(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033937
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】電磁式燃料噴射弁及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F02M 61/16 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
F02M61/16 K
F02M61/16 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137864
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 和樹
(72)【発明者】
【氏名】濁澤 和樹
【テーマコード(参考)】
3G066
【Fターム(参考)】
3G066BA05
3G066BA35
3G066CC20
3G066CD10
(57)【要約】
【課題】電磁式燃料噴射弁において,弁座部材及び弁ハウジング間の圧入部に高度の液密性を付与して,燃料の噴射圧力の高圧化に対応し得るようにする。
【解決手段】弁ハウジングボディ10の内周に,圧入孔10bと,この圧入孔10bに圧入される弁座部材11の後端面を突き当てる段部10cとが設けられ,弁ハウジングボディ10の外周面から弁座部材11及び段部10cの突き当て部の半径方向内端に達する第1の環状溶接ビードB1と,弁ハウジングボディ10の外周面から圧入孔10b及び弁座部材11の圧入面を超えて延びる第2の環状溶接ビードB2とを形成する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁座(27),及び該弁座(27)の下流側に配設される燃料噴孔(28)を有する弁座部材(11)と,該弁座部材(11)を圧入される圧入孔(10b)を前端部に有する弁ハウジングボディ(10)と,前記弁座(27)と協働する弁部(42)を前端に有して前記弁ハウジングボディ(10)に収容される弁体(40)と,前記弁ハウジングボディ(10)の後方部に連設され,燃料ポンプより吐出される高圧燃料を前記弁ハウジングボディ(10)内に導入する燃料入口筒(16)と,前記弁ハウジングボディ(10)に連設され,通電時,前記弁体(40)に開き動作を与える電磁作動装置(14,41,32,54,55)とを備える電磁式燃料噴射弁において,
前記弁ハウジングボディ(10)に,前記圧入孔(10b)に圧入される前記弁座部材(11)の後端面を突き当てる段部(10c)が設けられ,前記弁ハウジングボディ(10)の外周面から前記弁座部材(11)及び段部(10c)の突き当て部の半径方向内端に達する第1の環状溶接ビード(B1)と,前記弁ハウジングボディ(10)の外周面から前記圧入孔(10b)及び弁座部材(11)の圧入面を超えて延びる第2の環状溶接ビード(B2)とを備えることを特徴とする,電磁式燃料噴射弁。
【請求項2】
弁座(27),及び該弁座(27)の下流側に配設される燃料噴孔(28)を有する弁座部材(11)と,該弁座部材(11)を装着される圧入孔(10b)を前端部に有する弁ハウジングボディ(10)と,前記弁座(27)と協働する弁部(42)を前端に有して前記弁ハウジングボディ(10)に収容される弁体(40)と,前記弁ハウジングボディ(10)の後方部に連設され,燃料ポンプより吐出される高圧燃料を前記弁ハウジングボディ(10)内に導入する燃料入口筒(16)と,前記弁ハウジングボディ(10)に連設され,通電時,前記弁体(40)に開き動作を与える電磁作動装置(14,41,32,54,55)とを備える電磁式燃料噴射弁を製造するにあたり,
前記弁ハウジングボディ(10)の内周に,その弁ハウジングボディ(10)の前端面に開口すると共に前方向きの段部(10c)を後端に有する圧入孔(10b)を形成する第1工程と,前記圧入孔(10b)に,前記弁座部材(11)を圧入して,該弁座部材(11)の後端面を前記段部(10c)に突き当てる第2工程と,前記弁ハウジングボディ(10)の外周面から前記弁座部材(11)及び前記段部(10c)の突き当て面の半径方向内端に達する第1の環状溶接ビード(B1)を形成する第3工程と,前記弁ハウジングボディ(10)の外周面から前記圧入孔(10b)及び弁座部材(11)の圧入面を超えて延びる第2の環状溶接ビード(B2)を形成する第4工程を順次実行することを特徴とする,電磁式燃料噴射弁の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,主として内燃機関の燃料供給系に使用される電磁式燃料噴射弁に関し,特に弁座,及び該弁座の下流側に配設される燃料噴孔を有する弁座部材と,該弁座部材を圧入される圧入孔を前端に開口する弁ハウジングボディと,前記弁座と協働する弁部を前端に有して前記弁ハウジングボディに収容される弁体と,前記弁ハウジングボディの後方部に連設され,燃料ポンプより吐出される高圧燃料を前記弁ハウジングボディ内に導入する燃料入口筒と,前記弁ハウジングボディに連設され,通電時,前記弁体に開き動作を与える電磁作動装置とを備え,前記弁座部材及び前記弁ハウジングボディ間の圧入部を液密に溶接される電磁式燃料噴射弁及びその製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる電磁式燃料噴射弁は,下記特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年,この種のエンジン用電磁式燃料噴射弁では,噴射燃料の極微粒化のため,燃料の噴射圧力の高圧化が求められ,これに伴い,特に高圧燃料に曝される,弁座部材及び前記弁ハウジングボディ間の圧入部の液密性の強化が求められている。
【0005】
特許文献1記載の電磁式燃料噴射弁では,
図3に示すように,弁ハウジングボディ10の圧入孔10bと弁座部材11との圧入部の液密を図るべく,弁ハウジングボディ10の外周面側から溶接して,環状の溶接ビードBを,弁ハウジングボディ10の外周面から圧入部を超えて延びるように形成している。
【0006】
しかしながら,上記のものでは,弁ハウジングボディ10の圧入孔10bに対する弁座部材11の圧入限界を,弁座部材11の前端部外周に形成した後向きの段部11aを弁ハウジングボディ10の前端面に突き当てて規制しているため,弁座部材11の後端面が弁ハウジングボディ10内に露出し,その後端面に弁ハウジングボディ10内を満たす高圧燃料の圧力が作用し,これにより上記溶接ビードBに大なる剪断荷重が加わることになり,その剪断強度,延いては液密性に不安がある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので,弁ハウジングボディ10の圧入孔10bと弁座部材11との圧入部に高度の液密性を付与して,燃料の噴射圧力の高圧化に対応し得る前記電磁式燃料噴射弁及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために,本発明は,弁座,及び該弁座の下流側に配設される燃料噴孔を有する弁座部材と,該弁座部材を圧入される圧入孔を前端部に有する弁ハウジングボディと,前記弁座と協働する弁部を前端に有して前記弁ハウジングボディに収容される弁体と,前記弁ハウジングボディの後方部に連設され,燃料ポンプより吐出される高圧燃料を前記弁ハウジングボディ内に導入する燃料入口筒と,前記弁ハウジングボディに連設され,通電時,前記弁体に開き動作を与える電磁作動装置とを備える電磁式燃料噴射弁において,前記弁ハウジングボディに,前記圧入孔に圧入される前記弁座部材の後端面を突き当てる段部が設けられ,前記弁ハウジングボディの外周面から前記弁座部材及び段部の突き当て部の半径方向内端に達する第1の環状溶接ビードと,前記弁ハウジングボディの外周面から前記圧入孔及び弁座部材の圧入面を超えて延びる第2の環状溶接ビードとを備えることを第1の特徴とする。
【0009】
尚,前記電磁作動装置は,後述する本発明の実施形態中の固定コア14,可動コア41,コイル32,弁ばね54及び補助ばね55に対応する。
【0010】
また,本発明は,弁座,及び該弁座の下流側に配設される燃料噴孔を有する弁座部材と,該弁座部材を装着される圧入孔を前端部に有する弁ハウジングボディと,前記弁座と協働する弁部を前端に有して前記弁ハウジングボディに収容される弁体と,前記弁ハウジングボディの後方部に連設され,燃料ポンプより吐出される高圧燃料を前記弁ハウジングボディ内に導入する燃料入口筒と,前記弁ハウジングボディに連設され,通電時,前記弁体に開き動作を与える電磁作動装置とを備える電磁式燃料噴射弁を製造するにあたり,前記弁ハウジングボディの内周に,その弁ハウジングボディの前端面に開口すると共に前方向きの段部を後端に有する圧入孔を形成する第1工程と,前記圧入孔に,前記弁座部材を圧入して,該弁座部材の後端面を前記段部に突き当てる第2工程と,前記弁ハウジングボディの外周面から前記弁座部材及び前記段部の突き当て面の半径方向内端に達する第1の環状溶接ビードを形成する第3工程と,前記弁ハウジングボディの外周面から前記圧入孔及び弁座部材の圧入面を超えて延びる第2の環状溶接ビードを形成する第4工程を順次実行することを第2の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば,第1の環状溶接ビードは,弁ハウジングボディ内を満たす高圧燃料の圧力が弁座部材の後端面に作用することを防ぐ封緘機能を発揮して,第2の環状溶接ビードに前記圧力による剪断荷重が加えられることを防ぎ,その耐久性を高めることができる。しかも,第1及び第2溶接ビードは,協働して,弁座部材及び圧入孔間への高圧燃料の侵入を防ぐことができ,燃料の噴射圧力の高圧化に対応し得る。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,弁ハウジングボディの外周面から前記弁座部材及び前記段部の突き当て面の半径方向内端に達する第1の環状溶接ビードを,弁ハウジングボディの外周面から前記圧入孔及び弁座部材の圧入面を超えて延びる第2の環状溶接ビードに先行して形成することにより,第2の環状溶接ビードの形成時,その熱歪みが,既に第1環状溶接ビードによって結合された弁座部材及び環状段部の突き当て面に影響することを回避して,第1の環状溶接ビードの良好な封緘機能を確保することができる。したがって,弁ハウジングボディ内を満たす高圧燃料の圧力が弁座部材の内端面に作用することを確実に防いで,第2の環状溶接ビードに前記圧力による剪断荷重を回避することができ,その耐久性を高めることができる。しかも,第1及び第2溶接ビードが協働して,弁座部材及び圧入孔間への高圧燃料の侵入を防ぐことができ,燃料噴射圧力の高圧化に対応し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る内燃機関用電磁式燃料噴射弁の実施形態を示す縦断面図。
【
図3】従来の電磁式燃料噴射弁の弁座部材周辺部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について添付の
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0015】
先ず
図1において,内燃機関Eのシリンダヘッド5には,燃焼室6に開口する装着孔7が設けられており,燃焼室6に向かって燃料を噴射し得る本発明の電磁式燃料噴射弁Iが前記装着孔7に装着される。本発明の電磁式燃料噴射弁Iでは,燃料噴射側を前方,その反対側を後方とする。
【0016】
この電磁式燃料噴射弁Iの弁ハウジング9は,中空円筒状の弁ハウジングボディ10と,この弁ハウジングボディ10の前端部内周に嵌合して結合される弁座部材11と,弁ハウジングボディ10の後端部外周に前端部を嵌合させて弁ハウジングボディ10に溶接される磁性円筒体12と,この磁性円筒体12の後端部に前端部が同軸に結合される非磁性円筒体13とで構成される。前記弁ハウジングボディ10及び弁座部材11の結合構造の詳細については後述する。
【0017】
非磁性円筒体13の後端部には,中空部15を有する円筒状の固定コア14の前端部が同軸に結合され,この固定コア14の後端部に,前記中空部15に通じる燃料入口筒16が一体に且つ同軸に連設される。
【0018】
磁性円筒体12は,その軸方向中間部にフランジ状のヨーク部12aを一体に有しており,装着孔7の外端を囲繞するようにしてシリンダヘッド5に設けられる環状凹溝17に収容されるクッション材18が,シリンダヘッド5及びヨーク部12a間に介装される。
【0019】
燃料入口筒16の入口には,オリフィス部材24と,その下流側に位置する燃料フィルタ19とが装着される。この燃料入口筒16には,図示しない燃料ポンプの吐出口に連なる燃料分配管20から分岐した燃料供給キャップ21が環状のシール部材22を介して嵌合される。燃料供給キャップ21の頂部にはブラケット23が係止され,このブラケット23は,シリンダヘッド5に立設される不図示の支柱に適当な固定手段(例えばボルト)を以てシリンダヘッド5に着脱可能に締結される。
【0020】
燃料供給キャップ21と,燃料入口筒16の中間部に設けられて燃料供給キャップ21側に臨む環状段部25との間には,板ばねからなる弾性部材26が介装される。この弾性部材26が発揮する弾発力で電磁式燃料噴射弁Iがシリンダヘッド5に保持される。
【0021】
弁座部材11は,端壁部11aを前端部に有して有底円筒状に形成されており,前記端壁部11aには,円錐状の弁座27が形成されると共に,その弁座27の中心近傍に開口する複数の燃料噴孔28が設けられる。この弁座部材11は,燃料噴孔28を燃焼室6に向けて開口するようにして弁ハウジングボディ10の前端部に嵌合,溶接される。即ち弁ハウジング9が,その前端部に弁座27を有するように構成される。
【0022】
磁性円筒体12の後端部から固定コア14に至る外周面にはコイル組立体30が嵌装される。このコイル組立体30は,上記外周面に嵌合するボビン31と,このボビン31に巻装されるコイル32とからなり,このコイル組立体30を囲繞する磁性体のコイルハウジング33の前端部が磁性円筒体12と結合される。
【0023】
固定コア14の後端部外周は,コイルハウジング33の後端部に連なってモールド成形される合成樹脂製の被覆層34で被覆されており,この被覆層34には,コイル32に連なる端子35を保持するカプラ34aが電磁式燃料噴射弁Iの一側方に突出するようにして一体に形成される。
【0024】
固定コア14の前端小径部に,固定コア14に外周面を連ならせるようにして非磁性円筒体13の後端部が嵌合され,液密に溶接される。
【0025】
弁座部材11から非磁性円筒体13に至る弁ハウジング9内には,弁体40の一部と可動コア41とが収容される。弁体40は,弁座27と協働して燃料噴孔28を開閉する弁部42に,固定コア14内まで延びるロッド43が連設されてなる。そして,
図2に明示するように,弁部42は,弁座部材11内で摺動するように,球状に形成され,ロッド43は弁部42よりも小径に形成される。弁座部材11及びロッド43間には環状の燃料通路44が画成され,弁部42の外周面には,弁座部材11との間に燃料通路を画成する複数の平面部45が形成される。したがって弁座部材11は,弁体40の開閉動作を案内しながら燃料の通過を許容する。
【0026】
再び
図1において,前記可動コア41は,その後端面(被吸引面41a)を固定コア14の前端面(吸引面14a)に対向させながら,弁ハウジング9の内周面とロッド43の外周面とに摺動及び回転可能に嵌装される。したがって,可動コア41の外周面及び弁ハウジング9の内周面間には環状間隙56aが,また可動コア41の内周面及びロッド43の外周面間には環状の間隙56bがそれぞれ設けられる。また,可動コア41は,磁性円筒体12及び非磁性円筒体13に跨がって配置される。
【0027】
この可動コア41のロッド43上での摺動ストロークを一定に規制するために,可動コア41を挟むように並ぶ開弁側ストッパ48及び閉弁側ストッパ49がロッド43に溶接により固着される。その際,開弁側ストッパ48は,可動コア41の,固定コア14に対向する被吸引面41aに当接可能に対向し,閉弁側ストッパ49は,可動コア41の,被吸引面41aと反対側の前端面に当接可能に対向するように配置される。
【0028】
而して,弁体40の閉弁状態では,可動コア41は,閉弁側ストッパ49に当接していて,開弁側ストッパ48との間に前記摺動ストロークに対応する間隔を置いて対向し,この間隔,即ち摺動ストロークは,閉弁側ストッパ49に当接状態の可動コア41と固定コア14との間に設けられる間隔よりも小さく設定される。したがって,コイル32の通電に伴い固定コア14が可動コア41を吸引したときは,可動コア41は,先ず開弁側ストッパ48に当接し,次いで固定コア14に吸着されるタイミングとなる。
【0029】
開弁側ストッパ48は,固定コア14の内周面に摺動自在に嵌合するフランジ部48aと,このフランジ部48aから可動コア41側に突出する円筒状の軸部48bとで構成される。そして,フランジ部48aが溶接によりロッド43に固着され,弁体40の閉弁位置では軸部48bの一部が吸引面14aよりも可動コア41側に突出するように配置される。
【0030】
固定コア14の中空部15にはパイプ状のリテーナ53が嵌挿されてかしめ固定される。このリテーナ53と,開弁側ストッパ48のフランジ部48aとの間には弁体40を弁座27への着座方向,即ち閉弁方向へ付勢する弁ばね54が縮設される。
【0031】
また開弁側ストッパ48のフランジ部48aと可動コア41との間には,開弁側ストッパ48の軸部48bを囲繞する補助ばね55が縮設される。この補助ばね55は,弁ばね54のセット荷重よりも小さいセット荷重を付与されており,可動コア41を開弁側ストッパ48から離反させて閉弁側ストッパ49に当接させる側に付勢する。
【0032】
ロッド43の後端部は,開弁側ストッパ48のフランジ部48aよりも突出し,弁ばね54の可動端部の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たしている。また開弁側ストッパ48の軸部48bは,補助ばね55の内周面に嵌合して,その位置決めの役割を果たしている。
【0033】
開弁側ストッパ48のフランジ部48aの外周の複数箇所には,固定コア14の内周面との間に燃料通路を画成する平面部57が設けられ,また可動コア41には,環状配列の複数の燃料通孔58が設けられる。
【0034】
而して,コイル32の非通電状態では,弁体40は,弁ばね54のセット荷重によって押圧されることで,弁座27に着座して燃料噴孔28を閉鎖する閉弁状態となる。この閉弁状態では,図示しない燃料ポンプから燃料分配管20に吐出される高圧燃料が燃料供給キャップ21を通して燃料入口筒16に供給され,燃料噴射弁Iの内部,即ち燃料入口筒16,パイプ状のリテーナ53,固定コア14,可動コア41,弁ハウジング9等の内部を満たして待機する。
【0035】
その際,燃料ポンプの吐出圧変動等に起因して燃料分配管20内に発生する燃料圧力の脈動は,燃料入口筒16の入口に配設されるオリフィス部材24のオリフィスにより減衰され,燃料噴射弁I内部への影響を解消,もしくは軽減している。
【0036】
このような閉弁状態でコイル32に通電すると,固定コア14及び可動コア41間に生じる磁力により,可動コア41は,固定コア14に吸引されるので,先ず,補助ばね55を圧縮しながら,ロッド43上を上方へ摺動して開弁側ストッパ48に当接する。即ち可動コア41は,その初動時,弁ばね54よりセット荷重が小さい補助ばね55を素早く圧縮しながら固定コア14に近接して,固定コア14からの吸引力の急増を得て,開弁側ストッパ48を勢いよく突き上げる。
【0037】
したがって,可動コア41は,開弁側ストッパ48を伴いながら,弁ばね54の大なるセット荷重に抗して速やかに更に後方へ移動して可動コア41の吸引面14aに吸着される。
【0038】
こうして可動コア41と共に後方へ移動する開弁側ストッパ48は,弁体40のロッド43に固定されているので,弁部42を弁座27から離座させ,開弁状態とすることができる。弁体40が開弁すると,弁ハウジング9等の内部で待機する高圧燃料が燃料噴孔28から内燃機関Eの燃焼室6に直接噴射される。このようにして,弁体40の開弁応答性が高められると共に,コイル32の消費電力の軽減を図ることができる。
【0039】
次に,コイル32への通電を遮断すると,弁ばね54の大なるセット荷重により開弁側ストッパ48が押動されるので,開弁側ストッパ48は可動コア41及び弁体40を伴なって弁座27側に直ちに移動し,弁部42を弁座27に着座させ,閉弁状態となって燃料噴孔28からの燃料噴射を停止する。
【0040】
さて,
図2を参照して,前記弁ハウジングボディ10及び弁座部材11の結合構造については詳しく説明する。
【0041】
中空円筒状の弁ハウジングボディ10には,その中空部10aよりも大径で,その前端面に開口する圧入孔10bが設けられ,この圧入孔10b及び中空部10a間には,前向きの環状段部10cが形成される。圧入孔10bには,その前方より円筒状の弁座部材11が圧入され,その後端面が前記環状段部10cに突き当てられる。尚,弁座部材11の内径D1は,弁ハウジングボディ10の中空部10aの内径D2よりも大径,もしくはそれと同等に設定される。
【0042】
弁座部材11の圧入孔10bへの圧入後,弁ハウジングボディ10の外周側からのビーム溶接によって第1及び第2の環状溶接ビードB1,B2が形成される。その第1の環状溶接ビードB1は,弁ハウジングボディ10の外周面から弁座部材11及び環状段部10cの突き当て面の半径方向内端に達するように形成され,また第2の環状溶接ビードB2は,弁ハウジングボディ10の外周面から圧入孔10b及び弁座部材11の圧入面を超えて延びるように形成される。
【0043】
而して,第1の環状溶接ビードB1は,弁ハウジングボディ10内を満たす高圧燃料の圧力が弁座部材11の内端面に作用することを防ぐ封緘機能を発揮して,第2の環状溶接ビードB2に前記圧力による剪断荷重が加えられることを防ぎ,その耐久性を高めることができる。しかも,第1及び第2溶接ビードB1,B2は,協働して,弁座部材11及び圧入孔10b間への高圧燃料の侵入を防ぐことができ,燃料の噴射圧力の高圧化に対応し得る。
【0044】
また,弁座部材11の内径D1が,弁ハウジングボディ10の中空部10aの内径D2よりも大径,もしくはそれと同等に設定されることによって,弁座部材11の後端面に弁ハウジングボディ10内の高圧燃料の圧力が作用することを確実に防ぐことができる。
【0045】
また,第1及び第2の環状溶接ビードB1,B2の形成の際,第1の環状溶接ビードB1を形成した後,第2の環状溶接ビードB2を形成する。この形成順序によれば,第2の環状溶接ビードB2の形成時の熱歪みが,既に第1の環状溶接ビードB1によって結合された弁座部材11及び環状段部10cの突き当て面に影響することを回避して,第1の環状溶接ビードB1の封緘機能を確実なものとすることができる。
【0046】
以上,本発明の実施の形態について説明したが,本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0047】
I・・・・電磁式燃料噴射弁
B1・・・第1の環状溶接ビード
B2・・・第2の環状溶接ビード
10・・・弁ハウジングボディ
10b・・圧入孔
10c・・段部
11・・・弁座部材
14・・・固定コア
16・・・燃料入口筒
27・・・弁座
28・・・燃料噴孔
32・・・コイル
40・・・弁体
41・・・可動コア
42・・・弁部
54・・・弁ばね
55・・・補助ばね