(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033872
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/14 20060101AFI20240306BHJP
B60W 30/188 20120101ALI20240306BHJP
B60L 15/20 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
B60W30/14
B60W30/188
B60L15/20 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137762
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】山本 真由
(72)【発明者】
【氏名】野口 真子
【テーマコード(参考)】
3D241
5H125
【Fターム(参考)】
3D241BA01
3D241BB22
3D241BC01
3D241CC01
3D241CC08
3D241CD28
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3D241DA39Z
3D241DB02Z
3D241DB05Z
3D241DB32Z
3D241DB46Z
3D241DC45Z
5H125AA01
5H125BA00
5H125CA01
5H125CA11
5H125DD01
5H125DD06
5H125EE44
5H125EE52
5H125EE55
5H125EE57
5H125EE62
(57)【要約】
【課題】外乱の影響によって車両が停止した場合であっても車両を早期に発進させることができるようにすること。
【解決手段】運転支援装置60の実行装置62は、車両10が停止している場合に、車両10の停止中における駆動力よりも大きい駆動力である初期駆動力を、路面の勾配及び車両10の重量の何れか一方又は両方に基づいて導出する。実行装置62は、車両10が停止している場合に車両10の駆動力として初期駆動力を設定することにより、車両10の発進を促す発進時制御を実施する。実行装置62は、発進時制御の実施時間が所定の設定時間に達しても車両10が発進しない場合、車両10の駆動力を初期駆動力よりも大きくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行している場合に、当該車両の車体速度と目標車体速度との偏差に基づいたフィードバック制御によって、当該車両の駆動力及び制動力を調整する定速制御を実施する指令部と、
前記車両が停止している場合に、当該車両の停止中における駆動力よりも大きい駆動力である初期駆動力を、当該車両が位置する路面の勾配及び当該車両の重量の何れか一方又は両方に基づいて導出する初期駆動力導出部と、を備え、
前記指令部は、
前記車両の駆動力として前記初期駆動力を設定することにより、当該車両の発進を促す発進時制御を開始し、
前記発進時制御の実施時間が所定の設定時間に達しても前記車両が発進しない場合、前記車両の駆動力を前記初期駆動力よりも大きくする
運転支援装置。
【請求項2】
前記指令部は、前記発進時制御の実施時間が前記設定時間に達しても前記車両が発進しない場合、前記発進時制御を終了して前記定速制御を開始することにより、前記車両の駆動力を前記初期駆動力よりも大きくする
請求項1に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者の車両操作を支援する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、車両の駐車を支援する駐車支援装置を開示している。当該装置は、運転者の運転操作によって車両を目標駐車位置に駐車させる場合に、当該目標駐車位置までの車両の移動経路上の所定位置における車両の駆動力を記憶する記憶部を備えている。そして、当該装置は、記憶部が駆動力を記憶している状態で車両を目標駐車位置に自動で駐車させる場合、記憶部に記憶された駆動力を利用して車両を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の車体速度を自動で調整する支援機能によって車両を走行させる場合、車体速度の目標値が低いと、車両の駆動力はあまり大きくない。そのため、車輪が段差に接触したり、車両の走行する路面の勾配が急勾配になったりすると、車両が停止してしまうことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための運転支援装置は、車両が走行している場合に、当該車両の車体速度と目標車体速度との偏差に基づいたフィードバック制御によって、当該車両の駆動力及び制動力を調整する定速制御を実施する指令部と、前記車両が停止している場合に、当該車両の停止中における駆動力よりも大きい駆動力である初期駆動力を、当該車両が位置する路面の勾配及び当該車両の重量の何れか一方又は両方に基づいて導出する初期駆動力導出部と、を備えている。前記指令部は、前記車両の駆動力として前記初期駆動力を設定することにより、当該車両の発進を促す発進時制御を開始し、前記発進時制御の実施時間が所定の設定時間に達しても前記車両が発進しない場合、前記車両の駆動力を前記初期駆動力よりも大きくする。
【0006】
上記運転支援装置は、車両が停止している場合に、発進時制御によって初期駆動力を車両の駆動力として設定する。これにより、車両の実際の駆動力を早期に大きくできる。その結果、上記の外乱の影響によって車両が停止した場合であっても車両を早期に発進させることができる。
【0007】
また、上記運転支援装置は、発進時制御の実施時間が設定時間に達しても車両が発進しない場合には、車両の駆動力を初期駆動力よりも増大させる。これにより、車両を発進させることができる。
【0008】
そして、上記運転支援装置は、車両が発進すると、定速制御によって車体速度を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態の運転支援装置を備える車両の概略を示す構成図である。
【
図2】
図2は、駐車位置に向けて車両が低速で走行する様子を示す模式図である。
【
図3】
図3は、同運転支援装置で実行される処理ルーチンを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、駐車位置に向けて車両が低速で自動走行する際における各種のパラメータの推移を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、運転支援装置の一実施形態を
図1~
図4に従って説明する。
図1は、運転支援装置60を備える車両10の一部を図示している。
<車両の構成>
車両10は、車輪として前輪11及び後輪12を備えている。車両10は、車輪と同数の摩擦ブレーキ20と、制動装置30と、駆動装置40とを備えている。1つの車輪に対して1つの摩擦ブレーキ20が設けられている。
【0011】
複数の摩擦ブレーキ20は、回転体21と摩擦部22とホイールシリンダ23とをそれぞれ有している。回転体21は車輪と一体に回転するため、摩擦ブレーキ20は、摩擦部22を回転体21に押し付けることによって車輪に制動力を付与できる。ホイールシリンダ23内の液圧が高いほど、摩擦部22を回転体21に押し付ける力が大きくなる。すなわち、ホイールシリンダ23内の液圧が高いほど、車輪に付与される制動力が大きくなる。
【0012】
制動装置30は、制動アクチュエータ31と、制動アクチュエータ31を制御する制動制御部32とを有している。制動アクチュエータ31は、複数のホイールシリンダ23内の液圧を個別に調整できるように構成されている。
【0013】
制動制御部32は、制動アクチュエータ31を作動させることによって車両10の制動力を制御する。制動制御部32は、車内ネットワークを介して運転支援装置60と通信できる。例えば、制動制御部32は、車両10の制動力の指示値である制動力指示値FbRを運転支援装置60から受信した場合、制動力指示値FbRに基づいて制動アクチュエータ31を作動させる。
【0014】
駆動装置40は、パワーユニット41と、パワーユニット41を制御する駆動制御部42とを有している。パワーユニット41は、エンジン及び電気モータのうちの少なくとも一方を車両10の動力源として有している。車両10では、パワーユニット41の出力トルクが前輪11に伝達される。なお、パワーユニット41の出力トルクは、前輪11及び後輪12のうちの少なくとも一方に伝達されればよい。
【0015】
駆動制御部42は、パワーユニット41を作動させることによって車両10の駆動力を制御する。駆動制御部42は、車内ネットワークを介して運転支援装置60と通信できる。例えば、駆動制御部42は、車両10の駆動力の指示値である駆動力指示値FdRを運転支援装置60から受信した場合、駆動力指示値FdRに基づいてパワーユニット41を作動させる。
【0016】
<車両の検出系>
車両10の検出系は、複数のセンサを備えている。複数のセンサは、車輪と同数の車輪速度センサ51と、前後加速度センサ52と、ブレーキスイッチ53とを含んでいる。複数の車輪速度センサ51は、対応する車輪の回転速度をそれぞれ検出する。前後加速度センサ52は、車両10の前後加速度を検出する。ブレーキスイッチ53は、運転者が制動操作部材15を操作しているか否かを示す信号を出力する。制動操作部材15は、例えば、ブレーキペダルである。車輪速度センサ51の検出値に基づいた車輪の回転速度を「車輪速度VW」という。前後加速度センサ52の検出値に基づいた前後加速度を「前後加速度GX」という。運転者の制動操作部材15の操作を「制動操作」ともいう。
【0017】
<運転支援装置>
運転支援装置60は、運転者の車両操作を支援する機能を有している。ここでいう「車両操作」は、アクセル操作、制動操作及びステアリング操作を含んでいる。例えば、運転支援装置60は、車両10の低速での自動走行を行わせる支援機能を有している。こうした支援機能は、車両10を駐車位置に駐車させる際などに用いられる。ここでいう「車両10の低速走行」とは、例えば10km/h未満での車両10の走行である。また、「自動走行」とは、車両10の車体速度を車両10側で調整する状態での車両10の走行である。
【0018】
運転支援装置60は処理回路61を備えている。処理回路61は、実行装置62と記憶装置63とを有している。例えば、実行装置62はCPUである。記憶装置63は、実行装置62によって実行される各種の制御プログラムを記憶している。実行装置62は、上記の支援機能を実現する際に、駆動力指示値FdRを駆動制御部42に送信したり、制動力指示値FbRを制動制御部32に送信したりする。
【0019】
実行装置62は、制御プログラムを実行することにより、初期駆動力導出部M11及び指令部M12として機能する。初期駆動力導出部M11及び指令部M12は、上記の支援機能を実現するための機能部である。
【0020】
<初期駆動力導出部>
初期駆動力導出部M11は、車両10が停止している場合に、車両10の停止中における駆動力Fdよりも大きい駆動力である初期駆動力FdFを、車両10が位置する路面の勾配及び車両10の重量に基づいて導出する。例えば、車両10の駆動力は、パワーユニット41の発生するトルクである。
【0021】
初期駆動力導出部M11は、車両10の重量が大きいほど大きい駆動力を初期駆動力FdFとして導出する。また、初期駆動力導出部M11は、路面が登坂路である場合には、路面が登坂路ではない場合よりも大きい駆動力を初期駆動力FdFとして導出する。さらに、初期駆動力導出部M11は、路面が登坂路である場合、路面の勾配が急勾配であるほど大きい駆動力を初期駆動力FdFとして導出するとよい。
【0022】
なお、初期駆動力導出部M11は、車両10が停止している場合における前後加速度GXを基に、路面の勾配θを導出できる。また例えば、初期駆動力導出部M11は、車両10の車体重量と、車両10に搭乗している乗員の人数とを基に、車両10の重量WGを導出できる。車体重量とは、車両10そのものの重量である。ここでいう車両10の重量WGは、乗員の体重なども加味した重量である。
【0023】
例えば、初期駆動力導出部M11は、以下の関係式(A1)を用いることによって初期駆動力FdFを導出できる。
FdF=FdI+FdA(θ)+FdB(WG) ・・・(A1)
関係式(A1)において、「FdI」は、車両10の停止している場合の停止時駆動力である。車両10が、動力源としてエンジンのみを有するコンベンショナルな車両である場合、エンジンのアイドル運転時のトルクに応じた駆動力が、停止時駆動力FdIに相当する。
【0024】
関係式(A1)において、「FdA(θ)」は、路面の勾配θに応じた駆動力の補正量である。勾配θが登坂路を示す値である場合の補正量FdA(θ)は、勾配θが水平路を示す値であったり、勾配θが降坂路を示す値であったりする場合よりも大きい。勾配θが登坂路を示す値である場合であっても、勾配θが示す登坂路の傾斜度合いが大きいほど、補正量FdA(θ)は大きくなる。例えば、補正量FdA(θ)は、「Sin(θ)×KA1」として表すことができる。この場合、「KA1」は所定の係数である。
【0025】
関係式(式1)において、「FdB(WG)」は、車両10の重量WGに応じた駆動力の補正量である。補正量FdB(WG)は、重量WGが大きいほど大きくなる。例えば、補正量FdB(WG)は、「WG×KB1」として表すことができる。この場合、「KB1」は所定の係数である。
【0026】
<指令部>
指令部M12は、車両10の車体速度VSと目標車体速度VSTrとの偏差に基づいたフィードバック制御によって、車両10の駆動力及び制動力を調整する定速制御を実施する。フィードバック制御は、例えば、PID制御又はPI制御である。車体速度VSは、複数の車輪の車輪速度VWのうちの少なくとも1つに基づいて導出される。目標車体速度VSTrとして、上記した10km/h未満の速度が設定されている。
【0027】
指令部M12は、上記の支援機能によって車両10の車体速度VSを調整しているときに車両10が停止している場合、車両10の発進を促す発進時制御を開始する。指令部M12は、発進時制御において、駆動力指示値FdRとして初期駆動力FdFを設定する。
【0028】
ここで、
図2に示すように車両10の走行経路100に段差101が存在することがある。上記発進時制御が実施されている場合に、前輪11及び後輪12のうち、車両10の進行方向に位置する車輪である先行輪が段差101に接触すると、先行輪が段差101を乗り越えられず、車両10が発進できなかったり、低速で走行していた車両10が停止したりすることがある。
図2に示す例のように車両10が後退している場合、車両10の後方が車両10の進行方向となるため、後輪12が先行輪に対応し、前輪11が後続輪に対応する。一方、車両10が前進している場合、車両10の前方が車両10の進行方向となるため、前輪11が先行輪に対応し、後輪12が後続輪に対応する。
【0029】
そこで、指令部M12は、発進時制御の実施時間TMが所定の設定時間TMthに達しても車両10が発進しない場合、駆動力指示値FdRを初期駆動力FdFよりも大きくする。具体的には、指令部M12は、発進時制御を終了して定速制御を開始することにより、駆動力指示値FdRを初期駆動力FdFよりも大きくする。
【0030】
一方、発進時制御の実施時間TMが設定時間TMthに達する前に、車両10が発進することもある。この場合、指令部M12は、発進時制御を終了して定速制御を開始する。
<走行支援処理>
図3を参照し、上記支援機能によって車両10を低速で自動走行させる際に実行装置62が実行する走行支援処理を示す処理ルーチンについて説明する。
【0031】
実行装置62は、上記の支援機能の実行条件が成立していると判定している場合、所定の制御サイクル毎に本処理ルーチンを繰り返し実行する。例えば、実行装置62は、上記の支援機能をオンとする操作を運転者が行った場合、及び、所定の駐車位置に車両10を駐車させようと運転者が車両操作を開始したことを検知した場合などに、実行条件が成立していると判定する。
【0032】
ステップS11において、実行装置62は、車両10が停止しているか否かを判定する。実行装置62は、車体速度VSを基に車両10が停止しているか否かを判定できる。実行装置62は、車両10が停止していると判定した場合(S11:YES)、処理をステップS13に移行する。一方、実行装置62は、車両10が停止していないと判定した場合(S11:NO)、処理をステップS21に移行する。
【0033】
ステップS13において、実行装置62は、初期駆動力導出部M11として機能することにより、初期駆動力FdFを導出する。初期駆動力FdFを導出するために実行装置62が実行する処理を、「初期駆動力導出処理」ともいう。実行装置62は、初期駆動力FdFを導出すると、処理をステップS15に移行する。
【0034】
ステップS15において、実行装置62は、ブレーキスイッチ53の出力信号を基に、制動操作が行われているか否かを判定する。制動操作が行われている場合は、車両10を発進させる意志を運転者が有していないと見なす。一方、制動操作が行われていない場合は、車両10を発進させる意志を運転者が有していると見なす。そのため、実行装置62は、制動操作が行われていると判定した場合(S15:YES)、本処理ルーチンを一旦終了する。一方、実行装置62は、制動操作が行われていないと判定した場合(S15:NO)、処理をステップS17に移行する。
【0035】
ステップS17において、実行装置62は、発進時制御の実施時間TMが設定時間TMth以上になったか否かを判定する。ここでいう「実施時間TM」は、発進時制御の継続時間である。実行装置62は、実施時間TMが設定時間TMth以上である場合(S17:YES)、処理をステップS21に移行する。一方、実行装置62は、実施時間TMが設定時間TMth未満である場合(S17:NO)、処理をステップS19に移行する。
【0036】
ステップS19において、実行装置62は、指令部M12として機能することにより、発進時制御を実施する。具体的には、実行装置62は、制動力指示値FbRとして0(零)を設定した上で、駆動力指示値FdRとして初期駆動力FdFを設定する。そして、実行装置62は、制動力指示値FbRを制動制御部32に送信し、且つ駆動力指示値FdRを駆動制御部42に送信する。ステップS19で実行装置62が実行する処理を「発進時処理」ともいう。実行装置62は、指示値FdR,FbRを送信すると、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0037】
ステップS21において、実行装置62は、指令部M12として機能することにより、定速制御を実施する。すなわち、実行装置62は、車両10が走行している場合に定速制御を実施する。また、実行装置62は、発進時制御の実施時間TMが設定時間TMth以上になると、制御を発進時制御から定速制御に切り替える。定速制御において、実行装置62は、車体速度VSと目標車体速度VSTrとの偏差を入力とするフィードバック制御によって制御量を導出する。この制御量を「FB制御量」という。実行装置62は、FB制御量に基づいて駆動力指示値FdR及び制動力指示値FbRを導出する。例えば先行輪が段差101を乗り越えられず、車体速度VSが目標車体速度VSTrを大きく下回っている場合、実行装置62は、フィードバック制御を実施することにより、駆動力指示値FdRを増大させる。実行装置62は、駆動力指示値FdRを駆動制御部42に送信し、且つ制動力指示値FbRを制動制御部32に送信する。実行装置62は、指示値FdR,FbRを送信すると、本処理ルーチンを一旦終了する。
【0038】
<作用及び効果>
図2及び
図4を参照し、運転支援装置60の作用及び効果について説明する。
本例では、車両10が後退している状況下で後輪12(先行輪)が段差101に接触した際に運転者が制動操作を行ったため、車両10に制動力が付与される。これにより、後輪12が段差101に接触した状態で車両10が停止する。なお、
図4の(C)において、実線は、運転者の制動操作によって車両10に付与される制動力FbSの推移を示す一方、破線は、制動力指示値FbRの推移、若しくは制動力指示値FbRに応じて制御される車両10の制動力Fbの推移を示している。
【0039】
図4に示すように、タイミングt11以前では、運転者が制動操作を行っているため、車両10が停止している。この状態での駆動力指示値FdRは、アイドル時の駆動力となる。例えば車両10が、動力源としてエンジンのみを備えるコンベンショナルな車両である場合、エンジンのアイドル運転時のトルクに応じた駆動力が、アイドル時の駆動力に対応する。
【0040】
本例では、タイミングt11で運転者の制動操作が解除されても、車両10の駆動力Fdが小さいため、後輪12が段差101を乗り越えられない。その結果、車両10の停止が維持される。このように車両10が発進しないと、発進時制御が開始される。発進時制御では、駆動力指示値FdRとして初期駆動力FdFが設定される。初期駆動力FdFは、路面の勾配θ及び車両10の重量WGに基づいて導出された駆動力である。そのため、初期駆動力FdFは、タイミングt11以前の駆動力(すなわち、上記アイドル時の駆動力)よりも大きい。
【0041】
このように駆動力指示値FdRとして初期駆動力FdFが設定された状態の継続時間が所定の設定時間TMthに達しても車両10を発進させることができないと、初期駆動力FdFよりも大きい駆動力が駆動力指示値FdRとして設定されるようになる。
図4に示す例では、タイミングt12が、タイミングt11から設定時間TMthが経過した時点である。
【0042】
運転支援装置60では、タイミングt12で、制御が発進時制御から定速制御に切り替わる。定速制御では、フィードバック制御によって駆動力指示値FdR及び制動力指示値FbRが導出される。タイミングt12では車体速度VSが目標車体速度VSTrよりも低い。そのため、制御を発進時制御から定速制御に切り替えることにより、駆動力指示値FdRを初期駆動力FdFから増大させることができる。
【0043】
すると、定速制御の実施中のタイミングt13で、後輪12に段差101を乗り越えさせることのできる駆動力に、車両10の駆動力Fdが達する。その結果、後輪12が段差101を乗り越えるため、車両10が発進する。
【0044】
ここで、タイミングt11から発進時制御ではなく定速制御を実施する比較例について説明する。
図4の(A)の二点鎖線は、比較例の場合の車体速度VS0の推移を示している。また、
図4の(D)の二点鎖線は、比較例の場合の車両10の駆動力Fd0の推移を示している。目標車体速度VSTrが比較的低い車体速度に設定されているため、フィードバック制御のゲインとして比較的小さい値が設定される。そのため、タイミングt11から駆動力指示値FdRが、上記アイドル時の駆動力からゆっくりと増大される。その結果、タイミングt13よりも後のタイミングt14で、後輪12に段差101を乗り越えさせることのできる駆動力に、車両10の駆動力Fd0が達するため、車両10が発進する。
【0045】
これに対し、運転支援装置60では、車両10を発進させる意志を運転者が有していると判定されると、定速制御ではなく発進時制御が開始される。そして、運転支援装置60は、発進時制御を実施しても車両10を発進させることができない場合、駆動力指示値FdRを初期駆動力FdFから増大させる。これにより、後輪12に段差101を乗り越えさせることのできる駆動力まで車両10の駆動力Fdを早期に増大させることができる。これにより、外乱の一例である段差101の影響によって車両10が停止していた場合であっても車両10を早期に発進させることができる。
【0046】
なお、
図4に示す例では、定速制御の実施中のタイミングt15で、後続輪である前輪11が段差101に接触する。すると、車体速度VSが低下するため、フィードバック制御によって駆動力指示値FdRが増大される。その結果、駆動力指示値FdRの増大に従って車両10の駆動力Fdが増大されるため、タイミングt16で前輪11の段差101の乗り越えが完了する。
【0047】
その後のタイミングt17で目標の駐車位置に車両10が到達するため、運転者が制動操作を開始する。すると、制動操作に起因する制動力FbSが車両10に付与されるため、車両10が停止する。
【0048】
なお、運転支援装置60では、以下の効果をさらに得ることができる。
(1)発進時制御の実施中に、車両10を発進させることができることがある。車両10の発進後も発進時制御が継続されていると、車体速度VSが目標車体速度VSTrを大きく上回ってしまうおそれがある。この点、運転支援装置60では、発進時制御の実施時間TMが設定時間TMthに達する前に車両10が発進すると、発進時制御が終了されて定速制御が開始される。このように定速制御が開始されると、車体速度VSと目標車体速度VSTrとの偏差を入力とするフィードバック制御によって駆動力指示値FdRだけではなく制動力指示値FbRも導出されるようになる。その結果、車体速度VSが目標車体速度VSTrを大きく上回ることを抑制できる。
【0049】
(2)車輪に段差101を乗り越えさせる際に運転者がアクセル操作を行わなくても、運転者は車両10を速やかに発進させることができる。そのため、車両10の発進待ちによるストレスを運転者に与えることを抑制できる。また、運転者の余分なアクセル操作や制動操作を抑制できる。
【0050】
<変更例>
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0051】
・発進時制御の実施中に車両10が発進した場合であっても、発進時制御の実施時間が設定時間TMthに達するまでは、発進時制御の実施を継続するようにしてもよい。この場合、車両10の発進後から、制御が発進時制御から定速制御に切り替わる時点までは、制動力指示値FbRを調整することによって車体速度VSが目標車体速度VSTrから乖離することを抑制するとよい。これにより、車両10の発進後に車体速度VSが目標車体速度VSTrを大幅に上回ることを抑制できる。
【0052】
・発進時制御の実施時間が設定時間TMthに達しても車両10を発進させることができない場合、駆動力指示値FdRを初期駆動力FdFよりも大きくできるのであれば、制御を発進時制御から定速制御に切り替えなくてもよい。例えば、発進時制御の実施時間が設定時間TMthに達した時点から、車両10が発進するまでの期間では、所定の増大速度で駆動力指示値FdRを増大させるようにしてもよい。この場合、実行装置62は、こうした駆動力指示値FdRの増大によって車両10が発進したことを契機に定速制御を開始するとよい。
【0053】
・車両10の先行輪が段差101を乗り越えた後において後続輪が段差101を乗り越えられないで車両10が停止してしまうことがある。このように後続輪が段差101に接触して車両10が停止した場合に、定速制御を中断して発進時制御を開始するようにしてもよい。この場合であっても、発進時制御の実施によって後続輪が段差101を乗り越えると、発進時制御が終了されて定速制御が開始される。
【0054】
・実行装置62は、路面の勾配θ及び車両10の重量WG以外の情報も考慮して初期駆動力FdFを導出してもよい。例えば、実行装置62は、ステアリング操作量にも基づいて初期駆動力FdFを導出してもよいし、外気温にも基づいて初期駆動力FdFを導出してもよい。また、実行装置62は、ナビゲーション装置からの情報にも基づいて初期駆動力FdFを導出してもよいし、カメラなどの撮像装置が撮像した画像の解析結果にも基づいて初期駆動力FdFを導出してもよい。
【0055】
・実行装置62は、路面の勾配θ及び車両10の重量WGの何れか一方に基づいて初期駆動力FdFを導出してもよい。例えば、実行装置62は、勾配θに応じた駆動力の補正量FdA(θ)を用いずに初期駆動力FdFを導出してもよい。また例えば、実行装置62は、重量WGに応じた駆動力の補正量FdB(WG)を用いずに初期駆動力FdFを導出してもよい。
【0056】
・実行装置62は、路面の勾配θに応じた駆動力の補正量FdA(θ)を、勾配θ及び車両10の重量WGの両方から導出してもよい。例えば、補正量FdA(θ)を、「Sin(θ)×WG×KA2」で表してもよい。この場合、「KA2」は所定の係数である。
【0057】
・定速制御を実施している場合に目標車体速度VSTrを変更してもよい。例えば、車両10の後続輪が段差101を乗り越えたと判定できた場合には、後続輪が段差101を乗り越えたと判定できる以前よりも高い車体速度を目標車体速度VSTrとして設定するようにしてもよい。
【0058】
・上述した車両10を低速で自動走行させる支援機能を、車両10に駐車させる場合以外でも実現できるようにしてもよい。
・車両10の走行する路面を撮像できる撮像装置を車両10が搭載している場合、運転支援装置60は、撮像装置によって撮像された画像を解析することにより、車両10の走行経路に、段差101などの外乱が存在するか否かを把握できる。外乱は、走行路面の窪みであってもよいし、路面勾配が急変している部分であってもよい。運転支援装置60の実行装置62は、画像を解析することによって外乱の存在を検知できたことを契機に上記の支援機能を作動させるようにしてもよい。
【0059】
・運転支援装置60の処理回路61は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、処理回路61は、以下(a)~(c)の何れかの構成であればよい。
【0060】
(a)処理回路61は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0061】
(b)処理回路61は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0062】
(c)処理回路61は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【0063】
なお、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、所望の選択肢の「1つ以上」を意味する。一例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が2つであれば「1つの選択肢のみ」又は「2つの選択肢の双方」を意味する。他の例として、本明細書において使用される「少なくとも1つ」という表現は、選択肢の数が3つ以上であれば「1つの選択肢のみ」又は「2つ以上の任意の選択肢の組み合わせ」を意味する。
【0064】
<他の技術的思想>
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想を付記として記載する。
(付記1)車両の車体速度を自動で調整する運転支援装置であって、
前記車両が停止している場合に、当該車両の停止中における駆動力よりも大きい駆動力である初期駆動力を、当該車両が位置する路面の勾配及び当該車両の重量の何れか一方又は両方に基づいて導出する初期駆動力導出部と、
前記車両の駆動力として前記初期駆動力を設定することにより、当該車両の発進を促す発進時制御を実施する指令部と、を備え、
前記指令部は、前記発進時制御の実施時間が所定の設定時間に達しても前記車両が発進しない場合、前記車両の駆動力を前記初期駆動力よりも大きくする、運転支援装置。
【0065】
(付記2)前記指令部は、前記車両の車体速度と目標車体速度との偏差に基づいたフィードバック制御によって、当該車両の駆動力及び制動力を調整する定速制御を実施するものであり、
前記指令部は、前記発進時制御を実施することによって前記車両が発進した場合、前記発進時制御を終了して前記定速制御を実施することにより、前記車両の車体速度を調整する、付記1に記載の運転支援装置。
【符号の説明】
【0066】
10…車両
11…前輪
12…後輪
60…運転支援装置
62…実行装置
M11…初期駆動力導出部
M12…指令部