(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024034047
(43)【公開日】2024-03-13
(54)【発明の名称】バイポーラ電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/04 20060101AFI20240306BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138038
(22)【出願日】2022-08-31
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正浩
(72)【発明者】
【氏名】蛭川 智史
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 友邦
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA11
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050FA03
5H050GA03
5H050HA00
5H050HA15
(57)【要約】
【課題】負極密度の上昇を抑制しつつ、正極密度を高めることができるバイポーラ電極の製造方法を提供する。
【解決手段】集電体、集電体の一方側の面に配置された正極層、及び集電体の他方側の面に配置された負極層を有する積層体を作製する作製工程と、対向するプレスロールを用いて、積層体を両面からロールプレスするプレス工程と、を備え、プレス工程において、一方側に配置された前記プレスロールが抱き角を有している、バイポーラ電極の製造方法である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体、前記集電体の一方側の面に配置された正極層、及び前記集電体の他方側の面に配置された負極層を有する積層体を作製する作製工程と、
対向するプレスロールを用いて、前記積層体を両面からロールプレスするプレス工程と、を備え、
前記プレス工程において、一方側に配置された前記プレスロールが抱き角を有している、
バイポーラ電極の製造方法。
【請求項2】
前記プレス工程において、一方側に配置された前記プレスロールの抱き角が45°以上180°以下である、請求項1に記載のバイポーラ電極の製造方法。
【請求項3】
前記プレス工程において、前記積層体に適用される張力が30N/cm以上100N/cm以下である、請求項1又は2に記載のバイポーラ電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願はバイポーラ電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイポーラ電極は、通常の電極と異なり、集電体の一方の面に負極が、他方の面に正極が配置されている。そして、このようなバイポーラ電極とセパレータとを交互に積層し、それらの周囲を電解液で満たすことにより、バイポーラ電池が得られる。バイポーラ電池は通常の電池に比べて出力向上が期待されている。
【0003】
特許文献1は、第1金属箔の第1面に負極活物質層を形成し、第2金属箔の第1面が第1金属箔の第2面と対向した状態で負極活物質層をプレスし、第2金属箔の第2面に正極活物質層を形成し、正極活物質層をプレスするバイポーラ電極の製造方法を開示している。また、特許文献1には、正極活物質層をプレスする際、同時に負極活物質層もプレスされることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
バイポーラ電極において、通常、負極と正極とに要求される密度が異なっている。具体的には、電極性能を損なわない範囲において、負極密度をなるべく低くし、正極密度をなるべく高くすることが要求される。このような要求を満たすことにより、電池性能を高めることができる。
【0006】
しかしながら、集電体の一方の面に負極層が、他方の面に正極層が配置された状態の積層体をロールプレスして、バイポーラ電極を製造することが一般的であるところ、このような製造方法では上記の要求を満たせない場合がある。例えば、負極密度を低くするためには、プレス圧力を低く設定する必要があるが、そうすると正極密度を高くすることが困難になる。一方で、正極密度を高くするためには、プレス圧力を高く設定する必要があるが、そうすると負極密度を低くすることが困難になる。
【0007】
そこで本開示の主な目的は、上記実情を鑑み、負極密度の上昇を抑制しつつ、正極密度を高めることができるバイポーラ電極の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は上記課題を解決するための一つの態様として、集電体、集電体の一方側の面に配置された正極層、及び集電体の他方側の面に配置された負極層を有する積層体を作製する作製工程と、対向するプレスロールを用いて、積層体を両面からロールプレスするプレス工程と、を備え、プレス工程において、一方側に配置された前記プレスロールが抱き角を有している、バイポーラ電極の製造方法を提供する。
【0009】
上記プレス工程において、一方側に配置されたプレスロールの抱き角を45°以上180°以下としてもよい。また、プレス工程において、積層体に適用される張力を30N/cm以上100N/cm以下としてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示のバイポーラ電極の製造方法によれば、負極密度の上昇を抑制しつつ、正極密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】対向するプレスロール1a、1bを用いて、積層体50を両面からロールプレスする様子を表す概略図である。
【
図2】対向するプレスロール1a、1bを用いて、平板状の積層体150をロールプレスする様子を表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[バイポーラ電極の製造方法]
本開示のバイポーラ電極の製造方法について、一実施形態を用いて説明する。
【0013】
一実施形態は、集電体10と、集電体10の一方側の面に配置された正極層20と、集電体10の他方側の面に配置された負極層30と、を有する積層体50を作製する作製工程と、対向するプレスロール1a、1bを用いて、積層体50を両面からロールプレスするプレス工程と、を備え、上記プレス工程において、一方側に配置されたプレスロール1aが抱き角を有している、バイポーラ電極の製造方法である。これにより、負極層30の密度上昇が抑制されつつ、正極層20の密度が高いバイポーラ電極を製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0014】
<作製工程>
作製工程では、集電体10と、集電体10の一方側の面に配置された正極層20と、集電体10の他方側の面に配置された負極層30と、を有する積層体50を作製する。
【0015】
(集電体10)
集電体10は、バイポーラ電極100の集電体として機能するシート状の部材であれば特に限定されない。例えば、集電体10はステンレス、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル等の金属からなる金属箔であってもよい。金属箔はこれらの金属を2種以上含む合金からなっていてもよい。また、金属箔はメッキ等の表面処理が施されていてもよい。集電体10は、2枚以上の金属箔からなっていてもよい。この場合、金属箔は接着剤等で接合されてもよく、プレス等によって接合されてもよい。集電体10の厚みは特に限定されないが、例えば5μm以上70μm以下である。
【0016】
(正極層20)
正極層20は正極活物質を含む。正極活物質は特に限定されず、目的の電池性能に応じて公知の材料の中から適宜選択してよい。例えば、複合酸化物、金属リチウム、及び硫黄等が挙げられる。複合酸化物の組成には、例えば、鉄、マンガン、チタン、ニッケル、コバルト、及びアルミニウムの少なくとも1つと、リチウムとが含まれる。複合酸化物の例には、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等が挙げられる。
【0017】
正極層20は任意に導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤は特に限定されず、目的の電池性能に応じて公知の材料の中から適宜選択してよい。例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。
【0018】
正極層20は任意に結着剤を含んでいてもよい。結着剤は特に限定されず、目的の電池性能に応じて公知の材料の中から適宜選択してよい。例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸アンモニウム等のアルギン酸塩、水溶性セルロースエステル架橋体、デンプン-アクリル酸グラフト重合体等が挙げられる。
【0019】
正極層20は層状部材であればよく、その厚みは特に限定されない。例えば、1μm~1mmの範囲である。正極層20の面積は、負極層30よりも小さくしてよい。正極層20における各材料の含有量は特に限定されず、目的の電池性能に応じて適宜設定してよい。なお、正極層20は上記した材料以外の材料を含んでもよい。
【0020】
集電体10の一方側の面に正極層20を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜採用してよい。例えば、正極層20を構成する材料を乳鉢等で混合し、プレスすることで正極層20を得ることができる。そして、得られた正極層20を集電体10の一方の面に配置すればよい。あるいは、正極層20を構成する材料を溶媒とともに混合してスラリーを得た後、当該スラリーを集電体10の一方側の面に塗布・乾燥してもよい。
【0021】
(負極層30)
負極層30は負極活物質を含む。負極活物質は特に限定されず、目的の電池性能に応じて公知の材料の中から適宜選択してよい。例えば、黒鉛、人造黒鉛、高配向性グラファイト、メソカーボンマイクロビーズ、ハードカーボン、ソフトカーボン等のカーボン、金属化合物、リチウムと合金化可能な元素もしくはその化合物、ホウ素添加炭素等が挙げられる。リチウムと合金化可能な元素の例としては、シリコン(ケイ素)及びスズが挙げられる。
【0022】
負極層30は任意に導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤は特に限定されず、目的の電池性能に応じて公知の材料の中から適宜選択してよい。例えば、正極層20に適用可能な導電助剤の中から適宜選択してよい。
【0023】
負極層30は任意に結着剤を含んでいてもよい。結着剤は特に限定されず、目的の電池性能に応じて公知の材料の中から適宜選択してよい。例えば、正極層20に適用可能な結着剤の中から適宜選択してよい。
【0024】
負極層30は層状部材であればよく、その厚みは特に限定されない。例えば、1μm~1mmの範囲である。負極層30の面積は、出力向上の観点から、正極層20よりも大きくしてよい。負極層30における各材料の含有量は特に限定されず、目的の電池性能に応じて適宜設定してよい。なお、負極層30は上記した材料以外の材料を含んでもよい。
【0025】
集電体10の他方側の面に負極層30を形成する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜採用してよい。例えば、負極層30の形成方法と同様の方法を採用してもよい。
【0026】
<プレス工程>
プレス工程では、対向するプレスロール1a、1bを用いて、積層体50を両面からロールプレスする。また、プレス工程において、一方側に配置されたプレスロール1aが抱き角を有している。
図1にプレスロール1a、1bを用いて、積層体50を両面からロールプレスする様子を表す概略図を示した。
【0027】
「一方側」とは、言い換えると正極層20側を意味する。「一方側に配置されたプレスロール1a」とは、正極層20側に配置されたプレスロール1aを意味する。「一方側に配置されたプレスロール1aが抱き角を有している」とは、正極層20側に配置されたプレスロール1aが正極層20を抱いていることを意味している。これは言い換えると、積層体50をロールプレスするプレス機構は、正極層20側に配置されたプレスロール1aが正極層20を抱くように構成されていることを意味する。例えば、プレスロール1a、1bの前後に配置される搬送ロール(不図示)の位置を調整することで、このようなプレス機構を実現することができる。
【0028】
図1に示した通り、一方側に配置されたプレスロール1aは所定の抱き角xを有している。「抱き角x」は、
図1に示したように、プレスロール1aに正極層20が接触してから剥離するまでの範囲から求められるプレスロール1aの中心角である。抱き角xは、プレスロール1bによるプレス荷重が積層体50に作用していない状態で予め設定されたものを採用する。プレスロール1aの抱き角xは特に限定されず、少しでも角度を有していればよい。具体的には抱き角xは0°超360°以下である。プレスロール1aが抱き角xを有することにより、負極層30の密度上昇を抑制しつつ、正極層20の密度を高めることができる。より効果を高める観点から、一方側に配置されたプレスロール1aの抱き角xは45°以上180°以下としてもよい。抱き角xが45°未満であると、正極層20の密度上昇効果が小さくなる虞がある。抱き角xが180°を超えると、プレスロール1a、1bの配置が難しくなり、設備サイズが大きくなる虞がある。
【0029】
抱き角xによる上述の効果が生じる推定メカニズムは次のとおりである。
図2に示した通り、従来は平板状態で積層体150をロールプレスしていた(抱き角=0°)。この場合、プレス圧力に応じて、正極層及び負極層の密度が決まっていた。一方で、一実施形態は、
図1に示した通り、プレスロール1aが所定の抱き角xを有することにより、積層体50は湾曲するため、矢印で示したように、湾曲形状の内側に配置された正極層30は密度が高まる方向に力が働く一方で、湾曲形状の外側に配置された負極層20は密度が低減する方向に力が働く。そして、このような状態で積層体50がプレスされることにより、平板状態でプレスされる従来の製造方法に比べて、負極層30の密度上昇が抑制されつつ、正極層20の密度を高めることができる。
【0030】
また、プレス工程において、積層体50に適用される張力を調整してもよい。張力は、張力を制御する可動式のローラー(ダンサー)と張力を縁切りするローラー(ニップ)を用いて測定することができる。例えば、積層体50に適用される張力を20N/cm以上に設定してもよく、30N/cm以上に設定してもよい。これにより、上記の効果をより高めることができる。積層体50に適用される張力の上限値は特に限定されず、正極層20又は負極層30の滑落や割れ等の不具合が生じない範囲で適宜設定すればよい。例えば、積層体50に適用される張力は100N/cm以下としてよい。
【0031】
一実施形態において、上述した積層体50のプレスは少なくとも1回実施すればよいが、2回以上実施してもよい。目的とするバイポーラ電極の性能に応じて適宜設定してよい。
【0032】
<バイポーラ電極>
プレス工程を経ることにより、バイポーラ電極を製造することができる。一実施形態により製造することができるバイポーラ電極の種類は特に限定されない。例えば、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池等の化学電池用電極でもよく、電気二重層キャパシタ等の物理電池用電極でもよい。ただし、ニッケル水素二次電池は正極層及び負極層の密度による影響が小さいが、リチウムイオン二次電池は当該影響が大きい。そのため、一実施形態はリチウムイオン二次電池用バイポーラ電極の製造に適している。
【0033】
以上、一実施形態を用いて、本開示のバイポーラ電極の製造方法を説明した。本開示のバイポーラ電極の製造方法によれば、負極層の密度上昇を抑制しつつ、正極層の密度が高いバイポーラ電極を得ることができる。すなわち、本開示のバイポーラ電極の製造方法によれば、バイポーラ電極における負極密度及び正極密度の要求を簡易な方法で満たすことができる。
【実施例0034】
以下、実施例を用いて本開示についてさらに説明する。
【0035】
上記に倣って、正極層、集電体、負極層をこの順で備える積層体を作製した。この積層体を用いて次の実験を行った。
図1に倣って、プレスロールの前後に設置された搬送ロールの位置を調整し、積層体に対し抱き角を付与させた状態で、ロールプレスを実施した。このとき、積層体に対し100N(箔幅50mm)を付与した。プレス後の正極層の密度を測定した。
【0036】
図3に正極層の密度とプレスロールの線圧との関係を示した。
図3に示した「A」はプレスロールに正極層を抱かせるように積層体をプレスした場合の結果であり、「B」は、これとは反対に、プレスロールに負極層を抱かせるように積層体をプレスした場合の結果である。
【0037】
図3より、負極層を抱かせて積層体をプレスした場合(B)に比べて、正極層を抱かせて積層体をプレスした場合(A)は、正極層の密度が高まりやすかった。具体的には、
図3の中央下のA、Bを比較すると、AはBに比べて低い線圧が付与されているが、正極層の密度は同等であった。また、
図3右のA、Bを比較すると、同じ線圧が付与される場合、Aの正極層の密度はBよりも高かった。このことから、プレスロールに正極層を抱かせることにより、正極層の圧縮特性を向上できると考えられる。
【0038】
また、
図4にプレス後の正極層のひずみについて、画像解析を行った結果を示した。(A)、(B)は低い線圧で積層体をプレスした場合の結果であり、(C)、(D)は高い線圧で積層体をプレスした場合の結果である。また、(A)、(C)はプレスロールに正極層を抱かせるように積層体をプレスした場合の結果であり、(B)、(D)はプレスロールに負極層を抱かせるように積層体をプレスした場合の結果である。
【0039】
図4より、(A)は(B)よりも、(C)は(D)よりも、正極層の抱き方向へのひずみ(伸び率)が小さい結果となった。この結果からも、プレスロールに正極層を抱かせるように積層体をプレスすることで、正極層の伸びを抑制し圧縮特性向上できると考えられる。