IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日本自動車部品総合研究所の特許一覧 ▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧

特開2024-33854車体への交流電圧・直流電流印加による車両の空力特性制御装置
<>
  • 特開-車体への交流電圧・直流電流印加による車両の空力特性制御装置 図1
  • 特開-車体への交流電圧・直流電流印加による車両の空力特性制御装置 図2
  • 特開-車体への交流電圧・直流電流印加による車両の空力特性制御装置 図3
  • 特開-車体への交流電圧・直流電流印加による車両の空力特性制御装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033854
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】車体への交流電圧・直流電流印加による車両の空力特性制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 37/02 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
B62D37/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137731
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(74)【代理人】
【識別番号】100130395
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】福永 賢吾
(72)【発明者】
【氏名】前田 登
(72)【発明者】
【氏名】前田 和宏
(57)【要約】
【課題】 車両Vの車体に直流電源装置1の正極3及び負極2を接続して車体に於いて電流を流している状態で、更に、車体又はその構成部材に交流電圧を印加することにより、空力特性を制御する構成を提供する。
【解決手段】 車両の空力特性制御装置は、車体に於ける前方の第一の部位2に接続された負極端子と車体に於ける後方の第二の部位3に接続された正極端子とを有し、第二の部位から第一の部位へ車体上にて直流電流を流すことのできる直流電源装置1と、車体又はその構成部材上に於ける第一及び第二の部位とは絶縁された少なくとも一つの部位である交流電圧印加部位5f~5rに交流電圧を印加することのできる交流電源装置4とを含み、直流電流と交流電圧とを同時に印加し車両の空力特性を制御する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の空力特性制御装置であって、
車体に於ける前方の第一の部位に接続された負極端子と車体に於ける後方の第二の部位に接続された正極端子とを有し、前記第二の部位から前記第一の部位へ前記車体上にて直流電流を流すことのできる直流電源装置と、
前記車体又は前記車両の構成部材上に於ける前記第一及び第二の部位とは絶縁された少なくとも一つの部位である交流電圧印加部位に交流電圧を印加することのできる交流電源装置とを含み、
前記直流電流と前記交流電圧とを同時に印加し前記車両の空力特性を制御する装置。
【請求項2】
請求項1の装置であって、前記交流電圧印加部位が前記車両のフロントウインドウ又はサイドウインドウに配置されている装置。
【請求項3】
請求項1の装置であって、前記交流電圧印加部位が、前記直流電源装置の前記正極端子よりも前記負極端子に近い位置に配置されている装置。
【請求項4】
請求項1の装置であって、前記交流電圧の周波数を周期的に変化させる装置。
【請求項5】
請求項1の装置であって、前記交流電圧印加部位が複数設けられ、前記車両の走行状態又は乗員の選択により、前記交流電圧を印加する部位又は更に前記交流電圧の振幅の大きさが変更可能である装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の走行特性を制御するための装置であって、より詳細には、車体の電気的な状態を制御して車両の空力特性を制御する装置に係る。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の走行特性は、車体の空力特性に依存するところ、かかる空力特性を車体の電気的な状態による車体周辺の空気流の変化を利用して制御する技術が種々提案されている。例えば、特許文献1に於いては、路面に対して絶縁状態に保持されている車体が走行することを含む外部要因によって車体が正に帯電することに起因して、正の電荷を帯びた空気流が、電気力によって車体の外表面から剥離すると、意図した空力特性が得られず、走行性能あるいは操縦安定性などが低下する可能性があるとの知見から、車両に於いて、走行時に車体の周囲に流れる正に帯電した空気流が、帯電した車体の表面に沿った流れから表面から離れた流れに変化し始める剥離形状の箇所のうちの少なくとも何れか一つの特定部位に、正の電位に応じて負の空気イオンを生じさせる自己放電により中和除電して車体の正の電位を低下させる自己放電式除電器を配置し、車体の外表面からの空気流の剥離を抑制して、車両の空力特性を改善することが提案されている。特許文献2に於いては、車両の走行中の車体の前縁の下側に於いて、空気流が車体表面から剥離して、地面に向かって衝突することにより、車体の下方の圧力が高くなり、車両の走行に対する抗力を追加してしまう効果を抑制するために、車体の前縁の下側にプラズマ誘導抗力低減装置(plasma-induced drag reduction device)を設けることが提案されている。かかる装置は、誘電体から成る誘電性基板と、誘電性基板の露出した底表面に設置された第一の電極と、誘電性基板の上面を設置され、誘電性基板によって絶縁された第二の電極と、第一及び第二の電極に接続された電源とを有し、第二の電極が第一の電極よりも後方に配置された状態となっており、かくして、作動時には、車両の下方を通過する空気流を引きつけるプラズマ地域を生成し、空気流の剥離を抑制して、その地面への衝突を低減し、これにより、車両に作用する抗力を低減することが企図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2015/064195
【特許文献2】米国特許公開2010/0072777
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車体の電気的な状態による車体周辺の空気流の状態の変化を利用して空力特性を制御する試みとして、本発明の発明者等は、特願2021-44114に於いて、車両の車体又はその他の構成部材に直流電源の正極及び負極を適宜設置し、車両の車体やその他の空気流に接する表面に露出した部位(内外表面部位)に於いて電子を供給し又は電子を除去するように電位差を制御可能に発生することにより、車体周辺の空気流の状態を変化し、車両の走行性能や運転性能を制御できることを報告した。そこに於いて、より具体的には、車両の後部に対して空気流を受ける車両の前部を電位的に正とすると、車体の上下左右方向の動きが容易となる現象(官能評価では車体が浮いた感じとなる。)が観察され、車両の後部に対して空気流を受ける車両の前部を電位的に負とすると、車体の上下左右方向の動きが抑制される現象(官能評価では車体が押さえられた感じとなる。)が見出されている。
【0005】
ところで、本発明の発明者等が車体の電気的な状態の変化による車両の空力特性について更に研究したところ、車体の一部に交流電圧を印加すると、その交流電圧の印加された部位の近傍に於ける車体表面の圧力の振動スペクトルが変化することが見出された。そして、後の実施形態の欄に於いて詳細に説明される如く、車両の走行時に、上記の如く車体に直流電流を与えた状態(車両後方に対して車両前方に負電位を与え、車体上にて電流が車両後方から車両前方へ流れている状態、本明細書に於いて、以下、同様)にて、車体の(その他の)適当な部位に交流電圧を印加すると、運転者の官能評価に於いて、操縦安定性(操舵した際に車両が良好に操舵に追従する感覚の度合と、車両の振動が抑制される感覚の度合)が改善されることが見出された。このことは、走行中の車体に直流電流を与えた状態で更に交流電圧を適宜印加すると、車両の空力特性が調節できることを示している。本発明に於いては、この知見が利用される。
【0006】
かくして、本発明の一つの課題は、車両の車体に直流電源の正極及び負極を接続して車体に於いて電流を流している状態で、更に、車体又はその構成部材に交流電圧を印加することにより、空力特性を制御する構成を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、上記の課題は、車両の空力特性制御装置であって、
車体に於ける前方の第一の部位に接続された負極端子と車体に於ける後方の第二の部位に接続された正極端子とを有し、前記第二の部位から前記第一の部位へ前記車体上にて直流電流を流すことのできる直流電源装置と、
前記車体又は前記車両の構成部材上に於ける前記第一及び第二の部位とは絶縁された少なくとも一つの部位である交流電圧印加部位に交流電圧を印加することのできる交流電源装置とを含み、
前記直流電流と前記交流電圧とを同時に印加し前記車両の空力特性を制御する装置によって達成される。
【0008】
上記の構成に於いて、「直流電源装置」は、正極端子-負極端子間に電圧又は電流を発生する任意の形式の電圧又は電流を印加する装置であってよく、エネルギー源として、蓄電池、補機バッテリ、蓄電器などの車両に搭載されるものであってよい。直流電源装置の負極端子の接続される「第一の部位」とは、車体上の前方領域の、特に、車両の走行中に空気流に曝される適当な位置であってよく、直流電源装置の正極端子の接続される「第二の部位」とは、車体上の後方領域の、特に、車両の走行中に空気流に曝される適当な位置であってよい。ここで、車体上の前方領域及び後方領域は、具体的には、車体表面、フレーム、サイドミラー、フェンダーミラー、バンパーカバー、ヘッドランプレンズ、フェンダーライナー、エンジンカバー、アンダーカバー、車室内装材、窓ガラスなどであってもよい。そして、「直流電源装置」は、上記の如く、適宜、正極端子から負極端子へ電流を流せるよう構成される。なお、直流電源装置に於いて、正極端子が車両の接地ポイントに接続されていてよい。一方、「交流電源装置」は、任意の形式にて交流電圧を発生できる電源装置であってよく、上記の車載の蓄電池等から直流電圧を交流電圧に変換するものであってよい。なお、交流電源装置の接地電位は、車両の接地ポイントに接続されていてよい。交流電圧が付与される「交流電圧印加部位」は、上記の如く、車体又はその構成部材上の、直流電源装置の負極端子、正極端子が接続される第一及び第二の部位と絶縁された任意の部位に配置されてよく、典型的には、例えば、車両のフロントウインドウ或いはサイドウインドウであってよいが、これに限定されない。また、交流電圧印加部位は、第一及び第二の部位と絶縁された状態となっていればよく、例えば、交流電源装置から端子が誘電体を介して車体に配置されてもよい。
【0009】
そして、上記の本発明の構成に於いては、車体上の後方から前方へ直流電流が流れている状態で、交流電圧印加部位に交流電圧が種々の態様にて印加される。そうすると、主に、交流電圧印加部位の近傍に於ける空気流の状態が変化することとなり、これにより、車両の空力特性、特に、操舵時の安定性を制御することが可能となる。この点に関し、後に詳述の如く、例えば、車両の走行中に、車体上の後方から前方へ直流電流が流れている状態で、フロントウインドウとサイドウインドウとに交流電圧を印加すると、その他の状態に比して、操舵時の車体の追従性が良くなり、車両振動が抑制されることとなる(操縦安定性の向上)。
【0010】
上記の本発明の構成に於いて、より詳細には、交流電圧印加部位は、直流電源装置の正極端子よりも負極端子に近い位置に配置されていることが好ましい。この場合、車両走行中の運転者の官能評価によれば、より高い操縦安定性の向上効果が得られることが見出されている。また、上記の本発明の構成に於いて、交流電圧印加部位に印加される交流電圧の周波数が周期的に変化させられてよい。これは、実験によれば、交流電圧の周波数が周期的に変化させた方がより高い操縦安定性の向上効果が得られたためである。
【0011】
上記の構成に於いて、車両の走行中に実際に交流電圧を印加する交流電圧印加部位の選択(交流電圧印加部位が複数設けられている場合)或いは交流電圧印加部位に印加する電圧の高さの設定は、車両の走行状態や乗員の選択に基づいて行われてよい。実際の車両の走行に於いて、車体の交流電圧を印加する部位や大きさによって、車両の運転者の操舵感覚が変化することが観察されている。従って例えば、一つの態様に於いては、車体上にていくつか設置されている交流電圧印加部位のうちから、実際に交流電圧を印加する部位や電圧の大きさが、乗員の好み等に応じて、乗員自身により選択できるようになっていてよい。また、別の態様に於いては、実際に交流電圧を印加する部位や電圧の大きさは、運転者による操舵されるハンドルの操舵角、車速、加速度などに基づいて、より適切な操縦安定性が得られるように選択されてよい。
【0012】
ところで、上記の如く交流電圧を印加する場合に、運転者の操縦感覚が、車両の外部の電磁波により影響を受けることが見出されている。例えば、車両が高圧電線の近くを通過した場合などに、運転者によって、操縦感覚が変わったと感じる場合があることが観察されている。そこで、上記の本発明の構成に於いて、車両の外部の電磁波の周波数を検出する手段が設けられ、外部電磁波の周波数が検出され、交流電圧印加部位に印加する交流電圧に於いて、その検出された周波数又はその倍数の周波数の成分を重畳又は除去する手段が設けられてよい。なお、印加交流電圧に於いて、外部電磁波の周波数又はその倍数の周波数の成分を重畳するか又は除去するかは、乗員によるその好み等に基づいた選択により、或いは、
より高い操縦安定性の向上効果が得られるように、適宜、選択されてよい。これにより、車両の外部の電磁波の状況に応じて、車両の空力特性を変更することが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
かくして、上記の本発明の装置によれば、車体上の後方から前方へ直流電流を流した状態で、車体の一部に交流電圧を印加することにより、車両の空力特性、特に、操縦安定性を変化させることが可能となる。既に述べた如く、車体に直流電流を与えた状態で、車両の直進安定性が向上するところ、その状態で、適当な部位に交流電圧の印加により、操縦安定性が向上できることとなるので、本発明によれば、より好ましい車両の空力特性を達成できることが期待される。
【0014】
本発明のその他の目的及び利点は、以下の本発明の好ましい実施形態の説明により明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1(A)は、本実施形態による空力特性制御装置が適用された車両の模式的な平面図である。図1(B)は、本実施形態による空力特性制御装置の構成をブロックの形式で表わした図である。
図2図2(A)、(B)は、車体表面に於ける空気流に起因する圧力の振動スペクトルの模式図であり、(A)は、車体表面に交流電圧が印加されていない状態のものであり、(B)は、車体表面に交流電圧が印加されている状態のものである。
図3図3は、本実施形態による空力特性制御装置に於いて印加される交流電圧の周波数の時間変化の模式図である。
図4図4は、本実施形態による空力特性制御装置に於いて、運転者又はその他の乗員に操作される交流電圧の印加部位を選択するためのスイッチパネルの模式図である。
【符号の説明】
【0016】
V…車両
1…直流電源装置
1a…直流電流印加制御部
2、3…直流端子
4…交流電源装置
4a…交流電圧印加制御部
5f、5sfr、5sfl、5srr、5srl、5r…交流端子
10…電流・電圧印加制御部
11…操舵角センサ
12…外部電磁波周波数センサ
13…乗員選択スイッチ
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
装置の構成
図1(A)を参照して、本実施形態の空力特性制御装置に於いては、車両Vに直流電源装置1と交流電源装置4とがそれぞれ搭載される。直流電源装置1の端子2、3は、それぞれ、それらの間にて直流電流が流通できるように、図示の如く、車体の前方と後方の適当な部位(第一、第二の部位)に接続されてよい。直流電源装置1は、具体的には、蓄電池、補機バッテリ、蓄電器などの車両に搭載される電源から構成されてよい。また、直流電源装置1の接地端子は、車体のアースポイントに接続され、直流電源装置1の接地電位は、車体のアースポイントの電位に取られていてよい。本実施形態の典型的な作動においては、車体の前方の端子2に直流電源装置1の負極が接続され、車体の後方の端子3に直流電源装置1の正極が接続され、正極が接地電位となっていてよい。一方、交流電源装置4の(接地電位に対して振幅する)交流電圧が印加される端子は、直流電源装置1の端子2、3とは絶縁された任意の部位(交流電圧印加部位)に配置されてよい。交流電圧印加部位としては、典型的には、図示の如く、車両のフロントウインドウ(5f)、右前サイドウインドウ(5sfr)、左前サイドウインドウ(5sfl)、右後サイドウインドウ(5srr)、左後サイドウインドウ(5srl)、リアウインドウ(5r)などであってよいが、これらに限定されず、車体の表面上の任意の箇所であってよい。交流電圧が印加される端子は、車体の導体部分に取り付けられる場合には、絶縁体(誘電体)を介して取り付けられてよい。交流電源装置4は、直流電源装置1と共通の電源から交流電圧を発生させるインバータ回路であってよい。交流電源装置4の接地電位は、直流電源装置1と共通であってよい。
【0018】
直流電源装置1から端子2、3に印加される直流電流の制御と、交流電源装置4から交流電圧印加部位に印加される交流電圧の制御とは、図1(B)に模式的に描かれているシステムによって実行されてよい。同図を参照して、システムに於いては、電流・電圧印加制御部10が、直流電源装置1の端子2、3の極性と電流の大きさとを制御する直流電流印加制御部1aと、交流電源装置4の交流電圧印加部位の各端子5f~5rに於いて印加する交流電圧の周波数と電圧とを制御する交流電圧印加制御部4aとのそれぞれへ、適宜、制御指令を送信するよう構成され、これらに応答して、直流電流印加制御部1aと、交流電圧印加制御部4aとが、それぞれの端子へ直流電圧又は交流電圧を印加するよう構成されてよい。また、電流・電圧印加制御部10には、車両の走行状態を検知する目的で、操舵角センサ11などの車両の走行状態を表わすセンサからの信号が入力され、車両外部の電磁波の状態を検出する目的で、外部電磁波周波数センサ12からの外部電磁波の周波数を表わす信号が入力され、或いは、各々の交流電圧印加部位に交流電圧を印加するか否かを乗員が選択できるようにするための各々の交流電圧印加部位に対応したスイッチ13(図4参照)からの信号が入力され、電流・電圧印加制御部10は、それらの入力信号に基づいて、車体上の各端子に印加する電圧を制御するよう構成されていてよい。電流・電圧印加制御部10は、コンピュータ装置によるプログラムに従った作動により実現されてよい。直流電流印加制御部1aと交流電圧印加制御部4aとは、電流・電圧印加制御部10からの制御指令に対応して、各端子の電圧又は電流を制御する電気回路にて構成されていてよい。
【0019】
装置の作動
(1)直流電流と交流電圧を印加した場合の作用効果についての知見
図1(A)、(B)の空力特性制御装置の作動に於いて、特に、本実施形態の場合には、直流電源装置1より、車体前方に配置された端子2に負電位が印加され、車体後方に配置された端子3に正電位が印加されて、車体上をその後方から前方へ直流電流が流れる状態で、車体の各部に配置された交流電圧印加部位へ交流電源装置4からの交流電圧が印加される。かかる構成は、以下に説明される本発明の発明者等による研究により得られた知見に基づいている。
【0020】
先ず、本発明の発明者等による計算実験によれば、図2(A)、(B)に模式的に描かれている如く、車体の一部に於ける圧力の振動を観察すると、当該部位に交流電圧が印加されていないときには、特定の周波数の圧力振動が強くなるのに対し(圧力振動スペクトルに於いて、特定の周波数にピークが現れる。図2(A)参照)、当該部位に交流電圧が印加されているときには、圧力振動の強くなる周波数が分散すること(圧力振動スペクトルに於いて、強いピークが消滅する。)が見出されている。即ち、車体の一部に於いて交流電圧を印加すると、車体表面の空力的作用が変化し(特定の周波数の振動が抑制される)、これにより、車体の空力特性を変化させられることが期待される。
【0021】
そこで、実際の車両の走行中に於ける運転者の運転感覚に対する交流電圧の作用効果を検証するために、以下の如き、車両走行中に於ける運転者の官能評価実験を行った。実験に於いては、具体的には、図1(A)の如き車両に於いて、車体後方の端子3、車体前方の端子2に、それぞれ、直流電源装置1の正極、負極を接続して、端子3から端子2へ直流電流(3[A])が流すと共に、フロントウインドウの交流電圧印加部位5fと左右前方のサイドウインドウの交流電圧印加部位5sfl、sfrとに交流電圧(振幅24[V]のサイン波で、周波数を100Hz~1000Hzの間で30Hz/秒の変化率にて変化させたチャープ信号-図3参照)を印加した状態で、被験者(6人)に車両を走行してもらい、走行中の走行感覚を評価させた。車両の走行は、段差乗越えと旋回とを含み、走行感覚として、操舵した際に車両が良好に操舵に追従する感覚の度合(操舵追従度合)と、車両の振動が抑制される感覚の度合(振動抑制度合)とを被験者に評価させた。評価の方法に於いては、直流電流と交流電圧を印加していない状態の操舵追従度合及び振動抑制度合をそれぞれ5点とし、直流電流又は/及び交流電圧を印加したときに、それぞれの度合が上がったときには加点し、度合が下がったときには、減点することとした。なお、点数は、最低点は、0点とし、最高点は、10点とした。車両の走行試験は、直流電流のみ印加した状態、交流電圧のみ印加した状態、及び、直流電流と交流電圧の双方を印加した状態にて、それぞれ、行った。
【0022】
上記の走行試験に於ける官能評価結果は、以下の如くであった。
【表1】
また、被験者に於いて、「直流電流のみ印加のときには、操舵が重くしっかりするが、ヨーゲインが減少するのに対し、直流電流と交流電圧の双方を印加したときには、操舵が重くしっかりしつつ、ヨーゲインが向上し、さらに車両の振動の収まりもよい」という意見が得られた。かくして、上記の結果から、直流電流と交流電圧の双方を印加した状態で車両を走行させた場合に於いて、操舵追従度合と振動抑制度合との双方が向上したことが示された。
【0023】
(2)空力特性制御の態様
本実施形態の装置による空力特性制御は、以下のいつくかの態様にて実現されてよい。
(i)車両の走行中に於ける直流電流と交流電圧の印加
上記の如く、車両の走行中に於いて、直流電流を車体後方から車体前方へ流した状態で、交流電圧を適当な部位に印加すると、操縦安定性(操舵追従度合と振動抑制度合との総称)が向上するので、車両の走行時に、適宜、上記の如く、直流電流と交流電圧とが印加されてよい。なお、実験によれば、図3の如く、交流電圧の周波数を時間と共に変化させると、操縦安定性がより向上することが観察されているので、印加される交流電圧の周波数は、周期的に変化するよう制御されてよい。直流電流の大きさ、交流電圧の高さと周波数は、適合により調節されてよい。
【0024】
また、車両の走行実験に於いて、交流電圧の印加部位が、直流電源装置1の正極の接続される端子よりも負極の接続される端子に近い方が、空力特性の作用が大きくなることが観察されている。従って、交流電圧印加部位は、直流電源装置1の負極の接続される端子に近い方に設置されてよい。
【0025】
(ii)交流電圧の印加部位の選択
上記の本実施形態による直流電流と交流電圧を印加する構成に於いて、交流電圧を印加する部位によって、車両の運動の応答に於ける運転者の受ける感覚が異なることが観察されている。そこで、本実施形態の装置に於いては、車体にいつくか設置されている交流電圧印加部位のうちで、実際に交流電圧を印加する部位を、運転者又はその他の乗員が任意に選択できるようになっていてよい。例えば、図4に例示されている如き、交流電圧印加部位のうちで実際に交流電圧を印加する部位を選択するパネル型のスイッチ13が運転者又はその他の乗員のアクセス可能な位置に配置され、運転者又はその他の乗員がその好み等に応じて実際に交流電圧を印加する部位を適宜選択できるようになっていてよい。例として、例えば、車両の直進走行時に高い直進安定性が望まれる場合には、実際に交流電圧を印加する部位としてフロントウインドウの交流電圧印加部位5fを選択したり、左又は右に旋回する際には、運転者の好みに応じて、左右のいずれかのサイドウインドウの交流電圧印加部位5sfl又は5sfrを選択するといったことが行われてよい。また、印加する交流電圧の大きさが運転者又はその他の乗員により調節できるようになっていてよい。
【0026】
(iii)車両の走行状態による交流電圧の印加部位と大きさの決定
上記の如く、本実施形態による交流電圧を印加する構成に於いて、交流電圧を印加する部位と大きさによって車両の空力特性が変化するので、車両の走行状態に応じて、交流電圧印加部位のうちで実際に交流電圧を印加する部位と大きさとが決定されてよい。例えば、操舵角センサ11にて検出される操舵角が参照され、操舵角が実質的に0のとき、即ち、直進走行時には、操舵角が0でないとき、即ち、旋回時に比して、車体前後に流通させる直流電流を増大すると共に、交流電圧を低減し、逆に、操舵角が0でないとき、即ち、旋回時には、操舵角が実質的に0のとき、即ち、直進走行時に比して、旋回方向の部位(又はその反対側の部位)の印加する交流電圧を増大すると共に、車体前後に流通させる直流電流を低減するといった制御が実行されてよい。また、図示していないが、車速センサ、ヨーレートセンサの値に応じて、交流電圧を印加する部位と大きさが変更されてもよい。
【0027】
(iv)車両の外部電磁波に応じた印加交流電圧の変調
ところで、上記の交流電圧を印加する構成を有する車両が高圧電線の近くを通過した際に、車両の空力特性が変化することが観察されている。これは、交流電圧印加部位に印加されている交流電圧に外部電磁波が影響を及ぼしているためであると考えられる。そこで、本実施形態に於いては、上記の如く、外部電磁波の周波数を検知する外部電磁波周波数センサにより外部電磁波の周波数を検知し、印加される交流電圧に於いて、外部電磁波の周波数又はその倍数の成分を重畳又は除去することで、印加される交流電圧が変調されてよい。印加される交流電圧に重畳又は除去する外部電磁波の周波数又はその倍数の成分の大きさは、車両の空力特性が改善するように適合により調節されてよい。
【0028】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1
図2
図3
図4