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特開2024-3400モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム
<図1>
  • 特開-モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム 図1
  • 特開-モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム 図2
  • 特開-モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム 図3
  • 特開-モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム 図4
  • 特開-モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム 図5
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  • 特開-モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム 図9
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  • 特開-モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム 図11
  • 特開-モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム 図12
  • 特開-モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム 図13
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024003400
(43)【公開日】2024-01-15
(54)【発明の名称】モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/22 20160101AFI20240105BHJP
   H02P 27/08 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P27/08 ZHV
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102511
(22)【出願日】2022-06-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 裕樹
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB07
5H505CC04
5H505DD03
5H505DD05
5H505EE41
5H505EE49
5H505FF05
5H505GG04
5H505HA09
5H505HA10
5H505HB01
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505JJ24
5H505JJ26
5H505LL22
5H505LL24
5H505LL41
5H505LL56
5H505LL58
5H505MM12
(57)【要約】
【課題】定常状態にないモータの短絡状態及び短絡部位を特定する。
【解決手段】モータのd軸電流及びq軸電流の2次調波と、d軸電流の2次調波の位相を90deg進ませた又は270deg遅らせた擬似q軸電流と、d軸電流及びq軸電流の2次調波と、q軸電流の2次調波の位相を90deg遅らせた擬似d軸電流の2次調波と、から前記d軸電流及び前記q軸電流の2次調波の振幅と位相を算出し、前記d軸電流の2次調波の振幅と位相及び前記q軸電流の2次調波の振幅と位相を平均化した後にローパスフィルタを適用して2次調波振幅及び2次調波位相を求め、2次調波振幅又は2次調波位相を用いてモータの相間短絡又はターン間短絡の有無及び部位を特定する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのd軸電流及びq軸電流を測定し、
前記d軸電流及び前記q軸電流の2次調波を抽出する抽出部と、
前記d軸電流の2次調波の位相を変更して擬似q軸電流の2次調波を演算する第1のオールパスフィルタと、前記q軸電流の2次調波の位相を変更して擬似d軸電流の2次調波を演算する第2のオールパスフィルタと、
前記d軸電流の2次調波と前記擬似q軸電流の2次調波から前記d軸電流の2次調波の振幅と位相を算出する第1の振幅・位相算出部、及び、前記q軸電流の2次調波と前記擬似d軸電流の2次調波から前記q軸電流の2次調波の振幅と位相を算出する第2の振幅・位相算出部と、
前記d軸電流の2次調波の振幅と位相及び前記q軸電流の2次調波の振幅と位相を平均化して平均化2次調波振幅及び平均化2次調波位相を算出する平均化処理部と、
前記平均化2次調波振幅及び前記平均化2次調波位相に対して適用され、2次調波振幅及び2次調波位相を出力するローパスフィルタと、
を備え、
前記2次調波振幅を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡を検出する処理、又は、前記2次調波位相を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡の部位を特定する処理、の少なくとも一方を行うことを特徴とするモータの短絡判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載のモータの短絡判定装置であって、
前記第1のオールパスフィルタは、前記d軸電流の2次調波の位相を90deg進ませ又は270deg遅らせて前記擬似q軸電流の2次調波を演算し、
前記第2のオールパスフィルタは、前記q軸電流の2次調波の位相を90deg遅らせて前記擬似d軸電流の2次調波を演算する、ことを特徴とするモータの短絡判定装置。
【請求項3】
請求項1に記載のモータの短絡判定装置であって、
前記2次調波位相を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡の部位を特定する処理は、前記2次調波位相の位相範囲に応じて短絡の部位を特定することを特徴とするモータの短絡判定装置。
【請求項4】
請求項1に記載のモータの短絡判定装置であって、
前記2次調波振幅を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡を検出する処理は、前記2次調波振幅を用いて短絡の程度を特定することを特徴とするモータの短絡判定装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のモータ短絡判定装置による前記モータの相間短絡又はターン間短絡の判定結果に応じて前記モータを制御するモータ制御システム。
【請求項6】
請求項5に記載のモータ制御システムであって、
前記2次調波振幅の値に基づいて前記モータの運転を継続する継続運転制御、前記モータの出力トルクを制限して運転を行う出力トルク制限運転制御、及び、前記モータの運転を停止させるモータ停止制御のいずれかを行うことを特徴とするモータ制御システム。
【請求項7】
請求項6に記載のモータ制御システムであって、
前記出力トルク制限運転制御では、前記d軸電流及び前記q軸電流に対して2次調波を除去するバンドストップフィルタを適用した電流を前記d軸電流及び前記q軸電流の代わりに用いることを特徴とするモータ制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車等の電動自動車が広く用いられている。電気自動車は、モータを備えており、モータの動力によって力行する。ハイブリッド自動車は、モータの他にエンジンを備えており、モータの動力及びエンジンの動力を適宜組み合わせて力行する。一般に、モータとしては発電性能が設計事項として考慮されたモータジェネレータが用いられる。モータジェネレータは、電動自動車を力行させる他、回生制動によって電動自動車を制動し、回生制動による発電電力によってモータジェネレータ駆動用の電池を充電する。本明細書における「モータ」の用語には、モータジェネレータの概念が含まれる。
【0003】
本願発明に関連する技術として、誘導電動機を運転状態としたまま、誘導電動機に流れる相電流の高調波成分に基づいて、誘導電動機の劣化度合いを診断する方法が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-75516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、誘導電動機を用いた定常運転時を対象としており、高速フーリエ変換(FFT)で相電流の高調波次数の高調波成分の含有率を計算している。しかしながら、定常運転時以外ではFFTによる計算に誤差が生じるので、定常状態にない可変速状態で使用されている電気自動車やハイブリッド自動車の主機モータに適用することができない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様は、モータのd軸電流及びq軸電流を測定し、前記d軸電流及び前記q軸電流の2次調波を抽出する抽出部と、前記d軸電流の2次調波の位相を変更して擬似q軸電流の2次調波を演算する第1のオールパスフィルタと、前記q軸電流の2次調波の位相を変更して擬似d軸電流の2次調波を演算する第2のオールパスフィルタと、前記d軸電流の2次調波と前記擬似q軸電流の2次調波から前記d軸電流の2次調波の振幅と位相を算出する第1の振幅・位相算出部、及び、前記q軸電流の2次調波と前記擬似d軸電流の2次調波から前記q軸電流の2次調波の振幅と位相を算出する第2の振幅・位相算出部と、前記d軸電流の2次調波の振幅と位相及び前記q軸電流の2次調波の振幅と位相を平均化して平均化2次調波振幅及び平均化2次調波位相を算出する平均化処理部と、前記平均化2次調波振幅及び前記平均化2次調波位相に対して適用され、2次調波振幅及び2次調波位相を出力するローパスフィルタと、を備え、前記2次調波振幅を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡を検出する処理、又は、前記2次調波位相を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡の部位を特定する処理、の少なくとも一方を行うことを特徴とするモータの短絡判定装置である。
【0007】
ここで、前記第1のオールパスフィルタは、前記d軸電流の2次調波の位相を90deg進ませ又は270deg遅らせて前記擬似q軸電流の2次調波を演算し、前記第2のオールパスフィルタは、前記q軸電流の2次調波の位相を90deg遅らせて前記擬似d軸電流の2次調波を演算する、ことが好適である。
【0008】
また、前記2次調波位相を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡の部位を特定する処理は、前記2次調波位相の位相範囲に応じて短絡の部位を特定することが好適である。
【0009】
また、前記2次調波振幅を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡を検出する処理は、前記2次調波振幅を用いて短絡の程度を特定することが好適である。
【0010】
本発明の別の態様は、上記モータ短絡判定装置による前記モータの相間短絡又はターン間短絡の判定結果に応じて前記モータを制御するモータ制御システムである。
【0011】
ここで、前記2次調波振幅の値に基づいて前記モータの運転を継続する継続運転制御、前記モータの出力トルクを制限して運転を行う出力トルク制限運転制御、及び、前記モータの運転を停止させるモータ停止制御のいずれかを行うことが好適である。
【0012】
また、前記出力トルク制限運転制御では、前記d軸電流及び前記q軸電流に対して2次調波を除去するバンドストップフィルタを適用した電流を前記d軸電流及び前記q軸電流の代わりに用いることが好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、定常状態にないモータの短絡状態及び短絡部位を特定するモータ短絡判定装置及びそれを備えたモータ制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態におけるモータ制御システムの構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態におけるコントローラの構成を示す図である。
図3】本発明の実施の形態におけるU相巻線にターン間短絡が生じたときのシミュレーション結果である。
図4】VW相間短絡を生じた状態におけるdq軸電流の2次調波の変化を示す図である。
図5】出力トルクが0の状態においてU相ターン間短絡が生じた状態における3相電流及びdq軸電流の2次調波の変化を示す図である。
図6】出力トルクが0の状態においてUV相間短絡を生じた状態における3相電流及びdq軸電流の2次調波の変化を示す図である。
図7】出力トルクが0以外の状態においてU相ターン間短絡が生じた状態における3相電流及びdq軸電流の2次調波の変化を示す図である。
図8】出力トルクが0以外の状態においてUV相間短絡を生じた状態における3相電流及びdq軸電流の2次調波の変化を示す図である。
図9】出力トルクが0以外の状態においてターン間短絡が生じたときのdq軸電流の2次調波の位相を示す図である。
図10】出力トルクが0以外の状態において相間短絡が生じたときのdq軸電流の2次調波の位相を示す図である。
図11】dq軸電流の2次調波の位相の判定条件を示す図である。
図12】本実施の形態におけるモータの短絡判定処理を示すフローチャートである。
図13】本実施の形態におけるモータの運転制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態におけるモータ制御システム100は、図1の構成図に示すように、電池10、インバータ12、モータ16、電流センサ18、レゾルバ20、電圧センサ22及びコントローラ24を備える。以下、モータ制御システム100が電動自動車に搭載され、モータ16が電動自動車を駆動する例について説明する。
【0016】
モータ制御システム100のうち、インバータ12、電流センサ18、レゾルバ20及びコントローラ24は、モータ16を制御するモータ制御装置を構成する。インバータ12は、U相スイッチングアーム14u、V相スイッチングアーム14v及びW相スイッチングアーム14wを備える。各スイッチングアームは、直列接続された上スイッチング素子SP及び下スイッチング素子SLを備える。各スイッチング素子には、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)が用いられてよい。スイッチング素子としてIGBTが用いられる場合、2つのスイッチング素子が直列接続されるとは、一方のエミッタ電極に他方のコレクタ電極が接続されることをいう。スイッチング素子としてMOSFETが用いられる場合、2つのスイッチング素子が直列接続されるとは、一方のソース電極に他方のドレイン電極が接続されることをいう。
【0017】
スイッチング素子としてIGBTが用いられる場合、各スイッチング素子は、IGBTのエミッタ電極にアノード電極が接続され、コレクタ電極にカソード電極が接続されたダイオードを備える。スイッチング素子としてMOSFETが用いられる場合、各スイッチング素子は、MOSFETのソース電極にアノード電極が接続され、ドレイン電極にカソード電極が接続されたダイオードを備える。
【0018】
U相スイッチングアーム14u、V相スイッチングアーム14v及びW相スイッチングアーム14wは並列接続される。すなわち、U相スイッチングアーム14u、V相スイッチングアーム14v及びW相スイッチングアーム14wの一端は共通に接続され、U相スイッチングアーム14u、V相スイッチングアーム14v及びW相スイッチングアーム14wの他端もまた共通に接続される。各スイッチングアームの一端は電池10の正極端子に接続され、各スイッチングアームの他端は電池10の負極端子に接続される。
【0019】
U相スイッチングアーム14uにおける上スイッチング素子SP及び下スイッチング素子SLの直列接続点には、モータ16のU相端子26uが接続される。V相スイッチングアーム14vにおける上スイッチング素子SP及び下スイッチング素子SLの直列接続点には、モータ16のV相端子26vが接続される。W相スイッチングアーム14wにおける上スイッチング素子SP及び下スイッチング素子SLの直列接続点には、モータ16のW相端子26wが接続される。
【0020】
モータ16は、U相巻線16u、V相巻線16v及びW相巻線16wを備える。図1に示されている例では、U相巻線16u、V相巻線16v及びW相巻線16wについては、それぞれの一端が中性点で接続されたY結線がされている。U相巻線16u、V相巻線16v及びW相巻線16wのそれぞれの他端には、U相端子26u、V相端子26v及びW相端子26wが設けられる。
【0021】
電流センサ18は、U相端子26u、V相端子26v及びW相端子26wに流れる電流を検出し、U相電流検出値Iu、V相電流検出値Iv及びW相電流検出値Iwをコントローラ24に出力する。レゾルバ20は、モータ16の機械角θmを検出し、機械角θmをコントローラ24に出力する。機械角θmは、モータ16のロータの実際の回転角度を示す値である。コントローラ24は、機械角θmを電気角θに変換する。電気角θは、ロータの周りの電磁界的な現象の1周期を360°に換算した角度である。なお、レゾルバ20は電気角θをコントローラ24に出力してもよい。電圧センサ22は、電池10の両出力端に並列に接続されたコンデンサCの端子間電圧を検出し、電源電圧Vを検出してコントローラ24に出力する。
【0022】
コントローラ24は、走行状態や運転操作に応じたトルク指令値に基づいてモータ16を制御する。すなわち、コントローラ24は、トルク指令値に基づいてd軸電流指令値及びq軸電流指令値を求めると共に、U相電流検出値Iu、V相電流検出値Iv及びW相電流検出値Iwに基づいてd軸電流測定値及びq軸電流測定値を求める。コントローラ24は、d軸電流測定値とd軸電流指令値との差異、q軸電流測定値とq軸電流指令値との差異、及び電気角θに基づいてインバータ12を制御し、インバータ12はモータ16に印加される電圧をスイッチングする。
【0023】
図2は、コントローラ24の構成を示す。コントローラ24は、モータ制御部40及び短絡判定部42を備える。モータ制御部40は、三相/dq軸変換器52、電流指令生成器54、d軸減算器56d、q軸減算器56q、d軸PI演算器58d、q軸PI演算器58q、dq軸/三相変換器60及びPWM制御器62を備える。コントローラ24は、プログラムを実行するプロセッサによって構成されてよい。この場合、プロセッサは、制御プログラムを実行することで、三相/dq軸変換器52、電流指令生成器54、d軸減算器56d、q軸減算器56q、d軸PI演算器58d、q軸PI演算器58q、dq軸/三相変換器60及びPWM制御器62における処理を実現する。
【0024】
三相/dq軸変換器52は、数式(1)及び数式(2)を用いて、U相電流検出値Iu、V相電流検出値Iv及びW相電流検出値Iwをd軸電流測定値I及びq軸電流測定値Iに変換する。
【0025】
【数1】
【数2】
【0026】
電流指令生成器54は、走行状態や運転操作に応じたトルク指令値Tに基づいて、d軸電流指令値I 及びq軸電流指令値I を求める。d軸減算器56dは、d軸電流指令値I からd軸電流測定値Iを減算したd軸誤差を求める。q軸減算器56qは、q軸電流指令値I からq軸電流測定値Iを減算したq軸誤差を求める。ここで、d軸誤差は、d軸電流測定値Iとd軸電流指令値I との差異を示す。また、q軸誤差は、q軸電流測定値Iとq軸電流指令値I との差異を示す。d軸PI演算器58dは、d軸誤差に対して比例積分処理を適用してd軸制御値vを求める。q軸PI演算器58qは、q軸誤差に対して比例積分処理を適用してq軸制御値vを求める。
【0027】
dq軸/三相変換器60は、d軸制御値v及びq軸制御値vをU相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv及びW相電圧指令値Vwに変換し、PWM制御器62に出力する。ここで、U相電圧指令値Vu、V相電圧指令値Vv及びW相電圧指令値Vwは、それぞれ、U相スイッチングアーム14u、V相スイッチングアーム14v及びW相スイッチングアーム14wをPWM(Pulse Width Modulation)制御するための指令値である。
【0028】
PWM制御器62は、U相電圧指令値Vuに基づいて、U相スイッチングアーム14uの上スイッチング素子SP及び下スイッチング素子SLに対する制御信号UP及びULを生成する。制御信号UPは、U相電圧指令値Vuが大きい程、パルス幅が大きくなる矩形波信号であってよい。制御信号ULは、制御信号UPのハイ/ローを反転した信号であってよい。制御信号UPがハイのときにU相スイッチングアーム14uの上スイッチング素子SPはオンになり、制御信号UPがローのときにU相スイッチングアーム14uの上スイッチング素子SPはオフになる。同様に、制御信号ULがハイのときにU相スイッチングアーム14uの下スイッチング素子SLはオンになり、制御信号ULがローのときにU相スイッチングアーム14uの下スイッチング素子SLはオフになる。
【0029】
同様の処理によって、PWM制御器62は、V相電圧指令値Vvに基づいて、V相スイッチングアーム14vの上スイッチング素子SP及び下スイッチング素子SLに対する制御信号VP及びVLを生成する。PWM制御器62は、W相電圧指令値Vwに基づいて、W相スイッチングアーム14wの上スイッチング素子SP及び下スイッチング素子SLに対する制御信号WP及びWLを生成する。各スイッチング素子は、制御信号がハイであるときにオンになり、制御信号がローであるときにオフになる。
【0030】
例えば、制御信号VP及びVLは、それぞれ、制御信号UP及びULに対して位相が120°遅れた信号であり、制御信号WP及びWLは、それぞれ、制御信号VP及びVLに対して位相が120°遅れた信号である。
【0031】
モータ制御部40によるこのような制御によって、モータ16のU相巻線16u、V相巻線16v及びW相巻線16wには、トルク指令値Tに応じたU相電流iu、V相電流iv及びW相電流iwが流れ、モータ16はトルク指令値Tに応じたトルクを発生させる。
【0032】
次に、短絡判定部42について説明する。短絡判定部42は、U相巻線16u、V相巻線16v及びW相巻線16wのいずれかの異常としてレアショート(レイヤーショートとも称される)を検出する。モータ16では、複数相の巻線のうちの1つの相の巻線を構成する導線と、他の相の巻線を構成する導線とが隣接する構成を有する。通常、隣接する導線同士は絶縁されている。しかしながら、モータ16に対する機械的又は熱的なストレスによって絶縁抵抗が小さくなりレアショートが引き起こされることがある。すなわち、レアショートには、異なる相の巻線同士が短絡するか、又は、異なる相の巻線同士の絶縁抵抗が小さくなる相間短絡がある。
【0033】
また、モータ16では、絶縁皮膜で覆われた導線が重ねられて巻回されることによって1つの相の巻線が構成されている。通常、導線は絶縁皮膜によって電気的に絶縁されているが、機械的または熱的なストレスによって絶縁抵抗が小さくなりレアショートが引き起こされることがある。すなわち、レアショートには、1つの相の巻線を構成する導線における異なる箇所同士が短絡するか、又は、1つの相の巻線を構成する導線における異なる箇所同士の絶縁抵抗が小さくなるターン間短絡がある。
【0034】
このようなレアショートが生じた場合、モータ16が十分な性能を発揮することが困難となる。短絡判定部42は、以下に説明する構成及び処理によってレアショートを検出する。図3は、本実施の形態における短絡判定部42の構成を示す。
【0035】
短絡判定部42は、バンドパスフィルタ64、オールパスフィルタ66、座標変換器68、振幅・位相算出器70、オールパスフィルタ72、座標変換器74、振幅・位相算出器76、平均化処理部78、ローパスフィルタ80、短絡判定処理部82及び運転制御部84を備える。短絡判定部42には、d軸電流測定値I及びq軸電流測定値Iが入力される。d軸電流測定値I及びq軸電流測定値Iは、例えば、モータ制御部40の三相/dq軸変換器52から入力すればよい。
【0036】
バンドパスフィルタ64は、d軸電流測定値I及びq軸電流測定値Iの2次調波の抽出部である。バンドパスフィルタ64は、d軸電流測定値Iの入力を受けて、d軸電流測定値Iの2次調波を抽出してd軸電流2次調波Idbpfを出力する。また、バンドパスフィルタ64は、q軸電流測定値Iの入力を受けて、q軸電流測定値Iの2次調波を抽出してq軸電流2次調波Iqbpfを出力する。バンドパスフィルタ64は、電気回転周波数(dθ/dt/2π)の2倍を中心周波数とするバンドパスフィルタとすればよい。
【0037】
オールパスフィルタ66は、d軸電流2次調波Idbpfの位相を変更して擬似q軸電流の2次調波を生成する。オールパスフィルタ66は、d軸電流2次調波Idbpfを受けて、d軸電流2次調波Idbpfの位相を90deg進ませた(又は270deg遅らせた)擬似q軸電流の2次調波を生成して擬似q軸電流2次調波Iq_apfを出力する。座標変換器68は、バンドパスフィルタ64からd軸電流2次調波Idbpf及びオールパスフィルタ66から擬似q軸電流2次調波Iq_apfを受けて、これらをdq軸から回転2次のdq軸に変換して回転2次d軸電流Id2h_d及び回転2次q軸電流Iq2h_dを出力する。振幅・位相算出器70は、座標変換器68から回転2次d軸電流Id2h_d及び回転2次q軸電流Iq2h_dを受けて、d軸電流2次調波Idbpfと擬似q軸電流2次調波Iq_apfから算出されたd軸電流測定値Iの2次調波の位相を示すd軸電流2次調波位相I2hphi_d及びd軸電流測定値Iの2次調波の振幅を示すd軸電流2次調波振幅I2hamp_dを算出して出力する。
【0038】
オールパスフィルタ72は、q軸電流2次調波Iqbpfの位相を変更して擬似d軸電流の2次調波を生成する。オールパスフィルタ72は、q軸電流2次調波Iqbpfを受けて、q軸電流2次調波Iqbpfの位相を90deg遅らせた擬似d軸電流の2次調波を生成して擬似d軸電流2次調波Id_apfを出力する。座標変換器74は、バンドパスフィルタ64からq軸電流2次調波Iqbpf及びオールパスフィルタ72から擬似d軸電流2次調波Id_apfを受けて、これらをdq軸から回転2次のdq軸に変換して回転2次d軸電流Id2h_q及び回転2次q軸電流Iq2h_qを出力する。振幅・位相算出器76は、座標変換器74から回転2次d軸電流Id2h_q及び回転2次q軸電流Iq2h_qを受けて、q軸電流2次調波Iqbpfと擬似d軸電流2次調波Id_apfから算出されたq軸電流測定値Iの2次調波の位相を示すq軸電流2次調波位相I2hphi_q及びq軸電流測定値Iの2次調波の振幅を示すq軸電流2次調波振幅I2hamp_qを算出して出力する。
【0039】
平均化処理部78は、振幅・位相算出器70からd軸電流2次調波位相I2hphi_d及びd軸電流2次調波振幅I2hamp_d並びに振幅・位相算出器76からq軸電流2次調波位相I2hphi_q及びq軸電流2次調波振幅I2hamp_qを受けて、これらの振幅及び位相をそれぞれ平均化して平均化2次調波位相I2hphi及び平均化2次調波振幅I2hampを出力する。ローパスフィルタ80は、平均化処理部78から平均化2次調波位相I2hphi及び平均化2次調波振幅I2hampを受けて、平均化2次調波位相I2hphi及び平均化2次調波振幅I2hampの高周波成分を除去して2次調波位相I2hphif及び2次調波振幅I2hampfを出力する。ローパスフィルタ80の透過周波数帯域は、後述する短絡判定処理部82においてレアショート状態を判定できる程度に平均化2次調波位相I2hphi及び平均化2次調波振幅I2hampの高周波成分を除去できるように適宜設定すればよい。例えば、ローパスフィルタ80の透過周波数帯域は、バンドパスフィルタ64の透過周波数帯域以下とする。
【0040】
短絡判定処理部82は、ローパスフィルタ80から2次調波位相I2hphif及び2次調波振幅I2hampfを受けて、2次調波位相I2hphif及び2次調波振幅I2hampfに基づいてモータ16がレアショート状態にあるか否かを判定する。また、短絡判定処理部82は、モータ16がレアショート状態にある場合、相間短絡であるか、ターン間短絡であるかを判定することができる。さらに、短絡判定処理部82は、モータ16が相間短絡である場合、V相とW相の相間短絡(VW相間短絡)、W相とU相の相間短絡(WU相間短絡)、U相とV相の相間短絡(UV相間短絡)のいずれであるか及び短絡の程度を判定することができる。また、短絡判定処理部82は、モータ16がターン間短絡である場合、U相のターン間短絡(U相ターン間短絡)、V相のターン間短絡(V相ターン間短絡)、W相のターン間短絡(W相ターン間短絡)のいずれであるか及び短絡の程度を判定することができる。短絡判定処理部82での判定処理については後述する。
【0041】
運転制御部84は、短絡判定処理部82におけるレアショート状態の判定結果に応じて、モータ16の運転条件を設定する運転制御処理を行う。運転制御部84によるモータ16に対する運転制御処理については後述する。
【0042】
[短絡判定処理]
以下、短絡判定処理部82におけるレアショートに関する短絡判定処理について説明する。
【0043】
図4は、モータ16がVW相間短絡を生じた状態におけるdq軸電流の2次調波の時間変化(併せてオールパスフィルタ処理後の時間変化)、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波振幅及び2次調波位相を示す。図4に示すように、モータ16がVW相間短絡を生じた状態では、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波位相は、時間的に大きく変動することなく、0deg以上120deg未満の位相範囲で安定する。また、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波振幅も時間的に大きく変動せず、短絡の程度の応じた値を示す。なお、短絡の程度に応じた値とは、短絡電流が小さいほど小さい値を示し、短絡電流が大きいほど大きい値を示すことをいう。
【0044】
なお、モータ16がWU相間短絡を生じた場合も2次調波振幅及び2次調波位相は時間的に大きく変動しない。モータ16がWU相間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は120deg以上240deg未満の位相範囲で安定する。また、モータ16がUV相間短絡を生じた場合も2次調波振幅及び2次調波位相は時間的に大きく変動しない。モータ16がUV相間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は240deg以上360deg未満の位相範囲で安定する。
【0045】
図5は、出力トルクが0の状態において運転中のモータ16がU相ターン間短絡を生じたときの3相電流、dq軸電流の2次調波の時間変化、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波振幅及び2次調波位相を示す。図5に示すように、モータ16がU相ターン間短絡を生じた状態では、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波位相は、時間的に大きく変動することなく、90deg以上150deg未満の位相範囲で安定する。また、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波振幅は、ほぼ0となり、時間的に大きく変動しない。
【0046】
なお、出力トルクが0の状態において運転中のモータ16がV相ターン間短絡を生じた場合も2次調波振幅及び2次調波位相は時間的に大きく変動しない。モータ16がV相間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は210deg以上270deg未満の位相範囲で安定し、dq軸電流の2次調波振幅はほぼ0で安定する。また、出力トルクが0の状態において運転中のモータ16がW相ターン間短絡を生じた場合も2次調波振幅及び2次調波位相は時間的に大きく変動しない。モータ16がW相間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は330deg以上360deg以下又は0deg以上30deg未満の位相範囲で安定し、dq軸電流の2次調波振幅はほぼ0で安定する。
【0047】
また、2つの相においてそれぞれターン間短絡が生じた場合、2次調波位相はそれぞれのターン間短絡における位相範囲の中間の範囲となる。すなわち、W相及びU相の両方にターン間短絡が生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は30deg以上90deg未満の位相範囲で安定する。また、U相及びV相の両方にターン間短絡が生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は150deg以上210deg未満の位相範囲で安定する。また、V相及びW相の両方にターン間短絡が生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は270deg以上330deg未満の位相範囲で安定する。
【0048】
図6は、出力トルクが0の状態において運転中のモータ16がUV相間短絡を生じたときの3相電流、dq軸電流の2次調波の時間変化、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波振幅及び2次調波位相を示す。出力トルクが0の状態において運転中のモータ16がUV相間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は240deg以上360deg未満の位相範囲で安定する。また、dq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。
【0049】
なお、出力トルクが0の状態において運転中のモータ16がWU相間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は120deg以上240deg未満の位相範囲で安定し、dq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。また、出力トルクが0の状態において運転中のモータ16がVW相間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は0deg以上120deg未満の位相範囲で安定し、dq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。
【0050】
図7は、出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16がU相ターン間短絡を生じたときの3相電流、dq軸電流の2次調波の時間変化、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波振幅及び2次調波位相を示す。出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16がU相ターン間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は90deg以上150deg未満の位相範囲で安定する。また、dq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。
【0051】
なお、出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16がV相ターン間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は210deg以上270deg未満の位相範囲で安定し、dq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。また、出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16がW相ターン間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は330deg以上360deg以下又は0deg以上30deg未満の位相範囲で安定し、dq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。
【0052】
また、出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16の2つの相においてそれぞれターン間短絡が生じた場合、2次調波位相はそれぞれのターン間短絡における位相範囲の中間の範囲となる。すなわち、W相及びU相の両方にターン間短絡が生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は30deg以上90deg未満の位相範囲で安定する。また、U相及びV相の両方にターン間短絡が生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は150deg以上210deg未満の位相範囲で安定する。また、V相及びW相の両方にターン間短絡が生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は270deg以上330deg未満の位相範囲で安定する。このとき、いずれの場合もdq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。
【0053】
図8は、出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16がUV相間短絡を生じたときの3相電流、dq軸電流の2次調波の時間変化、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波振幅及び2次調波位相を示す。出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16がUV相間短絡を生じた場合、出力トルクが0の状態において運転中のモータ16がUV相間短絡を生じた場合と同様に、dq軸電流の2次調波位相は240deg以上360deg未満の位相範囲で安定する。また、dq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。
【0054】
なお、出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16がWU相間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は120deg以上240deg未満の位相範囲で安定し、dq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。また、出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16がVW相間短絡を生じた場合、dq軸電流の2次調波位相は0deg以上120deg未満の位相範囲で安定し、dq軸電流の2次調波振幅は0より大きく、短絡の程度に応じた値を示す。
【0055】
図9は、出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16が各相にターン間短絡が生じたときのdq軸電流の2次調波の位相を纏めた図である。また、図10は、出力トルクが0以外の状態において運転中のモータ16が複数の相間に相間短絡が生じたときのdq軸電流の2次調波の位相を纏めた図である。また、図11は、dq軸電流の2次調波の位相の判定条件を纏めた図である。
【0056】
なお、レアショートの判定に用いられる2次調波位相の条件は、相対的なものであり、それぞれ任意の位相オフセット値だけ変更しても成り立つものである。
【0057】
図12は、短絡判定処理部82によるレアショートの判定処理を示すフローチャートである。以下、図12を参照しつつ、短絡判定処理部82によるレアショートの判定処理について説明する。
【0058】
ステップS10では、モータ16の現在の回転数(回転速度)が所定の基準回転数以上であるか否かが判定される。モータ16の現在の回転数が基準回転数以上であれば、ステップS12に処理を移行させ、基準回転数未満であればレアショートの判定が不可能であるとして処理を終了させる。本実施の形態では、例として基準回転数を1000[rpm]としている。ただし、基準回転数は、これに限定されるものではなく、モータ16の基本特性に応じてレアショートを適切に検出できる値に設定すればよい。
【0059】
ステップS12では、上記の短絡判定部42の処理に基づいてdq軸電流の2次調波の振幅及び位相(2次調波振幅I2hampf及び2次調波位相I2hphif)を算出する。ステップS14では、モータ16に対する出力トルクのトルク指令値が0であるか否かが判定される。トルク指令値が0又はほぼ0である場合にはステップS16に処理を移行させ、トルク指令値が0以外である場合にはステップS24に処理を移行させる。なお、トルク指令値が0又はほぼ0である場合と、0以外である場合とを判定するためのトルク指令の基準値は、モータ16の基本特性に応じてレアショートを適切に検出できる値に設定すればよい。
【0060】
ステップS16では、モータ16へのトルク指令値が0又はほぼ0、すなわち出力トルクが0の状態でモータ16が運転中である場合についてレアショートの判定が行われる。ここでは、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)が所定の基準振幅値以上であるか否かが判定される。dq軸電流の2次調波の振幅が当該基準振幅値以上である場合にはステップS18に処理を移行させ、当該基準振幅値未満である場合にはステップS22に処理を移行させる。
【0061】
ここで、基準振幅値は、モータ16の基本特性に応じてレアショートを適切に検出できる値に設定すればよい。ターン間短絡又は短絡が発生していない状態では、dq軸電流の2次調波の振幅はほぼ0になるので、基準振幅値は、例えばdq軸電流の2次調波の振幅が0近傍であることを検出できる程度の値とすればよい。
【0062】
ステップS18では、相間短絡が発生していると判定する。すなわち、短絡判定処理部82は、出力トルクが0(又はほぼ0)の状態でモータ16が運転中であるときにdq軸電流の2次調波の振幅が基準振幅値以上である場合に相間短絡が発生していると判定する。ステップS20では、相間短絡の部位を判定する。短絡判定処理部82は、dq軸電流の2次調波の位相の判定条件に基づいて、2次調波の位相(2次調波位相I2hphif)が満たす判定条件の位相範囲に該当する相を短絡の部位とする。具体的には、図11に示したdq軸電流の2次調波の位相の判定条件をデータベース化し、当該データベースを短絡判定処理部82から参照可能となるようにメモリに記憶させておくことによって、当該データベースを参照して2次調波の位相の範囲から短絡の部位を判定することができる。ただし、具体的な処理方法は、これに限定されるものではなく、dq軸電流の2次調波の位相の判定条件に基づく判定処理をロジック化し、当該ロジックに基づいて判定処理するプログラムや論理回路を用いるようにしてもよい。
【0063】
ステップS22では、ターン間短絡が発生している、又は、短絡が生じていないと判定する。すなわち、短絡判定処理部82は、出力トルクが0(又はほぼ0)の状態でモータ16が運転中であるときにdq軸電流の2次調波の振幅が基準振幅値未満である場合にターン間短絡が発生している、又は、短絡が生じていないと判定する。
【0064】
ステップS14においてトルク指令が0以外の場合には、ステップS24の処理が行われる。ステップS24では、これまでに相間短絡が生じたか否かが判定される。これまでの判定処理において相間短絡が生じていた場合には、相間短絡が発生した状態であると判定して、判定処理を終了する。これまでの判定処理において相間短絡が生じていなかった場合には、ステップS26に処理を移行させる。
【0065】
ステップS26では、出力トルクが0以外の状態でモータ16が運転中である場合についてレアショートの判定が行われる。ここでは、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)が所定の基準振幅値以上であるか否かが判定される。dq軸電流の2次調波の振幅が当該基準振幅値以上である場合にはステップS28に処理を移行させ、当該基準振幅値未満である場合にはステップS32に処理を移行させる。
【0066】
ステップS28では、ターン間短絡が発生していると判定する。すなわち、短絡判定処理部82は、出力トルクが0以外の状態でモータ16が運転中であるときにdq軸電流の2次調波の振幅が基準振幅値以上である場合にターン間短絡が発生していると判定する。ステップS30では、ターン間短絡の部位を判定する。短絡判定処理部82は、dq軸電流の2次調波の位相の判定条件に基づいて、2次調波の位相(2次調波位相I2hphif)が満たす判定条件の位相範囲に該当する相においてターン間短絡が生じているとする。具体的には、図11に示したdq軸電流の2次調波の位相の判定条件をデータベース化し、当該データベースを短絡判定処理部82から参照可能となるようにメモリに記憶させておくことによって、当該データベースを参照して2次調波の位相の範囲から短絡の部位を判定することができる。ただし、具体的な処理方法は、これに限定されるものではなく、dq軸電流の2次調波の位相の判定条件に基づく判定処理をロジック化し、当該ロジックに基づいて判定処理するプログラムや論理回路を用いるようにしてもよい。
【0067】
ステップS32では、短絡が生じていないと判定する。すなわち、短絡判定処理部82は、出力トルクが0以外の状態でモータ16が運転中であるときにdq軸電流の2次調波の振幅が基準振幅値未満である場合に短絡は生じていないと判定する。
【0068】
以上のように、本実施の形態におけるモータ制御システム100によれば、高速フーリエ変換(FFT)で相電流の高調波次数の高調波成分の含有率を計算することなく、モータ16におけるレアショートを検出し、その部位を特定することができる。特に、可変速状態で使用される電気自動車やハイブリッド自動車に搭載されたモータ16においてレアショートを的確に検出することができる。また、3相電流の検出器におけるオフセット誤差、ゲインのアンバランス、回転位置の検出器における誤差、dq軸電流の2次高調波の振幅と位相の時間変化による短絡の判定及び短絡部位の判定が不安定化を抑制することができる。
【0069】
[運転制御処理]
図13は、短絡判定処理部82によるレアショートの判定処理結果に応じてモータ16の運転を制御する運転制御処理を示すフローチャートである。以下、図13を参照しつつ、運転制御部84によるモータ16の運転制御処理について説明する。
【0070】
ステップS40では、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)が所定の第1基準値未満であるか否かが判定される。dq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)が第1基準値未満であればステップS42に処理を移行させ、第1基準値以上であればステップS44に処理を移行させる。第1基準値は、モータ16の運転を継続できるdq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)の値に設定する。例えば、第1基準値は、モータ16の運転を継続できるdq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)の最大値に設定する。
【0071】
ステップS42では、モータ16の運転を継続させる。運転制御部84は、モータ制御部40のPWM制御器62に対して通常通りにモータ16の運転を継続するように制御信号を出力する。これによって、モータ16は運転を継続する。
【0072】
ステップS44では、ローパスフィルタ80から出力されたdq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)が所定の第2基準値未満であるか否かが判定される。dq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)が第2基準値未満であればステップS46に処理を移行させ、第1基準値以上であればステップS52に処理を移行させる。第2基準値は、レアショートが生じているがモータ16からの出力トルクを減少させた状態であれば運転を継続できると判断されるdq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)の値に設定する。第2基準値は、第1基準値より大きい値とされる。
【0073】
ステップS46では、dq軸電流に対してフィルタを挿入する。例えば、上記のバンドパスフィルタ64に加えてdq軸電流の2次調波の周波数帯域を除去するバンドストップフィルタを適用する。dq軸電流に対してバンドストップフィルタを適用して2次調波を除去したdq軸電流を生成し、これに基づいて制御を行うことでモータ16を停止させることなく運転させることができる。ステップS48では、第1警告灯を灯す処理を行う。第1警告灯は、例えば、モータ16を搭載した車両のコンソールパネルに設けられており、これを点灯させることによってドライバにモータ16に異常が生じていることを知らせることができる。ステップS50では、dq軸電流の2次調波の振幅(2次調波振幅I2hampf)の大きさに応じてモータ16のトルク制御を行う。例えば、運転制御部84は、モータ制御部40のPWM制御器62に対してモータ16の出力トルクに通常運転時より制限をかけるように制御信号を出力する。これによって、モータ16の出力トルクは通常運転時より低いトルクを出力するように制御される。
【0074】
ステップS52では、モータ16が停止モードとされる。ステップS54では、第2警告灯を灯す処理を行う。第2警告灯は、例えば、モータ16を搭載した車両のコンソールパネルに設けられており、これを点灯させることによってドライバにモータ16を停止させるほどの異常が生じていることを知らせることができる。ステップS56では、モータ16の出力トルクが徐々に0になるように制御を行う。例えば、運転制御部84は、モータ制御部40のPWM制御器62に対してモータ16の出力トルクを徐々に低下させて、最終的に0になるように制御信号を出力する。これによって、モータ16の出力トルクは最終的に0になる。
【0075】
以上のように、本実施の形態におけるモータ16の短絡判定処理及び運転制御処理によれば、FFTによる計算に依らず可変速状態で使用されているモータの短絡判定が可能となり、短絡状態に応じてモータの出力トルクを適切に制御することができる。
【0076】
なお、モータ制御システム100を電動自動車やハイブリッド自動車に搭載した実施形態を示したが、ロボットや、産業機械等、その他の装置に搭載する態様としてもよい。
【0077】
構成1:
モータのd軸電流及びq軸電流を測定し、
前記d軸電流及び前記q軸電流の2次調波を抽出する抽出部と、
前記d軸電流の2次調波の位相を変更して擬似q軸電流の2次調波を演算する第1のオールパスフィルタと、前記q軸電流の2次調波の位相を変更して擬似d軸電流の2次調波を演算する第2のオールパスフィルタと、
前記d軸電流の2次調波と前記擬似q軸電流の2次調波から前記d軸電流の2次調波の振幅と位相を算出する第1の振幅・位相算出部、及び、前記q軸電流の2次調波と前記擬似d軸電流の2次調波から前記q軸電流の2次調波の振幅と位相を算出する第2の振幅・位相算出部と、
前記d軸電流の2次調波の振幅と位相及び前記q軸電流の2次調波の振幅と位相を平均化して平均化2次調波振幅及び平均化2次調波位相を算出する平均化処理部と、
前記平均化2次調波振幅及び前記平均化2次調波位相に対して適用され、2次調波振幅及び2次調波位相を出力するローパスフィルタと、
を備え、
前記2次調波振幅を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡を検出する処理、又は、前記2次調波位相を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡の部位を特定する処理、の少なくとも一方を行うことを特徴とするモータの短絡判定装置。
構成2:
構成1に記載のモータの短絡判定装置であって、
前記第1のオールパスフィルタは、前記d軸電流の2次調波の位相を90deg進ませ又は270deg遅らせて前記擬似q軸電流の2次調波を演算し、
前記第2のオールパスフィルタは、前記q軸電流の2次調波の位相を90deg遅らせて前記擬似d軸電流の2次調波を演算する、ことを特徴とするモータの短絡判定装置。
構成3:
構成1又は2に記載のモータの短絡判定装置であって、
前記2次調波位相を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡の部位を特定する処理は、前記2次調波位相の位相範囲に応じて短絡の部位を特定することを特徴とするモータの短絡判定装置。
構成4:
構成1~3のいずれか1つに記載のモータの短絡判定装置であって、
前記2次調波振幅を用いて前記モータの相間短絡又はターン間短絡を検出する処理は、前記2次調波振幅を用いて短絡の程度を特定することを特徴とするモータの短絡判定装置。
構成5:
構成1~4のいずれか1つに記載のモータ短絡判定装置による前記モータの相間短絡又はターン間短絡の判定結果に応じて前記モータを制御するモータ制御システム。
構成6:
構成5に記載のモータ制御システムであって、
前記2次調波振幅の値に基づいて前記モータの運転を継続する継続運転制御、前記モータの出力トルクを制限して運転を行う出力トルク制限運転制御、及び、前記モータの運転を停止させるモータ停止制御のいずれかを行うことを特徴とするモータ制御システム。
構成7:
構成6に記載のモータ制御システムであって、
前記出力トルク制限運転制御では、前記d軸電流及び前記q軸電流に対して2次調波を除去するバンドストップフィルタを適用した電流を前記d軸電流及び前記q軸電流の代わりに用いることを特徴とするモータ制御システム。
【符号の説明】
【0078】
10 電池、12 インバータ、14u U相スイッチングアーム、14v V相スイッチングアーム、14w W相スイッチングアーム、16 モータ、16u U相巻線、16v V相巻線、16w W相巻線、18 電流センサ、20 レゾルバ、22 電圧センサ、24 コントローラ、26u U相端子、26v V相端子、26w W相端子、40 モータ制御部、42 短絡判定部、42 短絡判定部、52 三相/dq軸変換器、54 電流指令生成器、56d d軸減算器、56q q軸減算器、58d d軸PI演算器、58q q軸PI演算器、60 dq軸/三相変換器、62 PWM制御器、64 バンドパスフィルタ、66 オールパスフィルタ、68 座標変換器、70 振幅・位相算出器、72 オールパスフィルタ、74 座標変換器、76 振幅・位相算出器、78 平均化処理部、80 ローパスフィルタ、82 短絡判定処理部、84 運転制御部。
図1
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図13