(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033875
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】医療用具の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61L 31/10 20060101AFI20240306BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20240306BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20240306BHJP
A61F 2/82 20130101ALI20240306BHJP
【FI】
A61L31/10
A61L31/14 400
A61L31/06
A61F2/82
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137766
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 博
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 昇
(72)【発明者】
【氏名】森 雄平
(72)【発明者】
【氏名】松下 周平
【テーマコード(参考)】
4C081
4C267
【Fターム(参考)】
4C081AC16
4C081BB01
4C081CA161
4C081CA162
4C081CA192
4C081CC02
4C081DA02
4C081DA04
4C081DA06
4C081DA15
4C081DB03
4C081DC12
4C081EA02
4C081EA06
4C267AA50
4C267BB06
4C267CC08
(57)【要約】
【課題】血栓を構成しうるタンパク質や細胞等の付着を効果的に抑制することができる医療用具の製造方法を提供する。
【解決手段】親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する共重合体と、該共重合体の良溶媒と、を混合して共重合体溶液を調製する溶液調製工程、前記共重合体溶液に前記共重合体の貧溶媒を加えて混合し、前記共重合体を分散させて懸濁液を調製する懸濁液調製工程、および前記懸濁液を基材の少なくとも一部に塗布する塗布工程をこの順に含む、医療用具の製造方法である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する共重合体と、該共重合体の良溶媒と、を混合して共重合体溶液を調製する溶液調製工程、
前記共重合体溶液に前記共重合体の貧溶媒を加えて混合し、前記共重合体を分散させて懸濁液を調製する懸濁液調製工程、および
前記懸濁液を基材の少なくとも一部に塗布する塗布工程をこの順に含む、医療用具の製造方法。
【請求項2】
前記懸濁液中の粒子の体積平均粒子径は、20nm以上170nm未満である、請求項1に記載の医療用具の製造方法。
【請求項3】
前記親水性ブロックは、ポリエチレングリコールブロック、メトキシポリエチレングリコールブロック、およびポリプロピレングリコールブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【請求項4】
前記疎水性ブロックは、ポリ乳酸ブロック、ポリグリコール酸ブロック、乳酸-グリコール酸共重合体ブロック、ポリカプロラクトンブロック、グリコール酸-カプロラクトン共重合体ブロック、およびポリヒドロキシ酪酸ブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【請求項5】
前記塗布工程は、前記基材を前記懸濁液に浸漬することにより行われ、浸漬時間は5時間以下である、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【請求項6】
前記良溶媒と前記貧溶媒との体積比は、1:9~4:6である、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【請求項7】
前記良溶媒は、アセトン、テトラヒドロフランおよびアセトニトリルからなる群から選択される少なくとも一種を含み、
前記貧溶媒は、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノールおよびtert-ブタノールからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【請求項8】
前記懸濁液中の前記共重合体の濃度は、1mg/mLを超え15mg/mL以下である、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【請求項9】
前記塗布工程の後に、前記懸濁液の乾燥工程をさらに含む、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥工程は、前記懸濁液が塗布された基材を40~80℃で乾燥させることを含む、請求項9に記載の医療用具の製造方法。
【請求項11】
前記基材の形状が、メッシュ状または糸状である、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【請求項12】
前記医療用具が、ステント、ドラッグエリューティングステントまたはステントグラフトである、請求項1または2に記載の医療用具の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管等の生体管腔における病変部位の治療方法として、カテーテルのような治療器具を経皮的に生体管腔に導入し、体内埋込型の医療器具であるステントを留置する治療方法が知られている。ステントは、主として血管等の管腔が狭窄もしくは閉塞することによって生じる様々な疾患を治療するために用いられる医療用具であり、狭窄部位または閉塞部位を拡張することで内腔を確保することができるように形成されている。具体的には、ステントは、径方向に収縮または拡張することができるように、その表面に隙間が形成されている。
【0003】
このようなステントを用いた治療を行う場合、プラークが存在する病変部位にステントを留置すると、プラークの一部がステントの隙間から血液中に移行し、末梢側の血管にトラップされて末梢血管を閉塞することがある。したがって、これを防止するため、ステントの隙間より小さな隙間を有する繊維状のメッシュ(マイクロメッシュ、ステントカバー)をステントに被せた構造を有する、所謂メッシュ付きのステント(ステントカバー付きステント)が知られている。
【0004】
また、メッシュ付きのステントの場合、メッシュによる表面積が増大するため、メッシュ付きステントを用いた治療では、ステントを留置した後、ステント表面に血栓が付着することがある。このような血栓の付着は、ステント留置術における予後不良の原因となる。
【0005】
このようなステント等の医療用具に対して血栓が付着することを防止するため、種々のコーティング技術が知られている。例えば、非特許文献1では、ポリ乳酸のフィルムに、ポリエチレングリコールブロックとポリ乳酸ブロックとの共重合体を含む塗布液を滴下して塗布(スピンコート)する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biomaterial Science, 2017, 5, 1130-1143, “Polymer brushes based on PLLA-b-PEO colloids for the preparation of protein resistant PLA surfaces”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に開示された技術により形成された被膜は、血栓を構成しうるタンパク質や細胞等の付着を抑制する効果を有することが期待される。
【0008】
しかしながら、患者への負担を軽減する目的から、タンパク質や細胞等の付着を抑制する効果をさらに向上させることができる技術が求められている。
【0009】
したがって、本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、血栓を構成しうるタンパク質や細胞等の付着を効果的に抑制することができる医療用具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の問題を解決すべく、鋭意研究を行った。その結果、特定の構造を有する共重合体と、該共重合体の良溶媒と、を混合して共重合体溶液を調製した後、上記共重合体の貧溶媒を加えて混合することにより懸濁液を調製し、これを塗布することにより、上記課題が解決されることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、上記諸目的は、下記の構成を有する本発明によって達成でき、本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0012】
本発明の一態様は、
1.親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する共重合体と、該共重合体の良溶媒と、を混合して共重合体溶液を調製する溶液調製工程、
前記共重合体溶液に前記共重合体の貧溶媒を加えて混合し、前記共重合体を分散させて懸濁液を調製する懸濁液調製工程、および
前記懸濁液を基材の少なくとも一部に塗布する塗布工程をこの順に含む、医療用具の製造方法である。
【0013】
2.上記1.に記載の医療用具の製造方法において、前記懸濁液中の粒子の体積平均粒子径は、20nm以上170nm未満であると好ましい。
【0014】
3.上記1.または2.に記載の医療用具の製造方法において、前記親水性ブロックは、ポリエチレングリコールブロック、メトキシポリエチレングリコールブロック、およびポリプロピレングリコールブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。
【0015】
4.上記1.~3.のいずれかに記載の医療用具の製造方法において、前記疎水性ブロックは、ポリ乳酸ブロック、ポリグリコール酸ブロック、乳酸-グリコール酸共重合体ブロック、ポリカプロラクトンブロック、グリコール酸-カプロラクトン共重合体ブロック、およびポリヒドロキシ酪酸ブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。
【0016】
5.上記1.~4.のいずれかに記載の医療用具の製造方法において、前記塗布工程は、前記基材を前記懸濁液に浸漬することにより行われ、浸漬時間は5時間以下であると好ましい。
【0017】
6.上記1.~5.のいずれかに記載の医療用具の製造方法において、前記良溶媒と前記貧溶媒との体積比は、1:9~4:6であると好ましい。
【0018】
7.上記1.~6.のいずれかに記載の医療用具の製造方法において、前記良溶媒は、アセトン、テトラヒドロフランおよびアセトニトリルからなる群から選択される少なくとも一種を含み、
前記貧溶媒は、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノールおよびtert-ブタノールからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。
【0019】
8.上記1.~7.のいずれかに記載の医療用具の製造方法において、前記懸濁液中の前記共重合体の濃度は、1mg/mLを超え15mg/mL以下であると好ましい。
【0020】
9.上記1.~8.のいずれかに記載の医療用具の製造方法において、前記塗布工程の後に、前記懸濁液の乾燥工程をさらに含むと好ましい。
【0021】
10.上記9.に記載の医療用具の製造方法において、前記乾燥工程は、前記懸濁液が塗布された基材を40~80℃で乾燥させることを含むと好ましい。
【0022】
11.上記1.~10.のいずれかに記載の医療用具の製造方法において、前記基材の形状が、メッシュ状または糸状であると好ましい。
【0023】
12.上記1.~11.のいずれかに記載の医療用具の製造方法において、前記医療用具が、ステント、ドラッグエリューティングステントまたはステントグラフトであると好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、血栓を構成しうるタンパク質や細胞等の付着を効果的に抑制することができる医療用具の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1は、共重合体を含む溶液または懸濁液を基材に対して塗布する際の状態を説明する模式図であり、(A)は、本発明に係る方法において調製される懸濁液中の状態を示す模式図であり、(B)は共重合体溶液中の状態を示す模式図であり、(C)は、あらかじめ調製された混合溶媒に共重合体を分散させた塗布液中の状態を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る方法により製造される医療用具の一実施形態である、ステントカバー付きステントの側面図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る方法により製造される医療用具の一実施形態である、ステントカバー付きステントの表面における積層構造を模式的に表した拡大部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態は、親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する共重合体と、該共重合体の良溶媒と、を混合して共重合体溶液を調製する溶液調製工程、前記共重合体溶液に前記共重合体の貧溶媒を加えて混合し、前記共重合体を分散させて懸濁液を調製する懸濁液調製工程、および前記懸濁液を基材の少なくとも一部に塗布する塗布工程をこの順に含む、医療用具の製造方法である。以下、「親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する共重合体と、該共重合体の良溶媒と、を混合して共重合体溶液を調製する溶液調製工程、前記共重合体溶液に前記共重合体の貧溶媒を加えて混合し、前記共重合体を分散させて懸濁液を調製する懸濁液調製工程、および前記懸濁液を基材の少なくとも一部に塗布する塗布工程をこの順に含む、医療用具の製造方法」を、単に「本発明に係る方法」とも称する。
【0027】
本発明に係る方法は、(1)特定の構造を有する共重合体と、当該共重合体の良溶媒と、を混合することにより共重合体溶液を得る溶液調製工程;(2)上記(1)で得られた共重合体溶液に共重合体の貧溶媒を加えて混合し、懸濁液を得る懸濁液調製工程;および(3)上記(2)で得られた懸濁液を基材の少なくとも一部に塗布する塗布工程;を含む。本発明者らは、驚くべきことに、かような方法により得られる医療用具の表面が、血栓を構成しうるタンパク質や細胞等の付着を効果的に抑制できる(すなわち、抗血栓性に優れる)ことを見出した。
【0028】
ここで、本発明の構成による上記作用効果の発揮のメカニズムは以下のように推測される。
【0029】
本発明に係る方法では、共重合体を予め良溶媒に溶解および/または分散させた後、貧溶媒を加えて混合することにより懸濁液を調製する。ここで、かような方法により調製された懸濁液中に存在する共重合体は、その粒径(体積平均粒径)が適度に小さく、且つ、安定した構造のミセルを形成していると考えられる。すなわち、
図1の(A)において示されるように、懸濁液中、共重合体は、親水性ブロック1を外側に、疎水性ブロック2を内側にした、粒径の小さなミセルとして安定に存在していると推測される。他方、医療用具に用いられる基材の材料としては、生分解性ポリマーや、非生分解性ポリマーなどがあり、ステント(特に、これを覆うマイクロメッシュ)等の医療用具では、基材として生分解性ポリマーを用いることがある。そして、これらのポリマーにより構成される基材表面は、疎水性表面となる。したがって、上記のような状態の共重合体を含む懸濁液を、疎水性表面を有する基材3に塗布する(接触させる)ことにより、共重合体の分子鎖(特に、親水性ブロック1の分子鎖)は、配向がある程揃った状態で基材表面に吸着する。加えて、懸濁液中のミセルの粒径が小さく制御されることから、当該ミセルと基材とが接触した際に、共重合体は、その分子鎖が密な状態で吸着することができる。したがって、本発明の方法によれば、共重合体が、その分子鎖の配向が揃った状態で基材表面に対して吸着し、且つ、基材表面における共重合体の分子鎖密度が高くなる。ゆえに、大きな排除体積効果を得ることができるようになる結果、共重合体によるタンパク質や細胞等の付着抑制効果(すなわち、抗血栓性)が向上すると推測される。
【0030】
一方、共重合体と良溶媒とを混合して共重合体溶液(塗布液)を調製し、これをそのまま基材に塗布した場合には、溶液中の共重合体の粒径が小さいことに加え、ミセルが安定して存在できないことから、形成されるミセル数が減少する。そして、このような共重合体溶液を基材に塗布した場合、共重合体は、分子鎖の配向が非均一な状態で基材表面に吸着するか、あるいは、基材表面における共重合体の分子鎖密度が低くなるなどの理由から、十分な排除体積効果が得られず、高い抗血栓性を得ることが難しい(
図1の(B))。
【0031】
また、良溶媒と貧溶媒とをあらかじめ混合して混合溶媒を調製し、この混合溶媒に共重合体を分散させて塗布液を調製した場合には、塗布液中の共重合体は、粒径の大きなコロイドを形成すると考えられる。その結果、共重合体の分子鎖の配向が乱雑となる。また、かような塗布液を基材に塗布した場合、基材表面に吸着する共重合体は密に吸着することができない(
図1の(C))。ゆえに、十分な排除体積効果が得られず、本発明に係る方法によって被膜を形成したときと比較して、抗血栓性が低下すると考えられる。
【0032】
なお、上記メカニズムは推測であり、本発明の技術的範囲をなんら制限するものではない。
【0033】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0034】
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。また、「Aおよび/またはB」は、A、Bの各々および一つ以上のすべての組み合わせを含み、具体的には、AおよびBの少なくとも一方を意味し、A、BならびにAとBとの組み合わせを意味する。
【0035】
[医療用具の製造方法]
本発明の一実施形態は、親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する共重合体と、該共重合体の良溶媒と、を混合して共重合体溶液を調製すること(溶液調製工程);上記共重合体溶液に上記共重合体の貧溶媒を加えて混合し、上記共重合体を分散させて懸濁液を調製すること(懸濁液調製工程);上記懸濁液を基材の少なくとも一部に塗布すること(塗布工程)をこの順に含む、医療用具の製造方法である。また、本発明の他の実施形態では、上記塗布工程の後に、上記懸濁液を乾燥させること(乾燥工程)がさらに含まれる。本発明のさらに他の実施形態では、上記乾燥工程の後に、上記基材を洗浄すること(洗浄工程)がさらに含まれる。
【0036】
以下、本発明に係る方法に含まれる各工程について説明する。
【0037】
(1.溶液調製工程)
本発明に係る医療用具の製造方法では、まず、親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する共重合体(本明細書中、単に「本発明に係る共重合体」または「共重合体」とも称する)と、該共重合体の良溶媒と、を混合して共重合体溶液を調製する(溶液調製工程)。溶液調製工程にて得られる共重合体溶液は、本発明に係る共重合体と、当該共重合体の良溶媒と、を含み、さらに必要に応じて添加される他の成分を含んでいてもよい。なお、「共重合体溶液」とは、共重合体が溶媒に対して完全に溶解している形態のみならず、共重合体が溶媒中に完全に溶解せずに分散されている形態、すなわち、分散液の形態をも含むものとする。
【0038】
《共重合体》
本発明に係る方法において用いられる共重合体は、基材の少なくとも一部に担持された被膜を形成する。すなわち、本発明に係る方法により得られる医療用具において、被膜は、共重合体を含む。
【0039】
本発明に係る共重合体は、親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する。このように、親水性ブロックと疎水性ブロックとを有する共重合体は、良溶媒に溶解および/または分散された後、続く懸濁液調製工程において貧溶媒が添加されることで、粒径が小さく、安定したミセルを形成することができる。その結果、懸濁液を基材に塗布した際に、疎水性ブロックは疎水性の基材表面に対して吸着しやすくなり、親水性ブロックは分子鎖の配向が揃った状態で被膜(共重合体被膜)の表面に整列することができる。加えて、親水性ブロックは、被膜表面において密に整列することができるようになるため、親水性ブロックによる立体的斥力の寄与(排除体積効果)が大きくなり、血栓を構成しうるタンパク質や細胞等が基材表面に付着することを効果的に抑制することができる。
【0040】
上記のように、共重合体が安定してミセルを形成しやすくなることから、共重合体は、親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有するブロック共重合体であると好ましく、親水性ブロックと、疎水性ブロックと、からなるジブロック共重合体であるとより好ましい。ここで、「ジブロック共重合体」とは、親水性ブロックと疎水性ブロックとが、互いの末端(片末端)で結合した共重合体をいう。
【0041】
本発明に係る共重合体を構成する親水性ブロックとは、具体的には、当該親水性ブロックのみからなる重合体(単独重合体)であって、その数平均分子量が1,000~50,000であるものについて、20℃における水100gに対する溶解量が1g以上である構造をいう。
【0042】
親水性ブロックとして、具体的には、ポリアルキレングリコールブロック、アルコキシポリアルキレングリコールブロック、ポリビニルアルコールブロック、ポリビニルピロリドンブロックなどが挙げられる。これらのブロックは、一種単独で親水性ブロックを構成していてもよいし、または二種以上の組み合わせによって親水性ブロックを構成していてもよい。
【0043】
ポリアルキレングリコールブロックおよびアルコキシポリアルキレングリコールブロックに含まれるオキシアルキレン基(-OR-)は、それぞれ、炭素数2~4であるオキシアルキレン基であると好ましい。このようなオキシアルキレン基としては、具体的にはオキシエチレン基(-OCH2CH2-)、オキシプロピレン基(-OCH(CH3)CH2-)、オキシトリメチレン基(-OCH2CH2CH2-)、オキシブチレン基(-OCH2CH2CH2CH2-)などが挙げられる。なお、これらのオキシアルキレン基は、一種単独であっても、二種以上が含まれていてもよい。これらのオキシアルキレン基の中でも、オキシエチレン基、オキシプロピレン基が好ましく、オキシエチレン基がより好ましい。
【0044】
なかでも、血栓を構成しうるタンパク質や細胞等の付着を抑制する効果をより向上させることができるため、親水性ブロックは、ポリエチレングリコールブロック、メトキシポリエチレングリコールブロック、およびポリプロピレングリコールブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましく、ポリエチレングリコールブロックおよび/またはメトキシポリエチレングリコールブロックを含むとより好ましく、ポリエチレングリコールブロックを含むと特に好ましい。
【0045】
ポリアルキレングリコールブロックおよびアルコキシポリアルキレングリコールブロックは、従来公知の方法を用いて、またはこれを適宜修飾して合成することができる。例えば、これらのブロックは、アルコールに所定のアルキレンオキサイドの一種以上を付加重合させることにより得ることができる。この際、付加重合させるアルキレンオキサイドとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラメチレンオキサイドなどが挙げられる。
【0046】
すなわち、好ましい一形態としては、親水性ブロックは、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、およびテトラメチレンオキサイドからなる群から選択される少なくとも一種に由来する構成単位を含み、より好ましい一形態としては、エチレンオキサイドおよび/またはプロピレンオキサイドに由来する構成単位を含み、さらに好ましい一形態としては、エチレンオキサイドに由来する構成単位を含む。
【0047】
親水性ブロックの数平均分子量(Mn)は、特に制限されない。共重合体が懸濁液中で安定したミセルを形成しやすく、また、基材に吸着した際に得られる排除体積効果を大きくする(その結果、高い抗血栓性を得る)という観点からは、親水性ブロックの数平均分子量(Mn)は、1,000~20,000であると好ましく、2,000~10,000であるとより好ましく、3,000~8,000であると特に好ましく、4,000~6,000であると最も好ましい。なお、親水性ブロックの数平均分子量は、実施例に記載の方法により決定できる。
【0048】
本発明に係る共重合体を構成する疎水性ブロックとは、具体的には、当該疎水性ブロックのみからなる重合体(単独重合体)であって、その数平均分子量が1,000~50,000であるものについて、20℃における水100gに対する溶解量が1g未満である構造をいう。
【0049】
疎水性ブロックとして、生分解性ポリマーを構成する単量体由来のブロックや、非生分解性ポリマーを構成する単量体由来のブロックを採用することができる。
【0050】
医療用具の種類にも依存するが、例えば、本発明に係る方法を用いてステント(特に、これを覆うマイクロメッシュ)等の医療用具を製造する場合、基材として生分解性ポリマーが用いられることがある。このとき、基材と被膜を形成する共重合体との親和性を考慮すると、共重合体を構成する疎水性ブロックは、生分解性ポリマーを構成する単量体由来のブロックであると好ましい。かような疎水性ブロックとしては、例えば、脂肪族ポリエステル系ブロック、ポリカーボネート系ブロックなどが挙げられる。
【0051】
脂肪族ポリエステル系ブロックとしては、例えば、ポリ-L-乳酸、ポリ-D-乳酸、ポリ-DL-乳酸等のポリ乳酸(PLA)ブロック;ポリグリコール酸(PGA)ブロック;乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)ブロック;ポリカプロラクトン(PCL)ブロック;グリコール酸-カプロラクトン共重合体ブロック;ポリヒドロキシ酪酸ブロック;ポリヒドロキシ吉草酸ブロック;ポリヒドロキシペンタン酸ブロック;ポリヒドロキシヘキサン酸ブロック;ポリヒドロキシヘプタン酸ブロック;ポリ炭酸トリメチレンブロック;ポリジオキサノン(PDO)ブロック;ポリリンゴ酸ブロック;ポリエチレンアジペートポリエチレンアジペート;ポリエチレンサクシネートポリエチレンアジペート;ポリブチレンアジペートポリエチレンアジペート;ポリブチレンサクシネートポリエチレンアジペートなどが挙げられる。
【0052】
また、ポリカーボネート系ブロックとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ポリトリメチレンカーボネート(PTMC)ブロック、チロシン由来ポリカーボネート(Tyrosine-polycarbonate)ブロックなどが挙げられる。
【0053】
これらのブロックは、一種単独で疎水性ブロックを構成していてもよいし、または二種以上の組み合わせによって疎水性ブロックを構成していてもよい。
【0054】
なかでも、基材表面との親和性が高く、共重合体が基材表面に対して吸着しやすくなるため、疎水性ブロックは、ポリ乳酸(PLA)ブロック、ポリグリコール酸(PGA)ブロック、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)ブロック、ポリカプロラクトン(PCL)ブロック、グリコール酸-カプロラクトン共重合体ブロック、およびポリヒドロキシ酪酸ブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。さらに、抗血栓性の向上効果を考慮すると、ポリ乳酸ブロック、ポリグリコール酸ブロックおよび乳酸-グリコール酸共重合体ブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含むとより好ましく、ポリ乳酸ブロックを含むと特に好ましい。
【0055】
上記脂肪族ポリエステル系ブロックは、従来公知の方法を用いて、またはこれを適宜修飾して合成することができる。例えば、ポリ乳酸ブロック、ポリグリコール酸ブロック、および乳酸-グリコール酸共重合体ブロックは、L-乳酸、D-乳酸およびグリコール酸の中から必要とする構造のものを選んで原料とし、脱水重縮合することにより得ることができる。好ましくは、乳酸の環状二量体であるラクチド、グリコール酸の環状二量体であるグリコリドから必要とする構造のものを選んで開環重合することにより得ることができる。ラクチドにはL-乳酸の環状二量体であるL-ラクチド、D-乳酸の環状二量体であるD-ラクチド、D-乳酸とL-乳酸とが環状二量化したメソ-ラクチドおよびD-ラクチドとL-ラクチドとのラセミ混合物であるDL-ラクチドがある。本発明に係る共重合体に含まれる疎水性ブロックを得る際には、いずれのラクチドも用いることができる。
【0056】
すなわち、好ましい一形態としては、疎水性ブロックは、L-乳酸、D-乳酸およびグリコール酸からなる群から選択される少なくとも一種に由来する構成単位を含み、より好ましい一形態としては、L-乳酸および/またはD-乳酸に由来する構成単位を含む。
【0057】
疎水性ブロックの数平均分子量(Mn)は、特に制限されない。共重合体が懸濁液中で安定したミセルを形成しやすく、また、基材表面に吸着しやすいという観点からは、疎水性ブロックの数平均分子量(Mn)は、1,000~30,000であると好ましく、2,000~20,000であるとより好ましく、3,000~12,000であると特に好ましく、4,000~6,000であると最も好ましい。なお、疎水性ブロックの数平均分子量は、実施例に記載の方法により決定できる。
【0058】
親水性ブロックと疎水性ブロックとは、エステル結合、アミド結合、エーテル結合などを介して結合される。これらの結合を介して上記各ブロックが結合してなる共重合体は、公知の方法を用いることにより、またはこれを適宜修飾することにより合成することができる。また、本発明に係る共重合体は、合成品を用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0059】
好ましい一形態としては、共重合体は、親水性ブロックとしてポリエチレングリコールブロック、メトキシポリエチレングリコールブロック、およびポリプロピレングリコールブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含み、且つ、疎水性ブロックとしてポリ乳酸ブロック、ポリグリコール酸ブロック、乳酸-グリコール酸共重合体ブロック、ポリカプロラクトンブロック、グリコール酸-カプロラクトン共重合体ブロック、およびポリヒドロキシ酪酸ブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含む。より好ましい一形態としては、共重合体は、親水性ブロックとしてポリエチレングリコールブロックおよび/またはメトキシポリエチレングリコールブロックを含み、且つ、疎水性ブロックとしてポリ乳酸ブロック、ポリグリコール酸ブロックおよび乳酸-グリコール酸共重合体ブロックからなる群から選択される少なくとも一種を含む。特に好ましい一形態としては、共重合体は、親水性ブロックとしてポリエチレングリコールブロックを含み、且つ、疎水性ブロックとしてポリ乳酸ブロックを含む。最も好ましい一形態としては、共重合体は、親水性ブロックがポリエチレングリコールブロックであり、且つ、疎水性ブロックがポリ乳酸ブロックである。
【0060】
共重合体の数平均分子量(Mn)は、特に制限されない。共重合体が懸濁液中で安定したミセルを形成しやすく、また、基材表面に吸着しやすいという観点からは、共重合体の数平均分子量(Mn)は、2,000~50,000であると好ましく、4,000~30,000であるとより好ましく、6,000~25,000であると特に好ましく、7,000~14,000であると最も好ましい。なお、共重合体の数平均分子量は、実施例に記載の方法により決定できる。
【0061】
《良溶媒》
本発明に係る共重合体と混合する良溶媒としては、本発明に係る共重合体を十分に溶解または分散できるものであれば特に制限されない。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル等のエステル類;クロロホルム等のハロゲン化物;ヘキサン等のオレフィン類;テトラヒドロフラン(THF)、ブチルエーテル等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオンニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ベンゼン、トルエン等の芳香族類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;などを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0062】
なかでも、共重合体を均一に溶解でき、続く懸濁液調製工程においてより粒径の小さな安定したミセルを形成しやすくするという観点から、良溶媒は、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類が好ましい。さらに同様の観点から、好ましい一形態としては、良溶媒は、アセトン、テトラヒドロフランおよびアセトニトリルからなる群から選択される少なくとも一種を含み、より好ましい一形態としては、アセトンを含む。
【0063】
《混合方法および条件》
溶液調製工程では、上記共重合体、当該共重合体の良溶媒、および必要に応じて添加される他の成分を混合して、共重合体溶液を調製する。このとき、上記各成分の添加順、添加方法は特に制限されない。上記各成分を、一括してもしくは別々に、段階的にもしくは連続して混合容器に加えることができる。また、混合方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。好ましい共重合体溶液の調製方法としては、良溶媒中に共重合体を添加し、良溶媒中で撹拌することを含む。このとき、撹拌方法は、共重合体溶液を均一に混合できる方法であれば特に制限されない。
【0064】
溶液調製工程で調製する共重合体溶液中の共重合体の濃度は、特に限定されない。本発明に係る共重合体を十分に溶解または分散でき、粒径の小さなミセルを安定して形成させるという観点からは、当該溶液中の共重合体の濃度は、0.1~1,000mg/mLであると好ましく、1~100mg/mLであるとより好ましく、3~60mg/mLであると特に好ましい。共重合体の濃度が上記範囲であれば、得られる被膜の抗血栓性が十分発揮されうる。但し、上記範囲を外れた溶液であっても、後に調製する懸濁液中の共重合体の濃度を適切な範囲とすることができ、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0065】
上記各成分を混合する際の温度(液温)も、特に限定されないが、0~60℃であると好ましく、10~30℃であるとより好ましい。
【0066】
《他の成分》
医療用具の表面に形成される被膜は、本発明の作用効果が損なわれない範囲内において、上記共重合体の他、他の成分を含んでいてもよい。すなわち、溶液調製工程では、本発明に係る共重合体および該共重合体の良溶媒に加え、他の成分をさらに混合してもよい。
【0067】
他の成分としては、特に制限されず、例えば、医療用具が体腔や管腔内への挿入を目的とする場合には、抗癌剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗リウマチ薬、抗血栓薬、HMG-CoA還元酵素阻害剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗高脂血症薬、インテグリン阻害薬、抗アレルギー剤、抗酸化剤、GPIIb/IIIa拮抗薬、レチノイド、フラボノイド、カロチノイド、脂質改善薬、DNA合成阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、抗血小板薬、血管平滑筋増殖抑制薬、抗炎症薬、生体由来材料、インターフェロン、およびNO産生促進物質等の薬剤(生理活性物質)などが挙げられる。ここで、他の成分の添加量は、特に制限されず、通常使用される量が同様にして適用される。最終的には、他の成分の添加量は、適用される疾患の重篤度、患者の体重等を考慮して適切に選択される。
【0068】
(2.懸濁液調製工程)
本発明に係る医療用具の製造方法では、上記溶液調製工程の後、共重合体の貧溶媒を添加して混合し、共重合体を分散させて懸濁液を調製する(懸濁液調製工程)。このように、懸濁液調製工程では、上記工程により得られた共重合体溶液と、共重合体の貧溶媒とを混合して混ざり合った状態とすることにより、共重合体がミセルを形成しやすくし、懸濁液を調製する。懸濁液調製工程にて得られる懸濁液は、本発明に係る共重合体と、当該共重合体の良溶媒と、貧溶媒と、を含む。
【0069】
《貧溶媒》
本発明に係る共重合体と混合する貧溶媒としては、上記共重合体溶液に加えて混合した際に、本発明に係る共重合体を十分に分散できるものであれば特に制限されない。具体的には、水;メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール等の炭素数1~6の低級アルコールなどを例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。これらは1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0070】
なかでも、共重合体を十分に分散させることができ、より粒径の小さな安定したミセルを形成しやすくするという観点から、貧溶媒は、低級アルコールが好ましい。さらに同様の観点から、好ましい一形態としては、貧溶媒は、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノールおよびtert-ブタノールからなる群から選択される少なくとも一種を含み、より好ましい一形態としては、メタノール、エタノールおよびn-プロパノールからなる群から選択される少なくとも一種を含み、特に好ましい一形態としては、メタノールおよび/またはエタノールを含む。
【0071】
各溶媒の組み合わせについて、好ましい一形態としては、溶液調製工程で用いられる良溶媒は、アセトン、テトラヒドロフランおよびアセトニトリルからなる群から選択される少なくとも一種を含み、且つ、懸濁液調製工程で用いられる貧溶媒は、水、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノールおよびtert-ブタノールからなる群から選択される少なくとも一種を含む。より好ましい一形態としては、良溶媒は、アセトンを含み、且つ、貧溶媒は、メタノール、エタノールおよびn-プロパノールからなる群から選択される少なくとも一種を含む。特に好ましい一形態としては、良溶媒は、アセトンを含み、且つ、貧溶媒は、メタノールおよび/またはエタノールを含む。
【0072】
《混合方法および条件》
懸濁液調製工程では、上記共重合体溶液に含まれる共重合体の貧溶媒を、上記共重合体溶液に加えて混合することにより懸濁液を調製する。このとき、貧溶媒の添加方法は特に制限されない。貧溶媒を段階的にもしくは連続して混合容器に加えることができる。また、混合方法も特に制限されず、公知の方法を用いることができる。好ましい懸濁液の調製方法としては、上記溶液調製工程にて得られた共重合体溶液中に貧溶媒を添加し、撹拌することを含む。
【0073】
撹拌方法は、懸濁液を均一に混合できる方法であれば特に制限されない。例えば、スターラーやボルテックスミキサーなどの適当な攪拌機を用いる方法、超音波分散装置などを用いて超音波処理を行う方法、これらの方法を組み合わせて行う方法等が挙げられる。また、撹拌速度、時間も特に制限されないが、撹拌速度は、30~1000rpmであると好ましく、50~500rpmであるとより好ましい。また、撹拌時間は、10秒~30分であると好ましく、20秒~10分であるとより好ましく、30秒~5分であると特に好ましい。
【0074】
好ましい一形態として、懸濁液は、撹拌機を用いて、撹拌速度30~1000rpmで10秒~5分間撹拌した後、30秒~5分間超音波処理を行うことにより調製される。
【0075】
懸濁液調製工程にて添加される貧溶媒の量は、特に制限されないが、溶液調製工程にて用いられる良溶媒と、貧溶媒との体積比が、以下の範囲となる量であると好ましい。すなわち、好ましい一形態において、良溶媒と貧溶媒との体積比(良溶媒:貧溶媒)は、0.5:9.5~5:5であり、より好ましい一形態において、1:9~4:6であり、特に好ましい一形態において、1:9~3:7であり、最も好ましい一形態において、1:9~2:8である。上記範囲とすることにより、得られる排除体積効果が大きくなり、被膜の抗血栓性が向上する。また、共重合体による基材の被覆量(修飾量)もまた向上し、その結果、抗血栓性がさらに向上すると考えられる。懸濁液中、安定したミセルを形成しやすくし、また、共重合体が基材に吸着した際に得られる排除体積効果をさらに大きくする(その結果、高い抗血栓性を得る)という観点から、良溶媒と貧溶媒との体積比が上記範囲内であって、且つ、共重合体を構成する親水性ブロックの数平均分子量が4,000~6,000であり、疎水性ブロックの数平均分子量が4,000~6,000であるとより好ましい。但し、上記範囲を外れた場合であっても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0076】
また、懸濁液調製工程にて添加される貧溶媒の量は、特に制限されないが、懸濁液中の前記共重合体の濃度が、以下の範囲となる量であると好ましい。すなわち、好ましい一形態において、懸濁液中の共重合体の濃度は、0.1~100mg/mLであり、より好ましい一形態において、1~20mg/mLであり、特に好ましい一形態において、1mg/mLを超え15mg/mL以下であり、最も好ましい一形態において、2~10mg/mLである。共重合体の濃度が上記範囲であれば、得られる被膜の抗血栓性が十分発揮されうる。また、1回のコーティングで所望の厚みの均一な被膜を容易に得ることができ、また、溶液の粘度が適切な範囲内となり、操作性(例えば、コーティングのしやすさ、すなわち塗布性)、生産効率の点で好ましい。但し、上記範囲を外れた懸濁液であっても、本発明の作用効果に影響を及ぼさない範囲であれば、十分に利用可能である。
【0077】
貧溶媒を添加し、混合する際の温度(液温)も、特に限定されないが、0~50℃であると好ましく、10~30℃であるとより好ましい。
【0078】
懸濁液調製工程において調製される懸濁液中、本発明に係る共重合体は、粒径の小さなミセルの状態で存在していると推測される。ここで、懸濁液中に含まれる粒子(共重合体の粒子)の体積平均粒径は、3~250nmであると好ましく、10~180nmであるとより好ましく、20nm以上170nm未満であるとさらにより好ましく、30nm以上140nm未満であるとさらにより好ましく、50~100nmであると特に好ましく、55~90nmであると最も好ましい。上記範囲であると、懸濁液中、共重合体は、粒径の小さなミセルとして安定に存在することができ、基材に対して密に吸着することができる。その結果、大きな排除体積効果を得ることができるようになる結果、共重合体によるタンパク質や細胞等の付着抑制効果が向上する。ゆえに、本発明の好ましい一形態としては、懸濁液調製工程は、懸濁液中の粒子(上記共重合体の粒子)の体積平均粒径が、上記の好ましい範囲のいずれかとなるように上記共重合体の貧溶媒を添加し、上記共重合体溶液調製工程で得られた共重合体溶液と、貧溶媒とを混合することを含む。ここで、懸濁液中に含まれる粒子(共重合体の粒子)の体積平均粒径は、例えば、良溶媒と貧溶媒との混合比(体積比)、懸濁液中の共重合体濃度、撹拌速度、懸濁液の温度などを適宜調節することにより制御することができる。良溶媒と貧溶媒との混合比(体積比)、懸濁液中の共重合体濃度、撹拌速度について好ましい範囲は、上記記載の通りである。また、懸濁液の温度の一例としては、0~50℃であると好ましく、10~30℃であるとより好ましい。当該温度が高いほど、上記体積平均粒径は小さくなり、低いほど上記体積平均粒径は大きくなる。なお、懸濁液中に含まれる粒子(共重合体の粒子)の体積平均粒径は、実施例に記載の方法により決定できる。
【0079】
《他の懸濁液の調製方法》
懸濁液は、上記以外の方法によっても調製されうる。例えば、予め、本発明に係る共重合体の良溶媒と貧溶媒との混合溶媒を調製した後、当該混合溶媒と本発明に係る共重合体とを混合して加熱(加温)し、共重合体を溶解させる。次いで、当該共重合体溶液を冷却することにより、懸濁液を調製してもよい。ここで、混合溶媒の調製時に用いる良溶媒と貧溶媒との体積比(良溶媒:貧溶媒)についての好ましい範囲は、上記(2.懸濁液調製工程)中の《混合方法および条件》の項に記載の範囲と同様である。また、混合溶媒に共重合体を溶解させる際の温度(液温)は、40~100℃であると好ましく、50~80℃であるとより好ましい。さらに、共重合体溶液を冷却する際の温度(液温)は、10~30℃であると好ましい。さらに、撹拌速度、時間も特に制限されないが、撹拌速度は、30~1000rpmであると好ましく、50~500rpmであるとより好ましい。また、撹拌時間は、10秒~30分であると好ましく、20秒~10分であるとより好ましく、30秒~5分であると特に好ましい。
【0080】
本発明に係る方法に加え、上記の方法により調製された懸濁液においては、共重合体が安定なミセルの形態として存在できると考えられる。一方、単に混合溶媒に共重合体を加えただけの場合(加温を行わない場合)には、共重合体の分子同士が絡み合ってしまい、ミセルの状態で分散しにくいと推測される(後述の比較例2)。
【0081】
(3.塗布工程)
本発明に係る医療用具の製造方法では、上記懸濁液調製工程の後、懸濁液を基材の少なくとも一部に塗布する(塗布工程)。
【0082】
基材は、いずれの材料から構成されてもよいが、例えば、高分子材料(樹脂材料)、金属材料、およびセラミックスなどが挙げられる。
【0083】
上記基材を構成する材料のうち、高分子材料(樹脂材料)としては、特に制限されるものではなく、ステント、ステントカバー(マイクロメッシュ)、ドラッグエリューティングステント(薬剤溶出型ステント)、ステントグラフト、人工血管、生体内に挿入される中空体(バルーンなど)、バルーンカテーテル、人工心臓、中空糸を備えた埋め込み型の人工肝臓や人工腎臓等の人工臓器などの生体内留置物(医療用具)に一般的に使用される高分子材料が使用される。かような高分子材料としては、生分解性ポリマー、非生分解性ポリマーのいずれも用いることができる。
【0084】
生分解性ポリマーの例としては、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリジオキサノン(PDO)、トリメチレンカーボネート(PTMC)、またはこれらの共重合体(二元共重合体、三元共重合体、四元共重合体など)が挙げられる。かような生分解性の共重合体として、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、グリコール酸-カプロラクトン共重合体などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0085】
また、非生分解性ポリマーの例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリオレフィン(PO)、酸化アクリル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素樹脂、ポリエチレン-コ-ビニルアセテート(PEVA)、ポリエチレンエラストマー等のポリオレフィンエラストマー、ポリエチレンオキシド-ポリブチレンテレフタレート共重合体(PEO-PBT)、ポリエチレンオキシド-ポリ乳酸共重合体(PEO-PLA)、ポリブチルメタクリレート(PBMA)、ポリウレタン(PU)、シリコン-ポリカーボネートウレタン共重合体(SPCU)、医療グレードのポリカーボネートウレタン(PCU)、ポリアミド(PA)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)などが挙げられるが、これらに制限されない。
【0086】
これらは1種単独で使用してもよいし、2種以上の混合物または上記いずれかの樹脂を構成する2種以上の単量体の共重合体として併用してもよい。
【0087】
上記高分子材料には、使用用途であるステント、ステントカバー(マイクロメッシュ)ドラッグエリューティングステント(薬剤溶出型ステント)、ステントグラフト、人工血管等の生体内留置物の基材として最適な高分子材料を適宜選択すればよい。一例として、基材を構成する高分子材料としては、医療用具の機械的強度などを考慮すると、グリコール酸に由来する構成単位を有する(共)重合体であると好ましい。さらに、基材は、ポリグリコール酸(PGA)、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)、およびグリコール酸-カプロラクトン共重合体から選択される高分子材料から構成されるとより好ましく、ポリグリコール酸(PGA)または乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)から構成されると特に好ましく、ポリグリコール酸から構成されると最も好ましい。これらの高分子材料から構成される基材は、その表面が疎水性を有する。ゆえに、本発明に係る共重合体を構成する疎水性ブロックと、基材の疎水性表面とが強固に吸着し、共重合体に含まれる親水性ブロック部分による排除体積効果が得られやすくなる。その結果、高い抗血栓性を得ることができる。したがって、本発明の好ましい一形態としては、基材が疎水性表面を有する。なお、「疎水性表面」とは、水に対する接触角が45~180°、好ましくは70~180°の表面をいう。
【0088】
また、基材の形状は、特に制限されることはなく、メッシュ状、シート状、糸状(ワイヤ)、管状(円筒状)など、医療用具の使用態様により適宜選択される。例えば、本発明に係る方法により製造される医療用具の好ましい一形態として、ステントカバー(マイクロメッシュ)付きステント(メッシュ付きステント)が挙げられるが、この際、ステントカバーに用いられる基材としては、メッシュ状のもの、または糸状のものが好ましく用いられる。すなわち、好ましい一形態において、基材の形状は、メッシュ状または糸状である。ここで、「メッシュ状」とは、厚み方向に複数のメッシュ孔を有する形状であって、例えば、交差する糸により構成される複数の格子を含んでいる形状を意図する。また、「糸状」とは、太さに対して十分な長さを有する、細長い形状を意図する。
【0089】
特に、本発明に係る方法によりステントカバー(マイクロメッシュ)付きステント(メッシュ付きステント)を製造する場合、基材を構成する材料は、生分解性ポリマーであり、且つ、基材の形状は、メッシュ状または糸状であると好ましい。この場合において、より好ましい形態として、基材を構成する材料は、ポリグリコール酸(PGA)または乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)であり、且つ、基材の形状は、メッシュ状または糸状である。
【0090】
基材の少なくとも一部の表面(基材表面)に懸濁液(すなわち、コート液)を塗布(コーティング)する方法は、特に制限されず、塗布・印刷法、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)、噴霧法(スプレー法)、スピンコート法など、従来公知の方法を適用することができる。これらのうち、ステント、ステントカバー(マイクロメッシュ)等の網目構造(メッシュ構造)またはステントカバーを構成する糸(マイクロファイバー)といった微細な構造を有する基材に対しても被膜を形成しやすいことから、塗布方法は、浸漬法(ディッピング法、ディップコート法)を用いるのが好ましい。また、医療用具の構造上、管状(円筒状)の用具の外表面と内表面の双方が、被膜を有する必要があるような場合には、一度に外表面と内表面の双方をコーティングすることができるという点からも、浸漬法(ディッピング法)が好ましく使用される。
【0091】
浸漬方法における条件は、特に制限されない。一例として、浸漬時の温度(懸濁液の温度)は、0~50℃であると好ましく、10~30℃であるとより好ましい。また、一例として、浸漬時間は、8時間以下であると好ましく、5時間以下であるとより好ましい。すなわち、塗布工程は、基材を懸濁液に浸漬することにより行われ、浸漬時間は5時間(300分)以下であると好ましい。浸漬時間を上記範囲とすることにより、共重合体による排除体積効果が大きくなり、被膜の抗血栓性がさらに向上する。また、生産性の観点からも好ましい。一方、浸漬時間は、10秒以上であると好ましく、30秒以上であるとより好ましく、1分以上であるとさらにより好ましく、10分以上であると特に好ましく、60分以上であると最も好ましい。浸漬時間を上記範囲とすることにより、ステントの基材の表面に、ほぼ均一に共重合体(被膜)を被覆させることができる。また、基材に対する共重合体の吸着量が多くなるため、抗血栓性が向上する。
【0092】
また、基材の一部にのみ被膜を形成する(共重合体を被覆させる)場合には、基材の一部のみを懸濁液中に浸漬して、懸濁液を基材の一部にコーティングすることで、基材の所望の表面部位に、被膜を形成することができる。
【0093】
基材の一部のみを懸濁液中に浸漬するのが困難な場合には、予め被膜を形成する必要のない基材の表面部分を着脱(装脱着)可能な適当な部材や材料で保護(被覆等)した上で、基材を懸濁液中に浸漬して、懸濁液を基材にコーティングした後、被膜を形成する必要のない基材の表面部分の保護部材(材料)を取り外すことで、基材の所望の表面部位に被膜を形成することができる。ただし、本発明では、これらの形成法に何ら制限されるものではなく、従来公知の方法を適宜利用して、被膜を形成することができる。例えば、基材の一部のみを懸濁液中に浸漬するのが困難な場合には、浸漬法に代えて、他のコーティング手法(例えば、医療用具の基材の所定の表面部分に、懸濁液を、スプレー装置、バーコーター、ダイコーター、リバースコーター、コンマコーター、グラビアコーター、スプレーコーター、ドクターナイフなどの塗布装置を用いて、塗布する方法など)を適用してもよい。
【0094】
(4.乾燥工程)
本発明に係る医療用具の製造方法では、基材上に懸濁液を塗布した後、溶媒の除去や、基材に対して強固に被膜を固着化(固定)するといった目的で、乾燥を行うと好ましい(乾燥工程)。すなわち、本発明に係る医療用具の製造方法は、塗布工程の後に、懸濁液の乾燥工程をさらに含むと好ましい。
【0095】
乾燥時の条件は、基材上に共重合体を含む被膜が形成できる条件であれば、特に制限されない。
【0096】
乾燥処理の温度は、特に制限されないが、好ましくは10~150℃であり、より好ましくは20~100℃であり、特に好ましくは35~85℃であり、最も好ましくは40~80℃である。すなわち、好ましい一形態として、乾燥工程は、懸濁液が塗布された基材を40~80℃で乾燥させることを含む。このように、室温よりもやや高い温度で乾燥(加熱)すると、基材に対して共重合体が固着化(固定)されやすい。
【0097】
より具体的には、懸濁液を基材上に塗布した後(塗布層を形成した後)、塗布層を上記温度で維持すると好ましい。これにより、共重合体(被膜)が基材に対して強固に固着化(固定)される。その結果、被膜の強度が向上し、血栓を構成しうるタンパク質や細胞等の付着抑制効果が持続しやすくなる。
【0098】
乾燥処理の時間も特に制限されないが、好ましくは10分~30時間、より好ましくは30分~25時間、特に好ましくは1~15時間である。かような時間とすることにより、共重合体(被膜)が基材に対して強固に固着化(固定)される。よって、高い抗血栓性をより長期間にわたって維持できる。
【0099】
また、乾燥時の圧力条件も何ら制限されるものではなく、常圧(大気圧)下で行うことができるほか、加圧または減圧下で行ってもよい。溶媒を効率よく除去するという観点から、乾燥処理は、減圧下で行われると好ましい。
【0100】
乾燥手段(装置)としては、例えば、オーブン、真空オーブン、減圧乾燥機などを利用することができるが、自然乾燥の場合には、特に乾燥手段(装置)は不要である。
【0101】
(5.洗浄工程)
本発明に係る医療用具の製造方法では、塗布工程または任意で行われる乾燥工程の後、基材上に形成された被膜の洗浄を行うことが好ましい(洗浄工程)。洗浄工程は、懸濁液中に含まれる不純物を除去し、被膜に優れた抗血栓性を付与する目的で行われる。
【0102】
洗浄方法は特に限定されないが、共重合体による被膜を洗浄溶媒に浸漬する方法、洗浄溶媒をかけ流す方法、またはこれらを組合せてもよい。このとき使用される洗浄溶媒は、共重合体による被膜を溶解させず、かつ、不純物を除去することができるものであれば特に限定されないが、水が好ましく用いられる。ここで、水は、純水、イオン交換水または蒸留水であると好ましく、なかでも、逆浸透膜により精製した純水(RO水)であると好ましい。
【0103】
洗浄水の温度は特に制限されないが、好ましくは10℃~100℃であり、より好ましくは20~80℃であり、特に好ましくは25~50℃である。また、洗浄時間(洗浄溶媒を被膜に接触させる時間)は特に制限されないが、好ましくは10分~3時間、より好ましくは30~90分である。上記条件によれば、不純物を十分に除去することができる。その結果、基材上に形成される被膜は、優れた抗血栓性を呈することができる。
【0104】
上記洗浄工程の後、さらに、乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法および乾燥条件(温度、時間等)は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0105】
[医療用具]
本発明に係る方法では、共重合体を良溶媒と混合して共重合体溶液を得た後、貧溶媒をさらに加えて混合することにより懸濁液を調製し、当該懸濁液を基材表面に塗布する。かような方法により得られる医療用具は、基材上に吸着する共重合体の分子鎖が密であり、また、その配向が揃った状態となることから、優れた抗血栓性を発揮できる。
【0106】
このように、上記において説明した溶液調製工程、懸濁液調製工程、塗布工程、ならびに必要に応じて行われる乾燥工程、洗浄工程を経ることで、優れた抗血栓性を発揮する被膜を有する医療用具を製造することができる。すなわち、本発明の他の実施形態は、本発明に係る方法により製造される医療用具である。
【0107】
本発明に係る方法により製造される医療用具としては、特に制限されず、例えば、ステント、ドラッグエリューティングステント(薬剤溶出型ステント)、ステントグラフト、人工血管、生体内に挿入される中空体(バルーンなど)、バルーンカテーテル、人工心臓、中空糸を備えた埋め込み型の人工肝臓や人工腎臓等の人工臓器などの生体内留置物が挙げられる。なかでも、本発明に係る方法により製造される医療用具は、ステント、ドラッグエリューティングステント(薬剤溶出型ステント)またはステントグラフトであると好ましい。
【0108】
以下に、医療用具の一例として、ステントカバー(マイクロメッシュ)付きステント(メッシュ付きステント)を例示し詳細に説明するが、当然のことながら本発明に係る方法により製造される医療用具はこれらに限定されるものではない。
【0109】
図2は、本発明に係る方法により製造される医療用具の一実施形態である、ステントカバー付きステント100の側面図である。
【0110】
ステント本体10は、両末端部が開口し、該両末端部の間を長手方向に延在する円筒体である。円筒体の側面は、その外側面と内側面とを連通する多数の切欠部を有し、この切欠部が変形することによって、円筒体の径方向に拡縮可能な構造になっており、血管のような脈管、または胆管等の生体管腔内に留置され、その形状を維持する。
【0111】
ステント本体10の大きさは、その目的や機能に合わせて適宜調節される。拡張時におけるステント本体10の外径(直径)は、例えば、1~50mmが好ましく、1.5~10mmがより好ましく、2~5mmが特に好ましい。また、ステント本体10の軸方向の長さも特に制限されず、処置すべき疾患によって適宜選択が可能であり、例えば5~300mm程度が好ましく、10~50mm程度がより好ましい。
【0112】
ステント本体10を構成する弾性線材の断面形状についても、特に限定されず、例えば矩形、円形、楕円形、矩形以外の多角形等が挙げられる。
【0113】
管状のステントカバー20は、上記ステント本体10を覆うように配設されている。ステントカバー20は、柔軟な繊維21により管状に編まれたメッシュ状(ニットのような形態)に形成される。また、ステントカバー20は、複数の空隙Sを有しており、管状に形成されている。このように、空隙Sが数多く形成されてなるステントカバー20は、その表面積が大きく、血栓が付着しやすい傾向にある。しかしながら、本発明に係る方法によってステントカバー20の表面に被膜を形成することにより、血栓の付着を効果的に抑制することができる。したがって、その周囲にステントカバー20を有するステントカバー付きステント100を血管中に留置した場合であっても、ステントカバー20への血栓の付着が効果的に抑制・防止できる。その結果、血栓の付着という問題を回避しつつ、ステントカバー20によりプラークが血管中へ移行することを抑制・防止するという所期の効果を得ることができる。
【0114】
ステントカバー20を構成する繊維21の直径(繊維径)は特に限定されないが、例えば、0.007~0.1mmであり、好ましくは0.01~0.03mmである。拡張時におけるステントカバー20の外径(直径)は、特に限定されないが、例えば1~50mmであり、好ましくは1.5~10mmであり、より好ましくは2~5mmである。また、ステントカバー20の軸方向の長さも特に限定されないが、例えば5~300mmであり、好ましくは10~50mmである。
【0115】
上記のようなステント本体10およびステントカバー20を有するステントカバー付きステント100は、例えば、以下の方法によって製造できる。
【0116】
(I)まず、常法によってステントカバーを製造し(本発明に係る基材としてのステントカバーを準備し)、本発明に係る方法により共重合体をステントカバーに塗布して共重合体を含む被膜を形成する。その後、被膜付きステントカバーを、常法によって得られたステント本体に装着する;(II)まず、本発明に係る方法により、ステントカバーを構成する糸(マイクロファイバー)に共重合体を塗布して被膜を形成した後、当該被膜付きの糸を、常法によってメッシュ状に編み、被膜付きステントカバーを製造する。その後、被膜付きステントカバーを、常法によって得られたステント本体に装着する;(III)常法によりステント本体にステントカバーを装着した後(ステントカバー付きステントを製造した後)、ステント本体およびステントカバー(ステントカバー付きステント)に、本発明に係る方法を用いて共重合体を含む被膜を形成する;などの方法がある。この際、本発明に係る方法によれば、浸漬法により共重合体を含む懸濁液を塗布することができるため、微細なメッシュ構造や非常に細い糸(マイクロファイバー)に対しても、優れた抗血栓性を付与できる。
【0117】
上記(I)および(II)の方法によれば、予めステントカバーに被膜が形成されているため、ステント本体に薬剤が担持されている場合(ドラッグエリューティングステントの場合)であっても、薬剤が懸濁液(本発明に係る共重合体を含む懸濁液)に溶出することを防止できる。また、予めステント本体にステントカバーを装着した状態とすると、メッシュ間の隙間が極めて小さくなって密になる結果、懸濁液が十分に行き渡らず、共重合体が均一な被膜を形成しにくいことがあるが、上記(I)および(II)の方法によれば、ステントカバーに対し、被膜を均一に形成することができる。
【0118】
一方、上記(III)の方法によれば、一回の塗布工程によって、ステントカバーのみならず、ステント本体に対しても優れた抗血栓性を付与することができる。また、ステント本体と、ステントカバーとの間の摩擦(ステントカバーにステント本体を挿通する際の摩擦)に起因する被膜の剥離を抑制・防止できる。
【0119】
図3は、上記ステントカバー20の表面における積層構造を模式的に表した拡大部分断面図である。
【0120】
図3に示されるように、本実施形態に係るステントカバー20は、基材3としての繊維21と、当該繊維21の少なくとも一部に設けられた(図中では、図面内の繊維21表面の全体(全面)に設けられた例を示す)共重合体を含む被膜23と、を備える。
【0121】
《基材(基材層)》
本実施形態で用いられる基材(基材層)3としての繊維21は、具体的には、基材3としての繊維21を構成する材料の具体例は、上記(3.塗布工程)の項に記載の通りであり、好ましくは、生分解性ポリマーが好ましく用いられる。なお、ここでは、医療用具の一例としてステントカバー20を例示して説明したが、医療用具の種類によってその基材を構成する材料の種類は適宜選択できる。また、
図3では、基材3が単一の材料(単層)で構成される例を図示したが、基材の構造は、異なる材料を多層に積層してなる多層構造体、あるいは医療用具の部分ごとに異なる材料で形成された部材を繋ぎ合わせた構造などであってもよい。
【0122】
《被膜》
図3に示される被膜23は、基材3としての繊維21の少なくとも一部に担持される。ここで、被膜23は、繊維21表面の少なくとも一部に担持されていればよい。なお、ここでは、医療用具の一例としてステントカバー20を例示して説明したが、医療用具の使用用途によっては、被膜による基材の被覆形態は、
図3に示されるような基材の両面全体を被覆するように形成される形態に限定されない。他の被覆形態として、基材の片面全体のみを被覆するように形成される形態;基材の両面の一部を同じまたは異なる形態で被覆するように形成される形態;基材の片面の一部を被覆するように形成される形態などが包含される。
【0123】
本発明の実施形態を詳細に説明したが、これは説明的かつ例示的なものであって限定的ではなく、本発明の範囲は添付の特許請求の範囲によって解釈されるべきであることは明らかである。
【0124】
本発明は、下記態様および形態を包含する。
【0125】
すなわち、本発明の他の態様は、
親水性ブロックおよび疎水性ブロックを有する共重合体と、該共重合体の良溶媒と、を混合して共重合体溶液を調製する溶液調製工程、
前記共重合体溶液に前記共重合体の貧溶媒を加えて混合し、前記共重合体を分散させて懸濁液を調製する懸濁液調製工程、および
前記懸濁液を基材の少なくとも一部に塗布する塗布工程をこの順に含む、共重合体のコーティング(塗布)方法である。
【0126】
なお、上記記載されたコーティング(塗布)方法について、好ましい態様・形態は、上記に記載された内容を援用できる。
【実施例0127】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。以下の実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「重量部」あるいは「重量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行った。
【0128】
[共重合体の準備]
下記の構造を有する共重合体をそれぞれ準備した。
【0129】
・共重合体A:数平均分子量が5,000であるポリ乳酸(PLLA)ブロックと、数平均分子量が5,000であるポリエチレングリコール(PEG)ブロックとを有するジブロック共重合体(数平均分子量10,000、NOF社製、商品名:SUNBRIGHT(登録商標)ME-050-LA050)
・共重合体B:数平均分子量が10,000であるポリ乳酸(PLLA)ブロックと、数平均分子量が5,000であるポリエチレングリコール(PEG)ブロックとを有するジブロック共重合体(数平均分子量15,000、EVONIK社製、商品名:RESOMER(登録商標)RP d 335)
・共重合体C:数平均分子量が15,000であるポリ乳酸(PLLA)ブロックと、数平均分子量が5,000であるポリエチレングリコール(PEG)ブロックとを有するジブロック共重合体(数平均分子量20,000、EVONIK社製、商品名:RESOMER(登録商標)RP d 225)
・共重合体D:数平均分子量が5,000であるポリ乳酸(PLLA)ブロックと、数平均分子量が2,000であるポリエチレングリコール(PEG)ブロックとを有するジブロック共重合体(数平均分子量7,000、NOF社製、商品名:SUNBRIGHT(登録商標)ME-020-LA050)。
【0130】
(各構成単位の数平均分子量の測定)
上記各共重合体の数平均分子量は、GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)により、ポリスチレン標準粒子を用いて作成された検量線に基づいて、ポリスチレン換算の分子量として求められる。上記検量線測定用のポリスチレンとしては、10点用いた(Agilent Technologies社製、EasiCal(登録商標)PS-1、分子量(Mp):580、10,330、75,050、316,500、2,328,000、2,880、29,460、128,700、739,500、6,570,000)。
【0131】
また、上記各共重合体における各ブロックの数平均分子量は、1H NMRにより分析し、各プロトンピークの面積等を用いて計算することにより求められる。
【0132】
上記で用いた測定装置(GPC)および条件は、以下のとおりである。
・装置:株式会社島津製作所製 セミミクロGPCシステム
・ポンプ:LC-20AD
・システムコントローラー:CBM-20A
・オートサンプラ:SIL-20AC HT
・RI検出器:RI-104
・UV検出器:SPD-20A
・カラムオーブン:CTO-20A
・2chボードPC-55N
・PC:富士通株式会社製 FMVDA2A0C1(OS:マイクロソフト社製、Windows(登録商標)XP)
・解析ソフト:株式会社島津製作所製 LCsolution(解析ソフト1.25)
・溶離剤:クロロホルム
・溶離剤流量:0.3mL/分
・カラム温度:40℃
・検出方法:示差屈折率(RI)。
【0133】
[比較例1]
基材として、2cm×1cmのポリグリコール酸(PGA)フィルムを用いた。なお、PGAフィルムは、PGA樹脂ペレット(EVONIK社製、Lot No.99129803)を、プレス装置(テスター産業株式会社製、TABLE TYPE TEST PRESS(SA-303))を用いて240℃に加温後、20MPaで1分間加圧し、さらに40MPaで1分間加圧した後、冷却用プレス機に移して30MPaで1分間冷却することにより作製した。このようにして得られたPGAフィルムをそのまま比較サンプル1とした。
【0134】
[比較例2]
(1.塗布液調製工程)
アセトン1mLおよびメタノール9mLの混合溶媒を調製し、上記共重合体A 30mgを加えて、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間混合し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度3mg/mLのPEG-PLLAを含む塗布液を調製した。
【0135】
(2.塗布工程)
比較例1で用いたPGAフィルムと同じフィルム2枚を、室温で10秒程度、上記塗布液に浸漬した後、これらのPGAフィルムをゆっくりと手動で引き上げた。
【0136】
(3.乾燥工程)
上記PGAフィルムを、50℃に保持した真空オーブン内に14時間静置し、乾燥固着化を行った。その後、PGAフィルムを40℃のRO水にて1時間程度洗浄し、室温にて真空乾燥し、比較サンプル2を得た。
【0137】
[比較例3]
(1.塗布液調製工程)
比較例2の塗布液調製工程にて、混合溶媒の調製を行わず、用いた溶媒をアセトン10mLのみとして変更したことを除いては、比較例2と同様にして塗布液を調製した。
【0138】
(2.塗布工程)
比較例2の塗布工程と同様にしてPGAフィルムに塗布液を塗布した。
【0139】
(3.乾燥工程)
比較例2の乾燥工程と同様にして比較サンプル3を得た。
【0140】
[比較例4]
(1.塗布液調製工程)
比較例2の塗布液調製工程にて、混合溶媒の調製を行わず、用いた溶媒をメタノール10mLのみとして変更したことを除いては、比較例2と同様にして塗布液を調製した。
【0141】
(2.塗布工程)
比較例2の塗布工程と同様にしてPGAフィルムに塗布液を塗布した。
【0142】
(3.乾燥工程)
比較例2の乾燥工程と同様にして比較サンプル4を得た。
【0143】
[比較例5]
(1.塗布液調製工程)
メタノール5mLに上記共重合体A 30mgを加えて撹拌し、次いで、水5mLを加えた。ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、塗布液を調製した。
【0144】
(2.塗布工程)
比較例2の塗布工程と同様にしてPGAフィルムに塗布液を塗布した。
【0145】
(3.乾燥工程)
比較例2の乾燥工程と同様にして比較サンプル5を得た。
【0146】
[比較例6]
(1.塗布液調製工程)
比較例2の塗布液調製工程にて、混合溶媒の調製時、用いた溶媒をアセトン2mLおよびエタノール8mLに変更したことを除いては、比較例2と同様にして塗布液を調製した。
【0147】
(2.塗布工程)
比較例2の塗布工程と同様にしてPGAフィルムに塗布液を塗布した。
【0148】
(3.乾燥工程)
比較例2の乾燥工程にて、真空オーブンによる乾燥時、温度を60℃、乾燥時間を2時間にそれぞれ変更したことを除いては、比較例2と同様にして比較サンプル6を得た。
【0149】
[比較例7]
基材として、ポリグリコール酸(PGA)ファイバー(直径20μm、株式会社ニッケ・メディカル製、商品名:PGAモノフィラメント)を準備し、そのまま比較サンプル7とした。
【0150】
[実施例1]
(1.溶液調製工程)
アセトン1mLに上記共重合体A 30mgを加えて撹拌し、PEG-PLLA溶液を調製した。
【0151】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、メタノール9mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0152】
(3.塗布工程)
基材としての2cm×1cmのポリグリコール酸(PGA)フィルム(比較例1と同様に作製したもの)2枚を、室温で10秒程度、上記PEG-PLLA懸濁液に浸漬した後、ゆっくりとPGAフィルムを手動で引き上げた。
【0153】
(4.乾燥工程)
上記PGAフィルムを、50℃に保持した真空オーブン内に14時間静置し、乾燥固着化を行った。その後、PGAフィルムを40℃のRO水にて1時間程度洗浄し、室温にて真空乾燥し、サンプル1を得た。
【0154】
[実施例2]
(1.溶液調製工程)
実施例1の溶液調製工程にて、用いた溶媒をアセトン5mLに変更したことを除いては、実施例1と同様にしてPEG-PLLA溶液を調製した。
【0155】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、メタノール5mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0156】
(3.塗布工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0157】
(4.乾燥工程)
実施例1の乾燥工程と同様にしてサンプル2を得た。
【0158】
[実施例3]
(1.溶液調製工程)
実施例1の溶液調製工程にて、用いた溶媒をアセトン2mLに変更したことを除いては、実施例1と同様にしてPEG-PLLA溶液を調製した。
【0159】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、エタノール8mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0160】
(3.塗布工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0161】
(4.乾燥工程)
実施例1の乾燥工程と同様にしてサンプル3を得た。
【0162】
[実施例4]
(1.溶液調製工程)~(3.塗布工程)
実施例3の溶液調製工程、懸濁液調製工程および塗布工程と同様にしてこれらの各工程を行い、PGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0163】
(4.乾燥工程)
実施例1の乾燥工程にて、真空オーブンによる乾燥時、温度を60℃、乾燥時間を2時間にそれぞれ変更したことを除いては、実施例1と同様にしてサンプル4を得た。
【0164】
[実施例5]
(1.溶液調製工程)
実施例1の溶液調製工程にて、用いた溶媒をアセトン3mLに変更したことを除いては、実施例1と同様にしてPEG-PLLA溶液を調製した。
【0165】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、エタノール7mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0166】
(3.塗布工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0167】
(4.乾燥工程)
実施例1の乾燥工程と同様にしてサンプル5を得た。
【0168】
[実施例6]
(1.溶液調製工程)
実施例1の溶液調製工程にて、用いた溶媒をアセトン5mLに変更したことを除いては、実施例1と同様にしてPEG-PLLA溶液を調製した。
【0169】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、エタノール5mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0170】
(3.塗布工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0171】
(4.乾燥工程)
実施例1の乾燥工程と同様にしてサンプル6を得た。
【0172】
[実施例7]
(1.溶液調製工程)
実施例1の溶液調製工程にて、用いた溶媒をアセトン2mLに変更したことを除いては、実施例1と同様にしてPEG-PLLA溶液を調製した。
【0173】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、n-プロパノール(1-プロパノール)8mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0174】
(3.塗布工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0175】
(4.乾燥工程)
実施例4の乾燥工程と同様にしてサンプル7を得た。
【0176】
[実施例8]
(1.溶液調製工程)
実施例1の溶液調製工程にて、用いた溶媒をアセトン4mLに変更したことを除いては、実施例1と同様にしてPEG-PLLA溶液を調製した。
【0177】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、n-プロパノール(1-プロパノール)6mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0178】
(3.塗布工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0179】
(4.乾燥工程)
実施例4の乾燥工程と同様にしてサンプル8を得た。
【0180】
[実施例9]
(1.溶液調製工程)
アセトン1mLに上記共重合体A 50mgを加えて撹拌し、PEG-PLLA溶液を調製した。
【0181】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、メタノール9mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度5mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0182】
(3.塗布工程)
基材として、2cm×1cmの乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)フィルムを用いた。なお、PLGAフィルムは、PLGA樹脂ペレット(EVONIK社製、PLGA8218樹脂ペレット(Lot No.k-LG824S))を溶媒としてのクロロホルムに溶解し、次いで減圧乾燥することにより作製したフィルムを乾燥させることにより得た。このようにして得られたPLGAフィルム2枚を、室温で1分程度、上記PEG-PLLA懸濁液に浸漬した後、ゆっくりとPLGAフィルムを手動で引き上げた。
【0183】
(4.乾燥工程)
上記PLGAフィルムを、50℃に保持した真空オーブン内に5時間静置し、乾燥固着化を行った。その後、PLGAフィルムを40℃のRO水にて1時間程度洗浄し、室温にて真空乾燥し、サンプル9を得た。
【0184】
[実施例10]~[実施例14]
(1.溶液調製工程)~(2.懸濁液調製工程)
実施例9の溶液調製工程および懸濁液調製工程と同様にしてこれらの各工程を行い、PEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0185】
(3.塗布工程)
実施例9の塗布工程にて、浸漬時間を7分、10分、15分、60分および240分とそれぞれ変更したことを除いては、実施例9と同様にしてPLGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0186】
(4.乾燥工程)
実施例9の乾燥工程と同様にしてサンプル10~14をそれぞれ得た。
【0187】
[実施例15]~[実施例16]
(1.溶液調製工程)
実施例1の溶液調製工程にて、用いた共重合体を上記共重合体Bおよび上記共重合体Cにそれぞれ変更したことを除いては、実施例1と同様にしてPEG-PLLA溶液を調製した。
【0188】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、メタノール9mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0189】
(3.塗布工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0190】
(4.乾燥工程)
実施例1の乾燥工程と同様にしてサンプル15および16をそれぞれ得た。
【0191】
[実施例17]~[実施例19]
(1.溶液調製工程)
実施例1の溶液調製工程にて、用いた共重合体の量を変更し、それぞれ10mg、20mgおよび100mgとしたことを除いては、実施例1と同様にしてPEG-PLLA溶液を調製した。
【0192】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、メタノール9mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、それぞれ濃度1mg/mL、2mg/mLおよび10mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0193】
(3.塗布工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0194】
(4.乾燥工程)
実施例1の乾燥工程と同様にしてサンプル17~19をそれぞれ得た。
【0195】
[実施例20]
(1.溶液調製工程)
実施例1の溶液調製工程にて、用いた共重合体の量を10mgに変更したことを除いては、実施例1と同様にしてPEG-PLLA溶液を調製した。
【0196】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、メタノール9mLを加えた後、ボルテックスミキサー(回転速度:200rpm)を用いて30秒間撹拌し、次いで、ソニケーション(超音波処理)を1分間実施して、濃度1mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0197】
(3.塗布工程)
基材としての2cm×1cmの乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)フィルム(実施例9と同様に作製したもの)2枚を、室温で10秒程度、上記PEG-PLLA懸濁液に浸漬した後、ゆっくりとPLGAフィルムを手動で引き上げた。
【0198】
(4.乾燥工程)
上記PLGAフィルムを、23℃に保持した真空オーブン内に14時間静置し、乾燥固着化を行った。その後、PLGAフィルムを40℃のRO水にて1時間程度洗浄し、室温にて真空乾燥し、サンプル20を得た。
【0199】
[実施例21]~[実施例22]
(1.溶液調製工程)~(3.塗布工程)
実施例20の溶液調製工程、懸濁液調製工程および塗布工程と同様にしてこれらの各工程を行い、PLGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0200】
(4.乾燥工程)
実施例20の乾燥工程にて、真空オーブンによる乾燥時、温度を50℃、80℃にそれぞれ変更したことを除いては、実施例20と同様にしてサンプル21および22をそれぞれ得た。
【0201】
[実施例23]
(1.溶液調製工程)~(3.塗布工程)
実施例1の溶液調製工程、懸濁液調製工程および塗布工程と同様にしてこれらの各工程を行い、PGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0202】
(4.乾燥工程)
実施例1の乾燥工程にて、真空オーブンによる乾燥時、温度を40℃に変更したことを除いては、実施例1と同様にしてサンプル23を得た。
【0203】
[実施例24]
(1.溶液調製工程)~(3.塗布工程)
実施例1の溶液調製工程、懸濁液調製工程および塗布工程と同様にしてこれらの各工程を行い、PGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0204】
(4.乾燥工程)
上記PGAフィルムを、50℃に保持したオーブン(常圧)内に14時間静置し、乾燥固着化を行った。その後、PGAフィルムを40℃のRO水にて1時間程度洗浄し、室温にて真空乾燥し、サンプル24を得た。
【0205】
[実施例25]
(1.溶液調製工程)~(2.懸濁液調製工程)
実施例1の溶液調製工程および懸濁液調製工程と同様にしてこれらの各工程を行い、PEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0206】
(3.塗布工程)
基材としての2cm×1cmのポリグリコール酸(PGA)フィルム(比較例1と同様に作製したもの)2枚に対して、それぞれ50μLずつ、上記PEG-PLLA懸濁液をピペットにより滴下し、当該懸濁液が基材の表面(全面)を覆うようにスピンコートを行った。
【0207】
(4.乾燥工程)
実施例4の乾燥工程と同様にしてサンプル25を得た。
【0208】
[実施例26]
(1.溶液調製工程)~(2.懸濁液調製工程)
実施例4の溶液調製工程および懸濁液調製工程と同様にしてこれらの各工程を行い、PEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0209】
(3.塗布工程)
基材としてのポリグリコール酸(PGA)ファイバー(直径20μm、株式会社ニッケ・メディカル製、商品名:PGAモノフィラメント)を、5mm径の金属支柱に巻き付けたものを準備し、これを室温で10秒程度、上記PEG-PLLA懸濁液に浸漬した後、ゆっくりとPGAファイバーを巻き付けた金属支柱を手動で引き上げた。
【0210】
(4.乾燥工程)
上記PGAファイバーを金属支柱から取り外し、50℃に保持した真空オーブン内に1時間静置し、乾燥固着化を行った。その後、PGAファイバーを40℃のRO水にて1時間程度洗浄し、室温にて真空乾燥し、サンプル26を得た。
【0211】
[実施例27]
(1.溶液調製工程)~(2.懸濁液調製工程)
実施例7の溶液調製工程および懸濁液調製工程と同様にしてこれらの各工程を行い、PEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0212】
(3.塗布工程)
実施例26の塗布工程と同様にしてPGAファイバーにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0213】
(4.乾燥工程)
実施例26の乾燥工程にて、真空オーブンによる乾燥時、温度を60℃、乾燥時間を2時間にそれぞれ変更したことを除いては、実施例26と同様にしてサンプル27を得た。
【0214】
[実施例28]
(1.溶液調製工程)
アセトン1mLに上記共重合体A 30mgを加えて撹拌し、PEG-PLLA溶液を調製した。
【0215】
(2.懸濁液調製工程)
上記PEG-PLLA溶液に、メタノール9mLを加え、ボルテックスミキサー(回転速度:80rpm)を用いて30秒間撹拌し、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0216】
(3.塗布工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0217】
(4.乾燥工程)
実施例1の塗布工程と同様にしてサンプル28を得た。
【0218】
[参考例1]
(1.懸濁液調製工程)
アセトン1mLおよびメタノール9mLの混合溶媒を調製し、上記共重合体D 30mgを加えて、ボルテックスミキサー(回転速度:80rpm)を用いて30秒間混合し、PEG-PLLAを含む溶液を調製した。当該溶液を撹拌しながら50℃まで加温し、1分間撹拌した後放冷し、室温まで冷却することにより、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0219】
(2.塗布工程)
上記懸濁液を30秒間撹拌し、比較例1で用いたPGAフィルムと同じフィルム2枚を、室温で10秒程度、当該懸濁液に浸漬した後、これらのPGAフィルムをゆっくりと手動で引き上げた。
【0220】
(3.乾燥工程)
上記PGAフィルムを、60℃に保持した真空オーブン内に2時間静置し、乾燥固着化を行った。その後、PGAフィルムを40℃のRO水にて1時間程度洗浄し、室温にて真空乾燥し、参考サンプル1を得た。
【0221】
[参考例2]
(1.懸濁液調製工程)
アセトン2mLおよびエタノール8mLの混合溶媒を調製し、上記共重合体A 30mgを加えて、ボルテックスミキサー(回転速度:80rpm)を用いて30秒間混合し、PEG-PLLAを含む溶液を調製した。当該溶液を撹拌しながら50℃まで加温し、1分間撹拌した後放冷し、室温まで冷却することにより、濃度3mg/mLのPEG-PLLA懸濁液を調製した。
【0222】
(2.塗布工程)
参考例1の塗布工程と同様にしてPGAフィルムにPEG-PLLA懸濁液を塗布した。
【0223】
(3.乾燥工程)
上記PGAフィルムを、50℃に保持した真空オーブン内に14時間静置し、乾燥固着化を行った。その後、PGAフィルムを40℃のRO水にて1時間程度洗浄し、室温にて真空乾燥し、参考サンプル2を得た。
【0224】
[粒径の測定]
上記各実施例および各参考例で調製した懸濁液、ならびに上記各比較例で調製した塗布液に含まれる粒子について、粒子径測定装置(Malvern Panalytical社製:ゼータサイザーナノ ZSP90)を用いて、体積平均粒径を測定した。具体的には、上記懸濁液または塗布液について、専用セル(PCS1115)を用いて測定した。なお、体積平均粒径の測定は、各実施例、各参考例および各比較例について1サンプル~数サンプルを用いて行い、複数のサンプルを測定したものについてはその平均値を採用した。
【0225】
[ζ電位(ゼータ電位)の測定]
上記実施例、参考例および比較例で得られた各サンプルの表面について、以下の条件でζ電位を測定した。具体的には、測定装置に設置されたクランプセル内の可動ブロック表面に測定用サンプル(1cm×2cm)を専用の粘着テープで張り付け、pH7、300mbar(30,000Pa)、1mM KClの条件でζ電位を測定した。なお、ζ電位の測定は、各実施例、各参考例および各比較例について1サンプル~数サンプルを用いて行った。上記測定は、1サンプルについて4回行い、その平均値を採用した(1サンプルのみの場合)。また、複数のサンプルを測定したものについては、各サンプルについて4回上記測定を行い、その平均値を求めたうえで、複数のサンプル間における平均値を求め、ζ電位として採用した。
【0226】
なお、比較例7、実施例26および27は、基材がファイバー状であることから、表面のζ電位について適切な測定が難しいため、これらの実施例のサンプルについては、以下で説明するXPS分析によってタンパク質や細胞等の付着を抑制する効果を評価した。
【0227】
ここで、ζ電位の絶対値と、タンパク質や細胞等の付着を抑制する効果との関係は、以下のように考えられる:ζ電位が小さいほど、PEG鎖の分子運動による排除体積効果が大きくなっていると考えられる。そして、排除体積効果が大きくなると、タンパク質や細胞等の付着を抑制する効果が高くなる。したがって、ζ電位の絶対値が小さいことは、タンパク質や細胞等の付着を抑制する効果(すなわち、抗血栓性)が向上していることを示唆している。具体的には、ζ電位の絶対値が11.0mV未満であれば、タンパク質や細胞等の付着を抑制する効果(すなわち、抗血栓性)に優れることが示唆される。
【0228】
・装置:固体表面ζ電位測定装置(Anton Paar社製SurPASS)。
【0229】
[XPS分析]
上記実施例および比較例で得られた各サンプルの表面について、以下の条件でXPS分析を行った。具体的には、下記条件にて各サンプルの表面を分析し、化学結合体を分析して、C-O結合とC-C結合との比率(C-O/C-C)を算出した。当該比率(C-O/C-C)は、被膜を構成する共重合体の存在を直接確認するものであり、被膜の面密度の指標と考えることができる。なお、上記比率(C-O/C-C)の値が大きいほど、面密度が高いといえる。すなわち、基材表面をPEG-PLLA共重合体が密に被覆しているということができ、PEG-PLLA共重合体によるタンパク質や細胞等の付着を抑制する効果(すなわち、抗血栓性)が得られやすくなっていると考えられる。
【0230】
・装置:X線光電子分光装置(アルバック・ファイ社製PHI Quantera II)
・解析ソフト:MultiPak Version 9.8.0.19。
【0231】
上記の評価結果を以下の表1~9に示す。なお、表中の斜線は、該当する項目を測定していないことを示す。また、表中、「溶解後貧溶媒」の項目は、共重合体を良溶媒と混合した後、貧溶媒を添加したものについて「〇」と記載し、そうでないものについては「×」と記載する。
【0232】
【0233】
【0234】
【0235】
【0236】
【0237】
【0238】
【0239】
【0240】
【0241】
表1~表8から示されるように、本発明に係る方法によりPEG-PLLA共重合体が塗布されたサンプルは、その表面のゼータ電位の絶対値が小さいか、またはC-O結合とC-C結合との比率(C-O/C-C)が大きく、タンパク質や細胞等の付着抑制効果に優れることが示唆される。
【0242】
また、比較例4と各実施例の比較によれば、PEG-PLLA懸濁液中の粒子(PEG-PLLA粒子)の体積平均粒径が170nm未満であるとき、サンプル表面のζ電位の絶対値が小さく、タンパク質や細胞等の付着抑制効果が特に向上することが示された。さらに、表4および表5を参照すると、上記体積平均粒径が170nm未満、さらには140nm未満であると、上記効果がさらに向上することが推測される(特に、実施例15と実施例18との対比より)。
【0243】
表2において、実施例3(良溶媒:貧溶媒の体積比=2:8)と実施例5(良溶媒:貧溶媒の体積比=3:7)とは、ζ電位が同程度であるが、C-O結合とC-C結合との比率(C-O/C-C)が実施例3のほうが顕著に大きい。これは、実施例5と比較して、実施例3のほうが、タンパク質や細胞等の付着抑制効果が高いことを示唆している。
【0244】
さらに、表5において、実施例17~19の比較によれば、懸濁液中のPEG-PLLA濃度が1mg/mLを超えるとき(特に、2~10mg/mLであるとき)、サンプル表面のζ電位の絶対値が小さく、タンパク質や細胞等の付着抑制効果が特に向上することが示された。
【0245】
さらに、表6において、実施例20~24の対比より、乾燥工程の温度は、40℃以上とすると、サンプル表面のζ電位の絶対値が小さく、タンパク質や細胞等の付着抑制効果が特に向上することが示唆された。
【0246】
さらにまた、本発明に係る方法によれば、浸漬法を採用することができる。したがって、本発明に係る方法は、例えばファイバー状(実施例26、27)など、多様な形状の基材を有する医療用具に対応可能であり、微細な空隙部分を有するなど、複雑な構造を有する医療用具の製造を容易にすると言える。