(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033876
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】骨固定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/72 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
A61B17/72
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137771
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】393024186
【氏名又は名称】株式会社ホムズ技研
(74)【代理人】
【識別番号】100100055
【弁理士】
【氏名又は名称】三枝 弘明
(72)【発明者】
【氏名】堀江 誠
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雅史
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160LL26
4C160LL27
4C160LL28
4C160LL37
4C160LL44
(57)【要約】
【課題】髄内釘、骨接続具及び結束材を用いて、低侵襲な手術を行うことができ、手術時の作業が容易化される骨固定システムを実現する。
【解決手段】 骨固定システムは、骨Fの髄腔に挿入されて用いられる、横断孔を備えた髄内釘10と、骨Fに導入され、髄内釘10の横断孔10b,10cに挿通されて用いられる骨接続具21,22と、骨Fの外表面上に締付固定される可撓性の結束材40と、を具備し、前記骨接続具21は、前記結束材40を導入して保持可能な保持構造31a、31bを備える結束材保持部30(31)を基端に有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨の髄腔に挿入されて用いられる、横断孔を備えた髄内釘と、
骨に導入され、前記髄内釘の前記横断孔に挿通されて用いられる骨接続具と、
骨の外表面上に締付固定される可撓性の結束材と、
を具備し、
前記骨接続具は、前記結束材を保持可能な保持構造を備える結束材保持部を基端に有する
ことを特徴とする骨固定システム。
【請求項2】
前記結束材保持部は、前記骨接続具の基端に装着された結束材保持具の前記保持構造によって構成され、
前記結束材保持具は、前記骨接続具の基端に係合する係合構造を備える、
請求項1に記載の骨固定システム。
【請求項3】
前記結束材保持具は、前記係合構造が前記骨接続具の基端に係合することにより、前記骨接続具に対して着脱可能に装着される、
請求項2に記載の骨固定システム。
【請求項4】
前記骨接続具は基端に開口した軸孔を備え、
前記結束材保持具は、前記係合構造による係合時において前記骨接続具の前記軸孔に挿入される軸部を有する、
請求項3に記載の骨固定システム。
【請求項5】
前記結束材保持部は、前記結束材を保持した状態で操作により前記結束材を固定可能に構成される、
請求項1-4のいずれか一項に記載の骨固定システム。
【請求項6】
前記保持構造は、前記髄内釘の軸線方向と前記骨接続具の軸線方向の双方に直交する方向に沿った姿勢で前記結束材を保持する、
請求項1-4のいずれか一項に記載の骨固定システム。
【請求項7】
前記髄内釘は、前記結束材を係止可能な係止構造を基端部の外面上に備える、
請求項1-4のいずれか一項に記載の骨固定システム。
【請求項8】
前記骨接続具は、軸状の本体と、前記本体がスライド動作可能な筒状のスリーブとを有し、
前記髄内釘は前記スリーブを固定する固定機構を備え、
前記結束材保持部は、前記本体のスライド動作を妨げない態様で前記スリーブの基端に設けられる、
請求項1-4のいずれか一項に記載の骨固定システム。
【請求項9】
前記髄内釘、前記骨接続具、又は、前記結束材に対して、接続された状態で、或いは、係合した状態で、骨の表面上に配置される支持プレートをさらに具備する、
請求項1-4のいずれか一項に記載の骨固定システム。
【請求項10】
前記骨接続具と前記支持プレートの間には、相互にロック可能に構成されたロッキング構造が設けられる、
請求項9に記載の骨固定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は骨固定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、骨固定のためのインプラントを用いた各種のシステムが用いられている。これらのシステムには、髄内釘(ネイル)を髄腔内に挿入し、この髄内釘に対して交差するように、髄内釘に設けられた横断孔に挿通されるラグスクリューやエクストラスクリューなどの骨接続具が取り付けられる。このとき、骨接続具は、髄内釘によって支持された状態で骨幹部や骨頭部に生じた骨片を固定することにより、骨折部分を整復状態に保つ。
【0003】
髄内釘や骨接続具は、単純な骨折態様や強度の高い骨折部分を整復状態に保つ効果は高いが、複雑な骨折態様や骨粗鬆症などによる強度が低下した骨折部分に対しては、必ずしも十分な機能が得られない場合がある。このため、特許文献1に記載されているように、髄内釘10にロックネジ3や固定ピン23を介して中間プレート15を接続し、この中間プレート15によって骨端部に形成された骨片を保持するように構成する場合がある。
【0004】
また、特許文献2に記載されているように、骨接合ピン15の基端に穴部10を形成し、この穴部10に軟鋼線33を挿通して締結部35を設けることにより、手術後の骨接合ピン15と骨との間の緩みを防止する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2005-537102号公報
【特許文献2】特開2002-165802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
髄内釘と骨接続具を用いた骨固定方法は、骨の外面上に配置される部分が少ないために切開範囲を限定できる、骨粗鬆症にも対応できるなどの利点があるが、髄内釘や骨接続具が貫通しない骨片(フラクチャー)を固定することが難しい場合があり、別途、支持プレートを用いたり、ケーブルやワイヤなどの結束材を用いて結束する必要が生じたりすることから、切開範囲が拡大したり、手術時の作業が難しくなったりすることが考えられる。
【0007】
そこで、本発明の課題は、髄内釘、骨接続具及び結束材を用いて、低侵襲な手術を行うことができ、手術時の作業が容易化される骨固定システムを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の骨固定システムは、骨の髄腔に挿入されて用いられる、横断孔を備えた髄内釘と、骨に導入され、前記髄内釘の前記横断孔に挿通されて用いられる骨接続具と、骨の外表面上に締付固定される可撓性の結束材と、を具備し、前記骨接続具は、前記結束材を保持可能な保持構造を備える結束材保持部を基端に有することを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、骨接続具の基端に有する結束材保持部を用いて結束材を保持することによって、骨接続具によって結束材自体や締結器(結束材のコネクタ、固定具)のずれを回避しつつ、結束材保持部にアクセスしやすくなるため、結束材保持部に対する結束材の導入作業を容易化でき、切開範囲も低減できる。また、少なくとも結束材保持部は骨の表面上に直接配置されていないので、結束時における血流の阻害を抑制できる。
【0010】
本発明において、前記結束材保持部は、前記骨接続具の基端に装着された結束材保持具の前記保持構造によって構成され、前記結束材保持具は、前記骨接続具の基端に係合する係合構造を備えることが好ましい。これによれば、骨接続具と結束材保持具を別体とすることができるので、結束材による結束が必要になった場合にのみ結束材保持具を骨接続具の基端に装着すればよいため、不要な場合には結束材保持具が作業を妨げることがなくなるとともに、構造上の制約が低減され、しかも、骨接続具を髄内釘及び骨に導入する作業と、結束材保持具を骨接続具の基端に装着する作業とを別々に行うことができるため、各作業の容易化を図ることができる。この場合において、前記結束材保持具は、前記係合構造が前記骨接続具の基端に係合することにより、前記骨接続具に対して着脱可能に装着されることが望ましい。
【0011】
この場合にはさらに、前記骨接続具は基端に開口した軸孔を備え、前記結束材保持具は、前記係合構造による係合時において前記骨接続具の前記軸孔に挿入される軸部を有することがさらに望ましい。このとき、前記結束材保持具は、前記保持構造を備える頭部をさらに有し、前記頭部と前記軸部の間の段差が前記骨接続具の基端に当接することにより、位置決めされることが望ましい。例えば、保持構造を備えた拡大された頭部と、この頭部から延在する軸部とを備え、上記頭部と軸部の段差によって係合構造が構成される場合がある。
【0012】
このとき、前記結束材保持具は、前記係合構造が前記骨接続具に係合したときに前記保持構造が前記骨接続具の外部に露出するように構成されることが好ましい。これによれば、結束材保持具が骨接続具に装着された状態で保持構造が露出した状態となるため、結束材保持具を骨接続具に装着した後に結束材保持具の保持構造に結束材を導入することが可能になる。
【0013】
本発明において、前記結束材保持部は、前記結束材を保持した状態で操作により前記結束材を固定可能に構成されることが好ましい。これによれば、単に結束材を保持するというだけではなく、操作により結束材を固定可能に構成されることにより、別途、締結器を用いなくても、結束材に張力を付与した状態で結束することが可能になる。この場合において、上記操作はクリンプ操作であり、前記結束材が孔や溝等の保持構造に導入(挿通)された状態で、前記結束材保持部がクリンプ操作を受けることによって、結束材が締結されることが好ましい。これによれば、結束材保持部を塑性変形可能に構成するだけで、クリンプ操作により結束材を固定することができる。なお、前記結束材保持部を前記骨接続具とは別体の前記結束材保持具によって構成することにより、結束材保持具を塑性変形可能に構成することが容易化される。
【0014】
本発明において、前記結束材保持部は、前記結束材を挿通可能な挿通孔を備えることが好ましい。結束材保持部の上記保持構造は、結束状態でなくても結束材を保持又は固定可能であることが望ましい。ただし、結束状態において結果として結束材を保持可能な構造であればよく、突起や溝などの係止構造によって構成されていても構わない。特に、この保持構造として、挿通孔を備えることにより、挿通孔に結束材を挿通することによって、結束材を確実に保持することができ、特に、結束材を固定可能な場合には、結束材をより確実に固定することができる。この場合において、前記結束材保持部は、一対の前記挿通孔を備えることが望ましい。これによれば、結束材の両端をそれぞれ挿通孔に挿通させることにより、結束材の保持又は固定をより確実かつ容易に実施できる。
【0015】
本発明において、前記保持構造は、前記髄内釘の軸線方向と前記骨接続具の軸線方向の双方に直交する方向に沿った延在姿勢で前記結束材を保持することが好ましい。例えば、保持構造が挿通孔や溝である場合には、孔の貫通方向や溝の延長方向が髄内釘の軸線方向と骨接続具の軸線方向の双方に直交することにより、保持構造は、結束材の結束方向に沿った姿勢で結束材を保持することが可能になるので、結束材に対する負荷を低減でき、結束力も維持しやすくなる。
【0016】
本発明において、前記髄内釘は、前記結束材を係止可能な係止構造を基端部の外面上に備えることが好ましい。この場合において、前記髄内釘は、前記髄内釘の基端部に対して着脱可能に構成され、前記係止構造を外面上に備えるエンドキャップを有することが望ましい。前記髄内釘の基端部に設けられる係止構造としては、溝、孔、突起などが挙げられる。
【0017】
本発明において、前記骨接続具は、軸状の本体と、前記本体がスライド動作可能な筒状のスリーブとを有し、前記髄内釘は前記スリーブを固定する固定機構を備え、前記結束材保持部は、前記本体のスライド動作を妨げない態様で前記スリーブの基端に設けられることが好ましい。前記結束材保持部が前記結束材保持具の前記保持構造によって構成される場合には、前記結束材保持具が前記スリーブに係合可能に構成されることが望ましい。この場合、前記係合構造は、前記スリーブに対して前記骨接続具の軸線方向の先端側に当接して位置決めされることが望ましい。
【0018】
本発明において、前記髄内釘、前記骨接続具、又は、前記結束材に対して、接続された状態で、或いは、係合した状態で、骨の表面上に配置される支持プレートをさらに具備することが好ましい。この場合において、前記支持プレートは、前記骨接続具に対して固定されることが望ましい。これによれば、支持プレートと結束材保持部が共に骨接続具に固定されることにより、骨片を固定する支持プレートと結束材が間接的に固定されるので、確実かつ容易に骨折部分の整復状態を維持できる。例えば、骨接続具と支持プレートの間には、相互にロック可能に構成されたロッキング構造が設けられることが望ましい。一例としては、骨接続具にロッキングねじが形成され、支持プレートにロッキング孔が形成されることが挙げられる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、髄内釘、骨接続具及び結束材を用いて、低侵襲な手術を行うことができ、手術時の作業が容易化される骨固定システムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る骨固定システムの第1実施形態による骨折部分の第1の整復保持状態を示す正面図である。
【
図2】同第1実施形態の同状態を示す外側面図である。
【
図3】同第1実施形態の同状態を示す背面図である。
【
図4】同第1実施形態の同状態を示す平面図(a)及び底面図(b)である。
【
図5】同第1実施形態の同状態を示す内側面図である。
【
図6】同第1実施形態の第2の整復保持状態を示す正面図である。
【
図7】第2実施形態の整復保持状態を示す正面図である。
【
図8】第3実施形態の整復保持状態を示す正面図である。
【
図9】第4実施形態の整復保持状態を示す正面図(a)及び係止部材の正面図(b)及び平面図(c)である。
【
図10】第5実施形態の整復保持状態を示す正面図(a)及び支持プレートの平面図(b)である。
【
図11】各実施形態に用いることのできる結束材保持具の正面図、両側面図、平面図、底面図及び背面図(a)、骨接続具(ラグスクリュー)の構造を示す正面図、両側面図、平面図、底面図及び背面図及び正面一部断面図(b)、並びに、結束材保持具を骨接続具に装着した状態を示す正面一部断面図(c)である。
【
図12】各実施形態に用いることのできる異なる骨接続具(ラグスクリュー)の構造例を示す伸長状態の正面一部断面図(a)、基端部Cの端面図(b)、及び、A-A断面図(c)である。
【
図13】各実施形態に用いることのできる結束材保持具の正面図(a)、骨接続具(ラグスクリュー)の構造を示す正面一部断面図(b)及び組立図(c)である。
【
図14】各実施形態に用いることのできる異なる結束材保持具の正面図(a)、骨接続具(ラグスクリュー)の構造を示す正面一部断面図(b)及び組立図(c)である。
【
図15】各実施形態に用いることのできるさらに異なる結束材保持具の正面図(a)、骨接続具(ラグスクリュー)の構造を示す正面一部断面図(b)及び組立図(c)である。
【
図16】各実施形態に用いることのできる異なるワイヤリング態様を示す正面図である。
【
図17】各実施形態に用いることのできるさらに異なるワイヤリング態様を示す正面図である。
【
図18】各実施形態に用いることのできる別のワイヤリング態様を示す正面図である。
【
図19】各実施形態に用いることのできる骨接続具及び結束材保持具の一例を示す正面一部断面図(a)及び他の例を示す正面一部断面図(b)である。
【
図20】異なる骨接続具を用いた他の実施形態を示す全体図(a)、骨接続具の基端の端面図(b)及び底面図(c)である。
【
図21】さらに異なる骨接続具を用いた別の実施形態を示す全体図(a)、骨接続具の基端の端面図(b)及び(c)、並びに、底面図(d)である。
【
図22】各実施形態に用いることのできる骨接続具及び結束材保持具の異なる例を示す結束材保持具の正面図(a)、骨接続具の正面図(b)及び組立図(c)である。
【
図23】各実施形態に用いることのできる骨接続具及び結束材保持具の別の例を示す結束材保持具の正面図(a)、骨接続具の正面図(b)及び組立図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、添付図面を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。最初に、
図1乃至
図6を参照して、本発明に係る第1実施形態について説明する。
【0022】
(第1実施形態)
本実施形態の骨固定システムは、
図1-
図5に示すように、髄内釘10と、この髄内釘10に対して交差するように挿通される骨接続具21,22,23,24と、骨接続具21に装着される結束材保持具30と、結束材保持具30の保持構造に保持されるワイヤやケーブルなどからなる結束材40とを具備する。ここで、結束材40は、結束に用いることができるものであればいかなるものであってもよく、例えば、バンドやテープなどであってもよい。
【0023】
髄内釘10は、ネイルとも呼ばれ、骨F(図示例は大腿骨)の骨幹部Fa内の髄腔に挿入されて骨折部分Tを内側から支持する。髄内釘10には、基端部11に開口を備える軸孔10aと、この軸孔10aと交差して連通する横断孔10b、10c、10d、10eとが設けられる。具体的には、軸孔10aの両側に相互に対応する一対の開口を形成することにより、横断孔10b、10c、10d、10eが構成される。図示例では、基端側に形成された二つの横断孔10bと10cはそれぞれ斜め上方へ貫通するように形成され、骨Fの骨端部(近位端)Fbの外側上から骨頸部Fcを経て骨頭部Fdへ向けて骨接続具21と22を導くことができるように構成される。一方、先端側の横断孔10dと10eはそれぞれ軸孔10aの軸線と直交する方向に貫通するように形成され、骨幹部Faを横断するようにコーティカルスクリュー(皮質ねじ)である骨接続具23,24を導くように構成される。なお、骨折部分Tには、図示例のように、後外側に骨片Fhが存在する場合もある。
【0024】
図11には、第1実施形態に用いられる結束材保持具30の側面図(a)、ラグスクリューである骨接続具21の側面一部断面図(b)、及び、骨接続具21に結束材保持具30を装着した状態の側面一部断面図(c)を示す。なお、この図において、結束材保持具30は骨接続具21に比べて小さな縮尺で描かれている。この骨接続具21は、互いに軸線方向に移動可能に構成された軸状の本体21Aと筒状のスリーブ21Bとを備え、スリーブ21Bは、本体21Aの軸部の外周側を軸線方向にスライド可能に構成される。本体21Aは通常のラグスクリュー(骨ねじ)と同等の構造を備えることができ、先端側に骨に係合するねじ構造である骨係合部21Abを備え、基端側に軸部を備える。スリーブ21Bは、本体21A対して回転可能に構成されていてもよいが、
図12に示すように、スリーブ21Bの挿通孔の内面形状は断面角孔(例えば、六角孔)であり、本体21aの軸部の外面形状は断面角柱(例えば、六角柱)とすることなどにより、スリーブ21Bが本体21Aに対して軸線周りに回転しないように構成されていることが好ましい。すなわち、スリーブ21Bは本体21Aに対してスライドは可能であるものの、軸線周りに回転不能に構成される。
図11に戻って説明を続けると、本体21Aには、軸線に沿った軸孔21Aaが形成される。この軸孔21Aaは、例えば、骨接続具21を導くためのガイドピン(図示せず)を挿通させるために用いられるが、本実施形態では、結束具保持具30の軸部32を受け入れるためにも用いられる。
【0025】
髄内釘10の軸孔10a内には、図示しない固定機構が内蔵され、軸孔10aの基端開口からレンチなどの工具を挿入して回転操作を行うことにより、骨接続具21のスリーブ21Bに係合して、スリーブ21Bを髄内釘10の本体に対して固定することができる。ここで、スリーブ21Bの外表面上には、上記固定機構の係合部位に係合する被係合部位として、軸線に沿った長溝21Bcが形成され、上記固定機構の係合部位と係合するようになっている。上記固定機構の一つの例は、軸孔10aの内面に形成された雌ねじに螺合するとともに、先端にスリーブ21Bに係合する係合端部を備えるセットスクリューが挙げられる。また、固定機構としては、内蔵された係合部材を駆動ねじによって図示上下に移動させることによって、図示上下に駆動するといった構造も考えられる。上記固定機構により骨接続具21のスリーブ21Bが固定されると、骨接続具21の本体21Aは軸線周りに回転できなくなるが、軸線方向にはスライド可能な状態に維持される。
【0026】
一方、骨接続具21よりもさらに基端側に挿通される骨接続具22は、エクストラスクリューと呼ばれるものであり、骨接続具21と併用されることによって、骨折部分Tで骨幹部Faから分離された骨頭部Fdが回旋しないように、保持する機能を有する。骨接続具22にも軸孔が設けられ、前述のガイドピンに対して用いられる。この軸孔についても、骨接続具22に結束材保持具30を装着する際の結束材保持具30の係合構造を挿入する部分として用いることができる。なお、上記の骨接続具21,22としては、図示例のような骨ねじに限らず、単なるピンや釘の形状を備えるものであっても構わない。
【0027】
結束材保持具30は、
図11(a)に示すように、拡大された頭部31と、この頭部31より延在する軸部32とを有する。頭部31には、保持構造としての一対の貫通した挿通孔31a、31bが設けられている。挿通孔31aと31bは相互に並行に頭部31を貫通している。また、頭部31は、全体として直方体形状とされている。軸部32は、図示例では断面円形のピン状であり、頭部31よりも横断面が小さな形状を有する。軸部32の先端は、骨への刺入が可能となるように鋭利な先端32aを有するが、特にこれに限定されるものではない。また、頭部31と軸部32との間には、段差部31cが設けられ、この段差部31cが軸部32と共に、結束材保持具30の係合構造を構成している。図示例では、上記段差部31cは、軸部32の周囲の軸線周りの全周に亘るものとされている。
【0028】
頭部31は、挿通孔31a、31bに結束材40を挿入した状態で、31a、31bを押しつぶすように幅方向又は上下方向に、(ワイヤ)クリンパーなどを用いてクリンプ操作を行うことにより、塑性変形し、結束材40を固定することができるように構成されている。一般に、結束材保持具30は金属で構成される。
【0029】
結束材40は、図示例では可撓性のワイヤ若しくはケーブルで構成される。骨折部分を結束するために十分な剛性を備えたものとするため、結束材40は、複数の金属製ワイヤを束ねた構造であることが好ましい。図示例では、結束材40の一方の端部が結束材保持具30の頭部31aに設けられた挿通孔31aに挿入され、他方の端部が挿通孔31bに挿入された態様で、さらにテンショナー等により十分な張力が与えられた状態で、上記クリンプ操作によって頭部31が塑性変形を受けることにより、結束材40の両端部が固定される。結束材40は、骨接続具21の基端に装着された頭部31の一方の挿通孔31aから骨頸部Fc上の梨状窩Feの表面上を経て、再び、頭部31aの他方の挿通孔31bに戻る態様で結束され、骨折部分Tと、後外側の骨片Fhを保持する。
【0030】
図6には、本実施形態の異なる結束態様を示す。この結束態様では、骨接続具21の基端の結束材保持具30の頭部31の挿通孔31a,31bと小転子Fgに近い領域の骨幹部Faの表面上との間に結束材40が結束されることによって、骨幹部Faに形成される斜骨折T′等を固定することができる。
【0031】
本実施形態において、結束材保持具30は、骨接続具21の本体21Aの軸孔21Aaに軸部32を挿入する態様で係合し、この係合状態で、頭部31の挿通孔31a、31bに結束材40が保持され、かつ、固定されている。これにより、結束具40は、骨接続具21の基端に保持されることで、髄内釘10と骨接続具21を基準として、骨Fの骨端部Fbや骨幹部Faをしっかりと拘束することができる。特に、従来においては、結束材40自体やこの結束材40を固定する締結器(コネクタ)が骨の表面上で位置ずれを起こしやすく、当該位置ずれが生ずると、結束材40による結束力が失われたり、骨片の整復状態が崩れたりしていた。しかし、本実施形態では、結束材40が骨接続具21の基端に装着されている結束材保持具30の頭部31に保持されているので、上記のようなことは生じない。
【0032】
本実施形態では、骨接続具21の基端に結束材保持部(頭部31の保持構造)が設けられることにより、アクセスが容易になるため、手術時における切開範囲を小さくでき、低侵襲の手術が可能になるとともに、結束作業が容易になる。この効果は、特に、結束材保持部の位置が骨幹部Faの表面から離れることにより、さらに大きくなる。また、結束材保持部が骨接続具の基端にあることにより、少なくとも結束材の保持部分が骨表面上になく、骨に接触していないため、結束状態において血流を阻害しにくいという利点もある。この点も、結束材保持部の位置が骨幹部Faの表面からさらに離れることにより、結束材のうち、骨表面から離れた部分が多くなるため、血流の阻害はさらに低減される。また、手術時には、通常、髄内釘の挿入領域と骨接続具の導入領域に切開範囲が設けられるが、後外側にワイヤリングやプレート類を設置するためには、両領域の間にも切開範囲を設ける必要が生ずるなど、切開範囲が大幅に増大してしまうことが多い。しかし、本実施形態では、骨接続具用の切開領域をワイヤリングにも利用できることから、切開範囲を大きく広げる必要がないという利点がある。
【0033】
本実施形態において、結束材保持部としての結束材保持具30は、骨接続具21に対して軸部32を軸孔21Aaへ挿入するだけで簡単に装着でき、しかも、頭部31の段差部31cと軸部32によって構成される係合構造によって、単に頭部31がスリーブ21Bに当接するだけで位置決めされ、結束状態においては、結束材40をしっかりと固定することができる。したがって、手術時においての結束材保持具30の骨接続具21への装着作業は極めて簡単でありながら、結束材40の結束状態においては骨に対して確実にかつ十分な拘束力を与えることができる。
【0034】
結束材保持具30は骨接続具21に対して着脱可能に構成されるので、結束材40を用いた結束の要否に応じて骨接続具21に簡単に装着でき、結束が不要であれば、骨接続具21のみを用いることも容易である。また、骨接続具21は、図示しないガイドスリーブやレンチなどの工具を用いてガイドピンなどに案内された状態で骨の内部へ導入されるため、この場合に、骨接続具21の基端に結束材保持部が取り外し不能に設けられていると、結束材保持部の形状や構造に制約が課せられる。手術中において、結束材40を挿入したり、挿通させたりする作業を容易化するには、頭部31を或る程度大きく設ける必要があるが、骨接続具21から結束材保持具30を着脱可能に構成することで、結束材保持部の形状や構造に対する制約を緩和することができるので、上記作業に適した形状や構造とすることが可能になる。ここで、結束材保持具30の使用・不使用の選択は、上記の着脱性により、手術中においても容易に行うことが可能になる。なお、上記の言及は、本発明において、骨接続具21の基端に固定され、着脱できないように構成された結束材保持部が設けられる場合を排除するものではない。
【0035】
本実施形態では、骨接続具21として本体21Aとスリーブ21Bとが軸線方向にスライド可能に構成されたものとし、結束材保持具30の頭部31をスリーブ21Bに対して当接させ、軸線方向に位置決めしている。このとき、スリーブ21Bは、髄内釘10内の固定機構によって固定されているので、結束材保持具30の頭部31も結束時にはスリーブ21Bの軸線方向に固定される。このような構造により、軸部32が本体21Aの軸孔21Aa内に挿入されていたとしても、骨折部分Tの癒合に起因して生ずる本体21Aの軸線方向のスライド動作を妨げることがなく、しかも、前述のように、骨接続具21の本体21Aがスライド動作をしても、スリーブ21Bが固定されていることで、結束材保持部である頭部31の位置は移動しない。
【0036】
本実施形態に限らず、各実施形態では、骨Fの外側上に配置される骨接続具21の基端から骨端部Fbや骨幹部Faの内側上に結束材40によってワイヤリングを施すことができるので、骨端部Fbや骨幹部Faの骨折部分を整復された状態に維持することができる。特に、骨粗鬆症の場合には、骨接続具21,22だけでは骨折部分に対して十分な係合力(骨頭部Fdに対する圧縮力)を得ることができない場合があり、骨折線が離開したままとなり、再転位や偽関節が生じ、骨折の治療ができないことがある。各実施形態では、骨接続具21の基端が配置される外側上の第1の位置と、梨状窩Feや髄内釘10の基端部11との間などの骨端部Fb内の第2の位置との間に結束材40を架設して結束することにより、骨端部Fb周辺(図示例のような骨頚部Fcや骨頭部Fdも含む。)の骨折を確実に把持することができる。また、上記第1の位置と、骨幹部Faの内側上の第3の位置との間に結束材40を架設して結束することにより、骨幹部Faの斜骨折などの治療も行うことができる。
【0037】
(第2実施形態)
次に、
図7を参照して、本発明に係る第2実施形態について説明する。この第2実施形態では、基本的に、髄内釘10、骨接続具21,結束材保持具30、結束材40については、上記第1実施形態と同様に構成することができる。ただし、本実施形態では、髄内釘10の基端部11の外表面に係止構造12を形成している点で、第1実施形態とは異なる。係止構造12は、図示例の場合、基端部11を軸線周りに周回する形状の環状溝となっている。これにより、結束材40が骨接続具21の基端に装着された結束材保持具30の頭部31から近位側へ延在し、梨状窩Fe上を通過するとき、結束材40を係止構造12に係止させることによって、結束材40を髄内釘10にしっかりと引っ掛けることができる。
【0038】
特に、骨粗鬆症などのように、骨質によっては、結束材40に過剰な張力を与えると、結束材40が梨状窩Feの表面から沈み込み、十分な結束力を与えることができない場合がある。しかし、本実施形態では、係止構造12により、梨状窩Fe上の結束材40が髄内釘10の基端部11にしっかりと係止されるため、骨質に依存することなく、しっかりと結束力を加えることができる。
【0039】
なお、係止構造12としては、上記のような溝構造に限らず、結束材40を基端部11の外表面上で係止できるものであればよく、例えば、孔構造や突起構造などであってもよい。また、基端部11における係止構造12の形成位置についても、環状ではなく、周囲の一部のみに形成されたものであってもよく、また、外表面上に限らず、基端部11の端縁上であってもよいなど、結束位置や結束態様などの状況に応じた適宜の位置に係止構造12を形成することができる。
【0040】
(第3実施形態)
次に、
図8を参照して、本発明に係る第3実施形態について説明する。この第3実施形態では、基本的に、髄内釘10、骨接続具21,結束材保持具30、結束材40については、上記第1実施形態と同様に構成することができる。ただし、本実施形態では、髄内釘10の基端部11に装着可能に構成されるエンドキャップ13に、基端部11よりも上方に突出する突出部分13aを形成し、この突出部13aの表面上に、係止構造14を設けている。この係止構造14は、図示例では、エンドキャップ13の突出部分13a上に形成された、軸線周りに周回する形状の環状溝となっている。エンドキャップ13は、突出部分13aよりも下方へ突出したねじ部13bを髄内釘10の軸孔10aの内周面上に形成された雌ねじに螺合させることによって基端部11に固定される。なお、エンドキャップ13の先端部13cは、髄内釘10の軸孔10a内に配置された前述の内部機構を操作するための駆動部や、骨接続具21,22に直接係合するための係合部として形成されていてもよい。
【0041】
本実施形態でも、梨状窩Fe上の結束材40が髄内釘10の基端部11上にしっかりと係止されるため、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。特に、本実施形態では、エンドキャップ13の突出部分13aの突出量や係止構造14の位置や形状・構造を状況に合わせて設定することができる。このため、髄内釘10の挿入深さに応じて適応したエンドキャップ13を複数用意されたものの中から選択して用いることによって係止構造14の位置や形状・構造を最適化することも可能になる。なお、係止構造14としては、第2実施形態と同様に、種々の態様が許容される。
【0042】
(第4実施形態)
次に、
図9を参照して、本発明に係る第4実施形態について説明する。この実施形態では、髄内釘10及び骨接合具21,22は第1実施形態と同様であるが、髄内釘10の基端部11の軸孔10aの開口縁に係止部材15が装着され、この係止部材15は、係止部材15の環状部15aを挿通して軸孔10aにねじ込まれるエンドキャップ16によって固定される。エンドキャップ16の構造は、基本的に第3実施形態のエンドキャップ13と同様に構成できる。係止部材15において、環状部15aの一部から突出する係止部15bは、図示例では突起状或いはフック状に構成され、図示下方の骨接続具21の基端へ向けて延在する結束材40を係止可能な形状を備える。
【0043】
本実施形態では、結束材40を係止する係止部15bを備える係止部材15を設けたことにより、係止部15bをその位置に応じて適切な形状とすることにより、目的とする結束態様に対応して結束材40をより好適に、すなわち、確実かつ強固に係止することができる。係止部材15には、髄内釘10の基端部11の開口端の切り欠きに嵌合する係合部15cが設けられ、この係合部15cが切り欠きに係合した状態でエンドキャップ16によって固定されることにより、係止部15bの位置(軸線周りの角度位置)が規定されるようになっている。
【0044】
(第5実施形態)
次に、
図10を参照して、本発明に係る第5実施形態について説明する。この実施形態では、基端側の骨接続具220が、先端側の骨接続具21と同様に、本体220Aとスリーブ220Bの二体構造となっている点で、第1実施形態の骨接続具22とは異なる。また、本実施形態では、骨幹部Faの外側面上に支持プレート50が配置され、この支持プレート50が骨端部Fbを支持して骨片Fhを保持するようになっている。
【0045】
この支持プレート50は、特に限定されないが、骨接続具21(スリーブ21B)の基端を挿通する開口孔50aと、骨接続具220(スリーブ220B)の基端に接続される開口孔50bとを備える。ここで、図示例では、骨接続具21は単に開口孔50aに挿通され、骨接続具220は開口孔50bに形成されたねじ山と螺合するようになっているが、それぞれ、いずれの係合構造を備えていても構わない。具体的には、骨接続具220(スリーブ220B)の基端には雄ねじ220Be(ロッキングねじ)が設けられ、この雄ねじ220Beは、開口孔50bの雌ねじ50be(ロッキング孔)に螺合している。
【0046】
支持プレート50には、上記骨接続具21,220と接続される部分(開口孔50a,50bが形成される部分)から図示上方へ延在し、大転子Ffに向かう後外側領域を覆う延長支持部50cを備えている。支持プレート50の表面(骨に接する面とは反対側の面)には、開口孔50bから延長支持部50cに向けて結束材42を係止して案内する係止構造50dが形成されている。この係止構造50dは、図示例では、骨接続具220の基端に固定される結束材42の取り回し位置及び方向に沿った表面溝として形成されている。表面溝からなる係止構造50dは、開口孔50bから延長支持具50cの外縁まで連続して伸びることが結束材42を確実に係止するとともに破断の虞を低減する上で好ましい。このとき、頭部321に保持された結束材42の骨表面上の高さが係止構造50dに係止される高さに設定されていることが好ましい。ただし、一般的には、頭部311,321に保持された結束材41,42の高さは、係止構造50dに係止される高さに限らず、支持プレート50の周囲表面の同高さと実質的に一致するように設定されることが望ましい。
【0047】
本実施形態では、骨接続具21に結束材保持具310が装着され、骨接続具220に結束材保持具320が装着される。結束材保持具310,320は上記第1実施形態の結束材保持具30と同様に構成できる。ただし、結束材保持具310と320のいずれか一方のみを用いてもよい。図示例では、結束材保持具310が骨接合具21の基端に装着され、頭部311の挿通孔などの保持構造によって結束材41が結束状態となるように保持される。また、結束材保持具320が骨接合具220の基端に装着され、頭部321の挿通孔などの保持構造によって結束材42が結束状態となるように保持される。
【0048】
特に、支持プレート50が骨接続具21,220に接続されて骨折部分Tやその周囲の骨片を支持するため、整復状態の保持を安定して行うことができる。また、結束材41,42が複数(2本)の骨接続具21,220によって保持されているため、より強固に、より安定的に、より広い範囲において整復状態を確実に保持することができる。また、結束材42は支持プレート50の係止構造51に係止された状態で結束状態とされているので、結束材42の結束態様をより確実に確保でき、結束材42のずれを防止することができる。さらに、複数(2本)の結束材41,42によって結束することにより、仮に片方(1本)の結束材が破断しても整復状態が維持できるという効果を奏する。
【0049】
支持プレート50の保持や固定は、図示例の場合、骨接続具21,220の基端に接続されることによって実現されている。特に、骨接続具220(スリーブ220B)の基端に形成された雄ねじ220Beが開口孔50bの雌ねじ50beに螺合するなどのロッキング手段(固定手段)を設けることにより、髄内釘10及び骨接続具21,220の骨組に対して支持プレート50を強力に固定することができる。なお、支持プレート50としては、骨接続具21,220に係合されたり、固定されたりするか否かには拘わらず、結束材41,42に抱き込まれた状態で骨表面上に固定されるように配置されていてもよく、また、骨接続具41,42自体ではなく、髄内釘10に接続されたり、固定されたりする態様で、或いは、結束材保持具310,320に係合されたり、固定されたりする態様で、骨表面上に配置されていてもよい。
【0050】
図13(b)には、先の各実施形態で示した骨接続具21とは異なる態様の骨接続具210の側面一部断面図を示す。この骨接続具210は、先の骨接続具21とは異なりスリーブ21Bに相当する部分のない一体の骨ねじである。骨接続具210は、先端に骨係合部210bを有し、外周面に長溝などの上記固定機構に対する被係合部位210cを有する。この場合、骨接続具210の基端に結束材保持具30を装着すると、結束材保持具30の軸部32は骨接続具210の軸孔210aに挿入された状態とされ、頭部31の段差部31cが骨接続具210の基端に当接して位置決めされる点は、先の実施形態と同様である。しかし、骨接続具210が髄内釘10の上記固定機構によって軸線方向にスライド可能に構成される場合、結束材保持部(結束材保持具30)も軸線方向に移動するため、結束材による結束状態に影響を与える虞がある。特に、骨折部分Tの治癒に伴って骨頭部Fdの短縮が生じた場合には、骨接続具210が外側へ向けて移動するため、結束材が引っ張られて破断する虞がある。したがって、骨接続具210を用いる場合には、骨接続具210は上記固定機構によって軸線方向(及び回転方向)に固定された状態として用いることが好ましい。
【0051】
図14には、上記各実施形態において用いることのできる結束材保持具300の側面図(a)、骨接続具230の側面一部断面図(b)、及び、それらの組立状態を示す側面一部断面図(c)を示す。なお、結束材保持具300の基本構造(挿通孔301a,301bを備えた頭部301及び軸部302)は、上記結束材保持具30と同様であり、骨接続具230の基本構造(骨ねじ構造と軸孔230a)は、上記骨接続具210と同様である。本実施形態においては、結束材保持具300には、骨接続具230に係合するための係合構造300sが設けられ、骨接続具230には、係合構造300sに対応する係合構造230sが設けられる。図示例では、係合構造300sは雄ねじであり、係合構造230sは雌ねじである。係合構造300sは軸部302の基端側に配置され、係合構造230sも軸孔230aの基端側に設けられている。骨接続具230の軸孔230a内に結束材保持具300の軸部302を挿入し、回転操作などによって係合構造300sと係合構造230sを結合させると、結束材保持具300の頭部301は骨接続具230に対して軸線方向に取り付けられ、自律的に保持され、或いは固定される。
【0052】
本実施形態では、骨接続具230に結束材保持具300が係合構造300sと230sによって装着状態が少なくとも自律的に保持される程度に結合される。このため、結束状態にあるときだけでなく、一旦上記装着状態になれば、手術中に保持構造である挿通孔301aと301bが骨接続具230に対して移動しないので、結束材の挿入作業、結束材の締付作業、結束材保持具300の頭部301に対するクリンプ作業を容易に行うことが可能になる。また、係合構造300sと230sによって装着(位置決め)が行われることにより、骨接続具230の基端と結束材保持具300の頭部301とが相互に当接して位置決めされる必要がなくなるため、骨接続具230の基端と結束材保持具300の頭部301のそれぞれの寸法や形状を任意(自由)に設定できるという利点がある。
【0053】
図15には、上記各実施形態において用いることのできる結束材保持具310の側面図(a)、骨接続具240の側面一部断面図(b)、及び、それらの組立状態を示す側面一部断面図(c)を示す。なお、結束材保持具310の基本構造(挿通孔311a,311bを備えた頭部311及び軸部312)は、
図14において説明したものと同様であるが、上記とは異なる係合構造310sを備える。また、骨接続具240の基本構造(骨ねじ構造と本体240A及びスリーブ240Bと軸孔240Aa)は、上記骨接続具21と同様であるが、係合構造310sと係合可能な係合構造240Bsを有する。図示例では、係合構造310sは雄ねじであり、係合構造240Bsは雌ねじである。係合構造310sは軸部312の基端側に配置される。一方、係合構造240sは軸孔240Aaではなく、スリーブ240Bの基端側の内面に設けられている。本体240Aの軸孔240Aa内に結束材保持具310の軸部312を挿入し、回転操作などによって係合構造310sと係合構造240Bsを結合させると、結束材保持具310の頭部311は骨接続具240のスリーブ240Bに対して軸線方向に取り付けられ、自律的に保持され、或いは固定される。
【0054】
本実施形態でも、
図14に示す場合と同様に、骨接続具240に結束材保持具310が係合構造310sと240Bsによって装着状態が少なくとも自律的に保持される程度に結合される。これにより、頭部311の保持構造(挿通孔311a、311b)がスリーブ240Bに対して移動しないため、上記各作業を容易に行うことができる。特に、
図15に示す構造では、骨接続具240のスリーブ240Bに対して結束材保持具310が少なくとも自律的に保持されるため、スリーブ240Bが前記固定機構等によって固定されていれば、骨接続具240の本体240Aがスライド動作を行っても、結束材による結束状態には影響を与えない。
【0055】
図16には、第1実施形態と同様の髄内釘10及び骨接続具21,22を備える場合において、結束材40を、結束材保持具30の頭部31の一方の挿通孔31aから骨幹部Faの小転子Fgの近傍を周回させ、骨接続具21の基端部の基端側表面上を通過した後に、梨状窩Fe上を経て、他方の挿通孔31bへ戻るといった八の字状の結束態様が用いられた様子を示す。結束材40の両端部はクリンプにより頭部31を塑性変形させることにより固定される。ここで、結束材40は、髄内釘10の基端部11に係合していてもよく、前述の係止構造12,14,15などに係止されていてもよい。なお、図示のように、骨接続具21,22の外側への突出部分に結束材40を係止させてもよく、また、突出部分に結束材40に対する前述のような係止構造を設けてもよい。
【0056】
図17には、第1実施形態と同様の髄内釘10及び骨接続具21,22を備える場合において、骨接続具21と22の双方に、結束材保持具320と330をそれぞれ装着している。そして、結束材43を、結束材保持具320の頭部321の一方の挿通孔321aから梨状窩Fe上を経て他方の挿通孔321bへ戻るといったループ状の結束態様とする。また、結束材44を、結束材保持具330の頭部331の一方の挿通孔331aから梨状窩Fe上を経て他方の挿通孔331bへ戻るといったループ状の結束態様としたものである。この場合には、二重の結束ループによって後外側が結束されるので、より確実に、より強固に、より広範囲において、安定的に整復状態を維持することができる。
【0057】
図18には、第1実施形態と同様に、髄内口10と骨接続具21とを有し、骨接続具21に結束材保持具320を装着しているが、もう一つの結束材保持具340を用いる例を示す。この場合、結束材保持具340は、上記結束材保持具30と同様に、頭部341と軸部342を備えるものであってもよいが、軸部を備えず、頭部のみで構成されるいわゆる締結器であってもよい。また、軸部342は髄内釘10の横断孔10cに挿通されてもよい。ここで、結束材44は第1実施形態と同様に結束材保持具320の保持構造によって保持される。また、結束材45は、結束材保持具340の保持構造によって保持される。このとき、結束材45は、結束材保持具340を、骨接続具21(或いは図示しないが骨接続具22)には依存せずに任意の箇所に設置できるので、結束材44の結束態様を補うように結束材45を結束させることが好ましい。なお、結束材保持具340が軸部342を備える場合には、骨Fにおける適宜の位置に軸部342を刺入し、これに合わせて結束材45を架設すればよい。なお、結束材保持具340としては、軸部342を有しないものであってもよいが、頭部341の裏面上に、骨の表面に係合する突起を備えたものであることが好ましい。
【0058】
図19(a)及び(b)には、上記各実施形態に用いることのできる結束材保持具350及び360の構造を示す。特に限定されるものではないが、いずれの結束材保持具350,360も、本体21A及びスリーブ21Bを備えた骨接続具21に装着した様子を描いてある。結束材保持具350は、頭部351に一つの挿通孔351aのみが形成されている。また、頭部351からは軸部352が延在する点、及び、軸部352が軸孔21Aaに挿入されて用いられる点は、先の結束材保持具30と同様である。この結束材保持具350では、頭部351がスリーブ21Bの基端21Bdの開口よりも小さいため、頭部351と軸部352の間の段差部にワッシャ(板状体)353を係合させ、このワッシャ353をスリーブ21Bの基端21Bdに当接させることにより、頭部351を軸線方向に位置決めしている。
【0059】
図20には、上記結束材保持具350を骨折部分に適用した様子を示す。この場合、結束材40を頭部351の挿通孔351aに挿通し、この挿通孔351aから突出した結束材40の端部にビーズストッパー(停止部材)60を固定する。なお、停止部材を用いるか否かに拘わらず、結束材保持具350にクリンプ操作を施すことにより結束材40が頭部351に固定されるようにしてもよい。なお、ビーズストッパー60などの結束材の端末に停止部材を用いるか否かは特に限定されず、結果的に結束材40が頭部351に固定されていればよい。また、結束材40は梨状窩Feや髄内釘10の基端部11に係止させた後に、骨固定具22の基端に一体に設けられ、或いは、固定された、結束材の締結器と同構造を有する結束材保持部22eに挿入され、固定される。なお、図示例では、骨接続具21と22の基端にそれぞれ結束材保持部を設け、結束材40の両端を各基端の結束材保持部で保持し、固定しているが、このような態様は、結束材40の短縮化と、結束(ワイヤリング)作業の容易化をもたらす。ここで、図示例では、一方の骨接続具21の基端に結束材保持具350が装着され、骨接続具22の基端に結束材保持部22eが設けられているが、両基端に結束材保持具が装着されていてもよく、両基端に結束材保持部が設けられていてもよい。
【0060】
図19(b)に示す結束材保持具360は、挿通孔361aを構成するリング状の頭部361と、頭部361から延在する軸部362とを備える。この結束材保持具360についても、上記結束材保持具350と同様に、ワッシャ(板状体)363を用いることができる。ここで、図示二点鎖線に示すように、頭部361の軸部362とは反対側に、頭部361に対して切り離し可能な軸状の把持部364を設けたものを用いてもよい。この場合、把持部364を把持して軸部362を骨接続具21の軸孔21Aaに挿入し、その後、把持部364を折損させることなどによって除去する。
【0061】
図21には、上記結束材保持具360を骨折部分に適用した様子を示す。この場合、結束材40を頭部361の挿通孔361aに挿通し、この挿通孔361aから突出した結束材40の端部にビーズストッパー(停止部材)60を固定する。なお、停止部材を用いるか否かに拘わらず、結束材保持具360にクリンプ操作を施すことにより結束材40が頭部351に固定されるようにしてもよい。なお、ビーズストッパー60などの結束材の端末に停止部材を用いるか否かは特に限定されず、結果的に結束材40が頭部361に固定されていればよい。また、結束材40は梨状窩Feや髄内釘10の基端部11に係止させた後に、骨固定具22の基端に一体に設けられ、或いは、固定された、結束材の締結器と同構造を有する結束材保持部22eに挿入され、固定される。なお、図示例では、骨接続具21と22の基端にそれぞれ結束材保持部を設け、結束材40の両端を各基端の結束材保持部で保持し、固定しているが、このような態様は、結束材40の短縮化と、結束(ワイヤリング)作業の容易化をもたらす。ここで、図示例では、一方の骨接続具21の基端に結束材保持具360が装着され、骨接続具22の基端に結束材保持部22eが設けられているが、両基端に結束材保持具が装着されていてもよく、両基端に結束材保持部が設けられていてもよい。
【0062】
結束材保持具350,360では、ワッシャ353,363を一体化したり、固定したりした構造としてもよい。例えば、結束材保持具350,360における頭部351,361と軸部352,362との間に、フランジ状の係合部(ワッシャ353,363に相当する部分)を設ける。また、ワッシャ353,363は、スリーブ21Bに一体化したり、固定したりした構造としてもよい。例えば、スリーブ21Bの基端21Bdにおいて、頭部351,361の段差部に係合可能な、軸部352,362の挿入口を設けるようにしてもよい。
【0063】
図22には、各実施形態に用いることのできる結束材保持具370の構造及び使用例を示す。なお、結束材保持具370の保持構造(挿通孔371a,371bを備えた頭部371)は、上記結束材保持具30と同様であり、骨接続具230の基本構造(骨ねじ構造と軸孔230a)は、上記骨接続具210と同様である。本実施形態においては、結束材保持具370には、軸孔230aに挿入可能な延長された軸部の代わりに、短い係合部372が設けられる。係合部372には骨接続具230に係合するための係合構造372sが設けられる。また、骨接続具230には、係合構造372sに対応する係合構造230sが設けられる。図示例では、係合構造372sは雄ねじであり、係合構造230sは雌ねじである。係合構造230sは軸孔230aの基端側に設けられている。骨接続具230の軸孔230a内に結束材保持具370の係合部372を挿入し、回転操作などによって係合構造372sと係合構造230sを結合させると、結束材保持具370の頭部371は骨接続具230に対して軸線方向に取り付けられ、自律的に保持され、或いは固定される。
【0064】
本実施形態では、骨接続具230に結束材保持具370が係合構造372sと230sによって装着状態が少なくとも自律的に保持される程度に結合される。このため、結束状態にあるときだけでなく、一旦上記装着状態になれば、手術中に保持構造である挿通孔371aと371bが骨接続具230に対して移動しないので、結束材の挿入作業、結束材の締付作業、結束材保持具370の頭部371に対するクリンプ作業を容易に行うことが可能になる。また、係合構造370sと230sによって装着(位置決め)が行われることにより、骨接続具230の基端と結束材保持具370の頭部371とが相互に当接して位置決めされる必要がなくなるため、骨接続具230の基端と結束材保持具370の頭部371のそれぞれの寸法や形状を任意(自由)に設定できるという利点がある。
【0065】
図23には、上記各実施形態において用いることのできる結束材保持具380を示す。なお、結束材保持具380の保持構造(挿通孔381a,381bを備えた頭部381)は、
図22において説明したものと同様であるが、上記とは異なる係合部382に異なる係合構造382sを備える。また、骨接続具240の基本構造(骨ねじ構造と本体240A及びスリーブ240Bと軸孔240Aa)は、上記骨接続具21と同様であるが、スリーブ240Bの基端240Bdに、係合構造382sと係合可能な係合構造240Bsを有する。図示例では、係合構造382sは雄ねじであり、係合構造240Bsは雌ねじである。係合構造240Bsは軸孔240Aaではなく、スリーブ240Bの基端側の内面に設けられている。本体240Aの軸孔240Aa内に結束材保持具380の係合部382を挿入し、回転操作などによって係合構造382sと係合構造240Bsを結合させると、結束材保持具380の頭部381は骨接続具240のスリーブ240Bに対して軸線方向に取り付けられ、自律的に保持され、或いは固定される。
【0066】
本実施形態でも、
図22に示す場合と同様に、骨接続具240に結束材保持具380が係合構造382sと240Bsによって装着状態が少なくとも自律的に保持される程度に結合される。これにより、頭部381の保持構造(挿通孔381a、381b)がスリーブ240Bに対して移動しないため、上記各作業を容易に行うことができる。特に、
図23に示す構造では、骨接続具240のスリーブ240Bに対して結束材保持具380が少なくとも自律的に保持されるため、スリーブ240Bが前記固定機構等によって固定されていれば、骨接続具240の本体240Aがスライド動作を行っても、結束材による結束状態には影響を与えない。
【0067】
以上説明した各実施形態や各構成例では、骨Fの髄腔に挿入される髄内釘10に対して、骨接続具21,22,210,220,230,240を交差状に挿通した基本骨格において、骨接続具21,22,210,220,230,240の基端に装着された結束材保持具30,310,320,330,350,360,370,380によって結束材保持部を形成し、この結束材保持部によって結束材40,41,42,43,44を保持することで、結束状態として骨Fの整復状態を維持するようにしている。したがって、結束材40,41,42,43,44を骨Fの表面に接触する範囲を制限した状態で保持して結束できるので、切開範囲を大きく広げることなしに、血流の阻害を抑制し、しかも、骨端部Fbの周辺を広範囲に保持し、或いは、固定することが可能になる。
【0068】
尚、本発明に係る骨固定システムは、上述の図示例のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記各実施形態では、骨接続具21,22に対して結束材保持具30を装着していたが、結束材保持部22eのように、骨接続具の基端に一体に若しくは固定された結束材保持部を設けるようにしてもよい。また、各実施形態では、結束材保持具や結束具保持部の保持構造を構成する一対の挿通孔31a,31bを有するが、結束材保持具350,360の頭部351,361や結束材保持具22eのように、保持構造として挿通孔を一つのみ設けてもよい。さらに、保持構造としては、上記挿通孔でなく溝や突起など、結束材により結束された状態を保持可能な種々の態様の保持部位を用いても構わない。
【符号の説明】
【0069】
10…髄内釘、10a…軸孔、10b,10c,10d,10e…横断孔、11…基端部、12,14…係止構造、13,16…エンドキャップ、15…係止部材、15a…環状部、15b…係止部、15c…係合部、21,22,23,24…骨接続具、21A…本体、21Aa…軸孔、21B…スリーブ、22a…軸孔、30…結束材保持具、31…頭部、31a、31b…挿通孔、31c…段差部、32…軸部、40,41,42…結束材、50…支持プレート、50a,50b…開口孔、50be…雌ねじ、50c…延長支持部、50d…係止構造(表面溝)、60…停止部材、F…骨、Fa…骨幹部、Fb…骨端部、Fc…骨頚部、Fd…骨頭部、Fe…骨折部分、Ff…大転子、Fg…小転子、Fh…(後外側の)骨片