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特開2024-33789メンテナンス液、メンテナンス方法、記録装置、及びインクセット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033789
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】メンテナンス液、メンテナンス方法、記録装置、及びインクセット
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/165 20060101AFI20240306BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240306BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240306BHJP
   C09D 11/54 20140101ALI20240306BHJP
   C09D 11/30 20140101ALI20240306BHJP
【FI】
B41J2/165
B41J2/165 101
B41J2/01 501
B41M5/00 120
C09D11/54
C09D11/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137618
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】内田 美紀
(72)【発明者】
【氏名】水瀧 雄介
(72)【発明者】
【氏名】菱田 優子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼梨 博道
(72)【発明者】
【氏名】川崎 智弘
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA17
2C056JA03
2C056JA21
2H186BA08
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB21
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB30
2H186FB55
2H186FB58
4J039BA12
4J039BE12
4J039CA06
4J039DA02
4J039EA43
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】インクの組成変化が少ないメンテナンス液を提供すること。
【解決手段】
記録装置用の、水系のメンテナンス液であって、上記記録装置は、インクジェットヘッドから、2種以上の水系インク組成物を吐出して記録を行うものであり、上記インクジェットヘッドは、上記水系インク組成物を吐出するノズルが形成されたノズル面を有し、上記ノズル面は、上記ノズルが、2種以上の上記水系インク組成物毎に形成されており、上記メンテナンス液は、上記ノズル面を覆うキャップ部に供給されることにより、上記ノズル面の保湿に用いられるものであり、水と、1種以上の保湿剤を含む保湿剤成分と、を含み、上記保湿剤成分が、水溶性の有機化合物であり、上記保湿剤成分の、上記保湿剤成分と上記水との総量に対する含有量A(質量%)が、所定の式を満たす、メンテナンス液。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録装置用の、水系のメンテナンス液であって、
前記記録装置は、インクジェットヘッドから、2種以上の水系インク組成物を吐出して記録を行うものであり、
前記インクジェットヘッドは、前記水系インク組成物を吐出するノズルが形成されたノズル面を有し、
前記ノズル面は、前記ノズルが、2種以上の前記水系インク組成物毎に形成されており、
前記メンテナンス液は、
前記ノズル面を覆うキャップ部に供給されることにより、前記ノズル面の保湿に用いられるものであり、
水と、1種以上の保湿剤を含む保湿剤成分と、を含み、
前記保湿剤成分が、水溶性の有機化合物であり、
前記保湿剤成分の、前記保湿剤成分と前記水との総量に対する含有量A(質量%)が、下記式(1)を満たす、
メンテナンス液。
min-5≦A≦Xmax+5 式(1)
ここで、Xmin、Xmaxは、それぞれ、下記手順1~3を行った場合に、下記定義1によって定義される値である。
<手順1>
保湿剤成分と水からなる液体組成物であって、保湿剤成分と水の総量に対する保湿剤成分の含有量B(質量%)が異なる3種以上の各液体組成物(以下、それぞれ、P1、P2、P3、…、Pnとも称する。ここで、nは3以上の整数である。)と、2種以上の前記水系インク組成物(以下、それぞれ、Q1、Q2、…、Qmとも称する。ここで、mは2以上の整数である。)と、を用意する。前記液体組成物の保湿剤成分は、前記メンテナンス液が含む保湿剤成分と同一の組成とする。
続いて、液体組成物P1が入った容器αと、同量のインクQ1が入った容器βと、を、温度25℃、相対湿度50%の環境下、1つの密閉容器内に静置する。そして、液体組成物P1の時間経過に伴う質量変化に基づいて、インクQ1に対する液体組成物P1の吸湿速度(g/h)を算出する。
インクQ1についても、同様にして、液体組成物P1に対するインクQ1の吸湿速度(g/h)を算出する。
その後、液体組成物P2、P3、…Pnに対しても、液体組成物P1を変更すること以外は同様の条件により上記操作を行う。それにより、前記各液体組成物の吸湿速度と、それに対応するインクQ1のn通りの吸湿速度と、を算出する。
<手順2>
グラフの横軸には前記各液体組成物の保湿剤成分の含有量B、グラフの縦軸には前記各液体組成物の吸湿速度(g/h)と、それに対応する前記インクQ1のn通りの吸湿速度(g/h)と、をそれぞれプロットした後、前記各液体組成物の吸湿速度(g/h)についての近似直線と、前記インクQ1のn通りの吸湿速度(g/h)についての近似直線と、をそれぞれ作成する。
そして、前記各液体組成物の吸湿速度(g/h)についての近似直線と、前記インクQ1のn通りの吸湿速度(g/h)についての近似直線と、が交差する点における前記含有量BをX1とする。
<手順3>
インクQ2、…Qmに対しても、インクQ1を変更すること以外は上記と同様の条件により、前記手順1及び2を行う。それにより、X1、X2、…、Xmを得る。
<定義1>
得られたX1、X2、…、Xmのうち、最も値が大きいものをXmaxとし、最も値が小さいものをXminとする。
【請求項2】
前記保湿剤成分の含有量A(質量%)が、下記式(2)を満たす、
請求項1に記載のメンテナンス液。
min≦A≦Xmax 式(2)
【請求項3】
前記保湿剤成分の含有量A(質量%)が、下記式(3)を満たす、
請求項1に記載のメンテナンス液。
min+[(Xmax-Xmin)/4]≦A≦Xmax-[(Xmax-Xmin)/4] 式(3)
【請求項4】
2種以上の前記水系インク組成物のうち少なくとも1種の水系インク組成物が、無機酸化物粒子を含む、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項5】
前記保湿剤成分が、標準沸点が130℃以上の有機溶剤である水溶性の有機化合物、又は25℃において固体である水溶性の有機化合物のいずれか1種以上を含み、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項6】
前記保湿剤成分の含有量A(質量%)は、10~40質量%である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項7】
前記Xmaxから前記Xminを減じて得られる値(質量%)が、2.0~15質量%である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項8】
2種以上の前記水系インク組成物のうち少なくとも1種の水系インク組成物における色材の含有量が、該水系インク組成物の総量に対して、7.0質量%以上である、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項9】
防腐剤をさらに含む、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項10】
2種以上の前記水系インク組成物のうち少なくとも1種の水系インク組成物が、標準沸点が130℃以上の有機溶剤である水溶性の有機化合物、又は25℃において固体である水溶性の有機化合物のいずれか1種以上を含む、
請求項1に記載のメンテナンス液。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載のメンテナンス液を、前記記録装置のインクジェットヘッドのノズル面を覆う前記キャップ部に供給し、前記ノズル面の保湿を行う工程、を有する、
メンテナンス方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか一項に記載の、メンテナンス液及び前記メンテナンス液により前記ノズル面の前記保湿が行なわれるインクジェットヘッドと、を有する、
記録装置。
【請求項13】
前記メンテナンス液の供給を行う供給機構を有し、
前記供給機構は、前記メンテナンス液に水を供給する給水機構を有する、
請求項12に記載の記録装置。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の、メンテナンス液及び2種以上の水系インク組成物を有する、
インクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メンテナンス液、メンテナンス方法、記録装置、及びインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、比較的単純な装置で、高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。インクジェット記録においては、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出する。インクがノズルで乾燥してしまうと、目詰まりを起こしやすい。
【0003】
そこで記録を行わない時間にインクジェットヘッドのノズルを保湿して乾燥を防止するためにメンテナンス液が用いられる。
【0004】
その際、メンテナンス液は、インクジェットヘッドのノズル面を覆うヘッドキャップに充填されて、該キャップとノズル面との間の密閉空間の空気を保湿することで、該密閉空間の空気を介してノズルを保湿することが考えられる。
【0005】
特許文献1には、インクジェット式記録装置に使用するためのメンテナンス液であって、少なくとも水と、水溶性着色剤と、pH調整剤と、アルカンジオールおよびアルキレングリコールモノエーテル誘導体から選択される1種の水溶性有機溶剤と、を含有する、インクジェット式記録装置用メンテナンス液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010-89404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
複数種のインクを吐出するインクジェットヘッドの保湿を行う場合に、複数種のインクの組成変化が少ない保湿を行うことが可能なメンテナンス液の点で、未だ不十分であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のメンテナンス液は、記録装置用の、水系のメンテナンス液であって、上記記録装置は、インクジェットヘッドから、2種以上の水系インク組成物を吐出して記録を行うものであり、上記インクジェットヘッドは、上記水系インク組成物を吐出するノズルが形成されたノズル面を有し、上記ノズル面は、上記ノズルが、2種以上の上記水系インク組成物毎に形成されており、上記メンテナンス液は、上記ノズル面を覆うキャップ部に供給されることにより、上記ノズル面の保湿に用いられるものであり、水と、1種以上の保湿剤を含む保湿剤成分と、を含み、上記保湿剤成分が、水溶性の有機化合物であり、上記保湿剤成分の、上記保湿剤成分と上記水との総量に対する含有量A(質量%)が、後述する式(1)を満たす、メンテナンス液である。
【0009】
本発明のメンテナンス方法は、上記メンテナンス液を、上記記録装置のインクジェットヘッドのノズル面を覆う上記キャップ部に供給し、上記ノズル面の保湿を行う工程、を有する、メンテナンス方法である。
【0010】
本発明の記録装置は、上記メンテナンス液及び上記メンテナンス液により上記ノズル面の上記保湿が行なわれるインクジェットヘッドと、を有する、記録装置である。
【0011】
本発明のインクセットは、上記メンテナンス液及び水系インク組成物を有する、インクセットである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】記録装置におけるメンテナンス液の周辺構造の概略図である。
図2】容器αと、容器βとが、1つの密閉容器内に静置された状態を示す概念図である。
図3】吸湿速度(g/h)の算出方法を示す概念図である。
図4】X1~Xmの算出方法を示す概念図である。
図5】XmaxとXminの算出方法を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0014】
1.メンテナンス液
本実施形態に係るメンテナンス液は、記録装置用の、水系のメンテナンス液であって、上記記録装置は、インクジェットヘッドから、2種以上の水系インク組成物(以下、単にインク組成物、ともいう。)を吐出して記録を行うものであり、上記インクジェットヘッドは、上記水系インク組成物を吐出するノズルが形成されたノズル面を有し、上記ノズル面は、上記ノズルが、2種以上の上記水系インク組成物毎に形成されており、上記メンテナンス液は、上記ノズル面を覆うキャップ部に供給されることにより、上記ノズル面の保湿に用いられるものであり、水と、1種以上の保湿剤を含む保湿剤成分と、を含み、上記保湿剤成分が、水溶性の有機化合物であり、上記保湿剤成分の、上記保湿剤成分と上記水との総量に対する含有量A(質量%)が、下記式(1)を満たす、メンテナンス液である。
min-5≦A≦Xmax+5 式(1)
ここで、Xmin、Xmaxは、それぞれ、下記手順1~3を行った場合に、下記定義1によって定義される値である。
<手順1>
保湿剤成分と水からなる液体組成物であって、保湿剤成分と水の総量に対する保湿剤成分の含有量B(質量%)が異なる3種以上の各液体組成物(以下、それぞれ、P1、P2、P3、…、Pnとも称する。ここで、nは3以上の整数である。)と、2種以上の上記水系インク組成物(以下、それぞれ、Q1、Q2、…、Qmとも称する。ここで、mは2以上の整数である。)と、を用意する。上記液体組成物の保湿剤成分は、上記メンテナンス液が含む保湿剤成分と同一の組成とする。
続いて、液体組成物P1が入った容器αと、同量のインクQ1が入った容器βと、を、温度25℃、相対湿度50%の環境下、1つの密閉容器内に静置する。そして、液体組成物P1の時間経過に伴う質量変化に基づいて、インクQ1に対する液体組成物P1の吸湿速度(g/h)を算出する。
インクQ1についても、同様にして、液体組成物P1に対するインクQ1の吸湿速度(g/h)を算出する。
その後、液体組成物P2、P3、…Pnに対しても、液体組成物P1を変更すること以外は同様の条件により上記操作を行う。それにより、上記各液体組成物の吸湿速度と、それに対応するインクQ1のn通りの吸湿速度と、を算出する。
<手順2>
グラフの横軸には上記各液体組成物の保湿剤成分の含有量B、グラフの縦軸には上記各液体組成物の吸湿速度(g/h)と、それに対応する上記インクQ1のn通りの吸湿速度(g/h)と、をそれぞれプロットした後、上記各液体組成物の吸湿速度(g/h)についての近似直線と、上記インクQ1のn通りの吸湿速度(g/h)についての近似直線と、をそれぞれ作成する。
そして、上記各液体組成物の吸湿速度(g/h)についての近似直線と、上記インクQ1のn通りの吸湿速度(g/h)についての近似直線と、が交差する点における上記含有量BをX1とする。
<手順3>
インクQ2、…Qmに対しても、インクQ1を変更すること以外は上記と同様の条件により、上記手順1及び2を行う。それにより、X1、X2、…、Xmを得る。
<定義1>
得られたX1、X2、…、Xmのうち、最も値が大きいものをXmaxとし、最も値が小さいものをXminとする。
【0015】
上述のとおり、本実施形態のメンテナンス液は、インクジェットヘッドから2種以上の水系インク組成物を吐出して記録を行う記録装置のインクジェットヘッドのメンテナンスに用いる水系のメンテナンス液である。
【0016】
インクジェットヘッドが複数種のインクを吐出する場合に、ヘッドキャップは複数種のインクを吐出するノズルを一括して覆う形で設けられ、複数種のインク用のノズルを同時に保湿する。このようにすることで、インク種毎にキャップを設けるよりも記録装置を簡略化し、省スペース化することが可能となる。
【0017】
メンテナンス液に含まれる保湿剤の濃度が、使用するインクに対して高すぎたり低すぎたりする場合は、メンテナンス中にノズル付近のインク中の水分の増加や減少が発生することが分かった。具体的には、保湿液に含まれる保湿剤の濃度が高すぎる場合は、ノズルのインクに含まれる水がメンテナンス液に奪われてしまい、ノズル付近のインクが保湿されるどころか乾燥が促進されてしまい、目詰まり回復性が劣りやすい。一方で、メンテナンス液に含まれる保湿剤の濃度が低すぎる場合は、ノズル付近のインクが、保湿液から水を奪いとり、インク中の水の含有量が増加してしまい、インクの粘度が低下すること等によって、吐出後に飛行曲がりが発生しやすい。そのため、インクジェット記録に用いるインクの組成変化が少ないメンテナンス液が必要となる。
インクジェットヘッドが複数種のインクを吐出する場合には、複数種のインクの何れもインクの組成変化が少ないメンテナンス液が必要となる。
【0018】
図1に、記録装置におけるメンテナンス液を用いる周辺構造の1例の概略図を示す。図1に示すように、記録装置は、インク流路13を介して、インクジェットヘッド11からインクを吐出する。インクジェットヘッド11は、インクを吐出するノズルが形成されたノズル面12を有する。図1の例では、インクジェットヘッド11は、4種(4個)のインクを吐出するノズルを備えており、インク種ごとにインク流路13を備えている。4種のうちの各1種のインクを吐出するノズルが複数個のノズルを含んでいても良く、該複数個のノズルがノズル列を形成していても良い。インクは、2種以上であればよく、4~10種が好ましく、4~7種がより好ましい。
【0019】
インク流路13へは、例えば上流にあるインク収容体(図示しない)からインクが供給されてくる。
タンク24には、メンテナンス液21が貯留されている。メンテナンス液21は、記録装置を設置して使用を始める際に、新しいメンテナンス液として、メンテナンス液収容体(図示しない)などから、タンク24に入れられて貯留され、以降、記録装置において、メンテナンスに使用される。メンテナンス液収容体は、使用前の新しいメンテナンス液が収容され、記録装置のタンク24にメンテナンス液を供給するものであり、例えばメンテナンス液パックなどでもよい。
【0020】
インクジェットヘッド11のノズル面12は、メンテナンス時において、キャップ部22により覆われてもよい。メンテナンス液21は、インクジェットヘッド11のノズル面12を覆うキャップ部22に供給されることにより、ノズル面12の保湿に用いられる。このキャップ部22にはメンテナンス液21が、方向Fに沿って、タンク24から、流路23を介して供給される。
【0021】
また、ノズル面12とキャップ部22は閉鎖空間14を構成し、メンテナンス液21はノズル面12と非接触な状態で、閉鎖空間14を保湿してもよい。この時、閉鎖空間14は、密閉された空間であってもよいし、非密閉空間であってもよい。密閉された空間が好ましい。これにより、メンテナンス液21とインクとが接触することなく、閉鎖空間14を保湿することができる。
閉鎖空間14内の保湿された空気により、インクジェットヘッド11のノズル面のノズルが保湿され、ノズル内のインクが乾燥することを防止でき、ノズル内のインクが増粘や固化することが防止できる。こうしてインクジェットヘッド11を保湿するメンテナンスを行うことができる。
【0022】
なお、キャップ部22のメンテナンス液の上部に反透過膜を設けて、メンテナンス液がノズル面に接触しない(蒸発成分は透過可能)ようにしてもよい。
【0023】
キャップ部22に供給されたメンテナンス液21は、メンテナンス後において、流路23を介してメンテナンス液が貯留されるタンク24に戻されてもよい。これにより、メンテナンスごとにメンテナンス液21を繰り返し利用することができる。またメンテナンスを行わない時には、メンテナンス液がタンク24以外の場所に存在しない様にしておくことができる。
【0024】
メンテナンス液21は、キャップ22からメンテナンス液がこぼれたり、使用した分を廃棄したり、また繰り返し使用されることで保湿中にメンテナンス液21から水が蒸発して、メンテナンス液21は徐々に減少しうる。このような場合には、タンク24のメンテナンス液21の量をセンサー25で測定しても良い。センサーは例えば導電率センサーなどでも良い。
【0025】
また、メンテナンス液21が減少する時、蒸発しにくい保湿剤成分を用いることで水以外の成分の蒸発を抑制できるが、水が蒸発して成分が濃縮されてしまう。そこで、本実施形態においては、メンテナンス液に水を供給して混合、希釈することで、メンテナンス液の濃縮を防止(回復)する機構を設けてもよい。例えば、メンテナンス液21がある程度少なくなった場合には、水27を貯留するタンク26から、タンク24へ水が供給されてもよい。又は新しいメンテナンス液をメンテナンス液収容体から供給しても良い。
【0026】
また、導電率センサ25は、例えば、メンテナンス液が収容されメンテナンス液を供給するメンテナンス液タンク24に設ける他、キャップ部22、メンテナンス液供給管経路、メンテナンス液パックなどに設けてもよい。
【0027】
上述のとおり、メンテナンス液は、複数種のインクを吐出するインクジェットヘッドのノズルを一括して覆う形で設けられており、全ノズルを同時に保湿することで、インク毎にキャップを設けるよりも記録装置を簡略化及び省スペース化することができる。
【0028】
一方で、メンテナンス液とインクとの間の吸湿速度の違いにより、メンテナンス液中の保湿剤の濃度が、使用するインクに対して高すぎたり低すぎたりする場合は、メンテナンス中にノズル付近のインク中の水分の増加や減少が発生する。組成変化が起こってしまうことにより、特に、目詰まり回復性が悪化したり、吐出したインクの飛行曲がり等が生じやすい。
【0029】
特に、インクが複数ある場合には、インク毎に水分の増減の程度が異なりうる。そうすると、あるインクに対しては、水分の増減を生じさせない好適なメンテナンス液であっても、他のインクに対しては、水分の増減を生じさせるメンテナンス液となることがある。しかしながら、上記のとおり、省スペース等の観点から複数個のインクを吐出するノズルを一括して覆う場合には、インク毎にメンテナンス液を使い分けることはできない。そのため、複数のインクに対して好適なメンテナンス液を設計する必要がある。
【0030】
そこで、本実施形態においては、上記保湿剤成分の、上記保湿剤成分と上記水との総量に対する含有量A(質量%)が、上記式(1)を満たすことにより、メンテナンス液中の保湿剤の含有量を、インク組成物に対して上述の評価方法Aによって最適化することにより、インクの組成変化を少なくすることが可能になる。
【0031】
以下、本実施形態のメンテナンス液の各成分について詳説する。
【0032】
以下メンテナンス液の組成について説明する。メンテナンス液の組成を言う場合のメンテナンス液は、特にこだわらない限り、新しいメンテナンス液として、メンテナンス液収容体などから、記録装置のタンクに入れられるメンテナンス液である。
【0033】
1.1.保湿剤成分
本実施形態のメンテナンス液は、1種以上の保湿剤を含む保湿剤成分を含む。本実施形態においては、保湿剤とは個々の化合物を指し、保湿剤成分とはそれら保湿剤の全体を指すものとする。また、保湿剤成分が水溶性の有機化合物である。
【0034】
保湿剤は、水系の組成物に保湿性を付与することができる有機化合物である。水系の組成物に保湿剤を含有させることで、保湿剤を含有させない場合と比べ、組成物の水の蒸発を抑制することができる有機化合物である。
【0035】
保湿剤としては、有機溶剤、25℃で固体の有機化合物があげられる。なお25℃で固体の有機化合物は、25℃(常温)、常圧で、単体で固体の有機化合物である。
【0036】
有機溶剤としては、ポリオール類、グリコールエーテル類、含窒素溶剤、モノアルコール類、などがあげられる。有機溶剤は、標準沸点が130℃以上の水溶性の有機化合物が好ましい。有機溶剤の標準沸点は、170~350℃がより好ましく、200~330℃がさらに好ましく、250~300℃が特に好ましい。
【0037】
ポリオール類は、分子中に水酸基を2個以上有する有機化合物である。分子中の水酸基が分子間で縮合したポリアルキレングリコール類でもよい。
ポリオール類としては、特に限定されないが、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、メソエリスリトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0038】
グリコールエーテル類は、ポリオール類のうちの分子中に水酸基を2個有する化合物の水酸基の1個または2個がエーテル化した化合物であり、グリコールモノエーテル類、グリコールジエーテル類があげられる。エーテル化は、アルキルエーテル化が好ましい。
【0039】
含窒素溶剤は、分子中に窒素原子を有する有機溶剤であり、アミド類、アミド類以外の有機溶剤があげられる。アミド類は、非環状アミド、環状アミドがあげられ、環状アミドは、後述するラクタム類で有機溶剤であるものも含む。
【0040】
モノアルコール類は、アルカン骨格に水酸基が1個結合した化合物である。25℃で固体の有機化合物としては、ベタイン類、分子中に水酸基を2個以上有する有機化合物などがあげられる。
【0041】
ベタイン類としては、特に限定されないが、例えば、グリシン、トリメチルグリシン、γ-ブチロベタイン、カルニチン等が挙げられる。
分子中に水酸基を2個以上有する有機化合物としては、糖類、糖類以外の有機化合物などがあげられる。
【0042】
ラクタム類としては、特に限定されないが、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1-(2-ヒドロキシルエチル)-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム等のラクタム類等が挙げられる。ラクタム類で、有機溶剤であるものは有機溶剤でもある。ラクタム類で、常温単体で固体の有機化合物であるものもある。
【0043】
保湿剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオール類、ベタイン類、及びラクタム類等が挙げられ、好ましい。保湿剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
保湿剤成分は、標準沸点が130℃以上の有機溶剤である水溶性の有機化合物、又は25℃において固体である水溶性の有機化合物のいずれか1種以上を含むことが好ましい。
【0045】
標準沸点が130℃以上の有機溶剤である水溶性の有機化合物としては、特に限定されないが、例えば、上述の有機溶剤から選択して使用することができ、ポリオール類又はラクタム類等から適宜選択して用いることが好ましく、ポリオール類がより好ましい。
25℃において単体で固体である水溶性の有機化合物としては、特に限定されないが、例えば、上述のものから選択して使用でき、特に上述のベタイン類等から適宜選択して用いることが好ましい。
【0046】
保湿剤成分の、上記保湿剤成分と上記水との総量に対する含有量A(質量%)は、下記式(1)を満たす。
min-5≦A≦Xmax+5 式(1)
ここで、Xmin、Xmaxは、それぞれ、下記手順1~3を行った場合に、下記定義1によって定義される値である。
<手順1>
保湿剤成分と水からなる液体組成物であって、保湿剤成分と水の総量に対する保湿剤成分の含有量B(質量%)が異なる3種以上の各液体組成物(以下、それぞれ、P1、P2、P3、…、Pnとも称する。ここで、nは3以上の整数である。)と、2種以上の上記水系インク組成物(以下、それぞれ、Q1、Q2、…、Qmとも称する。ここで、mは2以上の整数である。)と、を用意する。上記液体組成物の保湿剤成分は、上記メンテナンス液が含む保湿剤成分と同一の組成とする。
続いて、液体組成物P1が入った容器αと、同量のインクQ1が入った容器βと、を、温度25℃、相対湿度50%の環境下、1つの密閉容器内に静置する。そして、液体組成物P1の時間経過に伴う質量変化に基づいて、インクQ1に対する液体組成物P1の吸湿速度(g/h)を算出する。
インクQ1についても、同様にして、液体組成物P1に対するインクQ1の吸湿速度(g/h)を算出する。
その後、液体組成物P2、P3、…Pnに対しても、液体組成物P1を変更すること以外は同様の条件により上記操作を行う。それにより、上記各液体組成物の吸湿速度と、それに対応するインクQ1のn通りの吸湿速度と、を算出する。
<手順2>
グラフの横軸には上記各液体組成物の保湿剤成分の含有量B、グラフの縦軸には上記各液体組成物の吸湿速度(g/h)と、それに対応する上記インクQ1のn通りの吸湿速度(g/h)と、をそれぞれプロットした後、上記各液体組成物の吸湿速度(g/h)についての近似直線と、上記インクQ1のn通りの吸湿速度(g/h)についての近似直線と、をそれぞれ作成する。
そして、上記各液体組成物の吸湿速度(g/h)についての近似直線と、上記インクQ1のn通りの吸湿速度(g/h)についての近似直線と、が交差する点における上記含有量BをX1とする。
<手順3>
インクQ2、…Qmに対しても、インクQ1を変更すること以外は上記と同様の条件により、上記手順1及び2を行う。それにより、X1、X2、…、Xmを得る。
<定義1>
得られたX(X1、X2、…、Xm)のうち、最も値が大きいものをXmaxとし、最も値が小さいものをXminとする。
【0047】
言い換えると、上記手順は、1種の水系インク組成物iに対する各液体組成物の吸湿速度、及び各液体組成物に対する水系インク組成物iの吸湿速度を特定するステップ(手順1)と、手順1で得られた各吸湿速度と保湿剤成分の含有量Bとの相関関係から、水系インク組成物iと液体組成物との吸湿速度がつり合う点における保湿剤成分の含有量Xiを特定するステップ(手順2)と、水系インク組成物の種類毎に保湿剤成分の含有量Xiを特定して、得られた複数のXiの中から、XminとXmaxを特定するステップ(手順3)である。
【0048】
本実施形態においては、複数のインクに対して好適なメンテナンス液を設計するにあたり、上記手順で特定されたXminとXmaxに基づいて下記式(1)により定める。これにより、インク全体で見たときに組成変化を生じさせにくいメンテナンス液を調製することができる。
min-5≦A≦Xmax+5 式(1)
【0049】
なお、上記値において、下限を「Xmin-5」とし上限を「Xmax+5」としている理由について説明する。まず、一種のインクQmを保湿する場合を仮定する。この場合、上記手順1及び2により、Xmが得られたとする。このとき、メンテナンス液として適した保湿剤成分の含有量Aは、Xmの一点だけでなく、その値の±5%の値が適した値といえる。
【0050】
このことは、2種以上のインクを保湿する場合にも同様であるため、上記式(1)においては、下限を「Xmin-5」とし上限を「Xmax+5」とする。なお、仮に、2種のインクQ1,Q2を保湿する場合を仮定し、上記手順1及び2により得られるX1,X2が同じ値であった場合にも、同様に、その値の±5%の値が適した値といえる。
【0051】
上記手順1において、nは3以上であり、4以上であってもよい。
【0052】
また、上記手順1において、3種以上の各液体組成物を、保湿剤成分の含有量Bが大きい順に並べた場合において、隣りあう液体組成物間の保湿剤成分の含有量B(質量%)の差(Pn-Pn-1)は、特に限定されないが、各々独立して、10質量%以上としてもよい、さらには15質量%以上であってもよく、20質量%以上であってもよく、25質量%以上であってもよい。上記差の上限は、例えば30質量%以下としてもよく、25質量%以下としてもよい。
【0053】
また、3種以上の液体組成物において、水系インク組成物の吸湿速度が負の値であり、液体組成物との吸湿速度が正の値であるような液体組成物と、水系インク組成物の吸湿速度が正の値であり、液体組成物の吸湿速度が負の値であるような液体組成物と、が存在するようにする。
【0054】
なお、「液体組成物の保湿剤成分は、メンテナンス液が含む保湿剤成分と同一の組成とする」とは、メンテナンス液が保湿剤成分に含む保湿剤と種類が同一とし、メンテナンス液が保湿剤成分として2種以上の保湿剤を含む場合、種類に加えて、液体組成物中の2種以上の保湿剤の組成比は、メンテナンス液における保湿剤の組成比と同一とし、液体組成物中の保湿剤成分は、含有量B(質量%)は液体組成物間で異なるが、その2種以上の保湿剤の組成比は同一とすることを意味する。上記2種以上の保湿剤の組成比は、保湿剤全体の質量に対する各保湿剤の質量比である。
【0055】
さらに、上記手順1において、時間経過に伴う質量変化を算出するにあたっては、その測定間隔は、各々独立して、24時間置きであってもよい。例えば、開始から24時間置きであってもよい。なお、測定する時点は、時間経過に伴う質量変化が継続している時点とする。
【0056】
ここで、容器αと、容器βとが、1つの密閉容器内に静置された状態についての概念図を図2に示す。図2に示すように密閉容器1内の気体と密閉容器1外の気体は出入りができない状態になっている。なお、上記容器α、上記容器β、及び上記密閉容器については、特に限定されないが、例えば、後述する実施例にて用いたものを用いることができる。
【0057】
上記手順1において、水系インク組成物に対する液体組成物の吸湿速度(g/h)、及びそれに対応する水系インク組成物の吸湿速度(g/h)の算出方法についての概念図を図3に示す。
【0058】
図3に示すグラフは、液体組成物が入った容器と、同量のインク組成物が入った容器と、を1つの密閉容器内に静置した時を開始時点とする経過時間(h)を横軸に、インク組成物及び液体組成物の質量(g)を縦軸に取ったグラフである。
図3中の実線の傾きはインク組成物の吸湿速度(g/h)を示しており、破線の傾きは液体組成物の吸湿速度(g/h)を示している。
図3では、徐々にインク組成物の質量が増加し、液体組成物の質量が低下している。これは、インク組成物の吸湿速度のほうが、液体組成物の吸湿速度よりも高い例を示している。すなわち、インク組成物が液体組成物中の水分を吸収していることを示している。
この場合、水系インク組成物の吸湿速度が正の値であり、液体組成物の吸湿速度が負の値である。
なお、液体組成物の吸湿速度のほうが、インク組成物の吸湿速度よりも高い場合には、図3で示すインク組成物と液体組成物のグラフの対応関係は逆転する。また、インク組成物と液体組成物の吸湿速度が同程度である場合には、両者の質量は変化しない。
【0059】
上記手順2において、液体組成物が3種類である場合に、各液体組成物の吸湿速度(g/h)のプロットについての近似直線と、それぞれに対応する3通りの水系インク組成物の吸湿速度(g/h)のプロットについての近似直線と、それらの近似直線が交差する点Xの算出方法についての概念図を図4に示す。
【0060】
図4に示すグラフは、保湿剤成分と水の総量に対する保湿剤成分の含有量B(質量%)を横軸に、インク組成物及び液体組成物の吸湿速度(g/h)を縦軸に取ったグラフである。
図4中の実線はインク組成物の吸湿速度(g/h)を示しており、破線は液体組成物の吸湿速度(g/h)を示している。また、実線と破線の交点がX(質量%)である。
図4では、インク組成物の吸湿速度(g/h)と液体組成物の吸湿速度(g/h)が、X(質量%)においてつり合う。すなわち、X(質量%)は、インク組成物の組成変化を起こさない含有量B(質量%)であることを意味する。
なお、インク組成物が複数ある場合には、X(質量%)はインク組成物ごとに求められる。
【0061】
上記定義1において、液体組成物が3種類であり、水系インク組成物が4種類である場合に、得られたX(X1、X2、…、Xm)のうち、最も値が大きいXmaxと、最も値が小さいXminについての概念図を図5に示す。
【0062】
図5に示すグラフは、インク組成物の種類を横軸に、インク組成物のX(質量%)を縦軸に取ったグラフである。
図5中の棒グラフは、4種類のインク組成物のX(質量%)をそれぞれ示している。
図5では、4種類のインク組成物のX(質量%)のうち、最大のX(質量%)がXmax(質量%)であり、最小のX(質量%)がXmin(質量%)であることを意味する。
なお、図5では4種類のインク組成物についてのXmax(質量%)及びXmin(質量%)を示しているが、インク組成物が2~3種、又は5種以上である場合においても同様にXmax(質量%)及びXmin(質量%)を求めることができる。
【0063】
本実施形態のメンテナンス液は、インクジェット記録に用いるインク組成物の組成変化を少なくする観点から、好ましくは保湿剤成分の含有量A(質量%)が、下記式(2)を満たす。
min≦A≦Xmax 式(2)
【0064】
さらに、本実施形態のメンテナンス液は、インクジェット記録に用いるインク組成物の組成変化を少なくする観点から、より好ましくは保湿剤成分の含有量A(質量%)が、下記式(3)を満たす。
min+[(Xmax-Xmin)/4]≦A≦Xmax-[(Xmax-Xmin)/4] 式(3)
【0065】
maxとXminとの関係については、インクジェット記録に用いるインク組成物の組成変化を少なくする観点から、XmaxからXminを減じて得られる値(質量%)が、15質量%以下が好ましい。この場合、何れのインクも組成変化をより少なくでき好ましい。
また、該値が1.0質量%以上が好ましく、2.0質量%以上がより好ましい。この場合、インク設計の自由度が高く好ましい。例えば2種以上のインクが、インク毎の機能の違いなどにより、組成が異なるインクとする場合に、設計の自由度が高く好ましい。該値は、2.0~15質量%であることがより好ましく、3.0~8.0質量%がより好ましい。
【0066】
なお、2種以上のインク組成物を吐出するノズルを有するノズル面を、1つのキャップ部でキャッピングして保湿する場合、2種以上のインク組成物を吐出するノズルが、閉鎖空間内に存在するため、メンテナンス液によって閉鎖空間が保湿されることに加えて、2種以上のインク組成物によっても閉鎖空間が保湿され、これによってインク間で保湿しあうことで、2種以上のインクが何れも良好に保湿されると推測する。
【0067】
保湿剤成分の含有量A(質量%)は、メンテナンス液の保湿剤成分と水との総量に対する保湿剤成分の含有量(質量%)であり、上述の式(1)を満たすものであるが、例えば、好ましくは10~40質量%であり、より好ましくは15~35質量%であり、さらに好ましくは20~30質量%である。
【0068】
1.2.水
本実施形態のメンテナンス液に含まれる水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、及び蒸留水等が挙げられる。メンテナンス液は、水系の組成物である。水系の組成物は、溶媒成分が、少なくとも水を主要な成分とする組成物である。
【0069】
水の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは50~95質量%である。さらに好ましくは、55~87.5質量%であり、より好ましくは60~85質量%であり、さらに好ましくは65~82.5質量%であり、よりさらに好ましくは70~80質量%である。
【0070】
1.3.防腐剤
防腐剤としては、特に限定されないが、例えば、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA)等のキレート化剤;安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキサイドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンゾイソチアゾリン-3-オン、4-クロロ-3-メチルフェノール等が挙げられる。防腐剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
防腐剤の含有量は、メンテナンス液の総量に対して、好ましくは0.01~1.0質量%であり、より好ましくは0.05~0.8質量%であり、さらに好ましくは0.1~0.6質量%であり、よりさらに好ましくは0.2~0.4質量%である。
【0072】
1.4.その他の成分
本実施形態のメンテナンス液は、上記の各成分の他に、メンテナンス液に用いられ得る公知のその他の成分を含んでもよい。そのようなその他の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、腐食防止剤、上記以外の保湿剤成分、及び上記以外の防腐剤等が挙げられる。その他の成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0073】
2.水系インク組成物
本実施形態の水系インク組成物(以下、単にインク組成物ともいう。)は、本実施形態の記録装置のインクジェットヘッドから吐出するために用いられる。本実施形態においては、2種以上のインク組成物が併用される。また、本実施形態のインク組成物は色材を含んでいてもよく、また、必要に応じてその他の成分を備えていてもよい。
【0074】
2.1.色材
色材としては、特に限定されないが、例えば、染料や顔料等を挙げることができ、その中でも、使用することができる記録媒体の幅が広く、光やガス等に対して退色しにくい性質を有していること等から顔料を用いることが好ましい。
【0075】
顔料としては、特に限定されないが、例えば、アゾ顔料(例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等を含む)、多環式顔料(例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック等の有機顔料;カーボンブラック(例えば、ファーネスブラック、サーマルランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等)、金属酸化物、金属硫化物、金属塩化物等の無機顔料;シリカ、炭酸カルシウム、タルク等の体質顔料等が挙げられる。顔料は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
色材のインク中の含有量は、0.5質量%以上が好ましく、1.0~15.0質量%がより好ましく、5~10質量%がさらに好ましい。
色材の含有量について、2種以上のインク組成物のうち少なくとも1種のインク組成物における色材の含有量は、該インク組成物の総量に対して、好ましくは7.0質量%以上であり、より好ましくは7.0~15.0質量%であり、さらに好ましくは7.0~10質量%であり、より好ましくは7.5~9.5質量%であり、さらに好ましくは8.0~9.0質量%である。
【0077】
2.2.水
本実施形態のインク組成物に含まれる水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、及び蒸留水等が挙げられる。
【0078】
インク組成物は水系の組成物である。水の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは40.0質量%以上であり、より好ましくは45.0~98.0質量%である。さらには、このましくは47.5~82.5質量%であり、より好ましくは50~80質量%であり、さらに好ましくは52.5~77.5質量%であり、よりさらに好ましくは55~75質量%である。
【0079】
2.3.無機酸化物粒子
本実施形態のインク組成物は、好ましくは無機酸化物粒子を含む。無機酸化物粒子としては、特に限定されないが、例えば、コロイダルシリカ、アルミナコロイド等が挙げられる。無機酸化物粒子は、表面処理がされたものであってもよく、特に限定されないが、例えば、コロイダルシリカは、アルミナで表面処理されていてもよい。無機酸化物粒子は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0080】
無機酸化物粒子の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~7.0質量%であり、より好ましくは0.5~6.0質量%であり、さらに好ましくは1.0~5.0質量%であり、よりさらに好ましくは2.0~4.0質量%である。
【0081】
2.4.有機溶剤
本実施形態のインク組成物は、上述のメンテナンス液に含有してもよい保湿剤を、メンテナンス液とは独立してインクに含有させても良い。好ましくは有機溶剤を含む。保湿剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオール類、グリコールエーテル類、ラクタム類、及びベタイン類等が挙げられる。保湿剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
ポリオール類としては、特に限定されないが、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、メソエリスリトール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0083】
グリコールエーテル類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノ-t-ブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、1-メチル-1-メトキシブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、及びジプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0084】
ラクタム類としては、特に限定されないが、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、ヒドロキシエチルピロリドン等のラクタム類等が挙げられる。
【0085】
ベタイン類としては、特に限定されないが、例えば、グリシン、トリメチルグリシン、γ-ブチロベタイン、カルニチン等が挙げられる。
【0086】
本実施形態においては、2種以上のインク組成物のうち少なくとも1種のインク組成物が、標準沸点が130℃以上の有機溶剤である水溶性の有機化合物、又は25℃において固体である水溶性の有機化合物のいずれか1種以上を含むことがより好ましい。
【0087】
標準沸点が130℃以上の有機溶剤である水溶性の有機化合物は、特に限定されないが、例えば、上述のポリオール類又はラクタム類から適宜選択して用いることができ、25℃において固体である水溶性の有機化合物としては、特に限定されないが、例えば、上述のベタイン類等から適宜選択して用いることができる。
【0088】
有機溶剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは10~40質量%であり、より好ましくは15~35質量%であり、さらに好ましくは20~30質量%である。
【0089】
2.5.界面活性剤
本実施形態のインク組成物は界面活性剤を含んでいることが好ましく、界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられる。界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0090】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキサイド付加物、並びに2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0091】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。
【0092】
フッ素系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物が挙げられる。
【0093】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の総量に対して、好ましくは0.1~2.5質量%であり、より好ましくは0.3~2.0質量%であり、さらに好ましくは0.4~1.5質量%であり、よりさらに好ましくは0.5~1.0質量%である。
【0094】
2.6.その他の成分
本実施形態のインク組成物は、上記の各成分の他に、従来のインク組成物に用いられ得る公知その他の成分を含んでもよい。そのようなその他の成分としては、特に限定されないが、例えば、溶解助剤、粘度調整剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、腐食防止剤、及び分散に影響を与える所定の金属イオンを捕獲するためのキレート化剤その他の添加剤、及び上記以外の有機溶剤等が挙げられる。その他の成分は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
3.インクセット
本実施形態のメンテナンス液は、本実施形態のメンテナンス液、及び本実施形態のインク組成物を有するインクセットとして用いてもよい。なお、インクセットとは、インクジェット記録に併せて用いられるメンテナンス液やインク組成物等の組み合わせのことである。インク組成物は、メンテナンス液によりメンテナンスが行なわれるインクジェットヘッドから吐出して用いられる2種以上のインク組成物である。
【0096】
4.メンテナンス方法
本実施形態のメンテナンス方法は、上記メンテナンス液を、記録装置のインクジェットヘッドのノズル面を覆うキャップ部に供給し、上記ノズル面の保湿を行うメンテナンス工程、を有し、また、必要に応じてその他の工程を有していてもよい。
【0097】
また、本実施形態のメンテナンス方法は、メンテナンス工程に先立ち、所定のインクジェットヘッドを用いて、上記インクジェットインクを、吐出して記録媒体に付着させる吐出工程をさらに有してもよい。
【0098】
4.1.吐出工程
吐出工程では、インクジェットヘッドからインクを吐出して記録媒体に付着させる。より具体的には、インクジェットヘッド内に設けられた圧力発生手段を駆動させて、インクジェットヘッドの圧力発生室内に充填されたインクをノズルから吐出させる。このような吐出方法をインクジェット法ともいう。
【0099】
吐出工程において用いるインクジェットヘッドとしては、ライン方式により記録を行うラインヘッドと、シリアル方式により記録を行うシリアルヘッドが挙げられる。
【0100】
ラインヘッドを用いたライン方式では、例えば、記録媒体の記録幅以上の幅を有するインクジェットヘッドを記録装置に固定する。そして、記録媒体を副走査方向(記録媒体の搬送方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0101】
シリアルヘッドを用いたシリアル方式では、例えば、記録媒体の幅方向に移動可能なキャリッジにインクジェットヘッドを搭載する。そして、キャリッジを主走査方向(記録媒体の幅方向)に沿って移動させ、この移動に連動してインクジェットヘッドのノズルからインク滴を吐出させることにより、記録媒体上に画像を記録する。
【0102】
4.2.メンテナンス工程
メンテナンス工程は、上記メンテナンス液を用いて、インクジェットヘッドのメンテナンスを行う工程である。インクジェットヘッドのメンテナンス方法は特に限定されないが、例えば、メンテナンス液はインクジェットヘッドのノズル面に間接的又は直接的に供給してもよい。
【0103】
メンテナンス液を直接的に供給する場合は、ノズル面にメンテナンス液を付着させてもよい。また、メンテナンス液を間接的に供給する場合は、インクジェットヘッドのノズル面を覆うキャップにメンテナンス液を供給し、そのノズル面とキャップによって閉鎖空間を構成し、メンテナンス液はノズル面と非接触な状態で、閉鎖空間を保湿する方法が挙げられる。
【0104】
また、本実施形態のメンテナンス方法は、導電率式のセンサにより、メンテナンス液の導電率を検出する工程を有していてもよい。導電率の検出工程は、導電率式のセンサにより、メンテナンス液の導電率を検出する工程である。導電率式のセンサは、メンテナンス液を貯留するタンクに設けられており、その水位を導電率にて測定してもよい。例えば、タンクの所定の水位ごとに導電率式のセンサを設け、それぞれのセンサによって導電率を検出することで、導電率の検出ができた水位までメンテナンス液が貯留されていることを確認できる。
【0105】
メンテナンス液の導電率を検出できないとき、あるいは、メンテナンス液の導電率を検出した結果としてメンテナンス液の量が少ない場合には、水を貯留するタンクから、メンテナンス液に水を供給してもよい。
【0106】
5.記録装置
本実施形態の記録装置は、メンテナンス液及び該メンテナンス液により上記ノズル面の上記保湿が行なわれるインクジェットヘッド、を有する。該インクジェットヘッドは、2種以上の水系インク組成物を吐出して記録を行うものであり、水系インク組成物を吐出するノズルが形成されたノズル面を有する。また、該ノズル面は、ノズルが、2種以上の上記水系インク組成物毎に形成されている。
【0107】
また、本実施形態の記録装置は、上記メンテナンス液の供給を行う供給機構を有していてもよく、さらに、上記供給機構は、上記メンテナンス液に水を供給する給水機構を有していてもよい。
【0108】
その他にも、記録装置は、特に限定されないが、例えば、記録媒体を搬送する搬送手段、及びメンテナンス液とメンテナンス液の導電率の検出に用いられる導電率式のセンサ等を有していてもよい。上記搬送手段は、記録装置内に設けられた搬送ローラーや搬送ベルトから構成される。
【0109】
6.記録媒体
本実施形態で用いる記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性、低吸収性、又は非吸収性の記録媒体が挙げられる。
【0110】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、インクの浸透性が高い電子写真用紙等の普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子やアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)があげられる。
【0111】
低吸収性記録媒体は、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、キャスト紙等が挙げられる。
【0112】
非吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムやプレート;鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート;又はそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレスや真鋳等の合金のプレート;紙製の基材にポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリウレタン等のプラスチック類のフィルムを接着(コーティング)した記録媒体等が挙げられる。
【実施例0113】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0114】
1.インクセット、及びメンテナンス液の調製
表5に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらにメンブランフィルターでろ過することにより各インク組成物を有するインクセットA~Cを調製した上で、表1~4に記載の組成となるように、混合物用タンクに各成分を入れ、混合攪拌し、さらにメンブランフィルターでろ過することにより、各実施例及び各比較例のメンテナンス液を得た。なお、表中の各例に示す各成分の数値は特段記載のない限り質量%を表す。また、表1~5における顔料及びコロイダルシリカの含有量(質量%)については、固形分濃度を表す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
【表4】
【0119】
【表5】
【0120】
表1~5に示す材料は以下の通りである。
[メンテナンス液]
<保湿剤>
・グリセリン
・トリエチレングリコール
・プロピレングリコール
・トリメチルグリシン
・1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン
<防腐剤>
・Proxel XL2
<水>
・イオン交換水
[インクセット]
<顔料>
・シアン顔料:CAB-O-JET 450C(キャボット社製)
・マゼンタ顔料:CAB-O-JET 465M(キャボット社製)
・イエロー顔料:CAB-O-JET 470Y(キャボット社製)
・ブラック顔料:CAB-O-JET 400(キャボット社製)
<無機酸化物粒子>
・コロイダルシリカ:日産化学工業製「カタロイド SI-30」
<溶剤>
・グリセリン
・トリエチレングリコール
・トリメチルグリシン
・BTG:トリエチレングリコールモノブチルエーテル
・MTG:トリエチレングリコールモノメチルエーテル
【0121】
<界面活性剤>
・オルフィンE1010:日信化学工業社製、アセチレングリコール系界面活性剤
・サーフィノール104:エアプロダクツ社(Air Products Japan, Inc.)製、アセチレングリコール系界面活性剤
<水>
・イオン交換水
【0122】
表1~4に示すXmin、Xmaxは、それぞれ、下記手順1~3を行った場合に、下記定義1によって定義した。
<手順1>
保湿剤成分と水からなる液体組成物であって、保湿剤成分と水の総量に対する保湿剤成分の含有量B(質量%)がそれぞれ5.0質量%、20質量%、及び40質量%である3種の各液体組成物(以下、それぞれ、P1、P2、P3とも称する。)と、4種の水系インク組成物(以下、それぞれ、Q1、Q2、Q3、Q4、とも称する。)と、を用意した。液体組成物の保湿剤成分として2種類以上の保湿剤を含む場合は、各液体組成物は含有量B(質量%)の値によらず同一の組成(割合)の保湿剤を含むものとした。
続いて、液体組成物P1が入った直径35mmシャーレである容器αと、同量のインクQ1が入った直径35mmシャーレである容器βと、を、温度25℃、相対湿度50%の環境下、容器体積506cm3の1つの密閉容器内に静置する。そして、静置後、24時間後、48時間後、及び72時間後の容器αと容器βの質量を測定し、液体組成物P1の時間経過に伴う質量変化に基づいて、インクQ1に対する液体組成物P1の吸湿速度(g/h)を算出した。
インクQ1についても、同様にして、液体組成物P1に対するインクQ1の吸湿速度(g/h)を算出した。
その後、液体組成物P2、P3に対しても、液体組成物P1を変更すること以外は同様の条件により上記操作を行った。それにより、上記各液体組成物の吸湿速度と、それに対応するインクQ1の3通りの吸湿速度と、を算出した。
<手順2>
グラフの横軸には上記各液体組成物の保湿剤成分の含有量B、グラフの縦軸には上記各液体組成物の吸湿速度(g/h)と、それに対応する上記インクQ1の3通りの吸湿速度(g/h)と、をそれぞれプロットした後、上記各液体組成物の吸湿速度(g/h)についての近似直線と、上記インクQ1の3通りの吸湿速度(g/h)についての近似直線と、をそれぞれ作成した。
そして、上記各液体組成物の吸湿速度(g/h)についての近似直線と、上記インクQ1の3通りの吸湿速度(g/h)についての近似直線と、が交差する点における上記含有量BをX1とした。
<手順3>
インクQ2、Q3、及びQ4に対しても、インクQ1を変更すること以外は上記と同様の条件により、上記手順1及び2を行う。それにより、X1、X2、X3、及びX4を得た。
<定義1>
得られたX1、X2、X3、及びX4のうち、最も値が大きいものをXmaxとし、最も値が小さいものをXminとした。
【0123】
2.評価方法
2.1.保湿時間経過に伴うインク組成変化
インクセットの各インク組成物とメンテナンス液を、それぞれ同一形状の容器に同一重量はかりとり(容器:直径35mmシャーレ、液体重量:5g)、温度25℃、相対湿度50%の環境下、水や水蒸気の出入りがない1つの密閉容器(容器体積506cm3)内に静置した。7日間静置した後に、静置前後のインク粘度変化率(%)を測定して、以下の評価基準により評価した。その結果を表1~4に示す。粘度は25℃で測定した。インクセットにおける各インクのうちもっとも評価が低いインクの評価とする。
[評価基準]
A:粘度変化率(%)が、3%未満である。
B:粘度変化率(%)が、3%以上5%未満である。
C:粘度変化率(%)が、5%以上である。
【0124】
2.2.フラッシングによるインク消費
記録装置として、セイコーエプソン製LX-10050MF改造機を用意した。インクジェットヘッドに実施例および比較例のインクセットの各インクを充填した。インクジェットヘッドに保湿キャップがキャッピングされていない状態において、温度40%、相対湿度20%の環境下で、インクジェットヘッドを、7日間放置した。7日間放置した後、保湿キャップをメンテナンス液で充填させ、メンテナンス液がインクジェットヘッドのノズル面に非接触で、保湿キャップをインクジェットヘッドにキャッピングし、温度40%、相対湿度20%環境下で7日間放置した。その後、ノズルが全て正常に吐出するようになるまでに必要なフラッシングによるインク消費量C1を測定した。
また、保湿キャップをメンテナンス液で充填されていない同形状のキャップ(以下、従来型廃インクキャップ、ともいう。)にしたこと以外は上記操作と同様にして、ノズルが全て正常に吐出するのに必要なフラッシングによるインク消費量C2を測定した。
(C2-C1)/C2を消費量変化率(%)として、以下の評価基準により評価した。その結果を表1~4に示す。インクセットにおける各インクのうちもっとも評価が低いインクの評価とする。
[評価基準]
A:インク消費量変化率(%)が20%以上。
B:インク消費量変化率(%)が5%以上20%未満。
C:インク消費量変化率(%)が5%未満、又は回復しないノズルがあった。
【0125】
2.3.目詰まり回復性
セイコーエプソン製LX-10050MF改造機を用意し、インクジェットヘッドに、実施例及び比較例の各インク組成物を充填し、全ノズルよりインクが吐出できることを確認した後、インクジェットヘッドがプリンタに備えられたキャップの位置からずれており、ヘッドにキャップがされていない状態で、温度40℃、相対湿度20℃の環境下で7日間放置した。放置後、保湿キャップをメンテナンス液で充填させ、メンテナンス液がインクジェットヘッドのノズル面に非接触で、インクジェットヘッドを保湿キャップでキャッピングし、温度40℃、相対湿度20%の環境下で7日間放置した。その後、ノズルが全て正常に吐出するまでのクリーニング回数を数え、以下の評価基準により評価した。インクセットにおける各インクのうちもっとも評価が低いインクの評価とする。
[評価基準]
A:クリーニング回数が2回未満で全ノズルが回復する。
B:クリーニング回数が2回以上6回未満で全ノズルが回復する。
C:クリーニング回数が6回以上で全ノズルが回復する、又は回復しないノズルがある。
【0126】
2.4.インクジェットヘッドに対してメンテナンス液がアブノーマル接触した際の目詰まり回復性(アブノーマル接触時の目詰まり回復性)
セイコーエプソン製LX-10050MF改造機を用意し、インクジェットヘッドに、実施例及び比較例の各インク組成物を充填した。メンテナンス液を入れた容器のメンテナンス液の液面に、ノズル面を1分浸漬させた。その後、ノズル面をメンテナンス液から出して、クリーニングを1回行い、ノズル面をワイパで拭いた後、ノズル検査を行った。インクセットにおける各インクのうちもっとも評価が低いインクの評価とする。
[評価基準]
A:不吐出ノズルがある。
B:不吐出ノズルがない。
【0127】
2.5.スタック性評価
セイコーエプソン製LX-10050MF改造機に実施例及び比較例の各インク組成物を充填し、温度10℃、相対湿度85℃の環境下で、記録媒体(A4サイズのXerox P紙、富士ゼロックス社製コピー用紙、坪量64g/m2、紙厚88μm)に対して、Duty:100%でベタパターンを記録した。記録に用いたインク組成物が4色セットの場合、0.25dutyずつ混合使用した。その後、プリンタの排紙トレイに記録後の用紙100枚重ねて積み上げた後、目視により、以下の評価基準により評価した。
[評価基準]
A:メディアが排紙トレイに綺麗に収まっている。
B:メディアが排紙トレイに綺麗に収まっていない。
【0128】
3.評価結果
表1~4の評価結果から、実施例1~16はいずれも、保湿剤成分と水との総量に対する保湿剤成分の含有量A(質量%)が、式(1)を満たさない比較例1~10と比較して、保湿時間経過に伴うインク組成変化が少ないことがわかった。
【0129】
また、参考例1~6は、インクとして、インクセットAのうちのシアン又はブラックの1種の水系インク組成物だけを用いた例である。インクが1種のため、Xmin、Xmaxが同じとした。いずれにおいても、保湿剤成分と水との総量に対する保湿剤成分の含有量A(質量%)が上記式(1)を満たす場合は、保湿時間経過に伴うインク組成変化が少ないが、XminとXmaxが一致するため、メンテナンス液における上記含有量A(質量%)が式(1)を満たす数値範囲が実施例1~16と比べて狭くなることがわかった。
【符号の説明】
【0130】
1…密閉容器、α…容器α、β…容器β、11…インクジェットヘッド、12…ノズル面、13…インク流路、14…閉鎖空間、21…メンテナンス液、22…キャップ部、23…流路、24…タンク、25…導電率センサ、26…タンク、27…水
図1
図2
図3
図4
図5