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特開2024-33901構造体、物理量センサー、慣性センサー及び構造体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033901
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】構造体、物理量センサー、慣性センサー及び構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/10 20060101AFI20240306BHJP
   G01P 15/08 20060101ALN20240306BHJP
【FI】
G01P15/10
G01P15/08 101B
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137817
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100166523
【弁理士】
【氏名又は名称】西河 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健太
(72)【発明者】
【氏名】大戸 正之
(57)【要約】
【課題】水晶基板の異なる結晶面の交差点に伴う不具合を回避できる構造体、物理量センサー、慣性センサー、構造体の製造方法の提供。
【解決手段】構造体1は、スリットSLが設けられた水晶基板2の構造体である。構造体1は、スリットSLの内壁として、第1側面S1と第2側面S2と第1端面EF1と第2端面EF2と、を含む。第1側面S1は、スリットSLの長手方向である第1方向DR1に沿っており、第2側面S2は、第1方向DR1に沿っている。第1端面EF1は、第1側面S1に連続し、水晶基板2の第1結晶面に沿っており、第2端面EF2は、第2側面S2に連続し、水晶基板2の第2結晶面に沿っている。水晶基板2の平面視において、第1端面EF1に相当する第1直線L1と、第2端面EF2に相当する第2直線L2とが交差する交差点CPが、水晶基板2内に位置する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットが設けられた水晶基板の構造体であって、
前記スリットの内壁として、
前記スリットの長手方向である第1方向に沿った第1側面と、
前記第1方向に沿った第2側面と、
前記第1側面に連続し、前記水晶基板の第1結晶面に沿う第1端面と、
前記第2側面に連続し、前記水晶基板の第2結晶面に沿う第2端面と、
を含み、
前記水晶基板の平面視において、前記第1端面に相当する第1直線と、前記第2端面に相当する第2直線とが交差する交差点が、前記水晶基板内に位置することを特徴とする構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体において、
前記スリットの内壁として、
前記第1側面に連続し、前記水晶基板の第3結晶面に沿う第3端面と、
前記第2側面に連続し、前記水晶基板の第4結晶面に沿う第4端面と、
を含み、
前記第1直線は、前記第1端面と前記第3端面とが交差する稜線であり、
前記第2直線は、前記第2端面と前記第4端面とが交差する稜線であることを特徴とする構造体。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の構造体を含むことを特徴とする物理量センサー。
【請求項4】
請求項3に記載の物理量センサーにおいて、
前記構造体に支持される振動子を更に含み、
前記構造体は、
基部と、
前記基部に対して可動な可動部と、
前記基部と前記可動部とを連結する、溝状の括れ部と、
を有し、
前記振動子は、前記括れ部を跨いで前記基部と前記可動部に接続されることを特徴とする物理量センサー。
【請求項5】
請求項4に記載の物理量センサーにおいて、
前記括れ部は、前記平面視において前記第1方向に直交する第2方向に沿って設けられ、
前記第1方向に沿った前記スリットの一端側の端部は、前記基部に設けられ、
前記スリットの前記第1側面は、前記第1方向に沿って、前記可動部の側面、前記括れ部の側面、及び前記括れ部から前記端部までの前記基部の側面であり、
前記第1端面及び前記第2端面は、前記端部における端面であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項6】
請求項5に記載の物理量センサーにおいて、
前記構造体は、前記第1方向に沿って前記基部から延びる腕部を含み、
前記スリットの前記第2側面は、前記腕部の側面であることを特徴とする物理量センサー。
【請求項7】
第1検出軸での第1物理量を検出する第1物理量センサーと、
前記第1検出軸に直交する第2検出軸での第2物理量を検出する第2物理量センサーと、
請求項3に記載の物理量センサーであって、前記第1検出軸及び前記第2検出軸に直交する第3検出軸での第3物理量を検出する第3物理量センサーと、を含むことを特徴とする慣性センサー。
【請求項8】
水晶基板の構造体を製造する製造方法であって、
前記水晶基板にマスクを形成するマスク形成工程と、
前記マスクを用いて前記水晶基板をエッチングすることで、前記水晶基板にスリットを形成するエッチング工程と、
を含み、
前記エッチング工程では、前記水晶基板の平面視において、前記スリットの端部に形成される前記水晶基板の第1結晶面に沿う第1端面に相当する第1直線と、前記スリットの前記端部に形成される前記水晶基板の第2結晶面に沿う第2端面に相当する第2直線とが交差する交差点を覆う形状の前記マスクを用いることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体、物理量センサー、慣性センサー及び構造体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、結晶面に応じて生じる残渣の端部に応力が集中し易いことを考慮し、残渣を生じにくい設計を採用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-144148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
仮に、特許文献1に開示された構造体において、構造体のスリット端部を定義する端面が、平面視において、異なる結晶面に応じて互いに交差する2本の線をなす場合、当該2本の線の交差点に応力が集中する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様は、スリットが設けられた水晶基板の構造体であって、前記水晶基板は、前記スリットの内壁として、前記スリットの長手方向である第1方向に沿った第1側面と、前記第1方向に沿った第2側面と、前記第1側面に連続し、前記水晶基板の第1結晶面に沿う第1端面と、前記第2側面に連続し、前記水晶基板の第2結晶面に沿う第2端面と、を含み、前記水晶基板の平面視において、前記第1端面に相当する第1直線と、前記第2端面に相当する第2直線とが交差する交差点が、前記水晶基板内に位置する構造体に関係する。
【0006】
また本開示の他の態様は、上記に記載の構造体を含む物理量センサーに関係する。
【0007】
また本開示の他の態様は、第1検出軸での第1物理量を検出する第1物理量センサーと、前記第1検出軸に直交する第2検出軸での第2物理量を検出する第2物理量センサーと、上記に記載の物理量センサーであって、前記第1検出軸及び前記第2検出軸に直交する第3検出軸での第3物理量を検出する第3物理量センサーと、を含む慣性センサーに関係する。
【0008】
また本開示の他の態様は、水晶基板の構造体を製造する製造方法であって、前記水晶基板にマスクを形成するマスク形成工程と、前記マスクを用いて前記水晶基板をエッチングすることで、前記水晶基板にスリットを形成するエッチング工程と、を含み、前記エッチング工程では、前記水晶基板の平面視において、前記スリットの端部に形成される前記水晶基板の第1結晶面に沿う第1端面に相当する第1直線と、前記スリットの前記端部に形成される前記水晶基板の第2結晶面に沿う第2端面に相当する第2直線と、が交差する交差点を覆う形状の前記マスクを用いる製造方法に関係する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の構造体の斜視図。
図2】本実施形態の構造体の平面視での形状を示す図。
図3】本実施形態の第1比較例の構造体の斜視図。
図4】本実施形態の構造体と第1比較例との差異を説明する図。
図5】本実施形態の構造体と第2比較例との差異を説明する図。
図6】本実施形態の物理量センサーの斜視図。
図7】本実施形態の物理量センサーのスリット部周辺の斜視図。
図8】本実施形態の物理量センサーのスリット部周辺の平面図。
図9】本実施形態の物理量センサーの断面図。
図10】三軸物理量センサーデバイスの分解組立斜視図。
図11】三軸物理量センサーデバイスの他の一例を示す分解組立斜視図。
図12】慣性センサーの概略構成を示す分解斜視図。
図13】物理量センサーの回路基板の斜視図。
図14】本実施形態の構造体の製造方法を説明する図。
図15】本実施形態の構造体の製造方法を説明する図。
図16】本実施形態の構造体の製造方法を説明する図。
図17】本実施形態の構造体の製造方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲の記載内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが必須構成要件であるとは限らない。以下で説明される各図面は模式的なものであり、各要素の形状、要素相互間の寸法、配置及び配向の関係、図面相互間の関係などにおいて、現実と異なる場合がある。
【0011】
1.構造体
図1は、本実施形態の構造体1の斜視図である。構造体1は、水晶基板2から形成されるモノリシック構造体である。構造体1は、水晶基板2の両主面を略垂直に貫通するように設けられるスリットSLを有する。第1方向DR1、第2方向DR2及び第3方向DR3は互いに直交しており、例えば右手系座標におけるY軸、X軸、Z軸の各正方向に対応する。XY平面は、水晶基板2の両主面に平行であり、例えば第1方向DR1と第2方向DR2を含む平面である。Z軸方向は、XY平面に垂直な方向である。以下において、平面視とは、XY平面を-Z方向に、即ち第3方向DR3の反対方向に見ることをいうものとする。また、断面視とは、第3方向DR3と垂直な方向から見ることをいうものとする。
【0012】
水晶基板2は、例えばXY平面に沿った面を有する水晶の基板である。水晶基板2は、例えば単結晶の水晶からなる基板であり、XY平面に対して所定の結晶方位をなすように形成されている。水晶基板2に対しては、互いに直交する3つの軸であるX軸、Y’軸、Z’軸も定義される。X軸は電気軸、Y’軸は機械軸、Z’軸は光学軸に対応する。Y軸及びZ軸は、X軸を回転軸として、X方向に見て時計回りに回転角φ回転させたY’軸及びZ’軸に対応する。温度変化による共振周波数の変化を小さくする観点から、回転角φは、-5度以上15度以下(-5°≦φ≦15°)であり得る。
【0013】
スリットSLは、図1に示すように平面視において、第1方向DR1に沿う方向を長手方向として一端を開口されるように形成されている。スリットSLは、後述の図14図17で説明するように、水晶基板2の上にスリットSLの平面形状にパターニングされたマスク材料を形成し、エッチング等により水晶基板2を加工することで形成される。なお、図1では平面視におけるスリットSLの長手方向を第1方向DR1としているが、スリットSLの長手方向はXY平面内のいずれの方向であってもよい。即ち、水晶の結晶方位に対して、スリットSLの長手方向の向きは、任意の方向に設定することができる。
【0014】
図1に示すように、構造体1は、スリットSLを囲む内壁を有する。図1でスリットSLの内壁は、平面視において略U字型をなす。スリットSLの内壁は、スリットSLの長手方向にあたる第1方向DR1にそれぞれ沿う第1側面S1及び第2側面S2と、第1側面S1及び第2側面S2の間を接続する端面を含む。第1側面S1及び第2側面S2は、互いに対向する。
【0015】
図1に示すように、スリットSLの内壁のうち、第1側面S1及び第2側面S2の間を接続する端面は、略U字型に湾曲している。このような、スリットSLの端面が位置する端部を第1端部E1という。図1では、スリットSLの第1方向DR1側が第1端部E1になっている。詳細には、スリットSLの第1端部E1における内壁は、第1端面EF1、第2端面EF2、第3端面EF3、第4端面EF4を有する。例えば、第1端面EF1と第3端面EF3は、第1直線L1により接続されており、第1直線L1を稜線とする尾根状の起伏をなしている。同様に、第2端面EF2と第4端面EF4は、第2直線L2により接続されており、第2直線L2を稜線とする尾根状の起伏をなしている。このように、スリットSLの第1端部E1では、内壁上に起伏が形成されている。
【0016】
図2は、本実施形態の構造体1のスリットSLの平面図である。第1端部E1では、概略として第1直線L1及び第2直線L2を稜線とする尾根状の起伏がスリットSLの内壁上に現れている。図2は見た平面図であるため、第1端面EF1と第2端面EF2が見えているが、反対方向(Z方向)に見れば、第3端面EF3と第4端面EF4が見える。
【0017】
構造体1のスリットSLの形成は、例えばウェットエッチング等の等方的なエッチングプロセスにより形成される。このとき、水晶基板2の結晶面ごとにエッチングレートが異なるため、結晶方位による異方性の影響も受ける。このため、スリットSLの内壁はウェットエッチングによる等方性の影響と水晶基板の結晶方位によるエッチングレートの異方性の影響を複合的に受けることになる。前述した、第1直線L1或いは第2直線L2を稜線とする尾根状の起伏は、主に、この結晶方位によるエッチングレートの異方性の影響として現れる。例えば、第1直線L1或いは第2直線L2を稜線とする尾根状の起伏は、ある結晶面に対するエッチングレートが他の結晶面に対するエッチングレートよりも遅い場合に他の結晶面に対して相対的にエッチングが進みにくくなることが、その主な発生要因になっている。このため、スリットSLの内壁上に形成される尾根状の起伏の一部をなす第1端面EF1~第4端面EF4は、それぞれエッチングレートが相対的に遅い結晶面に対応している。従って、第1端面EF1~第4端面EF4のそれぞれは、基本的には当該結晶面と平行な平坦な面であるが、等方的なウェットエッチングの影響も受け、実際には略平面状になる場合がある。
【0018】
図1図2に示すように構造体1において、第1直線L1を延長した線と、第2直線L2を延長した線との交点を交差点CPという。交差点CPは、構造体1の表面には存在しておらず、構造体1の内部にある。交差点CPが現れる位置は、水晶基板2の結晶方位とスリットSLの長手方向との角度によって変化するが、本実施形態の構造体1では、交差点CPは図2に一点鎖線αで示すスリットSLの中線よりも-X方向側に位置している。
【0019】
図3は、本実施形態の第1比較例の構造体1aの斜視図である。構造体1aは、構造体1と同様に、水晶基板2に第1方向DR1を長手方向とするスリットSLが設けられているが、スリットSLの第1方向DR1側の内壁の形状が異なっている。具体的には、第1比較例では、交差点CPがスリットSLの内壁上に現れている点が異なっている。
【0020】
図4は、構造体1と構造体1aの平面視での差異を説明する図である。図4の上図は図1に示す本実施形態の構造体1の平面視での形状を示し、図4の下図は第1比較例の構造体1aの平面視での形状を示す。図4の破線で示すように、構造体1と構造体1aとで、スリットSLの第1方向DR1側への深さDや第2方向DR2でのスリット幅Wは変わっていない。しかし、構造体1aは、スリットSLの第1端部E1で、深さDが最も深くなる部分PDが構造体1と異なっている。具体的には、構造体1aでは、スリットの深さDが最も深くなる部分PDが、スリット幅Wにおける中央位置よりも第2方向DR2側に位置している。このため、スリットSLの奥行が最も深い部分PDでは、内壁上に交差点CPが現れている。
【0021】
前述したように、交差点CPの現れる位置は、水晶基板2とスリットSLとの配向に依存する。そして、本実施形態のように、交差点CPが例えばスリットSLの第2方向DR2側に現れる場合には、構造体1のように、スリットSLの奥行の深くなる部分PDの中央部を第2方向DR2の反対方向側に位置するようにする。例えばこのようにすれば、中央線の第2方向DR2側に現れる交差点CPは内壁上に現れなくなる。
【0022】
図1図4では、第1直線L1、第2直線L2を稜線とする起伏が、スリットSLの第1方向DR1側の内壁に現れる場合を想定し、交差点CPは第2方向DR2においてスリットSLの中央よりも第2方向DR2側に現れるものとして説明してきた。しかし、前述したように交差点CPが現れる位置は、水晶基板2の結晶方位とスリットSLの長手方向との角度に依存するため、交差点CPのスリットSLの内壁における位置は、図4のaで示すエリアに限られず、同図のbで示すエリアに現れる場合もある。本実施形態の構造体1においては、交差点CPはスリットSLの内壁のa、bのいずれのエリアに位置していてもよい。例えば、交差点CPが、図4のbで示すエリアに現れていた場合、bに現れた交差点CPが内壁上に現れないようにスリットSLが形成される。具体的には、水晶基板2の平面視において、スリットSLの奥行が最も深くなる部分PDの中心が、aで示すエリアに位置するようなスリットSLの形状になる。このようなスリットSLの形状にすれば、bで示すエリアに位置する交差点CPは、第1端面EF1に覆われてスリットSLの内壁上には現れないようになる。
【0023】
以上のように、本実施形態の構造体1は、スリットSLが設けられた水晶基板2の構造体である。構造体は、スリットSLの内壁として、第1側面S1と第2側面S2と第1端面EF1と第2端面EF2と、を含む。第1側面S1は、スリットSLの長手方向である第1方向DR1に沿っており、第2側面S2は、第1方向DR1に沿っている。第1端面EF1は、第1側面S1に連続し、水晶基板2の第1結晶面に沿っており、第2端面EF2は、第2側面S2に連続し、水晶基板2の第2結晶面に沿っている。水晶基板2の平面視において、第1端面EF1に相当する第1直線L1と、第2端面EF2に相当する第2直線L2とが交差する交差点CPは、水晶基板2内に位置する。
【0024】
構造体1の形状に歪みが発生した場合、その応力は、スリットSLの第1端部E1の水晶基板2に集中しやすくなる。また交差点CPでは水晶基板2の異なる結晶面が交差しているため、応力が集中した場合には交差点CPを起点として結晶面に沿って破断が生じやすくなる。しかし、本実施形態によれば、水晶基板2の異なる結晶面の交差する交差点CPは、スリットSLの内壁上に現れないようになる。従って、構造体1に歪みが生じ、スリットSLの内壁に応力が集中しても、結晶面の交差点CPを起点とした破断が生じることを抑制できる。
【0025】
また本実施形態の構造体1において、水晶基板2は、スリットSLの内壁として、第1側面S1に連続し、水晶基板2の第3結晶面に沿う第3端面EF3と、第2側面S2に連続し、水晶基板2の第4結晶面に沿う第4端面EF4と、を含む。第1直線L1は、第1端面EF1と第3端面EF3とが交差する稜線であり、第2直線L2は、第2端面EF2と第4端面EF4とが交差する稜線である。
【0026】
このようにすれば、スリットSLの第1方向DR1側の内壁において、第1端面EF1と第3端面EF3は、第1直線L1を稜線とする尾根状の起伏を形成する。またスリットSLの第1方向DR1側の内壁において、第2端面EF2と第4端面EF4は、第2直線L2を稜線とする尾根状の起伏を形成する。
【0027】
図5は、本実施形態の構造体1と第2比較例の構造体1bとの差異を説明する図である。図5は、図4と同様に、上図に構造体1のスリットSLの平面視での形状が示され、下図には構造体1bのスリットSLの平面視での形状が示されている。第2比較例の構造体1bの平面視での形状は、第1比較例の構造体1aの平面視での形状と比較して、スリットSLの内壁に第1直線L1及び第2直線L2のそれぞれを稜線とする尾根状の起伏が無く、交差点CPが存在しない点が異なっている。このため、第2比較例では構造体1bの歪みに伴う応力が特定の箇所に集中しにくくなっている。但し、第2比較例のような内壁上に起伏ができないスリットSLは、例えばドライエッチングにより形成されるため、多くの時間的コストを要する。構造体1のスリットSLの形成方法については、図14等で後述するが、構造体1のスリットSLは、ウェットエッチングにより短時間で形成可能ため、製造コストを低減できる。
【0028】
2.物理量センサー
図6は本実施形態の物理量センサー10の斜視図である。物理量センサー10は、基部20と、腕部31、32、33と、可動部40と、括れ部50と、振動子60とを含む。なお、腕部31、32、33の数は、少なくとも2本であればよい。腕部31、腕部32、腕部33は、近位端部が基部20に連結され、好ましくは遠位端部に固定領域31A、固定領域32A、固定領域33Aがそれぞれ設けられている。括れ部50は、基部20と可動部40との間に配置され、基部20と可動部40とを接続している。振動子60は、例えば双音叉型の水晶振動子で構成され、物理量として例えば加速度、角速度、圧力等を検出する。振動子60は、基部20の厚さ方向(-Z方向)に見た平面視で、括れ部50を跨いで配置され、図9で説明する接着剤等の接合部61を介して、基部20と可動部40とに取り付けられている。また括れ部50を支点としたカンチレバーである可動部40の自由端部側には、例えばSUSや銅等の金属で形成される質量部70を配置することができる。質量部70は、図6に示すように可動部40の表面側に設けるものに限らず、図9に示すように可動部40の裏面側にも設けることができる。図6及び図9に示すように、質量部70は、接着剤等の接合部71により可動部40と取り付けられている。なお、図6に示す質量部70は、可動部40と共に上下動するが、質量部70の両端部70A、端部70Bは、腕部31、腕部32と接触することで過度な振幅を防止するストッパーとしても機能する。
【0029】
可動部40は、括れ部50を支点として例えば加速度や圧力等の物理量に応じて変位することで、基部20と可動部40とに取り付けられている振動子60に応力が生じる。振動子60に加わる応力に応じて、振動子60の共振周波数が変化する。この共振周波数の変化に基づいて、物理量を検出することができる。
【0030】
ここで、本実施形態の物理量センサー10では可動部40、括れ部50、基部20、腕部31を含むモノリシック構造体が、図1等で説明した構造体1に相当する。即ち、図6において可動部40、括れ部50、基部20、腕部31は、スリットSLをなすように配置される。また可動部40、括れ部50、基部20、腕部32も、もう1つのスリットSLをなすように配置される。
【0031】
物理量センサー10が加速度等に応じてX軸方向に変位した場合、基部20と腕部31、或いは基部20と腕部32の歪みによって吸収されることになる。仮に、基部20の側面に相当するスリットSLの内壁上に、水晶基板2の異なる結晶面に基づく交差点CPが現れていると、構造体で吸収しきれない応力は交差点CPに集中し、交差点CPが破断の起点となる可能性がある。
【0032】
そこで本実施形態では、交差点CPはスリットSLの内壁上に存在しないようになっている。従って、構造体で吸収しきれない応力がスリットSLの内壁上の特定の箇所に集中することを避けられ、物理量センサー10が腕部31、32の付け根付近で破断することを回避できるようになる。
【0033】
図7は、図6に示す物理量センサー10の一方のスリットSLの第1端部E1付近の詳細な形状を示す斜視図である。具体的には、腕部32側のスリットSLに関する交差点CPや各端面EF1~EF4の位置関係を示している。図7に示すように、スリットSLに関して交差点CPの位置は、第2方向DR2においてスリットSLの中央よりも腕部32側に位置している。図7において、一点鎖線αは、スリットSLの第2方向DR2における中央位置を示す線である。そして、交差点CPは一点鎖線αよりも腕部32側に位置するようになっている。
【0034】
図8は、図7に示す物理量センサー10を平面視で見た図である。図8に示すように、交差点CPは、スリットの中央よりも腕部32側に位置している。そして、交差点CPは、平面視において基部20内に位置しており、スリットSLの内壁上には現れないようになる。仮に、腕部32側の交差点CPがスリットSLの内壁上に存在していると、可動部40側と比べて、X軸方向の変位に対して破断の起点となる可能性が高いが、物理量センサー10ではこの可能性が低減されている。
【0035】
このように、本実施形態の物理量センサー10では、異なる結晶面に沿って生じる端面がなす交差点CPがスリットSLの内壁上に現れないようになる。このため、可動部40がX軸方向に変位し、可動部を支える基部20等に歪みが生じても、交差点CPを起点として破断が生じることを抑制できるようになる。
【0036】
図9は、図6の物理量センサー10が内蔵されている物理量センサーデバイス100を示す断面図である。物理量センサーデバイス100は、物理量センサー10が搭載される基台110を有する。本実施形態では、基台110は、底部110Aと側壁110Bとを含むパッケージベースとして構成されている。基台110は蓋体120と共に、物理量センサー10を収容するパッケージを形成する。蓋体120は、基台110の開口端に接着剤121を介して接合される。基台110の底部110Aには、4つの側壁110Bのうちの例えば3つの側壁110Bに沿って、底部110Aの内面110A1よりも一段高い段部112が設けられている。段部112は、側壁110Bの内面から突起するものでも良く、基台110と一体でも別体でも良いが、基台110を構成する一部である。物理量センサー10は、固定領域31A、32A、33Aにおいて段部112に対して接着剤113で固定される。接着剤113として、弾性率の高いエポキシ樹脂などの樹脂系接着剤を用いることにより、接合時に発生する応力歪みを吸収し、振動子60に対する悪影響を抑制できる。
【0037】
本実施形態では、図6に示すように、振動子60はワイヤーボンディング62、62により、段部112に形成された電極と接続することができる。この場合、基部20に電極パターンを形成する必要はない。ただし、ワイヤーボンディング62を採用せずに、基部20に設けられる電極パターンを、基台110の段部112に形成される電極と導電性接着剤を介して接続しても良い。
【0038】
基台110は、底部110Aの外面110A2に設けられ、後述の図10に示す回路基板210Aに実装される際に用いられる外部端子114を有する。外部端子114は、不図示の配線や電極等を介して振動子60と電気的に接続されている。
【0039】
例えば底部110Aには、基台110と蓋体120とで形成されるパッケージ内のキャビティー130を封止する封止部115が設けられている。封止部115は、基台110に形成された貫通孔116内に設けられている。封止部115は、貫通孔116に封止材を配置し、封止材を加熱溶融した後、固化させることで設けられる。封止部115は、パッケージの内部を気密に封止するために設けられる。
【0040】
図10は、3つの物理量センサーデバイス100を含む三軸物理量センサーデバイス200Aの組み立て分解斜視図である。物理量センサーデバイス100は、例えば一軸物理量センサーデバイスである。物理量センサーデバイス200Aは、3つの物理量センサーデバイス100が実装される回路基板210Aと、コネクター基板220と、パッケージベース230Aと、蓋体240Aとを有する。3つの物理量センサーデバイス100は、検出軸が直交3軸に沿って設けられ、3軸の物理量を検出する。回路基板210Aは、コネクター基板220Aと電気的に接続される。回路基板210A及びコネクター基板220Aは、パッケージベース230Aと蓋体240Aで形成されるパッケージに収容保持される。
【0041】
図11は、図10の物理量センサーデバイス200Aの変形例として三軸物理量センサーデバイス200Bを示している。図10では回路基板210A及びコネクター基板220Aが同一平面上に並設されていたが、図11では回路基板220Bとコネクター基板220Aとは上下方向で並設されている。図11でも、回路基板210A及びコネクター基板220Aは、パッケージベース230Bと蓋体240Bで形成されるパッケージに収容保持される。
【0042】
以上のように本実施形態の物理量センサー10は、図1等で説明した構造体1を含む。物理量センサー10が検出する物理量は、例えば加速度、速度、変位量、角速度、傾斜角又は圧力等である。例えば物理量は、第3方向DR3での物理量である。物理量センサー10が加速度センサーである場合には、物理量センサー10は、第3方向DR3での加速度を検出する。物理量センサー10がジャイロセンサー等の角速度センサーである場合には、物理量センサー10は、例えば第3方向DR3の回りでの角速度を検出する。角速度センサーの場合には、構造体1により構成される振動子として、音叉型、H型又はダブルT字型等の振動片を用いることができる。また物理量センサー10は、圧力センサー、傾斜センサー、MEMSスイッチなどあってもよい。
【0043】
具体的には本実施形態の物理量センサー10は、図6図9等に示すように、水晶基板2に支持される振動子60を含む。水晶基板2は、基部20と、基部20に対して可動な可動部40と、基部20と可動部40とを連結する、溝状の括れ部50と、を有する。振動子60は、括れ部50を跨いで基部20と可動部40に接続される。
【0044】
本実施形態によれば、前述したスリットSLの平面視での形状により、水晶基板2の異なる結晶面による交差点CPがスリットSLの内壁に現れないようにできるため、交差点CPを起点とする、応力による破断を抑制できる。従って外部応力に伴う歪みに対する耐性の強い物理量センサー10を実現できる。
【0045】
また本実施形態の物理量センサー10では、括れ部50は、平面視において第1方向DR1に直交する第2方向DR2に沿って設けられる。第1方向DR1に沿ったスリットSLの一端側の端部である第1端部E1は、基部20に設けられる。スリットSLの第1側面S1は、第1方向DR1に沿って、可動部40の側面、括れ部50の側面及び括れ部50から第1端部E1までの基部20の側面である。第1端面EF1及び第2端面EF2は、第1端部E1における端面である。
【0046】
また本実施形態の物理量センサー10では、水晶基板2は、第1方向DR1に沿って基部20から延びる腕部31、32を含み、スリットSLの第2側面S2は、腕部31、32の側面になっている。
【0047】
本実施形態によれば、可動部40の側面をスリットSLの第1側面S1に、腕部31、32の側面を、スリットSLの第2側面S2に対応させることができる。このため、スリットSLの第1端部E1において、交差点CPがスリットSLの内壁上に現れないようになる。従って、スリットSLの端部に応力がかかった場合に、交差点CPを起点とする破断が生じにくくなる。従って、可動部40の変位に伴う歪みに対する耐性に優れた物理量センサー10を実現できる。
【0048】
3.慣性センサー
次に、本実施形態の慣性センサー2000の一例について図12図13を用いて説明する。図12に示す慣性センサー2000(IMU:Inertial Measurement Unit)は、自動車やロボットなどの運動体の姿勢や挙動などの慣性運動量を検出する装置である。慣性センサー2000は、例えば6軸モーションセンサーである。慣性センサー2000は例えば3軸に沿った方向の加速度ax、ay、azを検出する加速度センサーと、3軸回りの角速度ωx、ωy、ωzを検出する角速度センサーと、を含む。
【0049】
慣性センサー2000は、例えば、図12に示すように平面形状が略正方形の直方体である。また正方形の対角線方向に位置する2ヶ所の頂点近傍に、マウント部としてのネジ穴2110が形成されている。この2ヶ所のネジ穴2110に2本のネジを通して、自動車などの被装着体の被装着面に慣性センサー2000を固定することができる。なお、部品の選定や設計変更により、例えば、スマートフォンやデジタルカメラに搭載可能なサイズに小型化することも可能である。
【0050】
慣性センサー2000は、アウターケース2100と、接合部材2200と、センサーモジュール2300を有する。アウターケース2100の内部に、接合部材2200を介在させて、センサーモジュール2300が挿入される。センサーモジュール2300は、インナーケース2310と回路基板2320を有している。インナーケース2310には、回路基板2320との接触を防止するための凹部2311や、後述するコネクター2330を露出させるための開口2312が形成されている。そしてインナーケース2310の下面には、接着剤を介して回路基板2320が接合されている。
【0051】
図13に示すように、回路基板2320の上面には、コネクター2330、z軸の回りの角速度を検出する角速度センサー2340z、x軸、y軸及びz軸の各軸方向の加速度を検出する加速度センサーユニット2350などが実装されている。また回路基板2320の側面には、x軸の回りの角速度を検出する角速度センサー2340x及びy軸の回りの角速度を検出する角速度センサー2340yが実装されている。なお慣性センサー2000において、角速度センサー2340x、2340y、2340zを設けなくてもよい。この場合には、例えば物理量センサー10と、後述する制御IC2360を、収容容器であるパッケージに収容することで慣性センサー2000を実現できる。
【0052】
例えば、加速度センサーユニット2350は、上述の物理量センサー10にそれぞれ相当する第1物理量センサー、第2物理量センサー及び第3物理量センサーを含む。第1物理量センサーは、x軸方向の加速度を検出する。第2物理量センサーは、y軸方向の加速度を検出する。第3物理量センサーは、z軸方向の加速度を検出する。このように加速度センサーユニット2350は、3軸方向の加速度を検出できる。なお角速度センサー2340x、2340y、2340zとしては、特に限定されないが、例えばコリオリの力を利用した振動ジャイロセンサーを用いることができる。
【0053】
また回路基板2320の下面には、制御IC2360が実装されている。物理量センサー10から出力された検出信号に基づいて制御を行う制御部としての制御IC2360は、例えばMCU(Micro Controller Unit)であり、不揮発性メモリーを含む記憶部や、A/Dコンバーターなどを内蔵しており、慣性センサー2000の各部を制御する。なお、回路基板2320には、その他にも複数の電子部品が実装されている。
【0054】
以上のように本実施形態の慣性センサーは、第1物理量センサーと第2物理量センサーと第3物理量センサーと、を含む。第1物理量センサーは、第1検出軸での第1物理量を検出する。第2物理量センサーは、第1検出軸に直交する第2検出軸での第2物理量を検出する。第3物理量センサーは、第1検出軸及び第2検出軸に直交する第3検出軸での第3物理量を検出する。
【0055】
ここで、第1物理量センサーは、x軸方向の加速度を検出する。即ち、第1物理量センサーは、第1検出軸としてx軸での第1物理量を検出する。第2物理量センサーは、y軸方向の加速度を検出する。即ち、第2物理量センサーは、第2検出軸としてy軸での第2物理量を検出する。第3物理量センサーは、z軸方向の加速度を検出する。即ち、第3物理量センサーは、第3検出軸としてz軸での第3物理量を検出する。第1~第3物理量センサーのそれぞれは、角速度センサー2340x、2340y、2340zの代わりに検出軸の回りの角速度を検出するようにしてもよい。
【0056】
本実施形態の慣性センサー2000によれば、物理量センサー10を含む加速度センサーユニット2350を用いているため、物理量センサー10の効果を享受でき、衝撃耐性に優れた慣性センサー2000を実現できる。
【0057】
4.構造体の製造方法
図14図17に本実施形態の構造体1の製造方法を示す。本実施形態の製造方法は、マスク形成工程とエッチング工程とを含む。
【0058】
図14図16は、マスク形成工程について説明する図である。図14はマスク形成前の水晶基板2の断面図である。まず、図15に示すように水晶基板2の上にマスク材料であるマスク300を成膜する。マスク300は、例えばレジストや金属膜等である。そして図16に示すように、マスク300をリソグラフィー等により露光後、アッシング処理を行い、本実施形態の構造体1のスリットSLに対応するパターンに加工する。図16の下図に示すマスク300の平面視での形状は、図2で説明した本実施形態の構造体のスリットSLの形状に概ね対応している。マスク300は平面視において、第1直線L1と第2直線L2とが交差する交差点CPを覆う形状になっている。なお前述した通り、交差点CPの現れる位置は、水晶基板2とスリットSLの配向によって変化する。図16の下図において、交差点CPの第2方向DR2における位置は、水晶基板2とスリットSLを特定の配向にした場合の一例を示している。
【0059】
図17は、エッチング工程について説明する図である。図17に示すように、マスク形成工程でパターニングしたマスク300をマスク材として、水晶基板2のエッチングを行う。エッチングはウェットエッチングを用いることができ、薬液には例えばフッ酸などが用いられる。図17はエッチング後の断面視及び平面視での水晶基板2の形状を示す。図2等で説明した通り、平面視においてスリットSLの交差点CPが水晶基板2の中に位置しており、スリットSLの内壁上に現れていない。このため、外部の応力によるストレスが、水晶基板2の表面における特定の箇所に集中しないようになっている。なお、図17の上図に示すように、ウェットエッチングでは等方的に剥離が進む傾向があり、スリットSLの内壁の断面形状は僅かにテーパーがついている。
【0060】
即ち、本実施形態の製造方法は、水晶基板2から形成される構造体1を製造する製造方法であって、マスク形成工程とエッチング工程と、を含む。マスク形成工程は、水晶基板2にマスク300を形成する。エッチング工程は、マスク300を用いて水晶基板2をエッチングすることで、水晶基板2にスリットSLを形成する。エッチング工程では、第1直線L1と第2直線L2とが交差する交差点CPを覆う形状のマスク300を用いる。第1直線L1は、水晶基板2の平面視において、スリットSLの端部に形成される水晶基板2の第1結晶面に沿う第1端面EF1に相当する。第2直線L2は、水晶基板2の平面視において、スリットSLの端部に形成される水晶基板2の第2結晶面に沿う第2端面EF2に相当する。
【0061】
図2において説明したように、水晶基板2をエッチングにより加工してスリットSLを形成する際、交差点CPの現れる位置は、水晶基板2の結晶方位に対するスリットSLの開口部の長手方向との角度によって変化する。従って、当該角度が所与の角度に決まっていれば、交差点CPがスリットSLの内壁のどの位置に現れるかについてあらかじめ予測することができる。そして、その予測される交差点CPの位置が平面視において覆われるような形状にマスク300を加工することで、水晶基板2を本実施形態の形状に形成することができる。即ち、水晶基板2とスリットSLの配向に応じて、交差点CPが現れないようなマスク300で水晶基板2をエッチングすることが可能になる。
【0062】
なお、スリットSLをドライエッチングによって形成した場合、ドライエッチングは、ウェットエッチングと比較してエッチングレートの結晶方位異方性は現れにくい傾向にある。一方、ウェットエッチングはバッチ処理に適しており、高いスループットを実現でき、量産性に優れたプロセスといえる。従って、本実施形態の製造方法は、特にウェットエッチングにより構造体1にスリットSLを形成する場合に顕著な効果を示す。
【0063】
以上に説明したように本実施形態の構造体は、スリットが設けられた水晶基板の構造体に関係する。構造体は、スリットの内壁として、第1側面と第2側面と第1端面と第2端面と、を含む。第1側面は、スリットの長手方向である第1方向に沿っていてもよく、第2側面は、第1方向に沿っていてもよい。第1端面は、第1側面に連続し、水晶基板の第1結晶面に沿っていてもよい。第2端面は、第2側面に連続し、水晶基板の第2結晶面に沿っていてもよい。水晶基板の平面視において、第1端面に相当する第1直線と、第2端面に相当する第2直線とが交差する交差点は、水晶基板内に位置する。
【0064】
本実施形態によれば、水晶基板の異なる結晶面の交差する交差点は、スリットの内壁上に現れないようになる。従って、構造体に歪みが生じ、スリットの内壁に応力が集中しても、結晶面の交差点を起点とした破断が生じることを抑制できる。
【0065】
また本実施形態の構造体において、構造体は、スリットの内壁として、第1側面に連続し、水晶基板の第3結晶面に沿う第3端面と、第2側面に連続し、水晶基板の第4結晶面に沿う第4端面と、を含むことができる。第1直線は、第1端面と第3端面とが交差する稜線であり、第2直線は、第2端面と第4端面とが交差する稜線である。
【0066】
このようにすれば、スリットの第1方向側の内壁において、第1端面と第3端面は、第1直線を稜線とする尾根状の起伏を形成する。またスリットの第1方向側の内壁において、第2端面と第4端面は、第2直線を稜線とする尾根状の起伏を形成する。
【0067】
本実施形態は、構造体を含む物理量センサーに関係する。このようにすれば、構造体を含む物理量センサーにおいて、当該構造体における結晶面の交差点を起点とした破断が生じることを抑制できるようになる。
【0068】
本実施形態の物理量センサーは、構造体に支持される振動子を含んでもよい。構造体は、基部と、基部に対して可動な可動部と、基部と可動部とを連結する、溝状の括れ部と、を有することができる。振動子は、括れ部を跨いで基部と可動部に接続されていてもよい。
【0069】
このようにすれば、水晶基板の異なる結晶面の交差点がスリットの内壁に現れなくなり、応力による破断の起点が形成されないようにすることができる。従って、外部からの応力に伴って可動部が変位し、これに伴い、スリットの周りに歪みが生じた場合に、交差点を起点とした破断は生じにくくなり、外部応力に伴う歪みに対する耐性の強い物理量センサーを実現できる。
【0070】
本実施形態の物理量センサーでは、括れ部は、平面視において第1方向に直交する第2方向に沿って設けられていてもよい。第1方向に沿ったスリットの一端側の第1端部は、基部に設けられていてもよい。スリットの第1側面は、第1方向に沿って、可動部の側面、括れ部の側面及び括れ部から第1端部までの基部の側面になっていてもよい。第1端面及び第2端面は、第1端部における端面であってもよい。
【0071】
このようにすれば、可動部の側面、括れ部の側面及び括れ部から第1端部までの基部の側面は、構造体におけるスリットの第1側面に対応している。このため、可動部を支持する括れ部、基部を含む部分に歪みが生じても、スリットの第1端部において、交差点はスリットの内壁上に無いため、交差点を起点とする破断は生じにくくなる。
【0072】
本実施形態の物理量センサーでは、構造体は、第1方向に沿って基部から延びる腕部を含んでもよく、スリットの第2側面は、腕部の側面になっていてもよい。
【0073】
このようにすれば、可動部の側面をスリットの第1側面に、腕部の側面をスリットの第2側面に対応させられるようになる。そして、スリットの第1端部において、内壁上に交差点は現れないようにすることができる。従って、スリットの第1端部において、歪が生じても、交差点を起点とする破断が生じにくくなる。
【0074】
本実施形態の慣性センサーは、第1物理量センサーと第2物理量センサーと第3物理量センサーと、を含む。第1物理量センサーは、第1検出軸での第1物理量を検出する。第2物理量センサーは、第1検出軸に直交する第2検出軸での第2物理量を検出する。第3物理量センサーは、図6図9で説明した物理量センサーであって、第1検出軸及び第2検出軸に直交する第3検出軸での第3物理量を検出する。
【0075】
本実施形態の慣性センサーによれば、上述した物理量センサーを含む加速度センサーユニットを用いることで、上述した物理量センサーの効果を享受でき、衝撃耐性に優れた慣性センサーを実現できる。
【0076】
本実施形態の製造方法は、水晶基板の構造体を製造する製造方法であって、マスク形成工程とエッチング工程と、を含むことができる。マスク形成工程は、水晶基板にマスクを形成する。エッチング工程では、マスクを用いて水晶基板をエッチングすることで、水晶基板にスリットを形成してもよい。エッチング工程では、第1直線と第2直線とが交差する交差点を覆う形状のマスクを用いることができる。第1直線は、水晶基板の平面視において、例えばスリットの端部に形成される水晶基板の第1結晶面に沿う第1端面に相当する。第2直線は、水晶基板の平面視において、例えばスリットの端部に形成される水晶基板の第2結晶面に沿う第2端面に相当する。
【0077】
本実施形態によれば、異なる結晶面の交差点がスリットの内壁に現れないようなマスクを形成し、当該マスクを用いて水晶基板のエッチングを行い、構造体を製造することで、構造体に歪みが生じても、特定の箇所に応力が集中しないようになる。従って、歪みへの耐性に優れた構造体を実現できる。
【0078】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本開示の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本開示の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本開示の範囲に含まれる。また構造体、物理量センサー及び慣性センサーの構成・動作、並びに構造体の製造方法の構成も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0079】
1…構造体、2…水晶基板、10…物理量センサー、20…基部、30…可動部、31…腕部、31A…固定領域、32…腕部、32A…固定領域、33…腕部、33A…固定領域、40…可動部、60…振動子、61…接合部、62…ワイヤーボンディング、70…質量部、70A…両端部、70B…端部、71…接合部、100…物理量センサーデバイス、110…基台、110A…底部、110A1…内面、110A2…外面、110B…側壁、112…段部、113…接着剤、114…外部端子、115…封止部、116…貫通孔、120…蓋体、121…接着剤、130…キャビティー、200A…三軸物理量センサーデバイス、200B…三軸物理量センサーデバイス、210A…回路基板、210A…電子回路基板、220A…コネクター基板、220B…回路基板、230A…パッケージベース、230B…パッケージベース、240A…蓋体、240B…蓋体、300…マスク、2000…慣性センサー、2100…アウターケース、2110…ネジ穴、2200…接合部材、2300…センサーモジュール、2310…インナーケース、2311…凹部、2312…開口、2320…回路基板、2330…コネクター、2340x…角速度センサー、2340y…角速度センサー、2340z…角速度センサー、2350…加速度センサーユニット、CP…交差点、D…深さ、DR1…第1方向、DR2…第2方向、DR3…第3方向、E1…第1端部、EF1…第1端面、EF2…第2端面、EF3…第3端面、EF4…第4端面、IC2360…制御、L1…第1直線、L2…第2直線、M…マスク、S1…第1側面、S2…第2側面、SL…スリット、W…スリット幅、ax…加速度、ay…加速度、az…加速度、ωx…角速度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17