(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034041
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】フィルタ装置及びマルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
H03H9/145 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138030
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 俊明
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA01
5J097BB15
5J097CC05
5J097DD12
5J097KK03
5J097KK04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】通過帯域内における低域側の挿入損失を小さくすることができる、フィルタ装置を提供する。
【解決手段】フィルタ装置1は、入力及び出力端子2A、2Bと、グラウンド端子9と、第1、第2の並列腕共振子P3a、P3bを含む複数の並列腕共振子とを備える。複数の並列腕共振子は各々、複数の電極指を含むIDT電極を有し、電極指が延びる方向を電極指延伸方向としたとき、電極指延伸方向と直交し、隣り合う電極指同士が重なり合っている交叉領域を含む。第1、第2の並列腕共振子の反共振周波数が通過帯域内に有り、第1の並列腕共振子の共振周波数が第2の並列腕共振子の共振周波数よりも高い。第1の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数が、第2の並列腕共振子の対数よりも多い。交叉領域の電極指延伸方向に沿う寸法を交叉幅としたときに、第1の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅が、第2の並列腕共振子の交叉幅よりも狭い。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通過帯域を有する帯域通過型のフィルタ装置であって、
入力端子及び出力端子と、
少なくとも1つのグラウンド端子と、
第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子を含む複数の並列腕共振子と、
を備え、
回路構成において、前記入力端子及び前記出力端子を結ぶ経路が直列腕であり、前記直列腕から前記グラウンド端子に分岐する複数の経路が、複数の並列腕であり、
前記複数の並列腕が、前記直列腕における同じ電位の部分から前記グラウンド端子に分岐している第1の並列腕及び第2の並列腕を含み、前記第1の並列腕共振子が前記第1の並列腕に設けられており、前記第2の並列腕共振子が前記第2の並列腕に設けられており、
前記複数の並列腕共振子がそれぞれ、複数の電極指を含むIDT電極を有し、各前記IDT電極において、前記複数の電極指が延びる方向を電極指延伸方向としたときに、各前記IDT電極が、前記電極指延伸方向と直交する方向において、隣り合う前記電極指同士が重なり合っている領域である交叉領域を含み、
前記第1の並列腕共振子及び前記第2の並列腕共振子の反共振周波数の双方が前記通過帯域内に位置しており、
前記第1の並列腕共振子の共振周波数が前記第2の並列腕共振子の共振周波数よりも高く、前記第1の並列腕共振子における前記IDT電極の前記電極指の対数が、前記第2の並列腕共振子における前記IDT電極の前記電極指の対数よりも多く、前記交叉領域の前記電極指延伸方向に沿う寸法を交叉幅としたときに、前記第1の並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅が、前記第2の並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅よりも狭い、フィルタ装置。
【請求項2】
前記第1の並列腕共振子及び前記第2の並列腕共振子がそれぞれ、前記IDT電極を挟み対向している1対の反射器を有し、
各前記反射器が複数の反射器電極指を含み、
前記第1の並列腕共振子における前記反射器の前記反射器電極指の本数が、前記第2の並列腕共振子における前記反射器の前記反射器電極指の本数よりも少ない、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項3】
前記第1の並列腕共振子におけるQ値が最も高い周波数をf1、前記第2の並列腕共振子におけるQ値が最も高い周波数をf2としたときに、(|f1-f2|/f1)×100[%]≦1[%]である、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項4】
前記第1の並列腕共振子の静電容量が、前記第2の並列腕共振子の静電容量よりも小さい、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項5】
前記複数の並列腕共振子が、前記第1の並列腕に設けられており、前記第1の並列腕共振子と直列に接続されている、第3の並列腕共振子を含む、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項6】
前記第1の並列腕共振子及び前記第3の並列腕共振子の合成された静電容量が、前記第2の並列腕共振子の静電容量よりも小さい、請求項5に記載のフィルタ装置。
【請求項7】
前記直列腕に設けられている少なくとも1つの弾性波素子をさらに備え、
前記複数の並列腕が少なくとも1つの第3の並列腕を含み、前記直列腕における前記第3の並列腕が分岐している部分と、前記直列腕における前記第1の並列腕及び前記第2の並列腕が分岐している部分とが、前記弾性波素子により隔てられており、
前記複数の並列腕共振子が、前記第3の並列腕に設けられている少なくとも1つの第4の並列腕共振子を含み、
全ての前記並列腕共振子の共振周波数のうち、前記第1の並列腕共振子の共振周波数が最も高く、全ての前記並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅のうち、前記第1の並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅が最も狭い、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項8】
ラダー型フィルタであって、
前記直列腕に設けられている少なくとも1つの弾性波素子をさらに備え、
前記弾性波素子が直列腕共振子である、請求項1に記載のフィルタ装置。
【請求項9】
共通接続端子と、
前記共通接続端子に共通接続されている複数のフィルタと、
を備え、
少なくとも1つの前記フィルタが、請求項1に記載のフィルタ装置である、マルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ装置及びマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の弾性波共振子を有するフィルタ装置が、携帯電話機のフィルタなどとして広く用いられている。下記の特許文献1には、弾性表面波フィルタの一例が開示されている。特許文献1の弾性表面波フィルタはラダー型回路を有する。ラダー型回路においては、並列共振子群が設けられている。並列共振子群においては、2つの並列共振子が互いに並列に接続されている。並列共振子群における2つの並列共振子の共振周波数は、互いに異なる。一方で、該2つ並列共振子においては、IDT(Interdigital Transducer)電極の電極指の対数、及び交叉幅は同じである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の弾性表面波フィルタにおいては、並列共振子群における2つの並列共振子のQ値を合成したQ値としての、合成Q値の最大値を十分に高くすることはできない。そのため、通過帯域内における低域側の挿入損失が大きくなる。
【0005】
本発明の目的は、通過帯域内における低域側の挿入損失を小さくすることができる、フィルタ装置及びマルチプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフィルタ装置は、通過帯域を有する帯域通過型のフィルタ装置であって、入力端子及び出力端子と、少なくとも1つのグラウンド端子と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子を含む複数の並列腕共振子とを備え、回路構成において、前記入力端子及び前記出力端子を結ぶ経路が直列腕であり、前記直列腕から前記グラウンド端子に分岐する複数の経路が、複数の並列腕であり、前記複数の並列腕が、前記直列腕における同じ電位の部分から前記グラウンド端子に分岐している第1の並列腕及び第2の並列腕を含み、前記第1の並列腕共振子が前記第1の並列腕に設けられており、前記第2の並列腕共振子が前記第2の並列腕に設けられており、前記複数の並列腕共振子がそれぞれ、複数の電極指を含むIDT電極を有し、各前記IDT電極において、前記複数の電極指が延びる方向を電極指延伸方向としたときに、各前記IDT電極が、前記電極指延伸方向と直交する方向において、隣り合う前記電極指同士が重なり合っている領域である交叉領域を含み、前記第1の並列腕共振子及び前記第2の並列腕共振子の反共振周波数の双方が前記通過帯域内に位置しており、前記第1の並列腕共振子の共振周波数が前記第2の並列腕共振子の共振周波数よりも高く、前記第1の並列腕共振子における前記IDT電極の前記電極指の対数が、前記第2の並列腕共振子における前記IDT電極の前記電極指の対数よりも多く、前記交叉領域の前記電極指延伸方向に沿う寸法を交叉幅としたときに、前記第1の並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅が、前記第2の並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅よりも狭い。
【0007】
本発明に係るマルチプレクサは、共通接続端子と、前記共通接続端子に共通接続されている複数のフィルタとを備え、少なくとも1つの前記フィルタが、本発明に従い構成されているフィルタ装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るフィルタ装置及びマルチプレクサによれば、通過帯域内における低域側の挿入損失を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るフィルタ装置の回路図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態における第1の並列腕共振子の電極構成の概略を示す平面図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態及び第1の参考例における減衰量周波数特性を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれのインピーダンス周波数特性と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたインピーダンス周波数特性とを示す図である。
【
図5】第1の参考例における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれのインピーダンス周波数特性と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたインピーダンス周波数特性とを示す図である。
【
図6】本発明の第1の実施形態における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれのQ特性と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ特性とを示す図である。
【
図7】第1の参考例における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれのQ特性と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ特性とを示す図である。
【
図8】本発明の第1の実施形態の変形例に係るフィルタ装置の回路図である。
【
図9】本発明の第2の実施形態に係るマルチプレクサの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0011】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0012】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るフィルタ装置の回路図である。
【0013】
フィルタ装置1はラダー型フィルタである。本実施形態においては、フィルタ装置1は送信フィルタである。フィルタ装置1の通過帯域は、Band13及び14の送信帯域であり、777MHz~798MHzである。もっとも、フィルタ装置1の通過帯域は上記に限定されない。さらに、本発明のフィルタ装置は、通過帯域を有する帯域通過型のフィルタ装置であればよい。例えば、フィルタ装置1は受信フィルタであってもよい。なお、本明細書において、フィルタ装置の通過帯域とは、フィルタ装置における挿入損失のピーク値を基準とした場合に、挿入損失の値がピーク値から3dB以内となる帯域のことである。挿入損失のピーク値とは、フィルタ装置における挿入損失の最小値である。
【0014】
フィルタ装置1は、入力端子2Aと、出力端子2Bと、複数のグラウンド端子9と、複数の直列腕共振子と、複数の並列腕共振子とを有する。本実施形態では、入力端子2A、出力端子2B及びグラウンド端子9は、電極パッドとして構成されている。もっとも、入力端子2A、出力端子2B及びグラウンド端子9は、配線として構成されていてもよい。
【0015】
なお、フィルタ装置1の回路構成は、直列腕A及び複数の並列腕を含む。直列腕Aは、入力端子2A及び出力端子2Bを結ぶ経路である。直列腕Aに、各直列腕共振子が設けられている。一方で、各並列腕は、直列腕Aから各グラウンド端子9に分岐する経路である。各並列腕に、各並列腕共振子が設けられている。なお、グラウンド端子9は基準電位に接続される端子である。
【0016】
本実施形態の複数の直列腕共振子は、具体的には、直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3及び直列腕共振子S4である。入力端子2A側から、直列腕共振子S1、直列腕共振子S2、直列腕共振子S3及び直列腕共振子S4が、この順序において接続されている。
【0017】
本実施形態の複数の並列腕共振子は、具体的には、並列腕共振子P1、並列腕共振子P2、並列腕共振子P3a、並列腕共振子P3b及び並列腕共振子P4である。ここで、複数の並列腕は、並列腕B1、並列腕B2、並列腕B3a、並列腕B3b及び並列腕B4を含む。並列腕B1は、直列腕Aにおける、入力端子2A及び直列腕共振子S1の間の部分から分岐している。並列腕B1に並列腕共振子P1が設けられている。並列腕B2は、直列腕Aにおける、直列腕共振子S1及び直列腕共振子S2の間の部分から分岐している。並列腕B2に並列腕共振子P2が設けられている。
【0018】
並列腕B3a及び並列腕B3bは、直列腕Aにおける、直列腕共振子S2及び直列腕共振子S3の間の部分から分岐している。すなわち、並列腕B3a及び並列腕B3bは、直列腕Aにおける同じ電位の部分からグラウンド端子9に分岐している。並列腕B3aに並列腕共振子P3aが設けられている。並列腕B3bに並列腕共振子P3bが設けられている。並列腕B3aは、本発明における第1の並列腕である。並列腕共振子P3aは、本発明における第1の並列腕共振子である。一方で、並列腕B3bは、本発明における第2の並列腕である。並列腕共振子P3bは、本発明における第2の並列腕共振子である。
【0019】
並列腕B4は、直列腕Aにおける、直列腕共振子S3及び直列腕共振子S4の間の部分から分岐している。並列腕B4に並列腕共振子P4が設けられている。なお、フィルタ装置1の回路構成は上記に限定されない。フィルタ装置1は、第1の並列腕及び第2の並列腕を含んでいればよく、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子を含んでいればよい。
図1に示すように、本実施形態においては、全ての並列腕が個別にグラウンド端子9に接続されている。もっとも、2つ以上の並列腕が、1つのグラウンド端子9に共通接続されていてもよい。少なくとも1つのグラウンド端子9が設けられていればよい。
【0020】
フィルタ装置1の全ての直列腕共振子及び全ての並列腕共振子は弾性波素子である。より具体的には、フィルタ装置1の全ての直列腕共振子及び全ての並列腕共振子は弾性表面波共振子である。各共振子の具体的な構成を、以下において説明する。
【0021】
図2は、第1の実施形態における第1の並列腕共振子の電極構成の概略を示す平面図である。なお、
図2においては、第1の並列腕共振子としての並列腕共振子P3aに接続された配線などを省略している。
【0022】
並列腕共振子P3aは、他の各並列腕共振子及び各直列腕共振子と、圧電性基板3を共有している。本実施形態では、圧電性基板3は、圧電材料のみからなる基板である。圧電材料としては、例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、水晶、またはPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などを用いることができる。
【0023】
なお、圧電性基板3は、圧電体層を含む積層基板であってもよい。圧電体層には、上記のような圧電材料を用いることができる。圧電性基板3が積層基板である場合、例えば、支持基板上に圧電体層が積層されていてもよい。あるいは、例えば、支持基板及び圧電体層の間に、少なくとも1層の誘電体層が積層されていてもよい。
【0024】
図2に示すように、並列腕共振子P3aは、IDT電極4と、1対の反射器5A及び反射器5Bとを有する。圧電性基板3上にIDT電極4及び1対の反射器が設けられている。IDT電極4に交流電圧を印加することにより、弾性波が励振される。
【0025】
IDT電極4は、第1のバスバー7A及び第2のバスバー7Bと、複数の第1の電極指8A及び複数の第2の電極指8Bとを有する。第1のバスバー7A及び第2のバスバー7Bは互いに対向している。複数の第1の電極指8Aの一端がそれぞれ、第1のバスバー7Aに接続されている。複数の第2の電極指8Bの一端がそれぞれ、第2のバスバー7Bに接続されている。第1の電極指8A及び第2の電極指8Bは、互いに異なる電位に接続される。複数の第1の電極指8A及び複数の第2の電極指8Bは互いに間挿し合っている。
【0026】
以下においては、第1の電極指8A及び第2の電極指8Bをまとめて、単に電極指と記載することがある。複数の電極指が延びる方向を電極指延伸方向とし、電極指延伸方向に垂直な方向から見たときに、互いに異なる電位に接続される、隣り合う電極指同士が重なり合う領域が、IDT電極4の交叉領域Dである。交叉領域Dにおいて弾性波が励振される。以下においては、交叉領域Dの電極指延伸方向に沿う寸法を交叉幅とする。なお、互いに異なる電位に接続される、隣り合う電極指1本ずつの組を1対の電極指とする。交叉領域Dを構成する電極指の総本数をN本としたとき、電極指の対数は(N-1)/2[対]として導出できる。
【0027】
反射器5A及び反射器5Bは、電極指延伸方向に垂直な方向において、IDT電極4を挟み互いに対向している。各反射器は、複数の反射器電極指6Aを含む。IDT電極4、反射器5A及び反射器5Bは、単層の金属膜からなっていてもよく、あるいは積層金属膜からなっていてもよい。
【0028】
図1に示す、並列腕共振子P3a以外の各並列腕共振子及び各直列腕共振子も、並列腕共振子P3aと同様に、IDT電極及び1対の反射器を有し、かつ交叉領域を有する。上記のように、フィルタ装置1においては、全ての並列腕共振子及び全ての直列腕共振子は、圧電性基板3を共有している。もっとも、各直列腕共振子及び各並列腕共振子が、圧電性基板3を個別に有していても構わない。
【0029】
本実施形態の特徴は、以下の構成を有することにある。1)第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の反共振周波数の双方が通過帯域内に位置していること。2)第1の並列腕共振子の共振周波数が第2の並列腕共振子の共振周波数よりも高いこと。3)第1の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数が、第2の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数よりも多いこと。4)第1の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅が、第2の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅よりも狭いこと。それによって、フィルタ装置1の通過帯域内における低域側の挿入損失を小さくすることができる。この詳細を、本実施形態と第1の参考例とを比較することにより、以下において説明する。
【0030】
第1の参考例は、第1の実施形態と同様の回路構成を有する。第1の参考例は、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子における、IDT電極の電極指の対数及び交叉幅のみにおいて、第1の実施形態と異なる。具体的には、第1の参考例は、第1の実施形態における、上記3)及び4)の構成を有しない。より具体的には、第1の実施形態及び第1の参考例における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の設計パラメータは、表1に示す通りである。なお、第1の参考例の回路構成は、第1の実施形態の回路構成と同じであるため、
図1などの符号を、第1の参考例の説明に援用することがある。
【0031】
【0032】
第1の実施形態及び第1の参考例の、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子以外の並列腕共振子の設計パラメータは、表2に示す通りである。なお、表1及び表2に示す設計パラメータは一例であって、第1の実施形態における各並列腕共振子の設計パラメータは、表1及び表2の設計パラメータに限定されない。
【0033】
【0034】
第1の実施形態及び第1の参考例の減衰量周波数特性を比較した。
【0035】
図3は、第1の実施形態及び第1の参考例における減衰量周波数特性を示す図である。
図3中の両矢印Wは、第1の実施形態及び第1の参考例のフィルタ装置の通過帯域を示す。他の図においても同様である。
【0036】
図3に示すように、第1の実施形態においては、第1の参考例よりも、通過帯域内における低域側の挿入損失が小さいことがわかる。これは、第1の実施形態が上記1)~4)の構成を有することによる。すなわち、第1の実施形態においては、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の反共振周波数の双方が通過帯域内に位置している。そのため、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子は、フィルタ装置1の通過帯域を構成している。そして、上記2)~4)の構成により、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ値を、通過帯域内の低域側において高くすることができる。それによって、通過帯域内における低域側の挿入損失を小さくすることができる。合成されたQ値を高くできることの詳細を、以下において説明する。
【0037】
フィルタ装置1における各共振子の電気的特性が、フィルタ装置1のフィルタ特性などを構成する。例えば、
図1に示す並列腕共振子P1や並列腕共振子P2が上記フィルタ特性などを構成する要素は、該並列腕共振子の個別の電気的特性である。一方で、第1の並列腕共振子としての並列腕共振子P3a、及び第2の並列腕共振子としての並列腕共振子P3bは、直列腕Aの同じ電位の部分から分岐された各並列腕に設けられている。そのため、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子が上記フィルタ特性などを構成する要素は、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成された電気的特性となる。
図4及び
図5により、第1の実施形態及び第1の参考例における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたインピーダンス周波数特性を示す。
【0038】
図4は、第1の実施形態における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれのインピーダンス周波数特性と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたインピーダンス周波数特性とを示す図である。
図5は、第1の参考例における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれのインピーダンス周波数特性と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたインピーダンス周波数特性とを示す図である。
【0039】
図4に示すように、合成されたインピーダンス周波数特性においては、2つの共振点と、1つの反共振点とが現れている。合成されたインピーダンス周波数特性における2つの共振点のうち一方の周波数は、第1の並列腕共振子の共振周波数と同じである。2つの共振点のうち他方の周波数は、第2の並列腕共振子の共振周波数と同じである。合成されたインピーダンス周波数特性における反共振点は、第1の並列腕共振子の反共振周波数と、第2の並列腕共振子の反共振周波数との間に位置している。
【0040】
図4及び
図5に示すように、第1の実施形態と、第1の参考例との間においては、合成されたインピーダンス周波数特性における、2つの共振点及び1つの反共振点の周波数に、ほぼ変わりはない。このように、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数及び交叉幅は、上記2つの共振点及び1つの反共振点の周波数に、影響をほぼ与えないことがわかる。他方、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数及び交叉幅は、Q特性には影響を与える。これを、
図6及び
図7により示す。
【0041】
図6は、第1の実施形態における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれのQ特性と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ特性とを示す図である。
図7は、第1の参考例における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれのQ特性と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ特性とを示す図である。
【0042】
図6に示すように、第1の実施形態では、通過帯域内における低域側において、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の双方のQ値が高くなっている。それによって、通過帯域内における低域側において、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ値を高くすることができている。これは以下の理由による。なお、以下においては、Q値が最も高い周波数をQmax周波数とする。
【0043】
第1の実施形態においては、第1の並列腕共振子の共振周波数は第2の並列腕共振子の共振周波数よりも高い。そのため、第1の並列腕共振子の共振周波数は、フィルタ装置1の通過帯域における低域側の端部の周波数に近い。この場合、IDT電極の電極指の対数が多く、かつ交叉幅が狭いほど、Qmax周波数が、上記端部の周波数に近づく。一方で、第2の並列腕共振子の共振周波数は低く、反共振周波数も低い。そのため、第2の並列腕共振子の反共振周波数は、フィルタ装置1の通過帯域における低域側の端部の周波数に近い。この場合、IDT電極の電極指の対数が少なく、かつ交叉幅が広いほど、Qmax周波数が、上記端部の周波数に近づく。
【0044】
そして、第1の実施形態においては、第1の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数が、第2の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数よりも多い。さらに、第1の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅が、第2の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅よりも狭い。これらにより、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の双方におけるQ値を、フィルタ装置1の通過帯域における低域側の端部の周波数付近において最も高くすることができる。よって、通過帯域内における低域側において、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ値を高くすることができる。従って、通過帯域内における低域側において、挿入損失を小さくすることができる。
【0045】
加えて、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の共振周波数が互いに異なることにより、通過帯域よりも低域側であり、かつ通過帯域に近い周波数帯域にリップルを生じさせることができる。具体的には、
図3に示すように、768MHz~775MHz付近にリップルが生じている。これにより、低域側の通過帯域近傍の、帯域外減衰量を大きくすることができる。さらに、通過帯域における低域側の急峻性を高めることができる。本明細書において、急峻性が高いとは、通過帯域の端部付近において、ある一定の減衰量の変化量に対して、周波数の変化量が小さいことをいう。
【0046】
他方、第1の参考例においては、共振周波数が高い、第1の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数が少なく、かつ交叉幅が広い。共振周波数が低い、第2の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数が多く、かつ交叉幅が狭い。そのため、
図7に示すように、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれにおいて、Qmax周波数は、通過帯域の低域側における端部の周波数から離れている。よって、第1の参考例では、通過帯域内における低域側において、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ値は低く、挿入損失を小さくし難い。
【0047】
なお、第1の参考例とは異なり、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の間において、IDT電極の対数及び交叉幅が同じとした場合においても、第1の実施形態のような効果を得ることはできない。これを以下において示す。ここで、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の間において、IDT電極の対数及び交叉幅が同じである点において第1の実施形態と異なる例を第2の参考例とする。第2の参考例の回路構成は、第1の実施形態の回路構成と同じであるため、
図1などの符号を、第2の参考例の説明に援用することがある。
【0048】
表3により、第1の実施形態、第1の参考例及び第2の参考例における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の設計パラメータを示す。表4により、第1の実施形態、第1の参考例及び第2の参考例における、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のQmax周波数と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQmax周波数とを示す。
【0049】
【0050】
【0051】
表3に示すように、第2の参考例では、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の間において、IDT電極の対数及び交叉幅が同じであり、かつ共振周波数が互いに異なる。この場合には、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の間においては、共振周波数の差の分、Qmax周波数にも差が生じる。表4に示すように、第2の参考例における第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の間において、Qmax周波数の差が大きいことがわかる。そのため、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ値は低い。よって、第2の参考例では、通過帯域内における低域側において、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQ値は低く、挿入損失を小さくし難い。
【0052】
以下において、第1の実施形態の好ましい構成を説明する。
【0053】
表3に示すように、第1の実施形態においては、第1の並列腕共振子の反射器における反射器電極指は17本である。第2の並列腕共振子の反射器における反射器電極指は25本である。このように、第1の並列腕共振子における反射器の反射器電極指の本数が、第2の並列腕共振子における反射器の反射器電極指の本数よりも少ないことが好ましい。それによって、フィルタ装置1の挿入損失を小さくすることができ、かつフィルタ装置1の小型化を進めることができる。
【0054】
より詳細には、第1の実施形態では、第1の並列腕共振子においては、共振周波数が高く、IDT電極における電極指の対数が多く、かつ交叉幅が狭い。そのため、Qmax周波数は共振周波数に近づく。なお、該共振周波数は、上述したように、フィルタ装置1の通過帯域における低域側の端部の周波数に近い。反射器電極指の本数が少ない場合には、反共振周波数付近のQ値は低くなるが、共振周波数付近のQ値の変化は小さい。よって、第1の並列腕共振子における反射器電極指の本数を少なくしても、フィルタ装置1の通過帯域の低域側においては、Q値は低くなり難い。加えて、反射器電極指の本数が少ない場合には、第1の並列腕共振子の小型化を進めることができる。従って、フィルタ装置1の挿入損失を小さくすることができ、かつフィルタ装置1の小型化を進めることができる。
【0055】
表3に示すように、第1の並列腕共振子の静電容量は1.26pFである。第2の並列腕共振子の静電容量は1.9pFである。なお、ここでいう静電容量とは、並列腕共振子のIDT電極が設けられている部分における静電容量である。第1の並列腕共振子の静電容量は、第2の並列腕共振子の静電容量よりも小さいことが好ましい。それによって、フィルタ装置1の挿入損失をより確実に小さくすることができる。
【0056】
より詳細には、第1の並列腕共振子の共振周波数は、第2の並列腕共振子の共振周波数よりも高い。そのため、第1の並列腕共振子の共振周波数は、第2の並列腕共振子の共振周波数よりも、フィルタ装置1の通過帯域の低域側における端部の周波数に近い。よって、第1の並列腕共振子は、第2の並列腕共振子に比べて、通過帯域の低域側に対する影響が大きい。もっとも、第1の実施形態においては、第1の並列腕共振子の静電容量が、第2の並列腕共振子の静電容量よりも小さい。これにより、第1の並列腕共振子による、フィルタ装置1の挿入損失に対する影響を小さくすることができる。よって、挿入損失をより確実に小さくすることができる。
【0057】
なお、静電容量は、IDT電極における、複数の電極指の対数及び交叉幅の積に主に比例する。静電容量が大きいほど、複数の電極指の対数及び交叉幅の積が大きい。第1の並列腕共振子のIDT電極における電極指の対数及び交叉幅の積が、第2の並列腕共振子のIDT電極における電極指の対数及び交叉幅の積よりも小さいことが好ましい。この場合には、第1の並列腕共振子の静電容量を、第2の並列腕共振子の静電容量よりも小さくすることができる。それによって、上記のように、フィルタ装置1の挿入損失をより確実に小さくすることができる。
【0058】
以下においては、第1の並列腕共振子のQmax周波数をf1、第2の並列腕共振子のQmax周波数をf2とする。表4に示すように、第1の実施形態においては、Qmax周波数f1は774MHzである。Qmax周波数f2は778MHzである。よって、(|f1-f2|/f1)×100[%]は約0.5%である。このように、(|f1-f2|/f1)×100[%]≦1[%]であることが好ましい。この場合、Qmax周波数f1及びQmax周波数f2は略一致しているといえる。それによって、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の合成されたQmax周波数におけるQ値を効果的に高くすることができる。従って、フィルタ装置1の通過帯域内における低域側の挿入損失を効果的に小さくすることができる。
【0059】
ところで、第1の実施形態においては、第1の並列腕及び第2の並列腕には、それぞれ1つずつの並列腕共振子が設けられている。もっとも、これに限定されるものではない。例えば、
図8に示す第1の実施形態の変形例においては、第1の並列腕に、第1の並列腕共振子としての並列腕共振子P13a及び第3の並列腕共振子としての並列腕共振子P13cが設けられている。第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子は互いに直列に接続されている。表5により、本変形例における第1の並列腕共振子、第2の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子の設計パラメータを示す。
【0060】
【0061】
表5に示すように、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子の設計パラメータは同じである。なお、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子の設計パラメータは、必ずしも同じではなくともよい。第1の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数が、第2の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数よりも多く、かつ第1の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅が、第2の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅よりも狭ければよい。
【0062】
本変形例においては、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子の合成された静電容量は、1.26pFである。すなわち、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子の合成された静電容量は、表1に示す、第1の実施形態における第1の並列腕共振子の静電容量と同じである。一方で、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子のそれぞれの静電容量は、第1の実施形態における第1の並列腕共振子よりも大きい。このように、本変形例においては、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子のそれぞれの静電容量を大きくしても、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子の合成された静電容量は大きくなり難い。そして、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子の静電容量が大きいため、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子のそれぞれにおいて、大きな電力が印加された場合にも消費電力を小さくすることができる。よって、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子のそれぞれにおいて、発熱を抑制することができ、耐電力性を高めることができる。
【0063】
他方、表5に示すように、第2の並列腕共振子の静電容量は1.9pFである。このように、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子の合成された静電容量が、第2の並列腕共振子の静電容量よりも小さいことが好ましい。それによって、第1の並列腕共振子及び第3の並列腕共振子による、フィルタ装置11の挿入損失に対する影響を小さくすることができる。従って、挿入損失をより確実に小さくすることができる。
【0064】
なお、複数の共振子における合成された静電容量は、複数の共振子が互いに直列に接続されている場合と、互いに並列に接続されている場合にとにおいて互いに異なる。例えば、2つの共振子が互いに直列に接続されており、一方の共振子の静電容量がC1、他方の共振子の静電容量がC2、合成された静電容量がCである場合、(1/C)=(1/C1)+(1/C2)の関係が成立する。上記2つの共振子が互いに並列に接続されている場合、C=C1+C2の関係が成立する。
【0065】
図1に戻り、第1の実施形態における第1の並列腕は、並列腕B3aである。第2の並列腕は並列腕B3bである。そして、複数の並列腕のうち、第1の並列腕及び第2の並列腕以外の並列腕は、第3の並列腕である。具体的には、並列腕B1、並列腕B2及び並列腕B4のそれぞれが、第3の並列腕である。直列腕Aおける各第3の並列腕が分岐している部分と、直列腕Aおける第1の並列腕及び第2の並列腕が分岐している部分とは、直列腕共振子により隔てられている。よって、直列腕Aおける各第3の並列腕が分岐している部分の電位と、直列腕Aおける第1の並列腕及び第2の並列腕が分岐している部分の電位とは、互いに異なる。
【0066】
第3の並列腕に設けられている並列腕共振子は、本発明における第4の並列腕共振子である。具体的には、並列腕共振子P1、並列腕共振子P2及び並列腕共振子P4のそれぞれが、第4の並列腕共振子である。第1の実施形態では、全ての並列腕共振子の共振周波数のうち、第1の並列腕共振子の共振周波数が最も高く、全ての並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅のうち、第1の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅が最も狭い。それによって、フィルタ装置1の通過帯域内における低域側の挿入損失をより確実に小さくすることができる。
【0067】
より詳細には、上記のように、第1の実施形態では、第2の並列腕共振子及び各第4の並列腕共振子の共振周波数は、第1の並列腕共振子の共振周波数よりも低い。この場合、第2の並列腕共振子及び各第4の並列腕共振子の反共振周波数は、フィルタ装置1の通過帯域の低域側における端部の周波数に近い。そのため、第2の並列腕共振子及び各第4の並列腕共振子の反共振周波数において、Q値が低い場合には、通過帯域内の低域側における挿入損失は大きくなる。ここで、第2の並列腕共振子及び各第4の並列腕共振子における交叉幅が狭い場合には、交叉領域から各バスバー側に弾性表面波が漏洩し易い。よって、第2の並列腕共振子及び各第4の並列腕共振子におけるQ値が低くなる。これに対して、第1の実施形態では、第2の並列腕共振子及び各第4の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅は、第1の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅よりも広い。従って、第2の並列腕共振子及び各第4の並列腕共振子の反共振周波数におけるQ値をより確実に高めることができる。
【0068】
さらに、第1の並列腕共振子の共振周波数は高い。そのため、第1の並列腕共振子の反共振周波数は、通過帯域の低域側における端部の周波数から離れている。よって、第1の並列腕共振子の反共振周波数においてQ値が低くても、通過帯域内の低域側における挿入損失に影響は生じ難い。従って、フィルタ装置1の通過帯域内における低域側の挿入損失をより確実に小さくすることができる。
【0069】
IDT電極の電極指ピッチにより規定される波長をλとしたときに、第2の並列腕共振子及び各第4の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅は、10λ以上であることが好ましい。それによって、第2の並列腕共振子及び各第4の並列腕共振子の反共振周波数において、Q値をより確実に高めることができる。第1の並列腕共振子におけるIDT電極の交叉幅は10λ未満であることが好ましい。この場合において、第1の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指の対数を多くすることにより、共振周波数において、Q値を効果的に高めることができる。なお、電極指ピッチとは、互いに異なる電位に接続される、隣り合う電極指同士の中心間距離である。
【0070】
もっとも、第1の並列腕共振子と、各第4の並列腕共振子とにおける、共振周波数及びIDT電極の交叉幅の関係は上記に限定されない。そして、フィルタ装置1は、3つの第3の並列腕及び3つの第4の並列腕共振子を含んでいるが、これに限定されるものではない。例えば、フィルタ装置1は、少なくとも1つの第3の並列腕及び少なくとも1つの第4の並列腕共振子を含んでいてもよい。
【0071】
なお、フィルタ装置1は、必ずしも直列腕共振子を有していなくともよい。フィルタ装置1は、例えば、縦結合共振子型弾性波フィルタを有していてもよい。この場合、直列腕に縦結合共振子型弾性波フィルタが配置されていてもよい。そして、弾性波素子としての縦結合共振子型弾性波フィルタにより、第3の並列腕が分岐している直列腕の部分と、第1の並列腕及び第2の並列腕が分岐している直列腕の部分とが隔てられていてもよい。この場合においても、フィルタ装置の通過帯域内における低域側の挿入損失を小さくすることができる。
【0072】
ところで、弾性表面波共振子同士の共振周波数は、電極指ピッチ及びデューティ比を用いて比較することができる。例えば、弾性表面波共振子同士の電極指の厚みが同じである場合には、電極指ピッチ及びデューティ比の積の逆数が大きい方の弾性表面波共振子の共振周波数が、他方の弾性表面波共振子の共振周波数よりも高い。
【0073】
第1の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチ及びデューティ比の積の逆数が、第2の並列腕共振子におけるIDT電極の電極指ピッチ及びデューティ比の積の逆数よりも大きいことが好ましい。それによって、第1の並列腕共振子の共振周波数を、第2の並列腕共振子の共振周波数よりも、より確実に高くさせることができる。
【0074】
第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれにおける電極指ピッチが、各直列腕共振子における電極指ピッチよりも広いことが好ましい。それによって、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子のそれぞれの反共振周波数を、各直列腕共振子の反共振周波数よりも、より確実に低くさせることができる。
【0075】
図2に示す並列腕共振子P3aの圧電性基板3上に、IDT電極4を覆うように、誘電体膜が設けられていてもよい。他の各並列腕共振子及び各直列腕共振子においても同様である。この場合においても、第1の実施形態と同様に、フィルタ装置の通過帯域内における低域側の挿入損失を小さくすることができる。加えて、IDT電極4が破損し難い。
【0076】
誘電体膜を有する弾性表面波共振子同士の誘電体膜の厚みが同じであり、かつ電極指の厚みが同じである場合には、電極指ピッチ及びデューティ比の積の逆数が大きい方の弾性表面波共振子の共振周波数が、他方の弾性表面波共振子の共振周波数よりも高い。
【0077】
本発明に係るフィルタ装置は、例えばマルチプレクサに用いることができる。この例を以下において示す。
【0078】
図9は、本発明の第2の実施形態に係るマルチプレクサの模式図である。
【0079】
マルチプレクサ20は、共通接続端子22と、複数のフィルタとを有する。共通接続端子22に、複数のフィルタが共通接続されている。本実施形態においては、共通接続端子22はアンテナ端子である。アンテナ端子はアンテナに接続される。
【0080】
マルチプレクサ20の複数のフィルタは、第1のフィルタ21A、第2のフィルタ21B及び第3のフィルタ21Cと、他の複数のフィルタとを含む。なお、マルチプレクサ20は、2つ以上のフィルタを有していればよい。
【0081】
第1のフィルタ21Aは、第1の実施形態のフィルタ装置である。もっとも、マルチプレクサ20は、本発明に係るフィルタを少なくとも1つ有していればよい。本実施形態では、マルチプレクサ20における第1のフィルタ21Aにおいて、通過帯域内の低域側における挿入損失を小さくすることができる。
【0082】
以下において、本発明に係るフィルタ装置及びマルチプレクサの形態の例をまとめて記載する。
【0083】
<1>通過帯域を有する帯域通過型のフィルタ装置であって、入力端子及び出力端子と、少なくとも1つのグラウンド端子と、第1の並列腕共振子及び第2の並列腕共振子を含む複数の並列腕共振子と、を備え、回路構成において、前記入力端子及び前記出力端子を結ぶ経路が直列腕であり、前記直列腕から前記グラウンド端子に分岐する複数の経路が、複数の並列腕であり、前記複数の並列腕が、前記直列腕における同じ電位の部分から前記グラウンド端子に分岐している第1の並列腕及び第2の並列腕を含み、前記第1の並列腕共振子が前記第1の並列腕に設けられており、前記第2の並列腕共振子が前記第2の並列腕に設けられており、前記複数の並列腕共振子がそれぞれ、複数の電極指を含むIDT電極を有し、各前記IDT電極において、前記複数の電極指が延びる方向を電極指延伸方向としたときに、各前記IDT電極が、前記電極指延伸方向と直交する方向において、隣り合う前記電極指同士が重なり合っている領域である交叉領域を含み、前記第1の並列腕共振子及び前記第2の並列腕共振子の反共振周波数の双方が前記通過帯域内に位置しており、前記第1の並列腕共振子の共振周波数が前記第2の並列腕共振子の共振周波数よりも高く、前記第1の並列腕共振子における前記IDT電極の前記電極指の対数が、前記第2の並列腕共振子における前記IDT電極の前記電極指の対数よりも多く、前記交叉領域の前記電極指延伸方向に沿う寸法を交叉幅としたときに、前記第1の並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅が、前記第2の並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅よりも狭い、フィルタ装置。
【0084】
<2>前記第1の並列腕共振子及び前記第2の並列腕共振子がそれぞれ、前記IDT電極を挟み対向している1対の反射器を有し、各前記反射器が複数の反射器電極指を含み、前記第1の並列腕共振子における前記反射器の前記反射器電極指の本数が、前記第2の並列腕共振子における前記反射器の前記反射器電極指の本数よりも少ない、<1>に記載のフィルタ装置。
【0085】
<3>前記第1の並列腕共振子におけるQ値が最も高い周波数をf1、前記第2の並列腕共振子におけるQ値が最も高い周波数をf2としたときに、(|f1-f2|/f1)×100[%]≦1[%]である、<1>または<2>に記載のフィルタ装置。
【0086】
<4>前記第1の並列腕共振子の静電容量が、前記第2の並列腕共振子の静電容量よりも小さい、<1>~<3>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0087】
<5>前記複数の並列腕共振子が、前記第1の並列腕に設けられており、前記第1の並列腕共振子と直列に接続されている、第3の並列腕共振子を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0088】
<6>前記第1の並列腕共振子及び前記第3の並列腕共振子の合成された静電容量が、前記第2の並列腕共振子の静電容量よりも小さい、<5>に記載のフィルタ装置。
【0089】
<7>前記直列腕に設けられている少なくとも1つの弾性波素子をさらに備え、前記複数の並列腕が少なくとも1つの第3の並列腕を含み、前記直列腕における前記第3の並列腕が分岐している部分と、前記直列腕における前記第1の並列腕及び前記第2の並列腕が分岐している部分とが、前記弾性波素子により隔てられており、前記複数の並列腕共振子が、前記第3の並列腕に設けられている少なくとも1つの第4の並列腕共振子を含み、全ての前記並列腕共振子の共振周波数のうち、前記第1の並列腕共振子の共振周波数が最も高く、全ての前記並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅のうち、前記第1の並列腕共振子における前記IDT電極の前記交叉幅が最も狭い、<1>~<6>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0090】
<8>ラダー型フィルタであって、前記直列腕に設けられている少なくとも1つの弾性波素子をさらに備え、前記弾性波素子が直列腕共振子である、<1>~<7>のいずれか1つに記載のフィルタ装置。
【0091】
<9>共通接続端子と、前記共通接続端子に共通接続されている複数のフィルタと、
を備え、少なくとも1つの前記フィルタが、<1>~<8>のいずれか1つに記載のフィルタ装置である、マルチプレクサ。
【符号の説明】
【0092】
1…フィルタ装置
2A…入力端子
2B…出力端子
3…圧電性基板
4…IDT電極
5A,5B…反射器
6A…反射器電極指
7A,7B…第1,第2のバスバー
8A,8B…第1,第2の電極指
9…グラウンド端子
11…フィルタ装置
20…マルチプレクサ
21A~21C…第1~第3のフィルタ
22…共通接続端子
A…直列腕
B1,B2,B3a,B3b,B4…並列腕
D…交叉領域
P1,P2,P3a,P3b,P4,P13a,P13c…並列腕共振子
S1~S4…直列腕共振子