(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003388
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】液状化対策杭及びその対策杭を使用する液状化対策工法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20240105BHJP
E02D 3/08 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
E02D3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102493
(22)【出願日】2022-06-27
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人 地盤工学会関東支部 第18回 地盤工学会関東支部発表会 GeoKanto2021<要旨集> 第4会場 防災5 防災5-6 p.44 2021年10月22日発行 (刊行物等)公益社団法人 地盤工学会関東支部 第18回 地盤工学会関東支部発表会 GeoKanto2021<要旨集> 第4会場 防災5 防災5-6 オンライン発表(ZOOM) 2021年10月22日開催
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(71)【出願人】
【識別番号】518427340
【氏名又は名称】株式会社エーバイシー
(74)【代理人】
【識別番号】100082658
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 儀一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221615
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 祐子
(72)【発明者】
【氏名】小林 薫
(72)【発明者】
【氏名】脇本 理玖
(72)【発明者】
【氏名】本多 顕治郎
【テーマコード(参考)】
2D043
2D046
【Fターム(参考)】
2D043DA07
2D043DA10
2D046DA17
(57)【要約】
【課題】本発明は、透水性が高く、砂類混入に伴う排水性能の低下を抑制できる代替材を従来の砕石に替えて対策杭の杭材として使用し、もって長期間にわたり液状化発生の抑制効果が発揮できる対策杭及びその対策杭を使用した液状化対策工法を提供することを目的とする
【解決手段】本発明は、地盤中に砕石で構成した液状化対策用の対策杭を打設する液状化対策工法で使用される対策杭であって、前記対策杭は、砕石の代替材として破砕貝殻を使用して構築したことを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に砕石で構成した液状化対策用の対策杭を打設する液状化対策工法で使用される対策杭であって、
前記対策杭は、砕石の代替材として破砕貝殻を使用して構築した、
ことを特徴とする液状化対策杭。
【請求項2】
前記破砕貝殻を使用しての構築は、相対密度(Dr)が60%乃至80%になるよう構築した、
ことを特徴とする請求項1記載の液状化対策杭。
【請求項3】
前記破砕貝殻は、75mm以下の粒径で構成され平板扁平形状をなして構成された、
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の液状化対策杭。
【請求項4】
液状化層からなる地盤に液状化防止対策用の対策杭を構築して施工する液状化対策工法であり、
貝殻を破砕した所定の粒度組成を有する平板扁平形状の破砕貝殻を生成し、
前記生成した破砕貝殻で構成した対策杭を杭構築装置で液状化層地盤中に構築してなり、
前記対策杭の構築は、液状化層地盤の地中に前記破砕貝殻を積み重ね状態にして送出し、送出した破砕貝殻の相対密度(Dr)を、60%乃至80%とした、
ことを特徴とする液状化防止対策用の対策杭を使用した液状化対策工法。
【請求項5】
液状化層からなる地盤に液状化防止対策用の対策杭を構築して施工する液状化対策工法であり、
貝殻を破砕した所定の粒度組成を有する平板扁平形状の破砕貝殻を生成し、
前記生成した破砕貝殻で構成した対策杭の杭構築装置での構築は、液状化層における地盤の対象領域に対して対策杭複数個を分散配置すべく埋設構築してなり、
前記地盤の地中に前記破砕貝殻を積み重ね状態で送出し、送出した破砕貝殻の相対密度(Dr)を、60%乃至80%とした、
ことを特徴とする液状化防止対策用の対策杭を使用した液状化対策工法。
【請求項6】
液状化層からなる地盤に液状化防止対策用の対策杭を構築して施工する液状化対策工法であり、
貝殻を破砕した所定の粒度組成を有する平板扁平形状の破砕貝殻を生成し、
前記生成した破砕貝殻で構成した対策杭の杭構築装置での構築は、液状化層における地盤の対象領域に対して対策杭複数個を碁盤の目を形成する縦横線の交差部上に分散配置すべく埋設構築してなり、
前記地盤の地中に前記破砕貝殻を積み重ね状態で送出し、送出した破砕貝殻の相対密度(Dr)を、60%乃至80%とした、
ことを特徴とする液状化防止対策用の対策杭を使用した液状化対策工法。
【請求項7】
前記分散配置して埋設構築された対策杭の露出した上端開口には、前記上端開口が繋がるよう積み重ねられた破砕貝殻で塞がれたシェルマットが形成された、
ことを特徴とする請求項5または請求項6記載の液状化防止対策用の対策杭を使用した液状化対策工法。
【請求項8】
前記地盤の地中に積み重ね状態での破砕貝殻の送出は、前記破砕貝殻が水平方向積み重ね状態に締め固めされる、
ことを特徴とする請求項5、請求項6または請求項7記載の液状化防止対策用の対策杭を使用した液状化対策工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液状化対策杭及びその対策杭を使用する液状化対策工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過去の大規模地震あるいは中規模地震における影響として多数の液状化被害が確認され、報告されている。
ここで従来、液状化の被害を抑制する液状化対策工法の1つとして、グラベルドレーン工法が一般に知られている。グラベルドレーン工法とは軟弱地盤中に砕石で構成した液状化対策用の対策杭を打設することにより排水距離を短縮し、液状化地盤中の過剰間隙水圧の早期消散などの効果で液状化抑制を行う工法である。該グラベルドレーン工法によれば、前記対策杭を緩く堆積した砂地盤に打設することにより、液状化の発生を簡易な施工と安価なコストで抑制・防止できる。
【0003】
すなわち、グラベルドレーン工法は、砂地盤中に砕石で構成された対策杭を設けることで水平方向での排水距離を短縮し、地震時に生じる間隙水圧の上昇を抑止して、液状化を防止するものでる。
【0004】
しかしながら、近年液状化が発生するような地震により前記対策杭を構成する砕石の間隙に周囲の砂が混入する事態が生じ、砕石で構成された対策杭内の排水性能範囲が狭まり、もって対策杭の透水性が低下してしまい、再び地震が発生した際には液状化抑制効果が低下してしまうとの課題が生じていた。
【0005】
すなわち、従来でのグラベルドレーン工法の施工に際し、液状化が発生するような地震に遭遇したときに、前記打設した対策杭周囲の砂類が対策杭を構成する砕石間の間隙に混入してしまい、これにより対策杭の排水性能が低下してしまうとの課題が生じたのである。
【0006】
そして、対策杭の排水性能が低下し、短期間または長期間で例えば液状化が発生するような地震が繰り返し発生した場合には、前記対策杭による液状化抑制効果の低下がさらに起こり、もって液状化被害のさらなる深刻化が懸念されるとの課題が指摘された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
かくして、本発明は前記従来の課題を解決するために創案されたものであり、透水性が高く、砂類混入に伴う排水性能の低下を抑制できる代替材を従来の砕石に替えて対策杭の杭材として使用し、もって長期間にわたり液状化発生の抑制効果が発揮できる対策杭及びその対策杭を使用した液状化対策工法を提供することを目的とするものである。
【0009】
従来では液状化が発生するような地震が多数観測された事例や数日間に前震、本震、余震と液状化が発生するような地震が短期間に複数回発生した事例もあり、かかる事例のように液状化が発生するような地震動が連続して生じた際においても液状化層である砂層から対策杭を構成する代替材の間隙への砂の混入を抑制でき、もって長期間にわたり液状化発生の抑制効果が発揮できる対策杭及びその対策杭を使用した液状化対策工法を提供できるのである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
地盤中に砕石で構成した液状化対策用の対策杭を打設する液状化対策工法で使用される対策杭であって、
前記対策杭は、砕石の代替材として破砕貝殻を使用して構築した、
ことを特徴とし、
または、
前記破砕貝殻を使用しての構築は、相対密度(Dr)が60%乃至80%になるよう構築した、
ことを特徴とし、
または、
前記破砕貝殻は、75mm以下の粒径で構成され平板扁平形状をなして構成された、
ことを特徴とし、
または、
液状化層からなる地盤に液状化防止対策用の対策杭を構築して施工する液状化対策工法であり、
貝殻を破砕した所定の粒度組成を有する平板扁平形状の破砕貝殻を生成し、
前記生成した破砕貝殻で構成した対策杭を杭構築装置で液状化層地盤中に構築してなり、
前記対策杭の構築は、液状化層地盤の地中に前記破砕貝殻を積み重ね状態にして送出し、送出した破砕貝殻の相対密度(Dr)を、60%乃至80%とした、
ことを特徴とし、
または、
液状化層からなる地盤に液状化防止対策用の対策杭を構築して施工する液状化対策工法であり、
貝殻を破砕した所定の粒度組成を有する平板扁平形状の破砕貝殻を生成し、
前記生成した破砕貝殻で構成した対策杭の杭構築装置での構築は、液状化層における地盤の対象領域に対して対策杭複数個を分散配置すべく埋設構築してなり、
前記地盤の地中に前記破砕貝殻を積み重ね状態で送出し、送出した破砕貝殻の相対密度(Dr)を、60%乃至80%とした、
ことを特徴とし、
または、
液状化層からなる地盤に液状化防止対策用の対策杭を構築して施工する液状化対策工法であり、
貝殻を破砕した所定の粒度組成を有する平板扁平形状の破砕貝殻を生成し、
前記生成した破砕貝殻で構成した対策杭の杭構築装置での構築は、液状化層における地盤の対象領域に対して対策杭複数個を碁盤の目を形成する縦横線の交差部上に分散配置すべく埋設構築してなり、
前記地盤の地中に前記破砕貝殻を積み重ね状態で送出し、送出した破砕貝殻の相対密度(Dr)を、60%乃至80%とした、
ことを特徴とし、
または、
前記分散配置して埋設構築された対策杭の露出した上端開口には、前記上端開口が繋がるよう積み重ねられた破砕貝殻で塞がれたシェルマットが形成された、
ことを特徴とし、
または、
前記地盤の地中に積み重ね状態での破砕貝殻の送出は、前記破砕貝殻が水平方向積み重ね状態に締め固めされる、
ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、透水性が高く、砂類混入に伴う排水性能の低下を抑制できる代替材としての破砕貝殻を従来の砕石に替えて対策杭に使用し、もって長期間にわたり液状化発生の抑制効果が発揮できる対策杭及びその対策杭を使用した液状化対策工法を提供出来るとの優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図8】土槽内に設置した砕石入り対策杭及び破砕貝殻入り対策杭を示す写真である。
【
図24】均一な振動を一定時間与えた時の周期と加速度の関係を示す図である。
【
図25】液状化対策工法の概略構成を示す説明図である。
【
図26】本発明によるシェルマットと従来のグラベルマットの構成を説明する説明図である。
【
図27】貝殻を重機で破砕したときの粒度分布を示す説明図である。
【
図28】本発明による対策杭構築装置の構成を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本件発明者らは、まず例えばホタテなどの破砕貝殻7の粒径が所定の粒径からなる破砕貝殻7であれば、地震などからの振動の影響を受けても上部の砂層から下部の前記粒径を多く含む破砕貝殻7により構成された破砕貝殻層へは砂層の砂が混入しづらいことを確認している。
【0014】
そして、かかる確認を基に、ホタテなどの破砕貝殻7を対策杭2の杭材代替材として用いることで、液状化時に杭周辺の砂層から前記対策杭内部への砂混入が抑制され、砂混入に伴う排水性能の低下抑制が実現できることを今回発明したものである。
【0015】
すなわち、本件発明者らは、地震動によって従来の対策杭2である砕石6で構成された対策杭2と砕石6の代替材として破砕貝殻7を用いた対策杭への砂の混入特性を比較し、砂混入に伴う排水性能の低下に関する評価とその排水性能の低下メカニズムについて検証を行った。これにより、繰り返し発生する地震動においても、過剰間隙水圧の発生を抑制でき、もって排水性能の低下を抑制できる対策杭2、すなわち破砕貝殻7を用いた液状化防止対策杭2の有効性を明らかにしたのである。
さらに、前記破砕貝殻7を杭材とした対策杭2を用い、液状化防止に効果を発揮する液状化対策工法についても発明した。
【0016】
よって、以下に、まず破砕貝殻7を用いた液状化防止対策杭2の有効性を明らかにした実験の詳細につき述べ、次いで前記対策杭2を用い、液状化防止に効果を発揮する液状化対策工法の発明について説明する。
【0017】
(小型の振動装置1を用いた3次元的な砂混入特性把握実験)
本実験では振動装置1、間隙水圧計4を用いて、加速度の設定、液状化による間隙水圧の上昇、大規模な振動による対策杭2への3次元的な砂の混入により排水性能の低下についての評価を定性的に行った。また、地震の規模による対策杭2の排水性能の変化、液状化層である砂層の相対密度(Dr)の違いによる砂混入特性を確認した。
【0018】
(振動装置実験の概要)
図1に振動装置1の平面図、
図2に振動装置1の正面図、
図3に土槽3の正面図を示す。土槽3は高さ406 mm、幅78 0mm、奥行き280 mmの大きさで形成されている。
図4には写真で示した振動装置1の外観図を示している。
図5は土槽3の平面写真である。厚さ3 mm、直径50 mmのアクリル板と目の粗いジオテキスタイルを円筒状に丸め、それらを接着させたものに砕石6又は破砕貝殻7を詰めたものを対策杭2とし、砕石入り対策杭2を
図6に、破砕貝殻入り対策杭2を
図7に示すように土槽3内に設置した(
図3、
図8も参照)。
【0019】
なお、乾燥砂が対策杭2の間隙に混入しないようにシートを対策杭2に巻き付けた。注水口はパイプを半分に切断し、土槽3の底部まで届く長さのものを使用している。注水口から砂の逆流防止のためにパイプの先端にガーゼを詰め込んだ。間隙水圧計4は2つの砕石6入り対策杭2及び破砕貝殻入り対策杭2の間にそれぞれ地表面から50 mm、100 mmの位置に設置した(
図3参照)。
【0020】
(試料の物理特性)
試料は砕石6の対策杭2には粒径4.75~19 mmに調整した砕石5号、6号、7号(
図6参照)を混合した試料及び破砕貝殻7の対策杭2には、重機破砕した青森県産のホタテの破砕貝殻7を使用し(
図7参照)、液状化層及び非液状化層の生成には、豊浦砂を使用し、これらの3種類の試料を用いた。
【0021】
(実験手順)
振動装置1に土槽3を取り付け、間隙水圧計4を設置する。使用する試料の質量を計測し、計測した豊浦砂の乾燥砂をスコップで土槽3内に入れ、相対密度Dr=69.8 %(ρd=1.58 g/cm3)の非液状化層にするために、砂締めバイブレーターを使用し、非液状化層が土槽3の底面からの高さが100 mmになるまで締固める。
【0022】
次いで、砕石6を相対密度Dr=60.2%(ρ
d=1.56g/cm
3)で詰めた砕石6入り対策杭2及びホタテの破砕貝殻7を相対密度Dr=59.9 %(ρ
d=0.909 g/cm
3)で詰めた破砕貝殻7入り対策杭2を
図3の図面、
図8に示す写真映像のように設置した。
【0023】
その後、乾燥砂を土槽3内に漏斗を使用して、空中落下法で均一に相対密度Dr=29.9 %又はDr=48.8 %(ρ
d=1.47 g/cm
3、ρ
d=1.52 g/cm
3)でゆっくりと締固めた。
砂を空中落下法で入れる際には前記対策杭2に乾燥砂が混入しないように対策杭2の上から袋を被せることとした。次に、注水口のパイプに水を貯めたタンクに繋げたホースを入れ注水を開始した(
図4の写真映像参照)。
【0024】
液状化層5となる砂層が不飽和の状態で振動を与えボイリングが発生することを防止するために水位面が地表面になるまで2時間程度ゆっくりと注水し飽和させた。注水後、パイプに水専用掃除機に繋げたホースを入れて排水し、水位面を非液状化層まで低下させた(水位が地表面の状態でシートを引き抜いた場合、引き抜いた衝撃で周囲が液状化するのを防止するためであり、または対策杭2に砂が混入してしまうのを防止するためである)。
【0025】
その後、乾燥砂混入防止のためのシートをゆっくりと引き抜き(
図9の写真映像参照)、再度、水位面が地表面になるまで注水した後に、振動装置1を振動数5.1 Hz、10波、振動時間2秒でそれぞれのケースの加速度に設定し、正弦波の水平振動を与えた。
【0026】
加振後、土槽3内の水を水専用掃除機で排水し、対策杭2に砂が混入しないように周辺の砂を取り除き、対策杭2を取り出した。対策杭2内の混入した砂、砕石6及び破砕貝殻7を容器に取り出し、乾燥炉で(110±5 ℃)24時間炉乾燥を行った。
【0027】
前記乾燥炉での乾燥後、砂と砕石6、破砕貝殻7をふるい分けし、砂の質量を測定した。そして、砂混入に伴う平均的な飽和透水係数を計算し、砂混入時の砕石6入り対策杭2と破砕貝殻7入り対策杭2との排水性能の低下を評価した。
【0028】
(実験ケース)
図10に実験ケースを示す。
図10に示した実験ケースでは波数10波、振動数5.2Hz、振動時間2秒、振動回数1回、加速度はそれぞれの実験ケースごとに設定し、正弦波の水平振動を与えた。最大加速度の大きさの違いによる地震の規模の影響による砂混入量の比較し、確認した。
【0029】
現実の実施工では対策杭2を打設することで対策杭2の周辺地盤が締め固まることから、今回の実験ではゆるく締固めた相対密度Dr= 29.9 %(ρd= 1.47 g/cm3)と周囲の地盤が対策杭2打設により締め固まったことを再現するために相対密度Dr= 48.8 %(ρd=1.52 g/cm3)のケースの実験を行うことで液状化層5の相対密度(Dr)の違いによる砂の混入量をも比較した。
【0030】
(実験結果及び考察)
実験結果を
図11に示す。振動を与える前の基本混入量は、相対密度Dr=29.9 %では砕石:86.6g、破砕貝殻:81、82g、相対密度Dr=48.8 %では砕石:93.40 g、破砕貝殻:96.73 gであった。
【0031】
caseAは最大加速度101gal(加速度の波形:
図12参照、間隙水圧計の結果:
図13参照)、caseBは最大加速度149 gal(加速度の波形:
図14参照、間隙水圧計の結果:
図15参照)、caseCは最大加速度188gal(加速度の波形:
図16参照、間隙水圧計の結果:
図17参照)、caseDは最大加速度55 gal(加速度の波形:
図18参照、間隙水圧計の結果:
図19参照)、caseEは最大加速度95gal(加速度の波形:
図20参照、間隙水圧計の結果:
図21参照)、caseFは最大加速度192 gal(加速度の波形:
図22参照、間隙水圧計の結果:
図23参照)であった。
【0032】
caseB、C、Fは間隙水圧が上昇していることから液状化が発生していることが分かる。しかし、液状化した場合、本来であれば間隙水圧計GL-10cmの値が10 g/cm2まで上昇するが、実験結果は5~8 g/cm2となった。土槽3が完全飽和していないためにこのような結果となったことが考えられる。
【0033】
caseA、D、Eは間隙水圧が上昇していないことから液状化していないことが分かる。液状化していないときの砂の混入量は基本混入量と比較し、あまり変化がないことから、液状化が発生しない小規模の地震であれば砂は混入しないと考えられる。
【0034】
手動で与えた振動(1回振動)による砂の混入量(砕石:128.05 g、破砕貝殻:137.12 g)と本実験の実験結果を照らし合わせると、砕石6入り対策杭2、破砕貝殻7入り対策杭2ともにcaseBの最大加速度149galの砂の混入量より多く、caseCの最大加速度188galの砂の混入量より少ないことから、手動での実験は最大加速度149~188gal程度の振動であったことが考えられる。
【0035】
加速度は震度を表す値ではないが、均一な振動を一定時間与えた時の周期と加速度の関係を
図24に示す。
この関係から本実験は小型の振動装置1で一定加速度、周期(T=0.196 秒)、振幅で振動を与えていることから特にcaseB、C、Fについては推定震度5弱程度であることが分かった。
【0036】
そして、震度5弱の液状化が発生するような地震であれば液状化の対策杭2に破砕貝殻7を用いることで液状化時の振動による砂の混入に伴う排水性能の低下は砕石6を用いるよりも小さくすることが出来ると
図11に示す実験結果である砂混入率の値などから確認できた。
そして、液状化の対策杭2に破砕貝殻7を用いることで繰り返し地震に対応し、長期的な液状化抑制効果を発揮できる可能性があることも確認できた。
【0037】
caseCの最大加速度188galとcaseFの最大加速度192galは同程度の加速度であることから液状化層5の相対密度(Dr)の違いによる砂混入の比較をすると、相対密度Dr=29.9 %でゆるく締固めたcaseCの砂の混入量は砕石:136.26g、破砕貝殻:139.67g、これに対して相対密度Dr=48.8 %で締固めたcaseFの砂の混入量は砕石:124.00g、破砕貝殻:113.07gとなった。
このことから、ゆるく堆積した砂地盤であるほど砂が混入することも確認できた。
【0038】
尚、本実験において、砕石6入り対策杭2と破砕貝殻7入り対策杭2についての砂混入量、砂混入率、透水係数を比較して結果を示してあるが、前記ほぼすべての項目で破砕貝殻7入り対策杭2の方が勝っており、破砕貝殻7入り対策杭2を用いることにより長期的に液状化抑制効果を発揮できることが確認できた。
特に、砂混入率を比較すると、砕石6入り対策杭2と破砕貝殻7入り対策杭2との差は全てのケースで破砕貝殻7入り対策杭2の砂混入率の値がかなり小さいことが確認できる。
【0039】
ここで、透水係数(m/sec)の値は、破砕貝殻7入り対策杭2や砕石6入り対策杭2の有する空隙が混入してくる砂でどれだけ埋められているかにより決定される。
【0040】
すなわち、前記空隙に砂が混入したとする。その場合、たとえ、砂の混入量は同じであったとしても、砕石6入り対策杭2と破砕貝殻7入り対策杭2が有する空隙の量は大幅に異なり、破砕貝殻7入り対策杭2が有する空隙の量の方が圧倒的に多い。よって、同じ量の砂が空隙に混入してもその透水性能は破砕貝殻7入り対策杭2については、低下しないのである。
【0041】
してみると、
図11に示す結果では、ケースA乃至ケースFのいずれの場合も、破砕貝殻7入り対策杭2の方が砂混入率の値が圧倒的に小さいことが認識でき、その透水性能、換言すれば排水性能は低下しないことが認識できるのである。
【0042】
(まとめ)
振動装置1により与えた振動は液状化が発生するような地震と同程度の規模と考えられ、破砕貝殻7を液状化の対策杭2に用いることで、液状化時の振動による砂混入に伴う対策杭2の排水性能の低下を抑制でき、液状化抑制効果を長期的に発揮できるとの結果を得た。
【0043】
また、液状化層5の砂地盤の相対密度(Dr)が低いほど砂混入が起こりやすいことが確認できた。現実問題としては対策杭2の打設や盛土、建築構造物からの上載荷重により地盤に拘束圧が発生することによるなどして周辺地盤が締め固まることで、振動による対策杭2への砂混入に伴う排水性能の低下傾向はさらに緩やかになると考えられる。
【0044】
次に、本発明による破砕貝殻7入り対策杭2を使用した液状化対策工法の発明につき説明する。
図25に示すように、対策杭2を構築して液状防止対策すべき地盤は、液状化層5からなる地盤である。液状化層5からなる地盤は、含水状態の砂質土からなり、地震時には振動によって砂粒の間に飽和していた水が流動し、砂粒の粒間結合が破られて液体のようにふるまうことで支持力を失う層と考えられる。
【0045】
液状化層5が液状化すると、流動化した間隙水の水圧が急上昇し、過剰間隙水が発生する。
本発明では、
図25に示す様に前記液状化層5からなる地盤に液状化防止対策用の対策杭2を構築して液状化対策工法を施工する。
まず、液状化防止対策用の対策杭2は 、前記液状化層5の全域に亘って複数個を散点状にちらばせて埋設し、構築するのが良い。
【0046】
ここで、液状化対策工法の一つであるグラベルドレーン工法に使用される液状化対策用の対策杭2は、地震時に発生する液状化層5の過剰間隙水を上方向に排水するため、液状化層5内に略垂直方向に向かって埋設される柱状体として構成されるものである。
【0047】
すなわち、該対策杭2は、液状化層5における地盤の対象領域全域に対して所定の間隔(水平方向間隔)をもって複数個が例えば格子状に分散配置されて埋設されている(
図26参照)。
尚、埋設するエリアによっては、複数の正三角形に分けて分散させ、その頂点部に対策杭2を埋設する構成でも構わない。
【0048】
前述したように、従来グラベルドレーン工法に使用される液状化対策用の対策杭2は、砕石6入りの対策杭2であった。しかしながら、本件発明者らは島国である日本において大量に存在する貝殻に注目した。貝殻は破砕すると、その多くが略平板な扁平形となる。ブロック形状には決してならない。そして、貝殻はもともと内部に砕石6より多くの空隙を有している。これら貝殻の特性に注目し、破砕貝殻7を対策杭2の充填物とするとの発想を得た。
【0049】
排水性能の良好性が求められる液状化防止対策用の対策杭2には、空隙が多く排水能力の高い貝殻が適していると考え、かつこの貝殻を重機などでローラーして破砕し、所定の粒径となった破砕貝殻7で構成した対策杭2を用いるものとしったのである。重機で破砕すれば
図27に示す様な粒径加積曲線(粒度分布)の破砕貝殻7が簡単に生成できる。破砕貝殻7入り対策杭2として有効性が発揮できる粒径の破砕貝殻7を容易に取得できるのである。
【0050】
前記の工程により大量の所定粒径からなる破砕貝殻7を得た後、液状化防止対策を行うべき地域、すなわち液状化層5の地盤の地域に複数の破砕貝殻7入り対策杭2を構築する作業に入る。
対策杭2を埋設して構築する装置としては、いわゆるサンドコンパクションパイルのような
図28に示す掘削装置12を使用するとよい。
【0051】
該掘削装置12には、切削部材として円筒状をなす掘削具10が設けられている。そして、この掘削具10にはその上端側に破砕貝殻導入口11が設けられ、該破砕貝殻導入口11から適切な粒径の破砕貝殻7が前記掘削具10の中空部内に導入できる構成になっている。
【0052】
さらに、該掘削具10の下端には破砕貝殻送出用の開口13が設けられており、前記中空部内に収納された破砕貝殻7がこの開口13から地中内に送出出来る構成になっている。
【0053】
破砕貝殻7を地中内に送出して破砕貝殻7入り対策杭2を構築する工程は
図28に示すとおりであり、掘削具10を地中内に貫入していくと共に、破砕貝殻7を前記開口13から地中内に送出する。その際の掘削具10における下端の移動軌跡は
図28に示すとおりである。尚、地中内に送出した破砕貝殻7は所定の締め固め度に締め固めることが必要である。従って、所定の締め固め度にするため、破砕貝殻7の地中内送出時に振動などを与え、締め固めすることとなる。尚、破砕貝殻7の締め固め度は、破砕貝殻7の相対密度(Dr)で示すことが出来る。そして、ここで要求される破砕貝殻7の相対密度(Dr)としては、60%乃至80%との数値である。
【0054】
そして、対策杭2を構成する破砕貝殻7は、内部に多くの空隙を有し、かつ破砕された状態で所定粒径の平板状扁平形状をなしている。よって、前記の振動などを与えると対策杭2の外周面方向の箇所では前記破砕貝殻7が対策杭2の垂直方向の面と平行方向に位置するよう縦方向に立って配置されることとなる。よって、かかる破砕貝殻7の配置状態により、液状化層5からの砂の侵入がより防止されるものとなる。
【0055】
尚、対策杭2の軸芯方向周辺では多くの平板状扁平形状をなす破砕貝殻7が水平方向に積み重なる重層状態になっており、このような配置状態の破砕貝殻7入り対策杭2内であれば前記対策杭2の外周面方向の箇所で縦方向に立って配置される破砕貝殻7と相まって外の液状化層6からの砂の侵入を確実に防ぐことが出来るのである。
【0056】
従来の砕石6入り対策杭2は、砕石6のすべての形状が決して平板状扁平形状になっているわけではない。ほとんどの砕石形状はブロック形状となっている。
【0057】
しかしながら、貝殻は破砕すれば、すべての破砕貝殻7がほぼ自動的に平板状扁平形状になる。よって、この平板状扁平形状の破砕貝殻7を対策杭2の杭材とすれば、貝殻の内部に砕石よりも多くの空隙を有していることも相まって砕石入り対策杭2より砂の侵入を防止でき、これにより対策杭2における排水性能の低下を抑制できることとなるのである。
【0058】
なお、掘削具の外周面に螺旋状をなす掘削刃を設け、貫入しながら回転させることにより地中を円柱状に掘削し、所定の地中深さまで掘削した後、この掘削した孔に掘削具10を引き抜きながら破砕貝殻7を落とし込むことによって敷き詰めていく工法でもかまわない。しかるにこの落とし込みの際に振動を与えることにより、敷き詰める破砕貝殻7を所定の締め固め度、換言すれば所定の数値からなる相対密度(Dr)のものにすることが出来る。ここでも、充填された破砕貝殻7の最適な相対密度(Dr)としては、60%乃至80%が好ましいものである。
【0059】
前記破砕貝殻7入り対策杭2の構築は液状化防止対策を行うべき液状化層5の地盤において、例えば碁盤の目を形成する縦横線の交差部上に分散配置させ、もって散点状に埋設構築される。
【0060】
そして、液状化層5に埋設した破砕貝殻7入り対策杭2の上端開口面は、前記地盤表面に露出するが、その露出した上端開口面上には破砕貝殻7が敷き詰められて塞がれるものとなる。いわゆるシェルマット9の形成である。破砕貝殻7で構成されたシェルマット9が形成されることにより、破砕貝殻7入り対策杭2内を通過して上昇した過剰間隙水について極めてスムーズに水平方向に排水することが出来る。すなわち所定箇所の地表面上に排水できるものとなる。ここで、本発明のシェルマット9は前述のように破砕貝殻7で形成され、かつ従来のように砕石6によって平面マット状に形成されるのではなく、図示するように格子マット状に構成してある。
このように構成することにより、より速く、スムーズな水平排水が達成できるものとなる。
【0061】
尚、再度破砕貝殻7を使用しての対策杭2の構築につき述べると、掘削孔の外周面と液状化層5の地盤との境界面に前記破砕貝殻7が境界面と平行方向になるように立てた状態にすべく破砕貝殻7に振動を与えて放出し、締め固める。また対策杭2の軸芯方向近傍では破砕貝殻7が前記境界面と直交するようにして積み重ねられる様放出し、締め固めるのである。
【0062】
このように充填すれば、たとえ液状化が発生するような地震があっても、前記境界面に立てた状態にした破砕貝殻7が前記液状化層5からの砂の侵入をさらに強固に防止でき、また、破砕貝殻7が前記境界面と直交するようにして積み重ねて締め固めした軸芯方向近傍も、前記重層状態に積み重ねられた破砕貝殻7が液状化層5からの砂の侵入をさらに強固に防止できるものとなる。
【0063】
しかして、液状化層5に構築された複数個の破砕貝殻7入り対策杭2によって、液状化が発生するような地震時に過剰間隙水が前記対策杭2内に流入し、破砕貝殻7で構成されたシェルマット9を介して所望された地表箇所に排出される。そのため液状化層5では、過剰間隙水圧比の上昇が抑えられ、液状化が防止されるものとなる。
【0064】
尚、地震時に液状化層5の過剰間隙水が対策杭2内に排水されると、液状化層5が凝縮することがあって地盤沈下を発生させる可能性も指摘されるが、該液状化層5の上方に舗装路や地盤改良層を形成しておけば、多少の地盤沈下が発生したとしても大幅な地盤沈下の発生は防止出来るものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明は液状化対策工法としてのドレーン工法だけではなく、他の液状化対策工法、例えばコンパクション工法などにも活用されるものである。
【符号の説明】
【0066】
1 振動装置
2 対策杭
3 土槽
4 間隙水圧計
5 液状化層
6 砕石
7 破砕貝殻
9 シェルマット
10 掘削具
11 破砕貝殻導入口
12 掘削装置
13 開口