(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033834
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】転舵制御装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240306BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240306BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240306BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240306BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D119:00
B62D113:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137700
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】三宅 純也
(72)【発明者】
【氏名】並河 勲
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊介
(72)【発明者】
【氏名】工藤 佳夫
(72)【発明者】
【氏名】外山 英次
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC20
3D232CC50
3D232DA03
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC01
3D232DC02
3D232DC03
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3D232DD05
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3D232GG01
3D333CB02
3D333CB19
3D333CB31
3D333CB46
3D333CC15
3D333CC18
3D333CD05
3D333CD09
3D333CD14
3D333CE34
(57)【要約】
【課題】ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることができる転舵制御装置を提供する。
【解決手段】転舵制御装置は、第1の処理部(63E,63F,63G)、第2の処理部(63H)、第3の処理部(63J,63K,63L)、および第4の処理部(63N)を有する。第1の処理部は、目標ピニオン角とピニオン角との偏差に応じたトルク指令値を演算する。第2の処理部は、目標ピニオン角速度とピニオン角速度との偏差に基づき、転舵機構の粘性を補償するための補償値を演算する。第3の処理部は、トルク指令値および補償値の各々に定められた制限値に基づき、トルク指令値および補償値の変化範囲を各々制限する。第4の処理部は、制限処理後のトルク指令値から制限処理後の補償値を減算して転舵トルク指令値を演算する。第3の処理部は、車両の走行状態に応じて、制限値を変化させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータを制御すべく、前記転舵輪の動作に連動して回転する回転体の目標角度をステアリングホイールの操舵状態に応じて演算し、前記目標角度に前記回転体の実角度を追従させるフィードバック制御の実行を通じて前記転舵モータに対する転舵トルク指令値を演算する転舵制御装置であって、
前記目標角度と前記実角度との偏差に応じたトルク指令値を演算する第1の処理部と、
前記回転体の目標角速度または実角速度に基づき、前記トルク指令値に対する補償値であって、前記トルク指令値に対して逆方向に作用する補償値を演算する第2の処理部と、
前記トルク指令値および前記補償値の各々に定められた制限値に基づき、前記トルク指令値および前記補償値の変化範囲を各々制限する制限処理を行う第3の処理部と、
前記制限処理が行われた後の前記トルク指令値、および前記制限処理が行われた後の前記補償値を使用して、前記転舵トルク指令値を演算する第4の処理部と、を有し、
前記第3の処理部は、前記車両の走行状態に応じて、前記トルク指令値および前記補償値の各々に定められた前記制限値を個別に増加させる転舵制御装置。
【請求項2】
前記第3の処理部は、前記車両の走行状態が反映される車両状態変数の値が、定められたしきい値を超えるとき、前記制限値を増加させる請求項1に記載の転舵制御装置。
【請求項3】
前記第3の処理部は、前記車両状態変数の値が前記しきい値を超えるとき、前記トルク指令値および前記補償値の各々に定められた前記制限値を同じ値に増加させる請求項2に記載の転舵制御装置。
【請求項4】
前記第3の処理部は、前記車両状態変数の値が前記しきい値を超えるとき、前記トルク指令値および前記補償値の各々に定められた前記制限値を互いに異なる値に増加させる請求項2に記載の転舵制御装置。
【請求項5】
前記トルク指令値に対する前記制限値は、前記補償値に対する前記制限値よりも大きい請求項4に記載の転舵制御装置。
【請求項6】
前記第3の処理部は、前記車両状態変数の値が前記しきい値を超えるとき、前記車両状態変数の値が増加するにつれて、前記制限値を増加させる請求項2~請求項5のうちいずれか一項に記載の転舵制御装置。
【請求項7】
前記車両状態変数の値は、車載のセンサを通じて検出される車速の値、ヨーレートの値、前記目標角度と前記実角度との比の値、または前記目標角速度と前記実角速度との比の値である請求項2~請求項5のうちいずれか一項に記載の転舵制御装置。
【請求項8】
前記第3の処理部は、前記車両状態変数の値が前記しきい値を超えるとき、前記ステアリングホイールを介した緊急回避操作が行われるおそれがあると判定する請求項2~請求項5のうちいずれか一項に記載の転舵制御装置。
【請求項9】
前記第3の処理部は、前記制限値を変化させる際、前記制限値に対して徐変処理を施すことにより前記制限値を時間に対して徐々に変化させる徐変処理部を有している請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の転舵制御装置。
【請求項10】
前記トルク指令値は、前記偏差に対して比例演算を実行することにより演算される前記偏差に比例した値の第1のトルク指令値と、
前記偏差に対して積分演算を実行することにより演算される前記偏差の積分値に比例した値の第2のトルク指令値と、を含み、
前記第3の処理部は、前記第1のトルク指令値と前記第2のトルク指令値との加算値に対して定められた前記制限値に基づき、前記加算値の変化範囲を制限する請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の転舵制御装置。
【請求項11】
前記トルク指令値は、前記偏差に対して比例演算を実行することにより演算される前記偏差に比例した値の第1のトルク指令値と、
前記偏差に対して積分演算を実行することにより演算される前記偏差の積分値に比例した値の第2のトルク指令値と、を含み、
前記第3の処理部は、前記第1のトルク指令値および前記第2のトルク指令値に対して各々定められた前記制限値に基づき、前記第1のトルク指令値および前記第2のトルク指令値の変化範囲を制限する請求項1~請求項5のうちいずれか一項に記載の転舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータのトルクをアシスト力としてステアリングシャフトに付与することによりステアリングホイールの操作を補助する電動パワーステアリング装置が存在する。電動パワーステアリング装置の制御装置は、トルクセンサを通じて検出される操舵トルクに基づきモータに対する電流指令値を演算する。制御装置は、電流指令値に基づきモータへの給電を制御する。これにより、モータは、操舵トルクに応じたトルクを発生する。
【0003】
近年では、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達を分離した、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置が存在する。操舵装置は、ステアリングシャフトに付与される操舵反力を発生する反力モータと、転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータとを有する。操舵装置の制御装置は、反力モータに対する給電制御を通じて操舵反力を発生させるとともに、転舵モータに対する給電制御を通じて転舵輪を転舵させる。
【0004】
たとえば、特許文献1の操舵装置は、緊急回避支援制御を実行することが可能である。操舵装置の制御装置は、上位制御装置から与えられる情報に基づきモータを制御する。上位制御装置は、車両の進行方向に存在する障害物と車両が衝突するおそれがあるとき、車両を障害物が存在しない方向に移動させるための目標転舵角を演算する。操舵装置の制御装置は、目標転舵角に実際の転舵角が一致するようにフィードバック制御を実行する。
【0005】
操舵装置の制御装置は、緊急回避支援制御の実行時、フィードバックゲインの値を、たとえば通常走行時のフィードバックゲインよりも大きい値に設定する。これは、緊急回避支援制御には、通常走行時の制御に比べて、より高い応答性が要求されるからである。フィードバック制御は、PID制御であって、比例制御、積分制御、および微分制御を含む。フィードバックゲインは、比例ゲイン、積分ゲイン、および微分ゲインを含む。
【0006】
操舵装置の制御装置は、上位制御装置が演算する目標転舵角と実際の転舵角との偏差を演算する。制御装置は、回転角センサを通じて検出されるモータの回転角に基づき、転舵輪の転舵角を演算する。制御装置は、比例処理された偏差に比例ゲインを乗じた値と、積分処理された偏差に積分ゲインを乗じた値と、微分処理された偏差に微分ゲインを乗じた値とを加算することにより、モータに対する電流指令値を演算する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
操舵装置の制御装置は、より優れた操舵感を実現するために、電流指令値に対する各種の補償制御を実行するように構成されることがある。補償制御の一例は、ダンピング制御である。制御装置は、たとえば、操舵速度に基づき操舵装置が有する粘性を補償するための補償値を演算し、演算される補償値を使用して電流指令値を補正する。
【0009】
操舵装置の制御装置は、比例制御、積分制御、微分制御、およびダンピング制御の実行を通じて演算される各値の変化範囲を制限するための制限値を設定するように構成されることがある。制限値は、各値に対する上限値と下限値とを含む。制御装置は、各制御の実行を通じて制限値を超える過大な値が演算される場合、演算される過大な値を制限値以下の適切な値に制限する。
【0010】
ただし、たとえば各値に対する制限値によっては、つぎのようなことが懸念される。すなわち、一例として、ステアリングホイールを介して緊急回避操作が行われるとき、比例制御あるいは積分制御の実行を通じて演算される値と、ダンピング制御の実行を通じて演算される補償値とが互いに打ち消し合うおそれがある。このため、転舵輪を適切に転舵させることができないことが懸念される。したがって、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し得る転舵制御装置は、車両の転舵輪を転舵させるための転舵力を発生する転舵モータを制御すべく、前記転舵輪の動作に連動して回転する回転体の目標角度をステアリングホイールの操舵状態に応じて演算し、前記目標角度に前記回転体の実角度を追従させるフィードバック制御の実行を通じて前記転舵モータに対する転舵トルク指令値を演算する転舵制御装置である。前記目標角度と前記実角度との偏差に応じたトルク指令値を演算する第1の処理部と、前記回転体の目標角速度または実角速度に基づき、前記トルク指令値に対する補償値であって、前記トルク指令値に対して逆方向に作用する補償値を演算する第2の処理部と、前記トルク指令値および前記補償値の各々に定められた制限値に基づき、前記トルク指令値および前記補償値の変化範囲を各々制限する制限処理を行う第3の処理部と、前記制限処理が行われた後の前記トルク指令値、および前記制限処理が行われた後の前記補償値を使用して、前記転舵トルク指令値を演算する第4の処理部と、を有している。前記第3の処理部は、前記車両の走行状態に応じて、前記トルク指令値および前記補償値の各々に定められた前記制限値を個別に増加させる。
【0012】
たとえば、制限値を固定値とした場合、車両の走行状態によっては、トルク指令値と補償値とが同一の値に制限されるおそれがある。この場合、トルク指令値と補償値とが打ち消し合うことが懸念される。
【0013】
上記の構成によれば、車両の走行状態に応じて、トルク指令値および補償値の各々に定められた制限値が個別に増加される。トルク指令値の変化範囲および補償値の変化範囲が、車両の走行状態に応じて、各々拡大されることにより、トルク指令値と補償値とが同一の値に制限されること、ひいてはトルク指令値と補償値とが打ち消し合うことを抑制することができる。したがって、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることができる。
【0014】
上記の転舵制御装置において、前記第3の処理部は、前記車両の走行状態が反映される車両状態変数の値が、定められたしきい値を超えるとき、前記制限値を増加させるようにしてもよい。
【0015】
この構成によれば、車両の走行状態が反映される車両状態変数の値が、定められたしきい値を超えるとき、トルク指令値および補償値の各々に定められた制限値が増加される。トルク指令値の変化範囲および補償値の変化範囲が各々拡大されることにより、トルク指令値と補償値とが同一の値に制限されることが抑制される。このため、トルク指令値と補償値とが打ち消し合うことが抑制される。したがって、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることができる。
【0016】
上記の転舵制御装置において、前記第3の処理部は、前記車両状態変数の値が前記しきい値を超えるとき、前記トルク指令値および前記補償値の各々に定められた前記制限値を同じ値に増加させるようにしてもよい。
【0017】
この構成によれば、車両状態変数の値がしきい値を超えるとき、トルク指令値および補償値の各々に定められた制限値が同じ値に増加される。これにより、トルク指令値の変化範囲および補償値の変化範囲が各々拡大される。トルク指令値と補償値とが同一の値に制限されることが抑制されるため、トルク指令値と補償値とが打ち消し合うことを抑制することができる。したがって、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることができる。
【0018】
上記の転舵制御装置において、前記第3の処理部は、前記車両状態変数の値が前記しきい値を超えるとき、前記トルク指令値および前記補償値の各々に定められた前記制限値を互いに異なる値に増加させるようにしてもよい。
【0019】
この構成によれば、車両状態変数の値がしきい値を超えるとき、トルク指令値および補償値の各々に定められた制限値が互いに異なる値に増加される。これにより、トルク指令値の変化範囲および補償値の変化範囲が各々拡大される。トルク指令値と補償値とが同一の値に制限されることが抑制されるため、トルク指令値と補償値とが打ち消し合うことを抑制することができる。したがって、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることができる。
【0020】
上記の転舵制御装置において、前記トルク指令値に対する前記制限値は、前記補償値に対する前記制限値よりも大きくてもよい。
この構成によれば、車両状態変数の値がしきい値を超えるとき、トルク指令値を、より多く転舵トルク指令値に反映させることができる。
【0021】
上記の転舵制御装置において、前記第3の処理部は、前記車両状態変数の値が前記しきい値を超えるとき、前記車両状態変数の値が増加するにつれて、前記制限値を増加させるようにしてもよい。
【0022】
この構成によれば、車両状態変数の値に応じて、適切に制限値を増加させることができる。
上記の転舵制御装置において、前記車両状態変数の値は、車載のセンサを通じて検出される車速の値、ヨーレートの値、前記目標角度と前記実角度との比の値、または前記目標角速度と前記実角速度との比の値であってもよい。これらの値には、車両の走行状態が反映される。
【0023】
上記の転舵制御装置において、前記第3の処理部は、前記車両状態変数の値が前記しきい値を超えるとき、前記ステアリングホイールを介した緊急回避操作が行われるおそれがあると判定するようにしてもよい。
【0024】
この構成によれば、車両状態変数と、しきい値との比較を通じて、ステアリングホイールを介した緊急回避操作が行われるおそれがあるかどうかを判定することができる。緊急回避操作が行われるときには、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることが要求される。
【0025】
上記の転舵制御装置において、前記第3の処理部は、前記制限値を変化させる際、前記制限値に対して徐変処理を施すことにより前記制限値を時間に対して徐々に変化させる徐変処理部を有していてもよい。
【0026】
この構成によれば、制限値の急変が抑制されるため、トルク指令値および補償値の急変、ひいては転舵トルク指令値の急変が抑制される。したがって、転舵モータが発生する転舵力の急激な変化が抑えられる。
【0027】
上記の転舵制御装置において、前記トルク指令値は、前記偏差に対して比例演算を実行することにより演算される前記偏差に比例した値の第1のトルク指令値と、前記偏差に対して積分演算を実行することにより演算される前記偏差の積分値に比例した値の第2のトルク指令値と、を含んでいてもよい。この場合、前記第3の処理部は、前記第1のトルク指令値と前記第2のトルク指令値との加算値に対して定められた前記制限値に基づき、前記加算値の変化範囲を制限するようにしてもよい。
【0028】
この構成によれば、車両の走行状態に応じて、第1のトルク指令値と第2のトルク指令値との加算値および補償値の各々に定められた制限値が増加される。加算値の変化範囲および補償値の変化範囲が各々拡大されることにより、加算値と補償値とが同一の値に制限されることが抑制される。このため、加算値と補償値とが打ち消し合うことが抑制される。したがって、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることができる。
【0029】
上記の転舵制御装置において、前記トルク指令値は、前記偏差に対して比例演算を実行することにより演算される前記偏差に比例した値の第1のトルク指令値と、前記偏差に対して積分演算を実行することにより演算される前記偏差の積分値に比例した値の第2のトルク指令値と、を含んでいてもよい。この場合、前記第3の処理部は、前記第1のトルク指令値および前記第2のトルク指令値に対して各々定められた前記制限値に基づき、前記第1のトルク指令値および前記第2のトルク指令値の変化範囲を制限するようにしてもよい。
【0030】
この構成によれば、車両の走行状態に応じて、第1のトルク指令値、第2のトルク指令値および補償値の各々に定められた制限値が増加される。第1のトルク指令値の変化範囲、第2のトルク指令値の変化範囲および補償値の変化範囲が各々拡大されることにより、第1のトルク指令値と、第2のトルク指令値と、補償値とが同一の値に制限されることが抑制される。このため、第1のトルク指令値と補償値とが打ち消し合うこと、あるいは第2のトルク指令値と補償値とが打ち消し合うことが抑制される。したがって、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の転舵制御装置によれば、ステアリングホイールの操舵状態に応じて、転舵輪を適切に転舵させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】転舵制御装置の第1の実施の形態が搭載される操舵装置の構成図である。
【
図2】第1の実施の形態にかかる反力制御装置および転舵制御装置のブロック図である。
【
図3】第1の実施の形態にかかるピニオン角フィードバック制御部のブロック図である。
【
図4】第1の実施の形態にかかる第1~第3のガード処理部のブロック図である。
【
図5】比較例にかかるトルク指令値の経時的変化を示すグラフである。
【
図6】第1の実施の形態にかかるトルク指令値の経時的変化の第1の例を示すグラフである。
【
図7】第1の実施の形態にかかるトルク指令値の経時的変化の第2の例を示すグラフである。
【
図8】第2の実施の形態にかかるピニオン角フィードバック制御部のブロック図である。
【
図9】第3の実施の形態にかかる設定部が使用する第1のマップを示すグラフである。
【
図10】第2の実施の形態にかかる設定部が使用する第2のマップを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、転舵制御装置の第1の実施の形態を説明する。
<全体構成>
図1に示すように、操舵制御装置1の制御対象は、ステアバイワイヤ式の操舵装置2である。操舵装置2は、操舵機構3と、転舵機構4とを有している。操舵機構3は、ステアリングホイール5を介して、運転者により操舵される機構部分である。転舵機構4は、ステアリングホイール5の操舵に応じて、車両の転舵輪6を転舵させる機構部分である。操舵制御装置1は、反力制御装置1Aと、転舵制御装置1Bとを含む。反力制御装置1Aの制御対象は、操舵機構3である。反力制御装置1Aは、反力制御を実行する。転舵制御装置1Bの制御対象は、転舵機構4である。転舵制御装置1Bは、転舵制御を実行する。
【0034】
操舵機構3は、ステアリングシャフト11と、反力モータ12と、減速機13と、を有している。ステアリングホイール5は、ステアリングシャフト11に一体回転可能に連結される。反力モータ12は、ステアリングシャフト11に付与する操舵反力の発生源である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向の力である。反力モータ12は、たとえば三相のブラシレスモータである。減速機13は、反力モータ12の回転を減速し、減速された回転をステアリングシャフト11に伝達する。
【0035】
転舵機構4は、ピニオンシャフト21と、転舵シャフト22と、ハウジング23と、を有している。ハウジング23は、ピニオンシャフト21を回転可能に支持する。また、ハウジング23は、転舵シャフト22を往復動可能に収容する。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合う。転舵シャフト22の両端には、ボールジョイントからなるラックエンド24を介して、タイロッド25が連結されている。タイロッド25の先端は、転舵輪6が組み付けられた図示しないナックルに連結される。
【0036】
転舵機構4は、転舵モータ31と、伝動機構32と、変換機構33とを備えている。転舵モータ31は、転舵シャフト22に付与する転舵力の発生源である。転舵力は、転舵輪6を転舵させるための力である。転舵モータ31は、たとえば三相のブラシレスモータである。伝動機構32は、たとえばベルト伝動機構である。伝動機構32は、転舵モータ31の回転を変換機構33に伝達する。変換機構33は、たとえばボールねじ機構である。変換機構33は、伝動機構32を介して伝達される回転を、転舵シャフト22の軸方向の運動に変換する。
【0037】
転舵シャフト22が軸方向に移動することによって、転舵輪6の転舵角θwが変更される。ピニオンシャフト21のピニオン歯21aは、転舵シャフト22のラック歯22aと噛み合っているため、転舵シャフト22の移動に連動して回転する。ピニオンシャフト21は、転舵輪6の転舵動作に連動して回転する回転体である。
【0038】
反力制御装置1Aは、反力モータ12の動作を制御する。反力制御装置1Aは、つぎの3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一つを含む処理回路を有している。
A1.ソフトウェアであるコンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ。プロセッサは、CPU(central processing unit)およびメモリを含む。
【0039】
A2.各種処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路。ASICは、CPUおよびメモリを含む。
【0040】
A3.構成A1,A2を組み合わせたハードウェア回路。
メモリは、コンピュータで読み取り可能とされた媒体であって、コンピュータに対する処理あるいは命令を記述したプログラムを記憶している。本実施の形態では、コンピュータは、CPUである。メモリは、RAM(random access memory)およびROM(read only memory)を含む。CPUは、メモリに記憶されたプログラムを定められた演算周期で実行することによって各種の制御を実行する。
【0041】
反力制御装置1Aは、車載のセンサの検出結果を取り込む。センサは、車速センサ41、トルクセンサ42、および回転角センサ43を含む。
車速センサ41は、車速Vを検出する。車速Vは、車両の走行状態が反映される車両状態量である。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11に設けられている。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11における減速機13の連結部分に対して、ステアリングホイール5側に位置している。トルクセンサ42は、ステアリングシャフト11に付与される操舵トルクThを検出する。操舵トルクThは、ステアリングシャフト11に設けられるトーションバー42aのねじれ量に基づき演算される。回転角センサ43は、反力モータ12に設けられている。回転角センサ43は、反力モータ12の回転角θaを検出する。
【0042】
操舵トルクTh、および反力モータ12の回転角θaは、たとえば、ステアリングホイール5を右に操舵する場合は正の値であり、ステアリングホイール5を左に操舵する場合は負の値である。
【0043】
反力制御装置1Aは、車速センサ41、トルクセンサ42、および回転角センサ43の検出結果を使用して、反力モータ12の動作を制御する。反力制御装置1Aは、操舵トルクThに応じた操舵反力を反力モータ12に発生させるように、反力モータ12に対する給電を制御する。
【0044】
転舵制御装置1Bは、転舵モータ31の動作を制御する。転舵制御装置1Bは、反力制御装置1Aと同様に、先の3つの構成A1,A2,A3のうちいずれか一を含む処理回路を有している。
【0045】
転舵制御装置1Bは、車載のセンサの検出結果を取り込む。センサは、回転角センサ44を含む。回転角センサ44は、転舵モータ31に設けられている。回転角センサ44は、転舵モータ31の回転角θbを検出する。転舵モータ31の回転角θbは、たとえば、ステアリングホイール5を右に操舵する場合は正の値であり、ステアリングホイール5を左に操舵する場合は負の値である。
【0046】
転舵制御装置1Bは、回転角センサ44の検出結果を使用して、転舵モータ31の動作を制御する。転舵制御装置1Bは、ステアリングホイール5の操舵状態に応じて転舵輪6が転舵されるように、転舵モータ31に対する給電を制御する。
【0047】
<反力制御装置1Aの構成>
つぎに、反力制御装置1Aの構成について説明する。
図2に示すように、反力制御装置1Aは、操舵角演算部51、反力トルク指令値演算部52、および通電制御部53を有している。
【0048】
操舵角演算部51は、回転角センサ43を通じて検出される反力モータ12の回転角θaに基づき、ステアリングホイール5の操舵角θsを演算する。
反力トルク指令値演算部52は、操舵トルクThおよび車速Vに基づき反力トルク指令値T*を演算する。反力トルク指令値T*は、反力モータ12に発生させるべき、操舵反力の目標値である。操舵反力は、ステアリングホイール5の操舵方向と反対方向のトルクである。操舵トルクThの絶対値が大きいほど、また車速Vが遅いほど、反力トルク指令値T*の絶対値は、より大きくなる。
【0049】
通電制御部53は、反力トルク指令値T*に応じた電力を反力モータ12へ供給する。具体的には、通電制御部53は、反力トルク指令値T*に基づき、反力モータ12に対する電流指令値を演算する。通電制御部53は、反力モータ12に対する給電経路に設けられた電流センサ54を通じて、給電経路に生じる電流Iaの値を検出する。電流Iaの値は、反力モータ12に供給される電流の値である。通電制御部53は、電流指令値と電流Iaの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように反力モータ12に対する給電を制御する。これにより、反力モータ12は、反力トルク指令値T*に応じたトルクを発生する。
【0050】
<転舵制御装置1Bの構成>
つぎに、転舵制御装置1Bの構成について説明する。
図2に示すように、転舵制御装置1Bは、ピニオン角演算部61、目標ピニオン角演算部62、ピニオン角フィードバック制御部63、および通電制御部64を有している。
【0051】
ピニオン角演算部61は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ31の回転角θbに基づき、ピニオン角θpを演算する。ピニオン角θpは、ピニオンシャフト21の回転角である。転舵モータ31とピニオンシャフト21とは、伝動機構32、変換機構33、および転舵シャフト22を介して連動する。このため、転舵モータ31の回転角θbとピニオン角θpとの間には相関関係がある。この相関関係を利用して、転舵モータ31の回転角θbからピニオン角θpを求めることができる。ピニオンシャフト21は、転舵シャフト22に噛合されている。このため、ピニオン角θpと転舵シャフト22の移動量との間にも相関関係がある。すなわち、ピニオン角θpは、転舵輪6の転舵角θwを反映する値である。
【0052】
目標ピニオン角演算部62は、操舵角演算部51により演算される操舵角θsに基づき目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角演算部62は、製品仕様などに応じて設定される舵角比が実現されるように、目標ピニオン角θp
*を演算する。舵角比は、操舵角θsに対する転舵角θwの比である。
【0053】
目標ピニオン角演算部62は、たとえば、車速Vなどの車両の走行状態に応じて舵角比を設定し、この設定される舵角比に応じて目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが遅くなるにつれて操舵角θsに対する転舵角θwが大きくなるように、目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車速Vが速くなるにつれて操舵角θsに対する転舵角θwが小さくなるように、目標ピニオン角θp
*を演算する。目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態に応じて設定される舵角比を実現するために、操舵角θsに対する補正角度を演算し、この演算される補正角度を操舵角θsに加算することにより舵角比に応じた目標ピニオン角θp
*を演算する。
【0054】
なお、製品仕様などによっては、目標ピニオン角演算部62は、車両の走行状態にかかわらず、舵角比が「1:1」となるように、目標ピニオン角θp
*を演算するようにしてもよい。
【0055】
ピニオン角フィードバック制御部63は、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θp
*、およびピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θpを取り込む。ピニオン角フィードバック制御部63は、ピニオン角θpが目標ピニオン角θp
*に追従するように、ピニオン角θpのフィードバック制御を通じて、転舵トルク指令値Tp
*を演算する。転舵トルク指令値Tp
*は、転舵モータ31が発生するトルクに対する指令値であって、転舵力の目標値である。
【0056】
通電制御部64は、転舵トルク指令値Tp
*に応じた電力を転舵モータ31へ供給する。具体的には、通電制御部64は、転舵トルク指令値Tp
*に基づき、転舵モータ31に対する電流指令値を演算する。通電制御部64は、転舵モータ31に対する給電経路に設けられた電流センサ65を通じて、給電経路に生じる電流Ibの値を検出する。電流Ibの値は、転舵モータ31に供給される電流の値である。通電制御部64は、電流指令値と電流Ibの値との偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ31に対する給電を制御する。これにより、転舵モータ31は転舵トルク指令値Tp
*に応じたトルクを発生する。
【0057】
<ピニオン角フィードバック制御部63の構成>
つぎに、ピニオン角フィードバック制御部63の構成について説明する。
図3に示すように、ピニオン角フィードバック制御部63は、第1の減算器63A、第1の微分器63B、第2の微分器63C、および第2の減算器63Dを有している。
【0058】
第1の減算器63Aは、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θp
*と、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θpとを取り込む。第1の減算器63Aは、角度偏差Δθpを演算する。角度偏差Δθpは、目標ピニオン角θp
*とピニオン角θpとの差である。
【0059】
第1の微分器63Bは、目標ピニオン角演算部62により演算される目標ピニオン角θp
*を微分することにより目標ピニオン角速度ωp
*を演算する。
第2の微分器63Cは、ピニオン角演算部61により演算されるピニオン角θpを微分することによりピニオン角速度ωpを演算する。
【0060】
第2の減算器63Dは、第1の微分器63Bにより演算される目標ピニオン角速度ωp
*と、第2の微分器63Cにより演算されるとピニオン角速度ωpとを取り込む。第2の減算器63Dは、角速度偏差Δωpを演算する。角速度偏差Δωpは、目標ピニオン角速度ωp
*とピニオン角速度ωpとの差である。
【0061】
ピニオン角フィードバック制御部63は、比例制御部63E、積分制御部63F、微分制御部63G、およびダンピング制御部63Hを有している。
比例制御部63Eは、第1の減算器63Aによって演算される角度偏差Δθpに対して比例演算を実行することにより、角度偏差Δθpに比例した値の第1のトルク指令値Tp1を演算する。比例制御部63Eは、角度偏差Δθpに比例ゲインを乗算することにより、第1のトルク指令値Tp1を演算する。比例ゲインは、要求される制御特性を実現するようにチューニングされる定数である。
【0062】
積分制御部63Fは、第1の減算器63Aによって演算される角度偏差Δθpに対して積分演算を実行することにより、角度偏差Δθpの積分値に比例した値の第2のトルク指令値Tp2を演算する。積分制御部63Fは、角度偏差Δθpを時間で積分し、その積分値に積分ゲインを乗算することにより、第2のトルク指令値Tp2を演算する。積分ゲインは、要求される制御特性を実現するようにチューニングされる定数である。
【0063】
微分制御部63Gは、第2の減算器63Dによって演算される角速度偏差Δωpに対して微分演算を実行することにより、角速度偏差Δωpの微分値に比例した値の第3のトルク指令値Tp3を演算する。微分制御部63Gは、角速度偏差Δωpを時間で微分し、その微分値に微分ゲインを乗算することにより、第3のトルク指令値Tp3を演算する。微分ゲインは、要求される制御特性を実現するようにチューニングされる定数である。
【0064】
ダンピング制御部63Hは、第2の微分器63Cにより演算されるピニオン角速度ωpを取り込み、取り込まれるピニオン角速度ωpに基づき、転舵機構4が有する粘性を補償するための補償値である第4のトルク指令値Tp4を演算する。第4のトルク指令値Tp4は、ピニオン角速度ωpを抑制するため、すなわち転舵輪6の転舵角速度を抑制するために演算される補償値である。第4のトルク指令値Tp4は、第1のトルク指令値Tp1、第2のトルク指令値Tp2、および第3のトルク指令値Tp3に対する補償値である。第4のトルク指令値Tp4は、主に第1のトルク指令値Tp1に対する補償値である。
【0065】
第4のトルク指令値Tp4は、後述する第3の減算器63Nを通じて、第1のトルク指令値Tp1、第2のトルク指令値Tp2、および第3のトルク指令値Tp3に対して、あるいは第1のトルク指令値Tp1、第2のトルク指令値Tp2、および第3のトルク指令値Tp3の合算値に対して、逆方向に作用する補償値である。ちなみに、ダンピング制御部63Hは、第1の微分器63Bにより演算される目標ピニオン角速度ωp
*に基づき、第4のトルク指令値Tp4を演算するようにしてもよい。
【0066】
ピニオン角フィードバック制御部63は、第1の加算器63I、第1のガード処理部63J、第2のガード処理部63K、および第3のガード処理部63Lを有している。
第1の加算器63Iは、比例制御部63Eにより演算される第1のトルク指令値Tp1と、積分制御部63Fにより演算される第2のトルク指令値Tp2とを取り込む。第1の加算器63Iは、第1のトルク指令値Tp1と第2のトルク指令値Tp2とを加算することにより、第5のトルク指令値Tp5を演算する。第5のトルク指令値Tp5は、第1のトルク指令値Tp1と第2のトルク指令値Tp2との加算値である。
【0067】
第1のガード処理部63Jは、第1の加算器63Iにより演算される第5のトルク指令値Tp5、および車速センサ41を通じて検出される車速Vを取り込む。第1のガード処理部63Jは、車速Vに基づき第5のトルク指令値Tp5に対する制限値を演算する。制限値は、第5のトルク指令値Tp5に対する上限値および下限値を含む。第1のガード処理部63Jは、上限値および下限値に基づき第5のトルク指令値Tp5に対する制限処理を実行する。第1のガード処理部63Jは、制限処理の実行を通じて、第6のトルク指令値Tp6を演算する。
【0068】
第1のガード処理部63Jは、第5のトルク指令値Tp5と上限値とを比較する。第1のガード処理部63Jは、第5のトルク指令値Tp5が上限値を超える場合、第5のトルク指令値Tp5を上限値に制限する。上限値に制限された後の第5のトルク指令値Tp5が第6のトルク指令値Tp6となる。
【0069】
第1のガード処理部63Jは、第5のトルク指令値Tp5と下限値とを比較する。第1のガード処理部63Jは、第5のトルク指令値Tp5が下限値を下回る場合、第5のトルク指令値Tp5を下限値に制限する。下限値に制限された後の第5のトルク指令値Tp5が第6のトルク指令値Tp6となる。
【0070】
なお、第5のトルク指令値Tp5が上限値と下限値との間の範囲内である場合、第1の加算器63Iにより演算される第5のトルク指令値Tp5がそのまま第6のトルク指令値Tp6となる。
【0071】
第2のガード処理部63Kは、微分制御部63Gにより演算される第3のトルク指令値Tp3、および車速センサ41を通じて検出される車速Vを取り込む。第2のガード処理部63Kは、車速Vに基づき第3のトルク指令値Tp3に対する制限値を演算する。制限値は、第3のトルク指令値Tp3に対する上限値および下限値を含む。第2のガード処理部63Kは、上限値および下限値に基づき第3のトルク指令値Tp3に対する制限処理を実行する。第2のガード処理部63Kは、制限処理の実行を通じて、第7のトルク指令値Tp7を演算する。
【0072】
第3のガード処理部63Lは、ダンピング制御部63Hにより演算される第4のトルク指令値Tp4、および車速センサ41を通じて検出される車速Vを取り込む。第3のガード処理部63Lは、車速Vに基づき第4のトルク指令値Tp4に対する制限値を演算する。制限値は、第4のトルク指令値Tp4に対する上限値および下限値を含む。第3のガード処理部63Lは、上限値および下限値に基づき第4のトルク指令値Tp4に対する制限処理を実行する。第3のガード処理部63Lは、制限処理の実行を通じて、第8のトルク指令値Tp8を演算する。
【0073】
ピニオン角フィードバック制御部63は、第2の加算器63M、第3の減算器63N、および第4のガード処理部63Oを有している。
第2の加算器63Mは、第1のガード処理部63Jにより演算される第6のトルク指令値Tp6と、第2のガード処理部63Kにより演算される第7のトルク指令値Tp7とを取り込む。第2の加算器63Mは、第6のトルク指令値Tp6と第7のトルク指令値Tp7とを加算することにより、第9のトルク指令値Tp9を演算する。
【0074】
第3の減算器63Nは、第2の加算器63Mにより演算される第9のトルク指令値Tp9と、第3のガード処理部63Lにより演算される第8のトルク指令値Tp8とを取り込む。第3の減算器63Nは、第9のトルク指令値Tp9から第8のトルク指令値Tp8を減算することにより、第10のトルク指令値Tp10を演算する。
【0075】
第4のガード処理部63Oは、第3の減算器63Nにより演算される第10のトルク指令値Tp10を取り込む。第4のガード処理部63Oは、第10のトルク指令値Tp10に対する制限値を有している。制限値は、第10のトルク指令値Tp10に対する上限値および下限値を含む。第4のガード処理部63Oは、上限値および下限値に基づき第10のトルク指令値Tp10に対する制限処理を実行する。第4のガード処理部63Oは、制限処理の実行を通じて、転舵モータ31の制御に使用される最終的な転舵トルク指令値Tp
*を演算する。
【0076】
なお、目標ピニオン角θp
*は、転舵輪6の動作に連動して回転する回転体の目標角度に相当する。ピニオン角θpは、回転体の実角度に相当する。目標ピニオン角速度ωp
*は、回転体の目標角速度に相当する。ピニオン角速度ωpは、回転体の実角速度に相当する。また、比例制御部63E、積分制御部63F、および微分制御部63Gは、第1の処理部を構成する。ダンピング制御部63Hは、第2の処理部を構成する。第1のガード処理部63J、第2のガード処理部63K、および第3のガード処理部63Lは、第3の処理部を構成する。第3の減算器63Nは、第4の処理部を構成する。
【0077】
<第1~第3のガード処理部63J,63K,63Lの構成>
つぎに、第1~第3のガード処理部63J,63K,63Lの構成について説明する。第1~第3のガード処理部63J,63K,63Lは、基本的には同一の構成を有している。
【0078】
図4に示すように、第1のガード処理部63Jは、設定部71を有している。設定部71は、第1の判定部71A、および第1のスイッチ71Bを有している。
第1の判定部71Aは、車速センサ41を通じて検出される車速V、およびメモリに記憶された第1の車速しきい値V
th1を取り込む。第1の車速しきい値V
th1は、ステアリングホイール5を介した緊急回避操作が行われるおそれがある車両の走行速度を基準として設定される。第1の車速しきい値V
th1は、いわゆる低速域の車速であって、たとえば20km/hに設定される。これは、たとえば5km/h以下の極低速域の速度で車両が走行しているときには、緊急回避操作が行われる蓋然性が低いからである。ちなみに、低速域は、たとえば0km/h以上、かつ40km/h未満の速度域である。
【0079】
第1の判定部71Aは、車速Vと第1の車速しきい値Vth1との比較結果に基づき、緊急回避操作が行われるおそれがあるかどうかを判定する。第1の判定部71Aは、車速Vと第1の車速しきい値Vth1との比較結果に基づき、第1のフラグF1の値をセットする。第1の判定部71Aは、車速Vの値が、第1の車速しきい値Vth1よりも小さいとき、緊急回避操作が行われるおそれがないとして、第1のフラグF1の値を「0」にセットする。第1の判定部71Aは、車速Vの値が、第1の車速しきい値Vth1よりも大きいとき、緊急回避操作が行われるおそれがあるとして、第1のフラグF1の値を「1」にセットする。
【0080】
第1のスイッチ71Bは、データ入力として、メモリに記憶された第1の設定値G1と、メモリに記憶された第2の設定値G2とを取り込む。第1の設定値G1は、固定値であって、たとえば「1」である。第2の設定値G2は、第1のガード処理部63Jに固有の値である。第2の設定値G2は、固定値であって、「1」よりも大きい値に設定される。
【0081】
第1のスイッチ71Bは、制御入力として、第1の判定部71Aによりセットされる第1のフラグF1の値を取り込む。第1のスイッチ71Bは、第1のフラグF1の値に基づき、第3の設定値G3の値を設定する。第1のスイッチ71Bは、第1のフラグF1の値が「0」であるとき、第3の設定値G3として第1の設定値G1(ここでは、「1」)を選択する。第1のスイッチ71Bは、第1のフラグF1の値が「1」であるとき、第3の設定値G3として第2の設定値G2を設定する。
【0082】
第1のガード処理部63Jは、第2の判定部72、第2のスイッチ73、徐変処理部74、乗算器75、符号反転処理部76、および制限処理部77を有している。
第2の判定部72は、車速センサ41を通じて検出される車速V、およびメモリに記憶された第2の車速しきい値Vth2を取り込む。第2の車速しきい値Vth2は、ステアリングホイール5を介した緊急回避操作が行われるおそれがある車両の走行速度を基準として設定される。第2の車速しきい値Vth2は、いわゆる低速域の車速に設定される。第2の車速しきい値Vth2は、第1の車速しきい値Vth1と同じ値であってもよい。
【0083】
第2の判定部72は、車速Vと第2の車速しきい値Vth2との比較結果に基づき、緊急回避操作が行われるおそれがあるかどうかを判定する。第2の判定部72は、車速Vと第2の車速しきい値Vth2との比較結果に基づき、第2のフラグF2の値をセットする。第2の判定部72は、車速Vの値が、第2の車速しきい値Vth2よりも小さいとき、緊急回避操作が行われるおそれがないとして、第2のフラグF2の値を「0」にセットする。第2の判定部72は、車速Vの値が、第2の車速しきい値Vth2よりも大きいとき、緊急回避操作が行われるおそれがあるとして、第2のフラグF2の値を「1」にセットする。
【0084】
第2のスイッチ73は、データ入力として、第1のスイッチ71Bにより設定される第3の設定値G3と、メモリに記憶された第4の設定値G4とを取り込む。第4の設定値G4は、固定値であって、たとえば「1」である。
【0085】
第2のスイッチ73は、制御入力として、第2の判定部72によりセットされる第2のフラグF2の値を取り込む。第2のスイッチ73は、第2のフラグF2の値に基づき、第5の設定値G5を設定する。第2のスイッチ73は、第2のフラグF2の値が「0」であるとき、第5の設定値G5として第4の設定値G4(ここでは、「1」)を選択する。第2のスイッチ73は、第2のフラグF2の値が「1」であるとき、第5の設定値G5として第3の設定値G3を選択する。
【0086】
徐変処理部74は、第2のスイッチ73により選択される第5の設定値G5を取り込む。徐変処理部74は、第5の設定値G5に対して、時間に対する徐変処理を施すことにより、第6の設定値G6を演算する。徐変処理は、第5の設定値G5を徐々に変化させるための処理である。徐変処理部74は、たとえば、第5の設定値G5の単位時間当たりの変化量を所定の制限値に制限する、いわゆる時間に対する変化量ガード処理を実行するように構成される。第6の設定値G6は、最終的には、第5の設定値G5に設定される。ちなみに、徐変処理部74として、ローパスフィルタを採用するようにしてもよい。
【0087】
乗算器75は、メモリに記憶された基本制限値Tpthと、徐変処理部74により演算される第6の設定値G6とを取り込む。基本制限値Tpthは、第5のトルク指令値Tp5に対する基本的な制限値であって、たとえば、転舵モータ31の定格トルクに設定される。基本制限値Tpthは、デフォルト値としてメモリに記憶されている。乗算器75は、基本制限値Tpthに対して、徐変処理部74により演算される第6の設定値G6を乗算することにより、上限値TpULを演算する。
【0088】
符号反転処理部76は、乗算器75により演算される上限値TpULを取り込む。符号反転処理部76は、上限値TpULの符号を反転させることにより、下限値TpLLを演算する。
【0089】
制限処理部77は、乗算器75により演算される上限値TpULと、符号反転処理部76により演算される下限値TpLLとを取り込む。制限処理部77は、取り込まれる上限値TpULと下限値TpLLとを使用して、第5のトルク指令値Tp5の制限処理を実行する。
【0090】
制限処理部77は、第5のトルク指令値Tp5と上限値TpULとを比較する。制限処理部77は、第5のトルク指令値Tp5が上限値TpULを超える場合、第5のトルク指令値Tp5を上限値TpULに制限する。上限値TpULに制限された後の第5のトルク指令値Tp5が第6のトルク指令値Tp6となる。
【0091】
制限処理部77は、第5のトルク指令値Tp5と下限値TpLLとを比較する。制限処理部77は、第5のトルク指令値Tp5が下限値TpLLを下回る場合、第5のトルク指令値Tp5を下限値TpLLに制限する。下限値TpLLに制限された後の第5のトルク指令値Tp5が第6のトルク指令値Tp6となる。
【0092】
制限処理部77は、第5のトルク指令値Tp5が上限値TpULと下限値TpLLとの間の範囲内である場合、第5のトルク指令値Tp5を制限しない。第1の加算器63Iにより演算される第5のトルク指令値Tp5が、そのまま第6のトルク指令値Tp6となる。
【0093】
<制限値の設定パターン>
上限値TpULと下限値TpLLとの設定パターンは、つぎの通りである。
第2のフラグF2の値が「0」である場合、第4の設定値G4が第5の設定値G5として設定される。第4の設定値G4は、たとえば「1」である。このため、第5の設定値G5は「1」に設定される。第5の設定値G5は、徐変処理部74を介して、第6の設定値G6として設定される。第5の設定値G5が「1」であるため、第6の設定値G6は、最終的には、「1」となる。メモリに記憶された基本制限値Tpthが、そのまま上限値TpULとして使用される。また、上限値TpULの符号が反転されることにより、下限値TpLLが設定される。第3の設定値G3は、上限値TpULの演算に使用されない。
【0094】
第2のフラグF2の値が「1」である場合、第3の設定値G3が第5の設定値G5として設定される。第1のフラグF1の値が「0」である場合、第1の設定値G1が第3の設定値G3として設定される。第1の設定値G1は、たとえば「1」である。このため、第5の設定値G5は「1」に設定される。第5の設定値G5は、徐変処理部74を介して、第6の設定値G6として設定される。第5の設定値G5が「1」であるため、第6の設定値G6は、最終的には、「1」となる。すなわち、メモリに記憶された基本制限値Tpthが、そのまま上限値TpULとして使用される。また、上限値TpULの符号が反転されることにより、下限値TpLLが設定される。
【0095】
第2のフラグF2の値が「1」である場合、第3の設定値G3が第5の設定値G5として設定される。第1のフラグF1の値が「1」である場合、第2の設定値G2が第3の設定値G3として設定される。第2の設定値G2は、第1の設定値G1よりも大きい値である。このため、第3の設定値G3は第1の設定値G1よりも大きい値となる。ここでは、第1の設定値G1が「1」であるため、第3の設定値G3は「1」よりも大きい値となる。すなわち、「1」よりも大きい値を有する第3の設定値G3が第5の設定値G5として設定される。第5の設定値G5は、徐変処理部74を介して、第6の設定値G6として設定される。
【0096】
第5の設定値G5が「1」よりも大きい値を有するため、第6の設定値G6は、最終的には、「1」よりも大きい値となる。このため、基本制限値Tpthに第6の設定値G6を乗算することにより得られる上限値TpULは、基本制限値Tpthよりも大きい値を有する。上限値TpULの符号が反転されることにより、下限値TpLLが設定される。下限値TpLLの絶対値は、基本制限値Tpthの絶対値よりも大きい値を有する。したがって、基本制限値Tpthが上限値TpULとして使用される場合に比べて、第5のトルク指令値Tp5の変化範囲が拡大される。
【0097】
なお、第2のガード処理部63K、および第3のガード処理部63Lは、基本的には、第1のガード処理部63Jと同様の構成を有している。
図4に括弧付きの符号で示すように、第2のガード処理部63Kは、第2の設定値G2に代えて、第7の設定値G7を使用する。第7の設定値G7は、第2のガード処理部63Kに固有の値である。第7の設定値G7は、固定値であって、たとえば「1」よりも大きい値に設定される。基本制限値T
pthは、第3のトルク指令値T
p3に対する基本的な制限値でもある。
【0098】
したがって、第2のフラグF2の値が「0」である場合、ならびに第2のフラグF2の値が「1」であって、かつ第1のフラグF1の値が「0」である場合、基本制限値Tpthが上限値TpULとして使用される。上限値TpULの符号が反転されることにより、下限値TpLLが設定される。また、第2のフラグF2の値が「1」であって、かつ第1のフラグF1の値が「1」である場合、基本制限値Tpthが上限値TpULとして使用される場合に比べて、第3のトルク指令値Tp3の変化範囲が拡大される。
【0099】
図4に括弧付きの符号で示すように、第3のガード処理部63Lは、第2の設定値G2に代えて、第8の設定値G8を使用する。第8の設定値G8は、第3のガード処理部63Lに固有の値である。第8の設定値G8は、固定値であって、たとえば「1」よりも大きい値に設定される。基本制限値T
pthは、第4のトルク指令値T
p4に対する基本的な制限値でもある。
【0100】
したがって、第2のフラグF2の値が「0」である場合、ならびに第2のフラグF2の値が「1」であって、かつ第1のフラグF1の値が「0」である場合、基本制限値Tpthが上限値TpULとして使用される。上限値TpULの符号が反転されることにより、下限値TpLLが設定される。また、第2のフラグF2の値が「1」であって、かつ第1のフラグF1の値が「1」である場合、基本制限値Tpthが上限値TpULとして使用される場合に比べて、第4のトルク指令値Tp4の変化範囲が拡大される。
【0101】
<第1の実施の形態の作用>
つぎに、第1の実施の形態の作用について説明する。
比較例として、第1のガード処理部63J、第2のガード処理部63K、および第3のガード処理部63Lが、車速Vにかかわらず固定値である基本制限値Tpthを使用することが考えられる。この場合、たとえば、ステアリングホイール5を介して緊急回避操作が行われるとき、つぎのようなことが懸念される。ただし、ここでは、第4のトルク指令値Tp4と、第5のトルク指令値Tp5との関係に着目する。
【0102】
図5のグラフに示すように、ダンピング制御部63Hにより演算される第4のトルク指令値T
p4の絶対値と、第1の加算器63Iにより演算される第5のトルク指令値T
p5の絶対値とが時間に対して増加し、やがて基本制限値T
pthに達する。たとえば、第5のトルク指令値T
p5の絶対値の傾きは、第4のトルク指令値T
p4の絶対値の傾きよりも大きい。傾きは、時間に対するトルク指令値の絶対値の変化の割合である。このため、第4のトルク指令値T
p4の絶対値は、第5のトルク指令値T
p5の絶対値よりも後に基本制限値T
pthに達する(時刻T1)。
【0103】
第4のトルク指令値Tp4の絶対値が基本制限値Tpthに達した以降、第5のトルク指令値Tp5の絶対値と、第4のトルク指令値Tp4の絶対値とが、共に基本制限値Tpthに制限される。すなわち、第4のトルク指令値Tp4の絶対値と、第5のトルク指令値Tp5の絶対値とが同じ値となる。第4のトルク指令値Tp4は、第3の減算器63Nより減算される値である。このため、第4のトルク指令値Tp4の絶対値が基本制限値Tpthに達した以降、第4のトルク指令値Tp4と、第5のトルク指令値Tp5とが、互いに打ち消し合うおそれがある。したがって、ステアリングホイール5を介した緊急回避操作に応じて、転舵輪6を適切に転舵させることができないことが懸念される。
【0104】
これに対し、本実施の形態では、ステアリングホイール5を介した緊急回避操作が行われるおそれがある場合、第3~第5のトルク指令値Tp3~Tp5の各々の変化範囲が拡大される。急回避操作が行われるおそれがある場合は、たとえば、第1の車速しきい値Vth1および第2の車速しきい値Vth2を超える速度で車両が走行する場合である。
【0105】
本実施の形態では、第3~第5のトルク指令値Tp3~Tp5の各々の変化範囲を拡大するための2つのパターンを想定している。製品の仕様に応じて、第1のパターンおよび第2のパターンのうちいずれか一方が採用される。
【0106】
第1のパターンは、第1のガード処理部63Jが使用する第2の設定値G2と、第2のガード処理部63Kが使用する第7の設定値G7と、第3のガード処理部63Lが使用する第8の設定値G8とを同じ値に設定するパターンである。ただし、第2の設定値G2、第7の設定値G7、および第8の設定値G8は、いずれも「1」よりも大きい値に設定される。
【0107】
第2のパターンは、第1のガード処理部63Jが使用する第2の設定値G2と、第2のガード処理部63Kが使用する第7の設定値G7と、第3のガード処理部63Lが使用する第8の設定値G8とを、互いに異なる値に設定するパターンである。ただし、第2の設定値G2、第7の設定値G7、および第8の設定値G8は、いずれも「1」よりも大きい値に設定される。また、第2の設定値G2および第7の設定値G7のうち少なくとも第2の設定値G2は、第8の設定値G8よりも大きい値に設定される。これは、比例制御部63Eにより演算される第1のトルク指令値Tp1を、より多く、転舵トルク指令値Tp
*に反映させるためである。
【0108】
<第1のパターン>
第1のパターンを採用した場合の作用について説明する。ここでは、第4のトルク指令値Tp4と、第5のトルク指令値Tp5との関係に着目する。これは、第5のトルク指令値Tp5は比例制御部63Eにより演算される第1のトルク指令値Tp1と、積分制御部63Fにより演算される第2のトルク指令値Tp2とを加算して得られる値であって、転舵輪6の転舵性能に及ぼす影響がより大きい値であるからである。また、一例として、第2の設定値G2と第8の設定値G8とが、いずれも「3」に設定されている。
【0109】
図6のグラフに示すように、第4のトルク指令値T
p4の絶対値に対する制限値、および第5のトルク指令値T
p5の絶対値に対する制限値は、共に基本制限値T
pthの3倍の値となる。
【0110】
第5のトルク指令値Tp5の絶対値は、時間に対して増加する。第5のトルク指令値Tp5の絶対値は、基本制限値Tpthを超えて、やがて基本制限値Tpthの3倍の値を有する制限値に達する。第5のトルク指令値Tp5の絶対値が制限値に達した以降、第5のトルク指令値Tp5の絶対値は、制限値に制限された状態に維持される。
【0111】
第4のトルク指令値Tp4の絶対値は、時間に対して増加する。第4のトルク指令値Tp4の絶対値は、基本制限値Tpthを超えて、やがて基本制限値Tpthの3倍の値を有する制限値に達する前に飽和する。第4のトルク指令値Tp4の絶対値が飽和した以降、第4のトルク指令値Tp4の絶対値は、基本制限値Tpthと、基本制限値Tpthの3倍の値を有する制限値との間の飽和値に維持される。
【0112】
このように、第4のトルク指令値Tp4の絶対値に対する制限値と、第5のトルク指令値Tp5の絶対値に対する制限値とが、共に基本制限値Tpthよりも大きい同一値に増加される。これにより、第4のトルク指令値Tp4の絶対値と、第5のトルク指令値Tp5の絶対値とが、同一の値に制限されることが抑制される。したがって、第4のトルク指令値Tp4の絶対値と、第5のトルク指令値Tp5の絶対値とに差が生じることにより、第4のトルク指令値Tp4と第5のトルク指令値Tp5とが、打ち消し合うことが抑制される。
【0113】
<第2のパターン>
第2のパターンを採用した場合の作用について説明する。ここでも、第4のトルク指令値Tp4と、第5のトルク指令値Tp5との関係に着目する。また、一例として、第2の設定値G2が「5」、第8の設定値G8が「2」に設定されている。
【0114】
図7のグラフに示すように、第4のトルク指令値T
p4の絶対値に対する制限値は、基本制限値T
pthの2倍の値となる。第5のトルク指令値T
p5の絶対値に対する制限値は、基本制限値T
pthの5倍の値となる。
【0115】
第5のトルク指令値Tp5の絶対値は、時間に対して増加する。第5のトルク指令値Tp5の絶対値は、基本制限値Tpthを超えて、やがて基本制限値Tpthの5倍の値を有する制限値に達する前に飽和する。第5のトルク指令値Tp5の絶対値が飽和した以降、第5のトルク指令値Tp5の絶対値は、基本制限値Tpthと、基本制限値Tpthの5倍の値を有する制限値との間の飽和値に維持される。
【0116】
第4のトルク指令値Tp4の絶対値は、時間に対して増加する。第4のトルク指令値Tp4の絶対値は、基本制限値Tpthを超えて、やがて基本制限値Tpthの2倍の値を有する制限値に達する前に飽和する。第4のトルク指令値Tp4の絶対値が飽和した以降、第4のトルク指令値Tp4の絶対値は、基本制限値Tpthと、基本制限値Tpthの2倍の値を有する制限値との間の飽和値に維持される。
【0117】
このように、第4のトルク指令値Tp4の絶対値に対する制限値と、第5のトルク指令値Tp5の絶対値に対する制限値とが、共に基本制限値Tpthよりも大きい互いに異なる値に増加される。これにより、第4のトルク指令値Tp4の絶対値と、第5のトルク指令値Tp5の絶対値とが、同一の値に制限されることが抑制される。したがって、第4のトルク指令値Tp4の絶対値と、第5のトルク指令値Tp5の絶対値とに差が生じることにより、第4のトルク指令値Tp4と第5のトルク指令値Tp5とが、打ち消し合うことが抑制される。
【0118】
<第1の実施の形態の効果>
第1の実施の形態は、以下の効果を奏する。
(1-1)車両の走行状態に応じて、第4のトルク指令値Tp4に対する制限値と、第5のトルク指令値Tp5に対する制限値とが個別に増加される。たとえば、ステアリングホイール5を介した緊急回避操作が行われるおそれがある場合、第4のトルク指令値Tp4に対する制限値と、第5のトルク指令値Tp5に対する制限値とが、共に基本制限値Tpthよりも大きい値に増加される。すなわち、第4のトルク指令値Tp4の変化範囲と、第5のトルク指令値Tp5の変化範囲とが拡大される。これにより、第4のトルク指令値Tp4と、第5のトルク指令値Tp5とが、同一の値に制限されることが抑制される。第4のトルク指令値Tp4と、第5のトルク指令値Tp5との間に差が生じることにより、第4のトルク指令値Tp4と第5のトルク指令値Tp5とが、打ち消し合うことが抑制される。第5のトルク指令値Tp5は、比例制御部63Eにより演算される第1のトルク指令値Tp1と、積分制御部63Fにより演算される第2のトルク指令値Tp2とを加算して得られる値であって、転舵輪6の転舵性能に及ぼす影響がより大きい値である。したがって、ステアリングホイール5を介した緊急回避操作に応じて、転舵輪6を適切に転舵させることができる。
【0119】
(1-2)基本制限値Tpthに乗算される第5の設定値G5が、第3の設定値G3と第4の設定値G4との間で切り替えられるとき、徐変処理部74によって第5の設定値G5に対して徐変処理が実行される。このため、第3のトルク指令値Tp3に対する制限値、第4のトルク指令値Tp4に対する制限値、および第5のトルク指令値Tp5に対する制限値の急激な変化が抑制される。したがって、転舵トルク指令値Tp
*、ひいては転舵モータ31が発生する転舵力の急激な変化が抑えられる。
【0120】
(1-3)車速Vが、第1の車速しきい値Vth1を超え、かつ第2の車速しきい値Vth2を超えるとき、第4のトルク指令値Tp4の絶対値に対する制限値と、第5のトルク指令値Tp5の絶対値に対する制限値とが、共に基本制限値Tpthよりも大きい値に増加される。第1の車速しきい値Vth1を超え、かつ第2の車速しきい値Vth2を超える速度で車両が走行する状態は、急回避操作が行われるおそれがある車両の状態の一つである。したがって、車両の状態に応じて、第4のトルク指令値Tp4の絶対値に対する制限値の変化範囲と、第5のトルク指令値Tp5の絶対値に対する制限値の変化範囲とを拡大することができる。
【0121】
(1-4)制限値の変化範囲を拡大するための第2のパターンが採用される場合、車速Vが、第1の車速しきい値Vth1を超え、かつ第2の車速しきい値Vth2を超えるとき、第5のトルク指令値Tp5に対する制限値が、第4のトルク指令値Tp4に対する制限値よりも大きい値に設定される。このため、第1の加算器63Iにより演算される第5のトルク指令値Tp5、ひいては比例制御部63Eにより演算される第1のトルク指令値Tp1、および積分制御部63Fにより演算される第2のトルク指令値Tp2を、より多く転舵トルク指令値Tp
*に反映させることができる。
【0122】
<第2の実施の形態>
つぎに、転舵制御装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、先の
図1、
図2および
図4に示される第1の実施の形態と同様の構成を有する。本実施の形態は、ピニオン角フィードバック制御部63の構成の点で第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0123】
図8に示すように、ピニオン角フィードバック制御部63は、第1の減算器63A、第1の微分器63B、第2の微分器63C、および第2の減算器63Dを有している。また、ピニオン角フィードバック制御部63は、比例制御部63E、積分制御部63F、微分制御部63G、およびダンピング制御部63Hを有している。また、ピニオン角フィードバック制御部63は、第2のガード処理部63K、および第3のガード処理部63Lを有している。
【0124】
これらの構成に加えて、ピニオン角フィードバック制御部63は、第5のガード処理部63P、第6のガード処理部63Q、演算器63R、および第7のガード処理部63Sを有している。
【0125】
第5のガード処理部63P、および第6のガード処理部63Qは、先の
図4に示される第1の加算器63I、第1のガード処理部63J、第2のガード処理部63K、および第3のガード処理部63Lと同様の構成を有する。
【0126】
第5のガード処理部63Pは、比例制御部63Eにより演算される第1のトルク指令値Tp1と、車速センサ41を通じて検出される車速Vとを取り込む。第5のガード処理部63Pは、車速Vに基づき第1のトルク指令値Tp1に対する制限値を演算する。制限値は、第1のトルク指令値Tp1に対する上限値および下限値を含む。第5のガード処理部63Pは、上限値および下限値に基づき第1のトルク指令値Tp1に対する制限処理を実行する。第5のガード処理部63Pは、制限処理の実行を通じて、第11のトルク指令値Tp11を演算する。
【0127】
図4に括弧付きの符号で示すように、第5のガード処理部63Pは、第2の設定値G2に代えて、第9の設定値G9を使用する。第9の設定値G9は、第5のガード処理部63Pに固有の値である。第9の設定値G9は、固定値であって、たとえば「1」よりも大きい値に設定される。基本制限値T
pthは、第1のトルク指令値T
p1に対する基本的な制限値でもある。
【0128】
第6のガード処理部63Qは、積分制御部63Fにより演算される第2のトルク指令値Tp2と、車速センサ41を通じて検出される車速Vとを取り込む。第6のガード処理部63Qは、車速Vに基づき第2のトルク指令値Tp2に対する制限値を演算する。制限値は、第2のトルク指令値Tp2に対する上限値および下限値を含む。第6のガード処理部63Qは、上限値および下限値に基づき第2のトルク指令値Tp2に対する制限処理を実行する。第6のガード処理部63Qは、制限処理の実行を通じて、第12のトルク指令値Tp12を演算する。
【0129】
図4に括弧付きの符号で示すように、第6のガード処理部63Qは、第2の設定値G2に代えて、第10の設定値G10を使用する。第10の設定値G10は、第6のガード処理部63Qに固有の値である。第10の設定値G10は、固定値であって、たとえば「1」よりも大きい値に設定される。基本制限値T
pthは、第2のトルク指令値T
p2に対する基本的な制限値でもある。
【0130】
演算器63Rは、第5のガード処理部63Pにより演算される第11のトルク指令値Tp11と、第6のガード処理部63Qにより演算される第12のトルク指令値Tp12と、第2のガード処理部63Kにより演算される第7のトルク指令値Tp7と、第3のガード処理部63Lにより演算される第8のトルク指令値Tp8とを取り込む。演算器63Rは、第11のトルク指令値Tp11と、第12のトルク指令値Tp12と、第7のトルク指令値Tp7とを加算するとともに、加算した値から第8のトルク指令値Tp8を減算することにより、第13のトルク指令値Tp13を演算する。
【0131】
第7のガード処理部63Sは、演算器63Rにより演算される第13のトルク指令値Tp13を取り込む。第7のガード処理部63Sは、第13のトルク指令値Tp13に対する制限値を有している。制限値は、第13のトルク指令値Tp13に対する上限値および下限値を含む。第7のガード処理部63Sは、上限値および下限値に基づき第13のトルク指令値Tp13に対する制限処理を実行する。第7のガード処理部63Sは、制限処理の実行を通じて、転舵モータ31の制御に使用される最終的な転舵トルク指令値Tp
*を演算する。
【0132】
なお、第5のガード処理部63P、および第6のガード処理部63Qは、第3の処理部を構成する。演算器63Rは、第4の処理部を構成する。
<第2の実施の形態の効果>
第2の実施の形態は、先の第1の実施の形態の(1-2),(1-3),(1-4)の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0133】
(2-1)車両の走行状態に応じて、第1~第4のトルク指令値Tp1~Tp4の各絶対値に対する制限値が個別に増加される。たとえば、ステアリングホイール5を介した緊急回避操作が行われるおそれがある場合、第1~第4のトルク指令値Tp1~Tp4の各絶対値に対する制限値が、基本制限値Tpthよりも大きい異なる値に増加される。すなわち、第1~第4のトルク指令値Tp1~Tp4の各変化範囲が拡大される。これにより、第1~第3のトルク指令値Tp1~Tp3の各絶対値と、第4のトルク指令値Tp4の絶対値とが、同一の値に制限されることが抑制される。このため、第1~第3のトルク指令値Tp1~Tp3の各絶対値と、第4のトルク指令値Tp4の絶対値との間に差が生じることにより、第1~第3のトルク指令値Tp1~Tp3の各絶対値と、第4のトルク指令値Tp4とが、打ち消し合うことが抑制される。特に、第1のトルク指令値Tp1と、第4のトルク指令値Tp4とが、打ち消し合うことが抑制されるため、ステアリングホイール5を介した緊急回避操作に応じて、転舵輪6を適切に転舵させることができる。
【0134】
<第3の実施の形態>
つぎに、転舵制御装置の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には、先の
図1、
図2および
図4に示される第1の実施の形態と同様の構成を有する。本実施の形態は、ピニオン角フィードバック制御部63における設定部71の構成の点で第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。なお、本実施の形態は、先の
図8に示される第2の実施の形態に適用してもよい。
【0135】
図4に示される設定部71は、マップを使用して第3の設定値G3を演算する。マップは、メモリに記憶されている。
<第1のパターンが採用される場合>
第3~第5のトルク指令値T
p3~T
p5の各々の変化範囲を拡大するための第1のパターンが採用される場合、第1のガード処理部63J、第2のガード処理部63K、および第3のガード処理部63Lの各々が有する設定部71は、第1のマップを使用する。
【0136】
図9のグラフに示すように、第1のマップM1は、横軸を車速V、縦軸を第3の設定値G3とするマップであって、車速Vと第3の設定値G3との関係を規定する。第1のマップM1は、つぎのような特性を有する。すなわち、車速Vの値が「0」から第1の車速しきい値V
th1までの範囲には、第3の設定値G3を「1」とする不感帯が設定されている。車速Vの値が、第1の車速しきい値V
th1を超えるとき、第3の設定値G3は、車速Vの値が増加するにつれて線形的に増加する。
【0137】
このため、車速Vの値が第1の車速しきい値Vth1を超えた以降、第3のトルク指令値Tp3の制限値と、第4のトルク指令値Tp4の制限値と、第5のトルク指令値Tp5の制限値とが、共に基本制限値Tpthよりも大きい同一値に増加される。車速Vの値が増加するにつれて、第3のトルク指令値Tp3の制限値、第4のトルク指令値Tp4の制限値、および第5のトルク指令値Tp5の制限値は増加する。
【0138】
ちなみに、本実施の形態を第2の実施の形態に適用する場合、第5のガード処理部63P、および第6のガード処理部63Qの各設定部71も、
図9に示される第1のマップM1を使用する。
【0139】
<第2のパターンが採用される場合>
第3~第5のトルク指令値Tp3~Tp5の各々の変化範囲を拡大するための第2のパターンが採用される場合、第1のガード処理部63J、第2のガード処理部63K、および第3のガード処理部63Lの各設定部71は、第2のマップを使用する。ただし、各設定部71が使用する第2のマップの特性は、異なる特性を有する。
【0140】
図10のグラフに示すように、第2のマップM2は、横軸を車速V、縦軸を第3の設定値G3とするマップであって、車速Vと第3の設定値G3との関係を規定する。
第1のガード処理部63Jの設定部71が使用する第2のマップM2は、つぎのような特性を有する。すなわち、特性線L1で示されるように、車速Vの値が「0」から第1の車速しきい値V
th1までの範囲には、第3の設定値G3を「1」とする不感帯が設定されている。車速Vの値が、第1の車速しきい値V
th1を超えるとき、第3の設定値G3は、車速Vの値が増加するにつれて線形的に増加する。
【0141】
第2のガード処理部63Kの設定部71が使用する第2のマップM2は、つぎのような特性を有する。すなわち、特性線L2で示されるように、車速Vの値が「0」から第1の車速しきい値Vth1までの範囲には、第3の設定値G3を「1」とする不感帯が設定されている。車速Vの値が、第1の車速しきい値Vth1を超えるとき、第3の設定値G3は、車速Vの値が増加するにつれて線形的に増加する。ただし、車速Vの値が第1の車速しきい値Vth1を超えた後の特性線L2は、車速Vの値が第1の車速しきい値Vth1を超えた後の特性線L1よりも傾きが小さい。傾きは、車速Vに対する第3の設定値G3の変化の割合である。
【0142】
第3のガード処理部63Lの設定部71が使用する第2のマップM2は、つぎのような特性を有する。すなわち、特性線L3で示されるように、車速Vの値が「0」から第1の車速しきい値Vth1までの範囲には、第3の設定値G3を「1」とする不感帯が設定されている。車速Vの値が、第1の車速しきい値Vth1を超えるとき、第3の設定値G3は、車速Vの値が増加するにつれて線形的に増加する。ただし、車速Vの値が第1の車速しきい値Vth1を超えた後の特性線L3は、車速Vの値が第1の車速しきい値Vth1を超えた後の特性線L2よりもさらに傾きが小さい。
【0143】
このため、車速Vの値が第1の車速しきい値Vth1を超えた以降、第3のトルク指令値Tp3の制限値と、第4のトルク指令値Tp4の制限値と、第5のトルク指令値Tp5の制限値とが、共に基本制限値Tpthよりも大きい互いに異なる値に増加される。車速Vの値が増加するにつれて、第3のトルク指令値Tp3の制限値、第4のトルク指令値Tp4の制限値、および第5のトルク指令値Tp5の制限値は増加する。
【0144】
ちなみに、本実施の形態を第2の実施の形態に適用する場合、第5のガード処理部63P、および第6のガード処理部63Qの各設定部71が使用する第2のマップM2は、たとえば
図10に特性線L1で示される特性を有する。
【0145】
<第3の実施の形態の効果>
第3の実施の形態は、第1の実施の形態の(1-1),(1-2),(1-3),(1-4)、および第2の実施の形態の(2-1)の効果に加え、以下の効果を奏する。
【0146】
(3-1)車速Vの値が第1の車速しきい値Vth1を超えるとき、車速Vの値が増加するにつれて、第3のトルク指令値Tp3の制限値、第4のトルク指令値Tp4の制限値、および第5のトルク指令値Tp5の制限値は増加する。このため、車速Vに応じて、第3のトルク指令値Tp3の制限値、第4のトルク指令値Tp4の制限値、および第5のトルク指令値Tp5の制限値を適切に増加させることができる。車速Vが速いほど、ステアリングホイール5を介した緊急回避操作に応じて、転舵輪6を適切に転舵させることが要求される。
【0147】
<他の実施の形態>
なお、各実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第2の実施の形態において、積分制御部63Fにより演算される第2のトルク指令値Tp2に対する第6のガード処理部63Qは、車速Vに応じて第2のトルク指令値Tp2に対する制限値を変更しないように構成してもよい。この場合、第6のガード処理部63Qは、車速Vにかかわらず、たとえば基本制限値Tpthを使用して第2のトルク指令値Tp2を制限する。
【0148】
・第1~第3の実施の形態において、ピニオン角フィードバック制御部63として、第4のガード処理部63Oを割愛した構成を採用してもよい。この場合、第3の減算器63Nにより演算される第10の設定値G10が、転舵モータ31の制御に使用される最終的な転舵トルク指令値Tp
*となる。
【0149】
・第1~第3の実施の形態において、ピニオン角フィードバック制御部63として、微分制御部63Gおよび第2のガード処理部63Kを割愛した構成を採用してもよい。この場合、第1の微分器63B、第2の減算器63D、および第2の加算器63Mを割愛することができる。第3の減算器63Nは、第1のガード処理部63Jにより演算される第6のトルク指令値Tp6を取り込む。
【0150】
・第1~第3の実施の形態において、ガード処理部(63J,63K,63L,63P,63Q)として、徐変処理部74を割愛した構成を採用してもよい。この場合、乗算器75は、第2のスイッチ73により設定される第5の設定値G5を取り込む。
【0151】
・第1~第3の実施の形態において、第1の車速しきい値Vth1、および第2の車速しきい値Vth2は、適宜変更してもよい。第1の車速しきい値Vth1、および第2の車速しきい値Vth2は、中速域の速度であってもよいし、高速域の速度であってもよい。中速域は、たとえば、40km/h以上、かつ60km/h未満の速度域である。高速域は、たとえば、60km/h以上の速度域である。すなわち、第1の車速しきい値Vth1、および第2の車速しきい値Vth2は、たとえば、20km/h以上、かつ100km/h以下の範囲内の速度に設定するようにしてもよい。
【0152】
・第1~第3の実施の形態において、車速Vは、車輪速センサを通じて検出される車輪速に基づき演算される速度であってもよい。また、車速Vは、車輪速以外の信号に基づく速度であってもよい。たとえば、車速Vは、車体速センサを通じて検出される車体速であってもよい。車体速は、路面に対する車体の速度である。車体速を使用する場合、タイヤの滑りの影響を排除することができる。また、
図4に示される第1の判定部71Aが車輪速に基づく速度を取り込む一方、第2の判定部72が車体速を取り込むようにしてもよい。
【0153】
・第1~第3の実施の形態において、車速Vに代えて、あるいは車速Vに加えて、他の車両状態変数B1~B4に基づき、各トルク指令値(Tp3,Tp4,Tp5またはTp1,Tp2,Tp3,Tp4)の制限値を変更するようにしてもよい。各車両状態変数B1~B4には、車両の走行状態が反映される。車両の走行状態は、たとえば、緊急回避操作に伴う車両挙動を含む。緊急回避操作に伴い、各車両状態変数B1~B4の値が増加する。これは、緊急回避操作時においては、ステアリングホイール5の操作量、および操舵速度が急激に増加することによる。第1の判定部71Aおよび第2の判定部72は、たとえば各車両状態変数B1~B4の値が、定められたしきい値を超えるとき、緊急回避操作が行われるおそれがあると判定する。
【0154】
B1.ヨーレート
B2.横加速度
B3.目標ピニオン角θp
*と実際のピニオン角θpとの比の値(θp
*/θp)
B4.目標ピニオン角速度ωp
*と実際のピニオン角速度ωpとの比の値(ωp
*/ωp)
ヨーレートは、たとえば、車載されるヨーレートセンサを通じて検出される。横加速度は、車載される横加速度センサを通じて検出される。
【符号の説明】
【0155】
1B…転舵制御装置
5…ステアリングホイール
6…転舵輪
21…ピニオンシャフト(回転体)
31…転舵モータ
63E…比例制御部(第1の処理部)
63F…積分制御部(第1の処理部)
63G…微分制御部(第1の処理部)
63H…ダンピング制御部(第2の処理部)
63J…第1のガード処理部(第3の処理部)
63K…第2のガード処理部(第3の処理部)
63L…第3のガード処理部(第3の処理部)
63N…第3の減算器(第4の処理部)
63P…第5のガード処理部(第3の処理部)
63Q…第6のガード処理部(第3の処理部)
63R…演算器(第4の処理部)
74…徐変処理部