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特開2024-340エンジンオイル劣化度判定方法、情報処理装置、エンジンオイル劣化度判定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000340
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】エンジンオイル劣化度判定方法、情報処理装置、エンジンオイル劣化度判定プログラム
(51)【国際特許分類】
   F01M 11/10 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
F01M11/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022099073
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 温
(74)【代理人】
【識別番号】100135862
【弁理士】
【氏名又は名称】金木 章郎
(72)【発明者】
【氏名】大宮 尊
(72)【発明者】
【氏名】羽生田 清志
【テーマコード(参考)】
3G015
【Fターム(参考)】
3G015EA31
3G015FC08
(57)【要約】
【課題】 エンジンオイルの全般的な性状に基づいて、客観的に劣化を判断できるエンジンオイル劣化度判定方法、情報処理装置、エンジンオイル劣化度判定プログラムを提供する。
【解決手段】 エンジンオイルの劣化度を判断するための判断用情報を生成する判断用情報生成ステップであって、前記判断用情報は、エンジンオイルの性状を示す少なくとも1つの性状パラメータの計測データに基づいて決定された少なくとも1つの特徴量パラメータを有する、判断用情報生成ステップと、分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用開始前の値と、前記分析対象のエンジンオイルの使用時における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用時の値と、に基づいて、前記分析対象のエンジンオイルの劣化度を決定する分析対象劣化度決定ステップと、を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンオイルの劣化度を判断するための判断用情報を生成する判断用情報生成ステップであって、前記判断用情報は、エンジンオイルの性状を示す少なくとも1つの性状パラメータの計測データに基づいて決定された少なくとも1つの特徴量パラメータを有する、判断用情報生成ステップと、
分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用開始前の値と、前記分析対象のエンジンオイルの使用時における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用時の値と、に基づいて、前記分析対象のエンジンオイルの劣化度を決定する分析対象劣化度決定ステップと、を備えるエンジンオイル劣化度判定方法。
【請求項2】
前記性状パラメータは、
第1の劣化度を示す第1の性状パラメータと、
前記第1の劣化度よりも小さい傾向となる第2の劣化度を示す第2の性状パラメータと、を含み、
前記第2の性状パラメータの計測データの許容範囲に基づいて、前記第1の性状パラメータの計測データを選択する第1のデータ選択ステップを、さらに備える、請求項1に記載のエンジンオイル劣化度判定方法。
【請求項3】
前記性状パラメータは、
前記第1の性状パラメータの計測データの許容範囲に基づいて、前記第1の性状パラメータの計測データを選択する第2のデータ選択ステップを、さらに備える、請求項2に記載のエンジンオイル劣化度判定方法。
【請求項4】
前記分析対象劣化度決定ステップにおける前記分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状が、交換された時点のエンジンオイルの性状である、請求項1に記載のエンジンオイル劣化度判定方法。
【請求項5】
エンジンオイルの劣化度を判断するための判断用情報を生成する判断用情報生成ステップであって、前記判断用情報は、エンジンオイルの性状を示す少なくとも1つの性状パラメータの計測データに基づいて決定された少なくとも1つの特徴量パラメータを有する、判断用情報生成部と、
分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用開始前の値と、前記分析対象のエンジンオイルの使用時における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用時の値と、に基づいて、前記分析対象のエンジンオイルの劣化度を決定する分析対象劣化度決定部と、を備える情報処理装置。
【請求項6】
エンジンオイルの劣化度を判断するための判断用情報を生成する判断用情報生成ステップであって、前記判断用情報は、エンジンオイルの性状を示す少なくとも1つの性状パラメータの計測データに基づいて決定された少なくとも1つの特徴量パラメータを有する、判断用情報生成ステップと、
分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用開始前の値と、前記分析対象のエンジンオイルの使用時における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用時の値と、に基づいて、前記分析対象のエンジンオイルの劣化度を決定する分析対象劣化度決定ステップと、を備えるエンジンオイル劣化度判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンオイルの劣化度を判定する方法や装置やプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンオイルの劣化の度合いを判定するものとして、カメラで撮像した画像データを用いて、画像データに含まれる不均一成分の値によって汚染の有無を判断するものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、赤外センサによる測定値が所定のしきい値を超えたか否かでエンジンオイルの寿命を予測するものがあった(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらにまた、エンジンオイルに含まれる残留炭素の量からエンジンオイルの劣化の程度を判断するものがあった(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
また、摩耗粒子の数や、単位時間当たりの摩耗粒子の数の増加数などから、寿命を予測するものがあった(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
また、グリースの反射率に基づいてグリースの寿命を推定するものがあった(例えば、特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開2020/203995号
【特許文献2】国際公開2016/114302号
【特許文献3】特開2020-159279号
【特許文献4】特開2016-197062号
【特許文献5】特開2014-85193号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した従来の技術は、エンジンオイルの特定の性状を示すパラメータなどによって劣化などを判断するものであった。このため、特定の性状以外の他の性状が劣化した場合であっても、検出することができず、劣化の程度を客観的に判断することが困難であった。
【0009】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものである。その目的は、エンジンオイルの全般的な性状に基づいて、客観的に劣化を判断できるエンジンオイル劣化度判定方法、情報処理装置、エンジンオイル劣化度判定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるエンジンオイル劣化度判定方法の特徴は、
エンジンオイルの劣化度を判断するための判断用情報を生成する判断用情報生成ステップであって、前記判断用情報は、エンジンオイルの性状を示す少なくとも1つの性状パラメータの計測データに基づいて決定された少なくとも1つの特徴量パラメータを有する、判断用情報生成ステップと、
分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用開始前の値と、前記分析対象のエンジンオイルの使用時における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用時の値と、に基づいて、前記分析対象のエンジンオイルの劣化度を決定する分析対象劣化度決定ステップと、
を備えることである。
【発明の効果】
【0011】
エンジンオイルの全般的な性状に基づいて、客観的に劣化を判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】エンジンオイルの交換時期を判断するための管理基準を示す表である。
図2】エンジンオイルの劣化度を判定するための情報処理装置10の構成を示す機能ブロック図である。
図3】第2性状パラメータのデータの基準範囲の一例を示す図である。
図4】第1性状パラメータのデータの基準範囲の一例を示す図である。
図5】6次元のPbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度と、3次元の特徴パラメータPC1、PC2、PC3と、エンジンオイル交換直後の基準点からの半径と、劣化度とを示す図である。
図6図5に示すPC1、PC2、PC3の各々の値を、座標軸PC1、PC2、PC3の3次元の座標系の点として表した図である。
図7】劣化判断用情報生成処理を示すフローチャートである。
図8】分析対象劣化判断処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<<<<本実施の形態の概要>>>>
<<第1の特徴>>
第1の特徴によれば、
エンジンオイルの劣化度を判断するための判断用情報を生成する判断用情報生成ステップであって、前記判断用情報は、エンジンオイルの性状を示す少なくとも1つの性状パラメータの計測データに基づいて決定された少なくとも1つの特徴量パラメータを有する、判断用情報生成ステップ(後述する劣化判断用情報生成部100による処理など)と、
分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用開始前の値と、前記分析対象のエンジンオイルの使用時における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用時の値と、に基づいて、前記分析対象のエンジンオイルの劣化度を決定する分析対象劣化度決定ステップ(後述する分析対象劣化判断部200による処理など)と、を備えるエンジンオイル劣化度判定方法
が提供される。
【0014】
第1の特徴によるエンジンオイル劣化度判定方法は、判断用情報生成ステップと、分析対象劣化度決定ステップと、を備える。
【0015】
<判断用情報生成ステップ>
判断用情報生成ステップは、エンジンオイルの劣化度を判断するための判断用情報を生成する。判断用情報は、少なくとも1つの特徴量パラメータを有する。特徴量パラメータは、エンジンオイルの性状を示す少なくとも1つの性状パラメータの計測データに基づいて決定されたパラメータである。エンジンオイルの性状については、第2の特徴で説明する。
【0016】
<分析対象劣化度決定ステップ>
分析対象劣化度決定ステップは、分析対象としているエンジンオイルの劣化度を決定する。分析対象のエンジンオイルの使用開始前の状態における特徴量パラメータの値(特徴量パラメータの使用開始前の値)と、分析対象のエンジンオイルの使用している状態における特徴量パラメータの値(特徴量パラメータの使用時の値)と、に基づいて劣化度を決定する。
【0017】
特徴量パラメータの使用開始前の値は、分析対象のエンジンオイルの使用開始前の状態におけるエンジンオイルの性状を示す性状パラメータの計測データから決定される。例えば、使用開始前は、エンジンオイルの交換時などにすることができる。特徴量パラメータの使用時の値は、分析対象のエンジンオイルの使用している状態における性状を示す性状パラメータの計測データから決定される。
【0018】
エンジンオイルの性状を示す性状パラメータそのものではなく、特徴量パラメータを用いて劣化を判断するので、主観によることなく、エンジンオイルの全般的な性状を含めて客観的に劣化を判断できる。
【0019】
<<第2の特徴>>
第2の特徴は、第1の特徴において、
前記性状パラメータは、
第1の劣化度を示す第1の性状パラメータと、
前記第1の劣化度よりも小さい傾向となる第2の劣化度を示す第2の性状パラメータと、を含み、
前記第2の性状パラメータの計測データの許容範囲に基づいて、前記第1の性状パラメータの計測データを選択する第1のデータ選択ステップ(例えば、後述する第2性状パラメータによる異常データ除去部140による処理など)を、さらに備える。
【0020】
性状パラメータは、第1の性状パラメータと第2の性状パラメータと有する。エンジンオイル劣化度判定方法において、エンジンオイルの性状パラメータを計測するときには、第1の性状パラメータと第2の性状パラメータとの双方の性状パラメータを計測する。すなわち、エンジンオイルの性状パラメータの一の計測処理において、第1の性状パラメータのデータ及び第2の性状パラメータのデータが計測される。言い換えれば、エンジンオイルの性状パラメータの計測のたびに、第1の性状パラメータのデータ及び第2の性状パラメータのデータの双方のデータが計測される。
【0021】
<第1の性状パラメータ>
第1の性状パラメータは、エンジンオイルの第1の劣化度を示す性状パラメータである。劣化度は、エンジンの稼働に従って劣化していく傾向を意味する。劣化度は、主に、経時的な変化を示す。
【0022】
<第2の性状パラメータ>
第2の性状パラメータは、第1の劣化度よりも小さい傾向を有する第2の劣化度を示す性状パラメータである。第2の性状パラメータが有する第2の劣化度は、エンジンの稼働に従って劣化していく傾向が、第1の劣化度よりも小さい。言い換えれば、第2の性状パラメータは、経時的な変化が第1の劣化度よりも小さい性状パラメータである。
【0023】
<第1のデータ選択ステップ>
エンジンオイル劣化度判定方法は、さらに第1のデータ選択ステップを備える。第1のデータ選択ステップは、第2の性状パラメータの計測データの許容範囲に基づいて、前記第1の性状パラメータの計測データを選択する。第2の性状パラメータの計測データに対する許容範囲を定め、第2の性状パラメータの計測データの値が許容範囲を含むか否かを判断する。
【0024】
<第2の性状パラメータの特徴>
前述したように、第2の性状パラメータは、第1の性状パラメータよりも小さい劣化度を有する。すなわち、エンジンの稼働によりエンジンオイルの使用時間が長くなった場合でも、第2の性状パラメータのデータは変化しにくく、劣化を示すデータとなりにくい。このため、第2の性状パラメータのデータが特異性を示した場合には、その特異性は、劣化の進行によるものではなく、別の原因によるものと推測するのが妥当である。言い換えれば、第2の性状パラメータのデータを用いることで、計測したデータが、劣化とは別の何らかの原因で異常になったか否かを判断することができる。異常なデータを事前に省くことによって、適切な判断用情報を生成することができる。
【0025】
第2の性状パラメータの計測データの値が許容範囲を含む場合、すなわち、第2の性状パラメータの計測データの値が異常でない場合には、第2の性状パラメータの計測と共に計測していた第1の性状パラメータの計測データを用いて、判断用情報を生成する。
【0026】
第2の性状パラメータの計測データの値が許容範囲を含まない場合、すなわち、第2の性状パラメータの計測データの値が異常である場合には、第2の性状パラメータの計測と同時に計測していた第1の性状パラメータの計測データを取り除く。これにより、異常データを用いることなく、判断用情報を生成することができる。
【0027】
<<第3の特徴>>
第3の特徴は、第2の特徴において、
前記性状パラメータは、
前記第1の性状パラメータの計測データの許容範囲に基づいて、前記第1の性状パラメータの計測データを選択する第2のデータ選択ステップ(例えば、後述する第1性状パラメータによる異常データ除去部130による処理など)を、さらに備える。
【0028】
前述したように、第2の性状パラメータは、エンジンの稼働に従って、第1の性状パラメータよりも劣化しにくい特徴を有する。言い換えれば、第1の性状パラメータは、エンジンの稼働に従って、第2の性状パラメータよりも劣化しやすい。しかしながら、前述したように、判断用情報は、第1の性状パラメータの計測データを用いて生成される。このため、第1の性状パラメータの計測データが異常であるか否かを直接に判断できればより好ましく、第1の性状パラメータの不適切なデータを除いて、判断用情報を生成することができる。
【0029】
第1の性状パラメータの計測データの許容範囲は、これまでに計測された第1の性状パラメータの計測データの値から決定することができる。性状からあり得ない値や理論上あり得ない値から上限値又は下限値を定めて許容範囲とすることができる。
【0030】
第1の性状パラメータの計測データの値が許容範囲を含む場合、すなわち、第1の性状パラメータの計測データの値が異常でない場合には、その第1の性状パラメータの計測データを用いて判断用情報を生成する。
【0031】
第1の性状パラメータの計測データの値が許容範囲を含まない場合、すなわち、第1の性状パラメータの計測データの値が異常である場合には、その第1の性状パラメータの計測データを取り除く。これにより、異常データを用いることなく、判断用情報を生成することができる。
【0032】
<<第4の特徴>>
第4の特徴は、第1の特徴において、
前記分析対象劣化度決定ステップにおける前記分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状が、交換された時点のエンジンオイルの性状である。
【0033】
エンジンオイルの交換で、使用済みのエンジンオイルを十分に排出しても、エンジンの構造などにより、使用済みのエンジンオイルは、ある程度、オイルパンなどに残る可能性が高い。このため、未使用の新しいエンジンオイルを導入しても、エンジンオイルの交換の時点で、使用済みのエンジンオイルと混合された状態となる。したがって、エンジンオイルの交換の時点における性状パラメータのデータの値は、未使用の新しいエンジンオイルの性状パラメータのデータの値とは相違する。
【0034】
このような観点から、分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状を、エンジンオイルが交換された時点におけるエンジンオイルの性状とすることで、エンジン稼働後の判断の基準を適切にすることができる。
【0035】
<<第5の特徴>>
第5の特徴によれば、
エンジンオイルの劣化度を判断するための判断用情報を生成する判断用情報生成ステップであって、前記判断用情報は、エンジンオイルの性状を示す少なくとも1つの性状パラメータの計測データに基づいて決定された少なくとも1つの特徴量パラメータを有する、判断用情報生成部と、
分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用開始前の値と、前記分析対象のエンジンオイルの使用時における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用時の値と、に基づいて、前記分析対象のエンジンオイルの劣化度を決定する分析対象劣化度決定部と、を備える情報処理装置
が提供される。
【0036】
エンジンオイル劣化度判定方法と同様に、エンジンオイルの性状を示す性状パラメータそのものではなく、特徴量パラメータを用いて劣化を判断するので、主観によることなく、エンジンオイルの全体的な性状含めて客観的に劣化を判断できる。
【0037】
<<第6の特徴>>
第6の特徴によれば、
エンジンオイルの劣化度を判断するための判断用情報を生成する判断用情報生成ステップであって、前記判断用情報は、エンジンオイルの性状を示す少なくとも1つの性状パラメータの計測データに基づいて決定された少なくとも1つの特徴量パラメータを有する、判断用情報生成ステップと、
分析対象のエンジンオイルの使用開始前における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用開始前の値と、前記分析対象のエンジンオイルの使用時における性状を示す性状パラメータの計測データから決定された前記特徴量パラメータの使用時の値と、に基づいて、前記分析対象のエンジンオイルの劣化度を決定する分析対象劣化度決定ステップと、を備えるエンジンオイル劣化度判定プログラム
が提供される。
【0038】
エンジンオイル劣化度判定方法と同様に、エンジンオイルの性状を示す性状パラメータそのものではなく、特徴量パラメータを用いて劣化を判断するので、主観によることなく、エンジンオイルの全体的な性状含めて客観的に劣化を判断できる。
【0039】
<<<<本実施の形態の詳細>>>>
以下に、本実施の形態について図面に基づいて説明する。
【0040】
図1は、エンジンオイルの交換時期を判断するための管理基準を示す表である。
【0041】
一般に、エンジンオイルの交換時期を判断するために、性状パラメータの値に対して予め定めた管理基準を用いる。管理基準は、複数の試験項目を有する。複数の試験項目ごとに、限界値や警戒値などの基準値が定められている。性状パラメータの値が、限界値や警戒値やこれらに基づく値などを超えたことで、交換時期に達したと判断していた。
【0042】
複数の試験項目は、粘度の変化、引火点、水分、塩基価、残留炭素分、金属成分などである。これらの複数の試験項目の全てが、基準値を超えれば、交換時期に達したと容易に判断することができる。しかしながら、複数の試験項目のうちの一部のみが基準値を超えた場合には、交換時期に達したとするか、まだ達していないとするかは、人為的に判断されることが多い。このため、熟練した経験者による判断を要していた。交換時期に達したか否かの判断は、主観的に決定されるため、客観性に乏しかった。
【0043】
本実施の形態によるエンジンオイル劣化度判定方法、情報処理装置、エンジンオイル劣化度判定プログラムによれば、客観的にエンジンオイルの交換時期の到来を判断することができる。そのため、エンジンオイルを不必要に交換したり、交換すべきタイミングを超えたりすることを防止し、適切なタイミングで、エンジンオイルを交換することができる。
【0044】
<<<エンジンオイルの成分及びパラメータの種類>>>
エンジンオイルは、
エンジンオイルの劣化に伴って含有量が変化しやすい成分と、
エンジンオイルの劣化に伴って含有量が変化しにくい成分と、
を含む。
【0045】
<エンジンオイルの劣化に伴って含有量が変化しやすい成分>
エンジンオイルは、エンジンオイルの劣化に伴って含有量が変化しやすい成分を有する。例えば、Fe、Cu、Pb、Alなどの金属成分などは、エンジンオイルに徐々に混入していく成分である。これらの成分は、エンジンのピストンが、シリンダと摺動することによってシリンダなどが摩耗して生ずる。
【0046】
<エンジンオイルの劣化に伴って含有量が変化しにくい成分>
エンジンオイルは、エンジンオイルの劣化に伴って含有量が変化しにくい成分を有する。例えば、Mg、Mo、P、Zn、Caなどの添加剤に含まれる成分などは、エンジンの稼働によることなく変化しにくい成分である。これらは、シリンダなどの摩耗によって生ずるものではない。
【0047】
なお、エンジンオイルの劣化に伴って含有量が変化しやすい成分や、エンジンオイルの劣化に伴って含有量が変化しにくい成分は、エンジンオイルの種類や、エンジンの種類や構造などによって異なる可能性がある。このため、これらのエンジンオイルに含有される成分は、エンジンオイルの種類やエンジンの種類や構造などに応じて特定する必要がある。
【0048】
<<<性状パラメータ>>>
性状パラメータは、エンジンの稼働に伴って、エンジンオイルに溶出されていく各種の物質などで特徴づけられるパラメータである。エンジンの可動部材の磨耗などによって、金属などの各種の物質が徐々にエンジンオイルに溶出する。エンジンオイルに溶出される物質の種類や量などによって、エンジンオイルの性状(劣化の程度)が定まる。
【0049】
エンジンオイルに含有される成分に基づいて、性状パラメータとして、
含有量が変化しやすい成分に基づく性状を含む第1性状パラメータと、
含有量が変化しにくい成分に基づく第2性状パラメータと、
を用いる。
【0050】
<第1性状パラメータ>
第1性状パラメータは、エンジンオイルの性状を示すパラメータのうち、含有量がエンジンの稼働に従って変化しやすい成分に基づく性状を示すパラメータを含む。第1性状パラメータは、例えば、金属成分などの濃度である。金属成分などの濃度は、エンジンの稼働に従って摩耗などによって変化していく可能性がある。なお、第1性状パラメータは、濃度だけでなく、含有量が変化しやすい成分に基づく他の性状を示すパラメータであればよい。
【0051】
第1性状パラメータは、含有量が変化しやすい成分に基づく性状だけでなく、含有量と関係しない性状も含むことができる。例えば、粘度変化、引火点、水分、塩基価、残留炭素分などの各種の性状を第1性状パラメータに含めることができる。
【0052】
本実施の形態では、後述するように、第1性状パラメータとして、Pbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度の6種類の性状パラメータを用いる。
【0053】
<第2性状パラメータ>
第2性状パラメータは、エンジンオイルの性状を示すパラメータのうち、含有量がエンジンの稼働に従って変化しにくい成分に基づく性状パラメータである。第2性状パラメータは、例えば、金属系清浄剤に含まれる成分の濃度である。金属系清浄剤に含まれる成分の濃度は、摩耗などの影響を受けにくく、エンジンの稼働に従って変化しにくい。なお、第2性状パラメータは、濃度だけでなく、含有量が変化しにくい成分に基づく他の性状を示すパラメータであればよい。
【0054】
本実施の形態では、後述するように、第2性状パラメータとして、Mgの濃度、Caの濃度の2種類の性状パラメータを用いる。
【0055】
<<<エンジンオイルの劣化度を判定するための情報処理装置10の構成>>>
【0056】
情報処理装置10は、主に、プロセッサ(CPU(中央処理装置)など)、ROM(リードオンリーメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、HDD(ハードディスクドライブ)、SSD(ソリッドステートドライブ)、I/F(通信インターフェース装置)や入力操作装置(キーボード、マウス、タッチパネルなど)などを備えたパーソナルコンピュータ、タブレット型コンピュータ、携帯型端末装置などにすることができる。情報処理装置10は、各種の演算処理や、データ処理や、他の装置との通信処理などの各種の処理を実行する。
【0057】
図2は、エンジンオイルの劣化度を判定するための情報処理装置10の構成を示す機能ブロック図である。
【0058】
情報処理装置10は、劣化判断用情報生成部100及び分析対象劣化判断部200を有する。
【0059】
<<<劣化判断用情報生成部100>>>
劣化判断用情報生成部100は、
第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ取得部110と、
第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ記憶部120と、
第1性状パラメータによる異常データ除去部130と、
第2性状パラメータによる異常データ除去部140と、
特徴パラメータ決定部150と、
変換用係数記憶部160と、
基準点用第1性状パラメータのデータ測定部170と、
基準点決定部180と
を有する。
【0060】
<第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ取得部110>
第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ取得部110(以下、単にデータ取得部110と称する。)は、第1性状パラメータのデータ及び第2性状パラメータのデータを取得する。
【0061】
車両の非営業時や休日やメンテナンス時などのエンジンの非稼働時に、第1性状パラメータのデータ及び第2性状パラメータのデータを取得できる。例えば、エンジンの非稼働時にエンジンオイルを抽出し、抽出したエンジンオイルを分析装置によって分析したり解析したりすることで、データ取得部110は、エンジンオイルに溶出された物質の種類や量を取得できる。なお、エンジンの稼働時に各種のセンサで取得できるパラメータについては、エンジンが稼働している状態で所望のタイミングで、データを取得することができる。
【0062】
<第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ記憶部120>
第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ記憶部120(以下、単にデータ記憶部120と称する。)は、データ取得部110によって取得した第1性状パラメータのデータ及び第2性状パラメータのデータを記憶する。第1性状パラメータのデータ及び第2性状パラメータのデータは、データ取得部110によって取得されるたびに、データ記憶部120に徐々に蓄積されていく。データ記憶部120に蓄積されるデータ量は、演算処理などの処理が適宜にできる程度に多い量が好ましい。データ量を多くすることで精度を高めることができる。
【0063】
<第1性状パラメータによる異常データ除去部130>
第1性状パラメータによる異常データ除去部130は、劣化判断用情報を生成する前の段階で、データ記憶部120に蓄積されている第1性状パラメータのデータのうち、異常データを事前に除去する。異常データに影響されることなく、適切な劣化判断用情報を生成することができる。なお、異常データと判断された第1性状パラメータのデータをデータ記憶部120から削除しても、処理の対象から除外するための識別情報を付加してもよい。
【0064】
前述したように、第1性状パラメータは、含有量がエンジンの稼働に従って変化しやすい成分に基づく性状を示すパラメータを含む。エンジンの稼働に従って変化しやすい成分であっても、経験上、明らかに異常であると判断できる場合がある。基準範囲は、これまでの経験で決定したものを用いることができる。第1性状パラメータのデータが基準範囲に含まれるか否かによって、異常であるかを的確に判断することができる。
【0065】
図4は、第1性状パラメータのデータの基準範囲の一例を示す。図4に示す例では、Cuの濃度やPbの濃度を第1性状パラメータとしている。Cuの濃度がλ1_maxを超えたデータを、異常であるとして除外する。同様に、Pbの濃度がλ2_maxを超えたデータを、異常であるとして除外する。
【0066】
このように、第1性状パラメータについても、異常データを除去することで、より適切な劣化判断用情報を生成することができる。
【0067】
なお、Cuの濃度やPbの濃度だけでなく、経験上、異常であるか否かを判断できるパラメータであれば、異常データを判断するための第1性状パラメータとして用いることができる。
【0068】
<第2性状パラメータによる異常データ除去部140>
第2性状パラメータによる異常データ除去部140は、劣化判断用情報を生成する前の段階で、データ記憶部120に蓄積されている第2性状パラメータのデータのうち、異常データを事前に除去する。異常データに影響されることなく、適切な劣化判断用情報を生成することができる。なお、異常データと判断された第2性状パラメータのデータをデータ記憶部120から削除しても、処理の対象から除外するための識別情報を付加してもよい。
【0069】
前述したように、第2性状パラメータは、エンジンの稼働に従って含有量が変化しにくい成分に基づく性状パラメータである。この第2性状パラメータの特徴から、第2性状パラメータのデータの値は、エンジンの稼働状況によることなく、所定の基準範囲に含まれることが期待される。すなわち、第2性状パラメータのデータが基準範囲に含まれるか否かによって、異常であるかを的確に判断することができる。
【0070】
図3は、第2性状パラメータのデータの基準範囲の一例を示す。図3に示す例では、Mgの濃度やCaの濃度を第2性状パラメータとしている。MgやCaなどは、金属系清浄剤に含まれる成分である。なお、MgやCaに限られず、エンジンの稼働に従って含有量が変化しにくい成分であればよい。
【0071】
Mgの管理範囲及び計測範囲から補正範囲を決定する。補正範囲に含まれないデータは、異常であるとして除外する。Mgの管理範囲の最小濃度をα1_limとし、最大濃度をβ1_limとする。管理範囲は、金属系清浄剤の管理に用いる濃度の範囲である。Mgの濃度が、管理範囲に含まれている場合には、Mgについては正常であると判断される。
【0072】
Mgの計測範囲の最小濃度をα1_mesとし、最大濃度をβ1_mesとする。計測範囲は、エンジンの稼働に伴って実際に計測されたMgの濃度の範囲である。
【0073】
Mgの補正範囲は、Mgの管理範囲及び計測範囲から決定される。Mgの濃度は、エンジンの稼働に伴って管理範囲を超えて変化する場合がある。最小濃度が変化するとともに、最大濃度も変化する。
【0074】
<最小濃度の変化>
エンジンは、シリンダにおいてピストンが往復移動する。ピストンは、シリンダ壁を摺動する。ピストンとシリンダ壁との間にエンジンオイルが供給される。燃料は、シリンダに供給され、シリンダ壁に付着する。これにより、燃料は、エンジンオイルに混合され、エンジンの稼働に伴って、エンジンオイルは、燃料によって希釈されていく。
【0075】
前述したように、MgやCaなどは、金属系清浄剤に含まれる成分であり、エンジンの稼働に従って含有量が変化しにくい。しかしながら、含有量が一定であっても、Mgの濃度やCaの濃度は、燃料の混合による希釈によって徐々に低下していく。燃料の混合による希釈によって、Mgの濃度やCaの濃度が30%低下するものとする。なお、低下の割合は、30%に限られず、エンジンオイルの種類や、金属系清浄剤の種類や、エンジンの構造などに応じて、適宜に定めればよい。
【0076】
Mgの濃度やCaの濃度が30%低下するとした場合に、エンジンオイル自体は変化していないので、管理範囲の最小濃度α1_limを用いて、補正範囲の最小濃度をα1_lim×0.7とする。
【0077】
<最大濃度の変化>
エンジンオイルは、交換時期に達したと判断されたときには、新しい未使用のエンジンオイルと交換される。理想的には、エンジンオイルの全てを、新しいエンジンオイルと交換するのが好ましい。しかしながら、現実にはエンジンの構造上、例えば、オイルパンの存在などによって、全てを交換することが困難である場合が多い。すなわち、交換作業をしても、一部に劣化したエンジンオイルを含まざるを得ない。例えば、交換直後では、10%の劣化したエンジンオイルと、90%の新しいエンジンオイルとが混合したエンジンオイルとすることができる。なお、劣化したエンジンオイルの割合は、10%に限られず、エンジンの構造などに応じて適宜に定めればよい。
【0078】
劣化したエンジンオイルについては、最も劣化した状態を仮定して、計測範囲の最大濃度β1_mesを用いる。新しいエンジンオイルについては、十分に管理範囲に含まれるとして、管理範囲の最大濃度β1_mesを用いる。これにより、補正範囲の最大濃度をβ1_lim×0.9+β1_mes×0.1とする。
【0079】
<補正範囲>
以上から、補正範囲の最小濃度は、α1_lim×0.7となり、補正範囲の最大濃度は、β1_lim×0.9+β1_mes×0.1となる。Mgの濃度が、この範囲に含まれるデータは、正常データとして扱う。Mgの濃度が、この範囲を超えるデータは、異常データであるとして、除外し、劣化判断用情報の生成処理には用いない。
【0080】
前述した例は、主に、Mgを用いたが、エンジンの稼働に従って含有量が変化しにくい成分の濃度を用いることができる。例えば、金属系清浄剤に含まれる成分の濃度を用いて、異常データであるか否かを判断することができる。
【0081】
<特徴パラメータ決定部150>
情報処理装置10は、データ記憶部120に蓄積されたエンジンオイルの各種の性状パラメータのデータの値から、エンジンオイルの劣化を判断する。性状パラメータは、多種類からなることが多い。前述したように、実施の形態では、後述するように、第1性状パラメータとして、Pbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度の6種類の性状パラメータを用いる。このため、多種類の性状パラメータのデータの値から、劣化している否かを客観的に判断することが困難になりやすい。
【0082】
特徴パラメータ決定部150は、多種類の性状パラメータのデータの特徴を含めつつ、少種類の特徴パラメータのデータに圧縮する。例えば、特徴パラメータ決定部150は、4種類以上の性状パラメータを、3種類以下の特徴パラメータに変換する。
【0083】
具体的には、特徴パラメータ決定部150は、主成分分析を用いる。特徴パラメータ決定部150は、主成分分析により、Pbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度の6種類の性状パラメータから、3種類の特徴パラメータPC1、PC2、PC3に低次元化する。これにより、Pbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度の6種類の性状パラメータのデータは、これらのデータに含まれている特徴を含めつつ、3種類の特徴パラメータPC1、PC2、PC3に属するデータに圧縮される。特徴パラメータPC1は、主成分分析における第一主成分であり、特徴パラメータPC2は、主成分分析における第二主成分であり、特徴パラメータPC3は、主成分分析における第三主成分である。
【0084】
言い換えれば、特徴パラメータ決定部150は、主成分分析により、6次元のPbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度のデータを、3次元の特徴パラメータPC1、PC2、PC3の座標系に変換する。すなわち、特徴パラメータPC1、PC2、PC3は、3次元の座標軸として機能する。特徴パラメータ決定部150は、特徴パラメータPC1、PC2、PC3の各々を座標軸とする3次元の座標系を生成する。
【0085】
主成分分析は、6次元のPbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度のデータから、3次元の特徴パラメータPC1、PC2、PC3の座標系に変換する際に、変換するための変換用係数を決定する。この変換用係数を用いることで、新たなPbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度のデータを、特徴パラメータPC1、PC2、PC3の座標系に変換することができる。すなわち、新たに計測して取得したエンジンオイルの第1性状パラメータのデータを、特徴パラメータPC1、PC2、PC3の座標系に変換できる。
【0086】
図5は、6次元のPbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度の値を、3次元の特徴パラメータPC1、PC2、PC3の座標系に変換した値を示す表である。図5に示すように、Pbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度の値は、変換用係数によって、PC1、PC2、PC3の座標系の値に変換される。
【0087】
前述した例では、主成分分析を用いて、性状パラメータを低次元化したが、第1性状パラメータのデータの特徴を含めつつ低次元化し、エンジンオイルの劣化を判断できるものであれば他の手法でもよい。
【0088】
<変換用係数記憶部160>
変換用係数記憶部160は、3次元の特徴パラメータPC1、PC2、PC3に変換するための変換用係数を記憶する。変換用係数を用いることにより、分析対象のエンジンオイルの性状パラメータのデータの値を、3次元の特徴パラメータPC1、PC2、PC3に変換することができる。言い換えれば、分析対象のエンジンオイルの性状パラメータのデータの値を、特徴パラメータPC1、PC2、PC3の各々を座標軸とする3次元の座標系に座標変換することができる(図6参照)。
【0089】
変換用係数記憶部160が記憶する変換用係数を用いて、分析対象のエンジンオイルの性状パラメータの新たな取得したデータの値を、座標軸PC1、PC2、PC3の座標系の値に変換することができる。
【0090】
<基準点用第1性状パラメータのデータ測定部170>
前述した燃料による希釈や使用済みのエンジンオイルの影響を考慮して異常データを除去しても、エンジンオイルを交換した時点から、未使用の新しいエンジンオイルは使用済みのエンジンオイルの影響を受ける。以下、エンジンオイルの交換で生ずる問題について、説明する。
【0091】
前述したように、エンジンオイルの交換の際には、使用済みのエンジンオイルを十分に排出しても、エンジンの構造などにより、使用済みのエンジンオイルは、ある程度、残存する。このため、未使用の新しいエンジンオイルを導入しても、エンジンオイルの交換の時点で、使用済みのエンジンオイルと混合された状態となる。したがって、エンジンオイルの交換の時点における性状パラメータのデータの値は、未使用の新しいエンジンオイルの性状パラメータのデータの値とは相違する。
【0092】
エンジンの稼働によるエンジンオイルの劣化を的確に判断するためには、未使用の新しいエンジンオイルの状態を基準にするよりも、未使用の新しいエンジンオイルと使用済みのエンジンオイルとが混合された状態を基準にして判断した方が、エンジンオイルの性状の変化を的確に判断することができる。
【0093】
以上の観点から、エンジンオイルの交換の直後のエンジンオイルを抽出し、抽出したエンジンオイルを分析装置によって分析したり解析したりする。この分析や解析は、前述したデータ取得部110と同様に実行することができる。なお、未使用の新しいエンジンオイルと使用済みのエンジンオイルとを十分に混合するために、エンジンオイルを交換した後、短時間だけエンジンを稼働させるのが好ましい。例えば、エンジンオイルを交換した後、30秒や1分程度だけエンジンを稼働させて、未使用の新しいエンジンオイルと使用済みのエンジンオイルとを十分に混合させてから、エンジンオイルを抽出する。
【0094】
基準点用第1性状パラメータのデータ測定部170は、抽出したエンジンオイルを分析装置によって分析したり解析したりして、基準点用の第1性状パラメータのデータの値を取得する。基準点用の第1性状パラメータもPbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度である。この基準点用の第1性状パラメータのデータの値が、分析対象のエンジンオイルの劣化を判断するための基準点の値となる。
【0095】
<基準点決定部180>
基準点決定部180は、前述した基準点用の第1性状パラメータのデータの値から、座標軸PC1、PC2、PC3の座標系における基準点としての位置を決定する。
【0096】
前述したように、基準点用の性状パラメータも、Pbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度である。基準点用のPb、塩基価、残留炭素、Fe、Cu、動粘度のデータを、変換用係数記憶部160に記憶させた変換用係数を用いて、座標軸PC1、PC2、PC3の座標系の値に変換する。
【0097】
基準点決定部180は、図6に示すように、座標軸PC1、PC2、PC3の座標系において、エンジンオイル交換直後の状態を示す基準点(図6における「交換直後」)を生成することができる。なお、参考のため、図6には、真の未使用の新しいエンジンオイルの状態点も示した(図6における「真の新油」)。
【0098】
<<<分析対象劣化判断部200>>>
分析対象劣化判断部200は、
第1性状パラメータのデータ取得部210と、
特徴パラメータのデータ変換部220と、
劣化度決定部230と、
異常データ除去部240と
を有する。
【0099】
<第1性状パラメータのデータ取得部210>
第1性状パラメータのデータ取得部210は、分析対象のエンジンオイルの第1性状パラメータを測定する。具体的には、Pbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度のデータを測定する。
【0100】
分析対象のエンジンオイルの第1性状パラメータの測定は、データ取得部110と同様にすることができる。例えば、エンジンの非稼働時に分析対象のエンジンオイルを抽出し、抽出したエンジンオイルを分析装置によって分析したり解析したりすることで、データ取得部210は、エンジンオイルに溶出された物質の種類や量を取得できる。なお、エンジンの稼働時に各種のセンサで取得できるパラメータについては、エンジンが稼働している状態で所望のタイミングで、データ取得部210はデータを取得することができる。
【0101】
<特徴パラメータのデータ変換部220>
特徴パラメータのデータ変換部220は、分析対象のエンジンオイルの第1性状パラメータであるPbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度のデータを、変換用係数を用いて、特徴パラメータPC1、PC2、PC3の各々を座標軸とする3次元の座標系に座標変換する。
【0102】
前述したように、図5は、6次元のPbの濃度、塩基価、残留炭素、Feの濃度、Cuの濃度、動粘度の値を、3次元の特徴パラメータPC1、PC2、PC3の座標系に変換した値を示す。図6は、図5に示した特徴パラメータPC1、PC2、PC3の各々の値を、座標軸PC1、PC2、PC3の3次元の座標系の点として表した図である。図6では、特徴パラメータPC1、PC2、PC3の各々は、座標軸となる。なお、図5は、エンジンオイルの交換直後を基準点としたときの基準点から各々の状態点までの半径(距離)と、各々の状態点の劣化度とを含む。
【0103】
図6に示すように、分析対象のエンジンオイルの第1性状パラメータの変換されたデータは、座標軸PC1、PC2、PC3の座標系に位置付けられる。座標軸PC1、PC2、PC3の座標系における1つの点は、一回分の計測で取得された分析対象のエンジンオイルの状態を示す。データ取得部210で計測されるごとに、座標軸PC1、PC2、PC3の座標系における1つの状態点として表される。図6における1つの状態点は、計測された時点におけるエンジンオイルの状態を示す。
【0104】
<劣化度決定部230>
劣化度決定部230は、座標軸PC1、PC2、PC3の座標系において、基準点から状態点までの距離によって劣化を判断することができる。劣化が進むに従って、状態点は、基準点から遠ざかる。基準点から所定の距離よりも長い場合に、劣化したと判断される。所定の距離は、これまでの経験などに基づいて、劣化限度の距離を用いればよい。基準点から状態点までの距離が、所定の距離よりも短ければ、エンジンオイルの交換は不要で、基準点から状態点までの距離が、所定の距離以上であれば、エンジンオイルの交換が必要であると判断し、その旨をディスプレイ(図示せず)などに表示する。
【0105】
<異常データ除去部240>
異常データ除去部240は、分析対象のエンジンオイルについても、異常データを除去する。異常データを除去は、第1性状パラメータによる異常データ除去部130や第2性状パラメータによる異常データ除去部140と同様にすればよい。座標軸PC1、PC2、PC3の座標系への座標変換の処理をすることなく、異常データを取り除くことができ、判断処理を迅速にすることができる。
【0106】
<<劣化判断用情報生成処理>>
図7は、劣化判断用情報生成処理を示すフローチャートである。
【0107】
最初に、エンジンオイルの劣化度を判定するための情報処理装置10のプロセッサは、劣化判断用情報を生成するためのエンジンオイルの第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータを取得する(ステップS711)。この処理は、第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ取得部110によって実行される。
【0108】
次に、情報処理装置10のプロセッサは、劣化判断用情報を生成するためのエンジンオイルの第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータを記憶させる(ステップS713)。この処理は、第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ記憶部120によって実行される。
【0109】
次に、情報処理装置10のプロセッサは、劣化判断用情報を生成するためのエンジンオイルの第1性状パラメータのデータに異常データが存在するか否かを判断する(ステップS715)。
【0110】
情報処理装置10のプロセッサは、劣化判断用情報を生成するためのエンジンオイルの第1性状パラメータのデータに異常データが存在する場合には(YES)、異常データに対応する第1性状パラメータのデータを削除する(ステップS717)。
【0111】
ステップS715及びS717の処理は、第1性状パラメータによる異常データ除去部130によって実行される。
【0112】
次に、情報処理装置10のプロセッサは、劣化判断用情報を生成するためのエンジンオイルの第1性状パラメータのデータに異常データが存在しない場合(NO)、又はステップS717の処理を実行したときには、劣化判断用情報を生成するためのエンジンオイルの第2性状パラメータのデータに異常データが存在するか否かを判断する(ステップS719)。
【0113】
情報処理装置10のプロセッサは、劣化判断用情報を生成するためのエンジンオイルの第2性状パラメータのデータに異常データが存在する場合には(YES)、異常データに対応する第2性状パラメータのデータを削除する(ステップS721)。
【0114】
ステップS719及びS721の処理は、第2性状パラメータによる異常データ除去部140によって実行される。
【0115】
なお、異常データと判断された第1性状パラメータのデータや第2性状パラメータのデータは、データ記憶部120から削除しても、処理の対象から除外するための識別情報を付加してもよい。識別情報を有するデータは、データ記憶部120に存在するが、後述するステップS723の処理の対象からは除外される。
【0116】
次に、情報処理装置10のプロセッサは、劣化判断用情報を生成するためのエンジンオイルの第2性状パラメータのデータに異常データが存在しない場合(NO)、又はステップS721の処理を実行したときには、特徴パラメータを決定する(ステップS723)。この処理は、特徴パラメータ決定部150によって実行される。
【0117】
次に、情報処理装置10のプロセッサは、特徴パラメータ決定部150によって生成された特徴パラメータ用係数を記憶する(ステップS725)。この処理は、変換用係数記憶部160によって実行される。
【0118】
次に、情報処理装置10のプロセッサは、交換直後におけるエンジンオイルの基準点用第1性状パラメータのデータを測定する(ステップS727)。この処理は、基準点用第1性状パラメータのデータ測定部170によって実行される。
【0119】
次に、情報処理装置10のプロセッサは、劣化判断用の基準点を決定し(ステップS729)、本サブルーチンを終了する。この処理は、基準点決定部180によって実行される。
【0120】
<<分析対象劣化判断処理>>
図8は、分析対象のエンジンオイルの劣化を判断する処理を示すフローチャートである。
【0121】
最初に、情報処理装置10のプロセッサは、分析対象のエンジンオイルの第1性状パラメータのデータを測定する(ステップS811)。この処理は、第1性状パラメータのデータ取得部210によって実行される。
【0122】
次に、情報処理装置10のプロセッサは、分析対象のエンジンオイルの第1性状パラメータのデータを、特徴パラメータのデータに変換する(ステップS813)。この処理は、特徴パラメータのデータ変換部220によって実行される。
【0123】
次に、情報処理装置10のプロセッサは、分析対象のエンジンオイルの劣化度を決定し(ステップS815)、本サブルーチンを終了する。この処理は、劣化度決定部230によって実行される。
【0124】
なお、ステップS815によって決定された分析対象のエンジンオイルの劣化度は、ディスプレイなど(図示せず)に表示される。
【0125】
<<<<実施の形態の範囲>>>>
上述したように、本実施の形態を記載した。しかし、この開示の一部をなす記載及び図面は、限定するものと理解すべきでない。ここで記載していない様々な実施の形態等が含まれる。
【符号の説明】
【0126】
100 劣化判断用情報生成部
110 第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ取得部
120 第1性状パラメータ及び第2性状パラメータのデータ記憶部
130 第1性状パラメータによる異常データ除去部
140 第2性状パラメータによる異常データ除去部
150 特徴パラメータ決定部
160 変換用係数記憶部
170 基準点用第1性状パラメータのデータ測定部
180 基準点決定部
200 分析対象劣化判断部
210 第1性状パラメータのデータ取得部
220 特徴パラメータのデータ変換部
230 劣化度決定部
240 異常データ除去部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8