(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033918
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】測距装置、受信機
(51)【国際特許分類】
G01S 7/292 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
G01S7/292 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137840
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】314012087
【氏名又は名称】株式会社光電製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】林 大介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 凌雅
(72)【発明者】
【氏名】西原 幸伸
(72)【発明者】
【氏名】佐竹 伸二
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB06
(57)【要約】
【課題】周波数分割多重方式を用いた測距装置を提供する。
【解決手段】本発明の測距装置は、送信機とN個の受信機を備える。送信機は、中心周波数が異なるN種類の周波数変調されたパルス波を送信する。n番目の受信機は、IQ変換部、振幅抑圧部、帯域制限部、パルス圧縮部を備える。IQ変換部は、受信したn番目の種類のパルス波をベースバンドIQ信号に変換する。振幅抑圧部は、検波器、減衰量算出器、遅延器、抑圧器を有する。検波器は、受信信号の振幅を検出する。減衰量算出器は、受信信号の所定の振幅より大きい部分を、所定の振幅に減衰させるための減衰量を算出する。抑圧器は、受信信号を減衰量に基づいて減衰させ、抑圧信号を得る。帯域制限部は、ベースバンド以外の周波数成分を減衰させ、帯域制限抑圧信号を得る。パルス圧縮部は、帯域制限抑圧信号に対して周波数変調に対応したパルス圧縮を行い、圧縮受信信号を得る。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機とN個の受信機を備える測距装置であって、
Nは2以上の整数、nは1以上N以下の整数であり、
前記送信機は、中心周波数が異なるN種類の周波数変調されたパルス波を、あらかじめ定めたタイミングで送信し、
n番目の受信機は、
受信したn番目の種類のパルス波をベースバンドIQ信号に変換することで、ベースバンドの受信信号を出力するIQ変換部と、
検波器、減衰量算出器、遅延器、抑圧器を有し、前記受信信号を入力とし、抑圧信号を出力する振幅抑圧部と、
前記抑圧信号に含まれるベースバンド以外の周波数成分を減衰させ、帯域制限抑圧信号を出力する帯域制限部と、
前記帯域制限抑圧信号に対して前記周波数変調に対応したパルス圧縮を行い、圧縮受信信号を得るパルス圧縮部と
を備え、
前記検波器は、前記受信信号の振幅を検出し、
前記減衰量算出器は、前記受信信号の所定の振幅より大きい部分を、前記所定の振幅に減衰させるための減衰量を算出し、
前記遅延器は、前記検波器と前記減衰量算出器の処理が完了するまで前記受信信号を遅延させ、
前記抑圧器は、前記遅延器が遅延させた受信信号を、前記減衰量に基づいて減衰させ、前記抑圧信号を出力する
ことを特徴とする測距装置。
【請求項2】
請求項1記載の測距装置であって、
前記送信機がパルス波を送信する前記のあらかじめ定めたタイミングを制御するタイミング制御機も備え、
前記タイミング制御機は、種類の異なるパルス波を送信する間隔を変化させる
ことを特徴とする測距装置。
【請求項3】
請求項1記載の測距装置であって、
前記受信機は、第2帯域制限部も備え、
前記第2帯域制限部は、前記IQ変換部が出力した受信信号に含まれるベースバンド以外の周波数成分を減衰させ、前記振幅抑圧部に入力する受信信号とする
ことを特徴とする測距装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の測距装置であって、
パルス圧縮部は、パルス圧縮を行って得た信号の振幅を、その信号の振幅と前記減衰量に応じて大きくして圧縮受信信号を得る
ことを特徴とする測距装置。
【請求項5】
周波数変調されたパルス波を受信する受信機であって、
あらかじめ定めた中心周波数のパルス波をベースバンドIQ信号に変換することで、ベースバンドの受信信号を出力するIQ変換部と、
検波器、減衰量算出器、遅延器、抑圧器を有し、前記受信信号を入力とし、抑圧信号を出力する振幅抑圧部と、
前記抑圧信号に含まれるベースバンド以外の周波数成分を減衰させ、帯域制限抑圧信号を出力する帯域制限部と、
前記抑圧信号に対して前記周波数変調に対応したパルス圧縮を行い、圧縮受信信号を得るパルス圧縮部と
を備え、
前記検波器は、前記受信信号の振幅を検出し、
前記減衰量算出器は、前記受信信号の所定の振幅より大きい部分を、前記所定の振幅に減衰させるための減衰量を算出し、
前記遅延器は、前記検波器と前記減衰量算出器の処理が完了するまで前記受信信号を遅延させ、
前記抑圧器は、前記遅延器が遅延させた受信信号を、前記減衰量に基づいて減衰させ、前記抑圧信号を出力する
ことを特徴とする受信機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス波を用いた測距装置と受信機に関する。
【背景技術】
【0002】
ソナーやレーダーなど、パルス波を用いた測距装置では、周辺環境把握のために音波や電波等を送信し、周辺反射物で反射して再び受信されるまでの時間を計測することで、反射物までの距離を計測する。このとき測定結果の更新レートは計測距離範囲によって変化し、距離範囲が長くなるほど受信時間は長くなって、更新レートは遅くなる。更新レートの低下は周囲環境の変化に対する追従性の鈍化となる。また測距装置が移動を伴う場合、その移動速度に制限が生じる。この傾向は進行速度が遅い音波を用いた測距装置において特に顕著である。
【0003】
また、測距技術では、距離分解能の向上や最大探知距離の延伸のためにパルス圧縮処理が用いられる。パルス圧縮技術としては、特許文献1,2もしくは非特許文献1に示すような技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-85167号公報
【特許文献2】特開2011-247615号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】J. E. Cilliers, J. C. Smit: Pulse Compression Sidelobe Reduction by Minimization of Lp-Norms, IEEE Trans. AERO, Vol. 43, No. 3, pp. 1238-1247, July 2007.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
パルス信号を用いた測距装置の性質上、計測距離範囲に応じた受信時間を確保することは避けられない。そのため、これを許容した上で受信時間の最中に併行して測定を行う多重化方式が必要になる。
【0007】
多重化方式の有力な候補として、符号分割多重(CDMA)がある。CDMAは、M系列符号などの互いに直交した複数の符号を同一時間・同一周波数で送受信できる特徴があり、第2第3世代の携帯電話において採用された方式である。
図1にCDMAにおける更新レート向上のための多重化方式例を示す。
図1では4つの直交した符号系列A~Dを用意し、繰り返し周期(=受信時間)を4分割して測定を行っている。したがって、これにより、理論的には更新レートを通常の4倍にできる。
【0008】
しかし、この多重化方式を測距装置として用いた場合には、逆拡散を行った際に生じるサイドローブが探知性能に影響を与える。
図2は、サイドローブが探知性能に与える影響を示した図である。
図2(A)は符号系列Aを送信し、受信側で同じ符号系列Aにより逆拡散を行った結果である。同じ符号系列で逆拡散を行うことにより、ピーク信号が検出される。
図2(B)は、送信は同じ符号系列Aだが、受信側の逆拡散において符号系列Bで逆拡散を行った結果である。直交性によりピーク信号こそ検出されないが、サイドローブが出現する。このサイドローブは符号系列Bを用いた測定にとっては不要波であり、誤検出および必要物体消失の原因となる。
【0009】
CDMAには、相補符号を用いたサイドローブ低減技術もある。これは逆拡散を行った結果がピーク信号を除き互いに打ち消しあう2つの符号系列を同時に送受信し、それぞれに対して逆拡散を行った後に、2つの信号を足し合わせることで、ピーク信号以外の成分を低減する手法である。しかし、相補符号は2信号を同時に送信する必要があり、送信デバイス(例えばトランスデューサー)が1つの場合には、送信デバイス内で互いの信号が干渉してしまい、効果が得られない。送信デバイスを複数用意すれば、低減もしくは回避も可能だが、多重化分の送信デバイスが必要となって装置が大規模になってしまうという欠点がある。
【0010】
他の多重化方式としては周波数分割によるものがある。
図3に、周波数分割における更新レート向上のための多重化方式例を示す。これは
図1における符号を周波数に置き換えたもので、
図1と同様に理論的には更新レートを4倍にする効果を期待できる。
【0011】
周波数分割多重方式の場合、他の測定における送信信号との分離度は帯域制限フィルタの性能で決まる。分離度を向上するためには、隣接周波数間隔はできるだけ広く、かつ減衰量(=送信信号と受信機ノイズフロアの比)はできるだけ小さい方が望ましい。
【0012】
しかし、送信デバイスの物理的制約や、電波を用いる場合には電波法の制約から、使用周波数範囲には制限がある。このことは、隣接周波数間隔をあまり大きくできないことに繋がる。また、一般に送信信号と受信機ノイズフロアの比は、非常に大きな値となる。例えば送信デバイスからの送信信号の漏れ込みを、リミッタ等で+20dBmに制限したとしても、受信機の雑音レベルは-100dBm程度であることが珍しくない。つまり、この場合120dB以上の減衰量が必要となる。この値は実現不可能なものではないが、隣接周波数間隔(=除去すべき周波数)によっては回路規模が非常に大きくなってしまう。
【0013】
理論的には更新レートを向上できる周波数分割による多重化方式には、上述の問題がある。本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、周波数分割多重方式を用いた測距装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の測距装置は、送信機とN個の受信機を備える。Nは2以上の整数、nは1以上N以下の整数である。送信機は、中心周波数が異なるN種類の周波数変調されたパルス波を、あらかじめ定めたタイミングで送信する。n番目の受信機は、IQ変換部、振幅抑圧部、帯域制限部、パルス圧縮部を備える。IQ変換部は、受信したn番目の種類のパルス波をベースバンドIQ信号に変換することで、ベースバンドの受信信号を出力する。振幅抑圧部は、検波器、減衰量算出器、遅延器、抑圧器を有する。検波器は、受信信号の振幅を検出する。減衰量算出器は、受信信号の所定の振幅より大きい部分を、所定の振幅に減衰させるための減衰量を算出する。遅延器は、検波器と減衰量算出器の処理が完了するまで受信信号を遅延させる。抑圧器は、遅延器が遅延させた受信信号を、減衰量に基づいて減衰させ、抑圧信号を出力する。帯域制限部は、抑圧信号に含まれるベースバンド以外の周波数成分を減衰させ、帯域制限抑圧信号を出力する。パルス圧縮部は、帯域制限抑圧信号に対して周波数変調に対応したパルス圧縮を行い、圧縮受信信号を得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明の測距装置によれば、受信信号は周波数変調されているので、帯域制限抑圧信号も周波数変調されている。そして、帯域制限抑圧信号に対して周波数変調に対応したパルス圧縮を行うので、所望信号を検出できる。よって、周波数分割多重方式を用いた測距装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】CDMAにおける更新レート向上のための多重化方式例を示す図。
【
図2】サイドローブが探知性能に与える影響を示した図。
【
図3】周波数分割における更新レート向上のための多重化方式例を示す図。
【
図5】検波器120が検出した受信信号の振幅の例を示す図。
【
図6】減衰量算出器130での減衰量を求める処理を説明するための図。
【
図7】受信信号に対して減衰量に基づいて減衰させた抑圧信号の例を示す図。
【
図9】
図8の帯域制限抑圧信号から得た圧縮受信信号の例を示す図。
【
図10】帯域制限部がない場合の圧縮受信信号を示す図。
【
図11】帯域制限部の代わりに第2帯域制限部のみを配置した場合の圧縮受信信号を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例0018】
図4に本発明の測距装置の機能構成例を示す。測距装置10は、送信機300、N個の受信機200
1,…,200
N、送受デバイス400を備える。また、測距装置10は、タイミング制御機600、出力切替機500も備えればよい。Nは2以上の整数、nは1以上N以下の整数である。送受デバイス400は、例えばトランスデューサーやアンテナなどであり、送信機300が生成したパルス波を空間に送出し、物体で反射されたパルス波を受信し、電気信号に変換して受信機200
1,…,200
Nに送る。
【0019】
送信機300は、中心周波数が異なるN種類の周波数変調されたパルス波を、あらかじめ定めたタイミングで送信する。例えば、送信機300は信号発生部310を備える。信号発生部310は、中心周波数をF1,F2,…,FNのように順次切り替えながら周波数変調(FM:Frequency Modulation)のパルス波を出力する。周波数変調とは、パルス波を送信する間に周波数を変更する変調方式である。例えば、20kHzの幅(掃引周波数幅)で周波数を変更しながらパルス幅が1000μ秒(1m秒)になるようにパルスを生成するような変調方式である。
【0020】
パルス波を出力するタイミングは、あらかじめ定めておけばよい。あらかじめ定めたタイミングは、送信機300自体に設定しておいてもよいし、タイミング制御機600に設定しておき、送信機300はタイミング制御機600からの指示にしたがってパルス波を生成してもよい。なお、「あらかじめ定めたタイミング」とは、一定のタイミングに限定するものではない。あらかじめ定めた規則にしたがって、種類の異なるパルス波を送信する間隔を変化させることも含んでいる。
図3は、F
1~F
4の4つの周波数を設定した例であり、「送信区間」と記された時間に送信信号が出力される。例えば、隣接する中心周波数同士の周波数の差を30kHzとし、周波数変調での掃引周波数幅を20kHzとすれば、隣接する種類の異なる周波数変調のパルス波同士では少なくとも10kHzの周波数の差が存在する。
【0021】
n番目の受信機200nは、IQ変換部210、振幅抑圧部100、帯域制限部260、パルス圧縮部270を備える。受信機200nは、第2帯域制限部265も備えてもよい。パルス波は、トランスデューサーなどのセンサーで検出され、電気信号に変換された信号を想定する。IQ変換部210は、受信したn番目の種類のパルス波をベースバンドIQ信号に変換することで、ベースバンドの受信信号を出力する。n番目の種類のパルス波をベースバンドIQ信号に変換するために、受信機200nのIQ変換部210は、中心周波数Fnを用いる。受信機2001,…,200Nの構成は同じである。それぞれのIQ変換部210が使用する中心周波数が異なるので、受信機200nごとに、1つの種類のパルス波に対応したベースバンドの受信信号を出力できる。
【0022】
振幅抑圧部100は、検波器120、減衰量算出器130、遅延器140、抑圧器150を有し、受信信号を入力とし、抑圧信号を出力する。検波器120は、受信信号の振幅を検出する。より具体的には、検波器120は、ベースバンドIQ信号である受信信号を検波し、受信信号のレベルに応じた検波信号を出力することで、受信信号の振幅を検出すればよい。
図5は、検波器120が検出した受信信号の振幅の例を示している。
図5の横軸は時間(μ秒)であり、縦軸は受信信号の大きさ(dB)を示している。
図5では、3100~4000μ秒に20dBの隣接周波数信号が存在し、4000~4400μ秒の位置に-80dBの所望信号が存在している。
図3を用いて説明したように反射したパルス波を検出中に他の種類のパルス波の送出が行われる。
図5の例は、他の種類のパルス波の漏洩信号に基づく受信信号(隣接周波数信号)と検出している反射したパルス波に基づく受信信号(所望信号)とが重なってしまった場合を示している。
図5の例では、-90dBを「所定の振幅」としている。「所定の振幅」には、パルス圧縮後のサイドローブがノイズレベルを超えないような小さな振幅をあらかじめ定めればよい。なお、
図5~
図11は、シミュレーション結果を示す図である。これらのシミュレーションでは、所望信号と隣接周波数信号はともに20kHzの掃引周波数幅をもつLFMパルスであり、中心周波数の差は30kHzとする。
【0023】
減衰量算出器130は、受信信号の所定の振幅より大きい部分を、所定の振幅に減衰させるための減衰量を算出する。つまり、
図5の場合であれば、減衰量算出器130は、3100~4400μ秒の振幅を、所定の振幅に減衰させる減衰量を求める。
図6は、減衰量算出器130での減衰量を求める処理を説明するための図である。
図6の横軸は時間(μ秒)であり、縦軸は減衰量(dB)を示している。減衰量算出器130は、
図6に示すように、所定の振幅に相当する振幅に対する減衰量が0dBとなるように、検波信号を反転させればよい。その上で、減衰量算出器130は、0dBよりも大きい信号部分である減衰量ゼロ領域の減衰量を0dBとすればよい。
【0024】
遅延器140は、検波器120と減衰量算出器130の処理が完了するまで受信信号を遅延させる。抑圧器150は、遅延器140が遅延させた受信信号を、減衰量算出器130が算出した減衰量に基づいて減衰させ、抑圧信号を出力する。
図7は、受信信号に対して減衰量に基づいて減衰させた抑圧信号の例を示している。
図7の横軸は時間(μ秒)であり、縦軸は抑圧信号の大きさ(dB)を示している。抑圧器150は、3100~4400μ秒の振幅を、所定の振幅に減衰させていることが分かる。
【0025】
帯域制限部260は、抑圧信号に含まれるベースバンド以外の周波数成分を減衰させ、帯域制限抑圧信号を出力する。帯域制限部260は、帯域制限フィルタにより、抑圧された受信信号のうち隣接周波数信号に対してのみ減衰を加える。n番目の受信機200
nでは、IQ変換部210は中心周波数F
nを用いるので、隣接周波数信号はベースバンド以外の周波数成分となる。したがって、ベースバンドとしてあり得ない周波数帯を減衰させればよい。
図8は帯域制限抑圧信号の例を示す図である。
図8の横軸は時間(μ秒)であり、縦軸は帯域制限抑圧信号の大きさ(dB)を示している。
図8では、隣接周波数信号が所定の振幅をさらに下回っている様子が分かる。なお、ここでは隣接周波数信号に対する減衰量を80dBとした。
【0026】
パルス圧縮部270は、帯域制限抑圧信号に対して周波数変調に対応したパルス圧縮を行い、圧縮受信信号を得る。
図9は、
図8の帯域制限抑圧信号から得た圧縮受信信号の例を示している。
図9の横軸は時間(μ秒)であり、縦軸は圧縮受信信号の大きさ(dB)を示している。
図9の例では、所望信号が検出できていることが分かる。「周波数変調に対応したパルス圧縮」としては、例えば非特許文献1に示された技術などがある。パルス圧縮部270には、非特許文献1などの既存の周波数変調に対応したパルス圧縮技術を用いればよい。また、パルス圧縮部270は、パルス圧縮によって得た信号の振幅を、その信号の振幅と減衰量に応じて大きくし、圧縮受信信号としてもよい。例えば、あらかじめ閾値を設定しておき、パルス圧縮によって得た信号の閾値を超える部分の振幅を、減衰量に応じて大きくすればよい。
図9であれば、圧縮後の所望信号が設定された閾値を超えている場合に、超えている範囲だけを減衰量に応じて振幅を大きくすればよい。振幅を大きくする機能を持てば、その後の測距の処理を行いやすくできる。なお、振幅を大きくする程度は、その後の測距の処理を行いやすくできる程度で十分である。
【0027】
測距装置10によれば、受信信号は周波数変調されているので、帯域制限抑圧信号も周波数変調されている。そして、帯域制限抑圧信号に対して周波数変調に対応したパルス圧縮を行うので、所望信号を検出できる。よって、周波数分割多重方式を用いた測距装置を提供できるので、更新レートを向上できる。
【0028】
なお、
図10は帯域制限部がない場合の圧縮受信信号を、
図11は帯域制限部の代わりに第2帯域制限部のみを配置した場合の圧縮受信信号を示す図である。どちらの図も、横軸は時間(μ秒)であり、縦軸は圧縮受信信号の大きさ(dB)を示している。仮に帯域制限部260がない場合(
図10)には、隣接周波数信号の残存成分がノイズフロアよりも大きくなって検出されてしまう。また、仮に帯域制限部260の代わりに第2帯域制限部265を振幅抑圧部100の前に挿入した場合(
図11)には、やはり隣接周波数信号の残存成分が検出される。所望の結果を得るためには、少なくとも帯域制限部260は配置することが望ましい。
【0029】
ただし、隣接周波数信号と所望信号とが完全に重なってしまう場合には、抑圧信号を生成する際に所望信号全体を減衰させてしまうので、第2帯域制限部265も備えてもよい。第2帯域制限部265は、IQ変換部210が出力した受信信号に含まれるベースバンド以外の周波数成分を減衰させ、振幅抑圧部100に入力する受信信号とする。
【0030】
もしくは、タイミング制御機600が、種類の異なるパルス波を送信する間隔を変化させてもよい。パルス波を送信する間隔を変化させれば、常に隣接周波数信号と所望信号とが完全に重なってしまうという現象を回避できるからである。このように各周波数(F1~Fn)での測定タイミングを毎回わずかに変化させることで、恒常的な検出性能劣化を回避できる。
【0031】
出力切替機500も備える場合は、出力切替機500は、送信機300がパルス波を出力するタイミングを考慮して、受信機2001,…,200Nからの出力を切り替えてもよい。なお、タイミング制御機600も備えている場合は、出力切替機500はタイミング制御機600からパルス波を出力するタイミングに関する情報を取得すればよい。