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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034037
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】防眩性フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20240306BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240306BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20240306BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20240306BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20240306BHJP
   C09D 7/62 20180101ALI20240306BHJP
【FI】
B32B27/18 F
B32B27/20 Z
C09D5/14
C09D201/00
C09D7/65
C09D7/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138026
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】薮原 靖史
(72)【発明者】
【氏名】大林 佑美
【テーマコード(参考)】
4F100
4J038
【Fターム(参考)】
4F100AJ04B
4F100AJ06A
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AR00A
4F100BA02
4F100DE01B
4F100DG02B
4F100EH46
4F100EJ42
4F100EJ54
4F100JC00B
4F100JG03B
4F100JG04B
4F100JK12B
4F100JN01
4F100JN01A
4F100JN30B
4F100YY00B
4J038BA022
4J038FA111
4J038FA151
4J038FA161
4J038GA06
4J038GA14
4J038HA066
4J038JC38
4J038KA04
4J038KA08
4J038KA20
4J038MA09
4J038MA14
4J038NA02
4J038NA11
4J038NA17
4J038NA19
4J038PA06
4J038PA17
4J038PB08
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】抗菌性能を有し、低湿度環境下での帯電防止性の低下を抑制し、高い硬度を有する防眩性フィルムを提供することを課題とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る防眩性フィルムは、透明基材上に、複合粒子とバインダマトリックスを有する防眩性ハードコート層を備え、前記複合粒子が、少なくとも一種類のポリマーを含むコア粒子が表面に微細化セルロースにより構成された被覆層を有する複合粒子であり、被覆層に抗菌性成分を含むことを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、複合粒子とバインダマトリックスを有する防眩性ハードコート層を備え、前記複合粒子が、少なくとも一種類のポリマーを含むコア粒子の表面に微細化セルロースにより構成された被覆層を有する複合粒子であり、被覆層に抗菌性成分を含むことを特徴とする防眩性フィルム。
【請求項2】
前記微細化セルロースが、イオン性官能基を有することを特徴とする、請求項1に記載の防眩性フィルム。
【請求項3】
前記微細化セルロースのイオン性官能基含有量が、微細化セルロースの乾燥重量に対して0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下であることを特徴とする、請求項1に記載の防眩性フィルム。
【請求項4】
前記イオン性官能基が、カルボキシ基、リン酸基及びスルホ基から選ばれる1種以上である、請求項1に記載の防眩性フィルム。
【請求項5】
前記微細化セルロースが有するイオン性官能基により、抗菌性成分が吸着または担持していることを特徴とする、請求項1に記載の防眩性フィルム。
【請求項6】
前記複合粒子の平均粒子径が0.05μm以上、10μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の防眩性フィルム。
【請求項7】
前記防眩性ハードコート層の表面における、25℃、20%RH環境下での電気抵抗値が、1.0×1012Ω/□以下であることを特徴とする請求項1に記載の防眩性フィルム。
【請求項8】
前記防眩性ハードコート層の表面における、25℃、20%RH環境下での表面帯電量の半減期が、10秒以下であることを特徴とする請求項1に記載の防眩性フィルム。
【請求項9】
前記防眩性ハードコート層の鉛筆硬度が、2H以上であることを特徴とする、請求項1に記載の防眩性フィルム。
【請求項10】
ヘイズ値が3%以上、15%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の防眩性フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窓やディスプレイなどの表面に設けられる防眩性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、CRTディスプレイ、ELディスプレイ、および、プラズマディスプレイなどのディスプレイにおいては、視聴時にディスプレイ表面に外光が映りこむことによる視認性の低下を防ぐために、表面に反射防止フィルムを設けることが知られている。
【0003】
反射防止フィルムは、光の干渉や散乱を利用し、ディスプレイの視認性を向上させる性能の他に、ディスプレイへの傷付きを防止する耐擦傷性能、ホコリなどの付着を抑制する帯電防止性能、指紋や汚れの付着を抑制する防汚性能、薬品などからの汚染を防ぐ耐薬品性能などの様々な性能が付与されている。
【0004】
近年、ディスプレイの多くは画像表示機能だけではなく、スマートフォンやノートパソコン、カーナビゲーション装置、ATM、プリンターなど、タッチパネル式入力装置として、ひとが触れて操作するデバイスに設置されている。これらの入力装置としてのディスプレイの多くが接触式であり、不特定多数のひとがディスプレイに触れて操作を行う。ひとが触れることで手指からディスプレイ表面に雑菌やウイルスが移り、他者がディスプレイに触れることで、ディスプレイを介して雑菌やウイルスを拡散してしまう。また、ディスプレイ上で雑菌やウイルスが繁殖してしまう恐れがあるため、頻繁に除菌処理などを行う必要がある。従って、ディスプレイを介しての感染症の対策として、ディスプレイ表面の抗菌、抗ウイルス性(合わせて本明細書では抗菌性と称する)が求められている。
【0005】
反射防止フィルムへの抗菌性能の付与は、バインダー樹脂中に抗菌剤を添加することで成されることが知られている。使用される抗菌剤は銀などの抗菌性能を持つ金属微粒子や金属を担持させた多孔質粒子などが用いられている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9-316369号公報
【特許文献2】特開平11-29720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の技術のように、バインダー樹脂に金属微粒子や金属担持粒子などの抗菌剤を添加して、抗菌性能を付与する場合、使用する樹脂によっては抗菌剤の分散性が悪化し、凝集や沈殿などが発生するという問題が生じる。また、溶解性の抗菌剤を用いる場合は、樹脂によっては溶解させることが困難である場合がある。
【0008】
一方、地球環境への負荷や化石資源の枯渇化、廃棄物処理等の環境問題が深刻化している近年、化石資源の代わりに天然資源を有効利用する材料開発が求められている。中でも、地球上で最も多く生産されるバイオマス材料として、また自然環境下にて生分解可能な材料としてセルロース系材料が注目されている。特に、セルロースの特徴である、高強度、高弾性率、高結晶性、低熱線膨張係数に加え、高い透明性を有するナノファイバー状セルロースは、新規セルロース材料として機能性材料への利用が期待されている。
【0009】
そこで、本発明では、上述したような従来の反射防止フィルムへの抗菌性能の付与に関しての問題を解決するために、天然資源である微細化セルロースの特徴を活かした、抗菌性能を有し、低湿度環境下での帯電防止性の低下を抑制し、高い硬度を有する防眩性フィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る防眩性フィルムは、透明基材上に、複合粒子とバインダマトリックスを有する防眩性ハードコート層を備え、前記複合粒子が、少なくとも一種類のポリマーを含むコア粒子の表面に微細化セルロースにより構成された被覆層を有する複合粒子であり、被覆層に抗菌性成分を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、抗菌性能を有し、低湿度環境下での帯電防止性の低下を抑制し、高い硬度を有する防眩性フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に係る防眩性フィルムの断面模式図である。
図2】本発明に係る複合粒子の概略図である。
図3】本発明に係る微細化セルロースを用いた抗菌性成分含有複合粒子の製造方法の一例を示す概略図である。
図4】実施例1で得られた複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察した結果を示す図(SEM画像)である。
図5】実施例1で得られた複合粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって高倍率で観察した結果を示す図(SEM画像)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。ただし、以下に説明する各図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適宜省略する。また、本実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、各部の材質、形状、構造、配置、寸法等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
図1は本発明の反射防止フィルムの断面模式図である。本発明の防眩性フィルム1は、透明基材2上に防眩性ハードコート層3を有し、防眩性ハードコート層3は抗菌性成分含有複合粒子4とバインダマトリックス5を備える。
【0015】
<複合粒子および抗菌性成分含有複合粒子>
本発明の防眩層ハードコート層3に含まれる抗菌性成分含有複合粒子4および前駆体である複合粒子12について説明する。
図2は、少なくとも一種類のポリマーを含むコア粒子8の表面に微細化セルロース(以下、セルロースナノファイバー、CNFとも称する)6により構成された被覆層7を有する抗菌性成分含有複合粒子4の概略図である。なお、ここで言う「微細化セルロース」とは、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下の範囲内である繊維状セルロースを意味する。
【0016】
抗菌性成分含有複合粒子4は、少なくとも一種類のポリマーを含んだ粒子であるコア粒子8を含有し、コア粒子8の表面に、微細化セルロース6により構成された被覆層7を有し、コア粒子8と微細化セルロース6とが結合して不可分の状態にある複合粒子であり、
さらに被覆層7に抗菌性成分9が吸着している。
【0017】
抗菌性成分含有複合粒子4の製造方法は、特に限定されないが、例えば、微細化セルロース6を用いたO/W型ピッカリングエマルションを形成させ、エマルション内部の液滴を固体化させて固体のコア粒子とすることで、コア粒子8と微細化セルロース6とが結合して不可分の状態にある複合粒子12を得ることができる。微細化セルロース6を用いることで界面活性剤等の添加物を用いることなく、液滴を形成することが可能であり、複合粒子12を得ることができる。
【0018】
ここで言う「不可分」とは、例えば、複合粒子12を含む分散液を遠心分離処理して上澄みを除去し、さらに溶媒を加えて再分散することで複合粒子12を精製・洗浄する操作、あるいはメンブレンフィルターを用いたろ過洗浄によって繰り返し溶媒による洗浄する操作を繰り返した後であっても、微細化セルロース6とコア粒子8とが分離せず、微細化セルロース6によるコア粒子8の被覆状態が保たれることを意味する。被覆状態の確認は、例えば、走査型電子顕微鏡による複合粒子12の表面観察により確認することができる。なお、複合粒子12において微細化セルロース6とコア粒子8の結合メカニズムについては定かではないが、複合粒子12が微細化セルロース6によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製されるため、エマルション内部の液滴に微細化セルロース6が接触した状態で液滴が固体化するために、固体化後に得られる複合粒子12において、コア粒子8の表面に存在する微細化セルロース6の少なくとも一部がコア粒子8の内部に取り込まれた状態となることが予想される。以上の理由により、物理的に微細化セルロース6が固体化後のコア粒子8に固定化されて、最終的にコア粒子8と微細化セルロース6とが不可分な状態に至ると推察される。
【0019】
ここで、O/W型エマルションは、水中油滴型(Oil-in-Water)とも言われ、水を連続相とし、その中に油が油滴(油粒子)として分散しているものである。
【0020】
また、複合粒子12は微細化セルロース6によって安定化されたO/W型エマルションを鋳型として作製されるため、複合粒子12の形状はO/W型エマルションに由来した真球状となることが特徴である。詳細には、真球状のコア粒子8の表面に微細化セルロース6からなる被覆層7が比較的均一な厚みで形成された様態となる。被覆層7の平均厚みは、例えば、複合粒子12を包埋樹脂で固定したものをミクロトームで切削して走査型電子顕微鏡観察を行い、画像中の複合粒子12の断面像における被覆層7の厚みを画像上で100箇所ランダムに測定し、平均値を取ることで算出できる。また、複合粒子4は比較的揃った厚みの被覆層7で均一に被覆されていることが特徴であり、具体的には上述した被覆層7の厚みの値の変動係数は0.5以下となることが好ましく、0.4以下となることがより好ましい。微細化セルロース6を含む被覆層7の厚みの値の変動係数が0.5を超える場合には、例えば、複合粒子12の回収が困難となることがある。
【0021】
さらに、微細化セルロース6は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であることが好ましい。具体的には、微細化セルロース6は繊維状であって、数平均短軸径が1nm以上1000nm以下、数平均長軸径が50nm以上であり、かつ数平均長軸径が数平均短軸径の5倍以上であることが好ましい。また、微細化セルロース6の結晶構造は、セルロースI型であることが好ましい。
【0022】
<抗菌性成分含有複合粒子の製造方法>
図3に、本発明に係る抗菌性成分含有複合粒子4の製造方法の一例を示す。抗菌性成分含有複合粒子4の製造方法は、セルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース6の分散液11を得る工程(第1工程)と、微細化セルロース6の分散液11中において液滴10の表面の少なくとも一部を微細化セルロース6で覆い、液滴10をエマルションとし
て安定化させる工程(第2工程)と、液滴10の表面の少なくとも一部が微細化セルロース6で覆われた状態で、液滴10を固体化してコア粒子8とすることで、コア粒子8の表面の少なくとも一部を微細化セルロース6で覆い、かつコア粒子8と微細化セルロース6とを不可分の状態にする工程(第3工程)と、得られた複合粒子12の被覆層7に抗菌性成分9を含有させる工程(第4工程)と、を製造工程に有することで抗菌性成分含有複合粒子4を得ることができる。
【0023】
上記製造方法により得られた複合粒子12および抗菌性成分含有複合粒子4は溶媒中の分散体として得られる。さらに溶媒(分散媒とも言う)を除去することにより乾燥固形物として得られる。溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば遠心分離法やろ過法によって余剰の溶媒を除去し、さらにオーブンで熱乾燥することで乾燥固形物として得ることができる。この際、得られる乾燥固形物は膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。この理由としては定かではないが、通常微細化セルロース分散体から溶媒を除去すると、微細化セルロース同士が強固に凝集、膜化することが知られている。一方、複合粒子12および抗菌性成分含有複合粒子4を含む分散液の場合、微細化セルロース6が表面に固定化された真球状の複合粒子であるため、溶媒を除去しても微細化セルロース6同士が凝集することなく、複合粒子間の点と点で接するのみであるため、その乾燥固形物は肌理細やかな粉体として得られると考えられる。また、複合粒子4同士の凝集がないため、乾燥粉体として得られた複合粒子12および抗菌性成分含有複合粒子4を再び溶媒に再分散することも容易であり、再分散後も複合粒子12および抗菌性成分含有複合粒子4の表面に結合された微細化セルロース6に由来した分散安定性を示す。
【0024】
以下に、各工程について、詳細に説明する。
【0025】
(第1工程)
第1工程はセルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る工程である。まず、各種セルロース原料を溶媒中に分散し、懸濁液とする。懸濁液中のセルロース原料の濃度としては0.1%以上10%未満が好ましい。懸濁液中のセルロース原料の濃度が0.1%未満であると、溶媒過多となり生産性を損なう傾向があるため好ましくない。また、懸濁液中のセルロース原料の濃度が10%以上になると、セルロース原料の解繊に伴い懸濁液が急激に増粘し、均一な解繊処理が困難となる傾向があるため好ましくない。懸濁液作製に用いる溶媒としては、水を50%以上含むことが好ましい。懸濁液中の水の割合が50%未満になると、後述するセルロース原料を溶媒中で解繊して微細化セルロース分散液を得る工程において、微細化セルロース6の分散が阻害される傾向がある。また、水以外に含まれる溶媒としては親水性溶媒が好ましい。親水性溶媒については特に制限はないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類が好ましい。必要に応じて、セルロースや生成する微細化セルロース6の分散性を上げるために、例えば、懸濁液のpH調整を行ってもよい。pH調整に用いられるアルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0026】
続いて、懸濁液に物理的解繊処理を施して、セルロース原料を微細化する。物理的解繊処理の方法としては特に限定されないが、例えば、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突などの機械的処理が挙げられる。このような物理的解繊処理を行うことで、懸濁液中のセルロースが微細化され、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロース(微細化セルロース)6の分散液を得ることができる。また、このときの物理的解繊処理の時間や回数により、得られる微細化セルロース6の数平均短軸径および数平均長軸径を調整することができる。
【0027】
上記のようにして、その構造の少なくとも一辺がナノメートルオーダーになるまで微細化されたセルロース6の分散体(微細化セルロース分散液)が得られる。得られた分散体は、そのまま、または希釈、濃縮等を行って、後述するO/W型エマルションの安定化剤として用いることができる。
【0028】
通常、微細化セルロース6は、ミクロフィブリル構造由来の繊維形状であるため、本実施形態の製造方法に用いる微細化セルロース6としては、以下に示す範囲にある繊維形状のものが好ましい。すなわち、微細化セルロース6の形状としては、繊維状であることが好ましい。また、繊維状の微細化セルロース6は、短軸径において数平均短軸径が1nm以上1000nm以下であればよく、好ましくは2nm以上500nm以下であればよい。ここで、数平均短軸径が1nm未満では高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとることができず、エマルションの安定化と、エマルションを鋳型とした重合反応とを実施することが困難となる傾向がある。一方、短軸径において数平均短軸径が1000nmを超えると、エマルションを安定化させるにはサイズが大きくなり過ぎるため、得られる複合粒子12のサイズや形状を制御することが困難となる傾向がある。また、数平均長軸径においては特に制限はないが、好ましくは数平均短軸径の5倍以上であればよい。数平均長軸径が数平均短軸径の5倍未満であると、複合粒子12のサイズや形状を十分に制御することが困難となる傾向があるために好ましくない。
【0029】
なお、微細化セルロース繊維の数平均短軸径は、例えば、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の短軸径(最小径)を測定し、その平均値として求められる。一方、微細化セルロース繊維の数平均長軸径は、例えば、透過型電子顕微鏡観察および原子間力顕微鏡観察により100本の繊維の長軸径(最大径)を測定し、その平均値として求められる。
【0030】
微細化セルロース6の原料として用いることができるセルロースの種類や結晶構造も特に限定されない。具体的には、セルロースI型結晶からなる原料としては、例えば、木材系天然セルロースに加えて、コットンリンター、竹、麻、バガス、ケナフ、バクテリアセルロース、ホヤセルロース、バロニアセルロースといった非木材系天然セルロースを用いることができる。さらには、セルロースII型結晶からなるレーヨン繊維、キュプラ繊維に代表される再生セルロースも用いることができる。材料調達の容易さから、木材系天然セルロースを原料とすることが好ましい。木材系天然セルロースとしては、特に限定されず、例えば、針葉樹パルプや広葉樹パルプ、古紙パルプ、など、一般的にセルロースナノファイバーの製造に用いられるものを用いることができる。精製および微細化のしやすさから、針葉樹パルプが好ましい。
【0031】
さらに微細化セルロース原料は化学改質されていることが好ましい。より具体的には、微細化セルロース原料の結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることが好ましい。セルロース結晶表面にアニオン性官能基が導入されていることによって浸透圧効果でセルロース結晶間に溶媒が浸入しやすくなり、セルロース原料の微細化が進行しやすくなるためである。
【0032】
セルロースの結晶表面に導入されるアニオン性官能基の種類や導入方法は特に限定されないが、カルボキシ基やリン酸基、スルホ基が好ましい。セルロース結晶表面への選択的な導入のしやすさから、カルボキシ基がより好ましい。
【0033】
セルロースの繊維表面にカルボキシ基を導入する方法は、特に限定されない。具体的には、例えば、高濃度アルカリ水溶液中でセルロースをモノクロロ酢酸またはモノクロロ酢酸ナトリウムと反応させることによりカルボキシメチル化を行ってもよい。また、オートクレーブ中でガス化したマレイン酸やフタル酸等の無水カルボン酸系化合物とセルロースを直接反応させてカルボキシ基を導入してもよい。さらには、水系の比較的温和な条件で、可能な限り構造を保ちながら、アルコール性一級炭素の酸化に対する選択性が高い、TEMPOをはじめとするN-オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いた手法を用いてもよい。カルボキシ基導入部位の選択性および環境負荷低減のためにはN-オキシル化合物を用いた酸化がより好ましい。
【0034】
ここで、N-オキシル化合物としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシラジカル)、2,2,6,6-テトラメチル-4-ヒドロキシピペリジン-1-オキシル、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-エトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-N-オキシル、等が挙げられる。そのなかでも、反応性が高いTEMPOが好ましい。N-オキシル化合物の使用量は、触媒としての量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して0.01~5.0質量%程度である。
【0035】
N-オキシル化合物を用いた酸化方法としては、例えば木材系天然セルロースを水中に分散させ、N-オキシル化合物の共存下で酸化処理する方法が挙げられる。このとき、N-オキシル化合物とともに、共酸化剤を併用することが好ましい。この場合、反応系内において、N-オキシル化合物が順次共酸化剤により酸化されてオキソアンモニウム塩が生成し、上記オキソアンモニウム塩によりセルロースが酸化される。この酸化処理によれば、温和な条件でも酸化反応が円滑に進行し、カルボキシ基の導入効率が向上する。酸化処理を温和な条件で行うと、セルロースの結晶構造を維持しやすい。
【0036】
共酸化剤としては、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸や過ハロゲン酸、またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、窒素酸化物、過酸化物など、酸化反応を推進することが可能であれば、いずれの酸化剤も用いることができる。入手の容易さや反応性から、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。上記共酸化剤の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~200質量%程度である。
【0037】
また、N-オキシル化合物および共酸化剤とともに、臭化物およびヨウ化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物をさらに併用してもよい。これにより、酸化反応を円滑に進行させることができ、カルボキシ基の導入効率を改善することができる。このような化合物としては、臭化ナトリウムまたは臭化リチウムが好ましく、コストや安定性から、臭化ナトリウムがより好ましい。化合物の使用量は、酸化反応を促進することができる量でよく、特に限定されない。通常、酸化処理する木材系天然セルロースの固形分に対して1~50質量%程度である。
【0038】
酸化反応の反応温度は、4℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上70℃以下がより好ましい。酸化反応の反応温度が4℃未満であると、試薬の反応性が低下し反応時間が長くなってしまう傾向がある。酸化反応の反応温度が80℃を超えると副反応が促進して試料であるセルロースが低分子化して高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造が崩壊し、O/W型エマルションの安定化剤として用いることが困難となる傾向がある。
【0039】
また、酸化処理の反応時間は、反応温度、所望のカルボキシ基量等を考慮して適宜設定でき、特に限定されないが、通常、10分~5時間程度である。
【0040】
酸化反応時の反応系のpHは特に限定されないが、9~11が好ましい。pHが9以上であると反応を効率良く進めることができる。pHが11を超えると副反応が進行し、試料であるセルロースの分解が促進されてしまうおそれがある。また、酸化処理においては、酸化が進行するにつれて、カルボキシ基が生成することにより系内のpHが低下してしまうため、酸化処理中、反応系のpHを9~11に保つことが好ましい。反応系のpHを9~11に保つ方法としては、例えば、pHの低下に応じてアルカリ水溶液を添加する方法が挙げられる。
【0041】
アルカリ水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液、水酸化テトラブチルアンモニウム水溶液、水酸化ベンジルトリメチルアンモニウム水溶液などの有機アルカリなどが挙げられる。コストなどの面から水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0042】
N-オキシル化合物による酸化反応は、例えば、反応系にアルコールを添加することにより停止させることができる。このとき、反応系のpHは上記の範囲内に保つことが好ましい。添加するアルコールとしては、例えば、反応をすばやく終了させるためメタノール、エタノール、プロパノールなどの低分子量のアルコールが好ましく、反応により生成される副産物の安全性などから、エタノールが特に好ましい。
【0043】
酸化処理後の反応液は、そのまま微細化工程に供してもよいが、N-オキシル化合物等の触媒、不純物等を除去するために、反応液に含まれる酸化セルロースを回収し、洗浄液で洗浄することが好ましい。酸化セルロースの回収は、例えば、ガラスフィルターや20μm孔径のナイロンメッシュを用いたろ過等の公知の方法により実施できる。酸化セルロースの洗浄に用いる洗浄液としては純水が好ましい。
【0044】
得られたTEMPO酸化セルロースに対し解繊処理を行うと、3nm前後の均一な繊維幅を有するセルロースシングルナノファイバー(CSNF)が得られる。CSNFを複合粒子12の微細化セルロース6の原料として用いると、その均一な構造に由来して、得られるO/W型エマルションの粒径も均一になりやすい。
【0045】
以上のように、本実施形態で用いられる微細化セルロース6は、セルロース原料を酸化する工程と、微細化して分散液化する工程と、によって得ることができる。また、微細化セルロース6に導入するカルボキシ基の含有量としては、0.1mmol/g以上5.0mmol/g以下が好ましく、0.5mmol/g以上2.0mmol/g以下がより好ましく、この範囲であれば塗工用組成物として用いた際、複合粒子の高い分散安定性が発揮される。ここで、カルボキシ基量が0.1mmol/g未満であると、セルロースミクロフィブリル間に浸透圧効果による溶媒進入作用が働かないため、セルロースを微細化して均一に分散させることは難しい。また、5.0mmol/gを超えると化学処理に伴う副反応によりセルロースミクロフィブリルが低分子化するため、高結晶性の剛直な微細化セルロース繊維構造をとることができず、O/W型エマルションの安定化剤として用いることができない。
【0046】
(第2工程)
第2工程は、微細化セルロース6の分散液11中において液滴10の表面の少なくとも一部を微細化セルロース6で被覆して、液滴10をエマルションとして安定化させる工程である。
【0047】
具体的には第1工程で得られた微細化セルロース分散液に親和性のない少なくとも一種
類の重合性モノマーまたはポリマーを添加し、さらに微細化セルロース分散液に親和性のない少なくとも一種類の重合性モノマーまたはポリマーを微細化セルロース分散液中に液滴10として分散させ、さらに液滴10の表面の少なくとも一部を微細化セルロース6によって被覆し、微細化セルロース6によって安定化されたO/W型エマルションを作製する工程である。
【0048】
O/W型エマルションを作製する方法としては、例えば、微細化セルロース分散液に開始剤を含む重合性モノマーを添加しエマルション化させる方法、常温にて固体であるポリマーを微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解したものを微細化セルロース分散液に添加しエマルション化させる方法、微細化セルロース分散液に常温にて固体であるポリマーを添加しポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱し融解させエマルション化させる方法がある。いずれの方法においても添加する重合性モノマーまたはポリマーは微細化セルロース分散液に対して相溶性がないものが好ましい。相溶性がある場合は微細化セルロース分散液中にてポリマーの液滴を形成することが困難となり、複合体を得ることが困難となる傾向がある。
【0049】
微細化セルロース分散液に開始剤を含む重合性モノマーを混合したものを添加しエマルション化させる方法に用いることができる重合性モノマーとしては、ポリマーの単量体であって、その構造中に重合性の官能基を有し、常温で液体であって、水と完全に相溶せず、重合反応によってポリマー(高分子重合体)を形成できるものであれば特に限定されない。重合性モノマーは少なくとも一つの重合性官能基を有する。重合性官能基を一つ有する重合性モノマーは単官能モノマーとも称する。また、重合性官能基を二つ以上有する重合性モノマーは多官能モノマーとも称する。重合性モノマーの種類としては特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル系モノマー、ビニル系モノマーなどが挙げられる。また、エポキシ基やオキセタン構造などの環状エーテル構造を有する重合性モノマー(例えばε-カプロラクトン等、)を用いることも可能である。
なお、「(メタ)アクリレート」の表記は、「アクリレート」と「メタクリレート」との両方を含むこと示す。
【0050】
単官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
2官能の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコ-ルジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0052】
3官能以上の(メタ)アクリル系モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の3官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0053】
単官能のビニル系モノマーとしては例えば、ビニルエーテル系、ビニルエステル系、芳香族ビニル系、特にスチレンおよびスチレン系モノマーなど、常温で水と相溶しない液体が好ましい。
【0054】
単官能ビニル系モノマーのうち(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、ヘプタフルオロデシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0055】
また、単官能芳香族ビニル系モノマーとしては、スチレン、例えば、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、エチルスチレン、イソプロペニルトルエン、イソブチルトルエン、tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、1,1-ジフェニルエチレンなどが挙げられる。
【0056】
多官能のビニル系モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼンなどの不飽和結合を有する多官能基が挙げられる。常温で水と相溶しない液体が好ましい。
【0057】
例えば多官能性ビニル系モノマーとしては、具体的には、(1)ジビニルベンゼン、1,2,4-トリビニルベンゼン、1,3,5-トリビニルベンゼン等のジビニル類、(2)エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロピレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサメチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート類、(3)トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリエチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート類、(4)エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、1,3-ジプロピレングリコールジアクリレート、1,4-ジブチレングリコールジアクリレート、1,6-ヘキシレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2-ビス(4-アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジアクリレート類、(5)トリメチロールプロパントリアクリレート、トリエチロールエタントリアクリレート等のトリアクリレート類、(6)テトラメチロールメタンテトラアクリレート等のテトラアクリレート類、(7)その他に、例えばテトラメチレンビス(エチルフマレート)、ヘキサメチレンビス(アクリルアミド)、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートが挙げられる。
【0058】
例えば官能性スチレン系モノマーとしては、具体的には、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルナフタレン、ジビニルキシレン、ジビニルビフェニル、ビス(ビニルフェニル)メタン、ビス(ビニルフェニル)エタン、ビス(ビニルフェニル)プロパン、ビス(ビニルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0059】
また、これらの他にも重合性の官能基を少なくとも1つ以上有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができ、特にその材料を限定しない。
【0060】
上記重合性モノマーは単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
また、重合性モノマーには予め重合開始剤が含まれていてもよい。一般的な重合開始剤としては、例えば、有機過酸化物やアゾ重合開始剤などのラジカル開始剤が挙げられる。
【0062】
有機過酸化物としては、例えばパーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシカーボネート、パーオキシエステルなどが挙げられる。
【0063】
アゾ重合開始剤としては、例えばADVN,AIBNが挙げられる。
【0064】
例えば2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル-2,2-アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4-アゾビス(4-シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2-アゾビス(2-メチルブチルアミド)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(2-メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2-シアノ-2-プロピルアゾホルムアミド、2,2-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、2,2-アゾビス(N-シクロヘキシル-2-メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
【0065】
第2工程において予め重合開始剤が含まれた状態の重合性モノマーを用いれば、O/W型エマルションを形成した際にエマルション液滴10内部の重合性モノマーに重合開始剤が含まれるため、後述の第3工程においてエマルション内部のモノマーを重合させる際に重合反応が進行しやすくなる。
【0066】
第2工程において用いることができる重合性モノマーと重合開始剤の重量比については特に限定されないが、通常、重合性モノマーに対し、重合開始剤が0.1%以上であることが好ましい。重合性開始剤が0.1%未満となると重合反応が充分に進行せずに複合粒子12の収量が低下する傾向があるため好ましくない。
【0067】
常温にて固体であるポリマーを微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解し微細化セルロース分散液に添加しエマルション化させる方法に用いることができるものとしては、前述の重合性モノマーを重合させたポリマーが挙げられる。また、常温にて固体であるポリマーを溶解する溶媒としては微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒が好ましい。水への溶解度が高い場合、ポリマー相から水相へ溶媒が容易に溶解してしまうため、エマルション化が困難となる傾向がある。水への溶解性がない場合はポリマー相から溶媒が移動することができないため、複合粒子を得ることが極めて困難となる傾向がある。また、ポリマーを溶解する溶媒は沸点が90℃以下であることが好ましい。沸点が90℃より高い場合、ポリマーを溶解する溶媒よりも先に微細化セルロース分散液が蒸発してしまい複合粒子を得ることが極めて困難となる傾向がある。ポリマーを溶解する溶媒としては、具体的にはジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、ベンゼンなどが挙げられる。
【0068】
微細化セルロース分散液に常温にて固体であるポリマーを添加しポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱し融解させエマルション化させる方法に用いることができるものとしては、常温で固体であり、加熱することで流動性を持つものであり、流動性を持つ温度とは融点またはガラス転移温度である。添加するポリマーの融点またはガラス転移温度は40℃以上90℃以下のものが好ましい。ポリマーの融点またはガラス転移温度が40℃未満である場合、常温で固体化することが難しいため、複合体を得ることが極めて困難となる傾向がある。また、ポリマーの融点またはガラス転移温度が90℃以上である場合、ポリマーが溶解するよりも、一緒に加熱する微細化セルロース分散液の溶媒である水が気化してしまいエマルション化することが困難となる傾向がある。このため、本実施形態において使用できるポリマーとしては、具体的にはポリ-S-メチルヘプテン、ポリデセン、ポリビニルパルミテート、ポリビニルステアレート、cis-1,4-ポリクロロプレン、it cis-1,4-ポリ-1,3ペンタジエン、it trans-1,4-ポリ-1,3ヘキサジエン、it trans-1,4-ポリ-1,3ヘプタジエン、it trans-1,4-ポリ-1,3オクタジエン、ポリヘキサメチレンオキシド、ポリオクタメチレンオキシド、ポリブタジエンオキシド、ポリテトラメチレンスルフィド、ポリペンタメチレンスルフィド、ポリヘキサメチレンスルフィド、ポリメチレンチオテトラメチレンスルフィド、ポリエチレンチオテトラメチレンスルフィド、ポリトリメチレンジスルフィド、などが挙げられる。
【0069】
第2工程において用いることができる微細化セルロース分散液とポリマーおよびポリマーと重合性モノマーの混合液の重量比については特に限定されないが、微細化セルロース繊維に対し、ポリマーおよびポリマーと重合性モノマーの混合液が1%以上、50%以下であることが好ましい。ポリマーおよびポリマーと重合性モノマーの混合液が1%未満となると複合粒子12の収量が低下する傾向があるため好ましくない。また、ポリマーおよびポリマーと重合性モノマーの混合液が50%を超えると液滴10を微細化セルロース6で均一に被覆することが困難となる傾向があり好ましくない。
【0070】
O/W型エマルションを作製する方法としては特に限定されないが、一般的な乳化処理、例えば各種ホモジナイザー処理や機械攪拌処理を用いることができ、具体的には高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、万能ホモジナイザー、ボールミル、ロールミル、カッターミル、遊星ミル、ジェットミル、アトライター、グラインダー、ジューサーミキサー、ホモミキサー、超音波ホモジナイザー、ナノジナイザー、水中対向衝突、ペイントシェイカーなどの機械的処理が挙げられる。また、複数の機械的処理を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
例えば超音波ホモジナイザーを用いる場合、第1工程にて得られた微細化セルロース分散液に対し重合性モノマーを添加して混合溶媒とし、混合溶媒に超音波ホモジナイザーの先端を挿入して超音波処理を実施する。超音波ホモジナイザーの処理条件としては特に限定されないが、例えば周波数は20kHz以上が一般的であり、出力は10W/cm以上が一般的である。処理時間についても特に限定されないが、通常10秒から1時間程度である。
【0072】
上記超音波処理により、微細化セルロース分散液中に液滴10が分散してエマルション化が進行し、さらに液滴10と微細化セルロース分散液の液/液界面に選択的に微細化セルロース6が吸着することで、液滴10が微細化セルロース6で被覆されO/W型エマルションとして安定した構造を形成する。このように、液/液界面に固体物が吸着して安定化したエマルションは、学術的には「ピッカリングエマルション」と呼称されている。前述のように微細化セルロース繊維によってピッカリングエマルションが形成されるメカニズムは定かではないが、セルロースはその分子構造において水酸基に由来する親水性サイトと炭化水素基に由来する疎水性サイトとを有することから両親媒性を示すため、両親媒性に由来して疎水性モノマーと親水性溶媒の液/液界面に吸着すると考えられる。
【0073】
O/W型エマルション構造は、例えば、光学顕微鏡観察により確認することができる。O/W型エマルションの粒径サイズは特に限定されないが、通常0.1μm~1000μm程度である。
【0074】
O/W型エマルション構造において、液滴10の表層に形成された微細化セルロース層(被覆層7)の厚みは特に限定されないが、通常3nm~1000nm程度である。微細化セルロース層(被覆層7)の厚みは、例えばクライオTEMを用いて計測することができる。
【0075】
(第3工程)
第3工程は、液滴10を固体化して微細化セルロース6でコア粒子8が被覆された複合粒子12を得る工程である。より詳しくは、第3工程は、液滴10の表面の少なくとも一部が微細化セルロース6で覆われた状態で、液滴10を固体化してコア粒子8とすることで、コア粒子8の表面の少なくとも一部を微細化セルロース6で覆い、かつコア粒子8と微細化セルロース6とを不可分の状態にする工程である。
【0076】
第2工程にて微細化セルロース分散液に開始剤を含む重合性モノマーを添加しエマルション化させる方法を用いた場合、重合性モノマーを重合する方法については特に限定されず、用いた重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜選択可能である。前述の重合性モノマーを重合する方法としては、例えば懸濁重合法が挙げられる。
【0077】
具体的な懸濁重合の方法についても特に限定されず、公知の方法を用いて実施することができる。例えば第2工程で作製された、重合開始剤を重合性モノマーとを含有する液滴10が微細化セルロース6によって被覆され安定化したO/W型エマルションを攪拌しながら加熱することによって実施することができる。攪拌の方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができ、具体的にはディスパーや攪拌子を用いることができる。また、攪拌せずに加熱処理のみでもよい。また、加熱時の温度条件については重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、20℃以上90℃以下が好ましい。加熱時の温度が20℃未満であると重合の反応速度が低下する傾向があるため好ましくなく、90℃を超えると微細化セルロース分散液が蒸発してしまう傾向があるため好ましくない。重合反応に供する時間は重合性モノマーの種類および重合開始剤の種類によって適宜設定することが可能であるが、通常1時間~24時間程度である。また、重合反応は電磁波の一種である紫外線照射処理によって実施してもよい。また、電磁波以外にも電子線などの粒子線を用いても良い。
【0078】
第2工程にて常温にて固体であるポリマーを微細化セルロース分散液への相溶性が低い溶媒で溶解し微細化セルロース分散液に添加しエマルション化させる方法を用いた場合、エマルションを加熱し、ポリマーを溶解した溶媒を揮発させることでポリマーを固体化させることができる。加熱時の温度条件については溶解する溶媒の種類によって適宜設定することが可能であるが、溶媒の沸点以上90℃以下が好ましい。加熱時の温度が溶媒の沸点未満であると溶媒が水相へ移動するのが遅くなり、90℃を超えると微細化セルロース分散液が蒸発してしまう傾向があるため好ましくない。
【0079】
第2工程にて微細化セルロース分散液に常温にて固体であるポリマーを添加しポリマーが流動性を持つ温度以上に加熱し融解させエマルション化させる方法を用いた場合、エマルションを冷却し、ポリマーが流動性を持つ温度以下にすることでポリマーを固体化することができる。
【0080】
上述の工程を経て、コア粒子8が微細化セルロース6によって被覆された真球状の複合粒子12を作製することができる。
【0081】
なお、固体化の反応終了直後の状態は、複合粒子12の分散液中に多量の水と複合粒子12の被覆層に形成に寄与していない遊離した微細化セルロース6が混在した状態となっている。そのため、作製した複合粒子12を回収・精製する必要があり、回収・精製方法としては、遠心分離による洗浄またはろ過洗浄が好ましい。遠心分離による洗浄方法としては公知の方法を用いることができ、具体的には遠心分離によって複合粒子12を沈降させて上澄みを除去し、水・メタノール混合溶媒に再分散する操作を繰り返し、最終的に遠心分離によって得られた沈降物から残留溶媒を除去して複合粒子12を回収することができる。ろ過洗浄についても公知の方法を用いることができ、例えば孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて水とメタノールで吸引ろ過を繰り返し、最終的にメン
ブレンフィルター上に残留したペーストからさらに残留溶媒を除去して複合粒子12を回収することができる。
【0082】
残留溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば、風乾やオーブンで熱乾燥にて実施することが可能である。こうして得られた複合粒子12を含む乾燥固形物は上述のように膜状や凝集体状にはならず、肌理細やかな粉体として得られる。
【0083】
得られた複合粒子12の平均粒子径は0.05μm以上、10μm以下であることが好ましい。より好ましくは0.1μm以上、5μm以下である。平均粒子径が0.05μm未満である場合、鋳型となるエマルションを作製するためには、液滴を細かくするために強力なエネルギーが必要となり、作製が困難となる。10μmより大きい場合は、防眩性ハードコート層にとして成形した際に、層厚を厚くしないと表面凹凸が大きくなり、ヘイズが高く、視認性が悪化してしまう。
【0084】
(第4工程)
第4工程は、複合粒子12の被覆層7に抗菌性成分9を含有させる工程である。抗菌性成分9を含有させる方法としては、微細化セルロース6のイオン性官能基にイオン結合させて吸着させる。抗菌性成分9が含まれる液体に複合粒子12を浸漬させることで、微細化セルロース6に抗菌性成分を吸着させる。
【0085】
抗菌性成分9としては、微細化セルロース6が有するイオン性官能基とイオン結合する化合物が好ましく、水溶液中においてイオン化する物質であることが好ましい。カルボキシ基やリン酸基、スルホ基などのアニオン性官能基に結合するカチオン性抗菌性成分としては、メチルベンゼトニウムクロライド、ベンザルコニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、テトラデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルピリジニウムクロライド、テトラデシルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムクロライド、テトラデシル-4-エチルピリジニウムクロライド、テトラデシル-4-メチルピリジニウムクロライド、クロルヘキシジン、クロルヘキシジンなどの有機化合物や、銀、銅、亜鉛、コバルト、ニッケルなどの金属イオンを含む水溶性化合物がある。また、複合粒子12表面上で抗菌性を有する金属微粒子を還元析出させることで抗菌性金属微粒子を複合粒子12に担持させてもよい。更に、表面がカチオン性である抗菌性粒子であれば、溶解していなくても抗菌性粒子分散液に複合粒子12を浸漬することで、電気的に複合粒子12の表面に吸着させることができる。
【0086】
抗菌性成分を含有させた複合粒子12は第3工程と同様に分離、乾燥させることで乾燥粉体として回収することが可能である。防眩性フィルムのバインダー樹脂として水系樹脂を用いる場合は、分離、乾燥工程をせずに、抗菌性成分含有複合粒子4の水分散液として使用してもよい。
【0087】
抗菌性成分含有複合粒子4は前述のように両親媒性を有する微細化セルロース6に被覆されているため、親水分散媒、疎水性分散媒ともに分散性が良好である。分散性が良いことから、塗膜化した際に面内に均等に抗菌性成分が分布するため、抗菌性が発現しやすい。また、塗液に添加する際に分散剤を加えなくてもよく、分散剤の添加による抗菌性の劣化も発生しない。
【0088】
本発明の防眩性フィルムは防眩性ハードコート層3に抗菌性成分含有複合粒子4を含むことを特徴としており、抗菌性成分含有複合粒子4の被覆層7を形成する微細化セルロース6により防眩性ハードコート層3に帯電防止性が付与される。微細化セルロース6は酸化反応によりカルボキシ基が導入されており、または、カルボン酸塩となっているため、
イオン伝導型の帯電防止性を有する。通常のイオン伝導型の帯電防止剤の場合には、大気中の水分を吸着して導電性を発現するため、低湿度環境下で十分な性能を発揮することができないのに対し、本発明に用いる抗菌性成分含有複合粒子4によれば、微細化セルロース6を用いているので、セルロースの優れた保水力により、低湿度環境下での帯電防止性低下を抑制することができる。
【0089】
本発明の防眩性フィルムにあっては、防眩性フィルム表面における25℃、20%RH環境下での電気抵抗値(表面抵抗率)が1.0×1012Ω/□以下であることを特徴とする。防眩性フィルム表面における電気抵抗値が1.0×1012Ω/□を超えると、埃付着や放電等の問題を生じるため、十分な帯電防止性を得られない。
【0090】
帯電防止性の指標となる電気抵抗値の測定方法としては、例えば、高抵抗率計ハイレスターUP(ダイアインスツルメンツ製)を用い、JIS K6911に準拠した方法により測定することができる。
【0091】
また、本発明の防眩性フィルムにあっては、防眩性フィルム表面における、25℃、20%RH環境下での表面帯電量の半減期が10秒以下であることを特徴とする。表面帯電量の半減期が10秒を超えると、発生した電荷を速やかに漏洩させることができない。半減期が長いほど埃付着や放電等の問題を生じるリスクが高くなる。防眩性フィルム表面における表面帯電量の半減期は、さらに、5秒以下であることがより好ましい。
【0092】
半減期の測定方法としては、例えば、スタティックオネストメーターH-0110(シシド静電気製)を用い、JIS L1094に準拠した方法により測定することができる。
【0093】
さらに、通常の防眩性フィルムでは防眩性ハードコート層はポリマー粒子をそのままバインダマトリックスと混合しているため、鉛筆などで圧をかけた場合、防眩性ハードコート層内のポリマー粒子が割れやすく、圧をかけた部分がポリマー粒子の割れにより白化してしまう。しかし、本発明の防眩性ハードコート層3に含まれる抗菌性成分含有複合粒子4はポリマー粒子(コア粒子8)が微細化セルロース6で被覆されているため、圧をかけた場合に発生するポリマー粒子の割れを抑制することができる。
【0094】
鉛筆硬度評価方法としては、例えばクレメンス型引掻き硬度試験機(テスター産業)を用い、JIS K5600-5-4に準拠した方法により測定することができる。
【0095】
<バインダマトリックス>
防眩性ハードコート層3を形成するためのバインダマトリックス形成材料としては電離放射線硬化型材料を用いることができ、詳しくはアクリル系材料を用いることができる。アクリル系材料としては、多価アルコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステルのような単官能または多官能の(メタ)アクリレート化合物、ジイソシアネートと多価アルコール及びアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタン(メタ)アクリレート化合物を使用することができる。またこれらの他にも、電離放射線型材料として、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等を使用することができる。
【0096】
なお、本発明において「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」と「メタクリレート」の両方を示している。たとえば、「ウレタン(メタ)アクリレート」は「ウレタンアクリレート」と「ウレタンメタアクリレート」の両方を示している。
【0097】
単官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アクリロイルモルフォリン、N-ビニルピロリドン、テトラヒドロフルフリールアクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、リン酸(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性リン酸(メタ)アクリレート、フェノキシ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性フェノキシ(メタ)アクリレート、ノニルフェノール(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性ノニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルヘキサヒドロハイドロゲンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシプロピルテトラヒドロハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、ヘキサフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2-アダマンタンおよびアダマンタンジオールから誘導される1価のモノ(メタ)アクリレートを有するアダマンチルアクリレートなどのアダマンタン誘導体モノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0098】
前記2官能の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどのジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0099】
前記3官能以上の(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス2-ヒドロキシエチルイソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、グリセリンPO付加トリアクリレート等のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の3官能の(メタ)アクリレート化合物や、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレート等の4官能以上の多官能(メタ)アクリレート化合物や、これら(メタ)アクリレートの一部をアルキル基やε-カプロラクトンで置換した多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。
【0100】
また、アクリル系材料として多官能ウレタンアクリレートを用いることもできる。ウレタンアクリレートは、多価アルコール、多価イソシアネート及び水酸基含有アクリレートを反応させることによって得られる。具体的には、共栄社化学社製、UA-306H、UA-306T、UA-306l等、日本合成化学社製、UV-1700B、UV-6300B、UV-7600B、UV-7605B、UV-7640B、UV-7650B等、新中村化学社製、U-4HA、U-6HA、UA-100H、U-6LPA、U-15HA、UA-32P、U-324A等、ダイセルユーシービー社製、Ebecryl-1290、Ebecryl-1290K、Ebecryl-5129等、根上工業社製、UN-3220HA、UN-3220HB、UN-3220HC、UN-3220HS等を挙げることができるがこの限りではない。
【0101】
また、バインダマトリックス形成材料としては、電離放射線硬化型材料の他に熱可塑性樹脂等を加えることもできる。熱可塑性樹脂としては、アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体、酢酸ビニル及びその共重合体、塩化ビニル及びその共重合体、塩化ビニリデン及びその共重合体等のビニル系樹脂、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のアセタール樹脂、アクリル樹脂及びその共重合体、メタクリル樹脂及びその共重合体等のアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、線状ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂等を使用できる。
【0102】
バインダマトリックスに対する複合粒子の含有率は規定のヘイズ値を付与する量であれば特に制限はないが、バインダマトリックスに対して3%以上、30%以下が好ましい。さらに5%以上、15%以下がより好ましい。3%より少ない場合、帯電防止性能を付与することが困難となり、また、30%より多い場合は、バインダマトリックス内に抗菌性成分含有複合粒子4を分散させることが困難となったり、防眩性ハードコート層が白っちゃけてしまう。
【0103】
本発明の防眩性フィルム1にあっては、防眩性フィルムのヘイズが3%以上、15%以下の範囲内であることを特徴とする。防眩性フィルムのヘイズが15%を超える場合にあっては、外光の散乱が強すぎて防眩性フィルムが白っちゃけてしまい、ディスプレイ表面に防眩性フィルムを設けた際に良好なコントラストを得ることができなくなってしまう。一方、ヘイズが3%に満たない場合にあっては、外光の写りこみを十分に防止することができなくなってしまう。
【0104】
本発明の防眩性フィルム1において、防眩性ハードコート層3が形成されている側における防眩性フィルムのヘイズはJIS K7136に準拠した方法により測定することができ、ヘイズ(曇価)として求められる。
【0105】
また、電離放射線として紫外線を用いる場合、防眩性ハードコート層形成用塗液に光重合開始剤が加えられる。光重合開始剤は、公知の光重合開始剤を用いることができるが、用いるバインダマトリックス形成材料にあったものを用いることが好ましい。光重合開始剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンジルメチルケタールなどのベンゾインとそのアルキルエーテル類等が用いられる。光重合開始剤の使用量は、バインダマトリックスに対して0
.5~20%である。好ましくは1~5%である。
【0106】
防眩性ハードコート層形成用塗液には、必要に応じて溶媒を加える。溶媒を加えることにより、複合粒子やバインダマトリックスを均一に分散させ、また、塗液を透明基材上に塗布するに際し、塗液の粘度を適切な範囲に調整することが可能となる。
【0107】
<透明基材>
本発明に用いられる透明基材2としては、ガラスやプラスチックフィルムなどを用いることができる。プラスチックフィルムとしては適度の透明性、機械強度を有していれば良い。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)、ジアセチルセルロース、アセチルセルロースブチレート、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンポリマー、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等のフィルムを用いることができる。中でも、トリアセチルセルロースフィルムは複屈折が少なく、透明性が良好であることから好適に用いることができ、特に、本発明の防眩性フィルムを液晶ディスプレイ表面に設けるにあっては、透明基材2としてトリアセチルセルロースフィルムを用いることが好ましい。
【0108】
<樹脂成形体の製造方法>
抗菌性成分含有複合粒子4とバインダマトリックス5とを混合した組成物を用いて防眩性ハードコート層3を形成する方法としては、特に制限はないが、組成物は流動性を有しているため、透明基材2上に組成物をウェット塗工し、塗膜を硬化させることにより防眩性フィルム1を得ることができる。
【0109】
塗工方法としては公知の方法を用いることができる。具体的には、バーコート法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、フローコーティング法、スプレーコーティング法、ロールコーティング法、グラビアロールコーティング法、エアドクターコーティング法、プレードコーティング法、ワイヤードクターコーティング法、ナイフコーティング法、リバースコーティング法、トランスファロールコーティング法、マイクログラビアコーティング法、キスコーティング法、キャストコーティング法、スロットオリフィスコーティング法、カレンダーコーティング法、ダイコーティング法等を用いることができる。
【0110】
(実施形態の効果)
本実施形態に係る防眩性フィルムは、抗菌性能を有し、低湿度環境下での帯電防止性の低下を抑制し、高い硬度を有する防眩性フィルムである。
【実施例0111】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の各例において、「%」は、特に断りのない限り、質量%(w/w%)を示す。
【0112】
<実施例1>
(酸化セルロースの調製)
セルロースとして汎用的に入手可能な針葉樹漂白パルプを用いた。
セルロース60g(絶乾質量換算)を蒸留水1000gに加え撹拌し、膨潤させた後ミキサーにより解繊した。ここに蒸留水2200gと、予め蒸留水400gに溶解させたTEMPOを0.6g、臭化ナトリウム6gの溶液を加え、2mol/L濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液172gを滴下により添加し、酸化反応を開始した。反応温度は常に20℃以下に維持した。反応中は系内のpHが低下するが、0.5NのNaOH水溶液を逐次添加し、pH10に調整した。NaOH水溶液の添加量のモニタリングをしながら反応を続け、4時間反応させた時点で、エタノール60gを添加し、反応を停止した。続いて反応液に0.5NのHClを滴下しpHを1.8まで低下させた。ナイロンメッシュを用いてこの反応液をろ過し、固形分をさらに水で数回洗浄し、反応試薬や副生成物を除去し、固形分濃度7%の水を含有した酸化セルロースを得た。
【0113】
(官能基の導入量の測定)
絶乾質量換算で0.2gの湿潤酸化セルロースをビーカーに量りとり、蒸留水を加えて60gとした。0.1MのNaCl水溶液を0.5mL加え、0.5Mの塩酸でpHを1.8とした後、0.5MのNaOH水溶液を滴下して伝導度測定を行った。測定は、pHが11程度になるまで続けた。弱酸の中和段階に相当する部分がカルボキシ基の含有量となるので、得られた伝導度曲線からNaOHの添加量を読み取ると、カルボキシ基の含有量は、2.0mmol/gであった。
【0114】
次に、絶乾質量換算で2gの湿潤酸化セルロースに、0.5Mの酢酸20mLと蒸留水60mLと亜塩素酸ナトリウム1.8gを加え、pH4に調整し48時間反応させた。この後、上記と同様の手法でカルボキシ基の含有量を測定したところ、2.1mmol/gであった。これより、アルデヒド基の含有量は、0.1mmol/gと算出できた。
【0115】
(微細化セルロース分散液の調製)
上記により調製した固形分濃度7%の酸化セルロース57.14g(固形分4g)に蒸留水と、10wt%水酸化テトラエチルアンモニウム(TEAH、関東化学社製)を加え、pH10の酸化セルロース懸濁液400gとした。調製した懸濁液を回転刃つきミキサーにて60分間処理し、微細化セルロース分散液を得た。得られた微細化セルロース分散液を10g量りとり、そこへアセトン9.95gと蒸留水0.05gを加えて撹拌し、固形分濃度0.5%の微細化セルロース分散液を調製した。
【0116】
(O/W型エマルションを作製する工程)
次に、重合性モノマーであるジビニルベンゼン(以下、DVBとも称する。)10gに対し、重合開始剤である2、2-アゾビス-2、4-ジメチルバレロニトリル(以下、ADVNとも称する。)を1g溶解させた。DVB/ADVN混合溶液全量を、微細化セルロース濃度0.5%の微細化セルロース分散液40gに対し添加したところ、DVB/ADVN混合溶液と微細化セルロース分散液はそれぞれ透明性の高い状態で2層に分離した。
【0117】
次に、上記2層分離した状態の混合液における上層の液面から超音波ホモジナイザーのシャフトを挿入し、周波数24kHz、出力400Wの条件で、超音波ホモジナイザー処理を3分間行った。超音波ホモジナイザー処理後の混合液の外観は白濁した乳化液の様態であった。混合液一滴をスライドグラスに滴下し、カバーガラスで封入して光学顕微鏡で観察したところ、1~数μm程度のエマルション液滴が無数に生成し、O/W型エマルションとして分散安定化している様子が確認された。
【0118】
(重合反応によりCNFで被覆された複合粒子を得る工程)
O/W型エマルション分散液を、ウォーターバスを用いて70℃の湯浴中に供し、攪拌子で攪拌しながら8時間処理し、重合反応を実施した。8時間処理後に上記分散液を室温まで冷却した。重合反応の前後で分散液の外観に変化はなかった。得られた分散液に対し、遠心力75,000g(gは重力加速度)で5分間処理したところ、沈降物を得た。デカンテーションにより上澄みを除去して沈降物を回収し、さらに孔径0.1μmのPTFEメンブレンフィルターを用いて、純水とメタノールで繰り返し洗浄した。こうして得られた精製・回収物を1%濃度で再分散させ、粒度分布計(NANOTRAC UPA-EX150、日機装株式会社)を用いて粒径を評価したところ平均粒径2.1μmであった。次に精製・回収物を風乾し、さらに室温25度にて真空乾燥処理を24時間実施したところ、肌理細やかな乾燥粉体(複合粒子)を得た。
【0119】
(走査型電子顕微鏡による形状観察)
得られた乾燥粉体を走査型電子顕微鏡にて観察した結果を図4および図5に示す。図4から明らかなように、O/W型エマルション液滴を鋳型として重合反応を実施したことにより、エマルション液滴10の形状に由来した、真球状の複合粒子12が無数に形成していることが確認された。さらに図5に示されるように、その表面は幅数nmのCNFによって均一に被覆されていることが確認された。また、ろ過洗浄によって繰り返し洗浄したにも拘らず、複合粒子12の表面は等しく均一に微細化セルロース6によって被覆されていることから、複合粒子内部のコア粒子8と微細化セルロース6は結合している可能性があり、コア粒子8と微細化セルロース6とが不可分の状態にあることが示された。また、SEM画像から無作為に抽出した100個の複合粒子12の粒径を測定し、平均粒子径を評価した結果、2.1μmであった。
【0120】
(複合粒子に抗菌性成分を含有させる工程)
10mMの塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム水溶液300gに複合粒子12を5g添加し、24時間撹拌した後、第3工程と同様に遠心分離洗浄およびろ過洗浄によって精製回収した。回収した抗菌性成分含有複合粒子4を風乾し、乾燥粉体を得た。
【0121】
(防眩性ハードコート層形成用塗液の調整)
得られた抗菌性成分含有複合粒子の乾燥粉体をエタノールと混合し、抗菌性成分含有複合粒子量が10%となるように抗菌性成分含有複合粒子分散液を調整した。抗菌性成分含有複合粒子分散液と、バインダマトリックス形成材料として、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PE3A)と、重合開始剤としてイルガキュア184(チバ・ジャパン株式会社)とを固形分重量比が11:100:3となるように防眩性ハードコート層形成用塗液を調整した。
【0122】
(防眩性フィルムの作製)
調整した防眩性ハードコート層形成用塗液を透明基材であるトリアセチルセルロースフィルム上にアプリケーターにより塗工し、熱をかけることで溶媒を蒸発させ、さらに高圧水銀灯を用い窒素雰囲気下で紫外線照射をおこない、防眩性フィルムを作製した。
【0123】
<実施例2>
実施例1における塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムの代わりに硝酸銀を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例2に係る防眩性フィルムを作製した。
【0124】
<実施例3>
実施例1における塩化ベンザルコニウムの代わりに下記工程により、銀ナノ粒子を担持させたこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例3に係る防眩性フィルムを作製した。
【0125】
10mM硝酸銀水溶液30gに複合粒子4を添加し、30分攪拌を続けたのち、30mM水素化ホウ素ナトリウム水溶液を20g添加し、さらに30分攪拌を続けることによって銀ナノ粒子担持複合粒子の分散液を作製した。得られた分散液は銀ナノ粒子由来の黄色を呈し、銀ナノ粒子の生成が示された。得られた分散液に含まれる銀ナノ粒子担持複合粒子を遠心分離およびろ過洗浄によって精製回収し、乾燥した。
【0126】
<実施例4>
実施例1におけるTEMPO酸化の代わりにリン酸エステル化処理を行って得られたリン酸エステル化CNFを用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例4に係る防眩性フィルムを作製した。
【0127】
<比較例1>
実施例1における複合粒子の代わりに市販のポリスチレン粒子(商品名テクポリマー、平均粒子径:4μm、積水化成品工業株式会社)を用いたこと以外は、実施例1と同様の条件で、比較例1に係る防眩性フィルムを作製した。
【0128】
<比較例2>
実施例1において、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム水溶液に浸漬させていないテクポリマーを用い、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを直接バインダマトリックスに対し0.1%添加したこと以外は、実施例1と同様の条件で、比較例2に係る防眩性フィルムを作製した。
【0129】
<比較例3>
実施例1における複合粒子の代わりにテクポリマーを用い、四級アンモニウム塩(商品名アンステックスC-200、東邦化学工業)をバインダマトリックスに対し、固形分重量比100:5となるように調整したこと以外は、実施例1と同様の条件で、比較例3に係る防眩性フィルムを作製した。
【0130】
表1に実施例1~4、比較例1~3で作製した防眩性フィルムの防眩性ハードコート層の組成を示す。
【0131】
【表1】
【0132】
実施例1~4、比較例1~3で作製した防眩性フィルムについて以下の測定・評価を行った。
【0133】
(抗菌性)
抗菌試験は、JIS Z2801に基づき、フィルム密着法に従い、検体試料(50×50mm)、培地(1/500NB培地)を準備し、試験菌に大腸菌(Escherichia coli NBRC 3972)を用いた。試験は検体試料上に試験菌液0.4mLを接種し、その上に被覆フィルムを被せた後、35±1℃、相対湿度90%以上で24時間静置後、生菌数を測定した。抗菌剤を含有せず抗菌性のない無加工試験片(ポリエチレンフィルム)の24時間後の生菌数の対数値(Ut)と、検体試料の24時間後の生菌数の対数値(At)とを測定し、抗菌活性値R=Ut-Atにより評価を行なった。
【0134】
抗菌活性値Rが2以上の場合を丸印(〇)、2未満の場合はバツ印(×)とした。
【0135】
(ヘイズ)
ヘイズメータNDH2000(日本電色)を用い、JIS K7136に準じて作製した防眩性フィルムのヘイズを測定した。
【0136】
(防眩性)
作製した防眩性フィルムを黒色のプラスチック板に粘着剤を介して貼り付け、蛍光灯の真下に防眩性フィルムが水平になるように配置し、写りこんだ蛍光灯の像が隠れないように真上から防眩性フィルムを覗き込み、防眩性フィルムの防眩性を評価した。
防眩性フィルムに写りこませた蛍光灯の像がぼやけて見えた場合を丸印(○)、はっきりと見えた場合をバツ印(×)とした。
【0137】
(白ボケ)
作製した防眩性フィルムを黒色のプラスチック板に粘着剤を介して貼り付け、蛍光灯の真下に防眩性フィルムが水平になるように配置し、写りこんだ蛍光灯の像が隠れないように真上から防眩性フィルムを覗き込み、防眩性フィルムの白ボケを評価した。
防眩性フィルムに蛍光灯を写りこませた際に、防眩性フィルムに白っぽさを感じない場合を丸印(〇)、白っぽさを感じ、許容できない場合をバツ印(×)とした。
【0138】
(表面抵抗値)
高抵抗率計ハイレスターUP(ダイアインスツルメンツ製)を用い、JIS K6911に準じて作製した防眩性フィルムの表面抵抗値を測定した。表面抵抗値を評価する際には、25℃、20%RH雰囲気下に24時間静置させた防眩性フィルムを、同雰囲気下で測定した。
【0139】
(表面帯電量の半減期)
スタティックオネストメーターH-0110(シシド静電気製)を用い、JIS L1094に準じて作製した防眩性フィルムの表面帯電量の半減期を測定した。表面帯電量の半減期を評価する際には、25℃、20%RH雰囲気下に24時間静置させた防眩性フィルムを、同雰囲気下で測定した。
【0140】
(鉛筆硬度)
クレメンス型引掻き硬度試験機(テスター産業)を用い、JIS K5600-5-4に準じて作製した防眩性フィルムの鉛筆硬度を測定した。
【0141】
表2に実施例1~4、比較例1~3で作製された防眩性フィルムの評価結果について示す。
【0142】
【表2】
【0143】
実施例1~4の防眩性フィルムにおいては抗菌性が発現し、十分に外光の写り込みを防ぐことができ、良好な帯電防止性と、高い鉛筆硬度を有する防眩性フィルムを作製することができた。
【0144】
比較例1の防眩性フィルムにおいては、ポリエチレン粒子に抗菌剤を吸着させることができず、抗菌性が見られなかった。また、良好な帯電防止性、鉛筆硬度を得ることができなかった。
【0145】
比較例2の防眩性フィルムにおいては、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを塗液中に溶解することができず、抗菌性が見られなかった。また、良好な帯電防止性、鉛筆硬度を得ることができなかった。
【0146】
比較例3の防眩性フィルムにおいては、塩化ヘキサデシルトリメチルアンモニウムを塗液中に溶解することができず、抗菌性が見られなかった。また、良好な帯電防止性、鉛筆硬度を得ることができなかった。
【符号の説明】
【0147】
1 防眩性フィルム
2 透明基材
3 防眩性ハードコート層
4 抗菌性成分含有複合粒子
5 バインダマトリックス
6 微細化セルロース(セルロースナノファイバー)
7 被覆層
8 コア粒子
9 抗菌性成分
10 液滴(重合性モノマー液滴、ポリマー液滴)
11 分散媒
12 複合粒子
図1
図2
図3
図4
図5