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特開2024-33832太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033832
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 7/00 20060101AFI20240306BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240306BHJP
   C22B 1/00 20060101ALI20240306BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C22B7/00 A
C22B1/02
C22B1/00 601
C01B33/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137691
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】506347517
【氏名又は名称】DOWAエコシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 亮栄
(72)【発明者】
【氏名】堀岡 敬太
(72)【発明者】
【氏名】淀瀬 達也
(72)【発明者】
【氏名】三浦 健吾
【テーマコード(参考)】
4G072
4K001
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072BB05
4G072DD01
4G072DD02
4G072GG03
4G072HH40
4G072HH50
4G072LL02
4G072MM06
4G072MM26
4G072MM28
4G072MM36
4G072MM38
4G072MM40
4G072UU01
4G072UU02
4K001AA01
4K001AA09
4K001AA23
4K001BA22
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA03
4K001CA11
4K001DA05
4K001DB02
4K001DB04
4K001DB05
4K001DB06
4K001DB08
4K001DB10
4K001GA01
4K001GA07
4K001GA09
4K001GA19
(57)【要約】
【課題】高品位の金属シリコンを効率よく単離し、濃縮することができる太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法の提供。
【解決手段】太陽電池構造物を1,000℃以上で熱処理する熱処理工程を含む太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太陽電池構造物を1,000℃以上で熱処理する熱処理工程を含むことを特徴とする太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法。
【請求項2】
前記太陽電池構造物が、太陽電池モジュール、又は前記太陽電池モジュールからガラス基板及びフレームの少なくとも1種が取り除かれた太陽電池シート状構造物である、請求項1に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法。
【請求項3】
前記太陽電池構造物から更にインターコネクタ及びタブ線の少なくとも1種を取り除く、請求項2に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法。
【請求項4】
前記太陽電池構造物から更に電極を取り除く、請求項2に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法。
【請求項5】
前記太陽電池構造物を破砕して破砕物とする破砕工程と、
前記破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る分級工程と、
を含み、前記細粒産物に対して前記熱処理工程を行う、請求項1又は2に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法。
【請求項6】
前記分級工程で得られた前記細粒産物を粉砕し、粉砕物を比重選別して重比重物と軽比重物に選別する粉砕選別工程を更に含み、
前記軽比重物を前記熱処理工程の対象とする、請求項5に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法。
【請求項7】
前記熱処理工程において、1,200℃以上で熱処理を行う、請求項1又は2に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法。
【請求項8】
前記熱処理工程において、1,400℃以上で熱処理を行う、請求項7に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法。
【請求項9】
前記有価物が金属シリコンである、請求項1又は2に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、破損及び故障した太陽電池モジュール及び経年劣化した太陽電池モジュールのリサイクルが注目されている。このような太陽電池モジュールのリサイクル方法としては、例えば、太陽電池モジュールのバックシートを機械で剥離し、溶剤を用いて表面のガラスを封止材と太陽電池セルとに分離する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、従来技術のように溶剤を用いる方法では、溶剤の廃液処理などが必要となり工程が煩雑となり、大量の太陽電池モジュールをリサイクルするのには不向きである。また、従来技術では、太陽電池モジュールの太陽電池セルに用いられている金属シリコン(Si)を単離し、濃縮することは想定されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-104406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記金属シリコンは品位が高いものは太陽電池用のみならず、半導体用などに幅広いニーズがあるが、現状の太陽電池モジュールのリサイクル方法では金属シリコンを単離することが困難であり、金属シリコンが廃棄されてしまうことも少なくないのが現状である。
【0005】
本発明は、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高品位の金属シリコンを効率よく単離し、濃縮することができる太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 太陽電池構造物を1,000℃以上で熱処理する熱処理工程を含むことを特徴とする太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
<2> 前記太陽電池構造物が、太陽電池モジュール、又は前記太陽電池モジュールからガラス基板及びフレームの少なくとも1種が取り除かれた太陽電池シート状構造物である、前記<1>に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
<3> 前記太陽電池構造物から更にインターコネクタ及びタブ線の少なくとも1種を取り除く、前記<2>に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
<4> 前記太陽電池構造物から更に電極を取り除く、前記<2>に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
<5> 前記太陽電池構造物を破砕して破砕物とする破砕工程と、
前記破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る分級工程と、
を含み、前記細粒産物に対して前記熱処理工程を行う、前記<1>又は<2>に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
<6> 前記分級工程で得られた前記細粒産物を粉砕し、粉砕物を比重選別して重比重物と軽比重物に選別する粉砕選別工程を更に含み、
前記軽比重物を前記熱処理工程の対象とする、前記<5>に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
<7> 前記熱処理工程において、1,200℃以上で熱処理を行う、前記<1>又は<2>に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
<8> 前記熱処理工程において、1,400℃以上で熱処理を行う、前記<7>に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
<9> 前記有価物が金属シリコンである、前記<1>又は<2>に記載の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、高品位の金属シリコンを効率よく単離し、濃縮することができる太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、太陽電池モジュールの構造の一例を示す概略断面図である。
図2図2は、本発明の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法の第1の実施形態における処理の流れの一例を示す図である。
図3図3は、実施例における熱処理前の原料の外観を示す図である。
図4図4は、実施例における熱処理後の原料の外観を示す図である。
図5図5は、実施例における熱処理後の溶融物の断面写真である。
図6図6は、実施例における熱処理後の溶融物のマイクロスコープによる拡大画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法)
本発明の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法は、太陽電池構造物を1,000℃以上で熱処理する熱処理工程を含み、破砕工程、分級工程、及び粉砕選別工程を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0010】
<太陽電池構造物>
太陽電池構造物としては、太陽電池モジュール、又は前記太陽電池モジュールからガラス基板及びフレームの少なくとも1種が取り除かれた太陽電池シート状構造物(以下、「シート状構造物」と称することもある)である。
【0011】
-太陽電池モジュール-
太陽電池モジュールは、太陽電池セルと、前記太陽電池セルから配線される金属パターンと、前記太陽電池セル及び金属パターンを封止する封止材と、前記封止材の一方の面に設けられる保護部材と、前記封止材の他方の面に設けられるガラス基板と、これらの積層体の周囲を囲むフレームと、を有する。
【0012】
太陽電池モジュールの形状、構造、大きさ、種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
太陽電池モジュールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、太陽電池モジュールの製造過程で発生した不良品の太陽電池モジュール、使用機器の不良、使用機器の寿命などにより廃棄される太陽電池モジュール、寿命により廃棄される使用済みの太陽電池モジュールなどが挙げられる。
【0013】
-シート状構造物-
シート状構造物は、前記太陽電池モジュールからガラス基板及びフレームの少なくとも1種が取り除かれて構成される。具体的には、太陽電池セルと、太陽電池セルから配線される金属パターンと、これら太陽電池セル及び金属パターンを封止する封止材と、封止材の一方の面に設けられる保護部材とを備えて構成される。
【0014】
ここで、図1は、太陽電池モジュール10の構造の一例を示す概略断面図である。この図1に示す太陽電池モジュール10は、最下層から、バックシート20、封止材30、太陽電池セル40、及びガラス基板50の順で積層されており、更に必要に応じてその他の部材を有する積層構造体である。この積層構造体は、フレーム60によって外側から固定されている。
【0015】
太陽電池セル40は、シリコン系の太陽電池では、シリコンを含む半導体から形成される。具体的には、n型単結晶シリコン基板の受光面上にi型非晶質シリコン層、p型非晶質シリコン層、及び透明導電層を順に形成した構造などが挙げられる。透明導電層は酸化インジウム(In)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物に、錫(Sn)やアンチモン(Sb)等をドープした透明導電性酸化物から構成されることが好ましい。
【0016】
バックシート20は、複数の層からなるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。バックシート20は、太陽電池モジュール10が長期間湿気にさらされても影響がないように、最下層に配置される。
【0017】
封止材30は、太陽電池セル40を封止するシートであり、透明性、柔軟性、接着性、引張強度、及び耐候性に優れたシートである。図1に示す太陽電池モジュール10は、封止材30で太陽電池セル40を表裏面から挟み、太陽電池セル40を封止している。また、EVAシートからなる封止材30は接着性を有しているため、バックシート20及びガラス基板50と確実に接着することができるという利点がある。
【0018】
フレーム60は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム等の金属製枠であって、軽量性等の観点からアルミニウム製とされる。
前記フレームは、太陽電池モジュールの端縁を保護すると共に、隣り合う太陽光パネル同士の固定などに利用される。
【0019】
<有価物>
前記有価物とは、廃棄せずに取引対象たりうる価値のあるものを意味し、太陽電池構造物における有価物としては、例えば、金属シリコン(Si)、銀(Ag)、銅(Cu)等の各種金属、ガラスなどが挙げられる。これらの中でも、金属シリコンは太陽電池用のみならず、半導体用などに幅広いニーズがあり、価値が高い。
【0020】
本発明の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法は、熱処理工程を含み、破砕工程、分級工程、及び粉砕選別工程を含むことが好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0021】
まず、太陽電池モジュールから太陽電池シート状構造物を準備する。シート状構造物は、太陽電池モジュールからガラス基板及びフレームの少なくとも1種を取り除いたものである。
前記ガラス基板の除去方法としては、例えば、ホットナイフ法、ロール破砕法、ショットブラスト法などを用いることができる。なお、このように除去する場合にシート状構造物上に残留してしまうガラス分も前記シート状構造物には含まれるものとする。
前記フレームの取り外し方法としては、例えば、直接外す方法、破砕機にかけて渦電流選別機等で回収する方式などが挙げられる。
【0022】
また、前記太陽電池構造物から、更にインターコネクタ及びタブ線の少なくとも1種を取り除くことが好ましい。このときは主に太陽電池構造物に含まれる銅分等の有価物を熱処理前に分離し、濃縮することができる。熱処理後の金属シリコンの濃縮率も高められる。
【0023】
更に、前記太陽電池構造物から、更に電極を取り除くことも好ましい。このときは主に太陽電池構造物に含まれる銀分等の有価物を熱処理前に分離し、濃縮することができる。熱処理後の金属シリコンの濃縮率も高められる。
【0024】
上述のように、前記太陽電池構造物からインターコネクタ、タブ線及び電極を除去する方法としては、破砕選別等の乾式処理、酸処理等の湿式処理を適宜採用できる。
代表的な除去方法として、前記太陽電池構造物を、破砕工程、分級工程、粉砕選別工程を行う処理方法の一例を以下に示す。
【0025】
<破砕工程>
前記太陽電池構造物の1種であるシート状構造物を破砕する。シート状構造物の破砕においては、例えば、樹脂のような軟質で粘りのある材料から形成される部材ほど粗く破砕され、金属又は金属シリコン(Si)のような硬くて脆い材料から形成される部材は、細かく破砕される傾向がある。具体的には、金属シリコン(Si)を含む太陽電池セルは細かく破砕されやすい。また、有価金属を含む金属パターンは細かく破砕されやすい。金属パターンの中でも、太陽電池セルの表面に設けられる表面電極は、薄く構成されるため、太陽電池セルの破砕とともに破砕されやすく、バスバー電極よりも細かく破砕されやすい。一方、樹脂から形成される封止材又は保護部材などは、軟質であるため、粗く破砕される。そのため、破砕物においては、粒径の小さな範囲には、樹脂などが混入しにくく、金属シリコン又は金属の比率が高くなる。一方、粒径の大きな範囲には、樹脂などが多く含まれるので、金属シリコン又は金属の比率が低くなる傾向がある。
【0026】
シート状構造物の破砕においては、破砕物の粒径が不均一であって、粒度分布が広く、粒径のばらつきが大きくなるように破砕することが好ましい。これにより、太陽電池セルや金属パターン(特に表面電極)は細かく破砕する一方で、封止材又は保護部材を過度に細かく破砕せず、粗いままとすることができる。
【0027】
破砕物の大きさは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、金属シリコン又は金属を効率よく濃縮する観点から、破砕物の大きさが20mm以下となるようにシート状構造物を破砕することが好ましい。破砕物の大きさは15mm以下がより好ましく、10mm以下が更に好ましい。このような大きさに破砕することにより、破砕物に含まれる粉体の粒度分布を広く、その粒径を適度にばらつかせることができ、破砕物において粒径の小さい側に含まれる金属シリコン又は金属の割合を高くすることができる。
【0028】
前記破砕方法としては、破砕物に含まれる粉体の粒径を適度にばらつかせる観点から、シート状構造物にせん断作用を与えることができるせん断破砕が好ましい。使用する破砕機としては、例えば、一軸破砕機又は二軸破砕機等の公知の破砕機を用いることができるが、一軸破砕機が好ましい。前記二軸破砕機では、破砕条件によっては破砕物が一様に細かく破砕されて、粒径が均一となりやすいのに対して、前記一軸破砕機では、破砕が粗く、得られる破砕物の粒径が不均一で、粒度分布が広くなるように、破砕しやすい。つまり、前記一軸破砕機によれば、封止材又は保護部材を過度に細かく破砕することなく、樹脂が微小粉体に入り込むことを低減することが容易である。前記一軸破砕機としては、刃の形状によって、例えば、一軸カッターミル、一軸ハンマーミルなどが挙げられる。これらの中でも、せん断破砕する観点から、一軸カッターミルが好ましい。
【0029】
なお、破砕条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、破砕物の粒度分布が広くなるように、破砕機における刃の数、刃のクリアランス、及び刃の回転数などを適宜調整することができる。また、シート状構造物は一段階で破砕してもよく、一次破砕又は二次破砕といったように多段階で徐々に破砕してもよい。
【0030】
<分級工程>
分級工程は、得られた破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る工程である。
【0031】
分級方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、振動篩、多段式振動篩、サイクロン、JIS Z8801の標準篩、湿式振動テーブル、エアーテーブルなどを用いて行うことができる。
分級の粒度(分級点、篩の目開き)としては、分級により、金属シリコンを細粒産物中に濃縮する点から、300μm以上1,000μm以下の分級点で行われることが好ましい。
【0032】
また、分級方法として篩を用いる場合に、篩上に解砕促進物として、例えば、ステンレス球又はアルミナボールを載せて分級を行うことにより、大きな破砕物に付着している小さな破砕物を、大きな破砕物から分離させることで、大きな破砕物と小さな破砕物を、より効率的に分離することができる。こうすることにより、濃縮する有価物の品位を更に向上させることができる。具体的には、分級により粗粒産物側に予めタブ線を取り除くことで銅の濃縮率が高められる。また、後段の熱処理工程で得られる溶融物に銅が多く含まれるとシリコンとの合金を形成するおそれがあり、これを抑制できる。
上記のように、分級工程において分級処理と同時に破砕処理を進行させることもできる。例えば、熱処理工程で得られた熱処理物を破砕しながら、破砕物を粗粒産物と細粒産物とに分級する破砕・分級工程(破砕・分級)として行ってもよい。
【0033】
<粉砕選別工程>
前記分級工程で得られた細粒産物を粉砕し、得られる粉砕物を比重選別して重比重物と軽比重物に選別する粉砕選別工程を更に含むことが好ましい。
前記粉砕選別工程で得られる軽比重物を後段の前記熱処理工程の対象とすることが好ましい。後段の熱処理工程で得られる溶融物において、シリコン中に銀を主とする重比重物が取り込まれることがあるため、熱処理前に微粉砕と比重選別を行い、重比重物として銀などを予め回収しておくことが好ましい。
【0034】
前記比重選別は、湿式で行うことが選別効率を高める観点から好ましい。
湿式比重選別としては、前記分級工程で得られた細粒産物を更に微粉砕し、得られた粉砕物を液体により浮沈分離する方法、比重差の異なる粒子を上下に脈動する水流中で分離する方法、又は比重差の異なる粒子を傾斜している盤上での水流で分離する方法などが挙げられる。
前記浮沈分離する際の液体としては、例えば、水などが挙げられる。前記液体の比重を1.0以上5.0以下に調整することが好ましく、1.5以上4.0以下がより好ましく、2.0以上3.0以下が特に好ましい。これにより、細粒産物に含まれるシリコン、ガラス、又は樹脂を軽比重物として、銀や銅を重比重物として分離することができる。更に、この軽比重物に対し比重1.0以上2.0以下に調整した液体を用いることで、軽比重物に含まれる樹脂を浮かせ、シリコン又はガラスを沈めることで分離することも可能である。
前記液体の比重は、水に塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カルシウム、ポリタングステン酸ナトリウム(Na[H12])などを添加する方法、磁鉄鉱、鉄粉、又はフェロシリコンなどを懸濁させることにより調整することができる。
前記液体の比重は、例えば、ボーメ法(標準比重計、日本計量器工業株式会社製)により測定することができる。
【0035】
また、比重差の異なる粒子を上下に脈動する水流中で分離する方法としては、ジグ選別などが挙げられる。ジグ選別装置としては、例えば、プランジャー・ジグ、ダイヤフラム・ジグ、パルセーター・ジグ、気道ジグなどが挙げられる。
比重差の異なる粒子を傾斜している盤上での水流で分離する方法としては薄流選別が挙げられる。薄流選別装置としては揺動運動を伴わないものとして、例えば、流し樋、バッドル、丸テーブル、ブランケットテーブル、ネコ流し、スパイラル選別機などが挙げられる。遠心力を伴うものとして、例えば、Knelsonコンセントレーター、Falconコンセントレーターなどが挙げられる。揺動を伴うものとして、例えば、揺動テーブル、Kelseyジグ、ラボラトリーミネラルセパレーター、マルチグラビティ―セパレーターなどが挙げられる。
【0036】
細粒産物から銀を回収する方法として、酸等の薬剤を使用する方法を用いることもできる。薬剤の種類としては、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸等の鉱酸又は鉱酸を混合したもの(例えば、王水、逆王水など)が挙げられる他、酢酸やクエン酸等の有機酸、チオ硫酸やアンモニア、シアン等の銀と錯体を形成するものが挙げられる。
【0037】
<熱処理工程>
熱処理工程は、太陽電池構造物を1,000℃以上で熱処理する工程である。前記分級工程で得られた細粒産物、前記粉砕選別工程で得られる軽比重物などを熱処理することが好ましい。
熱処理工程における熱処理を行う手法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の溶融炉により対象物を加熱することにより熱処理を行うことができる。
前記溶融炉としては、特に制限は無く、目的に応じて適宜選択することができ、例えば溶鉱炉、電気式溶融炉(例えば、アーク式、プラズマ式、電気抵抗式等)、燃料式溶融炉(例えば、輻射式、回転式等)などが挙げられる。また、溶融炉に入れる前に、原料に含まれる樹脂等を焙焼炉で除去することも有効である。
前記焙焼炉としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ロータリーキルン、流動床炉、トンネル炉、マッフル炉等のバッチ式炉、キュポラ、ストーカー炉などが挙げられる。
【0038】
熱処理に用いる雰囲気としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、大気雰囲気、不活性雰囲気、還元性雰囲気、低酸素雰囲気などが挙げられる。
前記大気雰囲気(空気雰囲気)とは、酸素が約21体積%、窒素が約78体積%の大気(空気)を用いた雰囲気を意味する。
前記不活性雰囲気とは、窒素又はアルゴンからなる雰囲気を例示できる。
前記還元性雰囲気とは、例えば、窒素又はアルゴン等の不活性雰囲気中にCO、H、HS、SOなどを含む雰囲気を意味する。
前記低酸素雰囲気とは、酸素濃度が11体積%以下である雰囲気を意味する。
【0039】
熱処理の対象物を熱処理(加熱)する条件(熱処理条件)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱処理温度、熱処理時間などが挙げられる。
【0040】
熱処理温度とは、熱処理の対象物である細粒産物又は低比重産物の温度のことを意味する。熱処理温度は、熱処理中の対象物に、カップル、サーミスタなどの温度計を差し込むことにより、測定することができる。
【0041】
熱処理における温度(熱処理温度)としては、1,000℃以上が好ましく、1,200℃以上がより好ましく、1,400℃以上が更に好ましく、1,500℃以上が特に好ましい。熱処理温度を1,000℃以上とすることにより、ガラスを溶融させることができ、金属シリコンの単離が可能となる。熱処理温度を1,200℃以上とすることにより、銅を溶融させることができ、金属シリコンの単離が可能となる。熱処理温度を1,400℃以上とすることにより、金属シリコンを溶融させることができ、金属シリコンの単離が可能となる。
熱処理時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間以上5時間以下が好ましく、1分間以上3時間以下がより好ましい。
熱処理後の溶融物は、金属シリコン層とガラス層の界面が明瞭であり、金属シリコンを容易に単離し、濃縮することができる。
【0042】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、洗浄工程、乾燥工程などが挙げられる。
【0043】
<第1の実施形態>
ここで、図面を参照して、本発明の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法における実施形態の一例について説明する。図2は、本発明の太陽電池構造物からの有価物の濃縮方法の第1の実施形態における処理の流れの一例を示す図である。
【0044】
太陽電池構造物としては、太陽電池モジュール、又は前記太陽電池モジュールからガラス基板及びフレームの少なくとも1種が取り除かれた太陽電池シート状構造物が挙げられる。
まず、太陽電池構造物を破砕して破砕物を得る(破砕工程)。
次に、得られた破砕物を分級することにより、粗粒産物と細粒産物とを得る(分級工程)。
次に、分級工程で得られた細粒産物を粉砕し、粉砕物を比重選別して重比重物と軽比重物に選別する(粉砕選別工程)。粉砕選別工程における比重選別は湿式比重選別であることが好ましい。得られた軽比重物は後段の熱処理工程の対象とする。
次に、得られた細粒産物、粉砕選別工程で得られる軽比重物を1,000℃以上で熱処理する(熱処理工程)。熱処理温度は1,000℃以上が好ましく、1,200℃以上がより好ましく、1,400℃以上が更に好ましい。これにより、有価物が濃縮され、高品位の金属シリコンが得られる。
【0045】
本発明の太陽電池構造物の濃縮方法においては、太陽電池シート状構造物以外にも、太陽電池モジュール自体を処理対象とすることもできる。この場合、破砕物にガラス基板及びフレームに由来する粉体も含まれるが、上述した分級工程及び粉砕選別工程を行うことにより、効率よく、有価物を単離し、濃縮することができる。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
(実施例1)
処理対象として、太陽電池モジュールからガラス基板及びフレームを取り除いた太陽電池シート状構造物(PVシート)を準備した。
次に、ナゲット機を用いてPVシートを10mm以下に粉砕されるよう、10mmスクリーンを通過するまで粉砕し、通過しない場合は繰り返し処理した。
次に、得られたPVシート破砕物を目開き500μmの篩機に導入した。これにより、PVシート破砕物を、粒径が500μm未満の細粒産物、500μm以上の粗粒産物の粉体に分級した。
ナゲット機としては、一軸カッターミルの「SKC-25-540L」を用いた。破砕条件として、刃の数は45個、クリアランスは2mm程度、刃の回転数は630rpmに調整した。
【0048】
次に、PVシート破砕物から回収された細粒産物(目開き:500μmの篩下産物)を微粉砕し、湿式比重選別したときの低比重産物(セル粒子とガラス粒子の混合物。セル粒子:ガラス粒子=1:1(重量比))20gを原料として用い、以下の条件で熱処理を行った。
【0049】
<熱処理条件>
-るつぼ-
黒鉛るつぼ(1号)
-装置-
光洋サーモシステム小型ボックス炉(KBF314N1)
-温度-
1,500℃(昇温2.5時間、保持1時間)
-雰囲気-
窒素(5L/min)
【0050】
<試験結果>
図3及び図4に熱処理前後の原料外観を示す。図5に熱処理後の溶融物の断面写真を示す。図5から溶融物の中央上部に金属シリコン層が確認された。図6は熱処理後の溶融物のマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、VHX-8000)による拡大画像である。図6から金属シリコン層とガラス層の界面は比較的明瞭であった。ガラス層にセル粒子が点在するが、金属シリコン層にガラス粒子の存在は確認されなかった。
【0051】
原料に含まれるガラスはPVモジュールのカバーガラスに由来するものであり、ソーダ石灰ガラスであることが事前に確認されている。ソーダ石灰ガラスの融点は約1,000℃、金属シリコンの融点は約1,400℃であり、比重はソーダ石灰ガラスが約2.5、金属シリコンが約2.3であることから、1,500℃下において互いに溶融し、比重差で分層したと考えられる。溶融物の中央付近に金属シリコン層が存在すること、金属シリコン層とガラス層の界面は明瞭であることから、本方式により金属シリコンとガラスの分離は可能であると考えられる。両者の比重差が小さいためセル粒子の一部がガラス層内に点在したと考えられるが、溶融温度や時間、スラグの粘性を下げる等の処置により、金属シリコンの実収率改善が期待できる。
したがって、熱処理によりセル濃縮物の構成物であるセル粒子(金属シリコン)とガラス粒子を分離できるか確認した結果、1,500℃の熱処理を行うことにより金属シリコンとガラスを分離できることがわかった。
【符号の説明】
【0052】
10 太陽電池モジュール
20 バックシート
30 封止材
40 太陽電池セル
50 ガラス基板
60 フレーム

図1
図2
図3
図4
図5
図6