IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三和油化工業株式会社の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人信州大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033778
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】酸化グラフェンの保存方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/198 20170101AFI20240306BHJP
   C09K 15/02 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C01B32/198
C09K15/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137594
(22)【出願日】2022-08-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/革新的ハイブリッド分離膜と酸素富化プロセスの開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】591089855
【氏名又は名称】三和油化工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078190
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 三千雄
(74)【代理人】
【識別番号】100115174
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 正博
(72)【発明者】
【氏名】内野 雄貴
(72)【発明者】
【氏名】木室 岳
(72)【発明者】
【氏名】鵜飼 順三
(72)【発明者】
【氏名】本間 信孝
(72)【発明者】
【氏名】金子 克美
(72)【発明者】
【氏名】大塚 隼人
【テーマコード(参考)】
4G146
4H025
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB01
4G146AC27B
4G146AC30B
4G146CB32
4H025AA01
4H025AC07
(57)【要約】
【課題】液状の分散媒中にて分散状態で存在する酸化グラフェンについて、還元反応の進行を抑制して有利に保存することが出来る方法を提供すること。
【解決手段】酸化グラフェンの分散液にペルオキソ二硫酸塩を添加することにより、酸化グラフェンの還元等による変質を抑制する。分散液に添加されるペルオキソ二硫酸塩としては、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム及びペルオキソ二硫酸カリウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上のものが好ましく、より好ましくはペルオキソ二硫酸アンモニウムが用いられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンの分散液に、ペルオキソ二硫酸塩を添加することを特徴とする酸化グラフェンの保存方法。
【請求項2】
前記ペルオキソ二硫酸塩が、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム及びペルオキソ二硫酸カリウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上である請求項1に記載の酸化グラフェンの保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェンの保存方法に係り、特に、液中にて分散状態で存在する酸化グラフェンについて、還元反応の進行を抑制して有利に保存することが出来る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化グラフェン(Graphene oxide:GO)は、sp2 結合で炭素原子が平面的に並んだ層状構造を有するグラフェンに、水酸基やカルボキシル基等の酸素を有する官能基(酸素官能基)が導入された構造を呈している。そのような酸化グラフェンの特異な構造や物性等に着目して、近年では、その利用・活用に関する研究が様々な技術分野において進められているのであり、例えば、触媒材料、電池の電極活物質、キャパシタの電極材料、熱電変換材料、発光材料や潤滑材料等として、酸化グラフェンを利用・活用することが期待されている。
【0003】
そのように種々の技術分野において利用が期待されている酸化グラフェンについて、その製造方法としては、酸化剤として過マンガン酸カリウムを反応系内に氷冷下で添加してグラフェンを酸化することにより製造する方法、所謂「ハマーズ法」が、従来より広く知られている(非特許文献1を参照)。また、近年では、製造時の安全性の向上や得られる酸化グラフェンの高品質化を図るべく、上記の如きハマーズ法を改良した酸化グラフェンの製造方法も種々、提案されている(特許文献1、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011-148701号公報
【特許文献2】特開2002-53313号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】William S. Hummers, et.al, Journal of American Chemical Society, 1958, 80, 1339
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、酸化グラフェンは、粉末状のものや、液状の分散媒中に分散せしめた状態のもの(酸化グラフェンの分散液)が一般的に市販されているところ、酸化グラフェンの分散液を長期間、放置しておくと、分散液の呈する色が変化し、その変色した分散液を確認したところ、そこに含まれる酸化グラフェンにおいて還元反応が進行していることを、本発明者等は知得した。即ち、本発明は、かかる知得した事項に基づき、本発明者等による鋭意、検討の末に為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、液状の分散媒中にて分散状態で存在する酸化グラフェンについて、還元反応の進行を抑制して、有利に保存することが出来る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そして、本発明は、上記した課題を解決すべく、酸化グラフェンの分散液に、ペルオキソ二硫酸塩を添加することを特徴とする酸化グラフェンの保存方法を、その要旨とするものである。
【0008】
また、そのような本発明に従う酸化グラフェンの保存方法にあっては、前記ペルオキソ二硫酸塩が、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム及びペルオキソ二硫酸カリウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上であることを、好ましい態様とする。
【発明の効果】
【0009】
このように、本発明に従う酸化グラフェンの保存方法にあっては、酸化グラフェンの分散液にペルオキソ二硫酸塩を添加するものであるところから、分散液中に存在するペルオキソ二硫酸塩により、酸化グラフェンにおいて還元反応の進行が有利に抑制され、以て、分散液中にて酸化グラフェンが有利に保存され得ることとなるのである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
ところで、本発明に係る保存方法は、酸化グラフェンの分散液、換言すれば、液状の分散媒中にて、酸化グラフェンを分散状態で含有するものであれば、市販品であっても、独自に調製したものであっても、何れにも適用することが可能である。酸化グラフェンの分散液(以下、単にGO分散液とも言う。)の市販品としては、富士フイルム和光純薬株式会社が販売している、Stream Chemicals, Inc.製の「Graphene oxide(water dispersion) 」(製品名)を例示することが出来る。また、酸化グラフェンの製造方法や酸化グラフェンの分散液の調製方法についても、特に限定されるものではなく、例えば、特許第6618777号公報の実施例欄に記載の手法に従い、酸化グラフェンを製造し、酸化グラフェンの分散液を調製することが可能である。
【0011】
また、本発明の保存方法を適用するに当たり、後述するペルオキソ二硫酸塩が添加される前の酸化グラフェンの分散液(GO分散液)における酸化グラフェンの含有割合(含有量)や、GO分散液を構成する液状の分散媒についても、特に限定されるものではない。例えば、酸化グラフェンが、その含有割合が0.01~10質量%程度となるように水又は酸性を呈する液状の分散媒に分散せしめられて構成されており、pH(水素イオン濃度指数)が2.0~7.0程度のGO分散液に対して、本発明の保存方法を適用することが可能である。
【0012】
そして、上述の如き酸化グラフェンの分散液(GO分散液)に対して、ペルオキソ二硫酸塩を添加するところに、本発明の大きな技術的特徴が存しているのである。即ち、GO分散液にペルオキソ二硫酸塩を添加することにより、かかる分散液中にて時間の経過と共に進行する酸化グラフェンの還元反応が有利に抑制され、以て、その調製から長期間が経過したGO分散液においても、液中(詳細には、液状の分散媒中)に酸化グラフェンが効果的に存在することとなるのである。
【0013】
本発明において、酸化グラフェンの分散液に添加されるペルオキソ二硫酸塩としては、従来より公知のものであれば、本発明の目的を阻害するものでない限り、如何なるものであっても用いることが可能であるが、好ましくは、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム及びペルオキソ二硫酸カリウムからなる群より選ばれる一種又は二種以上のペルオキソ二硫酸塩が使用される。中でも、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを単独で使用することが、最も好ましい。
【0014】
また、本発明に係る保存方法における、酸化グラフェンの分散液(GO分散液)に対するペルオキソ二硫酸塩の添加割合(添加量)も、本発明の目的を阻害しない量的割合である限りにおいて、特に限定されるものではない。本発明者等が知得したところによれば、比較的多量のペルオキソ二硫酸塩をGO分散液に添加し、長期間に亘って保存した場合、保存条件によっては酸化グラフェンの酸化度が上昇する。従って、本発明において、GO分散液に対するペルオキソ二硫酸塩の添加割合(添加量)は、種々の保存条件(保存温度、保存期間、保存容器の透光性、保存時の遮光の程度、等)に加えて、GO分散液中の酸化グラフェンの酸化度を向上させる必要性の有無等を総合的に勘案して、適宜に決定されることとなる。例えば、後述する実施例欄に示す条件下においてGO分散液を保存する場合、ペルオキソ二硫酸塩は、かかる分散液における濃度が0.001~10質量%となる量的割合において、添加されることが好ましい。
【0015】
なお、本発明において、ペルオキソ二硫酸塩を酸化グラフェンの分散液(GO分散液)に添加する場合、そのままの形態で添加可能であることは勿論のこと、ペルオキソ二硫酸塩を、本発明の目的を阻害しない溶媒に溶解せしめて、溶液の形態でGO分散液に添加することも可能である。
【0016】
上述してきたように、本発明に従う保存方法においては、酸化グラフェンの分散液(GO分散液)にペルオキソ二硫酸塩を添加することを特徴とするものであるが、ペルオキソ二硫酸塩の添加による酸化グラフェンの還元抑制を損なわない限りにおいて、他の成分を添加したり、更なる工程を追加することも可能である。例えば、GO分散液へのペルオキソ二硫酸塩の添加と同時に、又はその添加後、かかる分散液のpHを調製すべく、塩酸等の酸を添加しても良い。
【0017】
そして、本発明に従う酸化グラフェンの保存方法においては、酸化グラフェンの分散液に添加されるペルオキソ二硫酸塩により、酸化グラフェンの還元反応の進行が有利に抑制され、以て、酸化グラフェンは、分散液中(液状の分散媒中)にて有利に保存され得ることとなるのである。
【実施例0018】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明の特徴を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には、上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0019】
先ず、以下の手順に従い、酸化グラフェンの分散液を調製した。
【0020】
-酸化グラフェンの分散液の調製-
200mLビーカーに、濃硫酸(和光一級、富士フイルム和光純薬株式会社製)の21.34gと、天然黒鉛(鱗片状黒鉛、製品名:MD+595、富士黒鉛工業株式会社製)の0.47gとを加え、混合液とした。ビーカー内の混合液を撹拌しながら、濃リン酸(一級、林純薬工業株式会社製)の2.13g及び過マンガン酸カリウム(試薬特級、富士フイルム和光純薬株式会社製)の1.88gを、ビーカー内に投入した。過マンガン酸カリウムの投入が完了した後、混合液を35℃まで加熱し、混合液の液温が35℃に到達後、液温を35℃に維持した状態で4時間、撹拌を継続した。
【0021】
撹拌終了後、室温(20℃)まで冷却した混合液の20gを、100gの室温(20℃)の水が入ったビーカー内に、15分かけて添加した。混合液の添加開始から終了に至るまでの間、ビーカー内の水を常に撹拌し、その水温(液温)は45℃以下を維持した。次いで、ビーカー内に、14%過酸化水素水(試薬特級、富士フイルム和光純薬株式会社製)の105.0gを添加した。なお、かかる過酸化水素水の添加時に、ビーカー内にて発泡が認められたが、急激な液面の上昇は認められなかった。
【0022】
その後、ビーカー内の混合液について遠心分離(10000G、5分)を実施し、上澄みを除去する一方、沈殿物については5%塩酸(試薬一級、富士フイルム和光純薬株式会社製)を添加して、洗浄を行った。この一連の操作を4回、繰り返した。
【0023】
次いで、塩酸洗浄後の沈殿物に対して純水を添加し、遠心分離(10000G、15分)を実施し、上澄みを除去した。この操作を5回、繰り返した。
【0024】
さらに、純水洗浄後の沈殿物に対して、純水を、沈殿物の含有割合が0.1質量%となる量において添加して、遠心分離(6000G、5分)を実施し、精製することにより、酸化グラフェンの分散液(GO分散液)を得た。
【0025】
以上の手順に従って得られた酸化グラフェンの分散液(GO分散液)の5.32gを量り取り、この量り取ったGO分散液を、ホットプレート上にて60℃で30分、加熱して、水分を除去した。水分除去後の残渣物の質量を測定したところ、0.0053gであったことから、得られたGO分散液が、酸化グラフェンを0.1質量%の割合において含有するものであることが確認された。本明細書の以下の記載において、上記手順に従って得られた酸化グラフェンの分散液を「0.1質量%GO分散液」と表す。
【0026】
以下の各実験において、0.1質量%GO分散液に対するペルオキソ二硫酸塩の添加は、製造(調製)直後の0.1質量%GO分散液を用いて、容器内の所定量の0.1質量%GO分散液に対して所定量のペルオキソ二硫酸塩(実験IIにおいては、更に所定量の塩酸)を添加し、室温(20℃)下で容器を振盪することにより実施し、かかる添加後の分散液が、ペルオキソ二硫酸塩を下記に示す割合にて含有するように(実験IIにおいては、更に、下記に示すpHとなるように)、調整した。また、ペルオキソ二硫酸塩(及び塩酸)が添加された0.1質量%GO分散液の保存については、「半透明容器の使用、20℃前後の室温下、遮光無し、容器を静置」との条件にて実施し、ペルオキソ二硫酸塩を添加した日を静置0日目(静置日数:0日)とした。
【0027】
-実験I-
本発明に従う保存方法の効果を確認すべく、以下に示す手順に従い、製造(調製)から時間が経過した0.1質量%GO分散液についてTG-DTA測定(熱重量・示差熱同時測定)を実施した。
【0028】
具体的には、半透明容器内に収容された製造(調製)直後の0.1質量%GO分散液に、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを下記表1に示す割合において添加し、その後、135日、静置した。かかる静置後の分散液について、TG-DTA測定(熱重量・示差熱同時測定)を行った(実施例1~実施例3)。一方、本発明に対する比較例として、半透明容器内に収容された製造(調製)直後の0.1質量%GO分散液に、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加することなく、1日静置したもの、及び、135日静置したものについても、各々、TG-DTA測定を行なった(比較例1、比較例2)。なお、TG-DTA測定に際しては、以下の手順に従い、測定用試料を作製した。
【0029】
先ず、静置後の各分散液の所定量を遠沈管に入れ、体積比で等倍のイオン交換水を加えた。遠沈管を手で軽く振った後、遠心分離(10000G、15分)を実施した。かかる遠心分離の後、上澄みを除去し、最初に加えたイオン交換水と同量のイオン交換水を再度、加えた。加えたイオン交換水中に沈殿物を分散せしめた後、先程と同様の条件にて遠心分離を実施した。再度、上澄みを除去し、同じ操作(イオン交換水の添加、沈殿物の分散、遠心分離)を行なった。得られた沈殿物をシャーレに取り出し、60℃で1時間、加熱して水分を除去することにより、TG-DTA測定用試料を準備した。
【0030】
TG-DTA測定の結果[一段目燃焼温度(K)、一段目燃焼カロリー(cal/g)、二段目燃焼温度(K)、二段目燃焼カロリー(cal/g)]を、下記表1に示す。
【0031】
なお、TG-DTA測定の結果について、先ず、一段目燃焼温度は、水酸基等の低温で脱離し易い官能基が分解する温度を示すものである。酸化グラフェンの酸化度が高いことは、酸化グラフェンの表面に、より低温で脱離し易い官能基が多く存在していることを意味し、これにより、一段目燃焼温度は低温側にシフトする。これに伴い、低温で脱離する官能基が増え、分解熱の総量が増加するため、一段目燃焼カロリーは上昇する。しかしながら、酸化グラフェンの酸化度が高まるに従い、カルボキシル基の様な過酸化物の比率も上昇するため、ある程度の酸化度を境に、一段目燃焼に伴う酸素消費量が減少方向に、つまり、一段目燃焼カロリーが低下する方向に、転ずることが推測できる。
【0032】
また、二段目燃焼温度及び二段目燃焼カロリーは、還元型酸化グラフェンの燃焼反応を解析するものである。酸化グラフェンは、室温条件下で保存した場合にあっても、熱や光等の刺激によって低温で脱離し易い官能基が分解し、緩やかに還元が進行することが知られており、そのような還元が進行した酸化グラフェンが還元型酸化グラフェンと称されている。TG-DTA測定において、酸化グラフェンは、一段目の燃焼で脱離し易い官能基を失った後、二段目の燃焼で完全燃焼する。
【0033】
【表1】
【0034】
1)一段目燃焼温度及び一段目燃焼カロリーの測定結果について
先ず、GO分散液にペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加していない比較例1(静置日数:1日)と比較例2(静置日数:135日)との対比より、135日間の静置により、一段目燃焼温度は22(K)上昇し(479→501K)、一段目燃焼カロリーは79(cal/g)の低下(355→276)が認められた。これに対し、比較例1と、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを1質量%の割合となるように含有せしめた実施例1とを比較すると、135日間の静置の後でも、一段目燃焼温度の上昇は14(K)(479→493)に抑えられ、また一段目燃焼カロリーの低下も44(cal/g)(355→311)に抑えられている。これらの結果より、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを、GO分散液に1質量%の割合となるように含有せしめることにより、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加しない場合と比較して、低温で脱離し易い官能基がより多く酸化グラフェンの表面に止まることが、理解される。
【0035】
また、比較例1と、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを5質量%、10質量%の割合となるように含有せしめた実施例2、実施例3とを対比するに、135日間の静置後において、一段目燃焼温度は、各々、14(K)(479→465)、7(K)(479→472)の低下となり、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加していない比較例1の一段目燃焼温度より低い温度となっている。これは、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの添加量が多量であったため、酸化グラフェンの酸化度が上昇したことを意味している。この点については、実施例2(ペルオキソ二硫酸アンモニウムを5質量%含有)の一段目燃焼カロリー:301(cal/g)よりも、実施例3(ペルオキソ二硫酸アンモニウムを10質量%含有)の一段目燃焼カロリー:261(cal/g)の方が、より低下していることにより、裏付けされている。従って、多量のペルオキソ二硫酸アンモニウムの添加によって、酸化グラフェンの酸化度が高まり、水酸基に比べて、カルボキシル基等の過酸化物の比率が増えるものと推測される。
【0036】
2)二段目燃焼温度及び二段目燃焼カロリーの測定結果について
先ず、GO分散液にペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加していない比較例1(静置日数:1日)について、二段目燃焼温度は877(K)、二段目燃焼カロリーは70(cal/g)であり、比較例2(静置日数:135日)との対比より、燃焼点が高く、低カロリーで燃え難いことが理解される。これは、酸化グラフェンが、グラフェン表面がさながら酸化被膜で覆われ、酸化反応が進行し難い状態となっていることが想定される。その一方、GO分散液にペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加せず、135日間静置した比較例2については、二段目燃焼温度は723(K)、二段目燃焼カロリーは1370(cal/g)であり、静置日数が1日である比較例1と比較して、低温で発火・高カロリーとなっており、燃え易い状態であることが理解される。以上より、GO分散液にペルオキソ二硫酸塩を添加することなく保存した場合、酸化グラフェンは、時間の経過と共に、その表面の酸化被膜が減少、消失し、還元反応が進行するものと推測される。
【0037】
その一方、GO分散液にペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加していない比較例2(静置日数:135日)と、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを1質量%の割合となるよう含有せしめた実施例1(静置日数:135日)とを対比すると、二段目燃焼温度(K)は上昇(723→851)し、二段目燃焼カロリー(cal/g)は低下する(1370→647)。また、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを5質量%の割合となるよう含有せしめた実施例2(静置日数:135日)の測定結果より、10質量%の割合となるように含有せしめた実施例3(静置日数:135日)の測定結果を検討すると、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの含有割合の増加(添加量の増加)により、二段目燃焼温度(K)は低下し(879→854)、二段目燃焼カロリー(cal/g)は上昇した(496→527)。以上より、本実施例の条件においては、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの含有割合として1質量%と5質量%との間に極大点が存在すると推測される。
【0038】
上述した実験Iの結果より、本実施例の条件下においては、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを、GO分散液中において2~3質量%程度の割合となるように含有(添加)せしめることが好ましいこと旨、理解されるのである。
【0039】
-実験II-
保存後のGO分散液の色の変化を確認すべく、以下の実験を行なった。具体的には、下記表3及び表4に示すように、実施例4~実施例24においては、ペルオキソ二硫酸のアンモニウム塩、カリウム塩又はナトリウム塩を、製造(調製)直後の0.1質量%GO分散液に、下記表3又は表4に示す割合において添加し、そこに示す静置日数を経過した分散液を試料とした。一方、比較例3については、製造(調製)直後の0.1質量%GO分散液にペルオキソ二硫酸塩を添加することなく、表3に示す静置日数を経過した分散液を試料とした。また、実施例7~実施例24、比較例4~比較例6に係る各GO分散液には、塩酸を添加して、下記表4に示すpHに調製した。
【0040】
静置後の分散液における色の評価は、5人の観察者による、下記表2に示すRGB値により特定される15種類の色見本と、静置後のGO分散液の各々との直接対比により実施した。静置後のGO分散液について、各観察者が最も近いと判断する色見本を示し、観察者による判断が分かれた場合には、最も多くの観察者が近いと判断した色見本を、当該分散液の評価とした。静置後のGO分散液のそれぞれに対する評価(色見本記号)を、下記表3及び表4に併せて示す。
【0041】
【表2】
【0042】
【表3】
【0043】
【表4】
【0044】
ペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加した実施例4~実施例6の結果を示す表3について、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加して1日、静置したGO分散液は、ペルオキソ二硫酸アンモニウムの含有割合を問わず、また、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加せずに1日、静置した比較例3と同様の評価(色見本記号:2-a)であった。しかしながら、120日間静置したGO分散液については、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加していない比較例3については「5-a」へと変化し、また、実施例4(ペルオキソ二硫酸アンモニウムを1質量%含有)、実施例5(同5質量%含有)及び実施例6(同10質量%含有)についても、それぞれ、「4-a」、「1-a」、「1-a」へと変化した。先述した実験Iの結果より、120日間静置したGO分散液において、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを添加していない比較例3については酸化グラフェンの還元反応が進行したと考えられる一方、ペルオキソ二硫酸アンモニウムを5質量%の割合で含有する実施例5や、10質量%の割合で含有する実施例6については、酸化グラフェンの酸化が進行したと考えられる。
【0045】
表4に示すペルオキソ二硫酸カリウム又はペルオキソ二硫酸ナトリウムを添加した場合について、それらカリウム塩及びナトリウム塩は、アンモニウム塩と比較して解離度が高いため、GO分散液に対する添加量が少量でも、かかる分散液中にてペルオキソ二硫酸イオン(SO)が高くなり、酸化グラフェンにおける酸化反応が過剰に進行したと、表4に示す結果より推測される。従って、ペルオキソ二硫酸カリウム又はペルオキソ二硫酸ナトリウムを使用する場合には、その添加量の調整に機微が要求されることが想定されるところから、本発明においてはペルオキソ二硫酸アンモニウムの使用が好ましいことが、本実験結果より理解されるのである。