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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033783
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】スラグのエージング方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
C04B5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137607
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】矢埜 泰武
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】星野 建
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112JD02
4G112JE06
(57)【要約】
【課題】簡易な方法でスラグに対するエージングのバラツキを低減してスラグを使用した製品の膨張を抑制することのできるスラグのエージング方法を提供する。
【解決手段】スラグを積み付けて形成した堆積物3に対して水蒸気を供給してスラグのエージングを行うスラグのエージング方法であって、堆積物3のうち、少なくとも堆積物3の外周部5側に存在しており、他の部分と比較して水蒸気の通気抵抗の小さい通気抵抗過小部8における水蒸気の通気抵抗を増大させる阻害処理工程を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグを積み付けて形成した堆積物に対して水蒸気を供給して前記スラグのエージングを行うスラグのエージング方法であって、
前記堆積物のうち、少なくとも前記堆積物の外周部側に存在しており、他の部分と比較して前記水蒸気の通気抵抗の小さい通気抵抗過小部における前記水蒸気の通気抵抗を増大させる阻害処理工程を有する、
スラグのエージング方法。
【請求項2】
前記阻害処理工程では、前記堆積物における水蒸気流に抗するように前記通気抵抗過小部に対して送風を実施し、もしくは、前記通気抵抗過小部に対して散水を実施する、
請求項1に記載のスラグのエージング方法。
【請求項3】
前記阻害処理工程では、前記通気抵抗過小部の上に、前記堆積物を形成するスラグよりも粒度の小さい他のスラグを追加で積み付ける、
請求項1に記載のスラグのエージング方法。
【請求項4】
前記通気抵抗過小部は下記式を満たす範囲である、
請求項1に記載のスラグのエージング方法。
X≧10×D
「X」は前記堆積物の上面の縁からの距離(mm)と、前記堆積物の周囲のうち、少なくとも一部に壁が設置されており、前記壁に対して前記堆積物が接触している場合における前記壁からの距離(mm)との少なくとも一方であり、「D」は前記スラグの最大粒径(mm)である。
【請求項5】
前記通気抵抗過小部は下記式を満たす範囲である、
請求項2に記載のスラグのエージング方法。
X≧10×D
「X」は前記堆積物の上面の縁からの距離(mm)と、前記堆積物の周囲のうち、少なくとも一部に壁が設置されており、前記壁に対して前記堆積物が接触している場合における前記壁からの距離(mm)との少なくとも一方であり、「D」は前記スラグの最大粒径(mm)である。
【請求項6】
前記通気抵抗過小部は下記式を満たす範囲である、
請求項3に記載のスラグのエージング方法。
X≧10×D
「X」は前記堆積物の上面の縁からの距離(mm)と、前記堆積物の周囲のうち、少なくとも一部に壁が設置されており、前記壁に対して前記堆積物が接触している場合における前記壁からの距離(mm)との少なくとも一方であり、「D」は前記スラグの最大粒径(mm)である。
【請求項7】
前記堆積物の表面温度を測定する測温工程を更に有しており、
前記阻害処理工程では、前記表面温度を測定した箇所のうち、前記他の箇所よりも表面温度が高い箇所を前記通気抵抗過小部とする、
請求項1ないし6のいずれか一項に記載のスラグのエージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグに水和処理を行って当該スラグを使用した製品の膨張を抑制するスラグのエージング方法に関し、特に、水蒸気によってスラグのエージングを行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業では、高炉、予備処理プロセス(例えば混銑車)、転炉、電気炉等からスラグが副生される。これらのうち、予備処理プロセス、転炉、電気炉から副生されるスラグを特に製鋼スラグと称する。製鋼工程では、溶銑中に含まれる燐や珪素などを除去するため、副原料として多量の石灰が投入される。そのため、製鋼スラグ中には、未溶解の石灰や、冷却時に晶出した石灰が遊離の酸化カルシウム(以下、f-CaOと記す。)として残留している。このf-CaOは水和反応によって水酸化カルシウム(以下、Ca(OH)と記す。)となり、f-CaOと比較して約2倍程度に体積膨張する。したがって、製鋼スラグ中のf-CaOが水和して体積膨張すると、製鋼スラグが粉化し、その粉化の影響で製鋼スラグの粒度が規定の粒度を外れてしまう懸念がある。また、製鋼スラグの出荷後に膨張してしまう懸念がある。
【0003】
製鋼スラグの用途としては、路盤材やコンクリート用細骨材などがある。これらの用途において、水和反応によって製鋼スラグ中のf-CaOが体積膨張すると、路盤が隆起したり、コンクリートに亀裂が生じたりする可能性がある。そのため、上述した用途に使用される製鋼スラグは、JIS A 5015に規定される膨張特性を満たすことが要求されている。現状では、製鋼スラグの出荷前に大気エージングや蒸気エージングを行って、製鋼スラグの体積を安定化させている。こうすることによって、製鋼スラグの出荷後における膨張や粉化のリスクを低減している(例えば、特許文献1、2、3参照)。
【0004】
具体的に、特許文献1には、回転ドラム内にスラグを装入すると共にスラグに散水して蒸気を発生させ、その蒸気によってスラグをエージングするスラグの処理方法が記載されている。特許文献2には、容器内に収納した製鋼スラグに水蒸気を送気して製鋼スラグをエージングする路盤材の製造方法が記載されている。特許文献3には、圧力容器内に製鋼スラグ及び加圧水蒸気を供給して製鋼スラグをエージングする方法が記載されている。なお、大気エージングとは、スラグヤードなどで製鋼スラグを長期間保管することによって空気中の水分と製鋼スラグ中のf-CaOとを水和反応させる製鋼スラグのエージング方法を意味している。蒸気エージングとは、製鋼スラグに水蒸気を供給することによって上述した水和反応を生じせる製鋼スラグのエージング方法を意味している。
【0005】
特許文献4及び特許文献5には、製鋼スラグを積み付けて形成したスラグ層の上部に通気抵抗層を設けることにより、スラグ層内に水蒸気の循環流を生じさせてエージングのばらつき(処理むら)を抑制する製鋼スラグのエージング方法が記載されている。特許文献6には、スラグに水蒸気を供給している期間に、スラグの堆積状態を変化させて、安定的な蒸気エージングを実施する方法が開示されている。更に、周辺技術として非特許文献1には、所定の容器に粒子を充填する際に、容器の壁付近における粒子の空隙率は、容器の中央付近での粒子の空隙率よりも大きくなる壁効果が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009-227490号公報
【特許文献2】特許第2814481号
【特許文献3】特許第2873178号
【特許文献4】特開2020-117420号公報
【特許文献5】特開2020-121899号公報
【特許文献6】特開2020-152601号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Suzuki, T.Shinmura, K.Iimura and M.Hirota: Advanced Powder Technology, Vol. 19, Issue 2, 2008, p.183-195.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載されているエージング方法では、エージングの処理時間が長くなってしまう可能性がある。
【0009】
特許文献2に記載されているエージング方法では、スラグ層内の蒸気の流れが不均一になって、エージングのばらつきが生じてしまう可能性がある。
【0010】
特許文献3に記載されているエージング方法では、エージングを行う製鋼スラグの量つまり処理量が少なくなることや、設備のメンテナンスやハンドリングに時間やコストが掛かってしまう可能性がある。
【0011】
特許文献4及び特許文献5に記載されているエージング方法では、通気抵抗の大きな層を一層設ける必要があり、その分、時間やコストが掛かってしまう
【0012】
特許文献6に記載されているエージングでは、製鋼スラグの堆積状態を変化させるために、時間やコストが掛かってしまう。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、簡易な方法でスラグに対するエージングのバラツキを低減してスラグを使用した製品の膨張を抑制することのできるスラグのエージング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の目的を達成するために、
[1]スラグを積み付けて形成した堆積物に対して水蒸気を供給して前記スラグのエージングを行うスラグのエージング方法であって、前記堆積物のうち、少なくとも前記堆積物の外周部側に存在しており、他の部分と比較して前記水蒸気の通気抵抗の小さい通気抵抗過小部における前記水蒸気の通気抵抗を増大させる阻害処理工程を有する、スラグのエージング方法。
[2]前記阻害処理工程では、前記堆積物における水蒸気流に抗するように前記通気抵抗過小部に対して送風を実施し、もしくは、前記通気抵抗過小部に対して散水を実施する、上記の[1]に記載のスラグのエージング方法。
[3]前記阻害処理工程では、前記通気抵抗過小部の上に、前記堆積物を形成するスラグよりも粒度の小さい他のスラグを追加で積み付ける、上記の[1]に記載のスラグのエージング方法。
[4]前記通気抵抗過小部は下記式を満たす範囲である、上記の[1]に記載のスラグのエージング方法。
X≧10×D
「X」は前記堆積物の上面の縁からの距離(mm)と、前記堆積物の周囲のうち、少なくとも一部に壁が設置されており、前記壁に対して前記堆積物が接触している場合における前記壁からの距離(mm)との少なくとも一方であり、「D」は前記スラグの最大粒径(mm)である。
[5]前記通気抵抗過小部は下記式を満たす範囲である、上記の[2]に記載のスラグのエージング方法。
X≧10×D
「X」は前記堆積物の上面の縁からの距離(mm)と、前記堆積物の周囲のうち、少なくとも一部に壁が設置されており、前記壁に対して前記堆積物が接触している場合における前記壁からの距離(mm)との少なくとも一方であり、「D」は前記スラグの最大粒径(mm)である。
[6]前記通気抵抗過小部は下記式を満たす範囲である、上記の[3]に記載のスラグのエージング方法。
X≧10×D
「X」は前記堆積物の上面の縁からの距離(mm)と、前記堆積物の周囲のうち、少なくとも一部に壁が設置されており、前記壁に対して前記堆積物が接触している場合における前記壁からの距離(mm)との少なくとも一方であり、「D」は前記スラグの最大粒径(mm)である。
[7]前記堆積物の表面温度を測定する測温工程を更に有しており、前記阻害処理工程では、前記表面温度を測定した箇所のうち、前記他の箇所よりも表面温度が高い箇所を前記通気抵抗過小部とする、上記の[1]ないし[6]のいずれかに記載のスラグのエージング方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、阻害処理工程において、他の箇所よりも通気抵抗が小さい通気抵抗過小部に対して通気抵抗を増大させる。阻害処理工程では、通気抵抗を増大させることができればよいため、比較的、簡易な方法とすることができる。その結果、堆積物の全体として水蒸気が抜けにくくなり、つまり、通気抵抗のバラツキが少なくなる。そのため、スラグのエージングのバラツキを低減することができる。これにより、スラグを使用した製品の出荷後における当該製品の膨張を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】エージング処理施設の一例を示す図である。
図2】阻害処理装置の一例を示す図である。
図3】製品粒度のスラグによって堆積物を形成した場合の、当該堆積物の通気抵抗過小部以外の部分での堆積物の上面からの深さと、当該深さでの圧力損失の推定値との関係の一例を示す図である。
図4】エージング処理施設の他の例を示す斜視図である。
図5図4に示すエージング処理施設の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る実施形態について説明する。本発明に係るスラグは鉄鋼の製造工程において副生成物として生じるものであり、f-CaOを含んでいるスラグである。上記のスラグが生じる鉄鋼の製造工程の例を挙げると、予備処理工程、精錬工程などである。したがって、上記のスラグは製鋼スラグと称される場合がある。当該スラグはf-CaOを含んでいるため、エージング処理施設に積み付けられてf-CaOと水とを反応させてf-CaOをCa(OH)に変化させるエージングが行われる。本発明に係るエージング方法では、エージング処理施設にスラグを積み付けて形成された堆積物に対し、当該堆積物の底部から水蒸気を供給してf-CaOと水とを反応させている。
【0018】
図1は、エージング処理施設の一例を示す図である。図1に示すエージング処理施設1は、スラグに水蒸気を供給する浸透層2を有しており、浸透層2の上にスラグを積み付けてスラグの山つまり堆積物3が形成される。堆積物3の形状は限定されないが、図1に示すように、錐台形状であってよい。上述した浸透層2は図1に示すスラグの堆積物3の底面に対してほぼ均等に水蒸気を供給するものである。浸透層2には、複数の蒸気管4が埋設されており、それらの蒸気管4に水蒸気の供給源(図示せず)が連通されている。水蒸気の供給源はボイラーなど、従来知られたものであってよい。
【0019】
図1に示す堆積物3は錐台形状であるから、堆積物3の外周面は上方から下方に向かって傾斜した傾斜面となっている。その傾斜面と浸透層2との成す角度はスラグの安息角とほぼ同じ角度になっている。堆積物3における傾斜面が形成されている外周部5では、堆積物3の中央部(図1の左右方向で堆積物3の中央部)6と比較して、上下方向におけるスラグの堆積量が少なくなっている。また、スラグの粒径には、バラツキがあり、そのうち、粒径の小さいスラグは粒径の大きいスラグと比較して流動性が低い。そのため、粒径の小さいスラグは、当該スラグを積み付けた箇所に留まろうとする。これに対して、粒径の大きいスラグは、当該スラグを積み付けた箇所からその周囲に流動しやすい。それらの結果、外周部5側には、粒径の大きいスラグが集合する傾向があり、中央部6と比較してスラグ同士の間の隙間が大きくなって通気抵抗が小さくなり、水蒸気が抜けやすい傾向がある。
【0020】
堆積物3の上面における縁から中央部6側の所定範囲は、外周部5の影響を受けて中央部6と比較して水蒸気の通気抵抗が小さい部分(以下、中間部と記す。)7である。以下の説明では、外周部5と中間部7とを合わせて通気抵抗過小部8と称する。上記の範囲は実験や計算などによって求めることができ、前記範囲の算出式の一例を下記に記載してある。下記式(1)中の「X」は、図1に示す例では、堆積物3の上面における縁から中央部6側の距離(mm)であり、「D」はエージング処理施設1に積み付けるスラグの最大粒径(mm)である。本実施形態では、少なくとも下記式(1)を満たす範囲が上述した通気抵抗過小部8となっている。
X≧10×D ・・・(1)
【0021】
すなわち、本実施形態では、一例として、少なくともスラグの最大粒径(mm)に10を乗じた距離が通気抵抗過小部8となる。なお、通気抵抗過小部8の上限値は、一例として、スラグの最大粒径(mm)に50を乗じた距離(X≦50×D)となる。
【0022】
本実施形態では、通気抵抗過小部8での通気抵抗を増大させて水蒸気を抜けにくくする阻害処理を行うようになっている。具体的には、通気抵抗過小部8における水蒸気流に抗するように、通気抵抗過小部8に対して散水したり、送風したりする。
【0023】
図2は、通気抵抗過小部8に対して散水あるいは送風を行う阻害処理装置の一例を示す図である。図2に示す阻害処理装置9は、通気抵抗過小部8の上部の堆積物3に対して接触した状態、非接触の状態、あるいは、当該堆積物3に挿入された状態で、散水あるいは送風を行う散布管10を有している。図2に示す例では、散布管10は、通気抵抗過小部8の上部の堆積物3に対して間隔をあけて配置されている。散布管10の一方の端部は気密に閉じられており、当該散布管10の他方の端部に供給管11を介してブロワーやコンプレッサーなどの送気源(図示せず)、あるいは、給水源(図示せず)が接続されている。
【0024】
散布管10には、板厚方向に貫通する複数の開口部(図示せず)が長さ方向に一定の間隔で形成されている。それらの開口部(図示せず)を介して通気抵抗過小部8に対して連続的あるいは断続的に送風する、あるいは、散水するようになっている。なお、水は工業用水であってよい。上記実施形態では、散布管10に送気源あるいは給水源を接続して堆積物3に送風あるいは散水のどちらか一方を行う構成としたが、送気源に接続された送風用の阻害処理装置9と、給水源に接続された給水用の阻害処理装置9とをそれぞれ準備し、送風と散水とを条件に応じて選択する構成としてもよい。阻害処理として送風と散水のどちらを実施するかは、送気源や給水源の設置スペース(周辺環境)や設置コスト、エージング処理施設1の設備上の制約などを総合的に判断して選択する。
【0025】
図3は、製品粒度のスラグによって堆積物を形成した場合の、当該堆積物の通気抵抗過小部以外の部分での堆積物の上面からの深さと、当該深さでの圧力損失の推定値(以下、単に圧力損失と記す。)との関係の一例を示す図である。なお、製品粒度とは、製品として出荷可能なスラグの粒度を意味しており、本実施形態では、一例として、JIS A 5015に規定されるCS40の規格を満たす粒度である。また、「深さ」とは、鉛直方向で堆積物3の上面からの距離を意味している。図3に示すように、単位深さあたりの圧力損失の値は0.1kPa/m程度である。そのため、阻害処理装置9による送風量、散水量は、通気抵抗過小部8の表面付近での圧力損失を0.1kPa/m程度増大することのできる量とすることが好ましい。当該圧力損失を0.1kPa/m程度増大することのできる送風量及び散水量は実験によって予め求めることができる。
【0026】
また、スラグの堆積物3に供給する水蒸気と、散水に使用する水や送風に使用する空気との温度差は小さいことが好ましい。これは、上記の温度差が大きい場合には、水や空気によって水蒸気が冷却されて凝結し、液相の水となってしまう。そして、液相の水がスラグ同士の間の隙間を埋めてしまい、前記隙間を水蒸気が流動できない事態が生じる可能性があるのでこれを避けるためである。すなわち、前記隙間での水蒸気の流動を維持すると共に、その状態で圧力損失を増大させるためである。そのため、散水に使用する水や送風に使用する空気の温度を調整する温度調整装置が設けられていることが好ましい。
【0027】
(第1実施形態の作用)
図1に示すエージング処理施設の作用について説明する。図1に示すエージング処理施設1の浸透層2にスラグを積み付けて錐台状の堆積物3を形成する。堆積物3の下部に浸透層2から水蒸気を供給する。水蒸気は、スラグ同士の間の隙間を流路として流動する。堆積物3の外周部5と中間部7とは、上述した原理により水蒸気が抜けやすい通気抵抗過小部8となっている可能性があるので、阻害処理装置9によって通気抵抗過小部8に送風し、または、散水を行う。具体的には、外周部5の傾斜面や中間部7の上面に阻害処理装置9の散布管10を配置する。あるいは、外周部5や中間部7の表面下に散布管10を挿入する。その状態で、通気抵抗過小部8に対する送気あるいは散水を連続的あるいは断続的に行う。なお、阻害処理装置9による送風や散水を実施する工程が、本発明における阻害処理工程に相当している。
【0028】
こうすることにより、通気抵抗過小部8におけるスラグ同士の間の隙間では、水蒸気流に抗するように、空気あるいは水が流動する。そのため、通気抵抗過小部8における水蒸気の通気抵抗つまり圧力損失が増大する。その結果、送気あるいは散水する前と比較して、通気抵抗過小部8からの水蒸気の漏出を抑制することができる。これにより堆積物3の全体に水蒸気を行き渡らせることができると共に、水蒸気とスラグとの接触時間を長くすることができる。そして、スラグ中のf-CaOの水和反応を進行させて、堆積物3の全体としてエージングのバラツキやエージングの不足を低減することができる。
【0029】
通気抵抗過小部8に対して送風や散水することに代えて、スラグ(以下、追加スラグと記す。)を積み増すことによって通気抵抗過小部8での水蒸気の通気抵抗を増大させてもよい。追加スラグは、製品粒度であるスラグよりも全体として粒度の小さいスラグであることが好ましい。具体的には、追加スラグは、平均粒度が製品粒度であるスラグの平均粒度以下であって、かつ、最大粒径が製品粒度のスラグにおける最大粒径の3分の1以下であることが好ましい。これは、通気抵抗過小部8に対する蓋として追加スラグを機能させるためである。なお、上述した追加スラグが本発明における他のスラグに相当している。
【0030】
通気抵抗過小部8に積み増す追加スラグの量、つまり、堆積物3の上下方向での追加スラグの厚さは60cm以下であることが好ましく、20cm程度であることがより好ましい。これは、追加スラグ同士の間の隙間は、通気抵抗過小部8におけるスラグ同士の間の隙間よりも小さいため、水蒸気が流動しにくく、追加スラグ自体のエージング不足を生じる可能性があるので、これを避けるためである。また、追加スラグを積み増す手段は、限定されないのであって、通気抵抗過小部8の上に追加スラグを積み増すことができればよく、ホイールローダーやブルドーザーなどのエージング処理施設1にスラグを積み付ける際に使用される従来知られたものであってよい。
【0031】
堆積物3における通気抵抗過小部8の上に、追加スラグの層の厚さが20cmから60cm程度となるように、所定の手段によって追加スラグを積み増す。こうすることによって、通気抵抗過小部8における水蒸気の通気抵抗つまり圧力損失を増大できる。追加スラグは通気抵抗過小部8に対する蓋として機能し、通気抵抗過小部8での水蒸気の漏出を抑制することができる。そのため、通気抵抗過小部8におけるスラグ中のf-CaOの水和反応を進行させて、堆積物3の全体としてエージングのバラツキやエージングの不足を低減することができる。また、追加スラグを過剰に積み増すことがないので、追加スラグについても、エージングをほぼ均一に行うことができる。なお、通気抵抗過小部8に追加スラグを積み増す工程が、本発明における阻害処理工程に相当している。
【0032】
(第2実施形態)
図4は、エージング処理施設の他の例を示す斜視図である。図5は、図4に示すエージング処理施設の一部を示す断面図である。図4及び図5に示すエージング処理施設12は、3つの壁13a,13b,13cを有しており、3つの壁13a,13b,13cのうち、2つの壁13a,13bは予め設定された間隔をあけて、かつ、互いにほぼ平行に配置されている。それら2つの壁13a,13bの各幅方向で、一方の端部同士を互いに連結するように、前記2つの壁13a,13b同士の間に、残りの1つの壁13cが配置されている。こうして3つの壁13a,13b,13cによって区画されたスペース内に浸透層2が形成されている。
【0033】
2つの壁13a,13bの幅方向において、他方の端部同士の間の部分は、図4に示すように、開口部14となっており、開口部14を利用して上述したスペース内にスラグが搬送され、また、積み付けられる。こうしてスペース内にスラグの堆積物3を形成すると、堆積物3の一部は、図4に示すように、3つの壁13a,13b,13cに対してそれぞれ接触する。また、開口部14から臨む堆積物3の外面は上方から下方に向かって傾斜した傾斜面となっている。その傾斜面と浸透層2との成す角度はスラグの安息角とほぼ同じ角度になっている。
【0034】
また、上述したように、スラグのうち、粒度の小さいスラグは粒度の大きいスラグと比較して流動性が低いため、スラグを積み付ける際に、そのスラグを積み付ける箇所に留まろうとする。これに対して、粒度の大きいスラグは流動性が高いため、スラグを積み付ける箇所の周囲に流動する。そのため、図4及び図5に示すエージング処理施設12において、各壁13a,13b,13c付近、及び、堆積物3の傾斜面を含む開口部14側の部分では、中央部6と比較してスラグ同士の間の隙間が大きく水蒸気が抜けやすい傾向がある。
【0035】
ここで、壁13a,13b,13c付近とは、壁13a,13b,13cから所定の範囲を意味している。また、開口部14側の部分とは、堆積物3の上面における縁から中央部6側の所定の範囲の範囲を意味している。それらの範囲は、上記の式(1)によって算出することができる。すなわち、上記の式(1)において、堆積物3の上面における縁からの距離(mm)、および、壁13a,13b,13cからの距離(mm)をXとする。上記の式(1)を満たす壁13a,13b,13c付近、及び、堆積物3の傾斜面を含む開口部14側の部分が、図4及び図5に示すエージング処理施設12の通気抵抗過小部8となっている。図5には、2つの壁13a,13b付近の通気抵抗過小部8を記載してある。
【0036】
第2実施形態においては、図2に示す阻害処理装置9によって、通気抵抗過小部8に対して送風や散水するようになっている。
【0037】
(第2実施形態の作用)
堆積物3における通気抵抗過小部8の表面に、阻害処理装置9の散布管10を接触させ、あるいは、通気抵抗過小部8の表面化に散布管10を挿入する。その状態で、通気抵抗過小部8に対する送気あるいは散水を連続的あるいは断続的に行う。こうすることにより、通気抵抗過小部8におけるスラグ同士の間の隙間では、水蒸気流に抗するように、空気あるいは水が流動し、通気抵抗過小部8の圧力損失を増大することができる。そして、通気抵抗過小部8におけるスラグ中のf-CaOの水和反応を進行させて、堆積物3の全体としてエージングのバラツキやエージングの不足を低減することができる。したがって、第2実施形態であっても、第1実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0038】
また、図4及び図5に示すエージング処理施設12において、通気抵抗過小部8に対して送風や散水することに代えて、上述した追加スラグを積み付けることによって通気抵抗過小部8での水蒸気の通気抵抗を増大させてもよい。追加スラグを積み付ける量は、第1実施形態と同様であってよい。通気抵抗過小部8に積み付けた追加スラグは、通気抵抗過小部8に対して蓋として機能するから、通気抵抗過小部8における水蒸気の通気抵抗つまり圧力損失を増大できる。そして、通気抵抗過小部8におけるスラグ中のf-CaOの水和反応を進行させて、堆積物3の全体としてエージングのバラツキやエージングの不足を低減することができる。また、追加スラグを過剰に積み増すことがないので、追加スラグについても、エージングをほぼ均一に行うことができる。
【0039】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されない。第1実施形態では、堆積物3の外周部5及び中間部7を通気抵抗過小部8とみなして阻害処理を実施した。また、第2実施形態では、壁13a,13b,13c付近及び傾斜面を含む開口部14側の部分を通気抵抗過小部8とみなして阻害処理を実施した。これらに加えて、上述した箇所以外の箇所を通気抵抗過小部8であると判断して阻害処理を実施してもよい。通気抵抗過小部8は、水蒸気が抜けやすいために、その周囲よりも堆積物3の表面温度や、堆積物3の表面から吹き出る水蒸気の流速が高い傾向がある。そのため、通気抵抗過小部であると判断する方法としては、例えば温度計によって堆積物3の表面温度を測定し、その測定結果に基づいて通気抵抗過小部8であると判断する方法を挙げることができる。または、流速計によって堆積物3の表面から吹き出る水蒸気の流速を測定し、その測定結果に基づいて通気抵抗過小部8であると判断する方法を挙げることができる。その他、目視によって湯気の出ている箇所を確認し、当該箇所を通気抵抗過小部8であると判断する方法を挙げることができる。
【0040】
更に、上記の式(1)に代えて、下記の式(2)を使用して、通気抵抗過小部8とみなす範囲を算出してもよい。下記式(2)の「X」は、堆積物3の上面における縁からの距離(mm)や、壁13a,13b,13cからの距離(mm)である。
X≧500 ・・・(2)
式(2)を使用して通気抵抗過小部8とみなす範囲を算出すると、式(1)を使用する場合と比較して、積み付けるスラグの粒径に関わらず、Xを固定値にすることができる。したがって、通気抵抗過小部8とみなす範囲を容易に算出することができる。式(2)を使用する場合、通気抵抗過小部8の上限値は、一例として、2000mmとすることが好ましい。なお、上述した堆積物3の表面温度を測定する工程が、本発明における測温工程に相当している。
【0041】
(第1実施例)
次いで、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。第2実施形態で説明したエージング処理施設12でスラグのエージングを行った。スラグとしては、製品粒度のスラグを使用し、最大粒径は40mmであった。スラグを積み付けた際の堆積物の上面からの深さは4mであった。当該スラグをエージングする際に、図2に示す阻害処理装置9を使用して開口部14から臨む堆積物3の傾斜面や壁13a,13b,13c付近に、すなわち、通気抵抗過小部8に阻害処理を行った。実施例1ないし実施例5、比較例1ないし比較例3では、スラグの製造ロットがそれぞれ異なっている。また、比較例1ないし3では、以下に説明する阻害処理を行わずにスラグのエージングを行った。
【0042】
通気抵抗過小部8であると判断して阻害処理を行う範囲は、具体的には、開口部14から臨む堆積物3の上面の縁から上記の式(1)で算出される範囲、壁13a,13b,13cから上記の式(1)で算出される範囲、及び、堆積物3の傾斜面とした。また、堆積物3に水蒸気の供給を開始してから、傾斜面や壁13a,13b,13c付近よりも早く昇温した箇所についても通気抵抗過小部8であると判断し、阻害処理を行った。
【0043】
堆積物3に水蒸気の供給を開始後、堆積物3の温度履歴を把握するため、堆積物3の表面温度を温度計によって測定した。堆積物3の傾斜面や壁13a,13b,13c付近の温度が100℃に到達してから12時間経過後に、通気抵抗過小部8に阻害処理を行った。通気抵抗過小部8の表面での風圧が0.4kPaとなる条件、すなわち、通気抵抗が0.1kPa/m程度増大する条件で通気抵抗過小部8に送風を行った。送風を開始してから48時間経過した時点でエージングを終了した。このようなエージング処理後における、実施例1ないし5、比較例1ないし3の各スラグのロット平均膨張率(%)とロット平均膨張率(%)の標準偏差とを表1にまとめて示してある。
【0044】
【表1】
【0045】
表1に示すように、実施例1ないし5では、比較例1ないし3と比較して、全体としてロット平均膨張率(%)と、ロット平均膨張率(%)の標準偏差とが共に小さいことが認められた。これは、阻害処理を行うことによって通気抵抗過小部8からの水蒸気の漏出を抑制することができ、そのために、エージングをほぼ均一に行うことができたと推定される。一方、比較例1ないし3では、通気抵抗過小部8からの水蒸気の漏出を抑制できない。そのために、実施例1ないし5と比較してエージングの不足している箇所があり、それが要因となってロット平均膨張率(%)の標準偏差が大きくなっていると推定される。
【0046】
(第2実施例)
通気抵抗過小部8と判断した箇所に阻害処理として送風を行うことに代えて、第1実施例で使用したスラグの平均粒度以下であるスラグ(以下、追加スラグと記す。)を追加で積み付けた。通気抵抗過小部8は、具体的には、開口部14から臨むスラグの堆積物3の上面の縁から1mの範囲、壁13a,13b,13cから1mの範囲、及び、堆積物3の傾斜面とした。また、実施例6ないし11では、追加スラグの製造ロットがそれぞれ異なっている。更に、比較例4ないし5では、追加スラグの追加を行わずにエージングを行った。その他の条件は第1実施例と同様にしてエージングを行った。このようなエージング処理後における、実施例6ないし11、比較例4ないし5の各スラグのロット平均膨張率(%)と、ロット平均膨張率(%)の標準偏差とを表2にまとめて示してある。これと併せて、充填粒度、すなわち追加スラグの粒度を表2に記載してある。
【0047】
【表2】
【0048】
表2に示すように、実施例6ないし11では、比較例4ないし5と比較して、ロット平均膨張率(%)の標準偏差が小さいことが認められた。これは、追加スラグを積み付けることによって水蒸気の漏出が抑制され、通気抵抗過小部8での圧力損失が大きくなり、堆積物3の全体で水蒸気によるエージングが均質化されたためであると推定される。
【0049】
一方、比較例4および5では、壁13a,13b,13c付近や、傾斜面付近で水蒸気の漏出する通気抵抗過小部が散見された。また、当該通気抵抗過小部に対し、水蒸気の漏出を抑制する追加スラグを積み付けていない。そのために、エージングの不足している箇所があり、ロット平均膨張率(%)の標準偏差が大きくなっていると推定される。
【0050】
また、実施例11に使用した追加スラグの最大粒径は、堆積物3を形成するスラグの最大粒径の3分の1以下の条件を満たしていない。そのため、実施例11では、追加スラグの最大粒径が堆積物3を形成するスラグの最大粒径の3分の1以下の条件を満たしている実施例6ないし10と比較して、ロット平均膨張率(%)が大きくなっていると推定される。
【符号の説明】
【0051】
1,12 エージング処理施設
2 浸透層
3 堆積物
4 蒸気管
5 堆積物の外周部
6 堆積物の中央部
7 堆積物の中間部
8 通気抵抗過小部
9 阻害処理装置
10 散布管
11 供給管
13a、13b,13c 壁
図1
図2
図3
図4
図5