(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033869
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】スラグのエージング方法
(51)【国際特許分類】
C04B 5/00 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
C04B5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137753
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】矢埜 泰武
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】松永 久宏
(72)【発明者】
【氏名】曹 寧源
(72)【発明者】
【氏名】星野 建
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112JD02
4G112JE06
(57)【要約】
【課題】エージング処理施設に粒度や空隙率の互いに異なるスラグを積み付けて、堆積物を形成する場合であっても、堆積物の互いに異なる箇所でのスラグの粒度や空隙率のバラツキを抑制してスラグのエージングのバラツキを低減することができ、また、エージング後のスラグを使用した製品の膨張を抑制することのできるスラグのエージング方法を提供する。
【解決手段】エージング処理施設1,10に積み付けたスラグのエージング方法であって、エージング処理施設1,10に積み付けるスラグと堆積物3を形成しているスラグとのうち、少なくとも一方のスラグの少なくとも二箇所からスラグをサンプリングして粒度と空隙率との少なくとも一方を算出する算出工程と、スラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて二箇所のうち、第一箇所におけるスラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方を調整する調整工程とを有する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エージング処理施設にスラグを積み付けて形成した堆積物に対し、水蒸気を供給して前記スラグのエージングを行うスラグのエージング方法であって、
前記エージング処理施設に積み付けるスラグと、前記堆積物を形成しているスラグとのうち、少なくとも一方のスラグにおける互いに異なる少なくとも二箇所からスラグをサンプリングし、前記サンプリングしたスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方をそれぞれ算出する算出工程と、
前記算出工程で算出したスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて、前記二箇所のうち、第一箇所における前記スラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方を調整する調整工程と、
を有するスラグのエージング方法。
【請求項2】
前記サンプリングしたスラグは、前記エージング処理施設に積み付けるスラグである、請求項1に記載のスラグのエージング方法。
【請求項3】
前記調整工程では、互いに異なる少なくとも二箇所からサンプリングした前記エージング処理施設に積み付けるスラグの空隙率同士の差が10%未満になるように、前記二箇所のうち、前記第一箇所における前記エージング処理施設に積み付けるスラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方が調整される、
請求項2に記載のスラグのエージング方法。
【請求項4】
前記調整工程では、前記算出工程で算出した互いに異なる少なくとも二箇所からサンプリングした前記エージング処理施設に積み付けるスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて、前記サンプリングした前記エージング処理施設に積み付けるスラグのそれぞれに水蒸気を供給した場合の圧力損失を推定し、かつ、前記圧力損失同士の差が1000Pa/m未満になるように、前記二箇所のうち、前記第一箇所における前記エージング処理施設に積み付けるスラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方が調整される、請求項2に記載のスラグのエージング方法。
【請求項5】
前記サンプリングしたスラグは、前記堆積物を形成しているスラグである、請求項1に記載のスラグのエージング方法。
【請求項6】
前記調整工程では、互いに異なる少なくとも二箇所からサンプリングした前記堆積物を形成しているスラグの空隙率同士の差が10%未満になるように、前記堆積物を形成しているスラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方が調整される、
請求項5に記載のスラグのエージング方法。
【請求項7】
前記調整工程では、前記算出工程で算出した互いに異なる少なくとも二箇所からサンプリングした前記堆積物を形成しているスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて、前記サンプリングした前記堆積物を形成しているスラグのそれぞれに水蒸気を供給した場合の圧力損失を推定し、かつ、前記圧力損失同士の差が1000Pa/m未満になるように、前記堆積物を形成しているスラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方が調整される、請求項5に記載のスラグのエージング方法。
【請求項8】
前記調整工程では、前記堆積物の外周部に積み付けるスラグの平均粒径が、前記堆積物の外周部以外に積み付けるスラグの平均粒径以下となるように、前記堆積物の外周部に積み付けるスラグの平均粒径が調整される、
請求項2に記載のスラグのエージング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スラグに水和処理を行って当該スラグを使用した製品の膨張を抑制するスラグのエージング方法に関し、特に、水蒸気によってスラグのエージングを行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業では、高炉、予備処理プロセス(例えば混銑車)、転炉、電気炉等からスラグが副生される。これらのうち、予備処理プロセス、転炉、電気炉から副生されるスラグを特に製鋼スラグと称する。製鋼工程では、溶銑中に含まれる燐や珪素などを除去するため、副原料として多量の石灰が投入される。そのため、製鋼スラグ中には、未溶解の石灰や、冷却時に晶出した石灰が遊離の酸化カルシウム(以下、f-CaOと記す。)として残留している。このf-CaOは水和反応によって水酸化カルシウム(以下、Ca(OH)2と記す。)となり、f-CaOと比較して約2倍程度に体積膨張する。したがって、製鋼スラグ中のf-CaOが水和して体積膨張すると、製鋼スラグが粉化し、その粉化の影響で製鋼スラグの粒度が規定の粒度を外れてしまう懸念がある。また、製鋼スラグの出荷後に膨張してしまう懸念がある。
【0003】
製鋼スラグの用途としては、路盤材やコンクリート用細骨材などがある。これらの用途において、水和反応によって製鋼スラグ中のf-CaOが体積膨張すると、路盤が隆起したり、コンクリートに亀裂が生じたりする可能性がある。そのため、上述した用途に使用される製鋼スラグは、JIS A 5015に規定される膨張特性を満たすことが要求されている。現状では、製鋼スラグの出荷前に大気エージングや蒸気エージングを行って製鋼スラグの体積を安定化させている。こうすることによって、製鋼スラグの出荷後における膨張や粉化のリスクを低減している。なお、大気エージングとは、スラグヤードなどで製鋼スラグを長期間保管することによって空気中の水分と製鋼スラグ中のf-CaOとを水和反応させる製鋼スラグのエージング方法を意味している。蒸気エージングとは、製鋼スラグに水蒸気を供給することによって上述した水和反応を生じせる製鋼スラグのエージング方法を意味している。
【0004】
特許文献1に蒸気エージング方法の一例が記載されており、その方法では、蒸気エージング設備に積み付けた製鋼スラグに水蒸気を供給している期間に、製鋼スラグの堆積状態を変化させてスラグのエージングを実施するようになっている。具体的には、蒸気エージング設備の浸透性層に複数の蒸気配管と複数のガス配管とが埋設されており、ガス配管から高圧の空気を吹き込むことによって、製鋼スラグのうち、少なくとも粒度の小さい細粒スラグの位置を変えて水蒸気の通過する経路を変化させるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
製鋼工程で生じた製鋼スラグは、具体的には、冷却された後、予め設定された大きさに粉砕される。また、スラグのエージングを行う処理施設(以下、エージング処理施設と記す。)に積み付けるスラグ(以下、単にスラグと記す。)や、当該スラグよりも粒度の小さいスラグ(以下、細粒スラグと記す。)など、様々な粒度に大別されてスラグの仮置き場に載置される。仮置き場に載置するスラグの量や、スラグを載置する期間、仮置き場の場所などの条件は様々であり、同じ仮置き場においてもスラグの粒度偏析が生じる可能性がある。そのため、異なる仮置き場に載置されているスラグや、同じ仮置き場の互いに異なる箇所に載置されているスラグの状態、つまり、スラグの粒度や空隙率には、バラツキがある可能性がある。したがって、このように粒度や空隙率にバラツキのあるスラグをエージング処理施設に積み付けて堆積物を形成すると、当該堆積物においても、スラグの粒度や空隙率が互いに異なる部分、つまり、空隙率にバラツキが生じる可能性がある。そのため、前記堆積物に水蒸気を供給すると、前記スラグの空隙率が他の箇所よりも大きい部分から水蒸気が抜けてしまい、堆積物における互いに異なる箇所でのスラグのエージングにバラツキが生じる可能性がある。
【0007】
特許文献1に記載の蒸気エージング方法は、堆積物中において、高圧の空気が吹き込まれた箇所での細粒スラグの位置を変化させるものであり、堆積物全体としてスラグの粒度や空隙率のバラツキを抑制することはできず、未だ改良の余地があった。
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、エージング処理施設に粒度や空隙率の互いに異なるスラグを積み付けて、堆積物を形成する場合であっても、堆積物における互いに異なる箇所でのスラグの粒度や空隙率のバラツキを抑制してスラグのエージングのバラツキを低減することができ、また、エージング後のスラグを使用した製品の膨張を抑制することのできるスラグのエージング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の目的を達成するために、
[1]エージング処理施設にスラグを積み付けて形成した堆積物に対し、水蒸気を供給して前記スラグのエージングを行うスラグのエージング方法であって、前記エージング処理施設に積み付けるスラグと、前記堆積物を形成しているスラグとのうち、少なくとも一方のスラグにおける互いに異なる少なくとも二箇所からスラグをサンプリングし、前記サンプリングしたスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方をそれぞれ算出する算出工程と、前記算出工程で算出したスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて、前記二箇所のうち、第一箇所における前記スラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方を調整する調整工程と、を有するスラグのエージング方法。
[2]前記サンプリングしたスラグは、前記エージング処理施設に積み付けるスラグである、上記の[1]に記載のスラグのエージング方法。
[3]前記調整工程では、互いに異なる少なくとも二箇所からサンプリングした前記エージング処理施設に積み付けるスラグの空隙率同士の差が10%未満になるように、前記二箇所のうち、前記第一箇所における前記エージング処理施設に積み付けるスラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方が調整される、上記の[2]に記載のスラグのエージング方法。
[4]前記調整工程では、前記算出工程で算出した互いに異なる少なくとも二箇所からサンプリングした前記エージング処理施設に積み付けるスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて、前記サンプリングした前記エージング処理施設に積み付けるスラグのそれぞれに水蒸気を供給した場合の圧力損失を推定し、かつ、前記圧力損失同士の差が1000Pa/m未満になるように、前記二箇所のうち、前記第一箇所における前記エージング処理施設に積み付けるスラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方が調整される、上記の[2]に記載のスラグのエージング方法。
[5]前記サンプリングしたスラグは、前記堆積物を形成しているスラグである、上記の[1]に記載のスラグのエージング方法。
[6]前記調整工程では、互いに異なる少なくとも二箇所からサンプリングした前記堆積物を形成しているスラグの空隙率同士の差が10%未満になるように、前記堆積物を形成しているスラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方が調整される、上記の[5]に記載のスラグのエージング方法。
[7]前記調整工程では、前記算出工程で算出した互いに異なる少なくとも二箇所からサンプリングした前記堆積物を形成しているスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて、前記サンプリングした前記堆積物を形成しているスラグのそれぞれに水蒸気を供給した場合の圧力損失を推定し、かつ、前記圧力損失同士の差が1000Pa/m未満になるように、前記堆積物を形成しているスラグの粒度と締まり具合とのうち、少なくとも一方が調整される、上記の[5]に記載のスラグのエージング方法。
[8]前記調整工程では、前記堆積物の外周部に積み付けるスラグの平均粒径が、前記堆積物の外周部以外に積み付けるスラグの平均粒径以下となるように、前記堆積物の外周部に積み付けるスラグの平均粒径が調整される、上記の[2]に記載のスラグのエージング方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、堆積物における互いに異なる箇所でのスラグの空隙率のバラツキを低減することができる。そのため、堆積物全体として水蒸気が抜けにくくなり、スラグのエージングのバラツキを低減することができる。また、エージング後のスラグを使用した製品の膨張を抑制することができる。さらに、水蒸気のロス、すなわち、エネルギのロスを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】エージング処理施設の一例を示す断面図である。
【
図2】エージング処理施設の他の例を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示すエージング処理施設の一部を示す断面図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係るスラグのエージング方法を説明するフローチャートである。
【
図5】スラグの空隙率と圧力損失との関係を示す図である。
【
図6】スラグの空隙率と流量比との関係を示す図である。
【
図7】本発明の第2実施形態に係るスラグのエージング方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明に係る実施形態について説明する。本発明に係るスラグは鉄鋼の製造工程において副生成物として生じるものであり、f-CaOを含んでいるスラグである。上記のスラグが生じる鉄鋼の製造工程の例を挙げると、予備処理工程、精錬工程などの製鋼工程である。したがって、上記のスラグは製鋼スラグと称される場合がある。当該スラグはf-CaOを含んでいるため、エージング処理施設に積み付けられてf-CaOと水とを反応させてf-CaOをCa(OH)2に変化させるエージングが行われる。本発明に係るスラグのエージング方法では、エージング処理施設にスラグを積み付けて形成された堆積物に対し、当該堆積物の底部から水蒸気を供給してf-CaOと水とを反応させている。
【0013】
図1は、エージング処理施設の一例を示す断面図である。
図1に示すエージング処理施設1は、スラグに水蒸気を供給する浸透層2を有しており、浸透層2の上にスラグを積み付けてスラグの山つまり堆積物3を形成する。スラグを積み付ける手段は限定しない。当該手段は、一例として従来知られたホイールローダーやブルドーザーなどの重機であってよい。また、堆積物3の形状は限定しない。堆積物3の形状は、
図1に示すように、錐台形状であってよい。
【0014】
浸透層2はスラグの堆積物3の底面に対してほぼ均等に水蒸気を供給するものである。浸透層2には、複数の蒸気管4が埋設されており、各蒸気管4に水蒸気の供給源(図示せず)が連通されている。水蒸気の供給源はボイラーなど、従来知られたものであってよい。
【0015】
図1に示す堆積物3は錐台形状であって、堆積物3の外周面は上方から下方に向かって傾斜した傾斜面となっている。その傾斜面と浸透層2との成す角度はスラグの安息角とほぼ同じ角度になっている。スラグの粒度にはバラツキがあり、当該スラグのうち、粒度の小さいスラグは粒度の大きいスラグと比較して流動性が低い。そのため、粒度の小さいスラグは当該スラグを積み付けた箇所に留まろうとする。これに対して、粒度の大きいスラグは当該スラグを積み付けた箇所からその周囲に流動しやすい。それらの結果、エージング処理施設1にスラグを積み付けると、堆積物3の外周部5側に、粒度の大きいスラグが集まる傾向がある。また、堆積物3の外周部5側では、堆積物3の中央部(
図1の左右方向で堆積物3の中央部)6と比較してスラグ同士の間の隙間が大きくなって通気抵抗が小さくなり、水蒸気が抜けやすい傾向がある。
【0016】
エージング処理施設の周囲に壁が設けられている場合がある。その例を
図2及び
図3に示してある。
図2は、エージング処理施設の他の例を示す斜視図である。
図3は、
図2に示すエージング処理施設の一部を示す断面図である。
図2及び
図3に示すエージング処理施設10は、3つの壁11a,11b,11cを有しており、3つの壁11a,11b,11cのうち、2つの壁11a,11bは予め設定された間隔をあけて、かつ、互いにほぼ平行に配置されている。それら2つの壁11a,11bの各幅方向で、一方の端部同士を互いに連結するように、前記2つの壁11a,11b同士の間に、残りの1つの壁11cが配置されている。こうして3つの壁11a,11b,11cによって区画されたスペース内に浸透層2が形成されている。
【0017】
2つの壁11a,11bの幅方向において、他方の端部同士の間の部分は、
図2に示すように、開口部12となっており、開口部12を利用して上述したスペース内にスラグが搬送され、また、積み付けられる。こうしてスペース内にスラグの堆積物3を形成すると、堆積物3の一部は、
図2及び
図3に示すように、3つの壁11a,11b,11cに対してそれぞれ接触する。
【0018】
エージング処理施設10に積み付けるスラグのうち、粒度の大きいスラグは、上述したように、粒度の小さいスラグと比較して流動性が高い。そのため、粒度の大きいスラグは、積み付けた箇所からその周囲に流動して各壁11a,11b,11c付近や、堆積物3における開口部12に面する傾斜面付近に粒度の大きいスラグが集まる傾向がある。したがって、それらの箇所では、堆積物3の中央部(
図3の左右方向で中央部)6と比較してスラグ同士の間の隙間が大きくなって通気抵抗が小さくなり、水蒸気が抜けやすい傾向がある。なお、
図2および
図3に示す例では、粒度の大きいスラグが集まる傾向のある各壁11a,11b,11c付近、及び、堆積物3における開口部12に面する傾斜面付近が、本発明に係る堆積物の外周部に相当している。
【0019】
また、壁11a,11b,11c付近とは、当該壁11a,11b,11cから所定の範囲を意味している。堆積物3における開口部12に面する傾斜面付近とは、前記傾斜面、および、堆積物3の上面における開口部12側に位置する縁から中央部6側の所定の範囲を意味している。すなわち、上記の各箇所は、粒度の大きいスラグが集まることによって水蒸気が抜けやすい傾向があり、また、その影響を受けて中央部6と比較して水蒸気が抜けやすい傾向がある部分を意味している。なお、上述した各箇所は、実験や計算によって予め求めることができる。
【0020】
図4は、本発明の第1実施形態に係るスラグのエージング方法を説明するフローチャートである。
図4に示す製鋼工程(ステップS1)で生じた製鋼スラグは、スラグの冷却ヤード(図示せず)に一旦、集積されて冷却される。その後、当該スラグは粉砕機(図示せず)によって予め設定された大きさに粉砕される。また、エージング処理施設1に積み付けるスラグや、当該スラグよりも粒度の小さいスラグ(以下、細粒スラグと記す。)などの様々な粒度に、篩分けなどの従来知られた方法によって大別されて仮置き場(図示せず)に載置される。
【0021】
上記の仮置き場に載置するスラグは、スラグの量やスラグを載置する期間、仮置き場の場所、スラグの粒度偏析などの影響により、互いに異なる箇所では、スラグの粒度や空隙率にバラツキがある可能性がある。
【0022】
そのため、第1実施形態では、仮置き場に載置されているスラグにおいて、互いに異なる少なくとも二箇所からスラグのサンプリングを行い、サンプリングした各スラグの粒度と空隙率との少なくとも一方をそれぞれ算出する(ステップS2,算出工程)。スラグのサンプリングは、仮置き場に集積されているスラグから行うことに代えて、仮置き場からエージング処理施設1,10にスラグを運搬する運搬車(図示せず)に搭載されているスラグから行ってもよい。すなわち、第1実施形態において、サンプリングの対象とするスラグは、エージング処理施設1,10に積み付ける前の時点のスラグである。なお、以下の説明では、サンプリングを行った箇所をサンプリング点と称する場合がある。
【0023】
また、スラグのサンプリングは、例えばスラグの表面から50cm程度掘り起こし、当該掘り起こしたスラグから行うことが好ましい。これは、仮置き場に載置されているスラグの粒度偏析の影響を避けるためである。すなわち、サンプリングしたスラグの粒度、および、空隙率の測定値や推定値の正確性を向上させるためである。
【0024】
スラグの粒度の測定方法や推定方法は限定しない。篩分け等の従来知られた方法であってよい。また、スラグの空隙率の測定方法や推定方法は限定しない。例えば、JIS A 1214に規定される砂置換法による土の密度試験方法(2013年3月21日改正)や、JIS A 1104に規定される骨材の単位容積質量及び実積率試験方法(2019年3月25日改正)等を参考にしてスラグの空隙率を測定あるいは推定してよい。
【0025】
スラグのサンプリングの頻度は、例えば、運搬車によって仮置き場からエージング処理施設1にスラグを50トンあるいは100トン搬送する毎に、少なくとも一回の頻度であってよい。ステップS2で算出したスラグの粒度および空隙率は記憶装置(図示せず)に一旦記憶される。
【0026】
次いで、ステップS2で算出したスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて、前記二箇所のうちの一方の箇所、すなわち、第一箇所のスラグの粒度と締まり具合とのうちの少なくとも一方を調整する(ステップS3、第1調整工程)。なお、本発明において「締まり具合」とは、スラグの締固めの度合を意味しており、スラグの湿潤密度や乾燥密度などから推定することが可能である。
【0027】
第一箇所のスラグの粒度を調整する場合について説明する。先ず、ステップS2で算出したスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて、前記二箇所のスラグの空隙率や圧力損失の差をそれぞれ算出する。また、ステップS2で算出した上述した二箇所のスラグの粒度および空隙率を比較して、粒度および空隙率の値が大きい方を第一箇所とする。次いで、それらの空隙率同士の差や圧力損失同士の差が以下に説明する上限値を超えるか否かを判定する。前記二箇所での空隙率同士の差や圧力損失同士の差がそれらの上限値を超える場合には、それらの上限値未満となるように、例えば、第一箇所に載置されているスラグの粒度を調整する。その後、前記調整を行った第一箇所のスラグと、二箇所のうちの他方の箇所、すなわち、第二箇所のスラグとのそれぞれを、エージング処理施設1に積み付ける。
【0028】
上述した空隙率同士の差の上限値、及び、圧力損失同士の差の上限値について説明する。圧力損失は、下記の式(1)および式(2)で表されるErgun式に基づいて算出する。
【0029】
【0030】
上記の式(1)に記載の「ΔP/L」は、スラグ同士の間の空隙を流路として水蒸気が流動する際の単位長さあたりの圧力損失を示している。「u」はスラグ同士の間の空隙を流路として流動する水蒸気の流速(m/s)を示し、「ρf」は気体密度(kg/m3)を示し、「μf」は水蒸気の粘性係数(Pa・s)を示している。「ε」はスラグの空隙率(%)を示し、「m」はスラグの成分数を示し、「Dpi」はスラグ粒子の粒径(m)を示している。上記の式(2)に記載の「S」はスラグの比表面積(m2/g)を示し、「Φ」はスラグ粒子の形状係数を示し、「Svi」は体積基準の混合分率(%)を示している。上記の式(1)および式(2)に示すように、圧力損失(通気抵抗)は、スラグの比表面積Sや空隙率ε、水蒸気の流速u等の様々な条件の影響を受け、それらのパラメータのうち、特に空隙率εの影響が大きいことが分かる。
【0031】
図5は、スラグの空隙率ε(%)と圧力損失(推定値)との関係の一例を示す図である。なお、圧力損失の推定には、製品粒度のスラグを用いた。製品粒度とは、製品として出荷可能なスラグの粒度(粒径)を意味しており、一例として、JIS A 5015(規格名称:道路用鉄鋼スラグ。2018年12月20日改正)に規定されるCS40の規格を満たす粒度である。また、スラグ粒子の形状係数Φは、事前試験によって圧力損失の推定値と圧力損失の実測値とに乖離が生じにくいように調整したものを用いた。
図5に示すように、任意の二点における空隙率ε(%)同士の差が10%を超えると、それらの二点における圧力損失同士の差が300Pa/m~1000Pa/m程度以上になることが認められた。これは、それらの二点のうち、一方の点での空隙率ε(%)が、他方の点での空隙率ε(%)よりも10%を超えて大きくなると、他方の点での圧力損失に対して一方の点での圧力損失が急激に減少して水蒸気のロスが生じることを意味している。つまり、スラグのエージングにバラツキが生じる可能性のあることを意味している。
【0032】
図6は、スラグの空隙率ε(%)と流量比との関係の一例を示す図である。なお、流量比とは、同一ロットのスラグに流入する水蒸気量の最小値(最小流入流量)を基準にした場合の推定流入水蒸気量の比率を意味している。また
図6では、
図5とは異なるロットであって、
図5とは異なる粒度のスラグを使用している。
図6に示すように、任意の二点における空隙率ε(%)同士の差が5%を超えると、それらの二点における流量比同士の差についても「5」を超えることが認められた。これは、それらの二点のうち、一方の点での空隙率ε(%)が、他方の点での空隙率ε(%)よりも5%を超えて大きくなると、他方の点での推定流入水蒸気量に対して一方の点での推定流入水蒸気量が急激に増大して水蒸気のロスが生じることを意味している。つまり、スラグのエージングにバラツキが生じる可能性のあることを意味している。
【0033】
これらの結果から、スラグのエージングのバラツキを抑制するためには、任意の2点での空隙率ε(%)同士の差が少なくとも10%未満であることが好ましい。その数値が上述した空隙率同士の差の上限値である。なお、前記空隙率ε(%)同士の差は5%以下であることがより好ましい。もしくは、任意の2点での圧力損失同士の差が1000Pa/m未満であることが好ましい。その数値が上述した圧力損失同士の差の上限値である。なお、前記圧力損失同士の差は500Pa/m以下であることがより好ましい。
【0034】
ステップS3での調整工程の説明に戻る。第一箇所のスラグの粒度の調整は、例えば、当該スラグに細粒スラグを追加あるいは混合することによって行う。上記のスラグに対し、追加あるいは混合する細粒スラグの量は、当該細粒スラグの量と、スラグの空隙率との関係を定めたマップを予め用意しておき、当該マップを使用して求めることができる。細粒スラグは仮置き場に集積されているスラグであってよい。
【0035】
第一箇所のスラグの締まり具合を調整する場合について説明する。上述した二箇所のうち、第二箇所のスラグよりも空隙率の大きい第一箇所のスラグに対して、例えば、仮置き場において、重機や転圧機などによって転圧する。スラグの締まり具合は、重機や転圧機によってスラグを転圧した際の油圧値や、このような作業の前後でのスラグの堆積物の高さの変化に基づいて判断することができる。すなわち、上記の油圧値や、仮置き場でのスラグの堆積物の高さの変化量が増大すると、それに伴って、スラグの締まり具合や空隙率が減少する。そのため、上述した油圧値や堆積物の高さの変化と、スラグの締まり具合つまり空隙率との関係を定めたマップを予め用意しておき、そのマップを使用してスラグの締まり具合を判断し、また調整することができる。または、上述した二箇所のスラグを互いに隣接してエージング処理施設1に積み付けて堆積物3を形成し、当該堆積物3において、第一箇所のスラグを積み付けた箇所に対して、上記のようにして転圧を行ってスラグの締まり具合を調整してもよい。
【0036】
次いで、堆積物3に水蒸気を供給して所定時間、エージングを行い(ステップS4、エージング工程)、その後、製品として出荷する(ステップS5、出荷工程)。
【0037】
したがって、第1実施形態によれば、仮置き場の互いに異なる箇所に載置されているスラグの粒度や空隙率にバラツキがある場合であっても、エージング処理施設1,10に形成された堆積物3全体として、スラグの空隙率のバラツキを低減することができる。そのため、堆積物3全体として水蒸気が抜けにくくなり、スラグのエージングのバラツキを低減することができる。また、エージング後のスラグを使用した製品の膨張を抑制することができる。さらに、水蒸気のロス、すなわち、エネルギのロスを低減することができる。
【0038】
(第2実施形態)
図7は、本発明の第2実施形態に係るスラグのエージング方法を説明するフローチャートである。
図7に示す例は、エージング処理施設1に積み付ける前のスラグの粒度や締まり具合を調整することに代えて、堆積物3を形成しているスラグの粒度や締まり具合を調整することによって、堆積物3全体としてスラグの空隙率のバラツキを低減する例である。なお、
図7において、
図4に示す工程と同様の工程については、
図4と同様の符号を付してその説明を省略する。
【0039】
図7に示す例では、ステップS1に続いて、運搬車によって仮置き場からエージング処理施設1にスラグが搬送され、エージング処理施設1にスラグが積み付けられる。ある程度の大きさの堆積物3が形成されると、当該堆積物3において、互いに異なる少なくとも二箇所からスラグのサンプリングを行い、サンプリングした各スラグの粒度と空隙率との少なくとも一方を算出する(ステップS2,算出工程)。なお、スラグの粒度および空隙率の算出方法は、上述したステップS2での算出方法と同様であってよい。
【0040】
堆積物3からのスラグのサンプリングにおいては、堆積物3の水平方向において一定の間隔毎(例えば2m間隔毎)にサンプリングを行うことが好ましい。また、互いに異なる2つのサンプリング点のうち、少なくとも一つのサンプリング点は、
図1に示すエージング処理施設1の例では、堆積物3の外周部
5であることが好ましい。また、
図2及び
図3に示すエージング処理施設10の例では、壁11a,11b,11c付近や、堆積物3における開口部12に面する傾斜面付近であることが好ましい。これは、それらの箇所では、上述したように、粒度の大きいスラグが集まる傾向があり、そのために、水蒸気が抜けやすい傾向があるためである。
【0041】
ステップS2で算出したスラグの粒度や空隙率に基づいて、前記二箇所のうち、第二箇所よりもスラグの粒度や空隙率の大きい第一箇所のスラグの粒度と締まり具合とのうちの少なくとも一方を調整する(ステップS6、第2調整工程)。ステップS6でのスラグの粒度を調整する場合について説明する。第1実施形態と同様に、ステップS2で算出したスラグの粒度と空隙率との少なくとも一方に基づいて、前記二箇所のスラグの空隙率や圧力損失の差をそれぞれ算出する。また、ステップS2で算出した二箇所のスラグの粒度および空隙率を比較して、粒度および空隙率の値が大きい方を第一箇所とする。次いで、それらの空隙率同士の差や圧力損失同士の差が上述した上限値を超えるか否かを判定する。前記二箇所での空隙率同士の差や圧力損失同士の差がそれらの上限値を超える場合には、それらの上限値未満となるように、第一箇所に載置されているスラグの粒度を調整する。
【0042】
具体的には、第一箇所を含む所定範囲のスラグを掘り起こし、当該掘り起こしたスラグに細粒スラグを追加あるいは混合する。上記の掘り起こしたスラグに対し、追加あるいは混合する細粒スラグの量は、当該細粒スラグの量と、スラグの空隙率との関係を定めたマップを予め用意しておき、当該マップを使用して求めることができる。細粒スラグは仮置き場に集積されているスラグであってよい。また、細粒スラグの追加あるいは混合は、上述した重機によって行ってもよく、あるいは、手作業によって行ってもよい。
【0043】
ステップS6でのスラグの締まり具合を調整する場合について説明する。上述した二箇所のうち、第二箇所のスラグよりも空隙率の大きい第一箇所のスラグに対して、例えば、重機や転圧機などによって転圧する。スラグの締まり具合は、重機や転圧機によってスラグを転圧した際の油圧値や、このような作業の前後でのスラグの堆積物の高さの変化に基づいて判断することができる。すなわち、上記の油圧値や、仮置き場でのスラグの堆積物の高さの変化量が増大すると、それに伴って、スラグの締まり具合つまり空隙率が減少する。そのため、上述した油圧値や堆積物の高さの変化と、スラグの締まり具合つまり空隙率との関係を定めたマップを予め用意しておき、そのマップを使用してスラグの締まり具合を判断し、また調整することができる。
【0044】
次いで、堆積物3に水蒸気を供給して所定時間、エージングを行い(ステップS4、エージング工程)、その後、製品として出荷する(ステップS5、出荷工程)。
【0045】
したがって、互いに粒度や空隙率にバラツキがあるスラグをエージング処理施設1に積み付けて堆積物3を形成した場合であっても、上述した調整を行うことによって堆積物3全体として、スラグの空隙率のバラツキを低減することができる。そのため、堆積物3全体として水蒸気が抜けにくくなり、スラグのエージングのバラツキを低減することができる。また、エージング後のスラグを使用した製品の膨張を抑制することができる。さらに、水蒸気のロス、すなわち、エネルギのロスを低減することができる。すなわち、第2実施形態であっても、第1実施形態と同様の作用・効果を得ることができる。
【0046】
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されない。エージング処理施設1,10にスラグを積み付けて、堆積物3を形成した場合に、粒度偏析によって水蒸気の抜けやすい箇所は上述したように、ほぼ決まっている。そのため、堆積物3で水蒸気の抜けやすい箇所、例えば、外周部5に細粒スラグを積み付けて堆積物3全体としてスラグの空隙率のバラツキを抑制してもよい。具体的には、堆積物3を形成した後における、当該外周部5でのスラグの平均粒径と、それ以外の箇所でのスラグの平均粒径とが同程度となるように、積み付ける前において外周部5に積み付けるスラグの平均粒径を調整する。つまり、外周部5に積み付けるスラグの平均粒径を、前記外周部5以外に積み付けるスラグの平均粒径以下に調整する。そして、調整後のスラグを外周部5に積み付けることによって、外周部5のスラグの平均粒径と、それ以外の箇所でのスラグの平均粒径とが同程度となるようにする。こうすることによっても上述した各実施形態とほぼ同様の作用・効果を得ることができる。
【0047】
また、各実施形態において、エージング処理施設1,10に積み付けるスラグに対する細粒スラグの追加あるいは混合と、エージング処理施設1,10に積み付けるスラグの締まり具合の調整との両方を行って、堆積物3全体のスラグの空隙率の調整を行ってもよい。さらに、エージング処理施設1,10にスラグを積み付ける時の重機や人為的な操作によって、当該スラグの締まり具合が前記スラグをサンプリングした時点と比較して変化する場合がある。その場合には、前記スラグを積み付ける時に、スラグを転圧(締め固める)し、あるいは、細粒スラグを追加して空隙率を調整してよい。こうすることによって、積み付け時の重機や人為的な操作によるスラグの締まり具合つまり空隙率の変化を抑制することができる。
【0048】
また、第1実施形態では、エージング処理施設1に積み付ける前のスラグ同士の粒度および空隙率を比較し、第2実施形態では、堆積物を形成している積み付けた後のスラグ同士の粒度および空隙率を比較していた。しかし、積み付ける前のスラグと積み付けた後のスラグの両方をそれぞれサンプリングし、積み付ける前のスラグと積み付けた後のスラグの粒度および空隙率を比較する構成としてもよい。こうすることによっても、堆積物3全体として、スラグの空隙率のバラツキを低減することができる。
【0049】
(第1実施例)
次いで、本発明の効果を確認するために行った実施例について説明する。実施例では、運搬車によってエージング処理設備にスラグを搬送する際に、搬送するスラグ、50トン毎にサンプリングを実施してスラグの粒度および空隙率を測定した。そして、サンプリングしたスラグの空隙率同士の差や圧力損失同士の差が前記上限値未満となるように、上述したようにしてスラグの粒度や締まり具合や空隙率の調整を行った。なお、スラグの空隙率は、JIS A 1214に規定されている砂置換法によって算出した。そして、各サンプルの最大空隙率差、推定水蒸気流入量比(ロット内の最大空隙率と最小空隙率の時の推定値)、ロット平均膨張率、および、当該ロット平均膨張率の標準偏差をそれぞれ表1にまとめて示してある。
【0050】
【0051】
上記の最大空隙率差とは、同一ロット内において、スラグの空隙率の最大値と最小値との差を意味している。また、推定水蒸気量比とは、同一ロット内において、空隙率が最大の箇所に流入する水蒸気の流入量の最大値(以下、最大流入量と記す。)と、空隙率が最小の箇所に流入する水蒸気の流入量の最小値(以下、最小流入量と記す。)との比であって、最小流入量によって最大流入量を除算した値である。スラグの膨張特性はJIS A 5015に規定されている方法に従って測定した。
【0052】
比較例1ないし3では、スラグのサンプリングを実施した後、スラグの粒度の調整や締まり具合や空隙率の調整を行わなかった以外は、実施例1ないし6と同様に堆積物を形成した。つまり、比較例1ないし3では、エージング処理施設に単にスラグを積み付け、その状態でエージング処理を実施した。なお、実施例1~6と、比較例1~3とでは、スラグのロットが互いに異なる。
【0053】
(評価)
比較例1~3では、空隙率の調整を行わずにエージング処理を実施したため、スラグのエージングにバラツキが生じ、ロット平均膨張率と、当該ロット平均膨張率の標準偏差とがいずれも実施例1~6よりも大きくなった。また、推定水蒸気量比は最大で10ポイント以上の差があった。すなわち、スラグの積み付け箇所によって水蒸気の流入量に大きな差があり、そのために、水蒸気のロスが多いことが認められた。
【0054】
一方で、実施例1~3では、表1に示すように、最大空隙率差が5%程度であるため、比較例1~3と比較して、ロット平均膨張率(%)のバラツキが低減されている。また、推定水蒸気量比も小さくなった。実施例4~6では、最大空隙率差が10%程度であるため、実施例1~3よりもロット平均膨張率(%)のバラツキや、ロット平均膨張率はやや高くなった。しかしながら、比較例1~3と比較して、ロット平均膨張率(%)のバラツキが低減されており、また、推定水蒸気量比も小さくなった。このように、実施例1~6では、比較例1~3と比較して、堆積物3全体にほぼ均一に水蒸気を供給することができるから、スラグのエージングのバラツキを低減して当該エージング後のスラグを使用した製品の膨張を抑制することができる。
【符号の説明】
【0055】
1,10 エージング処理施設
2 浸透層
3 堆積物
4 蒸気管
5 堆積物の外周部
6 堆積物の中央部
11a,11b,11c 壁
12 開口部