(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033833
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】推論モデルの生成方法、および判別装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/372 20210101AFI20240306BHJP
A61B 5/291 20210101ALI20240306BHJP
A61B 5/374 20210101ALI20240306BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
A61B5/372
A61B5/291
A61B5/374
A61B10/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137696
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 みどり
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 圭
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127GG01
4C127GG11
4C127GG13
4C127LL08
(57)【要約】
【課題】簡易な設備で神経・精神疾患の病態の客観的な評価を支援可能にする。
【解決手段】判別装置10は、対象者Sの頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波データDに基づいて対象者Sが特定の神経・精神疾患に該当するかを判別する。入力インタフェース11は、脳波データDを受け付ける。プロセッサ12は、脳波データDに基づいて脳波指標Iを算出し、脳波指標Iを推論モデルMに入力することことの応答として対象者Sが前記特定の神経・精神疾患に該当する確率Pを取得する。出力インタフェース13は、確率Pに基づく判別結果に対応する結果データRを出力する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波に基づいて算出された脳波指標が入力されると、当該対象者が特定の神経・精神疾患に該当する確率に対応する値を出力する推論モデルの生成方法であって、
前記特定の神経・精神疾患に該当すると特定された者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波に基づいて算出された前記脳波指標に対して前記特定の神経・精神疾患に該当することを示す第一ラベルが付与された第一教師データセットを用意し、
前記特定の神経・精神疾患に該当しないと特定された者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波に基づいて算出された前記脳波指標に対して前記特定の神経・精神疾患に該当しないことを示す第二ラベルが付与された第二教師データセットを用意し、
前記第一教師データセットと前記第二教師データセットを用いた機械学習を行なうことによって前記推論モデルを生成し、
前記脳波指標は、複雑度、パワースペクトル、脳活動の左右非対称性、および機能的結合度の少なくとも一つを含む、
推論モデルの生成方法。
【請求項2】
前記脳波指標は、微分エントロピー、PFD(Petrosian Fractal Dimension)、RR(Relative Roughness)、およびnld(Normalized Length Density)の少なくとも一つを含む、
請求項1に記載の推論モデルの生成方法。
【請求項3】
前記脳波は、β波とγ波の少なくとも一方を含む、
請求項1に記載の推論モデルの生成方法。
【請求項4】
前記脳波は、前記対象者の右頭部に装着された電極から取得される、
請求項1に記載の推論モデルの生成方法。
【請求項5】
前記機械学習は、勾配ブースティングに基づいて行なわれる、
請求項1に記載の推論モデルの生成方法。
【請求項6】
前記機械学習は、LightGBMを用いて行なわれる、
請求項5に記載の推論モデルの生成方法。
【請求項7】
対象者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波データに基づいて当該対象者が特定の神経・精神疾患に該当するかを判別する装置であって、
前記脳波データを受け付ける入力インタフェースと、
前記脳波データに基づいて脳波指標を算出し、当該脳波指標を推論モデルに入力することの応答として前記対象者が前記特定の神経・精神疾患に該当する確率を取得するプロセッサと、
前記確率に基づく判別結果に対応する結果データを出力する出力インタフェースと、
を備えており、
前記脳波指標は、複雑度、パワースペクトル、脳活動の左右非対称性、および機能的結合度の少なくとも一つを含む、
判別装置。
【請求項8】
前記脳波指標は、微分エントロピー、PFD(Petrosian Fractal Dimension)、RR(Relative Roughness)、nld(Normalized Length Density)の少なくとも一つを含む、
請求項7に記載の判別装置。
【請求項9】
前記脳波データに対応する脳波は、β波とγ波の少なくとも一方を含む、
請求項7に記載の判別装置。
【請求項10】
前記脳波データは、前記対象者の右頭部に装着された電極から取得される、
請求項7に記載の判別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象者から取得された脳波に基づいて算出された脳波指標が入力されると当該対象者が特定の神経・精神疾患に該当する確率に対応する値を出力する推論モデルの生成方法に関連する。本開示は、対象者が特定の神経・精神疾患に該当するかを判別する装置にも関連する。
【背景技術】
【0002】
うつ病、統合失調症、双極性障害、および認知症などの神経・精神疾患の重症度の診断は、臨床症状または問診に基づく基準を用いて行なわれており、客観性が十分とは言えない。特許文献1は、神経・精神疾患の重症度を客観的に評価する装置を開示している。具体的には、脳の二つの領域における経頭蓋磁気刺激誘発脳波を測定し、当該二つの脳波間の位相同期度を指標として評価を行なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2018/066715号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
簡易な設備で神経・精神疾患の病態の客観的な評価を支援可能にすることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示により提供される態様例の一つは、対象者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波に基づいて算出された脳波指標が入力されると、当該対象者が特定の神経・精神疾患に該当する確率に対応する値を出力する推論モデルの生成方法であって、
前記特定の神経・精神疾患に該当すると特定された者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波に基づいて算出された前記脳波指標に対して前記特定の神経・精神疾患に該当することを示す第一ラベルが付与された第一教師データセットを用意し、
前記特定の神経・精神疾患に該当しないと特定された者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波に基づいて算出された前記脳波指標に対して前記特定の神経・精神疾患に該当しないことを示す第二ラベルが付与された第二教師データセットを用意し、
前記第一教師データセットと前記第二教師データセットを用いた機械学習を行なうことによって前記推論モデルを生成し、
前記脳波指標は、複雑度、パワースペクトル、脳活動の左右非対称性、および機能的結合度の少なくとも一つを含む。
【0006】
本開示により提供される態様例の一つは、対象者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波データに基づいて当該対象者が特定の神経・精神疾患に該当するかを判別する装置であって、
前記脳波データを受け付ける入力インタフェースと、
前記脳波データに基づいて脳波指標を算出し、当該脳波指標を推論モデルに入力することの応答として前記対象者が前記特定の神経・精神疾患に該当する確率を取得するプロセッサと、
前記確率に基づく判別結果に対応する結果データを出力する出力インタフェースと、
を備えており、
前記脳波指標は、複雑度、パワースペクトル、脳活動の左右非対称性、および機能的結合度の少なくとも一つを含む。
【0007】
上記の各態様例に係る構成によれば、任意の対象者から取得された脳波が入力されると当該対象者が特定の神経・精神疾患に該当する確率を自動的に出力する判別装置を提供できる。すなわち、神経・精神疾患の病態評価支援について一定の客観性を担保できる。
【0008】
脳波の取得は対象者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得できるので、経頭蓋磁気誘発脳波測定に用いられるような大規模な装置や設備を必要とせず、侵襲電極を用いる脳波測定において与えうる対象者への負担も軽減できる。然るべき脳波指標の選定に基づく機械学習を通じて脳波の取得に用いられる電極を限定できるので、測定設備のさらなる簡略化や判別に係る演算処理の負荷を軽減できる。また、判別結果の精度評価を通じた推論モデルの再学習も可能であるので、判別精度のさらなる向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態に係る推論モデルの生成方法を例示している。
【
図2】
図1における脳波測定に用いられる脳波計の電極配置を例示している。
【
図3】うつ病と特定された対象者から取得された脳波を例示している。
【
図4】うつ病と特定されなかった対象者から取得された脳波を例示している。
【
図5】
図1における脳波指標の算出方法を例示している。
【
図6】一実施形態に係る判別装置の機能構成を例示している。
【発明を実施するための形態】
【0010】
添付の図面を参照しつつ、実施形態の例について以下詳細に説明する。
【0011】
図1は、一実施形態に係る推論モデルの生成方法の流れを例示している。本例に係る推論モデルは、対象者から取得された脳波に基づいて算出された脳波指標が入力されると、当該対象者がうつ病に該当する確率に対応する値を出力するように構成される。うつ病は、神経・精神疾患の一例である。
【0012】
本明細書で用いられる「うつ病に該当する確率」という表現は、医療診断が介在した結果を意味するものではない。当該表現は、うつ状態のうち相対的に重症度が高い状態である「うつ病」と重症度が相対的に低い状態である「抑うつ状態」のいずれかに対象者が該当する可能性を意味している。「うつ病に該当しない」という表現は、「うつ病に該当する」状態ではないことを意味する。
【0013】
推論モデルの生成は、機械学習を通じてなされる。機械学習には教師データセットが用いられる。教師データセットを準備するためには、多くの対象者が必要とされる。当該対象者は、うつ病あるいはその他の神経・精神疾患に該当すると診断された者、うつ病あるいはその他の神経・精神疾患に該当すると自覚している者、うつ病あるいはその他の神経・精神疾患に該当しないと診断された者、うつ病あるいはその他の神経・精神疾患に該当しないと自覚している者を含む。その他の神経・精神疾患の例としては、統合失調症、双極性障害、ADHD(注意欠如・多動症)、ASD(自閉スペクトラム症)などが挙げられる。
【0014】
まず、非侵襲型の脳波計を用いて各対象者の脳波が測定される(STEP1)。脳波計は、対象者の頭部に装着される複数の電極を備えている。複数の電極の配置は、10%法(拡張10-20法)において定義されている配置から適宜に選択される。一例として、
図2に例示される14チャンネルが選択されうる。各電極は、装着された部位における生体電位(厳密には基準部位における電位との電位差)を検出するように構成されている。脳波計は、各電極において検出された電位の経時変化を、脳波データとして出力するように構成されている。
【0015】
一例として、脳波の測定は、閉眼安静状態で5分間行なわれる。当該測定が各対象者について複数回行なわれることが好ましい。
【0016】
続いて、脳波データのノイズを除去する前処理が行なわれる(STEP2)。当該処理は、特定の周波数成分のフィルタリング、ノイズが多い電極からのデータの除去および補完、ノイズを含んだデータの再構成、基準電位の再参照、独立成分分析などを含みうる。当該前処理自体は周知であるので、詳細な説明は省略する。
【0017】
続いて、脳波データから脳波指標を算出する処理が行なわれる(STEP3)。本明細書で用いられる「脳波指標」という語は、定量化された脳波の特徴を意味する。
【0018】
脳波指標の一例として、複雑度が挙げられる。
図3は、うつ病と特定された対象者から取得された脳波を例示している。
図4は、うつ病と特定されなかった対象者から取得された脳波を例示している。
図3に例示される脳波の複雑度は、
図4に例示される脳波の複雑度よりも高い。複雑度は、エントロピーに基づいて表現される値、フラクタル次元に基づいて表現される値などを含みうる。
【0019】
脳波指標の別例として、パワースペクトルが挙げられる。パワースペクトルは、脳波データにおける周波数帯域ごとの強さを示している。周波数帯域の区分の例としては、以下の三つが挙げられる。
1)脳波分類ベース(δ、θ、α、β、γ)
2)脳波分類ベース(Lowα、Highα、Lowβ、Highβ、Lowγ、Midγ、Highγ)
3)周波数値ベース(1~30Hz、1~40Hz、1~100Hz、1~128Hz)
パワースペクトルは、周波数帯域ごとに特定される絶対パワースペクトルであってもよいし、1~128Hzのパワーに対する特定の周波数帯域のパワーで表される相対パワースペクトルであってもよい。
【0020】
脳波指標の別例として、脳活動の左右非対称性が挙げられる。当該指標は、被検者の頭部において左右対称の位置に配置された一対の電極から取得された上記の脳波指標(複雑度またはパワースペクトル)の差として表現される。
図2に示された例においては、T7とT8、P7とP8、F3とF4などについて左右非対称性が特定されうる。左側頭部に装着された複数の電極から取得された複数の脳波指標について特定の演算がなされた結果と、右側頭部に装着された複数の電極から取得された複数の脳波指標について特定の演算がなされた結果とが比較されてもよい。
【0021】
脳波指標の別例として、機能的結合度が挙げられる。当該指標は、異なる電極(脳領域)から取得された脳波データ同士の統計的依存性として表現される。機能的結合度は、コヒーレンスに基づいて表現される値、相互情報量(MI)に基づいて表現される値などを含みうる。
【0022】
具体的には、
図5に例示されるように、5分間にわたって取得された脳波データDに対して、脳波指標Iを算出するための60秒のウインドウWが設定される。まず、始点から60秒間の脳波データDに対して脳波指標Iの算出がなされる。続いて、ウインドウWの始点が1秒後に移動され、そこから60秒間の脳波データDに対して脳波指標Iの算出がなされる。同様にウインドウWを移動させて脳波指標Iを算出する処理が、ウインドウWの終点が脳波データDの終点に到達するまで繰り返される。本例の脳波データDは5分間にわたって取得されたものであるので、計480個の脳波指標Iが算出される。
【0023】
続く教師データセットの構築(STEP4)に先立ち、対象者の分類が行なわれる。具体的には、所定の問診を通じて「うつ病に該当する」グループと、「うつ病に該当しない」グループとに分類される。結果として、うつ病と診断されている者であっても「うつ病に該当しない」者と特定される場合や、うつ症状の自覚がなくても「うつ病に該当する」者と特定される場合がありうる。事前の診断結果と問診による結果のどちらをどの程度優先するかは適宜に定められうる。
【0024】
対象者の分類は、脳波の測定前に行なわれてもよいし、脳波の測定後かつ脳波指標の算出前に行なわれてもよいし、脳波指標の算出後に行なわれてもよい。いずれにしても、各脳波指標について、うつ病に該当すると特定された者から取得された脳波に基づいて算出されたものであるか、うつ病に該当しないと特定された者から取得された脳波に基づいて算出されたものであるかを示す情報が得られる。
【0025】
教師データセットは、第一教師データセットを含んでいる。第一教師データセットは、うつ病に該当すると特定された者から取得された脳波に基づいて算出された脳波指標に対し、うつ病に該当することを示す第一ラベルが付与されることにより作成される。第一ラベルは、例えば値0である。第一教師データセットは、うつ病に該当する可能性が高い対象者から取得される脳波の特徴がどのようなものであるかを機械学習させるためのデータセットであると言える。
【0026】
教師データセットは、第二教師データセットを含んでいる。第二教師データセットは、うつ病に該当しないと特定された者から取得された脳波に基づいて算出された脳波指標に対し、うつ病に該当しないことを示す第二ラベルが付与されることにより作成される。第二ラベルは、例えば値1である。第二教師データセットは、うつ病に該当しない可能性が高い対象者から取得される脳波の特徴がどのようなものであるかを機械学習させるためのデータセットであると言える。
【0027】
上記のようにして作成された第一教師データセットと第二教師データセットを用いて、推論モデルの機械学習が行なわれる(STEP5)。本例においては、機械学習アルゴリズムとしてLightGBM(Light Gradient Boosting Machine)が用いられる。決定木の数は、例えば2000と設定される。
【0028】
上記のようにして機械学習がなされた推論モデルは、任意の対象者から取得された脳波データに基づいて算出された脳波指標が入力されると、当該対象者がうつ病である確率を出力するアルゴリズムとして動作する。
【0029】
推論モデルから出力される確率の精度の評価は、例えばMacro-F1を用いて行なわれる。本願発明者たちが様々な脳波指標について推論モデルを生成し、その精度を評価した結果、以下に列挙する場合において比較的高い推論精度が得られる傾向が見出された。
1)複雑度の指標として、微分エントロピー、PFD(Petrosian Fractal Dimension)、RR(Relative Roughness)、およびnld(Normalized Length Density)の少なくとも一つが用いられる場合
2)β波とγ波の少なくとも一方を含む脳波に基づいて算出された脳波指標が用いられる場合
3)右側頭部に装着された電極により取得された脳波に基づいて算出された脳波指標が用いられる場合
【0030】
図6は、一実施形態に係る判別装置10の機能構成を例示している。判別装置10は、上記のようにして生成された推論モデルMを用いて対象者がうつ病に該当するかを判別する装置である。
【0031】
判別装置10は、脳波計20に接続される。判別装置10と脳波計20は、有線接続されてもよいし、少なくとも一つの通信ネットワークを介して無線接続されてもよい。
【0032】
脳波計20は、対象者Sの頭部に非侵襲的に装着される少なくとも一つの電極を備えている。但し、当該電極は、推論モデルMを生成するために使用された脳波データを取得するために用いられた電極と同じ位置に配置されることを要する。脳波計20は、当該電極により検出された電位の経時変化を、脳波データDとして出力する。脳波データDは、アナログデータの形態であってもよいし、デジタルデータの形態であってもよい。
【0033】
判別装置10は、入力インタフェース11を備えている。入力インタフェース11は、脳波計20から出力された脳波データDを受け付けるハードウェアインタフェースとして構成されている。脳波データDがアナログデータの形態である場合、入力インタフェース11は、A/Dコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0034】
判別装置10は、プロセッサ12を備えている。プロセッサ12は、入力インタフェース11により受け付けられた脳波データDに対して、
図1のSTEP2とSTEP3を参照して説明した前処理と脳波指標Iを算出する処理とを実行するように構成されている。
【0035】
プロセッサ12は、算出された脳波指標Iを推論モデルMに入力し、その応答として推論モデルMから出力される対象者Sがうつ病に該当する確率Pを取得するように構成されている。確率Pは、0から1の間の値をとる。値0は、0%に対応している。値1は、100%に対応している。
【0036】
判別装置10は、出力インタフェース13を備えている。プロセッサ12は、確率Pに対応する判別結果を示す結果データRを、出力インタフェース13から出力するように構成されている。判別結果は、確率Pの値そのものであってもよいし、「うつ病に該当する」と「うつ病に該当しない」の少なくとも二つの結果を含むものであってもよい。例えば、確率Pが閾値以上である場合に「うつ病に該当する」と判別され、確率Pが閾値未満である場合に「うつ病に該当しない」と判別される。閾値が複数設定されることにより、「どちらとも言えない」、「うつ病に該当する確率がやや高い」といった判別結果が提供されうる。
【0037】
判別装置10は、通知装置30に接続される。通知装置30は、プロセッサ12によりなされた判別の結果をユーザに通知する装置である。通知は、視覚的通知、聴覚的通知、および触覚的通知の少なくとも一つを通じてなされる。通知装置30は、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ、バイブレータなどにより実現されうる。通知装置30は、判別装置10の一部として提供されてもよい。
【0038】
出力インタフェース13は、ハードウェアインタフェースとして構成されている。結果データRは、通知装置30の仕様に応じて、デジタルデータの形態であってもよいし、アナログデータの形態であってもよい。結果データRがアナログデータの形態である場合、出力インタフェース13は、D/Aコンバータを含む適宜の変換回路を備える。
【0039】
これまで説明した様々な機能を有するプロセッサ12は、汎用メモリと協働して動作する汎用マイクロプロセッサにより実現されうる。汎用マイクロプロセッサとしては、CPU、MPU、GPUが例示されうる。汎用メモリとしては、ROMやRAMが例示されうる。この場合、ROMには、当該機能を実現するためのコンピュータプログラムが記憶されうる。汎用マイクロプロセッサは、ROM上に記憶されたプログラムの少なくとも一部を指定してRAM上に展開し、RAMと協働して上述した処理を実行する。この場合、当該汎用メモリは、コンピュータプログラムが記憶された非一時的なコンピュータ可読媒体の一例である。
【0040】
プロセッサ12は、当該機能を実現するためのコンピュータプログラムがプリインストールされた記憶素子を備えたマイクロコントローラ、ASIC、FPGAなどの専用集積回路によって実現されてもよい。この場合、当該記憶素子は、コンピュータプログラムが記憶された非一時的なコンピュータ可読媒体の一例である。
【0041】
プロセッサ12は、汎用マイクロプロセッサと専用集積回路の組合せによって実現されてもよい。
【0042】
本実施形態に係る構成によれば、任意の対象者から取得された脳波が入力されると当該対象者がうつ病に該当する確率を自動的に出力する判別装置を提供できる。すなわち、うつ病の病態評価支援について一定の客観性を担保できる。
【0043】
脳波の取得は対象者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得できるので、経頭蓋磁気誘発脳波測定に用いられるような大規模な装置や設備を必要とせず、侵襲電極を用いる脳波測定において与えうる対象者への負担も軽減できる。然るべき脳波指標の選定に基づく機械学習を通じて脳波の取得に用いられる電極を限定できるので、測定設備をさらに簡略化できるだけでなく、判別に係る演算処理の負荷を軽減できる。また、判別結果の精度評価を通じた推論モデルの再学習も可能であるので、判別精度のさらなる向上も期待できる。
【0044】
これまで説明した各構成は、本開示の理解を容易にするための例示にすぎない。各構成は、本開示の趣旨を逸脱しなければ、適宜の変更や他の構成との組合せがなされうる。
【0045】
上記の実施形態においては、推論モデルMを生成するための機械学習アルゴリズムとしてLightGBMが用いられている。当該アルゴリズムは、本開示に係る教師データセットのような表形式のデータに対して演算負荷を抑制しつつ高い学習効果を期待できる。しかしながら、演算負荷の許容範囲内で他の機械学習アルゴリズムが用いられてもよい。他の機械学習アルゴリズムの例としては、決定木フレームワークを用いる他の勾配ブースティングアルゴリズムや、深層学習などの他のフレームワークに基づくアルゴリズムが挙げられる。
【0046】
以下に列挙される構成もまた、本開示の一部を構成する。
(1):
対象者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波に基づいて算出された脳波指標が入力されると、当該対象者が特定の神経・精神疾患に該当する確率に対応する値を出力する推論モデルの生成方法であって、
前記特定の神経・精神疾患に該当すると特定された者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波に基づいて算出された前記脳波指標に対して前記特定の神経・精神疾患に該当することを示す第一ラベルが付与された第一教師データセットを用意し、
前記特定の神経・精神疾患に該当しないと特定された者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波に基づいて算出された前記脳波指標に対して前記特定の神経・精神疾患に該当しないことを示す第二ラベルが付与された第二教師データセットを用意し、
前記第一教師データセットと前記第二教師データセットを用いた機械学習を行なうことによって前記推論モデルを生成し、
前記脳波指標は、複雑度、パワースペクトル、脳活動の左右非対称性、および機能的結合度の少なくとも一つを含む、
推論モデルの生成方法。
(2):
前記脳波指標は、微分エントロピー、PFD(Petrosian Fractal Dimension)、RR(Relative Roughness)、およびnld(Normalized Length Density)の少なくとも一つを含む、
(1)に記載の推論モデルの生成方法。
(3):
前記脳波は、β波とγ波の少なくとも一方を含む、
(1)または(2)に記載の推論モデルの生成方法。
(4):
前記脳波は、前記対象者の右頭部に装着された電極から取得される、
(1)から(3)のいずれかに記載の推論モデルの生成方法。
(5):
前記機械学習は、勾配ブースティングに基づいて行なわれる、
(1)から(4)のいずれかに記載の推論モデルの生成方法。
(6):
前記機械学習は、LightGBMを用いて行なわれる、
(5)に記載の推論モデルの生成方法。
(7):
対象者の頭部に非侵襲的に装着された電極を通じて取得された脳波データに基づいて当該対象者が特定の神経・精神疾患に該当するかを判別する装置であって、
前記脳波データを受け付ける入力インタフェースと、
前記脳波データに基づいて脳波指標を算出し、当該脳波指標を推論モデルに入力することの応答として前記対象者が前記特定の神経・精神疾患に該当する確率を取得するプロセッサと、
前記確率に基づく判別結果に対応する結果データを出力する出力インタフェースと、
を備えており、
前記脳波指標は、複雑度、パワースペクトル、脳活動の左右非対称性、および機能的結合度の少なくとも一つを含む、
判別装置。
(8):
前記脳波指標は、微分エントロピー、PFD(Petrosian Fractal Dimension)、RR(Relative Roughness)、nld(Normalized Length Density)の少なくとも一つを含む、
(7)に記載の判別装置。
(9):
前記脳波データに対応する脳波は、β波とγ波の少なくとも一方を含む、
(7)または(8)に記載の判別装置。
(10):
前記脳波データは、前記対象者の右頭部に装着された電極から取得される、
(7)から(9)のいずれかに記載の判別装置。
【符号の説明】
【0047】
10:判別装置、11:入力インタフェース、12:プロセッサ、13:出力インタフェース、D:脳波データ、I:脳波指標、M:推論モデル、P:確率、R:結果データ、S:対象者