(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033771
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】染料捺染用処理液組成物、組成物セット、捺染方法、及びインクジェット捺染方法
(51)【国際特許分類】
D06P 5/00 20060101AFI20240306BHJP
D06P 5/26 20060101ALI20240306BHJP
C09D 11/30 20140101ALI20240306BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240306BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
D06P5/00 104
D06P5/26
C09D11/30
B41M5/00 114
B41M5/00 132
B41M5/00 100
B41J2/01 501
B41J2/01 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137578
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100080953
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 克郎
(72)【発明者】
【氏名】小口 稔明
(72)【発明者】
【氏名】加賀田 尚義
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EC29
2C056EC36
2C056FA10
2C056FA13
2C056FB03
2C056FC01
2C056FD13
2C056HA45
2C056HA46
2C056HA47
2H186AB02
2H186AB05
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2H186FB53
4H157AA01
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4J039BE02
4J039CA06
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】
予め、処理液組成物を布帛に付着させ、処理液組成物が付着した布帛に対して捺染をすることで、優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物を得ること。
【解決手段】
本発明の染料捺染用処理液組成物は、布帛に付着させて用い、樹脂粒子と、架橋剤と、有機溶剤と、水と、を含み、前記有機溶剤のSP値が、13.5以下であり、前記有機溶剤の標準沸点が、100℃以上であり、前記有機溶剤の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、5質量%以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛に付着させて用いる処理液組成物であって、
樹脂粒子と、架橋剤と、有機溶剤と、水と、を含み、
前記有機溶剤のSP値が、13.5以下であり、
前記有機溶剤の標準沸点が、100℃以上であり、
前記有機溶剤の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、5質量%以上である、染料捺染用処理液組成物。
【請求項2】
前記有機溶剤の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、50質量%以下である、請求項1に記載の染料捺染用処理液組成物。
【請求項3】
前記有機溶剤が、グリコール、グリコールエーテル、及び含窒素溶剤からなる群より選ばれる1種以上である、請求項1に記載の染料捺染用処理液組成物。
【請求項4】
前記有機溶剤が、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及び2-ピロリドンからなる群より選ばれる1種以上を含む、請求項1に記載の染料捺染用処理液組成物。
【請求項5】
前記架橋剤が、イソシアネート基含有の化合物を含む、請求項1に記載の染料捺染用処理液組成物。
【請求項6】
前記イソシアネート基含有の化合物が、構造中にイソシアヌレート骨格を有する、請求項5に記載の染料捺染用処理液組成物。
【請求項7】
前記樹脂粒子の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、固形分換算で、1質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載の染料捺染用処理液組成物。
【請求項8】
前記架橋剤の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、固形分換算で、0.1質量%以上5質量%以下である、請求項1に記載の染料捺染用処理液組成物。
【請求項9】
前記布帛が、水酸基を有する繊維を含む、請求項1に記載の染料捺染用処理液組成物。
【請求項10】
前記布帛に染料捺染をする前に、前記布帛に付着させるために用いられる、請求項1に記載の染料捺染用処理液組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の染料捺染用処理液組成物と、インクジェットインク組成物と、を備え、
前記インクジェットインク組成物が、分散染料と、水と、を含む、
組成物セット。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の染料捺染用処理液組成物を布帛に付着させる、処理液組成物付着工程を含む、捺染方法。
【請求項13】
請求項11に記載の組成物セットに備えられる染料捺染用処理液組成物を布帛に付着させる、処理液組成物付着工程と、
前記処理液組成物付着工程の後、前記布帛に付着させた前記処理液組成物を乾燥する乾燥工程と、
請求項11に記載の組成物セットに備えられるインクジェットインク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体に付着させる吐出工程と、
前記中間転写媒体に付着した前記インクジェットインク組成物を、前記乾燥工程後の染料捺染用処理液組成物が付着した前記布帛に転写させる転写工程と、を含む、
インクジェット捺染方法。
【請求項14】
前記乾燥工程後の染料捺染用処理液組成物が付着した前記布帛における、下記式(1)で表される乾燥率が、50%以上90%以下である、請求項13に記載の捺染方法。
乾燥率(%)=[1-〔(WB-W0)/WA〕]×100・・・(1)
(式(1)中、
WBは、前記乾燥後の、前記染料捺染用処理液組成物に含まれる揮発成分が付着した前記布帛の質量を示し、
W0は、未処理の前記布帛の質量を示し、
WAは、前記乾燥前の、前記染料捺染用処理液組成物に含まれる揮発成分が付着した前記布帛の質量を示す。)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、染料捺染用処理液組成物、組成物セット、捺染方法、及びインクジェット捺染方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、色材によって布帛へ染色を行って印捺物を製造する際に、色材の発色性及び耐ドライクリーニング性等を改善するため、処理液を用いて、布帛に前処理を施す技術が知られている。そのような技術としては、例えば、特許文献1において、分散染料用の140℃以上で沸騰する水と混和し得る有機溶剤と、架橋剤と、分散染料で染色でき且つ繊維材料に固定できる高重合体とを含む水性液体でシート状構造体を含侵させ、乾燥し、熱転写捺染する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の水性液体では、布帛への浸透性が高いため、処理液が布帛近傍に滞留し難い、そのため、特許文献1の水性液体を用いたことでは、処理液による布帛の改質の効果が得られず、優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られ難いという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、布帛に付着させて用いる処理液組成物であって、樹脂粒子と、架橋剤と、有機溶剤と、水と、を含み、前記有機溶剤のSP値が、13.5以下であり、前記有機溶剤の標準沸点が、100℃以上であり、前記有機溶剤の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、5質量%以上である、染料捺染用処理液組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本実施形態の間接捺染記録方法の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0008】
1.染料捺染用処理液組成物
本実施形態の染料捺染用処理液組成物(以下、「処理液組成物」とも称する。)は、布帛に付着させて用いる処理液組成物であって、樹脂粒子と、架橋剤と、有機溶剤と、水と、を含み、有機溶剤のSP値が、13.5以下であり、有機溶剤の標準沸点が、100℃以上であり、有機溶剤の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、5質量%以上である。処理液組成物は、布帛に染料捺染をする前に、布帛に付着させるために用いられることが好ましい。
【0009】
本実施形態によれば、予め、処理液組成物を布帛に付着させ、処理液組成物が付着した布帛に対して染料捺染をすることで、優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物を得ることができる。
【0010】
このように本実施形態によって優れた効果が得られる理由について定かではないが、本発明者らは、次のように推定している。
すなわち、通常、布帛は、処理液組成物に対する浸透性が高いため、処理液が布帛近傍に滞留し難い。そのため、処理液による効果、すなわち、処理液による布帛の改質が得られ難いため、得られる捺染物は、発色性、及び耐ドライクリーニング性に劣る傾向にある。
しかしながら、本実施形態の処理液組成物では、樹脂粒子と、架橋剤と、有機溶剤と、水と、を含み、有機溶剤のSP値が、13.5以下であり、有機溶剤の標準沸点が、100℃以上であり、有機溶剤の含有量が、前記処理液組成物の総量に対して、5質量%以上である。処理液組成物が特定の有機溶剤を特定量で含むことで、処理液に対する布帛の浸透性が低下し、処理液が布帛近傍に滞留しやすくなる。また、本実施形態に係る有機溶剤は高沸点であるため、処理液組成物を布帛に付着させた後の乾燥時や、画像の転写時における加熱においても、有機溶剤は揮発し難く、布帛近傍に滞留することが可能となる。そのうえで、有機溶剤のSP値が特定の範囲にあるため、インク組成物中に含まれる油溶性の染料との相溶性が比較的高い。そのため、染料は、布帛近傍に残存した有機溶剤に好適に溶解し、発色することができる。そのうえで、処理液組成物は、樹脂粒子と架橋剤とを含むため、有機溶剤に溶解した染料が樹脂粒子も染色し、染色した樹脂粒子が、架橋剤により好適に布帛に結着する。このような理由から、本実施形態の処理液組成物を布帛に付着させ、染料捺染をすることで、インクを多く布帛近傍に付着させることができる。そのため、優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物を得ることができると推定している。ただし、理由はこれに限定されない。
【0011】
次に、処理液組成物及びインク組成物に含まれる各成分について説明する。
【0012】
1.1.樹脂
処理液組成物は、樹脂粒子を含む。
処理液組成物が樹脂粒子を含むことで、優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物を得ることができる。
【0013】
樹脂粒子としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、付加重合系樹脂、フッ素樹脂、及び天然樹脂が挙げられる。これらの樹脂粒子は、エマルジョン形態、すなわち、樹脂分散体で取り扱われることが多いが、粉体の状態で供給されてもよい。また、樹脂粒子は、1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0014】
洗濯堅牢性と風合い性をバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られることから、樹脂粒子は、ポリエステル系樹脂及びウレタン系樹脂からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましく、ポリエステル系樹脂を含むことがより好ましい。
【0015】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、多価カルボン酸由来の構成単位と、多価アルコール由来の構成単位とを有する樹脂が挙げられる。
【0016】
多価カルボン酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、フタル酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2-カリウムスルホテレフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、グルタル酸、コハク酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水フタル酸、無水コハク酸、及びp-ヒドロキシ安息香酸、並びにそれらの塩が挙げられる。塩としては、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、及びマグネシウム塩が挙げられる。
【0017】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、p-キシリレングリコール、ビスフェノールA-エチレングリコール付加物、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリテトラメチレンオキシドグリコール、ジメチロールプロピオン酸、グリセリン、トリメチロールプロパン、ジメチロールエチルスルホン酸ナトリウム、ジメチロールエチルスルホン酸カリウム、及びジメチロールプロピオン酸カリウムが挙げられる。
【0018】
ポリエステル系樹脂は、ヒドロキシル基、カルボキシ基、及びスルホン酸基、並びにそれらのナトリウム塩を含むことが好ましい。それらの基は、ポリエステル系樹脂中に、1種、又は2種以上含んでもよい。
【0019】
スルホン酸基含有ポリエステル系樹脂は、例えば、多価カルボン酸由来の構成単位と、多価アルコール由来の構成単位と、スルホン酸基含有芳香族モノマー由来の構成単位とを有する。
スルホン酸基含有芳香族モノマーとしては、例えば、5-スルホイソフタル酸、スルホテレフタル酸、4-スルホフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、及び4-スルホ-1,8-ナフタレンジカルボン酸無水物、並びにそれらの塩が挙げれる。塩としては、上記を参考にしてもよく、ナトリウム塩が好ましい。
【0020】
ポリエステル系樹脂がそれらの基を含むことで、ポリエステル系樹脂は、架橋剤と、好ましくはイソシアネート基含有の化合物と良好に反応することが可能となり、布帛、好ましくは水酸基を有する繊維を含む布帛との結着性が良好となる。そのため、洗濯堅牢性と風合い性を更にバランスよく有しながら、更に優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物を得ることが可能となる。
【0021】
ポリエステル系樹脂は、例えば、上記の多価カルボン酸、多価アルコール、及び必要に応じてスルホン酸基含有芳香族モノマーの中から、それぞれ適宜一つ以上を選択し、常法の重縮合反応により合成することで得られる。
【0022】
このようなポリエステル系樹脂としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、エリテール(登録商標)KA-5071S、KT-8803、KT-9204、KT-8701、KT-8904、及びKT-0507(以上、商品名、ユニチカ(株)、ポリエステル樹脂エマルジョン);ハイテック(登録商標)SN-2002(商品名、東邦化学工業(株)、ポリエステル樹脂エマルジョン);プラスコート(登録商標)Z-221、Z-446、Z-561、Z-565、RZ-570、Z-592、Z-687、Z-690、Z-730、Z-760、RZ-105、RZ-570、及びRZ-760(以上、商品名、互応化学工業(株)製);バイロナール(登録商標)MD-1200、MD-1500、及びMD-2000(以上、商品名、東洋紡(株)製)が挙げられる。
【0023】
ウレタン系樹脂とは、ウレタン結合を有する樹脂の総称である。ウレタン系樹脂としては、例えば、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂が挙げられる。また、ウレタン系樹脂として、市販品を用いてもよく、例えば、スーパーフレックス(登録商標)460、460s、840、E-4000(第一工業製薬(株)製)、レザミン(登録商標)D-1060、D-2020、D-4080、D-4200、D-6300、D-6455(大日精化工業(株)製)、タケラック(登録商標)W-6061、WS-6021、W-512-A-6(三井化学(株)製)、サンキュアー(登録商標)2710(LUBRIZOL社製)、パーマリン(登録商標)UA-150(三洋化成工業(株)製)が挙げられる。
【0024】
付加重合系樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、アクリロニトリル、シアノアクリレート、アクリルアミド、オレフィン、スチレン、シリコーン、ロジン、テルペン、エポキシ、ポリエステル、酢酸ビニル、塩化ビニル、ビニルアルコール、ビニルエーテル、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、及び塩化ビニリデンの単独重合体又は共重合体が挙げられる。
【0025】
その他のエマルジョン形態の市販品としては、例えば、ビニブラン(登録商標)150、603、745、1245L(日信化学工業(株)製)、ダンフィックス(登録商標)MM11(日信化学工業(株)製)、センカアンチフリック(登録商標)CX-2(センカ(株)製)、モビニール(登録商標)966A(日本合成化学工業(株)製)、マイクロジェル(登録商標)E-1002、E-5002(日本ペイント(株)製)、ボンコート(登録商標)4001、5454(DIC(株)製)、SAE1014(日本ゼオン(株)製)、サイビノール(登録商標)SK-200(サイデン化学(株)製)、ジョンクリル(登録商標)7100、390、711、511、7001、632、741、450、840、74J、HRC-1645J、734、852、7600、775、537J、1535、PDX-7630A、352J、352D、PDX-7145、538J、7640、7641、631、790、780、7610(BASF社製)、NKバインダーR-5HN(新中村化学(株)製)、サンキュアー2710(日本ルーブリゾール(株)製)、パーマリン(登録商標)UA-150(三洋化成工業(株)製)、スーパーフレックス(登録商標)460、470、610、700(第一工業製薬(株)製)、NeoRez(登録商標)R-9660、R-9637、R-940(楠本化成(株)製)、アデカボンタイター(登録商標)HUX-380、290K((株)ADEKA製)、タケラック(登録商標)W-605、W-635、WS-6021(三井化学(株)製)が挙げられる。
【0026】
なお、上記では市販品を列挙したが、樹脂粒子は常法による合成により得てもよい。
【0027】
より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性と共に、洗濯堅牢性と風合い性を一層バランスよく有する印捺物が得られることから、樹脂粒子の含有量は、処理液組成物の総量に対して、固形分換算で、1質量%以上20質量%以下であることが好ましい。更に優れた発色性及び耐ドライクリーニング性と共に、洗濯堅牢性と風合い性をより一層バランスよく有する印捺物が得られることから、樹脂粒子の含有量は、処理液組成物の総量に対して、固形分換算で、2質量%以上15質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0028】
1.2.架橋剤
処理液組成物は、架橋剤を含む。
処理液組成物において、架橋剤を含むことで処理液組成物に架橋性を付与することができ、樹脂粒子と、染料と、布帛とを結着させることが可能となる。そのため、優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる。
【0029】
架橋剤としては、公知の架橋剤から適宜選択して用いることができ、常温で架橋反応を開始するものであってもよく、熱により架橋反応を開始するものであってもよい。このような架橋剤としては、例えば、自己架橋性を有する架橋剤、不飽和カルボン酸成分と反応する官能基を分子内に複数個有する化合物、及び多価の配位座を有する金属等が挙げられる。
【0030】
洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる傾向にあることから、架橋剤としては、イソシアネート基含有の化合物、及びオキサゾリン基含有の化合物からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましく、イソシアネート基含有の化合物を含むことがより好ましい。
【0031】
イソシアネート基含有の化合物としては、例えば、水分散型(ブロック)ポリイソシアネート等が挙げられる。なお、(ブロック)ポリイソシアネートとは、ポリイソシアネート及び/又はブロックポリイソシアネートを意味する。これらのイソシアネート基含有の化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
水分散型ポリイソシアネートとしては、例えば、ポリエチレンオキシド鎖によって親水性が付与されたポリイソシアネートをアニオン性分散剤又はノニオン性分散剤で水に分散させたものが挙げられる。
【0033】
ポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート;これらのジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ビューレット体、及びイソシアヌレート体等のポリイソシアネートの誘導体(変性物)が挙げられる。また、ポリイソシアネートは、その構造中にイソシアヌレート骨格を有していてもよい。これらのポリイソシアネートは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0034】
水分散型ブロックポリイソシアネートは、水分散型ポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化剤でブロックさせたものである。ブロック化剤としては、例えば、マロン酸ジエチル、アセト酢酸エチル、ε-カプロラクタム、ブタノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム、1,2,4-トリアゾール、ジメチル-1,2,4-トリアゾール、3,5-ジメチルピラゾール、及びイミダゾールが挙げられる。これらのブロック化剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
架橋剤としては、構造中にイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート基含有の化合物であることが好ましく、構造中にイソシアヌレート骨格を有する水分散型ポリイソシアネートであることがより好ましい。イソシアヌレート骨格を有するイソシアネート基含有の化合物は、少なくとも架橋点が3つあるため、樹脂粒子と布帛との結着性をより好適なものとすることができる傾向にある。そのため、洗濯堅牢性と風合い性を更にバランスよく有しながら、更に優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる傾向にある。
【0036】
このようなイソシアネート基含有の化合物としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、フィキサー#100ECO、#104EA、#220、70ECO、#70、#410、及び#400(以上、商品名、(株)村山化学研究所);エラストロン(登録商標)BN-11、BN-27、BN-69、及びBN-77(以上、商品名、第一工業製薬(株))が挙げられる。
【0037】
オキサゾリン基含有の化合物としては、例えば、オキサゾリン基を分子中に2個以上有する化合物が挙げられる。このようなオキサゾリン基含有の化合物としては、例えば、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-メチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-トリメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、ビス(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス(2-オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド、及びオキサゾリン環含有重合体が挙げられる。これらのオキサゾリン基含有の化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる傾向にあることから、オキサゾリン基含有の化合物としては、水溶性のオキサゾリン基含有の化合物を含むことが好ましい。
【0039】
このようなオキサゾリン基含有の化合物としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、エポクロス(登録商標)K-2010、K-2020、K-2030、K-2035E、WS-300、WS-500、及びWS-700(以上、商品名、(株)日本触媒)が挙げられる。
【0040】
架橋剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
洗濯堅牢性と風合い性を更にバランスよく有しながら、更に優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる傾向にあることから、架橋剤の含有量は、処理液組成物の総量に対して、固形分換算で、0.1質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下であることがより好ましい。
【0042】
1.3.有機溶剤
処理液組成物は、有機溶剤を含む。有機溶剤のSP値は13.5以下であり、有機溶剤の標準沸点(以下、「b.p.」とも称する)は100℃以上である(以下、「特定の有機溶剤」とも称する)。特定の有機溶剤は、1種単独又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0043】
本明細書において、SP値は、ハンセン法に基づく溶解度パラメーターであり、ハンセンSP値とも称する。ハンセン法はSP値δを3つの項に分類し、δ2=δd
2+δp
2+δh
2と表して算出したものである。δd、δp、δhはそれぞれ分散力項、双極子間力項、及び水素結合力項に相当する溶解度パラメーターである。SP値及びハンセンSP値の単位は、(cal/cm3)1/2である。ハンセンSP値は、計算ソフトウエアであるHansen-Solubility HSPiPを用いて導出した値を用いてもよい。
【0044】
本明細書において、標準沸点とは、標準大気圧1013.25hPaにおける沸点を意味する。
【0045】
本実施形態において、特定の有機溶剤を用いることで、布帛の吸水挙動を緩和させて、処理液組成物の布帛への浸透性を低下させることができるため、処理液が布帛近傍に滞留しやすくなる。また、特定の有機溶剤はSP値が13.5以下であるため、インク組成物に含まれる染料との相溶性が比較的高い。そのため、布帛近傍に残存した有機溶剤に染料を好適に溶解させることができ、布帛近傍において樹脂粒子を好適に染色することができる。
【0046】
洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる傾向にあることから、有機溶剤のSP値の下限は、7.0以上であることが好ましく、8.0以上であることがより好ましい。
【0047】
洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる傾向にあることから、有機溶剤の標準沸点の上限は、300℃以下が好ましく、289℃以下がより好ましい。
【0048】
特定の有機溶剤は、SP値が13.5以下であり、標準沸点が100℃以上であれば、特に限定されない。このような特定の有機溶剤としては、例えば、SP値が13.5以下であり、標準沸点が100℃以上である、グリコール、グリコールエーテル、含窒素溶剤、エステル類、環状エステル類、及びモノオールが挙げられる。洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる傾向にあることから、特定の有機溶剤は、SP値が13.5以下であり、標準沸点が100℃以上である、グリコール、グリコールエーテル類、及び含窒素溶剤からなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0049】
SP値が13.5以下であり、標準沸点が100℃以上である、グリコールとしては、例えば、トリエチレングリコール(SP値:13.5、標準沸点:287℃)、1,2-ヘキサンジオール(SP値:12.1、標準沸点:170℃)、ジエチレングリコール(SP値:12.1、標準沸点:245℃)、ジプロピレングリコール(SP値:12.1、標準沸点:231℃)、1,3-ブタンジオール(SP値:11.6、標準沸点:207℃)、1,6-ヘキサンジオール(SP値:12.3、標準沸点:250℃)、テトラエチレングリコール(SP値:12.3、標準沸点:314℃)、及び2-エチル-1,3-ヘキサンジオール(SP値:11.3、標準沸点:244℃)が挙げられる。
【0050】
SP値が13.5以下であり、標準沸点が100℃以上である、グリコールエーテルとしては、例えば、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.1、標準沸点:188℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:8.4、標準沸点:171℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.0、標準沸点:278℃)、エチレングリコールジエチルエーテル(SP値:8.3、標準沸点:189℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(SP値:10.5、標準沸点:135℃)、エチレングリコールモノフェニルエーテル(SP値:11.5、標準沸点:245℃)、エチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:9.5、標準沸点:171℃)、エチレングリコールモノベンジルエーテル(SP値:10.9、標準沸点:256℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:11.4、標準沸点:124℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(SP値:10.2、標準沸点:202℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.0、標準沸点:231℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.5、標準沸点:248℃)、及びプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.0、標準沸点:121℃)、及びが挙げられる。
【0051】
SP値が13.5以下であり、標準沸点が100℃以上である、含窒素溶剤としては、例えば、2-ピロリドン(SP値:11.5、標準沸点:245℃)、ジメチルホルムアミド(SP値:12.2、標準沸点:153℃)、N-メチル-2-ピロリドン(SP値:11.2、標準沸点:202℃)、及びアニリン(SP値:11.6、標準沸点:184℃)が挙げられる。
【0052】
SP値が13.5以下であり、標準沸点が100℃以上である、エステル類としては、例えば、エチレングルコールジアセテート(SP値:10.0、標準沸点:190℃)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(SP値:9.2、標準沸点:145℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(SP値:8.5、標準沸点:246℃)、酢酸アリル(SP値:9.2、標準沸点:103℃)、及び酢酸ブチル(SP値:8.5、標準沸点:126℃)が挙げられる。
【0053】
SP値が13.5以下であり、標準沸点が100℃以上である、環状エステル類としては、例えば、ε-カプロラクトン(SP値:10.1、標準沸点:241℃)が挙げられる。
【0054】
SP値が13.5以下であり、標準沸点が100℃以上である、モノオールとしては、例えば、1-ブタノール(SP値:11.3、標準沸点:118℃)、2-エチル-1-ヘキサノール(SP値:9.5、標準沸点:185℃)、及び3-ブテン-1-オール(SP値:11.0、標準沸点:114℃)が挙げられる。
【0055】
洗濯堅牢性と風合い性を更にバランスよく有しながら、更に優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる傾向にあることから、有機溶剤は、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及び2-ピロリドンからなる群より選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0056】
洗濯堅牢性と風合い性を一層バランスよく有しながら、一層優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られる傾向にあることから、有機溶剤の含有量は、処理液組成物の総量に対して、5質量%以上であり、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下がより好ましく、15質量%以上30質量%以下が更に好ましい。
【0057】
1.4.水
処理液組成物は、水を含む。
水は、処理液組成物を布帛に付着させた後に、乾燥によって蒸発飛散する。水としては、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、及び蒸留水等の純水、並びに超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものが挙げられる。また、紫外線照射や過酸化水素の添加等によって滅菌した水は、処理液組成物を長期間保存する場合に、カビやバクテリアの発生を抑制することができるため、好ましい。
【0058】
水の含有量は、処理液組成物の総量に対して、30質量%以上98質量%以下であり、35質量%以上96質量%以下であることが好ましく、40質量%以上94質量%以下であることがより好ましい。水の含有量を上記の範囲とすることにより、処理液の粘度の増大を抑えて、処理液を布帛に付着させる際の作業性、及び付着させた後の乾燥性を向上させることができる。
布帛、好ましく水酸基を有する繊維を含む布帛に対して、より高い親和性と、より高い安全性が得られることから、処理液組成物は、水系の処理液組成物であることが好ましい。なお、本実施形態において、「水系」とは、組成物の総量に対する水の含有量が、30質量%以上であることを称する。
【0059】
1.5.その他の有機溶剤
処理液組成物は、本発明の効果を奏する限り、特定の有機溶剤以外のその他の有機溶剤を含んでもよい。その他の有機溶剤は、SP値が13.5を超え、標準沸点が100℃未満であれば、特に限定されない。その他の有機溶剤は、水溶性を有することが好ましい。
【0060】
そのような水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン;エチレングリコールのようなグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルのようなグリコールモノエーテル;メタノール、エタノールのようなアルコール類が挙げられる。
その他の有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
その他の有機溶剤の含有量は、処理液組成物の総量に対して、通常20質量%以下であり、0.01質量%以上15質量%以下であってもよい。
【0062】
1.6.その他の成分
処理液組成物には、界面活性剤、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防かび剤、腐食防止剤、及びキレート化剤等の種々の添加剤を含んでもよい。
添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
添加剤の含有量は、処理液組成物の総量に対して、例えば、それぞれ0.01質量%以上5.0質量%以下である。
【0064】
1.7.処理液組成物の調製方法
処理液組成物は、各成分を任意の順序で混合し、必要に応じてろ過等を実施して不純物や異物等を除去することで調製することができる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、及びマグネティックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に、各成分を順次添加して撹拌、及び混合する方法が用いられる。ろ過方法としては、遠心ろ過、及びフィルターろ過等が挙げられる。
【0065】
1.8.処理液組成物の物性
処理液組成物の物性は、布帛の種類や、布帛へ付着させる方法、すなわち、塗布方法等によって、任意に調節される。処理液組成物の塗布方法は、後述する。
【0066】
1.8.1.粘度
処理液組成物の20℃における粘度は、1.5mPa・s以上100mPa・s以下とすることが好ましい。処理液の粘度を上記の範囲とすることにより、布帛に付着させた際の、処理液の広がりやすさ等の塗工性を向上させることができる。
なお、処理液組成物の粘度は、例えば、粘弾性試験機MCR-300(Pysica社)を用いて測定する。具体的には、処理液組成物の温度を20℃に調整し、せん断速度200(1/s)におけるせん断粘度(mPa・s)を読み取ることにより測定することができる。
【0067】
1.8.2.表面張力
処理液組成物の25℃における表面張力は、30mN/m以上50mN/m以下とすることが好ましい。処理液組成物の25℃における表面張力を上記の範囲とすることにより、布帛に対して適度な濡れ性や浸透性が発現する。また、処理液組成物が布帛に均一に吸収され易くなるため、処理液組成物を塗布する際に生じる付着量の濃淡差、すなわち、塗布ムラの発生を抑制することができる。
なお、処理液組成物の表面張力は、例えば、自動表面張力計CBVP-Z(協和界面科学社)を用いて測定することができる。具体的には、25℃の環境下にて、白金プレートを処理液組成物で濡らしたときの表面張力を読み取ることにより、測定することができる。
【0068】
2.インクジェットインク組成物
インクジェットインク組成物(以下、「インク組成物」とも称する。)は、本実施形態の処理液組成物を付着させた布帛に捺染をし、印捺物を製造するために用いられる。次に、インク組成物について説明する。
本実施形態に係るインク組成物は、分散染料と、水と含む。
【0069】
2.1.分散染料
処理液組成物を付着させた布帛に対して、優れた発色性が得られることから、インク組成物には、染料として分散染料を含む。分散染料は、通常、粒子状を形成しており、分散媒中に分散剤によって分散する色材である。また、分散染料は、通常、親水性基及び適度の極性基を持つ非イオン染料である。分散染料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
分散染料としては、例えば、C.I.ディスパースイエロー、C.I.ディスパースレッド、C.I.ディスパースブルー、C.I.ディスパースオレンジ、C.I.ディスパースバイオレット、C.I.ディスパースグリーン、C.I.ディスパースブラウン、及びC.I.ディスパースブラックが挙げられる。
【0071】
それらの中でも、分散剤としては、昇華性染料が好ましい。ここで、「昇華性染料」とは、加熱により昇華する性質を有する染料をいう。
そのような昇華性染料として、具体的には、C.I.ディスパースイエロー3、7、8、23、39、51、54、60、71、及び86;C.I.ディスパースオレンジ1、1:1、5、20、25、25:1、33、56、及び76;C.I.ディスパースブラウン2;C.I.ディスパースレッド11、50、53、55、55:1、59、60、65、70、75、93、146、158、190、190:1、207、239、及び240;C.I.バットレッド41;C.I.ディスパースバイオレット8、17、23、27、28、29、36、及び57;C.I.ディスパースブルー14、19、26、26:1、35、55、56、58、64、64:1、72、72:1、81、81:1、91、95、108、131、141、145、及び359;C.I.ソルベントブルー36、63、105、及び111等が挙げられる。
【0072】
本実施形態においては、処理液組成物が付着した布帛に対して、より良好な染色性が得られ、十分な発色性を有する印捺物が得られることから、シアン染料、レッド染料、及びイエロー染料が好ましい。更に良好な染色性が得られ、十分な発色性を有する印捺物が得られることから、シアン染料としては、C.I.ディスパースブルー359がより好ましい。レッド染料としては、C.I.ディスパースレッド60がより好ましい。イエロー染料としては、C.I.ディスパースイエロー54がより好ましい。
【0073】
本実施形態の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、色材の含有量は、インク組成物の総量に対して、0.05質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0074】
2.2.水
インク組成物は、水を含む。
水としては、好ましい態様も含めて、上記の処理液組成物に含まれる水を参照することができる。
【0075】
本実施形態の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、水の含有量は、インク組成物の総量に対して、30質量%以上80質量%以下であることが好ましい。
【0076】
2.3.分散剤
インク組成物は、分散剤を含んでもよい。
インク組成物は、分散剤を含むと、分散染料の分散性が優れ、インク組成物の耐目詰まり性が優れる。分散剤としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ナトリウム・ホルマリン縮合物、及び樹脂が挙げられる。ナフタレンスルホン酸ナトリウム・ホルマリン縮合物は、分子中にナフタレン環を有するスルホン化物をホルマリン縮合して得られる化合物、又はその塩である。分散剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
より良好な分散性を有することから、分散剤としては、樹脂を含むことが好ましい。樹脂としては、例えば、ウレタン系樹脂、スチレンアクリル系樹脂、アクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、及びエチレン酢酸ビニル系樹脂が挙げられる。それらの中でも、耐目詰まり性に優れる点から、樹脂としては、ウレタン系樹脂、及びスチレンアクリル系樹脂が好ましく、スチレンアクリル系樹脂がより好ましい。
【0078】
ウレタン系樹脂としては、分子内にウレタン結合を有する樹脂であれば特に限定されない。ウレタン系樹脂としては、ウレタン結合以外に、主鎖にエーテル結合を含むポリエーテル型ウレタン樹脂、主鎖にエステル結合を含むポリエステル型ウレタン樹脂、及び主鎖にカーボネート結合を含むポリカーボネート型ウレタン樹脂が挙げられる。ウレタン系樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
ウレタン系樹脂としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、例えば、三井化学(株)製のタケラック(登録商標)W6110(商品名)、大成ファインケミカル(株)製のアクリット(登録商標)WBR-022U(商品名)、三洋化成工業(株)製の、パーマリン(登録商標)UX-368T(商品名)、ユープレン(登録商標)UXA-307(商品名)、及びユーコート(登録商標)UWS-145(商品名)、並びにルーブリゾール社製のソルスバース(登録商標)47000(商品名)が挙げられる。
【0080】
スチレンアクリル系樹脂としては、例えば、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、及びスチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体が挙げられる。それらの共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、交互共重合体、及びグラフト共重合体のいずれの形態を有してもよい。
【0081】
スチレンアクリル系樹脂としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、例えば、BASFジャパン(株)製のジョンクリル(登録商標)67(商品名)、及びルーブリゾール社製のソルスバース(登録商標)43000(商品名)が挙げられる。
【0082】
本実施形態の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、分散剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、3.0質量%以上8.0質量%以下であることが好ましい。
【0083】
2.4.界面活性剤
インク組成物は、界面活性剤を含んでもよい。
界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤が挙げられる。界面活性剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及びそのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及びそのアルキレンオキサイド付加物が挙げられる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、日信化学工業(株)製の、オルフィン(登録商標)104シリーズ(商品名)、及びEシリーズ(商品名)、並びにエアープロダクツアンドケミカルスインコーポレッド製のサーフィノール(登録商標)シリーズ(商品名)が挙げられる。
【0085】
フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、及びパーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、旭硝子(株)製の、S-144(商品名)、及びS-145(商品名)が挙げられる。
【0086】
シリコーン系界面活性剤としては、ポリシロキサン系化合物、及びポリエーテル変性オルガノシロキサンが挙げられる。
シリコーン系界面活性剤としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、ビックケミー・ジャパン(株)製のBYK(登録商標)シリーズの、306、307、333、341、345、346、347、348、及び349(以上、商品名)が挙げられる。
【0087】
本実施形態の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、0.5質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。
【0088】
2.5.水溶性有機溶剤
インク組成物は、水溶性有機溶剤を含んでもよい。
水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールのようなグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、及びメチルトリグルコールのようなグリコールモノエーテル類;2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、及びN-エチル-2-ピロリドンのような含窒素溶剤;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、iso-プロピルアルコール、n-ブタノール、2-ブタノール、tert-ブタノール、iso-ブタノール、n-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、及びtert-ペンタノールのようなアルコール類が挙げられる。
水溶性有機溶剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0089】
グリセリン、グリコール類、及びグリコールモノエーテル類は、主に浸透溶剤及び/又は保湿剤として機能することができる。グリコールモノエーテル類は浸透溶剤としての性質が強い傾向があり、グリセリン及びグリコール類は保湿剤としての性質が強い傾向がある。
【0090】
本実施形態の作用効果をより有効かつ確実に奏する観点から、水溶性有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。
【0091】
2.6.その他の成分
インク組成物は、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、防かび剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える金属イオンを捕獲するためのキレート化剤等の、種々の添加剤を含んでもよい。
添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
防腐剤としては、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、及び1,2-ジベンジンチアゾリン-3-オンが挙げられる。
防腐剤としては、市販品を用いることもできる。市販品としては、例えば、ロンザジャパン社製のプロキセル(登録商標)シリーズの、CRL、BND、GXL、XL-2、及びTN(以上、商品名)が挙げられる。防腐剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
添加剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、それぞれ0.01質量%以上5.0質量%以下である。
【0094】
2.7.インク組成物の製造方法
インク組成物は、分散染料と、水と、必要に応じてその他の成分とを、任意の順序で混合し、必要に応じてろ過等を実施して不純物や異物等を除去することで調製することができる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、及びマグネティックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に、各成分を順次添加して撹拌、及び混合する方法が用いられる。ろ過方法としては、遠心ろ過、及びフィルターろ過等が挙げられる。
【0095】
また、インク組成物中において、分散染料をより良好に分散させるために、予め、染料分散剤を調製し、分散染料の代わりに、染料分散剤を用いてインク組成物を調製してもよい。染料分散剤は、例えば、分散染料と、水と、分散剤とを、任意の順序で混合し、ペイントシェーカー等により分散させることで得ることができる。
【0096】
3.組成物セット
組成物セットは、上記の処理液組成物と、上記のインク組成物と、を備える。
【0097】
本実施形態では、予め、処理液組成物を布帛に付着させて、処理液組成物が付着した布帛を得る。そして、処理液組成物が付着した布帛に対して、インク組成物により捺染をすることで、洗濯堅牢性と風合い性をバランスよく有しながら、優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物を得ることができる。
【0098】
4.布帛
本実施形態に係る布帛としては、例えば、綿、麻、羊毛、皮革、及び絹等の天然繊維;ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、アクリル、及びポリウレタン等の合成繊維;ポリ乳酸等の生分解性繊維等が挙げられる。また、布帛としては、それらの混紡繊維であってもよい。
【0099】
洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られることから、布帛としては、水酸基を有する繊維を含むことが好ましく、綿であることがより好ましい。水酸基を有する繊維としては、それらの混紡繊維であってもよい。
【0100】
布帛の形態としては、例えば、織物、編物、不織布、布地、並びに衣類及びその他の服飾品が挙げられる。衣類及びその他の服飾品には、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー、及び壁紙等のファーニチャー類;縫製前の部品としての裁断前後の布地は挙げられる。それらの形態としては、ロール状に巻かれた長尺のもの、所定の大きさに切断されたもの、及び製品形状のものが挙げられる。なお、布帛は、処理液組成物が付着していればよく、布帛として予め処理液組成物を付与したものを用いてもよい。
【0101】
布帛の目付としては、例えば、1.0oz以上10.0oz以下であることが好ましい。布帛の目付がこのような範囲であれば、良好な記録を行うことができる。
【0102】
布帛としては、染料によって予め着色された布帛を用いてもよい。処理液組成物は、処理痕が発生し難いため、予め着色された布帛であっても用いることができる。すなわち、生地が着色されていても、処理痕の発生を抑えた捺染をすることが可能であることから、製品としての印捺物の品質や商品価値を従来よりも高めることができる。
【0103】
布帛が予め着色される染料としては、例えば、酸性染料、及び塩基性染料等の水溶性染料;分散剤を併用する分散染料;反応性染料;溶剤染料等が挙げられる。布帛として綿布帛を用いる場合、綿の染色に適した分散染料及び反応性染料を用いることが好ましく、分散染料がより好ましい。
【0104】
5.捺染方法
5.1.処理液組成物付着工程
本実施形態の捺染方法は、処理液組成物を布帛に付着させる、処理液組成物付着工程を含む。
本工程を経ることで、処理液組成物が付着した布帛が得られる。また、この布帛にインク組成物を付着させることで、洗濯堅牢性と風合い性をバランスよく有しながら、優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られる。
捺染方法は、種々の布帛に適用することができ、良好な印捺を行うことができる。
【0105】
布帛における処理液組成物の付着量は、例えば、0.02g/cm2以上0.5g/cm2以下となるように付着させることが好ましく、0.02g/cm2以上0.3g/cm2以下となるように付着させることがより好ましい。処理液組成物の付着量を上記範囲とすることで、布帛に対して処理液組成物を一層均一に付着でき、印捺物における画像の凝集ムラを更に抑制でき、発色を高めることができる。
【0106】
処理液組成物を布帛に付着させる方法としては、例えば、処理液組成物中に布帛を浸漬させる浸漬塗布方法、処理液組成物をマングルローラー及びロールコーター等で塗布するローラ塗布方法、処理液組成物をスプレー装置等によって噴射するスプレー塗布方法、及び処理液組成物をインクジェット法により噴射するインクジェット塗布方法が挙げられる。それらの塗布方法は、1つの方法を単独で用いて、処理液組成物を布帛に付着させてもよく、2つの方法以上を組み合わせて、処理液組成物を布帛に付着させてもよい。
本実施形態においては、処理液組成物の付着量の設計自由度が高まり、付着時の不具合を生じ難く、均一に布帛に処理液組成物を付着させることができることから、マングルローラー及びロールコーター等のローラを用いて、処理液組成物を布帛に付着させることが好ましい。
【0107】
5.2.乾燥工程
捺染方法では、処理液組成物を布帛に付着させる処理液組成物付着工程の後、布帛に付着させた処理液組成物を乾燥する乾燥工程を含むことが好ましい。処理液組成物の乾燥は、自然乾燥で行ってもよいが、布帛への処理液組成物の付着量が向上し、かつ、乾燥速度も向上する点から、加熱を伴う乾燥であることが好ましい。
【0108】
乾燥工程において、処理液組成物に含まれる、有機溶剤及び水などの揮発成分を揮発させてることで、洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、更に優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られる傾向にある。このような優れた効果が得られる理由について定かではないが、本発明者らは次のように推定している。
すなわち、処理液組成物が付着した布帛を予め乾燥して、布帛から揮発成分をある程度除去することで、有機溶剤及び水などが布帛に馴染みやすくなり、有機溶剤は布帛近傍においてより均一に滞留することが可能となる。ここで、本実施形態に使用される昇華性色材は、油溶性の高い性質を有する。そのため、布帛近傍において、染料は有機溶剤により好適に溶解しながら、布帛への定着性がより高くなり、より優れた発色をすることが可能となると推定している。ただし、理由はこれに限定されない。
【0109】
洗濯堅牢性と風合い性を更にバランスよく有しながら、一層優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られることから、乾燥温度は、例えば、300℃以下とすることが好ましく、250℃以下とすることがより好ましい。また、乾燥温度の上限をこの範囲にすることで、布帛が染料で予め着色されていても、加熱乾燥による染料の昇華を抑えて、布帛の生地色の退色を抑制することができる傾向にある。加熱温度の下限は、例えば、50℃以上であることが好ましく、100℃以上とすることがより好ましく、110℃以上とすることが更に好ましい。
【0110】
加熱方法としては、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法が挙げられる。また、加熱の熱源としては、例えば、温風、赤外線(ランプ)、及びマイクロウェーブ等が挙げられる。
【0111】
加熱時間としては、例えば、1秒以上5分以下とすることが好ましい。加熱時間が上記範囲にあることにより、有機溶剤及び水などの揮発成分を布帛からより好適に揮発させることができ、布帛へのダメージも低減できる傾向にある。
【0112】
加熱時の圧力としては、例えば、1N/cm3以上10N/cm3以下とすることが好ましく、3N/cm3以上6N/cm3以下とすることがより好ましい。乾燥時の圧力が上記範囲にあることにより、有機溶剤及び水などの揮発成分を布帛からより好適に揮発させることができ、布帛へのダメージも低減できる傾向にある。
【0113】
5.1.1.乾燥率
洗濯堅牢性と風合い性を一層バランスよく有しながら、より一層優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られることから、乾燥工程後の処理液組成物が付着した布帛における、下記式(1)で表される乾燥率が、50%以上90%以下であることが好ましい。
乾燥率(%)=[1-〔(WB-W0)/WA〕]×100・・・(1)
式(1)中、WBは、乾燥後の処理液組成物に含まれる揮発成分が付着した布帛の質量を示し、W0は、未処理の布帛の質量を示し、WAは、乾燥前の処理液組成物に含まれる揮発成分が付着した布帛の質量を示す。
【0114】
本明細書において、乾燥率とは、処理液組成物に含まれる揮発成分を布帛に付着させた後、乾燥によって揮発成分が布帛から揮発した度合いを称し、上記式(1)で算出される。すなわち、乾燥率は、揮発成分が付着した布帛から、乾燥によって布帛から揮発した揮発成分の質量の減少率をいう。具体的には、例えば、乾燥率が90%であれば、乾燥によって布帛から揮発成分の90%が揮発した状態(揮発成分の10%が布帛に残存する状態)をいい、乾燥率が20%であれば、乾燥によって布帛から揮発成分の20%が揮発した状態(揮発成分の80%が布帛に残存する状態)をいう。
【0115】
乾燥率は、処理液組成物を布帛に付着させ、付着後の時間に対する質量の変化を実測して検量線を作成し、乾燥後の処理液組成物が付着した布帛の質量を基準として求めることができる。例えば、乾燥時間T2後における処理液組成物が付着した布帛の質量をWT2、乾燥時間T1後における処理液組成物が付着した布帛の質量をWT1、乾燥時間t後における処理液組成物が付着した布帛の質量Wtとしたとき、乾燥時間tにおける乾燥率を{(Wt-WT2)/(WT1-WT2)}×100として算出することもできる。
【0116】
乾燥率は、乾燥温度、乾燥時間、及び乾燥時の圧力を制御することで、適宜設定することができる。なお、乾燥温度、乾燥時間、及び乾燥時の圧力は、上記の乾燥工程における乾燥温度、乾燥時間、及び乾燥時の圧力をそれぞれ参照してもよい。
【0117】
乾燥工程は、乾燥率が50%以上90%以下であるにより、有機溶剤及び水などが布帛に馴染みやすくなり、有機溶剤は布帛近傍においてより均一に滞留する傾向にある。そのため、布帛近傍において、染料は有機溶剤により好適に溶解しながら、布帛への定着性がより高くなり、より優れた発色性を有する印捺物が得られる傾向にある。
【0118】
5.3.インク組成物付着工程
捺染方法は、処理液組成物付着工程又は乾燥工程の後に、処理液組成物が付着した布帛にインク組成物を付着させる、インク組成物付着工程を含むことが好ましい。なお、布帛に付着させるインク組成物は、分散染料を含めば特に限定されず、例えば、本実施形態に係るインクジェットインク組成物を用いることができる。また、インク組成物付着工程については、後述のインクジェット法を用いた捺染方法を参照できる。
【0119】
5.4.洗浄工程
捺染方法では、処理液組成物を布帛に付着させた後、必要に応じて、洗浄工程を含んでもよい。捺染方法が本工程を含むことで、布帛に付着していない処理液組成物に含まれる成分を除去することができる。
【0120】
6.インクジェット捺染方法
インクジェット捺染方法は、インクジェット法を用いて、処理液組成物が付着した布帛に対して、インク組成物を付着する方法である。インクジェット法を採用することにより、微細なパターンの染色部も容易かつ確実に形成することができる。また、種々の布帛に適用することができ、良好な印捺を行うことができる。インクジェット捺染方法により、厚みのある生地に対しても、表裏色差が小さい良好な印捺を行うことができる。インクジェット捺染方法としては、例えば、間接捺染記録方法、及び直接捺染記録方法が挙げられる。
【0121】
6.1.インクジェット記録装置
捺染方法に用いるインクジェット記録装置としては、インク組成物を収容するインク収容体、及びこれに接続される記録ヘッドを少なくとも有し、インク組成物を記録ヘッドから吐出して、処理液組成物が付着した布帛、又は中間転写媒体である転写紙に画像を形成することができれば特に限定されない。また、インクジェット記録装置としては、シリアル型、及びライン型のいずれでも使用することができる。それらの型のインクジェット記録装置には記録ヘッドが搭載されており、布帛又は転写紙と、記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させながら、記録ヘッドのノズル孔からインク組成物の液滴を所定のタイミングで、間欠的にかつ所定の体積で吐出する。これにより、布帛又は転写紙に、インク組成物を付着させて、所定の転写画像を形成することができる。
【0122】
一般に、シリアル型のインクジェット記録装置では、記録媒体の搬送方向と、記録ヘッドの往復動作の方向が交差しており、記録ヘッドの往復動作と記録媒体の搬送動作との組み合わせによって、記録媒体と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させる。またこの場合、一般的には、記録ヘッドには複数のノズル孔が配置され、記録媒体の搬送方向に沿ってノズル孔の列、すなわちノズル列が形成されている。また、記録ヘッドには、インク組成物の種類や数に応じて、複数のノズル列が形成される場合もある。
【0123】
また、一般に、ライン型のインクジェット記録装置では、記録ヘッドは往復動作を行わず、記録媒体の搬送によって記録媒体と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させて、記録媒体と記録ヘッドとの相対的な位置関係を変化させる。この場合においても、一般的には、記録ヘッドには、ノズル孔が複数配置され、記録媒体の搬送方向に交差する方向に沿ってノズル列が形成されている。
【0124】
6.2.間接捺染記録方法
本実施形態のインクジェット捺染方法は、処理液組成物を布帛に付着させる、処理液組成物付着工程と、処理液組成物付着工程の後、布帛に付着させた処理液組成物を乾燥する乾燥工程と、インク組成物を記録ヘッドから吐出して中間転写媒体に付着させる吐出工程と、中間転写媒体に付着したインク組成物を、処理液組成物付着工程により得られた処理液組成物が付着した布帛に転写させる転写工程と、を含む。具体的には、この捺染方法では、昇華性染料等の分散染料を含むインク組成物を、記録ヘッドである液体噴射ヘッドで吐出して中間転写媒体に付着させ、中間転写媒体のインク組成物が付着された面と、処理液組成物が付着した布帛面と、を対向させた状態で加熱し、インク組成物に含まれる分散染料を、処理液組成物が付着した布帛に転写させる。本実施形態において、このような捺染方法を間接捺染記録方法とも称する。この捺染方法であれば、布帛の形態に限定されず、良好に印捺することができる。
【0125】
6.2.1.処理液組成物付着工程
処理液組成物付着工程については、上記の捺染方法を参照できる。
【0126】
6.2.2.乾燥工程
乾燥工程については、上記の捺染方法を参照できる。
【0127】
6.2.3.吐出工程
吐出工程では、加熱したインク組成物を液体噴射ヘッドから吐出して中間転写媒体に付着させる。具体的には、圧力発生手段を駆動させて、液体噴射ヘッドの圧力発生室内に充填されたインク組成物をノズルから吐出させる。
【0128】
中間転写媒体としては、例えば、普通紙等の紙、及びインク受容層が設けられた記録媒体等を用いることができる。上記のインク受容層が設けられた記録媒体は、例えば、インクジェット用専用紙、及びコート紙等で呼称される。それらの中では、シリカ等の無機粒子を含有するインク受容層が設けられた紙がより好ましい。これにより、中間転写媒体に付与されたインク組成物が乾燥する過程で、記録面に滲み等が抑制された中間記録物を得ることができる。また、このような媒体であれば、さらに記録面の表面に分散染料を留めやすく、後の転写工程において、分散染料の昇華をより効率的に行うことができる。
【0129】
本工程では、複数種のインク組成物を用いてもよい。これにより、例えば、表現することのできる色域をより広いものとすることができる。その複数種のインク組成物のうち1種が本実施形態のインク組成物であってもよく、2種以上が本実施形態のインク組成物であってもよい。
【0130】
6.2.4.転写工程
転写工程は、中間転写媒体のインク組成物が付着した面と、処理液組成物が付着した布帛面と、を対向させた状態で加熱し、インク組成物に含まれる分散染料を、処理液組成物が付着した布帛に転写させる工程である。これにより、分散染料が転写され、インク組成物が付着した布帛である印捺物が得られる。
【0131】
本工程では、インク組成物が付与された中間転写媒体を、処理液組成物が付着した布帛と対向させた状態で加熱すればよい。本工程では、中間転写媒体と処理液組成物が付着した布帛とを密着させた状態で加熱することがより好ましい。これにより、例えば、より鮮明な画像を処理液組成物が付着した布帛に記録する、すなわち染色することができる。
【0132】
加熱方法としては、例えば、蒸気によるスチーミング、乾熱によるヒートプレス、サーモゾル、過熱蒸気によるHTスチーマー、並びに加圧蒸気によるHPスチーマーが挙げられる。インク組成物が付与された布帛に対して、直ちに加熱処理が施されてもよく、所定時間経過後に加熱処理が施されてもよい。洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られることから、加熱方法としては、乾熱が好ましい。
【0133】
加熱温度は、160℃以上220℃以下であることが好ましく、190℃以上210℃以下であることがより好ましい。加熱温度が上記範囲内にあることで、転写に要するエネルギーをより少なくすることができ、印捺物の生産性により優れる傾向にある。また、印捺物の発色性がより優れる傾向にある。
【0134】
加熱時間は、加熱温度にもよるが、30秒以上120秒以下が好ましく、40秒以上90秒以下がより好ましい。加熱時間が上記範囲内であることにより、転写に要するエネルギーをより少なくすることができ、印捺物の生産性により優れる傾向にある。また、印捺物の発色性がより優れる傾向にある。
【0135】
転写により、布帛に付着するインク組成物の付着量は、例えば、布帛の単位面積当たり、1.5mg/cm2以上6.0mg/cm2以下であることが好ましい。インク組成物の付着量が、上記の範囲にあることにより、捺染をすることによって形成される画像等の発色性が向上すると共に、布帛に付着したインクの乾燥性が確保されて、画像等のにじみの発生が低減される。
【0136】
6.2.4.その他の工程
本方法では、必要に応じて、中間処理工程、及び後処理工程を含んでいてもよい。
【0137】
中間処理工程としては、例えば、乾燥工程の前に処理液組成物が付着した布帛を予備加熱する工程が挙げられる。
後処理工程としては、例えば、印捺物を洗浄する工程が挙げられる。
【0138】
6.3.直接捺染記録方法
インクジェット捺染方法は、処理液組成物を布帛に付着させる、処理液組成物付着工程と、インク組成物を記録ヘッドから吐出して、インク組成物を、処理液組成物付着工程により得られた処理液組成物が付着した布帛に付着させる、インク組成物付着工程と、を含んでもよい。本実施形態において、このような捺染方法を直接捺染記録方法とも称する。この捺染方法であれば、微細なパターンの染色部も容易かつ確実に形成することができる。また、中間転写媒体等の版を用いる必要がないため、オンデマンド性に優れ、少量生産、及び多品目生産に好適に対応することができる。
【0139】
6.2.1.処理液組成物が付着した布帛を得る工程
処理液組成物付着工程については、上記の捺染方法を参照できる。
【0140】
6.2.2.インク組成物付着工程
インク組成物付着工程では、処理液組成物が付着した布帛に、インク組成物を付着する。また、インク組成物付着工程では、インク組成物が付着した領域上に、インク組成物を更に付着する工程を含んでもよい。
【0141】
インク組成物付着工程において、布帛への最大の付着量は、50mg/cm2以上200mg/cm2以下であることが好ましく、80mg/cm2以上150mg/cm2以下であることがより好ましい。最大の付着量が上記範囲にある場合、発色性がより良好となる。また、画像の摩擦堅牢性も優れたものとなり、凝集ムラが目立たない傾向にある。
【0142】
本工程では、処理液組成物付着工程の後、布帛に付着させた処理液組成物を乾燥する乾燥工程を有することが好ましい。この工程を含むことことで、洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られる傾向にある。乾燥工程については、上記の捺染方法も参照してもよい。
【0143】
本工程では、処理液組成物が付着した布帛に、インク組成物を付着する際に、加熱することが好ましい。これにより、例えば、より鮮明な画像を処理液組成物が付着した布帛に記録する、すなわち染色することができる。
【0144】
加熱方法としては、上記の捺染方法における乾燥工程に記載の方法を参照できる。
【0145】
加熱において、加熱された布帛の表面温度が、60℃以上180℃以下であることが好ましい。表面温度が上記範囲内にあることで、インクジェットヘッドや布帛のダメージを低減できると共に、インクが布帛へ均一に濡れ広がりやすく、浸透しやすくなる。なお、表面温度は、例えば、非接触温度計(商品名「IT2-80」、株式会社キーエンス製)を用いて測定することができる。
【0146】
加熱時間としては、例えば、5秒以上5分以下とすることが好ましい。加熱時間が上記範囲にあることにより、インクジェットヘッドや布帛のダメージを低減しつつ、布帛を充分に加熱することが可能となる。
【0147】
6.2.3.その他の工程
本方法では、必要に応じて、中間処理工程、及び後処理工程を含んでいてもよい。それらの工程については、上記の間接捺染記録方法におけるその他の工程を参照できる。
【実施例0148】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0149】
1.染料捺染用処理液組成物の調製
〔実施例1~16、及び比較例1~5〕
(処理液1~21)
表1及び2に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらに5μmのメンブランフィルターでろ過することにより、処理液組成物として処理液1~21をそれぞれ得た。
【0150】
なお、表1及び2における各成分の配合量の数値は、質量%を表す。樹脂粒子及び架橋剤の配合量は、固形分換算で算出した配合量(質量%)を表す。有機溶剤における「SP値」及び「b.p.」は、それぞれハンセンにより得られるSP値及び1気圧における標準沸点(℃)を表す。純水はイオン交換水を用い、各処理液組成物の質量がそれぞれ100質量%となるように添加した。
【0151】
また、表1及び2に示す各成分は、以下のとおりである。
(樹脂粒子)
・KT-8803…エリテール(登録商標)KT-8803(商品名、ユニチカ(株)、固形分量:30質量%、ガラス転移温度Tg:65℃)
【0152】
(架橋剤)
・#220…フィキサー#220(商品名、(株)村山化学研究所、構造中にイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート基含有の化合物、固形分量:40質量%)
・WS-500…エポクロス(登録商標)WS-500(商品名、(株)日本触媒、オキサゾリン基含有の化合物、固形分量:39質量%)
【0153】
(有機溶剤)
・トリエチレングリコール(SP値:13.5、標準沸点:287℃)
・2-ピロリドン(SP値:11.5、標準沸点:245℃)
・ジプロピレングリコールモノメチルエーテル(SP値:10.1、標準沸点:188℃)
・ジプロピレングリコールジメチルエーテル(SP値:8.4、標準沸点:171℃)
・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値:10.0、標準沸点:278℃)
・1,2-ヘキサンジオール(SP値:12.1、標準沸点:170℃)
・グリセリン(SP値:16.7、標準沸点:290℃)
・エタノール(SP値:13.0、標準沸点:78℃)
【0154】
【0155】
【0156】
2.インクジェットインク組成物の調製
〔Cインク〕
表3に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、スターラーで2時間混合攪拌した。その後、孔径1μmのメンブランフィルターでろ過することにより、インク組成物としてCインクを得た。なお、表3における各成分の数値は、質量%を表す。
【0157】
また、表3に示す各成分は、以下のとおりである。
【0158】
(分散染料)
・Disperse Blue 359:C.I.ディスパースブルー359(市販品)
【0159】
(水溶性有機溶剤)
・プロピレングリコール
・グリセリン
・メチルトリグルコール
【0160】
(界面活性剤〕
・BYK(R)-348:BYK(登録商標)-348(商品名、シリコーン系界面活性剤、ビックケミー・ジャパン(株)製)
【0161】
【0162】
3.印捺物の作製
3.1.処理液組成物が付着した布帛の作製
(実施例1~18、比較例1~5、並びに参考例1及び2)
処理液組成物として処理液1~21のそれぞれを用いて、処理液組成物を布帛に付着させた。具体的には、次のようにして、処理液組成物が付着した布帛を得た。
布帛として、白色の綿ブレード#4000(商品名、東洋紡株式会社製)に、処理液組成物を浸漬させ、絞り率が80%となるようにマングルローラーにて、処理液組成物を布帛に塗布した。その後、ヒートプレス機TP-608M(商品名、太陽精機(株)製)を用いて、温度200℃、及び圧力4.2N/cm3の条件で3秒から40秒間乾燥させて、表4及び5に示す乾燥率を有する処理液組成物が付着した布帛をそれぞれ得た。
【0163】
ここで、乾燥工程後の処理液組成物が付着した布帛における乾燥率は、次のようにして算出した。まず、処理液組成物として処理液2を用いて、上記と同様の条件、すなわち、白色の綿ブレード#4000(商品名、東洋紡株式会社製)に、処理液組成物を浸漬させ、絞り率が80%となるようにマングルローラーにて、処理液組成物を布帛に塗布した。その後、ヒートプレス機TP-608M(商品名、太陽精機(株)製)を用いて、温度200℃、圧力4.2N/cm3、及び3秒の条件で乾燥させた。乾燥後の処理液2に含まれる揮発成分が付着した布帛の質量WBと、未処理の布帛の質量W0と、乾燥前の処理液2に含まれる揮発成分が付着した布帛の質量WAとを測定し、上記式(1)により乾燥率を算出したところ、乾燥率は50%であった。なお、処理液2に含まれる揮発成分は、トリエチレングリコール及び水であった。
【0164】
同様にして、乾燥時間を40秒にして得られた処理液組成物に含まれる揮発成分が付着した布帛を用いて、上記式(1)により乾燥率を算出したところ、乾燥率は90%であった。実施例1~16、及び比較例1~5では、3秒から40秒の間で任意の時間乾燥させたため、乾燥率は、50%以上90%以下であった。
【0165】
次いで、乾燥時間が3秒後の乾燥率50%と、乾燥時間が40秒後の乾燥率90%を用いて、検量線を作成した。実施例17、18、参考例1及び2では、この検量線を用いて、乾燥時間から乾燥率を算出した。
【0166】
また、絞り率(S)は、次の式(2)により算出した。
S(%)=〔(A-B)/B〕×100・・・(2)
なお、式(2)において、Sは、絞り率(%)を、Aは、処理液組成物が付着した布帛の質量を、Bは、処理液組成物が付着する前の布帛の質量を、それぞれ示す。
【0167】
3.2.インク組成物が付着した中間記録媒体の作製
(実施例1~18、比較例1~5、並びに参考例1及び2)
Cインクを、インクジェットプリンターPX-G930(商品名、セイコーエプソン(株)製)のカートリッジに充填した。その後、中間転写媒体としてコート紙(TRANSJET Sportline1254(商品名)、Chem Paper社製)のコート層が設けられた面に、720dpi×720dpiの解像度で、かつ100%Dutyのインク吐出量の場合におけるインク打ち込み量が12mg/inch2の条件で、付着させて、塗り潰しパターンを有する画像を形成した。これにより、インク組成物が付着した中間記録媒体を得た。
【0168】
3.3.捺染
(実施例1~18、比較例1~5、並びに参考例1及び2)
上記で得られたインク組成物が付着した中間記録媒体の画像が形成された面を、上記で得られた処理液組成物が付着した布帛(綿ブレード)のそれぞれに、ヒートプレス機TP-608M(商品名、太陽精機(株)製)を用いて、温度200℃、圧力4.2N/cm3、及び60秒間の条件で熱転写し、Cインクが付着した布帛である印捺物をそれぞれ得た。
【0169】
4.捺染物の評価
4.1.耐ドライクリーニング性
前記の捺染にて得られた実施例1~18、比較例1~5、並びに参考例1及び2における印捺物のそれぞれに対して、JIS L0860における「ドライクリーニングに対する染色堅ろう度試験方法」に規定されるISO105-D10規格に準拠して、以下の評価基準でドライクリーニング堅牢性を評価した。それらの結果を表4及び5に示す。C評価以上の場合、良好な効果が得られているということができる。
(評価基準)
A:ドライクリーニング堅牢性が4級を超える。
B:ドライクリーニング堅牢性が3-4級(中間等級)以上4級以下である。
C:ドライクリーニング堅牢性が2-3級(中間等級)以上3級以下である。
D:ドライクリーニング堅牢性が1-2級(中間等級)以上2級以下である。
E:ドライクリーニング堅牢性が1級以下である。
【0170】
4.2.発色性
前記の捺染にて得られた実施例1~18、比較例1~5、並びに参考例1及び2における印捺物のそれぞれを25℃の室温にて3日間放置した。その後、蛍光分光濃度計FD-7(商品名、コニカミノルタ(株)製)を用いて、下記の測定条件、及び25℃の室温にて、放置後の印捺物のそれぞれにおける、Cインクに対する発色濃度(OD値)を測定した。
(測定条件)
・観測光源:D65
・観測視野:2°
・ステータス:T
・偏光フィルター:非装着
【0171】
その後、実施例1~18、比較例1~5、並びに参考例1及び2における印捺物に対するOD値と、比較例2における印捺物に対するOD値とを対比して、以下の評価基準に従って、Cインクに対する発色性を評価した。それらの結果を表4及び5に示す。C評価以上の場合、良好な効果が得られているということができる。
(評価基準)
A:比較例2における印捺物に対するOD値と比較して、OD値が150%以上であった。
B:比較例2における印捺物に対するOD値と比較して、OD値が125%以上150%未満であった。
C:比較例2における印捺物に対するOD値と比較して、OD値が100%以上125%未満であった。
D:比較例2における印捺物に対するOD値と比較して、OD値が50%以上100%未満であった。
E:比較例2における印捺物に対するOD値と比較して、OD値が50%未満であった。
【0172】
4.3.洗濯堅牢性
前記の捺染にて得られた実施例1~18、比較例1~5、並びに参考例1及び2における印捺物のそれぞれに対して、JIS L0844(洗濯に対する染色堅ろう度試験方法)のA-2法に準拠して、洗濯堅牢性試験を実施した。具体的には、一般家庭用洗濯洗剤(蛍光増白剤フリー)を用いて、家庭用洗濯機(ZABOON(商品名)、(株)東芝製)にて、前記の捺染にて得られた実施例1~18、比較例1~5、並びに参考例1及び2における印捺物をそれぞれ洗濯し、すすぎ、脱水、乾燥した後に、印捺物の変退色を判定した。変退色は、JIS L0804:2004(ISO 105-C10(B2))の変退色グレースケールに従って、退色の程度を以下の評価基準に従って評価した。それらの結果を表4及び5に示す。C評価以上の場合、良好な効果が得られているということができる。
(評価基準)
A:洗濯堅牢性が5級以上である。
B:洗濯堅牢性が4級以上5級未満である。
C:洗濯堅牢性が3級以上4級未満である。
D:洗濯堅牢性が2級以上3級未満である。
E:洗濯堅牢性が2級未満である。
【0173】
4.4.風合い性
前記の捺染にて得られた実施例1~18、比較例1~5、並びに参考例1及び2における印捺物のそれぞれの風合い性を官能試験にて評価した。具体的には、得られた印捺物について、判定員が、以下の基準に従って、その感触を官能評価し、風合い性を評価した。それらの結果を表4及び5に示す。なお、E評価のものであっても実使用には耐えうるものであった。
(評価基準)
A:印捺物が柔らかく、布帛本来の手触性と遜色がない
B:印捺物は柔らかいが、少しごわついた感触が認められる。
C:印捺物がやや硬く、少しごわついた感触が認められる。
D:印捺物が硬く、少しごわついた感触が認められる。
E:印捺物が硬く、顕著にごわついた感触が認められる。
【0174】
【0175】
【0176】
表4及び5に示すように、本実施形態の処理液組成物を布帛に付着させ、処理液組成物が付着した布帛に対して捺染をすることで、優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られることがわかった。
【0177】
実施例2、14、及び15との対比から、樹脂粒子の含有量が、処理液組成物の総量に対して、固形分換算で、1質量%以上20質量%以下であると、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性と共に、洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有する印捺物が得られることがわかった。
【0178】
実施例2と、実施例16との対比から、架橋剤として構造中にイソシアヌレート骨格を有するイソシアネート基含有の化合物を用いると、洗濯堅牢性と風合い性をよりバランスよく有しながら、より優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られることがわかった。
【0179】
実施例2と、実施例1及び3との対比から、有機溶剤の含有量が、処理液組成物の総量に対して、10質量%以上40質量%以下であることで、洗濯堅牢性と風合い性を一層バランスよく有しながら、一層優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する捺染物が得られることがわかった。
【0180】
実施例17及び18と、参考例1及び2との対比から、乾燥工程後の処理液組成物が付着した布帛における乾燥率が50%以上90%以下であることで、洗濯堅牢性と風合い性を更にバランスよく有しながら、一層優れた発色性及び耐ドライクリーニング性を有する印捺物が得られることがわかった。