目盛り列上の値と対応付ける工程が、ノモグラムを使用して行われる、前項4に記載の検査方法。
6.被検者から採取した子宮頸腟部または腟由来の粘液から、子宮頸がんに関与するmiRNAを少なくとも5種を検出する工程を含むことを特徴とする、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査を補助する方法。
7.以下の(a)~(d)を含む、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査のためのノモグラム:
(a)miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、およびmiR-155-5pの各発現レベルの目盛り列;
(b)(a)に対応するポイントの目盛り列;
(c)(b)の各ポイントを合計したポイントの目盛り列;および
(d)子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確立の目盛り列。
8.miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、およびmiR-155-5pを検出可能な物質を含む、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変検査用キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より精度が高くかつ簡単に子宮頸がんの検査方法を提供することができ、さらには扁平上皮がんのみではなく、腺がんも検査可能である。さらには前がん状態から検査可能である。また、本発明によれば、子宮頸がんに罹患しているまたは子宮頸がんの前がん病変を有することを直接的に高い精度で予測できる。さらに、本発明は子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率を具体的に数値化することができるため、よりきめ細かな治療方針の決定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、miR-155-5pおよび5種のmiRNAのコンビネーションにおけるROC解析の結果を示す。
図1Aは子宮頸がん群(Cancer)対Normal群における結果を示す。
図1Bは子宮頸部扁平上皮がん群(SCC)対Normal群における結果を示す。
図1Cは子宮頸部腺がん群(AD)対Normal群における結果を示す。
図1DはCIN3以上の病変(CIN3+)対Normal群にCIN1を加えた群における結果を示す。(実施例1)
【
図2】Cancer、CIN3+、CIN2+を判別するためのノモグラムである。(実施例1)
【
図3】ノモグラムを用いた子宮頸がんのリスクの予測を示す。(実施例1)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査方法に関する。
【0014】
子宮頸がんの扁平上皮がん患者は腺がん患者に比べ多いことが知られている。また子宮頸がんの扁平上皮がんの大部分は、子宮頸がんの前がん病変を経て発生すると考えられているので、子宮頸がんのうち扁平上皮がんの検査においては、子宮頸がんの前がん病変も検査することが重要である。一方、腺がんは扁平上皮がんよりも早期発見が難しく、進行も速く予後が不良であることが知られている。このため、子宮頸がんの検査において、扁平上皮がんだけでなく、腺がんも検査可能であることは非常に有用である。子宮頸がんの検査には、細胞診、組織診等がある。細胞診はベセスダ分類に基づいて、扁平上皮系ではNILM(陰性)、ASC-US(意義不明な異型扁平上皮細胞)、ASC-H(HSILを除外できない異型扁平上皮細胞)、LSIL(軽度扁平上皮内病変)、HSIL(高度扁平上皮内病変)、SCC(扁平上皮がん)に分類され、腺細胞系ではAGC(異型腺細胞)、AIS(上皮内腺がん)、Adenocarcinoma(腺がん)に分類される。また組織診はNormal(正常)、CIN1(軽度異形成)、CIN2(中等度異形成)、CIN3(高度異形成)、SCC(扁平上皮がん)、Adenocarcinoma(腺がん)に分類される。本発明の検査対象の「子宮頸がん」は扁平上皮がんおよび腺がんのいずれも含まれる。本発明の検査対象の「子宮頸がんの前がん病変」は例えばCIN2、CIN3が挙げられる。本発明の検査方法により、細胞診の場合、例えばHSIL、AIS、SCC、Adenocarcinomaが検出され、組織診の場合、例えばCIN2、CIN3、SCC、Adenocarcinomaが検出される。
【0015】
本発明における「子宮頸腟部または腟由来の粘液」は、子宮頸腟部由来の粘液または腟由来の粘液を意味し、本発明の検査方法の検体として特に好ましいのは、子宮頸腟部由来の粘液である。「子宮頸腟部由来の粘液」とは、子宮頸部および子宮腟部の表面に存在する粘液であれば、特に限定されない。「腟由来の粘液」とは、腟表面に存在する粘液であれば、特に限定されない。これら粘液は子宮頸腟部または腟表面に、例えば綿球、綿棒、スポンジ、ヘラ、ブラシ等を接触されることにより簡便に採取することができる。子宮頸腟部または腟由来の粘液には、粘液だけでなく子宮頸腟部または腟由来の細胞が含まれてもよく、粘液のみであってもよい。
【0016】
本発明において、「被検者」は子宮頸がんに罹患しているどうか不明の者、子宮頸がんに罹患していると疑われる者、子宮頸がんの前がん病変を有しているかどうか不明の者、子宮頸がんの前がん病変を有していると疑われる者、細胞診により異常あると判定された者、HPVに感染しているまたは感染していると疑われる者、子宮頸がんに罹患していないと判定された者等が挙げられる。本発明の検査方法によれば、子宮頸がんの検出のみならず、子宮頸がんの前がん病変の検出、子宮頸がんの予後予測、適切な治療方法の選択等が可能となる。
【0017】
本発明の検査方法は、子宮頸がんに関与するmiRNAを少なくとも5種を検出する工程を含むことを特徴とする。本発明の検査方法は、子宮頸がんに関与するmiRNAを少なくとも5種検出することで、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変のリスク予測の精度を高めることができる。本発明の「子宮頸がんに関与するmiRNA」は、子宮頸がんに関与するmiRNAであれば特に限定されないが、例えばmiR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、miR-155-5p、miR-141-3p、miR-10a-5p、miR-205-5p、let-7f-5p、miR-106a-5p、miR-17-5p、let-7a-5p、let-7b-5p、let-7c-5p、miR-16-5p、let-7d-5p、miR-21-5p、miR-19b-3p、miR-20a-5p、miR-15b-5p、miR-224-5p、miR-182-5p等が挙げられ(非特許文献1を参照することができる。)、特にmiR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、miR-155-5pが好ましい。これらのmiRNA配列および成熟型の配列は、公知のデータベース、例えばmiRBase(URL:http://www.mirbase.org/)から入手することができる。
【0018】
miR-126-3pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号1に示される塩基配列であり、miR-126-3pは、例えばヒトの場合、配列番号2に示される塩基配列で特定される。
(配列番号1)
5´- CGCUGGCGACGGGACAUUAUUACUUUUGGUACGCGCUGUGACACUUCAAACUCGUACCGUGAGUAAUAAUGCGCCGUCCACGGCA
(配列番号2)
5´- UCGUACCGUGAGUAAUAAUGCG
【0019】
miR-451aは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号3に示される塩基配列であり、miR-451aは、例えばヒトの場合、配列番号4に示される塩基配列で特定される。
(配列番号3)
5´- CUUGGGAAUGGCAAGGAAACCGUUACCAUUACUGAGUUUAGUAAUGGUAAUGGUUCUCUUGCUAUACCCAGA
(配列番号4)
5´-AAACCGUUACCAUUACUGAGUU
【0020】
miR-144-3pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号5に示される塩基配列であり、miR-144-3pは、例えばヒトの場合、配列番号6に示される塩基配列で特定される。
(配列番号5)
5´- UGGGGCCCUGGCUGGGAUAUCAUCAUAUACUGUAAGUUUGCGAUGAGACACUACAGUAUAGAUGAUGUACUAGUCCGGGCACCCCC
(配列番号6)
5´-UACAGUAUAGAUGAUGUACU
【0021】
miR-20b-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号7に示される塩基配列であり、miR-20b-5pは、例えばヒトの場合、配列番号8に示される塩基配列で特定される。
(配列番号7)
5´- AGUACCAAAGUGCUCAUAGUGCAGGUAGUUUUGGCAUGACUCUACUGUAGUAUGGGCACUUCCAGUACU
(配列番号8)
5´-CAAAGUGCUCAUAGUGCAGGUAG
【0022】
miR-155-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号9に示される塩基配列であり、miR-155-5pは、例えばヒトの場合、配列番号10に示される塩基配列で特定される。
(配列番号9)
5´- CUGUUAAUGCUAAUCGUGAUAGGGGUUUUUGCCUCCAACUGACUCCUACAUAUUAGCAUUAACAG
(配列番号10)
5´- UUAAUGCUAAUCGUGAUAGGGGUU
【0023】
miR-141-3pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号11に示される塩基配列であり、miR-141-3pは、例えばヒトの場合、配列番号12に示される塩基配列で特定される。
(配列番号11)
5´- CGGCCGGCCCUGGGUCCAUCUUCCAGUACAGUGUUGGAUGGUCUAAUUGUGAAGCUCCUAACACUGUCUGGUAAAGAUGGCUCCCGGGUGGGUUC
(配列番号12)
5´- UAACACUGUCUGGUAAAGAUGG
【0024】
miR-10a-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号13に示される塩基配列であり、miR-10a-5pは、例えばヒトの場合、配列番号14に示される塩基配列で特定される。
(配列番号13)
5´- GAUCUGUCUGUCUUCUGUAUAUACCCUGUAGAUCCGAAUUUGUGUAAGGAAUUUUGUGGUCACAAAUUCGUAUCUAGGGGAAUAUGUAGUUGACAUAAACACUCCGCUCU
(配列番号14)
5´- UACCCUGUAGAUCCGAAUUUGUG
【0025】
miR-205-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号15に示される塩基配列であり、miR-205-5pは、例えばヒトの場合、配列番号16に示される塩基配列で特定される。
(配列番号15)
5´- AAAGAUCCUCAGACAAUCCAUGUGCUUCUCUUGUCCUUCAUUCCACCGGAGUCUGUCUCAUACCCAACCAGAUUUCAGUGGAGUGAAGUUCAGGAGGCAUGGAGCUGACA
(配列番号16)
5´- UCCUUCAUUCCACCGGAGUCUG
【0026】
let-7f-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号17に示される塩基配列であり、let-7f-5pは、例えばヒトの場合、配列番号18に示される塩基配列で特定される。
(配列番号17)
5´- UCAGAGUGAGGUAGUAGAUUGUAUAGUUGUGGGGUAGUGAUUUUACCCUGUUCAGGAGAUAACUAUACAAUCUAUUGCCUUCCCUGA
(配列番号18)
5´- UGAGGUAGUAGAUUGUAUAGUU
【0027】
miR-106a-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号19に示される塩基配列であり、miR-106a-5pは、例えばヒトの場合、配列番号20に示される塩基配列で特定される。
(配列番号19)
5´- CCUUGGCCAUGUAAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAGCUUUUUGAGAUCUACUGCAAUGUAAGCACUUCUUACAUUACCAUGG
(配列番号20)
5´- AAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG
【0028】
miR-17-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号21に示される塩基配列であり、miR-17-5pは、例えばヒトの場合、配列番号22に示される塩基配列で特定される。
(配列番号21)
5´- GUCAGAAUAAUGUCAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAGUGAUAUGUGCAUCUACUGCAGUGAAGGCACUUGUAGCAUUAUGGUGAC
(配列番号22)
5´- CAAAGUGCUUACAGUGCAGGUAG
【0029】
let-7a-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号23に示される塩基配列であり、let-7a-5pは、例えばヒトの場合、配列番号24に示される塩基配列で特定される。
(配列番号23)
5´- UGGGAUGAGGUAGUAGGUUGUAUAGUUUUAGGGUCACACCCACCACUGGGAGAUAACUAUACAAUCUACUGUCUUUCCUA
(配列番号24)
5´- UGAGGUAGUAGGUUGUAUAGUU
【0030】
let-7b-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号25に示される塩基配列であり、let-7b-5pは、例えばヒトの場合、配列番号26に示される塩基配列で特定される。
(配列番号25)
5´- CGGGGUGAGGUAGUAGGUUGUGUGGUUUCAGGGCAGUGAUGUUGCCCCUCGGAAGAUAACUAUACAACCUACUGCCUUCCCUG
(配列番号26)
5´- UGAGGUAGUAGGUUGUGUGGUU
【0031】
let-7c-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号27に示される塩基配列であり、let-7c-5pは、例えばヒトの場合、配列番号28に示される塩基配列で特定される。
(配列番号27)
5´- GCAUCCGGGUUGAGGUAGUAGGUUGUAUGGUUUAGAGUUACACCCUGGGAGUUAACUGUACAACCUUCUAGCUUUCCUUGGAGC
(配列番号28)
5´- UGAGGUAGUAGGUUGUAUGGUU
【0032】
miR-16-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号29に示される塩基配列であり、miR-16-5pは、例えばヒトの場合、配列番号30に示される塩基配列で特定される。
(配列番号29)
5´- GUCAGCAGUGCCUUAGCAGCACGUAAAUAUUGGCGUUAAGAUUCUAAAAUUAUCUCCAGUAUUAACUGUGCUGCUGAAGUAAGGUUGAC
(配列番号30)
5´- UAGCAGCACGUAAAUAUUGGCG
【0033】
let-7d-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号31に示される塩基配列であり、let-7d-5pは、例えばヒトの場合、配列番号32に示される塩基配列で特定される。
(配列番号31)
5´- CCUAGGAAGAGGUAGUAGGUUGCAUAGUUUUAGGGCAGGGAUUUUGCCCACAAGGAGGUAACUAUACGACCUGCUGCCUUUCUUAGG
(配列番号32)
5´- AGAGGUAGUAGGUUGCAUAGUU
【0034】
miR-21-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号33に示される塩基配列であり、miR-21-5pは、例えばヒトの場合、配列番号34に示される塩基配列で特定される。
(配列番号33)
5´- UGUCGGGUAGCUUAUCAGACUGAUGUUGACUGUUGAAUCUCAUGGCAACACCAGUCGAUGGGCUGUCUGACA
(配列番号34)
5´- UAGCUUAUCAGACUGAUGUUGA
【0035】
miR-19b-3pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号35に示される塩基配列であり、miR-19b-3pは、例えばヒトの場合、配列番号36に示される塩基配列で特定される。
(配列番号35)
5´- CACUGUUCUAUGGUUAGUUUUGCAGGUUUGCAUCCAGCUGUGUGAUAUUCUGCUGUGCAAAUCCAUGCAAAACUGACUGUGGUAGUG
(配列番号36)
5´- UGUGCAAAUCCAUGCAAAACUGA
【0036】
miR-20a-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号37に示される塩基配列であり、miR-20a-5pは、例えばヒトの場合、配列番号38に示される塩基配列で特定される。
(配列番号37)
5´- GUAGCACUAAAGUGCUUAUAGUGCAGGUAGUGUUUAGUUAUCUACUGCAUUAUGAGCACUUAAAGUACUGC
(配列番号38)
5´- UAAAGUGCUUAUAGUGCAGGUAG
【0037】
miR-15b-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号39に示される塩基配列であり、miR-15b-5pは、例えばヒトの場合、配列番号40に示される塩基配列で特定される。
(配列番号39)
5´- UUGAGGCCUUAAAGUACUGUAGCAGCACAUCAUGGUUUACAUGCUACAGUCAAGAUGCGAAUCAUUAUUUGCUGCUCUAGAAAUUUAAGGAAAUUCAU
(配列番号40)
5´- UAGCAGCACAUCAUGGUUUACA
【0038】
miR-224-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号41に示される塩基配列であり、miR-224-5pは、例えばヒトの場合、配列番号42に示される塩基配列で特定される。
(配列番号41)
5´- GGGCUUUCAAGUCACUAGUGGUUCCGUUUAGUAGAUGAUUGUGCAUUGUUUCAAAAUGGUGCCCUAGUGACUACAAAGCCC
(配列番号42)
5´- UCAAGUCACUAGUGGUUCCGUUUAG
【0039】
miR-182-5pは、例えばヒトの場合のステムループ配列は配列番号43に示される塩基配列であり、miR-182-5pは、例えばヒトの場合、配列番号44に示される塩基配列で特定される。
(配列番号43)
5´- GAGCUGCUUGCCUCCCCCCGUUUUUGGCAAUGGUAGAACUCACACUGGUGAGGUAACAGGAUCCGGUGGUUCUAGACUUGCCAACUAUGGGGCGAGGACUCAGCCGGCAC
(配列番号44)
5´- UUUGGCAAUGGUAGAACUCACACU
【0040】
miRNAの検出は、自体公知の方法によって例えばmiRNAのキットを用いて抽出および精製し、miRNAの発現レベルを測定することによって行うことができる。miRNAの発現レベルは、自体公知の方法によって測定することができ、例えばRT-PCR法、DNAチップ解析法、マイクロアレイ、ノーザンブロット法、次世代シーケンサー等が挙げられる。RT-PCR法を利用する場合は、適当なプライマーを用いることによって、検体中のmiRNAまたはそれに由来する核酸の有無やその量を測定することができる。具体的には、例えば検体より抽出したRNAから常法に従ってcDNAを調製し、これを鋳型として、一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)とハイブリダイズさせ、常法に従いPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法等が挙げられる。増幅された二本鎖DNAの検出は、予め蛍光物質等で標識しておいたプライマーを用いて行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従いナイロンメンブレン等にトランスファーさせて、標識したプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法等を用いることができる。また、産生された標識二本鎖DNA産物は、測定できれば特に限定しないが、例えばマイクロチップ型電気泳動装置等で測定することができる。
【0041】
miRNAの発現レベルは、正確性や客観性等を高めるために補正を行ってもよい。補正には、恒常的な発現を認めるmiRNAの測定結果を利用することができる。RT-PCR法によりmiRNAの発現レベルを測定する場合、例えばCt値(Threshold Cycle)を利用することができ、miRNAの発現レベルを補正するには△Ct値または-△Ct値を利用することができる。この場合、△Ct値は、検出したいmiRNAのCt値から標準化因子のCt値を減じて求めることができる。-△Ct値は、標準化因子のCt値から検出したいmiRNAのCt値を減じて求めることができる。例えばmiR-3180およびmiR-7109-5pを標準化因子として用いる場合、miR-3610とmiR-7109-5pの平均Ct値で検出したいmiRNAの測定結果を補正することができる。
【0042】
本発明の検査方法において、例えば検出されたmiRNAの各発現レベルがカットオフ値より高い場合、被検者が子宮頸がんに罹患しているまたは子宮頸がんの前がん病変を有すると判定することができる。ここで「カットオフ値」は、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率等の観点から、自体公知の方法により決定することができる。例えばカットオフ値はROC解析によって求めることもできる。ROC解析では、閾値を変化させていった場合に、それぞれの閾値における感度(Sensitivity)を縦軸に、1-特異度(Specificity)を横軸にプロットしたROC曲線が作成される。ROC曲線では、全く予測能のない検査は、対角線上の直線となるが、予測能が向上するほど、対角線が左上方に弧を描くような曲線となり、予測能100%の検査は、左辺-上辺上を通る曲線となる。カットオフ値の設定としては、例えば感度と特異度の優れた独立変数のROC曲線は左上隅に近づいているという事実から、この左上隅との距離が最小となる点をカットオフ値と決定することができる。また、ROC曲線における曲線下面積(area under the curve、AUCと略称される)が0.500となる斜点線から最も離れたポイントをカットオフ値にする方法、(感度+特異度-1)を計算して、その最大値となるポイントであるヨーデン指標(Youden index)をカットオフ値に設定することもできる。
【0043】
例えば、正常者並びに子宮頸がんの前がん病変および子宮頸がん患者におけるmiRNAの各発現レベルを測定し、ロジスティック回帰から予測確率を計算し、各miRNAおよび各miRNAのコンビネーションを市販の解析ソフトを使用してROC曲線を作成する。作成したROC曲線からヨーデン指標によりカットオフ値を設定することができる。
【0044】
本発明の検査方法はさらに、以下の(1)~(3)を含む、検査方法であることが好ましい。
(1)検出されたmiRNAの各発現レベルのポイントを決定する工程;
(2)前記ポイントを合計して合計ポイントを決定する工程;
(3)前記合計ポイントを、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率の目盛り列上の値と対応付ける工程。
【0045】
(1)では、「検出されたmiRNAの各発現レベル」とは上述の方法によって測定されたmiRNAの発現レベルであれば特に限定されないが、例えば-△Ct値、△Ct値、量、濃度等が挙げられる。検出されたmiRNAの各発現レベルは、これに対応するポイントを決定することができる。例えば、検出されたmiR-126-3pの-△Ct値が9.5の場合、74ポイントとすることができる。例えば、検出されたmiR-451aの-△Ct値が9.8の場合、65ポイントとすることができる。例えば、検出されたmiR-144-3pの-△Ct値が5.8の場合、41ポイントとすることができる。例えば、検出されたmiR-20b-5pの-△Ct値が5.3の場合、45ポイントとすることができる。例えば、検出されたmiR-155-5pの-△Ct値が3.9の場合、15ポイントとすることができる。
【0046】
(2)では、(1)よりmiRNAの各発現レベルを測定し、各発現レベルに対応するポイントを決定した後、各々のポイントを合計することで合計ポイントを決定することができる。
【0047】
(3)では、(2)より決定した合計ポイントを子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率の目盛り列上の値と対応付けることで、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率を簡単に求めることができる。予測確率を求めることにより、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変のリスクを判定することができる。本発明の「予測確率の目盛り列」とは、子宮頸がんに関与するmiRNAの各発現レベルのポイントの合計ポイントに対応するものである。例えば合計ポイントが240の場合、予測確率の目盛り列上の値が0.95となり、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変のリスクが95%と予測することができる。
【0048】
本発明の検査方法は、(3)より求めた予測確率がカットオフ値よりも高い場合に、被検者が子宮頸がんに罹患しているまたは子宮頸がんの前がん病変を有すると判定する工程をさらに含む。具体的には細胞診の分類におけるHSIL、AIS、SCC、Adenocarcinomaの有無を判定することができ、組織診の分類におけるCIN2、CIN3、SCC、Adenocarcinomaの有無を判定することができる。
【0049】
本発明の検査方法によれば、予測確率がカットオフ値よりも高い場合、被検者が子宮頸がんに罹患しているまたは子宮頸がんの前がん病変を有するとの判断の指標になりえる。本発明の検査方法により、予測確率がカットオフ値よりも高いことが確認された場合、さらに細胞診、組織診、HPV遺伝子検査等の方法と組み合わせることで、より正確な子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の有無を判定することができ、臨床的な判断がしやすくなると考えられる。本発明の検査方法により得られた結果は、子宮頸がんに罹患しているまたは子宮頸がんの前がん病変を有するとの判定の補助のために利用することもできる。本発明の検査方法により得られた数値を指標とすることができるので、より具体的な診療方針を決定することが可能となる。例えば数値が低い場合、被検者の不安を取り除くことができる。一方、数値が高い場合、子宮頸がんの組織診等の精密検査の対象となるだけでなく、継続的な子宮頸がん検診を勧めることが可能となる。本発明の検査方法は他の検査方法と組み合わせることで、被検者に対して子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の治療を行うことが可能となり、より効率的により確実に治療することが可能となる。子宮頸がんの治療方法は特に限定されないが、例えば手術、放射線治療、抗がん剤治療、化学療法等が挙げられる。子宮頸がんの前がん病変の治療方法は特に限定されないが、例えば子宮の一部を切り取る手術等が挙げられる。
【0050】
本発明における予測確率のカットオフ値は、上述した方法によって決定することができる。カットオフ値を下げれば、多数の検体が子宮頸がんに罹患しているまたは子宮頸がんの前がん病変を有するとの判定することになるが、偽陰性は高くなり、感度が高く特異度が低くなる。一方、カットオフ値を上げれば偽陰性は低くなる。このバランスからカットオフ値を適宜設定することができる。本発明の検査方法において、カットオフ値は子宮頸がんを予測する場合は例えば0.837(83.7%)、子宮頸がんの前がん病変のうちCIN3以上の病変を予測する場合は例えば0.696(69.6%)、子宮頸がんの前がん病変のうちCIN2以上の病変を予測する場合は例えば0.686(68.6%)等が挙げられる。
【0051】
本発明の検査方法は、(1)検出されたmiRNAの各発現レベルのポイントを決定する工程および/または(3)前記合計ポイントを、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率の目盛り列上の値と対応付ける工程が、ノモグラムを使用して行われることが好ましい。本明細書において「ノモグラム」とは計算図表を使用して、複数のパラメータ(変数)から個人の予後リスクを予測する数学モデルであり、精度の高い予測が可能となるため、医学分野で広く活用されている手法である。ノモグラムの一例として
図2および
図3が挙げられる。本発明の検査方法に用いるノモグラムは、検出されたmiRNAの各発現レベルを用いて公知の統計学的方法より作成することができる。
【0052】
本発明の検査方法において、ノモグラムを用いて(1)および/または(3)の工程を行う場合、例えば
図3において(ア)miRNAの各発現レベルを測定し、各発現レベルに対応するポイントに向かって線を引きポイントを決定する。(イ)係る各ポイントを合計して合計ポイントを算出する。(ウ)合計ポイントの位置から下に線を引き、予測確率を読み取ることで子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変のリスクを予測することができる。
【0053】
本発明は、被検者から採取した子宮頸腟部または腟由来の粘液から、子宮頸がんに関与するmiRNAを少なくとも5種を検出する工程を含むことを特徴とする、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査を補助する方法にも及ぶ。
【0054】
本発明は子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査のためのノモグラムにも及ぶ。具体的には以下の(a)~(d)を含む、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査のためのノモグラムである。
(a)miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、およびmiR-155-5pの各発現レベルの目盛り列;
(b)(a)に対応するポイントの目盛り列;
(c)(b)の各ポイントを合計したポイントの目盛り列;および
(d)子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の予測確率の目盛り列。
【0055】
本発明のノモグラムおいて、さらにHPV感染の有無、年齢に対応するポイントの目盛り列を含んでもよい。
【0056】
本発明は、miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、およびmiR-155-5pを検出可能な物質を含む、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査用キットにも及ぶ。本発明のキットは、本発明の検査方法のために使用することできる。本発明の「検出可能な物質」とは、miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、およびmiR-155-5p(以下、本発明のmiRNA)および/またはそれに由来する核酸等を特異的に認識するものであれば、特に限定されず、例えば本発明のmiRNAおよび/またはそれに由来する核酸等を特異的に認識するプライマーまたはプローブ等が挙げられる。ここで、「特異的に認識する」とは、例えばRT-PCR法においては、本発明のmiRNAおよび/またはそれに由来する核酸(例えばcDNA等)が特異的に増幅されること、または例えばノーザンブロット法においては、本発明のmiRNAが特異的に検出されること等が挙げられるが、増幅産物または検出物等が本発明のmiRNAに由来するものであると判断できれば、これらに限定されない。本明細書において、「プライマーまたはプローブ等」は、その機能が著しく損なわない限りにおいて、修飾することもできる。修飾としては、例えば標識物、蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が挙げられる。プライマーまたはプローブ等は、任意の固相に固定化して使用することもできる。本明細書において、「固相」は、ポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に限定されず、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等が挙げられる。
【0057】
本発明のmiRNAおよび/またはそれに由来する核酸等を特異的に認識するプライマーまたはプローブは、例えば下記(i)および(ii)に記載するポリヌクレオチドが挙げられる。
(i)本発明のmiRNAの塩基配列において、連続する少なくとも10塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド、
(ii)本発明のmiRNAの塩基配列に対し、少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%、さらに好ましくは99%以上の相同性を有する塩基配列において、連続する少なくとも10塩基を有するポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチド。
【0058】
本明細書において、「ヌクレオチド」とは核酸と同義であって、例えばDNAまたはRNAが含まれ、1本鎖または2本鎖であってもよい。本明細書において、「相補的なポリヌクレオチド」とは、本発明のmiRNAの塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも10塩基長の塩基配列を有する部分配列に対して、A:T(U)およびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味する。
【0059】
本発明のキットは、さらに各miRNAの検出に必要なものを含んでもよい。本明細書において、「各miRNAの検出に必要なもの」とは、ハイブリダイゼーション用試薬、プローブの標識、緩衝液、器具等が挙げられる。さらに本発明のキットには、本発明のmiRNAの発現レベルを補正するためのmiRNA標準因子等を含んでもよい。
【実施例0060】
本発明の理解を助けるために、以下に実施例を示して具体的に本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものでないことはいうまでもない。なお、本実施例の対象患者は、2014年10月から2021年9月にかけて、愛知県藤田医科大学病院の外来診療を受け、婦人科の定期検査を受けた患者を対象とした。患者の除外基準は20歳未満、妊娠、化学療法による治療、放射線療法、がんまたは子宮頸部異形成の手術既往とした。本実施例に記載の試験は、藤田医科大学倫理委員会によって承認され、書面によるインフォームドコンセントが各患者から得られた。すべての手順は、承認されたガイドラインおよび規制に従って実施した。
【0061】
(実施例1)子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査のためのノモグラムの作成
本実施例では、対象患者のmiRNAを用いて子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変の検査のためのノモグラムを作成した。
【0062】
(1-1)検体の採取
検証コホートではノモグラムの作成を目的として、被検査対象者(N=583:第1セット)の子宮頸腟部を直径1cmの綿球でぬぐい、子宮頸腟部粘液を採取した。採取された粘液は直ちに-80℃で保存した。その後、子宮頸腟部の組織を一部切り取って採取した。
【0063】
(1-2)組織診による病期分類
(1-1)で得られた組織検体を用いて子宮頸がんの組織診を行い、病期分類に従って検証コホートの被検査対象者を分類した。その結果、Normal(N=87)、CIN1(N=49)、CIN2,3(N=279)、SCC(N=117)、AD(N=51)に分類された。なお、Normalは正常を示し、CIN1は軽度異形成を示し、CIN2は中等度異形成を示し、CIN3は高度異形成を示し、SCCは扁平上皮がんを示し、ADは腺がん(Adenocarcinoma)を示す。
【0064】
(1-3)miRNAの検出
Total RNAはmiRNeasy Mini Kit(QIAGEN GmbH、ヒルデン、ドイツ)を用いて、(1-1)で得られた粘液検体から常法により抽出した。Total RNAを鋳型としてTaqMan(登録商標) MicroRNA Reverse Transcription Kit(ThermoFisher Scientific)を用いて逆転写反応を行った。第1セットについて候補miRNAをリアルタイムRT-PCRによって検証した。miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、miR-155-5pの発現レベルは以下のTaqMan(登録商標) MicroRNA Assays(ThermoFisher Scientific、マサチューセッツ州、米国)を用いて測定した 。
【0065】
各miRNAの特異的プライマー
hsa-miR-20b-5p, Assay ID 001014 (ThermoFisher Scientific)
hsa-miR-126-3p, Assay ID 002228 (ThermoFisher Scientific)
hsa-miR-451a, Assay ID 0011411 (ThermoFisher Scientific)
hsa-miR-144-3p, Assay ID 002676 (ThermoFisher Scientific)
hsa-miR-155-5p, Assay ID 002623 (ThermoFisher Scientific)
hsa-miR-3180, Assay ID 463043_mat(ThermoFisher Scientific)
hsa-miR-7109-5p, Assay ID 466424_mat(ThermoFisher Scientific)
【0066】
具体的には、360 ngの鋳型RNA、TaqMan(登録商標) MicroRNA Reverse Transcription Kit(ThermoFisher Scientific)を用いた逆転写反応液(1.5 μLの10X RT buffer、0.3 μLの100 mM dNTPs、0.19 μLの20 U/μL RNase Inhibitor、3 μLの50 U/μL MultiScribe Reverse Transcriptase)、6 μLのRT primer pool(TaqMan(登録商標) MicroRNA Assaysに含まれる各miRNA特異的プライマー0.06 μL)を調製し、16℃で30分間インキュベートした後、42℃で30分間、続いて85℃で5分間インキュベートすることにより、逆転写反応を行った。続いて、逆転写反応により合成されたcDNAを用いた定量的リアルタイムPCRを行った。具体的には0.5 μLの20×TaqMan(登録商標) MicroRNA Assays、10 μLのTaqMan(登録商標) Fast advanced Master Mix、0.5 μLの逆転写産物を含む反応液10 μLを調製し、95℃で20秒間インキュベートした後、95℃で1秒間、続いて60℃で20秒間インキュベートするサイクルを50サイクル繰り返すことによりPCR反応を行った。PCR反応および解析にはQuantStudio 7リアルタイムPCRシステム(ThermoFisher Scientific)を用い、増幅されたターゲットの量が固定の閾値に達したサイクル数をCt値とした。miRNAの各発現レベルは、miR-3180とmiR-7109-5pの両方の平均Ct値に対して補正され、ΔCt値として表した。
【0067】
(1-4)統計的解析
これら5種のmiRNAの発現レベルは、疾患重症度とともに有意に増加することがJonckheere-Terpstra傾向解析によって示された。Kruskal-Wallis検定で疾患群間に有意差があることを確認したうえで、ボンフェローニ補正によるMann-Whitney U検定により5種のmiRNAすべての各疾患群で有意差があることを確認できた。従って、CIN2/3およびCancer群におけるmiR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5pおよびmiR-155-5pの発現レベルは、Normal群よりも有意に高いことを確認した。なお、CancerはSCCおよびADを含む。
【0068】
次に、ロジスティック回帰から予測確率を計算し、5種のmiRNAコンビネーションのROC曲線を取得した。
図1にmiR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、miR-155-5pおよび5種のmiRNAのコンビネーションにおけるROC解析の結果を示す。5種のmiRNAのコンビネーションは、Cancer群とNormal群とを区別する際に0.956(95%信頼区間、0.933-0.980)の最大のAUCを示した。
【0069】
図1AはNormal群に対するCancer群の検出率である。miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p単独は、それぞれほぼ同等の感度、特異度を示した。miR-155-5p単独はこれら4つに比べやや劣る精度であった。5つのmiRNAのコンビネーションは単独の結果を上回る精度を示した。
図1BはNormal群に対するSCC群の検出率である。SCCに限るとさらに精度は上がることが示された。
図1CはNormal群に対するAD群の検出率である。ADに限るとSCCよりは精度が劣ることが示された。
図1DはNormal群とCIN1群のグループに対してCIN3+群の検出率である。CIN1は腫瘍性変化ではないので、Normal群とCIN1群を1つのグループとした。この結果、感度60-80%、特異度は80%程度であった。なお、
図1中のCancerはSCCおよびADを含む。CIN3+とはCIN3以上の病変を示す。
【0070】
さらに、臨床応用のための有用性を評価するために、5種のmiRNAコンビネーションのROC曲線からYouden Indexを計算し、子宮頸がんを検出するためのカットオフ値を決定した(表1)。SCC群対Normal群では、AUCの値は0.963(0.940 - 0.987)で、感度(Sensitivity)は0.91、特異度(Specificity)は0.94であった。正の尤度比は(PLR)15.76、負の尤度比(NLR)は0.10であった。精度(Accuracy)はSCC群およびAD群を含む全ての子宮頸がん群(Cancer)では、SCC群に比べて劣っていたが、AUC値(0.956; 0.933-0.980)および精度(0.91)は子宮頸がんの検査を目的としたうえでは許容できた。さらに、CIN3+を検出するための精度を、Normal群にCIN1を加えた群と比較して決定した。CIN3+のAUCは0.836(0.799-0.873)で、精度は0.75だった。CIN3+を検出するための臨床性能はSCC群よりも劣っていたが、スコアは正確な推定を可能にした。なお、表1中のPPVは陽性的中率、NPVは陰性的中率を示す。
【0071】
【0072】
(1-5)ノモグラムの作成
ノモグラムは、無料のオープンソースのR統計ソフトウェア4.0.3(www.r-project.org)「rms」パッケージを使用した多変量解析の結果に基づいて、子宮頸がんのリスクを予測するツールとして作成した。ノモグラムの作成には第1セット群の中からCancer(SCC,AC)群(N=168)とNormal群(N=87)を解析対象とし、5種のmiRNAの発現レベル(miR-126-3p、miR-451a、miR-144-3p、miR-20b-5p、miR-155-5pの-ΔCt値)をノモグラムの変数として使用した(
図2A)。さらに、第1セット群の中からCIN3+(CIN3以上の病変)群(N=303)とNormal群(N=87)、CIN2+(CIN2以上の病変)群(N=447)とNormal群(N=87)を用いてCIN3+およびCIN2+のノモグラム(
図2B、C)を作成した。なお、
図2中のCancerはSCCおよびADを含む。
【0073】
ノモグラムは、miRNAの各-ΔCt値に対応する個々のポイント(最上段:Points)を合計したポイントを使用して子宮頸がんを予測する。合計ポイントがマークされると、予測された結果スコア(最下段:Predicted Probability)を子宮頸がんのリスク(%)として読み取ることができる。既知の患者データをノモグラム(
図2A)から読み取ると、合計ポイントが135.6、200.9、244.5の粘液検体は、子宮頸がんの予測確率がそれぞれ0.1%、50%、99%に対応していた。
【0074】
図3は
図2Aのノモグラムに線を引いた図である。miRNA各々の-△Ct値が、miR-126-3pが9.5、miR-451-aが9.8、miR-144-3pが5.8、miR-20b-5pが5.3、miR-155-5pが3.9の場合、miRNA各々の-△Ct値から上に向かって線を引きポイント(最上段:Points)を決定したところ、それぞれ74、65、41、45、15であった。これらを合計すると240となり、合計ポイント(Toal Points)が240の位置から下に線を引くことでPredicted Probabilityが0.95となる。この結果、子宮頸がんのリスクが95%と予測できる。
【0075】
(実施例2)miRNAを用いた子宮頸がんまたは子宮頸がん前がん病変の予測
本実施例では、実施例1で作成したノモグラム用いて子宮頸がんまたは子宮頸がん前がん病変の予測確率を調べた。
【0076】
(2-1)
外挿コホートとして検証コホート(実施例1)で作成したノモグラムを用いて陽性的中率を算出することを目的として被検査対象者(N=126:第2セット)の粘液および組織を採取した。粘液および組織の採取は(1-1)と同手法により行い、採取された粘液は直ちに-80℃で保存した。さらに(1-2)および(1-3)と同手法により組織診による病期分類、miRNAの検出を行った。
【0077】
(2-2)
外挿コホートの126例に関して、実施例1により作成したノモグラムを用いて子宮頸がんのリスクを予測した。そのカットオフ値の設定は感度、特異度がトレードオフの関係にあたることから、最適の精度(感度・特異度の値が一番よくなるところ)になるポイントを選ぶことにした。Cancer群の場合、予想確率が83.7%をカットオフ値をとして設定したところ、88.6%(39/44)の患者が的中し、陽性的中率は95.1%であった(表2)。Normal群のいずれもこのカットオフ値に達しておらず、ノモグラムが子宮頸がんの予測に有用であることを示唆している。臨床ステージ分類(FIGO 2018)によると、臨床進行期別分類I-IV期の患者の陽性率はそれぞれ72.7%(8/11)、100%(13/13)、86.7%(13/15)および100%(5/5)であった。同様にCIN3+群、CIN2+群におけるカットオフ値をそれぞれ69.6%,68.6%に設定し、その陽性的中率を計算したところ、それぞれ95.5%,96.5%であり、高い的中率を示した(表2)。なお、表2中のCancerはSCCおよびADを含む。
【0078】
以上詳述したように、本発明の検査方法によれば、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変を正確にかつ簡便に予測することができる。さらに予測値が数値化されることにより、子宮頸がんまたは子宮頸がんの前がん病変のリスクを明確にすることができるため、数値が高い場合組織検査等の精密検査の受診対象となるだけでなく、継続的な検診を勧めることができることから、患者にとって有用である。