(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033843
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】薄型樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
B29C45/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137718
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100136722
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼木 邦夫
(72)【発明者】
【氏名】前川 政貴
(72)【発明者】
【氏名】原田 拓治
(72)【発明者】
【氏名】三宅 翔平
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AA01
4F206AA11
4F206AR02
4F206AR06
4F206AR08
4F206JA07
4F206JL02
4F206JM04
4F206JM05
4F206JN11
4F206JN21
4F206JP14
(57)【要約】
【課題】穴あきが生じにくい薄型樹脂成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】薄型樹脂成形品の製造方法は、長辺方向の長さが65mm以上120mm以下で短辺方向の長さが30mm以上70mm以下の略矩形形状であり且つ厚みが0.20mm以上0.65mm以下である平面部と、平面部の周縁から延在する側壁部とを有する薄型樹脂成形品の製造方法である。この製造方法は、薄型樹脂成形品に対応する金型を準備する工程と、少なくともポリプロピレンを含む樹脂材料を溶融して溶融した樹脂材料を射出機により140~400mm/秒の射出速度で金型内に射出し、金型内に画定される成形領域に樹脂材料を充填する工程と、金型の成形領域に充填された樹脂材料を所定圧力で保圧しながら冷却する工程と、冷却された樹脂材料の固形物を薄型樹脂成形品として金型から取り出す工程と、を備えている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長辺方向の長さが65mm以上120mm以下で短辺方向の長さが30mm以上70mm以下の略矩形形状であり且つ厚みが0.20mm以上0.65mm以下である平面部と、前記平面部の周縁から延在する側壁部とを有する薄型樹脂成形品の製造方法であって、
前記薄型樹脂成形品に対応する金型を準備する工程と、
少なくともポリプロピレンを含む樹脂材料を溶融して前記溶融した樹脂材料を射出機により140~400mm/秒の射出速度で前記金型内に射出し、前記金型内に画定される成形領域に前記樹脂材料を充填する工程と、
前記金型の前記成形領域に充填された前記樹脂材料を所定圧力で保圧しながら冷却する工程と、
前記冷却された前記樹脂材料の固形物を前記薄型樹脂成形品として前記金型から取り出す工程と、
を備える、薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
前記充填する工程では、前記溶融した樹脂材料を前記射出機により200~350mm/秒の射出速度で前記金型内に射出する、
請求項1に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記冷却する工程では、前記充填された樹脂材料を65~100MPaの圧力で保圧しながら冷却する、
請求項2に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記冷却する工程では、前記充填された樹脂材料を65~80MPaの圧力で保圧しながら冷却する、
請求項3に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
前記充填する工程では、前記溶融した樹脂材料を前記射出機により140~270mm/秒の射出速度で前記金型内に射出する、
請求項1に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
前記冷却する工程では、前記充填された樹脂材料を15~45MPaの圧力で保圧しながら冷却する、
請求項5に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記充填する工程では、前記樹脂材料が170~230℃の温度となるように溶融して射出する、
請求項1に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂材料に含まれる前記ポリプロピレンのメルトフローレートは、17~33g/10分である、
請求項1に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項9】
前記樹脂材料は、60~80質量部の前記ポリプロピレンと20~40質量部のバイオマス由来ポリエチレンとを含む、
請求項1に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項10】
前記バイオマス由来ポリエチレンのメルトフローレートが5~25g/10分である、
請求項9に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【請求項11】
前記充填する工程では、前記溶融した樹脂材料を前記射出機により140~270mm/秒の射出速度で前記金型内に射出し、
前記冷却する工程では、前記充填された樹脂材料を15~70MPaの圧力で保圧しながら冷却する、
請求項9に記載の薄型樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型樹脂成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1及び2には、略矩形形状の底部材と蓋部材とが互いに嵌合してなるカード型の樹脂ケースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09-315468号公報
【特許文献2】特開平10-329877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1及び2に記載の底部材や蓋部材のそれぞれを為す薄型樹脂成形品は、例えばポリプロピレン(PP)やポリエチレン(PE)等の樹脂材料から成形されている。環境への配慮から、このような成形に使用される樹脂量の更なる低減が望まれており、各樹脂成形品の厚み(例えば略矩形形状の平面部の厚み)が更に薄くされてきている。ところで、このような薄型樹脂成形品を射出成形によって形成しようとすると、平面部の厚みが更に薄くなってきていることから、従来と同様の成形方法や成形条件をそのまま適用すると流動末端まで樹脂が届かないことがあり、成形品に穴あき(いわゆるショートショット)が生じてしまうことがある。
【0005】
本発明は、薄型樹脂成形品であっても穴あきが生じにくい製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明は、一側面として、薄型樹脂成形品の製造方法に関する。この薄型樹脂成形品の製造方法は、長辺方向の長さが65mm以上120mm以下で短辺方向の長さが30mm以上70mm以下の略矩形形状であり且つ厚みが0.20mm以上0.65mm以下である平面部と、平面部の周縁から延在する側壁部とを有する薄型樹脂成形品の製造方法である。この製造方法は、薄型樹脂成形品に対応する金型を準備する工程と、少なくともポリプロピレンを含む樹脂材料を溶融して溶融した樹脂材料を射出機により140~400mm/秒の射出速度で金型内に射出し、金型内に画定される成形領域に樹脂材料を充填する工程と、金型の成形領域に充填された樹脂材料を所定圧力で保圧しながら冷却する工程と、冷却された樹脂材料の固形物を薄型樹脂成形品として金型から取り出す工程と、を備えている。
【0007】
この薄型樹脂成形品の製造方法では、従来に比べて早い射出速度である140~400mm/秒で溶融した樹脂材料を射出機によって射出して成形を行うようにしている。この場合、扁平形状であって厚みが0.20~0.65mmと薄い樹脂成形品であっても、射出速度が速いため流動末端まで樹脂材料が確実に届き、穴あきを生じにくくすることができる。
【0008】
[2]上記[1]の薄型樹脂成形品の製造方法において、充填する工程では、溶融した樹脂材料を射出機により200~350mm/秒の射出速度で金型内に射出することが好ましい。この場合、薄型樹脂成形品の側壁部が複雑な形状(例えばヒンジ形状)を有していても、射出速度が速いため、穴あき等を生じさせることなく、薄型樹脂成形品を作製することができる。また、成形される薄型樹脂成形品にウエルドや平面ヒケ等の外観不良が生じることを抑制することもできる。なお、ここでいう「ウエルドが生じる」とは、射出成形の際に流動末端まで樹脂材料が届いて穴あき/ショートショットは生じないものの、樹脂の合流点にウエルドラインが生じて外観不良を発生させるものである。また、「平面ヒケが生じる」とは、射出成形された成形品の表面に凹みとして発現するものであり、光を屈折する形状であることから、外観不良を発生させるものである。
【0009】
[3]上記[2]の薄型樹脂成形品の製造方法において、冷却する工程では、充填された樹脂材料を65~100MPaの圧力で保圧しながら冷却することが好ましい。この場合、成形される薄型樹脂成形品に平面ヒケやバリ等が生じることを更に抑制することができる。なお、ここでいう「バリが生じる」とは、樹脂材料が過剰に充填されることにより、成形品の端部から樹脂がはみ出した形状を有するものである。また、この方法によれば、使用する樹脂材料の量を更に低減することができる。
【0010】
[4]上記[3]の薄型樹脂成形品の製造方法において、冷却する工程では、充填された樹脂材料を65~80MPaの圧力で保圧しながら冷却することが更に好ましい。この場合、それほど高く保圧することなく、成形される薄型樹脂成形品に平面ヒケやバリ等が生じることを抑制することができる。
【0011】
[5]上記[1]の薄型樹脂成形品の製造方法において、充填する工程では、溶融した樹脂材料を射出機により140~270mm/秒の射出速度で金型内に射出することが好ましい。この場合、穴あき等を生じさせることなく、薄型樹脂成形品を作製することができる。また、成形される薄型樹脂成形品に反り等が生じることを抑制することができる。なお、薄型樹脂成形品の形状がそれほど複雑でない場合、上述した射出速度の範囲であっても、穴あき等を生じさせることなく薄型樹脂成形品を作製することが可能である。
【0012】
[6]上記[5]の薄型樹脂成形品の製造方法において、冷却する工程では、充填された樹脂材料を15~45MPaの圧力で保圧しながら冷却することが好ましい。この場合、それほど高く保圧することなく、成形される薄型樹脂成形品の反りを抑制することができる。
【0013】
[7]上記[1]~[6]の薄型樹脂成形品の製造方法において、充填する工程では、樹脂材料が170~230℃の温度となるように溶融して射出することが好ましい。この場合、溶融された樹脂材料を流動末端までより確実に充填させることができ、樹脂成形品における穴あきをより確実に防止することができる。
【0014】
[8]上記[1]~[7]の薄型樹脂成形品の製造方法において、樹脂材料に含まれるポリプロピレンのメルトフローレートは、17~33g/10分であることが好ましい。樹脂材料に含まれるポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)が17g/10分以上であることにより、樹脂材料の流動性を高めて流動末端までより確実に充填させることができ、穴あきをより確実に防止することが可能となる。また、樹脂材料に含まれるポリプロピレンのメルトフローレートが33g/10分以下であることにより、成形品において樹脂材料が充填されやすい部分における過剰充填によるバリの発生を抑制することができ、また、樹脂が充填されにくい部分における穴あきを抑制することもできる。
【0015】
[9]上記[1]~[8]の薄型樹脂成形品の製造方法において、樹脂材料は、60~80質量%のポリプロピレンと20~40質量%のバイオマス由来ポリエチレンとを含んでもよい。この場合、バイオマス由来の材料を用いることで、環境にやさしい樹脂成形品とすることができる。
【0016】
[10]上記[9]の薄型樹脂成形品の製造方法において、バイオマス由来ポリエチレンのメルトフローレートが5~25g/10分であることが好ましい。樹脂材料に含まれるポリエチレンのメルトフローレートが5g/10分以上であることにより、樹脂材料に含まれるバイオマス由来の材料の比率を増やしつつ樹脂材料の流動性を十分に維持して射出成形をより確実に実施することができる。また、樹脂材料に含まれるポリエチレンのメルトフローレートが25g/10分以下であることにより、射出成形される薄型樹脂成形品の機械的強度を十分なものとすることが可能となる。
【0017】
[11]上記[9]又は[10]の薄型樹脂成形品の製造方法において、充填する工程では、溶融した樹脂材料を射出機により140~270mm/秒の射出速度で金型内に射出し、冷却する工程では、充填された樹脂材料を15~70MPaの圧力で保圧しながら冷却することが好ましい。この場合、穴あき等を生じさせることなく、バイオマス由来ポリエチレンを含む薄型樹脂成形品を作製することができる。また、成形される薄型樹脂成形品に反り等が生じることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、穴あきが生じにくい薄型樹脂成形品の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、ヒンジキャップ付きケースの一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示すヒンジキャップ付きケースが備える本体部材の斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示すヒンジキャップ付きケースが備える蓋部材の斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2及び
図3に示す薄型樹脂成形品を成形するための金型装置の一例(コールドランナー)を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、
図2及び
図3に示す薄型樹脂成形品を成形するための金型装置の別の例(ホットランナー)を示す斜視図である。
【
図6】
図6は、本体部材を成形した際の射出速度と保圧力との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、蓋部材を成形した際の射出速度と保圧力との関係を示す図である。
【
図8】
図8は、ポリプロピレンとバイオマス由来ポリエチレンとの混合材料を用いて射出成形した本体部材の一例を示す写真である。
【
図9】
図9は、ポリプロピレンとバイオマス由来ポリエチレンとの混合材料を用いて射出成形した蓋部材の一例を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る薄型樹脂成形品の製造方法について図面を参照しながら具体的に説明する。便宜上、実質的に同一の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。
【0021】
まず、
図1~
図3を参照して、本実施形態に係る製造方法によって製造される薄型樹脂成形品の一例を説明する。
図1は、ヒンジキャップ付きケースの一例を示している。ヒンジキャップ付きケース1は、
図1に示すように、本体部材2と、本体部材2を覆う蓋部材3と、ヒンジキャップ4とを備えている。ヒンジキャップ付きケース1は、本体部材2と蓋部材3とが互いに嵌合することで形成された略矩形形状のケースである。ヒンジキャップ付きケース1は、側面の一部に開口部5を有しており、開口部5から収納物を取り出すことができる。開口部5は、本体部材2の第1側壁21及び蓋部材3の第2側壁31にまたがって形成されている(
図2及び
図3を参照)。本体部材2には、薄肉で折り曲げ可能なヒンジ(不図示)を介してヒンジキャップ4が一体成形されており、ヒンジキャップ4により開口部5を開閉することができる。
【0022】
ヒンジキャップ付きケース1の大きさとしては、矩形の長辺方向の長さが120mm以下、かつ、短辺方向の長さが70mm以下である。長辺方向の長さは110mm以下であってもよく、100mm以下であってもよい。短辺方向の長さは60mm以下であってもよく、50mm以下であってもよい。下限としては、長辺方向の長さは65mm以上であってもよく、70mm以上であってもよく、80mm以上であってもよい。短辺方向の長さは30mm以上であってもよく、40mm以上であってもよく、50mm上であってもよい。
【0023】
図2は、ヒンジキャップ付きケース1が備える本体部材2の斜視図である。本体部材2は、
図2に示されるように、略矩形形状の底板20(平面部)と、底板20の周縁から上方に延在する第1側壁21と、底板20の内面に形成された複数のボス22(ボス22a~22g)と、を有する薄型樹脂成形品である。本体部材2は、蓋部材3と嵌合されることで、ヒンジキャップ付きケース1の下部を形成すると共に、ヒンジキャップ付きケース1の内部の収納物を保持する。
【0024】
本体部材2の底板20は、4つの角部を有すると共に、上述したように長辺方向が65mm以上120mm以下で且つ短辺方向が30mm以上70mm以下の略矩形形状を呈している。ここで略矩形形状とは、4つの角部のそれぞれの形状が、直角形状、又は、角R形状であることを含むものとする。本実施形態では、底板20の4つの角部は角R形状を呈している。底板20の厚みは、例えば0.20mm以上0.65mm以下であり、一例として0.60mmである。また、底板20の内面には、薄肉凹部20a~20cが形成されている。薄肉凹部20a~20cは、薄肉凹部20a~20cが形成されていない底板20の部分よりも厚みが薄くなるように構成されている。薄肉凹部20a~20cの厚みは、例えば0.50mm以下であり、一例として0.45mmである。
【0025】
第1側壁21は、本体部材2の側部を形成している板部材であり、底板20の周縁に沿って、蓋部材3に向かって(上方に)延びるように形成されている。第1側壁21の一部は、本体部材2の内側へ凹んだ凹部21aとなっており、凹部21aの底の一部には開口部21bが形成されている。第1側壁21の上方の端部には、上方に向かって段が上がるような段上げ部21cが設けられている。段上げ部21cは、蓋部材3の第2側壁31の段下げ部31cと当接して本体部材2と蓋部材3とを密閉する役割を果たす。ボス22a~22gは、底板20の内面から上方に向かって突出する円筒形状の嵌合構造である。ボス22a~22gは、後述するピン32a~32gを挿入することで、ピン32a~32gと嵌合する。
【0026】
図3は、ヒンジキャップ付きケース1が備える蓋部材3の斜視図である。蓋部材3は、
図3に示されるように、天板30(平面部)と、天板30の周縁から上方に延在する第2側壁31と、天板30の内面に形成された複数のピン32(ピン32a~32g)と、を有する薄型樹脂成形品である。蓋部材3は、本体部材2と嵌合されることで、ヒンジキャップ付きケース1の上部を形成すると共に、ヒンジキャップ付きケース1の内部の収納物を保持する。
【0027】
天板30は、4つの角部を有すると共に、上述したように長辺方向が65mm以上120mm以下で且つ短辺方向が30mm以上70mm以下の略矩形形状を呈している。ここで略矩形形状とは、底板20と同様に、4つの角部のそれぞれの形状が、直角形状、又は、角R形状であることを含むものとする。本実施形態では、天板30の4つの角部は角R形状を呈している。天板30の厚みは、例えば0.20mm以上0.65mm以下であり、一例として0.50mmである。天板30の内面には、薄肉凹部30a~30cが形成されている。薄肉凹部30a~30cは、薄肉凹部30a~30cが形成されていない天板30の部分よりも厚みが薄くなるように構成されている。薄肉凹部30a~30cの厚みは、例えば0.40mm以下であり、一例として0.30mmである。
【0028】
第2側壁31は、蓋部材3の側部を形成している板部材であり、天板30の周縁に沿って、本体部材2に向かって延びるように形成されている。第2側壁31の一部は、蓋部材3の内側に凹んだ凹部31aとなっており、凹部31aの底の一部には開口部31bが形成されている。開口部31bと本体部材2の第1側壁21の開口部21bとが合わさって、開口部5を形成する。第2側壁31の上方の端部には、下方に向かって段が下がるような段下げ部31cが設けられている。段下げ部31cは、本体部材2の第1側壁21の段上げ部21cと当接して本体部材2と蓋部材3とを密閉する役割を果たす。第2側壁31の凹部31aに面した断面には、一対の突起31dが形成されている。この一対の突起31dは、ヒンジキャップ4の一対の突起4aと係合する。ピン32a~32gは、天板30の内面から上方に突出する円筒形状の嵌合構造である。ピン32a~32gは、ボス22のボス穴に挿入されることで、ボス22a~22gと嵌合する。
【0029】
ヒンジキャップ4は、
図1及び
図2に示されるように、本体部材2の第1側壁21に設けられた、中空構造を有する略半円柱形状の部材である。ヒンジキャップ4の側面には、一対の突起4a(一方は不図示)が設けられている。一対の突起4aは、第2側壁31に設けられた一対の突起31dと係合する。一対の突起4aが一対の突起31dと係合することで、ヒンジキャップ4が開口部5を閉じた状態を維持することができる。一方、一対の突起4aと一対の突起31dとの係合状態を解除することで、開口部5を開くことができる。本実施形態に係る成形方法では、ヒンジキャップ4は、本体部材2と共に射出成形により作製される。
【0030】
次に、上述した本体部材2(ヒンジキャップ4含む)や蓋部材3といった薄型樹脂成形品を製造する方法について説明する。本実施形態に係る製造方法は、長辺方向の長さが65mm以上120mm以下で短辺方向の長さが30mm以上70mm以下の略矩形形状であり且つ厚みが0.20mm以上0.65mm以下である平面部と、平面部の周縁から延在する側壁部とを有する薄型樹脂成形品の製造方法である。この製造方法は、以下の工程を含む。
(A)本体部材2又は蓋部材3等の薄型樹脂成形品に対応する金型と、金型内に溶融した樹脂材料を射出するための射出機とを準備する工程。
(B)少なくともポリプロピレンを含む樹脂材料を準備する工程。
(C)準備した樹脂材料を溶融して、溶融樹脂組成物を射出機により140~400mm/秒の射出速度で金型内に射出し、金型内に画定される成形領域に溶融樹脂組成物を充填する工程。
(D)金型の成形領域に充填された溶融樹脂組成物を所定圧力で保圧しながら冷却する工程。
(E)冷却された溶融樹脂組成物の固形物を薄型樹脂成形品として金型から取り出す工程。
工程(C)から工程(E)の一連の工程は、例えば、通常用いられる射出成形機を使用して実施することができ、MuCell射出成形機(「MuCell」はTrexel.Co.Ltdの登録商標)を使用して実施してもよい。
【0031】
[工程(A)]
はじめに、本体部材2や蓋部材3等の薄型樹脂成形品の形状に対応する金型と、金型の溶融樹脂組成物を射出するための射出機とを用意する。具体的には、ヒンジキャップ4が一体成形された本体部材2と、蓋部材3とのそれぞれの形状に対応する金型を用意する。金型は、本体部材2又は蓋部材3の形状に基づいて、金型の材料である鋼材を加工処理することにより用意する。なお、金型を含む成形装置としては、
図4に示すコールドランナータイプの成形装置40Aを用いてもよいし、
図5に示すホットランナータイプの成形装置40Bを用いてもよい。コールドランナータイプの成形装置40Aでは、工程(D)において溶融した樹脂材料を金型内の成形領域42Aに流すための道部分(スプルーランナー43A)も金型内で冷却され、スプルーランナー43Aは、工程(E)において成形品41Aと共に取り出される。一方、ホットランナータイプの成形装置40Bでは、工程(D)において樹脂材料を金型内の成形領域42Bに流すための道(スプルーランナー43B)を溶融した状態に保つことから、工程(E)において成形品41Bのみを取り出すことになる。
【0032】
[工程(B)]
続いて、少なくともポリプロピレン樹脂を含む樹脂材料から溶融樹脂組成物(溶融した樹脂材料)を調製する。溶融樹脂組成物としては、ポリプロピレン樹脂を主材として着色剤をブレンドして調整したものを用いてもよい。例えば、100質量部のポリプロピレン樹脂に対して5質量部の着色剤(白色)をブレンドした溶融樹脂組成物を用いてもよい。樹脂材料として用いるポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、例えば17~33g/10分であってもよく、一例として25g/10分であり、また別の例として30g/10分であってもよい。
【0033】
また、使用される樹脂材料は、ポリプロピレン樹脂に加えて、ポリエチレン樹脂、好適にはバイオマス由来ポリエチレン樹脂を更に含んでもよい。使用されるポリエチレン樹脂は、例えば高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)であることが好ましい。この場合、溶融樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂とバイオマス由来ポリエチレン樹脂とを含んで構成され、例えば60~80質量部のポリプロピレン樹脂と20~40質量部のバイオマス由来ポリエチレン樹脂とを含んでもよい。樹脂材料として用いるバイオマス由来ポリエチレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、例えば5~25g/10分であってもよく、一例として20g/10分であってもよい。
【0034】
溶融樹脂組成物の温度(スクリューシリンダ温度)は、樹脂材料の融点又はMFRに応じて設定することができる。ポリプロピレン樹脂を使用する場合、この温度は170~230℃であることが好ましく、210~230℃であることがより好ましい。ポリエチレン樹脂を使用する場合、この温度は220~240℃であることが好ましい。この温度が下限値以上であることで、キャビティ内において樹脂が流動しやすく、他方、上限値以下であることで、樹脂の焦げ付きを抑制できる傾向にある。
【0035】
溶融樹脂組成物は、上述した樹脂材料以外の成分を含んでもよい。すなわち、溶融樹脂組成物は、必要に応じて、例えば、フィラー、着色剤、スリップ剤、帯電防止剤などを更に含んでもよい。この場合、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂の合計量(100質量部)に対して、1~8質量部の上述した各種添加剤を添加してもよい。
【0036】
[工程(C)]
工程(B)で調製した溶融樹脂組成物を、射出機(不図示)により、工程(A)で用意した金型のゲートを通じてコアとキャビティとによって画定される射出領域内に射出する。この溶融樹脂組成物を射出機によって金型内に射出する射出速度は、例えば140~400mm/秒以下の高速となっている。ヒンジキャップ4を含む本体部材2のような複雑な形状を有する薄型樹脂成形品を成形する場合、この射出速度は、例えば200~350mm/秒のように更に高速であることが好ましい。このような高速な射出速度で溶融樹脂組成物を成形することにより、薄型樹脂成形品の側壁部が複雑な形状(例えばヒンジ形状)を有していても、穴あき等を生じさせることなく、薄型樹脂成形品を作製することができる。また、成形される薄型樹脂成形品にウエルドや平面ヒケ等の外観不良が生じることを抑制することもできる。
【0037】
また、蓋部材3のような相対的に簡易な形状を有する薄型樹脂成形品を成形する場合、溶融樹脂組成物を金型に射出する射出速度は、例えば140~270mm/秒の高速であることが好ましい。この場合、上述した射出速度は200~350mm/秒に比べると遅くなる場合もあるが、このような射出速度での射出により、穴あき等を生じさせることなく、薄型樹脂成形品を作製することができる。また、成形される薄型樹脂成形品に反り等が生じることを抑制することができる。なお、薄型樹脂成形品の形状がそれほど複雑でない場合、上述した射出速度の範囲であっても、穴あき等を生じさせることなく薄型樹脂成形品を作製することが可能である。
【0038】
[工程(D)]
上記工程(C)後、金型の成形領域に充填された溶融樹脂組成物(樹脂材料)を所定圧力で保圧しながら冷却する。この際、金型内に充填された樹脂組成物を例えば15~100MPaの圧力条件で保圧しながら冷却する。この保圧力が15MPa以上であることで、ショートショットの発生を抑制することができ、他方、保圧力が100MPa以下であることで、後膨れの発生を抑制することができる傾向にある。冷却する際の保圧力は、例えば、ヒンジキャップ4を含む本体部材2のような複雑な形状を有する薄型樹脂成形品の場合、例えば65~100MPaの高圧であることが好ましく、65~80MPaであってもよい。一方、蓋部材3のような簡易な形状を有する薄型樹脂成形品の場合、例えば15~45MPaの圧力であることが好ましい。なお、ポリプロピレンよりも柔らかい材料であるポリエチレン樹脂を含む樹脂材料から蓋部材3のような簡易な形状を有する薄型樹脂成形品を作製する場合、保圧力は15~70MPaであることが好ましい。なお、工程(D)における保圧時間は、例えば0.1~5秒とすることができる。また、保圧の際には、樹脂材料が冷却に伴って減容するのを補うため、溶融樹脂組成物を追加で射出するようにしてもよい。
【0039】
[工程(E)]
上記工程(D)後、所定の冷却が完了して、金型内の樹脂材料の固形物(本体部材2又は蓋部材3)の温度が30~60℃程度に下がった時点で、薄型樹脂成形品を金型から取り出して、回収する。以上により、
図2又は
図3に示すような薄型樹脂成形品を、穴あきさせることなく、得ることができる。
【0040】
以上、本実施形態に係る薄型樹脂成形品の製造方法では、従来に比べて早い射出速度である140~400mm/秒で溶融した樹脂材料(溶融樹脂組成物)を射出機によって射出して成形を行うようにしている。このため、扁平形状であって厚みが0.20~0.65mmと薄い樹脂成形品であっても、射出速度が速いため流動末端まで樹脂材料が確実に届き、穴あきを生じにくくすることができる。
【0041】
また、本実施形態に係る薄型樹脂成形品の製造方法では、充填する工程(C)において、溶融した樹脂材料を射出機により200~350mm/秒の射出速度で金型内に射出することが好ましい。この場合、薄型樹脂成形品の側壁部が複雑な形状(例えばヒンジ形状)を有していても、射出速度が速いため、穴あき等を生じさせることなく、薄型樹脂成形品を作製することができる。また、成形される薄型樹脂成形品にウエルドや平面ヒケ等の外観不良が生じることを抑制することもできる。この場合において、冷却する工程(D)において、充填された樹脂材料を65~100MPaの圧力で保圧しながら冷却してもよい。これにより、成形される薄型樹脂成形品に平面ヒケやバリ等が生じることを更に抑制することができる。また、この場合において、充填された樹脂材料を65~80MPaの圧力で保圧しながら冷却することが更に好ましい。これにより、それほど高く保圧することなく、成形される薄型樹脂成形品に平面ヒケやバリ等が生じることを抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態に係る薄型樹脂成形品の製造方法では、充填する工程(C)において、溶融した樹脂材料を射出機により140~270mm/秒の射出速度で金型内に射出することが好ましい。この場合、穴あき等を生じさせることなく、薄型樹脂成形品を作製することができる。また、成形される薄型樹脂成形品に反り等が生じることを抑制することができる。なお、薄型樹脂成形品の形状がそれほど複雑でない場合、上述した射出速度の範囲であっても、穴あき等を生じさせることなく薄型樹脂成形品を作製することが可能である。この場合において、冷却する工程(D)では、充填された樹脂材料を15~45MPaの圧力で保圧しながら冷却することが好ましい。この場合、それほど高く保圧することなく、成形される薄型樹脂成形品の反りを抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態に係る薄型樹脂成形品の製造方法では、充填する工程(C)において、樹脂材料が170~230℃の温度となるように溶融して射出する。これにより、溶融された樹脂材料を流動末端までより確実に充填させることができ、樹脂成形品における穴あきをより確実に防止することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る薄型樹脂成形品の製造方法では、樹脂材料に含まれるポリプロピレンのメルトフローレートは、17~33g/10分である。樹脂材料に含まれるポリプロピレンのメルトフローレート(MFR)が17g/10分以上であることにより、樹脂材料の流動性を高めて流動末端までより確実に充填させることができ、穴あきをより確実に防止することが可能となる。また、樹脂材料に含まれるポリプロピレンのメルトフローレートが33g/10分以下であることにより、成形品において樹脂材料が充填されやすい部分における過剰充填によるバリの発生を抑制することができ、また、樹脂が充填されにくい部分における穴あきを抑制することもできる。
【0045】
また、本実施形態に係る薄型樹脂成形品の製造方法では、樹脂材料は、60~80質量%のポリプロピレンと20~40質量%のバイオマス由来ポリエチレンとを含んでもよい。この場合、バイオマス由来の材料を用いることで、環境にやさしい樹脂成形品とすることができる。この場合において、バイオマス由来ポリエチレンのメルトフローレートが5~25g/10分であることが好ましい。樹脂材料に含まれるポリエチレンのメルトフローレートが5g/10分以上であることにより、樹脂材料に含まれるバイオマス由来の材料の比率を増やしつつ樹脂材料の流動性を十分に維持して射出成形をより確実に実施することができる。また、樹脂材料に含まれるポリエチレンのメルトフローレートが25g/10分以下であることにより、射出成形される薄型樹脂成形品の機械的強度を十分なものとすることが可能となる。
【0046】
また、本実施形態に係る薄型樹脂成形品の製造方法では、充填する工程において、溶融した樹脂材料を射出機により140~270mm/秒の射出速度で金型内に射出し、冷却する工程では、充填された樹脂材料を15~70MPaの圧力で保圧しながら冷却してもよい。この場合、穴あき等を生じさせることなく、バイオマス由来ポリエチレンを含む薄型樹脂成形品を作製することができる。また、成形される薄型樹脂成形品に反り等が生じることを抑制することができる。
【0047】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明に係る薄型樹脂成形品の製造方法は、上記の実施形態に限られず、様々な変形を適用することができる。
【実施例0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0049】
実施例1として、
図2に示す本体部材2(ヒンジキャップ4を含む)である薄型樹脂成形品を、射出速度と保圧力とを次のように設定して成形を行った。この成形した本体部材2の底板20の長辺方向の長さは100mmであり、短辺方向の長さは52mmであった。また、底板20の通常部分(薄肉凹部20a~20c以外の部分)の厚みは0.60mmであり、薄肉凹部20a~20cの厚みは0.45mmであった。なお、これらの各数値はいずれも設計値であった。また、成形された本体部材2の重量は5.20gであった。
【0050】
実施例1では、まず、本体部材2を形成するための樹脂材料を準備した(準備する工程(B))。使用する樹脂材料としては、ランダムPP(商品名:PM931V、サンアロマー社製)と一般的なPP用の着色剤(白色)とを準備し、主材であるポリプロピレン樹脂100質量部に対して、着色剤5質量部をブレンドして、樹脂材料とした。使用したポリプロピレン樹脂のMFRは、25g/10分であった。
【0051】
続いて、準備した樹脂材料を溶融して溶融樹脂組成物とし(スクリュー温度は215℃)、300mm/秒の射出速度で金型内の射出領域に射出して充填した(充填する工程(C))。使用した射出機や成形装置は、180t射出成形機(住友重機械工業株式会社製)であった。その後、70MPaの保圧力で保圧しながら溶融樹脂組成物を冷却した。冷却時間は5秒であった。その後、冷却した樹脂組成物の固形物を金型から取り出しところ、薄型樹脂成形品には、穴あき、ウエルド、平面ヒケ、バリ等は生じていないことが確認できた。
図6は、このような実施例1や後述する実施例2~14に係る成形条件で成形した成形品における穴あき等の結果を示す表である。
【0052】
ここでいう「穴あきが生じる」とは、射出成形の際に流動末端まで樹脂材料が届かずに、成形品に穴(微小な穴を含む)が形成されてしまうことを言う。「ウエルドが生じる」とは、射出成形の際に流動末端まで樹脂材料が届いて穴あき/ショートショットは生じないものの、樹脂の合流点にウエルドラインが生じて外観不良を発生させることを言う。「平面ヒケが生じる」とは、射出成形された成形品の表面に凹みとして発現するものであり、光を屈折する形状であることから、外観不良を発生させることを言う。「バリが生じる」とは、樹脂材料が過剰に充填されることにより、成形品としての安全性に問題はないとしても、成形品の端部から樹脂がはみ出した形状となることを言う。
【0053】
また、射出速度及び保圧力を実施例1の条件から以下のように変更して、それ以外の条件は実施例1と同様にして、実施例2~4に係る薄型樹脂成形品を成形した。
実施例2:237.5mm/秒の射出速度、70MPaの保圧力
実施例3:300mm/秒の射出速度、90MPaの保圧力
実施例4:175mm/秒の射出速度、90MPaの保圧力
実施例2~4のいずれの条件で成形した薄型樹脂成形品においても、穴あき、ウエルド、平面ヒケ、バリ等は生じていないことが確認できた。
【0054】
また、射出速度及び保圧力を実施例1の条件から以下のように変更して、それ以外の条件は実施例1と同様にして、実施例5~9に係る薄型樹脂成形品を成形した。
実施例5:300mm/秒の射出速度、40MPaの保圧力
実施例6:237.5mm/秒の射出速度、40MPaの保圧力
実施例7:175mm/秒の射出速度、40MPaの保圧力
実施例8:145mm/秒の射出速度、40MPaの保圧力
実施例9:300mm/秒の射出速度、60MPaの保圧力
実施例5~9のいずれの条件で成形した薄型樹脂成形品においても、穴あき、ウエルド、バリ等は生じていないことが確認できた。但し、平面ヒケが生じた。
【0055】
また、射出速度及び保圧力を実施例1の条件から以下のように変更して、それ以外の条件は実施例1と同様にして、実施例10~12に係る薄型樹脂成形品を成形した。
実施例10:175mm/秒の射出速度、70MPaの保圧力
実施例11:145mm/秒の射出速度、70MPaの保圧力
実施例12:145mm/秒の射出速度、90MPaの保圧力
実施例10~12のいずれの条件で成形した薄型樹脂成形品においても、穴あき、バリ等は生じていないことが確認できた。但し、平面ヒケおよびウエルドが生じた。
【0056】
また、射出速度及び保圧力を実施例1の条件から以下のように変更して、それ以外の条件は実施例1と同様にして、実施例13及び14に係る薄型樹脂成形品を成形した。
実施例13:300mm/秒の射出速度、110MPaの保圧力
実施例14:175mm/秒の射出速度、110MPaの保圧力
実施例13及び14のいずれの条件で成形した薄型樹脂成形品においても、穴あき、ウエルド、平面ヒケ等は生じていないことが確認できた。但し、バリが生じた。
【0057】
一方、射出速度及び保圧力を実施例1の条件から以下のように変更して、それ以外の条件は実施例1と同様にして、比較例1に係る薄型樹脂成形品を成形した。
比較例1:80mm/秒の射出速度、40MPaの保圧力
比較例1の条件で成形した薄型樹脂成形品においては、穴あきが生じてしまったことが確認できた。
【0058】
次に、実施例20として、
図3に示す蓋部材3である薄型樹脂成形品を、射出速度と保圧力とを以下のように設定して成形した。この成形した蓋部材3の天板30の長辺方向の長さは100mmであり、短辺方向の長さは52mmであった。また、天板30の通常部分(薄肉凹部30a~30c以外の部分)の厚みは0.50mmであり、薄肉凹部30a~30cの厚みは0.30mmであった。なお、上述した各数値は実施例1等と同様にいずれも設計値であった。また、成形された蓋部材3の重量は3.20gであった。
【0059】
まず、蓋部材3を形成するための樹脂材料を準備した(準備する工程(B))。樹脂材料としては、本体部材2を形成した材料と同様に、ランダムPP(商品名:PM931V、サンアロマー社製)と一般的なPP用の着色剤(白色)とを準備し、主材であるポリプロピレン樹脂100質量部に対して、着色剤5質量部をブレンドして、樹脂材料とした。使用したポリプロピレン樹脂のMFRは、25g/10分であった。
【0060】
続いて、準備した樹脂材料を溶融して溶融樹脂組成物とし(スクリュー温度は215℃)、237.5mm/秒の射出速度で金型内の射出領域に射出して充填した(充填する工程(C))。使用した射出機や成形装置は、実施例1等と同様であった。その後、20MPaの保圧力で保圧しながら溶融樹脂組成物を冷却した。冷却時間は5秒であった。その後、冷却した樹脂組成物の固形物を金型から取り出しところ、薄型樹脂成形品には、穴あき、ウエルド、平面ヒケ、バリ等は生じていないことが確認できた。
図7は、このような実施例20や後述する実施例21~23に係る成形条件で成形した成形品における穴あきの結果を示す表である。
【0061】
また、射出速度及び保圧力を実施例20の条件から以下のように変更して、それ以外の条件は実施例20と同様にして、実施例21に係る薄型樹脂成形品を成形した。
実施例21:175mm/秒の射出速度、20MPaの保圧力
実施例21の条件で成形した薄型樹脂成形品においても、穴あき、ウエルド、平面ヒケ、バリ等は生じていないことが確認できた。
【0062】
また、射出速度及び保圧力を実施例20の条件から以下のように変更して、それ以外の条件は実施例20と同様にして、実施例22及び23に係る薄型樹脂成形品を成形した。
実施例22:300mm/秒の射出速度、70MPaの保圧力
実施例23:237.5mm/秒の射出速度、80MPaの保圧力
実施例22及び23のいずれの条件で成形した薄型樹脂成形品においても、穴あき、ウエルド、平面ヒケ、バリ等は生じていないことが確認できた。但し、内反りが1.0mm~1.5mm程度生じてしまった。
【0063】
一方、射出速度及び保圧力を実施例20の条件から以下のように変更して、それ以外の条件は実施例20と同様にして、比較例2に係る薄型樹脂成形品を成形した。
比較例2:80mm/秒の射出速度、20MPaの保圧力
比較例2の条件で成形した薄型樹脂成形品においては、製品としては許容できない歪みが生じてしまったことが確認できた。
【0064】
次に、実施例30として、ポリプロピレンとポリエチレンとをブレンドした樹脂材料を用いて、
図2に示す本体部材2の薄型樹脂成形品を成形した。この成形した本体部材2の底板20の長辺方向の長さは100mmであり、短辺方向の長さは52mmであった。また、底板20の通常部分(薄肉凹部20a~20c以外の部分)の厚みは0.60mmであり、薄肉凹部20a~20cの厚みは0.45mmであった。なお、上述した各数値は実施例1等や実施例20等と同様にいずれも設計値であった。また、成形された本体部材2の重量は5.20gであった。
【0065】
まず、本体部材2を形成するための樹脂材料を準備した(準備する工程(B))。樹脂材料としては、ランダムPP(商品名:PM931V、サンアロマー社製)と、バイオマス由来ポリエチレン(商品名:SHA7260、Braskem社製)と、一般的なPP用の着色剤(白色)とを準備し、主材であるポリプロピレン樹脂70質量部に対して、ポリエチレン30質量部、着色剤5質量部をブレンドして、樹脂材料とした。使用したポリプロピレン樹脂のMFRは25g/10分であり、ポリエチレンのMFRは20g/10分であった。
【0066】
続いて、準備した樹脂材料を溶融して溶融樹脂組成物とし(スクリュー温度は215℃)、300mm/秒の射出速度で金型内の射出領域に射出して充填した(充填する工程(C))。使用した射出機や成形装置は、実施例1等と同様であった。その後、70MPaの保圧力で保圧しながら溶融樹脂組成物を冷却した。この冷却時間は5秒であった。その後、冷却した樹脂組成物の固形物を金型から取り出しところ、薄型樹脂成形品には、穴あき、ウエルド、平面ヒケ、バリ等は生じていないことが確認できた。
図8は、このような実施例30に係る条件で成形した成形品の外表面と内表面とをそれぞれ示す写真である。
【0067】
また、実施例31として、
図3に示す蓋部材3の薄型樹脂成形品を実施例30と同様の樹脂材料で成形した。この成形した蓋部材3の天板30の長辺方向の長さは100mmであり、短辺方向の長さは52mmであった。また、天板30の通常部分(薄肉凹部30a~30c以外の部分)の厚みは0.60mmであり、薄肉凹部30a~30cの厚みは0.45mmであった。なお、上述した各数値は実施例1等や実施例20等と同様にいずれも設計値であった。また、成形された蓋部材3の重量は3.70gであった。
【0068】
続いて、準備した樹脂材料を溶融して溶融樹脂組成物とし(スクリュー温度は215℃)、145mm/秒の射出速度で金型内の射出領域に射出して充填した(充填する工程(C))。使用した射出機や成形装置は、実施例1等と同様であった。その後、60MPaの保圧力で保圧しながら溶融樹脂組成物を冷却した(冷却する工程(D))。冷却時間は5秒であった。その後、冷却した樹脂組成物の固形物を金型から取り出しところ、薄型樹脂成形品には、穴あき、ウエルド、平面ヒケ、バリ等は生じていないことが確認できた。
図9は、このような実施例31に係る成形条件で成形した成形品の外表面と内表面とをそれぞれ示す写真である。
【0069】
以上、上述した実施例によれば、扁平形状で厚みが0.20~0.65mmと薄い平面部を有する薄型樹脂成形品を成形する場合であっても、溶融樹脂組成物を射出機により140~400mm/秒の射出速度で金型内に射出して充填することで、穴あきを抑制できることが確認できた。また、成形の際、充填された溶融樹脂組成物を65~100MPaの圧力で保圧しながら冷却したり、65~80MPaの圧力で保圧しながら冷却したり、若しくは、15~45MPaの圧力で保圧しながら冷却したりすることで、ウエルド、平面ヒケ、バリ等の外観不良も低減できることが確認できた。
2…本体部材(薄型樹脂成形品)、3…蓋部材(薄型樹脂成形品)、4…ヒンジキャップ、20…底板(平面部)、21…第1側壁(側壁部)、30…天板(平面部)、31…第2側壁(側壁部)。