(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024033988
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】バッテリーパック用弾性部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 50/293 20210101AFI20240306BHJP
H01M 50/291 20210101ALI20240306BHJP
【FI】
H01M50/293
H01M50/291
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022137951
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115657
【弁理士】
【氏名又は名称】進藤 素子
(74)【代理人】
【識別番号】100115646
【弁理士】
【氏名又は名称】東口 倫昭
(74)【代理人】
【識別番号】100196759
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 雪
(72)【発明者】
【氏名】森原 康滋
(72)【発明者】
【氏名】深川 繁
(72)【発明者】
【氏名】二村 安紀
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 信志
(72)【発明者】
【氏名】大山 幸男
【テーマコード(参考)】
5H040
【Fターム(参考)】
5H040AA07
5H040AS07
5H040AY05
5H040CC25
5H040CC28
5H040CC34
5H040JJ03
5H040LL04
5H040LL06
5H040NN01
(57)【要約】
【課題】 バッテリーセルの固定と膨張時の変形吸収とを両立することができるバッテリーパック用弾性部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 バッテリーパック用弾性部材4は、複数のバッテリーセル2が所定方向に並んで配置されるバッテリーパック1において、バッテリーセル2に弾接した状態で配置される。バッテリーパック用弾性部材4は、次の(a)~(d)を満足する発泡体からなる。(a)アスカーC硬度が20以上40以下である。(b)発泡倍率が3.0倍以上5.0倍以下である。(c)独泡率が50%以上95%以下である。(d)バッテリーセル2に弾接する方向を厚さ方向として、該厚さ方向の断面における気泡構造は、該厚さ方向に長い楕円状を呈する楕円形気泡を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリーセルが所定方向に並んで配置されるバッテリーパックにおいて、該バッテリーセルに弾接した状態で配置されるバッテリーパック用弾性部材であって、
次の(a)~(d)を満足する発泡体からなることを特徴とするバッテリーパック用弾性部材。
(a)アスカーC硬度が20以上40以下である。
(b)発泡倍率が3.0倍以上5.0倍以下である。
(c)独泡率が50%以上95%以下である。
(d)該バッテリーセルに弾接する方向を厚さ方向として、該厚さ方向の断面における気泡構造は、該厚さ方向に長い楕円状を呈する楕円形気泡を有する。
【請求項2】
前記楕円形気泡の長径と短径との比(長径/短径)は、1.4以上3.0以下である請求項1に記載のバッテリーパック用弾性部材。
【請求項3】
前記発泡体の前記厚さ方向の断面における気泡の平均径は、250μm以上600μm以下である請求項1に記載のバッテリーパック用弾性部材。
【請求項4】
厚さは、3mm以上5mm以下である請求項1に記載のバッテリーパック用弾性部材。
【請求項5】
請求項1に記載のバッテリーパック用弾性部材の製造方法であって、
前記発泡体の原料組成物を成形型内に配置する原料組成物配置工程と、
該原料組成物の表面にシート部材を配置するシート部材配置工程と、
該シート部材で表面が被覆された状態で該原料組成物を発泡成形する発泡成形工程と、
を有することを特徴とするバッテリーパック用弾性部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のバッテリーセルが収容されるバッテリーパックにおいて、隣接するバッテリーセル間などに配置される弾性部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車には、複数のバッテリーセルを収容したバッテリーパックが搭載される。バッテリーパックにおいては、複数のバッテリーセルが積層されてなるバッテリーモジュールが、積層方向の両側から締結部材により固定された状態で筐体内に収容される。車両の走行時の振動などによるバッテリーセルの位置ずれを抑制したり、充放電によるバッテリーセルの変形(膨張、収縮)を吸収するために、隣接するバッテリーセル間には、バッテリーセルの変形に追従して弾性変形可能な弾性部材が配置される。
【0003】
例えば、特許文献1には、隣接するバッテリーセル間に配置される多層シートが記載されている。特許文献1の
図3に示されているように、多層シートは、バッテリーセルの積層方向に、第1熱伝導シート/断熱シート/ゴムシート/断熱シート/第1熱伝導シートが積層されてなる。ゴムシートはクッション性を有し、バッテリーセルと第1熱伝導シートとの密着性を高めると共に、荷重による第1熱伝導シートおよび断熱シートの破損を抑制している。ゴムシートとしては、シリコーンゴムの発泡体シートが挙げられている。また、特許文献2には、隣接するバッテリーセル間に配置され、バッテリーセルをセル収容空間の壁面に押し付けるためのシート状の押し付け部材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-99940号公報
【特許文献2】特開2020-64795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
弾性部材には、バッテリーセルの充放電に伴う膨張、収縮に追従して弾性変形することにより、バッテリー性能を十分に発現させることが要求される。すなわち、バッテリーセルの放電(収縮)時には弾性部材の付勢力によりバッテリーセルを固定し、バッテリーセルの充電(膨張)時には、自身が圧縮変形することによりバッテリーセルの変形を吸収できることが必要になる。
【0006】
例えば、上記特許文献2の段落[0049]には、押し付け部材は、ゴムや樹脂の発泡体を含んで構成することが記載されており、段落[0050]には、発泡体の発泡倍率により、バッテリーセルに対する押し付け力およびバッテリーセルの膨張力の吸収具合を調整することが記載されている。しかしながら、例えば発泡倍率を小さくすると、気泡の含有割合が小さくなり硬くなる。結果、圧縮時の応力(反発力)が大きくなり、弾性部材(発泡体)が圧縮変形しにくくなる。反対に、発泡倍率を大きくすると、気泡の含有割合が大きくなり硬さは小さくなる。これにより、圧縮時の応力が小さくなり、弾性部材が圧縮されやすくなるため、バッテリーセルの膨張による変形を吸収することができるが、低圧縮時の反発力が小さくなりバッテリーセルに対する付勢力が不足する。このように、発泡倍率を調整するだけでは、収縮時のバッテリーセルの固定と、膨張時の変形吸収と、を両立することは難しい。
【0007】
本開示は、このような実情に鑑みてなされたものであり、バッテリーセルの固定と膨張時の変形吸収とを両立することができるバッテリーパック用弾性部材およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本開示のバッテリーパック用弾性部材は、複数のバッテリーセルが所定方向に並んで配置されるバッテリーパックにおいて、該バッテリーセルに弾接した状態で配置されるバッテリーパック用弾性部材であって、次の(a)~(d)を満足する発泡体からなることを特徴とする。
(a)アスカーC硬度が20以上40以下である。
(b)発泡倍率が3.0倍以上5.0倍以下である。
(c)独泡率が50%以上95%以下である。
(d)該バッテリーセルに弾接する方向を厚さ方向として、該厚さ方向の断面における気泡構造は、該厚さ方向に長い楕円状を呈する楕円形気泡を有する。
【0009】
本開示のバッテリーパック用弾性部材(以下、単に「弾性部材」と称する場合がある)においては、材料としての発泡体の硬度、気泡構造を最適化して、バッテリーセル(以下、単に「セル」と称する場合がある)の収縮時における拘束力と、膨張時における変形吸収と、を両立している。
【0010】
第一に、アスカーC硬度を(a)の範囲にすることにより、弾性部材として必要な硬さを確保する。これにより、バッテリーセルが収縮してもセルに対する付勢力が低下しにくく、セルを固定することができる。第二に、発泡倍率を(b)の範囲にし、独泡率(独立気泡率)を(c)の範囲にし、気泡形状を(d)に規定される形状にすることにより、弾性部材における主に高圧縮時の応力を小さくする。これにより、バッテリーセルの膨張時に弾性部材が圧縮されやすくなり、セルの膨張による変形を吸収することができる。
【0011】
(2)上記構成において、前記楕円形気泡の長径と短径との比(長径/短径)は、1.4以上3.0以下である構成としてもよい。本構成によると、厚さ方向の断面において観察される楕円形気泡の形状を所望の楕円状にすることができる。本構成は、弾性部材の硬さと、高圧縮時の応力低下と、の両方を実現するのに好適である。
【0012】
(3)上記いずれかの構成において、前記発泡体の前記厚さ方向の断面における気泡の平均径は、250μm以上600μm以下である構成としてもよい。本構成によると、発泡体の気泡の大きさを所望の大きさにすることができる。本構成は、弾性部材の硬さと、高圧縮時の応力低下と、の両方を実現するのに好適である。
【0013】
(4)上記いずれかの構成において、弾性部材の厚さは、3mm以上5mm以下である構成としてもよい。本構成によると、弾性部材が薄いため、バッテリーパック内の限られたスペースに配置するのに好適である。また、本構成によると、バッテリーセルが大きく膨張しても、弾性部材を介して隣接するバッテリーセル同士の間隔を確保して、セル間の絶縁を維持することができる。なお、上記(1)~(4)の構成を全て組み合わせるとより効果的である。
【0014】
(5)本開示のバッテリーパック用弾性部材の製造方法の一形態である本開示のバッテリーパック用弾性部材の製造方法は、前記発泡体の原料組成物を成形型内に配置する原料組成物配置工程と、該原料組成物の表面にシート部材を配置するシート部材配置工程と、該シート部材で表面が被覆された状態で該原料組成物を発泡成形する発泡成形工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
本開示の製造方法においては、原料組成物の表面にシート部材を配置した状態で発泡成形する。これにより、原料組成物の面方向(厚さ方向と直交する方向)への発泡反応が規制される。結果、発泡反応時に気泡が厚さ方向に成長しやすくなり、厚さ方向に長軸(長さが最大になる部分)が配向した楕円球状の気泡を形成することができる。また、発泡倍率を大きくしても、シート状の発泡体を成形することができる。
【発明の効果】
【0016】
本開示のバッテリーパック用弾性部材によると、バッテリーセルの固定と膨張時の変形吸収とを両立することができる。本開示の製造方法によると、発泡反応時の気泡の成長方向を制御することができ、発泡倍率を大きくすることができるため、本開示のバッテリーパック用弾性部材を比較的簡単に低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示の弾性部材が配置されたバッテリーパックの断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示のバッテリーパック用弾性部材およびその製造方法の実施の形態について説明する。なお、実施の形態は以下の形態に限定されるものではなく、当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することができる。
【0019】
<バッテリーパック用弾性部材>
本開示の弾性部材は、複数のバッテリーセルが所定方向に並んで配置されるバッテリーパックにおいて、バッテリーセルに弾接した状態で配置される。本開示の弾性部材が適用されるバッテリーパックにおいて、バッテリーセルの種類は特に限定されない。例えば、リチウムイオン電池、ニッケル水素電池などが挙げられる。バッテリーパックにおいて、バッテリーセルおよび弾性部材以外の構成要素は特に限定されない。例えば、複数のセルと弾性部材とを積層してバッテリーモジュールを構成し、バッテリーモジュールを積層方向の両側から締め付ける締結部材と共に筐体に収容して、バッテリーパックを構成することができる。
【0020】
本開示の弾性部材の配置形態、バッテリーセルなどに対する大きさは特に限定されない。弾性部材は、積層方向に隣接するセル間に配置してもよく、積層方向両端のセルと締結部材などとの間に配置してもよい。本開示の弾性部材の「バッテリーセルに弾接した状態」は、直接的でも間接的でもよい。すなわち、本開示の弾性部材は、バッテリーセルに対して直接的に接していてもよいし、例えば断熱シートなどを介して間接的に接していてもよい。弾性部材は、隣接する部材に固定されてもされなくてもよい。固定する場合には、接着剤、両面テープを用いて貼り付けたり、圧着したりすればよい。
【0021】
弾性部材の厚さは、配置スペース、セル間の絶縁確保などを考慮して適宜決定すればよい。例えば、薄型化の観点においては、6mm以下さらには5mm以下にすることが望ましい。他方、セルの膨張時に、弾性部材を介して隣接するセル同士の間隔を十分に確保するという観点においては、2mm以上、さらには3mm以上にすることが望ましい。なお、弾性部材は、バッテリーパックにおける配置場所により、厚さなどの大きさを変えてもよい。
【0022】
本開示の弾性部材は、次の(a)~(d)を満足する発泡体からなる。
(a)アスカーC硬度が20以上40以下である。
発泡体のアスカーC硬度が20未満の場合には、低圧縮時の反発力が小さいため、バッテリーセルに対する付勢力が不足して位置ずれなどを十分に抑制できないおそれがある。より好適なアスカーC硬度は25以上である。反対に、発泡体のアスカーC硬度が40より大きくなると、発泡体(弾性部材)の圧縮応力が大きくなり、バッテリーセルの膨張に追従して変形することが難しくなる。より好適なアスカーC硬度は38以下である。
【0023】
本明細書において、発泡体のアスカーC硬度は、タイプC硬さ試験機(例えば、高分子計器(株)製「アスカーゴム硬度計C型」)を用いて、次の測定方法にて得られる値を採用する。測定方法:厚さ10mmの試験片を準備し、その中央部にタイプC硬さ試験機の押針を荷重1kgf(9.81N)で押し当て、3秒後の値を測定する。
【0024】
(b)発泡倍率が3.0倍以上5.0倍以下である。
発泡体の発泡倍率が3.0倍未満の場合には、気泡が少なくソリッドに近づくため、発泡体の圧縮応力が大きくなり、バッテリーセルの膨張に追従して変形することが難しくなる。より好適な発泡倍率は3.1倍以上である。反対に、発泡体の発泡倍率が5.0倍より大きくなると、気泡が多くなり硬度が低下して、低圧縮時の反発力が小さくなる。結果、バッテリーセルに対する付勢力が不足して位置ずれなどを十分に抑制できないおそれがある。より好適な発泡倍率は4.9倍以下である。
【0025】
発泡体の発泡倍率は、発泡体を製造する過程において、発泡成形前後の密度を各々測定し、次式(I)により算出すればよい。
発泡倍率=発泡体の原料組成物の密度/発泡体の密度 ・・・(I)
【0026】
(c)独泡率が50%以上95%以下である。
発泡体の独泡率が50%未満の場合には、連続気泡が多くなり発泡体への空気の出入りが多くなるため、硬度が低下して、低圧縮時の反発力が小さくなる。より好適な独泡率は60%以上、さらには65%以上である。反対に、発泡体の独泡率が95%より大きくなると、発泡体の圧縮応力が大きくなりすぎるおそれがある。より好適な独泡率は90%未満、さらには88%以下である。
【0027】
本明細書において、発泡体の独泡率は、次の方法にて測定される値を採用する。測定方法中、「発泡体」と「ソリッド体」とは、いずれもポリマーであり、発泡剤の有無のみが異なる。
(i)発泡体およびソリッド体の両方から、一辺1~2cmのサイコロ状の試験片を切り出す。以下の測定には、これらの試験片を用いる。まず、発泡体の密度、ソリッド体の密度、および発泡体の乾燥質量を測定する。質量および密度の測定は、23℃下で行う(以下同じ)。
(ii)発泡体を水中に沈めて約4kPa(30mmHg)まで減圧し、3分間放置する。そのままの状態で常圧に戻し、さらに3分間放置した後、取り出して表面の水分を拭き取り、吸水後の発泡体の質量を測定する。
(iii)次の計算式より連泡率を求め、その値から独泡率を算出する。
発泡体の乾燥質量をWdry(g)、発泡体の吸水後の質量をWwet(g)、発泡体の密度をDf(g/cm3)、ソリッド体の密度をDs(g/cm3)とすると、気泡の総体積A(cm3)は、[A=(Wdry/Df)-(Wdry/Ds)]となる。また、水の密度を1g/cm3とした場合、連泡化した気泡の体積B(cm3)は、[B=Wwet-Wdry]となる。連泡率は、気泡の総体積に占める連泡化した気泡の体積割合であるから、連泡率(%)は、[連泡率=100×(B/A)]となる。また、独泡率(%)は、[独泡率=100-連泡率]により算出される。
【0028】
(d)バッテリーセルに弾接する方向を厚さ方向として、厚さ方向の断面における気泡構造は、厚さ方向に長い楕円状を呈する楕円形気泡を有する。
発泡体の気泡形状は、厚さ方向の断面を顕微鏡で観察して特定することができる。楕円形気泡は、球状の気泡が、発泡成形時に厚さ方向に作用する応力により引き延ばされたり、厚さ方向と直交する方向に作用する応力により圧縮されたりすることにより、楕円球状に形成された気泡であると考えられる。厚さ方向の断面に楕円形気泡が存在する場合、換言すると、発泡体が、厚さ方向に長軸が配向した楕円球状の気泡を有する場合には、それが存在しない、または少ない場合と比較して、発泡体の厚さ方向における圧縮応力をより小さくすることができる。これにより、バッテリーセルの膨張時に大きく圧縮することが可能になり、セルの膨張による変形を吸収することができる。
【0029】
楕円形気泡の扁平の程度は、特に限定されない。例えば、厚さ方向の断面における楕円形気泡の長径と短径との比(長径/短径、以下、「アスペクト比」と称する場合がある))は、1.4以上3.0以下であることが望ましい。楕円形気泡のアスペクト比は、発泡体の厚さ方向の断面の顕微鏡写真を撮影し、観察される楕円形気泡の最大長さを長径とし、長径の垂直二等分線の長さを短径として、長径を短径で除して算出すればよい。本開示の弾性部材においては、得られた顕微鏡写真を画像解析により二値化処理、ノイズ除去処理した後、凸度0.84以上を閾値として得られる気泡のアスペクト比の平均値が、1.4以上であることが望ましい。
【0030】
発泡体の厚さ方向の断面において観察される気泡は、全て楕円形気泡でもよいが、楕円形気泡と、円形状の円形気泡やそれ以外の異形状気泡と、が混在していてもよい。厚さ方向の断面において観察される気泡の平均径は、圧縮応力を小さくするという観点においては、250μm以上であることが望ましい。320μm以上であるとより好適である。他方、所望の硬さを確保するという観点においては、600μm以下であることが望ましい。550μm以下であるとより好適である。気泡の平均径は、発泡体の厚さ方向の断面の顕微鏡写真を倍率100倍で撮影し、観察される個々の気泡の最大長さを測定し、その平均値を算出した値である。
【0031】
本開示の弾性部材は、前述した(a)~(d)に加えて、例えば次の(e)、(f)の物性を有することが望ましい。
【0032】
(e)密度が250kg/m3以上500kg/m3以下である。
発泡体の密度が250kg/m3(0.25g/cm3)未満の場合には、硬度が低下して、低圧縮時の反発力が小さくなる。結果、バッテリーセルに対する付勢力が不足して位置ずれなどを十分に抑制できないおそれがある。反対に、発泡体の密度が500kg/m3(0.5g/cm3)より大きい場合には、発泡体の圧縮応力が大きくなり、バッテリーセルの膨張に追従して変形することが難しくなる。
【0033】
(f)25%圧縮応力が0.235MPa以上1.015MPa以下である。
25%圧縮応力とは、発泡体を厚さ方向(バッテリーセルに弾接する方向)に25%(厚さが3/4になるまで)圧縮するのに必要な力である。発泡体の25%圧縮応力が0.235MPa未満の場合には、低圧縮時の反発力が小さいため、バッテリーセルに対する付勢力が不足して位置ずれなどを十分に抑制できないおそれがある。反対に、発泡体の25%圧縮応力が1.015MPaより大きい場合には、バッテリーセルの膨張に追従して変形することが難しくなる。本明細書において、25%圧縮応力は、JIS K6254:2016に規定されるC法に準じて測定された値を採用する。
【0034】
以下に、本開示の弾性部材の一実施形態を示す。
図1に、本開示の弾性部材が配置されたバッテリーパックの断面模式図を示す。図中の方位については、バッテリーセルの並び方向(各部材の厚さ方向、積層方向)をX方向、X方向に直交する二方向のうち、バッテリーセルの長手方向をY方向、短手方向(重力方向に対応する方向)をZ方向としている。まず、本実施形態のバッテリーパックの構成を説明する。
図1に示すように、バッテリーパック1は、筐体10と、複数のバッテリーセル2と、断熱材3と弾性部材4と、を有している。
【0035】
筐体10は、金属製であり箱状を呈している。複数のバッテリーセル2は、リチウムイオン電池からなり、筐体10に収容されている。複数のバッテリーセル2は、各々、長方形薄板状を呈しており、厚さ方向(X方向)に積層されている。断熱材3は、厚さ2mmの長方形シート状を呈している。断熱材3は、シリカエアロゲルを含む断熱層を有している。隣り合うバッテリーセル2の間において、断熱材3は、バッテリーセル2の片面、すなわちY-Z面の一方に接している。弾性部材4は、厚さ4.5mmの長方形シート状を呈している。弾性部材4は、前述した(a)~(d)を満足するシリコーンゴムの発泡体からなる。隣り合うバッテリーセル2の間において、弾性部材4は、バッテリーセル2の片面(Y-Z面)に弾接されている。断熱材3および弾性部材4は、厚さ方向(X方向)に積層された状態で、隣り合うバッテリーセル2の間、およびX方向の両端のバッテリーセル2と筐体10との間に配置されている。
【0036】
次に、本実施形態の弾性部材およびバッテリーパックの作用効果を説明する。弾性部材4は、バッテリーセル2に弾接し、バッテリーセル2の充放電時の膨張、収縮に追従して圧縮、復元を繰り返す。これにより、車両の走行時などにおけるバッテリーセル2の位置ずれが抑制されると共に、バッテリーセル2の膨張による変形が吸収される。結果、バッテリーセル2の性能を十分に発現させることができる。また、一つのバッテリーセル2の温度が何らかの原因で上昇した場合、この熱が隣接するバッテリーセル2に伝達されると、熱の連鎖により重大な事象を招くおそれがある。この点、本実施形態においては、弾性部材4と共に断熱材3を配置することにより、断熱材3による断熱効果が発揮され、熱の連鎖を回避することができる。
【0037】
<バッテリーパック用弾性部材の製造方法>
本開示の弾性部材の製造方法は特に限定されない。好適な製造方法の一形態として、本開示の弾性部材の製造方法は、原料組成物配置工程と、シート部材配置工程と、発泡成形工程と、を有する。以下、各工程について説明する。
【0038】
[原料組成物配置工程]
本工程は、発泡体の原料組成物を成形型内に配置する工程である。原料組成物は、発泡体のベースポリマーの他、必要に応じて、架橋剤、触媒、発泡剤、整泡剤などを含む。これらの原料を、予めプロペラなどを用いて機械的に攪拌して原料組成物として、成形型に注入すればよい。ベースポリマーの種類は、特に限定されないが、温度依存性が小さいという観点から、シリコーンゴム、エチレン-プロピレンゴム(EP)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、イソプレンゴム(IR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのゴムが望ましい。また、架橋剤、触媒、発泡剤などの配合量は、硬度、発泡倍率などが所望の範囲になるよう適宜調整すればよい。
【0039】
[シート部材配置工程]
本工程は、先の工程において成形型内に配置された原料組成物の表面にシート部材を配置する工程である。シート部材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリイミドなどの樹脂フィルム、樹脂繊維などから形成された布などを用いればよい。なかでも、原料組成物の発泡、硬化反応過程においては原料組成物に密着し、反応後に生成した発泡体には付着しにくい材料が望ましい。このような材料として、ポリイミドフィルムが好適である。シート部材は、離型剤などがコーティングされているものでもよい。シート部材の厚さは、取り扱い性を考慮すると、10μm以上にするとよい。また、原料組成物との密着性や、発泡、硬化反応に対する影響を考慮すると、シート部材は薄い方が望ましく、例えば200μm以下にするとよい。
【0040】
シート部材は、発泡反応の方向を規制するという観点から、原料組成物の表面に配置すればよいが、規制力をより大きくするという観点から、成形型の底部にも配置するとよい。この場合、予め成形型の底部にシート部材を配置しておき、そこに原料組成物を注入すればよい。
【0041】
[発泡成形工程]
本工程は、シート部材で表面が被覆された状態で原料組成物を発泡成形する工程である。原料組成物の表面がシート部材で被覆されることにより、面方向(厚さ方向と直交する方向)への発泡反応が規制され、気泡が厚さ方向に成長しやすくなる。発泡成形する際の温度、圧力、時間などは、ベースポリマーの種類に応じて、発泡反応、硬化反応の進み方、発泡倍率などを考慮して、適宜決定すればよい。発泡成形は、一段階で行ってもよいが、条件を変更するなどして二段階または三段階に分けて行ってもよい。例えば、第一段階として、所定の成形温度よりも低温下で発泡、硬化反応を一部進行させた後、第二段階として、所定の成形温度下で発泡、硬化反応を完了させてもよい。この場合、第一段階の時間が短いと、硬化反応が進行しにくいため発泡反応が進行し、反対に時間が長いと、硬化反応が進行するため発泡反応は進行しにくくなる。よって、第一段階の反応時間を変更することにより、発泡倍率などを調整することができる。発泡成形が完了した後は、シート部材を剥がして発泡体を得る。この後、必要に応じて、所定の温度下で発泡体を保持する熱処理などを施してもよい。
【実施例0042】
次に、実施例を挙げて本開示をより具体的に説明する。
【0043】
<弾性部材サンプルの製造>
[実施例1]
次のようにして、実施例1の弾性部材サンプルを製造した。まず、発泡体のベースポリマーとしてのシリコーンゴムa(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「TSE221-5U」)100質量部と、架橋剤aとしてのジ-(4-メチルベンゾイル)パーオキシド(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「TC-12」)0.2質量部と、架橋剤bとしての2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「TC-8」)1.4質量部と、発泡剤としての1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1フェニルエタン)(大塚化学(株)製「OT AZO-15」)3質量部と、を常温下で攪拌して原料組成物を準備し、それを成形型(150tプレス機)に注入した(原料組成物配置工程)。成形型の底部には、予めポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製「カプトン(登録商標)50H」、厚さ12.5μm)を敷いておき、その上に原料組成物を注入した。次に、底部に敷いたものと同じポリイミドフィルムを、原料組成物の表面全体を覆うように配置した(シート部材配置工程)。ポリイミドフィルムは、本開示の製造方法におけるシート部材の概念に含まれる。
【0044】
発泡成形工程は二段階で行い、第一段階として、圧力150t、狙い厚さ1mm、温度100℃下で3分間、発泡成形を行った。続いて、第二段階として、圧力150t、狙い厚さ4.5mm、温度170℃下で10分間、発泡成形を行った。脱型後、得られたシリコーンゴム発泡体の表裏両面からポリイミドフィルムを剥離して、シリコーンゴム発泡体を温度200℃のオーブン内に4時間保持して熱処理を行った。このようにして、厚さ4.5mmのシート状のシリコーンゴム発泡体(実施例1の弾性部材サンプル)を製造した。
【0045】
[実施例2]
実施例1の弾性部材サンプルの製造方法において、発泡体のベースポリマーをシリコーンゴムb(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製「TSE221-7U」)に変更した点、および発泡成形工程の第一段階の時間を1分間に短縮した点以外は、実施例1と同様にして、実施例2の弾性部材サンプルを製造した。
【0046】
[実施例3]
実施例1の弾性部材サンプルの製造方法において、発泡体のベースポリマーをシリコーンゴムb(同上)に変更した点、および発泡成形工程の第一段階の時間を2分間に短縮した点以外は、実施例1と同様にして、実施例3の弾性部材サンプルを製造した。
【0047】
[実施例4]
発泡体のベースポリマーをシリコーンゴムb(同上)に変更した点以外は、実施例1と同様にして、実施例4の弾性部材サンプルを製造した。
【0048】
[実施例5]
実施例1の弾性部材サンプルの製造方法において、発泡体のベースポリマーをシリコーンゴムb(同上)に変更した点、および発泡成形工程の第一段階の時間を4分間に延長した点以外は、実施例1と同様にして、実施例5の弾性部材サンプルを製造した。
【0049】
[比較例1]
タイガースポリマー(株)製の高発泡シリコーンゴムシート「E15」を準備して、比較例1の弾性部材サンプルとした。
【0050】
[比較例2]
タイガースポリマー(株)製の低発泡シリコーンゴムシート「SPO-35R1」を準備して、比較例2の弾性部材サンプルとした。
【0051】
[比較例3]
(株)イノアックコーポレーション製の高発泡シリコーンゴムシート「HT-800」を準備して、比較例3の弾性部材サンプルとした。
【0052】
<評価方法>
[密度]
各サンプルの密度を、(株)東洋精機製作所製の比重計「DSG-1」を用いて測定した。
【0053】
[アスカーC硬度]
各サンプルのアスカーC硬度を、高分子計器(株)製の「アスカーゴム硬度計C型」を用いて測定した。測定には、同じ製造方法で別途硬度測定用に製造した、厚さ10mmの試験片を用いた。そして、試験片の中央部に押針を荷重1kgf(9.81N)で押し当てて3秒後の値を測定した。
【0054】
[発泡倍率]
実施例のサンプルについては、前述した式(I)に従い、原料組成物の密度を各サンプルの密度で除して発泡倍率を算出した。原料組成物の密度についても、(株)東洋精機製作所製の比重計(同上)を用いて測定した。比較例のサンプルについては、サンプルの密度にはカタログ値を用い、原料組成物の密度にはソリッド体の密度を推定した推定値を用いて算出した。
【0055】
[独泡率]
前述した(i)~(iii)の測定方法により独泡率を算出した。なお、比較例のサンプルにおけるソリッド体の密度については、推定値を用いた。
【0056】
[気泡構造]
マイクロスコープを用いて各サンプルの厚さ方向の断面写真を倍率30倍で撮影し、気泡構造を調べた。断面写真については、No-Local Means Noising法による画像解析により二値化およびノイズ除去を実施した。二値化処理は、h:13、Template:21、Serch:35、BlockSize:87、C:2にて実施し、ノイズ除去は、noize:500で行った。ここで、hはフィルタの強さ、Templateは検索する部分の大きさ、Serchは検索するエリアの大きさ、BlockSizeは閾値を計算するために参照するエリアの大きさ、Cは閾値の補正である。そして、凸度(solidity)0.84を閾値として残った形状のアスペクト比(長径(最大長さ)/短径)を測定し、気泡形状を認定した。本実施例においては、アスペクト比が1.4以上である場合を「楕円形」、アスペクト比が1.4未満の場合を「円形」と認定した。なお、各サンプルにおいて「楕円形」と認定された気泡は、全て厚さ方向に長い楕円状を呈していた。他方、「円形」と認定された気泡においては、長径の向きは一定ではなく、厚さ方向への配向性は見られなかった。また、マイクロスコープを用いて各サンプルの厚さ方向の断面写真を倍率100倍で撮影し、観察される個々の気泡の最大長さを測定し、その平均値を算出して平均径とした。
【0057】
[25%圧縮応力]
JIS K6254:2016に規定されるC法に準じて、各サンプルを厚さ方向に25%(厚さが3.4mmになるまで)圧縮するのに必要な力を測定した。測定には、同じ製造方法で別途圧縮応力測定用に製造した、80mm角、厚さ4.5mmの直方体状試験片を用いた。
【0058】
<測定結果>
表1に、各サンプルの原料組成物の組成および物性などの測定結果をまとめて示す。表1における総合評価には、前述した(a)~(d)の全てを満足し、かつ、25%圧縮応力が0.235MPa以上1.015MPa以下の場合を○印で示し、これらのいずれかを満たさない場合を×印で示している。
【表1】
【0059】
表1に示すように、実施例1~5のサンプルにおいては、(a)~(d)の全てを満足し、かつ、25%圧縮応力が0.235MPa以上1.015MPa以下であった。これにより、実施例1~5のサンプルは、バッテリーパック用弾性部材として好適であることが確認された。これに対して、比較例1のサンプルにおいては、(a)~(c)を満たすものの、厚さ方向に長い楕円形気泡を有しないため(d)を満たさない。このため、実施例のサンプルと比較して25%圧縮応力が小さくなり、低圧縮時の反発力が十分得られないという結果になった。また、25%圧縮応力が小さいため、高圧縮時には変形量が大きくなり、隣接するバッテリーセル同士の間隔を十分に確保することが難しいと考えられる。また、比較例2のサンプルにおいては、アスカーC硬度が大きく発泡倍率が小さくなり、(a)、(b)を満たさない。このため、実施例のサンプルと比較して25%圧縮応力が大きくなった。また、比較例3のサンプルにおいては、アスカーC硬度が小さく、(a)を満たさない。このため、実施例のサンプルと比較して25%圧縮応力が小さくなった。以上より、比較例1~3のサンプルは、バッテリーパック用の弾性部材には適さないことが確認された。