IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-燃焼トルクの算出装置 図1
  • 特開-燃焼トルクの算出装置 図2
  • 特開-燃焼トルクの算出装置 図3
  • 特開-燃焼トルクの算出装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033836
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】燃焼トルクの算出装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20240306BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20240306BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240306BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20240306BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20240306BHJP
【FI】
F02D45/00 364A
B60K6/547 ZHV
B60W10/06 900
B60K6/48
B60W20/00
F02D45/00 368Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137703
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 優介
(72)【発明者】
【氏名】河野 隆修
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝
【テーマコード(参考)】
3D202
3G384
【Fターム(参考)】
3D202AA08
3D202BB01
3D202CC48
3D202DD16
3D202DD17
3D202DD18
3D202DD20
3D202DD24
3D202DD25
3D202DD26
3D202DD33
3D202DD34
3D202FF06
3D202FF13
3G384AA01
3G384BA02
3G384DA54
3G384FA58Z
3G384FA73Z
(57)【要約】
【課題】クランク軸のトルクを正確に算出する。
【解決手段】内燃機関20のクランク軸21及びモータジェネレータ40のMGロータ42の間に位置するフロントダンパ67と、MGロータ42及び駆動輪70の間に位置する変速機入力軸51と、MGロータ42及び変速機入力軸51の間に位置するロックアップダンパ88と、を有する車両10を対象に、MGロータ42の角度位置及び変速機入力軸51の角度位置の差と、ロックアップダンパ88のばね定数とを乗算することで、ロックアップダンパ88が変速機入力軸51に付与する後段捩じりトルクを算出する処理と、MGロータ42の慣性トルクと後段捩じりトルクとに基づいて、フロントダンパ67がMGロータ42に付与するモータ捩じりトルクを算出する処理と、クランク軸21の慣性トルクとモータ捩じりトルクとを加算してクランク軸21の燃焼トルクを算出する処理と、を実行する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸を有する内燃機関と、
前記内燃機関から駆動輪へと至るトルクの伝達経路上に位置しているとともに回転子を有するモータジェネレータと、
前記クランク軸及び前記回転子の間でトルクを伝達可能な第1捩じり要素と、
前記トルクの伝達経路上において前記回転子及び前記駆動輪の間に位置している後段軸と、
前記回転子及び前記後段軸の間でトルクを伝達可能な第2捩じり要素と、
前記クランク軸の角度位置を検出する第1センサと、
前記回転子の角度位置を検出する第2センサと、
前記後段軸の角度位置を検出する第3センサと、
を有する車両を対象に、
単位時間当たりの角度位置の変化量を回転速度としたとき、
前記クランク軸の回転速度を時間微分した値に基づいて、前記クランク軸の慣性トルクを算出する第1処理と、
前記回転子の回転速度を時間微分した値に基づいて、前記回転子の慣性トルクを算出する第2処理と、
前記回転子の角度位置及び前記後段軸の角度位置の差と、前記第2捩じり要素のばね定数とを乗算することで、前記第2捩じり要素が前記後段軸に付与する後段捩じりトルクを算出する第3処理と、
前記回転子の慣性トルクと前記後段捩じりトルクとに基づいて、前記第1捩じり要素が前記回転子に付与するモータ捩じりトルクを算出する第4処理と、
前記クランク軸の慣性トルクと前記モータ捩じりトルクとを加算して前記クランク軸の燃焼トルクを算出する第5処理と、
を実行する
燃焼トルクの算出装置。
【請求項2】
前記燃焼トルクに基づいて、前記内燃機関における失火の有無を判定する
請求項1に記載の燃焼トルクの算出装置。
【請求項3】
前記車両は、前記回転子及び前記後段軸の間に位置しているトルクコンバータを有し、
前記トルクコンバータは、前記回転子及び前記後段軸を接続した接続状態、又は前記回転子及び前記後段軸を切り離した切断状態に切り替わるロックアップクラッチと、前記ロックアップクラッチの前記接続状態において前記回転子及び前記後段軸の間に介在するロックアップダンパとを備え、
前記第2捩じり要素は、前記ロックアップダンパである
請求項1又は2に記載の燃焼トルクの算出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、燃焼トルクの算出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されている車両は、内燃機関、ダンパ、及びモータジェネレータを有する。ダンパは、内燃機関からモータジェネレータへと至るトルクの伝達経路上に位置している。こうした構成では、内燃機関のトルクが変動すると、ダンパで捩じれ振動が発生する。そしてそれに伴い、捩じれ振動に起因したトルクがモータジェネレータに入力される。このとき、内燃機関には、モータジェネレータにトルクを入力することに伴う反力が入力される。
【0003】
上記車両の制御装置は、内燃機関の回転変動の推移に基づいて、内燃機関の失火判定を行う。その際、制御装置は、内燃機関の回転変動に含まれる上記反力の影響を考慮する。具体的には、制御装置は、内燃機関の回転変動に含まれる反力成分を、ダンパのねじれ角とダンパのばね定数との積に基づいて算出する。そして、制御装置は、この反力成分による影響を排除した上で、失火判定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-248877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように反力成分を算出する上でのダンパのばね定数として、諸元から定まる規定値を設定することがある。車両に搭載されるダンパのばね定数の実値は、ダンパの公差の範囲内でばらつく。また、時間が経過すると、ダンパの特性が徐々に変わり、ばね定数が変化する。こうした理由があることから、特許文献1の手法では、ダンパのばね定数ひいては反力成分にばらつきが生じ、反力成分を正確に算出できないおそれがある。この結果、混合気の燃焼に伴う内燃機関の本来のトルクである燃焼トルクを正確に算出できないおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための燃焼トルクの算出装置は、クランク軸を有する内燃機関と、前記内燃機関から駆動輪へと至るトルクの伝達経路上に位置しているとともに回転子を有するモータジェネレータと、前記クランク軸及び前記回転子の間でトルクを伝達可能な第1捩じり要素と、前記トルクの伝達経路上において前記回転子及び前記駆動輪の間に位置している後段軸と、前記回転子及び前記後段軸の間でトルクを伝達可能な第2捩じり要素と、前記クランク軸の角度位置を検出する第1センサと、前記回転子の角度位置を検出する第2センサと、前記後段軸の角度位置を検出する第3センサと、を有する車両を対象に、単位時間当たりの角度位置の変化量を回転速度としたとき、前記クランク軸の回転速度を時間微分した値に基づいて、前記クランク軸の慣性トルクを算出する第1処理と、前記回転子の回転速度を時間微分した値に基づいて、前記回転子の慣性トルクを算出する第2処理と、前記回転子の角度位置及び前記後段軸の角度位置の差と、前記第2捩じり要素のばね定数とを乗算することで、前記第2捩じり要素が前記後段軸に付与する後段捩じりトルクを算出する第3処理と、前記回転子の慣性トルクと前記後段捩じりトルクとに基づいて、前記第1捩じり要素が前記回転子に付与するモータ捩じりトルクを算出する第4処理と、前記クランク軸の慣性トルクと前記モータ捩じりトルクとを加算して前記クランク軸の燃焼トルクを算出する第5処理と、を実行する。
【0007】
上記車両において、クランク軸には、モータ捩じりトルクと略同じ分の反力が作用する。そのため、クランク軸の慣性トルクは、この反力の分だけ、本来の内燃機関のトルクとは異なる値になっている。したがって、クランク軸の慣性トルクにモータ捩じれトルクを加算して得られる燃焼トルクは、ダンパからの反力がクランク軸に作用していないのと略同じ状態でのクランク軸のトルクといえる。こうしたトルクを得る上で、上記構成では、モータ捩じりトルクを次のように算出している。すなわち、モータ捩じりトルクを、回転子の慣性トルクと後段捩じりトルクという2つの成分に基づいて算出する。この場合、モータ捩じりトルク全体の中に占める後段捩じりトルクの寄与は小さくなる。したがって、第2捩じり要素のばね定数の製品公差や経年変化の違いに起因して後段捩じりトルクに違いがでたとしても、トータルとしてのモータ捩じりトルクの値はさほど変わらない。こうしたモータ捩じりトルクを利用することで、クランク軸の燃焼トルクを正確に算出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、車両の概略構成図である。
図2図2は、算出処理の処理内容を表したブロック図である。
図3図3は、燃焼トルクの推移の一例を表した図である。
図4図4は、モータ捩じりトルクにおける各成分の寄与の一例を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、燃焼トルクの算出装置の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両(以下、単に車両と記す。)10は、内燃機関20を有する。内燃機関20は、車両10の駆動源である。内燃機関20の機関本体20Aには、複数の気筒22が区画されている。気筒22の数は、例えば4つである。各気筒22には、吸気通路23を通じて、スロットルバルブ24の開度に応じた量の吸入空気が導入される。また、各気筒22には、気筒22毎の燃料噴射弁25から燃料が供給される。そして、各気筒22では、気筒22毎の点火プラグ26によって、燃料と吸入空気との混合気に点火が行われる。図示は省略するが、各気筒22は、ピストンを収容している。混合気の燃焼に応じてピストンは気筒22内を往復動する。ピストンの動作に応じて、内燃機関20の出力軸であるクランク軸21は回転する。なお、各気筒22の排気は、排気通路27を介して外部に排出される。
【0010】
クランク軸21は、フロントダンパ67を介して従動軸68に接続している。フロントダンパ67は、第1捩じり要素である。フロントダンパ67は、クランク軸21から従動軸68へ、又はその逆へトルクを伝達可能である。詳細には、フロントダンパ67は、クランク軸21と従動軸68との一方のトルク変動を減衰させて他方へ伝達する。従動軸68は、クランク軸21の回転に従ってクランク軸21と一体回転する。
【0011】
従動軸68は、駆動クラッチ30を介してモータジェネレータ40の出力軸であるモータ回転軸41に接続している。駆動クラッチ30は、図示しない油圧機構からの油圧に応じて断接状態が切り替わる。駆動クラッチ30は、接続状態では、従動軸68とモータ回転軸41とを接続する。駆動クラッチ30は、切断状態では、従動軸68とモータ回転軸41とを切り離す。
【0012】
モータジェネレータ40は、車両10の駆動源である。モータジェネレータ40の上記モータ回転軸41は、モータジェネレータ40の回転子であるロータ(以下、MGロータと記す。)42と一体回転する。MGロータ42は、モータジェネレータ40の固定子であるステータ43に対して回転可能である。モータジェネレータ40は、インバータ47を介してバッテリ48と電気的に接続している。バッテリ48は、モータジェネレータ40との間で電力を授受する。インバータ47は直流交流の変換を行う。
【0013】
モータ回転軸41は、流体継手であるトルクコンバータ80を介して自動変速機55の入力軸(以下、変速機入力軸と記す。)51に接続している。変速機入力軸51は、後段軸である。トルクコンバータ80のポンプインペラ81は、モータ回転軸41と一体回転する。トルクコンバータ80のタービンライナ82は、変速機入力軸51と一体回転する。トルクコンバータ80は、ロックアップクラッチ85付きである。ロックアップクラッチ85は、図示しない油圧機構からの油圧に応じて断接状態が切り替わる。ロックアップクラッチ85は、接続状態では、モータ回転軸41と変速機入力軸51とを接続する。ロックアップクラッチ85は、切断状態では、モータ回転軸41と変速機入力軸51とを切り離す。また、トルクコンバータ80は、ロックアップクラッチ85の接続状態においてモータ回転軸41と変速機入力軸51との間に介在するロックアップダンパ88を備えている。ロックアップダンパ88は、モータ回転軸41から変速機入力軸51へ、又はその逆へトルクを伝達可能である。詳細には、ロックアップダンパ88は、ロックアップクラッチ85の接続状態においてモータ回転軸41と変速機入力軸51との一方のトルク変動を減衰させて他方へ伝達する。ロックアップダンパ88は、第2捩じり要素である。
【0014】
自動変速機55は、ギアの切り替えにより変速比が多段階に切り替わる有段式の変速機である。自動変速機55の出力軸52は、ディファレンシャル60を介して左右のドライブシャフト59に接続している。ドライブシャフト59は、駆動輪70に接続している。
【0015】
以上のとおり、内燃機関20から駆動輪70に至るトルクの伝達経路上にモータジェネレータ40は位置している。そして、クランク軸21とMGロータ42との間にフロントダンパ67が位置している。また、MGロータ42と駆動輪70との間に変速機入力軸51が位置している。そして、この変速機入力軸51とMGロータ42との間にロックアップダンパ88が位置している。
【0016】
車両10には、各種のセンサが取り付けられている。例えば、車両10には、第1センサ91、第2センサ92、及び第3センサ93が取り付けられている。第1センサ91は、クランク軸21の角度位置Ncrを検出する。第2センサ92は、MGロータ42の角度位置Nmgを検出する。第3センサ93は、変速機入力軸51の角度位置Natを検出する。上記の各センサは、同一の基準位置をゼロ度としてゼロ度から360度の範囲で各部品の角度位置を検出する。基準位置は、例えば、各センサが車両10に取り付けられた状態において、検出対象となる部品の中心軸線を中心とした仮想円において12時の位置である。例えば各部品の中心軸線が水平に配置されている場合であれば、上記定義の基準位置は、各部品の中心軸線から視て真上の位置である。
【0017】
車両10には、モータジェネレータ40に流れる電流値Aを検出する電流センサ94が取り付けられている。また、車両10には、当該車両10におけるアクセルペダルの操作量であるアクセル操作量を検出するアクセルセンサ、車両10の走行速度を検出する車速センサなども取り付けられている。以上の各種センサは、自身が検出した情報に応じた信号を後述の制御装置1に繰り返し送信する。
【0018】
車両10は、制御装置1を有する。制御装置1は、中央処理装置であるCPU2や、制御用のプログラムやデータを記憶したメモリ3などを備えている。そして、制御装置1は、メモリ3が記憶しているプログラムをCPU2が実行することにより各種の処理を実行する。なお、制御装置1は、時間計測機能を有する。
【0019】
制御装置1は、上記の各種センサからの検出信号を繰り返し受信する。例えば、制御装置1は、第1センサ91が検出するクランク軸21の角度位置Ncrを繰り返し受信する。制御装置1は、このクランク軸21の角度位置Ncrの推移に基づいてクランク軸21の回転状態を把握できる。クランク軸21の回転状態とは、例えばクランク軸21が回転中であるか否かといったものである。制御装置1は、クランク軸21と同様、第2センサ92や第3センサ93の検出信号に基づいてMGロータ42などの回転状態も把握できる。
【0020】
制御装置1は、車両10の各種部位を制御対象とする。例えば、制御装置1は、内燃機関20を制御対象とする。制御装置1は、内燃機関20を制御するにあたっては、スロットルバルブ24、燃料噴射弁25、及び点火プラグ26などの操作対象機器を操作する。制御装置1は、燃料噴射弁25からの燃料噴射と点火プラグ26による点火とによって各気筒22で順に混合気を燃焼させる。また、制御装置1は、インバータ47の操作を通じてモータジェネレータ40を制御したり、油圧機構の操作を通じて駆動クラッチ30やロックアップクラッチ85の断接状態を切り替えたりもする。
【0021】
制御装置1は、車両10の走行状況に応じて車両10の走行モードをハイブリッドモード又は電動モードに切り替える。制御装置1は、電動モードでは、内燃機関20の駆動を停止する一方でモータジェネレータ40を駆動し、且つ駆動クラッチ30を切断状態にする。一方、制御装置1は、ハイブリッドモードでは、内燃機関20とモータジェネレータ40との双方を駆動し、且つ駆動クラッチ30を接続状態にする。なお、制御装置1は、ハイブリッドモードでは、ロックアップクラッチ85を接続状態にする。制御装置1は、例えば、アクセル操作量が比較的小さい場合には電動モードを選択し、アクセル操作量が比較的大きい場合にはハイブリッドモードを選択する。制御装置1は、ハイブリッドモードと電動モードとを切り替えるアクセル操作量の閾値を予め記憶している。
【0022】
制御装置1は、クランク軸21の燃焼トルクTYの算出装置としても機能する。ここで、車両10の走行モードがハイブリッドモードである場合、クランク軸21のトルクは、フロントダンパ67を介してモータ回転軸41に入力される。このとき、クランク軸21のトルクが変動すると、フロントダンパ67で捻れ振動が発生し、当該捻れ振動に起因したトルクがモータ回転軸41、ひいてはMGロータ42に入力され得る。その際、クランク軸21には、フロントダンパ67からの反力が作用する。燃焼トルクTYは、このフロントダンパ67からの反力を理論上排除したクランク軸21のトルクである。すなわち、燃焼トルクTYは、混合気の燃焼に伴うクランク軸21の本来のトルクである。
【0023】
制御装置1は、燃焼トルクTYを算出するための算出処理を実行可能である。制御装置1は、クランク軸21が回転を継続している間、算出処理を繰り返す。制御装置1が算出処理を行うのは、実質的に、内燃機関20を駆動しているとき、すなわち車両10の走行モードとしてハイブリッドモードを選択しているときである。制御装置1は、例えば、クランク軸21が規定角度回転する度に1度、算出処理を実行する。規定角度は、例えば30度である。制御装置1は、第1センサ91が検出するクランク軸21の角度位置Ncrの推移に基づいて、算出処理の開始タイミングを判断する。
【0024】
図2に示すように、制御装置1は、1度の算出処理では、第1処理M1、第2処理M2、第3処理M3、第4処理M4、及び第5処理M5の5つの処理を行う。制御装置1は、これらの5つの処理を通じて1つの燃焼トルクTYを算出する。
【0025】
制御装置1は、第1処理M1では、クランク軸21の慣性トルクであるクランク慣性トルクTeiを算出する。具体的には、先ず制御装置1は、クランク軸21の回転速度であるクランク回転速度ωeを算出する。クランク回転速度ωeは、クランク軸21における単位時間当たりの角度位置Ncrの変化量である。制御装置1は、第1センサ91が検出するクランク軸21の角度位置Ncrの推移に基づいてクランク回転速度ωeを算出する。例えば、制御装置1は、次のようにしてクランク回転速度ωeを算出する。先ず制御装置1は、算出処理の第1処理M1を前回実行してから、算出処理の第1処理M1を今回実行するまでの時間の長さを回転期間Pとして参照する。回転期間Pは、実質的に、クランク軸21の角度位置Ncrが規定角度変化するのに要する時間の長さに相当する。制御装置1は、この回転期間Pで規定角度を除算した値をクランク回転速度ωeとして算出する。制御装置1は、クランク回転速度ωeを算出すると、当該クランク回転速度ωeを次の(式1)に適用することによってクランク慣性トルクTeiを算出する。すなわち、制御装置1は、クランク回転速度ωeの時間微分と、クランク軸21の慣性モーメントIeとの積を、クランク慣性トルクTeiとして算出する。クランク軸21の慣性モーメントIeは、クランク軸21等の質量に応じた値である。制御装置1は、クランク軸21の慣性モーメントIeを予め記憶している。クランク軸21の慣性モーメントIeは、例えば実験又はシミュレーションで予め算出されている。
(式1)Tei=Ie・(dωe/dt)
以上のとおり、制御装置1は、第1処理M1では、クランク回転速度ωeを時間微分した値に基づいてクランク慣性トルクTeiを算出する。
【0026】
制御装置1は、第2処理M2では、MGロータ42の慣性トルクであるモータ慣性トルクTmgiを算出する。具体的には、先ず制御装置1は、MGロータ42の回転速度であるモータ回転速度ωmgを算出する。モータ回転速度ωmgは、MGロータ42における単位時間当たりの角度位置Nmgの変化量である。制御装置1は、第2センサ92が検出するMGロータ42の角度位置Nmgの推移に基づいてモータ回転速度ωmgを算出する。例えば、制御装置1は、次のようにしてモータ回転速度ωmgを算出する。先ず制御装置1は、第2センサ92が検出するMGロータ42の角度位置Nmgの最新の値を特定値として参照する。制御装置1は、この特定値と、算出処理の第2処理M2を前回実行したときに特定値として参照した値とに基づいて、算出処理の第2処理M2を前回実行してから今回実行するまでの間のMGロータ42の角度位置Nmgの変化量を算出する。そして、制御装置1は、この変化量を上記の回転期間Pで除算した値をモータ回転速度ωmgとして算出する。制御装置1は、モータ回転速度ωmgを算出すると、MGロータ42の慣性トルクであるモータ慣性トルクTmgiを算出する。制御装置1は、モータ回転速度ωmgを次の(式2)に適用することで、モータ慣性トルクTmgiを算出する。すなわち、制御装置1は、モータ回転速度ωmgの時間微分と、MGロータ42の慣性モーメントImgとの積を、モータ慣性トルクTmgiとして算出する。MGロータ42の慣性モーメントImgは、MGロータ42等の質量に応じた値である。制御装置1は、MGロータ42の慣性モーメントImgを予め記憶している。MGロータ42の慣性モーメントImgは、例えば実験又はシミュレーションで予め算出されている。
(式2)Tmgi=Img・(dωmg/dt)
以上のとおり、制御装置1は、第2処理M2では、モータ回転速度ωmgを時間微分した値に基づいてモータ慣性トルクTmgiを算出する。
【0027】
制御装置1は、第3処理M3では、ロックアップダンパ88が変速機入力軸51に付与するトルクである後段捩じりトルクTrを算出する。ここで、動力伝達系においてロックアップダンパ88から視て駆動輪70側では、様々なトルク変動が生じ得る。様々なトルク変動の一例は、路面の摩擦抵抗に起因して駆動輪70に作用するトルク変動である。ロックアップダンパ88は、ロックアップダンパ88から視て駆動輪70側で発生する様々なトルク変動を全て吸収する格好になる。後段捩じりトルクTrは、このようなトルク変動を全て包含した値である。制御装置1は、後段捩じりトルクTrを次のように算出する。すなわち、制御装置1は、予め記憶しているロックアップダンパ88のばね定数K1と、第2センサ92が検出するMGロータ42の角度位置Nmgの最新の値と、第3センサ93が検出する変速機入力軸51の角度位置Natの最新の値と、を参照する。そして、制御装置1は、それらの値を(式3)に適用することで、後段捩じりトルクTrを算出する。すなわち、制御装置1は、変速機入力軸51の角度位置NatからMGロータ42の角度位置Nmgを減算して得られる値を角度差Δθとして算出する。そして、制御装置1は、この角度差Δθをロックアップダンパ88のばね定数K1に乗算した値を後段捩じりトルクTrとして算出する。なお、ロックアップダンパ88のばね定数K1は、例えば実験又はシミュレーションで予め算出されている。
(式3)Tr=K1・(Nat-Nmg)
制御装置1は、第4処理M4では、フロントダンパ67がMGロータ42に付与するトルクであるモータ捩じりトルクTxを算出する。具体的には、制御装置1は、(式4)に示すように、第2処理M2で算出したモータ慣性トルクTmgiと、第3処理M3で算出した後段捩じりトルクTrと、モータ出力トルクTsとを加算することで、モータ捩じりトルクTxを算出する。なお、モータ出力トルクTsは、モータジェネレータ40に流れる電流値Aに応じてモータジェネレータ40が出力するトルクである。制御装置1は、電流センサ94が検出する電流値Aの最新の値に基づいてモータ出力トルクTsを算出する。このように、制御装置1は、第4処理M4では、モータ慣性トルクTmgiと後段捩じりトルクTrとに基づいて、モータ捩じりトルクTxを算出する。
(式4)Tx=Tmgi+Tr+Ts
制御装置1は、第5処理M5では、燃焼トルクTYを算出する。具体的には、制御装置1は、(式5)で示すように、第1処理M1で算出したクランク慣性トルクTeiと、第4処理M4で算出したモータ捩じりトルクTxとを加算して得られる値を、燃焼トルクTYとして算出する。
(式5)TY=Tei+Tx
上記のとおり、クランク慣性トルクTeiは、クランク軸21がフロントダンパ67から受ける反力を含んでいる。この反力は、上記のとおり、フロントダンパ67の捩じれ振動に起因してフロントダンパ67がモータジェネレータ40に対して付与する際に、フロントダンパ67からクランク軸21に作用する力である。この反力は、モータ捩じりトルクTxと絶対値が同じで正負の符号が逆のものになる。そのため、クランク慣性トルクTeiにモータ捩じりトルクTxを加算すると、理論上は、フロントダンパ67からクランク軸21に作用する力を排除したクランク軸21のトルクを得ることができる。
【0028】
制御装置1は、失火判定処理を実行可能である。制御装置1は、クランク軸21が回転を継続している間、失火判定処理を継続して行う。制御装置1は、失火判定処理では、算出処理で算出した燃焼トルクTYを経時的に監視する。図3の第1期間H1に示すように、混合気の燃焼が安定して繰り返されている場合、燃焼トルクTYは、各気筒22での混合気の燃焼に応じた増減を繰り返す。すなわち、燃焼トルクTYは、1つの気筒22での混合気の燃焼に伴って一旦増加し、その後に混合気の燃焼が終了すると減少する。燃焼トルクTYは、そうした増減のサイクルを繰り返す。一方、ある気筒22で失火が生じた場合、図3の第2期間H2に示すように、燃焼トルクTYは急激な落ち込みを示す。制御装置1は、失火に伴う燃焼トルクTYの落ち込みが生じたとみなせる燃焼トルクTYの最大値を失火判定値TY1として予め記憶している。失火判定値TY1は、例えば実験又はシミュレーションで予め定められている。制御装置1は、失火判定処理では、この失火判定値TY1を基準に、内燃機関20における失火の有無を判定する。すなわち、制御装置1は、燃焼トルクTYが失火判定値TY1以下になった場合には失火が生じたと判定し、そうでない場合には失火は生じていないと判定する。このように、制御装置1は、失火判定処理では、算出処理で算出した燃焼トルクTYに基づいて内燃機関20における失火の有無を判定する。
【0029】
本実施形態の作用及び効果について説明する。本実施形態では、混合気の燃焼に伴うクランク軸21の本来のトルクである燃焼トルクTYを算出する上で、上記(式5)のように、クランク軸21に作用するモータ捩じりトルクTxを考慮する。そして、本実施形態では、このモータ捩じりトルクTxを算出する上で、上記(式4)のように、モータ慣性トルクTmgi、後段捩じりトルクTr、及びモータ出力トルクTsの3つの成分を利用する。さて、モータ捩じりトルクTxを本実施形態のように3つの成分から算出する場合の比較例として、図4に示すように、モータ捩じりトルクTxAを1つの特定成分Taのみを用いて算出する態様を考える。特定成分Taは、フロントダンパ67のばね定数K2と特定角度差との積である。なお、ばね定数K2は、諸元から定まる固定値として予め定められる値である。特定角度差は、MGロータ42の角度位置Nmgとクランク軸21の角度位置Ncrとの差である。この比較例のようにしてモータ捩じりトルクTxAを1つの特定成分Taのみで算出する場合、モータ捩じりトルクTxAの算出精度は、特定成分Taの算出精度のみで決まる。このことから、モータ捩じりトルクTxAの算出精度を担保する上では、特定成分Taに高い精度が求められる。このことは、特定成分Taの一要素であるばね定数K2にも高い精度が求められることを意味する。上記のとおり、ばね定数K2は、予め定められた固定値である。しかし、このばね定数K2の実際の値は、製品公差や経年変化の違いによって変化し得る。したがって、ばね定数K2に係る実値と固定値とのずれに起因して、比較例で算出されるモータ捩じりトルクTxAは、本来算出すべきモータ捩じりトルクTxAから大きく外れた値になり得る。
【0030】
これに対して、本実施形態のように、モータ捩じりトルクTxを3つの成分から算出する場合、図4の例に示すように、モータ捩じりトルクTx全体の中に占める3つの成分のそれぞれの寄与は小さくなる。なお、図4に示す3つの成分の寄与の割合は一例であり、必ずしも実際のものとは一致しない。ここで、上記3つの成分のうちの1つである後段捩じりトルクTrは、上記(式3)のように、ロックアップダンパ88のばね定数K1を含む。このばね定数K1は、上記比較例のばね定数K2と同様、製品公差や経年変化の違いによって変化し得る。しかし、本実施形態では、モータ捩じりトルクTxを3つの成分に分散することから、モータ捩じりトルクTxを算出する上でのばね定数K1の寄与は小さくなる。したがって、ロックアップダンパ88のばね定数K1に製品公差や経年劣化をあったとしても、高い精度で燃焼トルクTYを算出できる。そして、この正確な燃焼トルクTYを用いて失火判定処理を行うことで、内燃機関20における失火の有無も正確に把握できる。なお、本実施形態の態様でモータ捩じりトルクTxを算出する場合、比較例の態様でモータ捩じりトルクTxを算出する場合に対して追加で必要な機器は、第3センサ93のみである。したがって、本実施形態の態様では、部品点数を最小限に抑えることもできる。
【0031】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0032】
・失火判定の態様は、上記実施形態の例に限定されない。適切に失火判定を行うことができるのであれば失火判定の態様は問わない。失火判定は、燃焼トルクTYに基づいて行うものであればよい。
【0033】
・燃焼トルクTYを利用する用途は、失火判定に限定されない。クランク軸21の本来のトルクを利用する必要のある診断などであれば、燃焼トルクTYを利用することは有効である。
【0034】
・車両10の全体構成は、上記実施形態の例に限定されない。車両10がトルクコンバータ80ひいてはロックアップダンパ88を有していることは必須ではない。車両10がロックアップダンパ88を有していない場合、他の部品を第2捩じり要素として採用してよい。車両10がロックアップダンパ88を有していない場合、例えばシャフトのような軸状の部品を第2捩じり要素として取り扱ってもよい。軸状の部品であってもねじれによって少なからずダンパと同様に機能し得る。第2捩じり要素は、モータジェネレータ40と後段軸との間に位置している部品であればよい。また、後段軸の構成部品が変速機入力軸51以外で構成されることもあり得る。後段軸を変速機入力軸51から変更する場合、第3センサ93によって角度位置を検出する対象部品を変更すればよい。
【0035】
・上記変更例のように、第2捩じり要素をロックアップダンパ88から変更する場合、後段捩じりトルクTrを算出する上で利用するばね定数を、第2捩じり要素として採用する部品のばね定数に変更すればよい。また、後段軸を変速機入力軸51から変更する場合、後段捩じりトルクTrを算出するにあたって、後段軸として採用する部品の角度位置と、MGロータ42の角度位置Nmgとの差を、第2捩じり要素のばね定数に乗算すればよい。このように、算出処理の内容は、車両10の構成などに合わせて変更可能である。
【符号の説明】
【0036】
10…車両、20…内燃機関、21…クランク軸、40…モータジェネレータ、42…MGロータ、67…フロントダンパ、51…変速機入力軸、70…駆動輪、80…トルクコンバータ、85…ロックアップクラッチ、88…ロックアップダンパ、91…第1センサ、92…第2センサ、93…第3センサ。
図1
図2
図3
図4