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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033780
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】細胞増殖促進装置
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
C12M1/00 C
C12M1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137596
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】519058631
【氏名又は名称】藤野 英己
(71)【出願人】
【識別番号】514266404
【氏名又は名称】日本気圧バルク工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100130281
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 道幸
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100165489
【弁理士】
【氏名又は名称】榊原 靖
(74)【代理人】
【識別番号】100214813
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 幸江
(72)【発明者】
【氏名】藤野 英己
(72)【発明者】
【氏名】天野 英紀
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB11
4B029CC01
4B029DF04
4B029DG10
(57)【要約】
【課題】
培養容器内の環境条件を変化させることにより、細胞の増殖をより促進させることができる細胞増殖促進装置を提供する。
【解決手段】
内部に細胞および培地を収容する培養容器10と、培養容器10内の圧力を下げるための減圧手段20と、を備え、細胞および培地を収容した状態の培養容器10内を、減圧手段20により0.01気圧以上1.0気圧未満の範囲の任意の圧力である微真空状態に維持し、また、培養容器30内の酸素濃度を、0.01%以上21%以下の範囲の任意の濃度に維持するための酸素濃度調整手段50を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞の増殖を促進するための細胞増殖促進装置であって、
内部に前記細胞および培地を収容する培養容器と、
前記培養容器内の圧力を下げるための減圧手段と、を備え、
前記細胞および前記培地を収容した状態の前記培養容器内を、前記減圧手段により0.01気圧以上1.0気圧未満の範囲の任意の圧力である微真空状態に維持することを特徴とする細胞増殖促進装置。
【請求項2】
前記培養容器内の酸素濃度を、0.01%以上21%以下の範囲の任意の濃度に維持するための酸素濃度調整手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の細胞増殖促進装置。
【請求項3】
前記培養容器は、前記培養容器外から前記細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む開閉手段と、前記培養容器外との間で前記細胞、液体または気体の少なくとも1つの吸排出を行う吸排出手段と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞増殖促進装置。
【請求項4】
前記培養容器は、前記培養容器内の圧力の変化により開閉して前記培養容器外から前記細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む開閉手段と、前記培養容器外との間で前記細胞、液体または気体の少なくとも1つの吸排出を行う吸排出手段と、を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞増殖促進装置。
【請求項5】
前記培養容器は、前記培養容器外から前記細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む開閉手段と、前記培養容器外との間で前記細胞、液体または気体の少なくとも1つの吸排出を行う吸排出手段と、を備え、
前記培養容器は、動物の体内に埋め込み可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞増殖促進装置。
【請求項6】
前記培養容器は、前記培養容器内の圧力の変化により開閉して前記培養容器外から前記細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む開閉手段と、前記培養容器外との間で前記細胞、液体または気体の少なくとも1つの吸排出を行う吸排出手段と、を備え、
前記培養容器は、動物の体内に埋め込み可能であることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞増殖促進装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の増殖を促進するための細胞増殖促進装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、再生医療、食品、化粧品、医薬品等の分野において動植物の細胞を活用することを目的として、細胞の増殖を促進させる培養装置および培養方法の研究が行われている。培養を行う上で重要な要因としては、温度、ガス濃度、培養液の組成、pH等が挙げられる。なかでも低酸素雰囲気下で培養を行うことで細胞の増殖が促進されることが報告されており、培養容器内を低酸素環境にする試薬や装置が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アスコルビン酸類等の有機物を主剤とする雰囲気調整剤、アルデヒド除去剤並びに細胞及び培地を収容した培養容器を、ガスバリア性密閉容器内に設置し、密閉容器内の酸素濃度を18%以下、炭酸ガス濃度を2%以上10%以下として細胞を培養することを特徴とする細胞培養方法が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、内部のガスが所定の二酸化炭素濃度に調節された恒温槽内に配置される培養ユニットであって、密閉容器と、鉄粉等の脱酸素剤を収容する脱酸素剤容器と、酸素濃度検出部と、恒温槽内から密閉容器内に供給され得るガスの経路を切り換える制御装置と、を備え、恒温槽内のガスを、脱酸素剤を用いて酸素濃度を調節して密閉容器内に供給することを特徴とする培養ユニットが記載されている。
【0005】
また、特許文献3には、扉を有する気密の培養室であって、空気中のNを自動的に濃縮するN濃縮器とNの貯留タンクのそれぞれの自動弁V、Vを制御部により開閉して制御しながらO濃度を目標の一定値に保つよう構成したことを特徴とする低酸素培養器が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-291166号公報
【特許文献2】特開2017-23088号公報
【特許文献3】特開平8-56646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1の雰囲気調整剤を収容した培養容器、特許文献2の脱酸素剤を備えた培養ユニット、特許文献3の低酸素培養器は、酸素濃度を低濃度に調整し低酸素環境下での細胞増殖を可能にしているものの、その増殖は増殖スピード、費用等の点で様々な分野での需要の高まりに対応するには十分とは言えなかった。そのため、細胞の増殖をさらに促進させて、より効率的に培養することが求められていた。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、培養容器内の環境条件を変化させることにより、細胞の増殖をより促進させることができる細胞増殖促進装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の細胞増殖促進装置は、内部に細胞および培地を収容する培養容器と、培養容器内の圧力を下げるための減圧手段と、を備え、細胞および培地を収容した状態の培養容器内を、減圧手段により0.01気圧以上1.0気圧未満の範囲の任意の圧力である微真空状態に維持することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の細胞増殖促進装置は、培養容器内の酸素濃度を、0.01%以上21%以下の範囲の任意の濃度に維持するための酸素濃度調整手段を備えることを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の細胞増殖促進装置は、培養容器が、培養容器外から細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む開閉手段と、培養容器外との間で細胞、液体または気体の少なくとも1つの吸排出を行う吸排出手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の細胞増殖促進装置は、培養容器が、培養容器内の圧力の変化により開閉して培養容器外から細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む開閉手段と、培養容器外との間で細胞、液体または気体の少なくとも1つの吸排出を行う吸排出手段と、を備えることを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の細胞増殖促進装置は、培養容器が、培養容器外から細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む開閉手段と、培養容器外との間で細胞、液体または気体の少なくとも1つの吸排出を行う吸排出手段と、を備え、培養容器は、動物の体内に埋め込み可能であることを特徴とする。
【0014】
請求項6記載の細胞増殖促進装置は、培養容器が、培養容器内の圧力の変化により開閉して培養容器外から細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む開閉手段と、培養容器外との間で細胞、液体または気体の少なくとも1つの吸排出を行う吸排出手段と、を備え、培養容器は、動物の体内に埋め込み可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本願の発明によれば、減圧手段により培養容器内を常圧より低圧の任意の圧力である微真空状態に維持することができ、これを用いて細胞を培養することによって、細胞の増殖をより促進させることができる細胞増殖促進装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る細胞増殖促進装置の一実施形態を示す説明図である。
図2】実施例1の細胞の培養結果を示す説明図である。
図3】実施例2の細胞の培養結果を示す説明図である。
図4】本発明に係る細胞増殖促進装置の別の実施形態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の形態について図面を参照しながら具体的に説明する。図1は、本発明に係る細胞増殖促進装置の一実施形態を示す模式図である。図2は、実施例1の細胞の培養結果を示す説明図である。図3は、実施例2の細胞の培養結果を示す説明図である。図4は、本発明に係る細胞増殖促進装置の別の実施形態を示す模式図である。
【0018】
本発明に係る細胞増殖促進装置1は、細胞の増殖を促進するためのものであって、図1に示すように、培養容器10と、減圧手段20とを備えている。培養する細胞は任意であるが、例えば、間葉系幹細胞、筋芽細胞、骨芽細胞等である。培地は、特に制限はなく、培養する細胞に適したものを選択することができる。
【0019】
培養容器10は、その内部に細胞および培地を収容するものである。培養容器10の大きさ、形状は、その中に細胞および培地を収容することができ、細胞が増殖可能な空間を有していれば、特に限定されない。細胞および培地を収容する方法は、予め細胞および培地を収容した細胞培養用ディッシュ等の容器を培養容器10の内部に収容してもよいし、細胞および培地を培養容器10の内部に直接収容してもよい。細胞および培地を培養容器10の内部に直接収容する場合は、培養容器10の内壁面上の全部または一部に細胞を接着し保持する細胞接着部を備えていてもよい。
【0020】
減圧手段20は、培養容器10内の圧力を下げるためのものである。減圧手段20の配置については任意であり、培養容器10の中でも外でもよい。減圧手段20が培養容器10内に配置されている場合、培養容器10内の空気は減圧手段20により培養容器10外に押し出される。または、減圧手段20が培養容器10外に配置されている場合、培養容器10内の空気は減圧手段20により培養容器10外に吸い出される。減圧手段20は、例えば、減圧用コンプレッサ、ポンプ等である。
【0021】
本発明の細胞増殖促進装置1は、細胞および培地を収容した状態の培養容器10内を、減圧手段20により0.01気圧以上1.0気圧未満の範囲の任意の圧力である微真空状態に維持している。細胞増殖促進装置1は、減圧手段20により、培養容器10内を所望する低圧環境に制御することができる。このため、培養容器10は、微真空状態に耐え得るものである必要がある。
【0022】
前述したように本発明の細胞増殖促進装置1は、培養容器10内を減圧手段20により微真空状態に維持することができる。そして、微真空状態である低圧環境下で細胞を培養すると、低圧環境が培養容器10内に収容された細胞に対して影響を及ぼし、低酸素環境よりも細胞の増殖を促進することができる。細胞増殖促進装置1を用いた微真空状態での細胞増殖促進効果については、下記実施例において具体的に説明する。
【0023】
なお、細胞増殖促進装置1は、培養容器10内の圧力をモニタするための圧力計や、酸素濃度をモニタするための酸素濃度計を備えていてもよい。本発明において低圧とは、大気圧(常圧)である1.0気圧未満、0気圧より大きい値であり、微真空状態とは、通常の大気圧(1.0気圧)より低い0.01気圧以上1.0気圧未満の範囲の任意の圧力の気体で満たされた空間の状態を意味する。
【0024】
また、本発明の細胞増殖促進装置2は、図4に示すように、上述した培養容器10および減圧手段20と同様の機能を有する培養容器30および減圧手段40に加えて、酸素濃度調整手段50を備えていてもよい。酸素濃度調整手段50は、培養容器30内の酸素濃度を、0.01%以上21%以下の範囲の任意の濃度に維持するためのものである。なお、細胞増殖促進装置2に酸素濃度調整手段50を備えていない構成にしてもよい。
【0025】
酸素濃度調整手段50の構成については特に限定されない。例えば、外気および/または培養容器30内からの排気が通過する位置に酸素濃度調整手段50を配置し、PSA(Pressure Swing Adsorption)法等により吸着剤に窒素を選択的に吸着させて酸素と窒素を分離し、高酸素濃度の空気を排出し、低酸素濃度の空気を培養容器30内に供給する。または、高酸素濃度の空気もしくは酸素貯蔵タンクから酸素を供給する方法等がある。
【0026】
本発明の細胞増殖促進装置2は、細胞および培地を収容した状態の培養容器30内を、減圧手段40により、常圧より低圧の任意の圧力に維持し、かつ、酸素濃度調整手段50により、圧力によって定まる酸素濃度よりも低濃度、あるいはそれよりも高濃度の任意の酸素濃度に維持することができる。これにより、培養容器30内の環境を、所望する低圧、および、圧力によって定まる酸素濃度以外も含む所望する酸素濃度に制御することができる。
【0027】
細胞増殖促進装置2の培養容器30は、培養容器30外から細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む開閉手段32と、培養容器30外との間で細胞、液体または気体の少なくとも1つの吸排出を行う吸排出手段34と、を備えていてもよい。細胞、液体または気体は、例えば、培養細胞、培地、薬剤、体液、老廃物、空気、酸素、窒素等が挙げられる。
【0028】
開閉手段32は、外部からの電気信号等により制御が可能な電磁開閉弁等の任意のタイミングで開閉するものであってもよいし、培養容器30内の圧力の変化により開閉するものであってもよい。吸排出手段34は、管路であり、管路には弁を設けてもよい。つまり、開閉手段32と吸排出手段34はいずれも培養容器30外から細胞、液体または気体の少なくとも1つを取り込む機能を有しているため、別々に設けてもよいが、兼用してもよく、また、それぞれ複数設けてもよい。これにより、培養容器30の内部と外部との間で、例えば、ガス、栄養、老廃物等の物質をやり取りすることができる。
【0029】
また、本発明の細胞増殖促進装置2の開閉手段32および吸排出手段34を備えた培養容器30は、動物の体内に埋め込み可能であってもよい。なお、動物とは人間を含むものである。開閉手段32および吸排出手段34を備えた培養容器30を動物の体内に埋め込むことにより、開閉手段32および/または吸排出手段34から被験体自身の体液を取り込み、これを用いて細胞を増殖させることが可能になる。これにより、培養する細胞の免疫拒絶のリスクを回避することができる。
【0030】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明する。本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例0031】
本実施例である低圧群では、細胞増殖促進装置1は、図1に示すように、培養容器10および減圧手段20を備えている。培養容器10は、容量123Lであって、内部の温度を一定に保ち、内部の圧力を低圧に維持可能なものである。また、減圧手段20は、培養容器10外に配置され、培養容器10内の空気を培養容器10外に吸い出して圧力を下げるための減圧用コンプレッサである。なお、培養容器10には、圧力計と酸素濃度計を備えていることが好ましい。
【0032】
次に、本実施例における細胞増殖促進装置1を用いた細胞培養方法について説明する。まずは、培養容器10内が常圧、通常の酸素濃度の状態で、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にマウス筋芽細胞株C2C12細胞を播種した直径35mmのディッシュを培養容器10内に収容する。そして、減圧手段20を稼働させて培養容器10内部の圧力を0.6気圧に低下させ、これを維持する。
【0033】
このとき培養容器10内の酸素濃度を10%とする。培養容器10内の圧力を減圧手段20により目的とする所定の低圧に維持し、かつ、図1には示していないが、培養容器10外に配置されたPSA方式の酸素濃度調整手段50を用いて、窒素ガスを培養容器10内に供給することによって、培養容器10内の酸素濃度は、所定の低圧により定まる所定の低酸素濃度よりも低い酸素濃度に維持される。本実施例において細胞増殖促進装置1は、培養容器10内の圧力を1.0気圧から0.01気圧までの間の任意の圧力に調整可能である。37℃、5%COの条件下で48時間培養を行い、その後、細胞数を測定する。
【0034】
[比較例1]
比較例1である通常群では、細胞を1.0気圧、酸素濃度21%の通常環境で培養したこと以外は実施例1と同様に培養を行い、その後、細胞数を測定する。
【0035】
[比較例2]
比較例2である低酸素群では、細胞を1.0気圧、酸素濃度7%の低酸素環境で培養したこと以外は実施例1と同様に培養を行い、その後、細胞数を測定する。
【0036】
その結果、増殖した細胞数は、図2に示すように、比較例1の通常群に対する実施例1の低圧群の比率は1.7であり、比較例1の通常群に対する比較例2の低酸素群の比率は1.5であった。よって、実施例1では、低圧群は、従来の培養方法である常圧・通常の酸素濃度である通常群、常圧・低酸素濃度である低酸素群と比べて、細胞の増殖をより促進した。すなわち、細胞の増殖には、低圧であることが寄与しているといえる。
【実施例0037】
本実施例である低圧群では、培養容器10内部の圧力を0.5気圧に維持し、培養容器10内の気体中の酸素濃度に代えて培養容器10内の培地の溶存酸素濃度を測定し、それを3mg/Lとし、培地に使用するウシ胎児血清(FBS)の濃度を10%以外に5%、1%を加え3種類としたこと以外は、実施例1と同様に細胞増殖促進装置1を用いて細胞培養を行う。37℃、5%COの条件下で48時間培養を行い、その後、細胞数を測定する。
【0038】
[比較例3]
比較例3である通常群では、細胞を1.0気圧、溶存酸素濃度6.7mg/Lの通常環境で培養したこと以外は実施例2と同様に培養を行い、その後、細胞数を測定する。
【0039】
その結果、増殖した細胞数は、図3に示すように、比較例3の通常群FBS10%を1とした場合、これに対する実施例2の低圧群FBS10%の比率が2.1であった。また、通常群FBS10%に対する通常群FBS5%の比率は0.9であり、低圧群FBS5%の比率は2.0であった。また、通常群FBS10%に対する通常群FBS1%の比率は0.2であり、低圧群FBS1%の比率は0.7であった。
【0040】
よって、実施例2では、低圧群は、従来の培養方法である常圧・通常の酸素濃度である通常群と比べて、いずれの血清濃度でも細胞の増殖をより促進した。すなわち、細胞の増殖には、低圧であることが寄与しているといえる。また、低圧群は血清濃度をFBS1%に低下させても、通常群FBS10%または5%より少し低いものの同程度の培養効率であり、高価な血清の添加量を大幅に減少させて培養にかかる費用を低減させることが可能である。
【実施例0041】
本実施例では、細胞増殖促進装置2は、図4の模式図に示すように、培養容器30、減圧手段40、および、酸素濃度調整手段50を備えている。培養容器30は、形状は任意であるが、今回使用するのは直径35mm×高さ10mmの略円柱状であって、内部に細胞および培地を収容することができ、内部の圧力を常圧より低圧に維持可能である。培養容器30の材質は体内埋め込みに適したものである。培養容器30の内壁面上に、コラーゲンを含む細胞接着性タンパク質を均一に塗布し、細胞接着部Aを形成している。なお、培養容器30に、圧力計と酸素濃度計を設けてもよいが、吸排出手段34に設けてもよい。
【0042】
また、培養容器30は、開閉手段32と吸排出手段34を備えている。開閉手段32は、培養容器30内の圧力変化により開閉して、培養容器30外にある物質を取り込むことができる。また、吸排出手段34は、培養容器30から外部に延在するチューブであり、図4では、途中で減圧手段40につながるチューブと酸素濃度調整手段50につながるチューブに分岐している。これらは分岐点で切り替え可能である。このように、吸排出手段34は、図4では弁を分岐点として複数に分岐しているが、用途により培養容器30から別々に設けてもよく、例えば、老廃物を排出するためのチューブを別途設けてもよい。
【0043】
減圧手段40は、減圧用コンプレッサである。減圧手段40は、培養容器30外に配置され、吸排出手段34を介して培養容器30内の空気を培養容器30外に吸い出して圧力を下げて所望の一定の値に維持する。
【0044】
また、酸素濃度調整手段50は、吸排出手段34を介して培養容器30内の酸素濃度を所望の一定の値に維持するためのものであって、二酸化炭素濃度が5%であるガスを貯留したタンクが吸排出手段34の分岐点に連結するように配置されている。
【0045】
次に、本実施例における細胞増殖促進装置2を用いた細胞培養方法について説明する。まずは、培養容器30内が常圧(1.0気圧)の状態で、10%ウシ胎児血清(FBS)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)にマウス筋芽細胞株C2C12細胞を懸濁液させたものを細胞接着部Aの表面上に播種し、培養容器30を密閉する。
【0046】
細胞を収容した培養容器30をマウス腹腔内に埋め込む。そして、減圧手段40を稼働させて培養容器30内部の圧力を常圧より低圧にさせ0.5気圧に維持する。必要である場合は、それに加えて、酸素濃度調整手段50を稼働させる。これにより、酸素濃度は、所定の圧力によって定まる酸素濃度とは異なるさらに低濃度、あるいはそれよりも高濃度の所定の酸素濃度に維持される。本実施例3では酸素濃度を8%に維持している。本実施例において細胞増殖促進装置2は、培養容器30内の圧力を0.01気圧以上1.0気圧未満に、酸素濃度を0.01%以上21%未満に調整可能であった。
【0047】
必要に応じて培養容器30内の圧力を変化させて開閉手段32を開閉させることにより、被検体であるマウスの体液を取り込む。また、必要に応じて、吸排出手段34を介して、培地、ガス、老廃物等の供給や排出を行い、培養環境の維持を行う。本実施例において細胞増殖促進装置2は、培養容器30内の圧力を1.0気圧から0.01気圧までの間の任意の圧力に調整可能である。約37℃(被検体の腹腔内温度)、二酸化炭素濃度5%で48時間細胞の培養を行うことができた。
【0048】
実施例1~3の細胞増殖促進装置1、2は、所望する圧力に制御された低圧環境を容易に作り出すことができた。そして、実施例1、2では、低圧環境下での培養において、細胞数が通常及び低酸素環境での培養よりも増加するという効果が得られた。また、実施例3では、マウスの生体内においても、細胞の培養が可能であった。
【0049】
このため、本発明の細胞増殖促進装置1を用いて細胞を培養すると、細胞が増殖して細胞数が特定量となるスピードが上がることになり、例えば、培養肉の製造等の製造スピードを上げることができ、生産コストを低減させることができる。また、本発明の細胞増殖促進装置2を動物の体内に埋め込み、被検体の体液を取り込むことにより、再生医療において問題となる培養細胞の免疫拒絶のリスクを回避することができる。
【0050】
本発明は、本発明の広義の精神と範囲を逸脱することなく、様々な実施の形態及び変形が可能とされるものである。また、上述した実施の形態は、この発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、この発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明によれば、減圧手段により培養容器内を常圧より低圧の任意の圧力である微真空状態に維持することができ、これを用いて細胞を培養することによって、細胞の増殖をより促進させることができる細胞増殖促進装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0052】
1・・・・・細胞増殖促進装置
2・・・・・細胞増殖促進装置
10・・・・培養容器
20・・・・減圧手段
30・・・・培養容器
32・・・・開閉手段
34・・・・吸排出手段
40・・・・減圧手段
50・・・・酸素濃度調整手段
図1
図2
図3
図4