(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033972
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】メロデスモシンまたはその塩の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 227/20 20060101AFI20240306BHJP
C07C 271/22 20060101ALI20240306BHJP
C07C 229/30 20060101ALI20240306BHJP
【FI】
C07C227/20
C07C271/22 CSP
C07C229/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137930
(22)【出願日】2022-08-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り [ウェブサイト]令和4年1月17日掲載 https://confit.atlas.jp/guide/event/csj102nd/subject/B104-1am-05/tables?cryptoId= [ウェブサイト]令和4年3月9日掲載 https://confit.atlas.jp/guide/event-img/csj102nd/B104-1am-05/public/pdf?type=in [発 表]令和4年3月23日開催、日本化学会 第102春季年会(2022) [ウェブサイト]令和4年8月26日掲載 https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0040403922005688
(71)【出願人】
【識別番号】502350504
【氏名又は名称】学校法人上智学院
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】臼杵 豊展
(72)【発明者】
【氏名】田中 尚
(72)【発明者】
【氏名】大石 果歩
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB20
4H006AB84
4H006AC52
4H006AC80
4H006BS10
4H006BU32
4H006RA16
4H006RB34
(57)【要約】 (修正有)
【課題】メロデスモシンの製造方法を提供する。
【解決手段】例えば、下記反応式の化合物5を出発物質として化合物4に変換する工程、次に化合物4を、極性溶媒中CeCl
3・7H
2OおよびNaBH
4の存在下で還元する工程、次に、生成した化合物をハロゲン化化合物に変換する工程、次に、該ハロゲン化化合物と特定のアミンとを反応させて化合物2を形成する工程、更に、メロデスモシン(化合物1)に変換する工程を含む、製造方法である。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)に示される化合物またはその塩を製造する方法であって、
【化1】
下記一般式(II)に示される化合物またはその塩を、プロリンおよびトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一つの存在下で、下記一般式(III)に示される化合物またはその塩に変換する工程と、
【化2】
(上記一般式(II)中、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、R
2はカルボキシ保護基である。)
【化3】
(上記一般式(III)中、R
1およびR
2はそれぞれ前記一般式(II)におけるR
1およびR
2と同一であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
前記一般式(III)に示した化合物またはその塩を、極性溶媒中、CeCl
3・7H
2OおよびNaBH
4の存在下で、下記一般式(IV)に示される化合物またはその塩に変換する工程と、
【化4】
(上記一般式(IV)中、R
1およびR
2はそれぞれ前記一般式(II)におけるR
1およびR
2と同一であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
前記一般式(IV)に示した化合物またはその塩を下記一般式(V)に示される化合物またはその塩に変換する工程と、
【化5】
(上記一般式(V)中、Xはハロゲンであり、R
1およびR
2はそれぞれ前記一般式(II)におけるR
1およびR
2と同一であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
前記一般式(V)に示した化合物またはその塩と下記一般式(VI)に示される化合物またはその塩とを反応させて、下記一般式(VII)に示される化合物またはその塩を形成する工程と、
【化6】
(上記一般式(VI)中、R
3は水素原子またはアミノ保護基であり、2つのR
3のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、R
4はカルボキシ保護基である。)
【化7】
(上記一般式(VII)中、R
1およびR
2はそれぞれ前記一般式(II)におけるR
1およびR
2と同一であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。R
3およびR
4はそれぞれ前記一般式(VI)におけるR
3およびR
4と同一である。)
前記一般式(VII)に示した化合物またはその塩を前記式(I)に示した化合物またはその塩に変換する工程と、
を含む、製造方法。
【請求項2】
一般式(IV)に示した化合物またはその塩を一般式(V)に示される化合物またはその塩に変換する前記工程が、
前記一般式(IV)に示した化合物またはその塩とスルホン酸クロリドとを反応させた後、臭化物と反応させる工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記式(I)に示した化合物がE体である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(III)に示される化合物またはその塩。
【化8】
(上記一般式(III)中、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、1つのNに結合する2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、R
2はカルボキシ保護基であり、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
【請求項5】
下記一般式(IV)に示される化合物またはその塩。
【化9】
(上記一般式(IV)中、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、1つのNに結合する2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、R
2は独立してカルボキシ保護基であり、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
【請求項6】
下記一般式(V)に示される化合物またはその塩。
【化10】
(上記一般式(V)中、Xはハロゲンであり、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、1つのNに結合する2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、R
2は独立してカルボキシ保護基であり、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
【請求項7】
下記一般式(VII)に示される化合物またはその塩。
【化11】
(上記一般式(VII)中、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、1つのNに結合する2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、R
2は独立してカルボキシ保護基であり、複数のR
2は同じであっても異なってもよく、R
3は水素原子またはアミノ保護基であり、2つのR
3のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、R
4はカルボキシ保護基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メロデスモシンまたはその塩の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肺胞や皮膚などに豊富に含まれる弾性線維タンパク質エラスチンは、三次元架橋ネットワーク構造をもつが、その全体構造は未だ解明されていない。エラスチンを架橋するアミノ酸として、デスモシンが知られている他、merodesmosine(メロデスモシン)が単離されたことが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
また、架橋アミノ酸の利用に関する技術として、特許文献1に記載のものがある。同文献には、タンパク質を含む食品原料に、エラスチン加水分解物を0.1n~100mmol架橋アミノ酸/gタンパク質、添加する食品の製造法について記載されている(請求項3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Starcher, B. C. 他2名、「Isolation and Partial Characterization of a New Amino Acid from Reduced Elastin」、Biochemistry、1967年、6巻、8号、2425-2432ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、架橋アミノ酸の中でも、メロデスモシンを化学的に合成する方法については報告されていない。
そこで、本発明は、メロデスモシンを製造するための技術を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以下の化合物の製造方法および中間体が提供される。
[1] 下記式(I)に示される化合物またはその塩を製造する方法であって、
下記一般式(II)に示される化合物またはその塩を、プロリンおよびトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一つの存在下で、下記一般式(III)に示される化合物またはその塩に変換する工程と、
(上記一般式(II)中、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、R
2はカルボキシ保護基である。)
(上記一般式(III)中、R
1およびR
2はそれぞれ前記一般式(II)におけるR
1およびR
2と同一であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
前記一般式(III)に示した化合物またはその塩を、極性溶媒中、CeCl
3・7H
2OおよびNaBH
4の存在下で、下記一般式(IV)に示される化合物またはその塩に変換する工程と、
(上記一般式(IV)中、R
1およびR
2はそれぞれ前記一般式(II)におけるR
1およびR
2と同一であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
前記一般式(IV)に示した化合物またはその塩を下記一般式(V)に示される化合物またはその塩に変換する工程と、
(上記一般式(V)中、Xはハロゲンであり、R
1およびR
2はそれぞれ前記一般式(II)におけるR
1およびR
2と同一であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
前記一般式(V)に示した化合物またはその塩と下記一般式(VI)に示される化合物またはその塩とを反応させて、下記一般式(VII)に示される化合物またはその塩を形成する工程と、
(上記一般式(VI)中、R
3は水素原子またはアミノ保護基であり、2つのR
3のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、R
4はカルボキシ保護基である。)
(上記一般式(VII)中、R
1およびR
2はそれぞれ前記一般式(II)におけるR
1およびR
2と同一であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。R
3およびR
4はそれぞれ前記一般式(VI)におけるR
3およびR
4と同一である。)
前記一般式(VII)に示した化合物またはその塩を前記式(I)に示した化合物またはその塩に変換する工程と、
を含む、製造方法。
[2] 一般式(IV)に示した化合物またはその塩を一般式(V)に示される化合物またはその塩に変換する前記工程が、
前記一般式(IV)に示した化合物またはその塩とスルホン酸クロリドとを反応させた後、臭化物と反応させる工程を含む、[1]に記載の製造方法。
[3] 前記式(I)に示した化合物がE体である、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4] 下記一般式(III)に示される化合物またはその塩。
(上記一般式(III)中、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、1つのNに結合する2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、R
2はカルボキシ保護基であり、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
[5] 下記一般式(IV)に示される化合物またはその塩。
(上記一般式(IV)中、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、1つのNに結合する2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、R
2は独立してカルボキシ保護基であり、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
[6] 下記一般式(V)に示される化合物またはその塩。
(上記一般式(V)中、Xはハロゲンであり、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、1つのNに結合する2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、R
2は独立してカルボキシ保護基であり、複数のR
2は同じであっても異なってもよい。)
[7] 下記一般式(VII)に示される化合物またはその塩。
(上記一般式(VII)中、R
1は水素原子またはアミノ保護基であり、1つのNに結合する2つのR
1のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、複数のR
1における前記アミノ保護基は同じであっても異なってもよく、R
2は独立してカルボキシ保護基であり、複数のR
2は同じであっても異なってもよく、R
3は水素原子またはアミノ保護基であり、2つのR
3のうち少なくとも一つは前記アミノ保護基であり、R
4はカルボキシ保護基である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、メロデスモシンを製造するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例で得られた化合物4の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図2】実施例で得られた化合物4の
13C-NMRスペクトルを示す図である。
【
図3】実施例で得られた化合物10の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図4】実施例で得られた化合物10の
13C-NMRスペクトルを示す図である。
【
図5】実施例で得られた化合物11の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図6】実施例で得られた化合物11の
13C-NMRスペクトルを示す図である。
【
図7】実施例で得られた化合物2の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図8】実施例で得られた化合物2の
13C-NMRスペクトルを示す図である。
【
図9】実施例で得られた化合物1の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図10】実施例で得られた化合物1の
13C-NMRスペクトルを示す図である。
【
図11】実施例で得られた化合物1のCOSYスペクトルを示す図である。
【
図12】実施例で得られた化合物1のNOESYスペクトルを示す図である。
【
図13】実施例で得られた化合物1のHMQCスペクトルを示す図である。
【
図14】実施例で得られた化合物1のHMBCスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を具体例に基づいて説明する。なお、各成分はいずれも単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本明細書において、数値範囲を示す「~」は、以上、以下を表し、上限値および下限値をいずれも含む。
【0011】
本実施形態は、下記式(I)に示される化合物またはその塩を製造する方法に関し、具体的には、メロデスモシンまたはその塩を製造する方法に関する。
【0012】
【0013】
式(I)に示した化合物の塩として、たとえば、塩酸塩、TFA塩が挙げられる。
【0014】
式(I)に示した化合物またはその塩の製造方法は、以下の工程10、20、30、40および50を含む。
(工程10)下記一般式(II)に示される化合物またはその塩を、プロリンおよびトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一つの存在下で、下記一般式(III)に示される化合物またはその塩に変換する工程
(工程20)一般式(III)に示した化合物またはその塩を、極性溶媒中、CeCl3・7H2OおよびNaBH4の存在下で、下記一般式(IV)に示される化合物またはその塩に変換する工程
(工程30)一般式(IV)に示した化合物またはその塩を下記一般式(V)に示される化合物またはその塩に変換する工程
(工程40)一般式(V)に示した化合物またはその塩と下記一般式(VI)に示される化合物またはその塩とを反応させて、下記一般式(VII)に示される化合物またはその塩を形成する工程
(工程50)一般式(VII)に示した化合物またはその塩を式(I)に示した化合物またはその塩に変換する工程
【0015】
【0016】
(上記一般式(II)中、R1は水素原子またはアミノ保護基であり、2つのR1のうち少なくとも一つはアミノ保護基であり、R2はカルボキシ保護基である。)
【0017】
【0018】
(上記一般式(III)中、R1およびR2はそれぞれ一般式(II)におけるR1およびR2と同一であり、複数のR1におけるアミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR2は同じであっても異なってもよい。)
【0019】
【0020】
(上記一般式(IV)中、R1およびR2はそれぞれ一般式(II)におけるR1およびR2と同一であり、複数のR1におけるアミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR2は同じであっても異なってもよい。)
【0021】
【0022】
(上記一般式(V)中、Xはハロゲンであり、R1およびR2はそれぞれ一般式(II)におけるR1およびR2と同一であり、複数のR1におけるアミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR2は同じであっても異なってもよい。)
【0023】
【化6】
(上記一般式(VI)中、R
3は水素原子またはアミノ保護基であり、2つのR
3のうち少なくとも一つはアミノ保護基であり、R
4はカルボキシ保護基である。)
【0024】
【0025】
(上記一般式(VII)中、R1およびR2はそれぞれ一般式(II)におけるR1およびR2と同一であり、複数のR1におけるアミノ保護基は同じであっても異なってもよく、複数のR2は同じであっても異なってもよい。R3およびR4はそれぞれ一般式(VI)におけるR3およびR4と同一である。)
以下、各工程をさらに具体的に説明する。
【0026】
(工程10)
工程10では、一般式(II)に示した化合物またはその塩を、プロリンおよびトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一つの存在下で、一般式(III)に示した化合物またはその塩に変換する。
【0027】
一般式(II)に示した化合物は、具体的にはアリシン保護体である。
一般式(II)中、R1は水素原子またはアミノ保護基である。アミノ保護基は、たとえば、t-ブトキシカルボニル(Boc)基およびベンジルオキシカルボニル(Cbz)基からなる群から選択される基であり、好ましくはBoc基である。一般式(II)における2つのR1のうち少なくとも一つはアミノ保護基であり、2つのR1がいずれもアミノ保護基であるとき、2つのR1は同じであってもよいし異なっていてもよい。
R2はカルボキシ保護基である。カルボキシ保護基は、たとえば、t-ブチル(tBu)基、ベンジル(Bn)基、メチル基およびエチル基からなる群から選択される基であり、好ましくはtBu基である。
一般式(I)に示した化合物をさらに安定的に得る観点から、一般式(II)中、2つのR1は好ましくはいずれもBoc基であり、R2は好ましくはtBu基である。
【0028】
一般式(II)に示した化合物の塩の具体例としては、一般式(II)における末端アミンの塩酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等が挙げられる。これらの塩を用いることにより、たとえば水溶性を高めることができる。
【0029】
一般式(II)に示した化合物は、たとえば、国際公開第2014/119479号(実施例の項)に記載の方法で得ることができる。
【0030】
工程10においては、一般式(II)に示した化合物のアルドール縮合反応が、プロリンおよびトリプトファンからなる群から選択される少なくとも一つの存在下でなされる。プロリンおよびトリプトファンは、D体およびL体のいずれであってもよく、一般式(III)に示した化合物の収率向上の観点から、好ましくはL-プロリンおよびL-トリプトファンからなる群から選択される少なくとも一つであり、より好ましくはL-トリプトファンである。
【0031】
プロリンおよびトリプトファンの使用量の合計は、反応性向上の観点から、一般式(II)に示した化合物またはその塩に対して、たとえば0.01モル当量以上であり、好ましくは0.1モル当量以上であり、また、たとえば10モル当量以下であり、好ましくは1モル当量以下である。
【0032】
アルドール縮合反応は、好ましくは溶媒中でおこなわれる。溶媒として、たとえば、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、酢酸エチル、エタノール(EtOH)およびメタノール(MeOH)からなる群から選択される一または二以上の極性溶媒が挙げられる。工程10の反応をより安定におこなう観点から、反応溶媒は、好ましくはEtOHである。
溶媒の使用量は、一般式(II)に示した化合物またはその塩に対してモル濃度でたとえば0.01~10M程度とすることができ、1~5Mとすることが好ましい。
また、収率向上の観点から、アルドール縮合反応をモレキュラーシーブス等の脱水乾燥剤の存在下で行うことも好ましい。
【0033】
反応温度は、たとえば-20℃程度から溶媒の沸点までとすることができるが、反応速度向上の観点からは20℃以上が好ましい。また、生成物の安定性向上の観点からは40℃以下が好ましい。また、たとえば室温(25℃、以下同じ。)環境下で反応をおこなってもよい。
【0034】
また、反応時間は、反応温度、撹拌効率等により設定することができるが、たとえば6~80時間、好ましくは12~80時間とすることができる。また、たとえば6~50時間、または、たとえば12~24時間としてもよい。
【0035】
(工程20)
工程20においては、一般式(III)に示した化合物またはその塩を、極性溶媒中、CeCl3・7H2OおよびNaBH4の存在下で、一般式(IV)に示した化合物またはその塩に変換する。工程20は、具体的には、Luche還元により、工程10で得られたアルドール縮合体の選択的な1,2-還元、すなわちアルドール縮合体中のカルボニル結合の選択的還元を進行させて、アリルアルコール構造を有する一般式(IV)に示した化合物またはその塩を得る工程である。
【0036】
CeCl3・7H2Oの使用量は、反応性向上の観点から、一般式(III)に示した化合物またはその塩に対して、たとえば0.1モル当量以上であり、好ましくは1.0モル当量以上であり、また、たとえば100モル当量以下であり、好ましくは5モル当量以下である。
【0037】
NaBH4の使用量は、反応性向上の観点から、一般式(III)に示した化合物またはその塩に対して、たとえば0.1モル当量以上であり、好ましくは1.0モル当量以上であり、また、たとえば100モル当量以下であり、好ましくは5モル当量以下である。
【0038】
工程20の還元反応は、極性溶媒中でおこなわれる。極性溶媒として、たとえば、水;メタノール、エタノール(EtOH)、イソプロパノール等の炭素数1以上4以下のアルコールなる群から選択される一または二以上のプロトン性極性溶媒が挙げられる。工程20の反応をより安定におこなう観点から、反応溶媒は、好ましくはメタノールまたはエタノールであり、より好ましくはエタノールである。
溶媒の使用量は、一般式(III)に示した化合物またはその塩に対してモル濃度でたとえば0.01~10M程度とすることができ、0.1~0.5Mとすることが好ましい。
【0039】
反応温度は、たとえば-20℃程度から溶媒の沸点までとすることができるが、反応速度向上の観点から、好ましくは-10℃以上であり、より好ましくは-5℃以上である。また、収率向上の観点からは、反応温度は好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは10℃以下である。また、たとえば0℃程度で反応をおこなってもよい。
【0040】
また、反応時間は、反応温度、撹拌効率等により設定することができるが、たとえば1分~2時間、好ましくは30分~2時間とする。
【0041】
(工程30)
工程30では、一般式(IV)に示した化合物またはその塩を一般式(V)に示した化合物またはその塩に変換する。
一般式(V)に示した化合物をさらに安定的に得る観点から、工程30は、好ましくは以下の工程31および32を含む。
(工程31)一般式(IV)に示した化合物またはその塩とスルホン酸クロリドとを反応させる工程
(工程32)工程31の反応生成物と臭化物と反応させる工程
工程31および32は連続して行うことができる。
【0042】
(工程31)
工程31は、具体的には一般式(IV)に示した化合物またはその塩をメシル化する工程である。
スルホン酸クロリドとして、たとえば、メタンスルホニルクロライドおよびトルエンスルホニルクロリドからなる群から選択される少なくとも一つの化合物が挙げられる。
スルホン酸クロリドの使用量は、反応性向上の観点から、一般式(IV)に示した化合物またはその塩に対して、たとえば0.1モル当量以上であり、好ましくは1モル当量以上であり、また、たとえば100モル当量以下であり、好ましくは5モル当量以下である。
【0043】
メシル化反応は、具体的には塩基中でおこなわれる。塩基として、たとえば、トリエチルアミン、ピリジンおよびDMFからなる群から選択される少なくとも一つの化合物が挙げられる。
塩基の使用量は、反応性向上の観点から、一般式(IV)に示した化合物またはその塩に対して、たとえば0.1モル当量以上であり、好ましくは1.0モル当量以上であり、また、たとえば10モル当量以下であり、好ましくは5モル当量以下である。
【0044】
メシル化反応は、たとえば溶媒中でおこうことができる。溶媒として、たとえば、THF、DMF、ジクロロメタン(DCM)、クロロホルムおよびニトロメタンなる群から選択される一または二以上の極性溶媒が挙げられる。工程31の反応をより安定におこなう観点から、反応溶媒は、好ましくはTHFまたはDCMであり、より好ましくはTHFである。
メシル化反応における塩基および溶媒は異なる化合物とすることが好ましく、塩基としてトリエチルアミンを用いるとともに溶媒をTMFとすることがより好ましい。
また、工程31および32の反応溶媒を同じものとすることも好ましい。
溶媒の使用量は、一般式(IV)に示した化合物またはその塩に対してモル濃度でたとえば0.01~10M程度とすることができ、0.1~0.5Mとすることが好ましい。
【0045】
反応温度は、たとえば-20℃程度から溶媒の沸点までとすることができるが、反応速度向上の観点から、好ましくは-10℃以上であり、より好ましくは-5℃以上である。また、収率向上の観点からは、反応温度は好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは10℃以下である。また、たとえば0℃程度で反応をおこなってもよい。
【0046】
また、反応時間は、反応温度、撹拌効率等により設定することができるが、たとえば10分~6時間、好ましくは30分~3時間とする。
【0047】
(工程32)
工程32においては、工程31で得られたメシル化物のFinkelstein反応により、アリルブロミド構造を有する一般式(V)に示した化合物またはその塩を得る。
臭化物として、たとえば、LiBrが挙げられる。
臭化物の使用量は、反応性向上の観点から、一般式(IV)に示した化合物またはその塩に対して、たとえば1.0モル当量以上であり、好ましくは8モル当量以上であり、また、たとえば100モル当量以下であり、好ましくは10モル当量以下である。
【0048】
Finkelstein反応は、たとえば溶媒中でおこうことができる。溶媒として、たとえば、THF、DMF、アセトン、ジクロロメタン、メチルエチルケトンおよびジエチルエーテルなる群から選択される一または二以上の極性溶媒が挙げられる。反応をより安定におこなう観点から、反応溶媒は、好ましくはTHFまたはDMFであり、より好ましくはTHFである。
溶媒の使用量は、一般式(IV)に示した化合物またはその塩に対してモル濃度でたとえば0.01~10M程度とすることができ、0.05~5Mとすることが好ましい。
【0049】
反応温度は、たとえば-20℃程度から溶媒の沸点までとすることができるが、反応速度向上の観点から、好ましくは-10℃以上であり、より好ましくは-5℃以上である。また、収率向上の観点からは、反応温度は好ましくは40℃以下であり、より好ましくは30℃以下、さらに好ましくは10℃以下である。また、たとえば0℃程度で反応をおこなってもよい。
【0050】
また、反応時間は、反応温度、撹拌効率等により設定することができるが、たとえば1分~4時間、好ましくは20分~2時間とする。
【0051】
(工程40)
工程40では、具体的には、一般式(V)に示した化合物またはその塩と一般式(VI)に示した化合物またはその塩とのSN2反応により、一般式(VII)に示した化合物またはその塩を形成する。
【0052】
一般式(VI)に示した化合物は、具体的にはリシン保護体である。リシン側鎖末端のアミノ基はフリーである。
一般式(VI)中、R3は水素原子またはアミノ保護基である。アミノ保護基は、たとえば、Boc基およびCbz基からなる群から選択される基であり、好ましくはBoc基である。一般式(VI)における2つのR3のうち少なくとも一つはアミノ保護基であり、2つのR3がいずれもアミノ保護基であるとき、2つのR3は同じであってもよいし異なっていてもよい。
R4はカルボキシ保護基である。カルボキシ保護基は、たとえば、tBu基、Bn基、メチル基およびエチル基からなる群から選択される基であり、好ましくはtBu基である。
一般式(VII)に示した化合物をさらに安定的に得る観点から、一般式(VI)中、2つのR3は好ましくはHおよびBoc基であり、R4は好ましくはtBu基である。
また、後述の工程50における脱保護工程を簡便にする観点から、R3の保護基と一般式(II)におけるR1の保護基とが同じであることが好ましく、また、R4と一般式(II)におけるR2とが同じであることも好ましい。
【0053】
一般式(VI)に示した化合物またはその塩の使用量は、反応性向上の観点から、一般式(V)に示した化合物またはその塩に対して、たとえば0.1モル当量以上であり、好ましくは1.0モル当量以上であり、また、たとえば10モル当量以下であり、好ましくは5モル当量以下である。
【0054】
SN2反応は、たとえば溶媒中でおこなうことができる。溶媒として、たとえば、KIのDMF溶液が挙げられる。工程40の反応をより安定におこなう観点から、反応溶媒は、好ましくはKIのDMF溶液である。
溶媒の使用量は、一般式(V)に示した化合物またはその塩に対してモル濃度でたとえば0.01~10M程度とすることができ、0.05~2Mとすることが好ましい。
【0055】
反応温度は、たとえば-20℃程度から溶媒の沸点までとすることができるが、反応速度向上の観点から、20℃以上が好ましい。また、生成物の安定性向上の観点からは40℃以下が好ましい。また、たとえば室温(25℃)環境下で反応をおこなってもよい。
【0056】
また、反応時間は、反応温度、撹拌効率等により設定することができるが、たとえば6~50時間、好ましくは12~24時間とする。
【0057】
(工程50)
工程50においては、工程40で得られた一般式(VII)に示した化合物またはその塩中のアミノ基およびカルボキシル基を脱保護することにより、式(I)に示した化合物またはその塩を得る。
脱保護には、R1、R2、R3およびR4の保護基の種類に応じて公知の方法を用いることができる。
たとえば、一般式(VII)中、2つのR3がHおよびBoc基、または、いずれもBoc基であり、R1がいずれもBoc基であり、R2およびR4がtBu基である場合には、たとえばトリフルオロ酢酸(TFA)水溶液等を用いた酸処理により、Boc基およびtBu基を同一工程で除去することができる。酸処理の条件は、たとえばTFA/水=95/5、室温とする。反応時間はたとえば1~5時間とすることができ、好ましくは2~3時間とする。
【0058】
以上の手順により、一般式(I)に示した化合物が得られる。一般式(I)に示した化合物は、好ましくはE体である。
本実施形態によれば、式(I)に示した化合物またはその塩を安定的に得ることができる。
【0059】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0060】
以下の例において、断りのない場合、すべての非水溶液系反応は、窒素雰囲気下でマグネチックスターラーで撹拌しながら実施した。室温で行われた反応に関し、確立された範囲には24~28℃の温度が含まれる。DMF、EtOHおよびTHF等の有機溶媒は、市販品を購入し活性化モレキュラーシーブス上で保存した。断りのない場合、すべての試薬は市販品を入手しさらに精製せずに用いた。薄層クロマトグラフィー(TLC)分析は、メルク社製 シリカゲル60 F254プレート上で実施した。カラムクロマトグラフィーは、シリカゲル60(球状、40~50μm)またはシリカゲル60N(球状、40~50μm)(以上、関東化学社製)、あるいは、Cosmosil 140C18-OPN(ナカライテスク社製)を用いて行った。少量の溶媒の除去は、コンビニエバポ(Smart Evaporator)CEV1B-SQ/SU/GR/SK-V1A-GR-P2(バイオクロマト社製)により行った。
旋光度の測定は、デジタル偏光計P-2200(日本分光社製)にて、ナトリウムランプ(λ=589nm)、D線にて行った。測定結果を[α]D
T(c g/100mL、溶媒)と示す。
1Hおよび13C核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、Bruker Avance III HD 400 spectrometer (400 MHz)またはJEOL JNM-ECA 500 spectrometer (500 MHz)により取得した。 1H NMRデータを以下のように示す:化学シフト (δ, ppm), 積分値, 多重度 (s, singlet; d, doublet; t, triplet; q, quartet; m, multiplet), 結合定数 (J、単位Hz), 帰属。13C NMRデータを化学シフト (δ, ppm)にて示す。エレクトロスプレーイオン化飛行時間型 (TOF) 質量分析計 (ESI-MS) スペクトルは、JEOL JMS-T100LC 装置にて取得した。結果を質量電荷比 (m/z) にて示す。メロデスモシンのNMRにおける炭素番号を以下に示す。
【0061】
【0062】
また、以下において、化合物5として、国際公開第2014/119479号に記載の方法を用いて製造されたものを用い、化合物3については常法で得たものを用いた。
【0063】
(実施例1)
本例では、以下の手順でmerodesmosine(化合物1)の全合成をおこなった。
【0064】
di-tert-butyl (2S,10S,E)-2,10-bis[bis(tert-butoxycarbonyl)amino]-5-formylundec-5-enedioate (化合物4) の合成:
【0065】
【0066】
化合物5 (101.3 mg, 0.252 mmol) の EtOH (0.076 mL) 溶液を室温で撹拌し、これにL-tryptophan (3.3 mg, 6.67 mol%) を添加した。溶液を室温にて66 h撹拌し、その後、酢酸エチル(EtOAc)で希釈し、H
2Oを添加して反応停止(クエンチ)した。EtOAcにて抽出後、有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄し、Na
2SO
4 を浸漬、乾燥後、真空中で濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane/EtOAc = 8/1) にて精製し、化合物4を無色油状物として得た (63.6 mg, 0.081 mmol, 64%); R
f 0.73 (hexane/EtOAc = 2/1); [α]
D
20 -26.5 (c 0.1, CHCl
3);
1H NMR (500 MHz, CDCl
3) 9.34 (1H, s, H1), 6.45-6.42 (1H, t, J = 7.5 Hz, H3), 4.73-4.68 (2H, m, H7/11), 2.42-2.25 (4H, m, H4/9), 2.12-2.02 (2H, m, H6), 1.96-1.79 (2H, m, H10), 1.71-1.62 (2H, m, H5), 1.50-1.49 (36H, br., Boc), 1.43 (18H, br. tBu);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) δ 194.5, 169.5, 154.7, 152.4, 152.3, 142.9, 129.5, 82.8, 82.7, 81.2, 81.1, 58.7, 58.6, 31.5, 29.6, 28.9, 28.3, 28.1, 28.0, 27.9, 25.6, 22.6, 21.2, 14.1; ESI-HRMS (m/z) calcd for C
40H
68N
2O
13 [M+Na]
+ 807.4619, found 807.4597。化合物4の
1H-NMRスペクトルおよび
13C-NMRスペクトルのチャートをそれぞれ
図1および
図2に示す。
【0067】
di-tert-butyl (2S,10S,E)-2,10-bis[bis(tert-butoxycarbonyl)amino]-5-(hydroxymethyl)undec-5-enedioate (化合物10)の合成:
【0068】
【0069】
化合物4 (41.4 mg, 0.053 mmol) の EtOH (0.40 mL) 溶液を 0 ℃ にて撹拌し、これにCeCl
3・7H
2O (21.6 mg, 0.058 mmol) を加えた。10 min後、NaBH
4 (2.2 mg, 0.058 mmol) を加え、反応混合物を0 ℃にて 1.5 h 撹拌した。飽和 NH
4Cl 水溶液 (10 mL) を添加して反応停止し、混合物を EtOAcにて抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水 (10 mL) にて洗浄し、Na
2SO
4 上で乾燥した後、真空中で濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane/EtOAc = 3/1) にて精製し、化合物10 を無色油状物として得た (31.6 mg, 0.040 mmol, 76%); R
f 0.47 (hexane/EtOAc = 2/1); [α]
D
20 -23.3 (c 0.1, CH
3OH);
1H NMR (500 MHz, CDCl
3) δ 5.42-5.39 (1H, t, J = 6.95 Hz, H3), 4.70-4.65 (2H, m, H7/11), 4.04-3.97 (2H, q, H1), 2.18-1.99 (6H, m, H4/9/6or10), 1.89-1.78 (2H, m, H6or10), 1.61-1.35 (2H, m, H5), 1.48 (36H, br., Boc), 1.42 (18H, s, tBu);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) δ 169.8, 152.4, 138.3, 127.4, 82.7, 82.6, 81.1, 81.0, 67.1, 58.8, 58.6, 28.8, 28.2, 28.0, 27.9, 27.0, 26.4, 25.2; ESI-HRMS (m/z) calcd for C
40H
70N
2NaO
13 [M+Na]
+ 809.4776, found 809.4776。化合物10の
1H-NMRスペクトルおよび
13C-NMRスペクトルのチャートをそれぞれ
図3および
図4に示す。
【0070】
di-tert-butyl (2S,10S,E)-2,10-bis[bis(tert-butoxycarbonyl)amino]-5-(bromomethyl)undec-5-enedioate (化合物11)の合成:
【0071】
【0072】
化合物10 (35.4 mg, 0.045 mmol) のTHF (0.25 mL) 溶液を撹拌し、triethylamine (Et
3N: 12.5 mL, 0.090 mmol) を添加した。溶液を0 ℃ に冷却し、methanesulfonyl chloride (MsCl: 4.2 mL, 0.054 mmol) を添加した。撹拌を2 h行った後、反応溶液にLithium bromide (32.6 mg, 0.375 mmol) の THF (0.15 mL) 溶液を加えて 1 h 撹拌した。溶液をEt
2O で希釈し、H
2Oを添加して反応停止した。Et
2O にて抽出後、有機層を合わせて飽和食塩水および飽和NaHCO
3で洗浄し、Na
2SO
4 上で乾燥した後、真空中で濃縮した。中性シリカゲルカラムクロマトグラフィー (hexane/EtOAc = 10/1) により精製し、臭化物である化合物 11を無色油状物として得た (27.9 mg, 0.033 mmol, 73%); R
f 0.73 (hexane/EtOAc = 2/1); [α]
D
20 -18.1 (c 0.1, CH
3OH);
1H NMR (500 MHz, CDCl
3) δ 5.61-5.58 (1H, t, J = 6.85 Hz, H3), 4.70-4.67 (2H, m, H7/11), 3.98 (2H, s, H1), 2.27-1.99 (6H, m, H4/9/6or10), 1.97-1.79 (2H, m, H6or10), 1.50 (36H, br, Boc), 1.44 (18H, br, tBu), 1.40-1.30 (2H, br., H5);
13C NMR (125 MHz, CDCl
3) δ 169.8, 152.6, 135.6, 132.6, 82.9, 82.8, 81.4, 81.3, 58.9, 58.8, 39.3, 29.8, 29.1, 28.2, 28.1, 27.8, 26.3, 25.5; ESI-HRMS (m/z) calcd for C
40H
69BrN
2NaO
12 [M+Na]
+ 871.3932, found 871.3920。化合物11の
1H-NMRスペクトルおよび
13C-NMRスペクトルのチャートをそれぞれ
図5および
図6に示す。
【0073】
di-tert-butyl (2S,10S,E)-2,10-bis[bis(tert-butoxycarbonyl)amino]-5-{[((S)-6-(tert-butoxy)-5-[(tert-butoxycarbonyl)amino]-6-oxohexyl)amino]methyl}undec-5-enedioate (化合物2) の合成:
【0074】
【0075】
アミンである化合物3 (31.5 mg, 0.104 mmol) をDMF (500 mL) 中に加えた。KI (1.00 mg, 0.006 mol) および化合物11 (53.1 mg, 0.063 mmol) を DMF (430 mL) 中に加え、これを上記化合物3のDMF液に加えた。反応溶液を室温にて20 h撹拌した。H
2O を加えて反応停止し、EtOAcにて抽出した。有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄し、Na
2SO
4 上で乾燥した後、真空中で濃縮した。中性シリカゲルカラムクロマトグラフィー (DCM/MeOH = 15/1) により精製し、化合物2を無色油状物として得た (46.7 mg, 0.044 mmol, 69%); R
f 0.47 (DCM/MeOH = 9/1); [α]
D
20 -20.2 (c 0.1, CH
3OH);
1H NMR (400 MHz, CDCl
3) δ 5.32-5.29 (1H, t, J = 6.6 Hz, H1), 5.03-5.00 (1H, d, J = 7.3, NHBoc), 4.69-4.63 (2H, m, H7/11), 4.16-4.11 (1H, br., H17), 3.21-3.10 (2H, br., H1), 2.56-2.53 (2H, t, J = 7.0 Hz, H13), 2.25-1.93 (8H, m, H4/9/16/6or10), 1.87-1.73 (4H, m, H14/6or10), 1.64-1.54 (4H, m, H5/15), 1.49 (36H, br, Boc), 1.42 (18H, s, tBu); 13C NMR (125 MHz, CDCl
3) δ 172.1, 170.0, 155.5, 152.6, 82.8, 82.7, 81.8, 81.4, 81.1, 79.6, 59.0, 58.9, 55.2, 54.1, 33.0, 29.8, 29.1, 28.5, 28.3, 28.2, 28.1, 27.4, 26.8, 26.3, 23.2; ESI-HRMS (m/z) calcd for C
55H
98N
4NaO
16 [M+Na]
+ 1093.6876, found 1093.6876。化合物2の
1H-NMRスペクトルおよび
13C-NMRスペクトルのチャートをそれぞれ
図7および
図8に示す。
【0076】
(2S,10S,E)-2,10-diamino-5-{[((S)-5-amino-5-carboxypentyl)amino]methyl}undec-5-enedioic acid, merodesmosine (化合物1)の合成:
【0077】
【0078】
化合物2 (46.7 mg, 0.044 mmol) を、TFA および蒸留水の混合物 (11.0 mL, TFA/H
2O = 95/5) に添加し、室温にて3h撹拌した。ロータリーエバポレータを用いて溶媒を除去した。C18 シリカゲルカラムクロマトグラフィー (0.1% TFA の蒸留水溶液)にて精製し、無色油状物として化合物1を得た (10.4 mg, 0.019 mmol, quant); [α]
D
20 +18.6 (c 0.4, H
2O);
1H NMR (500 MHz, D
2O) δ 5.71-5.68 (1H, t, J = 6.9 Hz, H3), 3.96-3.84 (3H, br, H7/11/17), 3,62 (2H, s, H1), 3.05-3.02 (2H, t, J = 7.5 Hz, H13), 2.29-2.17 (4H, m, H4/9), 1.96-1.86 (6H, m, H6/10/16), 1.76-1.73 (2H, m, H14), 1.60-1.42 (4H, m, H5/15);
13C NMR (125 MHz, D
2O) δ 173.8, 173.6, 173.5, 135.9, 129.7, 54.2, 54.1, 54.0, 52.5, 47.2, 30.1, 30.0, 29.4, 27.2, 25.6, 24.5, 24.4, 22.2; ESI-HRMS (m/z) calcd for C
18H
35N
4O
6 [M+H]
+ 403.2557, found 403.2565。化合物1のNMRチャートを
図9~
図14に示す。
図9~
図14は、それぞれ、化合物1の
1H-NMRスペクトル、
13C-NMRスペクトル、COSYスペクトル、NOESYスペクトル、HMQCスペクトルおよびHMBCスペクトルである。