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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033945
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】評価装置及び、評価方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/00 20060101AFI20240306BHJP
   E21D 11/18 20060101ALI20240306BHJP
   G01L 5/00 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
E21D11/00 Z
E21D11/18
G01L5/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137876
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100171619
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 顕雄
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】中岡 健一
【テーマコード(参考)】
2D155
2F051
【Fターム(参考)】
2D155BA05
2D155BB02
2D155FB01
2D155LA13
2F051AA06
2F051AB09
(57)【要約】
【課題】トンネルの周辺地山の安定性を効果的に評価する。
【解決手段】地山Gを掘削して形成される坑の坑壁に支保工120を建て込むことにより構築されるトンネルTの周辺地山Gの評価装置10であって、坑壁に建て込まれた支保工120が地山Gから作用する荷重により鉛直方向に圧縮応力σsを受ける部分120Bに取り付けられ、支保工120に作用する圧縮応力σsを計測する第1計測部30と、坑壁に建て込まれた支保工120が地山Gから作用する荷重により鉛直方向に圧縮変位する部分120Bに取り付けられ、支保工120の圧縮変位に伴う変位量ΔLを計測する第2計測部40と、第1計測部30により計測される圧縮応力σs及び、第2計測部40により計測される変位量ΔLに基づき、周辺地山Gの安定性に係る所定の指標を算出する指標算出部60,90~93と、を備えた。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地山を掘削して形成される坑の坑壁に支保工を建て込むことにより構築されるトンネルの周辺地山の評価装置であって、
前記坑壁に建て込まれた前記支保工が前記地山から作用する荷重により鉛直方向に圧縮応力を受ける部分に取り付けられ、前記支保工に作用する前記圧縮応力を計測する第1計測部と、
前記坑壁に建て込まれた前記支保工が前記地山から作用する荷重により鉛直方向に圧縮変位する部分に取り付けられ、前記支保工の前記圧縮変位に伴う変位量を計測する第2計測部と、
前記第1計測部により計測される前記圧縮応力及び、前記第2計測部により計測される前記変位量に基づき、前記周辺地山の安定性に係る所定の指標を算出する指標算出部と、を備える
ことを特徴とする評価装置。
【請求項2】
請求項1に記載の評価装置であって、
前記指標算出部は、
前記第1計測部により計測される前記圧縮応力に前記支保工の断面積を乗じることにより、前記地山から前記支保工に作用する圧縮荷重を算出するとともに、前記第2計測部により計測される前記変位量に基づいて、前記地山から前記支保工に作用する圧縮ひずみを算出し、
前記圧縮荷重及び、前記圧縮ひずみに基づいて、前記圧縮荷重のピーク値を推定又は取得するとともに、前記ピーク値を、前記支保工及び、該支保工の周囲の所定範囲に含まれる吹付けコンクリート及び地山の断面積で除することにより、一軸圧縮強さを前記指標の一つとして算出する
評価装置。
【請求項3】
請求項2に記載の評価装置であって、
前記指標算出部は、
前記支保工の土被り高さに前記地山の単位体積重量を乗じることにより土圧を求めるとともに、前記一軸圧縮強さを前記土圧で除することにより、地山強度比を前記指標の一つとして算出する
評価装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の評価装置であって、
前記第1計測部及び、前記第2計測部は、計測値を無線通信により送信可能な無線通信装置を備えており、
前記指標算出部は、前記無線通信装置から無線通信を通じて送信される前記計測値を受信可能な端末装置に設けられている
評価装置。
【請求項5】
請求項4に記載の評価装置であって、
前記第1計測部は、前記支保工に貼り付けられるひずみゲージと、
前記無線通信装置を有するとともに、前記ひずみゲージがケーブルを介して着脱可能に接続されるひずみ計本体部と、を備えており、
前記ひずみゲージは、前記支保工に吹付けられる吹付けコンクリートに埋設され、
前記ひずみ計本体部は、前記支保工の坑内側に臨む内側フランジに着脱可能に設置される
評価装置。
【請求項6】
請求項4に記載の評価装置であって、
前記第2計測部は、前記支保工に鉛直方向に取り付けられる有底筒状の管と、
前記管内に挿入されて先端を前記管の底部に係止されるワイヤを有するワイヤ式変位計及び、前記無線通信装置を有する変位計本体部と、を備えており、
前記管は、前記支保工に吹付けられる吹付けコンクリートに埋設され、
前記変位計本体部は、前記支保工の坑内側に臨む内側フランジに着脱可能に設置される
評価装置。
【請求項7】
地山を掘削して形成される坑の坑壁に支保工を建て込むことにより構築されるトンネルの周辺地山の評価方法であって、
前記地山から前記支保工に作用する荷重が、前記坑壁に建て込まれた前記支保工を鉛直方向に圧縮する圧縮応力を計測し、
前記地山から前記支保工に作用する荷重が、前記坑壁に建て込まれた前記支保工を鉛直方向に圧縮変位させる変位量を計測し、
計測した前記圧縮応力及び、前記変位量に基づき、前記周辺地山の安定性に係る所定の指標を算出する
ことを特徴とする評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、評価装置及び、評価方法に関し、特に、トンネルの周辺地山の安定性評価に好適な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネル工事において、地山の掘削を安全且つ効率的に進めるには、掘削に伴う周辺地山の安定性を高精度に評価し、必要な補強等の対策工事を的確且つ迅速に行うことが重要となる。従来、地山(岩盤、地盤等)の性状を評価する技術が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、トンネルの周辺地盤を削孔してボーリング孔を削孔するとともに、ボーリング孔から採取したボーリングコアに計器を取り付けて埋め戻すことにより、原位置地盤をモニタリングするようにした装置が開示されている。
【0004】
例えば、特許文献2には、トンネルの周辺岩盤に岩石カッタを用いて円柱状の供試体を切削するとともに、供試体に荷重計及び変位計を取り付け、加圧ジャッキによって供試体を圧縮することにより、原位置にて岩盤の一軸圧縮試験を行うようにした装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-041269号公報
【特許文献2】特開昭62-148710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
トンネルの施工中に地山の安定性を評価するには、工期に影響を与えないよう、掘削を止めることなく計測を行うことが望まれる。上記特許文献1,2記載の装置は、ボーリング孔の削孔や供試体の切削を行う際に、トンネルの掘削を止める必要がある。このため、工期に影響を与えてしまう課題がある。また、地山強度比が小さい軟弱地山では、ボーリングコアの採取や供試体の形成が困難となり、計測を確実に行えない課題もある。
【0007】
本開示の技術は、上記事情に鑑みてなされたものであり、トンネルの周辺地山の安定性を効果的に評価することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の評価装置は、
地山(G)を掘削して形成される坑の坑壁に支保工(120)を建て込むことにより構築されるトンネル(T)の周辺地山(G)の評価装置(10)であって、
前記坑壁に建て込まれた前記支保工(120)が前記地山(G)から作用する荷重により鉛直方向に圧縮応力(σs)を受ける部分(120B)に取り付けられ、前記支保工(120)に作用する前記圧縮応力(σs)を計測する第1計測部(30)と、
前記坑壁に建て込まれた前記支保工(120)が前記地山(G)から作用する荷重により鉛直方向に圧縮変位する部分(120B)に取り付けられ、前記支保工(120)の前記圧縮変位に伴う変位量(ΔL)を計測する第2計測部(40)と、
前記第1計測部(30)により計測される前記圧縮応力(σs)及び、前記第2計測部(40)により計測される前記変位量(ΔL)に基づき、前記周辺地山(G)の安定性に係る所定の指標を算出する指標算出部(60,90~93)と、を備える
ことを特徴とする。
【0009】
本開示の評価方法は、
地山(G)を掘削して形成される坑の坑壁に支保工(120)を建て込むことにより構築されるトンネル(T)の周辺地山(G)の評価方法であって、
前記地山(G)から前記支保工(120)に作用する荷重が、前記坑壁に建て込まれた前記支保工(120B)を鉛直方向に圧縮する圧縮応力(σs)を計測し、
前記地山(G)から前記支保工(120)に作用する荷重が、前記坑壁に建て込まれた前記支保工(120B)を鉛直方向に圧縮変位させる変位量(ΔL)を計測し、
計測した前記圧縮応力(σs)及び、前記変位量(ΔL)に基づき、前記周辺地山(G)の安定性に係る所定の指標を算出する
ことを特徴とする。
【0010】
以上の構成によれば、評価装置(10)は、下半支保工(120B)に取り付けた第1計測部(30)及び、第2計測部(40)の計測結果に基づき、トンネル(T)の周辺地山(G)の安定性に係る指標を求めることができる。すなわち、地山(G)からコア等の供試体を採取することなく、安定性に係る指標を把握できるように構成されている。これにより、トンネル(T)の工期に影響を与えることなく、周辺地山(G)の安定性を効果的に評価することが可能になる。
【0011】
本開示の他の態様において、
前記指標算出部(60,90~92)は、
前記第1計測部(30)により計測される前記圧縮応力(σs)に前記支保工(120B)の断面積(As)を乗じることにより、前記地山(G)から前記支保工(120B)に作用する圧縮荷重(P)を算出するとともに、前記第2計測部(40)により計測される前記変位量(ΔL)に基づいて、前記地山(G)から前記支保工(120B)に作用する圧縮ひずみ(εcs)を算出し、
前記圧縮荷重(P)及び、前記圧縮ひずみ(εcs)に基づいて、前記圧縮荷重(P)のピーク値(Pp)を推定又は取得するとともに、前記ピーク値(Pp)を、前記支保工(120B)及び、該支保工(120B)の周囲の所定範囲に含まれる吹付けコンクリート(110,130)及び地山(G)の断面積(A)で除することにより、一軸圧縮強さ(qu)を前記指標の一つとして算出する。
【0012】
本態様によれば、地山(G)からコア等の供試体を採取することなく、一軸圧縮強さ(qu)を効果的に算出することができる。すなわち、工期に影響を与えることなく、一軸圧縮強さ(qu)を把握することができる。また、吹付けコンクリート(110,130)及び地山(G)が一体化した支保工(120B)の一軸圧縮強さ(qu)を算出することから、より現実的な一軸圧縮強さ(qu)を把握することも可能になる。
【0013】
本開示の他の態様において、
前記指標算出部(60,90~93)は、
前記支保工(120B)の土被り高さ(H)に前記地山(G)の単位体積重量(γ)を乗じることにより土圧(P0)を求めるとともに、前記一軸圧縮強さ(qu)を前記土圧(P0)で除することにより、地山強度比(Gr)を前記指標の一つとして算出する。
【0014】
本態様によれば、地山(G)からコア等の供試体を採取することなく、地山強度比(Gr)を効果的に算出することができる。すなわち、工期に影響を与えることなく、地山強度比(Gr)を把握することができる。また、吹付けコンクリート(110,130)及び地山(G)が一体化した支保工(120B)の一軸圧縮強さ(qu)に基づき、地山強度比(Gr)を算出することから、より現実的な地山強度比(Gr)を把握することも可能になる。
【0015】
本開示の他の態様において、
前記第1計測部(30)及び、前記第2計測部(40)は、計測値を無線通信により送信可能な無線通信装置(37,47)を備えており、
前記指標算出部(90~94)は、前記無線通信装置(37,47)から無線通信を通じて送信される前記計測値を受信可能な端末装置(60)に設けられている。
【0016】
本態様によれば、評価装置(10)は、第1計測部(30)及び、第2計測部(40)が取り付けられた下半支保工(120B)をトンネル(T)の坑壁に建て込むことにより、第1計測部(30)及び、第2計測部(40)の計測結果を、無線通信を通じて端末装置(60)によって受信できるように構成されている。これにより、作業員は、崩落の危険性がある切羽の近傍等、下半支保工(120B)が建て込まれる現場に立ち会うことなく計測を開始することができ、安全性の向上が図られるようになる。
【0017】
本開示の他の態様において、
前記第1計測部(30)は、前記支保工(120B)に貼り付けられるひずみゲージ(31A,31B)と、
前記無線通信装置(37)を有するとともに、前記ひずみゲージ(31A,31B)がケーブル(32A,32B)を介して着脱可能に接続されるひずみ計本体部(33)と、を備えており、
前記ひずみゲージ(31A,31B)は、前記支保工(120B)に吹付けられる吹付けコンクリート(130)に埋設され、
前記ひずみ計本体部(33)は、前記支保工(120B)の坑内側に臨む内側フランジ(122)に着脱可能に設置される。
【0018】
本態様によれば、評価装置(10)は、ひずみ計本体部(33)を再利用できるように構成されている。これにより、安定性の評価に係る装置のコストを効果的に抑えることができる。
【0019】
本開示の他の態様において、
前記第2計測部(40)は、前記支保工(120B)に鉛直方向に取り付けられる有底筒状の管(41)と、
前記管(41)内に挿入されて先端を前記管の底部に係止されるワイヤ(W)を有するワイヤ式変位計(43,44,45,46)及び、前記無線通信装置(47)を有する変位計本体部(42)と、を備えており、
前記管(41)は、前記支保工(120B)に吹付けられる吹付けコンクリート(130)に埋設され、
前記変位計本体部(42)は、前記支保工(120B)の坑内側に臨む内側フランジ(122)に着脱可能に設置される。
【0020】
本態様によれば、評価装置(10)は、変位計本体部(42)を再利用できるように構成されている。これにより、安定性の評価に係る装置のコストを効果的に抑えることができる。
【0021】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0022】
本開示の評価装置及び、評価方法によれば、トンネルの周辺地山の安定性を効果的に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る評価装置の評価対象の一例を説明する模式図である。
図2】本実施形態に係る評価装置の計測部が設置される支保工の一例を説明する模式図である。
図3】支保工の施工手順を説明する模式図である。
図4】本実施形態に係る評価装置のハードウェア構成を示す模式的な全体構成図である。
図5】本実施形態に係る計測装置が備える計測部の設置例を説明する模式図である。
図6】本実施形態に係る計測装置が備える端末装置のソフトウェア構成の一例を示す模式図である。
図7】(A)は、支保工の断面積、(B)支保工、吹付けコンクリート及び、地山の断面積を説明する模式図である。
図8】圧縮ひずみ演算部により演算される圧縮ひずみを横軸、圧縮荷重演算部により演算される圧縮荷重を縦軸にプロットした模式図である。
図9】地山強度比を説明する概念図である。
図10】本実施形態に係る評価方法の手順を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面に基づいて、本実施形態に係る評価装置及び、評価方法について説明する。
【0025】
[評価対象]
図1は、本実施形態に係る評価装置10の評価対象の一例を説明する模式図である。図中の符号Tは、いわゆる山岳トンネル(以下、単にトンネルと称する)である。トンネルTは、例えば、NATM工法(New Austrian Tunneling Method)により構築される。NATM工法は、周辺地山Gが有する強度や保持力を有効に利用してトンネルTの安定性を維持するものであり、支保構造100が周辺地山Gと一体化するように構築される。
【0026】
支保構造100は、基本的には、以下の(1)~(4)の施工手順に従って構築される。(1)発破掘削や機械掘削により露出した切羽近傍の地山Gにコンクリートを吹付けて一次吹付けコンクリート層110を形成する。(2)支保工120を建て込むことにより地山Gの崩落を防止する。(3)一次吹付けコンクリート層110及び支保工120の表面にコンクリートを吹付けて二次吹付けコンクリート層130を形成する。(4)各支保工120の間に一次吹付けコンクリート層110及び、二次吹付けコンクリート層130を貫通して地山Gに到達する複数本のロックボルト140を放射状に打設して補強する。
【0027】
支保工120は、例えば、H型鋼等の鋼製支保工であって、ウェブ121と、ウェブ121に直交する一対の内側フランジ122及び外側フランジ123とを有する。
【0028】
図2に示すように、支保工120は、複数本の分割体の端部同士を互いに連結することによりアーチ状に形成される。分割体の本数は特に限定されないが、図例では、左右一対の上半支保工120UL,URと、左右一対の下半支保工120BL,BRとを備えている。なお、以下では、左右の上半支保工120UL,URは、これらを区別する必要がない場合、単に「上半支保工120U」とも称する。また、左右の下半支保工120BL,BRは、これらを区別する必要がない場合、単に「下半支保工120B」とも称する。
【0029】
支保工120が、上半支保工120Uと、下半支保工120Bとを備える場合、これら上半支保工120U及び、下半支保工120Bは、基本的には、図3(A)~(C)に示す施工手順に従ってトンネルTの坑壁に建て込まれる。すなわち、図3(A)に示しように、上半部の一次吹付けコンクリート層110を形成した後、上半支保工120Uを建て込むとともに、二次吹付けコンクリート層(図示省略)を形成する。続いて、図3(B)に示すように、トンネルTの下半部の地山G(破線参照)を掘削する。下半部の地山Gを掘削したならば、図3(C)に示すように、下半部の一次吹付けコンクリート層110を形成した後、下半支保工120Bを建て込むとともに、二次吹付けコンクリート層(図示省略)を形成する。
【0030】
このようにして構築される支保構造100において、トンネルTの掘削を安全且つ効率的に進めるには、例えば、地山強度比を求めて、周辺地山Gの安定性を評価することにより、必要な補強等の対策工事を的確且つ迅速に行うことが重要となる。周辺地山Gの安定性を評価する場合、例えば、周辺地山Gから供試体としてのコアを採取して一軸圧縮試験等を行うことが考えられる。しかしながら、地山Gからのコアの採取は、トンネルTの掘削を止めて行う必要があり、工期の遅延を招くといった課題がある。また、供試体は切羽の発破掘削や機械掘削により発生するズリから採取することも可能ではあるが、実際に評価を行うべき周辺地山Gとは位置が異なってしまう課題がある。また、ノンコア削孔やシュミットハンマ等、コアを採取することなく一軸圧縮強さを推定する方法もあるが、精度を十分に担保できない課題がある。
【0031】
本実施形態の評価装置10は、計測部20を支保工120の所定位置(例えば、支保工120の脚部に相当する下半支保工120B)に設置することにより、周辺地山Gの高精度な安定性評価を実現するものである。評価装置10は、計測部20を予め下半支保工120Bに取り付けておき、下半支保工120Bを建て込んだ直後、或は、二次吹付けコンクリート層130が固化した直後から計測を開始することができる。すなわち、地山Gからのコアの採取が不要なため、工期に影響を与えることなく計測を迅速に開始することができる。図2及び、図3に示す例において、計測部20は、左右の下半支保工120BL,BRにそれぞれ設置されているが、右側の下半支保工120BR又は、左側の下半支保工120BLの何れか一方のみに設けてもよい。以下、評価装置10の詳細構成について説明する。
【0032】
[ハードウェア構成]
図4は、本実施形態に係る評価装置10のハードウェア構成を示す模式的な全体構成図である。
【0033】
評価装置10は、計測部20と、情報処理装置としての端末装置60とを備える。計測部20は、ひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40を有する。本実施形態において、ひずみ計測ユニット30及び変位計測ユニット40と、端末装置60とは、無線通信により相互に通信可能に接続されている。
【0034】
ひずみ計測ユニット30は、本開示の第1計測部の一例であって、地山Gからの荷重により下半支保工120Bに鉛直方向に作用するひずみεを計測する。具体的には、ひずみ計測ユニット30は、下半支保工120B(図2,3参照)に取り付けられる一対のひずみゲージ31A,31Bと、各ひずみゲージ31A,31Bのそれぞれがケーブル32A,32Bを介して接続されたひずみ計本体部33とを備えている。
【0035】
ひずみ計本体部33は、ブリッジ抵抗回路34A,34Bと、増幅回路35A,35Bと、A/D変換回路36A,36Bと、無線通信装置37と、記憶装置38と、バッテリ39とを構成要素として備えている。なお、図4では図示を省略するが、ひずみ計本体部33は、各構成要素34A~39を覆うカバー部材33A(図5参照)を備えている。カバー部材33Aの素材は特に限定されないが、地山Gの発破に伴う爆風から各構成要素34A~39を保護できる強度を有する素材(例えば、硬質の合成樹脂や鋼板等)を選定することが望ましい。
【0036】
ひずみゲージ31A,31Bは、例えば、絶縁性を有する板状の基材31C,31Dの上面に抵抗体31E,31Fが設けられた電気抵抗式のひずみゲージである。ひずみゲージ31A,31Bは、下半支保工120Bに貼り付けられて、二次吹付けコンクリート層130内(何れも図3参照)に埋設される。ひずみゲージ31A,31Bの設置の詳細については後述する。
【0037】
ブリッジ抵抗回路34A,34Bは、ひずみゲージ31A,31Bの電気抵抗の変動を電圧変動に変換して増幅回路35A,35Bに出力する。増幅回路35A,35Bは、ブリッジ抵抗回路34A,34Bから入力される電圧変動を増幅してA/D変換回路36A,36Bに出力する。A/D変換回路36A,36Bは、増幅されたアナログ電圧値をデジタル信号に変換して無線通信装置37に出力する。無線通信装置37はアンテナ37Aを備えている。無線通信装置37は、A/D変換回路36A,36Bから入力されるデジタル信号を無線信号に変換して端末装置60に送信する。
【0038】
記憶装置38は、端末装置60が無線通信装置37から送信される無線信号を受信できなかった場合に、当該無線信号のデータを一時的に記憶する記憶デバイスである。バッテリ39は、ブリッジ抵抗回路34A,34B、増幅回路35A,35B、A/D変換回路36A,36B、無線通信装置37及び、記憶装置38に電力を供給する。バッテリ39の種類や容量は特に限定されないが、ひずみ計測ユニット30による計測の開始から、支保工120(図1参照)の変形が収束するまでの期間(例えば、約1カ月)に亘って充電残量を確保できる容量のバッテリを選定することが望ましい。
【0039】
変位計測ユニット40は、本開示の第2計測部の一例であって、地山Gからの荷重により下半支保工120B(図2,3参照)が鉛直方向に変位する変位量ΔLを計測する。具体的には、変位計測ユニット40は、略L字状に屈曲する筒状の挿入管41と、変位計本体部42とを備えている。
【0040】
変位計本体部42は、ステンレス製のワイヤWが巻き回された巻取りスプール43と、巻取りスプール43にワイヤWを巻き戻す方向の回転力を付与するスプリング(例えば、コイルばね)44と、ポテンシャルメータやエンコーダ等のロータリセンサ45と、A/D変換回路46と、無線通信装置47と、記憶装置48と、バッテリ49とを構成要素として備えている。なお、図4では図示を省略するが、変位計本体部42は、各構成要素43~49を覆うカバー部材42A(図5参照)を備えている。カバー部材42Aの素材は特に限定されないが、地山Gの発破に伴う爆風から各構成要素43~49を保護できる強度を有する素材(例えば、硬質の合成樹脂や鋼板等)を選定することが望ましい。
【0041】
挿入管41は、支保工120に吹付けられる二次吹付けコンクリート層130内(何れも図3参照)に埋設される。挿入管41の設置の詳細については後述する。挿入管41の素材は特に限定されないが、コンクリートの吹付けにより大きく変形せず、且つ、支保工120の変形に追従して塑性変形するような素材(例えば、蛇腹状の樹脂材等)を選定することが望ましい。
【0042】
挿入管41内には、巻取りスプール43から引き出されたワイヤWが挿入される。また、挿入管41内には、支持スプール41A及び、係止部41Bが設けられている。支持スプール41Aは、挿入管41の屈曲部の内側に設けられている。支持スプール41Aは、ワイヤWが挿入管41の屈曲部内周に接触することなく、管軸方向に沿って略L字状に延びるよう、ワイヤWを下方から支持する。
【0043】
係止部41Bは、挿入管41内の先端底部に設けられている。係止部41Bには、ワイヤWの先端が係止される。巻取りスプール43から引き出したワイヤWの先端を係止部41Bに係止すると、ワイヤWはスプリング44の張力によって張られた状態となる。係止部41Bは、スプリング44の張力よりも大きな係止力でワイヤWの先端を保持しつつ、作業員がワイヤWに所定以上の張力を付与すると、ワイヤWの先端を解放するように構成されている。すなわち、計測の終了後、変位計本体部42を取り外して他の支保工120に移設する場合には、ワイヤWを挿入管41内から巻取りスプール43に回収できるようになっている。
【0044】
ロータリセンサ45は、巻取りスプール43の回転に伴う電圧変動をA/D変換回路46に出力する。A/D変換回路46は、ロータリセンサ45から入力されるアナログ電圧値をデジタル信号に変換して無線通信装置47に出力する。無線通信装置47はアンテナ47Aを備えている。無線通信装置47は、A/D変換回路46から入力されるデジタル信号を無線信号に変換して端末装置60に送信する。
【0045】
記憶装置48は、端末装置60が無線通信装置47から送信される無線信号を受信できなかった場合に、当該無線信号のデータを一時的に記憶する記憶デバイスである。バッテリ49は、ロータリセンサ45、A/D変換回路46、無線通信装置47及び、記憶装置48に電力を供給する。バッテリ49の種類や容量は特に限定されないが、変位計測ユニット40による計測の開始から、支保工120(図1参照)の変形が収束するまでの期間(例えば、約1カ月)に亘って充電残量を確保できる容量のバッテリを選定することが望ましい。
【0046】
なお、ひずみ計本体部33及び、変位計本体部42は、図示例では別体のユニットとして示されているが、これらをまとめて一つのユニットとすることも可能である。この場合、無線通信装置37,47や記憶装置38,48、バッテリ39,49は一つに統合してもよい。
【0047】
端末装置60は、例えば、管理事務所等に設置されるパーソナルコンピュータであって、CPU(Central Processing Unit)61、ROM(Read Only Memory)62、RAM(Random Access Memory)63、補助記憶装置64、ネットワークインターフェイス(ネットワークIF)65、無線通信インターフェイス(無線通信IF)66等を備えている。CPU61、ROM62、RAM63は、いわゆるマイクロコンピュータを形成する。
【0048】
CPU61は、補助記憶装置64に格納された各種プログラムを実行する。ROM62は、不揮発性メモリであって、補助記憶装置64に格納された各種プログラムをCPU61が実行するために必要なデータ等を記憶する。RAM63は、揮発性メモリであって、補助記憶装置64に格納された各種プログラムがCPU61によって実行される際に展開される作業領域を提供する。補助記憶装置64は、各種プログラムや各種プログラムが実行される際に用いられるデータ等を記憶する補助記憶デバイスである。ネットワークIF65は、端末装置60が不図示のネットワークを介して他の情報処理装置等と相互に通信するための通信デバイスである。無線通信IF66は、端末装置60がひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40との間で無線通信を行うための通信デバイスである。
【0049】
端末装置60は、ディスプレイ等の表示装置70及び、キーボードやマウス等の操作装置75を備えている。現場の作業員は、表示装置70を視ながら、操作装置75を操作することにより、ひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40に対する入力指示や設定操作を行うことができる。なお、端末装置60は、現場の作業員が携帯するスマートフォンやタブレット等の携帯端末であってもよい。
【0050】
[設置例]
図5は、本実施形態に係る計測装置10が備える計測部20の設置例を説明する模式図である。
【0051】
計測部20は、下半支保工120Bに設置される。図5に示す例では、計測部20を右側の下半支保工120BRに設置する場合を説明する。ここでいう右側とは、トンネルTの坑内にて切羽を正面視した場合の右側である。計測部20を左側の下半支保工120BLに設置する場合は、左右が反転するのみのため、説明を省略する。
【0052】
計測部20は、下半支保工120Bを建て込むよりも前に、下半支保工120Bに予め取り付けておく。これにより、工期に影響を与えることなく、計測部20をトンネルT内の所望位置に容易に設置することができる。
【0053】
ひずみ計本体部33は、下半支保工120Bの上端側に取り付けられる。具体的には、ひずみ計本体部33は、下半支保工120Bの内側フランジ122のトンネル坑内に臨む側の面に、不図示のクランプ或はボルトナット等を用いて着脱可能に固定される。図中の符号33Aは、地山の発破に伴う爆風から各構成要素を保護するためのカバー部材を示している。なお、カバー部材33Aは、地山を機械掘削により掘削する場合、プラスチック等であってもよい。
【0054】
一対のひずみゲージ31A,31Bは、下半支保工120Bのウェブ121の上端側に取り付けられる。具体的には、一対のひずみゲージ31A,31Bのうち、一方のひずみゲージ31Aは、基材31Cをウェブ121の内側フランジ122付近に接着剤等により貼り付けられ、他方のひずみゲージ31Bは、基材31Dをウェブ121の外側フランジ123付近に接着剤等により貼り付けられる。この際、ひずみゲージ31A,31Bには、抵抗体31E,31F等を吹付けコンクリートから保護するための保護プレート(図示せず)をそれぞれ取り付けることが望ましい。
【0055】
ひずみゲージ31A,31B及び、ケーブル32A,32Bの一部は、吹付けコンクリートに埋設される。ひずみ計本体部33は、計測の終了後、ケーブル32A,32Bを引き抜いて内側フランジ122から取り外すことにより、再利用することができる。なお、ひずみ計本体部33を再利用しない場合、ひずみ計本体部33は、ひずみゲージ31A,31B等と一体に吹付けコンクリートに埋設してもよい。この場合は、アンテナ37Aを吹付けコンクリートよりも外側に突出させればよい。
【0056】
変位計本体部42は、下半支保工120Bの上端側に取り付けられる。具体的には、変位計本体部42は、下半支保工120Bの内側フランジ122のトンネル坑内に臨む側の面に、不図示のクランプ或はボルトナット等を用いて着脱可能に固定される。図中の符号42Aは、地山の発破に伴う爆風から各構成要素を保護するためのカバー部材を示している。なお、カバー部材42Aは、地山を機械掘削により掘削する場合、プラスチック等であってもよい。
【0057】
挿入管41は、水平方向に延びる横管41Dと、鉛直方向に延びる縦管41Eとを有する。挿入管41は、横管41Dの基端が内側フランジ122からトンネル坑内側に臨むように、下半支保工120Bに取り付けられる。なお、図中の符号Hは、挿入管41をウェブ121に仮保持するための複数の留め具を示している。横管41Dの管軸方向の長さは、好ましくは、ウェブ121の幅の約半分の長さで形成される。横管41Dが略水平方向となるように、挿入管41を下半支保工120Bに取り付けると、縦管41Eがウェブ121に沿って略鉛直方向に取り付けられるようになっている。
【0058】
挿入管41は、吹付けコンクリートに埋設される。変位計本体部42は、計測の終了後、ワイヤWに所定の張力を付与し、ワイヤWを係止部41Bから取り外して回収するとともに、変位計本体部42を内側フランジ122から取り外すことにより、再利用することができる。なお、変位計本体部42を再利用しない場合、変位計本体部42は、挿入管41と一体に吹付けコンクリートに埋設してもよい。この場合は、アンテナ47Aを吹付けコンクリートよりも外側に突出させればよい。また、変位計本体部42を吹付けコンクリートに埋設する場合、挿入管41は縦管41Eのみを備える直線管であってもよい。
【0059】
図5に示す設置例において、ひずみゲージ31A,31Bは、下半支保工120Bの上端側に取り付けられるものとしたが、上半支保工120Uに取り付けることもできる。ただし、この場合、ひずみゲージ31A,31BをスプリングラインSLに近づけるべく、ひずみゲージ31A,31Bは、上半支保工120Uの下端側に取り付けることが望ましい。また、ひずみゲージ31A,31Bの個数は、一対に限定されず、1個又は3個以上であってもよい。ひずみゲージ31A,31Bの具体的な個数は、支保工120の寸法等に基づいて決定すればよい。
【0060】
[ソフトウェア構成]
図6は、本実施形態に係る計測装置10が備える端末装置60のソフトウェア構成の一例を示す模式図である。
【0061】
図6に示すように、端末装置60は、圧縮荷重演算部90と、圧縮ひずみ演算部91と、一軸圧縮強さ推定取得部92と、地山強度比演算部93と、安定性判定部94とを備える。これら機能要素は、端末装置60に含まれるものとして説明するが、これらの何れか一部又は全部を端末装置60と通信可能な他の情報処理装置に設けることも可能である。
【0062】
圧縮荷重演算部90は、ひずみ計測ユニット30から受信した無線信号を変換して得られるひずみεに基づき、下半支保工120Bに作用する圧縮荷重Pを演算する。具体的には、圧縮荷重演算部90は、ひずみεに、下半支保工120Bの弾性係数Eを乗じる以下の数式(1)に基づいて、ひずみεを応力σsに変換する。
【0063】
σs=ε×E ・・・・(1)。
本実施形態において、ひずみ計測ユニット30は一対のひずみゲージ31A,31Bを備えている。このため、数式(1)のひずみεは、一対のひずみゲージ31A,31Bの計測結果の平均値とすればよい。弾性係数Eは、端末装置60が備えるROM62又は、補助記憶装置64に予め格納しておけばよい。
【0064】
圧縮荷重演算部90は、ひずみεを応力σsに変換すると、応力σsに下半支保工120Bの断面積Asを乗じる以下の数式(2)に基づいて、圧縮荷重Pを所定の周期で演算する。
【0065】
P=σs×As ・・・・(2)
ここで、断面積Asは、図7(A)に示すように、下半支保工120Bのウェブ121、内側フランジ122及び、外側フランジ123の各断面積の総和である。断面積Asは、予め図面などに基づいて計算し、端末装置60が備えるROM62又は、補助記憶装置64に格納しておけばよい。圧縮荷重演算部90は、演算した圧縮荷重Pを一軸圧縮強さ推定取得部120に所定の周期で送信する。なお、圧縮荷重演算部90は、演算した圧縮荷重Pを作業員からの要求指示に従って表示装置70(図4参照)に表示してもよい。要求指示は、作業員が操作装置75を操作することにより入力すればよい。
【0066】
圧縮ひずみ演算部91は、変位量計測ユニット40から受信した無線信号を変換して得られる変位量ΔLに基づき、下半支保工120Bに生じる圧縮ひずみεcsを演算する。具体的には、圧縮ひずみ演算部91は、計測を開始する際にワイヤWが挿入管41内に引き出されている長さを初期長さL、ワイヤWが下半支保工120Bの圧縮変形に伴い巻き戻された量を変位量ΔLとする以下の数式(3)に基づいて、圧縮ひずみεcsを所定の周期で演算する。
【0067】
εcs=ΔL/L ・・・・(3)
初期長さLは、計測開始時の変位計測ユニット40の計測結果に基づいて取得してもよく、或は、端末装置60が備えるROM62又は、補助記憶装置64に予めデフォルト値として格納してもよい。圧縮ひずみ演算部91は、演算した圧縮ひずみεcsを一軸圧縮強さ推定取得部120に所定の周期で送信する。なお、圧縮ひずみ演算部91は、演算した圧縮ひずみεcsを作業員からの要求指示に従って表示装置70(図4参照)に表示してもよい。要求指示は、作業員が操作装置75を操作することにより入力すればよい。
【0068】
一軸圧縮強さ推定取得部92は、圧縮荷重演算部90から入力される圧縮荷重P及び、圧縮ひずみ演算部91から入力される圧縮ひずみεcsに基づき、地山Gの一軸圧縮強さqu(一軸圧縮強度)を推定又は取得する。具体的には、一軸圧縮強さ推定取得部92は、まず、圧縮荷重P及び、圧縮ひずみεcsの関係から、圧縮荷重Pのピーク値(以下、ピーク荷重Ppと称する)を求める。図8(A),(B)は、圧縮ひずみ演算部91から入力される圧縮ひずみεcsを横軸(x軸)、圧縮荷重演算部90から入力される圧縮荷重Pを縦軸(y軸)にプロットした模式図である。
【0069】
図8(A)に示すように、圧縮ひずみεcs及び、圧縮荷重Pのプロットにピークが現れた場合、一軸圧縮強さ推定取得部92は、当該ピーク時の圧縮荷重Pをピーク荷重Ppとして取得する。一方、図8(B)に示すように、圧縮ひずみεcs及び、圧縮荷重Pのプロットにピークが現れなかった場合、一軸圧縮強さ推定取得部120は、各プロットから所定のモデル式等に従って圧縮荷重Pのピーク値を推定演算するとともに、推定したピーク値をピーク荷重Ppとする。
【0070】
なお、図8(A),(B)に示す例において、横軸(x軸)には、圧縮ひずみ演算部91が変位量ΔLに基づいて演算した圧縮ひずみεcsをプロットしているが、変位量ΔLを直接プロットしてもよい。この場合、変位量ΔL及び、圧縮荷重Pのプロットからピーク荷重Ppを取得又は推定すればよい。
【0071】
一軸圧縮強さ推定取得部92は、ピーク荷重Ppを求めると、ピーク荷重Ppを等価断面積Aで除する以下の数式(4)に基づいて、一軸圧縮強さquを演算する。
【0072】
qu=Pp/A ・・・・(4)
ここで、等価断面積Aとは、図7(B)に示すように、ピーク荷重Ppを、支保工120のみならず、支保工120と一体化した吹付けコンクリート層110,130及び、地山Gによって負担すると仮定した場合の、これら支保工120、吹付けコンクリート層110,130及び、地山Gの断面積をいう。このため、等価断面積Aは、支保工120の断面積と、支保工120の周囲の所定範囲に含まれる吹付けコンクリート層110,130及び、地山Gの断面積とに基づいて求められる。等価断面積Aは、予め図面などに基づいて計算し、端末装置60が備えるROM62又は、補助記憶装置64に格納しておけばよい。
【0073】
一軸圧縮強さ推定取得部92は、演算した一軸圧縮強さquを地山強度比演算部93に所定の周期で送信する。なお、一軸圧縮強さ推定取得部92は、演算した一軸圧縮強さquを作業員からの要求指示に従って表示装置70(図4参照)に表示してもよい。要求指示は、作業員が操作装置75を操作することにより入力すればよい。
【0074】
地山強度比演算部93は、一軸圧縮強さ推定取得部92から入力される地山Gの一軸圧縮強さquに基づき、地山強度比Grを演算する。ここで、地山強度比Grとは、トンネル掘削時の押出し性の判定指標となる数値であって、地山Gの一軸圧縮強さquと鉛直方向の土圧P0との比として算出される。具体的には、地山強度比演算部93は、一軸圧縮強さ推定取得部92により演算される一軸圧縮強さquを鉛直方向の土圧P0で除する以下の数式(5)に基づいて、地山強度比Grを演算する。
【0075】
Gr=qu/P0 ・・・・(5)
鉛直方向の土圧P0は、土被り高さHに地山Gの単位体積重量γを乗じることにより求めることができる(P0=γH)。土被り高さHは、例えばトンネルTの設計図面等から求めればよい。単位体積重量γは、例えば周辺地山Gにボーリング試験などを行うことにより取得すればよい。これら土被り高さH及び、単位体積重量γは、端末装置60が備えるROM62又は、補助記憶装置64に予め格納しておけばよい。地山強度比演算部93は、演算した地山強度比Grを安定性判定部94に送信する。なお、地山強度比演算部93は、演算した地山強度比Grを作業員からの要求指示に従って表示装置70(図4参照)に表示してもよい。要求指示は、作業員が操作装置75を操作することにより入力すればよい。
【0076】
安定性判定部94は、地山強度比演算部93から入力される地山強度比Grに基づき、トンネルTの周辺地山Gの安定性を判定する。地山強度比Grが「2」よりも小さい場合、周辺地山Gが塑性化し、時間依存性の強い膨張性地山では塑性領域の進展に伴い変形が発生すると予測される。以下、図9に基づいて、簡単に説明する。図9は、トンネル及び、周辺地山を模式的に示す図である。図中のP0は、初期応力としての鉛直方向の土圧、Piは内圧、Rはトンネルの内空半径、rはトンネルの内空中心から地山の所定領域までの距離、σrは半径方向の応力、σθは円周方向の応力をそれぞれ示している。
【0077】
半径方向の応力σr及び、円周方向の応力σθのそれぞれの理論式は、以下の数式(6),(7)で示される。
【0078】
σr=Pi+(P0-Pi)・(1-R/r) ・・・・(6)
σθ=Pi+(P0-Pi)・(1+R/r) ・・・・(7)
掘削の直後は、内圧Piは0(ゼロ)と見做せるため、数式(6),(7)は、それぞれ以下の数式(8),(9)で表される。
【0079】
σr=P0・(1-R/r) ・・・・(8)
σθ=P0・(1+R/r) ・・・・(9)
また、トンネルの坑壁付近では、内空半径Rと距離rが等しくなるため(R=r)、数式(8),(9)は、それぞれ以下の数式(10),(11)で表される。
【0080】
σr=0 ・・・・(10)
σθ=2P0 ・・・・(11)
ここで、地山の一軸圧縮強さquが円周方向の応力σθよりも小さいと(qu<σθ)、地山Gに塑性域が発生すると考えられる。すなわち、数式(11)から、地山Gの一軸圧縮強さquが、初期の土圧P0の2倍よりも小さいと(qu<2P0)、地山Gに塑性域が発生することになる。以上より、一軸圧縮強さquを土圧P0で除した地山強度比Gr(=qu/P0)が2を下まわる場合には、地山に時間依存性のある変形が発生すると予測することができる。
【0081】
安定性判定部94は、地山強度比Grが2よりも小さい場合(Gr=qu/P0<2)、周辺地山Gを軟弱地山と判定する。また、安定性判定部94は、地山強度比Grが2以上の場合(Gr=qu/P0≧2)、周辺地山Gを軟弱地山ではないと判定する。安定性判定部94は、判定結果を、表示装置70(図4参照)に表示する。現場の作業員等は、表示装置70に表示される判定結果を確認することにより、補強等の対策工事が必要か否かを判断することができる。
【0082】
[実験例]
ここで、本実施形態の評価装置10を用いて、実際の現場にて地山強度比Grを求めた実験例を表1に示す。土被り高さH、断面積As及び、等価断面積Aは、図面等に基づいて求めた。等価断面積Aを求める際の所定範囲は、支保工周囲の250mmとした。地山の単位体積重量γは、ボーリング試験により取得した。初期の土圧P0は、単位体積重量γに土被り高さHを乗じることにより求めた(P0=γ×H)。支保工のピーク応力σsは、ひずみ計測ユニット30により計測したひずみεに、支保工の弾性係数Eを乗じることにより求めた(σs=ε×E)。支保工に生じる圧縮荷重Pは、ピーク応力σsに断面積Asを乗じることにより求めた(P=σs×As)。一軸圧縮強さquは、圧縮荷重Pを等価断面積Aで除することにより求めた。地山強度比Grは、一軸圧縮強さquと初期の土圧P0との比(Gr=qu/P0)である。
【0083】
【表1】
表1に示されるように、実験例において、一軸圧縮強さquは、4.80(N/mm)として推定演算された。また、地山強度比Grは、1.5として算出された。すなわち、実験例においては、地山は強度が不足している軟弱地山として判定された。以上より、本実施形態の評価装置10を用いて周辺地山の安定性を評価できることが確認された。
【0084】
[評価方法]
次に、図10に示すフロー図に基づいて、本実施形態に係る評価方法の手順を説明する。なお、図10のフローは、一次吹付けコンクリート110の吹付け後から開始するものとして説明する。
【0085】
第1工程S1では、計測部20(ひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40)が予め取り付けられた下半支保工120Bを、一次吹付けコンクリート110が吹付けられたトンネルTの坑壁に建て込む。これにより、計測部20の設置を完了する。
【0086】
第2工程S2では、下半支保工120Bに吹付けられた二次吹付けコンクリート130が固化したか否かを確認する。二次吹付けコンクリート130が固化したか否かは、吹付けから所定時間が経過した場合にコンクリートが固化したと判断してもよく、或は、現場の作業員が直接確認することにより判断してもよい。二次吹付けコンクリート130が固化すると、第3工程S3に進む。
【0087】
第3工程S3では、計測部20(ひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40)による計測を開始する。計測の開始後、地山Gから支保工120に作用する荷重は、トンネルTの掘削進展に伴い次第に増加する。
【0088】
第4工程S4では、端末装置60は、圧縮ひずみεcs及び、圧縮荷重Pを所定の周期で演算する。次いで、第5工程S5では、端末装置60は、圧縮ひずみεcs及び、圧縮荷重Pに基づき、ピーク荷重Ppを取得又は推定する。ピーク荷重Ppを取得又は推定した場合(Yes)、第6工程S6に進む。
【0089】
第6工程S6では、端末装置60は、ピーク荷重Ppを等価断面積Aで除することにより、一軸圧縮強さqu(=Pp/A)を演算する。次いで、第7工程S7では、端末装置60は、一軸圧縮強さquを鉛直方向の土圧P0で除することにより、地山強度比Gr(=qu/P0)を演算する。
【0090】
第8工程S8では、端末装置60は、地山強度比Grが2以上か否かを判定する。地山強度比Grが2以上の場合(Yes)、本ルーチンを終了し、ひずみ計本体部33及び、変位計本体部42を回収して次の安定性評価に移行する。
【0091】
一方、地山強度比Grが2以上でない場合(No)、すなわち、地山強度比Grが2よりも小さい場合は、第9工程S9に進む。第9工程S9では、必要な補強等を検討し、対策工事を行う。この際、ひずみ計本体部33及び、変位計本体部42も回収する。対策工事を行ったならば、本ルーチンを終了し、次の安定性評価に移行する。以降、トンネルTの掘削と並行しながら、前述の各工程S1~S9を繰り返し実施する。
【0092】
以上詳述した本実施形態によれば、評価装置10は、下半支保工120Bに取り付けたひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40の計測結果に基づき、トンネルTの周辺地山Gの一軸圧縮強さqu及び、地山強度比Grを高精度に求めることができる。すなわち、地山Gからコア等の供試体を採取することなく、一軸圧縮強さqu及び、地山強度比Grを把握できるように構成されている。これにより、トンネルTの工期に影響を与えることなく、周辺地山Gの安定性を効果的に評価することが可能になる。
【0093】
また、評価装置10は、ひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40を予め下半支保工120Bに取り付けておき、下半支保工120BをトンネルTの坑壁に建て込むことにより設置することができる。ひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40を設置した後は、これらの計測結果を、無線通信を通じて端末装置60によって受信できるように構成されている。すなわち、作業員は、崩落の危険性がある切羽の近傍等、下半支保工120Bが建て込まれる現場に立ち会うことなく計測を実施することができる。これより、安全性の向上を図ることが可能になる。
【0094】
また、評価装置10は、計測の終了後、ひずみ計本体部33及び、変位計本体部42を回収し、次に建て込まれる下半支保工120Bに再利用しながら計測を繰り返すことにより、地山強度比Grをトンネル軸方向に連続的に求めていくことができる。このように、トンネルTの掘削と並行しながら、地山強度比Grをトンネル軸方向に繰り返し求めていくことにより、トンネルT全体の地山安定性を高精度に把握することが可能になる。
【0095】
また、評価装置10が算出する一軸圧縮強さquは、吹付けコンクリート層110,130及び、地山Gが一体化した下半支保工120Bの一軸圧縮強さquとして算出される。これにより、現実的な周辺地山Gの一軸圧縮強さquに基づいた地山強度比Grを求めることができ、高精度な安定性評価を実現することが可能になる。
【0096】
また、トンネルTの施工中に行う計測としては、計測A及び計測Bの2種類がある。計測Aは、日常の施工管理のために実施するものであり、例えば、観察調査、天端沈下測定、内空変位測定、地表沈下測定等を行う。計測Bは、地山条件や立地条件に応じて計測Aに追加実施するものであり、例えば、地山試料試験、坑内地中変位測定、ロックボルト軸力測定、吹付けコンクリート応力測定、鋼製支保工応力測定、覆工応力測定、盤ぶくれ測定、AE測定等を行う。本実施形態の評価装置10は、圧縮ひずみεcs、圧縮荷重P、一軸圧縮強さqu及び、地山強度比Grをそれぞれ把握できるため、下半支保工120Bの支保適合性を判定する計測Bにも効果的に利用することができる。
【0097】
[その他]
なお、本開示は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0098】
例えば、上記実施形態では、ひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40は、下半支保工120Bに設置されるものとして説明したが、トンネルTによっては支保工120が下半支保工120Bを備えない構造の場合もある。このような場合、ひずみ計測ユニット30及び、変位計測ユニット40は、支保工120が地山Gからの荷重により鉛直方向に圧縮応力を受け、且つ、支保工120が鉛直方向に圧縮変形する部分に設置すればよい。一例としては、支保工120の脚部が挙げられる。
【0099】
また、ひずみ計測ユニット30は、ひずみゲージ31A,31Bを備える構成に限定されず、支保工120の脚部に鉛直方向に作用する荷重を計測可能なロードセルを備える構成であってもよい。
【0100】
また、トンネルTは、NATM工法により構築されるトンネルに限定されず、支保工120を建て込むものであれば、他の工法により構築されるトンネルにも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0101】
T…トンネル,G…地山,10…評価装置,20…計測部,30…ひずみ計測ユニット,31A,31B…ひずみゲージ,32A,32B…ケーブル,34A,34B…ブリッジ抵抗回路,35A,35B…増幅回路,36A,36B…A/D変換回路,37…無線通信装置,38…記憶装置,39…バッテリ,40…変位計測ユニット,41…挿入管,42…変位計本体部,43…巻取りスプール,44…スプリング,45…ロータリセンサ,46…A/D変換回路,47…無線通信装置,48…記憶装置,49…バッテリ,60…端末装置,90…圧縮荷重演算部,91…圧縮ひずみ演算部,92…一軸圧縮強さ推定取得部,93…地山強度比演算部,94…安定性判定部,100…支保構造,110…一次吹付けコンクリート層,120U…上半支保工,120B…下半支保工,130…二次吹付けコンクリート層,140…ロックボルト
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