(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033912
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】銀ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20240306BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20240306BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20240306BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240306BHJP
【FI】
B22F9/24 E
B22F1/054
B22F1/00 K
B22F1/102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137833
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397022911
【氏名又は名称】学校法人甲南学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 拓磨
(72)【発明者】
【氏名】村井 盾哉
(72)【発明者】
【氏名】赤松 謙祐
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
【Fターム(参考)】
4K017AA03
4K017AA08
4K017BA02
4K017CA08
4K017DA01
4K017DA07
4K017EF10
4K017EJ01
4K017EJ02
4K017FB07
4K017FB11
4K018BA01
4K018BB05
4K018BC30
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】量産による製造コスト低減のために高濃度の銀イオンを使用することができ、粒径が小さく且つ均一である銀ナノ粒子を生成することができる銀ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、反応液にマイクロ波を照射することで銀ナノ粒子を製造する方法であって、反応液が、(i)銀イオンと、(ii)500mM以上である還元溶媒と、(iii)カルボキシ基及びアミド基からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する保護剤とを含み、還元溶媒と銀イオンの濃度の比(還元溶媒の濃度/銀イオンの濃度)が、5以上であり、保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)が、0.0004以上であり、反応液に照射するマイクロ波の照射源の出力が、反応液の総体積に基づいて、30W/mL以上である、方法に関する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応液にマイクロ波を照射することで銀ナノ粒子を製造する方法であって、
反応液が、
(i)銀イオンと、
(ii)500mM以上である還元溶媒と、
(iii)カルボキシ基及びアミド基からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する保護剤と
を含み、
還元溶媒と銀イオンの濃度の比(還元溶媒の濃度/銀イオンの濃度)が、5以上であり、
保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)が、0.0004以上であり、
反応液に照射するマイクロ波の照射源の出力が、反応液の総体積に基づいて、30W/mL以上である
方法。
【請求項2】
保護剤がアミド基を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
還元溶媒が、アミノ基、ヒドロキシ基及びカルボキシ基から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する有機化合物、又はマイクロ波の照射により分解してアミノ基、ヒドロキシ基及びカルボキシ基から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する化合物を生成する有機化合物であり、且つ60℃以下の融点を有する有機化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
還元溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド又はプロパノールである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
反応液に照射するマイクロ波の照射源の出力が、反応液の総体積に基づいて、50W/mL以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
反応液中の銀イオンの濃度が、50mM以上である、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、バルク材料と異なる性質を有することがある金属ナノ粒子、特に機能面において種々の優れた物理的・化学的特性を有する銀ナノ粒子は、例えば触媒、インクの材料、電子部品部材など、様々な用途において、使用・検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、銀イオンを含む溶液に、銀イオンを銀に還元する還元剤と、還元した銀に吸着する高分子吸着剤とを添加して、銀を析出させることにより、銀ナノ粒子を製造する方法であって、前記還元剤に、標準電極電位が、0.03V~0.8Vの範囲にある還元剤を用い、前記高分子吸着剤に、重量平均分子量が1万~4万のポリビニルピロリドンを用い、前記銀イオンを含む溶液に、前記還元剤と前記高分子吸着剤とを添加して、混合した混合液に、マイクロ波を照射することにより、前記銀イオンから銀を析出させながら、プレート状の銀ナノ粒子を製造することを特徴とする銀ナノ粒子の製造方法について開示している。
【0004】
非特許文献1は、水素化ホウ素ナトリウムを用いた銀粒子の合成方法、及びクエン酸やアミノ酸などの有機酸を用いた銀粒子の合成方法における、還元剤や保護剤の特性について開示している。
【0005】
エレクトロニクス実装分野においても、低温で接合することができる鉛フリー化接合材料として、金属ナノ粒子が検討されている。鉛フリーはんだは250℃以下で接合することが困難であるが、金属ナノ粒子を含む鉛フリーはんだは、金属ナノ粒子の特性、すなわち、バルク材料と比較して低い融点を有する一方で、接合に使用されて焼結するとバルク材料としての融点を有するという特性を利用して、250℃以下での接合を可能にし得る。
【0006】
例えば、特許文献2は、金属ナノ粒子として銀ナノ粒子を使用して、球状の銀ナノ粒子のパッキング性(粒子の充填密度)を向上させて高い接合強度を得るために、少なくとも銀化合物、還元剤及び分散剤を混合した混合液を得る工程と、前記混合液を加熱して前記銀化合物と前記還元剤とを反応させ、シート状又は板状の第1銀粒子及び前記第1銀粒子と比べて球形に近い形状又は球形の形状を有し且つ前記第1銀粒子の一辺の長さの最大値と比べて粒子径が小さい第2銀粒子を生成する工程とを包含する銀粒子製造方法について開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-135566号公報
【特許文献2】特開2017-025391号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Restrepo、Cindy Vanessa及びCristian C.Villa、「Synthesis of silver nanoparticles,influence of capping agents,and dependence on size and shape:A review.」、Environmental Nanotechnology、Monitoring&Management、2021、100428
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術における銀ナノ粒子の合成方法は、ガス生成や速い反応速度を伴うため、複雑且つ厳密である。例えば、非特許文献1で使用される水素化ホウ素ナトリウムを用いた銀粒子の合成方法では、反応速度が速いため、粒径を均一にすることが困難であり、また、多量のガスの発生を伴う。さらに、非特許文献1で使用されるクエン酸やアミノ酸を用いる銀粒子の合成方法では、銀イオンとクエン酸やアミノ酸との塩形成(不溶化)に伴い、合成条件は低濃度の銀イオンを用いたものに限定される。加えて、銀イオンを高濃度にした場合、系内の銀ナノ粒子と保護剤との接触頻度の低下による粒子成長の促進、すなわち粒子の粗大化も懸念される。
【0010】
また、銀ナノ粒子を高耐熱接合材料として使用するための方策として、特許文献2ではバイモダルな銀ナノ粒子を合成することが挙げられているが、一般的には、銀ナノ粒子の融点を一定であり且つより低いものにすることが挙げられる。銀ナノ粒子の融点を一定であり且つより低くするためには、銀ナノ粒子の粒径を小さく且つ均一にする(ここで、粒径が均一とは、粒度分布が狭いことを意味する)必要がある。
【0011】
そこで、本発明は、量産による製造コスト低減のために高濃度の銀イオンを使用することができ、粒径が小さく且つ均一である銀ナノ粒子を生成することができる銀ナノ粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するための手段を種々検討した結果、反応液にマイクロ波を照射することで銀ナノ粒子を製造する方法において、溶媒及び還元剤として作用する還元溶媒を特定量で使用し、保護剤として特定の官能基を有する保護剤を使用し、さらに保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)を調整することによって、粒径が小さく且つ均一である銀ナノ粒子を安定して生成することができることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)反応液にマイクロ波を照射することで銀ナノ粒子を製造する方法であって、
反応液が、
(i)銀イオンと、
(ii)500mM以上である還元溶媒と、
(iii)カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基及びアミド基からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する保護剤と
を含み、
還元溶媒と銀イオンの濃度の比(還元溶媒の濃度/銀イオンの濃度)が、5以上であり、
保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)が、0.0004以上であり、
反応液に照射するマイクロ波の照射源の出力が、反応液の総体積に基づいて、30W/mL以上である
方法。
(2)保護剤がアミド基を有する、(1)に記載の方法。
(3)還元溶媒が、アミノ基、ヒドロキシ基及びカルボキシ基から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する有機化合物、又はマイクロ波の照射により分解してアミノ基、ヒドロキシ基及びカルボキシ基から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する化合物を生成する有機化合物であり、且つ60℃以下の融点を有する有機化合物である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)還元溶媒がN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)又はプロパノールである、(3)に記載の方法。
(5)反応液に照射するマイクロ波の照射源の出力が、反応液の総体積に基づいて、50W/mL以上である、(1)~(4)のいずれか1つに記載の方法。
(6)反応液中の銀イオンの濃度が、50mM以上である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によって、量産による製造コスト低減のために高濃度の銀イオンを使用することができ、粒径が小さく且つ均一である銀ナノ粒子を生成することができる銀ナノ粒子の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】比較例1~2及び実施例1~3で調製した銀ナノ粒子について、保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)と銀ナノ粒子の平均粒径の関係を示すグラフである。
【
図2】実施例5で調製した銀ナノ粒子の粒度分布を示すグラフである。
【
図3】実施例5で調製した銀ナノ粒子のTEM写真である。
【
図4】比較例3及び実施例4~6で調製した銀ナノ粒子について、反応液中の還元溶媒としてのDMFの濃度と銀ナノ粒子の平均粒径の関係を示すグラフである。
【
図5】実施例7~8及び比較例4で調製した銀ナノ粒子について、マイクロ波照射源の出力と銀ナノ粒子の平均粒径の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
本明細書では、適宜図面を参照して本発明の特徴を説明する。なお、本発明の銀ナノ粒子の製造方法は、下記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良などを施した種々の形態にて実施することができる。
【0017】
本発明は、反応液にマイクロ波を照射することで銀ナノ粒子を製造する方法であって、反応液が、(i)銀イオンと、(ii)500mM以上である還元溶媒と、(iii)カルボキシ基及びアミド基からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する保護剤とを含み、還元溶媒と銀イオンの濃度の比(還元溶媒の濃度/銀イオンの濃度)が、5以上であり、保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)が、0.0004以上であり、反応液に照射するマイクロ波の照射源の出力が、反応液の総体積に基づいて、30W/mL以上である、方法に関する。
【0018】
ここで、反応液中に含まれる銀イオンの原料としては、下記で説明する溶媒中に溶解し、銀イオンを生成することができれば限定されないが、例えば銀の、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩などの無機塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩などの有機塩、などを挙げることができる。銀ナノ粒子の原料は、例えば、金属銀や銀塩を含む材料を硝酸などの酸又はアンモニア水などにより溶解して調製してもよい。銀イオンの原料としては、安価である硝酸銀を使用することが好ましい。
【0019】
反応液中の銀イオンの濃度は、下記で説明するように、還元溶媒との比が特定の範囲になれば限定されず、低濃度、例えば通常0.1mmol/L(mM)以上、好ましくは1mM以上であってもよい。反応液中の銀イオンの濃度は、量産による製造コスト低減を考慮した場合、通常50mM以上、好ましくは80mM以上、より好ましくは100mM以上である。反応液中の銀イオンの濃度の上限値は、銀イオンの原料が反応液中において銀イオンとして存在する限り、限定されないが、通常500mM、好ましくは400mMである。
【0020】
反応液中の銀イオンの濃度を前記範囲にすることによって、得られる銀ナノ粒子のばらつきは小さくなり、言い換えれば、得られる銀ナノ粒子の粒度分布は狭くなる。
【0021】
反応液中に含まれる還元溶媒は、反応液中における反応場としての溶媒及び銀イオンを酸化還元反応により酸化数が0である銀まで還元する還元剤の両方の作用を有する化合物である。
【0022】
還元溶媒は、前記特性を有し、銀イオンの原料及び保護剤などを溶解し、さらにマイクロ波を吸収することができれば限定されない。還元溶媒としては、アミノ基、ヒドロキシ基及びカルボキシ基から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する有機化合物、又はマイクロ波の照射により、すなわち、マイクロ波を吸収することにより分解してアミノ基、ヒドロキシ基及びカルボキシ基から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する化合物を生成する有機化合物が好ましい。さらに、還元溶媒としては、60℃以下の融点を有する有機化合物が好ましい。還元溶媒としては、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、酢酸、プロパノール、例えばn-プロピルアルコール及び2-プロピルアルコール、エタノール、ギ酸、エチレングリコール、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。還元溶媒としては、DMF又はプロパノールが好ましい。
【0023】
DMFは加熱による温度上昇により加水分解して還元能が発現する。したがって、還元溶媒としてDMFを使用することで、マイクロ波により急速昇温したDMFが銀イオンを一度に還元し、その結果、銀ナノ粒子の核生成が溶媒中均一に起こり、生成する銀ナノ粒子粒径は小さく且つ均一になる。
【0024】
反応液中の還元溶媒の濃度は、溶媒及び還元剤として十分な量、すなわち500mM以上、好ましくは1000mM以上、より好ましくは1500mM以上である。反応液中の還元溶媒の濃度の上限値は、限定されず、例えば、反応液中の溶媒として、還元溶媒のみを使用してもよい。
【0025】
還元溶媒と銀イオンの濃度の比(還元溶媒の濃度/銀イオンの濃度)は、5以上、好ましくは10以上である。
【0026】
反応液中の還元溶媒の濃度を前記範囲にすることによって、小さな粒径の銀ナノ粒子を生成することができる。
【0027】
反応液中に含まれる保護剤は、反応液中に生成した銀ナノ粒子表面の一部又は全面に結合する化合物であって、銀ナノ粒子同士の凝集を抑制する化合物である。保護剤は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基及びアミド基からなる群、好ましくはカルボキシ基及びアミド基からなる群から選択される1種以上の官能基を1つ以上有する有機化合物である。保護剤としては、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド(PAA)、ポリビニルアルコール(PVA)、これらの2種以上の混合物が挙げられる。保護剤としては、PVP又はPAAが好ましい。
【0028】
保護剤がカルボキシ基及び/又はアミド基を有することにより、当該官能基がマイクロ波を効率よく吸収し、保護剤の銀ナノ粒子への吸着速度を向上させ、粒径が小さな銀ナノ粒子を生成することができる。
【0029】
保護剤の重量平均分子量は、限定されず、所望する銀ナノ粒子の粒径に応じて、変更することができるが、通常300g/mol~100000g/mol、好ましくは1500g/mol~50000g/molである。
【0030】
保護剤の重量平均分子量を前記範囲にすることによって、生成した銀ナノ粒子に保護剤が効果的に配位し、粒成長を抑制することで粒度分布が均一となる。
【0031】
保護剤の量は、限定されず、所望する銀ナノ粒子の粒径に応じて、変更することができるが、銀の物質量の、通常0.1倍~2000倍、好ましくは0.2倍~1000倍である。
【0032】
保護剤を前記重量平均分子量及び量で使用することによって、生成した銀ナノ粒子同士の凝集を抑制することができる。
【0033】
保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)は0.0004以上、好ましくは0.00040以上、より好ましくは0.001以上である。保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)の上限値は、保護剤がマイクロ波を吸収しやすいほど粒径が小さくなるため限定されないが、通常0.005である。
【0034】
表1に保護剤として使用し得る化合物の誘電損失をまとめる。
【0035】
【0036】
保護剤の誘電損失は、限定されないが、通常0.0030以上、好ましくは0.0050以上である。
表2に還元溶媒として使用し得る化合物の誘電損失をまとめる。
【0037】
【0038】
還元溶媒の誘電損失は、限定されないが、通常1以上、好ましくは5以上である。
【0039】
保護剤と還元溶媒の誘電損失の比を前記範囲にすることによって、保護剤の誘電損失が還元溶媒の誘電損失と比較して小さくなりすぎることを防ぎ、吸着速度の遅延及び粒子の粗大化を防ぐことができる。
【0040】
さらに、マイクロ波による誘電損失係数は、以下の式
誘電損失係数=εr・tanσ
εr:誘電体(例えば、保護剤又は還元溶媒)の比誘電率
tanσ:誘電体の誘電損失正接
により計算することができる。
【0041】
この式より、還元溶媒及び保護剤それぞれの誘電損失係数を見積もることができる。誘電損失係数はマイクロ波の吸収特性を表わしており、誘電損失係数が大きい材料ほどマイクロ波の電力を吸収しやすく、加熱されやすい。したがって、保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)を前記範囲にすることで、保護剤の周囲での加熱が促進され、銀ナノ粒子が生成してすぐに保護剤が吸着しやすい条件となり、粒径が小さく且つ均一である銀ナノ粒子を合成することができる。
【0042】
反応液は、前記で説明した銀イオン、還元溶媒及び保護剤から構成されてもよいが、これらの材料以外にも、従来のマイクロ波を照射することにより銀ナノ粒子を製造する方法において使用することができる反応液で通常使用され得る添加剤を含むこともできる。
【0043】
例えば、反応液は、添加剤として、キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び/又はその塩、pH調整剤などをさらに含んでいてもよい。
【0044】
本発明では、反応液の調製における、各材料の添加順序、添加温度、混合方法、混合時間などは限定されず、均一な反応液が調製されるように混合される。本発明では、均一な反応液が調製されてから反応を開始させる。
【0045】
本発明では、前記で説明した反応液にマイクロ波合成装置を用いてマイクロ波を照射し、反応を進行させる。反応液にマイクロ波を照射すると、反応液に含まれる極性溶媒(還元溶媒)は、マイクロ波を吸収し、熱エネルギーに変換することで発熱する。
【0046】
マイクロ波合成装置では、反応液を収容する容器の材質は、反応液にマイクロ波を均一に照射することができれば限定されず、例えば、反応器の外部から反応器を介して反応液にマイクロ波を照射する場合、マイクロ波を透過する材質、例えばセラミックス、ガラスなどを使用することができ、反応液の上部から反応液に直接マイクロ波を照射する場合、マイクロ波を反射する材質、例えばアルミニウム、ステンレスなどの金属などを使用することができる。
【0047】
マイクロ波は、マイクロ波照射源(マイクロ波発振器(マグネトロン))から発生し、マイクロ波照射源は、シングルモードシステム、マルチモードシステムのどちらでも使用することができる。
【0048】
マイクロ波照射源の出力は、反応液の総体積に基づいて、30W/mL以上、好ましくは50W/mL以上である。マイクロ波照射源の出力の上限値は、限定されないが、反応液の総体積に基づいて、通常10kW/mL、好ましくは1kW/mL、より好ましくは500W/mLである。
【0049】
マイクロ波照射源の出力を前記範囲にすることによって、粒径が小さな銀ナノ粒子を生成することができる。
【0050】
マイクロ波照射源から発生するマイクロ波の周波数は、適宜変更することができ、限定されないが、通常1GHz~10GHz、好ましくは2GHz~6GHzである。本発明では、マイクロ波の周波数として、工業用マイクロ波電源の周波数である2.45GHzを使用することがより好ましい。
【0051】
マイクロ波の照射によって昇温される反応液の温度は、反応の条件により適宜変更することができ、限定されない。反応液の温度は、溶媒の沸点以下であればよい。
【0052】
反応液へのマイクロ波の照射時間は、反応の条件により適宜変更することができ、反応が完了すれば限定されないが、通常1分~200分、好ましくは1分~80分である。あるいは、目的とする反応液の温度を維持するように、マイクロ波を反応液に照射することができる。なお、反応の完了は、溶液中に出発原料である銀イオンが存在しなくなったことをICP-AESで解析することにより確認することができる。
【0053】
マイクロ波の照射時間を含む反応の総時間は、反応の条件により適宜変更することができ、限定されないが、例えば1分~300分、好ましくは1分~80分である。
【0054】
本発明においてマイクロ波合成装置を用いることにより、反応場全体を均一に加熱することができる。
【0055】
本発明では、反応液を、撹拌機構、例えばプロペラ式撹拌機、振動式撹拌機などにより、撹拌することが好ましい。反応液を撹拌することにより、反応液中に生成した銀ナノ粒子を均一に分散することができ、反応液を均一に保つことができる。
【0056】
本発明は、バッチ式で実施しても、流通式で実施してもよい。本発明は、バッチ式で実施することが好ましい。バッチ式で実施することにより、合成反応自体を完了させることができ、得られる銀ナノ粒子の歩留まりをよくすることができる。また、反応液の濃度を高濃度にすることができ、流通式で起こり得る銀ナノ粒子の配管の閉塞の問題が起こらない。
【0057】
本発明により得られた銀ナノ粒子を含む溶液は、当該技術分野において知られる方法により、分離、精製(例えば塩析や遠心分離)などを実施し、目的とする銀ナノ粒子及び/又は銀ナノ粒子を含む分散液を得ることができる。
【0058】
本発明により製造された銀ナノ粒子は、粒径が小さく、例えばTEMで測定したときの平均粒径(ここで、平均粒径は、粒径を長径及び短径の平均値としたときの、300個以上の粒子の粒径の平均値を意味する)が通常5nm~30nmになり、さらに、粒径が均一、すなわち狭い粒度分布、例えばTEMで測定した粒度分布における標準偏差σが20以下になる。
【0059】
本発明により製造された銀ナノ粒子は、従来の触媒、電子部品部材、インクの材料などに加え、エレクトロニクス実装分野における高耐熱鉛フリー化接合材料として使用することができる。
【実施例0060】
以下、本発明に関するいくつかの実施例につき説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0061】
1.保護剤及び還元溶媒の検討
実施例1
(1)硝酸銀、保護剤としてのPVP(重量平均分子量:40000g/mol)及び還元溶媒としてのDMFを、反応液中の濃度がそれぞれ硝酸銀100mM、PVP600mM及びDMF2000mMになるように、サンプル管に投入し、撹拌・混合した。
【0062】
(2)撹拌している反応液に、マイクロ波を、反応液の総体積に基づいて、200W/mLで、90℃に到達するまで約2秒間照射した。その後、反応液の温度である90℃を10分間保持し、銀ナノ粒子を合成した。
【0063】
実施例2
実施例1の(1)の工程において、保護剤としてPAA(重量平均分子量:5000g/mol)を使用した以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子を合成した。
【0064】
実施例3
実施例1の(1)の工程において、還元溶媒としてn-プロピルアルコールを使用した以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子を合成した。
【0065】
比較例1
実施例1の(1)の工程において、還元溶媒としてエタノールを使用した以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子を合成した。
【0066】
比較例2
実施例1の(1)の工程において、保護剤としてポリビニルアルコール(PVA、重量平均分子量:1700g/mol)を使用し、還元溶媒としてエタノールを使用した以外は、実施例1と同様にして銀ナノ粒子を合成した。
【0067】
実施例1~3及び比較例1~2の銀ナノ粒子について、UV-visスペクトル測定及び透過電子顕微鏡(TEM)を測定した。TEMにおいて、粒子の粒径を粒子の長径及び短径の平均値として、粒子300点以上の粒子の粒径を測長した結果から平均粒径を算出した。
【0068】
表3に結果を示す。
【0069】
【0070】
さらに、
図1に保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤の誘電損失/還元溶媒の誘電損失)と銀ナノ粒子の平均粒径の関係を示す。
【0071】
表3及び
図1より、保護剤と還元溶媒の誘電損失の比(保護剤/還元溶媒の誘電損失)が0.0004以上になることで、得られる銀ナノ粒子の平均粒径が小さくなることがわかった。
【0072】
2.還元溶媒の濃度検討
比較例3
(1)硝酸銀、保護剤としてのPVP(重量平均分子量:40000g/mol)及び還元溶媒としてのDMFを、反応液中の濃度がそれぞれ硝酸銀100mM、PVP600mM及びDMF300mMになるように、サンプル管に投入し、撹拌・混合した。
【0073】
(2)撹拌している反応液に、マイクロ波を、反応液の総体積に基づいて、200W/mLで、90℃に到達するまで約2秒間照射した。その後、反応液の温度である90℃を10分間保持し、銀ナノ粒子を合成した。
【0074】
実施例4
比較例3の(1)の工程において、反応液中の還元溶媒としてのDMFの濃度を500mMに変更した以外は、比較例3と同様にして銀ナノ粒子を合成した。
【0075】
実施例5
比較例3の(1)の工程において、反応液中の還元溶媒としてのDMFの濃度を2000mMに変更した以外は、比較例3と同様にして銀ナノ粒子を合成した。
【0076】
実施例6
比較例3の(1)の工程において、反応液中の還元溶媒としてのDMFの濃度を4000mMに変更した以外は、比較例3と同様にして銀ナノ粒子を合成した。
【0077】
比較例3及び実施例4~6について、UV-visスペクトル測定及び透過電子顕微鏡(TEM)を測定した。TEMにおいて、粒子の粒径を粒子の長径及び短径の平均値として、粒子300点以上の粒子の粒径を測長した結果から平均粒径及び粒度分布を算出した。
【0078】
表4に結果を示す。
【0079】
【0080】
さらに、
図2に、実施例5で調製した銀ナノ粒子のTEMに基づく粒度分布を示し、
図3に、実施例5で調製した銀ナノ粒子のTEM写真を示し、
図4に反応液中の還元溶媒としてのDMFの濃度と銀ナノ粒子の平均粒径の関係を示す。
【0081】
表4及び
図2~4より、反応液中の還元溶媒としてのDMFの濃度が500mM以上になることで、得られる銀ナノ粒子の平均粒径が小さくなり、粒度分布が狭くなることがわかった。
【0082】
3.マイクロ波照射源の出力検討
比較例4
(1)硝酸銀、保護剤としてのPVP(重量平均分子量:40000g/mol)及び還元溶媒としてのDMFを、反応液中の濃度がそれぞれ硝酸銀100mM、PVP600mM及びDMF4000mMになるように、サンプル管に投入し、撹拌・混合した。
【0083】
(2)撹拌している反応液に、マイクロ波を、反応液の総体積に基づいて、10W/mLで、90℃に到達するまで約2秒間照射した。その後、反応液の温度である90℃を10分間保持し、銀ナノ粒子を合成した。
【0084】
実施例7
比較例4の(2)の工程において、照射するマイクロ波の照射源の出力を、反応液の総体積に基づいて、50W/mLに変更しした以外は、比較例4と同様にして銀ナノ粒子を合成した。
【0085】
実施例8
比較例4の(2)の工程において、照射するマイクロ波の照射源の出力を、反応液の総体積に基づいて、100W/mLに変更した以外は、比較例4と同様にして銀ナノ粒子を合成した。
【0086】
比較例4及び実施例7~8について、UV-visスペクトル測定及び透過電子顕微鏡(TEM)を測定した。TEMにおいて、粒子の粒径を粒子の長径及び短径の平均値として、粒子300点以上の粒子の粒径を測長した結果から平均粒径を算出した。
【0087】
表5に結果を示す。
【0088】
【0089】
さらに、
図5にマイクロ波照射源の出力と銀ナノ粒子の平均粒径の関係を示す。
【0090】
表5及び
図5より、照射するマイクロ波照射源の出力が、反応液の総体積に基づいて、30W/mL以上、好ましくは50W/mL以上になることで、得られる銀ナノ粒子の平均粒径が小さくなることがわかった。